説明

油分吸着材、及び油分回収方法

【課題】水中の油分を吸着する吸着材を用いた油分回収方法を簡易かつ効率的に行い、前記方法を低コストで実現する。
【解決手段】コアを構成する無機粒子及び金属粒子の少なくとも一方と、前記コアを被覆してなるポリマーとを具え、前記ポリマーが
分子構造A群:スチレン、ブタジエン、イソプレン、エチレン、プロピレン、及び
分子構造B群:アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、ビニルピリジン、ビニルアルコール、無水マレイン酸、マレイン酸
の共重合体であるようにして油分吸着材を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中から油分を回収するための油分吸着材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、工業の発達や人口の増加により水資源の有効利用が求められている。そのためには、工業排水などの廃水の再利用が非常に重要である。これらを達成するためには水の浄化、すなわち水中から他の物質を分離することが必要である。
【0003】
液体からほかの物質を分離する方法としては、各種の方法が知られており、たとえば膜分離、遠心分離、活性炭吸着、オゾン処理、凝集、さらには所定の吸着材による浮遊物質の除去などが挙げられる。このような方法によって、水に含まれるリンや窒素などの環境に影響の大きい化学物質を除去したり、水中に分散した油類、クレイなどを除去したりすることができる。
【0004】
これらのうち、膜分離はもっとも一般的に使用されている方法のひとつであるが、水中に分散した油類を除去する場合には膜の細孔に油が詰まり易く、膜の寿命が短くなりやすいという問題がある。このため、水中の油類を除去するには膜分離は適切でない場合が多い。このため重油等の油類が含まれている水からそれらを除去する手法としては、例えば重油の浮上牲を利用し、水上の設置されたオイルフェンスにより水の表面に浮いている重油を集め、表面から吸引および回収する方法、または、重油に対して吸着性をもった疎水性材料を水上に敷設し、重油を吸着させて回収する方法等が挙げられる。
【0005】
かかる観点より、近年においては、油分吸着材を用い、油類が分散した水中内に浸漬させることによって、前記油分吸着材に前記油類を吸着させ、前記水中から除去する試みがなされている。例えば、特許文献1には、磁性体粒子の表面に樹脂等の有機質を吸着させてなる油分吸着材を用い、水中から油分を吸着除去する技術が開示されている。しかしながら、この方法では、この方法では、水中への分散性が低く、前記機能性粒子が沈降したり、表面に浮遊してしまう傾向があり、効率良く油分の吸着除去を行うことができなかった。
【0006】
また、特許文献2には、親水性ブロックと親油性ブロックとを有する油分吸着材としての吸着ポリマーを用いて油を吸着させ、その後その吸着ポリマーを水から除去する方法が開示されている。しかしながら、このような方法では吸着ポリマーと水の分離に労力がかかるだけでなく、油が吸着したポリマーが軟化して作業性が悪いという問題もある。
【0007】
一方で、特許文献3には、磁性化された吸着性粒子を用いて、油類を吸着した後の吸着性粒子を、磁気を用いて分離する方法も知られている。例えば、磁性体表面をステアリン酸で修飾し、その磁性体に水中の油を吸着させ、回収する方法が開示されている。しかしながら、この方法でも磁性体の表面修飾に低分子化合物であるステアリン酸やカップリング剤を使用するため、それらの低分子化合物が逆に水を汚染してしまう可能性が高いという問題がある。
【0008】
また、上述した特許文献1〜3のいずれにおいても、油分吸着材は油分を吸着した後はそのまま廃棄されてしまい、前記油分吸着材の利用効率が悪いという問題がある。さらに、利用に供する油分吸着材においても、その製造過程において規格外となるものはそのまま廃棄されてしまうことになり、かかる観点からも前記油分吸着材の利用効率が劣化してしまうことになる。この結果、必要な油分を吸着除去するには比較的多量の油分吸着材が必要となり、油分除去操作に関するコストが必然的に増大してしまうという問題があった。
【0009】
【特許文献1】特開昭60−97087号
【特許文献2】特開平07−102238号
【特許文献3】特開2000−176306号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記問題に鑑み、水中の油分を吸着する吸着材を用いた油分回収方法を簡易かつ効率的に行い、前記方法を低コストで実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、コアを構成する無機粒子及び金属粒子の少なくとも一方と、前記コアを被覆してなるポリマーとを具え、前記ポリマーが、分子構造A群:スチレン、ブタジエン、イソプレン、エチレン、プロピレン、及び分子構造B群:アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、ビニルピリジン、ビニルアルコール、無水マレイン酸、マレイン酸の共重合体であることを特徴とする、油分吸着材に関する。
【0012】
また、本発明の一態様は、上記油分吸着材を用いて水中の油分を吸着する油分回収方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水中の油分を吸着する吸着材を用いた油分回収方法を簡易かつ効率的に行い、前記方法を低コストで実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、実施形態に基づいて説明する。
【0015】
(油分吸着材)
本実施形態における油分吸着材は、無機粒子及び金属粒子の少なくとも一方がコアを構成し、ポリマーが前記コアを被覆して凝集したものである。前記無機粒子及び前記金属粒子は、油分吸着材のコアをなすものであるので、水中に短時間浸漬しても大きな化学変化を起こさないものから適宜選択する。
【0016】
例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ、ガラス、タルク、アルミナ、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マグネシア、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、雲母等のセラミック粒子及び、アルミニウム、鉄、銅、及びこれらの合金等の金属粒子、及びこれらの酸化物である磁鉄鉱、チタン鉄鉱、磁硫鉄鉱、マグネシアフェライト、コバルトフェライト、ニッケルフェライト、バリウムフェライト、等を用いることができる。
【0017】
特に、以下に説明するように、上記油分吸着材を回収する際に有利であることから、前記無機粒子及び前記金属粒子は、磁性体を含むことが好ましい。
【0018】
磁性体は特に限定されるものではないが、室温領域において強磁性を示す物質であることが望ましい。しかしながら、本実施形態に当ってはこれらに限定されるものではなく、強磁性物質を全般的に用いることができ、例えば鉄、および鉄を含む合金、磁鉄鉱、チタン鉄鉱、磁硫鉄鉱、マグネシアフェライト、コバルトフェライト、ニッケルフェライト、バリウムフェライト、などが挙げられる。
【0019】
これらのうち水中での安定性に優れたフェライト系化合物であればより効果的に本発明を達成することができる。例えば磁鉄鉱であるマグネタイト(Fe)は安価であるだけでなく、水中でも磁性体として安定し、元素としても安全であるため、水処理に使用しやすいので好ましい。
【0020】
また、本実施形態では、上記無機粒子及び金属粒子自体を磁性体とすることができる。この場合、前記磁性体は磁性粉として構成されるが、球状、多面体、不定形など種々の形状を取り得るが特に限定されない。また、望ましい磁性粉としての粒径や形状は、製造コストなどを鑑みて適宜選択すれば良く、特に球状または角が丸い多面体構造が好ましい。
【0021】
鋭角な角を持つ粒子であると、表面を被覆するポリマー層を傷つけ、油分吸着材の形状を維持しにくくなってしまうことがあるためである。これらの磁性粉は、必要であればCuメッキ、Niメッキなど、通常のメッキ処理が施されていてもよい。また、その表面が腐食防止などの目的で表面処理されていてもよい。
【0022】
また、上記磁性体は、上述のように直接磁性粉として構成される代わりに、前記磁性粉が樹脂等のバインダーで結合されたものであってもよい。すなわち、前記磁性体を磁力によって回収する際に、前記磁力が及ぶだけの磁性を有すれば特に限定されるものでない。
【0023】
上記磁性粉の大きさは、磁性粉の密度、用いられるポリマーの種類や密度、表面修飾する官能基の種類と量、など種々の条件によって変化する。しかしながら、本実施形態では、前記磁性粉の平均粒子径は、一般に0.05〜100μm、好ましくは0.2〜5μmである。ここで、平均粒子径は、レーザー回折法により測定されたものである。具体的には、株式会社島津製作所製のSALD−DS21型測定装置(商品名)などにより測定することができる。
【0024】
上記磁性粉の平均粒子径が100μmよりも大きいと、凝集する粒子が大きくなりすぎて、油分回収工程の際に、水への分散が悪くなる傾向があり、また粒子の実効的な表面積が減少して、油類などの吸着量が減少する傾向にあるので好ましくない。また粒子径が0.05μmより小さくなると、1次粒子が緻密に凝集し、樹脂複合体の表面積が小さくなる傾向があるので好ましくない。
【0025】
なお、上述した平均粒子径は磁性粉の場合に限られず、上述したセラミック粒子等の無機粒子や非磁性の金属粒子に対しても好ましく、同様の作用効果を奏する。
【0026】
また、本実施形態において、上述した無機粒子等からなる油分吸着材のコアを被覆するポリマーは、
分子構造A群:スチレン、ブタジエン、イソプレン、エチレン、プロピレン、及び
分子構造B群:アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、ビニルピリジン、ビニルアルコール、無水マレイン酸、マレイン酸
の共重合体であることが必要である。
【0027】
分子構造A群は親油性を呈し、分子構造B群は親水性を呈するので、前記分子構造A群が主として油分吸着能力に寄与し、前記分子構造B群が主として水分散性に寄与することになる。したがって、前記ポリマー、すなわち本実施形態の油分吸着材は油分吸着能力と水分散性とを両立させることができる。この結果、以下に説明するように、前記油分吸着材を用いて油分吸着を実施した際に、前記分子構造B群に起因して前記油分吸着材が油分を含む水中に沈降したり、水面に偏在したりせずに、水中の全体に亘って均一に分散するようになり、前記分子構造A群に起因して前記油分吸着材が前記油分を十分に吸着するようになるので、簡易かつ高効率で油分の回収を行うことができるようになる。
【0028】
なお、上記ポリマーを構成する分子構造A群及び分子構造B群は、例示したものから単独で選択しなければならないものでなく、それぞれの群から複数を選択することができる。例えば、分子構造A群からスチレン及びブタジエンを選択し、分子構造B群からアクリロニトリルを選択し、これら3つの分子構造群(モノマー)からなる共重合体とすることもできる。
【0029】
特に好ましい分子構造としては、分子構造A群としてはスチレン、分子構造B群としてはアクリロニトリルが挙げられる。さらには、分子構造A群がスチレンである場合、分子構造B群はアクリロニトリルであることが好ましい。
【0030】
上述した組み合わせを採用することにより、後述する油分回収方法の、油分吸着材と油分との分離工程において、溶媒で洗浄した際にも前記ポリマーが前記溶媒に対して高い耐性を示し、その形態、すなわち油分吸着材の形態を維持するようになる。したがって、前記油分吸着材を一度油分回収に用いた場合においても、何らの後処理を施すことなく、そのまま再度油分回収に利用することができるようになる。
【0031】
なお、分子構造A群:分子構造B群=95:5〜40:60であることが好ましい。これより分子構造A群の量が多いと水分散性が低下してしまい、油分回収効率が低下してしまう場合がある。また、上記範囲より分子構造B群の量が多いと油分の吸着に供する分子構造の割合が低下してしまうので、同様に油分回収効率が低下してしまう場合がある。
【0032】
重合の種類は、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合など特に限定されない。
【0033】
(油分吸着材の製造)
次に、上述した本実施形態の油分吸着材の製造方法について説明する。
【0034】
最初に、上述した無機粒子等と、分子構造A群及びB群の共重合体であるポリマーと、溶媒Aとを準備し、これらを混合して、所定のスラリー溶液を調整する。実際には、前記無機粒子等と前記ポリマーとを溶媒Aに対して溶解させる。
【0035】
上記溶媒Aは、上述した無機粒子等とポリマーとを溶解し、上述したスラリー溶液を形成できるものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは極性溶媒とする。極性溶媒は親水性に優れるので、無機粒子等の表面に微量に存在する水酸基と溶媒Aとが親和し、前記無機粒子等が凝集せず溶媒A中に均一に分散するようになる。
【0036】
なお、本実施形態で、“親水性”とは、水と自由に混和するものと定義し、具体的には1気圧において温度20℃で同容量の純水と緩やかにかき混ぜた場合に、流動がおさまった後も当該混合液が均一な外観を維持するものである。
【0037】
上記溶媒Aを非極性溶媒とすると、前記溶媒Aは疎水性溶媒(水の溶解度が10%以下のものと定義する)となるので、スラリー溶液中で無機粒子が凝集して不均一となる場合がある。このため以下に説明するスプレードライにより油分吸着材を製造した場合、無機粒子等を含まないものや、無機粒子等ばかりのものができてしまい、実際の油分吸着に適さない不良品の分別に多くの工程が必要になる。さらに、不良品の組成も均一でないため、再利用の際に、上記スラリー溶液に戻すには、その溶液濃度を設定値に保持すべく、前記不良品に対する組成分析が必要になり、再利用の工程が煩雑になってしまう。
【0038】
上記親水性の溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、などが挙げられる。好ましくは、様々なポリマーを溶解させることのできるアセトン、テトラヒドロフランがよい。
【0039】
次に、上述したスラリー溶液を噴霧乾燥する。この噴霧乾燥には、いわゆる有機物含有溶液から有機溶媒を除去して粒子状の前記有機物を得ることができるスプレードライ法を用いる。本実施形態において、前記有機物は、前記無機粒子等をコアとし、その周囲を上記ポリマーで被覆してなる樹脂複合体粒子であり、本発明の油分吸着材である。
【0040】
スプレードライ法によれば、スプレードライの環境温度や噴出速度などを調整することにより1次粒子が凝集した2次凝集体の平均粒子径が調整できる上、凝集した1次粒子の間から有機溶媒が除去される際に孔が形成され、油分吸着材として好適な多孔質構造を容易に形成させることもできる。
【0041】
スプレードライ法は公知のいかなるものでも構わないが、例えばディスクタイプ、加圧ノズルタイプ、2流体ノズルタイプが挙げられる。
【0042】
(油分回収方法)
次に、上述の油分吸着材を用いた油分回収方法について説明する。油分回収操作は、油分を含んでなる水から、前記油分を分離するものである。ここで“油分”とは、水中に混和/分散している有機物のうち、一般に常温において液体であり、水に難溶性であり、粘性が比較的高く、水よりも比重が低いものをいう。より具体的には、動植物性油脂、炭化水素、芳香油などである。これらは、脂肪酸グリセリド、石油、高級アルコールなどに代表される。これらの油類はそれぞれ有する官能基などに特徴があるので、それに応じて上記油分吸着材を構成するポリマーや官能基を選択することができる。
【0043】
最初に、油分を含んでなる水に、上記油分吸着材を浸漬、分散させる。上述したように、油分吸着材の表面には、分子構造A群に起因して親油性のポリマーが形成されているので、前記ポリマーと前記油分との親和性により、前記油分が前記ポリマーに吸着される。このとき、吸着材の表面は平滑ではなく、好ましくは多孔質構造であると、油分の吸着効率が高くなるが、上述したように、スプレードライ法を用いて油分吸着材Aを製造した際は、比較的多孔質となりやすいので、前記油分の吸着効率を必然的に向上させることができるようになる。
【0044】
前記油分吸着材が前記油分を吸着した後、前記油分吸着材を水から分離し、結果として、前記水中に存在した前記油分を分離除去する。なお、前記油分吸着材を分離する際には、公知の方法、例えば上述した重力による沈降や、サイクロンを用いた遠心力を用いて容易に行うことができる。さらに、上記無機粒子等が磁性体を含む場合は、磁気による分離をも併用することが可能となる。
【0045】
油分回収処理の対象とされる水は特に限定されない。具体的には工業排水、下水、生活排水などに用いることができる。処理しようとする水に含まれる油分濃度も特に限定されない。
【0046】
次いで、上記油分吸着材によって油分を吸着して水中から除去した後は、前記油分吸着材を溶媒Bで洗浄して吸着した油分を除去する。この溶媒Bは、前記油分吸着材に使用されているポリマーを溶解しないものでなくてはならない。具体的には、溶媒Bへの溶解度が1000mg/L以下のものを用いる。
【0047】
このような溶媒は被覆するポリマーや表面修飾により異なるが、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキシルアルコール、シクロヘキサノールや、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサン、クロロホルム、ジメチルアニリン、フロン、n−ヘキサン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0048】
この中でも、特に非極性の溶媒が好ましい。非極性の溶媒は疎水性を示し、特に油分との親和性が高くなるので、前記油分吸着材に吸着した前記油分の洗浄を簡易かつ効率的に行うことができる。また非極性溶媒を用いた場合には、劣化した吸着材の分離除去が非常に容易になる。なお、“疎水性”とは、水の溶解度が10%以下で、水と分離するものと定義する。特に、ヘキサンが油の溶解力が高く、沸点も約70度であって室温では常に安定した液体であるため、扱いやすく好ましい。
【0049】
また、溶媒Bとしてはアルコールをも好ましく用いることができる。この場合は、油分吸着材の表面に付着あるいは吸着した水と置換しやすく、油分以外の不純物を除去しやすい。アルコール類の中では、沸点の低いメタノールとエタノールが特に好ましい。
【0050】
本工程において、上記油分吸着材は、例えばカラムに充填し、その内部に溶媒Bを通過させる方法や、特に前記油分吸着材が磁性体を含むような場合は、洗浄槽中に入れるとともに多量の溶媒を投入し、サイクロンや磁力などの方法で分離させる方法が挙げられる。
【0051】
なお、上述したように、分子構造A群としてスチレンを採用し、分子構造B群としてアクリロニトリルを採用した場合は、溶媒Bに対して高い耐性を示し、その形態、すなわち油分吸着材の形態を維持するようになる。したがって、前記油分吸着材を一度油分回収に用いた場合においても、何らの後処理を施すことなく、そのまま再度油分回収に利用することができるようになる。
【0052】
次いで、前記油分吸着材から油分を除去した後は、洗浄に使用した溶媒Bを乾燥させる。この際、前記油分吸着材が劣化しておらず、規格内となっている場合は、溶媒Bを完全に取り除くことで、もう一度油分吸着材して再利用できる。乾燥工程は特に限定されないが、例えば風通しの良いところで乾燥させたり、減圧乾燥させたり、カラムにつめて通風したりして溶媒を除去する。
【実施例】
【0053】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0054】
(実施例1)
油分吸着材の製造
分子構造A群のスチレンと分子構造B群のアクリロニトリルを70/30の割合でランダム共重合させたポリマー6重量部を、300mlのテトラヒドロフラン中に溶解させて溶液とし、その溶液中に平均粒子径800nmの球状マグネタイト粒子40重量部(比表面積5.7m/g)を分散させて組成物を得た。この組成物を、ミニスプレードライヤー(柴田科学株式会社製、B−290型)を用いて噴霧し、球状に凝集した平均2次粒子径が約20μmの樹脂複合体、すなわち油分吸着粒子を製造した。SEM観察を行ったところ、磁性粉が凝集したポーラス体となっていた。このようにして得られた油吸着粒子1gを1L中の水に混合したところ、良好に分散し、攪拌停止1分後においてもほとんどが水中に分散していた。
【0055】
油分回収
上述のようにして得た油吸着粒子1gを1Lの共栓付三角フラスコに測り取り、直鎖脂肪族の油500μLを含む水200mlを加え、よく撹拌して前記油吸着粒子に油を吸着させた。その後、磁石を用いて前記油吸着粒子を三角フラスコに取り出した後、ヘキサン100mlを添加してよく撹拌して洗浄し、油を抽出した。このヘキサンを、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて分析し、前記油吸着粒子の油の吸着量を求めたところ499.9μL以上(水中油分濃度検出限界以下)の油を吸着していた。
【0056】
また、前記油吸着粒子を10mlのヘキサン中に投入しよく攪拌した。このヘキサン中から磁石を用いて前記油吸着粒子を取り出し、ヘキサンを分析したところ、全量の油を脱離していた。この脱離後の前記油吸着粒子をSEM観察したところ、吸着前と同様のポーラス構造を維持していた。
【0057】
次いで、上記油吸着粒子を洗浄した後、ステンレスバットに入れ、有機ドラフト中で30分乾燥させたところ、全量のヘキサンが飛んでいることがわかった。この後、前記油吸着粒子を乾式のサイクロンにかけ、小さい粒子を除去し、残りを良品として回収した。このようにして得られた再生吸着粒子を、同様の試験で500μLの油含む水200mL中に投入し油を吸着させたところ、499.9μl以上の油分を回収していることがわかった。
【0058】
(実施例2)
スチレンとアクリロニトリルの比を95/5に変えたこと以外は実施例1と同様に油分吸着粒子を作製した。水分散性は良好であった。同様に油分吸着量を測定したところ499.9μL以上の油を吸着し、ヘキサンでの全量脱離が確認できた。
【0059】
(実施例3)
スチレンとアクリロニトリルの比を40/60に変えたこと以外は実施例1と同様に油分吸着粒子を作製した。水分散性は良好であった。同様に油分吸着量を測定したところ499.9μL以上の油を吸着し、ヘキサンでの全量脱離が確認できた。
【0060】
(実施例4)
分子構造A群のスチレンとブタジエン、分子構造B群のアクリロニトリルを60+20/20の比となるようにした以外は実施例1と同様に油分吸着粒子を作製した。水分散性は良好であった。同様に油分吸着量を測定したところ499.9μL以上の油を吸着し、ヘキサンでの全量脱離が確認できた。
【0061】
(実施例5)
分子構造A群のスチレンと分子構造B群の無水マレイン酸とを86/14の比として得たブロック共重合体を上記ポリマーとして用いた以外は実施例1と同様に油分吸着粒子を作製した。水分散性は良好であった。同様に油分吸着量を測定したところ499.9μL以上の油を吸着し、ヘキサンでの全量脱離が確認できた。この粒子を水中で1日放置したところ、沈殿して凝集体粒子同士がさらに凝集してしまったが、十分に攪拌したところ凝集体粒子どうしの凝集がなくなり分散したため、問題なく使用が可能であった。
【0062】
(実施例6)
分子構造A群のスチレンと分子構造B群のポリビニルピリジンとを75/25の比として得たブロック共重合体を上記ポリマーとして用いた以外は実施例1と同様に油分吸着粒子を作製した。水分散性は良好であった。同様に油分吸着量を測定したところ499.9μL以上の油を吸着し、ヘキサンでの全量脱離が確認できた。この粒子を水中で1日放置したところ、沈殿して凝集体粒子同士がさらに凝集してしまったが、十分に攪拌したところ凝集体粒子どうしの凝集がなくなり分散したため、問題なく使用が可能であった。
【0063】
(実施例7)
分子構造A群のエチレンと分子構造B群のビニルアルコールとを81/19の比として得たブロック共重合体を上記ポリマーとして用い、油分吸着粒子製造時の溶媒Aを水とイソプロパノールとの混合溶媒にしたこと以外は実施例1と同様に油分吸着粒子を作製した。水分散性は良好であった。同様に油分吸着量を測定したところ499.9μL以上の油を吸着し、ヘキサンでの全量脱離が確認できた。この粒子を水中で1日放置したところ、沈殿して凝集体粒子同士がさらに凝集してしまったが、十分に攪拌したところ凝集体粒子どうしの凝集がなくなり分散したため、問題なく使用が可能であった。
【0064】
(実施例8)
マグネタイトの代わりに、平均粒子径500nmのシリカ(比表面積6.4m/g)に代えたこと以外は実施例1と同様に油分吸着粒子を作製した。水分散性は良好であった。同様に油分吸着量を測定したところ499.9μL以上の油を吸着し、ヘキサンでの脱離が確認できた。しかし、磁性体を含有していないため水中から油分吸着粒子を分離するのに沈降させなくてはならず、時間がかかった。
【0065】
以上、実施例1〜8から明らかなように、本発明に従って、分子構造A群及び分子構造B群からなる共重合体で磁性粒子を被覆して油分吸着材とした場合は、水中への分散性と油分吸着性とがバランスし、極めて良好な油分吸着能を呈することが判明した。
【0066】
なお、上記実施例では、特許請求の範囲で規定した総ての分子構造A群及び分子構造B群に対する具体的なデータは示されていないが、上記実施例に示されていないその他の分子構造A群及び分子構造B群を用いた場合においても同様の作用効果が得られることが確認された。
【0067】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアを構成する無機粒子及び金属粒子の少なくとも一方と、
前記コアを被覆してなるポリマーとを具え、
前記ポリマーが
分子構造A群:スチレン、ブタジエン、イソプレン、エチレン、プロピレン、及び
分子構造B群:アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、ビニルピリジン、ビニルアルコール、無水マレイン酸、マレイン酸
の共重合体であることを特徴とする、油分吸着材。
【請求項2】
前記分子構造B群は、アクリロニトリルであることを特徴とする、請求項1に記載の油分吸着材。
【請求項3】
前記分子構造A群は、スチレンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の油分吸着材。
【請求項4】
前記油分吸着材において、分子構造A群と分子構造B群との割合が、分子構造A群:分子構造B群=95:5〜40:60であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の油分吸着材。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の油分吸着材を用いて水中の油分を吸着する油分回収方法。

【公開番号】特開2010−99576(P2010−99576A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272453(P2008−272453)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】