説明

油捕集フィルタ

【課題】調理の際に発生する油煙等を浄化し、付着した油汚れを分解除去する自己浄化機能を有するフィルタに関して、より低温で油汚れを分解除去できる油捕集フィルタを提供することを目的とする。
【解決手段】油煙1の通過する通風路2に、油捕集フィルタ3を備え、その下流側に触媒を加熱するためのヒーター4を設置する。油捕集フィルタ3には貴金属と、アルカリ金属の硫酸塩と、希土類元素の酸化物と、無機酸化物とで構成される触媒が担持されている。油煙1中の油は、油捕集フィルタ3を通過する際に捕集されて触媒と接触する。触媒はヒーター4で加熱されて活性化し、その触媒作用によって油が分解除去される。前記構成の触媒は油に対して高い活性を有するので、比較的低い温度で油を分解除去することが可能である。こうして油捕集フィルタ3上には油汚れが蓄積することなく、清浄な状態に保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理の際に発生する油煙等を浄化するフィルタであって、付着した油汚れを分解除去する自己浄化機能を有する油捕集フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
調理の際に発生する油煙等によって、調理器周辺や、調理場に設置されているレンジフードや換気扇の通風路が、油で汚染されるという課題があった。
【0003】
このような課題を解決するために、二酸化マンガンと炭酸マンガンとからなる触媒を、ハニカム担体等に担持し、これをフィッシュロースター等の調理器の排気通路内に備え、熱によって油煙の分解除去を行う油分解触媒が提案されている(例えば特許文献1)。また、加熱触媒が塗布されたフィルタと、遠赤外線熱源とを備えることで、油汚れを自己分解できる換気装置が提案されている(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特許第3424301号公報
【特許文献2】実開昭59−151029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来の油汚れの分解除去方法では、触媒を活性化させるために、触媒温度を200〜400℃以上にする必要があり、省エネルギーや安全性の点から、より低温で油汚れを分解除去できることが望まれている。
【0005】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、より低温で油汚れを分解除去できる油捕集フィルタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の油捕集フィルタは上記目的を達成するために、貴金属と、アルカリ金属の硫酸塩と、希土類元素の酸化物と、無機酸化物とで構成される触媒が担持されていることを特徴としている。
【0007】
この構成により、より低温で油汚れを分解除去できる油捕集フィルタを提供することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油捕集フィルタに、貴金属と、アルカリ金属の硫酸塩と、希土類元素の酸化物と、無機酸化物とで構成される触媒を担持したことによって、フィルタに捕集された油が触媒と接触し、その触媒が油に対して高い活性を発揮するので、より低温で油汚れを分解除去できる油捕集フィルタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の請求項1記載の発明は、貴金属と、アルカリ金属の硫酸塩と、希土類元素の酸化物と、無機酸化物とで構成される触媒が、油を捕集するフィルタに担持されていることを特徴とする油捕集フィルタである。
【0010】
また、本発明の請求項2記載の発明は、貴金属が、白金であることを特徴とする、請求項1に記載の油捕集フィルタである。
【0011】
また、本発明の請求項3記載の発明は、アルカリ金属の硫酸塩が、硫酸セシウムであることを特徴とする、請求項1または2に記載の油捕集フィルタである。
【0012】
また、本発明の請求項4記載の発明は、希土類元素の酸化物が、酸化セリウムであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の油捕集フィルタである。
【0013】
請求項1乃至4のいずれかに記載の構成にすることによって、フィルタに捕集された油が触媒と接触し、その触媒が油に対して高い活性を発揮するので、より低温で油汚れを分解除去できる油捕集フィルタを提供することができる。
【0014】
フィルタの構造には、網状、繊維状、発泡体状、スポンジ状、ハニカム状、スリット状、貫通孔を開けた板状など任意の構造が適用でき、油汚れを含む空気や水蒸気が流通できる構造であればよい。しかし、油煙は比較的粗大な粒子であり、物理的な衝突によって高効率に捕集することができるため、油煙の通風方向に対して直線的に衝突する部位がある構造が好ましい。
【0015】
また、本発明の請求項5記載の発明は、無機酸化物が、アルミナであることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の油捕集フィルタである。
【0016】
触媒担体として市販されているγ−アルミナ等は、表面積が大きいので触媒成分を高分散に担持することができ、また耐熱性にも優れているので、触媒を製造する際や、実際に使用する際の熱負荷による触媒の粗大化を抑制できると考えられる。
【0017】
また、本発明の請求項6記載の発明は、触媒に含まれる硫酸セシウムの重量が、無機酸化物の重量の1〜5%であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の油捕集フィルタである。
【0018】
また、本発明の請求項7記載の発明は、触媒に含まれる酸化セリウムの重量が、無機酸化物の重量の1〜2%であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の油捕集フィルタである。
【0019】
請求項6および7に記載の発明に関して、硫酸セシウムおよび酸化セリウムは、含有量が少なすぎてもその添加効果が得られず、逆に多すぎても貴金属の触媒作用を妨げると考えられる。なお、セリウムをアルミナに添加して触媒の耐熱性を向上させる場合、添加量はアルミナに対して1mol%程度が好ましいとされている。
【0020】
また、本発明の請求項8記載の発明は、フィルタが、金属からなることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の油捕集フィルタである。
【0021】
また、本発明の請求項9記載の発明は、フィルタが、ステンレススチールからなることを特徴とする、請求項8に記載の油捕集フィルタである。
【0022】
請求項8および9に記載の発明に関して、フィルタには熱が加わるため、耐熱性材料である必要があり、ステンレススチール(SUS)、アルミニウム、銅、ニッケル、クロム、チタン等の金属や合金を使用することができる。金属材料は形状自由度が大きく、成形が容易であるほか、加熱手段を用いて触媒温度を上げる際、比較的比熱が小さいので、より早く目的の温度に上げることができる。特にSUSは一般的に広く用いられている耐熱金属材料であり、これを用いて触媒化フィルタを製造することは、設計上適用範囲が広がるため有用である。
【0023】
また、本発明の請求項10記載の発明は、フィルタが、セラミックスからなることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の油捕集フィルタである。
【0024】
また、本発明の請求項11記載の発明は、フィルタが、コージェライトからなることを特徴とする、請求項10に記載の油捕集フィルタである。
【0025】
請求項10および11に記載の発明に関して、フィルタには熱が加わるため、耐熱性材料である必要があり、ガラス、SiC、アルミナ、コージェライト等のセラミックスを使用することができる。セラミックスは高表面積を持つ多孔質材料の素材としてよく用いられており、特にコージェライトのハニカム構造体等は耐熱性フィルタや触媒担体として広く用いられている。
【0026】
また、本発明の請求項12記載の発明は、触媒スラリーをフィルタに塗布し、次に加熱処理を行う工程を経て製造された、請求項1乃至11のいずれかに記載の油捕集フィルタである。
【0027】
この工程によりフィルタ上で触媒層が形成され、本発明の油捕集フィルタが製造できる。触媒スラリーは、適当な分散剤を溶解させた水に触媒粉末を分散させた懸濁液などでよい。また触媒スラリーをフィルタに塗布する方法は、スラリーをスプレーで噴霧したり、スラリーにフィルタを含浸したりすればよい。また加熱処理は触媒層が形成される温度で行えばよく、例えば大気雰囲気下において500〜800℃で処理すればよい。それ以上の温度では触媒やフィルタ自体が劣化する恐れがあり、好ましくない。
【0028】
また、本発明の請求項13記載の発明は、触媒を加熱する加熱手段を備えていることを特徴とする、請求項1乃至12のいずれかに記載の油捕集フィルタである。
【0029】
また、本発明の請求項14記載の発明は、加熱手段がヒーターであることを特徴とする、請求項13に記載の油捕集フィルタである。
【0030】
請求項13および14に記載の発明に関して、加熱手段は触媒表面温度を上げることができれば特に制限はなく、ヒーター、温水やガスを利用した熱交換器、IHヒーター、ハロゲンランプ等が利用できる。特に通電型のヒーターは安価で加熱温度が制御し易く、温度の立ち上がりが比較的早いため、好ましい。
【0031】
また、本発明の請求項15記載の発明は、加熱手段が、触媒温度を180〜300℃に加熱することを特徴とする、請求項13または14に記載の油捕集フィルタである。
【0032】
また、本発明の請求項16記載の発明は、加熱手段が、触媒温度を180〜300℃に加熱し、その温度で20分以上保持することを特徴とする、請求項13乃至15のいずれかに記載の油捕集フィルタである。
【0033】
触媒作用によってフィルタに付着した油を分解除去させるためには、触媒温度を180℃以上にする必要がある。しかし温度が高すぎると、フィルタ自体や周辺機器等に熱負荷が加わって、フィルタの劣化や機器の故障の恐れが生じるほか、省エネルギーにも反する。よって触媒温度は180〜300℃に制御するのが好ましく、さらに180〜210℃に制御するのがより好ましい。
【0034】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0035】
(実施の形態1)
白金と、硫酸セシウムと、酸化セリウムと、アルミナとで構成される触媒粉末を、界面活性剤が溶解した水溶液に加え、撹拌して、触媒スラリーを得る。ここに油捕集フィルタとして予め脱脂処理を行ったSUS製パンチングメタルフィルタをディップし、乾燥後、加熱処理を行って、油分解触媒を担持した油捕集フィルタを得る。
【0036】
図1に本発明の実施の形態1の油捕集フィルタの使用例を示す。例えばレンジフード等の内部において、油煙1の通過する通風路2に、上記のように製造した油捕集フィルタ3を備え、その下流側に触媒を加熱するためのヒーター4を設置する。油捕集フィルタ3は油煙1の進行方向に対して貫通孔5の位置をずらして複数配置されている。
【0037】
上記構成により、調理等で発生した油煙1中の油は、油捕集フィルタ3を通過する際に捕集され、油捕集フィルタ3上で触媒と接触する。触媒はヒーター4で加熱されて活性化し、その触媒作用によって油が気化、分解除去される。白金と、硫酸セシウムと、酸化セリウムと、アルミナとで構成される触媒は油に対して高い活性を有するので、比較的低い温度で分解除去が可能である。こうして油捕集フィルタ3上に油汚れが蓄積することなく、清浄な状態に保つことができる。
【0038】
ここでは触媒を構成する貴金属として白金を示したが、これ以外にもパラジウム、ロジウム、ルテニウムを用いてもよい。
【0039】
ここでは触媒を構成するアルカリ金属の硫酸塩として硫酸セシウムを示したが、これ以外にもリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムの硫酸塩を用いてもよい。
【0040】
ここでは触媒を構成する希土類元素の酸化物として酸化セリウムを示したが、これ以外にも酸化ランタンを用いてもよい。
【0041】
ここでは触媒を構成する無機酸化物としてアルミナを示したが、これ以外にもシリカ、チタニア、ジルコニア等、触媒担体として知られる種々の無機酸化物を用いてもよい。
【0042】
また、触媒に含まれる硫酸セシウムの重量は、アルミナの重量の1〜5%、酸化セリウムの重量は、アルミナの重量の1〜2%が好ましい。硫酸セシウムおよび酸化セリウムは、含有量が少なすぎてもその添加効果が得られず、逆に多すぎても貴金属の触媒作用を妨げると考えられる。なお、セリウムをアルミナに添加して触媒の耐熱性を向上させる場合、添加量はアルミナに対して1mol%程度が好ましいとされている。
【0043】
また白金の含有量についても同様に、アルミナの重量の数%程度が好ましいと考えられる。それは、少なすぎても十分な触媒作用が得られず、逆に多すぎてもそれに見合うだけの触媒作用が得られないと考えられるからである。
【0044】
ここでは油捕集フィルタとしてSUS製パンチングメタルフィルタを示したが、これ以外にもアルミニウム、銅、ニッケル、クロム、チタン等の金属および合金や、ガラス、SiC、アルミナ、コージェライト等のセラミックスを使用してもよい。また、フィルタの構造には、網状、繊維状、発泡体状、スポンジ状、ハニカム状、スリット状、貫通孔を開けた板状など任意の構造が適用でき、油汚れを含む空気や水蒸気が流通できる構造であればよい。しかし、油煙は比較的粗大な粒子であり、物理的な衝突によって高効率に捕集することができるため、油煙の通風方向に対して直線的に衝突する部位がある構造が好ましい。
【0045】
ここで加熱処理は、例えば大気雰囲気下において500〜800℃で処理すればよい。それ以上の温度では触媒やフィルタ自体が劣化する恐れがあり、好ましくない。
【0046】
ここでは加熱手段としてヒーターを示したが、これ以外にも温水やガスを利用した熱交換器、IHヒーター、ハロゲンランプ等を利用してもよい。例示した通電型のヒーターは安価で加熱温度が制御し易く、温度の立ち上がりが比較的早いため、好ましい。また、触媒作用によってフィルタに付着した油を気化、分解除去するためには、触媒温度を180℃以上にする必要がある。しかし温度が高すぎると、フィルタ自体や周辺機器等に熱負荷が加わって、フィルタの劣化や機器の故障の恐れが生じるほか、省エネルギーにも反する。よって触媒温度は180〜300℃に制御するのが好ましく、さらに180〜210℃に制御するのがより好ましい。また油の分解除去を効果的に行うためには、この温度範囲で20分以上保持することが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。
【0048】
(実施例1)
硫酸セシウム0.27gと硝酸セリウム6水和物0.43gとをイオン交換水100gに溶解させた。この水溶液を撹拌しながら、ここにγ−アルミナ10gを加え、懸濁液とした。この懸濁液から、エバポレータを用いて水分を除去し、さらに乾燥機を用いて110℃で1時間乾燥して、乾燥粉末を得た。この乾燥粉末を、電気炉を用いて大気雰囲気下、900℃で5時間焼成し、硫酸セシウムと酸化セリウムとを担持したアルミナ粉末を得た。これを前駆体粉末とする。
【0049】
上記前駆体粉末を乳鉢で粉砕し、微粉末とした。一方、白金の重量濃度が0.77%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液50gを準備し、これを撹拌しながら、ここに粉砕した前駆体粉末10gを加え、懸濁液とした。この懸濁液から、エバポレータを用いて水分を除去し、さらに乾燥機を用いて110℃で1時間乾燥して、白金を担持した乾燥粉末を得た。この白金を担持した乾燥粉末を、電気炉を用いて大気雰囲気下、600℃で5時間焼成し、白金と、硫酸セシウムと、酸化セリウムとが、アルミナに担持された油分解触媒を得た。このとき仕込み量から計算される各成分の触媒中の含有量は、アルミナの重量に対して、白金が4.0%、硫酸セシウムが2.7%、酸化セリウムが1.7%である。
【0050】
(比較例1)
白金の重量濃度が0.80%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液50gを準備し、これを撹拌しながら、ここにγ−アルミナ10gを加え、懸濁液とした。この懸濁液から、エバポレータを用いて水分を除去し、さらに乾燥機を用いて110℃で1時間乾燥して、乾燥粉末を得た。この乾燥粉末を、電気炉を用いて大気雰囲気下、600℃で5時間焼成し、白金がアルミナに担持された触媒を得た。このとき仕込み量から計算される白金の触媒中の含有量は、アルミナの重量に対して4.0%である。
【0051】
(評価例1)
実施例1および比較例1の触媒に関して、熱重量分析装置を用いて、次のような性能評価試験を行った。
【0052】
アルミニウム製の試料容器に触媒10mgを入れ、そこに調理油の主成分であるオレイン酸2mgを滴下し、加熱時の重量の経時変化を観察した。試験条件としては、試料室内に大気を流量100ml/分で流通させ、昇温速度10℃/分で室温から500℃まで昇温した。500℃における重量をオレイン酸が完全燃焼したときの重量として、油残存率を定義した。試験結果を図2に示す。また比較のため、オレイン酸のみを加熱した場合のプロットを併せて記載した。
【0053】
図2より、オレイン酸のみの場合に比べて、実施例1や比較例1の触媒とオレイン酸とを接触させて加熱した場合は、昇温開始時点から徐々に重量が減少しており、またオレイン酸のみの場合に比べて燃焼が急激に進行しており、触媒作用によってオレイン酸の燃焼が促進されていることが確認できた。
【0054】
また、実施例1の触媒は比較例1の触媒に比べて、明らかに速くオレイン酸の燃焼を進行させていることが分かる。例えば、実施例1と比較例1の触媒において、それぞれ図2中のポイントA、Bのあたりから急激な燃焼が起きているが、AとBの間には明らかな時間の差が確認できる。このことから、実施例1の触媒が油に対して高い活性を発揮できることが分かった。また、図2中のポイントAにおける試料温度は180〜190℃であり、実施例1の触媒は比較的低温で油の燃焼を開始させることが確認できた。
【0055】
実施例1の触媒が油に対して高い活性を発揮できる詳細なメカニズムは不明だが、硫酸セシウムと酸化セリウムとを微量添加することで、白金のみの場合に比べて、油に対する燃焼活性が向上したものと考えられる。
【0056】
(実施例2)
ポリカルボン酸型高分子界面活性剤0.5gをイオン交換水47gに溶解させた水溶液に、実施例1の油分解触媒2.5gを加え、ボールミルを用いて1時間混合して、触媒スラリーを調製した。
【0057】
電気炉を用いて、大気雰囲気下400℃で1時間加熱して脱脂処理した縦横50mmのSUS製薄板を、上記で調製した触媒スラリーにディップし、100℃で乾燥した。ディップと乾燥を数回繰り返した後、電気炉を用いて、大気雰囲気下500℃で3時間加熱処理して、実施例1の油分解触媒を担持したSUS製薄板を製造した。このとき触媒の担持量は9.7g/m2であった。なお、例えばこの触媒を担持したSUS製薄板をパンチング加工し、積層することで、本発明に記載の油捕集フィルタとなるが、以下の評価例2に示す性能評価試験においては1枚の薄板のまま用いた。
【0058】
(実施例3)
触媒担体としてコージェライト製ハニカムを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、実施例1の油分解触媒を担持したコージェライト製ハニカムを製造した。このとき触媒の担持量は21g/Lであった。
【0059】
(評価例2)
実施例2および3にオレイン酸10mgをスポット状に付着させた後、200℃に維持した電気炉に入れた。10分毎に実施例2および3を取り出し、重量を測定した。比較として、触媒を担持していないSUS製薄板とコージェライト製ハニカムにもオレイン酸を付着させて、同様に重量を測定した。重量の経時変化から、オレイン酸の気化、分解状態を比較した。なお評価例2においては、付着させたオレイン酸の重量を100%とし、加熱に伴う重量減少は全てオレイン酸の気化、分解よるものとして、油残存率を定義した。
【0060】
図3に、SUS製薄板を用いた場合の加熱時間と油残存率の関係を示す。触媒を担持していないSUS製薄板の場合、20分経過した時点で80%以上のオレイン酸が残存していたが、実施例2は20分で残存率50%以下に低減できた。これより、白金と、硫酸セシウムと、酸化セリウムと、アルミナとで構成される触媒を担持したSUS製油捕集フィルタが、200℃程度の比較的低温で油を分解除去できることが確認できた。
【0061】
図4に、コージェライト製ハニカムを用いた場合の加熱時間と油残存率の関係を示す。SUS製薄板を用いた場合と同様に、触媒を担持していないコージェライト製ハニカムに比べて、実施例3は早くオレイン酸を低減できている。コージェライト製ハニカムを用いた場合、SUS製薄板の場合に比べて重量減少が早いが、これはコージェライトが高表面積を有する多孔質体であるため、オレイン酸の気化が促進されたのだと考えられる。しかしながら、油分は気化させるだけでなく、できる限り水と二酸化炭素にまで分解して排出すべきであり、触媒を担持することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の油捕集フィルタは、貴金属と、アルカリ金属の硫酸塩と、希土類元素の酸化物と、無機酸化物とで構成される触媒が担持されていることを特徴としている。この構成により、フィルタに捕集された油が触媒と接触し、その触媒が油に対して高い燃焼活性を発揮するので、より低温で油汚れを分解除去できる。この油捕集フィルタをレンジフード、換気扇、調理器具等の通風路に備えることで、調理等に由来する油汚れを分解除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態1の油捕集フィルタの使用例を示す概略断面図
【図2】本発明の実施例1の性能評価試験の結果を示す図
【図3】本発明の実施例2の性能評価試験の結果を示す図
【図4】本発明の実施例3の性能評価試験の結果を示す図
【符号の説明】
【0064】
1 油煙
2 通風路
3 油捕集フィルタ
4 ヒーター
5 貫通孔
6 浄化空気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属と、アルカリ金属の硫酸塩と、希土類元素の酸化物と、無機酸化物とで構成される触媒が、油を捕集するフィルタに担持されていることを特徴とする油捕集フィルタ。
【請求項2】
貴金属が、白金であることを特徴とする、請求項1に記載の油捕集フィルタ。
【請求項3】
アルカリ金属の硫酸塩が、硫酸セシウムであることを特徴とする、請求項1または2に記載の油捕集フィルタ。
【請求項4】
希土類元素の酸化物が、酸化セリウムであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の油捕集フィルタ。
【請求項5】
無機酸化物が、アルミナであることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の油捕集フィルタ。
【請求項6】
触媒に含まれる硫酸セシウムの重量が、無機酸化物の重量の1〜5%であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の油捕集フィルタ。
【請求項7】
触媒に含まれる酸化セリウムの重量が、無機酸化物の重量の1〜2%であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の油捕集フィルタ。
【請求項8】
フィルタが、金属からなることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の油捕集フィルタ。
【請求項9】
フィルタが、ステンレススチールからなることを特徴とする、請求項8に記載の油捕集フィルタ。
【請求項10】
フィルタが、セラミックスからなることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の油捕集フィルタ。
【請求項11】
フィルタが、コージェライトからなることを特徴とする、請求項10に記載の油捕集フィルタ。
【請求項12】
触媒スラリーをフィルタに塗布し、次に加熱処理を行う工程を経て製造された、請求項1乃至11のいずれかに記載の油捕集フィルタ。
【請求項13】
触媒を加熱する加熱手段を備えていることを特徴とする、請求項1乃至12のいずれかに記載の油捕集フィルタ。
【請求項14】
加熱手段がヒーターであることを特徴とする、請求項13に記載の油捕集フィルタ。
【請求項15】
加熱手段が、触媒温度を180〜300℃に加熱することを特徴とする、請求項13または14に記載の油捕集フィルタ。
【請求項16】
加熱手段が、触媒温度を180〜300℃に加熱し、その温度で20分以上保持することを特徴とする、請求項13乃至15のいずれかに記載の油捕集フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−34598(P2009−34598A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200492(P2007−200492)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】