説明

汚染土壌の湿式無害化処理方法

【課題】低コストで容易に、かつ環境に悪影響を及ぼすことなく、土壌中の重金属類および有機塩素化合物等の汚染物質を無害化する方法を提供する。
【解決手段】重金属類および有機塩素化合物を含む汚染土壌を無害化する方法であって、汚染土壌に、少なくとも、過酸化水素を含有する水溶液と酸とを混合し、重金属類のイオンを混合液中に溶出させる溶出工程と、有機塩素化合物を含有する水溶液にアルカリ性化合物を添加して分解する第1分解工程と、有機塩素化合物と光増感剤とを混合させ、有機塩素化合物を紫外線照射して分解する第2分解工程とを有する汚染土壌の湿式無害化処理方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属類および有機塩素化合物により汚染された土壌から重金属類を溶出させる汚染土壌の湿式無害化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種製造工場の敷地およびその隣接地等における土壌が第1種特定有害物質(有機塩素化合物等を含む)、第2種特定有害物質(重金属類等の無機物質を含む)によって汚染されているという問題が指摘されている。重金属類、有機塩素化合物といった汚染物質により人体への悪影響が懸念されることから、その汚染土壌を無害化するための有効な処理方法が望まれている。
【0003】
従来より、重金属類および有機塩素化合物により汚染された土壌の無害化処理方法として、焼却処理が提案されている。しかし、焼却処理の場合には、水銀、砒素等の揮発性重金属類のガスが発生するだけではなく、焼却処理の過程で被処理物中の有機塩素化合物により発生するダイオキシンも排ガスに含まれて、それが広範囲に拡散し、焼却処理場周辺の土壌を汚染するという問題がある。
【0004】
このような問題に鑑み、重金属類および有機塩素化合物により汚染された土壌の無害化処理方法として、土壌中の重金属類汚染物を酸で洗浄除去する処理が検討されている。具体的には、汚染土壌の5〜10倍の重量の酸水溶液を汚染土壌に加え、攪拌混合した後、水洗して重金属類を除去する技術が、既に開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、次のような汚染土壌の無害化処理方法も知られている。まず、重金属類および有機塩素化合物により汚染された土壌に、鉄粉と、アルミニウム塩または鉄塩のうちの少なくとも1種とを添加する。次に、弱酸性あるいはアルカリ性にpHを調節し、生成したアルミニウム水酸化物または鉄酸化物のうち少なくとも1種の水酸化物に汚染物と混合させる。その後、中性セメント剤を添加して得られた不溶化土壌を、埋め戻し土壌として使用する (例えば、特許文献2参照)。
【0006】
さらに、溶融固定無害化処理法を採用して重金属類および有機塩素化合物により汚染された汚染土壌を埋設ピット内に埋め、電極を挿入し、通電することによって、汚染土壌を無害化処理する技術も知られている。
【特許文献1】特開平05−293496号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2003−290757号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の重金属類および有機塩素化合物により汚染された土壌の無害化処理方法には、次のような問題がある。汚染土壌中の重金属類は、様々な形態で存在している。重金属類が水に難溶性の形態で存在すると、例えば、ヨウ化フェニル水銀等の水銀系農薬または3価砒素系農薬等にて汚染された土壌から酸水溶液の力で重金属汚染物を分離するのは極めて難しい。このため、特許文献1に開示される汚染土壌の無害化処理方法の場合には、汚染土壌を環境基準に適合するような重金属除去率を達成することができないという問題がある。
【0008】
また、特許文献2に開示される汚染土壌の無害化処理方法の場合には、本質的に重金属類が浄化されず、その全量がそのまま土壌中に残留する。このため、長時間が経過すると、その固定効果が持続するものではなく、酸化雰囲気または地下水の浸透等によって、土壌中の重金属類が溶出して、二次的な環境汚染を引き起こすおそれがある。
【0009】
また、溶融固定無害化処理法を採用する場合には、埋設ピット内の汚染処理物の中心温度が高くなるため、多量の電力が必要となり、設備導入コスト、処理コストがともに高価になるという問題がある。
【0010】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、低コストで容易に、かつ環境に悪影響を及ぼすことなく、土壌中の重金属類および有機塩素化合物等の汚染物質を無害化する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、重金属類および有機塩素化合物を含む汚染土壌を無害化する方法であって、汚染土壌に、少なくとも、過酸化水素を含有する水溶液と酸とを混合し、重金属類のイオンを混合液中に溶出させる溶出工程と、有機塩素化合物を含有する水溶液にアルカリ性化合物を添加して分解する第1分解工程と、有機塩素化合物と光増感剤とを混合させ、有機塩素化合物を紫外線照射して分解する第2分解工程とを有する汚染土壌の湿式無害化処理方法としている。
【0012】
このため、汚染土壌に含まれる重金属類および有機塩素化合物を全て処理できる。過酸化水素は、水溶液中において、酸解離平衡により、HOを生成する。このため、HOの作用によって、難溶性の形態で存在する重金属類を酸性水溶液中に溶出させやすい形態にすることができる。水銀を例にとると、水銀が+1価あるいは0価の低原子価から+2価に酸化され、水中への溶解度が増加する。また、高い毒性の形態で存在する重金属類の一つである+6価のクロムイオンを過酸化水素によって+3価のクロムイオンに還元し、低い毒性の形態で水中へ溶解させることができる。さらに、酸を添加することによって、重金属類を土壌からより効率的に溶出させることができる。また、光増感剤と混合させることによって、短波長で200nm以下の波長の吸収帯を有する有機塩素化合物を、比較的長波長の紫外線により効率良く分解することができる。
【0013】
また、別の本発明は、溶出工程が少なくとも過酸化水素を含有する水溶液を混合する第1工程と、水溶液と汚染土壌との混合物中に、酸を混合する第2工程とを有する汚染土壌の湿式無害化処理方法としている。このため、重金属類を、土壌から、より効率的に溶出させることができる。
【0014】
また、別の本発明は、さらに、第1工程において、アルカリ性化合物を添加し、水溶液のpHを7より大きくする汚染土壌の湿式無害化処理方法としている。
【0015】
過酸化水素の酸解離平衡は、アルカリ性水溶液のOHの濃度に比例するため、混合水溶液のpHが高いほど、過酸化水素の解離は増大する。しかも、過酸化水素の解離により生成する反応活性なHOは、アルカリ性が強くなるほど安定化する。このため、アルカリ性化合物を添加することにより、過酸化水素による処理能力をより高めることができる。また、アルカリ性化合物を添加した混合水溶液の中で、重金属類を処理することにより生成したHが中和される。このため、pHをアルカリ性に維持することができ、過酸化水素の分解機能は失われない。従って、過酸化水素による重金属類の無害化処理を安定して行うことができる。
【0016】
また、別の本発明は、アルカリ性化合物が水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである汚染土壌の湿式無害化処理方法としている。このため、過酸化水素による重金属類を、土壌から、より効率的に溶出させることができる。
【0017】
また、別の本発明は、重金属類が第2種特定有害物質から選ばれる1種以上の重金属である汚染土壌の湿式無害化処理方法としている。このため、重金属類を、より効果的に無害化処理できる。
【0018】
また、別の本発明は、有機塩素化合物を含む汚染土壌をさらに界面活性剤と接触させて、有機塩素化合物を溶出させる汚染土壌の湿式無害化処理方法としている。界面活性剤を用いることによって、有機塩素化合物と水との間の界面張力を減少させることができ、有機塩素化合物の移動性を良好にできる。このため、効率的に有機塩素化合物を水中へ溶出できる。その結果、有機塩素化合物を、より効果的に無害化処理できる。
【0019】
また、別の本発明は、光増感剤がアセトフェノンまたはアセトンである汚染土壌の湿式無害化処理方法としている。このため、有機塩素化合物を紫外線照射によってより効果的に無害化処理できる。
【0020】
本発明に係る汚染土壌の湿式無害化処理方法において、処理対象となる汚染土壌は、周期律表6〜15から選ばれた少なくとも1種の重金属を含む土壌である。重金属としては、具体的には、例えば、水銀、砒素、鉛、6価クロム、カドミウム、亜鉛、銅、アルミニウム、鉄、マンガン、モリブデン、ニッケル等の金属を挙げることができ、本発明は、特に、水銀、砒素を含む汚染土壌を処理するのに適している。ただし、上述の分解対象となる重金属は一例に過ぎず、他の種類の重金属類により汚染された土壌を処理しても良い。また、本発明により無害化することができる汚染土壌としては、赤色土、黒ボク土、グライ土、ローム土等を挙げることができる。
【0021】
本発明に係る汚染土壌の湿式無害化処理方法に用いられるアルカリ性化合物は、固体の水酸化ナトリウム、固体の水酸化カリウム若しくはこれらの混合物または水酸化ナトリウム若しくは水酸化カリウムの水溶液を好適に用いることができ、特に、固体の水酸化ナトリウムを用いるのがより好ましい。ただし、上述のアルカリ性化合物は一例に過ぎず、他のアルカリ性化合物を採用しても良い。
【0022】
また、本発明に係る汚染土壌の湿式無害化処理方法に選択的に用いられる酸としては、例えば、硝酸、塩酸、リン酸、硫酸、ホウ酸等の無機酸または蟻酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、コハク酸、酒石酸、フタル酸等の有機酸が挙げられる。これらの酸のうち、特に、硝酸を用いるのがより好ましい。ただし、上述の酸は一種のみを用いあるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。重金属の種類に応じて、酸の種類を変えるのが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、低コストで容易に、かつ環境に悪影響を及ぼすことなく、土壌中の重金属類および有機塩素化合物等の汚染物質を無害化する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明に係る汚染土壌の湿式無害化処理方法の好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0025】
図1は、本発明に係る汚染土壌の湿式無害化処理方法の手順を示すフローチャートである。
【0026】
以下、汚染土壌の湿式無害化処理を行う溶出工程手順につき、図1に基づいて説明する。
【0027】
まず、重金属類および有機塩素化合物により汚染された土壌を処理容器に投入する(ステップS101)。続いて、適量のアルカリ性化合物と水とを処理容器に入れて、混合水溶液のpHを7より大きい所定値に調整する(ステップS102)。次に、過酸化水素を添加して攪拌する(ステップS103:第1工程)。重金属類により汚染された土壌の処理にあたって、アルカリ性化合物は、混合水溶液のpHをアルカリ性側に維持し、過酸化水素を容易に解離させる役割を有する。このように混合水溶液のpHを調整することにより、過酸化水素の解離速度と過酸化水素の分解から発生する反応活性なHOの安定化を図ることができる。ここで、アルカリ性化合物としては、水酸化ナトリウムを好適に使用できる。また、処理する汚染土壌の性状および土壌に含まれている重金属の含有量に応じて、過酸化水素の添加量の制御を行い、効率的に汚染土壌を処理することが好ましい。また、混合方法は、マグネティックスターラーを用いた攪拌以外に、超音波分散、攪拌羽根を用いた攪拌等のどのような種類の混合方法であっても良い。
【0028】
次に、混合水溶液に酸を添加して、混合溶液のpHを酸性に調整する(ステップS104:第2工程)。次に、混合水溶液を攪拌した後、全量を濾過する(ステップS105)。この実施の形態では、酸を添加することによって、過酸化水素により酸化または還元される重金属類イオンを土壌からより効率的に溶出させることができる。酸としては、硝酸を好適に使用できる。なお、土壌と処理液との分離方法は、濾過以外に、遠心分離等の他の分離方法であっても良い。また、濾過した土壌をさらに水で洗うのが好ましい。
【0029】
続いて、処理液に含まれる重金属を回収する(ステップS106)。この実施の形態では、処理液を吸収剤と接触させて重金属類を当該吸収剤に吸着・除去する。本実施の形態で用いられる重金属類の吸着剤としては、重金属類を吸着できるあらゆる公知の吸着剤を使用できる。例えば、チオール系交換樹脂、陽イオン交換樹脂、強酸性陽イオン交換樹脂、弱酸性陽イオン交換樹脂、キレート樹脂等のイオン交換体等を好適に使用できる。なお、本実施の形態において、重金属類を除去した処理液を、重金属類汚染土壌処理系に循環させても良い。
【0030】
一方、重金属類を除去した後、有機塩素化合物を含む土壌を、所定濃度の界面活性剤と混合させ、有機塩素化合物を土壌から水中へ溶出させる。本実施の形態において、非イオン界面活性剤が特に好ましい。非イオン界面活性剤としては、アルキルグリコシドのような低分子系、例えば、n-オクチル-β-D-グルコシド、またはポリエチレングリコールもしくはポリビニルアルコールのような高分子系等を好適に使用できる。ただし、上述の非イオン界面活性剤は一例に過ぎず、他の非イオン界面活性剤を採用しても良い。界面活性剤を用いることによって、有機塩素化合物と水との間の界面張力を減少させることができ、有機塩素化合物の移動性を良好にできる。また、水溶液中でミセルを生成するため、水に難溶性である有機塩素化合物の水への溶解性を高める。その結果、効率的に有機塩素化合物を水中へ溶出できる。また、処理する汚染土壌の性状および土壌に含まれている有機塩素化合物の含有量に応じて、界面活性剤の種類および添加量を調整し、効率的に汚染土壌を処理することが好ましい。次に、溶出された有機塩素化合物を、光増感剤を含むアルカリ性水溶液と混合させた後、紫外線を照射する。光増感剤を添加することによって、短波長で200nm以下の波長の吸収帯を有する有機塩素化合物を、比較的長波長の紫外線により効率良く分解することができる。光増感剤としては、アセトンまたはアセトフェノンを好適に使用できる。ただし、アセトンまたはアセトフェノン以外に、ケトン構造もしくはアルデヒド構造を有するものを用いても良い。なお、有機塩素化合物の種類、照射する紫外線の波長または光増感剤の種類に応じて、光増感剤の添加量を調整するのが好ましい。また、有機塩素化合物の種類によって、直接、アルカリ性水溶液にて分解処理しても良い。ステップS102とステップS103の順番を変更しても良い。また、ステップS102を行わなくても良い。
【0031】
以上、本発明に係る汚染土壌の湿式無害化処理の好適な実施の形態について説明した。その結果、短時間で、かつ簡単な装置を用いて、重金属類および有機塩素化合物を含む汚染土壌を効率よく無害化でき、処理コストも低減できる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明に係る汚染土壌の湿式無害化処理方法の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の各実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の各実施例において、各共通の実施方法については、重複する説明を省略する。以下に説明する各実施例において、過酸化水素により処理された重金属類汚染土壌の水銀、砒素および6価クロムの残存状況については、それぞれ、水銀検知管(GASTEC No.203)、砒素検知管(GASTEC No.202)、誘導結合プラズマ質量分析計(横河アナリティカルシステムズ社製)を用いて測定した。また、分解された有機塩素化合物の残存状況については、島津製作所製GC/MS QP5000を用いて測定されたGC/MSスペクトルから把握した。
【0033】
(実施例1)
A.処理手順
まず、ビーカーに100gの試料(水銀系農薬を含む土壌)と、250gの水とを入れ、攪拌しながら混合した。次に、上述の混合水溶液に水酸化ナトリウムをpH10〜11程度になるように添加し、さらに20gの10%過酸化水素を加え、1時間、マグネティックスターラーによる攪拌処理を行った。続いて、混合溶液のpHが1程度になるように硝酸を添加し、1時間、攪拌処理した後、吸引濾過し、固液分離を行った。その後に、分離された固体を2回、100mlの水で洗った。
【0034】
2回の洗浄水をそれぞれ少量に取り出し、それを、過酸化水素による処理された水銀類汚染土壌の水銀残存量を測定するための試料とした。一方、分離された処理液を、チオール系交換樹脂で充填したカラムに通した。カラム通過後の液体を少量取り出し、それを、水銀濃度を測定するための試料とした。
【0035】
B.分析結果
1回目の洗浄水の水銀濃度を測定した結果、水銀濃度は、0.01ppmであった。それに対して、2回目の洗浄水の水銀濃度は0.005ppmとなり、環境基準以下の濃度になった。一方、カラム通過後の液体中からは、水銀が全く検出されなかった。この結果から、本発明の汚染土壌の湿式無害化処理方法によって、水銀系農薬を含む土壌を効率よく無害化処理することができると判断した。
【0036】
(実施例2)
A.処理手順
この実施例では、水銀系農薬を含む土壌およびチオール系交換樹脂の代わりに、それぞれ、砒素系農薬を含む土壌および無機重金属交換樹脂を用いた。処理手順は、実施例1と同じ手順とした。処理後の固体の洗浄水およびカラム通過後の液体をそれぞれ少量取り出し、それらを、砒素の濃度を測定するための試料とした。
【0037】
B.分析結果
1回目の洗浄水の砒素濃度を測定した結果、砒素濃度は、0.38ppmであった。それに対して、2回目の洗浄水の水銀濃度は0.12ppmとなり、環境基準以下の濃度になった。一方、カラム通過後の液体中からは、砒素が0.05ppm検出された。この結果から、本発明の汚染土壌の湿式無害化処理方法によって、土壌に含まれた砒素を効率よく除去することができると判断した。
【0038】
(実施例3)
A.処理手順
この実施例では、水銀系農薬を含む土壌およびチオール系交換樹脂の代わりに、それぞれ6価クロムを含む土壌および強酸性陽イオン交換樹脂を用いた。処理手順は、実施例1と同じ手順とした。処理後の固体の洗浄水およびカラム通過後の液体をそれぞれ少量取り出し、それらを、6価クロムの濃度を測定するための試料とした。
【0039】
B.分析結果
1回目の洗浄水の6価クロム濃度を測定した結果、6価クロム濃度は2ppmであった。一方、カラム通過後の液体の6価クロム濃度は、環境基準以下の濃度になった。6価クロム塩は難溶性ではないが、水に溶出すると、陰イオンになり、強酸性陽イオン交換樹脂で回収できない。また、6価クロムの毒性を考えると、6価クロムを+3価に還元し、+3価の陽イオンとして回収するのが好ましい。本実施例の場合、過酸化水素は還元剤として働き、6価クロムを+3価クロムに還元できた。この結果から、本発明の汚染土壌の湿式無害化処理方法によって、土壌に含まれた+6価クロムを効率よく除去することができると判断した。
【0040】
次に、実施例1〜3の処理後に行った、土壌に含まれる有機塩素化合物を除去する処理(第1分解工程)について、説明する。
【0041】
(実施例4)
A.処理手順
土壌に含まれる0.7mgのBHC(hexachlorocyclohexane)農薬(γ異性体)を10mLのアセトンに溶解し、これを250mLの水で稀釈することにより2.8mg/lのBHC水溶液が得られた。この水溶液に、内部標準試薬として1mLの50μg/mLのフェナントレンーn−へキサン(phenanthrene−n-hexane)溶液を加えた。さらに、水溶液に0.2gの水酸化ナトリウムを加え、アルカリ濃度を0.1Mとし、BHC農薬の分解処理を行った。BHC農薬の分解は、アルカリ性水溶液に塩酸を加え、中和することにより止まる。BHC農薬の分解時間は、それぞれ、0、5、10、20および30分とした。各時間の経過時に試料50mlずつを取り出し、有機成分をヘキサンで抽出した。無水硫酸ナトリウムで脱水し、濾過した後、抽出液をエバポレーターにより50℃で真空蒸発し、さらに抽出物を2mlのへキサンに溶かし、GC/MSスペクトルを測定するための試料とした。
【0042】
B.分析結果
図2〜図6は、BHC農薬の分解処理に及ぼす水酸化ナトリウム水溶液による処理時間の影響を示すGC/MS測定の結果である。図2において、上段および下段のチャートは、それぞれ、GCスペクトルチャートおよび上段のGCスペクトルの拡大チャートである。図3〜図6の各図において、上段、中段および下段の各チャートは、それぞれ、GCスペクトルチャート、上段のGCスペクトルの拡大チャートおよびMSチャートである。以後、図9〜図16においても同様である。図7は、BHC農薬の分解処理に及ぼす水酸化ナトリウム水溶液による処理時間とBHC農薬残存量との変化を示す図である。図8は、BHC農薬の分解処理に及ぼす水酸化ナトリウム水溶液による処理時間とBHC農薬残存量の相対濃度の自然対数との変化を示す図である。表1は、BHC農薬の分解処理に及ぼす水酸化ナトリウム水溶液による処理時間とBHC農薬分解との変化を示す表である。表2は、BHC農薬の分解処理に及ぼす水酸化ナトリウム水溶液による処理時間とBHC農薬のピークとの変化を示す表である。
【0043】
フェナントレンはアルカリ性水溶液中で安定であるため、BHC農薬の相対濃度は、BHC農薬のピークとフェナントレンのピークと比較することにより決定される。図2に示すチャートは、時間0において、BHC農薬およびフェナントレンの水酸化ナトリウム水溶液を塩酸により中和した後の溶液の分析結果を示すGCスペクトルの各チャートである。図2に示すように、保持時間8.40minにBHCピークが明確に検出されると共に、8.50minにフェナントレンのピークも検出された。
【0044】
図3〜図6は、それぞれ、水酸化ナトリウム水溶液の処理時間を5、10、20および30minとした際の混合水溶液のGC/MSの測定結果である。
【0045】
図3〜図8および表1〜表2に示すように、水酸化ナトリウム水溶液の処理時間が長くなるほど、BHC農薬の濃度は、段々と減少することがわかった。特に、図8では、BHC農薬の相対濃度の自然対数が分解時間に対して直線になることは、0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液中におけるBHC農薬の分解反応が単純な1次反応で進むことを示す。このため、0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液中において、室温で、BHC農薬の分解反応の半減時間が7.1minであることがわかった。この結果から、BHC農薬をアルカリ性水溶液中で効率良く分解することができると判断した。
【0046】
(実施例5)
A.処理手順
有機塩素化合物(BHC農薬およびDDT農薬)を含む水溶液を処理容器に入れた後、0.1M水酸化ナトリウム水溶液を加えた。次に、光増感剤として、水に対して0.2重量%のアセトフェノンを加え、さらに、低圧水銀ランプによる紫外線照射を2時間行った(第2分解工程)。
【0047】
紫外線を2時間照射した処理液を少量取り出し、水溶液をヘキサンで抽出した。その後、抽出液をエバポレーターにより50℃で真空蒸発し、さらに抽出物を2mlのへキサンに溶かし、GC/MSスペクトルを測定するための試料とした。また、水酸化ナトリウムによる分解処理後の有機塩素化合物又はその分解後の生成物の残存状況を確認するため、分解処理を行う前の混合物原液も少量取り出した。当該原液は、へキサンで抽出した後、残留物を2mlのへキサンで溶かし、これをGC/MSスペクトル測定用の試料とした。
【0048】
B.分析結果
図9および図10は、紫外線照射による農薬分解処理の分析結果を示した。
【0049】
図9は、分解処理前の原液の分析結果を示すGCスペクトルおよびMSの各チャートである。図9に示すように、保持時間8.25min付近にBHCのピークが明確に検出されると共に、10〜11min付近にDDTのピークも検出された。
【0050】
図10は、紫外線照射による処理時間を2時間とした際の処理液のGC/MS測定結果である。
【0051】
0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液中で紫外線照射による分解処理において、従来より水酸化ナトリウム水溶液の処理によって、分解効果が現れないDDTのシグナルは、紫外線照射を2時間行った後、1/100まで減少した。実施例6の結果から、本発明の処理法によって、BHC農薬およびDDT農薬を同時に効率よく除去することができると判断した。
【0052】
(実施例6)
A.処理手順
BHC農薬およびDDT農薬を含有する実際の埋設農薬と平衡にある水溶液に、光増感剤として、水に対して0.2重量%のアセトンを加え、さらに、低圧水銀ランプによる紫外線照射を1時間行った。
【0053】
紫外線を1時間照射した処理液を少量取り出し、その水溶液をヘキサンで抽出した。その後、抽出液をエバポレーターにより50℃で真空蒸発し、さらに抽出物を2mlのへキサンに溶かし、GC/MSスペクトルを測定するための試料とした。また、紫外線照射による分解処理後の有機塩素化合物又はその分解後の生成物の残存状況を確認するため、分解処理を行う前の混合物原液も少量取り出した。当該原液は、へキサンで抽出した後、残留物を2mlのへキサンで溶かし、これをGC/MSスペクトル測定用の試料とした。
【0054】
B.分析結果
図11は、分解処理前の原液の分析結果を示すGCスペクトルおよびMSの各チャートである。図11に示すように、保持時間8.25minにBHCのピークが明確に検出されると共に、10min付近にDDEのピークおよび10.3〜10.6min付近に2つのDDTのピークも検出された。
【0055】
図12は、紫外線照射による処理時間を1時間とした際の処理液のGC/MS測定結果である。
【0056】
図12に示すように、水溶液中で1時間の紫外線照射を行ったが、BHCのシグナルは、1/2程度の変化であったが、DDTのシグナルはほとんどなくなった。この結果から、水中でも紫外線照射により、BHCを分解することができるが、DDTはさらに効率よく分解することができると判断した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、重金属類により汚染された土壌を無害化に処理する産業において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る汚染土壌の湿式無害化処理方法の手順を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施例4において、水酸化ナトリウム水溶液による分解処理をしていない処理液の分析結果を示すGCスペクトルチャートである(上段:GCスペクトルチャート、下段:上段のチャートの拡大チャート)。
【図3】本発明の実施例4において、水酸化ナトリウム水溶液による分解処理を5min行った後の処理液の分析結果を示すGCスペクトルおよびMSの各チャートである(上段:GCスペクトルチャート、中段:上段のチャートの拡大チャート、下段:MSチャート)。
【図4】本発明の実施例4において、水酸化ナトリウム水溶液による分解処理を10min行った後の処理液の分析結果を示すGCスペクトルおよびMSの各チャートである(上段:GCスペクトルチャート、中段:上段のチャートの拡大チャート、下段:MSチャート)。
【図5】本発明の実施例4において、水酸化ナトリウム水溶液による分解処理を20min行った後の処理液の分析結果を示すGCスペクトルおよびMSの各チャートである(上段:GCスペクトルチャート、中段:上段のチャートの拡大チャート、下段:MSチャート)。
【図6】本発明の実施例4において、水酸化ナトリウム水溶液による分解処理を30min行った後の処理液の分析結果を示すGCスペクトルおよびMSの各チャートである(上段:GCスペクトルチャート、中段:上段のチャートの拡大チャート、下段:MSチャート)。
【図7】BHC農薬の分解処理に及ぼす水酸化ナトリウム水溶液による処理時間とBHC農薬残存量との変化を示す図である。
【図8】BHC農薬の分解処理に及ぼす水酸化ナトリウム水溶液による処理時間とBHC農薬残存量の相対濃度の自然対数との変化を示す図である。
【図9】本発明の実施例5において、分解処理前の原液の分析結果を示すGCスペクトルおよびMSの各チャートである(上段:GCスペクトルチャート、中段:上段のチャートの拡大チャート、下段:MSチャート)。
【図10】本発明の実施例5において、水中で紫外線照射による分解処理を2時間行った後の処理液の分析結果を示すGCスペクトルおよびMSの各チャートである(上段:GCスペクトルチャート、中段:上段のチャートの拡大チャート、下段:MSチャート)。
【図11】本発明の実施例6において、分解処理前の原液の分析結果を示すGCスペクトルおよびMSの各チャートである(上段:GCスペクトルチャート、中段:上段のチャートの拡大チャート、下段:MSチャート)。
【図12】本発明の実施例6において、水中で紫外線照射による分解処理を1時間行った後の処理液の分析結果を示すGCスペクトルおよびMSの各チャートである(上段:GCスペクトルチャート、中段:上段のチャートの拡大チャート、下段:MSチャート)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属類および有機塩素化合物を含む汚染土壌を無害化する方法であって、
上記汚染土壌に、少なくとも、過酸化水素を含有する水溶液と酸とを混合し、上記重金属類のイオンを混合液中に溶出させる溶出工程と、上記有機塩素化合物を含有する水溶液にアルカリ性化合物を添加して分解する第1分解工程と、上記有機塩素化合物と光増感剤とを混合させ、上記有機塩素化合物を紫外線照射して分解する第2分解工程とを有することを特徴とする汚染土壌の湿式無害化処理方法。
【請求項2】
前記溶出工程は、少なくとも過酸化水素を含有する水溶液を混合する第1工程と、
上記水溶液と上記汚染土壌との混合物中に、酸を混合する第2工程とから構成する重金属類のイオンを処理する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の汚染土壌の湿式無害化処理方法。
【請求項3】
さらに、前記第1工程において、アルカリ性化合物を添加し、前記水溶液のpHを7より大きくすることを特徴とする請求項2に記載の汚染土壌の湿式無害化処理方法。
【請求項4】
前記アルカリ性化合物は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の汚染土壌の湿式無害化処理方法。
【請求項5】
前記重金属類は、第2種特定有害物質から選ばれる1種以上の重金属であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の汚染土壌の湿式無害化処理方法。
【請求項6】
前記有機塩素化合物を含む汚染土壌をさらに界面活性剤と接触させて、有機塩素化合物を溶出させることを特徴とする請求項1に記載の汚染土壌の湿式無害化処理方法。
【請求項7】
前記光増感剤は、アセトフェノンまたはアセトンであることを特徴とする請求項1に記載の汚染土壌の湿式無害化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−272585(P2008−272585A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35466(P2007−35466)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(390033961)株式会社日本ティーエムアイ (10)
【Fターム(参考)】