説明

油水分離モジュールおよびそれを備えた油水分離装置

【課題】簡単な構成で通過流量の低下を抑制しつつ確実に油脂を分離できる油水分離モジュールおよびそれを備えた油水分離装置を提供する。
【解決手段】油水分離装置は、主としてポンプおよび油水分離ユニットからなる。油水分離ユニットは油水分離モジュール40を備える。油水分離モジュール40は、次のように作製される。フィルタ片42として、ポリプロピレン製の不織布の裁断片を用意する。網袋41に複数のフィルタ片42を詰め込み、弾性を有するフィルタ材42Cを作製する。フィルタ材42Cの上端面上に流動板43を配置し、網袋41の上端部を紐44により結束する。これにより、油水分離モジュール40が完成する。ここで、油水分離モジュール40は略円柱形状を有する。油水分離モジュール40の軸方向の長さは、その上端面および下端面の最大幅よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を浄化する油水分離モジュールおよびそれを備えた油水分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への関心が高まっており、工場、飲食店および一般家庭等において、廃液を浄化する取り組みが行われている。このような廃液には、油脂(油成分)が含まれている場合が多く、廃液を効率良く浄化するためには、油脂を確実に取り除くことが重要である。
【0003】
特許文献1には、廃液から油脂を取り除く油水分離装置の一例として、ごみの収容部を有するろ過器が記載されている。このろ過器は、断面略三角形状を有する筒状の容器を備える。容器内側の下端部および中段部に、それぞれ網目状の素材を含む底板が取り付けられている。
【0004】
容器内側では、下端部の底板と中央部の底板との間に油脂を吸収する吸収剤が充填されている。吸収剤としては、粒状に形成されたポリプロピレンの不織布が用いられる。
【0005】
このろ過器においては、容器上端部の開口から容器中段部の底板までの空間がごみの収容部として機能する。また、下端部の底板と中段部の底板との間の空間、すなわち吸収剤が充填された空間が油脂の吸収部として機能する。
【0006】
容器上端部の開口にごみおよび油脂を含む廃液が投入されると、ごみが収容部により捕捉され、油脂が吸収部により吸収される。それにより、ごみおよび油脂が取り除かれた廃液が容器下端部から排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−154107号公報
【特許文献2】特開平10−113503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のろ過器では、例えば高い粘性を有する油脂が吸収部に流れ込むことにより吸収部に目詰まりが発生する場合がある。この場合、吸収部における廃液の流路が目詰まりにより局部的に制限される。そのため、廃液の通過流量が低下する。
【0009】
特許文献2には、貯留槽に貯留された廃液を第1吸着槽および第2吸着槽に通すことにより、廃液から油脂を取り除く油水分離装置が記載されている。
【0010】
この油水分離装置の第1吸着槽は略円筒形状を有する。その内部には、軸方向に沿って複数の仕切り体が所定間隔で配置されている。
【0011】
仕切り体は、筒状体および2種類のバッフル板からなる。筒状体の上端に中央に一つの貫通孔が形成されたバッフル板が取り付けられ、筒状体の下端に複数の貫通孔が形成されたバッフル板が取り付けられている。複数の仕切り体の間の空間に、ポリプロピレンからなる吸着剤が充填されている。
【0012】
第1吸着槽の下端部には廃液入口が形成されるとともに、第1吸着槽の内部に加圧空気を導く加圧空気入口が形成されている。第1吸着槽の上端部には廃液出口が形成されている。
【0013】
廃液から油脂を取り除く際には、貯留槽に貯留された廃液がポンプにより第1吸着槽の廃液入口に送られる。また、第1吸着槽の外部から第1吸着槽の加圧空気入口に加圧空気が送られる。これにより、第1吸着槽の内部では、廃液が加圧空気とともに仕切り体および吸着剤の内部を流動して上端部の廃液出口から排出される。このとき、吸着剤の内部を流動する廃液は、バッフル板の貫通孔を通る加圧空気により攪拌される。それにより、廃液に含まれる油脂が吸着剤により吸着される。
【0014】
第1吸着槽から排出された廃液は、第1の吸着槽と同一の構成を有する第2の吸着槽に送られる。これにより、第1の吸着槽において分離されなかった廃液中の油脂が、第2吸着槽の吸着剤により吸着される。
【0015】
上記のように、特許文献2の油水分離装置においては、吸着剤の内部を流れる廃液が加圧空気により攪拌される。しかしながら、特許文献2の油水分離装置は、多くの数の部材から構成され、複雑な構造を有する。
【0016】
本発明の目的は、簡単な構成で通過流量の低下を抑制しつつ確実に油脂を分離できる油水分離モジュールおよびそれを備えた油水分離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(1)第1の発明に係る油水分離モジュールは、液体から油脂を分離するための油水分離モジュールであって、親油性材料を含む複数の裁断片の集合体により構成され、互いに対向する第1および第2の部分を有する弾性のフィルタ材と、フィルタ材の第1の部分上に配置され、複数の孔を有する分散板と、分散板をフィルタ材の第1の部分上に保持するとともに、フィルタ材の第1の部分から第2の部分までの最小の長さが長さ方向に垂直な断面の最大幅よりも大きい形状にフィルタ材を保持する保持部材とを備えるものである。
【0018】
この油水分離モジュールにおいては、弾性のフィルタ材が親油性材料を含む複数の裁断片の集合体により構成される。保持部材により分散板がフィルタ材の第1の部分上に保持されるとともに複数の裁断片の集合体が保持される。複数の裁断片間の隙間に流路が形成される。この場合、弾性のフィルタ材は、保持部材により保持された状態で長さ方向において圧縮および伸張が可能となる。
【0019】
液体から油脂を分離する際には、液体が分散板の複数の孔を通してフィルタ材の第1の部分に均一に供給される。それにより、フィルタ材の複数の裁断片間の隙間により形成される流路に液体が流れ込む。親油性材料は、油脂に対する親和性を有するので、フィルタ材内を流動する液体の油脂が複数の裁断片に吸着される。それにより、液体から油脂が分離され、油脂が分離された液体がフィルタ材内の流路を通ってフィルタ材の第2の部分から流出する。
【0020】
油脂を吸着したフィルタ材の領域では、流路が小さくなる。そのため、液体の供給圧力によりフィルタ材が液体の流れ方向に圧縮される。この場合、油脂を吸着していないフィルタ材の領域では、油脂を吸着したフィルタ材の領域に比べて流路断面積が大きい。また、液体の供給圧力によりフィルタ材が第1の部分から第2の部分の方向に加圧される。それにより、順次供給される液体は、油脂を吸着したフィルタ材の領域を通過して油脂を吸着していないフィルタ材の領域を流動し、フィルタ材の第2の部分から流出する。したがって、油脂を吸着したフィルタ材の領域が徐々に第2の部分に近づくように拡大する。
【0021】
フィルタ材への液体の供給が停止されると、フィルタ材が液体の流れ方向に伸張する。それにより、フィルタ材の複数の裁断片間の隙間が広がる。その結果、フィルタ材の第1の部分から第2の部分に至る流路が復元される。
【0022】
したがって、再度フィルタ材に液体が供給されると、フィルタ材の第1の部分に流れ込む液体が、油脂を吸着したフィルタ材の領域を通過して油脂を吸着していないフィルタ材の領域まで円滑に流動する。その結果、通過流量の低下が抑制される。
【0023】
また、伸張時のフィルタ材の第1の部分から第2の部分までの長さが長さ方向に垂直な断面の最大幅よりも大きいので、液体から油脂を分離する際にはフィルタ材の第1の部分側に油脂を吸着した領域が層状に形成され、フィルタ材の第2の部分側に油脂を吸着していない領域が層状に形成される。
【0024】
それにより、フィルタ材の一部に第1の部分から第2の部分に達するように油脂を吸着した領域が形成されることが防止される。したがって、再度液体から油脂を分離する際に、フィルタ材の第1の部分からフィルタ材内に流入する液体の全てが、油脂を吸着した領域を通過して油脂を吸着していない領域に供給される。
【0025】
そのため、液体からの油脂の分離を繰り返し行った場合でも、液体から油脂を確実に分離することができる。
【0026】
さらに、この油水分離モジュールは、複数の裁断片の集合体からなるフィルタ材、分散板および保持部材という少ない構成要素を用いて作製可能であるとともに簡単な構成を有する。
【0027】
上記のように、この油水分離モジュールによれば、簡単な構成で通過流量の低下を抑制しつつ確実に液体から油脂を分離することができる。
【0028】
(2)親油性材料はポリプロピレンであってもよい。この場合、フィルタ材の複数の裁断片の間の隙間に液体が流れ込むことにより、フィルタ材内を流動する液体の油脂が複数の裁断片に確実に吸着される。それにより、液体から油脂が確実に分離される。
【0029】
(3)フィルタ材は、保持部材により保持された状態で長さ方向に圧縮および伸張可能であり、伸張状態における最大長さに対する圧縮状態から伸張状態に移行したときの最大長さの変化量の割合が0.07以上0.22以下の範囲内であってもよい。これにより、フィルタ材が液体の流れ方向と逆方向に伸張することにより、フィルタ材の複数の裁断片間の隙間が確実に広がる。それにより、フィルタ材の第1の部分から第2の部分に至る流路が復元される。その結果、通過流量の低下が十分に抑制される。
【0030】
(4)保持部材は、分散板が第1の部分上に配置された状態でフィルタ材および分散板を収容する袋状の網を含んでもよい。
【0031】
この場合、袋状の網に複数の裁断片を詰め込むことによりフィルタ材を作製し、作製されたフィルタ材の第1の部分上に分散板を配置することにより油水分離モジュールを容易に作製することができる。
【0032】
(5)保持部材は、複数の裁断片の集合体を略円柱状に保持してもよい。
【0033】
この場合、フィルタ材を容易に作成することができる。また、フィルタ材の第1の部分と第2の部分との間の流路を容易に形成することができる。
【0034】
(6)複数の裁断片は不規則な立体形状を有してもよい。
【0035】
この場合、フィルタ材の複数の裁断片間に適度な隙間が形成される。これにより、フィルタ材に弾性が付与される。
【0036】
また、液体から油脂を分離する際には、フィルタ材の内部を流れる液体が複数の裁断片の表面に十分かつ確実に接触する。それにより、フィルタ材を流れる液体から十分かつ確実に油脂を分離することができる。
【0037】
(7)分散板の複数の孔は均等に配置されてもよい。
【0038】
これにより、液体から油脂を分離する際には、液体が分散板の複数の孔を通してフィルタ材の第1の部分へ十分均一に供給される。それにより、フィルタ材の第1の部分から油脂を吸着した領域が層状に形成される。特に、第1の部分が平面形状を有する場合には、油脂を吸着した領域の底面がフィルタ材の第1の部分の平面にほぼ平行な状態を維持しつつ下方に移動する。したがって、油脂を吸着した領域の下流側に油脂を吸着していない領域が位置するので、油脂を吸着した領域を通過した液体から油脂を確実に分離することができる。
【0039】
(8)第2の発明に係る油水分離装置は、第1の発明に係る油水分離モジュールと、油水分離モジュールを収容し、油水分離モジュールの第1の部分に液体を供給するための第1の液体口を有するとともに、油水分離モジュールの第2の部分から流出する液体を排出する第2の液体口を有する収容部材とを備えるものである。
【0040】
この油水分離装置においては、収容部材の第1の液体口に液体が供給されることにより、油水分離モジュールのフィルタ材の第1の部分に液体が供給される。それにより、油水分離モジュールの内部で液体から油脂が分離される。油脂が分離された液体は、フィルタ材の第2の部分から収容部材の第2の液体口を通して排出される。
【0041】
この油水分離装置は、第1の発明に係る油水分離モジュールを備える。したがって、簡単な構成で通過流量の低下を抑制しつつ確実に液体から油脂を分離することができる。
【0042】
(9)油水分離装置は、収容部材の第1の液体口に液体を加圧して供給する加圧装置をさらに備えてもよい。
【0043】
これにより、加圧装置を動作させることにより、収容部材の第1の液体口を通して油水分離モジュールに液体を供給することができる。そして、油水分離モジュールにより液体から油脂を分離する際に、収容部材の内部でフィルタ材の第1の部分に大気圧よりも高い圧力を加えることができる。
【0044】
それにより、フィルタ材内を流れる液体を第1の部分から第2の部分の方向に十分に加圧することができる。その結果、フィルタ材を通過する液体の通過流量の低下を十分に抑制できる。
【0045】
(10)加圧装置は、液体を間欠的に収容部材の第1の液体口に供給してもよい。
【0046】
この場合、フィルタ材への液体の供給が一旦停止されることにより、圧縮されたフィルタ材が液体の流れ方向と逆方向に伸張する。それにより、フィルタ材内の複数の裁断片間の隙間が広がる。その結果、フィルタ材の第1の部分から第2の部分に至る流路が復元される。
【0047】
これにより、再度加圧装置が動作することによりフィルタ材へ液体が供給される際に、液体が円滑にフィルタ材内を流動する。したがって、液体の通過流量の低下が十分かつ確実に抑制される。
【0048】
(11)収容部材の少なくとも一部は、透明な材料により形成されてもよい。
【0049】
この場合、油水分離装置の使用者はケーシングの透明な部分を視認することにより、容易に油水分離モジュールの汚染状態を確認することができる。したがって、油水分離装置のメンテナンスが容易となる。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、簡単な構成で通過流量の低下を抑制しつつ確実に油脂を分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施の形態に係る油水分離モジュールを備えた油水分離装置を示す模式図である。
【図2】図1の油水分離ユニットの組み立て斜視図である。
【図3】図2の油水分離モジュールの作製手順を示す斜視図である。
【図4】図2の分散板の一例および他の例を示す図である。
【図5】図1の油水分離ユニットの縦断面図である。
【図6】図5の油水分離ユニットによる油水分離処理を示す図である。
【図7】第1フィルタ片および第2フィルタ片の写真である。
【図8】実施例で用いた油水分離装置を示す図である。
【図9】実施例における通過流量の測定結果を示すグラフである。
【図10】実施例における供給側圧力の測定結果を示すグラフである。
【図11】実施例の第1モジュールにおける油脂の吸着による変色を示す写真である。
【図12】実施例の第2モジュールにおける油脂の吸着による変色を示す写真である。
【図13】油水分離装置の第1の適用例を示す図である。
【図14】油水分離装置の第2の適用例を示す図である。
【図15】油水分離装置の第3の適用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の一実施の形態に係る油水分離モジュールおよびそれを備えた油水分離装置について図面を参照しつつ説明する。以下の説明において、廃液は、油脂および水を含む。また、廃液から油脂が除去された液体を浄化液と呼ぶ。
【0053】
(1)油水分離装置の構成
図1は、本発明の一実施の形態に係る油水分離モジュールを備えた油水分離装置を示す模式図である。図1(a)に油水分離装置1の側面図が示され、図1(b)に油水分離装置1の上面図が示されている。また、図2は、図1の油水分離ユニット100の組み立て斜視図である。
【0054】
図1(a)および図1(b)に示すように、この油水分離装置1は、主としてポンプ2および油水分離ユニット100から構成されている。
【0055】
油水分離ユニット100は、上蓋10、筒部材20、下蓋30、油水分離モジュール40、およびストレーナ50を備える。
【0056】
図2に示すように、筒部材20は、円筒形状を有し、透明な樹脂により形成されている。筒部材20の材料としては、例えばアクリル樹脂が用いられる。
【0057】
下蓋30は、略円板形状を有し、その中央部に貫通孔からなる流出ポートP2が設けられている。筒部材20の下端開口を閉塞するように、筒部材20の下端部に下蓋30が取り付けられる(矢印a1参照)。
【0058】
油水分離モジュール40は、略円柱形状を有し、後述するように、主として弾性を有するフィルタ材42C(図3参照)により構成されている。油水分離モジュール40が筒部材20の上端部開口からその内部に収容される(矢印a2参照)。油水分離モジュール40の下端部は下蓋30の上面に当接し、油水分離モジュール40の外周面は筒部材20の内周面に密着する。油水分離モジュール40の詳細は後述する。
【0059】
ストレーナ50は、金属製の環状部材51および逆ドーム状の金網52からなる。環状部材51の外径は筒部材20の外径とほぼ等しい。環状部材51は、テーパ状に形成されている。環状部材51の内側に金網52が下方に向かって突出するように一体的に取り付けられている。筒部材20の上端開口にストレーナ50が取り付けられる(矢印a3参照)。ストレーナ50の環状部材51の下面が筒部材20の上端部で支持される。
【0060】
上蓋10は、円板形状を有する天板11、および天板11の外周部から下方に延びる円筒形状の外周壁12からなる。外周壁12の内周面には、段差部10sが形成されている。外周壁12において、段差部10sよりも上側の内径は、筒部材20の内径とほぼ同じである。段差部10sよりも下側の内径は、筒部材20の外径よりもやや大きい。外周壁12の一部には、貫通孔からなる流入ポートP1が設けられている。
【0061】
上蓋10は、ストレーナ50が筒部材20に取り付けられた状態で、筒部材20の上端開口を閉塞するように筒部材20の上端部に取り付けられる(矢印a4)。これにより、ストレーナ50の環状部材51が筒部材20の上端部と上蓋10の段差部10sとの間で保持される。
【0062】
ポンプ2には、廃液W1を取り込む流入ポート2aおよび取り込んだ廃液W1を外部に排出する流出ポート2bが設けられている。ポンプ2の流入ポート2aは、例えば配管3aを介して図示しない廃液W1の貯留槽に接続されている。なお、この貯留槽としては、例えば一般家庭および飲食店に設けられる台所の流し台、船舶の船底、または工場に設けられるドレンピット等が挙げられる。
【0063】
図1に示すように、ポンプ2の流出ポート2bは、配管3bを介して油水分離ユニット100の流入ポートP1に接続されている。油水分離ユニット100の流出ポートP2は、例えば図示しない排液設備に接続されている。
【0064】
上記の油水分離装置1においては、ポンプ2が動作することにより、貯留槽に貯留された廃液W1が配管3aおよび流入ポート2aを通してポンプ2内に吸引される。吸引された廃液W1は、ポンプ2により流出ポート2b、配管3bおよび流入ポートP1を通して油水分離ユニット100内に圧送される。
【0065】
油水分離ユニット100内に圧送された廃液W1は、ストレーナ50を通して油水分離モジュール40に送られる。このとき、廃液W1に混在する固形物、および極めて高い粘性を有する油脂がストレーナ50の金網52により捕捉される。
【0066】
その後、廃液W1は油水分離モジュール40を通過する。このとき、油水分離モジュール40により廃液W1から油脂が取り除かれる。それにより、浄化液W2が得られる。得られた浄化液W2は、油水分離ユニット100の流出ポートP2を通して排液設備に排出される。
【0067】
以下の説明では、油水分離モジュール40により廃液W1から油脂を取り除く処理を油水分離処理と呼ぶ。油水分離処理の詳細は後述する。
【0068】
図1(b)および図2に示すように、流入ポートP1の軸心は、天板11の中心から偏心する方向を向いている。これにより、流入ポートP1から油水分離ユニット100の内部に廃液W1が流入する際には、廃液W1が外周壁12の内周面および筒部材20の内周面に沿って旋回する。そして、旋回する廃液W1がストレーナ50の金網52の部分へ円滑に導かれる。
【0069】
(2)油水分離モジュールの詳細
図3は、図2の油水分離モジュール40の作製手順を示す斜視図である。
【0070】
図3(a)に示すように、油水分離モジュール40の作製時には、まず、伸縮性を有する網袋41内に複数のフィルタ片42が詰め込まれる。
【0071】
本実施の形態において、網袋41は、例えばポリエステル等の樹脂製の網により形成される。
【0072】
フィルタ片42としては、ポリプロピレン製の不織布の裁断片が用いられる。フィルタ片42の作製方法および構造については後述する。ポリプロピレンは、油脂に対する親和性を有し、本実施の形態では、油脂の吸着材料として用いられる。すなわち、本実施の形態において、フィルタ片42の材料としては、油脂に対する親和性を有する材料(親油性材料)が用いられる。したがって、フィルタ片42の材料としては、ポリプロピレンに限らず、ポリエステルまたはポリエチレン等を用いることもできる。
【0073】
以下の説明においては、網袋41内の複数のフィルタ片42の集合体をフィルタ材42Cと呼ぶ。
【0074】
次に、複数のフィルタ片42からなるフィルタ材42Cが網袋41内に収容された状態で、フィルタ材42Cの上端部に分散板43が載置される。図3(b)に示すように、分散板43は円板形状を有し、複数の貫通孔43hを有する。
【0075】
最後に、図3(c)に示すように、フィルタ材42Cおよび分散板43が収容された状態で網袋41の上端部が紐44により結束される。
【0076】
網袋41は、フィルタ材42Cを円柱形状に保持する機能を有するとともに、フィルタ材42Cの上面に分散板43を保持する機能を有する。フィルタ材42Cは、弾性を有し、筒部材20内では、上下方向に伸縮可能である。
【0077】
フィルタ片42は、例えばポリプロピレン製の不織布を略均一な大きさに引きちぎるように裁断することにより作製される。各フィルタ片42は、不規則な立体形状を有する。複数のフィルタ片42の集合体においては、複数のフィルタ片42のポリプロピレンの繊維が不規則に絡み合い、フィルタ片42の間に隙間が形成される。そのため、複数のフィルタ片42を網袋41に詰め込むことにより、弾性を有するフィルタ材42Cを得ることができる。
【0078】
複数のフィルタ片42の大きさは略均一であることが好ましい。各フィルタ片42の外径(最大の対角線の長さ)は、例えば約10mmである。
【0079】
図4は、図2の分散板43の一例および他の例を示す図である。
【0080】
図4(a)に分散板43の一例の平面図および縦断面図が示されている。複数の貫通孔43hは、分散板43の全面に渡って均等に配置されている。本例の分散板43は、構造が単純で簡単に作製することができる。したがって、製造コストも低減される。
【0081】
図4(b)に分散板43の他の例の平面図および縦断面図が示されている。本例の分散板43では、一面に垂直な環状ガイド43gが外周縁部に沿って形成されている。
【0082】
本例の分散板43を油水分離モジュール40に用いた場合、環状ガイド43gの外周面が筒部材20の内周面に沿って摺動する。これにより、後述するように、油水分離処理時に油水分離モジュール40が伸縮する際に、分散板43が筒部材20の軸心に直交する状態を保持することができる。それにより、筒部材20の内部に流入した廃液W1をフィルタ材42Cの上端面に十分均一に分散させることができる。
【0083】
(3)油水分離処理
図5は図1の油水分離ユニット100の縦断面図であり、図6は図5の油水分離ユニット100による油水分離処理を示す図である。図5および図6においては、油水分離処理時に油水分離ユニット100の内部を流れる廃液W1および浄化液W2の流れが白抜きの点線矢印で示されている。
【0084】
図5に示すように、油水分離モジュール40は、筒部材20の内径に等しい外径L1を有し、その外径L1よりも大きい高さh1を有する。本実施の形態では、油水分離モジュール40の断面形状が円形であるため、油水分離モジュール40の外径L1が油水分離モジュール40の最大幅に相当する。
【0085】
図5および図6(a)に示すように、油水分離処理時には、図1のポンプ2により、廃液W1が流入ポートP1を通して油水分離ユニット100の内部に圧送される。油水分離ユニット100内では、流入ポートP1からストレーナ50の上部の空間に流れ込む廃液W1が上蓋10の内周面に沿って旋回する。旋回する廃液W1は、ストレーナ50の中央部に円滑に導かれ、金網52を通して油水分離モジュール40の上端部に送られる。
【0086】
油水分離モジュール40の上端部に流れ込む廃液W1は、分散板43の複数の貫通孔43hを通してフィルタ材42Cの上端面に均一に供給される。このように、分散板43は廃液W1をフィルタ材42Cの上端面に均一に分散させる機能を有する。
【0087】
油水分離モジュール40において、フィルタ材42Cを構成する複数のフィルタ片42間には隙間が形成されている。フィルタ材42Cにおけるこれらの隙間は、廃液W1および浄化液W2の流路として機能する。
【0088】
これにより、フィルタ材42Cの上端面に供給される廃液W1が、フィルタ材42Cの隙間に流れ込む。上述のように、フィルタ片42の材料として用いられるポリプロピレンは油脂の吸着材料として用いられる。これにより、フィルタ材42C内を流動する廃液W1の油脂がフィルタ材42Cの複数のフィルタ片42に吸着される。それにより、廃液W1から油脂が分離される。これにより得られる浄化液W2がフィルタ材42C内の流路を通ってその下端部から流出する。
【0089】
油水分離モジュール40の下端部から流出する浄化液W2は、油水分離ユニット100の下端部の流出ポートP2を通して外部に排出される。
【0090】
以下の説明では、フィルタ材42Cにおいて油脂が吸着された領域を吸着領域42sと呼び、フィルタ材42Cにおいて油脂が吸着されていない領域を未吸着領域42fと呼ぶ。
【0091】
図6(b)に示すように、フィルタ材42Cの上端面から層状の吸着領域42sが形成される。吸着領域42sでは複数のフィルタ片42間の流路が小さくなる。そのため、フィルタ材42Cに吸着領域42sが形成されると、ポンプ2による廃液W1の供給圧力により油水分離ユニット100内における油水分離モジュール40の上部の空間の圧力(供給側圧力)が大きくなる。これにより、フィルタ材42Cが下方に圧縮される。例えば図5に示すように、油水分離モジュール40の高さが、油水分離処理前の高さh1よりも差分D小さい高さh2となる。
【0092】
この場合、フィルタ材42Cの未吸着領域42f(図6(b))では、吸着領域42sに比べて複数のフィルタ片42間の隙間が大きい。すなわち、未吸着領域42fの流路断面積は、吸着領域42sの流路断面積よりも大きい。
【0093】
また、油水分離ユニット100内における油水分離モジュール40の上部の空間の圧力が上昇することにより、フィルタ材42C内を流動する廃液W1が下流に向かって加圧される。
【0094】
それにより、順次送り込まれる廃液W1は吸着領域42sを通過して未吸着領域42fを流動し、未吸着領域42fの複数のフィルタ片42により油脂が分離される。そのため、吸着領域42sが徐々に油水分離モジュール40の下端部に近づくように拡大する。この場合、吸着領域42sの底面がフィルタ材42Cの上端面にほぼ平行な状態を維持しつつ下方に移動する。
【0095】
図1のポンプ2が停止されることにより油水分離処理が終了すると、油水分離モジュール40の上部の空間の圧力が大気圧に戻る。それにより、図6(c)に示すように、フィルタ材42Cが油水分離処理前とほぼ同じ高さまで上方に伸張する。その結果、フィルタ材42Cのフィルタ片42間の隙間が広がるとともに、フィルタ材42Cの上端面から下端面に至る流路が復元される。
【0096】
したがって、再度の油水分離処理が開始されると、油水分離モジュール40の上端面に流れ込む廃液W1が、吸着領域42sの隙間を通して未吸着領域42fまで円滑に流動する。その結果、油水分離モジュール40における廃液W1の通過流量の低下が抑制される。
【0097】
この場合にも、フィルタ材42Cの未吸着領域42f(図6(d))の隙間は、吸着領域42s(図6(d))の隙間に比べて大きい。また、油水分離ユニット100内における油水分離モジュール40の上部の空間の圧力が上昇することにより、フィルタ材42C内を流動する廃液W1が下流に向かって加圧される。
【0098】
それにより、順次送り込まれる廃液W1は吸着領域42sを通過して未吸着領域42fを流動し、未吸着領域42fの複数のフィルタ片42により油脂が分離される。得られた浄化液W2は、油水分離モジュール40の下端部から流出する。そのため、吸着領域42sが油水分離モジュール40の下端部に近づくようにさらに拡大する。油水分離モジュール40の下端部から流出する浄化液W2は、油水分離ユニット100の下端部の流出ポートP2を通して外部に排出される。
【0099】
再度の油水分離処理が終了すると、図6(e)に示すように、フィルタ材42Cが油水分離処理前とほぼ同じ高さまで上方に伸張する。その結果、フィルタ材42Cのフィルタ片42間の隙間が広がるとともに、フィルタ材42Cの上端面から下端面に至る流路が再び復元される。
【0100】
上記のように、油水分離処理の開始前および伸張時のフィルタ材42Cの高さh1(図5)は、油水分離モジュール40の外径L1よりも大きい。これにより、油水分離処理時に、フィルタ材42Cの上端面側に層状の吸着領域42sが形成されるとともに下端面側に層状の未吸着領域42fが形成される。それにより、フィルタ材42Cの一部に上端面から下端面に達するように吸着領域が形成されることが防止される。したがって、油水分離処理を再開したときに、フィルタ材42Cの上端面から流入した廃液W1の全てが吸着領域42sを通過した後に未吸着領域42fに供給される。そのため、油水分離処理を繰り返し行った場合でも、廃液W1から油脂を確実に分離することができる。
【0101】
(4)実施の形態の効果
上記のように、本実施の形態に係る油水分離モジュール40を用いた場合には、油水分離モジュール40が伸縮するとともに層状の吸着領域42sが油水分離モジュール40の上端面から下方に徐々に拡大する。これにより、油水分離モジュール40の全体に油脂が吸着されるまで、通過流量の低下を抑制しつつ油水分離処理を繰り返し行うことができる。
【0102】
また、廃液W1が分散板43の複数の貫通孔43hを通してフィルタ材42Cの上端面に均一に供給される。それにより、フィルタ材42Cの上端面から層状の吸着領域42sが形成されるとともに吸着領域42sの底面がフィルタ材42Cの上端面にほぼ平行な状態を維持しつつ下方に移動する。したがって、吸着領域42sの下流側に未吸着領域42fが位置することにより、吸着領域42sを通過した廃液W1から未吸着領域42fで油脂を確実に分離することができる。
【0103】
さらに、油水分離モジュール40は、複数のフィルタ片42の集合体からなるフィルタ材42C、分散板43および網袋41という少ない構成要素を用いて作製可能であるとともに、簡単な構成を有する。
【0104】
また、筒部材20は透明な材料により形成される。これにより、使用者は油水分離ユニット100の外部から容易に油水分離モジュール40の汚染状態を確認することができる。したがって、油水分離モジュール40の交換時期を容易に把握することが可能となる。
【0105】
(5)実施例
以下の実施例では、上記実施の形態に従って2種類のフィルタ片42を用いて2種類の油水分離モジュール40を作製し、2種類の油水分離モジュール40を備えた油水分離装置1により油水分離処理を行った。
【0106】
以下の説明においては、2種類のフィルタ片42のうちの一方のフィルタ片42を第1フィルタ片42aと呼び、他方のフィルタ片42を第2フィルタ片42bと呼ぶ。また、第1フィルタ片42aを用いて作製された油水分離モジュール40を第1モジュールと呼び、第2フィルタ片42bを用いて作製された油水分離モジュール40を第2モジュールと呼ぶ。
【0107】
図7は、第1フィルタ片42aおよび第2フィルタ片42bの写真である。図7(a)に第1フィルタ片42aの写真が示され、図7(b)に第2フィルタ片42bの写真が示されている。
【0108】
図7(a)に示すように、複数の第1フィルタ片42aの外径は10mm程度である。複数の第1フィルタ片42aはほぼ均一な大きさを有する。一方、複数の第2フィルタ片42bの外径は約5mmから約20mm程度の範囲内でばらついている。すなわち、複数の第2フィルタ片42bの大きさは不均一となっている。
【0109】
図8は、実施例で用いた油水分離装置1を示す図である。図8に示すように、本実施例では、図1の油水分離装置1のポンプ2の上流側の配管3aにタンク9が取り付けられている。配管3aには、バルブ3aが介挿されている。また、ポンプ2と油水分離ユニット100とをつなぐ配管3bに圧力計5が取り付けられている。さらに、油水分離装置1の下流側の配管3cに流量計6が介挿されている。
【0110】
タンク9に6l(リットル)の水を貯留するとともに図示しない定量ポンプにより8.5mlのエンジンオイルを供給し、タンク9内の攪拌装置9Pを作動させることにより油脂を含む廃液W1を作製した。
【0111】
ポンプ2を作動させてバルブ4を開くことにより油水分離ユニット100に廃液W1を供給し、廃液W1の油水分離処理を開始した。廃液W1が浄化液W2として油水分離ユニット100から排出された後、ポンプ2を停止させ、油水分離処理を終了した。
【0112】
第1モジュールおよび第2モジュールを用いて上記の油水分離処理を30回ずつ繰り返して行った。なお、1回目の油水分離処理の前に、0回目の処理として油脂を含まない水のみを油水分離ユニット100に供給した。
【0113】
油水分離処理中に、油水分離ユニット100の上流側の配管3b内の圧力(供給側圧力)を圧力計5により測定し、油水分離ユニット100の下流側の配管3c内の浄化液W2の流量(通過流量)を流量計6を用いて測定した。表1に実施例における通過流量および供給圧力の測定結果を示す。表1には、偶数回目の油水分離処理における通過流量および供給側圧力の測定値が示される。
【0114】
【表1】

【0115】
図9は実施例における通過流量の測定結果を示すグラフである。図9には偶数回目の油水分離処理における通過流量の測定値が示される。図9の縦軸は通過流量を示し、横軸は油水分離処理の繰り返し回数を示す。三角印は第1モジュールを用いた場合の通過流量の測定値であり、四角印は第2モジュールを用いた場合の通過流量の測定値である。
【0116】
図10は実施例における供給側圧力の測定結果を示すグラフである。図10には偶数回目の油水分離処理における供給側圧力の測定値が示される。図10の縦軸は供給側圧力を示し、横軸は油水分離処理の繰り返し回数を示す。三角印は第1モジュールを用いた場合の供給側圧力の測定値であり、四角印は第2モジュールを用いた場合の供給側圧力の測定値である。
【0117】
表1および図9に示されるように、第1モジュールおよび第2モジュールのいずれを用いた場合にも、油水分離処理の繰り返し回数が増加するにしたがって通過流量が徐々に低下したが、30回目の油水分離処理中にも約5l/min以上の高い通過流量が得られた。
【0118】
なお、第1モジュールを用いた場合には、初期の油水分離処理から後半の油水分離処理にかけて、第2モジュールを用いた場合に比べてやや高い通過流量が得られた。
【0119】
また、表1および図10に示されるように、第1モジュールおよび第2モジュールのいずれを用いた場合にも、油水分離処理の繰り返し回数が増加するにしたがって供給側圧力が徐々に上昇したが、初回の油水分離処理から30回目の油水分離処理まで供給側圧力の急激な上昇は見られなかった。
【0120】
なお、第1モジュールを用いた場合には、前半の油水分離処理において、第2モジュールを用いた場合に比べて供給側圧力が低くなった。
【0121】
また、各油水分離処理中の油水分離モジュール40の高さ(圧縮高さ)、各油水分離処理後の油水分離モジュール40の高さ(伸張高さ)、および各油水分離処理中の油水分離モジュール40の伸縮量を測定した。なお、圧縮高さは図5の高さh2に相当し、伸張高さは図5の高さh1に相当し、伸縮量は図5の差分Dに相当する。
【0122】
表2に油水分離モジュール40の圧縮高さ、伸張高さおよび伸縮量の測定結果を示す。表2には、偶数回目の油水分離処理における測定結果が示される。
【0123】
【表2】

【0124】
表2に示されるように、第1モジュールおよび第2モジュールのいずれを用いた場合にも、油水分離処理の繰り返し回数が増加するにしたがって圧縮高さ、伸張高さおよび伸縮量が徐々に低下したが、初回の油水分離処理から30回目の油水分離処理まで、油水分離モジュール40が確実に圧縮および伸張することがわかった。また、伸張高さに対する伸縮量の割合は、初回の油水分離処理から30回目の油水分離処理までほとんど一定に維持されることもわかった。
【0125】
具体的には、第1モジュールの伸張高さに対する伸縮量の割合は約0.17〜0.22の範囲内で変化し、第2モジュールの伸張高さに対する伸縮量の割合は約0.07〜0.09の範囲内で変化した。これにより、モジュールの伸張高さに対する伸縮量の割合が少なくとも約0.07〜0.22の範囲内である場合には十分に油水分離処理を行うことができるとともに、30回目の油水分離処理中にも高い通過流量が得られることがわかった。
【0126】
なお、第1モジュールを用いた場合には、第2モジュールを用いた場合に比べて伸縮量が大きくなった。
【0127】
図11は実施例の第1モジュールにおける油脂の吸着による変色を示す写真である。図12は実施例の第2モジュールにおける油脂の吸着による変色を示す写真である。
【0128】
図11(a),(b),(c)に、それぞれ10回目、20回目および30回目の油水分離処理中における第1モジュールの側面の写真が示され、図11(d)に30回目の油水分離処理中における第1モジュールの下端面の写真が示される。また、図12(a),(b),(c)に、それぞれ10回目、20回目および30回目の油水分離処理中における第2モジュールの側面の写真が示され、図12(d)に30回目の油水分離処理中における第1モジュールの下端面の写真が示される。
【0129】
図11および図12において、第1モジュールおよび第2モジュールの変色した領域が吸着領域42sであり、変色していない領域が未吸着領域42fである。
【0130】
図11(a)〜(c)および図12(a)〜(c)から、第1モジュールおよび第2モジュールのいずれを用いた場合にも、油水分離処理の繰り返し回数が増加するにしたがって層状の吸着領域42sが第1モジュールおよび第2モジュールの上端面から下方に徐々に拡大することがわかる。この場合、吸着領域42sの底面が第1モジュールおよび第2モジュールの上端面にほぼ平行な状態を維持しつつ下方に移動する。
【0131】
図11(d)および図12(d)に示されるように、30回目の油水分離処理中における第1モジュールおよび第2モジュールの下端面はほとんど変色していない。これにより、30回の油水分離処理を繰り返しても第1モジュールおよび第2モジュールの下部に層状の未吸着領域42fが残存していることがわかる。
【0132】
このように、本実施例の結果から、上記実施の形態に係る油水分離モジュール40を用いた場合には、油水分離モジュール40が伸縮するとともに吸着領域42sが油水分離モジュール40の上端面から下方に徐々に拡大することが確認された。これにより、油水分離モジュール40の全体に油脂が吸着されるまで油水分離処理を繰り返し行うことができることがわかった。
【0133】
また、第1モジュールおよび第2モジュールの比較から、油水分離モジュール40のフィルタ片42がほぼ均一な外径を有することがより好ましいことがわかった。
【0134】
(6)油水分離装置の適用例
図13は油水分離装置1の第1の適用例を示す図である。図13の例では、図1の油水分離装置1が船500の船底530に取り付けられる。この場合、船底530に発生する廃液W1であるビルジから油脂を分離し、得られた浄化液W2を船外に排出することができる。
【0135】
図14は油水分離装置1の第2の適用例を示す図である。図14の例では、図1の油水分離装置1が飲食店または一般家庭等に設置されたシンク600の下流に取り付けられる。この場合、シンク600内から排出される廃液W1から油脂を分離し、得られた浄化液W2を下水設備等に排出することができる。
【0136】
図15は油水分離装置1の第3の適用例を示す図である。図15の例では、図1の油水分離装置1が小型の台車710に取り付けられる。これにより、移動式の油水分離装置700を作製することができる。
【0137】
なお、図15の例では、油水分離ユニット100とポンプ2とが一体的に形成されている。また、ポンプ2は、油水分離ユニット100の下流側に設けられている。このように、油水分離ユニット100およびポンプ2の配置は特に限定されない。ポンプ2は、油水分離ユニット100の上流および下流のいずれに配置されてもよい。
【0138】
(7)変形例
上記実施の形態において、油水分離ユニット100の筒部材20は断面円形状を有するが、筒部材20の断面形状はこれに限定されない。例えば、筒部材20が断面楕円形状を有してもよいし、断面多角形状を有してもよい。筒部材20が断面楕円形状を有する場合、油水分離モジュール40は断面楕円形状を有する。この場合、楕円の長軸の長さが油水分離モジュール40の最大幅に相当する。また、筒部材20が断面多角形状を有する場合、油水分離モジュール40は断面多角形状を有する。この場合、多角形の最大の対角線の長さが油水分離モジュール40の最大幅に相当する。
【0139】
上記実施の形態においては、分散板43は円板形状を有するが、分散板43の形状はこれに限定されない。例えば、断面楕円形状の筒部材20を用いる場合には楕円形の分散板43を用い、断面多角形状の筒部材20を用いる場合には多角形の分散板43を用いる。
【0140】
上記実施の形態においては、貫通孔43hの形状は円形であるが、これに限定されない。貫通孔43hの形状は、楕円形、多角形、またはその他の任意の形状であってもよい。
【0141】
上記実施の形態においては、複数のフィルタ片42がポリプロピレンの不織布の裁断片からなるが、複数のフィルタ片42がポリプロピレン材料の裁断片と他の材料の裁断片とからなってもよい。
【0142】
例えば、複数のフィルタ片42がポリプロピレン材料の裁断片とセルロース材料の裁断片とからなってもよい。また、複数のフィルタ片42がポリプロピレン材料の裁断片とポリエチレン材料の裁断片とからなってもよい。また、複数のフィルタ片42にと活性炭の砕片を混合してもよい。これらの場合にも、上記とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0143】
さらに、油水分離モジュール40は、ポリプロピレン材料の裁断片からなるフィルタ片42の層状集合体と他の材料からなる裁断片または砕片の層状集合体とを積層することによりフィルタ材42Cを作製してもよい。
【0144】
(8) 請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応関係
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。
【0145】
上記では、フィルタ片42が裁断片の例であり、フィルタ材42Cの上端面が第1の部分の例であり、フィルタ材42Cの下端面が第2の部分の例であり、分散板43の複数の貫通孔43hが複数の孔の例であり、網袋41が保持部材および袋状の網の例である。
【0146】
また、図5の油水分離モジュール40の高さh1がフィルタ材の第1の部分から第2の部分までの最小の長さの例であり、図5の油水分離モジュール40の上端面および下端面の外径L1が長さ方向に垂直な断面の最大幅の例である。
【0147】
さらに、流入ポートP1が第1の液体口の例であり、流出ポートP2が第2の液体口の例であり、上蓋10、筒部材20および下蓋30が収容部材の例であり、ポンプ2が加圧装置の例である。
【0148】
なお、請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明は、工場、飲食店または一般家庭等において廃液または加工液等を浄化するために用いることができる。
【符号の説明】
【0150】
1 油水分離装置
2 ポンプ
2a,P1 流入ポート
2b,P2 流出ポート
3a,3b,3c 配管
4 バルブ
5 圧力計
6 流量計
9 タンク
9P 攪拌装置
10 上蓋
10s 段差部
11 天板
12 外周壁
20 筒部材
30 下蓋
40 油水分離モジュール
41 網袋
42 フィルタ片
42a 第1フィルタ片
42b 第2フィルタ片
42C フィルタ材
42f 未吸着領域
42s 吸着領域
43 分散板
43g 環状ガイド
43h 貫通孔
44 紐
50 ストレーナ
51 環状部材
52 金網
100 油水分離ユニット
200 実験装置
600 シンク
700 油水分離装置
710 台車
W1 廃液
W2 浄化液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体から油脂を分離するための油水分離モジュールであって、
親油性材料を含む複数の裁断片の集合体により構成され、互いに対向する第1および第2の部分を有する弾性のフィルタ材と、
前記フィルタ材の前記第1の部分上に配置され、複数の孔を有する分散板と、
前記分散板を前記フィルタ材の前記第1の部分上に保持するとともに、前記フィルタ材の前記第1の部分から前記第2の部分までの最小の長さが前記長さ方向に垂直な断面の最大幅よりも大きい形状に前記フィルタ材を保持する保持部材とを備える、油水分離モジュール。
【請求項2】
前記親油性材料はポリプロピレンである、請求項1記載の油水分離モジュール。
【請求項3】
前記フィルタ材は、前記保持部材により保持された状態で前記長さ方向に圧縮および伸張可能であり、伸張状態における最大長さに対する圧縮状態から前記伸張状態に移行したときの最大長さの変化量の割合が0.07以上0.22以下の範囲内である、請求項1または2記載の油水分離モジュール。
【請求項4】
前記保持部材は、前記分散板が前記第1の部分上に配置された状態で前記フィルタ材および前記分散板を収容する袋状の網を含む、請求項1〜3記載の油水分離モジュール。
【請求項5】
前記保持部材は、前記複数の裁断片の集合体を略円柱状に保持する、請求項1〜4のいずれかに記載の油水分離モジュール。
【請求項6】
前記複数の裁断片は不規則な立体形状を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の油水分離モジュール。
【請求項7】
前記分散板の前記複数の孔は均等に配置される、請求項1〜6のいずれかに記載の油水分離モジュール。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の油水分離モジュールと、
前記油水分離モジュールを収容し、前記油水分離モジュールの前記第1の部分に液体を供給するための第1の液体口を有するとともに、前記油水分離モジュールの前記第2の部分から流出する液体を排出する第2の液体口を有する収容部材とを備える、油水分離装置。
【請求項9】
前記収容部材の前記第1の液体口に液体を加圧して供給する加圧装置をさらに備える、請求項8記載の油水分離装置。
【請求項10】
前記加圧装置は、液体を間欠的に前記収容部材の前記第1の液体口に供給する、請求項9記載の油水分離装置。
【請求項11】
前記収容部材の少なくとも一部は、透明な材料により形成された、請求項8〜10のいずれかに記載の油水分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−11151(P2011−11151A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157857(P2009−157857)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】