説明

汚染地下水の浄化方法

【課題】高濃度の揮発性有機化合物で汚染された地下水の効果的な浄化方法を提供する。
【解決手段】汲み上げた汚染地下水を加熱手段を通して加熱してから曝気槽に送り、曝気槽中の加熱汚染地下水に空気を送り込んで曝気処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は汚染地下水の浄化方法に関し、特に高濃度の揮発性有機化合物(VOC)で汚染された地下水の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚染地下水の浄化方法としては種々の方法が提案されている。
その一つに特許文献1及び特許文献2がある。特許文献1には、揚水井、曝気槽、注水井及び吸着塔を備え、揮発性有機化合物に汚染された地下水・土壌を過酸化水素により浄化する方法において、曝気をマイクロバブルで行う点に特徴をもつ地下水・土壌の浄化方法の発明が記載されており、特許文献2には、汲み上げた汚染地下水を2層構造の曝気槽の上部から散水細粒化した後、下部の充填層で気液接触させてVOCを除去する方法の発明が記載されている。いずれも特別の装置や薬剤を使用する点で必ずしも経済的且つ効果的な方法とはいえない。
【特許文献1】特開2007−90197号公報
【特許文献2】特開2004−105905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、一般的に入手容易な装置を用いて経済的且つ効果的に揮発性有機化合物で汚染された地下水を浄化することが可能な汚染地下水の浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、第1に、揮発性有機化合物で汚染された地下水を汲み上げて浄化処理する方法において、汲み上げた汚染地下水を加熱手段を通して加熱してから曝気槽に送り、曝気槽中の加熱汚染地下水に空気を送り込んで曝気処理することを特徴とする汚染地下水の浄化方法である。
【0005】
本発明は、第2に、加熱手段が水の電気分解による水素酸素発生装置である上記第1の方法である。
【0006】
本発明は、第3に、加熱手段により汚染地下水の温度を40〜70℃に加熱する上記第1または第2の方法である。
【0007】
本発明は、第4に、水素酸素発生装置で発生させた水素ガスおよび/または酸素ガスの一部を曝気槽に供給する上記第2または第3の方法である。
【0008】
本発明は、第5に、浄化された地下水の一部を水素酸素発生装置における電気分解用の水として用いる上記第2〜第4のいずれかの方法である。
【発明の効果】
【0009】
市販され且つ実用されている汎用の小型の曝気槽を用いて予め加熱した汚染地下水を処理することで高濃度の揮発性有機化合物で汚染された地下水を極めて効率的に浄化することができる。また本発明方法は狭い敷地でも実施できることから、浄化処理全体の経済性が大幅に向上する。
【0010】
また加熱手段として水の電気分解による水素酸素発生装置を用いる場合には、二酸化炭素が発生せず環境負荷を低減することができる。この場合、本発明方法で浄化した地下水の一部を電気分解用の水として利用することもでき、浄化処理全体をクローズドシステム化することができる。
【0011】
また、水素酸素発生装置から発生する水素を汚染地下水に通して曝気することもでき、それにより脱塩素反応によるVOCの除去を促進できる。同じく発生する酸素を汚染地下水に通して曝気することもでき、それによりベンゼン等を好気的に除去することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の浄化処理に供する地下水は揮発性有機化合物で汚染された地下水であるが、特に排水基準値(ベンゼンの場合は0.1mg/l)の100倍以上といった高濃度の揮発性有機化合物で汚染された地下水が好ましく用いられる。揮発性有機化合物の例としては、ベンゼン、トリクロロエチレン、トルエン等地下水を汚染する適宜の揮発性有機化合物があり、通常は予め地下水の汚染物質を分析し、原位置処理が困難な高濃度の揮発性有機化合物を含有していることを確認した上で、本発明方法に供する。
【0013】
汚染地下水を含む汚染領域に達する揚水井戸を通して汚染地下水を汲み上げ、通常一旦原水槽に貯留してから曝気槽に送るが、本発明ではその間に加熱手段を配して汚染地下水を加熱する。この加熱手段としては、水素バーナ、ガスバーナ、オイルバーナ、電気加熱装置、スチーム加熱装置などの適宜の加熱装置を用いることができるが、本発明では特に水の電気分解によって水素ガスと酸素ガスとを発生させる水素酸素発生装置が好ましく用いられる。この水素酸素発生装置は水を電気分解して水素ガスと酸素ガスを生成するものであり、コンパクトな構造をもつと共に、生成ガスを燃料として用いる場合には、燃焼に最適な比率で水素ガスと酸素ガスを混合した混合ガスを特段の制御なしに得ることができる。この装置は環境にやさしいクリーンなエネルギー源であることはよく知られているが、従来この種用途には実用されていない。また本発明では電気分解によって生成した水素ガスおよび/または酸素ガスを曝気槽に供給することによって汚染地下水の浄化を一層促進させることが可能となる。更には本発明方法によって浄化された地下水の一部を電気分解用の水として利用することも可能となることから、全体をクローズドシステムとして一層効果的に汚染地下水の浄化を行うことが可能となる。
【0014】
この加熱処理によって汚染地下水の温度を40〜70℃に加熱し、加熱された汚染地下水を曝気槽に送液する。この加熱による温水化が所定の曝気槽の使用との組合せにより、顕著な効果をもたらす。
【0015】
本発明で用いる曝気槽は、汚染地下水を貯留して、そこに空気を導入して曝気する周知タイプの曝気槽である。このような曝気槽はコンパクトな構造で安価なものが種々実用されており、それらを適宜用いることができる。曝気槽の大きさや性能さらには汚染地下水の汚染の程度などに応じ2つ以上の曝気槽を用いることもできる。
【0016】
曝気槽上部から出る汚染物質を含有する空気は通常気液分離装置によって気体と液体とに分離され、気体分を揮発性有機化合物を吸着分離する能力をもつ活性炭などの吸着剤層を通した後排気される。
一方、曝気処理した地下水は通常一部残存する可能性のある汚染物質の除去のために、好ましくは活性炭などの吸着剤層を通して清浄水とされる。
【0017】
次に図1〜図3に基いて、本発明の好ましい実施態様について説明する。
図1は本発明の汚染地下水の浄化方法を示す模式図、図2は本発明の方法に用いる水処理設備を示す模式図、図3は本発明で用いる水処理設備を構成する加熱手段である温水装置を示す模式図である。
【0018】
図中3は汚染土壌1に設けられた揚水井戸であり、揚水井戸3は揮発性有機化合物で汚染された地下水(汚染地下水)を含む汚染領域2に達している。汚染地下水を揚水井戸3からポンプで汲み上げて水処理設備10の原水槽11に貯留し、温水装置12を経由して第一曝気槽13へ送る。このとき第一曝気槽13へ送られる汚染地下水は温水装置12により水温が40〜70℃に適宜調節されるようになっている。
【0019】
ここで、温水装置12のしくみを図3に基いて説明する。温水装置12の内部には図3に示すように配管14が配置されており、原水槽11から送られてきた汚染地下水が図中矢印イから配管14の内部に流入して、図中矢印ロから流出して第一曝気槽13へ送られるようになっている。配管14の周囲には空間15が設けられており、この空間15は温水装置12の図中左下の給排気口16から水素加熱装置17に連通している(図2参照)。水素加熱装置17は、水素酸素発生装置から供給される水素酸素混合ガスをバーナで燃焼させる装置であり、この水素加熱装置17により加熱された空気が空間15に流入することにより、配管14の内部の汚染地下水が適温まで加熱されるようになっている。このとき水素酸素発生装置から供給される水素酸素混合ガスには炭素が含まれていないので、水素加熱装置17による燃焼では二酸化炭素が発生せず環境負荷を低減することができるという効果がある。なお、本発明の方法に用いる温水装置12としては、水素加熱装置のほかに水素バーナ、ガスバーナ、オイルバーナ、電気加熱装置、スチーム加熱装置などの適宜の加熱装置を用いることができる。
【0020】
第一曝気槽13は、原水槽11から温水装置12を経由して送られてきた汚染地下水を貯留する貯水槽であり、貯留された汚染地下水に送風機18から空気が供給されて曝気が行われる。汚染地下水が曝気されると汚染地下水に溶解しているベンゼンが気化して水蒸気と共に気液分離塔19に送られて、ここで気液分離されて気体のベンゼンがブロア20により吸引されて活性炭素吸着塔21に送られ、活性炭素吸着塔21の中に配置された活性炭素に吸着される。このとき、温水装置12から第一曝気槽13に送られる汚染地下水の温度を40〜70℃に加熱すると、汚染地下水の曝気が従来の方法と比較して効率よく行なわれてベンゼンの回収率が高くなる。特に、汚染地下水の温度を60度以上に加熱すると、汚染地下水の曝気効率が飛躍的に向上する。これは、本発明の浄化対象となる汚染物質であるトリクロロエチレン(沸点86.7℃)やベンゼン(沸点80℃)の沸点付近まで汚染地下水を加熱することにより、これらの汚染物質の気化が促進されることによる。そして、これにより揮発性有機化合物(ベンゼン)の除去効率を著しく向上することができるので、従来の方法と比較して小型または少数の曝気槽により汚染地下水を処理することができ、狭い敷地においても汚染地下水の浄化処理を行うことが可能になるという効果がある。
【0021】
第一曝気槽13で曝気処理された汚染地下水は、第一活性炭槽22に送られてここで汚染地下水に溶解しているベンゼンが活性炭に吸着されて、汚染地下水中のベンゼン濃度がさらに低減される。第一活性炭槽22で吸着処理された汚染地下水は第二曝気槽23へ送られて、第一曝気槽13における処理と同様にして送風機18から供給される空気により曝気され汚染地下水に溶解しているベンゼンがさらに気化する。そして、気化したベンゼンは気液分離塔19に送られて、ここで気液分離されて気体のベンゼンがブロア20により吸引されて活性炭素吸着塔21に送られ、活性炭素吸着塔21において活性炭素に吸着される。
【0022】
第二曝気槽23で曝気処理された汚染地下水は、第二活性炭槽24に送られてここで汚染地下水に溶解しているベンゼンが活性炭に吸着されて、汚染地下水中のベンゼン濃度が排水基準値である0.1mg/l以下まで低減される。第二活性炭槽24でベンゼン濃度が排水基準値以下まで低減された地下水(浄化水)は、冷却塔25に送られて冷却されたのち河川などの公共水域へ放流するか、または復水として注水井戸4から汚染土壌1の地盤中へ注入される。
【0023】
なお、この実施態様における曝気処理は汚染地下水に送風機18から空気を供給する方法で行ったが、本発明はこれに限定されるものではなく、たとえば水素酸素発生装置から発生する水素や酸素を曝気槽に供給して行う方法などとすることができる。水素酸素発生装置から発生する水素を曝気槽に供給して曝気を行うと、汚染地下水に含まれる揮発性有機化合物が塩素を含む揮発性有機塩素化合物の場合には、脱塩素反応により揮発性有機塩素化合物に含まれる塩素が水素と置換されて揮発性有機塩素化合物が無害化される。また、水素酸素発生装置から発生する酸素を曝気槽に供給して曝気を行うと、揮発性有機化合物を好気的に除去することができる。さらに、本発明の水処理設備10によって浄化された浄化水を水素酸素発生装置に供給して電気分解を行うようにすれば、外部から水を供給する必要がなく非常に効率がよい。
【0024】
[実施例および比較例]
本発明の効果を確認するために、図2に示す水処理設備10を用いて試験を行った。温水装置12における水温を変えて水処理設備10を運転させ、それぞれの場合の水温とベンゼン濃度を図2に示す測定位置で測定した。結果を図4に示す。また図5は第二活性炭槽24で吸着処理した直後の排出側におけるベンゼン濃度と水温との関係を表すグラフである。なお、ここでいう水温は、温水装置12における水温を示している。
【0025】
この試験結果より、温水装置における水温を40℃以上にすると、汚染地下水が水処理設備を通過し終わった時点でのベンゼン濃度が排水基準値である0.1mg/lを下回っている(実施例A〜C)。特に温水装置における水温を60℃以上にすると、汚染地下水が第一曝気槽を通過し終わった時点でベンゼン濃度が排水基準値を下回っており、水処理設備を簡略化することが可能である(実施例A)。しかし、温水装置における水温を40℃以下にすると、汚染地下水が水処理設備を通過し終わった時点でのベンゼン濃度が排水基準値である0.1mg/l以上となり、十分な効果が得られない(比較例D)。
【0026】
本発明の方法によれば、汚染地下水の水温を40℃以上にすることにより汚染地下水の曝気効果が高められるので、従来技術と比較して小規模な設備を用いて揮発性有機化合物で汚染された地下水を十分に浄化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の汚染地下水の浄化方法を示す模式図。
【図2】本発明の方法で用いる水処理設備を示す模式図。
【図3】本発明で用いる温水装置を示す模式図。
【図4】実施例Aの結果を示すグラフ。
【図5】実施例Bの結果を示すグラフ。
【図6】実施例Cの結果を示すグラフ。
【図7】比較例Dの結果を示すグラフ。
【図8】実施例において第二活性炭槽で吸着処理した直後の排出側におけるベンゼン濃度と水温との関係を表すグラフ。
【符号の説明】
【0028】
1 汚染土壌
2 汚染領域
3 揚水井戸
4 注水井戸
10 水処理設備
11 原水槽
12 温水装置
13 第一曝気槽
14 配管
15 空間
16 給排気口
17 水素加熱装置
18 送風機
19 気液分離塔
21 活性炭素吸着塔
22 第一活性炭槽
23 第二曝気槽
24 第二活性炭槽
25 冷却塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機化合物で汚染された地下水を汲み上げて浄化処理する方法において、汲み上げた汚染地下水を加熱手段を通して加熱してから曝気槽に送り、曝気槽中の加熱汚染地下水に空気を送り込んで曝気処理することを特徴とする汚染地下水の浄化方法。
【請求項2】
加熱手段が水の電気分解による水素酸素発生装置である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
加熱手段により汚染地下水の温度を40〜70℃に加熱する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
水素酸素発生装置で発生させた水素ガスおよび/または酸素ガスの一部を曝気槽に供給する請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
浄化された地下水の一部を水素酸素発生装置における電気分解用の水として用いる請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−56355(P2009−56355A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223999(P2007−223999)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(590002482)株式会社NIPPOコーポレーション (130)
【出願人】(507291992)YAMAテック株式会社 (4)
【Fターム(参考)】