説明

油中水型乳化ペースト状口唇用医薬品製剤

【課題】薬剤安定性、使用性に優れる、防腐剤フリー(例えば、パラベンフリー)を実現した、透明感のあるペースト状の油中水型乳化口唇用医薬品製剤を提供する。
【解決手段】(a)2価アルコール(例えば、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等)と、(b)固形若しくは半固形油分を30質量%以上の配合割合で含む油分と、(c)水を0.1〜2.0質量と、(d)皮膚修復剤(例えばアラントインおよびその誘導体)と、(e)抗炎症剤(例えばグリチルレチン酸およびその誘導体)を含有する、油中水型乳化ペースト状口唇用医薬品製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油中水型乳化(W/O)ペースト状口唇用医薬品製剤に関する。さらに詳しくは、薬剤安定性に優れ、防腐剤フリー(例えば、パラベンフリー)を実現した、透明感のあるペースト状の油中水型乳化口唇用医薬品製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
口唇の荒れや炎症等の予防・防止のために、抗炎症剤成分や皮膚修復剤成分等の薬剤成分を配合した口唇用医薬品製剤(いわゆる医薬品リップクリーム)が市販されている。かかる口唇用医薬品製剤は、油性固形状で容器から繰り出してそのまま直接口唇に塗布するスティックタイプのものや、ペースト状でチューブ容器に収容され、使用時にチューブ本体を手(指)などで押圧してチューブ開口部から内容物(製剤)をいったん手(指)などに取ってそれを口唇に塗布するか、あるいは内容物を押し出して直接口唇に塗布するタイプのもの、その他ゲル状、クリーム状のものなど、種々の剤型のものが知られている。いずれの剤型のものでも、内容物(製剤)が口唇や手などに直接触れることから、使用後の製剤保存時における微生物汚染防止に特に注意を払う必要がある。とりわけ乳化型のものでは、油性成分の他に水性成分(水など)を含むため、他の剤型よりも微生物汚染を受けやすく、防腐剤(例えば、パラベン類等)を使用することが通例となっている。しかしパラベン類は刺激を感じさせやすく、アレルギーを起こす可能性がある等の問題もあり、安全性の点からもパラベンフリーのものが望まれていた。特に口唇用製剤は使用部位が口粘膜に近い部位であり、刺激を感じさせやすく、アレルギーを起こす可能性のあるパラベン類を含有させることは好ましいこととはいえない。また当然のことながら薬剤成分を安定に配合する必要もある。
【0003】
従来、防腐剤を含まない(=防腐剤フリー)ものは、水を配合しない剤型とすることで対微生物汚染対策を行ってきた。しかし水を含まない油性タイプのものではべたついたり、保湿性の点で十分でない等の問題がある。特に口唇等の口粘膜に近い部位で用いる製剤においては、油性基剤中に水を少量配合したものが最も保湿効果が高いといわれている。しかし水を配合した製剤では微生物が繁殖しやすく、防腐剤フリーとすることは技術的に難しく、困難であった。
【0004】
本発明者らは、微生物汚染防止、および薬剤の安定配合という目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、乳化型のペースト状口唇用製剤において、2価アルコールを配合し、水の配合量を特定範囲に限定することで、防腐性を有し、かつ薬剤成分を安定に配合することができ、しかも保湿性にも優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
なお、本発明に近い従来技術として、以下の文献に記載の技術が挙げられる。
【0006】
特開2000−95666号公報(特許文献1)には、非水系軟膏基剤を主基剤にして、多価アルコールおよび/または非イオン界面活性剤、有効成分(抗炎症剤等)を含有し、実質的に無水であるリップクリームが、有効成分の製剤中での安定性が高く、使用感に優れるということが記載されている。また、実質的に無水(=製剤処方として別途水成分を添加しない)の製剤とすることにより、従来の含水製品の、微生物が繁殖しやすいため菌繁殖による異臭がしやすい、製剤安定性に欠ける、等の不都合や欠点を有しないということが記載されている([0050]〜[0051])。しかし特許文献1の実施例で開示されている製剤はすべてパラベンを配合したもので、パラベンフリーの製剤は具体的には開示されていない。
【0007】
特表2004−519460号公報(特許文献2)には、薬剤成分である抗ウイルス性ブリブジンに光安定剤として金属酸化物顔料を組み合せることブリブジンを安定化させる局所医薬組成物が記載され、実施例で多価アルコール、ワセリン、ブリブジン(薬剤成分)の組み合せが開示されている(実施例1、4、6、8〜10)。しかしながらこれら実施例は、水を30質量%程度以上の高配合した系か(実施例1、4、6、9、10)、あるいは水を含まない系(実施例8)のいずれかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−95666号公報
【特許文献2】特表2004−519460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来の事情に鑑みてなされたもので、薬剤安定性に優れ、防腐剤フリー(例えば、パラベンフリー)を実現した、透明感のあるペースト状の油中水型乳化口唇用医薬品製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、(a)2価アルコールと、(b)固形若しくは半固形油分を30質量%以上の配合割合で含む油分と、(c)水を0.1〜2.0質量%と、(d)皮膚修復剤と、(e)抗炎症剤を含有する、油中水型乳化ペースト状口唇用医薬品製剤を提供する。
【0011】
また本発明は、(a)成分がプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、および1,3−ブチレングリコールの中から選ばれる1種または2種以上である、上記油中水型乳化ペースト状口唇用医薬品製剤を提供する。
【0012】
また本発明は、(a)成分を0.05〜5質量%含有する、上記油中水型乳化ペースト状口唇用医薬品製剤を提供する。
【0013】
また本発明は、(d)成分がアラントインまたはその誘導体である、上記油中水型乳化ペースト状口唇用医薬品製剤を提供する。
【0014】
また本発明は、(e)成分がグリチルレチン酸またはその誘導体である、上記油中水型乳化ペースト状口唇用医薬品製剤を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、薬剤安定性に優れ、防腐剤フリー(例えば、パラベンフリー)を実現した、透明感のあるペースト状の油中水型乳化口唇用医薬品製剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳述する。なお以下においてPOEはポリオキシエチレンを、POPはポリオキシプロピレンを、それぞれ示す。
【0017】
(a)成分である2価アルコールとしては、特に限定されるものでなく、例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール等が挙げられる。中でも、医薬品製剤への配合という点から、特にはプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールが好ましい。(a)成分は1種または2種以上を用いることができる。
【0018】
(a)成分の配合量は、本発明製剤中、0.05〜5.0質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜3.0質量%である。0.05質量%未満では保湿性、防腐性の効果を十分に発揮することが難しく、一方、5.0質量%超では、口唇に塗布した際に苦味を感じる傾向がみられる。
【0019】
(b)成分は、固形若しくは半固形油分を主成分として含む油分である。固形若しくは半固形油分は、日本薬局法にて定義される常温で固形若しくは半固形の油性成分であれば特に限定されず、例えば、固形パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、セレシン、バリコワックス、ポリエチレンワックス、シリコンワックス、カルナウバロウ、ビーズワックス(=ミツロウ)、キャンデリラロウ、ジョジョバロウ、セラックロウ、鯨ロウ、モクロウ、ラノリン、還元ラノリン、硬質ラノリン等のロウ類;ベヘニルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール、バチルアルコール等の常温で固体の高級アルコール類;ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等の常温で固体の高級脂肪酸類;カカオ脂、硬化ヒマシ油、硬化油、水添パーム油、パーム油、硬化ヤシ油、ワセリン、各種の水添加動植物油脂、脂肪酸モノカルボン酸ラノリンアルコールエステル等が挙げられる。本発明では、固形若しくは半固形油分は、皮膚からの水分蒸散を効率的に防いだり、水溶性薬剤成分等を配合した場合、その溶解状態を維持する等の点から、より閉塞性が高いものが好ましく、特にはマイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ワセリン等の固形若しくは半固形の非極性炭化水素油を用いることが好ましい。
【0020】
本発明では固形若しくは半固形油分を(b)成分である油分に対し30.0質量%以上の割合で含む。好ましくは50.0質量%以上である。(b)成分中における固形若しくは半固形の配合量が30.0質量%未満では製剤をペースト状(軟膏状)とすることが難しい。
【0021】
本発明では(b)成分中に、上記の固形若しくは半固形油分以外に、常温で液体である液状油分を配合することも可能である。液状油分としては、特に限定されず、例えば、アマニ油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、トウモロコシ油、オリーブ油、アボガド油、アボガド油、サザンカ油、ヒマシ油、サフラワー油、キョウニン油、シナモン油、ホホバ油、ブドウ油、アルモンド油、ナタネ油、ゴマ油、ヒマワリ油、小麦胚芽油、米胚芽油、米ヌカ油、綿実油、大豆油、落花生油、茶実油、月見草油、卵黄油、肝油、トリグリセリン、トリオクタン酸グリセリン、トリイソパルミチン酸グリセリン等の天然油脂;オクタン酸セチル等のオクタン酸エステル、トリ−2−エチルヘキサエン酸グリセリン、テトラ−2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット等のイソオクタン酸エステル、ラウリン酸ヘキシル等のラウリン酸エステル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル等のミリスチン酸エステル、パルミチン酸オクチル等のパルミチン酸エステル、ステアリン酸イソセチル等のステアリン酸エステル、イソステアリン酸イソプロピル等のイソステアリン酸エステル、イソパルミチン酸オクチル等のイソパルミチン酸エステル、オレイン酸イソデシル等のオレイン酸エステル、アジピン酸ジイソプロピル等のアジピン酸ジエステル、セバシン酸ジエチル等のセバシン酸ジエステル、リンゴ酸ジイソステアリル等のリンゴ酸ジイソステアリル等の合成エステル油;流動パラフィン、スクワラン等の液状炭化水素油等、さらにはジメチルポリシロキサン等の低粘度のシリコーン油等が挙げられる。ただしこれら例示に限定されるものでない。
【0022】
なお上記液状油分中、天然油脂、合成エステル油等の中の極性油は、配合量が高いと乳化し難くなる傾向がみられるため、低配合とするのが好ましい。極性油を配合する場合、配合量は10質量%以下程度に抑えるのが好ましい。
【0023】
(b)成分の配合量は、本発明製剤中、75.0〜98.0質量%が好ましく、特には85.0〜98.0質量%である。
【0024】
(c)成分としての水は本発明製剤中に0.1〜2.0質量%配合される。好ましくは1.0〜2.0質量%である。(c)成分が2.0質量%超では防腐剤フリーで製剤の防腐性を確保することができない。一方、0.1質量%未満では、また十分な保湿性を得ることができない。
【0025】
(d)成分である皮膚修復剤は、皮膚組織の修復作用を有する薬剤成分で、アラントインおよびその誘導体、銅クロロフィリン等が挙げられる。中でもアラントインおよびその誘導体が好ましく用いられる。アラントインは分子量158、水溶性で、エーテルに不溶の窒素化合物である。アラントインの誘導体としては、アラントイン酸、ジヒドロキシアルミニウムアラントイネート等が挙げられる。(d)成分は1種または2種以上を用いることができる。
【0026】
(d)成分の配合量は、本発明製剤中、0.05〜5.0質量%が好ましく、より好ましくは0.05〜1.0質量%、特に好ましくは0.1〜0.5質量%である。
【0027】
(e)成分である抗炎症剤としては、例えばグリチルリチン酸およびその誘導体、グリチルレチン酸およびその誘導体、サリチル酸およびその誘導体、ウフェナマート等が挙げられる。中でもグリチルリチン酸およびその誘導体、グリチルレチン酸およびその誘導体が好ましく用いられる。グリチルリチン酸誘導体としてはグリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム等が挙げられる。(e)成分は1種または2種以上を用いることができる。
【0028】
(e)成分の配合量は、本発明製剤中、0.05〜5.0質量%が好ましく、より好ましくは0.05〜1.0質量%、特に好ましくは0.3〜0.5質量%である。
【0029】
本発明製剤では、薬剤有効成分として(d)成分、(e)成分の薬剤を含む系に、(a)〜(c)成分を組合せて配合することによって初めて、薬剤安定性に優れ、しかも防腐剤(例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸イソプロピル等のいわゆるパラベン類;フェノキシエタノール等)を配合することなく、防腐性に優れる。また本発明製剤は、さらに殺菌剤(例えば、エタノール、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム等)、抗菌剤、防黴剤等を配合することなく、殺菌に対する繁殖防止効果に優れ、また防黴効果にも優れるという、極めて優れた効果を得ることができた。さらに保湿性にも優れる。
【0030】
本発明製剤は口唇のひび割れ、口唇のただれ、口唇炎、口角炎等の予防・治療薬として有用である。1日数回、患部に適量を塗布すること等の方法によって使用することができる。
【0031】
本発明製剤はペースト状で、チューブ容器(樹脂製、金属製等)に収容され、使用時、チューブ本体を手などで押圧してチューブ開口部から内容物(製剤)を押し出して、内容物を一旦手(指)などに取ってから口唇に塗布するか、あるいは内容物をそのまま直接口唇に塗布する等の使用方法が挙げられる。
【0032】
本発明製剤には、上記必須成分に加えて、さらに乳化剤として界面活性剤を配合することができる。界面活性剤は特に限定されるものでないが、非イオン界面活性剤(親油性、親水性)が好ましく用いられる。
【0033】
親油性非イオン界面活性剤としては、例えば、モノオレイン酸ソルビタン、モノイソステアリン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、ペンタ−2−エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン、テトラ−2−エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル類;モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸ジグリセン等の(ポリ)グリセリン脂肪酸類エステル類;モノステアリン酸プロピレングリコール等のプロピレングリコール脂肪酸エステル類;硬化ヒマシ油誘導体類、グリセリンアルキルエーテル類等が例示される。
【0034】
親水性非イオン界面活性剤としては、例えば、POEソルビタンモノオレエート、POEソルビタンモノステアレート、POEソルビタンモノラウレート、POEソルビタンテトラオレエート等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;POEソルビットモノラウレート、POEソルビットモノオレエート、POEソルビットペンタオレエート、POEソルビットモノステアレート等のPOEソルビット脂肪酸エステル類;POEグリセリンモノステアレート、POEグリセリントリイソステアレート等のPOEグリセリン脂肪酸エステル類;POEモノオレエート等のPOE脂肪酸エステル類;POEラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POEオクチルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類;POE・POPセチルエーテル等のPOE・POPアルキルエーテル類;テトラPOE・テトラPOEエチレンジアミン縮合物類、POEヒマシ油または硬化ヒマシ油誘導体、POEミツロウ・ラノリン誘導体、ラウリン酸モノエタノールアミド等のアルカノールアミド類、POEプロピレングリコール脂肪酸エステル、POEアルキルアミン、POE脂肪酸アミド、ショ糖脂肪酸エステル、POEニノルフェニルホルムアルデヒド縮合物、アルキルエトキシジメチルアミンオキシド、トリオリイルリン酸等が挙げられる。
【0035】
本発明製剤には、上記成分の他に、本発明の目的・効果を損なわない範囲で、通常医薬品等に用いられる他の任意添加成分、例えば、保湿剤成分として多価アルコール((a)成分以外)等を必要に応じて適宜配合することができる。多価アルコール((a)成分以外)としては、例えば、3価のアルコール(例えば、グリセリン等)、4価アルコール(例えば、1,2,6−ヘキサントリオール等のペンタエリスリトール等)、5価アルコール(例えば、キシリトール等)、6価アルコール(例えば、ソルビトール、マンニトール等)、多価アルコール重合体(例えば、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等)、糖アルコール(例えば、ソルビトール、マンニトール等)等が挙げられる。保湿剤成分としては上記以外にも、例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、尿素、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、植物抽出物(例えば、イザヨイバラ、セイヨウノコギリソウ、メリロート、オウバク、オウレン、シコン、シャクヤク、センブリ、バーチ、セージ、ビワ、ニンジン、アロエ、ゼニアオイ、アイリス、ブドウ、ヨクイニン、ヘチマ、ユリ、サフラン、センキュウ、ショウキュウ、オトギリソウ、オノニス、ニンニク、トウガラシ、チンピ、トウキ、海藻等)、ポリ(メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−メタクリル酸ブチル)等が挙げられる。ただしこれら例示に限定されるものでない。
【0036】
その他の配合可能成分としては、例えば、ビタミン類(例えば、ビタミンA(=レチノール)、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンE(=トコフェロール)およびその誘導体、パンテノール等)、血行促進剤(例えば、ノニル酸ワニリルアミド、ニコチン酸ベンジル等)、清涼化剤(例えば、l−メントール、ユーカリ油等)、美白剤(例えば、アルブチン等のハイドロキノン誘導体、コウジ酸、トラネキサム酸およびその誘導体等)、角質柔軟剤(尿素等)、局所麻酔剤(リドカインおよびその誘導体)、抗ヒスタミン剤(ジフェンヒドラミンおよびその誘導体、マレイン酸クロルフェニラミン等)、鎮痒剤(クロタミトン等)などが挙げられる。ただしこれら例示に限定されるものでない。
【0037】
本発明製剤は、油相、水相をあらかじめ調製し、このように調製した油相に水相を徐添しながら、混合・撹拌等により乳化する等、常法により得ることができるが、これら例示の製法に限定されるものでない。なお本発明製剤において、油相を95.0〜95.5質量%、水相を0.5〜5.0質量%とするのが好ましい。なお水相の量は、(a)成分、(c)成分のほか、(d)成分、(e)成分として水溶性薬剤成分を用いた場合はその配合量を含み、さらに任意添加成分として水性成分(例えば水溶性薬剤成分、水溶性ビタミン類等)を配合した場合はそれらを含む量である。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれによってなんら限定されるものではない。配合量は特記しない限りすべて質量%である。
1.製剤中の水分量と、製剤の安定性および抗微生物性の検討:
まず初めに、製剤中の水分活性を抑制するために、精製水の減量を検討し、製剤の安定性試験と微生物試験を行った。
【0039】
[安定性]
各試料を調製後、室温(25℃)で1日間放置、および、40℃、湿度75%で1カ月間放置した後、試料の状態(分離の有無)を目視で観察した。
(評価基準)
○:分離がみられなかった
×:分離がみられた
【0040】
[外観(性状)]
各試料を調製した直後の外観(性状)を目視で観察し、透明感の有無を評価した。
【0041】
[微生物試験]
各試料を調製後、第十五改正日本薬局方 保存効力試験法に準じ、微生物試験を行い、下記評価基準に基づき評価した。具体的には、各試料を調製後、30gずつに分け、大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、酵母「カンジダ」、カビ「クロコウジカビ」の菌液を接種し、塗沫法により菌数の経日変化を追跡した。試験は4週間実施し、得られた結果を3段階に分類し、その総合評価を微生物試験の結果とした。
(評価基準)
○:確実に減少した
△:減少したが、減少速度が遅かった
×:増減なし
【0042】
[総合判定]
製剤の安定性の結果(1日間および1カ月間)および微生物試験の結果を踏まえ、総合的に判定した。
+:[合格]実使用にも十分に耐えられ、非常に良好なレベル
A:[合格]実使用にも十分に耐えられ、良好なレベル
B:[合格]実使用に耐えられるレベル
C:[不合格]実使用に耐えられないレベル
【0043】
(実施例1〜3、比較例1〜3)
下記表1に示す組成の試料を調製し、上記試験方法により安定性、外観(性状)、微生物試験を行い、総合判定を行った。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示す結果から明らかなように、本発明品である実施例1〜3は安定性に優れ、透明感のある製剤で、防腐剤等を配合することなく優れた微生物試験結果を得ることができ、総合判定で合格であった。また実施例1〜3の試料はいずれも保湿性に優れていた。一方、比較例2、3は総合判定が不合格であった。なお比較例1は精製水を5.0質量%配合した系で、比較例2との対比から明らかなように、パラベンを配合することによって防腐性を得ることができた。
【0046】
(実施例4)
2.薬剤安定性試験:
下記表2に示す組成の試料を調製し、各々をポリエチレン製容器に入れ、40℃、湿度75%において6ヵ月間保存した後の、薬剤成分の残存率について、日本薬局方の一般試験法の液体クロマトグラフ法に従って測定試験(加速試験)を行った(n=3、各試料3点測定)。結果を表3〜4に示す。なお表3は実測値(薬剤成分残存率)を示し、表4は表3を加工したもので、測定開始時の残存率を100%とし、それに対する6か月後の薬剤成分残存率を示す。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
薬事法上、対表示量の90.0〜110.0%が薬剤安定性があるとされている。表3、4の結果から明らかなように、アラントイン、グリチルレチン酸ともに6カ月間経過後も薬剤残存率が高く、薬剤安定性に優れることが確認された。また任意添加成分で、油溶性ビタミンである酢酸トコフェロール、水溶性ビタミンであるパンテノールも、ともに残存率が高いことがわかった。すなわち本発明製剤では、油溶性有効成分、水溶性有効成分ともに、安定に配合することができたことが確認された。
【0051】
以下、さらに本発明の製剤の処方例を示す。
【0052】
〔処方例1:W/O型リップクリーム〕
(配 合 成 分) (質量%)
(1)アラントイン 0.5
(2)ウフェナマート 5.0
(3)白色ワセリン 残余
(4)マイクロクリスタリンワックス 3.0
(5)流動パラフィン 18.0
(6)グリセリン脂肪酸エステル 1.5
(7)プロピレングリコール 0.5
(8)クロルフェニラミンマレイン酸塩 1.0
(9)精製水 1.5
(製法)
(1)〜(6)を80℃に加熱溶融し、均一な油相とする。さらに(7)〜(9)の十分に均一に溶解した水溶液を徐添加し、撹拌混合しながら徐々に冷却し、アルミ積層チューブに充填し、本発明のW/O型リップクリームを得る。
【0053】
〔処方例2:W/O型リップクリーム〕
(配 合 成 分) (質量%)
(1)アラントイン 0.5
(2)グリチルレチン酸 0.3
(3)リドカイン 2.0
(4)黄色ワセリン 20.0
(5)セタノール 3.0
(6)サラシミツロウ 4.0
(7)流動パラフィン 残余
(8)セスキイソステアリン酸ソルビタン 0.5
(9)パルミチン酸デキストリン 3.0
(10)パンテノール 0.5
(11)グリセリン 1.0
(12)1,3−ブチレングリコール 3.0
(13)精製水 1.0
(製法)
(1)〜(9)を80℃に加熱溶融し、均一な油相とする。さらに(10)〜(13)の十分に均一に溶解した水溶液を徐添加し、撹拌混合しながら徐々に冷却し、アルミ積層チューブに充填し、本発明のW/O型リップクリームを得る。
【0054】
〔処方例3:W/O型リップクリーム〕
(配 合 成 分) (質量%)
(1)アラントイン 0.5
(2)グリチルレチン酸 0.3
(3)トコフェロール酢酸エステル 0.2
(4)白色ワセリン 22.0
(5)マイクロクリスタリンワックス 25.0
(6)流動パラフィン 残余
(7)ジメチルポリシロキサン 3.0
(8)ジブチルヒドロキシトルエン(BHT) 0.1
(9)ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体 0.5
(10)パルミチン酸デキストリン 3.0
(11)グリセリン 0.5
(12)ジプロピレングリコール 0.5
(13)精製水 0.5
(製法)
(1)〜(10)を80℃に加熱溶融し、均一な油相とする。さらに(11)〜(13)の十分に均一に溶解した水溶液徐添加し、撹拌混合しながら徐々に冷却し、アルミ積層チューブに充填し、本発明のW/O型リップクリームを得る。
【0055】
〔処方例4:W/O型リップクリーム〕
(配 合 成 分) (質量%)
(1)アラントイン酸 0.5
(2)グリチルレチン酸 0.3
(3)トコフェロール酢酸エステル 0.2
(4)白色ワセリン 15.0
(5)マイクロクリスタリンワックス 20.0
(6)マカデミアナッツ油 2.0
(7)流動パラフィン 残余
(8)ジメチルポリシロキサン 3.0
(9)ジブチルヒドロキシトルエン(BHT) 0.1
(10)ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体 0.5
(11)パルミチン酸デキストリン 3.0
(12)グリセリン 0.5
(13)ジプロピレングリコール 0.05
(14)精製水 0.1
(製法)
(1)〜(11)を80℃に加熱溶融し、均一な油相とする。さらに(12)〜(14)の十分に均一に溶解した水溶液を徐添加し、撹拌混合しながら徐々に冷却し、アルミ積層チューブに充填し、本発明のW/O型リップクリームを得る。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明により、薬剤安定性、使用性(保湿性)に優れる、防腐剤フリー(例えば、パラベンフリー)を実現した、透明感のあるペースト状の油中水型乳化口唇用医薬品製剤が提供される。本発明製剤は、口唇のひび割れ、口唇のただれ、口唇炎、口角炎等の予防・治療薬として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)2価アルコールと、(b)固形若しくは半固形油分を30質量%以上の配合割合で含む油分と、(c)水を0.1〜2.0質量%と、(d)皮膚修復剤と、(e)抗炎症剤を含有する、油中水型乳化ペースト状口唇用医薬品製剤。
【請求項2】
(a)成分がプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、および1,3−ブチレングリコールの中から選ばれる1種または2種以上である、請求項1記載の油中水型乳化ペースト状口唇用医薬品製剤。
【請求項3】
(a)成分を0.05〜5質量%含有する、請求項1または2記載の油中水型乳化ペースト状口唇用医薬品製剤。
【請求項4】
(d)成分がアラントインまたはその誘導体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の油中水型乳化ペースト状口唇用医薬品製剤。
【請求項5】
(e)成分がグリチルレチン酸またはその誘導体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の油中水型乳化ペースト状口唇用医薬品製剤。

【公開番号】特開2011−37723(P2011−37723A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183906(P2009−183906)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】