説明

永続性心房細動を予防するためのドロネダロン

永続性心房細動の予防に使用される医薬を製造するためのドロネダロンの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は永続性心房細動の予防に使用される医薬を製造するためのドロネダロンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
2−n−ブチル−3−[4−(3−ジ−n−ブチルアミノプロポキシ)ベンゾイル]−5−メチルスルホンアミド−ベンゾフランまたはドロネダロンおよび医薬的に許容されるその塩は欧州特許EP 0 471 609 B1に記載されている。
【0003】
ドロネダロンは、カルシウムチャンネル、カリウムチャンネルおよびナトリウムチャンネルに作用する多チャンネルブロッカーであり、抗アドレナリン特性を有している。
【0004】
ドロネダロンは心房細動または心房粗動の病歴をもつ患者を治療するための抗不整脈薬である。
【0005】
北アメリカでは約2百3十万人、ヨーロッパ連合では4百5十万人が心房細動(AF)に罹っており、人口の高齢化を理由として公衆衛生的にも大きな問題となってきた。
【0006】
AFは、心臓の上室が不調和な混乱した拍動を生じ、その結果として極めて不規則で迅速な律動を来たす状態である(すなわち、不規則的に不規則な心拍動)。血液が心臓の室からポンプ作用によって完全に排出されないとき、血液は滞留して凝固する。房で凝血塊が形成され、これが心臓から送出されて脳の動脈を閉塞すると、卒中が起きる。その結果として卒中の約15%はAFに帰因する。
【0007】
AFの発生数は年齢が進むに伴って増加しており、しばしば、心臓の加齢関連変化、身体的または心理的ストレス、カフェインのような心臓刺激物質によって、または、心血管疾患の結果として発症する。今後20年間でその数は倍増すると予測されている。適正な管理をしなければAFは卒中およびうっ血性心不全のような重篤な合併症に至ることもある。
【0008】
心房細動自体が、電気的リモデリングとして知られる心臓の電気的パラメーターの変化および構造的リモデリングとして知られる心臓の室の構造の変化を生じさせ、患者の正常洞調律を回復する機会を減らす傾向があることは知られている。“心房細動が心房細動を生む”というこの悪循環は1990年代から、文献にも詳しく記載されている(Wijffels MC,Kirchhof CJ,Dorland R,Allessie MA,Atrial fibrillation begets atrial fibrillation.A study in awake chronically instrumented goats.Circulation 1995 Oct.1;92(7):1954−68)。該文献は、患者が長期間心房細動の状態にあったときに患者が永続性心房細動に進行し不整脈から回復する機会がほとんどまたは全く失われ慢性の不整脈になるのは何故であるかを説明している。
【0009】
発明者らは、ドロネダロンが永続性AFの持続/進行の可能性を減少させ、従って患者の永続性心房細動/粗動を予防することを知見した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許第0 471 609号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Wijffels MC,Kirchhof CJ,Dorland R,Allessie MA,Atrial fibrillation begets atrial fibrillation.A study in awake chronically instrumented goats.Circulation 1995 Oct.1;92(7):1954−68
【発明の概要】
【0012】
本発明の主題は、心房細動または心房粗動の病歴をもつ患者の永続性心房細動/粗動の予防に使用される医薬を製造するためのドロネダロンまたは医薬的に許容されるその塩の1つの使用である。
【0013】
より詳細には本発明は、永続性心房細動がある患者の心血管疾患による入院加療または死亡を約33%予防するために使用される医薬を製造するためのドロネダロンまたは医薬的に許容されるその塩の1つの使用に関する。
【0014】
上記のパーセンテージは平均に相当する。
【0015】
ドロネダロンの医薬的に許容される塩としては塩酸塩を挙げることができる。
【0016】
また、“心房細動または心房粗動の病歴をもつ”、または、“心房細動または心房粗動の病歴をもつかまたは現在もっている”、または、“心房細動または心房粗動の最近の病歴をもつかまたは現在もっている”、または、“発作性または持続性の心房細動または心房粗動をもっている”、または、“発作性または持続性の心房細動または心房粗動の病歴をもつかまたは現在もっている”、または、“発作性または持続性の心房細動または心房粗動の最近の病歴をもつかまたは現在もっている”という表現は、過去に心房細動または心房粗動の1つ以上のエピソードを有していた患者および/またはドロネダロンまたは医薬的に許容されるその塩を使用している時期に心房細動または心房粗動に罹っている患者を意味することを明記しておく。より特定的にはこの表現は、治療開始前の6カ月以内に心房の細動または粗動と洞調律との双方があったと記録されている患者を意味する。患者がドロネダロンまたは医薬的に許容されるその塩を開始した時期に洞調律または心房の細動もしくは粗動のいずれかを示していてもよい。
【0017】
本発明において、“心房細動”は、心房細動および/または心房粗動を意味する。
【0018】
心房細動または心房粗動の病歴を有している患者のうちにはまた、以下の危険因子の少なくとも1つを同時に示している患者を挙げることができる:
−特に70歳以上、またはさらに75歳以上の年齢、
−高血圧、
−糖尿病、
−脳卒中または全身性塞栓症の病歴、
−超音波心臓動態診断法によって測定した左心房直径が50mm以上、
−二次元超音波検査法によって測定した左心室の駆出率が40%未満。
【0019】
心房細動または心房粗動の病歴を有している患者のうちにはまた、以下の疾患の少なくとも1つに対応する追加の危険因子を有している患者を挙げることができる:
−高血圧、
−構造的心疾患、
−頻脈、
−冠状動脈性心疾患、
−非リウマチ性心臓弁膜疾患、
−虚血性拡張型心筋症、
−AF/AFL切除、たとえばカテーテル誘導切除または外科的切除の病歴、
−AF/AFL以外の上室性頻脈、
−心臓弁外科手術の病歴、
−非虚血性拡張型心筋症、
−肥大性心筋症、
−リウマチ性心臓弁膜疾患
−持続性心室頻脈、
−先天性心疾患、
−AF/AFL以外の理由による切除、たとえばカテーテル誘導切除の病歴、
−心室細動、および/または、
−ペースメーカー、
−植込み式カルジオバーター除細動器
から選択された少なくとも1つの心臓デバイス。
【0020】
心血管疾患による入院加療とは、以下の疾患の1つを主な原因とする入院加療を意味する:(Hohnloserら,Journal of cardiovascular electrophysiology,janv.2008,vol.19,n1,pp.69−73):
−アテローム性動脈硬化症関連、
−心筋梗塞または不安定型狭心症、
−安定型狭心症または異型胸痛、
−失神、
−TIAまたは卒中(頭蓋内出血を除く)、
−心房細動または他の上室調律異常、
−非致命的心停止、
−心室不整脈、
−心臓移植以外の心血管外科手術、
−心臓移植、
−ペースメーカー、植込み式カルジオバーター除細動器(“ICD”)または他の何らかの心臓デバイスの植込み、
−冠状動脈系、脳血管系または末梢血管系の経皮的処置、
−血圧関連(低血圧、高血圧、失神は除外)
−心血管感染症、
−大出血(2単位以上の血液を要する出血または何らかの頭蓋内出血)、
−肺塞栓症または深部血管塞栓症、
−肺浮腫または心臓起源の呼吸困難を含むCHF悪化。
【0021】
“死亡”は、心血管系または非心血管系の何らかの原因による死を意味する。
【0022】
本発明の別の目的は、本発明のドロネダロンおよび医薬的に許容されるその塩を有効成分として含む医薬組成物である。この医薬組成物は、有効薬用量の少なくともドロネダロンまたは医薬的に許容される塩によるその付加塩またはその水和物または溶媒和物と、少なくとも1種類の医薬的に許容される賦形剤とを含む。このような賦形剤は医薬形態および所望の投与経路に従って当業者に公知の常用の賦形剤から選択される。
【0023】
経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、外用、局所、気管内、鼻腔内、経皮または直腸内に投与するための本発明の医薬組成物中のドロネダロンまたはその塩、溶媒和物または水和物は、常用の医薬賦形剤とブレンドされた単位剤形として、上述の疾病状態を予防または治療するために動物およびヒトに投与できる。適当な単位剤形は、錠剤、硬質もしくは軟質ゼラチンカプセル、散剤、粒剤および経口溶液もしくは懸濁液のような経口形態、舌下、口腔内、気管内、眼内、吸入適応形態である鼻腔内の形態、外用、経皮、皮下、筋肉内もしくは静脈内送達、直腸内形態およびインプラントを含む。外用塗布のためには本発明の化合物をクリーム、ジェル、軟膏またはローションとして使用し得る。
【0024】
治療に使用する場合、ドロネダロンおよび医薬的に許容されるその塩は一般に医薬組成物に導入される。
【0025】
これらの医薬組成物はドロネダロンまたは医薬的に許容されるその塩を有効薬用量で含有し、同時に少なくとも1種類の医薬的に許容される賦形剤を含有する。
【0026】
該医薬組成物は、1日1回または2回の回数で食事と共に与えられる。
【0027】
1日あたりに経口投与されるドロネダロンの用量は800mgに達してもよく、この量が1回以上の服用、たとえば1回または2回の服用で摂取される。
【0028】
より具体的には、投与される用量のドロネダロンが食事と共に摂取され得る。
【0029】
より具体的には、1日あたりに経口投与されるドロネダロンの用量は800mgに達してもよく、この量が2回の服用で食事と共に摂取される。
【0030】
1日あたりに経口投与されるドロネダロンの用量が1日に2回の割合で食事たとえば朝食および夕食と共に摂取され得る。
【0031】
より具体的には、2回の服用が等しい量のドロネダロンを含む。
【0032】
経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、外用、局所、気管内、鼻腔内、経皮または直腸内に投与するための医薬組成物中のドロネダロンまたは医薬的に許容されるその塩の1つは常用の医薬賦形剤とブレンドされた単位剤形として上記の疾患に罹っている動物およびヒトに投与できる。
【0033】
適当な単位剤形は、錠剤、硬質もしくは軟質ゼラチンカプセル、散剤、粒剤および経口溶液もしくは懸濁液のような経口形態、舌下、口腔内、気管内、眼内、吸入による鼻腔内の形態、外用、経皮、皮下、筋肉内または静脈内の形態、直腸内形態およびインプラントを含む。外用塗布のためには本発明の化合物をクリーム、ジェル、軟膏またはローションとして使用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0034】
一例として、錠剤形態のドロネダロンまたは医薬的に許容されるその塩の1つの単位剤形は以下の成分を含むことができる。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
経口投与の場合、ドロネダロンの1日の用量は800mgに達してもよい。
【0040】
具体的症例においてはもっと多い投薬量またはもっと少ない投薬量が適当な場合もあろうが、これらの投薬量は本発明の範囲内に包含される。一般的な実態では、各患者に適した投薬量は投与経路、患者の体重、疾患、体表面積、心拍出量および応答に従って医師が決定する。
【0041】
本発明はまた、少なくともドロネダロンまたは医薬的に許容されるその塩の1つを有効用量で患者に投与する段階を含む上記疾患の治療方法に関する。
【0042】
以下のデータに基づいて本発明を説明する。
【0043】
前向き、多国籍、ダブル盲検、ランダム割当、多施設、プラセボ対照、平行群治験においてドロネダロン塩酸塩を使用すると、ドロネダロンおよび医薬的に許容されるその塩がプラセボに比較して永続性心房細動の予防に対して有効であることを示した。
【0044】
I.患者の選択
患者は、心房細動または心房粗動の病歴を有していなければならない、および/または、治験参加の時点で正常洞調律または心房の細動もしくは粗動を有していてもよい。
【0045】
患者の参加は以下の選択基準を考慮して判断した。
【0046】
選択基準
1)以下の危険因子の1つが存在しなければならない:
−年齢が70歳以上、
−高血圧(少なくとも2つの異なるクラスの降圧薬を服用している)、
−糖尿病、
−脳卒中(一過性虚血イベントまたは完成脳卒中)または全身性塞栓症の病歴、
−超音波心臓動態診断法によって測定した左心房直径が50mm以上、
−二次元超音波検査法によって測定した左心室の駆出率が40%未満、または、
−年齢が70歳もしくはさらに75歳以上で以下の危険因子の少なくとも1つの可能性がある:
o 高血圧(少なくとも2つの異なるクラスの降圧薬を服用している)、
o 糖尿病、
o 脳卒中(一過性虚血イベントまたは完成脳卒中)または全身性塞栓症の病歴、
o 超音波心臓動態診断法によって測定した左心房直径が50mm以上、
o 二次元超音波検査法によって測定した左心室の駆出率が40%未満。
2)患者が心房細動/粗動であったかまたはあることを示す最近6カ月以内の心電図が入手可能である。
3)患者が洞調律であったかまたはあることを示す最近6カ月以内の心電図が入手可能である。
【0047】
II.期間および治療
試験薬の治療ユニット(プラセボまたは基剤400mgに相当するドロネダロン塩酸塩)は、各患者が朝方、朝食中または朝食直後に1錠を服用し、夕方、夕食中または夕食直後に1錠を服用するようにした。
【0048】
治療期間は、各患者の治験参加時点に左右されるが、12カ月から30カ月の範囲であった。
【0049】
III.結果
治験に参加した4628名の患者のうちで、2301名がドロネダロン塩酸塩治療群を形成した。
【0050】
“永続性心房細動または粗動のある患者”は、心房細動または心房粗動の病歴があり、参加の時点で心房の細動または粗動を示していたがそれ以前には永続性心房細動または粗動の病歴がなく、治験の期間を通じて永続性心房細動または粗動が持続していた患者を意味する。
【0051】
永続性心房細動/粗動の予防に関する結果
永続性心房細動/粗動のある患者の数をFischerの正確検定法を使用して比較した。
【0052】
プラセボ治療群では294名の患者が永続性心房細動/粗動を有していたのに対して、ドロネダロン塩酸塩治療群では178名であった(p<0.001)。
【0053】
これは、永続性AFに進行する可能性の減少を示す。従って、ドロネダロンは永続性心房細動/粗動の危険を予防する。
【0054】
心血管疾患による入院加療または死亡の予防に関する結果
この治験中に得られた結果を、数値に関してはKaplan−Meier法によって分析し、相対リスク(RR)はCoxの比例効果回帰モデルを使用して推定した。
【0055】
相対リスク(RR)は、入院加療または死亡の発生率についてドロネダロンを投与した患者とプラセボを投与した患者とを比較した比である。
【0056】
所与のイベント(入院加療、死亡、心血管死など)の減少パーセンテージxを以下のように計算する:
x=1−相対リスク。
【0057】
治験に参加した4628名の患者のうちで、2301名がドロネダロン塩酸塩治療群形成した。
【0058】
プラセボ群では294名の患者が永続性心房細動であったのに対して、ドロネダロン塩酸塩治療群では178名であった。
【0059】
プラセボ群では74のイベントが記録されたのに対して、ドロネダロン塩酸塩治療群では29であった。
【0060】
計算した相対リスクは0.67でp=0.06であり、すなわち、ドロネダロン塩酸塩の使用で心血管疾患による入院加療および死亡は33%減少する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永続性心房細動/粗動の予防に使用される医薬を製造するためのドロネダロンの使用。
【請求項2】
患者が心房細動または心房粗動の病歴を有していることを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
患者が、以下の危険因子:
−特に70歳以上、またはさらに75歳以上の年齢、
−高血圧、
−糖尿病、
−過去の脳血管発作または全身性塞栓症、
−超音波心臓動態診断法によって測定された左心房直径が50mm以上、
−二次元超音波検査法による左心室の駆出率が40%未満
の少なくとも1つを有していることを特徴とする請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
患者が以下の疾患:
−高血圧、
−構造的心疾患、
−頻脈、
−冠状動脈性心疾患、
−非リウマチ性心臓弁膜疾患、
−虚血性拡張型心筋症、
−AF/AFL切除、
−AF/AFL以外の上室性頻脈、
−心臓弁外科手術の病歴、
−非虚血性拡張型心筋症、
−肥大性心筋症、
−リウマチ性心臓弁膜疾患
−持続性心室頻脈、
−先天性心疾患、
−AF/AFL以外の理由による切除、
−心室細動、および/または、
−ペースメーカー、
−植込み式カルジオバーター除細動器
から選択された少なくとも1つの心臓デバイス
の少なくとも1つに対応する追加の危険因子を有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
経口投与の場合、ドロネダロンの1日の用量が800mgに達してもよいことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。

【公表番号】特表2011−522876(P2011−522876A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513071(P2011−513071)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【国際出願番号】PCT/IB2009/006106
【国際公開番号】WO2009/150535
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(504456798)サノフイ−アベンテイス (433)
【Fターム(参考)】