説明

汚泥浄化方法

【課題】自然環境に悪影響を及ぼすことなく、優れた浄化効率を発揮する汚泥浄化方法を提供する。
【解決手段】魚類養殖場40は、海面に浮かべられた筏51とその下方の海中に配置された網52などによって形成された生け簀50を備えている。生け簀50の網52の内部には養殖魚である多数の鯛53が飼育されている。生け簀50が設けられた海域の底部54aには大量のイトゴカイ(Capitella属 sp1.)55とこれらと共生する細菌が撒布されている。有機物分解能力が高い細菌41と、イトゴカイ55を同時に有機物汚泥54bの堆積した底部54aに撒布することにより、短期間で有機物汚泥54b中の有機物が分解、無機化されるため、優れた浄化効率を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋の沿岸海域などの海水域、河川、湖沼などの淡水域あるいは海水と淡水とが混在する汽水域などの底部に発生する汚泥を浄化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
タイやハマチなどの魚類養殖場においては、従来、生け簀内の海面に撒布される多量の餌の残渣や、飼育されている魚類の排泄物が発生するため、その海域の底部には、大量の有機物が堆積している。海底に堆積した大量の有機物は、夏季の高水温期には嫌気的な分解過程によって有害な硫化水素を発生するため、海底は、生物が棲息不可能な大量の有機物汚泥で汚染され、養殖場の魚類の生育に悪影響を及ぼしている。特に、地形的閉鎖性内湾の養殖場においては、養殖魚に対する給餌が海水中への溶存物の増大を招き、海底への有機物負荷をもたらし、水質および底質に対して悪影響を及ぼしている。
【0003】
また、河川や湖沼などの淡水域、あるいは河川などから流入する淡水と海水とが混合して形成される汽水が恒常的または季節的に存在する河口域や内湾(いわゆる汽水域)においても、生活排水や産業排水などによる水質悪化に起因する有機物汚泥が堆積し続け、これによって底質や水質の悪化が発生している。
【0004】
一方、魚類養殖場においては、その海水温度が低下する秋季になると、周辺の海域に対流が生じ、海底の有機物汚泥に酸素が供給されるようになるため、これらの有機物汚泥を栄養源とする底生生物の活動が活発化し、その生命活動により有機物汚泥が浄化されることが知られている。そこで、予め大量に培養した底生生物を、海底の有機物汚泥の上に撒いて繁殖させ、これらの底生生物の有機物消費能力を利用して、有機物汚泥を効率良く浄化する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−231394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の「有機物汚泥の浄化方法」の場合、予め大量に培養した底生生物(イトゴカイ)を養魚場の海底などに撒くと、これらのイトゴカイが底質を撹拌、改変するため、海底に堆積している有機物汚泥を浄化することができる。しかしながら、撒布されたイトゴカイの生物活動のみによって分解、無機化できる汚泥中の有機物の種類、量、速度には限界がある。このため、大量の給餌を行う魚類養殖場などにおいては、さらに浄化効率の高い有機物汚泥浄化技術が求められている。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、自然環境に悪影響を及ぼすことなく、優れた浄化効率を発揮する汚泥浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の汚泥浄化方法は、浄化対象である汚泥にイトゴカイ類およびそれに共生する細菌を撒布することを特徴とする。このような構成とすれば、イトゴカイ類の有機物分解能力に加え、イトゴカイ類の共生菌の有機物分解能力が発揮されるため、イトゴカイ類のみを単独で撒布した場合より、有機物汚泥を効率良く分解することが可能となり、優れた浄化効率を得ることができる。また、イトゴカイ類の共生菌は自然界に存在するものであり、その有機物分解の過程で有害物質を排出することもないので、自然環境に悪影響を及ぼすことがない。なお、撒布するイトゴカイ類としては、Capitella属 sp1.が好適である。
【0009】
イトゴカイ類とそれに共生する細菌による有機物汚泥浄化のメカニズムについては不明な点もあるが、
(1)有機物を含む汚泥に撒布されたイトゴカイ類は速やかに巣穴と棲管を作って汚泥中に定着する、
(2)イトゴカイ類の移動、摂食などによる堆積物中の生物活動の活発化に伴って、海水境界面への酸素や栄養基質の供給が強化される、
(3)汚泥中にイトゴカイが多数の巣穴と棲管をつくることによって好気的な堆積物が形成され、海水境界面が拡大される、
(4)有機物汚泥の分解能力をもつ好気性細菌である、イトゴカイ類に共生する細菌の代謝および増殖が促進され、有機物汚泥の分解作用が高まる、
という過程によるものではないかと推測される。
【0010】
ここで、前記細菌として、
Alteromonas科(Alteromonadaceae)、Vibrio科(Vibrionaceae)若しくはRhodobacter科(Rhodobacteraceae)の細菌、
またはPseudoalteromonas属、Vibrio属若しくはRoseobacter属の細菌、
またはP.haloplanktis種、V.fortis種、V.lentus種、V.pomeroyi種若しくはV.splendidus種の細菌、
のうちのいずれか1以上を含む細菌類を用いることが望ましい。イトゴカイ類と共生するこれらの細菌類は、汚泥中に含まれる有機物に対する高い分解能力を有しているため、イトゴカイ類とともにこれらの共生細菌類を撒布することにより、優れた有機物汚泥に対する浄化効率を高めることができる。
【0011】
一方、前記汚泥と共存する水域中に微細気泡発生手段を配置することもできる。このような構成とすれば、汚泥と共存する水域中に配置された微細気泡発生手段により水域中へ微細気泡を送り込むことにより、汚泥に撒布されたイトゴカイ類およびその共生細菌類に対して酸素を供給することが可能となる。これによって、イトゴカイ類および共生細菌類の生命活動が活性化され、有機物分解能力も高まるため、浄化効率を向上させることができる。
【0012】
この場合、前記微細気泡発生手段として、筒体形状または回転体形状の流体旋回室へ水と空気とを導入し前記流体旋回室内の軸心周りに発生させた旋回流を前記流体旋回室の一部に開設した吐出口から吐出させることにより微細気泡混じりの水を前記水域中へ供給する機能を有する微細気泡発生器を用いることが望ましい。このような構成とすれば、微細気泡発生器の流体旋回室から水と共に供給される微細気泡は水域の下方に向かって沈降していく性質があるため、水域の底部に存在する汚泥に撒布されたイトゴカイ類およびその共生細菌類に対して、さらに効率良く酸素を供給することが可能となる。従って、イトゴカイ類および共生細菌類の生命活動がさらに活性化され、有機物分解能力も高まるため、浄化効率を大幅に向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の汚泥浄化方法により、自然環境に悪影響を及ぼすことなく、効率良く汚泥を浄化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の第1実施形態である汚泥浄化方法を使用した魚類養殖場を示す概略構成図、図2は図1に示す魚類養殖場の底部付近の部分拡大図である。
【0015】
図1,図2に示すように、魚類養殖場40は、海面に浮かべられた筏51とその下方の海中に配置された網52などによって形成された生け簀50を備えている。生け簀50の網52の内部には養殖魚である多数の鯛53が飼育されている。生け簀50が設けられた海域の底部54aには大量のイトゴカイ(Capitella属 sp1.)55とこれらと共生する細菌41が撒布されている。
【0016】
イトゴカイ55は、約80万〜160万個体のイトゴカイ培養コロニーを培養基質の砂とともにビニル袋に入れたものをダイバーが潜水して底部54aまで運んだ後、底部54a付近でビニル袋を破って、イトゴカイ培養コロニーを培養基質の砂と一緒に静かに底部54aに撒布したものである。なお、魚類養殖場40内における水質観測結果によれば、底部54aに有機物汚泥が集中して堆積する時期が、夏季の成層構造が崩れて鉛直混合が発生する時期に起きることが判明しているため、この時期にイトゴカイ培養コロニーを撒布することが、有機物汚泥54bの浄化を行う上で最も効果的なタイミングであると考えられる。
【0017】
イトゴカイ類は小型多毛類(環形動物)に属し、成体の体長が10mm程度、最大部分の径が1mm程度の糸状の生物である。海底環境が著しく嫌気化した夏季には増殖速度が極度に鈍化するが、秋季から冬季にかけて海底環境が回復し、水温10〜15℃、底層水の溶存酸素が飽和またはそれに近い条件になると、約4〜6週間で成体まで成長し、繁殖を繰り返すことによって爆発的な増殖能力を示す。
【0018】
一方、イトゴカイ55と共生する細菌41もイトゴカイ55と共に底部54aに撒布されるが、この細菌41は、Pseudoalteromonas属、Vibrio属およびRoseobacter属の細菌と、P.haloplanktis種、V.fortis種、V.lentus種、V.pomeroyi種およびV.splendidus種の細菌とを含んでいる。
【0019】
これらの細菌41は、以下に述べる手法によって選択されたものである。即ち、イトゴカイ、イトゴカイの糞、イトゴカイの棲息場所周辺の泥および海水から合計200株の細菌を分離する。そして、これらの細菌を通常の細菌学的手法に従って各種ごとに分離した後、それぞれの細菌について、タンパク質(カゼイン)、BSA(仔牛血清アルブミン)、炭水化物(キチン)、グリコーゲン、デンプン、寒天という6種類の基質に対する分解能を調べ、分解能が高い27株を選び、16SrDNA塩基配列に基づいた同定作業を行ったところ、2株を除く25株の塩基配列を求めることができ、表1に示すような結果が得られた。
【0020】
【表1】

【0021】
表1に示すように、科レベルでは、Alteromonas(Alteromonadaceae),Vibrio(Vibrionaceae),Rhodobacter(Rhodobacteraceae)の存在が確認され、属レベルでは、Pseudoalteromonas,Vibrio,Roseobacterの存在が確認され、種レベルでは、P.haloplanktis,V.fortis,V.lentus,V.pomeroyi,V.splendidusの5種の存在が同定された。これらの細菌から病原性は報告されていないので、本実施形態における使用に問題はないと判断された。一般的にVibrio属の細菌は海洋動物に付着あるいは共生しており、PseudoalteromonasおよびRoseobacterは海洋に広く分布する好気性の細菌群である。
【0022】
実際に魚類養殖場40に使用されている養殖用餌中のタンパク質に対する、分離した27株の細菌による分解速度を調べたところ、細菌の種類により分解速度に若干の差異はあるものの、これらの分離株の殆どが、餌中の成分を実際に分解する能力を有することを確認できた。また、魚類養殖場40の底部54aから採取した汚泥を用い、この汚泥中の有機物に対する、分離した27細菌株の分解能を調べたところ、細菌の種類により差異はあるものの、有機物に対する高い分解能を有することが確認できた。そこで、細菌41をイトゴカイ55とともに魚類養殖場40の底部54aに撒布することとした。
【0023】
このように、魚類養殖場40の底部54aに、イトゴカイ55とともに細菌41を撒布すると、イトゴカイ55の有機物分解能力に加え、イトゴカイ55と共生する細菌41の有機物分解能力が発揮される。従って、イトゴカイ55を単独で撒布した場合より、底部54aに存在する有機物汚泥54bを効率良く分解することができ、優れた浄化効率を得ることができた。即ち、有機物分解能力が高い細菌41と、イトゴカイ55とを同時に有機物汚泥54bの堆積した底部54aに撒布することにより、短期間で汚泥中の有機物分解、無機化されるため、優れた浄化効率を発揮することを確認することができた。また、イトゴカイ55と共生する細菌41は、前述したように自然界に存在するものであり、その有機物分解の過程で有害物質を排出することもないので、自然環境に悪影響を及ぼすことがない。
【0024】
イトゴカイ55とそれに共生する細菌41による有機物汚泥54bの浄化メカニズムについては不明な点もあるが、図2を参照しながら、推測を交えて説明する。図2に示すように、有機物汚泥54bの存在する底部54aに撒布されたイトゴカイ55は、撒布後、速やかに巣穴42と、巣穴42の開口部から上方に伸びる棲管43とを作って有機物汚泥54b中に定着する。これらの棲管43はイトゴカイ55が自らの排泄物を円管状に積み上げて形成したものである。
【0025】
これによって、有機物汚泥54b中に好気的な堆積物(図示せず)が形成され、海水境界面が拡大されるとともに、イトゴカイ55の移動、摂食などの生物活動の活発化に伴って、海水境界面への酸素や栄養基質の供給が強化される。そして、有機物汚泥54bの分解能力をもつ好気性細菌である細菌41の代謝および増殖が促進されるため、有機物汚泥54bの分解作用が高まり、浄化作用が効率的に進行する、と推測される。また、イトゴカイ55の増殖過程において、イトゴカイ55に共生する細菌41も増殖し、これらの細菌41が有機物汚泥54b中の有機物を栄養源とするため、大量に増殖した細菌41の生命活動により有機物汚泥54bを効率的に分解除去することができる、と考えられる。
【0026】
以上のように、魚類養殖場40の底部54aにイトゴカイ55および細菌41を撒布することにより底部54aに堆積する有機物汚泥54bを浄化することができる。これにより、給餌や鯛53の排泄物に起因する有機物汚泥が堆積して生け簀50内の海水Wを汚すことがなくなるため、魚類養殖場40の鯛53の生育も良くなり、従来の同時期の鯛と比較して、体長、体重の増大を確認することができた。
【0027】
次に、図3〜図8を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。図3は本発明の第2実施形態である汚泥浄化方法を使用した魚類養殖場を示す概略構成図、図4は図3に示す魚類養殖場の管理システムを示す部分拡大図、図5は図3に示す微細気泡発生装置付近の部分拡大図、図6は図5に示す微細気泡発生装置の一部省略平面図、図7は図5に示す微細気泡発生装置を構成する微細気泡発生器の一部切欠側面図、図8は図7におけるA−A線断面図である。
【0028】
図3に示すように、一定の海域に浮かべられた筏51とその下方の海中に配置された網52などによって形成された生け簀50と、生け簀50に隣接して配置された筏71上に設けられた管理システム70とによって魚類養殖場80が形成されている。生け簀50の網52の内部には養殖魚である多数の鯛53が飼育されるとともに、海中に微細気泡発生部1が配置され、生け簀50が設けられた海域の底部54aに大量のイトゴカイ55および細菌41(図2参照)が撒布されている。これにより、イトゴカイ55および細菌41の撒布領域である底部54a上の海水W中に微細気泡発生部1が配置された状態となっている。
【0029】
生け簀50中に配置された微細気泡発生部1はワイヤ1aによって一定位置に係止されており、管理システム70を構成する発電機72から供給される交流電流で作動し、生け簀50内から吸い込んだ海水Wと気体ポンプ73から送給される空気とによって形成される微細気泡NB混じりの海水Wを生け簀50内へ吐出する。本実施形態では、魚類養殖場80が設けられた海域の底部54までの水深は約14mであり、微細気泡発生部1は海面W1から水深7mの位置に配置しているが、これに限定するものではなく、ワイヤ1aを下降させたり、引き上げたりすることによって、微細気泡発生部1の位置を変更することができる。
【0030】
筏71上の管理システム70は、図4に示すように、発電機72、気体ポンプ(エアコンプレッサ)73、海水W中の溶存酸素量などを自動測定する水質測定装置74、測定結果を無線送信する送信機77aおよびアンテナ77b、水質測定装置74および送信機77aなどを作動させる蓄電池(図示せず)を充電するための太陽電池パネル76、発電機72および気体ポンプ73などを操作する配電盤75を備えている。水質測定装置74は、ワイヤ74aに係止されたセンサ74bを備え、ワイヤ74aを巻き取ったり、捲き出したりすることによってセンサ74bは海水W中を昇降可能であり、予め設定された複数の水深における海水Wの水質および潮流の流向流速を自動測定することができる。
【0031】
測定結果は送信機77aからアンテナ77bを経由して無線送信され、携帯電話の回線を通してインターネット上のデータサーバに転送され、随時、ウェッブサイト上で閲覧することができる。本実施形態においては、海水Wの水質の鉛直プロファイルを2時間ごとに測定し、流向流速の鉛直プロファイルを1時間ごとに測定して、その測定結果を送信するようにいるが、測定条件はこれらに限定するものではない。
【0032】
このような構成とすることにより、魚類養殖場80の水質構造や潮流の状態を、現象発生から2時間以内にモニターすることが可能となるため、生け簀50のある海水Wの溶存酸素量低下の監視、溶存酸素量低下を防止するための微細気泡発生部1の稼働および稼働に伴う効果の検証、あるいは有機汚泥の堆積を招く水質構造発生の監視などを行うことができる。これにより、魚類養殖場80の水質環境の管理および環境改善技術の効果的な運用に不可欠な情報を迅速に入手することができる。
【0033】
図5,図6に示すように、微細気泡発生部1は、防水性の液体ポンプ2と、液体ポンプ2を作動させる駆動機である防水性の電動機3と、微細気泡発生器4と、を一体的に連結した構造である。電動機3は、海上の筏71(図3参照)上に配置された発電機72から電源コード5を介して給電され、配電盤75に設けられたスイッチ(図示せず)によってON−OFFすることができる。液体ポンプ2は電動機3の回転軸(図示せず)と同軸上に連結され、吸引口2aから吸い込んだ海水Wを吐水部8を経由して微細気泡発生器4の水導入経路15へ供給する。
【0034】
微細気泡発生器4は概略形状が円筒形であり、その下部には、筏71(図1参照)上に配置された気体ポンプ73から送給される大気中の空気を導入するための給気管9の先端部が接続され、給気管9の基端部は気体ポンプ73に接続されている。給気管9の途中には、海水Wが海上方向に逆流するのを防ぐための逆止弁13が設けられている。
【0035】
微細気泡発生器4は、流体(海水および空気)が軸心S周りを旋回可能な流体旋回室14を内蔵する円筒ケーシング4aと、流体旋回室内14内へ海水Wを導入して流体旋回流Rを発生させるために流体旋回室14内へ海水Wを噴出する水導入経路15と、流体旋回室14内へ空気を導入するため流体旋回室14と連通して形成された空気導入経路16と、流体旋回室14の軸心S方向の端部に形成された吐出経路17とを備えている。吐出経路17は、円筒ケーシング4aの軸心Sと直交する平面状の隔壁17aの中心部分(軸心Sとの交差部分)に形成されている。
【0036】
水導入経路15は円筒ケーシング4aより外径の小さな円筒形であり、その基端部には液体ポンプ2の吐水部8との連結部15cが設けられ、その先端部は、流体旋回室14の吐出経路17と反対側の端部において流体旋回室14内へ突出して配置され、その先端部分は閉塞板15aで閉塞されている。本実施形態では、噴出口15bは、軸心Sを中心に等角度間隔で6個配置するとともに、これら6個の噴出口15bを同じ位相で、軸心S方向に2段配置することにより、合計12個設けているが、これらの個数および配置形態に限定するものではない。
【0037】
図8に示すように、空気導入経路16は、水導入経路15の側面部を貫通してその内部へ進入し、軸心S方向へ直角に曲がった後、その先端開口部16aが閉塞板15aの表面側(流体旋回室14側)に開口している。水導入経路15の側面に突出した空気導入経路16に給気管9の基端部が着脱可能に連結されている。従って、給気管9から送られる空気は空気導入経路16を経由して、閉塞板15a表面に開口した先端開口部16aから流体旋回室14内に直接供給される。
【0038】
また、流体旋回室14を内蔵する円筒ケーシング4aの吐出経路17の外側において、この吐出経路17と対向する位置には、軸心Sと交差する平面18aを有する円板状の誘導部材18が配置されている。誘導部材18は、円弧状をした3つの連結部材18b,18cを介して円筒ケーシング4aの先端部分に接合されており、これらの連結部材18b,18cの間に形成された3つの吹出口19から、後述する、微細気泡NB混じりの海水Wを海中へ吹き出すことができる。なお、これらの3つの吹出口19は、図6に示すように、平面視状態において、電動機3の配置方向を除く3方向へ90度間隔で配置されている。
【0039】
図3で示したように、微細気泡発生部1を生け簀50内の海水W中に投入し、海水W中で起立状態に保持し、配電盤75のスイッチ(図示せず)を操作して電動機3を作動させると、海水ポンプ2の吸引口2aから吸い込まれた海水Wが吐水部8から水導入経路15へ流れ込み、噴出口15bを経由して流体旋回室14内へ噴出される。このとき、海水Wの噴出方向は流体旋回室14の軸心Sとねじれの位置をなす方向となっているため、流体旋回室14内には軸心S周りに旋回する海水流が発生するとともに、この海水流の一部は吐出経路17から海水W中へ排出される。
【0040】
このとき、図8に示すように、流体旋回室14内の軸心S付近には負圧空洞部Vが発生し、この負圧空洞部Vの存在によって流体旋回室14内が負圧となるため、流体旋回室14と連通する空気導入経路16および給気管9を経由して大気中の空気が円滑に導入され、空気導入経路16の先端開口部16aから流体旋回室14内へ流入する。これにより、流体旋回室14内には、軸心S付近に位置する負圧空洞部Vと、その周りを回転する空気混じりの海水とからなる旋回流(例えば、旋回二層流とも呼ばれる。)が形成される。
【0041】
このような旋回流が流体旋回室14内に形成されている状態において、空気導入経路16の先端開口部16aを経由して流体旋回室14内へ導入された空気は前述した旋回流の剪断作用によって微細化され、流体旋回流Rとなって流体旋回室14内を高速旋回する。そして、流体旋回流Rはやがて流体旋回室14の隔壁17a方向へ移動し、この隔壁17aに当接することによって吐出経路17に向かって収束し、流体旋回室14の内径より細い吐出経路17を通過することによって、さらに高速で旋回する微細気泡NB混じりの海水となった後、生け簀50内の海水W中へ吐出される。即ち、大気中から吸い込んで給気管9を経由して送給された空気を流体旋回室14内で微細気泡NBに変化させて海水W中へ供給することができる。
【0042】
従って、図3に示すように、海水Wおよび大気中の空気を微細気泡発生部1に供給して流体旋回室14内に形成される流体旋回流Rによって発生する微細気泡NB混じりの海水Wを、イトゴカイ55および細菌41の撒布領域上(底部54a上)の海水域に供給することができる。これらの微細気泡NBは極めて微細であり、外径ナノメートルレベルの微細気泡NBが大量に含まれているため、海水W中における浮上速度が極めて小さい。このため、単に海水W中での滞留時間が長いだけでなく、その大部分は時間の経過とともに底部54aに向かって沈降する現象が生じる。また、外径ナノメートルレベルの微細気泡NBが海水W中に供給されることによって海水W中への酸素溶解が促進されるため、飽和濃度レベルまで酸素が溶解して周囲の海水よりも比重の増大した海水Wが底部54aに向かって下降する現象も生じ、これによって底層の貧酸素領域の解消が進行する。
【0043】
従って、微細気泡発生部1が底部54aから離れた位置に配置されていても、底層海水の溶存酸素が飽和状態に達して、底部54aの有機物汚泥54b中に効率良く酸素が供給されるようになる。このため、底部54aに撒布されたイトゴカイ55に充分な酸素が供給され、イトゴカイ55の生命活動および増殖能力が活性化され、その個体数が著しく増大するので、イトゴカイ55に共生する有機物分解能力を有する細菌41(図2参照)も増殖する。このため、大量に増殖した細菌41の分解能力により、底部54aの有機物汚泥54bを効率良く分解浄化することができる。
【0044】
一方、底部54aにおいてイトゴカイ55が高密度に増殖した地点では、その底質表層において有機物の分解促進および嫌気性の酸揮発性硫化物の酸化が促進されていることも確認された。従って、魚類養殖場80において、底部54aに対するイトゴカイ55および細菌41の撒布と、海水W中への微細気泡NBの供給とを行うことにより底部54,54aの有機物汚泥54bを確実に浄化することができる。また、イトゴカイ55および細菌41が増殖した海域では海水W中のアンモニア濃度が急速に減少し、硝酸塩・亜硝酸塩濃度の上昇が見られた。このような現象は、イトゴカイ55および細菌41の生物活性や代謝活動により、アンモニアなどの窒素化合物を硝酸イオンに変化させる働きを有する微生物(硝化菌)の活性も高まったことを示すものではないかと推測される。
【0045】
なお、本実施形態では鯛53を養殖する場合について説明しているが、本発明の利用分野はこれに限定するものではないので、ハマチ、フグ、クルマエビ、ホタテ、アワビ、カキ、真珠貝などの魚貝類の養殖場あるいはワカメ、コンブ、カジメなどの海草類の養殖場などにおいても広く利用することができる。
【0046】
イトゴカイ55およびそれに共生する細菌41は古代より自然界に生息し続ける生物であり、微細気泡発生部1はイトゴカイ55および細菌41に充分な酸素を与える目的で、微細気泡NB混じりの海水Wを海中へ供給するものであるため、周辺海域の自然環境や魚貝類に悪影響を及ぼすことがない。また、海底にイトゴカイ55および細菌41を撒布し、比較的浅い海域に配置した微細気泡発生部1を用いて微細気泡NB混じりの海水Wを海域に供給すればよいので、複雑な設備も必要とせず、魚類養殖場80のある海域を容易に浄化することができる。
【0047】
魚類養殖場80内において、海底環境が回復する秋から冬に、予め培養しておいた大量のイトゴカイ55および細菌41を有機物汚泥54bが堆積する底部54aに撒布するとともに微細気泡発生部1を用いて微細気泡NBを海水W中へ供給すると、自然現象では起こり得ない高密度個体群を短期間に発生し、底部54aに堆積した有機物汚泥54bを効率的に浄化することができる。また、有機物汚泥54bの堆積した魚類養殖場80の底部54,54a付近における貧酸素水の発生を無くすことができるため、酸素低下に伴う養殖魚(鯛53)の活動低下、生育不良などを防止することができる。
【0048】
本実施形態は、自然閉鎖水域の一つである湾内に設けられた魚類養殖場80の底部54,54aにおいて汚泥浄化を行った事例であるが、イトゴカイ55および細菌41は、海水と河川などから流入する淡水とが混合して形成される汽水が恒常的にあるいは季節的に存在する河口域や内湾(いわゆる汽水域)の底部においても生息可能である。このため、本発明の汚泥浄化方法は、このような汽水域においても利用可能であり、その場合においても前述したような優れた浄化作用を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の汚泥浄化方法は、沿岸海域に設けられた魚介類養殖場などにおける底部浄化手段として利用できるほか、自然海域あるいは淡水域の底部浄化手段としても広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態である汚泥浄化方法を使用した魚類養殖場を示す概略構成図である。
【図2】図1に示す魚類養殖場の底部付近の部分拡大図である。
【図3】本発明の第2実施形態である汚泥浄化方法を使用した魚類養殖場を示す概略構成図である。
【図4】図3に示す魚類養殖場の管理システムを示す部分拡大図である。
【図5】図3に示す微細気泡発生装置付近の部分拡大図である。
【図6】図5に示す微細気泡発生装置の一部省略平面図である。
【図7】図5に示す微細気泡発生装置を構成する微細気泡発生器の一部切欠側面図である。
【図8】図7におけるA−A線断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 微細気泡発生部
1a,74a ワイヤ
2 液体ポンプ
2a 吸引口
3 電動機
4,4X,20,20X,30 微細気泡発生器
4a 円筒ケーシング
5 電源コード
8 吐水部
9 給気管
13 逆止弁
14,22,32 流体旋回室
14a,22a 内周面
15,23 水導入経路
15a 閉塞板
15b 噴出口
15c 連結部
16,24 空気導入経路
16a 先端開口部
17,25 吐出経路
17a,21a 隔壁
18 誘導部材
18a 平面
18b,18c 連結部材
19 吹出口
40,80 魚類養殖場
41 細菌
42 巣穴
43 棲管
50 生け簀
51,71 筏
52 網
53 鯛
54,54a 底部
54b 有機物汚泥
55 イトゴカイ
70 管理システム
72 発電機
73 気体ポンプ
74 水質測定装置
74b センサ
75 配電盤
76 太陽電池パネル
77a 送信機
77b アンテナ
NB 微細気泡
R 流体旋回流
S 軸心
V 負圧空洞部
W 海水
W1 海面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄化対象である汚泥にイトゴカイ類およびそれに共生する細菌を撒布することを特徴とする汚泥浄化方法。
【請求項2】
前記細菌として、
Alteromonas科(Alteromonadaceae)、Vibrio科(Vibrionaceae)若しくはRhodobacter科(Rhodobacteraceae)の細菌、
またはPseudoalteromonas属、Vibrio属若しくはRoseobacter属の細菌、
またはP.haloplanktis種、V.fortis種、V.lentus種、V.pomeroyi種若しくはV.splendidus種の細菌、
のうちのいずれか1以上を含む細菌類を用いた請求項1記載の汚泥浄化方法。
【請求項3】
前記汚泥と共存する水域中に微細気泡発生手段を配置した請求項1または2記載の汚泥浄化方法。
【請求項4】
前記微細気泡発生手段として、筒体形状または回転体形状の流体旋回室へ水と空気とを導入し前記流体旋回室内の軸心周りに発生させた旋回流を前記流体旋回室の一部に開設した吐出口から吐出させることにより微細気泡混じりの水を前記水域中へ供給する機能を有する微細気泡発生器を用いた請求項3記載の汚泥浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−54735(P2007−54735A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243163(P2005−243163)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(505320676)
【出願人】(505319049)
【出願人】(597073405)株式会社 多自然テクノワークス (12)
【Fターム(参考)】