説明

油性インクジェットインク

【課題】経時での優れた保存安定性を維持しつつ、良好なプリンタヘッド内放置安定性を備えるとともに、産業用途における連続印字にてプリンタヘッドの温度上昇があってもこの温度上昇に対する追随性の良好な油性インクジェットインクが要求されている。
【解決手段】油性インクジェットインクは、顔料、顔料分散剤および溶剤を含んでなる油性インクジェットインクであって、前記溶剤は飽和脂肪酸エステル系溶剤と炭化水素系溶剤とを含有し、飽和脂肪酸エステル系溶剤は飽和脂肪酸モノエステルを含有し、飽和脂肪酸エステル系溶剤全量のうちの飽和脂肪酸モノエステルの占める割合が30重量%以上であることを特徴とするものである。この油性インクジェットインクKは保存安定性試験器の容器2に入れて酸素導入による保存安定性試験に供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドロップオンデマンド方式のインクジェットインクに係り、長期間放置した場合でも劣化しにくく、またプリンタヘッドの連続印刷でプリンタヘッドが昇温した場合でも正常な印刷を提供し、安定して吐出され得る油性インクジェットインクに関する。特に、ノズル数が128チャンネル以上有するようなピエゾ駆動によるオンディマンド方式のプリンタヘッド、例えばシェアーモードタイプ、シェアーウォールタイプ、プッシュモードタイプ、ベンドモードタイプなどのプリンタヘッドに好適に用いられる油性インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェットインクは水性インクと非水性インクとに大別され、更に非水性インクは揮発性溶剤を主体として含むインクと、不揮発性溶剤を主体として含む油性インクとに大別される。特に、油性インクはインクノズルにおける乾燥を遅くするようにされており、ノズル表面でのインクの乾燥による目詰まりを生じにくく、当該インクノズルのクリーニング回数が少なくて済むといった理由から、産業用のインクジェットプリンタ用インクに適している。
【0003】
そこで、保存安定性の向上やノズルでの目詰まり防止を目的として、多くの提案がなされている。
例えば、特許文献1には、ソルビタン系の溶剤を主成分とするインクが記載されているが、顔料の分散安定性や高解像度の望まれるプリンタへの適性については十分考慮されていない点があった。
また、特許文献2には、脂肪族炭化水素系溶剤とオレイルアルコールとを併用して顔料を分散させるインクが記載されている。しかしながら、このインクは顔料の分散安定性を保持することがなかなか困難であり、経時にて顔料の凝集や沈殿を生じやすく、あるいはプリンタ内のインク流路で詰まりの発生などがあってプリンタでの印字安定性に問題があった。
【0004】
特許文献3には、飽和脂肪酸ジエステルであるセバシン酸ジ−2エチルヘキシルと炭化水素系溶剤とを併用し、微細粒子化した顔料を用いることで、インク供給における流路の閉塞やインク吐出の安定性を確保し、高精彩な画像への対応を企図したインクが記載されている。しかしながら、このような配合のインクは、産業用としての連続した印字を行っていく際にプリンタヘッドが昇温してくると、正常に印字できない可能性がある。すなわち、プリンタヘッドの温度状況によっては、連続印刷中の印字ドット抜けやフォントの向きの乱れを生じるおそれがあり、温度変化への追随性が不足することが考えられる。
特許文献4には、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルのような極性溶剤と、オレイルアルコールと、非極性炭化水素系溶剤とを使用するインクが示されている。しかしながら、このような溶剤配合のインクは、顔料分散性の維持がなかなか困難であり、十分に満足できるインクにはなり得ていない。
【0005】
また、特許文献5には、極性溶剤を主成分とするインクが示されている。このインクに用いられる極性溶剤として、エステル類、アルコール類、高級脂肪酸系溶剤、およびエーテル系溶剤が例示されている。そして、実施例での具体的なエステルとしては、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、大豆油メチルが示され、また、グリコールエーテルとしては、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルが示され、また、アルコール類としては、イソステアリルアルコールが示されている。そして、これらの極性溶剤が非極性であるナフテン系溶剤と併用されていることが記載されている。しかしながら、このインクは、間欠吐出における安定性に課題を抱えている。すなわち、高湿度の環境においての間欠吐出性が不良になるというおそれがある。
【0006】
特許文献6には、非極性溶剤としてのナフテン系溶剤と、極性溶剤としての、エステル類、アルコール類、高級脂肪酸系溶剤、エーテル系溶剤とを組み合わせて用いたインクが例示されている。しかしながら、このインクも、特許文献5に記載のインクと同様、間欠吐出における安定性に課題を抱えており、高湿度の環境における間欠吐出性が不良になるおそれがある。
さらに、特許文献7には、不飽和脂肪酸エステルと炭化水素系溶剤とを含んでなるインクが記載されている。しかしながら、このインクに用いられる不飽和脂肪酸エステルは、分子を構成する不飽和脂肪酸の酸化によるインクの変質を生じやすく、やはり経時での安定性が不足するという難点があった。すなわち、このインクは密閉した容器中での保存安定性に関しては優れているが、プリンタに投入された後など、空気に触れやすい環境下においては、インクの酸化劣化が促進され、インクノズルからの吐出不良を生じるなど、インク保管容器の開封後やプリンタ内での安定性が十分に満足できると言えるものでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57−10661号公報
【特許文献2】特表平10−507487号公報
【特許文献3】特開平11−279467号公報
【特許文献4】特表平11−501353号公報
【特許文献5】特開2003−261808号公報
【特許文献6】特開2004−2665号公報
【特許文献7】特開2005−350563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、経時での優れた保存安定性を維持しつつ、良好なプリンタヘッド内放置安定性を備えるとともに、産業用途における連続印字にてプリンタヘッドの温度上昇があってもこの温度上昇に対する追随性の良好な油性インクジェットインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、経時におけるインクの安定性の点より脂肪鎖部分に二重結合を持たない飽和脂肪酸エステル系溶剤を主成分とするインクについて鋭意研究を重ねた結果、特定の飽和脂肪酸エステル系溶剤の、インク全量における配合割合を所定の範囲とし、これと非極性である炭化水素系溶剤とを所定の割合で含有させることにより、一旦インク容器を開封し、インクが空気と触れ合って酸化されやすい条件になっても長期間安定して使用することのできる、油性インクジェットインクが得られるとの知見を得、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、顔料、顔料分散剤および溶剤を含んでなる油性インクジェットインクであって、前記溶剤は飽和脂肪酸エステル系溶剤と炭化水素系溶剤とを含有し、飽和脂肪酸エステル系溶剤は飽和脂肪酸モノエステルを含有し、飽和脂肪酸エステル系溶剤全量のうちの飽和脂肪酸モノエステルの占める割合が30重量%以上であることを特徴とする油性インクジェットインクを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る油性インクジェットインクでは、炭化水素系溶剤とともに用いる飽和脂肪酸エステル系溶剤のうちで飽和脂肪酸モノエステルの占める割合を30重量%以上にしたので、プリンタヘッドの発熱による温度変化があっても、印刷画像の乱れや印字ドット抜けなどを生じることがなく、プリンタヘッド温度変化へスムーズに追随して対応することができる。
【0011】
飽和脂肪酸モノエステルとしてミリスチン酸イソプロピルを用いる場合、このミリスチン酸イソプロピルは、従来汎用されていたオレイン酸イソブチルと比べて脂肪鎖が短い。従って、20℃における粘度=6.6mPa・sと低く、インク適正粘度範囲(5〜16mPa・s)内にあることから、インク全体の粘度調整がしやすい。また、沸点は332℃と比較的高いことから揮散が困難で、保存安定性に優れている。
【0012】
飽和脂肪酸エステル系溶剤全量のうち25重量%以上70重量%以下の飽和脂肪酸ジエステルを用いる場合、飽和脂肪酸ジエステルは比較的粘度が高いので、インクの粘度を高めるために少量の添加で済む。従って、他の成分を加えるための配合しろを確保することができ、インクの配合調整を容易に行なうことができる。
【0013】
沸点が240℃以上の飽和脂肪酸エステル系溶剤および炭化水素系溶剤を用いる場合は、経時による溶剤揮散の影響がほとんどないから、長期間安定して保存することのできる油性インクジェットインクが提供される。
【0014】
インク全体の20℃における粘度が5mPa・s以上16mPa・s以下である場合は、プリンタヘッドからのインク吐出性能が実用的な油性インクジェットインクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る酸素導入式の保存安定性試験器の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の油性インクジェットインクにつき、その実施の形態により詳細に説明する。
本発明に用いる顔料は、有機顔料、無機顔料を問わず、印刷および塗料としての技術分野で一般に用いられるものを使用できる。上記の無機顔料としては、例えば酸化チタン、ベンガラ、コバルトブルー、群青、紺青、カーボンブラック、カオリン、シリカなどが挙げられる。また、有機顔料としては、例えば不溶性アゾ顔料、油溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、縮合多環顔料、銅フタロシアニン顔料などが挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、適宜組み合わせて使用できる。また、これら顔料の粒子径はインクジェットインクへの適性から、例えば0.01〜0.3μmが好ましいが、そのなかでも微細なものが好ましい。顔料の微細化については、公知の技術を利用することができる。また、顔料はインク全量に対して0.1〜20重量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0017】
本発明にて顔料の良好な分散を得るために用いる顔料分散剤としては、例えば水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量脂肪酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性脂肪酸エステルの塩、高分子量不飽和脂肪酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系界面活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエステルポリアミン、ステアリルアミンアセテートなどを使用することができる。
【0018】
本発明においては、エステル構造を有する顔料分散剤を用いることが、経時での安定性および間欠の吐出性の安定性から好ましい。
エステル構造を有する顔料分散剤の具体例としては、例えばルーブリゾール社製「ソルスパース9000、13940、17000、18000、28000」、楠本化成社製「DA−703−50、DA−7300、DA234」、BykCemie社製「Disperbyk−101」、川研ファインケミカル社製「KFI−M、ヒノアクト」(いずれも商品名)などが挙げられる。このようなエステル構造を有する顔料分散剤は、エステル系溶剤と組み合わせて用いることにより、顔料分散剤と溶剤とが同種の分子構造を含んでいるため両者の間で適度な溶解性が得られ、これにより顔料の分散安定性に優れた油性インクジェットインクが得られる。
【0019】
また、上記以外の顔料分散剤として、アルキド樹脂を併用してもよい。アルキド樹脂の具体例としては、例えばDIC株式会社「BECKOSOL OD−E−198−50、ES−5003−50、ES−4505−60X、ES−5103−50X」、ハリマ化成株式会社「ハリフタール7250、915−60L、SB7150X」などが挙げられる。これらは分子内にエステル構造を含むため、使用する溶剤および顔料分散剤との相性が良く、より安定して顔料を分散させることができる。
【0020】
上記した顔料分散剤の配合量は、顔料をインク中に分散可能な量であれば足り、適宜の量に設定できる。また、上記の顔料分散剤に、更に顔料分散助剤を適量添加しても構わない。この顔料分散助剤の具体例としては、例えばルーブリゾール社製「ソルスパース5000」などが挙げられる。
【0021】
尚、本発明の油性インクジェットインクは、上記の通り、溶剤と顔料分散剤と顔料とからなるが、インクの保存安定性や酸化安定性に影響を与えない限り、これらの成分に加えて、染料、樹脂、界面活性剤、酸化防止剤などを適宜添加することができる。
【0022】
本発明に用いる溶剤としては、極性溶剤である飽和脂肪酸エステル系溶剤と、非極性溶剤である炭化水素系溶剤とが必須の構成成分とされる。これらの溶剤は、本発明の油性インクジェットインクを大気中に放置した場合でも揮発しにくい性質が要求されることから、いずれの沸点も好ましくは240℃以上、更に好ましくは260℃以上、特に好ましくは280℃以上のものを使用することが望ましい。上記2種類の溶剤成分のいずれかに、沸点が240℃未満のものを使用した場合、大気中に放置したときに、沸点240℃未満の溶剤がより早く揮発してしまい、これら溶剤成分の適正なバランスが崩れることになる。
【0023】
本発明に用いる飽和脂肪酸エステル系溶剤としては、飽和脂肪酸エステル系溶剤全量のうちの34重量%以上を占める飽和脂肪酸モノエステルを用いる。この飽和脂肪酸モノエステルは、プリンタヘッドの発熱による温度変化への追随性を向上させるものであり、飽和脂肪酸エステル系溶剤全体の30〜100重量%用いることで、その温度変化追随性を確保することができる。
かかる飽和脂肪酸モノエステルの具体例としては、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸イソブチル、ミリスチン酸イソプロピル(沸点304℃)、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル(沸点332℃)、パルミチン酸オクチル、エチルヘキサン酸セチルなどが挙げられる。これらの飽和脂肪酸モノエステルの沸点はいずれも240℃以上である。このなかでも、特にラウリン酸イソブチル、ミリスチン酸イソプロピルはプリンタヘッド温度変化に対する追随性が良好である。
【0024】
また、飽和脂肪酸エステル系溶媒としては、溶剤全体の50重量%を下回る範囲内において、飽和脂肪酸モノエステルとは別に飽和脂肪酸ジエステルを組み合わせて用いることができる。
かかる飽和脂肪酸ジエステルの具体例としては、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジブチル(沸点344℃)、セバシン酸ジオクチル、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソノニルなどが挙げられる。これらの飽和脂肪酸ジエステルの沸点はいずれも240℃以上である。このように飽和脂肪酸モノエステルと組み合わせて用いる飽和脂肪酸ジエステルとしては、比較的低粘度かつ高沸点であり、エステル価が高く分散剤への溶解安定性も高いといった理由から、特にセバシン酸ジブチルが好ましい。
【0025】
尚、飽和脂肪酸ジエステルは、飽和脂肪酸モノエステルと比べて粘度が高い傾向にあることから、インクの粘度調整のために使用できる割合は、飽和脂肪酸エステル系溶剤全量のうちの25重量%以上70重量%以下に制限される。従って、飽和脂肪酸ジエステルの配合割合を前記配合割合の範囲外に設定すると、プリンタヘッド温度変化への追随性の確保が困難になる。
これらの飽和脂肪酸モノエステルと飽和脂肪酸ジエステルは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。また、これらは化学的に不安定な不飽和結合を分子内に含まないので、インクの保存安定性向上にも貢献できる利点がある。
【0026】
上記の飽和脂肪酸エステル系溶剤は、溶剤全量に対して70重量%以上90重量%以下の範囲内にすることが好ましい。このうち、飽和脂肪酸モノエステルは飽和脂肪酸エステル系溶剤全量中の30重量%以上含有する。飽和脂肪酸エステル系溶剤の配合割合を上記したそれぞれの範囲内とすることにより、特にエステル構造をもつ顔料分散剤を安定に溶解することができ、その結果、顔料の凝集がより生じにくくなって、保存安定性に優れた油性インクジェットインクを得ることができる。また、下記の実施例で例示した各溶剤の粘度はいずれも比較的低いため、インク中に上記範囲の飽和脂肪酸エステル系溶剤を配合した場合でもインクの粘度が高くならないことから、最終的に得られるインクの粘度調整が容易になる利点がある。
【0027】
上記炭化水素系溶剤は、従来、インクの粘度低下を意図していた面もあるが、インクの自己潤滑性を付与するという役割を担っている。つまり、高速に連続吐出する際においてもノズル内でのインクの滑り性が良くなるため、印刷された印字ドットの抜けが生じにくいといった利点もある。また、エステル系溶剤に比べて、価格が安価であるという利点もある。
【0028】
上記した炭化水素系溶剤は石油から得られる多成分系の非極性溶剤であって、下記実施例ではそのうちの脂肪族炭化水素系溶剤(パラフィン系溶剤)と環状炭化水素系溶剤(ナフテン系溶剤)が使用される。
脂肪族炭化水素系溶剤の具体例としては、例えば新日本石油社製「日石ナフテゾールH、0号ソルベントH 、アイソゾール300、アイソゾール400、AF−5、AF−6、AF−7」(いずれも商品名)、エクソンモービル社製「Exxol D80、Exxol D110、Exxol D130、Exxol D140」(いずれも商品名)などが挙げられる。
環状炭化水素系溶剤の具体例としては、例えば新日本石油社製「日石クリーンソルG」(アルキルベンゼン:商品名)、日本サン石油社製「サンセン310、サンセン410、サンセン415、サンセン420、サンセン430、サンセン450、サンセン480」(いずれも商品名)などが挙げられる。これらの炭化水素系溶剤のうちでも、沸点の高い環状炭化水素系溶剤を多用することが、溶剤揮散抑制のための配合バランスを確保するうえで好ましい。
炭化水素系溶剤の配合割合は、インク全量に対し10重量%以上30重量%以下とすることが望ましい。炭化水素系溶剤の配合割合が10重量%未満では自己潤滑性が不足することでヘッド温度変化追随性に劣ることとなり、炭化水素系溶剤の配合割合が30重量%を超えると潤滑性が高くなりすぎるために印字ドットの滲みを生じやすくなる。
【0029】
また、本発明の油性インクジェットインクでは、イソステアリルアルコールなどのアルコール系溶剤、ブチルトリグリコール、メチルトリグリコールなどのエーテル系溶剤と配合しても構わない。その場合、前記した飽和脂肪酸エステル系溶剤と炭化水素系溶剤との合計配合量は、インクの保存安定性を向上させるために、溶剤全量に対して60重量%以上とすることが好ましく、より好ましくは70重量%以上90重量%以下とすることが望ましい。
【0030】
本発明の油性インクジェットインクは、例えば横型サンドミルなど公知のメディア分散機によって分散し、添加用の各成分を更に投入して分散させることにより調製することができる。メディア分散機に用いるメディア(分散媒体)としては、例えばサンド、セラミックボール、ガラスボール、鋼球などが挙げられる。
【0031】
このようにして得られる本発明の油性インクジェットインクの20℃における粘度は、インクジェットノズルからの吐出に適した、5〜30mPa・sの範囲に設定される。尚、プリンタヘッドの温度変化にうまく追随させるためには、好ましくは20℃の粘度を8〜16mPa・sとすることが望ましい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものでない。
【0033】
[実施例1]
調製容器に、極性溶剤としての飽和脂肪酸モノエステルであるミリスチン酸イソプロピル50重量部、および飽和脂肪酸ジエステルであるセバシン酸ジブチル20重量部と、非極性溶剤としての環状炭化水素溶剤のサンセン430(日本サン石油社製)20重量部とを収容し、これに顔料分散剤としてのソルスパース13940(ルーブリゾール社製)2.0重量部およびハリフタール7250(ハリマ化成社製)3.0重量部と、顔料としてのMA8(三菱化学製カーボンブラック)5.0重量部とを添加して、汎用撹拌機で予備混合した。その後、ジルコニアビーズを収用したビーズミル(浅田鉄工製ナノグレンミル:NM−L)を用いて、常温常圧下で約1時間分散させることにより、油性インクジェットインクを調製した。この実施例1の油性インクジェットインクの組成および配合割合を、下記の表1に示す。
【0034】
[実施例2]〜[実施例10]
実施例2〜実施例10は、表1に示す組成および配合割合で、前記実施例1と同様の方法により混合、分散させることにより、それぞれの油性インクジェットインクを調製した。
【0035】
[比較例1]〜[比較例11]
比較例1〜比較例11は、下記の表2に示す組成および配合割合で、前記実施例1と同様の方法により混合、分散させることにより、それぞれの油性インクジェットインクを調製した。
【0036】
上記の実施例1〜10および比較例1〜11でそれぞれ得られた油性インクジェットインクについて、以下の方法により、初期粘度、密閉状態での保存安定性、酸素導入による保存安定性、段ボール箱の外面に印刷した印字ドットの画像の状態を評価し、これらの評価結果を表1と表2に示した。
また、プリンタヘッドを連続的に高速で稼動させ、プリンタヘッドでの温度変化を加速させた状態での印字テストを実施し、温度変化に対する油性インクジェットインクの吐出安定性の追随性を確認した。
【0037】
(1)初期粘度の測定.
油性インクジェットインク調整後の粘度を測定した。インクジェットノズルからの高速吐出のため、20℃のおける粘度は16mPa・s未満が望ましい。粘度測定には、回転ディスク式粘度計(東機産業製RE−80L)を使用した。
(2)油性インクジェットインクの保存安定性(密閉状態).
油性インクジェットインクをポリエチレン製の容器に入れてフタで密閉し、40℃の環境下で6ヵ月放置した後の粘度を測定した。
(3)油性インクジェットインクの保存安定性(酸素導入).
図1に示すように、ポリエチレン製の容器2に、表1に示した実施例1〜10、表2に示した比較例1〜11の油性インクジェットインクKをそれぞれ10mlずつ入れてフタで密閉した。容器2の壁面2箇所に穴を開けて2本のチューブを差し込み、一方の酸素導入側チューブ3から酸素を100ml/分の流量で流し込んで他方の酸素排出側チューブ4から容器外に酸素を排出する。このテストを40℃に調整した恒温槽1内に1ヶ月保持して行った後に、油性インクジェットインクKの粘度を測定した。
【0038】
前記(1)、(2)、(3)の測定結果より、次の式(I)に基づいて粘度増加率(%)を求めた。表1、表2に示した(+数値)は粘度増加率(%)を示している。
粘度増加率(%)=放置後粘度/初期粘度 ・・・(I)

この粘度増加率を以下の基準で評価した。
○ ・・・初期粘度が16mPa・s以下、かつ(2)、(3)の評価で粘度増加率がいずれも5%未満の場合である。
× ・・・上記以外の場合である。
(4)プリンタへッド温度変化追随性.
シェアーモード式の500チャンネルのプリンタヘッド(例えば70mmの直線上に500個のノズルを列設したもの)を用い、周波数8kHzのピエゾ素子を駆動源として高速連続印字を30分間継続し、吐出の安定性(印字ドット抜けの状況)を測定した。30分経過時点での印字ドットの抜けが500個中の5個以下であった場合は合格として○印を表中に付し、更に印字ドットの抜けが0〜1個の場合は◎を併記し、6個以上あった場合は不合格として×印を表中に付した。このプリンタヘッドは高速印字時の発熱により、前記条件において最大20degreeの温度上昇が見られた。
(5)ダンボール箱印字テスト.
前記のプリンタヘッドを用いて段ボール箱の外面に印字し、印字画像の解像度、すなわち印字ドットの大きさ、経時による広がりの度合いおよび濃度変化、並びに滲みを確認した。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
表1の結果から、本発明に属する実施例1〜10の場合、飽和脂肪酸モノエステルと、飽和脂肪酸ジエステルと、炭化水素系溶剤とを含み、飽和脂肪酸エステル系溶剤全量のうちの飽和脂肪酸モノエステルの占める割合が30重量%以上となっており、更に飽和脂肪酸モノエステルとしてのミリスチン酸イソプロピル単体、もしくはミリスチン酸イソプロピルと飽和脂肪酸ジエステルとの合計配合量が溶剤全量の70重量%以上90重量%以下となっているので、インクの初期粘度が低く実用範囲にあり、密閉状態での保存安定性、酸素導入条件下での保存安定性に優れ、プリンタヘッド温度変化追随性が良好で、画像の視認性も良好で画像の乱れや印字ドットの抜けも合格範囲にある油性インクジェットインクを得ることができた。中でも、炭化水素系溶剤として環状炭化水素系溶剤を用いた実施例1、4、7は、連続高速印字テストにおける印字ドットの抜けがほとんどなく、プリンタヘッド温度変化追随性が高いという利点を有している。
【0042】
これに対し、表2の結果から、比較例1、4、9、11はラウリン酸イソブチルやミリスチン酸イソプロピルを含んでいないが、炭化水素系溶剤を30重量%以上含んでいるので、油性インクジェットインクの初期粘度および保存安定性はクリアしている。また、比較例1、4はプリンタヘッド温度追随性もクリアしている。しかしながら、比較例1、4、9、11はこれらの画像の視認性が悪く、印字ドットの滲みが顕著に見られた。また、比較例4は不飽和アルコールであるオレイルアルコールを含むため、酸素導入によるインクの粘度上昇が著しく、保存安定性に欠けていた。
比較例2、8は、もともと粘度の高いエチルヘキサン酸セチル(14mPa・s(20℃))を多く用いているので、調製時の粘度が高くなりすぎて実用的なインクとならなかった。
また、比較例3、5、8、10は、粘度の低いラウリン酸イソブチルやミリスチン酸イソプロピルを含んでいないのでインクの初期粘度が高く、そのためにプリンタヘッド温度変化追随性に劣る結果となっている。
更に、比較例6、7は、ラウリン酸イソブチルやミリスチン酸イソプロピルの代替として、粘度の低い不飽和脂肪酸エステルを含むため、初期粘度、プリンタヘッド温度追随性、滲み性、および画像視認性はクリアしている。しかしながら、不飽和脂肪酸エステルは脂肪鎖に二重結合を有しているために、酸素導入による粘度上昇が著しく実用的な油性インクジェットインクとはなり得ない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
上記したように、本発明によれば、飽和脂肪酸モノエステルであるミリスチン酸イソプロピルを飽和脂肪酸エステル系溶剤全量のうちの30重量%以上含有し、このミリスチン酸イソプロピルと飽和脂肪酸ジエステルの合計配合量を溶剤全体の70重量%以上90重量%以下とし、更に飽和脂肪酸エステル系溶剤と炭化水素系溶剤との合計配合量をインク全量の85重量%以上にしたので、初期粘度が低く、インキ容器を開封して空気に触れやすい環境下にあっても安定性が良好で、連続高速印字時のプリンタヘッド温度変化追随性にも優れ、印字画像の乱れや滲みの無い油性インクジェットインクを得ることができた。
【符号の説明】
【0044】
1 恒温槽
2 容器
3 酸素導入側チューブ
4 酸素排出側チューブ
K 油性インクジェットインク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、顔料分散剤および溶剤を含んでなる油性インクジェットインクであって、前記溶剤は飽和脂肪酸エステル系溶剤と炭化水素系溶剤とを含有し、飽和脂肪酸エステル系溶剤は飽和脂肪酸モノエステルを含有し、飽和脂肪酸エステル系溶剤全量のうちの飽和脂肪酸モノエステルの占める割合が30重量%以上であることを特徴とする油性インクジェットインク。
【請求項2】
飽和脂肪酸エステル系溶剤と炭化水素系溶剤との配合割合が、70〜90重量%:10〜30重量%であることを特徴とする請求項1に記載の油性インクジェットインク。
【請求項3】
飽和脂肪酸モノエステルが、ミリスチン酸イソプロピルである請求項1または請求項2に記載の油性インクジェットインク。
【請求項4】
飽和脂肪酸エステル系溶剤は飽和脂肪酸ジエステルを含有し、飽和脂肪酸エステル系溶剤全量のうちの飽和脂肪酸ジエステルの占める割合が、25重量%以上70重量%以下である請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の油性インクジェットインク。
【請求項5】
飽和脂肪酸エステル系溶剤および炭化水素系溶剤の沸点がいずれも240℃以上である請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の油性インクジェットインク。
【請求項6】
インク全体の20℃における粘度が、5mPa・s以上16mPa・s以下である請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の油性インクジェットインク。

【図1】
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【公開番号】特開2010−215700(P2010−215700A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61001(P2009−61001)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(391040870)紀州技研工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】