説明

油の廃油時期判定器具、および油の簡便な廃油時期判定方法

【課題】油の透明度および廃油時期の判定に用いる器具、ならびに廃油時期の簡便かつ実用的な判定方法を提供すること。
【解決手段】油の透明度を認識するための標識部、および該標識部を保持し、同時に標識部の油中への視認可能な投入深度を測定する計測部からなる、油の廃油時期判定器具、ならびに該判定器具を用いた油の廃油時期判定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明品は、油の使用に伴う劣化状況を把握し、廃油にすべき時期か否かの判定をする器具、およびそれを用いた油の簡便な廃油時期判定の測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食用油によるフライは簡便かつ風味豊かな調理が可能な調理法として一般に広く用いられているが、油は加熱使用により劣化するため、ある時点において廃棄する必要がある。特に業務用の食用油の場合(惣菜、給食、油揚げ等)、厚生労働省の衛生規範により酸価2.5、カルボニル価50、発煙点170℃といった値で新しい油に取り替えるよう指導がなされており、この内、特に酸価を指標として管理されている例が多くみられる。酸価を測定するには特別な器具や薬品が必要なため、簡易型の酸価測定法として指示薬を用いた試験紙が従来より市販されている(特許文献1、2)。この方法は実際の測定に比べて簡便ではあるが、コストがかかる、判定にやや熟練が必要といった問題がある。
【0003】
これに対して、油の色や透明度を中心に管理する方法もいくつか提案されている。油は加熱、揚げ作業によって着色するため、油の色や透明度と油の劣化は相関が高く、また、揚げ物の外観への影響も大きいため、色や透明度を中心とした油の管理は有用である。たとえば、判定法をより簡易化するために色見本を添付した判定装置が考案されている(特許文献3)。しかし、この方法は測定のたびに所定の場所で色見本と比較するという、やや煩雑な作業を行わねばならず、パート社員の多い作業現場では作業を定着させにくいといった問題がある。また、シリンダーを用いた廃油判定器も提案されており(特許文献4)、装置の扱いは非常に簡便であるが、色調の異なる使用油については、やはり判定に熟練を要したり、ややコストがかかるといった欠点がある。
【0004】
他にも、透明度を用いた管理としては、(特許文献5)に水槽の透明度を測定するものがあるが、これは遊泳用プールの水質を判断するものであり、目的、構成、効果とも本発明とは全く異なるものである。
【0005】
【特許文献1】特公昭52-44239号公報
【特許文献2】特公昭和53-37757号公報
【特許文献3】実開昭63-75823号公報
【特許文献4】実公3002424号公報
【特許文献5】実公平6-8540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、油の廃油時期の判定に用いる器具、および廃油時期の簡便かつ実用的な判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意研究した結果、油の透明度および劣化度と高い相関のある、物体の特徴的な先端部分(以下、標識部と称する)、および/またはその標識部に付与された特徴的な文字、記号、色などが視認可能な投入深度に基づいた、油の劣化状況、ならびに廃油時期を判定する器具を提供するに至った。加えて該器具を用いた油の廃油時期を判定する方法を見出した。すなわち本発明は、透明度を認識するための標識部、および該標識部を保持し、同時に標識部分の油中で視認可能な投入深度を測定する計測部からなる、油の廃油時期判定器具、ならびにそれを用いた油の廃棄時期の判定方法である。
また、本発明は、標識部に特徴的な文字、記号、色の内一つ、または二つ以上を組み合わせて施すことが可能である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の器具により、油の透明度あるいは劣化度を簡便に測定でき、加えて廃油時期をより簡便に判定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の方法は、物体の標識部、および/または当該標識部に施された特徴的な文字、記号、色などが視認可能な投入深度に基づいて、油の透明度および油の劣化度を測定、判定することを特徴としている。
【0010】
油の劣化は非常に複雑な機構であり、また揚げ温度、揚げ物の種類および量、差し油の量および回数等の油の使用履歴によって大きく性状が異なる。たとえば、代表的な指標である酸価は、加熱状態の油に投入された種ものからの水分その他油の使用履歴により、油の分子が分解、変質することで上昇する指標であるため、揚げ量との相関が高い。あるいは、油の加熱は熱酸化を起こし、これに起因する分子の変化を引き続き生じさせるため、油の加熱温度や加熱時間と、粘度やアニシジン価の上昇とは相関が高い。さらに、揚げ物からの溶出、溶出物と油との反応、油自身の反応により、油の色が変化するため、油の色、色調は各種劣化指標との相関が高い。特に色においては、揚げ物の外観に影響を与え、商品価値を左右する大きな要因の一つとなっている。従って、油の色、色調をできるだけ正確に識別し、またこれを劣化の指標とすることは重要、有用であり、実際に作業現場では従来より目視による廃油時期の判定がなされてきている。本発明では、これら油の色に関して、特に透明度を指標として廃油時期の判定に用いるものである。
【0011】
フライヤー中における油の色はフライヤーの大きさ、形、まわりの環境によって変化するため、目視により絶対的な基準を用いて判定することは非常に困難である。これに対して本発明における透明度はこれら現場の状況に影響されることが少なく、異なる作業現場においても正確な判定、判断が可能となる。
【0012】
油の透明度を測定する手法はいくつかあるが、その一つに、特定の器具を油中に沈めた時、沈められた器具の標識部の形状、あるいは性状の視認が可能な最高の投入深度によって測定する方法が挙げられる。詳しくは、たとえば、先端に特定の形状、性状の物体が装着された器具を劣化した油中に沈め、標識部の形状、性状が視認できなくなった時点の投入深度を、標識部に接続された部分に記載された目盛りによって測定するものである。標識部の形状、性状は特に限定されず、単純な円や三角形、四角形といった一般的なものから、特殊なものまで使用できる。もしくは標識部に印刷および/または加工によって文字、記号、色を付与すること、または切断、くり抜き、特定の素材の付着等によって別途文字、記号、色、形状の認識部位を作ること、あるいはこれら標識部の形状、性状を組み合わせて用いることもできる。この場合、単に標識部が見える、見えないといった判断よりさらに詳細な判定が可能となる。また、油の性状は油の使用履歴によって色調が変化するため、それぞれの現場では特有の色調になっている例がみられるが、標識部、あるいは加工した標識部の色調、形状を変えることで、それぞれの現場、使用状況に適するように判定基準を調整することもできる。
【0013】
標識部を保持する部分の性状は特に限定されず、板状、針金状、ひも状、糸状などいずれも使用できるが、硬度の高い材質を使用することが望ましい。
【0014】
これら器具を構成する素材は特に限定されないが、食用油中に投入することから、油に溶解するなど油への影響がないものが望ましく、また、高温での作業中の測定・判定が可能なように高温での耐性を持ったものがより望ましい。望ましい素材として、たとえば一般に調理現場にある素材であるステンレスが挙げられる。さらには標識部に加工を施す場合、特に印刷や別の素材を付着させる場合も、先に挙げた性状を持つ素材が望ましい。
【0015】
以下に実施例を挙げて本発明の具体例を示すが、本発明の主旨はもとよりこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
図1に示されるように、先端に直径40mm、厚さ2mmの円盤の標識部を持ち、長さ340mm、厚さ2.5mmの支柱に接続されたステンレス製の器具を作成した。先端の標識部にはアルファベットの文字を一文字くり抜き、また支柱には標識部が接続された箇所をゼロとして、10mm間隔で250mmまで目盛りを掘り込んだ。支柱部の標識部とは逆の先端には器具を保管、保存するために使う屈曲部をつけた。
【0017】
様々な惣菜店にて、作業中のフライヤーにおいて上記器具により透明度(可視深度)を測定した。透明度の測定は、器具の標識部を下にして油中に垂直に投入し、標識部が見えなくなる時点の標識部の深さを支柱の目盛りにて読み取ることで行った。同時にその油を採取し、採取した油について濾紙にて濾過後、基準油脂分析法(日本油化学協会編)に準じて色、酸価、粘度を測定し、測定した粘度に基づいて粘度上昇率を計算した、その結果を表1に示した。
また、色、酸価、粘度上昇率と可視深度との相関係数を計算により求めた。その結果を表2に示した。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
表1から明らかなように、使用に従って変化する油の色、酸価、粘度上昇率の違いは、器具の標識部の可視深度と高い相関を持っており、可視深度による測定が可能であった。従って、油の色の変化、および劣化の状態は本発明の器具によって測定することが可能である。また、上記結果の色を中心として、さらには酸価、粘度上昇率等を考慮しつつ、例えば「標識部の可視深度が58mm未満となった場合について廃棄する」といった基準を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の概念図である

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明度を認識するための標識部、および該標識部を保持し、同時に標識部分の油中で視認可能な投入深度を測定する計測部からなる、油の廃油時期判定器具。
【請求項2】
標識部に対し、特徴的な文字、記号、色の内一つ、または二つ以上を組み合わせて施した請求項1に記載の器具。
【請求項3】
透明度を認識するための標識部、および該標識部を保持し、同時に標識部分の油中で視認可能な投入深度を測定する計測部からなる器具を用いることを特徴とする油の廃油時期の判定方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−337049(P2006−337049A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−158891(P2005−158891)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【Fターム(参考)】