説明

油脂の分別方法

【課題】X2U型トリグリセリド(Xは飽和脂肪酸残基、Uは不飽和脂肪酸残基)を含み、XXX型トリグリセリド含量(Xは飽和脂肪酸残基)が高い油脂から、XXX型トリグリセリド含量が低く、X2U型トリグリセリドに富んだ油脂を回収するための、より効率的で工業的に適した分別方法を提供することである。
【解決手段】トリグリセリド含量が60質量%以上であって、全トリグリセリド中にXXX型トリグリセリドを10〜70質量%及びX2U型トリグリセリドを10〜50質量%含む油脂と、脂肪酸低級アルキルエステルとを混合し、トリグリセリド含量が10〜50質量%、脂肪酸低級アルキルエステル含量が50〜80%質量%である晶析原料を調製し、該晶析原料を、加熱融解し、次いで冷却して結晶を晶析させ、次いで分別することにより、X2U型トリグリセリドに富んだ液体部(オレイン部)を得ることを特徴とする油脂の分別方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの飽和脂肪酸残基と1つの不飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリド(X2U型トリグリセリド:ここで、Xは飽和脂肪酸残基、Uは不飽和脂肪酸残基を示す。以下、同じ)に富んだ油脂を得るための、油脂の分別製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カカオ脂をはじめとするハードバターは、チョコレートを始めとした食品、医薬品及び化粧品などに広く用いられている。これらのハードバターは、2つの飽和脂肪酸残基と1つの不飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリド(X2U型トリグリセリド)を主成分としている。例えばカカオ脂は、1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセリン(POP)、2位にオレオイル基を有しパルミトイル基とステアロイル基を各1基づつ有するトリグリセリド(POS)及び1,3−ジステアロイル−2−オレオイルグリセリン(SOS)などの、分子内に1つの不飽和結合を有する対称型の2飽和1不飽和型トリグリセリド類を主成分としている。
【0003】
一般的に、このようなトリグリセリドは、この成分を含む天然の油脂、例えばパーム油、シア脂、サル脂、イリッペ脂などの油脂またはその分画油として得ることができる。又、パーム油、シア脂、サル脂、イリッペ脂などの油脂の分画油としてではなくて、特定の油脂に1,3選択性リパーゼを作用させ、エステル交換反応を利用して製造する方法が提案されている(特許文献1〜3)。
【0004】
上記いずれの方法においても、製菓用油脂の特徴である口中での速やかな融解特性に悪影響を及ぼすので、3つの飽和脂肪酸残基からなるトリグリセリド(XXX型トリグリセリド)を主成分とする高融点画分を除去する分画操作は不可欠である。現在、この工程は乾式分別で行われることが多くなっているが、乾式分別の特性上、原料油脂中にXXX型トリグリセリドが多く含まれると、除去すべき高融点画分に、必要とされるX2U型トリグリセリドが残留するため、X2U型トリグリセリドの歩留まりが悪くなる一因となっている。歩留まりを向上させるためには溶剤分別が必要であったり、複雑な工程管理が必要であったりと、生産効率の面でなお満足のゆくものはなく、XXX型トリグリセリドを多く含む原料油脂からのX2U型トリグリセリドに富んだ油脂のより効率的で、より工業化に適した製造方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55−71797号公報
【特許文献2】特開昭62−155048号公報
【特許文献3】WO2005/63952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、2飽和1不飽和型トリグリセリド(X2U型トリグリセリド、または、X2U)を含み、飽和脂肪酸残基のみからなるトリグリセリド(XXX型トリグリセリド、または、XXX)含量が高い油脂から、XXX型トリグリセリド含量が低く、X2U型トリグリセリドに富んだ油脂を回収するための、より効率的で工業的に適した分別方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、XXX、X2Uを特定量含有する油脂を、特定量の脂肪酸低級アルキルエステルの存在下で、加熱融解し、次いで冷却することにより、脂肪酸アルキルエステル非存在下と比較して、XXX型トリグリセリドの結晶化に対してX2U型トリグリセリドの結晶化を十分に遅延できることを見出した。すなわち、本発明は、XXX、X2Uを特定量含有する油脂を、特定量の脂肪酸低級アルキルエステルの存在下で、加熱融解し、次いで冷却によりXXXに富む結晶を晶析させ、分別により液体部(X2Uに富むオレイン部)を回収することで、上記課題を解決できるとの知見に基づいてなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明の態様の1つは、トリグリセリド含量が60質量%以上であって、全トリグリセリド中にXXX型トリグリセリドを10〜70質量%及びX2U型トリグリセリドを10〜50質量%含む油脂と、脂肪酸低級アルキルエステルとを混合し、トリグリセリド含量が10〜50質量%、脂肪酸低級アルキルエステル含量が50〜80%質量%である晶析原料を調製し、該晶析原料を、加熱融解し、次いで冷却して結晶を晶析させ、次いで分別することにより、X2U型トリグリセリドに富んだ液体部(オレイン部)を得る油脂の分別方法である。ただし、Xは飽和脂肪酸残基、Uは不飽和脂肪酸残基を示す。
本発明の好ましい態様としては、前記トリグリセリド含量が60質量%以上であって、全トリグリセリド中にXXX型トリグリセリドを10〜70質量%及びX2U型トリグリセリドを10〜50質量%含む油脂が、パームステアリンである油脂の分別方法であり、また、エステル交換油の分別高融点画分である油脂の分別方法である。
また、本発明の好ましい態様としては、前記X2U型トリグリセリドに富んだ液体部(オレイン部)の全トリグリセリド中のXXX型トリグリセリド含有量が10質量%未満である油脂の分別方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、トリグリセリド中にX2Uと10質量%以上のXXXとを含有する油脂から、チョコレート用油脂等として口どけに悪影響を与えるXXXを排除すると同時に、有用なX2U型トリグリセリドを効率的に分画濃縮できるので、X2U型トリグリセリド製造におけるX2Uの回収率を有意に高めることができ、製造コストの低減及び品質の向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の分別方法に用いる油脂は、トリグリセリド含量が60質量%以上であって、全トリグリセリド中にXXX型トリグリセリドを10〜70質量%及びX2U型トリグリセリドを10〜50質量%含む油脂である。ここで、Xはトリグリセリドの飽和脂肪酸残基を表し、Uは不飽和脂肪酸残基を表す。XXX型トリグリセリド(XXX)は、3つの飽和脂肪酸残基からなるトリグリセリドを表し、X2U型トリグリセリド(X2U)は、2つの飽和脂肪酸残基と1つの不飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリドを表す。製菓製パン用途に有用であることから、飽和脂肪酸残基Xは、炭素数16〜22の飽和脂肪酸残基であることが好ましく、特にステアロイル基(S)、パルミトイル基(P)、ベヘノイル基(B)であることが好ましい。また同様の理由で、不飽和脂肪酸残基Uは、オレイル基(O)、リノロイル基(L)、リノレイル基(Ln)であるのが好ましい。さらに、X2U型トリグリセリドを構成する飽和脂肪酸残基としては、同一の飽和脂肪酸残基を有するものが好ましい。
なお、本発明の分別方法に用いる油脂は、グリセリド(モノグリセリド、ジグリセリド及びトリグリセリドの混合物)を指す。
【0011】
本発明の分別方法に用いる油脂は、トリグリセリド含量が70質量%以上であることが好ましく、全トリグリセリド中にXXX型トリグリセリドを20〜50質量%及びX2U型トリグリセリドを20〜50質量%含有することが好ましい。また、全トリグリセリド中のXXX型トリグリセリドとX2U型トリグリセリドの合計含量は、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、70〜90質量%であることが更に好ましい。本発明の分別方法に用いる油脂のトリグリセリド含量、全トリグリセリド中のXXX型トリグリセリド含量及びX2U型トリグリセリド含量が上記範囲にあると、XXX型トリグリセリドとX2U型トリグリセリドとを効率的に分別できるので好ましい。
【0012】
本発明の分別方法に用いる油脂の好ましい態様としては、トリグリセリド含量が90質量%以上であって、全トリグリセリド中のXXX含量が20〜70質量%、X2U含量が20〜50質量%である、例えば、パームステアリン、シア脂ステアリン分別高融点画分、サル脂ステアリン分別高融点画分などが挙げられる。本発明により、前記天然油脂の高融点画分(ステアリン部)を更に分別することで、製菓用油脂として有用なX2U型トリグリセリドの回収率を高めることができる。
【0013】
本発明の分別方法に用いる油脂のまた別の好ましい態様としては、例えば、2位にオレオイル基を50質量%以上有するトリグリセリドを脂肪酸低級アルキルエステル (脂肪酸自体を用いる場合も含む) とエステル交換反応を行い、次いで蒸留して得られた蒸留残渣の乾式分別によって得られる高融点画分を使用してもよい。より具体的には、トリオレオイルグリセリン、シア脂低融点部分 (例えばヨウ素価70〜80)、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイックローリノレン菜種油、ハイオレイック紅花油、パーム油、パーム分画油などの原料油脂に、飽和脂肪酸低級アルキルエステルを加え、1,3選択性リパーゼ、例えばリゾプス系リパーゼ、アスペルギルス系リパーゼ、ムコール系リパーゼ、パンクレアチックリパーゼ、米ヌカリパーゼなどを作用させて、エステル交換反応を行う。次いで蒸留により、未反応の飽和脂肪酸低級アルキルエステルや副生するオレイン酸などの脂肪酸及びその低級アルキルエステルを除いた残渣を得て、該残渣を乾式分別してXOX型トリグリセリドに富む低融点画分を取り除いた高融点画分(固体部、ステアリン部)を好適に使用できる。
【0014】
前記高融点画分は、X2U型トリグリセリド(XOX)を製造する際に産生する副生物あり、油脂(グリセリド)中のトリグリセリド含量が60質量%以上であって、全トリグリセリド中のXXX含量が10〜70質量%、X2U含量が10〜50質量%である。前記高融点画分から、本発明の分別方法によりX2U型トリグリセリドを回収することで、X2U型トリグリセリドの生産効率を高めることができる。
【0015】
前記高融点画分について更に詳細に説明する。前記高融点画分を産生する工程で使用される上記1,3選択性リパーゼとしては、リゾプス属のリゾプス デレマー(Rhizopus delemar)及びリゾプス オリザエ(Rhizopus oryzae)が好ましい。これらのリパーゼとしては、ロビン社の商品:ピカンターゼR8000や、天野エンザイム社の商品:リパーゼF−AP15等が挙げられるが、最も適したリパーゼとしては Rhizopus oryzae由来、天野エンザイム社の商品:リパーゼDF(Amano)15−K(リパーゼDともいう)が挙げられる。このものは粉末リパーゼである。なお、このリパーゼDF(Amano)15−Kについては、従来はRhizopus delemar由来の表記であった。ここで、使用するリパーゼとしては、リパーゼの培地成分等を含有したリパーゼ含有水溶液を乾燥して得られたものでもよい。粉末リパーゼとしては、球状で、水分含量が10質量%以下であるものを用いるのが好ましい。特に、リパーゼ粉末の90質量%以上が粒径1〜100μmであるのが好ましい。又、粉末リパーゼはpHが6〜7.5に調整されてなるリパーゼ含有水溶液を噴霧乾燥して製造されるものが好ましい。上記リパーゼを、大豆粉末を用いて造粒し、粉末化した造粒粉末リパーゼ(粉末リパーゼともいう)を用いるのも好ましい。また、市販の固定化リパーゼも好適に使用できる。例えば、ノボザイムズ社製の商品名Lipozyme RM IM、Lipozyme TL IM等が挙げられる。
【0016】
上記エステル交換反応においては、油脂(2位にオレオイル基を50質量%以上有するトリグリセリド)と脂肪酸低級アルキルエステルとを、質量比20:80〜50:50、好ましくは25:75〜45:55の割合で混合した反応原料に、上記1,3選択性リパーゼを添加して、常法でエステル交換反応を行うことができる。この場合、反応原料100質量部当り、リパーゼを0.01〜10質量部(好ましくは0.01〜2質量部、より好ましくは0.1〜1.5質量部)添加し、35〜100℃の温度(好ましくは35〜80℃、より好ましくは40〜60℃)で、0.1〜50時間(好ましくは0.5〜30時間、より好ましくは1〜20時間)エステル交換反応を行うのが好ましい。反応はバッチ式で行うのが好ましい。反応温度は反応基質である油脂が溶解する温度で酵素活性を有する温度であれば何度でもかまわない。最適な反応時間は、酵素添加量、反応温度などにより変化するので、適宜調整すれば良い。エステル交換反応後、蒸留して、未反応原料や副生する脂肪酸や、脂肪酸低級アルキルエステルを50質量%以下になるまで除き、18〜38℃、好ましくは22〜34℃で乾式分別を行うことで本発明の分別方法に用いる油脂を含む高融点画分が得られる。
【0017】
本発明の分別方法に用いる脂肪酸低級アルキルエステルとしては、炭素数16〜22の脂肪酸の低級アルコールエステルが好ましく、飽和脂肪酸低級アルキルエステル、不飽和脂肪酸低級アルキルエステル、またはそれらの混合物であってもよい。特に、炭素数1〜6のアルコールとのエステルが好ましく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールとのエステルが好ましい。中でも、食用油脂の加工という点からエタノールとのエステルが好ましい。
【0018】
本発明の分別方法に用いる晶析原料は、前記トリグリセリド含量が60質量%以上であって、全トリグリセリド中にXXX型トリグリセリドを10〜70質量%及びX2U型トリグリセリドを10〜50質量%含む油脂と、脂肪酸低級アルキルエステルとを混合することにより得られる、トリグリセリド含量が10〜50質量%、脂肪酸低級アルキルエステル含量が50〜80%質量%である混合物である。本発明の分別方法に用いる晶析原料は、トリグリセリド含量が15〜50質量%、脂肪酸低級アルキルエステル含量が50〜75質量%であることがより好ましく、トリグリセリド含量が20〜45質量%、脂肪酸低級アルキルエステル含量が55〜70質量%であることが更に好ましい。また、本発明の分別方法に用いる晶析原料中のトリグリセリドと脂肪酸低級アルキルエステルの合計含量は、80質量%以上であることが好ましい。本発明の分別方法に用いる晶析原料中のトリグリセリド含量と脂肪酸低級アルキルエステル含量が上記範囲にある場合、XXX型トリグリセリドとX2U型トリグリセリドとを効率的に分別できるので好ましい。
【0019】
本発明の分別方法に用いる晶析原料を調製するには、前記トリグリセリド含量が60質量%以上であって、全トリグリセリド中にXXX型トリグリセリドを10〜70質量%及びX2U型トリグリセリドを10〜50質量%含む油脂と、脂肪酸低級アルキルエステルとを、質量比で20:80〜50:50の割合で混合することが好ましく、質量比25:75〜50:50の割合で混合することがより好ましく、質量比30:70〜45:55の割合で混合することが更に好ましい。
【0020】
本発明の分別方法に用いる晶析原料の好ましい態様としては、例えば、油脂中のトリグリセリド含が90質量%以上であり、全トリグリセリド中のXXX含量が20〜70質量%、X2U含量が20〜50質量%であるパームステアリンと、脂肪酸低級アルキルエステルとを、例えば、質量比で30:70〜45:55の割合で混合した混合物が挙げられる。
【0021】
本発明の分別方法に用いる晶析原料のまた別の好ましい態様としては、例えば、油脂(グリセリド)中のトリグリセリド含量が60質量%以上であって、全トリグリセリド中のXXX含量が10〜70質量%、X2U含量が10〜50質量%である前記高融点画分と、脂肪酸低級アルキルエステルとを、例えば、質量比で30:70〜45:55の割合で混合した混合物が挙げられる。
【0022】
本発明の分別方法は、晶析原料に脂肪酸低級アルキルエステルを50〜80質量%含有する以外は、通常の油脂の乾式分別と同様に行うことができる。乾式分別は、一般的には加熱融解させた晶析原料を槽内で攪拌しながら冷却し、結晶を析出させた後、圧搾及び/又はろ過によって高融点画分(固体部)と低融点画分(液体部)を得ることにより行うことができる。加熱融解は、晶析原料と脂肪酸低級アルキルエステルの両者が相互に溶解して液状にできる温度であればよく、晶析原料に含まれるトリグリセリド及び脂肪酸低級アルキルエステルの含量及び組成によっても異なるが、例えば、60〜100℃、好ましくは、70〜90℃である。分別温度は、晶析原料に含まれるトリグリセリド及び脂肪酸低級アルキルエステルの含量及び組成によっても異なるが10〜40℃、より好ましくは、15〜35℃で行うことができる。
【0023】
以上の工程を経ることにより、トリグリセリド含量が60質量%以上であって、全トリグリセリド中にXXX型トリグリセリドを10〜70質量%及びX2U型トリグリセリドを10〜50質量%含む油脂と、脂肪酸低級アルキルエステルとを混合し、トリグリセリド含量が10〜50質量%、脂肪酸低級アルキルエステル含量が50〜80%質量%である晶析原料から、X2U型トリグリセリドに富んだ液体部(オレイン部)を得ることができる。
【0024】
本発明の分別方法により得られるX2U型トリグリセリドに富んだ液体部(オレイン部)は、全トリグリセリド中のXXX含量が10質量%未満であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、全トリグリセリド中のX2U含量が50質量%を超えることが好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。本発明の分別方法により得られるX2U型トリグリセリドに富んだ液体部(オレイン部)は、例えば単体もしくはその他油脂と混合して、製菓製パン用途に使用できる。また、更に分別工程を経ることにより、全トリグリセリド中のX2U含量が70質量%以上である高純度X2U型油脂を製造する原料油脂として使用できる。
【0025】
本発明の油脂の分別方法は、また、エステル交換と組み合わせて、X2U型トリグリセリドを製造する工程に組み込んで利用することが好ましい。すなわち、油脂のみ、もしくは、油脂と脂肪酸及び/または脂肪酸低級アルキルエステルとの混合物をエステル交換することにより、X2U型トリグリセリドを含むエステル交換油を得、該エステル交換油を分別することで、低融点もしくは中融点画分にX2U型トリグリセリドに富む油脂を得、残余の高融点画分を本発明の分別方法に供することにより、XXX含量が低くX2U型トリグリセリドに富んだ低融点画分(液体部)を回収し、該低融点画分を例えば分別前のX2U型トリグリセリドを含むエステル交換油に戻すことにより、X2U型トリグリセリドの回収率を高める製造工程とすることができる。
【0026】
本発明の油脂の分別方法とエステル交換とを組み合わせたX2U型トリグリセリド製造の好ましい態様としては、前述のように、2位にオレオイル基を50質量%以上有するトリグリセリドを飽和脂肪酸低級アルキルエステル (脂肪酸自体を用いる場合も含む) とエステル交換反応を行い、次いで蒸留して得られた蒸留残渣の乾式分別によって得られる、油脂(グリセリド)中のトリグリセリド含量が60質量%以上であって、全トリグリセリド中のXXX含量が10〜70質量%、X2U含量が10〜50質量%である前記高融点画分と、脂肪酸低級アルキルエステルとを混合して、トリグリセリド含量が10〜50質量%、脂肪酸低級アルキルエステル含量が50〜80%質量%である晶析原料を調製し、該晶析原料を、加熱融解し、次いで冷却して結晶を晶析させ、次いで分別することにより、全トリグリセリド中のXXX含量が10質量%未満であり、X2U含量が50質量%を超える、X2U型トリグリセリドに富んだ液体部(オレイン部)を回収し、該液体部を分別前のエステル交換油に戻すことでX2U型トリグリセリドの回収率を高める製造工程が挙げられる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の内容に限定して解釈されるものではない。
【0028】
〔実施例1〕
パームステアリン(ヨウ素価30)120.0gに、パルミチン酸エチルエステル(商品名:エチルパルミテート、(株)井上香料製造所製)180.5gを混合し、脂肪酸エチルエステル含量が60.1質量%である晶析原料1を300.5g得た。得られた晶析原料1 (300.5g) を80℃にて完全溶解後、撹拌を行いながら15℃にて3時間冷却し、圧搾ろ過(圧搾圧力7kgf/cm、日清オイリオ自作加圧ろ過機使用)にて固液分離を行い、固体部1(86.6g)及び液体部1(193.1g)を得た。圧搾ろ過前の晶析原料1は、流動性が非常に高く、スムーズに圧搾機に導入され、圧搾ろ過することができた。表1に各工程油の分析値を示した。尚、脂肪酸エチルエステル含量およびトリグリセリド(TAG)含量・組成の分析はGLC法を用いて行った。
【0029】
【表1】


本発明の分別方法によって得られる液体部1は、晶析原料1と比較して、全トリグリセリド中のXXX含量が有意に低く(1.8質量%)、X2Uが有意に濃縮(63.3質量%)されていることが分る。
【0030】
〔実施例2〕
(粉末リパーゼ組成物Aの調製)
天野エンザイム社の商品:リパーゼDF(Amano)15−K(リパーゼDともいう)の酵素溶液(150000U/ml)に、予めオートクレーブ滅菌(121℃、15分)を行い、室温程度に冷やした脱臭全脂大豆粉末(脂肪含有量が23質量%、商品名:アルファプラスHS−600、日清コスモフーズ(株)社製)10%水溶液を攪拌しながら3倍量加え、0.5N NaOH溶液でpH7.8に調整後、噴霧乾燥(東京理科器械(株)社、SD−1000型)を行い、粉末リパーゼ組成物Aを得た。
【0031】
ハイオレイックヒマワリ油(商品名:オレインリッチ、昭和産業(株)製)6400gに、ステアリン酸エチル(商品名:エチルステアレート、(株)井上香料製造所製)9600gを混合し、粉末リパーゼ組成物Aを0.3質量%添加し、50℃で16時間攪拌反応させた。ろ過処理により酵素粉末を除去し、反応物2を15900g得た。得られた反応物2(15808g)を薄膜蒸留にかけ、蒸留温度140℃にて反応物から脂肪酸エチルを除去し、トリグリセリド含量が80.2質量%、脂肪酸エチル含量が18.2質量%である蒸留残渣2−1(8052g)及び蒸留留分2(7828g)を得た。得られた蒸留残渣2−1(8000g)を50℃にて完全溶解後、撹拌を行いながら27℃で3時間冷却し、圧搾ろ過(圧搾圧力7kgf/cm、日清オイリオ自作加圧ろ過機使用)にて固液分離を行い、固体部2−1(532.4g)及び液体部2−1(7068g)を得た。得られた固体部2−1(120.3g)に、蒸留留分2(179.8g)を添加し、全油脂組成物中の脂肪酸エチルエステル含量が66.6%の晶析原料2を300.1g得た。得られた晶析原料2(300.1g)を80℃にて完全溶解後、撹拌を行いながら30℃にて3時間冷却し、圧搾ろ過(圧搾圧力7kgf/cm、日清オイリオ自作加圧ろ過機使用)にて固液分離を行い、固体部2−2(66.1g)及び液体部2−2(211.6g)を得た。圧搾ろ過前の晶析原料2は、流動性が非常に高く、スムーズに圧搾機に導入され、圧搾ろ過することができた。表2に各工程油の分析値を示した。尚、脂肪酸エチルエステル含量およびトリグリセリド(TAG)含量・組成の分析はGLC法を用いて行った。
【0032】
【表2】


本発明の分別方法によって得られる液体部2−2は、晶析原料2と比較して、全トリグリセリド中のXXX含量が有意に低く(2.9質量%)、X2Uが有意に濃縮(63.0質量%)されていることが分る。
【0033】
〔比較例1〕
実施例2の方法で得た固体部2−1(250g)を、蒸留温度200℃にて水蒸気蒸留を行い、脂肪酸エチルエステルを除去し、脂肪酸エチルエステル含量が痕跡%である蒸留残渣2−2(168.4g)を得た。得られた蒸留残渣(150g)を80℃にて完全溶解後、撹拌を行いながら45℃で3時間冷却し、圧搾ろ過(圧搾圧力7kgf/cm、日清オイリオ自作加圧ろ過機使用)にて固液分離を行い、固体部2−3(66.9g)及び液体部2−3(64.7g)を得た。圧搾ろ過前の蒸留残渣2−2は、ろ過機へ送液する際の流動性が悪く、また微細な結晶がろ液(液体部)に漏れており、固液分離が不十分であった。表3に各工程油の分析値を示した。尚、脂肪酸エチルエステル含量およびトリグリセリド(TAG)含量・組成の分析はGLC法を用いて行った。
【0034】
【表3】


晶析原料に脂肪酸低級アルキルエステルを用いることのない比較例1の液体部2−3では、全トリグリセリド中のXXXの除去が十分でなく(17.7質量%)、X2Uの濃縮(49.1質量%)も十分ではないことが分る。
【0035】
〔参考例1〕
比較例1と同様の方法で得た蒸留残渣2−2(100g)を、80℃にて完全溶解しアセトン300gを添加した後に、撹拌を行いながら35℃で3時間冷却し、水流アスピレーターを用いて減圧ろ過(ヤマト科学株式会社 ハンディアスピレーターWP51)にて固液分離を行った。減圧ろ過の際、固体部を新たに150gのアセトンで洗浄し、結晶表面に残存している液体部を洗浄する操作を行った。得られた固体部と液体部から加熱減圧処理によってアセトンを完全に除去し、固体部2−4 (47.2g) 及び液体部2−4 (52.5g) を得た。表4に各工程油の分析値を示した。尚、脂肪酸エチルエステル含量およびトリグリセリド(TAG)含量・組成の分析はGLC法を用いて行った。
【0036】
【表4】


実施例1、2と比較すると、本発明の分別方法は、溶剤分別と同等以上の分別精度が得られることが分る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリグリセリド含量が60質量%以上であって、全トリグリセリド中にXXX型トリグリセリド(式中、Xは飽和脂肪酸残基を示す)を10〜70質量%及びX2U型トリグリセリド(式中、Xは飽和脂肪酸残基、Uは不飽和脂肪酸残基を示す)を10〜50質量%含む油脂と、脂肪酸低級アルキルエステルとを混合し、トリグリセリド含量が10〜50質量%、脂肪酸低級アルキルエステル含量が50〜80%質量%である晶析原料を調製し、該晶析原料を、加熱融解し、次いで冷却して結晶を晶析させ、次いで分別することにより、X2U型トリグリセリドに富んだ液体部(オレイン部)を得ることを特徴とする油脂の分別方法。
【請求項2】
前記トリグリセリド含量が60質量%以上であって、全トリグリセリド中にXXX型トリグリセリドを10〜70質量%及びX2U型トリグリセリドを10〜50質量%含む油脂が、パームステアリンであることを特徴とする請求項1記載の油脂の分別方法。
【請求項3】
前記トリグリセリド含量が60質量%以上であって、全トリグリセリド中にXXX型トリグリセリドを10〜70質量%及びX2U型トリグリセリドを10〜50質量%含む油脂が、エステル交換油の分別高融点画分であることを特徴とする請求項1記載の油脂の分別方法。
【請求項4】
前記X2U型トリグリセリドに富んだ液体部(オレイン部)の全トリグリセリド中のXXX型トリグリセリド含有量が10質量%未満であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の油脂の分別方法。

【公開番号】特開2013−14749(P2013−14749A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−127696(P2012−127696)
【出願日】平成24年6月5日(2012.6.5)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】