説明

汎発流行性インフルエンザウィルスに対する免疫応答を惹起する方法

(i)地域流行性インフルエンザ亜型の免疫原の少なくとも1つ、および(ii)アジュバントとして、免疫原を含まない免疫刺激複合体を含む組成物を対象に投与するステップを含む、対象において汎発流行性亜型のインフルエンザウィルスに対する保護免疫応答を惹起または誘導する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象においてインフルエンザウィルスの汎発流行性亜型に対する免疫応答を惹起または誘導する方法に関し、より詳しくは、ヒトにおいて感染症を引き起こしている、鳥類インフルエンザA(H5N1)などのインフルエンザAの病原性汎発流行性亜型による引き続く攻撃から対象を保護する、対象において免疫応答を惹起または誘導する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザはヒトにおける疾患の主要原因であって、世界中で顕著な罹患および死亡の原因となり毎年多数の人々が冒される。インフルエンザウィルスは、A、B、およびCに下位分類できる。ヒト集団に流行するウイルスの大部分は、インフルエンザAおよびBである。
【0003】
毎年のワクチン接種は感染症を予防するための主要な対策である。インフルエンザA株は、2つのウイルス表面膜貫通タンパク質である赤血球凝集素(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)の抗原性の差異に基づいて、さらに下位分類できる。これまでにインフルエンザAウイルスの16 HA(HA1−16)、および9 NA(NA1−9)糖タンパク質亜型が同定されている。現在のところ、インフルエンザAの2つの亜型(H1N1およびH3N2)がヒト間で循環している[1]。
【0004】
時に、それに対して人々がわずかなまたは皆無の免疫を有する新しいインフルエンザウィルスが出現すると、インフルエンザの大流行が起きる。前世紀には3回のインフルエンザA株の汎発流行性の発生が、顕著なヒトインフルエンザ関連致死率を引き起こした(1918年のH1N1、1957年のH2N2、1968年のH3N2)[2]。香港では1997年に高病原性のH5N1鳥インフルエンザウィルスがニワトリからヒトに直接伝染して、18件の確認された感染症から6人の死亡を引き起こした[3;4]。この時以来、病原性H5N1ウイルスの散発性大流行によって、インフルエンザの大流行に関わる懸念が高まった。これらの大流行は、アジアからヨーロッパにわたる6カ国(カンボジア、中国、インドネシア、タイ、トルコ、およびベトナム)における大流行で、258の症例と153名の死亡をもたらした[5]。
【0005】
1997年以来、H2N2、H9N2、H7N7、H7N3、およびH10N7をはじめとするいくつかのその他の亜型のウイルスもまたヒト感染症と関係があるとされ、それ故にこれらの亜型もまた顕著な大流行の脅威に相当する。どの亜型のインフルエンザウィルスが次の大流行を引き起こすかを予測することは不可能であるため、理想的なワクチンは、同一または異なる亜型からの広範なインフルエンザウィルスから宿主を保護する免疫応答を惹起することで、重篤な疾患または死亡から宿主を保護する。しかし後述の理由から、(主としてHAおよびNAに対する)中和抗体応答の誘導に依存する入手可能なワクチンはインフルエンザ株に高度に特異的である。
【0006】
インフルエンザウィルスのHAおよびNA糖タンパク質は、宿主免疫応答を逃れる手段として抗原性変異を起こす[6]。全身性のまたは粘膜の部位における、HA糖タンパク質に対して特異的なウイルス中和抗体の存在は、インフルエンザの感染を防ぐ。しかし抗原性変異の結果として、HAに対する抗体応答は高度に株特異的であり、異なる亜型のインフルエンザウィルスのHAを認識せず、または同一亜型内の高度に異なる株のHAでさえ認識しない[7]。他方、細胞性免疫、特にCD8+細胞毒性T細胞(CD8+CTL)は、主にウイルス感染細胞を取り除く役割を担い、ひいては重篤性を制限して感染症からの回復を促進する[8]。HAとは対照的に、細胞仲介性免疫応答の内部タンパク質標的(その重要なものはPB2、PA、核タンパク質(NP)およびマトリックスタンパク質(M)である)は抗原ドリフトを容易に起こさず、結果として高度に保存される。例えばH5N1株A/Indonesia/5/05およびA/Vietnam/1194/04のNPおよびMタンパク質は、A/Puerto Rico/8/34とおよそ94%のアミノ酸同一性を共有する(図1に示す)。A/Puerto/Rico/8/34は1934年に単離されたH1N1ウイルスであり、改変ワクチン株のための構造タンパク質の原料であり、伝統的には再集合によって、より最近では逆遺伝学によって調製される。さらにこれらの異なるインフルエンザの亜型間では、CTLエピトープに高度な保存がある。これもまた潜在的な大流行の脅威を呈するH7N7およびH9N2をはじめとするその他のウィルス亜型を含めたこの分析の延長は、全てのA株ウイルスにわたって高度に保存されたCTLエピトープを実証する。したがって高度に株特異的であるHA抗体応答とは異なり、CTL応答はインフルエンザA株の亜型に関わりなく、広範に効果的である可能性を有する[9]。したがって強力なCTL応答を誘導する能力は、汎発流行性インフルエンザワクチンにとって高度に望ましい特性である。
【0007】
特にヒトにおけるCD8+CTLの誘導は、今までにワクチン開発のための顕著なハードルであることが判明している。DNAやウィルスベクターなどの送達系はいくばくかの希望をもたらしたが、潜在的な安全上の懸念があり、DNAの場合、一般に細胞応答、特にCD8+CTL応答の不良を引き起こす。さらにウイルス性ベクターには、ベクターに対する中和抗体を誘導するという問題があり、それは反復使用を制限する。DNAおよび生ウィルスベクター送達のプライムブーストの組み合わせは目下評価中であり、結果は動物モデルにおいて有望であったが、それらはヒトにおいては未だに検証されていない。ISCOMTMワクチンは、多数の動物モデルにおいて、天然免疫原および組み換えタンパク質をはじめとする多種多様な抗原に対する、ヘルパーT(CD4+)およびCTL(CD8+)T細胞応答の双方の強力な誘導物質であることが示されている[10]。H1N1インフルエンザISCOMTMワクチンは、マウスにおいてH2N2、H3N2、H5N1、およびH9N2ウイルスをはじめとする異種のウイルスによる致死的攻撃に対して、交差防御を提供することが示されている[11]。さらに保護はCD8+T細胞と抗体の双方に依存することが示されている[11]。
【0008】
強力なCD8+CTL応答を誘導するISCOMTMワクチンの能力は、抗原がISCOMTM粒子中に組み込まれるという事実が主因であり[12]、それは抗原の効率的な細胞内取り込みと、引き続くMHCクラスIプロセシング機構へのアクセス[13]をもたらすことが一般に認識されている。しかしISCOMTMワクチンの製造は複雑でスケールアップが困難であり、生産管理および均質性に関わる顕著な問題がある。したがってISCOMTMワクチンは、多種多様な動物種において一連の病原体に対する保護を実証しながらも、特に短期間で数億用量もの生産が要求される汎発流行性インフルエンザワクチンなどの大量生産品のためには、製品ポテンシャルは限定的である。
【0009】
本発明につながる研究において発明者らは、ISCOMTMワクチンと本質的に同一の組成および構造を有するが、取り込まれた抗原がないという点で「免疫原を含まない」であるプレフォームISCOMATRIXTMアジュバント[12;14]が、後述するような標準の三価季節性インフルエンザワクチンなどのインフルエンザ免疫原と組み合わされまたはそれと混合される、ワクチン製剤を開発した。したがってISCOMTMワクチンとは対照的に、本発明のワクチン製剤中のインフルエンザ免疫原は、ISCOMATRIXTMアジュバント構造中に取り込まれていない。したがって本発明のワクチン製剤の生産は単純で、堅牢かつ再現可能であり、大量生産できる。
【0010】
さらに本発明につながる研究は、動物モデルとしてフェレットを使用して、インフルエンザAウイルスの高病原性汎発流行性(H5N1)亜型による致死的攻撃から保護する、標準の地域流行性インフルエンザ免疫原を含むワクチン製剤の能力を実証した。
【0011】
本明細書および続く特許請求の範囲全体を通じて特に断りのない限り、「含む(comprise)」という単語、および「含む(comprises」)ならびに「含む(comprising)」などのバリエーションは、述べられた整数またはステップまたは整数群またはステップ群の包含を意味するが、あらゆるその他の整数またはステップまたは整数群またはステップ群の排除を意味しないものと理解される。
【0012】
本明細書中における以前の出版物(またはそれに由来する情報)またはあらゆる既知事項への言及は、以前の出版物(またはそれに由来する情報)または既知事項が、本明細書が関わる試みの分野における一般常識の一部を形成することの了解または承認あるいはいかなる形態の提案でもなく、それらとして理解されるべきでもない。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、
(i)地域流行性インフルエンザ亜型の免疫原の少なくとも1つ、および
(ii)アジュバントとしての、免疫原を含まない免疫刺激複合体、
を含む組成物を対象に投与するステップを含む、対象において汎発流行性亜型のインフルエンザウィルスに対する保護免疫応答を惹起または誘導する方法を提供する。
【0014】
他の態様では、本発明は、対象において汎発流行性亜型のインフルエンザウィルスに対する保護免疫応答を惹起または誘導するために対象に投与するための薬剤の製造における、
(i)地域流行性インフルエンザ亜型の免疫原の少なくとも1つ、および
(ii)アジュバントとしての、免疫原を含まない免疫刺激複合体、
を含む組成物の使用を提供する。
【0015】
さらに別の態様では、本発明は、対象において汎発流行性亜型のインフルエンザウィルスに対する保護免疫応答を惹起または誘導するための
(i)地域流行性インフルエンザ亜型の免疫原の少なくとも1つ、および
(ii)アジュバントとしての、免疫原を含まない免疫刺激複合体、
を含む組成物の使用を提供する。
【0016】
さらに別の態様では、本発明は、対象において汎発流行性亜型のインフルエンザウィルスに対する保護免疫応答を惹起または誘導するための薬剤を提供し、前記薬剤は、
(i)地域流行性インフルエンザ亜型の免疫原の少なくとも1つ、および
(ii)アジュバントとしての、免疫原を含まない免疫刺激複合体
を含む組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A−1】A/Puerto Rico/8/34(H1N1)、A/Indonesia/5/05(H5N1)、およびA/Vietnam/1194/04(H5N1)からの(A)核タンパク質(NP)および(B)マトリックスタンパク質(M)のアミノ酸配列比較である。太字は記述されたヒトCTLエピトープである(Suzanne L.Epstein,Jonathan W.Yewdell,Jack R.Bennink,http://www.flu.lanl.gov/review/epitopes.htmlより)。A/Indonesia/5/05およびA/Vietnam/1194/04のNPおよびMタンパク質は、A/Puerto Rico/8/34とおよそ93%のアミノ酸同一性共有する。
【図1A−2】A/Puerto Rico/8/34(H1N1)、A/Indonesia/5/05(H5N1)、およびA/Vietnam/1194/04(H5N1)からの(A)核タンパク質(NP)および(B)マトリックスタンパク質(M)のアミノ酸配列比較である。太字は記述されたヒトCTLエピトープである(Suzanne L.Epstein,Jonathan W.Yewdell,Jack R.Bennink,http://www.flu.lanl.gov/review/epitopes.htmlより)。A/Indonesia/5/05およびA/Vietnam/1194/04のNPおよびMタンパク質は、A/Puerto Rico/8/34とおよそ93%のアミノ酸同一性共有する。
【図1B】A/Puerto Rico/8/34(H1N1)、A/Indonesia/5/05(H5N1)、およびA/Vietnam/1194/04(H5N1)からの(A)核タンパク質(NP)および(B)マトリックスタンパク質(M)のアミノ酸配列比較である。太字は記述されたヒトCTLエピトープである(Suzanne L.Epstein,Jonathan W.Yewdell,Jack R.Bennink,http://www.flu.lanl.gov/review/epitopes.htmlより)。A/Indonesia/5/05およびA/Vietnam/1194/04のNPおよびMタンパク質は、A/Puerto Rico/8/34とおよそ93%のアミノ酸同一性共有する。
【図2】(i)ISCOMATRIXTMアジュバント(60μg)と組み合わされた三価季節性インフルエンザワクチン(15μgのA/New Caledonia/20/99、A/Wisconsin/67/2005、およびB/Malaysia/2506/2004を含有する)、(ii)ISCOMATRIXTMアジュバント(60μg)と組み合わされたA/Vietnam/1194/2004、または(iii)ISCOMATRIXTMアジュバント単独(アジュバント対照)のいずれかを接種されたフェレットからの血清のHI抗体(A)およびウイルス中和力価(B)を示す。血清を2回目のワクチン接種の28日後に採取し、A/Vietnam/1203/2004およびA/Indonesia/5/2005に対して滴定した。データは、群あたり4匹の動物の平均として提示される。標準偏差を表示する。
【図3A】表示されるように(i)ISCOMATRIXTMアジュバント(60μg)と組み合わされた三価季節性インフルエンザワクチン(15μgのA/New Caledonia/20/99、A/Wisconsin/67/2005、およびB/Malaysia/2506/2004を含有する)、(ii)ISCOMATRIXTMアジュバント(60μg)と組み合わされたA/Vietnam/1194/2004、または(iii)ISCOMATRIXTMアジュバント単独(アジュバント対照)のいずれかによる免疫化に続いて、106 50%鶏卵感染量(EID50)のA/Vietnam/1203/2004で攻撃された、フェレットの生存(A)、体温変化(B)、および体重変化(C)を示す。データは群あたり4匹の動物の代表的な値である。図3Aでは、ウイルス攻撃後のフェレットを毎日秤量して身体検査した。10%を超えて体重が減少し、または振戦または腹部不快感などの困難の徴候を示したフェレットは、倫理的理由から安楽死させた。図3Bでは皮下埋め込み型体温トランスポンダーを使用して、フェレットの体温を毎日モニターした。垂直線は攻撃された時点を表す。非感染フェレットの平均体温は38.8℃である。データは群あたり4匹の動物の代表的な値である。図3Cでは、フェレットの体重を攻撃時点の動物体重の百分率として表す。データは群あたり4匹の動物の代表的な値である。
【図3B−1】表示されるように(i)ISCOMATRIXTMアジュバント(60μg)と組み合わされた三価季節性インフルエンザワクチン(15μgのA/New Caledonia/20/99、A/Wisconsin/67/2005、およびB/Malaysia/2506/2004を含有する)、(ii)ISCOMATRIXTMアジュバント(60μg)と組み合わされたA/Vietnam/1194/2004、または(iii)ISCOMATRIXTMアジュバント単独(アジュバント対照)のいずれかによる免疫化に続いて、106 50%鶏卵感染量(EID50)のA/Vietnam/1203/2004で攻撃された、フェレットの生存(A)、体温変化(B)、および体重変化(C)を示す。データは群あたり4匹の動物の代表的な値である。図3Bでは皮下埋め込み型体温トランスポンダーを使用して、フェレットの体温を毎日モニターした。垂直線は攻撃された時点を表す。非感染フェレットの平均体温は38.8℃である。データは群あたり4匹の動物の代表的な値である。
【図3B−2】表示されるように(i)ISCOMATRIXTMアジュバント(60μg)と組み合わされた三価季節性インフルエンザワクチン(15μgのA/New Caledonia/20/99、A/Wisconsin/67/2005、およびB/Malaysia/2506/2004を含有する)、(ii)ISCOMATRIXTMアジュバント(60μg)と組み合わされたA/Vietnam/1194/2004、または(iii)ISCOMATRIXTMアジュバント単独(アジュバント対照)のいずれかによる免疫化に続いて、106 50%鶏卵感染量(EID50)のA/Vietnam/1203/2004で攻撃された、フェレットの生存(A)、体温変化(B)、および体重変化(C)を示す。データは群あたり4匹の動物の代表的な値である。図3Bでは皮下埋め込み型体温トランスポンダーを使用して、フェレットの体温を毎日モニターした。垂直線は攻撃された時点を表す。非感染フェレットの平均体温は38.8℃である。データは群あたり4匹の動物の代表的な値である。
【図3B−3】表示されるように(i)ISCOMATRIXTMアジュバント(60μg)と組み合わされた三価季節性インフルエンザワクチン(15μgのA/New Caledonia/20/99、A/Wisconsin/67/2005、およびB/Malaysia/2506/2004を含有する)、(ii)ISCOMATRIXTMアジュバント(60μg)と組み合わされたA/Vietnam/1194/2004、または(iii)ISCOMATRIXTMアジュバント単独(アジュバント対照)のいずれかによる免疫化に続いて、106 50%鶏卵感染量(EID50)のA/Vietnam/1203/2004で攻撃された、フェレットの生存(A)、体温変化(B)、および体重変化(C)を示す。データは群あたり4匹の動物の代表的な値である。図3Bでは皮下埋め込み型体温トランスポンダーを使用して、フェレットの体温を毎日モニターした。垂直線は攻撃された時点を表す。非感染フェレットの平均体温は38.8℃である。データは群あたり4匹の動物の代表的な値である。
【図3B−4】表示されるように(i)ISCOMATRIXTMアジュバント(60μg)と組み合わされた三価季節性インフルエンザワクチン(15μgのA/New Caledonia/20/99、A/Wisconsin/67/2005、およびB/Malaysia/2506/2004を含有する)、(ii)ISCOMATRIXTMアジュバント(60μg)と組み合わされたA/Vietnam/1194/2004、または(iii)ISCOMATRIXTMアジュバント単独(アジュバント対照)のいずれかによる免疫化に続いて、106 50%鶏卵感染量(EID50)のA/Vietnam/1203/2004で攻撃された、フェレットの生存(A)、体温変化(B)、および体重変化(C)を示す。データは群あたり4匹の動物の代表的な値である。図3Bでは皮下埋め込み型体温トランスポンダーを使用して、フェレットの体温を毎日モニターした。垂直線は攻撃された時点を表す。非感染フェレットの平均体温は38.8℃である。データは群あたり4匹の動物の代表的な値である。
【図3C】表示されるように(i)ISCOMATRIXTMアジュバント(60μg)と組み合わされた三価季節性インフルエンザワクチン(15μgのA/New Caledonia/20/99、A/Wisconsin/67/2005、およびB/Malaysia/2506/2004を含有する)、(ii)ISCOMATRIXTMアジュバント(60μg)と組み合わされたA/Vietnam/1194/2004、または(iii)ISCOMATRIXTMアジュバント単独(アジュバント対照)のいずれかによる免疫化に続いて、106 50%鶏卵感染量(EID50)のA/Vietnam/1203/2004で攻撃された、フェレットの生存(A)、体温変化(B)、および体重変化(C)を示す。データは群あたり4匹の動物の代表的な値である。図3Cでは、フェレットの体重を攻撃時点の動物体重の百分率として表す。データは群あたり4匹の動物の代表的な値である。
【図4】表示されるように(i)ISCOMATRIXTMアジュバント(60μg)と組み合わされた三価季節性インフルエンザワクチン(15μgのA/New Caledonia/20/99、A/Wisconsin/67/2005、およびB/Malaysia/2506/2004を含有する)、(ii)ISCOMATRIXTMアジュバント(60μg)と組み合わされたA/Vietnam/1194/2004、または(iii)ISCOMATRIXTMアジュバント単独(アジュバント対照)のいずれかで免疫されたフェレットで得られた罹患スコアを示す。106・50%鶏卵感染量(EID50)のA/Vietnam/1203/2004での攻撃に続いて、フェレットを行動についてモニターし、次のスコアに基づいて罹患スコアを付けた(材料と方法に記載のように、0=活発で機敏、1=機敏であるが誘発されたときだけ活発、2=機敏であるが刺激されても活発でない、3=元気でも活発でもない、4=安楽死を要する身体症状を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
一態様では、本発明は、
(i)地域流行性インフルエンザ亜型の免疫原の少なくとも1つ、および
(ii)アジュバントとしての、免疫原を含まない免疫刺激複合体
を含む組成物を対象に投与するステップを含む、対象において汎発流行性亜型のインフルエンザウィルスに対する保護免疫応答を惹起または誘導する方法を提供する。
【0019】
好ましくは、対象はヒトである。しかし本発明の方法はまた、家畜動物または家禽、実験動物または鳥、コンパニオンアニマルまたは鳥、または野生動物または野鳥などの非ヒト動物または鳥対象に保護免疫応答を惹起または誘導するのにも適用される。
【0020】
本発明に従って、地域流行性インフルエンザ亜型の免疫原の少なくとも1つを含む組成物が対象に投与される。上述のように目下ヒトに流行している「地域流行性」インフルエンザA亜型は、H1N1およびH3N2亜型である。したがって本発明の組成物は、好ましくはこれらの亜型の片方または双方の免疫原を含む。本発明の特定の一実施態様では、組成物は、Fluvax(登録商標)スプリットビリオン不活性化インフルエンザワクチン(CSL Limited,Melbourne,Australia)など、不活性化地域流行性インフルエンザウィルスタイプA(H1N1およびH3N2)およびBを含む標準の三価インフルエンザワクチンを含んでもよい。
【0021】
本明細書での用法では、「汎発流行性」亜型のインフルエンザウィルスへの言及は、特にヒト集団である対象集団が未感作である、すなわち以前の予防接種または以前の曝露のどちらかの結果としての抵抗性がわずかまたは皆無であると見なされる亜型への言及であると理解される。上述のように、このような汎発流行性亜型としては、特にH5N1、H2N2、H9N2、H7N7、H7N3、およびH10N7亜型が挙げられる。
【0022】
本発明に従った地域流行性インフルエンザ亜型の免疫原を含む組成物の投与は、汎発流行性亜型のインフルエンザウィルスに対する異種保護免疫応答を惹起または誘導することが示されている。
【0023】
本明細書での用法では「免疫応答」への言及は、体液性応答(ウィルス中和抗体の誘導など)と細胞仲介性免疫応答(CD8+細胞毒性T細胞の誘導など)の双方を広く指すものと理解される。本明細書で「保護免疫応答」への言及は、汎発流行性亜型のインフルエンザウィルスによる攻撃または曝露に際して、引き続く感染症から対象を保護し、または引き続く感染症の可能性を低下させる免疫応答を含み、あらゆる引き続く感染症の症状寛解ならびにあらゆる引き続く感染症の重篤性の低下を含む。
【0024】
本発明に従って対象に投与される組成物としては、インフルエンザ免疫原と組み合わされまたはそれと混合された、アジュバントとしての、免疫原を含まない免疫刺激複合体が挙げられる。本明細書での用法では「免疫原を含まない」という用語は、複合体構造にいかなる免疫原または抗原が取り込まれることなく、免疫刺激複合体が形成されることを意味する。好ましくはこのアジュバントは、サポニン、ステロール(コレステロールなど)、および任意にリン脂質(ホスファチジルエタノールアミンまたはホスファチジルコリンなど)を含むサポニンベースの免疫原を含まない免疫刺激複合体であり、直径約40nmの大きさの典型的に硬質、中空、球状、かご様粒子として形成され、「空の(empty)ISCOM」、ISCOMマトリックス、またはより最近ではISCOMATRIXTMアジュバントとして知られている[23]。最も好ましくは、前記免疫原を含まない免疫刺激複合体はISCOMATRIXTMアジュバントである。
【0025】
従来の薬学的に許容できるキャリア、賦形剤、緩衝液または希釈剤が、本発明の組成物中に含まれてもよい。一般に本発明に従った組成物は、1つ以上の従来の薬学的に許容できるキャリアおよび/または希釈剤と併せて、アジュバントと混合された免疫学的に有効量のインフルエンザ免疫原を含む。本明細書での用法では「薬学的に許容できるキャリアおよび/または希釈剤」としては、あらゆるそして全ての溶剤、分散媒、水溶液、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤などが挙げられる。薬剤活性物質のためのこのような媒体および薬剤の使用については当該技術分野で良く知られており、一例としてRemington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,Mack Publishing Company,Pennsylvania,U.S.A.に記載がある。
【0026】
本発明組成物に含まれるインフルエンザ免疫原は有効量で投与される。「有効量」とは所望の免疫応答、特に所望の保護免疫応答を少なくとも部分的に得るのに必要な量を意味する。量は、治療される個人の年齢、健康および体調、治療される個人の人種的背景、所望の保護の程度、組成物の処方、医学的状況のアセスメント、およびその他の関連要因に応じて変動する。量は、通例の試行を通じて判定できる比較的広い範囲に入ることが予期される。必要ならば有効量の投与を1回または数回繰り返してもよい。投与される実際の量は、所望の保護免疫応答の性質、および活性免疫原が投与される速度の双方によって定まる。
【0027】
本発明に従って、組成物は好ましくは非経口投与経路によって対象に投与される。非経口投与としては、注射、輸液などによる投与はじめとして、消化管を通らない(すなわち経腸的でない)あらゆる投与経路が挙げられる。注射による投与としては、一例として、静脈中(静脈内)、動脈中(動脈内)、筋肉中(筋肉内)、および皮膚の下(皮下)が挙げられる。組成物は好ましくは所望の免疫応答を得るのに十分な投薬量で、皮下、皮内または筋肉内投与される。
【0028】
非経口投与に適した組成物は、好都合には、好ましくは受容者の血液と等張である活性構成要素の無菌水性製剤を含む。この水性製剤は、適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を使用して、既知の方法に従って調合されてもよい。無菌の注射用製剤はまた、例えばポリエチレングリコールおよび乳酸中の溶液のような無毒の非経口的に許容可能な希釈剤または溶媒中の無菌注射用溶液または懸濁液であってもよい。用いることのできる許容可能なビヒクルおよび溶媒としては、水、リンゲル液、適切な炭水化物(例えばスクロース、マルトース、トレハロース、グルコース)、および等張塩化ナトリウム溶液が挙げられる。さらに溶媒または懸濁媒体として無菌の不揮発性油および溶媒が好都合には用いられる。この目的で、合成モノまたはジグリセリドを含むあらゆる無刺激不揮発性油を用いてもよい。さらにオレイン酸などの脂肪酸にも注射用調製における用途がある。
【0029】
本発明はまた、対象において汎発流行性亜型のインフルエンザウィルスに対する保護免疫応答を惹起または誘導するために対象に投与するための薬剤の製造における、
(i)地域流行性インフルエンザ亜型の免疫原の少なくとも1つ、および
(ii)アジュバントとして、免疫原を含まない免疫刺激複合体
を含む組成物の使用を提供する。
【0030】
本発明は、対象において汎発流行性亜型のインフルエンザウィルスに対する保護免疫応答を惹起または誘導するための
(i)地域流行性インフルエンザ亜型の免疫原の少なくとも1つ、および
(ii)アジュバントとして、免疫原を含まない免疫刺激複合体
を含む組成物の使用をさらに提供する。
【0031】
さらに本発明は、対象において汎発流行性亜型のインフルエンザウィルスに対する保護免疫応答を惹起または誘導するための薬剤を提供し、前記薬剤は、
(i)地域流行性インフルエンザ亜型の免疫原の少なくとも1つ、および
(ii)アジュバントとして、免疫原を含まない免疫刺激複合体
を含む組成物である。
【0032】
本発明に従って、免疫原を含まないISCOMATRIXTMアジュバントと混合されたA/New Caledonia/20/99(H1N1)、A/Wisconsin/67/2005(H3N2)、およびB/Malaysia/2506/2005を含有する標準の三価季節性インフルエンザワクチン(本明細書で「インフルエンザISCOMATRIXTMワクチン」と称される)による免疫化は、野生型A/Vietnam/1203/04(H5N1)による致死的攻撃に対する保護を与えることが示されている。
【0033】
インフルエンザISCOMTMワクチンは、ヒトをはじめとする多様な種においてCD8+CTL応答を誘導することが示されている[10;15;16]。しかし今までいかなる動物モデルにおいても、致死的攻撃に対する保護を提供するISCOMATRIXTM含有ワクチンは報告されていない。ISCOMATRIXTMワクチン中の抗原は、ISCOMATRIXTMアジュバント構造と単に混合されCOMATRIXTMアジュバント構造中に取り込まれていないので、CD8+CTL応答の誘導は、取り込まれた同一量の抗原を含有するISCOMTMワクチンよりも一般に効率性に劣ると考えられている[12;17〜20]。
【0034】
この理由から、タンパク質と、予備調合されたISCOMATRIXTMアジュバントとを会合させ、会合ISCOMATRIXTMワクチンを生成する一連の方法が開発された。これらとしては、正に帯電したタンパク質が負に帯電したアジュバントと会合する静電相互作用など、ISCOMATRIXTMアジュバントの物理的性質を活用する方法が挙げられる。タンパク質またはアジュバントのどちらかを変性させて、このタイプの会合を最大化する手順が開発されている[21]。会合を達成するためのその他の方法としては、タンパク質と様々な露出化学基とがカップリングできるようにする、ISCOMATRIXTMアジュバントの構成要素の変性が挙げられる。このタイプの変性の一例はキレート化ISCOMATRIXTMアジュバントと称され、金属キレート化基が構造中に組み込まれ、次にそれはヘキサヒスチジンなどの金属親和性タグを含有するタンパク質と結合できる[18]。
【0035】
したがって細胞免疫応答の最適な誘導のためには、(ISCOMTMワクチンのように)抗原がISCOMATRIXTMアジュバントに取り込まれることが予期される必要条件であることを考えると、インフルエンザISCOMATRIXTMワクチン(免疫原を含まないISCOMATRIXTMアジュバントと単に混合された、A/New Caledonia/20/99(H1N1)、A/Wisconsin/67/2005(H3N2)およびB/Malaysia/2506/2004を含有する標準の三価季節性インフルエンザワクチン)によるフェレットの免疫化が、野生型A/Vietnam/1203/04(H5N1)による致死的攻撃から保護することは、非常に驚くべきである。さらにこの保護はH5N1に対する検出可能な中和抗体応答の不在下で観察され、インフルエンザISCOMATRIXTMワクチンによって誘導される細胞免疫応答(ほぼ確実にCD8+CTL)が、高病原性H5N1インフルエンザウィルスによる致死的攻撃に続く重篤な疾患および死亡から、未感作動物を保護できることが示唆される。
【0036】
フェレットは、ヒトインフルエンザの研究に関心がある多くのウイルス学者にとって一般に好まれる実験動物である。フェレットは以下のことを研究するのに特に有用である。(i)H5N1分離株をはじめとするインフルエンザの発病機序、(ii)ワクチン接種後の攻撃感染に対する応答、(iii)抗ウイルス剤の有効性、(iv)抗ウイルス薬剤耐性変異体の感染力、(v)ウイルス排出、および(vi)インフルエンザに対する発熱反応。代案のモデルはマウスであり、豊富な異なる遺伝子改変マウス系統と広範な容易に入手できる免疫応答分析試薬がこれを抗しがたいモデルにし、その使用から多くが学ばれた。しかしマウスは天然にはヒトインフルエンザウィルスに感染せず、既知のマウスのインフルエンザウィルスはない。この自然抵抗性は、インフルエンザに対してI型インターフェロン依存保護を(マウスでは)与えるMx遺伝(しかしヒトではそうでない)の存在に起因するかもしれず、マウスの分泌物中のユニークな阻害物質の存在にも起因するかもしれない[22]。マウス中での成長に適するインフルエンザウィルスは限定され、慣例的に使用されるものはこの宿主中での盲目継代によって「マウス順応」されている。対照的にフェレットは自然にヒトインフルエンザに罹患しやすいので、研究できるウイルス株に制約がない。
【0037】
本発明のさらなる特徴は、次の実施例でより完全に述べられている。しかしこの詳細な説明は、本発明を単に例示する目的のために含まれ、上に示したような本発明の広い範囲をどのようにも限定するものではないと理解される。
【実施例】
【0038】
A.材料と方法
フェレット:体重およそ700〜1500gの若齢メスまたはオスフェレット(3〜5ヶ月齢)は、IMVS(SA)から供給された。フェレットは目下流行しているインフルエンザ(H1N1、H3N2、Bウイルス)に対して血清反応陰性であった。血液サンプルは、各ワクチン接種直前およびウイルス攻撃前に採取した。攻撃に対する抗体応答をチェックするためのさらなる血液サンプルは、ウイルス曝露の14日後または安楽死の際に採取した。フェレットの大きさに応じて19〜23ゲージの針を使用して、麻酔した(ケタミン/メデトミジン50:50 0.1ml/kg、Apitemazoleで効果を打ち消した)動物において、頚静脈または腋窩静脈で4箇所から各1mlずつ出血させた。10%の体重低下、または例えば振戦や腹部不快感などのその他の臓器系の関与に一致する徴候の表出のどちらかに続いて、臨床的に冒された動物は即座に安楽死させた。
【0039】
ワクチン:注射のために使用された季節性インフルエンザ抗原の混合物(CSL Limited,Melbourne,Australia)は、等量(15μg)のA/New Caledonia/20/99(H1N1)、A/Wisconsin/67/2005(H3N2)、およびB/Malaysia/2506/2004を含んだ。汎発流行性株のために、季節性株と全く同様にして一価の抗原(A/Vietnam/1194/2004)を調製した。手短に述べると、発育鶏卵中でウイルスを増殖させてβ−プロピオラクトン(ICN Pharmaceuticals Inc.,Costa Mesa,CA)で不活性化し、スクロース勾配上でゾーン遠心分離にかけて、タウロデオキシコール酸ナトリウム(Sigma,St.Louis,MI)で処理し、精製された不活性化破壊抗原製剤を得た。ウイルス抗原の濃縮は赤血球凝集素(HA)タンパク質を単位として表され、それは標準一元放射免疫拡散法により測定されて、該当株の既知の標準と比較された。投薬直前にインフルエンザ抗原に、PBS中のISCOMATRIXTMアジュバントpH6.2を添加した[23]。
【0040】
ワクチン接種:27ゲージ針付き1mlシリンジを使用して、四頭筋または後肢後筋中に0.5ml用量を2回(21日間隔)筋肉内送達した。
【0041】
ウイルス:H5N1ヒトインフルエンザウィルスA/Vietnam/1203/04(野生型)A/Vietnam/1194/04(解析複製ワクチン株)、およびA/Indonesia/5/2005(野生型)は、World Health Organisation Influenza Collaborating Laboratoriesから得た。ウイルス株を35℃で24〜36時間にわたり10日齢の発育鶏卵の尿膜腔内で増殖させ、−70℃で保存した。高病原性ウイルスを用いた全ての実験は、BSL3+封じ込め設備内で実施した(AAHL,CSIRO Geelong)。
【0042】
ウイルス攻撃:2回目の投与の3週間後、Govorkovaら[24]が述べるようにして、フェレット鼻腔内に(両方の鼻孔)に106・50%鶏卵感染量(EID50)の野生型攻撃ウイルス(A/Vietnam/1203/2004)を接種した。
【0043】
免疫原性試験:免疫原性は、赤血球凝集阻害(HI)と、血清の倍数希釈および単一株起源HA抗原を使用した(WHO Collaborating Centre for Influenza,Standard Operating Proceduresに記載のような)ウイルス中和(VN)によって評価した。幾何平均力価を測定し、防御免疫はワクチン接種前の力価を超える抗体力価の4倍以上の上昇と定義された。ウイルス力価および罹患データの統計的有意性は、両側の対応あるスチューデントt検定を使用して判定した。死亡率データの統計的有意性は、カイ二乗分析によって判定した。
【0044】
臨床アセスメント:
観察:動物は、研究全体を通じて毎日、攻撃に続いて動物が疾患の徴候を見せた場合は日に2回視覚的にモニターした。攻撃前に一般臨床観察を行い、咳嗽またはくしゃみなどのあらゆる呼吸症状について特に記録した。各ワクチン接種に続いて2、24、および48時間後に、反応部位の観察(すなわち紅斑、浮腫)を記録した。攻撃に続いて活動スコアを毎日モニターした。
【0045】
体重:動物は、投与および攻撃時(0日目)、および攻撃の3、5、7、および14日後に鎮静状態において秤量した。
【0046】
体温:体温はデジタル体温計を使用して鎮静時に手動で測定し、ウイルス攻撃のおよそ10日前に22ゲージ針を用いて皮下に挿入された体温トランスポンダーを使用して連続的に測定した。
【0047】
生物学的サンプル:ウイルス単離のために、攻撃の3、5、および7日後に鼻孔、口腔スワブを採取した。
【0048】
B.結果
インフルエンザISCOMATRIXTMワクチン:抗体応答
フェレットの免疫原性および攻撃研究開始前にフェレットから血清を採取して、A/New Caledonia/20/1999(H1N1)、A/Wisconsin/67/2005(H3N2)、およびB/Malaysia/2506/2004に対する抗体の存在について、標準の方法を使用して酵素結合免疫測定法(ELISA)によって試験した。試験された全てのフェレットは、全ての3株に対する抗体について陰性であり、したがってインフルエンザに未感作と見なされた。
【0049】
免疫原性および攻撃研究のために、ISCOMATRIXTMアジュバント(60μg)と混合されたA/Vietnam/1194/2004からの3.75μgまたは15μgのHAで、またはISCOMATRIXTMアジュバント(60μg)と混合されたA/New Caledonia/20/1999(H1N1)、A/Wisconsin/67/2005(H3N2)およびB/Malaysia/2506/2004のそれぞれから15μgのHAを含有する現行の季節性三価インフルエンザワクチン(インフルエンザISCOMATRIXTMワクチンと称される)で、フェレットを2回免疫化した(0、21日目)。一群の対照動物にもISCOMATRIXTMアジュバントを単独で同様に投与した。赤血球凝集阻害(HI)(図1A)およびウイルス性中和(VN)(図1B)アッセイを使用して、2回目の投与の28日後に採取された血清をインフルエンザ特異的抗体の存在について評価した。図2に示すように、A/Vietnam/1194/2004 ISCOMATRIXTMワクチンで免疫化されたフェレットは、どちらの抗原用量(3.75μgおよび15μg)でもA/Vietnam/1203/2004(H5N1、クレード1)およびA/Indonesia/5/2005(H5N1、クレード2)の双方に対して強力な抗体応答を引き起こし、異なるH5N1クレードであるにも関わらず、A/Vietnam/1203/2004とA/Indonesia/5/2005が抗原的および血清学的に近い関係にあることが実証された。
【0050】
対照的にインフルエンザISCOMATRIXTMワクチンで免疫化されたフェレットからの血清は、A/Vietnam/1203/2004およびA/Indonesia/5/2005の双方に対してHIおよびVNで陰性であった。予期されたように、ISCOMATRIX(登録商標)アジュバントを単独で2回投与を受けた対照フェレットもまた双方のアッセイで陰性であった。
【0051】
インフルエンザISCOMATRIXTMワクチン:致死的攻撃に対する保護
2回目のワクチン投与の4週間後に、Govorkovaら[24]によって述べられているように、フェレットの鼻腔内(両方の鼻孔)に106・50%の鶏卵感染量(EID50)の攻撃ウイルス(A/Vietnam/1203/2004)を接種した。次にフェレットを体温について連続的に、体重、外観および罹患については毎日、モニターした。
【0052】
図3Aに示すように、双方のHA抗原レベル(3.75μgおよび15μg)のA/Vietnam/1994/2004 ISCOMATRIXTMワクチンで免疫化された全ての動物は、野生型(A/Vietnam/1203/2004)ウイルスによる致死的攻撃を乗り切った。この結果は、これらの動物が、図2に示すようにこれらのワクチンに応えて高い力価のA/Vietnam/1203/2004特異的抗体を生じることを考えると、意外ではない。しかし意外にも、インフルエンザISCOMATRIXTMワクチンで免疫化されたフェレットもまた、検出可能な中和抗体の不在にも関わらず致死的攻撃を乗り切った。予期されたように全ての対照フェレットはウイルス攻撃に屈し、10%を超えて体重減少し、または振戦または腹部不快感などの困難の徴候を示したので、倫理的理由から安楽死させなくてはならなかった。
【0053】
フェレットの体温を、皮下体温トランスポンダーを使用して攻撃前に3日間にわたり連続的にモニターしてベースラインを確立し、次に攻撃後にさらに7日間にわたり連続的にモニターした。図3Bに示すように、対照フェレットの体温は攻撃の12〜24時間後に2.5〜3.0℃急激に上昇し、倫理上の理由からそれらを安楽死させるまでこの上昇したレベルに留まった。同様に、インフルエンザISCOMATRIXTMワクチンで免疫化したフェレットの体温も攻撃の12〜24時間後に2.5〜3.0℃急激に上昇したが、この上昇は一過性であり体温は24時間後にベースラインに戻った。この群の1匹は、2番目のわずかに低い一過性の体温の急上昇を経験したが、それは24時間後に再度ベースラインに戻った。対照的に、高い抗原用量群の1匹を除いて、A/Vietnam/1994/2004 ISCOMATRIXTMワクチンにより免疫化された全てのフェレットの攻撃後体温は、いずれの段階でも攻撃前ベースラインレベルを超えて上昇しなかった。
【0054】
フェレットの体重は、研究期間全体を通じて毎日モニターした(図3C)。対照群中の全ての動物の体重は、攻撃の3日以内におよそ10%低下した。A/Vietnam/1994/2004 ISCOMATRIXTMワクチンで免疫化されたフェレットの静的体温プロフィールと矛盾せず、これらの動物の体重は攻撃後に着実に増大した。対照的にインフルエンザISCOMATRIXTMワクチンで免疫化されたフェレットの体重は、7日間の攻撃後観察期間内に全体を通じて変化しなかった。
【0055】
体重および体温データと矛盾せず、A/Vietnam/1994/2004 ISCOMATRIXTMワクチンによって双方の抗原レベル(3.75μgまたは15μgHA)で、またはインフルエンザISCOMATRIXTMワクチンによって免疫化された全てのフェレットは、野生型H5N1ウイルス(A/Vietnam/1203/2004)による致死的攻撃後に活発で機敏なままであった。対照的にISCOMATRIXTMアジュバントを単独で投与された対照動物は罹患徴候を示し、攻撃の3日後には活発でも機敏でもなく、5〜7日後にはそれらの健康状態は安楽死を要するレベルにまで悪化した(図4)。
【0056】
C.考察
研究中になされた重要かつ驚くべき観察は、ISCOMATRIXTMアジュバントと組み合わされたA/New Caledonia/20/1999(H1N1)、A/Wisconsin/67/2005(H3N2)、およびB/Malaysia/2506/2004のそれぞれから15μgのHAを含有するインフルエンザISCOMATRIXTMワクチンが、A/Vietnam/1203/2004に対する検出可能な中和抗体応答(HIおよびVN)の不在下で、高病原性H5N1ウイルス(A/Vietnam/1203/2004)による致死的攻撃からフェレットを保護したことである。インフルエンザISCOMATRIXTMワクチン群中のフェレットの体温の一過性上昇は、攻撃に続いてこれらの動物が感染したが、ウイルス感染の程度は中和抗体非媒介性の免疫学的機序によって制限され、迅速なウイルス排除と感染からの回復がもたらされることを示唆する。
【0057】
これらの動物が攻撃後に体重減少せず、活発で機敏なままであったという観察は、この結論を支持する。対照的に2用量のISCOMATRIXTMアジュバントを単独で投与された対照動物は迅速な長期体温上昇を経験し、それらの健康状態は安楽死を要する程度にまで迅速に悪化した。
【0058】
現在のところ、フェレットの細胞免疫応答、特にCD8+CTL応答を評価するアッセイが存在しないため、H5N1ウイルスによる致死的攻撃に対し、インフルエンザISCOMATRIXTMワクチンが提供する保護の免疫学的基盤を同定することができない。インフルエンザISCOMTMワクチンは、ヒトをはじめとする多様な種おいてCD8+CTL応答を誘導することが示されている[10;15;16]。さらにH1N1ISCOMTMワクチンは、マウスにおいて一つには交差防御CD8+CTL応答の誘導のために、異種攻撃から保護を与えることが示されている。しかし上述のように、最適CD8+CTL応答の誘導が、ISCOMTMまたはISCOMATRIXTMアジュバント中への抗原の組み込みを必要とすることは広く認識されている[17〜19]。したがってこの研究において、検出可能な中和抗体応答の不在下で、インフルエンザISCOMATRIXTMワクチンが、公式に立証されてはいないもののおそらくは高病原性H5N1ウイルスによる致死的攻撃からフェレットを保護するのに十分強力なCD8+CTL応答である、細胞免疫応答を誘導するのを観察することは驚くべきである。さらに全てのA株インフルエンザウィルスの(同定されたCD8+CTLエピトープをはじめとする)内部タンパク質間の高い配列保存度を考えると、インフルエンザISCOMATRIXTMワクチンが、H7N7、H7N3、H9N2、およびH10N7をはじめとするがこれに限定されるものではない、その他の潜在的汎発流行性株に対して同様に保護を与えると想定するのは合理的である。
【0059】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)地域流行性インフルエンザ亜型の免疫原の少なくとも1つ、および
(ii)アジュバントとして、免疫原を含まない免疫刺激複合体
を含む組成物を対象に投与するステップを含む、対象において汎発流行性亜型のインフルエンザウィルスに対する保護免疫応答を惹起または誘導する方法。
【請求項2】
対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
組成物が地域流行性インフルエンザA H1N1および/またはH3N2亜型の免疫原を含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
免疫原を含まない免疫刺激複合体が、サポニン、ステロール、および任意にリン脂質を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
免疫原を含まない免疫刺激複合体が、ISCOMATRIXTMアジュバントを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
汎発流行性亜型インフルエンザウィルスが、インフルエンザA H5N1、H7N7、H7N3、H9N2、およびH10N7亜型から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記汎発流行性亜型がインフルエンザA H5N1亜型である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
汎発流行性亜型のインフルエンザウィルスに対する保護免疫応答を惹起または誘導するために対象に投与するための薬剤の製造における、
(i)地域流行性インフルエンザ亜型の免疫原の少なくとも1つ、および
(ii)アジュバントとして、免疫原を含まない免疫刺激複合体
を含む組成物の使用。
【請求項9】
汎発流行性亜型インフルエンザウィルスに対する保護免疫応答を惹起または誘導するための
(i)地域流行性インフルエンザ亜型の免疫原の少なくとも1つ、および
(ii)アジュバントとして、免疫原を含まない免疫刺激複合体
を含む組成物の使用。
【請求項10】
(i)地域流行性インフルエンザ亜型の免疫原の少なくとも1つ、および
(ii)アジュバントとして、免疫原を含まない免疫刺激複合体
を含む組成物である、対象において汎発流行性亜型のインフルエンザウィルスに対する保護免疫応答を惹起または誘導するための薬剤。

【図1A−1】
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【図1A−2】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B−1】
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【図3B−2】
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【図3B−3】
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【図3B−4】
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【図3C】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−500514(P2011−500514A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528244(P2010−528244)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際出願番号】PCT/AU2008/001500
【国際公開番号】WO2009/046497
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(500021413)シーエスエル、リミテッド (28)
【Fターム(参考)】