説明

河川流量測定方法及び河川流量測定装置

【課題】出水等による河床変動が生じても、河川の流量を高精度で連続して実時間測定可能な方法及び装置を提供する。
【解決手段】河床変動シミュレーションにより水理学的に起こりえる複数の河床形状を計算し、局所的な河床高で個々の河床形状を代表させ、個々の河床形状のそれぞれについて、流速を流量に換算するための換算係数と水位との関係を流れ場の水理シミュレーションにより算出して記憶する(#4)。河川の局所的な流速、水位、及び局所的な河床高を時々刻々と測定する(#1,#2,#3)。測定された局所的な河床高と、測定された水位と、換算係数と水位との関係とから換算係数を時々刻々と決定する(#5,#6)。決定された換算係数と前記測定された流速とから前記河川の流量を時々刻々と算出する(#7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川流量測定方法及び河川流量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
河川流量測定には、低水時の機械式流量計や高水時の浮子測定に加え、伝播時間差式流速計、非接触式表面流速計、ドップラー式流速計等の流速連続測定装置を用いた方法がある。例えば、特許文献1には、超音波を用いた流速測定技術と数値シミュレーションに基づく流量連続測定方法が開示されている。
【0003】
これらの方法はいずれも、局所的な流速を測定し、それを流量に換算する係数を乗じて流量を算定している。具体的には、以下の式(1)に示すように、流速測定値V,水位と河床形状から算出される流水断面積A、及び更正係数kの積によって流量を得る。更正係数kは、測定した局所的な流速を断面平均流速に換算する係数である。
【0004】
【数1】

【0005】
従来の河川流量測定では、機械式流速計を用いるとともに深浅測量を行う低水時観測を除き、河床の経時変化、特に出水中の河床変動はほとんど考慮されていない。しかしながら、式(1)より明らかなように、実際には上流からの土砂供給量の変化や、流速の増減よる掃流力の変化により、出水中に河床低下(河川洗掘)、埋め戻し等が生じて河床形状に時間的変化が生じると、それは流速測定に直接影響する。つまり、流速測定値を流量に換算する換算係数(流水断面積Aと更正係数k)に関して河床変動の影響を考慮しなければ、それが流量測定の誤差となる。
【0006】
河床変動を把握するために、従来は川幅方向全体の河床形状の測定または推定を行っていた。例えば特許文献2や特許文献3には、水面に浮揚させた超音波送受波器からの超音波ビームを移動させて河床形状を測定することが記載されている。しかしながら、出水時の高流速下では、水面に浮揚させた超音波送受波器を移動させて川幅全体を測定することは困難である。また、超音波送受波器の移動に時間を要すると測定の同時性が損なわれ、連続測定には適さない。また、装置を移動させず、サイドスキャンソナーのようにある場所から超音波ビームを機械的あるいは電子的走査により移動させて河床全体を測定しようとしても、河川では川幅対水深比が大きく、河床形状を測定できる範囲は川幅全体の極わずかである。従って、川幅全体の河床形状を特に出水中に実時間で測定することは極めて困難である。
【0007】
一般には水理モデルを用いた河床変動計算で河床形状の経時変化を推定することが行われている。また、特許文献4には、ある時点の河床形状と過去の河床形状との差や過去の流量、河床勾配、水位情報等に基づいて河床変動計算の予測モデルをチューニングして将来の河床形状の変化分を予測していることが記載されている。これらの技術は、実測によらずモデルのみで将来の河床変動を予測しているが、実時間で河床変動計算を実施することは困難であり、流量連続測定には適用できない。また、河床変動計算のみで河床変動を精確に再現することは、水理シミュレーション条件の不確実性があるために困難である。
【0008】
以上のように、特に出水時の河床形状の変化を考慮して河川の流量を高精度で連続して実時間で測定する方法は知られてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−69615号公報
【特許文献2】特開平11−304484号公報
【特許文献3】特開2005−114634号公報
【特許文献4】特開平9−72764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、出水等による河床変動が生じても、河川の流量を高精度で連続して実時間測定可能な方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、少なくとも1箇所の局所的な河床高でそれぞれ代表される複数の河床形状を測定対象の河川に対して想定し、前記想定した複数の河床形状のそれぞれについて、流速を流量に換算するための換算係数と水位との関係を流れ場の水理シミュレーションにより算出して記憶し、前記河川の局所的な流速、水位、及び局所的な河床高を時々刻々と測定し、前記測定された局所的な河床高と、前記測定された水位と、前記換算係数と水位との関係とから前記換算係数を時々刻々と決定し、前記決定された換算係数と前記測定された流速とから前記河川の流量を時々刻々と算出する、河川流量測定方法を提供する。
【0012】
局所的な河床高(想定した河床形状を代表する)を測定し、それを使用して流速を流量に換算するための換算係数を決定することにより、出水等による河床変動が生じても、河川断面形状全体を計測することなく河川の流量を高精度で連続して実時間で測定できる。また、想定される河川形状(局所的な河床高)に対して水理シミュレーションにより換算係数と水位との関係、つまり河床変動の流量に与える影響を予め算出しておくので、流量測定開始前にこの影響を評価するためのデータ採集期間が不要である。
具体的には、前記想定される複数の河床形状は、河床変動シミュレーションにより得られる水理学的に起こりえる複数の河床形状を含む。あるいは、前記想定される複数の河床形状は、実際に測定された複数の河床形状を含む。
【0013】
本発明の第2の態様は、測定対象の河川について想定される少なくとも1箇所の局所的な河床高でそれぞれ代表される複数の河床形状に対し、水理シミュレーションにより予め算出された流速を流量に換算するための換算係数と水位との関係を記憶している記憶部と、河床高センサからの入力に基づいて前記河川の局所的な河床高を時々刻々と測定する河床高測定部と、水位センサからの入力に基づいて前記河川の水位を時々刻々と測定する水位測定部と、流速センサからの入力に基づいて前記河川の局所的な流速を時々刻々と測定する流速測定部と、前記河床高測定部により測定された河床高と、前記水位測定部により測定された水位と、前記記憶部に記憶されている前記換算係数と水位との関係とから前記換算係数を時々刻々と決定し、当該決定した換算係数と前記流速測定部により測定された流速とから前記河川の流量を時々刻々と算出する流量演算部とを備える、河川流量測定装置を提供する。
【0014】
河床測定部が局所的な河床高(想定した河床形状を代表する)を測定し、流量演算部がそれを使用して流速を流量に換算するための換算係数を決定することにより、出水等による河床変動が生じても、河川断面形状全体を計測することなく河川の流量を高精度で連続して実時間で測定できる。また、想定される河川形状(局所的な河床高)に対して水理シミュレーションにより換算係数と水位との関係、つまり河床変動の流量に与える影響を予め算出したものが記憶部に記憶されているので、流量測定開始前にこの影響を評価するためのデータ採集期間が不要であり測定対象の河川に装置設置後速やかに流量測定を開始できる。
【0015】
具体的には、前記想定される複数の河床形状は、河床変動シミュレーションにより得られる水理学的に起こりえる複数の河床形状を含む。あるいは、前記想定される複数の河床形状は、実際に測定された複数の河床形状を含む。
【0016】
前記河床高センサは、前記河床に向けて超音波を発信すると共に前記河床で反射された反射波を受信する超音波センサであり、前記河床測定部は、前記超音波センサが受信する前記反射波の伝搬時間と水中音速とから前記河床高を算出する。
【0017】
温度センサからの入力に基づいて前記河川中の水中音速を温度補正する音速補正部をさらに備え、前記河床高測定部は、前記音速補正部で補正された水中音速を前記河床高の算出に使用してもよい。水中音速を温度補正することで、局所的な河床高の測定精度が向上する。高精度で測定された局所的な河床高が換算係数の決定に使用されるので、流量の測定精度がさらに向上する。
【0018】
前記流速センサは前記河川を挟んで対向して配置されると共に互いに超音波を発信及び受信する一対の超音波センサを備え、前記流速測定部は、前記一対の超音波センサ間の前記河川の流れに沿う方向の超音波の伝播時間と、前記一対の超音波センサ間の前記河川の流れに逆らう方向の超音波の伝播時間との差から前記流速を算出し、前記一対の超音波センサ間の前記河川の流れに沿う方向の超音波の伝播時間と、前記一対の超音波センサ間の前記河川の流れに逆らう方向の超音波の伝播時間との平均値と、前記一対の超音波センサ間の距離とから前記河川中の水中音速を算出する音速算出部とをさらに備え、前記河床高測定部は、前記音速算出部で算出された水中音速を前記河床高の算出に使用してもよい。流速測定用の一対の超音波センサを利用して水中音速を実測するので、局所的な河床高の測定精度が向上する。高精度で測定された局所的な河床高が換算係数の決定に使用されるので、流量の測定精度がさらに向上する。また、この場合、河床高測定用に水温や水中音速を測定するための専用のセンサ等を設ける必要がない。
【0019】
前記流速センサは前記河川を挟んで対向して配置されると共に互いに超音波を発信及び受信する一対の超音波センサを備え、前記流速測定部は、前記河川の流れに沿う方向の前記一対の超音波センサ間の超音波の伝播時間と、前記河川の流れに逆らう方向の前記一対の超音波センサ間の超音波の伝播時間との差から前記流速を算出する。この構成では、流速測定部は河川断面内部の局所的な流速を測定する。
【0020】
前記流速センサは、前記河川の水中に超音波を発信すると共に前記河川の水中の懸濁物により散乱波を受信し前記流速測定部は前記散乱波に生じるドップラー効果を利用して流速を測定してもよい。この構成では、流速測定部は河川断面内部の局所的な流速を算出する。
【0021】
前記流速センサは、空気中から河川の水面に電磁波又は超音波を発信すると共に前記水面による反射波を受信し、前記流速測定部は前記反射波に生じるドップラー効果を利用して流速を算出してもよい。この構成では、流速測定部は河川の水面の局所的な流速を測定する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の河川流量測定方法及び装置では、局所的な河床高でそれぞれ代表される想定される複数の河床形状について流速を流量に換算するための換算係数と水位との関係を水理シミュレーションにより予め算出しておき、測定した局所的な河床高(想定した河床形状を代表すると)と、測定された水位と、換算係数と水位との関係とから換算係数を決定する。そして、決定した換算係数と測定した流速から河川の流量を算出する。従って、出水等による河床変動が生じても、河川の流量を高精度で連続して実時間で測定できる。
【0023】
また、想定される複数の河床形状は、河床変動ミュレーションより予め水理学的に求められたものや、過去の河床変動履歴であり、これらに対して水理シミュレーションにより換算係数と水位との関係、つまり河床変動の流量に与える影響を予め算出しておくので、流量測定開始前にこの影響を評価するためのデータ採集期間が不要である。
【0024】
さらに、河床測定に超音波を用いると共に、水温により水中音速の補正又は水中音速の直接測定を行うこととにより、高精度で局所的な河床高を測定でき、高精度で測定された局所的な河床高を換算係数の決定に使用することで、流量の測定精度がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係る河川流量測定方法の概略を示すブロック図。
【図2】河床変動シミュレーション及び個々の河床形状における水位に対する流量断面積と更正係数の数値シミュレーションの概略を示すブロック図。
【図3】河床変動シミュレーションにより得られる流量及び河床高の時間変換の一例を概念的に示す線図。
【図4A】河床変動シミュレーションにより得られる河床高分布の一例を示す図。
【図4B】河床変動シミュレーションにより得られる河床高分布の一例を示す図。
【図5】個々の河床形状における水位に対する流水断面積と更正係数の数値シミュレーションを説明するための模式図。
【図6】河床高、水位、及び更正係数と流水断面積の積の関係を関係の一例を示す線図。
【図7】河川流量測定装置の模式的な断面図。
【図8】図7の模式的な平面図。
【図9】本発明の第2実施形態に係る河川流量測定方法の概略を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1実施形態)
図1は本実施形態に係る河床変動を考慮した河川流量測定方法の概略を示す。測定対象の河川で実際に測定するのは、局所的な流速V、水位h、及び局所的な河床高zである(図1のブロック#1,#2,#3)。これら流速V、水位h、及び河床高zは時々刻々と連続して測定される。河川の流量Qを実時間で連続して測定するために必要な情報は、流水断面積Aや更正係数kの値であり、河床形状そのものではない。そこで、本実施形態では、河床変動シミュレーションにより想定される複数の河床形状を計算し、個々の想定される河床形状を局所的な河床高zで代表させる。そして、個々の河床形状(河床高zで代表される)について水位hと流水断面積A及び更正係数kとの関係を流れ場の水理シミュレーションにより予め求めておく(図1の#4)。その上で、測定された河床高z及び水位hに対応する流水断面積Aや更正係数kを決定し(図1のブロック#5,#6)、これらの決定した流速断面積A及び更正係数kと、測定した流速Vから以下の式(2)により、流量Qを実時間で連続測定する(図1のブロック#7)。
【0027】
【数2】

【0028】
図2は、河床変動シミュレーション(ステップとS1〜S5)と流れ場の水理シミョレーション(ステップS6〜S11)とを模式的に示す。これらのシミュレーションは、後述するシミュレーション演算装置8で実行され、その結果は流量測定装置1の換算係数群記憶部14に記憶される(図7参照)。
【0029】
以下、河床変動シミュレーションについて説明する。河床変動シミュレーションは、測定対象の河川の流速V、河床高z、及び水位hを測定する地点を含む上下流の所定範囲(例えば上下2km程度)について実行する。まず、基準となる河床形状(例えば実測した現在の河床形状)に対し、流速(掃流力)の分布を計算する(ステップS1)。次に、浮上粒子量と浮遊砂濃度分布を計算する(ステップS2,S3)。浮遊砂の計算には例えばLeeの式を用いることができる。また、掃流砂を計算する(ステップS4)。掃流砂の計算には例えばMeyer-Peter-Mullerの式を用いることができる。その後、河床高平面分布を計算する(ステップS5)。そして、河床変動を生じさせる水理現象(例えば出水)を表す計算条件として、例えば図3に示すように流量ハイドログラフ(流速V、河床高z、及び水位hを測定する箇所における流量の時間変化)を与え、ステップS1〜S5による河床高平面分布の計算を所定期間分(t,i=0,1…n)繰り返す。ハイドログラフは水位ハイドログラフとして与えてもよい。この計算により、流速V、河床高z、及び水位hを測定する地点(河川の流れ方向)での個々の時刻t,t,t…における河床高さの川幅方向の分布zs(ti,x)が得られる(xは川幅方向の距離)。図3に計算の結果得られた流速V、河床高z、及び水位hを測定する地点における河床高の時間変化の模式的な一例を示す。また、図4A,4Bに、流速V、河床高z、及び水位hを測定する地点における時刻tと時刻tの河床高zsの分布(川幅方向)の計算結果の模式的な一例を示す。
【0030】
本実施形態では、個々の時刻t,t,t…における河床高さの川幅方向の分布zs(ti,x)は、河床高zを測定する川幅方向の位置x=x(後述する超音波センサ6により河床高さが測定される川幅方向の位置)における河床高zs(=zs(t,x))で代表する。
【0031】
以下、流れ場の水理シミュレーションについて説明する。河川変動シミュレーションにより計算された個々の河床形状(それぞれ河床高zs(=zs(t,x)),i=0,1…nで代表される)について、流れ場の水理シミュレーションを実行する。この流れ場の水理シミュレーションでは、例えば、乱流モデルにk-εモデルを用いた平面2次元モデルを用いることができる。流れ場の水理シミュレーションでは、ある河床高zsで代表される河床高分布に対し、複数の水位hs,j=0,1,…mを与え(図2のステップS6,S7)、そのときの流速V、河床高z、及び水位hを測定する河川の流れ方向の地点における流水断面積As(zs,hs)を計算する(図2のステップS8)。また、このときの流速V、河床高z、及び水位hを測定する河川の流れ方向の地点における河川断面(流水断面積As(zs,hs))の流速分布を計算し、この流速分布を使用して更正係数ks(zs,hs)を計算する(図2のステップS9,S10)。この更正係数ks(zs,hs)は、流速V、河床高z、及び水位hを測定する河川の流れ方向の地点における河川断面における平均流速を、河川の局所的な流速(本実施形態では超音波センサ4A,4B間の超音波の伝播経路5上での平均流速)で除した値である。以上のステップS6〜S7の計算を水位条件の範囲、つまりhs,j=0,1,…mの範囲で繰り返す。図5を併せて参照すると、以上のステップS7〜S10の計算により、河床高zs,i=0,1…nで代表される個々の河床形状毎に、個々の水位hs,j=0,1,…mに対して、流水断面積As(zs,hs)と更正係数ksj(zs,hs)が得られる(図3のステップS11)。
【0032】
本実施形態では、図6に概念的に示すように、計算された更正係数ks(zs,hs)と計算された流水断面積As(zs,hs)の積を河床高zs,i=0,1…n(前述のように河床形状を代表する)と水位hs,j=0,1,…mについての2次元マトリクスとし、換算係数群記憶部14に記憶しておく。前述の式(2)を参照すれば明らかなように、更正係数と流水断面の積は測定された流速を流量に換算するための換算係数である。また、前述のように河床高さzsは個々の河床形状を代表している。従って、換算係数群記憶部14には、河床変動シミュレーションにより得られる複数の河床形状のそれぞれについて、換算係数と水位との関係が記憶されている。
【0033】
図7及び図8は、本実施形態の流量測定方法を実行する流量測定装置1を示す。測定対象の河川2の両岸付近にセンサ設置架台3A,3Bが設けられている。
【0034】
センサ設置架台3A,3Bには、流速測定用の超音波センサ4A,4Bが設置されている。これらの超音波センサ4A,4Bは設置高さが同一である。また、図8に表されているように、これらの超音波センサ4A,4Bは、超音波の伝播経路5が平面視で河川2の流れ方向Fに対して角度θをなすように配置されている。
【0035】
センサ設置架台3Bには、河床高さ測定用の超音波センサ6が設置されている。本実施形態では、この超音波センサ6は水平方向に対して超音波の発信方向が俯角θdを有するように設置されている。
【0036】
また、河川2には水位センサ7が設置されている。
【0037】
本実施形態における流量測定装置1は、流速測定部11、河床高測定部12、水位測定部13、換算係数群記憶部14、流量演算部15、流量記憶部16、表示部17、及び通信部18を備える。
【0038】
流速測定部11は、超音波センサ4A,4Bからの入力に基づいて河川2の局所的な流速Vを時々刻々と連続して測定する。具体的には、流速測定部11は、以下の処理を繰り返して流速Vを連続して測定する。上流側の超音波センサ4Aから発信された超音波がw伝播経路5を通って下流側の超音波センサ4Bによって受信されるまでの伝搬時間(河川2の流れに沿う方向の伝搬時間)tを測定する。また、下流側の超音波センサ4Bから発信された超音波が同一の伝播経路5を通って上流側の超音波センサ4Aによって受信されるまでの伝搬時間(河川2の流れに逆らう方向の伝搬時間)tを測定する。そして、これらの伝搬時間t,tと、超音波センサ4A,4B間の距離L(一定値)とから以下の式(3)により河川2の流速Vを測定する。つまり、本実施形態では、局所的な流速Vとして伝播経路5上での河川2の平均流速を測定している。
【0039】
【数3】

【0040】
河床高測定部12は超音波センサ6からの入力に基づいて河川2の局所的な河床高zを時々刻々と連続して測定する。具体的には、河床高測定部12は、超音波センサ6が超音波を発信し、発信した超音波が河床で反射されて反射波として超音波センサ6で受信されるまでの伝播時間t’を測定する。そして、この伝播時間t’、超音波センサ6の設置標高hsens、超音波センサ6の俯角θ、及び水中音速cから以下の式(4)により河床高zを測定する。
【0041】
【数4】

【0042】
水位測定部13は、水位センサ7からの入力に基づいて河川2の水位を時々刻々と連続して測定する。
【0043】
流量演算部15で測定される流速V、河床高測定部12で測定される河床高z、及び水位測定部13で測定される水位hは、時々刻々と連続して流量演算部15に入力される。流量演算部15は、これら時々刻々と入力される測定値V,z,hから流量Qを実時間で算出する。流量演算部15で算出された流量Qは、流量記憶部16に記憶される。流量記憶部16に記憶された流量Qは、必要に応じて表示部17で表示され、あるいは通信部18による無線又は有線通信で外部に出力される。
【0044】
流量演算部15は、換算係数群記憶部14に記憶されている河床高zs及び水位hsと換算係数(更正係数ks(zs,hs)と流水断面積As(zs,hs)の積)の関係を参照することで、河床高測定部12から入力されるx=x0における河床高z(測定値)と水位測定部13から入力される水位h(測定値)から換算係数(更正係数kと流水断面積Aの積)を設定する。流量演算部15は決定した換算係数(k・A)と流速測定部11から入力される流速V(測定値)を使用して前述の式(2)により流量Qを算出する。
【0045】
本実施形態の河川流量測定では、局所的な河床高zsでそれぞれ代表される想定される複数の河床形状について流速Vを流量Qに換算するための換算係数(ks(zs,hs)・As(zs,hs)と水位hsとの関係を水理シミュレーションにより予め算出しておき、それを利用して測定した局所的な河床高z(想定した河床形状を代表する)及び測定された水位hから換算係数(k・A)を決定する。そして、決定した換算係数(k・A)と測定した流速Vから河川の流量Qを算出する。従って、出水等による河床変動が生じても、河川2の流量を高精度で連続して実時間で測定できる。また、想定される複数の河床形状は、河床変動ミュレーションより予め水理学的に求められたものであり、これらに対して水理シミュレーションにより換算係数と水位との関係、つまり河床変動の流量に与える影響を予め算出しておくので、流量測定開始前にこの影響を評価するためのデータ採集期間が不要であり、測定対象の河川2に流量測定装置1を設置した後、速やかに流速測定を開始できる。
【0046】
(第2実施形態)
第1実施形態では測定対象の河川2の想定される河床形状を河床変動シミュレーションにより求めている。しかし、河川変動シミュレーションに求めた河床形状に代えて、測定対象の河川2の河床形状を実際に測定したもの(例えば、現在測定した河床形状分布と、過去に測定した河床形状分布)を使用してもよい。第2実施形態のその他の点は第1実施形態と同様である。
【0047】
本発明は前記実施形態に限定されず、例えば以下に列挙するような種々の変形が可能である。
【0048】
図7に示すように、流量測定装置1が河川2に設置された温度センサ21からの入力にも基づいて水中音速cを補正する音速補正部22を備え、この温度補正された水中音速cを使用して河床高測定部12が河床高zを算出してもよい(式(4)参照)。水中音速cを温度補正することで、河床高測定部12により河床高zの測定精度が向上し、高精度で測定された河床高zが流量演算部15における換算係数(k・A)の決定に使用されるので、流量Qの測定精度がさらに向上する。
【0049】
図7に示すように、流量測定装置1が超音波センサ4A,4Bからの入力に基づいて水中音速cを測定する音速測定部23を備え、この音速測定部23で測定された水中音速cを使用して河床高測定部12が河床高zを算出してもよい(式(4)参照)。音速測定部23は、上流側の超音波センサ4Aから発信された超音波が伝播経路5を通って下流側の超音波センサ4Bによって受信されるまでの伝搬時間tと下流側の超音波センサ4Bから発信された超音波が伝搬経路5を通って上流側の超音波センサ4Aによって受信されるまでの伝搬時間tを測定し、これらの伝搬時間t,tと超音波センサ4A,4B間の距離Lとから以下の式(5)に基づいて水中音速cを算出する。
【0050】
【数5】

【0051】
流速測定用の超音波センサ4A,4Bを利用して実測した水中音速cを使用することで、河床高測定部12により河床高zの測定精度が向上し、高精度で測定された河床高zが流量演算部15における換算係数(k・A)の決定に使用されるので、流量Qの測定精度がさらに向上する。河床高測定用に水温や水中音速を測定するための専用のセンサ等を設ける必要がない。
【0052】
上記実施形態では、局所的な流速を測定するために一対の超音波センサ4A,4Bを使用するシングルパス方式を採用している。しかし、二対の超音波センサを超音波の伝播経路が互いに交差するように配置したクロスパス方式で局所的な流速を測定してもよい。
【0053】
流速センサとして、河川2の水中に超音波を発信する共に河川2の水中の懸濁物による散乱光を受信するタイプの超音波センサを採用し、流速測定部11が散乱波に生じるドップラー効果を利用して流速(河川断面内部の局所的な流速)を測定してもよい。また、流速センサとして、空気中から河川2の水面に電磁波又は超音波を発信すると共に水面による反射波を受信するタイプのセンサを採用し、流速測定部11が反射波に生じるドップラー効果を利用して流速(河川の水面の局所的な流速)を測定してもよい。
【0054】
上記実施形態では、1箇所の河床高さで河床形状を代表させていたが、2箇所以上の複数の箇所の河床高さで河床形状を代表させてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 流量測定装置
2 河川
3A,3B センサ設置架台
4A,4B 超音波センサ
5 伝播経路
6 超音波センサ
7 水位センサ
8 シミュレーション演算装置
11 流速測定部
12 河床高測定部
13 水位測定部
14 換算係数群記憶部
15 流量演算部
16 流量記憶部
17 表示部
18 通信部
21 温度センサ
22 音速補正部
23 音速測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1箇所の局所的な河床高でそれぞれ代表される複数の河床形状を測定対象の河川に対して想定し、
前記想定した複数の河床形状のそれぞれについて、流速を流量に換算するための換算係数と水位との関係を流れ場の水理シミュレーションにより算出して記憶し、
前記河川の局所的な流速、水位、及び局所的な河床高を時々刻々と測定し
前記測定された局所的な河床高と、前記測定された水位と、前記換算係数と水位との関係とから前記換算係数を時々刻々と決定し、
前記決定された換算係数と前記測定された流速とから前記河川の流量を時々刻々と算出する、
河川流量測定方法。
【請求項2】
前記想定される複数の河床形状は、河床変動シミュレーションにより得られる水理学的に起こりえる複数の河床形状を含む、請求項1に記載の河川流量測定方法。
【請求項3】
前記想定される複数の河床形状は、実際に測定された複数の河床形状を含む、請求項1に記載の河川流量測定方法。
【請求項4】
測定対象の河川について想定される少なくとも1箇所の局所的な河床高でそれぞれ代表される複数の河床形状に対し、水理シミュレーションにより予め算出された流速を流量に換算するための換算係数と水位との関係を記憶している記憶部と、
河床高センサからの入力に基づいて前記河川の局所的な河床高を時々刻々と測定する河床高測定部と、
水位センサからの入力に基づいて前記河川の水位を時々刻々と測定する水位測定部と、
流速センサからの入力に基づいて前記河川の局所的な流速を時々刻々と測定する流速測定部と、
前記河床高測定部により測定された河床高と、前記水位測定部により測定された水位と、前記記憶部に記憶されている前記換算係数と水位との関係とから前記換算係数を時々刻々と決定し、当該決定した換算係数と前記流速測定部により測定された流速とから前記河川の流量を時々刻々と算出する流量演算部と
を備える、河川流量測定装置。
【請求項5】
前記想定される複数の河床形状は、河床変動シミュレーションにより得られる水理学的に起こりえる複数の河床形状を含む、請求項4に記載の河川流量測定装置。
【請求項6】
前記想定される複数の河床形状は、実際に測定された複数の河床形状を含む、請求項4に記載の河川流量測定装置。
【請求項7】
前記河床高センサは、前記河床に向けて超音波を発信すると共に前記河床で反射された反射波を受信する超音波センサであり、
前記河床測定部は、前記超音波センサが受信する前記反射波の伝搬時間と水中音速とから前記河床高を算出する、請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の河川流量測定装置。
【請求項8】
温度センサからの入力に基づいて前記河川中の水中音速を温度補正する音速補正部をさらに備え、
前記河床高測定部は、前記音速補正部で補正された水中音速を前記河床高の算出に使用する、請求項7に記載の河川流量測定装置。
【請求項9】
前記流速センサは前記河川を挟んで対向して配置されると共に互いに超音波を発信及び受信する一対の超音波センサを備え、
前記流速測定部は、前記一対の超音波センサ間の前記河川の流れに沿う方向の超音波の伝播時間と、前記一対の超音波センサ間の前記河川の流れに逆らう方向の超音波の伝播時間との差から前記流速を算出し、
前記一対の超音波センサ間の前記河川の流れに沿う方向の超音波の伝播時間と、前記一対の超音波センサ間の前記河川の流れに逆らう方向の超音波の伝播時間との平均値と、前記一対の超音波センサ間の距離とから前記河川中の水中音速を算出する音速算出部とをさらに備え、
前記河床高測定部は、前記音速算出部で算出された水中音速を前記河床高の算出に使用する、請求項7に記載の河川流量測定装置。
【請求項10】
前記流速センサは前記河川を挟んで対向して配置されると共に互いに超音波を発信及び受信する一対の超音波センサを備え、
前記流速測定部は、前記河川の流れに沿う方向の前記一対の超音波センサ間の超音波の伝播時間と、前記河川の流れに逆らう方向の前記一対の超音波センサ間の超音波の伝播時間との差から前記流速を算出する、請求項4から請求項8のいずれか1項に記載の河川流量測定装置。
【請求項11】
前記流速センサは、前記河川の水中に超音波を発信すると共に前記河川の水中の懸濁物により散乱波を受信し
前記流速測定部は前記散乱波に生じるドップラー効果を利用して流速を測定する、請求項4から請求項8のいずれか1項に記載の河川流量測定装置。
【請求項12】
前記流速センサは、空気中から河川の水面に電磁波又は超音波を発信すると共に前記水面による反射波を受信し、
前記流速測定部は前記反射波に生じるドップラー効果を利用して流速を算出する、請求項4から請求項8のいずれか1項に記載の河川流量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−112393(P2011−112393A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266619(P2009−266619)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 河川技術論文集 Advances in River Engineering Vol.15 2009年度・河川技術に関するシンポジウム −新しい河川整備・管理の理念とそれを支援する河川技術に関するシンポジウム−の表紙、目次の頁および河床変動に対応した河川流量観測システムの開発と実河川実験の掲載頁(495〜500頁)の写し
【出願人】(390000011)JFEアドバンテック株式会社 (32)
【出願人】(508266797)
【Fターム(参考)】