説明

油中水中油型乳化油脂組成物

【課題】 内油相に液状油を使用した場合であっても、また、外油相の割合の少ない油中水中油型乳化油脂組成物であっても、耐熱保型性と口溶けが共に良好である油中水中油型乳化油脂組成物、及び、該油中水中油型乳化油脂組成物を簡単に安定して得ることのできる製造方法を提供すること。
【解決手段】 外油相が直接β型油脂結晶を5質量%以上(外油相基準)することを特徴とする油中水中油型乳化油脂組成物、及び、該油中水中油型乳化油脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性と口溶けが共に良好である油中水中油型乳化油脂組成物に関する。また、本発明は上記の油中水中油型乳化油脂組成物を、簡単に、安定して製造可能な油中水中油型乳化油脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油中水型乳化油脂組成物は保存性や保存性が良好で、製菓・製パン用途に広く用いられてきた。
【0003】
しかし、水相が連続相である水中油型乳化油脂組成物に比べ、油相が連続相であることから口溶けが劣るという問題がり、その改良が各種行なわれてきた。
中でも水相中にさらに油相を分散させた油中水中油型乳化油脂組成物は、その内油相に液状油を使用することで、油脂のもつコク味を有しながら、良好な口溶けと保型性を両立させることができることから、広く使用されてきた。
【0004】
しかし、この内相に口溶けが良好である液状油を使用した場合、連続する油相が薄くなるため、耐熱保型性が低下する問題があった。
【0005】
また、内油相が液状油であるため、油中水中油型乳化油脂組成物の製造時に、簡単に外油相と合一してしまい、内油相の極めて少ない単なる油中水型乳化油脂組成物に近いものとなってしまい、良好な口溶けと保型性を兼ね備える油中水中油型乳化油脂組成物を得ることができなかった。
【0006】
このため、乳化剤を使用して内油相と水相からなる強固な水中油型乳化物を製造し、これと外油相を混合した油中水中油型乳化油脂組成物(例えば特許文献1〜3参照)が行なわれたが、乳化剤を使用するだけでは、油中水中油型乳化油脂組成物の製造時の内油相と外油相の合一を防止することができず、とくに外油相の割合が少ない油中水中油型乳化油脂組成物であると、耐熱保型性が著しく悪化してしまう問題もあった。
【0007】
【特許文献1】特公昭56−10014号公報
【特許文献2】特開昭58−170432号公報
【特許文献3】特開2003−213290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、内油相に液状油を使用した場合であっても、また、外油相の割合の少ない油中水中油型乳化油脂組成物であっても、耐熱保型性と口溶けが共に良好である油中水中油型乳化油脂組成物、及び、該油中水中油型乳化油脂組成物を簡単に安定して得ることのできる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、従来は耐熱保型性を保つ必要から口溶けの悪い高融点の油脂を使用せざるを得ないと考えられていたため、改良が省みられることのなかった外油相に注目して各種検討を行なったところ、この外油相に対し、口溶けが良好でありながら耐熱性が良好であり、さらに加工軟化度が極めて低い油脂を使用することで、上記問題を解決可能であることを知見した。
【0010】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、外油相が直接β型油脂結晶を5質量%以上(外油相基準)することを特徴とする油中水中油型乳化油脂組成物、及び、該油中水中油型乳化油脂組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、内油相に液状油を使用した場合であっても、また、外油相の割合の少ない油中水中油型乳化油脂組成物であっても、耐熱保型性と口溶けが共に良好である油中水中油型乳化油脂組成物を、簡単に安定して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物について詳述する。
【0013】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の外油相には、直接β型油脂結晶を5質量%以上(外油相基準)含有する。
【0014】
先ず、上記の直接β型の油脂結晶について説明する。
直接β型の油脂結晶とは、油脂結晶を融解し、冷却し、結晶化したときに、熱エネルギー的に不安定なα型結晶から、準安定形のβプライム型を経由せず、最安定形のβ型結晶に直接転移する油脂結晶のことである。この際、上記の結晶化条件は如何なる結晶化条件であってもよく、テンパリング等の特殊な熱処理を必要としない。
【0015】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物は、外油相中に上記直接β型の油脂結晶を5質量%以上、好ましくは5質量%以上50質量%以下、より好ましくは5質量%以上30質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上20質量%以下含有する。外油相中の直接β型の油脂結晶の含有量が5質量%未満であると、口溶けが良好でありながら耐熱性が良好な油中水中油型乳化油脂組成物が得られない。また、油中水中油型乳化油脂組成物の保管中に、経日的に20μmを越えたサイズを有するβ型結晶が出現しやすく、経日的に硬くなりやすい等、油脂結晶安定性の面でも十分に満足の得られるものとならない。
【0016】
ただし、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物は、外油相中に直接β型の油脂結晶を5質量%以上含有していれば、直接β型の油脂結晶でない油脂結晶、例えばβプライム型の油脂結晶を含有していてもよい。
【0017】
本発明において、油脂結晶が直接β型であることを確認する方法としては、油脂結晶を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られる油脂結晶が、β型結晶であることを確認する方法が挙げられる。
【0018】
上記の油脂結晶がβ型結晶であることを確認する方法としては、例えば、X線回析測定において、以下のように短面間隔を測定する方法が挙げられる。
【0019】
具体的には、油脂結晶について、短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7オングストロームの面間隔に対応する強い回析ピークを示した場合に、該油脂結晶はβ型結晶であると判断する。さらにより高い精度で測定する場合は、短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7オングストロームの面間隔に対応する範囲に最大値を有するピーク強度(ピーク強度1)及び4.2〜4.3オングストロームの面間隔に対応する範囲に最大値を有するピーク強度(ピーク強度2)をとり、ピーク強度1/ピーク強度2の比が1.3以上、好ましくは1.7以上、より好ましくは2.2以上、最も好ましくは2.5以上となった場合にβ型結晶であると判断する。
【0020】
また、上記の直接β型の油脂結晶は、トリグリセリド分子のパッキング状態が2鎖長構造であることが好ましい。油脂結晶が2鎖長構造であることを確認する方法としては、例えばX線回析測定による方法が挙げられる。
【0021】
具体的には、油脂結晶について、長面間隔を2θ:0〜8度の範囲で測定し、40〜50オングストロームに相当する回折ピークを示した場合に、該油脂結晶は2鎖長構造をとっていると判断する。
【0022】
尚、従来のマーガリンやショートニング等の可塑性油脂に用いられている油脂結晶を70℃で完全融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られる油脂結晶は、2鎖長構造であるが、準安定形のβプライム型である。また、主にチョコレート等の油脂性菓子に用いられるカカオ脂も、70℃で完全融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られる油脂結晶は、2鎖長構造であるが、準安定形のβプライム型である。
【0023】
また、上記の直接β型の油脂結晶は、実質的に微細結晶であることが好ましい。上記の微細結晶とは、油脂の結晶が微細であることであり、口にしたり、触った際にもザラつきを感ずることのない結晶であることを意味し、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm、最も好ましくは3μm以下のサイズの油脂結晶を指す。上記サイズとは、結晶の最大部位の長さを示すものである。
【0024】
上記の直接β型の油脂結晶の結晶サイズが20μmを越えた油脂結晶であると、該油脂結晶を含有する油中水中油型乳化油脂組成物を口にしたり、触った際にザラつきを感じやすい。
【0025】
なお、「実質的に」とは、全ての直接β型の油脂結晶のうち微細結晶を90質量%以上含有することを指す。
【0026】
ここで、上記の外油相とは、油脂に、必要に応じて、乳化剤、着色料、酸化防止剤、着香料、調味料等を添加したものを指す。また、上記の油脂には、乳製品、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材から抽出される脂肪分も含まれる。
【0027】
次に、本発明で言うところの直接β型の油脂結晶の例を挙げる。
【0028】
上記の直接β型の油脂結晶の1つめの例として、StEE(St:ステアリン酸、E:エライジン酸)で表されるトリグリセリド(以下StEEとする)の油脂結晶が挙げられる。
【0029】
StEEの油脂結晶は、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の外油相中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは5質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上30質量%以下、最も好ましくは5質量%以上20質量%以下となるように含有させる。
【0030】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物中に、好ましくは上記のような範囲で、StEEの油脂結晶を含有させるために、本発明ではStEEを含有する油脂を用いることができる。
【0031】
上記のStEEを含有する油脂としては、例えば、大豆油、ひまわり油、シア脂、サル脂の中から選ばれた1種又は2種以上に水素添加及び分別から選択される1又は2種類の処理を施した加工油脂を用いることができる。さらに好ましくは、ハイオレイックひまわり硬化油、シア分別軟部油の硬化油又はこの硬化油の分別硬部油、サル分別軟部油の硬化油又はこの硬化油の分別硬部油を用いることが望ましい。
【0032】
また、上記の直接β型の油脂結晶の2つめの例として、S1MS2(S1及びS2は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリド(以下S1MS2とする)と、MS3M(S3は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリド(以下MS3Mとする)とからなるコンパウンド結晶が挙げられる。
【0033】
上記のS1MS2のS1及びS2並びにMS3MのS3は、好ましくは炭素数16以上の飽和脂肪酸であり、さらに好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸である。また、本発明において、上記のS1、S2及びS3が、同じ飽和脂肪酸であるのが最も好ましい。
【0034】
また、上記のS1MS2のM及びMS3MのMは、好ましくは炭素数16以上のモノ不飽和脂肪酸、さらに好ましくは炭素数18以上のモノ不飽和脂肪酸、最も好ましくはオレイン酸である。
【0035】
上記のS1MS2とMS3Mとからなるコンパウンド結晶とは、構造の異なるS1MS21分子とMS3M1分子とが混合された際、あたかも単一のトリグリセリド分子であるかの如き結晶化挙動を示すものである。コンパウンド結晶は分子間化合物とも呼ばれる。
【0036】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物において、上記のS1MS2とMS3Mとからなるコンパウンド結晶は、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の外油相中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは5質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上30質量%以下、最も好ましくは5質量%以上20質量%以下となるように含有させる。
【0037】
また、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の外油相中、上記のS1MS2の含有量は、好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以上15質量%以下、最も好ましくは2.5質量%以上10質量%以下であり、上記のMS3Mの含有量は、好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以上15質量%以下、最も好ましくは2.5質量%以上10質量%以下である。
【0038】
さらに、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物において、MS3Mのモル数/S1MS2のモル数が、好ましくは0.4〜7.0、さらに好ましくは0.8〜5.0となるように含有させる。
【0039】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物中に、好ましくは上記のような範囲で、S1MS2とMS3Mとからなるコンパウンド結晶を含有させるために、本発明ではS1MS2を含有する油脂及びMS3Mを含有する油脂を混合して用いてもよい。
【0040】
上記のS1MS2を含有する油脂としては、例えば、パーム油、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、コクム脂、デュパー脂、モーラー脂、フルクラ脂、チャイニーズタロー等の各種植物油脂、これらの各種植物油脂を分別した加工油脂、並びに下記に記載するエステル交換油、該エステル交換油を分別した加工油脂を用いることができる。本発明では、上記の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0041】
上記のエステル交換油としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種動植物油脂、これらの各種動植物油脂を必要に応じて水素添加及び/又は分別した後に得られる加工油脂、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油が挙げられる。
【0042】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物においては、上記のS1MS2を含有する油脂として、S1MS2と共に、後に詳述する3飽和トリグリセリドをも含有する点において、パーム油や、パームステアリン、パームオレイン、パーム中部油等のパーム分別油、これらを用いて製造したエステル交換油のうちの1種又は2種以上を使用することがより好ましい。
【0043】
上記のMS3Mを含有する油脂としては、例えば、豚脂、豚脂分別油、下記に記載するエステル交換油を用いることができ、本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0044】
上記のエステル交換油としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種動植物油脂、これらの各種動植物油脂を必要に応じて水素添加及び/又は分別した後に得られる加工油脂、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油が挙げられる。
【0045】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物においては、上記のMS3Mを含有する油脂として、MS3Mと共に、後に詳述する3飽和トリグリセリドをも含有する点において、パーム油や、パームステアリン、パームオレイン、パーム中部油等のパーム分別油を用いて製造したエステル交換油のうちの1種又は2種以上を使用することがより好ましい。
【0046】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物において、上記のS1MS2を含有する油脂は、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の外油相中、S1MS2が好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以上15質量%以下、最も好ましくは2.5質量%以上10質量%以下となるよう含有させ、上記のMS3Mを含有する油脂は、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の外油相中、MS3Mを好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以上15質量%以下、最も好ましくは2.5質量%以上10質量%以下となるよう含有させる。
【0047】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物においては、直接β型の油脂結晶として、1つめの例として挙げた上記StEEの油脂結晶、及び2つめの例として挙げたS1MS2とMS3Mで表されるトリグリセリドとからなるコンパウンド結晶のどちらを用いてもよく、また両者を併用してもよいが、トランス酸を含まなくても製造できる点で、後者のコンパウンド結晶を使用することがより好ましい。
【0048】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の外油相は、上記StEE、上記S1MS2、上記MS3M、上記StEEを含有する油脂、上記S1MS2を含有する油脂、及び、上記MS3Mを含有する油脂のうちの1種又は2種以上を適宜組み合わせ、直接β型の油脂結晶を外油相中に5質量%以上含有するように配合することにより得ることができる。
また、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の外油相において、その他の油脂を用いても良い。その他の油脂を用いる場合、その他の油脂の含有量は、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の外油相中、好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下、最も好ましくは70質量%以下とする。その他の油脂としては、通常の加工食品に用いられる食用油脂であれば、特に限定されず、動物油脂、植物油脂等の天然油脂、及びこれらの油脂の部分硬化油脂、完全硬化油脂、分別油脂、エステル交換油脂、ランダムエステル交換油脂等の単独あるいは混合油脂が使用出来る。
【0049】
さらに、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物における、外油相の好ましい含量は10〜30質量%、より好ましくは15〜25質量%である。
外油相の含量が10質量%未満であると、安定した油中水中油型乳化油脂組成物を得ることができず、保管中に水相が分離し、離水現象を生じやすい。また、外油相の含量が30質量%を超えると、油中水中油型乳化油脂組成物の水相成分の呈味を感じにくくなるおそれがある。
【0050】
次に、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の内油相について説明する。
【0051】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の内油相に使用する油脂は、一般に広く油中水型乳化油脂組成物に使用されている油脂であれば特に制限されずに使用することができ、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。そして、これらの油脂を、内油相の融点が25℃以下となるように、単独、又は二種以上を組み合わせて選択することが好ましく、口溶けが良好である油中水中油型乳化油脂組成物を得ることができる点で、常温で液状である、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、のうちの1種又は2種以上を用いることがより好ましい。
【0052】
さらに、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物における、内油相の好ましい含量は10〜50質量%、より好ましくは20〜45質量%である。
内油相の含量が10質量%未満であると、油脂球が少なくなるため水相との界面の表面積が少なくなるため、水相成分の呈味が弱くなる恐れがあり、内油相の含量が50質量%を超えると安定した油中水中油型乳化油脂組成物を得ることができず、保管中に内油相が分離するおそれがある。
【0053】
また、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物は、トランス酸を実質的に含有しないことが好ましい。
【0054】
水素添加は油脂の融点を上昇させる典型的な方法であるが、これによって得られる水素添加油脂は、完全水素添加油脂を除いて、通常構成脂肪酸中にトランス酸が10〜50質量%程度含まれている。一方、天然油脂中にはトランス酸が殆ど存在せず、反芻動物由来の油脂に10質量%未満含まれているにすぎない。近年、化学的な処理、特に水素添加に付されていない油脂組成物、即ち実質的にトランス酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有するものが要求されている。
【0055】
ここでいう「実質的に」とは、トランス酸含量が、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の全構成脂肪酸中、好ましくは10質量%未満、さらに好ましくは5質量%未満、最も好ましくは2質量%未満であることを意味する。
【0056】
本発明では、直接β型結晶を得る際に、StEEではなく、S1MS2とMS3Mとからなるコンパウンド結晶を使用することで、水素添加油脂を使用せずとも良好なコンステンシーを有するため、上記その他の油脂として部分硬化油脂を使用しないことで、トランス酸を実質的に含有しない油中水中油型乳化油脂組成物を簡単に得ることができる。
ここで、ある油中水中油型乳化油脂組成物が、直接β型の油脂結晶を含有していることを確認する方法について述べる。
【0057】
まず、第1の方法として、ある油中水中油型乳化油脂組成物の外油相のトリグリセリド組成を分析し、直接β型の油脂結晶となるトリグリセリド、例えば、StEE、又はS1MS2及びMS3Mの外油相中の含有量を測定し、直接β型の油脂結晶となるトリグリセリドが外油相中に含有されていること、好ましくはその含有量が前記範囲内にあることを確認することにより、油中水中油型乳化油脂組成物が直接β型の油脂結晶を含有していることを確認する方法が挙げられる。
【0058】
また、第2の方法として、外油相中に上記直接β型の油脂結晶となるトリグリセリド、例えば、StEE、又はS1MS2及びMS3Mを含有している油脂が配合されていること、好ましくは上記StEE、又はS1MS2及びMS3Mが外油相中に前記範囲内の含有量となるように配合されていることを確認する方法が挙げられる。
【0059】
更に、より簡単な方法である第3の方法として、ある油中水中油型乳化油脂組成物の外油相を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることを確認することによって、油中水中油型乳化油脂組成物が直接β型の油脂結晶を含有していることを確認する方法が挙げられる。
【0060】
なお、第3の方法において、油中水中油型乳化油脂組成物の外油相の油脂結晶が下に示すような微細結晶であることが確認された場合は、外油相を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で7日間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることを確認することによって、直接β型の油脂結晶を含有していることを確認することができる。この場合、ある油中水中油型乳化油脂組成物中の直接β型の油脂結晶の含有量が多いほど、5℃での保持時間が短くても、得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶となるため、5℃で7日間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることよりも、5℃で4日間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることがさらに好ましく、5℃で1日間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることが一層好ましく、5℃で1時間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることがさらに一層好ましく、5℃で30分間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることが最も好ましい。
【0061】
上記の第3の方法において、5℃での保持期間後に得られた油脂結晶がβ型結晶であることを判断する方法としては、X線回析測定において、以下のように短面間隔を測定することにより判断できる。
【0062】
具体的には、油脂結晶について、短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7オングストロームの面間隔に対応する強い回析ピークを示した場合に、該油脂結晶はβ型結晶であると判断する。さらにより高い精度で測定する場合は、短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7オングストロームの面間隔に対応する範囲に最大値を有するピーク強度(ピーク強度1)及び4.2〜4.3オングストロームの面間隔に対応する範囲に最大値を有するピーク強度(ピーク強度2)をとり、ピーク強度1/ピーク強度2の比が1.3以上、好ましくは1.7以上、より好ましくは2.2以上、最も好ましくは2.5以上となった場合にβ型結晶であると判断する。
【0063】
また、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の外油相の油脂結晶は、トリグリセリド分子のパッキング状態が2鎖長構造であることが好ましい。この2鎖長構造であることを確認する方法としては、例えばX線回析測定による方法が挙げられる。
【0064】
具体的には、油脂結晶について、長面間隔を2θ:0〜8度の範囲で測定し、40〜50オングストロームに相当する回折ピークを示した場合に、該油脂結晶は2鎖長構造をとっていると判断する。
【0065】
また、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の外油相の油脂結晶は、微細結晶であることが好ましい。上記の微細結晶とは、油脂の結晶が微細であることであり、口にしたり、触った際にもザラつきを感ずることのない結晶であることを意味し、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm、最も好ましくは3μm以下のサイズの油脂結晶を指す。上記サイズとは、結晶の最大部位の長さを示すものである。
【0066】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の外油相の油脂結晶のサイズが20μmを越えた油脂結晶であると、油中水中油型乳化油脂組成物を口にしたり触った際にザラつきを感じやすく、また、液状油成分を保持することが困難となり、油中水中油型乳化油脂組成物が油にじみを起こしやすく、水相成分及び油脂結晶により形成される3次元構造中に維持できにくくなる。
【0067】
次に、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の水相について述べる。
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物における、水相の好ましい含量は40〜65質量%、より好ましくは45〜60質量%である。
【0068】
水分含量が40質量%未満であると、油中水中油型乳化油脂組成物の呈味、特に水相成分由来の呈味を感じにくくなるおそれがあり、また逆に65質量%より多いと、製造当初より水相が分離するおそれがある。なお、上記水分含量は、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物において下記のその他の成分を使用する場合は、その中に含まれる水分も算入して算出する。
【0069】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の水相は糖類を含有することが好ましい。ここで使用できる糖類としては、砂糖、ぶどう糖、果糖、麦芽糖、異性化糖、乳糖、オリゴ糖、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、還元澱粉糖化物、還元水あめ、水あめ、液糖、はちみつ類等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。糖類の添加量は、上記水中油型乳化油脂組成物中、好ましくは50質量%以下、更に好ましくは10〜45質量%である。また、上記水相成分中における糖濃度は、好ましくは50〜80質量%、更に好ましくは60〜80質量%である。該糖濃度が80質量%よりも高いと風味のバランスがくずれやすく、水相が分離しやすい。また糖濃度が50%未満であると、保存性が悪化することに加え、離水しやすく、また、保型性も悪くなりやすい。なお、ここでいう糖濃度とは、水相中の糖分/(水相中の糖分+水相の水分)X100で計算した値である。
【0070】
また、上記油中水中油型乳化油脂組成物においては、乳化剤を、外油相、内油相、水相のうちの1相または2相以上に添加することができる。該乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、例えば、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄等の合成乳化剤でない乳化剤が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0071】
乳化剤の添加量は、上記上記油中水中油型乳化油脂組成物中、好ましくは0.05〜2質量%、更に好ましくは0.1〜1.5質量%である。0.05質量%よりも少ないと乳化が不安定になりやすく、2質量%よりも多いと、風味に影響がでやすいので好ましくない。
【0072】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物においては、外油相には、このうちポリグリセリン脂肪酸エステルを用いるのが好ましく、親油性のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いるのが更に好ましい。
【0073】
また、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物においては、内油相には、このうちポリグリセリン脂肪酸エステルを用いるのが好ましく、親水性のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いるのが更に好ましい。
【0074】
さらに、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物においては、水相には、このうちポリグリセリン脂肪酸エステル、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄のうちの1種又は2種以上を用いるのが好ましく、親水性のポリグリセリン脂肪酸エステルと、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄のうちの1種又は2種以上を併用することが更に好ましい。
【0075】
また、良好な耐熱保型性とボディー感を得ることができる点、及び、より安定して油中水中油型乳化油脂組成物を製造可能な点から、上記油中水中油型乳化油脂組成物の水相に澱粉を添加するのが好ましい。ここで使用できる澱粉としては、コーン、ジャガイモ、サツマイモ、タピオカ、小麦、米、もち米等由来の澱粉が挙げられ、必要に応じてエステル化、リン酸架橋、アルファ化、熱処理等の化学的、物理的処理を施したものを使用することができ、これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。澱粉の添加量は、上記油中水中油型乳化油脂組成物中、0.1〜5質量%が好ましい。0.1質量%よりも少ないと耐熱保型性の改良効果、ボディー感の増加が顕著でなく、5質量%よりも多いと、油中水中油型乳化油脂組成物の食感が重過ぎてしまう恐れがある。
【0076】
その他、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物に含有させることができるその他の成分としては、例えば増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酸味料、牛乳・れん乳・脱脂粉乳・ホエーパウダー・バター・クリーム・ナチュラルチーズ・プロセスチーズ等の乳や乳製品、ホエー蛋白・カゼイン等の乳蛋白、糖類や糖アルコール類、ステビア・アスパルテーム等の甘味料、β―カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、調味料、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0077】
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物において、油脂以外の成分の使用量は、それらの成分の使用目的等に応じて適宜選択することができ、特に制限されるものではないが、好ましくは全油脂分100質量部に対して合計で50質量部以下とする。
【0078】
なお、上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記増粘安定剤の含有量は、特に制限はないが、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物中、好ましくは0〜10質量%、さらに好ましくは0〜5質量%である。また本発明の油中水中油型乳化油脂組成物において、上記増粘安定剤が必要でなければ、増粘安定剤を用いなくてもよい。
【0079】
次に、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の製造方法について以下に説明する。
【0080】
本発明における油中水中油型乳化油脂組成物における油中水中油型とは、連続した油相中に、油相を含有する水相が分散している形態を指す。具体的な乳化形態としては、O/W/O型やO/O型をも含む。ここで、O:油相、W:水相を示し、以下の製造方法において、この表現をすることがある。
【0081】
以下に、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の製造方法を、O/W/O型及びO/O型の乳化形態ごとにさらに詳述する。
まず、O/W/O型の乳化形態の本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の製造方法を以下に説明する。
【0082】
O/W/O型の乳化形態の油中水中油型乳化油脂組成物を製造する方法としては、例えば以下の2つの方法が挙げられる。
1つめの方法を以下に説明する。
【0083】
まず、水に、必要に応じ副原料を添加・混合した水相を用意する。一方、油脂に、必要に応じ副原料を必要に応じ副原料を添加・混合した油相1(内油相)、及び、直接β型の油脂結晶を5質量%以上(油相基準)含有する油脂に必要に応じ副原料を添加・混合した油相2(外油相)を用意する。
【0084】
次いで、上記水相と上記油相1とを混合し、乳化してO/W型乳化物を得る。次に、上記油相2中に、このO/W型乳化物を投入して、O/W/O型予備乳化物を得る。そして、該予備O/W/O型乳化物を殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。
【0085】
次に、該予備O/W/O型乳化物を冷却し、可塑化して、O/W/O型の乳化形態の本発明の油中水中油型乳化油脂組成物を得る。冷却、可塑化する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。
【0086】
なお、O/W/O型の乳化形態の、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させても、させなくても構わない。
【0087】
次に2つめの方法を以下に説明する。
まず、水に、必要に応じ副原料を添加・混合した水相を用意する。一方、油脂に、必要に応じ副原料を必要に応じ副原料を添加・混合した油相1(内油相)、及び直接β型の油脂結晶を5質量%以上(油相基準)含有する油脂に必要に応じ副原料を添加・混合した油相2(外油相)を用意する。
【0088】
次いで、上記水相と上記油相1とを混合し、予備乳化し、コロイドミル、ホモミキサー等を用いて乳化してO/W型乳化物を得る。そして、これを放置若しくは冷却して調温すればよい。なお、乳化時の品温は70〜90℃、好ましくは75℃〜85℃である。この温度範囲外では、適性な物性の水中油型乳化油脂組成物が得られなかったり、分離し易くなる。また、そのO/W型乳化物の好ましい粘度は、30℃における粘度が好ましくは5〜150Pa・s、より好ましくは30〜100Pa・sである。この範囲外であると、下記可塑性油脂組成物と混合する際に、混合性が悪く、均質な混合ができない恐れがある。また、30℃における粘度が5Pa・s未満であると、耐熱保型性が悪化しやすく、また、150Pa・sを超えると食感が重すぎてしまう恐れがある。
【0089】
一方、上記油相2を冷却し、可塑化して、直接β型の油脂結晶を5質量%以上(油相基準)含有するショートニングの形態である可塑性油脂組成物を得る。ここで冷却、可塑化する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。なお、該可塑性油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させても、させなくても構わない。
【0090】
次に、上記O/W型乳化物と、上記可塑性油脂組成物を起泡させない様に混合し、O/W/O型の乳化形態の、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物を得る。
【0091】
このO/W/O型の乳化形態の、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の製造方法の、1つ目の方法と2つめの方法では、より多くの水相を含有させることが可能なため、口溶けが良好でありながら耐熱性が高いものが得られる点で、2つ目の方法が好ましい。
【0092】
次に、O/O型の乳化形態の本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の製造方法について説明する。
【0093】
O/O型の乳化形態とは、O/W/O型の乳化形態の一種であり、外油相中に、唯1つの内油相をもったO/W乳化物が多数存在する状態を指す。O/O型の乳化形態の油中水中油型乳化油脂組成物を製造する方法としては、例えば以下の2つの方法が挙げられる。
1つめの方法を以下に説明する。
【0094】
まず、水に、必要に応じ副原料を添加・混合した水相を用意する。一方、油脂に、必要に応じ副原料を必要に応じ副原料を添加・混合した油相1(内油相)、及び直接β型の油脂結晶を5質量%以上(油相基準)含有する油脂に必要に応じ副原料を添加・混合した油相2(外油相)を用意する。
【0095】
そして、上記の油相1(内油相)、水相及び油相2(外油相)を乳化し、O/W/O型乳化物を製造する。次に、該O/W/O型乳化物を殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。 次いで、上記O/W/O型乳化物を冷却、可塑化、転相させて、O/O型の本発明の油中水中油型乳化油脂組成物を得る。冷却、可塑化、転相させる機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。
【0096】
2つめの方法を以下に説明する。
【0097】
まず、水に、必要に応じ副原料を添加・混合した水相を用意する。一方、油脂に、必要に応じ副原料を必要に応じ副原料を添加・混合した油相1(内油相)、及び直接β型の油脂結晶を5質量%以上(油相基準)含有する油脂に必要に応じ副原料を添加・混合した油相2(外油相)を用意する。
【0098】
そして、上記水相と上記油相とを乳化してO/W型乳化物を得る。次に、O/W型乳化物を殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。
【0099】
次いで、上記O/W型乳化物を冷却、可塑化、転相させて、O/O型の本発明の油中水中油型乳化油脂組成物を得る。冷却、可塑化、転相させる機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。
【0100】
なお、O/O型の乳化形態の、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物を製造する際のいずれかの製造で、窒素、空気等を含気させても、させなくても構わない。
本発明の油中水中油型乳化油脂組成物は、練込用、ロールイン用、フィリング用、サンド用、トッピング用、スプレッド用、スプレー用、コーティング用、調理用として広く使用可能であるが、耐熱性と口溶けが共に良好であるため、トッピング用、サンド用、フィリング用のバタークリームとして特に好適に使用できる。また、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物の上記用途における使用量は、各用途により異なるものであり、特に制限されるものではない。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により何等制限されるものではない。また、S:飽和脂肪酸、M:モノ不飽和脂肪酸を示す。
【0102】
〔実施例1〕
<水中油型乳化油脂組成物の製造>
米液状油43質量%、カラギーナン0.2質量%及び澱粉4質量%を混合し油相とした。一方、還元水あめ(糖分70質量%、水分30質量%)49.3質量%、HLB18であるポリグリセリン脂肪酸エステル1質量%、酵素処理卵黄2質量%、香料0.4質量%及び着色料0.1質量%を混合し水相とした。この油相と水相とを混合、予備乳化し、コロイドミルを用いて80℃の乳化物とした。この乳化物を20℃に徐冷して水中油型乳化油脂組成物を得た。この水中油型乳化油脂組成物の30℃での粘度は60Pa・s、水相糖濃度は70%であった。
<可塑性油脂組成物A(ショートニング)の製造>
ヨウ素価65のパーム分別軟部油をランダムエステル交換したエステル交換油脂66.7質量%、パーム分別中部油30質量%、パーム極度硬化油脂2質量%、HLBが13であるポリグリセリン脂肪酸エステル0.3質量%、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル1質量%からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、ショートニングタイプの可塑性油脂組成物Aを製造した。得られた可塑性油脂組成物Aの油相中において、SMSの含有量は21.0質量%で、MSMの含有量は6.0質量%であり、MSM/SMSのモル比は3.5であった。また、得られた可塑性油脂組成物Aの油相中において、SMSとMSMとからなるコンパウンド結晶の含有量は12.0質量%であった。
また、ガスクロマトグラフで測定したところ、得られた可塑性油脂組成物Aの全構成脂肪酸中、トランス酸含量は1質量%未満であり、実質的にトランス脂肪酸を含有していなかった。
<油中水中油型乳化油脂組成物(バタークリーム)の製造>
上記水中油型乳化油脂組成物80質量部をミキサーボウルに投入し、縦型ミキサーで起泡させない様に低速で混合しながら、25℃に調温した可塑性油脂組成物A20質量部を2分かけて徐々に添加、さらに、起泡させない様に、さらに低速1分混合し、外油相の含量が20質量%、水相の含量が44質量%、内油相の含量が36質量%、外油相中に直接β型油脂結晶を12.0質量%含有し、トランス酸含量は1質量%未満である、O/W/O型の乳化形態の、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物(バタークリーム)を得た。
得られた油中水中油型乳化油脂組成物(バタークリーム)は、下記官能テスト、及び、耐熱保型性試験を実施した。
【0103】
〔実施例2〕
実施例1の油中水中油型乳化油脂組成物(バタークリーム)の製造の際に、上記水中油型乳化油脂組成物を72質量部に変更し、可塑性油脂組成物Aを28質量部に変更した以外は実施例1と同様の配合・製法で、外油相の含量が28質量%、水相の含量が41質量%、内油相の含量が31質量%、外油相中に直接β型油脂結晶を12.0質量%含有し、トランス酸含量は1質量%未満である、O/W/O型の乳化形態の、本発明の油中水中油型乳化油脂組成物(バタークリーム)を得た。
得られた油中水中油型乳化油脂組成物(バタークリーム)は、下記官能テスト、及び、耐熱保型性試験を実施した。
【0104】
〔実施例3〕
大豆液状油32質量%及び澱粉4質量%からなる油相1と、還元水あめ(糖分70質量%、水分30質量%)39.2質量%、練乳4質量%、HLB18であるポリグリセリン脂肪酸エステル0.4質量%、香料0.3質量%及び着色料0.1質量%からなる水相とを混合し、50〜60℃でゆるやかに(分離しない程度に)攪拌し、次いで、この混合物をホモジナイザーに通しO/W型乳化物を得た。次に、このO/W型乳化物を、別途調製したヨウ素価65のパーム分別軟部油をランダムエステル交換したエステル交換油脂13.4質量%、パーム分別中部油6質量%、パーム極度硬化油脂0.5質量%、HLBが13であるポリグリセリン脂肪酸エステル0.1質量%、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル0.2質量%からなる油相2を60℃に加温し、上記O/W型乳化物に加え、50〜60℃で混合し、ボテーターにて急冷可塑化して、外油相の含量が20質量%、水相の含量が44質量%、内油相の含量が36質量%、外油相中に直接β型油脂結晶を12.0質量%含有し、トランス酸含量は1質量%未満である、O/W/O型の乳化形態である本発明の油中水中油型乳化油脂組成物(バタークリーム)を得た。
得られた油中水中油型乳化油脂組成物(バタークリーム)は、下記官能テスト、及び、耐熱保型性試験を実施した。
【0105】
〔比較例1〕
可塑性油脂組成物A(ショートニング)を下記の配合・製法で得られた可塑性油脂組成物Bに変更した以外は、実施例1と同様の配合・製法で、外油相の含量が20質量%、水相の含量が44質量%、内油相の含量が36質量%であり、外油相中に直接β型油脂結晶を2質量%未満含有し、トランス酸含量は1質量%未満である、O/W/O型の乳化形態である比較例の油中水中油型乳化油脂組成物(バタークリーム)を得た。
得られた油中水中油型乳化油脂組成物(バタークリーム)は、下記官能テスト、及び、30℃での耐熱保型性試験を実施した。
<可塑性油脂組成物B(ショートニング)の製造>
大豆硬化油(融点35℃)(SMS含量は2質量%未満、MSM含量は1質量%未満)20質量%、大豆硬化油(融点25℃)(SMS含量は2質量%未満、MSM含量は1質量%未満)56.7質量%、パーム分別中部油(SMS含量は65質量%、MSM含量は1質量%未満)20質量%、パーム極度硬化油脂2質量%、HLBが13であるポリグリセリン脂肪酸エステル0.3質量%、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル1質量%からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、SMSとMSMとからなるコンパウンド結晶の含有量は2質量%未満である、ショートニングタイプの可塑性油脂組成物Bを製造した。
また、ガスクロマトグラフで測定したところ、得られた可塑性油脂組成物Bの全構成脂肪酸中、トランス酸含量は1質量%であった。
得られた油中水中油型乳化油脂組成物(バタークリーム)は、下記官能テスト、及び、耐熱保型性試験を実施した。
【0106】
〔比較例2〕
大豆硬化油(融点35℃)(SMS含量は2質量%未満、MSM含量は1質量%未満)15.6質量%、大豆硬化油(融点25℃)(SMS含量は2質量%未満、MSM含量は1質量%未満)44.2質量%、パーム分別中部油(SMS含量は65質量%、MSM含量は1質量%未満)15.6質量%、パーム極度硬化油脂1.6質量%、HLBが13であるポリグリセリン脂肪酸エステル0.2質量%、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル0.8質量%、カラギーナン0.1質量%、澱粉2質量%からなる油相を、70℃まで加温して完全に溶解し混合した後、還元水あめ(糖分70質量%、水分30質量%)18.16質量%、HLB18であるポリグリセリン脂肪酸エステル0.5質量%、酵素処理卵黄1質量%、香料0.2質量%及び着色料0.04質量%からなる水相を添加して予備乳化液を得た。この予備乳化液を−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、油相中に、SMSとMSMとからなるコンパウンド結晶の含有量が2質量%未満である油中水型乳化油脂組成物(バタークリーム)を製造した。
また、ガスクロマトグラフで測定したところ、得られた油中水型乳化油脂組成物の全構成脂肪酸中、トランス酸含量は1質量%であった。
得られた油中水型乳化油脂組成物(バタークリーム)は、下記官能テスト、及び、耐熱保型性試験を実施した。
【0107】
<油中水中油型乳化油脂組成物(バタークリーム)評価方法>
実施例1〜4と比較例1、2で得られたバタークリームの口溶け、油性感については、25℃の品温に1晩調温したサンプルを用い、4段階で評価した。
また、耐熱保型性の比較は、バタークリームをいったん25℃に調温、これを絞り袋にいれ、菊型口金でシャーレに花型に絞り蓋をし、これを60分5℃に調温後、20℃、25℃、30℃、35℃の各恒温槽に一晩おき、離水状況、ダレの状況を観察し、4段階で評価した。
【0108】
得られたこれらの結果を表1に示す。
<バタークリーム評価結果>
【0109】
【表1】

【0110】
口融け評価
◎+ 極めて良好
◎ 大変良好
○ 良好
△ やや劣る
× 不良
油性感評価
◎ さっぱりとしてみずみずしく、キレがある。
○ さっぱりとしているがややキレが劣る
△ やや油っぽさを感じる
× 油っぽく、キレが悪い
耐熱保型性評価
◎ 離水なく、保型性も全く問題なし
○ やや離水が見られるが、保型性は全く問題なし。
△ 離水があり、保型性もやや悪い
× 離水が激しく、保型性も悪い

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外油相が直接β型油脂結晶を5質量%以上(外油相基準)含有することを特徴とする油中水中油型乳化油脂組成物。
【請求項2】
外油相の含量が10〜30質量%であることを特徴とする請求項1記載の油中水中油型乳化油脂組成物。
【請求項3】
水相の含量が40〜65質量%であることを特徴とする請求項1または2記載の油中水中油型乳化油脂組成物。
【請求項4】
直接β型の油脂結晶を5質量%以上(油相基準)含有する可塑性油脂組成物と、水中油型乳化物を、起泡させない様に混合することを特徴とする油中水中油型乳化油脂組成物の製造方法。


【公開番号】特開2007−116984(P2007−116984A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313561(P2005−313561)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】