説明

油分吸着粒子、油分吸着粒子の製造方法、油分回収方法、及び油分吸着粒子の再生方法

【課題】水中の油分を効率的に回収できる新規な油分吸着粒子を提供する。
【解決手段】無機粒子又は金属粒子からなるコアと、前記コアを被覆してなる、フェノール樹脂、アミノ樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の熱硬化性樹脂を含む被覆層と、を具えるようにして油分吸着粒子を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油分吸着粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、工業の発達や人口の増加により水資源の有効利用が求められている。そのためには、工業排水などの廃液の再利用が非常に重要である。これらを達成するためには廃液の浄化、すなわち廃液中から他の物質を分離することが必要である。
【0003】
液体からほかの物質を分離する方法としては、各種の方法が知られており、たとえば膜分離、遠心分離、活性炭吸着、オゾン処理、凝集、さらには所定の吸着材による浮遊物質の除去などが挙げられる。このような方法によって、水に含まれるリンや窒素などの環境に影響の大きい化学物質を除去したり、水中に分散した油類、クレイなどを除去したりすることができる。
【0004】
これらのうち、膜分離はもっとも一般的に使用されている方法のひとつであるが、水中に分散した油類を除去する場合には膜の細孔に油が詰まり易く、膜の寿命が短くなりやすいという問題がある。このため、水中の油類を除去するには膜分離は適切でない場合が多い。
【0005】
また、重油等の油類が含まれている水からそれらを除去する手法としては、例えば重油の浮上牲を利用し、水上の設置されたオイルフェンスにより水の表面に浮いている重油を集め、表面から吸引および回収する方法、または、重油に対して吸着性をもった疎水性材料を水上に敷設し、重油を吸着させて回収する方法等が挙げられる。
【0006】
一方、近年においては、油分吸着材を用い、油類が分散した水中内に浸漬させることによって、前記油分吸着材に前記油類を吸着させ、前記水中から除去する試みがなされている。例えば、特許文献1には、親水性ブロックと親油性ブロックとを有する油分吸着材としての吸着ポリマーを用いて油を吸着させ、その後その吸着ポリマーを水から除去する方法が開示されている。しかしながら、このような方法では吸着ポリマーと水との分離に労力がかかるだけでなく、油が吸着したポリマーが軟化して作業性が悪いという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平07−102238号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水中の油分を効率的に回収できる新規な油分吸着粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、無機粒子又は金属粒子からなるコアと、前記コアを被覆してなる、フェノール樹脂、アミノ樹脂、及びエポキシ樹脂硬化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の熱硬化性樹脂を含む被覆層と、を具えることを特徴とする、油分吸着粒子に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水中の油分を効率的に回収できる新規な油分吸着粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、実施形態に基づいて説明する。
【0012】
(油分吸着粒子)
本実施形態における油分吸着粒子は、無機粒子又は金属粒子からなるコアと、前記コアを被覆してなる、フェノール樹脂、アミノ樹脂、及びエポキシ樹脂硬化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の熱硬化性樹脂を含む被覆層とを具える。
【0013】
<無機粒子又は金属粒子>
本実施形態における油分吸着粒子においては、無機粒子又は金属粒子によってコアが形成される。なお、本実施形態における“無機粒子”とは、金属粒子以外の無機化合物を意味するものである。
【0014】
したがって、金属粒子としては、アルミニウム、鉄、銅、及びこれらの合金等の金属を例示することができる。また、無機粒子としては、磁鉄鉱、チタン鉄鉱、磁硫鉄鉱、マグネシムフェライト、コバルトフェライト、ニッケルフェライト、バリウムフェライト、溶融シリカ、結晶性シリカ、ガラス、タルク、アルミナ、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マグネシア、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、雲母等のセラミック粒子を例示することができる。
【0015】
特に磁鉄鉱、チタン鉄鉱、磁硫鉄鉱、マグネシムフェライト、コバルトフェライト、ニッケルフェライト、バリウムフェライト等の粒子から上記コアを構成することにより、以下に説明する油分回収工程において、水中から油分吸着粒子の離脱を、磁力を用いることによって簡便に行うことができるようになる。
【0016】
上述した磁性を有する油分吸着粒子の中でも、水中での安定性に優れたフェライト系化合物からなる磁性粒子であればより好ましい。例えば磁鉄鉱であるマグネタイト(Fe)は安価であるだけでなく、水中でも磁性体として安定し、元素としても安全であるため、水処理に使用しやすいので好ましい。
【0017】
この場合、上述した粒子は、球状、多面体、不定形など種々の形状を取り得るが特に限定されない。また、望ましい粒径や形状は、製造コストなどを鑑みて適宜選択すればよく、特に球状または角が丸い多面体構造が好ましい。
【0018】
鋭角な角を持つ粒子であると、後の噴霧処理を経て形成するコア表面の被覆層を傷つけてしまい、目的とする油分吸着粒子の形状を維持しにくく、その本来的な機能を有効に奏することができないためである。
【0019】
特にコアを構成する粒子が上述のような磁性粒子である場合、以下に説明するような油分回収工程において、上記コアに磁力が作用し、磁力によって油分吸着粒子が回収出来る限りにおいて、上記鋭角な角を被覆するために、Cuメッキ、Niメッキなど、通常のメッキ処理を施すこともできるし、腐食防止などの目的で表面処理することもできる。
【0020】
なお、コアの総てが磁性粒子で構成される必要はない。すなわち、コアに磁力が作用し、磁力によって油分吸着粒子が回収出来る限りにおいて、非常に細かい磁性体粉末が樹脂等のバインダーで結合されたものであってもよい。また、磁性粉の表面がメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシシランなどのアルコキシシラン化合物で疎水化処理されていてもよい。
【0021】
また、コアが磁性粒子からなる場合について詳述すると、その大きさは、処理設備の磁力、流速、吸着方法のほか、磁性粒子の密度、種々の条件によって最適な範囲が変化する。しかしながら、本実施形態における磁性粒子の平均粒子径は、一般に0.05〜100μmである。磁性粒子の平均粒子径の測定方法には、レーザー回折法により測定することができ、具体的には、株式会社島津製作所製のSALD−3100型測定装置(商品名)などにより測定することができる。なお、以下に“平均粒子径”なる文言が出現し、その具体的な数値が記載されている場合、別途説明がある場合を除き、当該“平均粒子径”は上述のようなレーザー回折法によって測定したものである。
【0022】
磁性粒子の平均粒子径が100μmよりも大きいと、水中での沈降が激しくなり、水への分散が悪くなる傾向があり、また粒子の実効的な表面積が減少して、油類などの吸着量が減少する傾向にあるので好ましくない。また粒子径が0.05μmより小さくなると、1次粒子が緻密に凝集し、処理液の上層に浮遊する状態となり、分散性が低下する傾向があるので好ましくない。
【0023】
なお、上述した磁性粒子に関する要件は、上述したその他の無機粒子や金属粒子に対しても、その種類によって多少のずれはあるものの、十分に適用することができる。
【0024】
<被覆層>
本実施形態において、上述したコアを被覆し、実際の油分吸着に寄与する被覆層は、フェノール樹脂、アミノ樹脂、及びエポキシ樹脂硬化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の熱硬化性樹脂を含む。このように、本実施形態の油分吸着粒子においては、油分吸着に寄与する被覆層が上記熱硬化性樹脂を含むため、以下に説明するような油分回収工程後の油分吸着粒子の再生工程において、吸着した油分を溶剤で洗浄して除去する際にも、上記被覆層の上記溶剤への溶解量が激減するようになる。この結果、上記油分吸着粒子の使用回数を増大させることができ、長寿命化を図ることができる。なお、上述した以外の熱硬化性樹脂では、上述した作用効果を十分に奏することができない。
【0025】
フェノール樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂及びレゾール型フェノール樹脂のいずれでもよい。このようなフェノール樹脂は、フェノール、クレゾール、キシレノール、p-アルキルフェノール、p-フェニルフェノール、クロルフェノール、ビスフェノールなどのフェノール類のモノマーとホルムアルデヒドなどのアルデヒド類とを縮合重合させることによって得ることができる。
【0026】
一般に、ノボラック型フェノール樹脂は、酸無水物等の酸性触媒及び硬化剤の下に、上述した重合を実施し、三次元架橋することで熱硬化性樹脂となる。一方、レゾール型フェノール樹脂は、でフェノール類1モルに対しアルデヒド類を1〜3モルとし、触媒に、、第3級、の酸化物及酸化物、などを用いて重合することによって硬化剤を用いることなく、熱硬化性樹脂となる。
【0027】
また、アミノ樹脂は、尿素樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、アニリン樹脂、スルホアミド樹脂などを挙げることができる。
【0028】
さらに、エポキシ樹脂硬化物は、エポキシ基を有する化合物(エポキシ樹脂)と硬化剤との反応から得られる。エポキシ基を有する化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ダイマー酸グリシジルエステル型エポキシ樹脂、ポリアルキレンエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環含有エポキシ樹脂、ジグリシジルエポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等の汎用のエポキシ樹脂を挙げることができる。また硬化剤としては、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤のエポキシ基と反応して熱硬化性樹脂を形成するものや、イミダゾールやホスホニウム塩のようなエポキシ基の単独重合を促して熱硬化性樹脂を形成するものが挙げられる。
【0029】
なお、上記熱硬化性樹脂においては、例えば水酸基やエポキシ基の一部が他の官能基で置換されていてもよい。
【0030】
上述した被覆層は、例示した上記熱硬化性樹脂単独で構成することもできるし、その他の樹脂、例えば熱可塑性樹脂等を含むこともできる。但し、熱硬化性樹脂単独で構成した方が、上記被覆層の上記溶剤への溶解量を減少させることができ、上記油分吸着粒子の使用回数を増大させて、長寿命化を図ることができる。
【0031】
上述した熱硬化性樹脂の中でも、特にレゾール型のフェノール樹脂が好ましい。このレゾール型フェノール樹脂は、水への溶解性が高く、溶解量を自由に変化させることができるので、以下に説明するスプレードライ法を用いた製造方法において、上記コアに対する被覆量をコントロールしやすい。また硬化して得られるフェノール樹脂は水酸基を多く有しているため、水への分散性も向上し、以下に説明する油分回収工程において、油分の吸着率を向上させることができるようになる。
【0032】
なお、コアと前記被覆層との体積比が、コア/被覆層=50/50〜95/5、特には65/35〜80/20の範囲にあることが好ましい。この場合、コアが凝集して二次粒子を形成する場合に、二次粒子の間隙に起因して多くの孔が形成されるようになり、目的とする油分吸着粒子を十分な多孔率を有するようなポーラス構造にすることができる。この結果、油分吸着粒子の被覆層の化学的性質、具体的には、表面に露出した炭化水素等の親油性基による油分吸着の効果に加えて、ポーラス構造に起因した油分吸着の効果をも呈するようになり、上記油分吸着粒子は極めて高い油分吸着能を呈するようになる。
【0033】
上述のようにコアが凝集して二次粒子を形成する場合、上記被覆層は、その本来的な機能の他に、コア同士を結合させるバインダーとしての機能をも併せて奏するようになる。
【0034】
上記範囲を超えて被覆層の体積が増大すると、コア間の空隙が被覆層で埋まってしまうことがあり、これよりも被覆層が少ないと、実用的な強度が出ない場合がある。
【0035】
なお、被覆層の厚さは、10nm〜500nmとすることができる。これよりも小さいと、例えば、層が部分的に断裂し、十分な油分吸着能を奏することができない場合がある。また、上記範囲を越えて増大しても、最早油分吸着能の向上には寄与せず、被覆層を形成するための樹脂を無駄に使用してしまうことになるので、好ましくない。
【0036】
また、上述のように、コアが凝集して二次粒子を構成するような場合は、上記被覆層は、バインダーとしても機能するようになるので、被覆層の厚さは、得られる油分吸着粒子の大きさとほぼ同程度となる。
【0037】
以上説明したようなコア及び被覆層を含む油分吸着粒子の大きさは、用途等に応じて任意の大きさとすることができるが、例えば5μm〜5000μmの大きさとすることができる。
【0038】
なお、上記油分吸着粒子は、必要に応じて表面をカップリング剤で処理することもできる。処理は、乾式及び湿式のいずれであってもよい。
【0039】
カップリング剤としては、シランカップリング剤、すなわち、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、へキシルトリメトキシシラン、ドデカトリメトキシシランオクタデシルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等のアルキルシラン、フェニルトリメトキシシラン、ナフタレントリメトキシシラン等の芳香族シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン,ビニルトリエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン,γ−メタクリロキシメトキシシラン等のビニルシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン,γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシランを挙げることができる。その他、チタネート,アルミキレート,ジルコアルミネート等のカップリング剤をも用いることができる。
【0040】
(油分吸着粒子の製造)
次に、本実施形態の油分吸着粒子の製造方法について説明する。
最初に、上述した無機粒子又は金属粒子と、熱硬化性樹脂のモノマー及び/又はオリゴマー、及び溶媒Aを準備し、無機粒子又は金属粒子を溶媒A中に分散、並びにモノマー及び/又はオリゴマーを溶媒A中に溶解させてスラリー溶液を得る。
【0041】
上記溶媒Aは、上述した粒子等を溶解あるいは分散でき、上述したスラリー溶液を形成できるものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは極性溶媒とする。極性溶媒は親水性に優れるので、例えば上述した粒子の表面に微量に存在する水酸基と溶媒Aとが親和し、前記粒子が凝集せず溶媒A中に均一に分散するようになる。
【0042】
なお、本実施形態で、“親水性”とは、水と自由に混和するものと定義し、具体的には1気圧において温度20℃で同容量の純水と緩やかにかき混ぜた場合に、流動がおさまった後も当該混合液が均一な外観を維持するものである。
【0043】
上記親水性の溶媒としては、水、酢酸、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、アセトン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。好ましくは、様々なポリマーを溶解させることのできるアセトン、テトラヒドロフランがよい。
【0044】
次に、上述したスラリー溶液を噴霧乾燥する。この噴霧乾燥には、種々の装置を用いることができるが、好ましくはスプレードライ法を用いる。スプレードライ法によれば、スプレードライのノズルから上記スラリー溶液を噴霧させることによって、粒子の表面に上述したモノマーやオリゴマーが付着するようになる。
【0045】
スプレードライ法は公知のいかなるものでも構わないが、例えばディスクタイプ、加圧ノズルタイプ、2流体ノズルタイプの装置を用いて行うことができる。
【0046】
次いで、上述のようにして、モノマー、オリゴマーが付着した粒子を所定温度で加熱し、モノマー、オリゴマーを重合して、上述したような所定の熱硬化性樹脂を得る。なお、エポキシ樹脂等の場合は、特にモノマーやオリゴマーに加えて、酸無水物、その他汎用の硬化剤を上記粒子表面に付着させておく。このような硬化剤は、例えば、上述した溶媒A中に、上記粒子及びモノマー等と併せて分散配合させておき、スプレードライ法によって、粒子及びモノマー等と一緒に粒子表面に付着させておく。
【0047】
以上のような工程を経ることによって、上述した油分吸着粒子を得ることができる。
【0048】
(油分吸着粒子による油分の回収)
次に、本実施形態の油分吸着粒子を用いた油分の回収方法について説明する。油分回収とは、油分を含んでなる水から、前記油分を分離するものである。ここで“油分”とは、水中に混和/分散している有機物のうち、一般に常温において液体であり、水に難溶性であり、粘性が比較的高く、水よりも比重が低いものをいう。より具体的には、動植物性油脂、炭化水素、芳香油などである。これらは、脂肪酸グリセリド、石油、高級アルコールなどに代表される。これらの油類はそれぞれ有する官能基などに特徴があるので、それに応じて上記油分吸着材を構成する樹脂や官能基を選択することができる。
【0049】
最初に、上述のようにして定義される油分を含んでなる水に、上記油分吸着粒子を浸漬、分散させる。油分吸着粒子は、その被覆層を構成する材料組成に由来して炭化水素等の親油性基を有するとともに、上述したコア及び被覆層の体積比を満足することによって、ポーラスな構造となっているので、油分に対して高い親和性を有するようになる。したがって、吸着材に比較的多量に吸着されるようになる。
【0050】
油分吸着粒子が油分を吸着した後、油分吸着粒子を水から分離し、結果として、水中に存在した油分を分離除去する。なお、油分吸着粒子を分離する際には、公知の方法、例えば重力による沈降や、サイクロンを用いた遠心力を用いて容易に行うことができる。さらに、粒子が磁性体を含む場合は、磁気による分離をも併用することが可能となる。
【0051】
なお、油分回収処理の対象とされる水は特に限定されない。具体的には工業排水、下水、生活排水などに用いることができる。処理しようとする水に含まれる油分濃度も特に限定されない。
【0052】
(油分吸着粒子の再生)
上述のようにして、油分吸着粒子よって油分を吸着して水中から除去した後は、油分吸着粒子を溶媒Bで洗浄して吸着した油分を除去する。この溶媒Bは、前記油分吸着粒子の被覆層を溶解しないものでなくてはならない。具体的には、溶媒Bへの溶解度が10mg/L以下のものを用いる。但し、本実施形態において、油分吸着粒子の被覆層は熱硬化性樹脂を含んでいるため、大部分の溶媒Bに対して前記要件を満足する。
【0053】
溶媒Bとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキシルアルコール、シクロヘキサノールや、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサン、クロロホルム、ジメチルアニリン、フロン、n−ヘキサン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0054】
この中でも、特に非極性の溶媒が好ましい。非極性の溶媒は疎水性を示し、特に油分との親和性が高くなるので、油分吸着粒子に吸着した油分の洗浄を簡易かつ効率的に行うことができる。なお、“疎水性”とは、水の溶解度が10%以下で、水と分離するものと定義する。特に、ヘキサンが油の溶解力が高く、沸点も約70℃であって室温では常に安定した液体であるため、扱いやすく好ましい。
【0055】
また、溶媒Bとしてはアルコールをも好ましく用いることができる。この場合は、吸着材の表面に付着あるいは吸着した水と置換しやすく、油分以外の不純物を除去しやすい。アルコール類の中では、沸点の低いメタノールとエタノールが特に好ましい。
【0056】
本工程において、上記油分吸着粒子は、例えばカラムに充填し、その内部に溶媒Bを通過させる方法や、特に前記吸着材が磁性体を含むような場合は、洗浄槽中に入れるとともに多量の溶媒を投入し、サイクロンや磁力などの方法で分離させる方法が挙げられる。
【0057】
次いで、油分吸着粒子から油分を除去した後は、必要に応じて洗浄に使用した溶媒Bを乾燥させる。この際、油分吸着粒子が劣化しておらず、規格内となっている場合は、溶媒Bを完全に取り除くことで、もう一度油分吸着粒子して再利用できる。但し、本実施形態の油分吸着粒子は、表面の被覆層が熱硬化性樹脂を含むため、ほとんどの場合で規格内となっており、再利用に供することができる割合が増大する。
【0058】
乾燥工程は特に限定されないが、例えば風通しの良いところで乾燥させたり、減圧乾燥させたり、カラムにつめて通風したりして溶媒を除去する。
【実施例】
【0059】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0060】
(実施例1)
油分吸着材の製造
水溶性のレゾール型フェノール樹脂140重量部(固形分換算)を、4000mlの純水中に溶解させて溶液とし、その溶液中に平均粒子径約2100nmのマグネタイト粒子1500重量部を分散させてスラリー溶液を得た。この組成物を、200℃の温度条件で二流体ノズル型スプレードライヤーで噴霧し、球状に凝集した平均2次粒子径が約40μmの2次凝集体を得た。この2次凝集体を150℃で3時間加熱し、フェノール樹脂の硬化を進めて油分吸着粒子を製造した。
【0061】
油分回収
上述のようにして得た油分吸着粒子1gを1Lの共栓付三角フラスコに測り取り、直鎖脂肪族の油1mLを含む水200mlを加え、よく撹拌して油分吸着粒子に油を吸着させた。その後、磁石を用いて油分吸着粒子を三角フラスコに取り出した後、ヘキサン100mlを添加してよく撹拌して洗浄し、油を抽出した。このヘキサンを、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて分析し、油分吸着粒子の油の吸着率を求めたところ94%の油を吸着していた。
【0062】
油分吸着粒子の再生
次いで、油分吸着粒子を10mlのヘキサン中に投入しよく攪拌した。このヘキサン中から磁石を用いて油分吸着粒子を取り出し、ヘキサンを分析したところ、全量の油を脱離していることが判明した。脱離後の油分吸着粒子をSEM観察したところ、吸着前と同様のポーラス構造を維持していた。
【0063】
次いで、上記洗浄後の油分吸着粒子をステンレスバットに入れ、有機ドラフト中で30分乾燥させ、全量のヘキサンを揮発させて油分吸着粒子の再生をおこなった。このようにして得られた再生吸着粒子を、同様の試験で100μLの油含む水200mL中に投入し油を吸着させたところ、94%の油分を回収していることがわかった。
【0064】
この吸着再生を10回繰り返して油分吸着粒子の表面をSEM観察したところ、吸着前と同様のポーラス構造を維持していた。なお、上記油分吸着粒子による油分回収までの特性評価を表1に示した。表1では、油分の回収割合を油分吸着性能として示している。
【0065】
(実施例2)
実施例1において、レゾール型フェノール樹脂を140重量部から360重量部に変更したこと以外は、同様にして油分吸着粒子を製造した。また、実施例1と同様にして油分回収及び油分吸着粒子の再生を実施した。なお、油分吸着粒子の再生においては、実施例1と同様に、吸着再生を10回繰り返して油分吸着粒子の表面をSEM観察したところ、吸着前と同様のポーラス構造を維持していた。なお、上記油分吸着粒子による油分回収までの特性評価を表1に示した。
【0066】
(実施例3)
実施例1において、レゾール型フェノール樹脂を140重量部から18重量部に変更したこと以外は、同様にして油分吸着粒子を製造した。また、実施例1と同様にして油分回収及び油分吸着粒子の再生を実施した。なお、油分吸着粒子の再生においては、実施例1と同様に、吸着再生を10回繰り返して油分吸着粒子の表面をSEM観察したところ、吸着前と同様のポーラス構造を維持していた。なお、上記油分吸着粒子による油分回収までの特性評価を表1に示した。
【0067】
(実施例4)
実施例1において、レゾール型フェノール樹脂を尿素樹脂に変更したこと以外は、同様にして油分吸着粒子を製造した。また、実施例1と同様にして油分回収及び油分吸着粒子の再生を実施した。なお、油分吸着粒子の再生においては、実施例1と同様に、吸着再生を10回繰り返して油分吸着粒子の表面をSEM観察したところ、吸着前と同様のポーラス構造を維持していた。なお、上記油分吸着粒子による油分回収までの特性評価を表1に示した。
【0068】
(実施例5)
実施例1において、レゾール型フェノール樹脂をメラミン樹脂に変更したこと以外は、同様にして油分吸着粒子を製造した。また、実施例1と同様にして油分回収及び油分吸着粒子の再生を実施した。なお、油分吸着粒子の再生においては、実施例1と同様に、吸着再生を10回繰り返して油分吸着粒子の表面をSEM観察したところ、吸着前と同様のポーラス構造を維持していた。なお、上記油分吸着粒子による油分回収までの特性評価を表1に示した。
【0069】
(実施例6)
実施例1において、レゾール型フェノール樹脂をフェノールノボラック型エポキシ樹脂とキシリレンジアミンとの等量の混合物に変更したこと以外は、同様にして油分吸着粒子を製造した。また、実施例1と同様にして油分回収及び油分吸着粒子の再生を実施した。なお、油分吸着粒子の再生においては、実施例1と同様に、吸着再生を10回繰り返して油分吸着粒子の表面をSEM観察したところ、吸着前と同様のポーラス構造を維持していた。なお、上記油分吸着粒子による油分回収までの特性評価を表1に示した。
【0070】
(実施例7)
実施例1において、平均粒子径約2100nmのマグネタイト粒子に代えて、平均粒子径2μmの溶融シリカ粒子(球状)を用いて以外は、同様にして油分吸着粒子を製造した。また、実施例1と同様にして油分回収及び油分吸着粒子の再生を実施した。なお、油分回収において、マグネタイトに代えてシリカ粒子を用いていることから、磁石の代わりに沈降による分離を用いて油分吸着粒子の回収を実施した。また、油分吸着粒子の再生においては、実施例1と同様に、吸着再生を10回繰り返して油分吸着粒子の表面をSEM観察したところ、吸着前と同様のポーラス構造を維持していた。なお、上記油分吸着粒子による油分回収までの特性評価を表1に示した。
【0071】
【表1】

【0072】
表1から明らかなように、いずれの場合においても、高い油分吸着性能を示していることが分かる。また、実施例1〜3の比較から明らかなように、樹脂の量が少なくなるにつれ油分吸着性能が上がる傾向が得られた。これは、樹脂が少なくなると、マグネタイト間の空隙が増え、油分を保持できる空間が増えるためと考えられる。
【0073】
(参考例)
実施例1において、レゾール型フェノール樹脂に代えて、ポリスチレン樹脂の140重量部を、4000mlのテトラヒドロフラン中に溶解させて溶液とし、その溶液中に平均粒子径約2100nmのマグネタイト粒子1500重量部を分散させてスラリー溶液を得た。この組成物を、140℃の温度条件で二流体ノズル型スプレードライヤーで噴霧し、球状に凝集した平均2次粒子径が約40μmの2次凝集体を得た。この2次凝集体を実施例1と同様に油分吸着・再生を10回繰り返し、表面をSEM観察した所、油分吸着粒子の表面が一部変形していることが確認された。
【0074】
また、この10回の使用においては油分吸着性能の低下が確認されなかったが、繰り返し使用回数が増えるにつれ、吸着性能の低下が予想される。
【0075】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子又は金属粒子からなるコアと、
前記コアを被覆してなる、フェノール樹脂、アミノ樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の熱硬化性樹脂を含む被覆層と、
を具えることを特徴とする、油分吸着粒子。
【請求項2】
前記油分吸着粒子の前記コアと前記被覆層との体積比が、コア/被覆層=50/50〜95/5であることを特徴とする、請求項1に記載の油分吸着粒子。
【請求項3】
前記コアは、磁性粒子からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の油分吸着粒子。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂は、レゾール型フェノールであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の油分吸着粒子。
【請求項5】
第1の溶媒中に、無機粒子又は金属粒子と、フェノール樹脂、アミノ樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の熱硬化性樹脂のモノマー及びオリゴマーの少なくとも一種を分散及び/又は溶解して、スラリー状の溶液を得る工程と、
前記溶液を噴霧乾燥し、前記無機粒子又は金属粒子の表面に前記モノマー及びオリゴマーの少なくとも一種を付着させる工程と、
前記モノマー及びオリゴマーを加熱重合して前記熱硬化性樹脂を得、前記無機粒子又は金属粒子からなるコアの表面を被覆してなる被覆層を形成する工程と、
を具えることを特徴とする、油分吸着粒子の製造方法。
【請求項6】
前記第1の溶媒は、極性溶媒であることを特徴とする、請求項5に記載の油分吸着粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一に記載の油分吸着粒子を、油分を含む水中に浸漬及び分散させて、前記油分を吸着するステップと、
前記油分吸着粒子を前記水中から回収するステップと、
を具えることを特徴とする、油分回収方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一に記載の油分吸着粒子を、油分を含む水中に浸漬及び分散させて、前記油分を吸着するステップと、
前記油分吸着粒子を前記水中から回収するステップと、
前記油分吸着粒子を第2の溶媒で洗浄することにより、吸着した前記油分を除去するステップと、
を具えることを特徴とする、油分吸着粒子の再生方法。
【請求項9】
前記第2の溶媒は、非極性溶剤であることを特徴とする、請求項8に記載の油分吸着粒子の再生方法。

【公開番号】特開2011−161352(P2011−161352A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26082(P2010−26082)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】