説明

油圧緩衝器

【課題】 油中にエアを混入させる危惧がなく、したがって、断熱圧縮現象を招来させずして、減衰バルブによる所定の安定した減衰力の発生を可能にする。
【解決手段】 多段型の油圧緩衝器における一段目のシリンダ1内に区画のピストン側油室R4が連通するリザーバがピストン側油室R4に連通する油室Rと、この油室RとダイアフラムDあるいはフリーピストンで分離されたガス室Gとを有してなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、油圧緩衝器に関し、特に、多段型の油圧緩衝器の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】多段型の油圧緩衝器は、標準型の油圧緩衝器に比較して、取付長を小さくし得るから、たとえば、四輪車両におけるリアのショックアブソーバとして利用する場合には、車両内の後方床面にショックアブソーバの上端を突出させない、すなわち、車両内の後方床面を左右方向にフラットにして広く設定し得ることになる利点がある。
【0003】ところで、この多段型の油圧緩衝器は、原理的には、図3に示すように、一段目のシリンダ1内に二段目のシリンダとされる一段目のピストンロッド2がピストン3の介在下に出没可能に挿通されると共に、一段目のピストンロッド2内に二段目のピストンロッド4がピストン5の介在下に出没可能に挿通されてなるとしている。
【0004】また、一段目のピストンロッド2内にはピストン5によって区画されてこのピストン5に配在の減衰バルブ5aを介して相互に連通可能とされる上方油室R1と下方油室R2を有すると共に、シリンダ1内にピストン3によって区画されるロッド側油室R3とピストン側油室R4とを有してなるとしている。
【0005】そして、下方油室R2がピストンロッド2に形成の通路2aを介してロッド側油室R3に連通し、ピストン側油室R4がシリンダ1の下端内部に配在の減衰バルブ1aを介してシリンダ1の外周側に配在のリザーバ(符示せず)に連通してなるとしている。
【0006】ちなみに、リザーバは、この従来例にあっては、いわゆるリザーバ室の態様に形成されてなるとするもので、シリンダ1がその外周側に外筒6を有して間に空隙部(符示せず)を有する複筒型に設定されてなることから、この空隙部に減衰バルブ1aを介してピストン側油室R4に連通する油室Rと、この油室の上方に油面Oを境にして設けられるガス室Gとを有するいわゆるリザーバ室の態様に構成されている。
【0007】なお、この従来例では、上方油室R1と下方油室R2およびロッド側油室R3がピストン3の配在によってピストン側油室R4と遮断された言わば閉鎖された油室空間を形成する一方で、ピストンロッド4の断面積とロッド側油室R3の断面積がほぼ同一になるように設定されている。
【0008】それゆえ、この油圧緩衝器にあっては、ピストンロッド4が二段目のシリンダとされるピストンロッド2に対して出没されるとき、ピストン5に配在の減衰バルブ5aで所定の減衰力が発生されると共に、ロッド側油室R3においてピストンロッド4の侵入体積分および退出体積分に相当する量の油の流出入が発現される。
【0009】その結果、ピストンロッド2がシリンダ1に対して出没されることになり、したがって、ピストン側油室R4とリザーバを構成する油室Rとの間に配在の減衰バルブ1aによっても所定の減衰力が発生されることになる。
【0010】以上のことから、この従来例とされる油圧緩衝器にあっては、ピストンロッド4がピストンロッド2に対して出没されるとき、併せてピストンロッド2がシリンダ1に対しても出没されることになり、したがって、いわゆる円滑な伸縮作動のもとに、各減衰バルブ5a,1aによって設定通りの減衰力を発生し得ることになる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記した従来例の場合を含めて、この種の多段型の油圧緩衝器では、圧縮作動時における一段目のピストンロッド2の侵入体積分に相当する油の行場を確保するためにリザーバを有するとするが、このリザーバが上記したように、いわゆるリザーバ室とされるときには、ガス室Gにおける圧縮比率を大きくしないためにも、ガス室Gの容積を可能な限りに大きく採るとしている。
【0012】このとき、シリンダ1の径をそのままにして外筒6の径を大きく設定すれば、言わば大きい容積のガス室Gを確保できるが、車両への搭載性を考慮すると、外筒6の径を大きく設定することは、好ましい方策とは言い得ないことになる。
【0013】そこで、ガス室Gの容積を大きくするために、油面Oの位置を図中に破線図で示す位置に比較してより下方となる図中に実線図で示す位置になるように設定することになる。
【0014】その結果、油面Oの位置が言わば低くなり、たとえば、伸縮作動に伴ってピストン側油室R4と油室Rとの間で油の行来あるときに油面Oが波立つことで、また、いわゆる搬送中などに油圧緩衝器が傾斜されてエアがピストン側油室R4に流れ込むなどで、油中へのエアの混入現象が発現され易くなる。
【0015】そして、エアを混入した油が減衰バルブ1aを通過する場合には、所定の安定した減衰力の発生が期待できなくなると共に、油中から分離したエアがピストン側油室R4に溜まることで、圧縮作動時に断熱圧縮現象を招来させることになる危惧がある。
【0016】この発明は、上記した事情を鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、油中にエアを混入させる危惧がなく、断熱圧縮現象を招来させないのはもちろんのこと、減衰バルブによる所定の安定した減衰力の発生を可能にして、たとえば、四輪車両におけるリアのショックアブソーバとして利用するのに最適となる多段型の油圧緩衝器を提供することである。
【0017】
【課題を解決するための手段】上記した目的を達成するために、この発明による油圧緩衝器の構成を、基本的には、一段目のシリンダ内に二段目のシリンダとされる一段目のピストンロッドがピストンの介在下に出没可能に挿通されると共に、一段目のピストンロッド内に二段目のピストンロッドがピストンの介在下に出没可能に挿通されてなり、一段目のピストンロッド内に二段目のピストンロッドに連設のピストンによって区画されてこのピストンに配在の減衰バルブを介して相互に連通可能とされる上方油室と下方油室を有すると共に、シリンダ内に一段目のピストンロッドに連設のピストンによって区画されるロッド側油室とピストン側油室とを有してなり、ピストン側油室がシリンダの外周側に配在のリザーバに連通すると共に、リザーバがピストン側油室に連通する油室と、この油室とダイアフラムあるいはフリーピストンで分離されたガス室とを有してなるとする。
【0018】そして、上記した構成において、より具体的には、上方油室と下方油室およびロッド側油室がピストンの配在によってピストン側油室と遮断された言わば閉鎖された油室空間を形成する一方で、二段目のピストンロッドの断面積とロッド側油室の断面積がほぼ同一になるように設定されてなるとするのが好ましい。
【0019】
【発明の実施の形態】以下に、図示した実施の形態に基づいて、この発明を説明するが、図1に示す実施の形態にあっては、原理的には、前記した図3に示す従来の油圧緩衝器と同様に構成されている。
【0020】それゆえ、図示する実施の形態において、その構成が図3に示す油圧緩衝器と同様となるところについては、要する場合を除いて、図中に同一の符号を付するのみとして、その詳しい説明を省略し、以下には、この発明において特徴となるところを中心に説明する。
【0021】すなわち、この発明による油圧緩衝器にあっては、図1に示すように、シリンダ1内にピストン3によって区画されるピストン側油室R4がシリンダ1の下端内部に配在の減衰バルブ1aを介してシリンダ1の外周側に配在のリザーバに連通してなるとしている。
【0022】そして、このリザーバは、図示する実施の形態では、シリンダ1とその外周側に配在の外筒6との間に形成される空隙部にダイアフラムDを有してなり、このダイアフラムDの配在で空隙部に減衰バルブ1aを介してピストン側油室R4に連通する油室Rと、この油室Rと分離されるガス室Gとを区画してなるとしている。
【0023】ちなみに、図示する実施の形態にあって、ダイアフラムDの上端は、シリンダ1および外筒6の上端を封止するキャップ7の下端環状部7aの内周に保持されながら、シリンダ1の上端外周との間に液密状態に挟持されてなるとしている。
【0024】また、ダイアフラムDの下端は、シリンダ1の下端外周に連設されているフランジ部1bの外周に保持されながら、外筒7の下端内周との間に液密状態に挟持されてなるとしている。
【0025】それゆえ、以上のように構成された油圧緩衝器にあっては、油面(図3中の符号O参照)がなく、したがって、たとえば、伸縮作動に伴ってピストン側油室R4と油室Rとの間で油の行来あるとしても油面の波立ちがなく、また、いわゆる搬送中などに油圧緩衝器が傾斜されてもエアが、すなわち、ガス室Gのガスがピストン側油室R4に流れ込まなくなり、油中へのいわゆるエアの混入現象が発現されなくなる。
【0026】ちなみに、油圧緩衝器の伸縮作動時には、ダイアフラムDが伸縮して油室Rとガス室Gの膨縮を許容することになるのはもちろんである。
【0027】上記したところは、リザーバがシリンダ1に言わば一体に設けられてなる場合であるが、この発明の意図するところからすれば、図2に示すように、リザーバが外置き型に設定されてなるとしても良い。
【0028】すなわち、図2(A)に示すように、シリンダ1が単筒型に形成されてなるとする一方で、シリンダ1内のピストン側油室R4が外部に配在のリザーバとしてのアキュムレータQに管路Lを介して連通されてなるとする。
【0029】そして、このアキュムレータQは、内部にダイアフラムDを有していて、このダイアフラムDによって、管路Lを介してピストン側油室R4に連通する油室Rと、この油室Rと分離されるガス室Gとを区画してなるとしている。
【0030】なお、上記の管路Lには、前記した図1に示す減衰バルブ1aと同様に機能する減衰バルブVが配在されてなるとしている。
【0031】それゆえ、この実施の形態による場合には、アキュムレータQを外置きに有するいわゆる油圧緩衝器本体において、前記した図1に示す油圧緩衝器の場合に比較して、径方向の小型化が可能になり、車両への搭載性を良くする点で有利になる。
【0032】また、この実施の形態による場合には、管路Lがいわゆる耐圧構造でありながら可撓性を有するように構成される場合には、油圧緩衝器本体と離れた任意の位置にアキュムレータQを配在することが可能になるから、上記した車両への搭載性の悪化を招かない点で有利となる。
【0033】以上からすれば、リザーバを構成するアキュムレータQについては、たとえば、図2(B)に示すように、ダイアフラムDに代えて、フリーピストンFを有するタイプのものからなるとしても良い。
【0034】すなわち、このアキュムレータQは、内部にフリーピストンFを有していて、このフリーピストンFによって、管路Lを介してピストン側油室R4に連通する油室Rと、この油室Rと分離されるガス室Gとを区画してなるとしている。
【0035】なお、上記の管路Lには、減衰バルブVが配在されてなるとするが、この減衰バルブVについては、前記した図2(A)に示す場合を含めて、図示しないが、アキュムレータQを形成するハウジング内に配在されているとしても良いことはもちろんである。
【0036】
【発明の効果】以上のように、この発明にあっては、一段目とされるシリンダ内に区画されるピストン側油室がシリンダの外周側に配在のリザーバに連通すると共に、リザーバがピストン側油室に連通する油室と、この油室とダイアフラムあるいはフリーピストンで分離されたガス室とを有してなるとするから、たとえば、伸縮作動に伴ってピストン側油室とリザーバを構成する油室との間で油の行来あるととしても油面の波立ちがなく、また、いわゆる搬送中などに油圧緩衝器が傾斜されてもエアが、すなわち、リザーバを構成するガス室のガスがピストン側油室に流れ込まなくなり、油中へのいわゆるエアの混入現象が発現されなくなる。
【0037】その結果、この発明によれば、油中にエアを混入させる危惧がなく、断熱圧縮現象を招来させないのはもちろんのこと、減衰バルブによる所定の安定した減衰力の発生を可能にして、たとえば、四輪車両におけるリアのショックアブソーバとして利用するのに最適となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明による油圧緩衝器を原理的に示す概略縦断面図である。
【図2】(A)他の実施の形態による油圧緩衝器を原理的に示す概略縦断面図である。
(B)他の実施の形態によるリザーバを原理的に示す図である。
【図3】従来例としての油圧緩衝器を図1と同様に示す図である。
【符号の説明】
1 シリンダ
1a,6a,V 減衰バルブ
1b フランジ部
2 二段目のシリンダとされる一段目のピストンロッド
2a 通路
3,5 ピストン
4 二段目のピストンロッド
6 外筒
7 キャップ
7a 下端環状部
D ダイアフラム
G ガス室
L 管路
Q アキュムレータ
R 油室
R1 上方油室
R2 下方油室
R3 ロッド側油室
R4 ピストン側油室

【特許請求の範囲】
【請求項1】 一段目のシリンダ内に二段目のシリンダとされる一段目のピストンロッドがピストンの介在下に出没可能に挿通されると共に、一段目のピストンロッド内に二段目のピストンロッドがピストンの介在下に出没可能に挿通されてなり、一段目のピストンロッド内に二段目のピストンロッドに連設のピストンによって区画されてこのピストンに配在の減衰バルブを介して相互に連通可能とされる上方油室と下方油室を有すると共に、シリンダ内に一段目のピストンロッドに連設のピストンによって区画されるロッド側油室とピストン側油室とを有してなり、ピストン側油室がシリンダの外周側に配在のリザーバに連通すると共に、リザーバがピストン側油室に連通する油室と、この油室とダイアフラムあるいはフリーピストンで分離されたガス室とを有してなることを特徴とする油圧緩衝器

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2000−240708(P2000−240708A)
【公開日】平成12年9月5日(2000.9.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−40733
【出願日】平成11年2月19日(1999.2.19)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】