説明

油中水型ロールイン用乳化油脂組成物

【課題】 浮きが良好でありながら、さくい食感(低水分の層状ベーカリー製品ではサクサクし、中〜高水分の層状ベーカリー製品では歯切れが良いこと)を示す層状ベーカリー製品を得ることのできる油中水型ロールイン用乳化油脂組成物、及びこれを用いた層状ベーカリー製品を提供すること。
【解決手段】 直接β型の油脂結晶を油相中に5質量%以上含有し、且つ、水相のpHが1〜6であることを特徴とする油中水型ロールイン用乳化油脂組成物、及びこれを用いた層状ベーカリー製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮きが良好でありながら、さくい食感を示す層状ベーカリー製品を得ることのできる油中水型ロールイン用乳化油脂組成物、及び、これを用いた層状ベーカリー製品に関する。
【背景技術】
【0002】
デニッシュ・ペーストリー、クロワッサン、パイ等の層状ベーカリー製品は、小麦粉生地とロールイン用油脂組成物とを併せて、折り畳み、圧延を繰り返して薄い油脂層と薄い小麦粉生地層を多数有する層状生地し、これを加熱することで得られるものである。
この層状生地において、油脂層は、小麦粉生地層の相互の付着を防止し、加熱中には、小麦粉生地から発生する水蒸気や炭酸ガスの発散を遮り、ベーカリー製品を層状に膨張させる作用を有する。そして、油脂層は最終的に溶けて小麦粉生地層に吸収され、さらにその小麦粉生地層は、生地中の澱粉が糊化し、蛋白質が熱変性することによって凝固し、独特の層状構造が形成され、層状ベーカリー食品となるのである。
ここで、この層状ベーカリー製品の層状構造を形成させるには、ロールイン用油脂組成物の物性や添加量、折り数等が密接に関係している。
従来わが国においては、層状ベーカリー製品においてもソフトな食感のものが求められていたが、最近は、オーブンフレッシュベーカリーをはじめ、ホールセールにおいても、さくい食感(低水分の層状ベーカリー製品ではサクサクし、中〜高水分の層状ベーカリー製品では歯切れが良いこと)を呈する層状ベーカリー製品が好まれるようになってきている。
【0003】
そのため、水分含量に係わらず、さくい食感を示す層状ベーカリー製品を得るためのロールイン用油脂が各種開発されてきた。例えば、エタノールを含有するロールイン用油中水型乳化油脂組成物(例えば特許文献1参照)、システイン等の還元剤を0.0001〜0.1%及び/又はカルボン酸を0.01〜2%含有するロールイン用油中水型乳化油脂組成物(例えば特許文献2参照)、モノグリセリド有機酸エステルを含有するロールイン用油脂組成物(例えば特許文献3参照)、デキストリンを含有する油中水型乳化組成物(例えば特許文献4参照)が記載されている。
【0004】
しかし、特許文献1に記載された方法は、ロールイン用油脂組成物中の水を減らしながら可塑性を付与するために揮発性が高いエタノールを使用することで、ロールイン用油脂組成物中の水の一部を代替しただけであるため、さくい食感の改良効果は極めて弱いものであった。また、特許文献2に記載された方法は、還元剤及び/又はカルボン酸が積層生地において生地層と油脂層の界面に作用するというものであるが、その添加量が多いため、生地が脆弱化してしまい、焼成時の生地膜が弱くて蒸発する水分を保持できず、浮きが悪化してしまう問題があった。そのため、その実施例に示されているとおり、対生地100部というロールイン用油脂組成物使用量としては極めて多い配合量として従来の浮きを保つ必要があり、その場合油脂分が極めて多く食感が悪い上、層が剥れやすい、商品価値に乏しい層状ベーカリー製品になってしまう。さらに特許文献3に記載の方法は、モノグリセリド有機酸エステルは油溶性であるため、添加量あたりの食感改良効果が十分なものではなく、効果を高めるために該乳化剤の添加量を増やすと、乳化剤の風味が感じられてしまう問題があった。そして、特許文献4に記載の方法は、層状ベーカリー食品の表面の食感しか改良することができず、ベーカリー食品の全体の歯切れやサクサク感を改良するものではない上、その効果も極めて弱いという問題があった。

【特許文献1】特開平10−229820号公報
【特許文献2】特開2001−045969号公報
【特許文献3】特開2000−253816号公報
【特許文献4】特開2005−034138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、浮きが良好でありながら、さくい食感を示す層状ベーカリー製品を得ることのできる油中水型ロールイン用乳化油脂組成物、及びこれを用いた層状ベーカリー製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物において、水相に酸性物質を含有させ、且つ、油相に、口溶けや伸展性が良好でありながら加工軟化度が極めて低く、耐熱性が良好である油脂を使用することで、水相に含まれる酸性物質が、ロールイン時やホイロ時には小麦粉生地に作用せず、焼成時にはじめて作用させることができるため、上記問題を解決可能であることを知見した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、油相中に直接β型の油脂結晶を5質量%以上含有し、且つ、水相のpHが1〜6であることを特徴とする油中水型ロールイン用乳化油脂組成物、該油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の製造方法、及び該油中水型ロールイン用乳化油脂組成物を使用した層状ベーカリー製品を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、浮きが良好でありながら、さくい食感を示す層状ベーカリー製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物について詳細に説明する。
【0009】
本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物は、油相中に直接β型の油脂結晶を5質量%以上含有し、且つ、水相のpHが1〜6であることを要す。
【0010】
先ず、上記の直接β型の油脂結晶について説明する。
直接β型の油脂結晶とは、油脂結晶を融解し、冷却し、結晶化したときに、熱エネルギー的に不安定なα型結晶から、準安定形のβプライム型を経由せず、最安定形のβ型結晶に直接転移する油脂結晶のことである。この際、上記の結晶化条件は如何なる結晶化条件であってもよく、テンパリング等の特殊な熱処理を必要としない。
【0011】
本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物は、油相中に上記直接β型の油脂結晶を5質量%以上、好ましくは5質量%以上50質量%以下、より好ましくは5質量%以上30質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上20質量%以下含有する。油相中の直接β型の油脂結晶の含有量が5質量%未満であると、口溶けや伸展性が良好でありながら加工軟化度が極めて低く、且つ、耐熱性が良好なロールイン用油脂が得られない。そして、ロールイン時や、ホイロ時には水相に含まれる酸性物質が小麦粉生地に作用せず、焼成時にはじめて作用するような効果が得られない。さらにイーストを含むデニッシュ生地などの場合は染み込んだ水相成分により発酵阻害がおき、浮きや食感が悪化してしまう。また、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の保管中に、経日的に20μmを越えたサイズを有するβ型結晶が出現しやすく、経日的に硬くなりやすい等、油脂結晶安定性の面でも十分に満足の得られるものとならない。
【0012】
ただし、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物は、油相中に直接β型の油脂結晶を5質量%以上含有していれば、直接β型の油脂結晶でない油脂結晶、例えばβプライム型の油脂結晶を含有していてもよい。
【0013】
本発明において、油脂結晶が直接β型であることを確認する方法としては、油脂結晶を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られる油脂結晶が、β型結晶であることを確認する方法が挙げられる。
【0014】
上記の油脂結晶がβ型結晶であることを確認する方法としては、例えば、X線回析測定において、以下のように短面間隔を測定する方法が挙げられる。
【0015】
具体的には、油脂結晶について、短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7オングストロームの面間隔に対応する強い回析ピークを示した場合に、該油脂結晶はβ型結晶であると判断する。さらにより高い精度で測定する場合は、短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7オングストロームの面間隔に対応する範囲に最大値を有するピーク強度(ピーク強度1)及び4.2〜4.3オングストロームの面間隔に対応する範囲に最大値を有するピーク強度(ピーク強度2)をとり、ピーク強度1/ピーク強度2の比が1.3以上、好ましくは1.7以上、より好ましくは2.2以上、最も好ましくは2.5以上となった場合にβ型結晶であると判断する。
【0016】
また、上記の直接β型の油脂結晶は、トリグリセリド分子のパッキング状態が2鎖長構造であることが好ましい。油脂結晶が2鎖長構造であることを確認する方法としては、例えばX線回析測定による方法が挙げられる。
【0017】
具体的には、油脂結晶について、長面間隔を2θ:0〜8度の範囲で測定し、40〜50オングストロームに相当する回折ピークを示した場合に、該油脂結晶は2鎖長構造をとっていると判断する。
【0018】
尚、従来のマーガリンやショートニング等の可塑性油脂に用いられている油脂結晶を70℃で完全融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られる油脂結晶は、2鎖長構造であるが、準安定形のβプライム型である。また、主にチョコレート等の油脂性菓子に用いられるカカオ脂も、70℃で完全融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られる油脂結晶は、2鎖長構造であるが、準安定形のβプライム型である。
【0019】
また、上記の直接β型の油脂結晶は、実質的に微細結晶であることが好ましい。上記の微細結晶とは、油脂の結晶が微細であることであり、口にしたり、触った際にもザラつきを感ずることのない結晶であることを意味し、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm、最も好ましくは3μm以下のサイズの油脂結晶を指す。上記サイズとは、結晶の最大部位の長さを示すものである。
【0020】
上記の直接β型の油脂結晶の結晶サイズが20μmを越えた油脂結晶であると、該油脂結晶を含有する油中水型ロールイン用乳化油脂組成物を口にしたり、触った際にザラつきを感じやすい。
【0021】
なお、「実質的に」とは、全ての直接β型の油脂結晶のうち微細結晶を90質量%以上含有することを指す。
【0022】
ここで、上記の油相とは、油脂に、必要に応じて、乳化剤、着色料、酸化防止剤、着香料、調味料等を添加したものを指す。また、上記の油脂には、乳製品、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材から抽出される脂肪分も含まれる。
【0023】
次に、本発明で言うところの直接β型の油脂結晶の例を挙げる。
【0024】
上記の直接β型の油脂結晶の1つめの例として、StEE(St:ステアリン酸、E:エライジン酸)で表されるトリグリセリド(以下StEEとする)の油脂結晶が挙げられる。
【0025】
StEEの油脂結晶は、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の油相中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは5質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上30質量%以下、最も好ましくは5質量%以上20質量%以下となるように含有させる。
【0026】
本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物中に、好ましくは上記のような範囲で、StEEの油脂結晶を含有させるために、本発明ではStEEを含有する油脂を用いることができる。
【0027】
上記のStEEを含有する油脂としては、例えば、大豆油、ひまわり油、シア脂、サル脂の中から選ばれた1種又は2種以上に水素添加及び分別から選択される1又は2種類の処理を施した加工油脂を用いることができる。さらに好ましくは、ハイオレイックひまわり硬化油、シア分別軟部油の硬化油又はこの硬化油の分別硬部油、サル分別軟部油の硬化油又はこの硬化油の分別硬部油を用いることが望ましい。
【0028】
また、上記の直接β型の油脂結晶の2つめの例として、S1MS2(S1及びS2は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリド(以下S1MS2とする)と、MS3M(S3は飽和脂肪酸、Mはモノ不飽和脂肪酸を表す)で表されるトリグリセリド(以下MS3Mとする)とからなるコンパウンド結晶が挙げられる。
【0029】
上記のS1MS2のS1及びS2並びにMS3MのS3は、好ましくは炭素数16以上の飽和脂肪酸であり、さらに好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸である。また、本発明において、上記のS1、S2及びS3が、同じ飽和脂肪酸であるのが最も好ましい。
【0030】
また、上記のS1MS2のM及びMS3MのMは、好ましくは炭素数16以上のモノ不飽和脂肪酸、さらに好ましくは炭素数18以上のモノ不飽和脂肪酸、最も好ましくはオレイン酸である。
【0031】
上記のS1MS2とMS3Mとからなるコンパウンド結晶とは、構造の異なるS1MS21分子とMS3M1分子とが混合された際、あたかも単一のトリグリセリド分子であるかの如き結晶化挙動を示すものである。コンパウンド結晶は分子間化合物とも呼ばれる。
【0032】
本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物において、上記のS1MS2とMS3Mとからなるコンパウンド結晶は、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の油相中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは5質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上30質量%以下、最も好ましくは5質量%以上20質量%以下となるように含有させる。
【0033】
また、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の油相中、上記のS1MS2の含有量は、好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以上15質量%以下、最も好ましくは2.5質量%以上10質量%以下であり、上記のMS3Mの含有量は、好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以上15質量%以下、最も好ましくは2.5質量%以上10質量%以下である。
【0034】
さらに、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物において、MS3Mのモル数/S1MS2のモル数が、好ましくは0.4〜7.0、さらに好ましくは0.8〜5.0となるように含有させる。
【0035】
本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物中に、好ましくは上記のような範囲で、S1MS2とMS3Mとからなるコンパウンド結晶を含有させるために、本発明ではS1MS2を含有する油脂及びMS3Mを含有する油脂を混合して用いてもよい。
【0036】
上記のS1MS2を含有する油脂としては、例えば、パーム油、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、コクム脂、デュパー脂、モーラー脂、フルクラ脂、チャイニーズタロー等の各種植物油脂、これらの各種植物油脂を分別した加工油脂、並びに下記に記載するエステル交換油、該エステル交換油を分別した加工油脂を用いることができる。本発明では、上記の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0037】
上記のエステル交換油としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種動植物油脂、これらの各種動植物油脂を必要に応じて水素添加及び/又は分別した後に得られる加工油脂、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油が挙げられる。
【0038】
本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物においては、上記のS1MS2を含有する油脂として、S1MS2と共に、後に詳述する3飽和トリグリセリドをも含有する点において、パーム油や、パームステアリン、パームオレイン、パーム中部油等のパーム分別油、これらを用いて製造したエステル交換油のうちの1種又は2種以上を使用することがより好ましい。
【0039】
上記のMS3Mを含有する油脂としては、例えば、豚脂、豚脂分別油、下記に記載するエステル交換油を用いることができ、本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0040】
上記のエステル交換油としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種動植物油脂、これらの各種動植物油脂を必要に応じて水素添加及び/又は分別した後に得られる加工油脂、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油が挙げられる。
【0041】
本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物においては、上記のMS3Mを含有する油脂として、MS3Mと共に、後に詳述する3飽和トリグリセリドをも含有する点において、パーム油や、パームステアリン、パームオレイン、パーム中部油等のパーム分別油を用いて製造したエステル交換油のうちの1種又は2種以上を使用することがより好ましい。
【0042】
本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物において、上記のS1MS2を含有する油脂は、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の油相中、S1MS2が好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以上15質量%以下、最も好ましくは2.5質量%以上10質量%以下となるよう含有させ、上記のMS3Mを含有する油脂は、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の油相中、MS3Mを好ましくは2.5質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以上15質量%以下、最も好ましくは2.5質量%以上10質量%以下となるよう含有させる。
【0043】
本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物においては、直接β型の油脂結晶として、1つめの例として挙げた上記StEEの油脂結晶、及び2つめの例として挙げたS1MS2とMS3Mで表されるトリグリセリドとからなるコンパウンド結晶のどちらを用いてもよく、また両者を併用してもよいが、トランス酸を含まなくても製造できる点で、後者のコンパウンド結晶を使用することがより好ましい。
【0044】
また、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物では、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(A)を油相中に好ましくは5質量%以上30質量%以下、より好ましくは5質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上20質量%以下含有し、且つ、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の同一の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(B)が(A)の60質量%以上、好ましくは70質量%以上であることことにより、さらに加工軟化度が低く、ホイロ時の耐熱性が良好であり、且つ、結晶安定性の面でも更に良好な油中水型ロールイン用乳化油脂組成物を得ることが可能となる。
【0045】
なお、上記炭素数16以上の飽和脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸などが挙げられるが、入手が容易であること、結晶性が良好であることから、パルミチン酸、又は、ステアリン酸であることが好ましく、より好ましくはパルミチン酸を使用する。
【0046】
本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物においては、上記の3飽和トリグリセリドの起源として、パームステアリン、パームステアリンのランダムエステル交換油、及びパームステアリンを含む油脂配合物のランダムエステル交換油から選択された1種又は2種以上を使用することが好ましい。
【0047】
パームステアリンは、S1MS2を20〜40質量%含有する上に、更に、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(A)を30〜60質量%含有し、且つ、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の同一の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(B)が(A)の60質量%以上を占めているため、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物において、3飽和トリグリセリドの起源として極めて好適に使用することができる。
【0048】
3飽和トリグリセリドの起源としては、このようなパームステアリンをそのまま使用することができるが、パームステアリンにランダムエステル交換を行なった油脂、更にはパームステアリンにパーム核軟部油やパーム油等の他の油脂を添加してランダムエステル交換した油脂を使用することもでき、また、パームステアリンに、脂肪酸、脂肪酸低級アルコールエステルを添加してランダムエステル交換を行なった油脂を使用することもできる。
【0049】
本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の油相は、上記StEE、上記S1MS2、上記MS3M、上記StEEを含有する油脂、上記S1MS2を含有する油脂、及び、上記MS3Mを含有する油脂のうちの1種又は2種以上を適宜組み合わせ、さらに必要に応じ上記の3飽和トリグリセリドを含有する油脂を加えて、直接β型の油脂結晶を油相中に5質量%以上含有するように配合することにより得ることができる。
【0050】
その際、上記パームステアリン、パームステアリンのランダムエステル交換油、及びパームステアリンを含む油脂配合物のランダムエステル交換油から選択される1種又は2種以上に、豚脂、各種エステル交換油等の上記MS3Mを含有する油脂を組み合わせることがさらに好ましい。
【0051】
また、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物において、その他の油脂を用いても良い。その他の油脂を用いる場合、その他の油脂の含有量は、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の油相中、好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下、最も好ましくは70質量%以下とする。その他の油脂としては、通常の加工食品に用いられる食用油脂であれば、特に限定されず、動物油脂、植物油脂等の天然油脂、及びこれらの油脂の部分硬化油脂、完全硬化油脂、分別油脂、エステル交換油脂、ランダムエステル交換油脂等の単独あるいは混合油脂が使用出来る。
【0052】
また、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物は、トランス酸を実質的に含有しないことが好ましい。
【0053】
水素添加は油脂の融点を上昇させる典型的な方法であるが、これによって得られる水素添加油脂は、完全水素添加油脂を除いて、通常構成脂肪酸中にトランス酸が10〜50質量%程度含まれている。一方、天然油脂中にはトランス酸が殆ど存在せず、反芻動物由来の油脂に10質量%未満含まれているにすぎない。近年、化学的な処理、特に水素添加に付されていない油脂組成物、即ち実質的にトランス酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有するものが要求されている。
【0054】
ここでいう「実質的に」とは、トランス酸含量が、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の全構成脂肪酸中、好ましくは10質量%未満、さらに好ましくは5質量%未満、最も好ましくは2質量%未満であることを意味する。
【0055】
本発明では、直接β型結晶を得る際に、StEEではなく、S1MS2とMS3Mとからなるコンパウンド結晶を使用することで、水素添加油脂を使用せずとも良好なコンステンシーを有するため、上記その他の油脂として部分硬化油脂を使用しないことで、トランス酸を実質的に含有しない油中水型ロールイン用乳化油脂組成物を簡単に得ることができる。
【0056】
さらに、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物においては、油分含量が好ましくは50質量%以上99質量%以下、より好ましくは70質量%以上95質量%以下、さらに好ましくは85質量%以上95質量%以下であることが、伸展性が良好で、且つ、得られる層状ベーカリー食品の浮きが良好である点で好ましい。油分含量が50質量%未満であると、層の結着性が悪くなってしまい、浮きが悪くなってしまうおそれがあり、また、99質量%以上であると、本発明の効果が十分に得られないおそれがあることに加え、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物がもろい物性となるため、伸展性が悪くなるおそれがある。なお、上記油分含量は、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物において下記のその他の成分を使用する場合は、その中に含まれる油分も算入して算出する。
【0057】
ここで、ある油中水型ロールイン用乳化油脂組成物が、直接β型の油脂結晶を含有していることを確認する方法について述べる。
【0058】
まず、第1の方法として、ある油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の油相のトリグリセリド組成を分析し、直接β型の油脂結晶となるトリグリセリド、例えば、StEE、又はS1MS2及びMS3Mの油相中の含有量を測定し、直接β型の油脂結晶となるトリグリセリドが油相中に含有されていること、好ましくはその含有量が前記範囲内にあることを確認することにより、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物が直接β型の油脂結晶を含有していることを確認する方法が挙げられる。
【0059】
また、第2の方法として、油相中に上記直接β型の油脂結晶となるトリグリセリド、例えば、StEE、又はS1MS2及びMS3Mを含有している油脂が配合されていること、好ましくは上記StEE、又はS1MS2及びMS3Mが油相中に前記範囲内の含有量となるように配合されていることを確認する方法が挙げられる。
【0060】
更に、より簡単な方法である第3の方法として、ある油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の油相を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることを確認することによって、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物が直接β型の油脂結晶を含有していることを確認する方法が挙げられる。
【0061】
なお、第3の方法において、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の油相の油脂結晶が下に示すような微細結晶であることが確認された場合は、油相を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で7日間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることを確認することによって、直接β型の油脂結晶を含有していることを確認することができる。この場合、ある油中水型ロールイン用乳化油脂組成物中の直接β型の油脂結晶の含有量が多いほど、5℃での保持時間が短くても、得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶となるため、5℃で7日間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることよりも、5℃で4日間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることがさらに好ましく、5℃で1日間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることが一層好ましく、5℃で1時間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることがさらに一層好ましく、5℃で30分間保持した際に得られる油脂結晶が2鎖長構造のβ型結晶であることが最も好ましい。
【0062】
上記の第3の方法において、5℃での保持期間後に得られた油脂結晶がβ型結晶であることを判断する方法としては、X線回析測定において、以下のように短面間隔を測定することにより判断できる。
【0063】
具体的には、油脂結晶について、短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7オングストロームの面間隔に対応する強い回析ピークを示した場合に、該油脂結晶はβ型結晶であると判断する。さらにより高い精度で測定する場合は、短面間隔を2θ:17〜26度の範囲で測定し、4.5〜4.7オングストロームの面間隔に対応する範囲に最大値を有するピーク強度(ピーク強度1)及び4.2〜4.3オングストロームの面間隔に対応する範囲に最大値を有するピーク強度(ピーク強度2)をとり、ピーク強度1/ピーク強度2の比が1.3以上、好ましくは1.7以上、より好ましくは2.2以上、最も好ましくは2.5以上となった場合にβ型結晶であると判断する。
【0064】
また、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の油相の油脂結晶は、トリグリセリド分子のパッキング状態が2鎖長構造であることが好ましい。この2鎖長構造であることを確認する方法としては、例えばX線回析測定による方法が挙げられる。
【0065】
具体的には、油脂結晶について、長面間隔を2θ:0〜8度の範囲で測定し、40〜50オングストロームに相当する回折ピークを示した場合に、該油脂結晶は2鎖長構造をとっていると判断する。
【0066】
また、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の油相の油脂結晶は、微細結晶であることが好ましい。上記の微細結晶とは、油脂の結晶が微細であることであり、口にしたり、触った際にもザラつきを感ずることのない結晶であることを意味し、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm、最も好ましくは3μm以下のサイズの油脂結晶を指す。上記サイズとは、結晶の最大部位の長さを示すものである。
【0067】
本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の油相の油脂結晶のサイズが20μmを越えた油脂結晶であると、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物を口にしたり触った際にザラつきを感じやすく、また、液状油成分を保持することが困難となり、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物が油にじみを起こしやすく、水相成分及び油脂結晶により形成される3次元構造中に維持できにくくなる。
【0068】
次に、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の水相について述べる。
本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の水相のpHは1〜6、好ましくは2〜6、最も好ましくは2〜4である。
pHが1未満であると、得られる層状ベーカリー製品の食感が脆くなりすぎる上に、酸味が強くなりすぎて風味が好ましくないことに加え、美味しそうな焼き色も得られない。
【0069】
またpHが6を超えるとさくい食感が得られない。
【0070】
なお、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物はpHの異なる2種以上の水相を含有するものであってもよいが、その場合は、全水相をあわせ、均一な溶液とした場合の水溶液のpHをもって、水相のpHとする。
【0071】
本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物は油中水型であることが必須であり、水中油型であると、ロールイン時や、ホイロ時には水相成分が小麦粉生地に作用せず、焼成時にはじめて作用するような効果が得られない。なお、本発明における油中水型には、油中水中油型をも含むものである。
【0072】
本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物においては、水相を上記pH範囲とするために使用する酸性物質としては、有機酸が、マイルドな酸味が得られる点、及び、水相の緩衝作用が得られる点で好ましい。
【0073】
なお、上記有機酸は、酪酸、酢酸、乳酸、りんご酸、クエン酸 、グルコン酸、フマル酸、酒石酸、フィチン酸、アスコルビン酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上であることがよりマイルドな酸味が得られる点で好ましく、なかでも、乳酸、りんご酸、クエン酸 、グルコン酸、フマル酸、酒石酸、フィチン酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上であることが、爽やかで且つ、マイルドな酸味が得られる点で好ましい。
なお、上記乳酸として、乳酸発酵物を使用することも、もちろん可能である。
【0074】
さらに、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物においては、水分含量が1質量%以上20質量%以下であることが、よりさくい食感のものが得られる点で好ましく、5質量%以上15質量%以下であることが更に好ましい。水分含量が1質量%未満であると、本発明の効果が十分に得られないおそれがあることに加え、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物がもろい物性となるため、伸展性が悪くなり、また逆に20質量%より多いと、得られる層状ベーカリー食品が、焼成直後にねちゃついた食感となってしまうおそれがある。なお、上記水分含量は、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物において下記のその他の成分を使用する場合は、その中に含まれる水分も算入して算出する。
【0075】
その他、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物に含有させることができるその他の成分としては、例えば、乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酸味料、牛乳・れん乳・脱脂粉乳・ホエーパウダー・バター・クリーム・ナチュラルチーズ・プロセスチーズ等の乳や乳製品、カゼイン等の乳蛋白、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β―カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、調味料、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0076】
本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物において、油脂以外の成分の使用量は、それらの成分の使用目的等に応じて適宜選択することができ、特に制限されるものではないが、好ましくは全油脂分100質量部に対して合計で50質量部以下とする。
【0077】
上記乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、例えば、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄等の合成乳化剤でない乳化剤を用いることができる。
【0078】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記増粘安定剤の含有量は、特に制限はないが、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物中、好ましくは0〜10質量%、さらに好ましくは0〜5質量%である。また本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物において、上記増粘安定剤が必要でなければ、増粘安定剤を用いなくてもよい。
【0079】
次に、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の好ましい製造方法を説明する。
【0080】
本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物は、直接β型の油脂結晶となるトリグリセリドを5質量%以上含有する油相を溶解した後、pHが1〜6である水相を混合乳化し、冷却し、結晶化させることにより製造することができる。
【0081】
詳しくは、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物は、直接β型の油脂結晶となるトリグリセリドを5質量%以上含有する油相に、pHが1〜6である水相を混合乳化後、次に殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法はタンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。次に、冷却し、結晶化する。本発明において、冷却条件は好ましくは−0.5℃/分以上、さらに好ましくは−5℃/分以上である。この際、徐冷却より急速冷却の方が好ましいが、本発明では徐冷却であっても、微細なβ型結晶をとり、可塑性範囲が広く、経日的にも硬さが変化せず安定した油中水型ロールイン用乳化油脂組成物を得ることができる。冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えばボテーター、コンビネーター、パーフェクター等の油脂組成物製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。
【0082】
また、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させても、させなくても構わない。
【0083】
さらに、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物は、その形状に関して、シート状、ブロック状、円柱状、直方体等の形状としてもよい。各々の形状についての好ましいサイズは、シート状:縦50〜1000mm、横50〜1000mm、厚さ1〜50mm、ブロック状:縦50〜1000mm、横50〜1000mm、厚さ50〜500mm、円柱状:直径1〜25mm、長さ5〜100mm、直方体:縦5〜50mm、横5〜50mm、高さ5〜100mmである。
次に、本発明の層状ベーカリー製品について説明する。
本発明の層状ベーカリー製品は、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物を使用して得られる、デニッシュ・ペーストリー、クロワッサン、パイ等の、パフ性(浮き)が良好で、さくい食感を示すベーカリー食品である。
【0084】
また、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の上記用途における使用量は、目的とする製品により異なるものであり、特に限定されるものではないが、十分な浮きの層状ベーカリー製品を得るためには、小麦粉生地がイーストを含まないものである場合、小麦粉生地に使用する穀粉類100質量部に対し、本発明の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の使用量は、好ましくは30〜130質量部、より好ましくは50〜100質量部である。なお、小麦粉生地がイーストを含むものである場合、好ましくは20〜100質量部、より好ましくは25〜80質量部である。
【0085】
また、本発明の層状ベーカリー製品における油脂層の層数は、目的とする製品により異なるものであり、特に限定されるものではないが、十分な浮きの層状ベーカリー製品を得るためには、小麦粉生地がイーストを含まないものである場合、好ましくは24〜1024層、より好ましくは16〜256層である。また、小麦粉生地がイーストを含むものである場合、好ましくは9〜96層、より好ましくは24〜64層である。
【0086】
さらに、この層状ベーカリー製品は、さらに、チョココーティングや、グレーズ、バタークリーム、マヨネーズなどをサンド、トッピングするなどの装飾を施してもよい。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により何等制限されるものではない。また、S:飽和脂肪酸、M:モノ不飽和脂肪酸を示す。
(油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の調製)
【0088】
〔実施例1〕
パームステアリンのランダムエステル交換油と、パームオレインのランダムエステル交換油とを、20/80の質量比で配合した混合油100質量部に、レシチン0.5質量部、グリセリンモノステアリン酸エステル0.5質量部、香料0.1質量部、及びミックストコフェロール0.01質量部を添加、溶解、混合し、油相とした。
一方、水100質量部に、食塩10質量部を添加、溶解、混合後、10%クエン酸水溶液を使用してpH3に調整し、水相とした。
上記油相89質量%と、上記水相11質量%を混合乳化した予備乳化物を、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物1を得た。
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物1の油相の油脂結晶は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であった。油中水型ロールイン用乳化油脂組成物1の油相を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られた油脂結晶について、2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折ピークを示し、また、4.6オングストロームの面間隔に対応する最大ピーク強度(ピーク強度1)及び4.2オングストロームの面間隔に対応する最大ピーク強度(ピーク強度2)をとり、ピーク強度1/ピーク強度2の比をとったところ3.0となり、この油脂結晶はβ型をとることが確認され、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物1は直接β型の油脂結晶を含有していることがわかった。さらに、この油脂結晶について、2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施したところ、46オングストロームに相当する回折ピークが得られ、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認された。
【0089】
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物1の油相中において、S1MS2(以下SMSという)の含有量は10.3質量%で、MS3M(以下MSMという)の含有量は7.7質量%であり、SMSとMSMとからなるコンパウンド結晶の含有量は15.4質量%、MSM/SMSのモル比は1.33であった。
よって、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物1の油相中において、直接β型の油脂結晶の含有量は15.4質量%であった。
また、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物1の油相中において、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(A)の含有量は14.7質量%であった。また、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の同一の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(B)は、油相中11.2質量%であり、(A)の内で76質量%を占めていた。
なお、ガスクロマトグラフで測定したところ、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物1の全構成脂肪酸中、トランス酸含量は2質量%未満であった。
【0090】
なお、得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物1は後述のベーカリー試験(パイの製造試験)に供した。
【0091】
〔実施例2〕
パームステアリン、豚脂、及び大豆液状油を、30/55/15の質量比で配合した混合油100質量部に、レシチン0.5質量部、グリセリンモノステアリン酸エステル0.5質量部、香料0.1質量部、及びミックストコフェロール0.01質量部を添加、溶解、混合し、油相とした。
一方、水100質量部に、食塩10質量部を添加、溶解、混合後、10%クエン酸水溶液を使用してpH3に調整し、水相とした。
上記油相89質量%と、上記水相11質量%を混合乳化した予備乳化物を、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物2を得た。
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物2の油相の油脂結晶は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であった。油中水型ロールイン用乳化油脂組成物2の油相を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られた油脂結晶について、2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折ピークを示し、また、4.6オングストロームの面間隔に対応する最大ピーク強度(ピーク強度1)及び4.2オングストロームの面間隔に対応する最大ピーク強度(ピーク強度2)をとり、ピーク強度1/ピーク強度2の比をとったところ3.0となり、この油脂結晶はβ型をとることが確認され、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物2は直接β型の油脂結晶を含有していることがわかった。さらに、この油脂結晶について、2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施したところ、46オングストロームに相当する回折ピークが得られ、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認された。
【0092】
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物2の油相中において、SMSの含有量は10.8質量%で、MSMの含有量は12.0質量%であり、SMSとMSMとからなるコンパウンド結晶の含有量は21.6質量%、MSM/SMSのモル比は1.11であった。
よって、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物2の油相中において、直接β型の油脂結晶の含有量は21.6質量%であった。
また、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物2の油相中において、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(A)の含有量は11.4質量%であった。また、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の同一の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(B)は、油相中7.9質量%であり、(A)の内で69質量%を占めていた。
なお、ガスクロマトグラフで測定したところ、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物2の全構成脂肪酸中、トランス酸含量は2質量%未満であった。
【0093】
なお、得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物2は後述のベーカリー試験(パイの製造試験)に供した。
【0094】
〔実施例3〕
実施例2における水相を、牛乳を原料とした醗酵乳100質量部に食塩10質量部を添加、溶解後、50%乳酸水溶液を使用してpH3に調整した水相に変更した以外は、実施例2と同様の配合・製法で、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物3を得た。
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物3の油相の油脂結晶は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であった。油中水型ロールイン用乳化油脂組成物3の油相を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られた油脂結晶について、2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折ピークを示し、また、4.6オングストロームの面間隔に対応する最大ピーク強度(ピーク強度1)及び4.2オングストロームの面間隔に対応する最大ピーク強度(ピーク強度2)をとり、ピーク強度1/ピーク強度2の比をとったところ2.6となり、この油脂結晶はβ型をとることが確認され、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物3は直接β型の油脂結晶を含有していることがわかった。さらに、この油脂結晶について、2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施したところ、46オングストロームに相当する回折ピークが得られ、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認された。
【0095】
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物3の油相中において、SMSの含有量は10.8質量%で、MSMの含有量は12.0質量%であり、SMSとMSMとからなるコンパウンド結晶の含有量は21.6質量%、MSM/SMSのモル比は1.11であった。
よって、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物3の油相中において、直接β型の油脂結晶の含有量は21.6質量%であった。
また、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物3の油相中において、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(A)の含有量は11.4質量%であった。また、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の同一の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(B)は、油相中7.9質量%であり、(A)の内で69質量%を占めていた。
なお、ガスクロマトグラフで測定したところ、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物3の全構成脂肪酸中、トランス酸含量は2質量%未満であった。
【0096】
なお、得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物3は後述のベーカリー試験(パイの製造試験)に供した。
【0097】
〔比較例1〕
実施例2における水相を、水100質量部に食塩10質量部を添加、溶解したのみの水相(pH7)に変更した以外は、実施例2と同様の配合・製法で、比較例の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物4を得た。
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物4の油相の油脂結晶は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であった。油中水型ロールイン用乳化油脂組成物4の油相を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られた油脂結晶について、2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折ピークを示し、また、4.6オングストロームの面間隔に対応する最大ピーク強度(ピーク強度1)及び4.2オングストロームの面間隔に対応する最大ピーク強度(ピーク強度2)をとり、ピーク強度1/ピーク強度2の比をとったところ2.6となり、この油脂結晶はβ型をとることが確認され、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物4は直接β型の油脂結晶を含有していることがわかった。さらに、この油脂結晶について、2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施したところ、46オングストロームに相当する回折ピークが得られ、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認された。
【0098】
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物4の油相中において、SMSの含有量は10.8質量%で、MSMの含有量は12.0質量%であり、SMSとMSMとからなるコンパウンド結晶の含有量は21.6質量%、MSM/SMSのモル比は1.11であった。
よって、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物4の油相中において、直接β型の油脂結晶の含有量は21.6質量%であった。
また、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物4の油相中において、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(A)の含有量は11.4質量%であった。また、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の同一の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(B)は、油相中7.9質量%であり、(A)の内で69質量%を占めていた。
なお、ガスクロマトグラフで測定したところ、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物4の全構成脂肪酸中、トランス酸含量は2質量%未満であった。
【0099】
なお、得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物4は後述のベーカリー試験(パイの製造試験)に供した。
【0100】
〔比較例2〕
実施例2における混合油を、パーム極硬、大豆35℃硬化油、及び大豆液状油を、5/55/40の質量比で配合した混合油に変更した以外は、実施例2と同様の配合・製法で、比較例の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物5を得た。
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物5の水相のpHは3、油相の油脂結晶は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であった。油中水型ロールイン用乳化油脂組成物5の油相を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られた油脂結晶について、2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβプライム型をとることが確認された。さらに、この油脂結晶について2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施したところ、40〜50オングストロームに相当する回折ピークが得られず、トリグリセリドのパッキング状態が3鎖長構造であることも確認された。
【0101】
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物5の油相中において、SMSの含有量は20.3質量%で、MSMの含有量は4.5質量%であり、SMSとMSMとからなるコンパウンド結晶の含有量は9.0質量%、MSM/SMSのモル比は4.5であった。
よって、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物5の油相中において、直接β型の油脂結晶の含有量は9.0質量%であった。
また、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物5の油相中において、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(A)の含有量は15.3質量%であった。また、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の同一の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(B)は、油相中8.5質量%であり、(A)の内で56質量%を占めていた。
なお、ガスクロマトグラフで測定したところ、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物5の全構成脂肪酸中、トランス酸含量は25質量%であった。
【0102】
なお、得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物5は後述のベーカリー試験(パイの製造試験)に供した。
【0103】
〔比較例3〕
実施例2における混合油を、パーム極硬、大豆35℃硬化油、及び大豆液状油を、5/55/40の質量比で配合した混合油に変更し、さらに水相を、水100質量部に食塩10質量部を添加、溶解したのみの水相(pH7)に変更以外は、実施例2と同様の配合・製法で、比較例の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物6を得た。
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物6の油相の油脂結晶は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であった。油中水型ロールイン用乳化油脂組成物6の油相を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られた油脂結晶について、2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβプライム型をとることが確認された。さらに、この油脂結晶について2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施したところ、40〜50オングストロームに相当する回折ピークが得られず、トリグリセリドのパッキング状態が3鎖長構造であることも確認された。
【0104】
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物6の油相中において、SMSの含有量は20.3質量%で、MSMの含有量は4.5質量%であり、SMSとMSMとからなるコンパウンド結晶の含有量は9.0質量%、MSM/SMSのモル比は4.5であった。
よって、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物6の油相中において、直接β型の油脂結晶の含有量は9.0質量%であった。
また、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物6の油相中において、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(A)の含有量は15.3質量%であった。また、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の同一の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(B)は、油相中8.5質量%であり、(A)の内で56質量%を占めていた。
なお、ガスクロマトグラフで測定したところ、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物6の全構成脂肪酸中、トランス酸含量は25質量%であった。
【0105】
なお、得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物6は後述のベーカリー試験(パイの製造試験)に供した。
【0106】
(ベーカリー試験)
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物1〜6を用いて、下記配合と製法によりパイをそれぞれ製造し、ロールイン時の作業性(油脂伸展性)、焼成したパイのパフ性(浮き)及び食感を下記評価基準により比較評価した。その結果を表1に示した。
<配合>
強力粉 70 質量部
薄力粉 30 質量部
食塩 1.3質量部
砂糖 2 質量部
脱脂粉乳 3 質量部
練り込み油脂(マーガリン) 5 質量部
水 54 質量部
油中水型ロールイン用乳化油脂組成物 80 質量部

<製法>
油中水型ロールイン用乳化油脂組成物以外の原料を竪型ミキサーにて低速2分及び中速3分ミキシングし、得られた小麦粉生地を、5℃の冷蔵庫内で一晩リタードした。この小麦粉生地に油中水型ロールイン用乳化油脂組成物をのせ、定法によりロールイン(4つ折4回)、成型(縦100mm、横100mm、厚さ3mm)し、ピケローラーでピケをうった後、焼成した。
<ロールイン時の油脂伸展性の評価基準>
◎:コシがあり、非常に良好
○:良好
△:若干油脂切れが起こるか、小麦粉生地に練込まれる傾向があり、やや不良である
×:油脂切れが起こるか、小麦粉生地に練込まれ、不良である
<パイのパフ性(浮き)の評価基準>
焼成後のパイの厚みを焼成前の生地厚で除した値について、焼成品10個の平均値を算出し、下記の4段階で評価した。
◎:12以上
○:11以上〜12未満
△:10以上〜11未満
×:10未満
<パイの食感(さくい食感)の評価基準>
◎:サクサク感が非常に良好
○:サクサク感が良好
△:サクサク感が乏しく、若干ヒキのある食感である
×:サクサク感が極めて乏しく、ヒキも強い食感である
【0107】
【表1】

【0108】
上記表1からわかるように、直接β型の油脂結晶を油相中に5質量%以上含有し、且つ、水相のpHが1〜6である実施例1〜3の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物を使用して得られたパイは、パフ性(浮き)、焼成3日後の食感とも大変良好であった。なお、ロールイン時の生地伸展性も良好であった。
それに対して、直接β型結晶を含有するが、水相のpHが6を超える比較例1の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物を使用して得られたパイは、パフ性(浮き)は良好であるが、ややヒキが強い食感であった。なお、ロールイン時の生地の伸展性は非常に良好であった。
また、水相のpHは1〜6であるが、直接β型結晶を含有しない比較例2の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物を使用して得られたパイは、食感は良好であるものの、パフ性(浮き)が極めて悪かった。なお、ロールイン時に油脂が生地に練り込まれ、だれてコシのない生地になってしまっていた。
さらに、油相に直接β型結晶を含有せず、且つ、水相のpHが6を超える比較例3の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物を使用して得られたパイは、パフ性(浮き)が極めて悪く、また、食感もヒキが強く且つワキシーな食感であった。なお、ロールイン時に油脂が生地に練り込まれ、だれてコシのない生地になってしまっていた。
【0109】
(油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の調製)
【0110】
〔実施例4〕
パームステアリン、豚脂、及び大豆液状油を、30/45/25の質量比で配合した混合油100質量部に、レシチン0.5質量部、グリセリンモノステアリン酸エステル0.5質量部、香料0.1質量部、及びミックストコフェロール0.01質量部を添加、溶解、混合し、油相とした。
一方、水100質量部に、食塩20質量部を添加、溶解、混合後、10%クエン酸水溶液を使用してpH3に調整し、水相とした。
上記油相94質量%と、上記水相6質量%を混合乳化した予備乳化物を、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物7を得た。
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物7の油相の油脂結晶は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であった。油中水型ロールイン用乳化油脂組成物7の油相を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られた油脂結晶について、2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折ピークを示し、また、4.6オングストロームの面間隔に対応する最大ピーク強度(ピーク強度1)及び4.2オングストロームの面間隔に対応する最大ピーク強度(ピーク強度2)をとり、ピーク強度1/ピーク強度2の比をとったところ3.0となり、この油脂結晶はβ型をとることが確認され、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物7は直接β型の油脂結晶を含有していることがわかった。さらに、この油脂結晶について、2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施したところ、46オングストロームに相当する回折ピークが得られ、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認された。
【0111】
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物7の油相中において、SMSの含有量は10.5質量%で、MSMの含有量は9.9質量%であり、SMSとMSMとからなるコンパウンド結晶の含有量は19.8質量%、MSM/SMSのモル比は4.5であった。
よって、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物7の油相中において、直接β型の油脂結晶の含有量は19.8質量%であった。
また、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物7の油相中において、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(A)の含有量は10.9質量%であった。また、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の同一の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(B)は、油相中7.8質量%であり、(A)の内で72質量%を占めていた。
なお、ガスクロマトグラフで測定したところ、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物7の全構成脂肪酸中、トランス酸含量は2質量%未満であった。
【0112】
なお、得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物7は後述のベーカリー試験(デニッシュの製造試験)に供した。
【0113】
〔比較例4〕
実施例4における水相を、水100質量部に食塩20質量部を添加、溶解したのみの水相(pH7)に変更した以外は、実施例4と同様の配合・製法で、比較例の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物8を得た。
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物8の油相の油脂結晶は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であった。油中水型ロールイン用乳化油脂組成物8の油相を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られた油脂結晶について、2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折ピークを示し、また、4.6オングストロームの面間隔に対応する最大ピーク強度(ピーク強度1)及び4.2オングストロームの面間隔に対応する最大ピーク強度(ピーク強度2)をとり、ピーク強度1/ピーク強度2の比をとったところ2.6となり、この油脂結晶はβ型をとることが確認され、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物8は直接β型の油脂結晶を含有していることがわかった。さらに、この油脂結晶について、2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施したところ、46オングストロームに相当する回折ピークが得られ、トリグリセリドのパッキング状態が2鎖長構造であることも確認された。
【0114】
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物8の油相中において、SMSの含有量は10.8質量%で、MSMの含有量は12.0質量%であり、SMSとMSMとからなるコンパウンド結晶の含有量は21.6質量%、MSM/SMSのモル比は1.11であった。
よって、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物8の油相中において、直接β型の油脂結晶の含有量は21.6質量%であった。
また、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物8の油相中において、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(A)の含有量は11.4質量%であった。また、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の同一の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(B)は、油相中7.9質量%であり、(A)の内で69質量%を占めていた。
なお、ガスクロマトグラフで測定したところ、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物8の全構成脂肪酸中、トランス酸含量は2質量%未満であった。
【0115】
なお、得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物8は後述のベーカリー試験(デニッシュの製造試験)に供した。
【0116】
〔比較例5〕
実施例4における混合油を、パーム極硬、大豆35℃硬化油、及び大豆液状油を、5/55/40の質量比で配合した混合油に変更した以外は、実施例4と同様の配合・製法で、比較例の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物9を得た。
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物9の水相のpHは3、油相の油脂結晶は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であった。油中水型ロールイン用乳化油脂組成物9の油相を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られた油脂結晶について、2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβプライム型をとることが確認された。さらに、この油脂結晶について2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施したところ、40〜50オングストロームに相当する回折ピークが得られず、トリグリセリドのパッキング状態が3鎖長構造であることも確認された。
【0117】
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物9の油相中において、SMSの含有量は20.3質量%で、MSMの含有量は4.5質量%であり、SMSとMSMとからなるコンパウンド結晶の含有量は9.0質量%、MSM/SMSのモル比は4.5であった。
よって、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物9の油相中において、直接β型の油脂結晶の含有量は9.0質量%であった。
また、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物9の油相中において、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(A)の含有量は15.3質量%であった。また、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の同一の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(B)は、油相中8.5質量%であり、(A)の内で56質量%を占めていた。
なお、ガスクロマトグラフで測定したところ、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物9の全構成脂肪酸中、トランス酸含量は25質量%であった。
【0118】
なお、得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物9は後述のベーカリー試験(デニッシュの製造試験)に供した。
【0119】
〔比較例6〕
実施例4における混合油を、パーム極硬、大豆35℃硬化油、及び大豆液状油を、5/55/40の質量比で配合した混合油に変更し、さらに水相を、水100質量部に食塩20質量部を添加、溶解したのみの水相(pH7)に変更した以外は、実施例2と同様の配合・製法で、比較例の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物10を得た。
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物10の油相の油脂結晶は、光学顕微鏡下で、3μm以下の微細油脂結晶であった。油中水型ロールイン用乳化油脂組成物10の油相を70℃で完全に融解した後、0℃で30分間保持し、5℃で30分間保持した際に得られた油脂結晶について、2θ:17〜26度の範囲でX線回折測定を実施したところ、4.6オングストロームの面間隔に対応する強い回折線が得られ、この油脂結晶はβプライム型をとることが確認された。さらに、この油脂結晶について2θ:0〜8度の範囲でX線回折測定を実施したところ、40〜50オングストロームに相当する回折ピークが得られず、トリグリセリドのパッキング状態が3鎖長構造であることも確認された。
【0120】
得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物10の油相中において、SMSの含有量は20.3質量%で、MSMの含有量は4.5質量%であり、SMSとMSMとからなるコンパウンド結晶の含有量は9.0質量%、MSM/SMSのモル比は4.5であった。
よって、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物10の油相中において、直接β型の油脂結晶の含有量は9.0質量%であった。
また、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物10の油相中において、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(A)の含有量は15.3質量%であった。また、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の同一の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(B)は、油相中8.5質量%であり、(A)の内で56質量%を占めていた。
なお、ガスクロマトグラフで測定したところ、油中水型ロールイン用乳化油脂組成物10の全構成脂肪酸中、トランス酸含量は25質量%であった。
【0121】
なお、得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物10は後述のベーカリー試験(デニッシュの製造試験)に供した。
【0122】
(ベーカリー試験)
実施例4及び比較例4〜6で得られた油中水型ロールイン用乳化油脂組成物7〜10を用いて、下記配合と製法によりデニッシュをそれぞれ製造し、ロールイン時の作業性(油脂伸展性)、焼成したパイのパフ性(浮き)及び食感を下記評価基準により比較評価した。その結果を表2に示した。
<配合>
強 力 粉 70 質量部
薄 力 粉 30 質量部
イーストフード 0.1質量部
イースト 4 質量部
食 塩 1.6質量部
砂 糖 6 質量部
脱脂粉乳 3 質量部
練り込み油脂 5 質量部
水 58 質量部
油中水型ロールイン用乳化油脂組成物 54 質量部
<製法>
油中水型ロールイン用乳化油脂組成物以外の原料を、竪型ミキサーにて低速3分及び中速5分ミキシングした小麦粉生地(捏ね上げ温度=24℃)を2℃の冷蔵庫内で一晩リタードした。この小麦粉生地に油中水型ロールイン用乳化油脂組成物をのせ、常法によりロールイン(4つ折1回、3つ折2回)し、36層に折り畳み、厚さ30mmのペストリー生地を得た。この生地を2℃の冷蔵庫内で30分レストを取った後、厚さ3mmに圧延し、直径100mmの型で生地を打ち抜き展板に載せ、32℃、相対湿度85%、60分のホイロを取った後、210℃の固定窯で11分焼成した。
<ロールイン時の油脂伸展性の評価基準>
◎:コシがあり、非常に良好
○:良好
△:若干油脂切れが起こるか、小麦粉生地に練込まれる傾向があり、やや不良である
×:油脂切れが起こるか、小麦粉生地に練込まれ、不良である
<デニッシュのパフ性(浮き)の評価基準>
焼成後のデニッシュの厚みを焼成前の生地厚で除した値について、焼成品10個の平均値を算出し、下記の4段階で評価した。
【0123】
◎:5以上
○:4以上〜5未満
△:3以上〜4未満
×:3未満
<デニッシュの食感(さくい食感)の評価基準>
◎:歯切れが非常に良好
○:歯切れが良好
△:若干ヒキあり
×:ヒキが強い

【0124】
【表2】

【0125】
上記表2からわかるように、直接β型の油脂結晶を油相中に5質量%以上含有し、且つ、水相のpHが1〜6である実施例4の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物を使用して得られたデニッシュは、パフ性(浮き)が良好であり、焼成焼成3日後の食感とも大変良好であった。なお、ロールイン時の生地伸展性も良好であった。
それに対して、直接β型の油脂結晶を含有するが、水相のpHが6を超える比較例4の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物を使用して得られたデニッシュは、パフ性(浮き)は良好であるが、ややヒキが強い食感であった。なお、ロールイン時の生地の伸展性は良好であった。
また、水相のpHは1〜6であるが、直接β型の油脂結晶を含有しない比較例5の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物を使用して得られたデニッシュは、食感は良好であるものの、パフ性(浮き)が極めて悪かった。なお、ロールイン時に油脂が生地に練り込まれ、だれてコシのない生地になってしまっていた。
さらに、油相に直接β型の油脂結晶を含有せず、且つ、水相のpHが6を超える比較例6の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物を使用して得られたデニッシュは、パフ性(浮き)が極めて悪く、食感もヒキが強く且つワキシーな食感であった。なお、ロールイン時に油脂が生地に練り込まれ、だれてコシのない生地になってしまっていた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接β型の油脂結晶を油相中に5質量%以上含有し、且つ、水相のpHが1〜6であることを特徴とする油中水型ロールイン用乳化油脂組成物。
【請求項2】
構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(A)を油相中に5質量%以上30質量%以下含有し、且つ、構成脂肪酸の全てが炭素数16以上の同一の脂肪酸からなる3飽和トリグリセリド(B)が(A)の60質量%以上であることを特徴とする請求項1記載の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物。
【請求項3】
水相のpHが、有機酸によって調整されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物。
【請求項4】
上記有機酸が、酪酸、酢酸、乳酸、りんご酸、クエン酸 、グルコン酸、フマル酸、酒石酸、フィチン酸、アスコルビン酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上であることを特徴とする請求項3記載の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物。
【請求項5】
水分含量が0.1質量%以上20質量%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物。
【請求項6】
直接β型の油脂結晶となるトリグリセリドを5質量%以上含有する油相を溶解し、pHが1〜6である水相を混合、乳化した後、冷却し、結晶化することを特徴とする油中水型ロールイン用乳化油脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5の何れかに記載の油中水型ロールイン用乳化油脂組成物を用いた層状ベーカリー製品。


【公開番号】特開2007−116985(P2007−116985A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313562(P2005−313562)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】