説明

汚損生物駆除素剤

【課題】少なくとも飽和量の塩化ナトリウムと水酸化マグネシウムとを含有する溶液であって、溶液中の汚損生物を駆除する溶液あることを特徴とする。
【解決手段】溶液中に棲息する汚損生物を確実に駆除することができ、海洋汚染を発生させることがなく、コストも低廉な汚損生物駆除素剤を提供すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚損生物駆除素剤に係り、特にバラスト水やその他の溶液中に棲息する微生物や細菌類からなる汚損生物を駆除するのに好適な汚損生物駆除素剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、大型船舶等の航行の安全のために用いられているバラスト水中には海洋汚染の元凶となる微生物や細菌類からなる汚損生物が棲息している。
【0003】
このバラスト水による海洋汚染を防止するために、国際海事機関(IMO)においては、バラスト水管理条約を締結するととものに、バラスト水排出基準(D−2基準)として船外に排出されるバラスト水中に含有される汚損生物の含有量を規制している。具体的には、汚損生物として、最小寸法が50μm以上の水性生物(主として動物性プランクトン)や最小寸法10μm以上50μm未満の水性生物(主として植物性プランクトン)からなる微生物と、病毒性コレラ菌(O−1、O−139)、大腸菌、腸球菌からなる細菌類とに分類し、それぞれの船外排出基準を定めている。最小寸法が50μm以上の水性生物(主として動物性プランクトン)および最小寸法10μm以上50μm未満の水性生物(主として植物性プランクトン)からなる微生物の船外排出基準は10個/m未満、病毒性コレラ菌(O−1、O−139)の船外排出基準は1cfu/100ml未満、大腸菌の船外排出基準は250cfu/100ml未満、腸球菌の船外排出基準は100cfu/100ml未満とされている。ここでcfuとは、群体形成単位(colony forming unit)である。
【0004】
前記の動物性プランクトンや植物性プランクトンからなる微生物には赤潮やアオコを発生させる生物としての渦鞍毛藻類やケイ藻が含まれている。この渦鞭毛藻類には、ヘテロカプサ・トリケタラ(Heterocapsa triquetara)、シャトネラ・マリナ(Chattonella marina)、ギムノデニウム・ミキモトイ(Gymnodinium mikimotoi)、ヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashio)などの有毒プランクトンが知られている。
【0005】
このようなプランクトンが大量に増殖すると赤潮となり、養殖場の魚や貝が大量に斃死する。
【0006】
このようなバラスト水による汚染防止や、海洋汚染防止のために、従来においては、例えば特許文献1に示すように、複数の電極を直列に配置した処理領域に、有毒プランクトンを通過させながら、各電極を介して通電し、電気的ショックを与えてことが提案されていた。
【0007】
【特許文献1】特開平11−046618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記公報記載の従来例においては、装置が大型となり、コストが非常に高いという不都合があった。また、汚損生物を駆除する薬品を用いた場合には、薬品による海洋汚染が発生したり、コスト高となるという不都合があった。
【0009】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、溶液中に棲息する汚損生物を確実に駆除することができ、海洋汚染を発生させることがなく、コストも低廉な汚損生物駆除素剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は鋭意研究し、海水や淡水等の溶液内に飽和量の塩化ナトリウムと水酸化マグネシウムとを含有させることにより汚損生物を殺滅させて駆除することができることを本発明を完成させたものである。
【0011】
このようにしてなされた本発明の汚損生物駆除素剤は、少なくとも飽和量の塩化ナトリウムと水酸化マグネシウムとを含有する溶液であって、溶液中の汚損生物を駆除する溶液あることを特徴とする。
【0012】
そして本発明によれば、溶液中に含有される飽和量の塩化ナトリウムと水酸化マグネシウムとにより溶液中の汚損生物を確実に駆除することができる。
【0013】
また、本発明の汚損生物駆除素剤においては、前記溶液を海水または淡水としたり、バラスト水とするとよい。
【0014】
また、本発明の汚損生物駆除素剤は、駆除する汚損生物を、赤潮またはアオコとなる微生物や、細菌類とするとよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の汚損生物駆除素剤によれば、溶液中に含有される飽和量の塩化ナトリウムと水酸化マグネシウムとにより溶液中の汚損生物を確実に駆除することができ、海洋汚染を発生させることがなく、コストも低廉となるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の汚損生物駆除素剤の実施形態について説明する。
【0017】
本発明の汚損生物駆除素剤は、少なくとも飽和量の塩化ナトリウムと水酸化マグネシウムとを含有する溶液である。
【0018】
この溶液中の汚損生物を投与して所定時間を経過すると汚損生物が死滅して駆除されることを確認した。これは、溶液中に含有される飽和量の塩化ナトリウムと水酸化マグネシウムが相乗的に作用して、溶液中の汚損生物を確実に駆除するものである。
【0019】
更に、本発明の汚損生物駆除素剤において、溶液を海水または淡水としたりバラスト水としても汚損生物を駆除することができることを確認した。
【0020】
更に、本発明の汚損生物駆除素剤によれば、汚損生物である赤潮またはアオコとなる微生物や、細菌類を確実に駆除することができた。
【0021】
また、本発明の汚損生物駆除素剤は、汚損生物がものに付着している場合には、その付着箇所に本発明の溶液状の汚損生物駆除素剤を噴霧したり塗布したりして、汚損生物を溶液中に取り込むことによっても駆除することができる。従って、本発明の汚損生物駆除素剤の適用方法は公知の各種の方法を採用することができ、その用途は非常に広いものである。
【0022】
更に、本発明の汚損生物駆除素剤には、前記公報のような特別な装置も必要とせず、利用方法も簡単であり、しかもコストも低廉なものとなる。
【実施例】
【0023】
実施例1(微生物の駆除)
本発明の汚損生物駆除素剤の赤潮生物駆除効果について調べた。
【0024】
<細菌類の培養>
赤潮藻類がもっともよく増殖する培地において赤潮生物を培養した。
【0025】
確認に用いた赤潮生物は、1)ヘテロカプサ・トリケタラ(Heterocapsa triquetara)(NIES-235)のためのF2培地、2)シャトネラ・マリナ(Chattonella marina)(NIES-118)、3)ギムノデニウム・ミキモトイ(Gymnodinium mikimotoi)(NI ES-6 80)、4)ヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashio)(NIES-5)であり、国立環境研究所微生物系統保存施設から購入した。
【0026】
培養に用いた培地は、国立環境研究所微生物系統保存施設が指定している1)Heterocapsa triquetara)(NIES-235)のためF2培地、2)Heterosigma akashio(NIES-5)と3)Chattonella marina(NIES-118)のためのf/2培地および4)Gymnodinium mikimotoi(NI ES-6 80)のためのEMS培地を用いた。
【0027】
培養には、まず前記の培地を三角フラスコに入れ滅菌および放冷した後、クリーンベンチ内で無菌的に前記のそれぞれの株を接種し、ただちにインキュベーター(サンヨー グロースキャビネットMLR350T)内に入れ、温度20℃、照度30μE/m/sec、12時間明・12時間暗のサイクルで培養した。このように培養した増殖期の赤潮藻類を菌体濃度が赤潮状態といえる約3000個/mlになるまで調整して赤潮生物駆除実験に供した。
【0028】
<駆除確認>
前記の4種の赤潮藻類の培養液100ml内に、下記の6種の溶液を10ml添加し、添加から0、5、10、15、30、45、60、90分経過後に、1mlを採取し、運動細胞の数を計数した。計数には1ml用量のグリッド付き計数用スライドグラスを用いて、試料を素早く移した後、オリンパスBH1ノマルスキー微分干渉光学顕微鏡の100倍率で計数した。時間を90分までと設定したのは、これまでの経験から赤潮現場で散布の効果が期待できるのがの60分程度であり、それ以上は溶液が拡散するからである。
【0029】
溶液の特性:
1)コントロール
GF/Fフィルタによる滅菌ろ過海水
2)クリア 50g/m
1)の滅菌ろ過海水に水酸化マグネシウムを50g/mとなるように添加したもの
3)海水+3%
2)のクリアの海水に塩化ナトリウム濃度を3%となるように調整したもの
4)海水+10%
2)のクリアの海水に塩化ナトリウム濃度を10%となるように調整したもの
5)海水+15%
2)のクリアの海水に塩化ナトリウム濃度を15%となるように調整したもの
6)飽和NaCl海水(本発明の汚損生物駆除素剤)
2)のクリアの海水に塩化ナトリウム濃度が過飽和濃度となるように調整したもの
【0030】
<微生物数の測定結果>
前記1)〜4)の微生物に対する各溶液の微生物の駆除機能は図1〜図4に示す通りとの結果となった。この結果より、本発明の汚損生物駆除素剤であるろ過海水に水酸化マグネシウムを50g/mとなるように添加した海水に塩化ナトリウム濃度が飽和濃度となるように調整したものからなる溶液が、赤潮藻類からなる微生物を接種から5分経過後という最も早い時間に完全死滅させている。従って、本発明の汚損生物駆除素剤によれば、微生物を短時間に駆除することができることが判明した。
【0031】
実施例2(細菌類の駆除)
本発明の汚損生物駆除素剤の細菌の駆除状態について調べた。
【0032】
<細菌類の培養>
汚損生物としての細菌類・培養の使用培地・培養温度を下記の4種とした。
【0033】
1)細菌:エケリチカ・コリK12(Echerichia coli K12)
培地:普通寒天平板培地
培養温度:30℃
2)細菌:エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium(NBRC 100681))
培地:MRS寒天平板培地
培養温度:37℃
3)細菌:エンテロコッカス・アシニ(Enterococcus asini(NBRC 100485))
培地:MRS寒天平板培地
培養温度:37℃
4)細菌:ビブリオ・コレラ(Vibrio chorelae(GTC 2158))
培地:TCBS寒天平板培地
培養温度:37℃
【0034】
<駆除確認培養>
前記の4種の細菌を下記の4種の溶液10ml中に100μl接種して、インキュベータ内で25℃で静置培養して、細菌の駆除能力を出現させた。
【0035】
溶液の特性:
1)海
GF/Fフィルタによるろ過海水
2)Na
1)の滅菌ろ過海水に塩化ナトリウム濃度が過飽和濃度となるように調整したもの
3)Mg
1)の滅菌ろ過海水に水酸化マグネシウム濃度が過飽和濃度となるように調整したもの
4)both
1)の滅菌ろ過海水に塩化ナトリウム濃度および水酸化マグネシウムがそれぞれ過飽和濃度となるように調整したもの
【0036】
<駆除培養後の細菌のコロニー数の計測>
前記駆除培養後、0、1、2、5日経過後に溶液を100μlを取出し、普通寒天平板培地に塗沫して1日静置培養し、コロニー数を計数した。
【0037】
<細菌のコロニー数の測定結果>
前記1)〜4)の細菌に対する各溶液の細菌の駆除機能であるコロニー数は図5〜図8に示す通りとの結果となった。この結果より、本発明の汚損生物駆除素剤である滅菌ろ過海水に水酸化マグネシウムおよび塩化ナトリウムをともに飽和濃度となるように調整したものからなる溶液が、前記1)〜4)からなる細菌を早い時間に完全死滅させている。従って、本発明の汚損生物駆除素剤によれば、細菌を短時間に駆除することができることが判明した。
【0038】
なお、本発明は、前述した実施の形態並びに実施例に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の汚損生物駆除素剤による微生物としてのヘテロカプサ・トリケタラの駆除状態を示す微生物数と時間との関係を示す特性図
【図2】本発明の汚損生物駆除素剤による微生物としてのシャトネラ・マリナの駆除状態を示す微生物数と時間との関係を示す特性図
【図3】本発明の汚損生物駆除素剤による微生物としてのギムノデニウム・ミキモトイの駆除状態を示す微生物数と時間との関係を示す特性図
【図4】本発明の汚損生物駆除素剤による微生物としてのヘテロシグマ・アカシオの駆除状態を示す微生物数と時間との関係を示す特性図
【図5】本発明の汚損生物駆除素剤による細菌としてのエケリチカ・コリK12の駆除状態を示すコロニー数と時間との関係を示す特性図
【図6】本発明の汚損生物駆除素剤による細菌としてのエンテロコッカス・フェシウムの駆除状態を示すコロニー数と時間との関係を示す特性図
【図7】本発明の汚損生物駆除素剤による細菌としてのエンテロコッカス・アシニの駆除状態を示すコロニー数と時間との関係を示す特性図
【図8】本発明の汚損生物駆除素剤による細菌としてのビブリオ・コレラの駆除状態を示すコロニー数と時間との関係を示す特性図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも飽和量の塩化ナトリウムと水酸化マグネシウムとを含有する溶液であって、溶液中の汚損生物を駆除する溶液あることを特徴とする汚損生物駆除素剤。
【請求項2】
前記溶液は、海水または淡水であることを特徴とする請求項1に記載の汚損生物駆除素剤。
【請求項3】
前記溶液は、バラスト水であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の汚損生物駆除素剤。
【請求項4】
前記汚損生物は、赤潮またはアオコとなる微生物であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の汚損生物駆除素剤。
【請求項5】
前記汚損生物は、細菌類であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の汚損生物駆除素剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−197337(P2007−197337A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−15164(P2006−15164)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(301046499)
【出願人】(000110882)ニチモウ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】