説明

汚染土壌又は地下水の浄化方法

【課題】汚染土壌又は地下水の原位置浄化方法において、揮発性汚染物質の揮散を抑制した上で、酸素及び/又は酸素源含有ガスを、汚染領域に均一に行き渡らせることにより、汚染土壌又は地下水を高効率かつ低コストで浄化する。
【解決手段】有機化合物により汚染された土壌又は地下水に酸素及び/又は酸素源含有ガスを注入することによって該汚染土壌又は地下水を原位置で浄化する方法において、酸素及び/又は酸素源含有ガスを、ガス流量が10〜30L/minとなるように汚染土壌中に注入することを特徴とする汚染土壌又は地下水の浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物で汚染された土壌又は地下水に、酸素及び/又は酸素源含有ガスを注入することにより有機化合物の生物分解を促進する汚染土壌又は地下水の原位置浄化方法において、酸素及び/又は酸素源含有ガスの注入ガス流量を制御することにより、汚染土壌又は地下水中に酸素及び/又は酸素源含有ガスを均一に行き渡らせると共に、揮発性汚染物質の地表への揮散を防止して、高効率かつ低コストで汚染土壌又は地下水を浄化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工場等の産業施設跡地等で、石油系炭化水素化合物等の有機化合物による土壌汚染の問題が増加している。土壌は人の生活や経済活動の基盤である土地を構成しており、汚染土壌を放置すると、直接摂取したり、農作物・魚介類等を通じて摂取することによって人の健康に影響が及ぶという問題がある。また、土壌中に残留した、上記有機化合物は、雨水等によって地下水中に溶解し、周辺に広がって汚染を更に拡大する。
【0003】
なお、土壌又は地下水の汚染状況としては、通常、汚染領域の油分濃度がTPH(Total Petroleum Hydrocarbon:全石油系炭化水素)濃度として1,000mg/kg以上である場合や、TPH濃度が低くても人が不快に感じる程度に油臭が強い場合に「油分で汚染されている」と言われることが多い。
【0004】
汚染土壌又は地下水を浄化する技術の一つとして、汚染土壌又は地下水中の微生物の有機化合物分解能を利用する原位置浄化方法(バイオレメディエーション)があり、この方法では、分解微生物の活性化を図るために、空気等の酸素及び/又は酸素源含有ガスや栄養塩を汚染土壌又は地下水に注入したり、分解微生物を補充したりすることが行われている。
【0005】
このような原位置浄化方法における土壌へのガス注入方法としては、例えば特許第3646589号公報では、帯水層の土壌に付着した油を剥離・浮上させることを目的として、空気を超高圧(例えば2〜10気圧)で間欠注入することが提案されている。
また、酸素供給の均一化を目的として、特開2001−347255号公報のように、微細な気泡を含ませた液体を注入する方法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3646589号公報
【特許文献2】特開2001−347255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のガス注入方法のうち、特許第3646589号公報のように、土壌中に高圧(即ち高流量)でガスを吹き込むと、土壌の地盤構造が変化して空隙が形成され、ガスがよく通る空隙の部分とあまり通らない部分ができる、いわゆる通気ガスの短絡現象のために、ガスを土壌全体に均一に通気することができない。そのため、酸素が十分に供給され生分解が速い領域と酸素が不足し生分解が遅い領域とが形成され、処理効果にムラができてしまうという問題があった。
また、汚染物質がベンゼンなどの揮発性の高い物質の場合には、高流量でガスを吹き込むことにより、これらの揮発性汚染物質が地表へ大量に揮散して大気汚染を招く危険性がある。このため、地表のガスを吸引し、活性炭充填層などに通して無害化する必要があり、処理コストが高くつく。
【0008】
なお、特開2001−347255号公報のように気泡含有液体を注入する方法では、液体を均一に注入するために、循環設備が必要となり、実用化が容易ではない。
【0009】
本発明は上記従来の問題点を解決し、汚染土壌又は地下水の原位置浄化方法において、汚染土壌又は地下水に注入した酸素及び/又は酸素源含有ガスを、揮発性汚染物質の揮散を抑制した上で、汚染領域に均一に行き渡らせることにより、汚染土壌又は地下水を高効率かつ低コストで浄化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、酸素及び/又は酸素源含有ガスの注入流量を制御することにより、汚染土壌に注入した酸素及び/又は酸素源含有ガスを、揮発性汚染物質の揮散を抑制した上で、汚染領域に均一に行き渡らせることができることを見出した。
【0011】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0012】
[1] 有機化合物により汚染された土壌又は地下水に酸素及び/又は酸素源含有ガスを注入することによって該汚染土壌又は地下水を原位置で浄化する方法において、酸素及び/又は酸素源含有ガスを、ガス流量が10〜30L/minとなるように汚染土壌中に注入することを特徴とする汚染土壌又は地下水の浄化方法。
【0013】
[2] [1]において、前記酸素及び/又は酸素源含有ガスを注入するポンプの設定圧力を調節することによって前記ガス流量の制御を行うことを特徴とする汚染土壌又は地下水の浄化方法。
【0014】
[3] [1]又は[2]において、前記酸素及び/又は酸素源含有ガスが空気、純酸素ガス、酸素含有ガス、又はオゾン含有ガスであることを特徴とする汚染土壌又は地下水の浄化方法。
【0015】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記汚染土壌又は地下水に、更に窒素源及び/又はリン源を注入することを特徴とする汚染土壌又は地下水の浄化方法。
【0016】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記有機化合物が、油分、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、多環芳香族、塩素化エチレン類、PCB類、及びダイオキシン類からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする汚染土壌又は地下水の浄化方法。
【0017】
[6] [1]ないし[5]のいずれかにおいて、前記ガス注入をした領域における有機化合物の分解が確認された後に、前記ガス流量を高めることを特徴とする汚染土壌又は地下水の浄化方法。
【0018】
[7] [1]ないし[6]のいずれかにおいて、前記ガス注入を複数箇所で行い、各箇所において、注入するガスのガス流量が10〜30L/minとなるように制御することを特徴とする汚染土壌又は地下水の浄化方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の汚染土壌又は地下水の浄化方法によれば、酸素及び/又は酸素源含有ガス(以下「酸素(源)含有ガス」と記す。)を注入する際のガス流量を適切に制御することにより、揮発性汚染物質の揮散を抑制した上で、酸素(源)含有ガスを、汚染領域に均一に行き渡らせることができる。
この結果、有機化合物で汚染された土壌又は地下水に、酸素(源)含有ガス、更には窒素源やリン源を注入することにより有機化合物の生物分解を促進して、汚染土壌又は地下水を浄化する方法において、酸素(源)含有ガスを汚染領域に均一に行き渡らせ、汚染領域全体を均等に効率的に浄化処理することが可能となる。また、揮発汚染物質の揮発量を抑えることができるため、揮発したガスの吸引処理を軽減することができ、吸引したガスの浄化処理のための活性炭の交換頻度を低減して処理コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例3〜5及び比較例2〜5の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の汚染土壌又は地下水の浄化方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
本発明の汚染土壌又は地下水の浄化方法は、有機化合物で汚染された土壌又は地下水に、酸素(源)含有ガス、更に必要に応じて窒素源やリン源などを供給することにより有機化合物の生物分解を促進して、汚染土壌又は地下水を浄化する方法において、酸素(源)含有ガスを10〜30L/minというガス流量で土壌中に注入することにより、酸素(源)含有ガスを汚染領域に均一に行き渡らせると共に揮発性汚染物質の揮散を抑制するものである。
【0023】
本発明で浄化対象とする有機化合物とは、油やBTEX(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン)や多環芳香族のほか、トリクロロエチレンなどの塩素化エチレン類やPCB(ポリ塩化ビフェニル)類、ダイオキシン類などの有機塩素系化合物が挙げられ、汚染土壌又は地下水中には、これらの2種以上が含まれていても良い。
【0024】
また、本発明で汚染土壌に注入する酸素(源)含有ガスとは、空気、純酸素、オゾン等の酸素源や、これらの混合ガスが挙げられる。これらのガスには亜酸化窒素などの窒素源、トリエチルリン酸などのリン源が含まれていても良い。また、これら窒素源やリン源は、酸素(源)含有ガスには別に、液体で汚染土壌又は地下水に注入しても良い。
【0025】
注入ガス流量が10L/min未満では、注入したガスを十分に汚染土壌中に浸透させることができず、また、酸素注入量が不足することにより、生物分解の活性化効果を十分に得ることができない場合がある。また、この注入ガス流量が30L/minを超えると、前述のガスの短絡現象が起き、汚染領域に酸素(源)含有ガスを十分に均一に行き渡らせることができない場合がある。酸素(源)含有ガスの注入ガス流量は特に15〜25L/minとすることが好ましい。
【0026】
また、この汚染土壌への酸素(源)含有ガスの供給圧力は、汚染状況やその他の処理条件等によっても異なるが、10〜100kPa程度、特に20〜50kPa程度とすることが好ましい。
【0027】
このような酸素(源)含有ガスの注入ガス流量、供給圧力は、酸素(源)含有ガスの注入ポンプの設定圧力を調節することにより制御することができる。
なお、このガス流量の制御は、例えば、ガス注入井戸における酸素(源)含有ガスの注入ガス流量を実測して、この測定値に基づいて行っても良く、注入条件と汚染土壌の土質の特性値を基に理論計算を行い、この計算値に基づいて制御しても良い。
【0028】
本発明の汚染土壌又は地下水の浄化方法は、酸素(源)含有ガスのガス流量を10〜30L/minとすること以外は、通常の原位置浄化方法の操作を採用して行うことができるが、例えば、以下のような工夫を行うことにより、より一層効率的な浄化処理を行える。
【0029】
(1) 酸素(源)含有ガスのガス流量と平面方向の酸素(源)含有ガスの影響範囲は比例するため、10〜30L/minのガス流量で酸素(源)含有ガスを注入し、このガス注入を所定時間行った後、ガス注入を行った領域における揮発性汚染物質が分解され、その揮散の可能性がなくなった場合には、ガス流量を高め、酸素(源)含有ガスの供給領域の拡大を図る。
この場合、ガス流量を高めたことにより、新たに浄化対象となった領域のガス流量が10〜30L/minとなるようにガス流量を制御することにより、新たな浄化対象における揮散性汚染物質の揮散やガスの短絡現象を防止することができる。
【0030】
(2) ガス注入井戸を複数本設置して、ガス流量10〜30L/minで処理する領域が互いに重なるようにすることにより、同時期に広範な領域を浄化する。
【0031】
なお、酸素(源)含有ガスの注入のために設けるガス注入井戸は、垂直井戸であっても水平井戸であっても良い。
【実施例】
【0032】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0033】
[実施例1,2、比較例1:模擬土壌を用いた油揮発試験]
低流量で土壌中に空気を注入することにより、油の揮発量を抑えることができることを確認するため、土壌への空気注入試験を実施した。
【0034】
油で汚染させた模擬土壌(TPH濃度10,000mg/kg)を詰めたカラム(内径10センチ、長さ20センチ)に、表1に示すガス流量及び供給圧力で空気を吹き込み、1日後の残存TPH濃度をGC−FID法により測定した。
また、残存TPH濃度と模擬土壌のTPH濃度から揮発分({(模擬土壌のTPH濃度−残留TPH濃度)/模擬土壌のTPH濃度}×100)を算出し、これらの結果を表1に示した。
【0035】
【表1】

【0036】
表1より、注入ガス流量100L/minでは(比較例1)、残存TPH濃度8,000mg/kg以下であり、添加した油の20%以上が揮発することが確認された。一方、注入ガス流量30L/min以下では(実施例1,2)、残存TPH濃度9,800mg/kg以上、揮発分は添加した油の2%以下であることから、低流量で空気を注入したことで、油の揮発量を10分の1以下に低減できることが確認された。
【0037】
[実施例3〜5、比較例2〜5:模擬土壌を用いた空気注入試験]
低ガス流量で土壌中に空気を注入することにより、土壌中に空気が均一に行き渡り、油分解が促進されることを確認するために、土壌への空気注入試験を実施した。なお、ここでは揮発の影響を排除するため、油としてヘキサデカンを用いた。
【0038】
ヘキサデカンで汚染させた模擬土壌(TPH濃度3,000mg/kg)をカラム(内径10センチ、長さ20センチ)に詰め、さらに油分解微生物を所定濃度含む水溶液を入れた。ここへ、注入ガス流量を変えて、それぞれ空気を注入し、空気注入開始から1ヶ月後における土壌中のヘキサデカン残存量をTPH濃度としてGC−FID法により測定した。
結果を図1に示す。
【0039】
図1より、空気注入流量が10〜30L/minの範囲では残存TPH濃度が非常に少ないことが確認された。空気注入流量が10L/minより少ないと供給する空気量が不足していたと考えられ、空気注入流量が30L/minを超えると土壌中に空気が通る部分と通らない部分が形成され、空気が十分に行き渡らないために、局所的にしか分解されなかったと考えられ、いずれの場合も残存TPH濃度が高くなる。
【0040】
以上の結果から、空気注入流量が10〜30L/minとなるように、空気を注入することにより、処理ムラなく、効率的に土壌を浄化できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物により汚染された土壌又は地下水に酸素及び/又は酸素源含有ガスを注入することによって該汚染土壌又は地下水を原位置で浄化する方法において、酸素及び/又は酸素源含有ガスを、ガス流量が10〜30L/minとなるように汚染土壌中に注入することを特徴とする汚染土壌又は地下水の浄化方法。
【請求項2】
請求項1において、前記酸素及び/又は酸素源含有ガスを注入するポンプの設定圧力を調節することによって前記ガス流量の制御を行うことを特徴とする汚染土壌又は地下水の浄化方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記酸素及び/又は酸素源含有ガスが空気、純酸素ガス、酸素含有ガス、又はオゾン含有ガスであることを特徴とする汚染土壌又は地下水の浄化方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記汚染土壌又は地下水に、更に窒素源及び/又はリン源を注入することを特徴とする汚染土壌又は地下水の浄化方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、前記有機化合物が、油分、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、多環芳香族、塩素化エチレン類、PCB類、及びダイオキシン類からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする汚染土壌又は地下水の浄化方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、前記ガス注入をした領域における有機化合物の分解が確認された後に、前記ガス流量を高めることを特徴とする汚染土壌又は地下水の浄化方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、前記ガス注入を複数箇所で行い、各箇所において、注入するガスのガス流量が10〜30L/minとなるように制御することを特徴とする汚染土壌又は地下水の浄化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−72923(P2011−72923A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227449(P2009−227449)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】