説明

油圧閉回路システム

【課題】油圧ポンプの動作環境が変化する中でも油圧ポンプの状態を判定可能な油圧閉回路システムを提供すること。
【解決手段】第一ポート3b及び第二ポート3cを有する油圧シリンダ3を駆動可能な油圧閉回路システム100は、第一管路C1を通じて第一ポート3bに流体的に連通される第一ポンプポート1aと第二管路C2を通じて第二ポート3cに流体的に連通される第二ポンプポート1bとを有する油圧ポンプ1と、油圧ポンプ1の回転を制御する電動モータ2と、電動モータ2の出力に関する値に基づいて電動モータ2の入力に関する値をフィードバック制御する電動モータ制御部11と、電動モータ2の入力に関する値と電動モータ2の出力に関する値とに基づいて油圧ポンプ1の状態を判定するポンプ状態判定部13と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧シリンダ又は油圧モータを駆動可能な油圧閉回路システムに関し、特に、電動機によって駆動される油圧ポンプを備えた油圧閉回路システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ショベルに搭載される油圧ポンプの故障の有無を診断するポンプ故障診断装置が知られている(例えば特許文献1参照。)。
【0003】
このポンプ故障診断装置は、ポンプ傾転角、ポンプ馬力、エンジン回転数、及びポンプ負荷が予め設定された値に制御される故障診断モードでの摩耗金属量と予め登録されているしきい値とを比較することによって、油圧開回路システムにおけるエンジン駆動の油圧ポンプで故障が生じているか否かを判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−241306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のポンプ故障診断装置は、所定の動作環境が保証される故障診断モードにおいて検出される値に基づいて油圧ポンプの故障の有無を判断するのみであり、動作環境が変化する中でその動作環境の変化に応じて変動する値(例えばポンプ吐出流量)に基づいて油圧ポンプの故障の有無を判断することができない。
【0006】
上述の点に鑑み、本発明は、油圧ポンプの動作環境が変化する中でも油圧ポンプの状態を判定可能な油圧閉回路システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明の実施例に係る油圧閉回路システムは、第一ポート及び第二ポートを有する油圧シリンダ又は油圧モータを駆動可能な油圧閉回路システムであって、第一管路を通じて前記第一ポートに流体的に連通される第一ポンプポートと第二管路を通じて前記第二ポートに流体的に連通される第二ポンプポートとを有する油圧ポンプと、前記油圧ポンプの回転を制御する電動モータと、前記電動モータの出力に関する値に基づいて前記電動モータの入力に関する値をフィードバック制御する電動モータ制御部と、前記電動モータの入力に関する値と前記電動モータの出力に関する値とに基づいて前記油圧ポンプの状態を判定するポンプ状態判定部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上述の手段により、本発明は、油圧ポンプの動作環境が変化する中でも油圧ポンプの状態を判定可能な油圧閉回路システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例に係る油圧閉回路システムの構成例を示す概略図である。
【図2】制御装置の構成例を示す機能ブロック図である。
【図3】電動モータ制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】ポンプ状態判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】電動モータに適用される電流指令値とピストンの移動速度の実測値との関係を示す図(その1)である。
【図6】第二ポンプ状態判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】電動モータに適用される電流指令値とピストンの移動速度の実測値との関係を示す図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施例について説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施例に係る油圧閉回路システム100の構成例を示す概略図である。
【0012】
油圧閉回路システム100は、電動モータ2によって回転制御される油圧ポンプ1で油圧シリンダ3を駆動するシステムである。油圧シリンダ3は、例えば、被制御部としての大負荷容量油圧駆動式大型平面研削盤のテーブルを移動させるために用いられる。
【0013】
本実施例では、油圧閉回路システム100は、主に、油圧ポンプ1、電動モータ2、油圧シリンダ3、安全弁4L、4R、シャトル弁7、出力検出用センサ9、制御装置10、入力装置15、表示装置16、及び音声出力装置17で構成される。
【0014】
油圧ポンプ1は、油圧シリンダ3を駆動する装置であり、例えば、固定容量型の双方向油圧ポンプである。なお、油圧ポンプ1は、可変容量型のポンプであってもよい。
【0015】
電動モータ2は、油圧ポンプ1の回転を制御する装置であり、例えば、可変速のACサーボモータである。
【0016】
油圧シリンダ3は、ピストン3aによって隔てられる第一油室3L及び第二油室3Rを有する油圧アクチュエータである。第一油室3Lは、第一ポート3b及び管路C1を通じて、油圧ポンプ1の第一ポンプポート1aに流体的に連通され、第二油室3Rは、第二ポート3c及び管路C2を通じて、油圧ポンプ1の第二ポンプポート1bに流体的に連通される。本実施例において、油圧シリンダ3は、ピストン3aの両側に延びる2つのロッドを備えた両ロッドシリンダであり、2つのロッドのうちの一方又は双方が平面研削盤テーブル(図示せず。)に結合される。なお、油圧シリンダ3は、ピストン3aの片側に延びる1つのロッドを備えた片ロッドシリンダであってもよく、平面研削盤テーブルが直接的にピストン3aに結合されるような、ロッドのない構成であってもよい。
【0017】
安全弁4Lは、管路C1内の圧力が所定圧力以上となった場合に、管路C1内の作動油を作動油タンクT1に逃がすための弁である。また、安全弁4Rは、管路C2内の圧力が所定圧力以上となった場合に、管路C2内の作動油を作動油タンクT1に逃がすための弁である。
【0018】
安全弁4Lは、作動油タンクT1に流体的に連通される管路C3と管路C1とを繋ぐ管路C4上に配置され、安全弁4Rは、管路C3と管路C2とを繋ぐ管路C5上に配置される。
【0019】
シャトル弁7は、管路C1又は管路C2と作動油タンクT1との間の作動油の流れを制御する弁であり、1つの一次側ポート7aと2つの二次側ポート7b、7cとを有する。
【0020】
一次側ポート7aは、管路C11を介して、作動油タンクT1に流体的に連通され、二次側ポートの一方7bは、管路C7を介して、管路C1に流体的に連通され、二次側ポートの他方7cは、管路C8を介して、管路C2に流体的に連通される。
【0021】
具体的には、シャトル弁7は、管路C1内の圧力が作動油タンクT1内の圧力よりも低い場合、二次側ポート7bを通じて、作動油タンクT1の作動油を管路C1内に導入する。また、シャトル弁7は、管路C2内の圧力が作動油タンクT1内の圧力よりも低い場合、二次側ポート7cを通じて、作動油タンクT1の作動油を管路C2内に導入する。油圧ポンプ1の回転等によって生じる管路C1又は管路C2における作動油の不足を補うためである。
【0022】
出力検出用センサ9は、電動モータ2の出力に関する値を検出するセンサであり、例えば、ピストン3aの位置を検出する位置センサ9a、油圧ポンプ1の回転を検出する回転センサ9b、油圧ポンプ1の第一ポンプポート1aからの吐出量を検出する第一吐出量センサ9c1、油圧ポンプ1の第二ポンプポート1bからの吐出量を検出する第一吐出量センサ9c2等を含む。また、出力検出用センサ9は、検出した値を制御装置10に対して出力する。
【0023】
制御装置10は、油圧閉回路システム100を制御するための装置であり、例えば、CPU、RAM、ROM、入出力インタフェース等を備えたコンピュータである。
【0024】
また、制御装置10は、入力装置15を介した操作者の入力に応じて、平面研削盤テーブルの所要移動距離(現在位置から目標位置までの距離)、すなわち、ピストン3aの所要移動距離を決定する。さらに、制御装置10は、決定したピストン3aの所要移動距離に応じてピストン3aの目標移動速度(ピストン3aの移動方向は、目標移動速度の値の正負によって表される。)を決定し、決定した目標移動速度に対応する制御指令を電動モータ2に対して出力する。具体的には、制御装置10は、ピストン3aの所要移動距離が大きいほど目標移動速度が大きくなるようにする。また、制御装置10は、ピストン3aの所要移動距離が小さくなるにつれて、すなわち、目標位置に近づくにつれて、目標移動速度が小さくなるようにする。
【0025】
また、制御装置10は、位置センサ9aの出力に基づいてピストン3aの位置、すなわち、平面研削盤テーブルの位置を監視しながら、平面研削盤テーブルが目標位置に到達したか否かを判定する。
【0026】
平面研削盤テーブルが目標位置に到達したと判定した場合に、制御装置10は、油圧ポンプ1の回転を停止させるための制御指令を電動モータ2に対して出力する。
【0027】
入力装置15は、操作者が各種情報を制御装置10に対して入力できるようにする装置であり、例えば、ハードウェアボタン、キーボード、マウス、タッチパネル等である。
【0028】
表示装置16は、制御装置10が出力する各種情報を表示する装置であり、例えば、液晶ディスプレイ、LEDランプ等である。
【0029】
音声出力装置17は、制御装置10が出力する各種情報を音声出力する装置であり、例えば、スピーカ、ブザー等である。
【0030】
次に、図2を参照しながら、制御装置10が有する各種機能要素について説明する。なお、図2は、制御装置10の構成例を示す機能ブロック図である。
【0031】
制御装置10は、電動モータ制御部11、ポンプ効率算出部12、及びポンプ状態判定部13のそれぞれの機能要素に対応するプログラムをROMから読み出してRAMに展開し、各プログラムに対応する処理をCPUに実行させる。
【0032】
電動モータ制御部11は、電動モータ2を制御する機能要素であり、例えば、各種情報に基づいて電動モータ2を制御するための制御指令を生成し、生成した制御指令を電動モータ2に対して出力する。
【0033】
ここで、図3を参照しながら、電動モータ制御部11が電動モータ2を制御する処理(以下、「電動モータ制御処理」とする。)の流れについて説明する。なお、図3は、電動モータ制御処理の流れを示すフローチャートであり、電動モータ制御部11は、所定周期で繰り返しこの電動モータ制御処理を実行する。
【0034】
最初に、電動モータ制御部11は、ピストン3aの目標移動速度に基づいて電動モータ2の制御目標値を決定する(ステップS1)。本実施例では、制御装置10は、例えば、入力装置15を介した操作者の数値入力に基づいて制御目標値としてのピストン3aの所要移動距離を決定する。そして、制御装置10は、ピストン3aの所要移動距離に基づいてピストン3aの目標移動速度を決定する。
【0035】
その後、電動モータ制御部11は、出力検出用センサ9が出力する、制御目標値に対応する実測値を取得する(ステップS2)。本実施例では、電動モータ制御部11は、位置センサ9aの出力に基づいて、ピストン3aの実際の移動速度を取得する。
【0036】
その後、電動モータ制御部11は、フィードバック制御により、制御目標値とその制御目標値に対応する実測値との差を打ち消すように制御指令値を生成し(ステップS3)、生成した制御指令値を電動モータ2に対して出力する(ステップS4)。本実施例では、電動モータ制御部11は、目標移動速度と位置センサ9aの出力に基づく実測移動速度(単位時間当たりの移動距離)との差を打ち消すように速度指令値を生成し、生成した速度指令値を電動モータ2に対して出力する。
【0037】
このようにして、電動モータ制御部11は、ピストン3aの移動速度のフィードバックにより電動モータ2の回転速度を制御する。なお、電動モータ制御部11は、速度指令値に基づいてトルク指令値(電流指令値)を算出し、電動モータ2を流れる電流を測定する電流計(図示せず。)の出力をフィードバックして電流指令値と実測電流値との差を打ち消すように電動モータ2のトルクを制御してもよい。
【0038】
その結果、電動モータ制御部11は、ピストン3aと電動モータ2との間に介在する構成要素の状態、すなわち、油圧ポンプ1の状態の善し悪しにかかわらず、電動モータ2を制御することによってピストン3aの所望の移動速度を実現させることができる。したがって、電動モータ制御部11は、例えば、電動モータ2の所与の回転速度に対応する油圧ポンプ1の実際の吐出量が予期される吐出量より少ない場合であっても、その状態を操作者に気付かせることなく、ピストン3aを所望の移動速度で移動させることができる。制御の安定性を図るために油圧ポンプ1の吐出量不足を電動モータ2の回転速度の上昇によって自動的に補うためである。
【0039】
なお、電動モータ制御部11は、本実施例では、制御目標値としてピストン3aの目標移動速度を採用したが、油圧ポンプ1の目標回転速度、又は、油圧ポンプ1の目標吐出量を制御目標値として採用してもよい。この場合、電動モータ制御部11は、回転センサ9bが出力する油圧ポンプ1の回転速度、又は、第一吐出量センサ9c1若しくは第二吐出量センサ9c2が出力する油圧ポンプ1の吐出量を制御目標値に対応する実測値として取得する。
【0040】
ポンプ効率算出部12は、油圧ポンプ1のポンプ効率を算出する機能要素である。
【0041】
「ポンプ効率」とは、油圧ポンプ1の吐出効率を意味し、例えば、電動モータ2の入力に関する値と、電動モータ2の出力に関する値とに基づいて算出される。ポンプ効率は、基本的には、時間の経過とともに、すなわち油圧ポンプ1の経年劣化により低下する値であり、所定値を下回った場合には、油圧ポンプ1の交換又はメンテナンス(以下、「交換等」とする。)が必要であることを表す。
【0042】
本実施例では、ポンプ効率は、電動モータ2に入力される制御指令値に応じて電動モータ2が実際に回転することで実現されたピストン3aの移動速度を、その制御指令値で除した値が採用される。
【0043】
ポンプ状態判定部13は、油圧ポンプ1の状態を判定する機能要素であり、例えば、現在の油圧ポンプ1の状態が継続的な使用に適したものであるか否かを判定する。
【0044】
ここで、図4及び図5を参照しながら、ポンプ状態判定部13が油圧ポンプ1の状態を判定する処理(以下、「ポンプ状態判定処理」とする。)の流れについて説明する。なお、図4は、ポンプ状態判定処理の流れを示すフローチャートであり、ポンプ状態判定部13は、所定周期で繰り返しこのポンプ状態判定処理を実行する。また、図5は、電動モータ2に適用される電流指令値とピストン3aの移動速度の実測値との関係を示す図であり、横軸が電流指令値を表し、縦軸がピストン3aの移動速度の実測値を表す。
【0045】
最初に、ポンプ状態判定部13は、電動モータ制御部11が電動モータ2に対して出力した制御指令値を電動モータ2の入力に関する値として取得する(ステップS11)。本実施例では、ポンプ状態判定部13は、制御指令値としての電流指令値D1を取得する。
【0046】
その後、ポンプ状態判定部13は、その制御指令値が電動モータ2に適用されたために実現された電動モータ2の出力に関する値を取得する(ステップS12)。本実施例では、ポンプ状態判定部13は、電流指令値D1が電動モータ2に適用されて電動モータ2の回転速度が変化したために実現されたピストン3aの実際の移動速度V1を位置センサ9aの出力に基づいて取得する。
【0047】
その後、ポンプ状態判定部13は、電動モータ2に適用された制御指令値に起因する実測値に基づいて基準指令値を取得する(ステップS13)。本実施例では、ポンプ状態判定部13は、電動モータ2に適用された電流指令値D1に起因するピストン3aの実際の移動速度V1に基づいて基準指令値Dsを取得する。
【0048】
「基準指令値」とは、電動モータ2の出力に関する所定の実測値を実現するために必要とされる基準となる制御指令値を意味する。本実施例において、基準指令値は、例えば、油圧閉回路システム100の初期使用時において、ピストン3aの所定の移動速度を実現するために必要とされる電流指令値に相当する。基準指令値は、例えば、ピストン3aの移動速度の各値に対応付けて対応テーブルの形で制御装置10のROMに予め記憶されている。図5の破線は、基準指令値とピストン3aの移動速度とによって決まる基準ポンプ効率を表す線分である。図5の基準ポンプ効率を表す線分は、仮に電流指令値D1が基準指令値であったならば、ピストン3aの移動速度V2を実現できたことを示す。一方、図5の実線は、現在の電流指令値D1とピストン3aの実際の移動速度V1とによって推定される現在のポンプ効率を表す線分である。また、図5の一点鎖線は、許容最大指令値とその許容最大指令値を適用した場合のピストン3aの移動速度とによって決まる許容下限ポンプ効率を表す線分である。
【0049】
「許容最大指令値」とは、電動モータ2の出力に関する所定の実測値を実現するために適用され得る最大の制御指令値を意味する。本実施例において、許容最大指令値は、例えば、ピストン3aの所定の移動速度を実現するために適用可能な最大の電流指令値に相当する。ピストン3aの所定の移動速度を実現するために許容最大指令値を上回る電流指令値が必要とされる場合、すなわち、ポンプ効率が許容下限ポンプ効率を下回る場合、油圧ポンプ1に異常があると推定できる。なお、図5の斜線ハッチング領域は、ポンプ効率が許容下限ポンプ効率を下回る領域を表す。
【0050】
具体的には、ポンプ状態判定部13は、制御装置10のROMに記憶された、ピストン3aの移動速度と基準指令値との関係を記憶する対応テーブルを参照して、ヒストン3aの移動速度V1を実現するために必要とされる基準指令値Dsを取得する。
【0051】
その後、ポンプ状態判定部13は、取得した基準指令値Dsと現在の電流指令値D1との差ΔDを算出し(ステップS14)、算出した差ΔDと所定の閾値ΔDmaxとを比較する(ステップS15)。なお、所定の閾値ΔDmaxは、例えば、基準指令値Dsに対する差の許容最大値として基準指令値Dsに関連付けて制御装置10のROMに予め記憶された値であり、個々の基準指令値のそれぞれに対応する値が用意されている。
【0052】
また、比較対象となる差ΔDの値は、瞬間値であってもよく、所定期間に亘って継続的に算出される複数の差ΔDの値に基づく統計値(例えば、平均値、中央値、最小値、最大値、最頻値等である。)であってもよい。
【0053】
差ΔDの値が所定の閾値ΔDmaxを上回ると判断した場合(ステップS15のYES)、ポンプ状態判定部13は、現在の油圧ポンプ1の状態が継続的な使用に適したものではないと判定する。
【0054】
この場合、ポンプ状態判定部13は、表示装置16及び音声出力装置17の少なくとも一方に対して制御信号を出力し、現在の油圧ポンプ1の状態が継続的な使用に適したものではないことを操作者に通知した上で(ステップS16)、今回のポンプ状態判定処理を終了させる。
【0055】
一方で、差ΔDの値が所定の閾値ΔDmax以下であると判断した場合(ステップS15のNO)、ポンプ状態判定部13は、現在の油圧ポンプ1の状態が継続的な使用に適したものであると判定する。
【0056】
この場合、ポンプ状態判定部13は、表示装置16及び音声出力装置17に制御信号を出力することなく、今回のポンプ状態判定処理を終了させる。
【0057】
なお、ポンプ状態判定部13は、油圧ポンプ1の回転方向のそれぞれに関して、油圧ポンプ1の状態を別々に判定してもよい。特定の回転方向に限って、油圧ポンプ1の状態が異常となる場合があるためであり、そのような異常状態をより早期に検知できるようにするためである。
【0058】
このように、油圧閉回路システム100は、電動モータ2の入力に関する値としての電流指令値D1と、電動モータ2の出力に関する値としてのピストン3aの移動速度V1から導き出される基準指令値Dsとの差に基づいて油圧ポンプ1の状態を判定する。その結果、油圧閉回路システム100は、油圧ポンプ1の動作環境が変化する中でも油圧ポンプ1の状態を判定することができる。また、油圧閉回路システム100は、経年劣化等に起因する油圧ポンプ1のポンプ効率の低下に伴うエネルギ損失の増大をより早期に検知することができる。また、油圧閉回路システム100は、油圧ポンプ1の交換等の必要性を操作者により早期に通知することができ、省エネ化、ランニングコスト削減等を実現できる。
【0059】
また、油圧閉回路システム100は、電動モータ2と油圧シリンダ3との間に介在する主な構成要素を油圧ポンプ1のみとし、油圧ポンプ1と油圧シリンダ3とを一対一で対応付けることにより、電動モータ2の出力に関する値としてピストン3aの移動速度を採用する。その結果、油圧閉回路システム100は、電動モータ2の出力に関する値を容易に検出することができる。
【0060】
次に、図6及び図7を参照しながら、ポンプ状態判定処理の別の実施例(以下、「第二ポンプ状態判定処理」とする。)について説明する。なお、図6は、第二ポンプ状態判定処理の流れを示すフローチャートであり、ポンプ状態判定部13は、所定周期で繰り返しこの第二ポンプ状態判定処理を実行する。また、図7は、電動モータ2に適用される電流指令値とピストン3aの移動速度の実測値との関係を示す図であり、図5に対応する。
【0061】
最初に、ポンプ状態判定部13は、電動モータ制御部11が電動モータ2に対して出力した制御指令値を電動モータ2の入力に関する値として取得する(ステップS21)。本実施例では、ポンプ状態判定部13は、制御指令値としての電流指令値を取得する。
【0062】
その後、ポンプ状態判定部13は、その制御指令値が電動モータ2に適用されたために実現された電動モータ2の出力に関する値を取得する(ステップS22)。本実施例では、ポンプ状態判定部13は、電流指令値D1が電動モータ2に適用されて電動モータ2の回転速度が変化したために実現されたピストン3aの実際の移動速度V1を位置センサ9aの出力に基づいて取得する。
【0063】
その後、ポンプ状態判定部13は、電動モータ2に適用された制御指令値とその制御指令値に起因する実測値とに基づいてポンプ効率算出部12が算出したポンプ効率を取得する(ステップS23)。本実施例では、ポンプ状態判定部13は、電動モータ2に適用された電流指令値D1とピストン3aの実際の移動速度V1とに基づいてポンプ効率算出部12が算出したポンプ効率θ(=移動速度V1÷電流指令値D1)を取得する。
【0064】
その後、ポンプ状態判定部13は、取得したポンプ効率θと所定の許容下限ポンプ効率θminとを比較する(ステップS24)。なお、所定の許容下限ポンプ効率θminは、例えば、最大許容指令値とその最大許容指令値を適用した場合のピストン3aの移動速度とによって決まる値であり、制御装置10のROMに予め記憶されている。また、比較対象となるポンプ効率θは、瞬間値であってもよく、所定期間に亘って継続的に算出される複数のポンプ効率の値に基づく統計値(例えば、平均値、中央値、最小値、最大値、最頻値等である。)であってもよい。
【0065】
取得したポンプ効率θが所定の許容下限ポンプ効率θminを下回ると判断した場合(ステップS24のYES)、ポンプ状態判定部13は、現在の油圧ポンプ1の状態が継続的な使用に適したものではないと判定する。
【0066】
この場合、ポンプ状態判定部13は、表示装置16及び音声出力装置17の少なくとも一方に対して制御信号を出力し、現在の油圧ポンプ1の状態が継続的な使用に適したものではないことを操作者に通知した上で(ステップS25)、今回のポンプ状態判定処理を終了させる。
【0067】
一方で、取得したポンプ効率θが所定の許容下限ポンプ効率θmin以上であると判断した場合(ステップS24のNO)、ポンプ状態判定部13は、現在の油圧ポンプ1の状態が継続的な使用に適したものであると判定する。
【0068】
この場合、ポンプ状態判定部13は、表示装置16及び音声出力装置17に制御信号を出力することなく、今回のポンプ状態判定処理を終了させる。
【0069】
なお、ポンプ状態判定部13は、油圧ポンプ1の回転方向のそれぞれに関して、油圧ポンプ1の状態を別々に判定してもよい。特定の回転方向に限って、油圧ポンプ1の状態が異常となる場合があるためであり、そのような異常状態をより早期に検知できるようにするためである。
【0070】
このように、油圧閉回路システム100は、電動モータ2の入力に関する値としての電流指令値D1と電動モータ2の出力に関する値としてのピストン3aの移動速度V1とから導き出されるポンプ効率θと、許容下限ポンプ効率θminとの比較に基づいて油圧ポンプ1の状態を判定する。その結果、油圧閉回路システム100は、油圧ポンプ1の動作環境が変化する中でも油圧ポンプ1の状態を判定することができる。また、油圧閉回路システム100は、経年劣化等に起因する油圧ポンプ1のポンプ効率の低下に伴うエネルギ損失の増大をより早期に検知することができる。また、油圧閉回路システム100は、油圧ポンプ1の交換等の必要性を操作者により早期に通知することができ、省エネ化、ランニングコスト削減等を実現できる。
【0071】
また、油圧閉回路システム100は、電動モータ2と油圧シリンダ3との間に介在する主な構成要素を油圧ポンプ1のみとし、油圧ポンプ1と油圧シリンダ3とを一対一で対応付けることにより、電動モータ2の出力に関する値としてピストン3aの移動速度を採用する。その結果、油圧閉回路システム100は、電動モータ2の出力に関する値を容易に検出することができる。
【0072】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0073】
例えば、上述の実施例では、油圧閉回路システム100は、油圧ポンプ1で油圧シリンダ3を駆動する構成であるが、油圧ポンプ1で油圧モータを駆動する構成であってもよい。
【0074】
また、上述の実施例では、油圧閉回路システム100は、大負荷容量油圧駆動式大型平面研削盤のテーブルを被制御部として移動させるために用いられるが、射出成形機の射出シリンダや可動プラテンを被制御部として移動させるために用いられてもよく、他の工作機械の構成部品を被制御部として移動させるために用いられてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1・・・油圧ポンプ 1a・・・第一ポンプポート 1b・・・第二ポンプポート 2・・・電動モータ 3・・・油圧シリンダ 3a・・・ピストン 3b・・・第一ポート 3c・・・第二ポート 3L・・・第一油室 3R・・・第二油室 4L、4R・・・安全弁 7・・・シャトル弁 7a・・・一次側ポート 7b、7c・・・二次側ポート 9・・・出力検出用センサ 9a・・・位置センサ 9b・・・回転センサ 9c1・・・第一吐出量センサ 9c2・・・第二吐出量センサ 10・・・制御装置 11・・・電動モータ制御部 12・・・ポンプ効率算出部 13・・・ポンプ状態判定部 15・・・入力装置 16・・・表示装置 17・・・音声出力装置 100・・・油圧閉回路システム T1・・・作動油タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一ポート及び第二ポートを有する油圧シリンダ又は油圧モータを駆動可能な油圧閉回路システムであって、
第一管路を通じて前記第一ポートに流体的に連通される第一ポンプポートと第二管路を通じて前記第二ポートに流体的に連通される第二ポンプポートとを有する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプの回転を制御する電動モータと、
前記電動モータの出力に関する値に基づいて前記電動モータの入力に関する値をフィードバック制御する電動モータ制御部と、
前記電動モータの入力に関する値と前記電動モータの出力に関する値とに基づいて前記油圧ポンプの状態を判定するポンプ状態判定部と、
を備えることを特徴とする油圧閉回路システム。
【請求項2】
前記電動モータの出力に関する値は、前記油圧シリンダ又は前記油圧モータによって移動させられる被制御部の移動速度に関する値である、
ことを特徴とする請求項1に記載の油圧閉回路システム。
【請求項3】
前記ポンプ状態判定部は、前記油圧ポンプの回転方向のそれぞれに関して、前記油圧ポンプの状態を判定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の油圧閉回路システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−100738(P2013−100738A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243810(P2011−243810)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】