説明

油汚染土壌の原位置浄化方法

【課題】油汚染土壌から効率的に油を回収する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、地下水面以下の(飽和層)に存在する油汚染個所の下部から注入井戸を通して空気を吹き込むと共に薬剤を注入し、油回収井戸により油分を回収して土壌中の汚染油濃度を十分に低下してから、化学酸化処理またはバイオレメディエーション処理を行って汚染油濃度を許容水準以下に低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油に汚染された土壌を原位置で浄化する方法に関し、特に高〜中濃度の油汚染土壌に適する原位置浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工場跡地その他の汚染土壌は大きな社会問題となっており、土壌汚染対策法のもとに種々の対策がとられてきている。汚染土壌の原因である汚染物質は多岐に亘っており、それぞれに適した処理方法が提案され、実施されている。一般的な汚染土壌の処理方法は、非特許文献1に紹介されているように、大きく分けて主に掘起し(on site)処理と原位置(in situ)処理に分かれ、前者の例としては、熱処理、洗浄処理、化学処理、生物処理及び抽出処理などが、また後者の例としては、抽出法(土壌ガス吸引法、地下水揚水法、エアスパージング法ほか)、分解法(化学的処理:酸化分解、還元分解、生物的処理、パイオレメディエーション、薬剤注入、ファイトレメディーション)などが知られている。
【0003】
上記のうち、エアスパージング法は、土壌を掘削することなく原位置で汚染物質を除去する方法であり、一般的に揮発性有機化合物の回収や、生物的処理での酸素供給手段として用いられている。エアスパージング法は油汚染土壌の処理手段としても提案されている(たとえば特許文献1)。
【0004】
油汚染土壌の処理において、上記の原位置処理を用いうるのは現実には低濃度油汚染土壌に限られ、高〜中濃度の油汚染を浄化する場合、従来は汚染部位を掘削して取除き、清浄土を埋戻す置換え工法が用いられるにとどまっている。
しかし、置換え工法の場合は浄化工事が大がかりとなり、周辺に対する環境影響が大きいことや掘削した汚染土壌の適正処分あるいは浄化処理が必要になること、および操業中の工場や事業所では適用が極めて困難であるなど、適用に際しての制約条件が多い。
一方、高〜中濃度の油汚染は油臭や油膜などの生活環境保全上の問題も大きく、汚染拡散防止の観点からも早急な対策が必要であり、高〜中濃度の油汚染に対応する原位置浄化の要望は非常に大きい。
【0005】
【特許文献1】特開2002−254062号公報
【非特許文献1】平成15年9月発行の「土壌汚染対策法に基づく調査及び措置の技術的手法の解説」(監修:環境省、編集:社団法人土壌環境センター)、127〜141頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は油汚染土壌から原位置で浄化する効率的な方法を提供することにあり、特に高〜中濃度の油汚染土壌から油を回収した上、原位置でより完全に浄化する効率的な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は第1に、空気を注入する機能と薬剤を注入する機能とを備えた注入井戸から油汚染土壌の地下水飽和層に空気を吹き込む工程と薬剤を注入する工程を順次または同時に行って土粒子に付着している油を剥離させ地下水中に浮遊している油と共に微細空気に同伴させて飽和層上面に移動させ、飽和層上面から油分を油回収井戸を通して回収し、残溜汚染油含量が低下した土壌を化学酸化分解処理および/またはバイオレメディエーション処理に供することを特徴とする油汚染土壌の原位置浄化方法である。
本発明は第2に、薬剤が有機剥離剤、化学酸化剤、油軟化剤および/またはスチームである上記の方法である。
本発明は第3に、油回収井戸による油分の回収を連続的もしくは間欠的に地下水位を下げることによって行う上記の方法である。
本発明は第4に、揮発成分を含有する空気を不飽和帯からガス吸引井戸を通して吸引する上記の方法である。
本発明は第5に、有機剥離剤がアルカリ剤または界面活性剤である上記の方法である。
本発明は第6に、油軟化剤が植物系溶剤または炭化水素系溶剤である上記の方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、スパージング処理と薬剤処理との組合せで油分を回収しつつ土壌中の残溜汚染油含量を低下させ、最終的に化学酸化分解処理またはバイオレメディエーション処理することで、高〜中濃度の油汚染土壌を比較的短期間に経済的に許容水準まで浄化することが可能となる
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明方法が適用される土壌は油によって汚染された土壌であれば特に制限はないが、石油類、特に重質油で高〜中濃度に汚染された石油精製施設跡地などの油汚染土壌が特に好適である。
【0010】
図1に本発明方法を説明する概略工程図を示す。
任意の位置、好ましくは下端に空気注入口を有する管を設置し空気注入口より上部に薬剤注入口をもつ注入井戸(4)、油回収井戸(5)、および好ましくはさらにガス吸引井戸(6)を油汚染サイトに好ましくはそれぞれ複数所定間隔で設置する。図中1は地下水面に浮上して形成された油層、2は油汚染域、3は飽和層即ち帯水層、7は揚水ポンプ、8はフローとポンプ、9はコンプレッサ、10は水処理装置、11は油回収装置、12はガス回収・浄化装置、13は気密シート、14は注入用薬剤を示す。
【0011】
空気注入装置(1)により、注入井戸(2)から空気を飽和層に注入してエアスパージングする。注入された空気は、微細な空気となり、地下水面へ浮上する。このとき、微細な空気が、水中に浮遊している油を地下水面に浮上させる、また、土粒子に付着している油も土粒子から剥離させ地下水面に浮上させ、さらに、土粒子間に閉塞している油も地下水面へ浮上させる、地下水面に油層を形成させる。そして油回収井戸(5)の地下水位を連続あるいは間欠的に低下させることにより、地下水とともに地下水面に浮上した油を横方向へ移動させ油を回収する。このようにすることで水の同伴を少量に抑制することができる。
【0012】
本発明ではエアスパージング工程と同時にまたはそれと交互に薬剤注入を行って土粒子に付着している油の剥離(分解剥離も含む)を促進させる。薬剤としては有機剥離剤、化学酸化剤、油軟化剤およびスチームが典型例として挙げられる。
【0013】
有機剥離剤の例としては、炭酸ナトリウムやケイ酸ナトリウムなどのアルカリ剤、アニオン系もしくはノニオン系の界面活性剤などがあり、これらは水溶液の状態で注入される。
【0014】
化学酸化剤の例としては、クエン酸、硫酸第一鉄、過酸化水素などのフェントン反応を目的とした薬剤がある。
油軟化剤の例としては、植物系溶剤、軽質鉱物油、アルカン、シクロアルカンを主成分とした炭化水素系溶剤がある。
【0015】
スチームも油を軟化流動させる機能をもつ。またスチームの注入とは別にもしくはそれと共に油汚染部位に金属製熱媒体を挿入しておき、それを加熱することによって油の軟化流動を促進させることもできる。このようにして地下水面上に油分が浮上して油層(1)を形成する。この油分を油回収井戸(5)を通して回収し、油水分離槽などの油回収装置(11)で水と油に分離し、水は清浄な状態で排出される。
【0016】
本発明で用いるに適する注入井戸の典型例を図2に示す。図中、15はエアスパージング用管、16は無孔管、17は薬剤注入用有孔管、18は空気吐出口を示す。図示するように、空気が飽和層中に効果的に注入されるように空気注入口は下端ないしその近傍に設けられていることが好ましい。また空気の注入範囲を拡大するため、圧搾空気、ウォータージェット、さらにはシールドを利用できるよう、注入口に円盤状、放射状、水平横穴状に通気層を設けることも好ましい。
【0017】
油回収井戸も地下水面近傍から油を回収しうるものであれば特に制限されず、従来知られた地下水揚水井戸を用いることができるが、地下水の吸引をできるだけ抑制し油を効率的に回収するために、ポンプ本体あるいはポンプの吸引孔が地下水位の変化に対応して上下するフロート機能と、油層センサにより油層の厚さを感知することにより揚水ポンプのスイッチが自動的にオン・オフする機能を持った揚水ポンプをもつものを用いることが好ましい。
【0018】
本発明で用いるに適する油回収井戸の典型例を図3に示す。図中、19は無孔管、20は有孔管、21は揚水ポンプ、22はフロートポンプを示す。
【0019】
また本発明方法では、空気を注入することにより地中が加圧状態となるため、地表より揮発成分を含んだ空気が大気中に放出されてくる。これを防止するため、地表に気密シート(B)を配置すると共に、ガス吸引井戸(6)を設けることが好ましい。またガス吸引井戸のかわりに、水平ドレーンとそれより吸引するガス回収設備を用いることもできる。
【0020】
本発明方法の実施に当たっては、油汚染サイトの大きさに応じ、注入井戸を複数配置することが好ましいが、その配置は平面的にみて三角形ないしそれ以上の多角形配置とすることが好ましい。
また油回収井戸は、油が汚染サイト以外に拡散するのを防止するため、注入井戸の外側にも複数個配置することが好ましい。
【0021】
本発明ではエアスパージング工程と薬剤注入工程を1〜5回程度繰返すことによって油分を地下水上に浮上させ、油回収井戸を通して油分を回収して土壌中の汚染油の含有量を大幅に低下させる。その際の濃度は最終処理により土壌中の油分濃度を許容水準以下、(好ましくは1000ppm以下)にするに適する濃度であればよい。通常は5000ppm以下、好ましくは3000ppm以下まで低下させる。
【0022】
最終工程の化学酸化分解処理および/またはバイオレメディエーション処理はそれぞれ従来公知の方法を採用して実施できる。
化学酸化分解処理に用いる化学酸化剤としては、前記と同様、クエン酸、硫酸第一鉄、過酸化水素などのフェントン反応用薬剤などが用いられる。
バイオレメディエーション処理は土壌中に生息する油分解微生物を活性化させる栄養塩、酸素および必要に応じて培養した油分解微生物を土壌中に添加して行うことができる。
【0023】
次に本発明方法の室内実験例を実施例として示す。
【実施例1】
【0024】
軽油を50,000ppm加えた模擬汚染土壌を、直径11cmの円筒容器内に高さ25cmの厚さで充填し、試料の下部から水あるいは水と空気を注入でき、試料の上部は水で満たされており試料に含まれている油が浮上し採取・計量可能な装置で実験を行った。
実験開始後、試料の下部から水と空気を注入し、浮上した油の量を毎日測定した結果、一日当りの油回収量は徐々に減少し、殆ど油が浮かなくなった時点で空気の注入を止め、水に換えてクエン酸、硫酸第一鉄および過酸化水素水を注入し、3日間静置した。その後水と空気の注入を行うと再び油が回収された。この操作を3サイクル行った結果、当初50,000ppmであった油分量を5,000ppm以下に浄化することができた。結果を図4に示す。
【実施例2】
【0025】
実施例1に引き続き、クエン酸、硫酸第一鉄および過酸化水素水を注入し、3日間静置する操作を2回行った結果、油分量を許容範囲である1,000ppm以下にまで浄化することができた。
【実施例3】
【0026】
有機剥離剤を添加することによる油回収率向上の効果を確認するため、油分量約20,000ppmの実汚染土壌を用いて実験を行った。
試験方法は、200gの油汚染土壌をビーカーに入れ、固液比が1:3となるように蒸留水を加え、スターラーで緩く攪拌しながら数種類の界面活性剤毎の油除去率を測定した。結果は表1のとおり、実汚染土壌でも高い油除去率が得られ、油回収率向上の手段として有効である。
【0027】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明方法の一例を示す概略工程図。
【図2】本発明方法に用いるに適する注入井戸の概略断面図。
【図3】本発明方法に用いるに適する油回収井戸の概略断面図。
【図4】実施例の結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0029】
1 油層
2 油汚染域
3 帯水層
4 注入井戸
5 油回収井戸
6 ガス吸引井戸
7 揚水ポンプ
8 フロートポンプ
9 コンプレッサ
10 水処理装置
11 油回収装置
12 ガス回収・浄化装置
13 気密シート
14 薬剤
15 スパージング用管
16 無孔管
17 有孔管
18 空気吐出口
19 無孔管
20 有孔管
21 揚水ポンプ
22 フロートポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を注入する機能と薬剤を注入する機能とを備えた注入井戸から油汚染土壌の地下水飽和層に空気を吹き込む工程と薬剤を注入する工程を順次または同時に行って土粒子に付着している油を剥離させ地下水中に浮遊している油と共に微細空気に同伴させて飽和層上面に移動させ、飽和層上面から油分を油回収井戸を通して回収し、残溜汚染油含量が低下した土壌を化学酸化分解処理および/またはバイオレメディエーション処理に供することを特徴とする油汚染土壌の原位置浄化方法。
【請求項2】
薬剤が有機剥離剤、化学酸化剤、油軟化剤および/またはスチームである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
油回収井戸による油分の回収を連続的もしくは間欠的に地下水位を下げることによって行う請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
揮発成分を含有する空気を不飽和帯からガス吸引井戸を通して吸引する請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
有機剥離剤がアルカリ剤または界面活性剤である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
油軟化剤が植物系溶剤または炭化水素系溶剤である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−253059(P2007−253059A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80483(P2006−80483)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(590002482)株式会社NIPPOコーポレーション (130)
【Fターム(参考)】