説明

油脂組成物および油脂組成物の製造方法

【課題】体脂肪蓄積が少なく、良好な調理適性及び低温安定性を有する油脂組成物及びその製法の提供
【解決手段】
菜種油と炭素数8〜10の飽和脂肪酸から構成される混酸基トリグリセリドとをエステル交換反応して得られる油脂組成物であって、油脂組成物を構成する全脂肪酸に占める中鎖脂肪酸の割合が5〜23質量%で、全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に2つ有するトリグリセリドの割合が3〜20質量%で、油脂組成物を構成する全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に3つ有するトリグリセリドの割合が2質量%以下であり、かつ油脂組成物を構成するすべての長鎖脂肪酸に占める長鎖飽和脂肪酸の割合が20質量%以下である油脂組成物に、乳化剤を配合した油脂組成物、及び乳化剤配合前の油脂組成物の製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食用に供される油脂組成物および油脂組成物の製造法方法に関する。さらに詳しくは体脂肪蓄積が少なく、食用油としての調理適性と風味に優れ、低温での安定性を有する油脂組成物および油脂組成物の製造法方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は体脂肪が過剰に蓄積した状態であり、糖尿病、高脂血症などの代謝異常や高血圧、虚血性心疾患など循環器疾患を始めとして、多くの疾病を伴いやすいことはよく知られている。厚生省が行っている国民栄養調査の結果によれば、成人の7人に1人は肥満者であることから、肥満は欧米だけでなく我が国においても身近な問題である。食事中に含まれる脂肪は、体脂肪の蓄積と最も関係の深い栄養素の1つであり、過剰な脂肪の摂取は肥満をもたらす可能性がある。しかし、脂肪には独特の旨味があり、極端に脂肪を減らした食事は満足度の低いものとなりやすい。また、揚げ物や炒め物調理を行う際、食用油は熱媒体として必要不可欠である。
【0003】
このような状況を打開するため、いわゆる脂肪代替品が開発されている。しかし、これらの中には、安全性、物性、調理適性、風味の点から見て十分満足できるものはない状況である。例えば、ショ糖脂肪酸エステルは消化管で吸収されず糞便中に排泄されることから、低カロリー油として使用できる旨が開示されている(特許文献1:米国特許第3600186号明細書)。米国内においては、塩味スナック菓子を対象に使用が許可され、ショ糖脂肪酸エステルを使用したポテトチップがすでに市販されているが、ショ糖脂肪酸エステルを使用した商品には、「腹部痙攣や軟便を引き起こす可能性があること」、「脂溶性ビタミンの吸収を阻害すること」を表示することが義務付けられている。蛋白質および炭水化物のエネルギー密度は、脂肪の半分以下である。そこで、蛋白質や炭水化物に脂肪様の物性や風味が出るように加工することによって、低カロリーの脂肪代替品を提供し得ることが知られている(非特許文献1:栄養学レビュー、第4巻、第4号、23〜33頁、1996年)。これらの脂肪代替品を利用することにより、低カロリー化したアイスクリーム、ベーカリー製品、ケーキ等を作ることが可能である。しかし、熱に対する耐性が乏しくフライや炒め物の熱媒体として使用することはできないなどの欠点がある。
【0004】
特表平4−501812号公報(特許文献2)には、長鎖脂肪酸と短鎖脂肪酸から構成されるトリグリセリドにより、低カロリー油脂が提供でき得ることが開示されている。しかし、短鎖脂肪酸からなるトリグリセリドは特有の臭いを有していることから、利用可能な調理品が限られ汎用性のある食用油として適さない。また、中鎖脂肪酸はエネルギー化されやすいことから体脂肪蓄積が少ないことが知られている(非特許文献2:J.Lipid Res.37、708−726(1996))。しかし、中鎖脂肪酸から構成されるトリグリセリドは本来安全性の高いものであるが、一度に多量に摂取した場合、下痢、吐き気、腹痛、胸焼け、食欲不振などの症状を起こすことが報告されている。特開平4−300826号公報(特許文献3)、特開平8−60180号公報(特許文献4)および特開平10−176181号公報(特許文献5)には、ジグリセリドを有効成分とする体脂肪蓄積が少ない油脂組成物が開示されている。しかし、ジグリセリドを豊富に含む油脂組成物の安全性は、完全に証明されているわけではない。また、高濃度のジグリセリドを低コストで製造することは難しく、経済的見地から汎用的に使用しにくい欠点がある。さらに特開平8−269478号公報(特許文献6)には、ジグリセリドおよびトリグリセリドからなる油脂組成物成分中、分子内に中鎖脂肪酸残基を2つ含有するトリグリセリドを31質量%以上含む体脂肪蓄積の少ない油脂組成物が開示されている。この発明もまたジグリセリドを有効成分とするため、前記特開平4−300826号公報、特開平8−60180号公報および特開平10−176181号公報と同様の問題を抱えている。また、多量の中鎖脂肪酸を含むため発煙点が低く、泡立ちが著しいことからフライ調理に適さないなどの欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第3,600,186号明細書
【特許文献2】特表平4−501812号公報
【特許文献3】特開平4−300826号公報
【特許文献4】特開平8−60180号公報
【特許文献5】特開平10−176181号公報
【特許文献6】特開平8−269478号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】栄養学レビュー、第4巻、第4号、23〜33頁、1996年
【非特許文献2】J.Lipid Res.37、708−726(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、体脂肪蓄積が少なく、通常の食用油と同等の調理適性を持ち、風味良好で安全性が高く、さらに低温安定性を有する油脂組成物および油脂組成物の製造法方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、全脂肪酸残基に占める中鎖脂肪酸残基の割合、および全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に2つ有するトリグリセリドの割合が体脂肪蓄積の度合いと密接に関連すること、油脂組成物を構成する全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に3つ有するトリグリセリドの割合が食用油としての調理適正及び風味と密接に関連すること、さらに油脂組成物を構成するすべての長鎖脂肪酸(炭素数14〜22の飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸)に占める長鎖飽和脂肪酸(炭素数14〜22の飽和脂肪酸)の割合が耐寒性と密接に関連することを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、菜種油と炭素数8〜10の飽和脂肪酸から構成される混酸基トリグリセリドとをエステル交換反応して得られる油脂組成物であって、油脂組成物を構成する全脂肪酸に占める中鎖脂肪酸の割合が5〜23質量%で、全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に2つ有するトリグリセリドの割合が〜20質量%で、油脂組成物を構成する全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に3つ有するトリグリセリドの割合が2質量%以下であり、かつ油脂組成物を構成するすべての長鎖脂肪酸(炭素数14〜22の飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸)に占める長鎖飽和脂肪酸(炭素数14〜22の飽和脂肪酸)の割合が20質量%以下である油脂組成物に、乳化剤を配合した油脂組成物に関する。
本発明は、また、上記油脂組成物に特定の添加剤を配合して得られる調理用組成物に関する。
本発明は、また、菜種油と炭素数8〜10の飽和脂肪酸から構成される混酸基トリグリセリドとを原料とする油脂組成物であって、(1)油脂組成物を構成する全脂肪酸に占める中鎖脂肪酸の割合が5〜23質量%で、(2)全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に2つ有するトリグリセリドの割合が3〜20質量%で、(3)油脂組成物を構成する全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に3つ有するトリグリセリドの割合が2質量%以下であり、かつ(4)油脂組成物を構成するすべての長鎖脂肪酸(炭素数14〜22の飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸)に占める長鎖飽和脂肪酸(炭素数14〜22の飽和脂肪酸)の割合が20質量%以下である油脂組成物の製造法方法であって、菜種油と炭素数8〜10の飽和脂肪酸から構成される混酸基トリグリセリドとを前者/後者の質量比=71/29〜97/3で混合し、ナトリウムメチラート又は脂質分解酵素を用いて、上記(1)〜(4)のパラメータの条件を満たすように、エステル交換反応を行う該製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の油脂組成物は、体脂肪蓄積が少なく、通常の食用油と同等の調理適性を持ち、風味良好で安全性が高く、さらに低温安定性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を詳しく説明する。
本発明の油脂組成物(本発明の製造方法により得られる油脂組成物を含む;以下同様)は主としてトリグリセリドからなる。「主として」は、油脂組成物中に、トリグリセリドが85質量%以上、好ましくは95質量%以上含まれていることを意味するものとする。
本発明で中鎖脂肪酸とは炭素数が6〜12の飽和脂肪酸をいうものとする。例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸が挙げられ、炭素数が8〜10の飽和脂肪酸、特にカプリル酸およびカプリン酸が好ましい。本発明で長鎖脂肪酸とは炭素数が14〜22の飽和および不飽和脂肪酸をいうものとする。長鎖脂肪酸としては炭素数が14〜22のもの、例えばミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸等の長鎖飽和脂肪酸、ミリストレイン酸、ペンタデセン酸、パルミトレイン酸、ヘキサデカトリエン酸、ヘプタデセン酸、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、オクタデカテトラエン酸、イコセン酸、イコサジエン酸、イコサトリエン酸、イコサテトラエン酸、アラキドン酸、イコサペンタエン酸、ドコセン酸、ドコサジエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の長鎖不飽和脂肪酸が挙げられる。脂肪酸残基は脂肪酸からカルボキシル基のOHを取った基である。
【0011】
本発明の油脂組成物においては、油脂組成物を構成する全脂肪酸に占める中鎖脂肪酸の割合が5〜23質量%で、かつ全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に2つ有するトリグリセリドの割合が1〜20質量%であることが必要である。この範囲外では体脂肪蓄積が少ないという特長が生じない。上記中鎖脂肪酸の割合は好ましくは6〜23質量%であり、上記トリグリセリドの割合は好ましくは3〜20質量%である。
また、油脂組成物を構成する全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に3つ有するトリグリセリドの割合が3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることがさらに一層好ましい。この割合が3質量%を越えると、調理時に発煙、泡立ちが増加し、フライ用の油脂として適さなくなる。該割合が1質量%以下であると、発煙、泡立ちに格段の改善が見られる。
さらに、油脂組成物を構成する全長鎖脂肪酸に占める、長鎖飽和脂肪酸の割合が20質量%以下であることが必要であり、15質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがさらに好ましい。この割合が20質量%を越えると低温での安定性が低下し、油脂組成物に油脂の結晶化が見られるようになるので、生食用には通常適さなくなる。
【0012】
本発明の体脂肪蓄積が少ない油脂組成物は、原料としての油脂と炭素数が8〜10の飽和脂肪酸から構成される混酸基トリグリセリドとを適宜混合した後、ナトリウムメチラートを触媒としてまたは脂質分解酵素の存在下にエステル交換反応を行い、この際に、油脂組成物を構成する全脂肪酸に占める中鎖脂肪酸の割合、および全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に2つ有するトリグリセリドの割合が前記特定範囲内に入るようにエステル交換反応を調整することにより得ることができる。
上記エステル交換反応に際し、上記調整に加え、油脂組成物を構成する全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に3つ有するトリグリセリドの割合、および/または油脂組成物を構成する全長鎖脂肪酸に占める長鎖飽和脂肪酸の割合が前記特定範囲内に入るように調整することにより、体脂肪蓄積が少なく、かつフライ時の発煙、泡立ちが低減され、および/または低温安定性に優れる油脂組成物を得ることができる。
【0013】
原料油脂としては、本発明では、菜種油を用いる
【0014】
炭素数が8〜10の飽和脂肪酸から構成される混酸基トリグリセリドとしては、一般にMCT(Medium Chain Triglycerides)と称せられる、ヤシ油分解脂肪酸等の炭素数が8〜10の飽和脂肪酸から構成される混酸基トリグリセリド、例えばカプリル酸/カプリン酸=60/40〜75/25(質量比)のトリグリセリドが好適に使用できる。
【0015】
油脂組成物を構成する全脂肪酸に占める中鎖脂肪酸の割合、および全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に2つ有するトリグリセリドの割合、必要な場合の、油脂組成物を構成する全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に3つ有するトリグリセリドの割合、および、必要な場合の、油脂組成物を構成する全長鎖脂肪酸に占める長鎖飽和脂肪酸の割合は、原料油脂組成を勘案し、原料油脂と中鎖脂肪酸との使用比率を調整し、エステル交換反応中の反応生成物のトリグリセリド組成を測定することによって調整できる。
【0016】
ナトリウムメチラートを触媒とするエステル交換反応を行う場合、原料油脂と炭素数が8〜10の飽和脂肪酸から構成される混酸基トリグリセリドとを前者/後者の質量比=71/29〜97/3で混合し、混合物を100mmHg以下の減圧下で80〜120℃に加熱し、原料混合物に含まれる気体成分および水分を除去する。これにナトリウムメチラート0.02〜0.5質量%を添加し、常圧・窒素気流下あるいは10mmHg以下の減圧下で10〜60分間、80〜120℃で攪拌することによりエステル交換反応を行う。反応の完了はガスクロマトグラフィーにより反応生成物のトリグリセリド組成を測定することにより確認する。反応の停止は反応生成物に水を添加するかリン酸などの酸を添加することにより行う。その後、触媒および過剰の酸を除去するために十分な水洗を行い、乾燥後、反応生成物を常法により脱色、脱臭する。
【0017】
脂質分解酵素を用いてエステル交換反応を行う場合、原料油脂と炭素数が8〜10の飽和脂肪酸から構成される混酸基トリグリセリドとを前者/後者の質量比=71/29〜97/3で混合し、脂質分解酵素の活性が十分に発揮される反応温度である40〜100℃の範囲に調温する。これに脂質分解酵素を原料混合物に対して0.005〜10質量%の割合で添加し、2〜48時間の範囲でエステル交換反応を行う。この反応は常圧下で窒素気流中で行うことが望ましい。反応の完了はガスクロマトグラフィーにより反応生成物のトリグリセリド組成を測定することにより確認する。反応の停止は酵素を濾過により除去することにより行う。反応生成物は水洗、乾燥の後、常法により脱色、脱臭する。なお、中鎖脂肪酸を使用した場合は、反応の停止後に遊離脂肪酸を薄膜式エバポレーターで除去しておく。
脂質分解酵素を用いたエステル交換反応が不十分であると、中鎖脂肪酸残基を分子内に3つ有するトリグリセリドの割合が多くなる。中鎖脂肪酸残基を分子内に3つ有するトリグリセリドの割合が多い油脂組成物は、体脂肪蓄積が少ないという特長はあるものの、連続したフライ調理時において発煙、泡立ちが激しく起こり好ましくない。
脂質分解酵素としては、アルカリゲネス属、キャンデイダ属、リゾプス属、ムコール属またはシュードモナス属由来のリパーゼや、肝臓由来のホスホリパーゼA等が挙げられるが、特にキャンデイダ属またはリゾプス属由来のリパーゼが好ましい。
【0018】
本発明の油脂組成物に乳化剤を含有させることでフライ適性、特に泡立ち抑制をさらに向上させることができる。乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、コハク酸モノグリセリド、モノグリセリド、ジグリセリド、ソルビトール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。本発明では上記乳化剤の少なくとも1種が選択でき、油脂組成物への添加量は、乳化剤全体として0.1〜6質量%が好ましく、さらに好ましくは0.3〜5質量%である。
ショ糖脂肪酸エステルはショ糖と炭素数6〜22の飽和もしくは不飽和脂肪酸とのエステルを包含するが、全水酸基の平均置換度が37.5〜87.5%であり、全ショ糖脂肪酸エステルに占めるトリエステル以上のポリエステルの割合が85質量%以上であることが好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルはトリグリセリン以上で好ましくはデカグリセリンまでのポリグリセリンと炭素数6〜22の飽和もしくは不飽和脂肪酸とのエステルを包含するが、全水酸基の平均置換度が20〜80%であることが好ましい。モノグリセリド、ジグリセリドはグリセリンもしくはジグリセリンと炭素数6〜22の飽和もしくは不飽和脂肪酸とのモノエステル、ジエステルをそれぞれ包含するが、モノグリセリドが好ましい。コハク酸モノグリセリドとしては、コハク酸とモノグリセリドもしくはジグリセリドとを3:1〜0.1:1でエステル化したコハク酸モノグリセリドが好ましい。ソルビトール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルは、ソルビトールもしくはソルビタンと炭素数6〜22の飽和もしくは不飽和脂肪酸とのモノ〜トリエステルが好ましい。上記で炭素数6〜22の飽和もしくは不飽和脂肪酸の例としては、中鎖脂肪酸および長鎖脂肪酸の例として挙げたものが挙げられる。
【0019】
乳化剤の組み合わせ使用については、本発明の油脂組成物に対して、ショ糖脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種を0.1〜3質量%、コハク酸モノグリセリドを0.01〜2質量%、およびモノグリセリド、ソルビトール脂肪酸エステルおよびソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種を0.1〜3質量%、該乳化剤の総量が0.3〜5質量%となるように、添加、含有させるのが、フライ適性、特に泡立ち抑制のさらなる向上のため、もっとも好ましい。
【0020】
本発明の油脂組成物は、そのままでもしくは調理用油脂組成物に通常用いられる添加剤を配合して、調理用油脂組成物として使用することができる。
かかる添加剤としては、保存安定性向上、酸化安定性向上、熱安定性向上、低温下での結晶化抑制等を目的としたポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ビタミンE、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、リン脂質、オリザノール等、成人病予防作用、生活習慣病予防作用、生体内酸化抑制作用、肥満症予防作用を期待したビタミンE、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、リン脂質、オリザノール等が挙げられる。
【0021】
本発明の調理用油脂組成物は、菜種油、コーン油、紅花油、大豆油といった一般に市販されている食用油と同等あるいはそれ以上の風味を持ち、炒め物、揚げ物、マリネなどの調理に使用することができることはもちろんのこと、油脂を含有する食品であるドレッシング、マヨネーズ、マーガリン、菓子類、ケーキ、飲料等にも使用可能である。調理品の種類によって風味の特性は異なるが、素材の味を生かしたさっぱりとした料理を作ることが可能である。また、フライ調理時における油のハネ度合いは、通常の食用油と同等あるいはそれ以下である。また、本発明の調理用油脂組成物を適量継続的に摂取することにより、血中脂質濃度が低下する作用も期待できる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。
実施例1
菜種白絞油(日清製油(株)製)80質量部と構成脂肪酸が質量比でカプリル酸/カプリン酸=3/1であるMCT20質量部とを混合後、減圧下120℃で攪拌し、脱気および脱水処理を行った。これに触媒としてナトリウムメチラート0.1質量部を加え、120℃で30分間、ランダムエステル交換反応を行った。反応生成物を常法により水洗、乾燥後、脱色、脱臭して油脂組成物1を得た。また、油脂組成物1に対して、ショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ(株)製、商品名リョートーシュガーエステルO−170)2.5質量%、コハク酸モノグリセリド(理研ビタミン(株)製、商品名ポエムB−10)0.1質量%、ソルビタン脂肪酸エステル(理研ビタミン(株)製、商品名ポエムO−80)1質量%を添加して油脂組成物2を得た。油脂組成物1、2のトリグリセリド組成および脂肪酸組成をそれぞれカラムGS−1を用いたガスクロマトグラフィーおよび「基準油脂分析試験法(1996)」に準じて測定した(以下の実施例および比較例でも同様)。結果を表1に示す。
【0023】
参考例1
大豆サラダ油(日清製油(株)製)85質量部と構成脂肪酸が質量比でカプリル酸/カプリン酸=3/1であるMCT15質量部との混合物にリパーゼQL(名糖産業(株)製)0.1質量部を添加し、攪拌下60℃で15時間、エステル交換反応を行った。反応生成物から酵素を濾別し、濾液を水洗、乾燥後、脱色、脱臭して油脂組成物3を得た。油脂組成物3のトリグリセリド組成および脂肪酸組成を表1に示す。
【0024】
参考例2
パーム油(日清製油(株)製)77質量部と質量比でカプリル酸/カプリン酸=1/1の中鎖脂肪酸混合物23質量部とを混合後、混合物にリパーゼQL(名糖産業(株)製)0.1質量部を添加し、攪拌下60℃で15時間、エステル交換反応を行った。反応後酵素を濾別し、濾液中の遊離脂肪酸を薄膜式エバポレーターで除去後、脱色、脱臭して油脂組成物4を得た。油脂組成物4のトリグリセリド組成および脂肪酸組成を表1に示す。
【0025】
参考例3
コーン油(日清製油(株)製)77質量部と質量比でカプリル酸/カプリン酸=1/1の中鎖脂肪酸混合物23質量部とを混合後、混合物にリパーゼQL(名糖産業(株)製)0.1質量部を添加し、攪拌下60℃で15時間、エステル交換反応を行った。反応後酵素を濾別し、濾液中の遊離脂肪酸を薄膜式エバポレーターで除去後、脱色、脱臭して油脂組成物5を得た。油脂組成物5のトリグリセリド組成および脂肪酸組成を表1に示す。
【0026】
実施例
菜種白絞油(日清製油(株)製)93質量部と構成脂肪酸が質量比でカプリル酸/カプリン酸=3/1であるMCT7質量部とを混合後、減圧下120℃で攪拌し、脱気および脱水処理を行った。これに触媒としてナトリウムメチラート0.1質量部を加え、120℃にて30分間、ランダムエステル交換反応を行った。反応生成物を常法により水洗、乾燥後、脱色、脱臭して油脂組成物6を得た。油脂組成物6のトリグリセリド組成および脂肪酸組成を表2に示す。
【0027】
実施例
菜種白絞油(日清製油(株)製)90質量部と構成脂肪酸が質量比でカプリル酸/カプリン酸=3/1であるMCT10質量部とを混合後、減圧下120℃で攪拌し、脱気および脱水処理を行った。これに触媒としてナトリウムメチラート0.1質量部を加え、120℃にて30分間、ランダムエステル交換反応を行った。反応生成物を常法により水洗、乾燥後、脱色、脱臭して油脂組成物7を得た。油脂組成物7のトリグリセリド組成および脂肪酸組成を表2に示す。
【0028】
参考例
参考例1と同じ混合物にリパーゼQL(名糖産業(株)製)0.1質量部を添加し、攪拌下60℃で3時間、エステル交換反応を行った。反応生成物から酵素を濾別し、濾液を水洗、乾燥後、脱色、脱臭して油脂組成物8を得た。油脂組成物8のトリグリセリド組成および脂肪酸組成を表2に示す。
【0029】
比較例1
菜種白絞油(日清製油(株)製)75質量部と構成脂肪酸が質量比でカプリル酸/カプリン酸=3/1であるMCT25質量部とを混合後、減圧下120℃で攪拌し、脱気および脱水処理を行った。これに触媒としてナトリウムメチラート0.1質量部を加え、120℃で30分間、ランダムエステル交換反応を行った。反応生成物を常法により水洗、乾燥後、脱色、脱臭して油脂組成物9を得た。油脂組成物9のトリグリセリド組成および脂肪酸組成を表3に示す。
【0030】
比較例2
菜種白絞油(日清製油(株)製)97質量部と構成脂肪酸が質量比でカプリル酸/カプリン酸=3/1であるMCT3質量部とを混合後、減圧下120℃で攪拌し、脱気および脱水処理を行った。これに触媒としてナトリウムメチラート0.1質量部を加え、120℃で30分間、ランダムエステル交換反応を行った。反応生成物を常法により水洗、乾燥後、脱色、脱臭して油脂組成物10を得た。油脂組成物10のトリグリセリド組成および脂肪酸組成を表3に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
実施例
4週齢のウィスター系雄性ラットに、大豆油(日清製油(株)製)(対照)(トリグリセリド組成および脂肪酸組成を表4に示す)または油脂組成物1、6、7、9もしくは10を25質量%添加した飼料を8週間自由摂取させた。飼料の組成を表5に示す。必須脂肪酸不足を防ぐために、すべての飼料に対して大豆油を3質量%添加した。ビタミンおよびミネラルは、アメリカ栄養学会が推奨したものを用い、飼料への添加量はエネルギー密度により調整した。実験食投与8週間後に各群8匹ずつ解剖し、内臓脂肪質量を測定した。また、皮下脂肪量を測定するため、屍体を凍結乾燥し脂肪含量をソックスレーを用いて測定した。8週間飼育したラットの結果を表6に示す。飼料摂取量、終体重、尾長は、すべての試験区で統計的に有意な差は見られなかった。8週間飼育したラットの内臓脂肪量および皮下脂肪量は、油脂組成物1、6および7群で統計的に有意に低い値を示した。動物試験の結果から、油脂組成物を構成する全脂肪酸に占める中鎖脂肪酸の割合、および全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に2つ有するトリグリセリドの割合が本発明の範囲内に入る本発明油脂組成物1、6、7を使用した場合には、対照および比較例油脂組成物9、10を使用した場合に比し、体脂肪蓄積が少ないことが判明した。
【0036】
【表5】

【0037】
【表6】

【0038】
実施例
油脂組成物を用いて調理試験と耐寒性試験を行った。調理試験については、発煙、泡立ち、油の飛びハネ、調理品の風味を検討した。耐寒性試験は低温保管時の外観を観察した。油脂組成物サンプルとしては、菜種油(日清製油(株)製)(対照)、油脂組成物1、油脂組成物2、油脂組成物4、油脂組成物6、油脂組成物8および菜種油と構成脂肪酸が質量比でカプリル酸/カプリン酸=3/1であるMCTとを4:1(質量比)で配合した油脂(配合油)の7種を用いた。菜種油および配合油のトリグリセリド組成および脂肪酸組成を表4に示す。
調理試験の結果を表7に示す。調理試験の結果より、油脂組成物を構成する全脂肪酸に占める中鎖脂肪酸の割合、および全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に2つ有するトリグリセリドの割合が本発明の範囲内に入る本発明油脂組成物1、2、4、6、8は、通常の食用油と同等の調理適性を有することが分った。さらに、油脂組成物を構成する全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に3つ有するトリグリセリドの割合が3質量%以下である油脂組成物1、2、4、6は、揚げ物調理時の安定性が高いことが分った。特に、乳化剤を配合した油脂組成物2は、泡立ち抑制効果に優れていることが分った。また、同じ7種のサンプルを、5℃に48時間静置し外観を観察した。結果を表7に示す。その結果、油脂組成物4では結晶の析出が見られたが、他のサンプルは透明な外観であった。
【0039】
【表7】

【0040】
発煙:直径24cmのテフロン加工フライパンを予め30秒加熱し、サンプル油を15g入れ、さらに30秒間加熱した。その後、野菜炒めの具をフライパンに投入し、3分間加熱した時点で塩とコショウを適量添加した。炒め調理時の発煙を、肉眼で観察した。
泡立ち、油ハネ、風味:家庭用電気フライヤーにサンプル油600gを入れ、180℃で、海老の天ぷら4匹を投入し、1分後の油の泡立ち、油ハネを観察した。また、調理した海老の天ぷらの風味を評価した。
揚げ物安定性:家庭用電気フライヤーにサンプル油600gを入れ、180℃で、海老の天ぷらを30分間揚げ、ついでコロッケを30分間揚げ、最後に鳥の唐揚を30分間揚げた。カニ泡の発生度合いにより、揚げ物調理に対する安定性を評価した。カニ泡の発生が、フライヤー表面積の100%となった時点で揚げ物を中止した。
耐寒性:低温保管時(5℃で48時間静置)の外観を観察した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
菜種油と炭素数8〜10の飽和脂肪酸から構成される混酸基トリグリセリドとをエステル交換反応して得られる油脂組成物であって、油脂組成物を構成する全脂肪酸に占める中鎖脂肪酸の割合が5〜23質量%で、全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に2つ有するトリグリセリドの割合が〜20質量%で、油脂組成物を構成する全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に3つ有するトリグリセリドの割合が2質量%以下であり、かつ油脂組成物を構成するすべての長鎖脂肪酸(炭素数14〜22の飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸)に占める長鎖飽和脂肪酸(炭素数14〜22の飽和脂肪酸)の割合が20質量%以下である油脂組成物に、乳化剤を配合した油脂組成物
【請求項2】
前記乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、コハク酸モノグリセリド、モノグリセリド、ソルビトール脂肪酸エステル及びソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の油脂組成物
【請求項3】
請求項1又は2記載の油脂組成物に、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ビタミンE、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、リン脂質およびオリザノールから選ばれる添加剤を配合した調理用油脂組成物。
【請求項4】
菜種油と炭素数8〜10の飽和脂肪酸から構成される混酸基トリグリセリドとを原料とする油脂組成物であって、(1)油脂組成物を構成する全脂肪酸に占める中鎖脂肪酸の割合が5〜23質量%で、(2)全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に2つ有するトリグリセリドの割合が3〜20質量%で、(3)油脂組成物を構成する全トリグリセリドに占める、中鎖脂肪酸残基を分子内に3つ有するトリグリセリドの割合が2質量%以下であり、かつ(4)油脂組成物を構成するすべての長鎖脂肪酸(炭素数14〜22の飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸)に占める長鎖飽和脂肪酸(炭素数14〜22の飽和脂肪酸)の割合が20質量%以下である油脂組成物の製造法方法であって、菜種油と炭素数8〜10の飽和脂肪酸から構成される混酸基トリグリセリドとを前者/後者の質量比=71/29〜97/3で混合し、ナトリウムメチラート又は脂質分解酵素を用いて、上記(1)〜(4)のパラメータの条件を満たすように、エステル交換反応を行う該製造方法。
【請求項5】
前記エステル交換反応後、得られた油脂組成物に乳化剤を配合する請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、コハク酸モノグリセリド、モノグリセリド、ソルビトール脂肪酸エステル及びソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種である請求項4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
配合される乳化剤が、ショ糖脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種0.1〜3質量%、コハク酸モノグリセリド0.01〜2質量%、およびモノグリセリド、ソルビトール脂肪酸エステルおよびソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種0.1〜3質量%であって、該乳化剤の総量が0.3〜5質量%である請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項に記載の製造方法で得られた油脂組成物に、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ビタミンE、アスコルビン酸脂肪酸エステル、リグナン、コエンザイムQ、リン脂質およびオリザノールから選ばれる添加剤を配合する調理用油脂組成物の製造方法。


【公開番号】特開2010−279381(P2010−279381A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171346(P2010−171346)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【分割の表示】特願平11−316243の分割
【原出願日】平成11年11月8日(1999.11.8)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】