説明

油冷機器用ハーネス

【課題】コスト上昇なく防油性能の低下の低減が可能な油冷機器用ハーネスを提供する。
【解決手段】油冷機器用ハーネス1は、導体10と、導体10の周囲に設けられたシールド層12と、を含む可撓性のシールド電線14と、シールド電線14の前端側を収容すると共に導体10と接続され、且つ、機器本体の端子2と接続される端子金具7と、シールドケース5に取り付けられるフランジ部16を有し、シールド電線14と露出させるために端子金具7から所定間隔を隔ててシールド電線14の外周を囲繞するハウジング8と、シールド電線14と端子金具7との隙間に設けられ、導体10にシールドケース5内の油が流入するのを防止する油流入防止手段17と、シールド電線14と密着し、挿通孔5hにおけるシールド電線14とシールドケース5との隙間を塞ぐために設けられた防油栓101と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油冷機器用ハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、高い温度で発熱する機器の内部を冷却するための技術として、絶縁性の油で機器を冷却する油冷式のものがある。油冷式の機器(以下、油冷機器)としては、例えば、シールドケース内に油冷モータ本体(機器本体ともいう)を収容し、シールドケース内に油冷用の油を充填した油冷モータがある。この油冷モータは、近年のハイブリッド車や電気自動車の普及により、開発が盛んに行われている。
【0003】
この油冷モータとインバータとの間を接続するための油冷モータ用ハーネスとしては、例えば、特許文献1に開示されたコネクタ構造を有するものがある。
【0004】
図6に示すように、特許文献1の油冷モータ用ハーネス31は、導電性材料からなるシールドケース35内に油冷モータ本体34を収容した油冷機器(油冷モータ)に接続される。シールドケース35の内部には、油冷モータ本体34から延伸したバスバー状の3つの端子32が待ち受けている。
【0005】
この油冷モータ用ハーネス31は、シールド電線44、フランジ部38、端子金具37、及び外装体39を備えて構成されている。シールド電線44は、複数の金属細線からなる導体40を、絶縁性合成樹脂材料からなる筒状の絶縁体41で包囲するとともに、その絶縁体41の外周に沿って編組線からなる筒状のシールド層42を配し、さらに、このシールド層42を絶縁性の合成樹脂材料からなるシース43で包囲した構成になる。シールド電線44の前端部においては、シース43が剥ぎ取られてシース43の前端縁から絶縁体41とシールド層42が露出して突出され、さらに、その絶縁体41の前端部が剥ぎ取られてその絶縁体41の前端縁から導体40が露出した状態で突出されている。
【0006】
シース43の前端部には導電性のスリーブ46が外嵌されており、このスリーブ46の略前半部分には、シース43の前端から露出されているシールド層42が後方へ折り返された状態で外嵌され、さらに、この折り返されたシールド層42には、金属製のカシメ筒45がカシメ付けにより導通可能に固着されている。このカシメ筒45により、スリーブ46とシールド層42がシース43の前端部に対して遊動規制された状態で固定されている。
【0007】
さらに、スリーブ46の略後半部分には、フランジ部38が導通可能に取り付けられている。フランジ部38は、導電性材料からなり、軸線をシールド電線44と平行に向けた円形の筒部47と、シールド電線44の軸方向と直交する平板状をなすフランジ部38とを一体成形したものである。また、フランジ部38にはボルト孔が形成されており、ボルト36でもってシールドケース35に導通可能に固定される。
【0008】
端子金具37は、所定形状に打ち抜いた金属板材を曲げ加工することで全体として前後方向に細長い形状に成形されている。端子金具37の略前半部分は、水平な平板状をなすとともにボルト孔が形成され、ボルト33でもって油冷モータ本体34の端子32に固定される。かかる端子金具37は、シールド電線44の導体40にカシメ付けることで圧着により接続されている。
【0009】
外装体39は、樹脂モールドにより、シールド電線44の前端部、及び端子金具37の後端部に対してこれらを全周に亘って隙間なく包囲する形態で一体化されたものである。
【0010】
端子金具37の略前半部分には、その外面を全周に亘って溝状に凹ませた形態のくびれ部51が形成されており、このくびれ部51に接着剤が塗布され、シールド電線44の導体40に油が到達することを防止している。
【0011】
また、絶縁体41にゴムOリング50を外嵌し、さらに筒部47には、全周に亘って凹ませた形態の溝が形成され、各溝には、夫々、接着剤52が塗布され、シールド電線44のシールド層42とカシメ筒45に油が到達することを防止している。
【0012】
また、外装体39の外周にはシール溝が形成され、このシール溝にゴムOリング53が装着され、シールドケース35と外装体39の隙間から油が漏出することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−272729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1の油冷モータ用ハーネス31は、以下の問題点があった。
【0015】
端子金具37の端子32との接触面と、油冷モータ本体34の距離をL4、端子32の端子金具37との接触面と、油冷モータ本体34の距離をL5とすれば、L4とL5を全くの同一寸法とすることは困難である。すなわち、端子金具37と端子32には隙間(干渉)が生じる。この状態でボルト33を締結した場合、端子金具37の先端部分に荷重が加わり、外装体39とシールドケース35の接触部D(干渉の場合接触部F、以下同じ)に最大曲げモーメントが作用する。
【0016】
前述したとおり、外装体39は樹脂で形成されており、端子金具37と端子32の隙間の値によっては、外装体39の樹脂に接触部D近辺での剥離・クラックが生じ、機器内部の油がシールド電線44のシールド層42とカシメ筒45に到達し、シールド性能の低下を招く虞がある。
【0017】
さらに、端子金具37と外装体39の境界部Eにおいても、曲げモーメントが作用する。この場合、境界部Eにおいて外装体39の樹脂の剥離・クラックが生じ、さらには、くびれ部51に塗付された接着剤の剥離が生じ、シールド電線44の導体40に対する防油性能の低下を招く虞がある。
【0018】
対策として、L4,L5の寸法精度を向上させ、端子金具37と端子32の隙間を極力小さくする方法が考えられるが、寸法精度向上に伴うコスト上昇を招き、望ましくない。
【0019】
本発明は、上述した事情に鑑み為されたもので、コスト上昇なく防油性能の低下の低減が可能な油冷機器用ハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成するために創案された本発明は、前端側が油冷機器のシールドケースに形成された挿通孔から挿通されて、前記シールドケース内に設けられた機器本体の端子と接続される油冷機器用ハーネスにおいて、当該油冷機器用ハーネスは、導体と、前記導体の周囲に設けられたシールド層と、を含む可撓性のシールド電線と、前記シールド電線の前端側を収容すると共に前記導体と接続され、且つ、前記機器本体の端子と接続される端子金具と、前記シールドケースに取り付けられるフランジ部を有し、前記シールド電線と露出させるために前記端子金具から所定間隔を隔てて前記シールド電線の外周を囲繞するハウジングと、 前記シールド電線と前記端子金具との隙間に設けられ、前記導体に前記シールドケース内の油が流入するのを防止する油流入防止手段と、前記シールド電線と密着し、前記挿通孔における前記シールド電線と前記シールドケースとの隙間を塞ぐために設けられた防油栓と、を備え、前記端子金具と前記ハウジングとが、前記端子金具と前記ハウジングとの間で露出された前記シールド電線により相対的に移動可能に構成されたことを特徴とする油冷機器用ハーネスである。
【0021】
前記油流入防止手段は、前記シールド電線の前記導体と前記シールド層との間に設けられた絶縁性の弾性体を前記端子金具の後端側に形成された筒状のカシメ部によりカシメ付けることで形成されると良い。
【0022】
前記油流入防止手段は、前記シールド層の外周に設けられた絶縁性の弾性体からなるシースの一部を前記端子金具の後端側に形成された筒状のカシメ部によりカシメ付けることで形成されると良い。
【0023】
前記シールド層は、前記ハウジング内において前記シールド電線から露出され、前記ハウジングと導通可能に固着されると良い。
【0024】
前記防油栓は、弾性体からなると良い。
【0025】
前記ハウジングの前記防油栓と接触する少なくとも一部には、凸部が設けられ、前記防油栓には、前記凸部と嵌合する溝部が設けられていると良い。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、コスト上昇なく防油性能の低下の低減が可能な油冷機器用ハーネスの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る油冷機器用ハーネス1を示す断面図。
【図2】本発明の実施の形態に係る油冷機器用ハーネス1の防油栓101を示す斜視図。
【図3】本発明の実施の形態に係る油冷機器用ハーネス1の変形例を示す断面図。
【図4】本発明の実施の形態に係る油冷機器用ハーネス1の変形例に用いる防油栓101を示す斜視図。
【図5】本発明の実施の形態に係る油冷機器用ハーネス1の変形例を示す断面図。
【図6】従来の油冷機器用ハーネスを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1.油冷機器用ハーネス1の構成
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に従って説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る油冷機器用ハーネス1を示す断面図である。
【0029】
本発明の実施の形態に係る油冷機器用ハーネス1は、図1に示すように、前端側が油冷機器のシールドケース5に形成された挿通孔5hから挿通されて、シールドケース5内に設けられた機器本体の端子2と接続されるものである。油冷機器用ハーネス1は、導体10と、導体10の周囲に設けられたシールド層12と、を含む可撓性のシールド電線14と、シールド電線14の前端側を収容すると共に導体10と接続され、且つ、機器本体の端子2と接続される端子金具7と、シールドケース5に取り付けられるフランジ部16を有し、シールド電線14と露出させるために端子金具7から所定間隔を隔ててシールド電線14の外周を囲繞するハウジング8と、シールド電線14と端子金具7との隙間に設けられ、導体10にシールドケース5内の油が流入するのを防止する油流入防止手段17と、シールド電線14と密着し、挿通孔5hにおけるシールド電線14とシールドケース5との隙間を塞ぐために設けられた防油栓101と、を備えている。また、端子金具7とハウジング8とが、端子金具7とハウジング8との間で露出されたシールド電線14の可撓性により相対的に移動可能に構成されている。
【0030】
以下、詳細に述べる。
【0031】
図1に示すように、本実施の形態に係る油冷機器用ハーネス1は、導電性材料からなるシールドケース5内に機器本体4を収容し、シールドケース5内に油冷用の油を充填した油冷機器(油冷モータ)に接続される。シールドケース5の内部には、油冷モータ本体等の機器本体4から延伸したバスバー状の3つの機器本体の端子2が待ち受けている。つまり、油冷機器用ハーネス1の前端側は、シールドケース5に形成された挿通孔5hから挿通されてシールドケース5内に収容され、シールドケース5内に設けられた機器本体の端子2と接続される。
【0032】
本実施の形態において、シールド電線14は、複数の金属細線からなる導体10を、筒状の絶縁体11で包囲すると共に、その絶縁体11の外周に沿って編組線からなる筒状のシールド層12を配し、さらに、このシールド層12をシース13で包囲して構成される。本実施の形態におけるシールド電線14は、シールド電線14の前端部のシース13を剥ぎ取ってシース13の前端縁から絶縁体11とシールド層12を露出して突出され、さらに、その絶縁体11の前端部が剥ぎ取られてその絶縁体11の前端縁から導体10が露出して突出されている。
【0033】
シールド層12は、金属製のハウジング8内において上記のようにシース13の前端縁から露出して突出され、ハウジング8と導通可能に固着されている。詳しくは、シース13の前端部には導電性のスリーブ15が外嵌されており、このスリーブ15には、露出されているシールド層12が後方へ折り返された状態で外嵌され、さらに、この折り返されたシールド層12は、金属製のハウジング8の略後半部分がカシメ付けにより導通可能に固着されている。ここでフランジ部16は、金属製のハウジング8と一体で形成されている。また、フランジ部16にはボルト孔が形成されており、ボルト6でもってシールドケース5に導通可能に固定される。
【0034】
端子金具7の略前半部分は、水平な平板状をなすとともにボルト孔が形成され、ボルト3でもって機器本体の端子2に固定される。また、端子金具7の略後半部分は、筒状をなし、シールド電線14の導体10を露出させないために、導体10及び絶縁体11の端縁を端子金具7の筒状部分に挿入し、端子金具7の後端側に形成された筒状のカシメ部24により各々をカシメ付けることで接続されている。
【0035】
ここで絶縁体11は絶縁性の弾性体で形成され、絶縁体11を筒状のカシメ部24によりカシメ付ける際の弾性体の反発力により、端子金具7と絶縁体11の隙間を塞ぎ、導体10に油が流入することを防止している(油流入防止手段17)。なお、油流入防止手段17は、絶縁体11と端子金具7との隙間に設けられるゴムOリングであっても良い。この場合、端子金具7の内周面には、ゴムOリングと嵌合するような溝を形成すると良い。このようにすることにより、例えば、絶縁体11が所望の反発力を有さない場合であっても、導体10に油が流入するのを防止することが可能となる。
【0036】
ハウジング8の端部には、ハウジング8内からハウジング8外へ突出するように防油栓101が設けられている。防油栓101は、ゴム等の弾性体からなる。防油栓101は、シールド電線14と密着し、挿通孔5hにおけるシールド電線14とシールドケース5との隙間を塞ぐように設けられるものであり、シールドケース5内に充填された油がシールドケース5外に漏出するのを防止するためのものである。なお、本実施の形態では、上記のように、シールド電線14の前端部のシース13を剥ぎ取ってシース13の前端縁から絶縁体11とシールド層12を露出して突出させ、さらに、その絶縁体11の前端部が剥ぎ取られてその絶縁体11の前端縁から導体10が露出して突出させているため、防油栓101は、シールド電線14の絶縁体11と密着するように設けられている。
ところで、本実施形態においては、シールド層12が金属製のハウジング8内において上記のようにシールド電線14から露出して突出されているので、シールドケース5内からシールド電線14の外周を伝いシールド層12へ油が流入してしまう場合がある。しかし、防油栓101は、シールド電線14と密着するように設けられているので、シールドケース5内からシールド電線14の外周を伝いシールド層12へ油が流入してしまうことを防止することも可能である。
【0037】
防油栓101は、図2に詳しく示すように、内径Riが同じで外径の異なる(Ro1>Ro2)円筒を同心軸上に二つ重ねたような形状をしている。防油栓101は、挿通部102が形成されており、挿通部102にシールド電線14を挿通することにより、シールド電線14に取り付けられる。挿通部102の径(即ち、防油栓101の内径Ri)は、防油栓101とシールド電線14とを良好に密着させるために、シールド電線14の外径(本実施の形態においては、絶縁体11の外径)よりやや小さくしている。また、防油栓101は、油冷機器用ハーネス1をシールドケース5に取り付けた際にシールドケース5と良好に密着してシールドケース5内に充填された油がシールドケース5外に漏出するのを防止するために、防油栓101のシールドケース5と接触する部分の外径(Ro2)をシールドケース5の挿通孔5hの径よりもやや大きくしている。この場合、油冷機器用ハーネス1の前端側が機器のシールドケース5内に収容される際には、防油栓101は、挿通孔5hの径に伴って変形して挿通孔5hに挿通されていくとともに、弾性体であるがゆえの反発力によりシールドケース5に密着するようになっている。このとき、防油栓101を挿通孔5hに挿通しやすいように、シールドケース5と密着する防油栓101の外周部周方向に凹部及び凸部を複数形成することも可能である。
【0038】
本実施の形態において、ハウジング8と防油栓101とは、接着剤により接着固定されている。これにより、ハウジング8からシールドケース5内へ防油栓101が抜けてしまうのを低減することが可能である。
【0039】
ハウジング8の略後半部分に接着剤21を塗布し、熱収縮チューブ22で接着剤21を覆うことで、シールド電線14のシールド層12とスリーブ15に、機器外部からの水が到達することを防止している。
【0040】
2.油冷機器用ハーネス1の作用効果
次に、本実施の形態に係る油冷機器用ハーネス1の作用効果を説明する。
【0041】
(1)端子金具7は、シールド電線14の導体10を露出させないように、導体10と接続されている。このため、シールドケース5内に充填された油が導体10に流入することを防止することが可能である。また、ハウジング8は、端子金具7からシールド電線14が露出するように、所定間隔L3を隔ててシールド電線14の外周に備えられている。そのため、油冷機器用ハーネス1は、端子金具7とハウジング8とが、端子金具7とハウジング8との間で露出されたシールド電線14により相対的に移動可能に構成されている。
これにより、端子金具7の機器本体の端子2との接触面と、機器本体4の距離をL1、機器本体の端子2の端子金具7との接触面と、機器本体4の距離をL2とすれば、端子金具7とハウジング8との間のシールド電線14の可撓性により、L2=L1とすることが可能となる。したがって、L2とL1との寸法精度の向上が必要なくなり、L2とL1との寸法精度の向上に伴うコストの上昇を抑えることが可能となる。更に、防油栓101は、シールド電線14と密着し、挿通孔5hにおけるシールド電線14とシールドケース5との隙間を塞ぐように設けられている。これにより、シールドケース5内に充填された油がシールドケース5外に漏出するのを防止することが可能である。また、本実施の形態のように、シールド層12が金属製のハウジング8内においてシールド電線14から露出して突出されている場合には、シールドケース5内からシールド電線14の外周を伝いシールド層12へ油が流入してしまうことを防止することも可能である。即ち、この場合、防油栓101は、シールドケース5内に充填された油がシールドケース5外に漏出するのを防止する機能と、シールドケース5内からシールド電線14の外周を伝いシールド層12へ油が流入してしまうことを防止する機能と、を有する。
【0042】
以上により、本実施の形態に係る油冷機器用ハーネス1は、L1,L2の寸法精度を向上させる必要はなく、寸法精度向上に伴うコスト上昇を生じることなく、防油性能の低下の低減が可能となる。
【0043】
(2)防油栓101は、弾性体からなる。これにより、防油栓101の上記作用効果に加え、端子金具7とハウジング8とが更に相対的に移動可能となる。これについて、詳細に説明する。
【0044】
車載部品は、年々小型化が要求されており、油冷機器に関しても同様である。この小型化の要求に伴って、端子金具7からハウジング8の間に設けられた所定間隔L3に制約が加わる場合がある。この場合、端子金具7とハウジング8とが充分に相対的に移動できずに、端子金具7と機器本体の端子2とに僅かながら隙間(干渉)が生じてしまう場合がある。しかし、防油栓101が弾性体からなることにより、端子金具7とハウジング8とが相対的に移動可能な距離がL3からL4まで延ばすことができ、L3に制約が加わった場合であっても、端子金具7と機器本体の端子2とに隙間(干渉)が生じてしまうのを更に低減することが可能である。即ち、この場合、防油栓101は、シールドケース5内に充填された油がシールドケース5外に漏出するのを防止する機能と、シールドケース5内からシールド電線14を伝いシールド層12へ油が流入してしまうことを防止する機能と、に加え、端子金具7とハウジング8とが相対的に移動可能な距離をL3からL4まで延ばす機能と、を有する。
【0045】
3.油冷機器用ハーネス1の変形例
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、以下の変形が可能である。
(1)上記実施の形態では、シールド電線14の前端部において、シース13が剥ぎ取られてシース13の前端縁から絶縁体11とシールド層12が露出して突出され、さらに、その絶縁体11の前端部が剥ぎ取られてその絶縁体11の前端縁から導体10が露出した状態で突出されているものを用い、絶縁体11を端子金具7の後端側に形成された筒状のカシメ部24によりカシメ付けることで油流入防止手段17を形成している。しかし、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば、シース13、シールド層12及び絶縁体11は、剥ぎ取らず、導体10、絶縁体11及びシールド層12を露出させないようにしても良い。その場合は、絶縁性の弾性体からなるシース13を端子金具7の後端側に形成された筒状のカシメ部24によりカシメ付けることで油流入防止手段17とすると良い。
【0046】
(2)上記実施の形態において、ハウジング8と防油栓101とは、接着剤により接着固定されているものとしたが、ハウジング8と防油栓101との材質によっては、ハウジング8と防油栓101との接着固定が充分でなく、ハウジング8からシールドケース5内へ防油栓101が抜けてしまう場合がある。これに対し、例えば、図3に示すように、ハウジング8の防油栓101と接触する少なくとも一部に凸部103を設け、防油栓101に凸部103と嵌合する溝部104を設けることで対応可能である。この防油栓101は、図4に詳しく示すように、内径Riが同じで外径の異なる(Ro1>Ro2>Ro3)円筒を同心軸上に三つ重ねたような形状をしている。これにより、防油栓101の略中央部にシールド電線14の長手方向に対して垂直に凹む溝部104が形成される。この防油栓101と接触するハウジング8の内周部には、シールド電線14の長手方向に対して垂直に張り出した凸部103が形成されている。そして、凸部103を溝部104に嵌合させることにより、ハウジング8と防油栓101との接着固定が充分でなくとも、凸部103が溝部104に係止され、ハウジング8からシールドケース5内へ防油栓101が抜けてしまうのを低減することが可能である。なお、このような構成をとった場合には、ハウジング8と防油栓101とを接着固定する接着剤は、省略可能である。
【0047】
(3)上記実施の形態のようなモータに接続されるハーネスは、一般的に、UVW相の3相線であることが多い。この場合、端子金具7とハウジング8の所定間隔L3を、例えばL3=20,30,40[mm]とすることで、3相線の誤組立の防止が可能となる。なお、本実施の形態においては、油冷機器用ハーネス1に接続される機器として、3相モータに適用した例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、複数本の油冷機器用ハーネス1の誤組立防止の用途であれば、全て適用可能である。
【0048】
(4)また、図5に示すように、挿通孔5hの一部に内側に張り出した段差部5dを設けることも可能である。このようにすることにより、防油栓101は、段差部5dに係止され、シールドケース内へ抜けてしまうことがない。この場合、上記のように、ハウジング8と防油栓101とを接着剤により接着固定したり、ハウジング8の防油栓101と接触する少なくとも一部に凸部103を設け、防油栓101に凸部103と嵌合する溝部104を設けたりすることを省略することが可能である。段差部5dは、挿通孔5hの内周全周にわたって設けられるものであってもよく、挿通孔5hの内周の一部にのみ設けられるものであってもよい。
【0049】
(5)なお、本発明に係る油冷機器用ハーネス1は、上記のように、油冷モータ用に限定されるものではなく、内部に油が充填された油冷機器内に配置された機器本体の端子と接続するために用いられるものであれば良く、例えば、油冷エンジン等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1:油冷機器用ハーネス
2:端子
3:ボルト
4:機器本体
5:シールドケース
5h:挿通孔
6:ボルト
7:端子金具
8:ハウジング
10:導体
11:絶縁体
12:シールド層
13:シース
14:シールド電線
15:スリーブ
16:フランジ部
17:油流入防止手段
21:接着剤
22:熱収縮チューブ
24:カシメ部
101:防油栓
102:挿通部
103:凸部
104:溝部
L1:端子金具7の端子2との接触面と、機器本体4の距離
L2:端子2の端子金具7との接触面と、機器本体4の距離
L3:端子金具7からハウジング8の間に設けられた所定間隔
i:挿通部102の径(防油栓101の内径)
o1,Ro2、Ro3:防油栓101の外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端側が油冷機器のシールドケースに形成された挿通孔から挿通されて、前記シールドケース内に設けられた機器本体の端子と接続される油冷機器用ハーネスにおいて、
当該油冷機器用ハーネスは、
導体と、前記導体の周囲に設けられたシールド層と、を含む可撓性のシールド電線と、
前記シールド電線の前端側を収容すると共に前記導体と接続され、且つ、前記機器本体の端子と接続される端子金具と、
前記シールドケースに取り付けられるフランジ部を有し、前記シールド電線と露出させるために前記端子金具から所定間隔を隔てて前記シールド電線の外周を囲繞するハウジングと、
前記シールド電線と前記端子金具との隙間に設けられ、前記導体に前記シールドケース内の油が流入するのを防止する油流入防止手段と、
前記シールド電線と密着し、前記挿通孔における前記シールド電線と前記シールドケースとの隙間を塞ぐために設けられた防油栓と、を備え、
前記端子金具と前記ハウジングとが、前記端子金具と前記ハウジングとの間で露出された前記シールド電線により相対的に移動可能に構成されたことを特徴とする油冷機器用ハーネス。
【請求項2】
前記油流入防止手段は、前記シールド電線の前記導体と前記シールド層との間に設けられた絶縁性の弾性体を前記端子金具の後端側に形成された筒状のカシメ部によりカシメ付けることで形成される請求項1記載の油冷機器用ハーネス。
【請求項3】
前記油流入防止手段は、前記シールド層の外周に設けられた絶縁性の弾性体からなるシースの一部を前記端子金具の後端側に形成された筒状のカシメ部によりカシメ付けることで形成される請求項1記載の油冷機器用ハーネス。
【請求項4】
前記シールド層は、前記ハウジング内において前記シールド電線から露出され、前記ハウジングと導通可能に固着されている請求項1又は2記載の油冷機器用ハーネス。
【請求項5】
前記防油栓は、弾性体からなる請求項1〜4の何れかに記載の油冷機器用ハーネス。
【請求項6】
前記ハウジングの前記防油栓と接触する少なくとも一部には、凸部が設けられ、
前記防油栓には、前記凸部と嵌合する溝部が設けられている請求項1〜5の何れかに記載の油冷機器用ハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−195178(P2012−195178A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58682(P2011−58682)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】