説明

汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法

【課題】広範な汚染の浄化を効果的に促進し、浄化期間の短縮と浄化費用の低減を図る。
【解決手段】土壌及び/又は地下水中の揮発性有機塩素化合物濃度が、1〜100mg/Lの間で予め設定された設定値以上の汚染源領域を原位置置換工法により浄化処理し、この汚染源領域の外周に広がる土壌及び/又は地下水中の揮発性有機塩素化合物濃度が該設定値未満の汚染拡散領域を揚水処理、微生物処理、酸化剤処理のいずれかで浄化処理する。汚染濃度の高い汚染源領域と、その外周に広く分布する汚染濃度の比較的低い汚染拡散領域との双方に対して、汚染領域全体を内外から挟み撃ちするように浄化処理を行い、しかも汚染源領域と汚染拡散領域とで、それぞれに最適な浄化処理を適用することにより、汚染領域全体を経済的かつ効率的に浄化処理することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリクロロエチレン(TCE)やテトラクロロエチレン(PCE)等の揮発性有機塩素化合物(以下、「CVOCs」という)に汚染された土壌及び/又は地下水を浄化する方法に係り、特に、高濃度に汚染された汚染源領域と、その外周に広がる低濃度の汚染拡散領域とを浄化処理することにより、広範な汚染の浄化を効果的に促進し、浄化期間の短縮と浄化費用の低減を図る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤深部に広範囲に存在するCVOCsに汚染された土壌や地下水を原位置で浄化する方法としては、汚染源を狙って汚染土壌を非汚染土壌と置換する原位置置換工法、或いは、汚染源を含む汚染域全体に浄化剤を注入する方法、又は揚水による方法がある。
【0003】
原位置置換工法は、水ジェットにより汚染土壌を切削して吸引し、形成された空洞に非汚染土壌を注入して汚染土壌と非汚染土壌とを置換する原位置置換工法である(例えば、特開2001−162262号公報)。この方法は、具体的には、汚染土壌中にパイロット孔を削孔し、そのパイロット孔に多重管を挿入して水ジェットにより汚染土壌の切削と排泥を行い、排泥を継続しつつ、この切削により形成された空洞に非汚染土壌のスラリーを注入することで行われている。空洞に注入する非汚染土壌スラリーに用いられる非汚染土壌は、粒子径の比較的揃った砂を用いるのが好ましく、また、このスラリーのポンプによる圧送、注入を容易にするために、スラリーには粘性を持たせた方が良いことから、非汚染土壌スラリーには増粘剤として天然高分子が配合される。この天然高分子としては、一般にグァーガム、キトサン、キサンタンガム、アルギン酸塩等が使用されている。
【0004】
この原位置置換工法は、特に、上空制限が5m程度と低い、地中障害物が支障となる等の制約を受けるため、地下3m以深の土留め掘削が困難となる場合に有効である。
【0005】
本出願人は、先に、このような原位置置換工法において、置換された非汚染土壌の再汚染を防止して、施工部を長期に亘り清浄に維持する方法として、水ジェットにより汚染土壌を切削し、切削により形成された空洞に非汚染土壌を注入することにより、汚染土壌と非汚染土壌とを置換する汚染土壌の原位置置換工法において、非汚染土壌に浄化剤を含ませておく方法を提案した(特願2005−92010号)。
【0006】
即ち、特開2001−162262号公報の方法に従って、水ジェットを噴霧して汚染土壌を切削して吸引し、形成された空洞に非汚染土壌を注入する従来の汚染土壌の原位置置換工法では、切削で取り残した汚染土壌に含まれる汚染物質や周辺に存在する汚染物質が拡散することにより、置換した非汚染土壌領域が経時により新たに汚染されることがあるが、特願2005−92010号の方法であれば、切削により形成された空洞に非汚染土壌と共に浄化剤を注入するため、取り残した汚染土壌や周辺に存在した汚染物質が、浄化処理後の非汚染土壌中に拡散してきた場合でも、浄化剤により汚染物質を分解し、長期に亘り、浄化領域の土壌を清浄に維持することができる。
【0007】
なお、浄化剤の注入による浄化処理としては、酸化剤を注入して汚染物質を酸化分解する方法、微生物の栄養剤を注入して汚染物質を微生物により分解させる方法などがある。
【特許文献1】特開2001−162262号公報
【特許文献2】特願2005−92010号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
CVOCsは、浸透性が高く、また高比重であるため、土壌及び/又は地下水中のCVOCsは、地下の砂層を通り抜け、その数%程度が透水性の低い粘土層上に分離相として滞留し、90%程度が主に粘土層中に吸着相となって存在し、分離相と共に限定的な範囲で中〜高濃度のCVOCsで汚染された汚染源領域を形成する。そして、その他の約数%が地下水中に移流・拡散して広範囲な低〜中濃度のCVOCsの溶解相を形成し、残部が土粒子間に気相を形成する。
【0009】
従って、汚染源領域では、CVOCsの多くは透水性の低い粘性土層に吸着されているため、酸化剤や微生物栄養剤等の浄化剤の注入、又は揚水処理等では、汚染領域の一部のみにしか効果を発揮できない。また、汚染源土壌が建物下部や地盤深部に分布する場合、掘削除去することも困難である。
【0010】
このような高濃度のCVOCsが吸着した粘性土層の浄化には、汚染源に挿入した多重管から噴射した水ジェットにより汚染土壌を切削してその排泥と非汚染土壌とを置換する原位置置換工法が好適であるが、この工法は浄化剤注入法や揚水処理法に比べて費用が高く、経済的でなく、また浄化工事に伴い、汚染の一部が周辺部に拡がる恐れがあるという欠点がある。
【0011】
本発明は上記従来の問題点を解決し、広範な領域の汚染の浄化を効果的に促進し、浄化期間の短縮と浄化費用の低減を図る汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明(請求項1)の汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法は、揮発性有機塩素化合物で汚染された土壌及び/又は地下水を浄化する方法において、汚染源領域と、該汚染源領域の外周の汚染拡散領域とで異なる浄化処理を行うことを特徴とする。
【0013】
請求項2の汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法は、請求項1において、前記汚染源領域は、土壌及び/又は地下水中の揮発性有機塩素化合物濃度が、1〜100mg/Lの間で予め設定された設定値以上の領域であり、前記汚染拡散領域は、土壌及び/又は地下水中の揮発性有機塩素化合物濃度が該設定値未満の領域であることを特徴とする。
【0014】
請求項3の汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法は、請求項1又は2において、前記汚染源領域は汚染土壌と非汚染土壌とを置換する原位置置換工法により浄化処理することを特徴とする。
【0015】
請求項4の汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法は、請求項3において、前記非汚染土壌が浄化剤を含むことを特徴とする。
【0016】
請求項5の汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記汚染拡散領域は揚水処理、微生物処理、及び酸化剤処理のうちのいずれか1以上の処理法により浄化処理することを特徴とする。
【0017】
請求項6の汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法は、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記汚染源領域の浄化処理と汚染拡散領域の浄化処理とを同時に行うか、或いは汚染源領域の浄化処理を汚染拡散領域の浄化処理に先行して行うことを特徴とする。
【0018】
請求項7の汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法は、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記汚染拡散領域にバリア機能、浄化剤注入機能及びモニタリング機能のうちのいずれか1以上の機能を有する井戸を設けて該汚染拡散領域を浄化処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法では、CVOCs濃度の高い汚染源領域と、その外周に広く分布するCVOCs濃度の比較的低い汚染拡散領域との双方に対して、汚染領域全体を内外から挟み撃ちするように浄化処理を行うため、汚染の拡散を防止することができる。
【0020】
しかも汚染源領域と汚染拡散領域とで異なる浄化処理を行い、例えば汚染源領域については、高価ではあるが、高濃度CVOCsを吸着した粘性土の浄化に適した原位置置換工法を適用して汚染源を早期に浄化し、その外周の汚染拡散領域については、浄化期間は原位置置換工法よりも長くなるものの、広範な領域の汚染の浄化を効果的に促進することができ、比較的安価な揚水処理、微生物処理、酸化剤処理で浄化処理することにより、原位置置換工法の適用に伴う汚染の周辺部への拡散を防止して、低CVOCs濃度域から高CVOCs濃度域に及ぶ汚染領域全体の浄化の促進と浄化費用の低減を図ることができる。
【0021】
このように、本発明では、汚染源領域のみならず汚染拡散領域についても浄化処理を行い、しかも汚染源領域と汚染拡散領域とで、それぞれに最適な浄化処理を適用することにより、CVOCsで汚染された土壌及び/又は地下水を経済的かつ効率的に浄化処理することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明の汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
本発明の汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法の浄化対象は、TCEやPCE等のCVOCsで汚染された土壌及び/又は地下水である。前述の如く、CVOCsは、浸透性が高く、また高比重であるため、土壌及び/又は地下水中のCVOCsは、地下の砂層を通り抜け、その数%程度が透水性の低い粘土層上に分離相として滞留し、90%程度が主に粘土層中に吸着相となって存在し、分離相と共に限定的な範囲で中〜高濃度のCVOCsで汚染された汚染源領域を形成する。そして、その他の約数%が地下水中に移流・拡散して広範囲な低〜中濃度のCVOCsの溶解相を形成し、残部が土粒子間に気相を形成する。
【0024】
本発明では、このようなCVOCsで汚染された汚染土壌を浄化処理するに当たり、土壌及び/又は地下水中のCVOCs濃度が設定値以上の汚染源領域と、土壌及び/又は地下水中のCVOCs濃度が設定値未満の汚染拡散領域とで異なる浄化処理を併用する。好ましくは、汚染源領域については原位置置換工法を、汚染拡散領域については、揚水処理、微生物処理、酸化剤処理のいずれかを適用する。
【0025】
本発明において、上記設定値は、土壌及び/又は地下水中のCVOCs濃度1〜100mg/L、特に5〜50mg/Lの濃度範囲の中で適宜決定することができる。即ち、CVOCs濃度1〜100mg/L、特に5〜50mg/Lの濃度範囲の中で設定した設定値(例えばCVOCs濃度10mg/L)以上の高CVOCs濃度の領域を汚染源領域とし、この設定値未満の低CVOCs濃度の領域を汚染拡散領域とする。この設定値の設定は、汚染領域の深さや広さ、透水性などから汚染サイトごとに適宜行われる。
【0026】
なお、本発明において、土壌及び/又は地下水中のCVOCs濃度は、ボーリングによって採取した試料を分析することにより測定することができる。
【0027】
CVOCs濃度が設定値以上の汚染源領域では、CVOCsの大部分が透水性の低い粘性土層に吸着されているため、揚水処理、微生物処理、酸化剤処理等では十分な浄化効果が得られない。そこで、この汚染源領域は、原位置置換工法により浄化処理を行う。
【0028】
以下に原位置置換工法による浄化処理について、図1を参照して説明する。
【0029】
原位置置換工法による浄化処理にあたっては、水ジェットによる空洞の形成は、常法に従って行うことができる。即ち、前述の如く、汚染土壌中にパイロット孔を削孔し、そのパイロット孔に多重管を挿入して水ジェットを噴射して汚染土壌の切削と排泥を実施する。このようにして形成された空洞に注入する非汚染土壌として、好ましくは、特願2005−92010号の方法に従って、浄化剤を含む非汚染土壌を用い、常法に従ってポンプで圧送して空洞に注入する。
【0030】
即ち、例えば図1に示す如く、汚染土壌の切削、吸引で空洞1,2,3,4を形成し、この空洞1〜4に各々浄化剤5A入り非汚染土壌5を注入する。空洞1〜4を形成すると、これらの間に非切削部6が形成され、この部分には汚染土壌が残留する。この非切削部6の汚染土壌や空洞1〜4の周囲から汚染物質が浄化剤入り非汚染土壌5を注入した浄化領域に拡散してくるが(図1において矢印Xは汚染物質の拡散を示す)、浄化剤を含む非汚染土壌を用いる原位置置換工法によれば、浄化領域には非汚染土壌と共に浄化剤5Aが注入されているため、拡散してきた汚染物質は、この浄化剤5Aにより分解ないし捕捉されて無害化又は不溶化される。このため、周辺の汚染領域や取り残された汚染土壌による浄化領域の新たな汚染は防止されると共に、この浄化領域に周囲の汚染物質が拡散して処理されることにより、周囲の汚染物質濃度も低減されて経時により浄化される。
【0031】
特に、水ジェットによる切削により形成された空洞に注入する非汚染土壌は、浄化剤を含み、更に増粘剤としての天然高分子を含む水スラリーであることが好ましい。
【0032】
浄化剤としては、施工部の汚染物質を浄化できるものであれば良く、特に制限はなく、鉄粉、酸化鉄、マグネタイト、活性炭、過マンガン酸塩等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。特に、TCE等のCVOCsに対しては、効果の持続性に優れた、鉄粉、マグネタイト等を用いることが好ましい。鉄粉は注入効率や取り扱い性、浄化効率の面から、平均粒径0.1〜5mm程度のものが好ましい。
【0033】
また、非汚染土壌としては、粒子径の揃った砂を用いることが好ましい。
【0034】
天然高分子としては、グァーガム、キトサン、キサンタンガム、アルギン酸塩等の1種又は2種以上が用いられる。
【0035】
非汚染土壌は、通常固形分濃度50〜100重量%程度に調製される。
【0036】
空洞に注入する非汚染土壌に対する浄化剤の配合量には特に制限はなく、施工対象の汚染状況等に応じて適宜決定される。浄化剤の配合量が少な過ぎると浄化剤を配合したことによる効果を十分に得ることができないが、過度に多いと非汚染土壌の配合割合が低減し、土壌置換により形成された地盤の安定性が損なわれる。従って、非汚染土壌中の浄化剤の配合量は0.5〜50重量%程度とすることが好ましい。ただし、鉄粉やマグネタイト等の強度的に砂と同等またはそれ以上の浄化剤の場合は、最大で100%(重量)とすることも可能である。
【0037】
なお、本発明において、空洞に注入する非汚染土壌は、必ずしも浄化剤を配合したものである必要はなく、浄化剤を配合していないものであっても良い。また、用いる非汚染土壌のすべてが浄化剤を配合したものである必要はなく、汚染源領域の汚染源が地下の深い領域にあると推定される場合には、形成された空洞の下部にのみ(即ち注入初期において)浄化剤配合非汚染土壌を注入し、空洞の上部には(即ち注入終期において)浄化剤を配合していない非汚染土壌を注入するようにしても良い。
【0038】
なお、汚染源領域は上記原位置置換工法に限らず、鉄粉、酸化鉄、マグネタイト、活性炭、過マンガン酸塩等の浄化剤の注入、機械撹拌による方法を採用することもできる。この方法は例えば、次のようにして実施することができる。
【0039】
即ち、ボーリングマシンにより汚染源領域に挿入したロッドの先端から、鉄粉懸濁液等の浄化剤を噴出させ、CVOCsと接触させてCVOCsを分解する。又は、汚染源領域に挿入したアースオーガーの先端から鉄粉懸濁液等の浄化剤を噴出させ、CVOCsと撹拌してCVOCsを分解する。
【0040】
一方、CVOCs濃度が設定値未満の汚染拡散領域については好ましくは揚水処理、微生物処理、酸化剤処理のいずれかで浄化処理を行う。
【0041】
揚水処理は、揚水井戸を掘削して汚染拡散領域の地下水を揚水する方法であり、例えば、次のようにして実施することができる。
【0042】
即ち、帯水層中に設置した井戸から、ポンプによって汲み上げた地下水を揮散処理或いは紫外線処理し、地下水中のCVOCsを分解、除去する。揮散処理は、地下水中のCVOCsを大気中に揮散させた後吸引し、活性炭に吸着させることにより行うことができる。また、紫外線処理は、地下水中のCVOCsに紫外線を照射して分解することにより行うことができる。
【0043】
微生物処理としては、例えば注入井戸を掘削し、微生物の栄養剤をこの井戸から注入する嫌気性バイオレメディエーションを実施することができる。この方法において、注入井戸と離隔した場所に揚水井戸を掘削し、注入と揚水とを行って、注入井戸から注入した栄養剤を注入井戸から揚水井戸に向けて移動させることにより、効率的に浄化処理を行うことができる。
【0044】
また、酸化剤処理は、微生物の栄養剤の代りに、過マンガン酸塩、過硫酸塩、過酸化水素水、オゾン等の酸化剤を注入することにより、上記の微生物処理と同様に実施することができる。汚染拡散領域の浄化処理としては、上記以外にもエアスパージング等を採用することもでき、また、これらの浄化処理の2種以上を組み合わせて行うこともできる。
【0045】
なお、このCVOCs濃度が設定値未満の汚染拡散領域については、バリア機能、浄化剤注入機能及びモニタリング機能のうちのいずれか1以上の機能を有する井戸を設けて、汚染拡散領域の浄化処理を行うことが好ましい。
【0046】
上記汚染源領域の浄化処理と汚染拡散領域の浄化処理との実施時期はいずれを先に行うことも可能であるが、汚染源からの汚染の拡散を防止して浄化を促進するために、汚染源領域の浄化処理と汚染拡散領域の浄化処理とを同時に行うか、或いは、汚染源領域の浄化処理を汚染拡散領域の浄化処理に先立って行うことが好ましく、特に、汚染源領域の浄化処理を汚染拡散領域の浄化処理に先立って行うことが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0048】
なお、以下の実施例及び比較例で浄化処理対象とした汚染領域の概要は図2(a)に示す通りであり、その汚染状況は次の通りである。なお、図2(a)中、11は帯水層、12は難透水層、13は分離相、14は吸着相、15は溶解相、16は工場棟、17は地下水の水流方向を示す。
【0049】
[汚染状況]
1)汚染物質:トリクロロエチレン
2)汚染位置:図2(a)に示す天井高2.3mの工場直下の帯水層中
3)汚染範囲:
TCE汚染全体 地下10〜20m、V≒50,000m
(≒W50m×L100m×H10m)
TCE濃度10〜2,000mg/Lの汚染源領域
地下15〜20m、V≒1,000m
(≒W10m×L20m×H5m)
TCE濃度0〜10mg/L未満の汚染拡散領域
地下10〜20m、V≒49,000m
【0050】
実施例1
図2(b)に実施例1の浄化処理の概要を示す。
【0051】
汚染源領域については、原位置置換工法により、グァーガムで増粘した砂スラリーに鉄粉(平均粒径1.2mm)を重量割合で3重量%添加した鉄粉混合砂(固形分濃度80重量%)18で汚染土壌と置換した。図2(b)中、矢印Aは鉄粉混合砂境界面付近における浄化効果を示す。
【0052】
汚染拡散領域については、嫌気性バイオレメディエーションを適用した。そのため、30本の注入井戸19から浄化処理期間中(本実施例では5年間)定期的に栄養剤(電子供与体として働く有機物と窒素、リンなどの栄養塩)を注入した。図2(b)中、矢印Bは、栄養剤の拡散による浄化効果を示す。
【0053】
なお、汚染源領域の浄化処理は、汚染拡散領域の浄化処理に先行して行った。
その結果、5年間で汚染領域全体のTCE濃度を環境基準(0.03mg/L以下)まで浄化することができた。
【0054】
実施例2
実施例1において、汚染源領域の原位置置換工法に用いる非汚染土壌として、鉄粉を含まない砂スラリーを用いたこと以外は同様にして浄化処理を行ったところ、15年で汚染領域全体のTCE濃度を環境基準(0.03mg/L以下)まで浄化することができた。
【0055】
比較例1,2
全汚染領域を嫌気性バイオレメディエーションのみで浄化する場合(比較例1)、汚染源領域のみを実施例1と同様にして原位置置換工法で浄化処理し、汚染拡散領域については放置による拡散での浄化を行う場合(比較例2)について、環境基準を満足するに要する期間を事後3年間のモニタリング結果から移流分散解析シミュレーションにより予測し、その結果を実施例1,2の結果と共に、表1に示した。
【0056】
【表1】

【0057】
表1より本発明によれば、汚染源領域のみに原位置置換工法を有効に適用して、経済的かつ効率的に汚染領域の浄化処理を行えることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る原位置置換工法による浄化効果の作用機構を説明する施工部の模式図である。
【図2】(a)図は実施例1,2で浄化対象とした汚染領域の汚染状況を示す概略図であり、(b)図は実施例1の浄化処理方法を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0059】
1,2,3,4 空洞
5 浄化剤入り非汚染土壌
5A 浄化剤
6 非切削部
11 帯水層
12 難透水層
13 分離相
14 吸着相
15 溶解相
16 工場棟
18 鉄粉混合砂
19 注入井戸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機塩素化合物で汚染された土壌及び/又は地下水を浄化する方法において、
汚染源領域と、該汚染源領域の外周の汚染拡散領域とで異なる浄化処理を行うことを特徴とする汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法。
【請求項2】
請求項1において、前記汚染源領域は、土壌及び/又は地下水中の揮発性有機塩素化合物濃度が、1〜100mg/Lの間で予め設定された設定値以上の領域であり、前記汚染拡散領域は、土壌及び/又は地下水中の揮発性有機塩素化合物濃度が該設定値未満の領域であることを特徴とする汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記汚染源領域は汚染土壌と非汚染土壌とを置換する原位置置換工法により浄化処理することを特徴とする汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法。
【請求項4】
請求項3において、前記非汚染土壌が浄化剤を含むことを特徴とする汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記汚染拡散領域は揚水処理、微生物処理、及び酸化剤処理のうちのいずれか1以上の処理法により浄化処理することを特徴とする汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記汚染源領域の浄化処理と汚染拡散領域の浄化処理とを同時に行うか、或いは汚染源領域の浄化処理を汚染拡散領域の浄化処理に先行して行うことを特徴とする汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記汚染拡散領域にバリア機能、浄化剤注入機能及びモニタリング機能のうちのいずれか1以上の機能を有する井戸を設けて該汚染拡散領域を浄化処理することを特徴とする汚染土壌及び/又は地下水の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−105554(P2007−105554A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258983(P2005−258983)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】