説明

油圧防振器

【課題】オイルリザーバ内の作動油を加圧する機構が不要で、構造が簡素であり、据え付けも容易にできる油圧防振器を提供する。
【解決手段】オイルリザーバを構成するケーシング11が、油圧防振器1の設置状態におけるシリンダ2の上方に設けられる。ケーシング11とシリンダ2とをつなぐ油通路10は、ケーシング11におけるシリンダ2の軸線方向の中央に開口する。ケーシング11内には、作動油Oより比重の大きい沈降体14が移動自在に収容され、シリンダ2が、その軸線を上下方向に傾けたときに、沈降体14が、ケーシング11内を下方へ移動して、常時作動油の油面位O1を油通路13の開口13aより上位に保つ。シリンダの油室6,7への作動油の供給が絶たれることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地震、機械振動、風その他の外力に起因して、構築物自体やこれに支持された設備等が揺れるのを防止するために、例えば構築物の梁材や支柱材などの構造材の相互間や、構造物と配管又は機器など、支持体と被支持体との間に設けられる油圧防振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
支持体と被支持体と間に介設される油圧式の防振器は、内部に作動油を充填したシリンダと、シリンダ内を二つの油室に区画するピストンと、制御弁を介して二つの油室間を連通する油通路と、シリンダに出入り自在に挿入されるピストンロッドとを具備する。例えば、シリンダが構築物のような支持体に接続され、ピストンロッドが配管系のような被支持体に結合される。支持体と被支持体との間の振動に伴うシリンダとピストンとの相対移動を、油通路を通る作動油の油圧抵抗により抑制する。従来の防振器は、ピストンの移動に伴う二つの油室間の作動油の過不足を調整するために、作動油を貯留するオイルリザーバを二つの油室に連通させる。オイルリザーバとしては、ポット型のもの(例えば特許文献1の図4参照)と二重シリンダ型のもの(例えば特許文献2の図1参照)が知られている。前者は、シリンダの上方位置にシリンダと別体で設置される。この場合、オイルリザーバ内の作動油を常時下方のシリンダに供給できる。後者においては、シリンダの外側に、これを取り囲むようにケーシングが設けられ、このケーシングとシリンダとの間に、オイルリザーバとしての作動油の貯留室が形成される。シリンダに常時作動油を供給できるように、貯留室内の作動油には、ばねにより常時所定の圧力が加えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−9741号公報
【特許文献2】特開2005−337309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の油圧防振器のうち、ポット型のオイルリザーバを用いるものにおいては、オイルリザーバをシリンダの上方位置に水平に確実に取り付ける必要があり、その際、周辺器材等との干渉も避けなければならず、設置場所が制限されるという問題点がある。二重シリンダ型のオイルリザーバを用いるものにおいては、構造が複雑で、作動油を注入する手順が煩雑であるという問題点がある。
したがって、この出願に係る発明は、オイルリザーバ内の作動油を加圧する機構が不要で、構造が簡素であり、据え付けも容易にできる油圧防振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、添付図面の符号を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記課題を解決するための、この出願に係る油圧防振器1においては、オイルリザーバを構成するケーシング11が、設置状態におけるシリンダ2の上方に設けられる。ケーシング11とシリンダ2とをつなぐ油通路10は、ケーシング11におけるシリンダ2の軸線方向の中央に開口する。ケーシング11内には、作動油Oより比重の大きい沈降体14が移動自在に収容され、シリンダ2が、その軸線を上下方向に傾けたときに、沈降体14が、ケーシング11内を下方へ移動して、常時作動油の油面O1位置を油通路13の開口13aより上位に保つように構成される。
上記課題を解決するための、この出願に係る他の油圧防振器21においては、ケーシング31が、シリンダ22の外側を気密に取り囲むように設けられる。ケーシング31とシリンダ22とをつなぐ油通路30は、ケーシング31におけるシリンダ22の軸線方向の中央に開口し、ケーシング31内には、作動油より比重の大きい沈降体34が移動自在に収容される。シリンダ22がその軸線を上下方向に傾けたときに、沈降体34がケーシング31内を下方へ移動して常時作動油の油面位を油通路33の開口33aより上位に保つように構成される。
【発明の効果】
【0006】
この出願に係る発明の装置によれば、オイルリザーバ内の作動油を加圧する機構が不要で、構造が簡素であり、据え付けも容易にできる油圧防振器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る油圧防振器の一例を示す概略的断面図である。
【図2】図1の油圧防振器の設置例を示す概略的断面図である。
【図3】図1の油圧防振器の他の設置例を示す概略的断面図である。
【図4】本発明に係る油圧防振器の他の例を示す概略的断面図である。
【図5】図4におけるV−V概略断面図である。
【図6】図4の油圧防振器の設置例を示す概略的断面図である。
【図7】図4の油圧防振器の他の設置例を示す概略的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照してこの発明の実施の形態を説明する。図1ないし3において、油圧防振器1のシリンダ2は、両端が端壁3,4で閉塞され、一端側が引き手3aを介して図示しない支持体又は被支持体のいずれか一方に連結され、内部には作動油が充填される。
【0009】
シリンダ2内には、ピストン5が摺動自在に設けられ、これによってシリンダ2内が第1及び第2の2つの油室6,7に区画される。
【0010】
ピストンロッド8は、一端側がピストン5に結合され、他端側がシリンダ2の他端側の端壁4から気密に出入り自在に延出し、引き手8aを介して図示しない支持体又は被支持体の他方に連結される。
【0011】
シリンダの第1及び第2の油室6,7間は、設置状態におけるシリンダ2の上部外周に固着された導管9の連通路10により、制御弁15,16を介して連通している。作動油を貯留するケーシング11が、シリンダの油室6,7に作動油を供給するオイルリザーバを構成する。ケーシング11は、シリンダの外側に固定され、内部に作動油の貯留室12を形成する。貯留室12と連通路10とは、油通路13で接続される。
【0012】
ケーシング11は、設置状態におけるシリンダ2の上方に設けられる。ケーシング11における油通路13の開口13aは、シリンダ2の軸線方向の中央位置に設けられる。
【0013】
貯留室12内には、作動油Oより比重の大きい沈降体14が移動自在に収容される。沈降体14は、図2,3に示すように、シリンダ2が、その軸線を上下方向に傾けたときに、ケーシング11内を下方へ移動する。これにより貯留室12の下方部分が沈降体14で占められ、その結果、油面位O1が相対的に上がるから、シリンダ2の設置姿勢にかかわらず、常時油面位が油通路13の開口13aより上位に保たれる。したがって、シリンダの油室6,7への作動油の供給が絶たれることがない。
【0014】
図4ないし7に示す他の実施形態の油圧防振器21におけるシリンダ22は、両端が端壁23,24で閉塞され、一端側が引き手23aを介して図示しない支持体又は被支持体のいずれか一方に連結され、内部には作動油Oが充填される。
【0015】
シリンダ22内には、ピストン25が摺動自在に設けられ、これによってシリンダ22内が第1及び第2の2つの油室26,27に区画される。
【0016】
ピストンロッド28は、一端側がピストン25に結合され、他端側がシリンダ22の他端側の端壁24から気密に出入り自在に延出し、引き手28aを介して図示しない支持体又は被支持体の他方に連結される。
【0017】
シリンダの第1及び第2の油室26,27間は、設置状態におけるシリンダ2の下部外周に固着された導管29の連通路30により、制御弁35,36を介して連通している。
【0018】
ケーシング31は、シリンダ22及び導管29の外側を気密に取り囲む第2シリンダとして構成され、シリンダ22との間に貯留室32を形成する。ケーシング31は、導管29の油通路33により、連通路30と接続される。油通路33は、ケーシング31におけるシリンダの軸線方向の中央に開口33aする。
【0019】
貯留室32内には、作動油より比重の大きい、断面C字状の沈降体34が移動自在に収容される。図6,7に示すように、シリンダ22が、その軸線を上下方向に傾けた状態で設置されたとき、沈降体34は、ケーシング31内を下方へ移動して、常時作動油Oの油面位O1を油通路33の開口33aより上位に保つ。したがって、シリンダの油室26,27への作動油の供給が絶たれることがない。
【符号の説明】
【0020】
1 油圧防振器
2 シリンダ
3 端壁
4 端壁
5 ピストン
6 油室
7 油室
8 ピストンロッド
9 導管
10 連通路
11 ケーシング
12 貯留室
13 油通路
13a 開口
14 沈降体
15 制御弁
16 制御弁
21 油圧防振器
22 シリンダ
23 端壁
24 端壁
25 ピストン
26 油室
27 油室
28 ピストンロッド
29 導管
30 連通路
31 ケーシング
32 貯留室
33 油通路
33a 開口
34 沈降体
35 制御弁
36 制御弁
O 作動油
O1 油面位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が端壁で閉塞され一端側が支持体又は被支持体の一方に連結され内部に作動油が充填されるシリンダと、このシリンダ内に摺動自在に設けられシリンダ内を第1及び第2の2つの油室に区画するピストンと、一端側がこのピストンに結合され他端側が前記シリンダの他端側の端壁から気密に出入り自在に延出し支持体又は被支持体の他方に連結されるピストンロッドと、前記シリンダの第1及び第2の油室間を連通させる連通路と、前記シリンダの外側に固定され内部に作動油の貯留室を形成するケーシングと、このケーシングと前記連通路とを接続する油通路とを具備する油圧防振器であって、
前記ケーシングは、設置状態における前記シリンダの上方に設けられ、前記油通路は、前記ケーシングにおける前記シリンダの軸線方向の中央に開口し、前記貯留室内には作動油より比重の大きい沈降体が移動自在に収容され、前記シリンダがその軸線を上下方向に傾けたときに沈降体がケーシング内を下方へ移動して常時作動油の油面位が油通路の開口より上位に保たれることを特徴とする油圧防振器。
【請求項2】
両端が端壁で閉塞され一端側が支持体又は被支持体の一方に連結され内部に作動油が充填されるシリンダと、このシリンダ内に摺動自在に設けられシリンダ内を第1及び第2の2つの油室に区画するピストンと、一端側がこのピストンに結合され他端側が前記シリンダの他端側の端壁から気密に出入り自在に延出し支持体又は被支持体の他方に連結されるピストンロッドと、前記シリンダの第1及び第2の油室間を連通させる連通路と、前記シリンダの外側に固定され内部に作動油の貯留室を形成するケーシングと、このケーシングと前記連通路とを接続する油通路とを具備する油圧防振器であって、
前記ケーシングは、前記シリンダの外側を気密に取り囲むように設けられ、前記油通路は、前記ケーシングにおける前記シリンダの軸線方向の中央に開口し、前記貯留室内には作動油より比重の大きい沈降体が移動自在に収容され、前記シリンダがその軸線を上下方向に傾けたときに沈降体がケーシング内を下方へ移動して常時作動油の油面位が油通路の開口より上位に保たれることを特徴とする油圧防振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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