説明

油圧モータ又は油圧ポンプ

【課題】強度を高めるとともに、厚みを薄くしたリテーナを備えた油圧モータ又は油圧ポンプを提供すること。
【解決手段】ケース2と、ケース2に内に収納された回転軸3と、回転軸3に取り付けられたシリンダブロック4と、シリンダブロック4の軸心まわりに当該シリンダブロック4の軸方向に穿設された複数のシリンダ穴4aと、シリンダ穴4aの内壁面に対して摺動自在に配置されたピストン5と、ピストン5の先端に設けられたシュー6と、シュー6が摺動する斜面7aを有した斜板7と、複数のシュー6を保持するとともに、当該シュー6を斜面7aに押圧する環状のリテーナ8と、を備え、リテーナ8の外周縁部全周に、リテーナ円盤部平面10aと交差する鍔部13が一体に形成されていることを特徴とする油圧モータ又は油圧ポンプ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベルなどの建設車両に用いられる油圧モータ又は油圧ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧モータ又は油圧ポンプにおいて、リテーナは、複数のシューを保持するとともに、シューを斜板方向に押圧する役割を果たしている。このリテーナには、シューが斜板から離れようとする力などが働くため、リテーナは十分な剛性を備えている必要がある。一方で、油圧モータ又は油圧ポンプの小型化のため、若しくはリテーナの製作コスト削減のため、リテーナの厚みを薄くすることも重要な課題である。
【0003】
この分野の技術としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。特許文献1に記載されたアキシアルピストン装置では、リテーナディスク24(リテーナ)の外周側に追加ディスク61が締結され、リテーナディスク24外周側の厚みをシリンダ胴4側に厚くしている。この追加ディスク61により、リテーナの強度が高まり耐用寿命延長の効果があることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−542966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、リテーナに別部材を締結する構成においては、締結部の剛性を確保する必要があり、リテーナの厚みを薄くできないという問題がある。また、追加ディスク61がスライドブロック12とシリンダ胴4(シューとシリンダブロック)との間に配置されているので、ピストンがシリンダボア9(シリンダ内)に最も入り込んだ状態などにおいては、追加ディスク61とシリンダ胴4とが干渉してしまう問題もある。干渉を回避させるには、シリンダ胴4を斜板13から離れた位置に配置する必要があるが、その場合にはアキシアルピストン装置が軸方向に長くなってしまう。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、強度を高めるとともに厚みを薄くしたリテーナを備えた油圧モータ又は油圧ポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の油圧モータ又は油圧ポンプは、ケースと、前記ケース内に収納された回転軸と、前記回転軸に取り付けられたシリンダブロックと、前記シリンダブロックの軸心まわりに当該シリンダブロックの軸方向に穿設された複数のシリンダ穴と、前記シリンダ穴の内壁面に対して摺動自在に配置されたピストンと、前記ピストンの先端に設けられたシューと、前記シューが摺動する斜面を有した斜板と、複数の前記シューを保持するとともに、当該シューを前記斜面に押圧する環状のリテーナと、を備え、前記リテーナの外周縁部全周に、リテーナ円盤部平面と交差する鍔部が一体に形成されていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、外周縁部に設けられた鍔部により、リテーナ全体の強度を高めることができる。また、鍔部がリテーナと一体に形成されているので、外周縁部での剛性が十分確保され、リテーナを薄く形成することができる。したがって、リテーナの製作コストを下げることができる。さらに、薄くした厚みほどシリンダブロックを斜板側に近づけて配置することが可能となり、油圧モータ又は油圧ポンプの軸方向に短くすることも可能となる。
【0009】
また、本発明において、前記鍔部が前記シリンダブロックの外周面よりも外側に配置されていることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、鍔部とシリンダブロックとが干渉するおそれがないため、シリンダブロックを斜板から離れた位置に配置して油圧モータ又は油圧ポンプが軸方向に長くなってしまうことを防止できる。
【0011】
また、本発明において、前記リテーナは、前記回転軸及び複数の前記シューが挿入される円盤部と、前記円盤部の外周部に形成された延長部とを有し、前記鍔部が前記延長部の外周縁部全周に亘って一体に形成されていることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、円盤部の外周部に設けられた延長部により、リテーナの径を大きくすることができ、鍔部がシリンダブロックと干渉することを防止できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リテーナの外周縁部に鍔部を一体に形成することで、強度が高く厚みの薄いリテーナを備えた油圧モータ又は油圧ポンプを提供することができる。これにより、リテーナ製作コストを下げることができるとともに、油圧モータ又は油圧ポンプを軸方向に短くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る油圧モータの断面図
【図2】(a)は、図1に示すリテーナの正面図、(b)は、(a)の右側面図
【図3】(a)は、図1に示す油圧モータのA部拡大断面図、(b)は、B部拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。本発明に係る油圧モータ又は油圧ポンプは、例えば油圧ショベルなどの建設車両における走行装置などに用いられる油圧モータ又は油圧ポンプである。なお、建設車両用の用途に限定されるものではない。本発明に係る油圧モータ又は油圧ポンプは、油圧モータ又は油圧ポンプいずれにも共通して使用でき、以下の説明では、特に油圧モータに使用した場合を例として説明する。
【0016】
(油圧モータの構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る油圧モータ1の断面図である。図1に示すように、油圧モータ1は、ケース2、回転軸3、シリンダブロック4、ピストン5、シュー6、斜板7、リテーナガイド8、リテーナ10などを備えている。
【0017】
(ケース及び回転軸)
ケース2は、回転軸3、シリンダブロック4、およびピストン5等を収納するためのものであり、回転軸3は、ケース2に対して回転自在に保持されている。
【0018】
(シリンダブロック)
シリンダブロック4は、回転軸3に対してスプライン結合され、回転軸3の軸方向Xには移動可能に、回転軸3の回転方向には回転軸3とともに回転するように回転軸3に取り付けられている。また、シリンダブロック4の軸心まわりには軸方向に穿設された複数のシリンダ穴4aが形成されている。これらのシリンダ穴4aは、同一円周上に等間隔で配置されている。シリンダ穴4aは、その長手方向が軸方向Xと平行になるようにシリンダブロック4に形成されている。
【0019】
(ピストンおよびシュー)
ピストン5は、複数備えられており、シリンダ穴4aの各々にシリンダ穴4aの内壁面に対して摺動自在に挿入されている。ピストン5の先端には球体部5aを有し、球体部5aにはシュー6が取り付けられている。
【0020】
(斜板)
斜板7は、斜面7aを有し、この斜面7aにシュー6が摺動自在に当接している。シリンダブロック4の各シリンダ穴4aに圧油が供給されることで、各々のシリンダ穴4aに挿入されているピストン5が斜板7側に押し出される。すると、このピストン5の動きに伴ってシュー6が斜板7の斜面7a上を摺動しながら回転する。そして、シュー6の回転によりシリンダブロック4が回転し、シリンダブロック4と一体となって回転軸3が回転するようになっている。
【0021】
(リテーナガイド及びリテーナ)
リテーナガイド8は、回転軸3に取り付けられ、シリンダブロック4よりも斜板7側に配置されている。このリテーナガイド8は、シリンダブロック4に組み込まれたばね9により斜板7側に付勢され、リテーナ10を支持している。なお、リテーナガイド8はシリンダブロック4と一体に形成されていてもよい。また、リテーナ10は、リテーナガイド8に支持されており、複数のシュー6を保持しながら複数のシュー6を斜面7aに押圧している。
【0022】
(リテーナの構造)
次に、リテーナ10の構造について図1および図2に基づいて説明する。図2(a)はリテーナ10の正面図、(b)は(a)の右側面図である。リテーナ10は、金属製の薄板材からなり、円盤部11と、円盤部11の外周部に形成された延長部12と、延長部12の外周縁部全周に亘って形成され、リテーナ円盤部平面10a(以下、平面10aと記載する。)と直交する鍔部13と、円盤部11の内周縁部全周に亘って形成され、平面10aと交差する鍔部14とを有している。
【0023】
円盤部11は、中央部に回転軸3が挿入される貫通孔15が形成され、この貫通孔15の外方には、同一半径位置に一定の角度間隔を持って、複数のシュー6が挿入されるシュー挿入孔16が形成されている。円盤部11の外周部には、円盤部11と同じ厚みを有し、当該外周部から平面10aに沿って伸びた延長部12が設けられている。そして、延長部12の外周縁部には、平面10aと直交する鍔部13が設けられている。鍔部13は、油圧モータ1に取り付けられた状態においては、斜板7の斜面7aとは反対方向に向かって延在している(図1参照)。なお、鍔部13は、平面10aと直交してなくともよく、平面10aと単に交差するように設けられていてもよい。
【0024】
また、円盤部11の内周縁部には、縁部全周に亘って平面10aと交差する鍔部14が設けられている。鍔部14は、円盤部11において鍔部13とは反対方向、つまり、油圧モータ1に取り付けられた状態において、斜板7の斜面7aの方向に延在し(図1参照)、リテーナガイド8と当接している。上記のように構成されたリテーナ10は、プレス加工により製作される。まず、金属製の薄板材からプレスにより円盤部11、延長部12、鍔部13、14が一体的に形成され、さらに貫通孔11およびシュー挿入孔12が連続形成される。
【0025】
このようにリテーナ10は、平面10aと直交する鍔部13を設けているので、リテーナ10全体の強度を高めることができる。また、鍔部13を延長部12と一体に形成しているので、延長部12と鍔部13との境界付近において十分な強度を確保することができ、円盤部11や延長部12の厚みを従来のリテーナ(例えば、特許文献1)に比べて薄くすることが可能となる。さらに、円盤部11や延長部12の厚みを薄くすることで、従来旋削加工により製作していたリテーナを、加工が容易なプレス加工で製作することが可能となり、リテーナの製作コストを下げることができる。なお、円盤部11の内周縁部にも、鍔部14を設けているので、リテーナ10全体の強度をより高めることができる。さらに、鍔部14を、円盤部11において鍔部13と反対方向に設けているので、効果的にリテーナ10全体の強度を高めることができる。
【0026】
また、円盤部11や延長部12の厚みを薄く形成することができるので、シリンダブロック4を従来よりも斜板7側に近づけて配置することが可能となり、油圧モータ1の軸方向長さを短くすることができる。さらに、鍔部13は鍔の形状(長さh及び厚みt)を延長部12の外周縁部全周において同一としているので、シュー6の摺動に伴ってリテーナ10が回転しても、鍔部13によってケース2内に充填された油の攪拌抵抗が大幅に増加することもない。
【0027】
図3(a)は、図1のA部拡大図である。図3(a)に示すように、鍔部13の内周面13aは、シリンダブロック4の外周面4bよりも外側に配置されている。これは、円盤部11の外周部に設けられた延長部12により、リテーナ10の外径が大きくなっているためである。このように、鍔部13の内周面13aを、シリンダブロック4の外周面4bよりも外側に配置しているので、例えば、ピストン5がシリンダ内4a深くに入り込んで(図3(a)参照)、リテーナ10とシリンダブロック4の先端部4cとの距離が最も近づいても、鍔部13とシリンダブロック4とが干渉してしまうことはない。
【0028】
図3(b)は、図1のB部拡大図である。図3(b)に示すように、鍔部13の高さhは、円盤部11のシリンダブロック4側に向いた面を含む平面11aからピストン5の球体部5aの中心点5bまでの距離xよりも長くしており、平面11aからシュー6の先端部までの距離yと略同じ長さとしている。
【0029】
なお、鍔部13は、延長部12の外周縁部を中心線として山部と谷部が連続的に並んだ形状(波形状)に形成されていてもよい。鍔部13をこのような波形状に形成することで、リテーナ10全体の強度をより増加させることができる。
【0030】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。
【0031】
例えば、本実施形態においては、円盤部11の外周部に設けられた延長部12の外周縁部に鍔部13が形成されているが、延長部12はなくてもよく、円盤部11の外周縁部に鍔部13が形成されていてもよい。また、円盤部11の内周縁部には鍔部14が設けられているが、鍔部14はなくてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1:油圧モータ
2:ケース
3:回転軸
4:シリンダブロック
5:ピストン
6:シュー
7:斜板
8:リテーナガイド
9:ばね
10:リテーナ
11:円盤部
12:延長部
13、14:鍔部
15:貫通孔
16:シュー挿入孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
前記ケース内に収納された回転軸と、
前記回転軸に取り付けられたシリンダブロックと、
前記シリンダブロックの軸心まわりに当該シリンダブロックの軸方向に穿設された複数のシリンダ穴と、
前記シリンダ穴の内壁面に対して摺動自在に配置されたピストンと、
前記ピストンの先端に設けられたシューと、
前記シューが摺動する斜面を有した斜板と、
複数の前記シューを保持するとともに、当該シューを前記斜面に押圧する環状のリテーナと、
を備え、
前記リテーナの外周縁部全周に、リテーナ円盤部平面と交差する鍔部が一体に形成されていることを特徴とする油圧モータ又は油圧ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の油圧モータ又は油圧ポンプにおいて、
前記鍔部が前記シリンダブロックの外周面よりも外側に配置されていることを特徴とする、油圧モータ又は油圧ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の油圧モータ又は油圧ポンプにおいて、
前記リテーナは、前記回転軸及び複数の前記シューが挿入される円盤部と、前記円盤部の外周部に形成された延長部とを有し、
前記鍔部が前記延長部の外周縁部全周に亘って一体に形成されていることを特徴とする、油圧モータ又は油圧ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−255357(P2012−255357A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127921(P2011−127921)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】