説明

油霧化装置、油霧化方法及び油拡散ポンプ

【課題】加熱によらず、油を霧化できる油霧化装置及び油霧化方法と、油霧化装置を用いた油拡散ポンプを提供する。
【解決手段】油霧化装置Sは、油溜め槽10と、超音波振動子20と、振動子制御装置30と、油補給装置40と、油面レベル制御装置50とを備えている。そして、油面レベル制御装置50は、油面レベル及び油温を検出し、この検出結果に基づいて油面レベル及び油温が油の霧化可能な所定範囲に維持する制御を行うものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油霧化装置、油霧化方法及び油拡散ポンプに係り、特に油を直接加熱しないで油を霧化する油霧化装置、油霧化方法及び油拡散ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
油の霧化を利用した装置の例である真空ポンプの一種としての油拡散ポンプは、真空室の気体分子をポンプ内の油ジェットにより輸送し、圧縮をすることにより排気を行う技術である。この油拡散ポンプは、ケーシング、ジェット、油加熱ヒータ、冷却パイプからなるシンプルな構成で、他の高真空ポンプと比較し、可動部分が少なく、メンテナンスが容易なことから最も一般的な高真空排気ポンプとして真空装置に採用されている。
【0003】
一般に油拡散ポンプPは、図5に示すように、壁111が冷却できるケーシング110、油(作動油)143、電熱ヒータ141、ジェット116、ジェットノズル113、エジェクタ(不図示)、粗引きポンプ(不図示)等で構成され、電熱ヒータ141により230°C付近まで加熱された作動油143が、蒸気化(霧化)され、ジェットノズル113からケーシング110の壁111の内壁面に吹き付けられ、この作動油143の噴射により気体が噴流の進行方向へはね飛ばされ、排気口114より排気される。図5中、マル(○)は、油が蒸気化(霧化)された粒子の状態を模式的に示すものである。
【0004】
また、油拡散ポンプPのケーシング110の外壁面は、水冷パイプ112により冷却されているので内壁に付着した作動油143は、冷却されて凝縮し、油拡散ポンプPのケーシング110の下方の油溜め槽146へ戻り、再加熱され再度蒸気化し、循環する仕組みとなっている。
【0005】
作動油143の蒸気化は、電熱ヒータ141あるいは油に浸漬した電熱ヒータ(不図示)により油を加熱し、油蒸気を発生させるものである。このように作動油143から蒸気を発生させ、作動油143の循環サイクルが安定した状態に達するまで、即ち起動させるためには、油を所定温度になるまで加熱時間を要することから、油拡散ポンプPの起動には、30分以上の時間を要することになる。そして、油蒸気を安定して噴射することによって初めて真空排気が可能となることから、電熱ヒータ141による加熱時間と共に、加熱に多くのエネルギ(電力)が必要になる。なお、作動油143の劣化が進むと油温は低くなる傾向があるので、作動油143の劣化が進むにつれて、エネルギ(消費電力)が増大することになる。
【0006】
このため、ヒータ141に接続される電力調整器と、この電力調整器に接続されるタイマを設けて、予め入力された制御データに従って、電力調整器をON/OFFするようタイマを設定し、このタイマに設定されたON/OFF比及び周期時間が、予め実測したデータに基づいて設定した技術が提案されている(特許文献1)。
【0007】
特許文献1の技術は、油拡散ポンプの排気性能を考慮しながら油拡散ポンプへの投入電力を断続的に遮断し、この遮断した時間分の消費電力量を削減することで消費電力量という面の性能と排気性能のバランスを向上させることを期待するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−23778号公報(段落0012,0013,0038、図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1も含めて、従来のヒータ加熱による油蒸気化の技術は、油(作動油)を所定の温度に維持しなければならず、油拡散ポンプの動作中、温度維持のための消費電力が大きくなり、省エネに対して不都合がある。また、循環サイクルを保つため、冷却水による冷却が常に必要であり、省エネに対して不都合がある。例えば、運転中に冷却水が止まると、ポンプ機能の停止ばかりでなく、油拡散ポンプのケーシングが異常加熱されてしまい、油拡散ポンプ自体が損傷してしまう不都合もある。
【0010】
また、加熱による場合には、油拡散ポンプの循環サイクルを安定させるために、所定温度までの昇温だけでなく、熱平衡状態を作り出す時間が必要であり、同様に停止にも油蒸気の噴出がなくなり、油拡散ポンプに損傷を与えない温度まで冷却するための時間が必要であり、ポンプ機能の作動開始と停止には、それぞれ所定時間が必要となってしまう。このように作動開始及び作動停止に所定時間が掛かると、ポンプ機能としての働きがないときにも加熱や冷却する必要があり、省エネに対して不都合がある。
【0011】
さらに、外部からの加熱による場合には、油拡散ポンプを配置した底から油溜め槽をヒータ加熱することから、大気側に数百度に加熱された部分が露出することになり、大気側周辺が熱くなってしまうため、床への断熱材の設置や安全対策上の配慮などを行う必要があり、配置環境の選定に制限があり、真空装置等における設計を奪うという不都合があった。油溜め槽の内部にヒータを設ける技術もあるが、油溜め槽が加熱されることは、同様な配慮が必要となる。
【0012】
その上、油拡散ポンプの動作中に、何らかの原因で大量の大気が流入したときに、高温の油との急激な反応が進み、油拡散ポンプの故障を引き起こすという問題もある。
【0013】
本発明の目的は、油(作動油)の霧化によって、短時間での作動開始及び作動停止と消費エネルギを抑えることのできる油霧化装置、油霧化方法及び油拡散ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題は、本発明の油霧化装置によれば、油を貯留した油溜め手段と、該油溜め手段内に配置された超音波発振手段と、該超音波発振手段を制御する振動子制御手段と、前記油溜め手段内に油を供給する油供給手段と、前記油溜め手段内に供給された油の油面レベルを制御する油面レベル制御手段と、を備え、前記油面レベル制御手段は、油面レベル及び油温を検出し、該検出結果に基づいて油面レベル及び油温が油の霧化可能な所定範囲に維持する制御を行うこと、により、解決される。
【0015】
このとき、油面レベル制御手段は、共振点付近の発振周波数で発振させることにより油面から油を霧化し、潤滑油粒子の大きさおよび量を超音波の振幅、周波数の変化により制御するように構成する。
【0016】
また、油供給手段は、前記油溜め手段に供給された油面レベルの検出結果と、油温の検出結果によって、所定温度で所定量の油を前記油溜め手段に供給するように構成する。
【0017】
また、前記課題は、本発明の油霧化方法によれば、超音波により油を霧化する油霧化方法であって、前記油の油面レベル及び油温を検出する検出ステップと、該検出ステップに基づいて油の油面レベル及び油温が油の霧化可能な所定範囲に維持するステップと、からなること、により、解決される。
【0018】
また、前記課題は、本発明の油拡散ポンプによれば、請求項1に記載の油霧化装置によって、ケーシング内の油の霧流をジェットから噴射して吸入気体を排気すること、により、解決される。
【0019】
前記ケーシング内に加熱源を配置して、加熱源の加熱による霧化した油(作動油)の熱膨張によりケーシング内を加圧すると好適である。また、前記ケーシング内に気体を導入してケーシング内を加圧による加圧、或いは、加熱源による加熱と気体の導入を組み合わせると好適である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、油溜め手段内に配置された超音波発信手段を制御する振動子制御手段と、油溜め手段内に供給された油(作動油)の油面レベルを監視する油面レベル制御手段を備え、油面レベルの制御手段は、油面レベル及び油面を検出し、該検出結果に基づいて油面レベル及び油温が油の霧化に適正な範囲に維持する制御を行うので、従来のような油を直接加熱しないで、超音波発信手段により霧化できる。より詳しくは、油面レベル制御は、共振点付近の発振周波数で発信させることにより油面から油(作動油)を霧化視、噴出油粒子の大きさおよび量を超音波振動子の振幅及び周波数の変化により制御を可能である。
そして、この霧化した油により排気でき、運転コストの低い、新方式の省エネルギ油拡散ポンプを提供することができる。
【0021】
また、油(作動油)の霧化のために作動油を直接加熱しないので、ヒータ加熱により加熱に比して消費電力が少なくて済み、経済的である。また、配置環境の選定の制限がなく、真空装置等における設計の自由度が確保でき、同時に立ち上げ時間や停止時間を極端に短くすることができる。
さらに、油溜め槽内の作動油を加熱しないため、油の温度を低くでき、油の劣化を少なくすることが可能で、周囲に対しても安全である。
また、霧化現象は、瞬時に行われることから、数秒で油拡散ポンプを起動することができ、停止することができることにより、従来、所定温度に維持するために、継続して常時電力を供給することが必要であったが、真空(排気)するとき、つまり稼働するときのみ電力が必要となり、省エネルギ化に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態の油霧化装置及び油拡散ポンプを示す構成断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態の油霧化装置及び油拡散ポンプを示す構成断面図である。
【図3】本発明の更に他の実施形態の油霧化装置及び油拡散ポンプを示す構成断面図である。
【図4】油霧化装置の概略ブロック図である。
【図5】油拡散ポンプの従来例を示す構成断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する部材,配置等は本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0024】
図1乃至図4は、本発明の実施形態を示すもので、図1は油霧化装置及び油拡散ポンプを示す構成断面図、図2は他の実施形態の油霧化装置及び油拡散ポンプを示す構成断面図、図3は更に他の実施形態の油霧化装置及び油拡散ポンプを示す構成断面図、図4は油霧化装置の概略ブロック図である。
【0025】
以下、本発明に係る油霧化装置Sの第1の実施形態について、図1及び図4を参照して説明する。本実施形態では、油霧化装置Sを油拡散ポンプPに用いた例を示している。
油拡散ポンプPは、油霧化装置Sを除いて、従来の油拡散ポンプと同様な構成となっている。即ち、本実施形態の油拡散ポンプPは、壁が冷却できるケーシングKと、油(作動油)1、ジェット2、ジェットノズル3、エジェクタ(不図示)、粗引きポンプ(不図示)等で構成され、油霧化装置Sにより作動油1が、蒸気化(霧化)され、ジェットノズル3からケーシングKの壁5の内壁面に吹き付けられ、この作動油1の噴射により気体が噴流の進行方向へはね飛ばされ、排気口4より排気される。なお図1中、マル(○)は、油が蒸気化(霧化)された粒子の状態を模式的に示すものである。
【0026】
つまり、拡散ポンプPにはジェット2を設置し、この拡散ポンプPのジェット2内を微粒子状の油液滴で充満させる。油拡散ポンプPのジェット2に形成されたジェットノズル3より微粒子状の油液滴を噴出することにより、気体が噴流の進行方向へはね飛ばされる。そして、気体分子は、排気口4より排出される。
なお、図示はしていないが、本実施形態の油拡散ポンプPは、補助ポンプを用いている。補助ポンプとは油拡散ポンプPの背圧を臨界値以下に維持するための真空ポンプであり粗引きポンプとしても使用される。また、作動油1が、真空室に入り込まないように、ジェット2から油液滴が噴出していることを確認してから、真空室と油拡散ポンプPとの間の吸入口7を開放する。これらは公知の手段が用いられる。
【0027】
そして、油液滴を造り出すために、本発明に係る油霧化装置Sを用いるものであり、油霧化装置Sは、図1で示すように、油溜め槽10の底面下部に超音波振動子20を設置する。そして、超音波振動子20に高周波電圧を印可する。作動油1の液面を超音波振動子20で振動させる。作動油1から微粒子状の油液滴を作動油1の液面に生じさせる。油拡散ポンプPのジェット2内を微粒子状の油液滴で充満させるものである。
【0028】
また、本実施形態では、油拡散ポンプPのケーシングKの外壁面は、水冷パイプ6により冷却されている。従って、後述するように、作動油1が蒸気化(霧化)する際(油の蒸気化ではなく)、ジェット内を加圧するときに加熱装置を用いたときには、蒸気化(霧化)した作動油1がケーシングKの内壁に付着したときに、より速く冷却されて凝縮し、油拡散ポンプPのケーシングKの下方の油溜め槽10へ戻り、油霧化装置Sにより再度霧化(蒸気化)し、循環する仕組みとなっている。以下、本発明に係る油霧化装置Sの実施形態をより詳細に説明する。
【0029】
本実施形態の油霧化装置Sは、油溜め手段としての油溜め槽10と、超音波発振手段としての超音波振動子20と、振動子制御手段としての振動子制御装置30と、油供給手段としての油補給装置40と、油面レベル制御手段としての油面レベル制御装置50等を主要な構成要素としている。
【0030】
本実施形態の油溜め手段としての油溜め槽10は、油(作動油)1を貯留するもので、この油溜め槽10はケーシングKの下部位置で、ジェット2内に設置される。ここで、油(作動油)1について述べると、一般に、液体の霧化し易さには、液体の粘性が大きく影響する。粘性が低いほど霧化が容易である。油の揚合、粘性があるため、霧化するためには、(a)共振点付近で発振周波数を適切なものとする、(b)超音波振動子から油面までの距離を適切な範囲に維持する、(c)油温を適切に制御する、必要がある。そこで、本実施形態で用いる作動油1は、できるだけ蒸気圧が低いもの、粘度の小さいものを選定している。
【0031】
超音波発振手段としての超音波振動子20は、油溜め槽10の作動油1に浸漬するように、油溜め槽10の底部に取り付けられており、この超音波振動子20には、後述する振動子制御手段としての振動子制御装置30から所定の周波数の高周波電圧が印加されるようになっている。
【0032】
本実施形態において、超音波振動子20として用いる圧電振動は、直径20mm、厚さ1.2mmのもので、発振周波数2.4MHzで励振される。また、作動油1の油面と、超音波振動子20までの距離は30〜50mmの範囲に保たれるようになっている。発振周波数は、超音波振動子20の厚さや外径等で異なり、周波数を変えることで作動油1の粒子径を微細化することができる。超音波振動子20から油面までの距離を変えると、霧化効率が大きく変化し、一定の範囲を越えると霧化されなくなる。
【0033】
つまり、超音波振動子20の振動でエネルギを与えるが、振動数で霧化された油粒子の大きさが変わる。また超音波振動子20から作動油1の油面までの距離、作動油1の種類、作動油1の温度、作動油1の油面の高さを適宜設定することにより、最適な振動で最適な霧化された油粒子を生成することが可能である。油拡散ポンプPで作動油1として利用するためには、粒子径を10μ以下になるように霧化することで効果的なジェットノズル3からの噴出を行えるものである。
【0034】
振動子制御手段としての振動子制御装置30は、超音波発振手段としての超音波振動子20を制御するものである。振動子制御装置30は、振動子発振回路32と、発振停止回路34と、異常電流検知回路36とを備えている。振動子発振回路32には、図1及び図4で示すように、電源38から電源トランス39を介して高周波が供給され、発振周波数で高周波電圧を超音波振動子20に加えて励振する。この場合、振動子発振回路32は、超音波振動子20に2.4MHzの周波数で励振させるものである。
【0035】
なお、図1で示す発振停止回路34と異常電流検知回路36は、振動子発振回路32を保護する回路である。このうち、発振停止回路34は、後述するレベルスイッチ51から液面低下異常検出回路52を介して油面の異常信号(低レベル信号)が与えられると、発振停止回路34を介して振動子発振回路32に発振停止信号を送り、所定範囲のレベル信号が入力されると、超音波振動子20の発振を再開する信号を出力する。
また、異常電流検知回路36は、超音波振動子20での異常電流の発生を検出し、異常検知信号を発振停止回路34に与える回路である。発振停止回路34は、この異常検知信号を受けると、振動子制御装置30の振動子発振回路32に発振停止信号を送出する。
【0036】
油供給手段としての油補給装置40は、油溜め槽10内に油を供給するものであり、管体42と、油供給装置41と、ヒータ48と、ヒータ制御回路49を備えている。油供給装置41は、給油タンク44と、ポンプ45と、バルブ46と、バルブ制御回路47と、を備えている。
【0037】
そして、油溜め槽10と給油タンク44との間は、管体42によって連通され、またバルブ46とヒータ48は、油溜め槽10と給油タンク44との間に配置されており、ヒータ48をヒータ制御回路49で制御し、作動油1を所定温度にし、バルブ制御回路47によってバルブ46及びポンプ45を制御して、所定量を油溜め槽10に供給するように構成されている。なお、本実施形態では、後述する油温検出器53による油溜め槽10の作動油1の温度を検出し、油温異常検出回路55を介してヒータ制御回路49に作動油1の温度情報をフィードバックするように構成している。これにより、供給する作動油1の温度を適切に制御し、作動油1が供給されても油溜め槽10の温度を一定としている。
【0038】
油補給装置40は、後述するレベルスイッチ51により、油を供給するもので、本実施形態では、作動油1が霧化可能な範囲の上限の油面レベルを高レベル、下限を低レベルとして、あらかじめ設定されている。油補給装置40は、レベルスイッチ51から与えられる低レベル信号を受信すると、油補給装置40のポンプ45、バルブ46、ヒータ48を、バルブ制御回路47及びヒータ制御回路49によって制御して駆動し、高レベル信号を受けるまで運転を継続する。
【0039】
油面レベル制御手段としての油面レベル制御装置50は、レベルスイッチ51(本実施形態ではフロートスイッチ)と、油温検出器53とを備えている。上記、レベルスイッチ51は、液面低下異常検出回路52と接続されており、油温検出器53は油温異常検出回路55と接続されている。
本実施形態の油面レベル制御装置50は、油溜め槽10内に供給された作動油1の油面レベル及び温度を制御するもので、油溜め槽10内の油面レベル及び油温を検出し、この検出結果に基づいて油面レベル及び油温が、作動油1の霧化可能な所定範囲に維持する制御を行うものである。
【0040】
油溜め槽10には作動油1の油面の上限位置51aと下限位置51bとを検出できる位置検出部が設けられており、レベルスイッチ51が上限位置51aと下限位置51bとに近づくと、検出信号を発信するようになっている。そして、液面低下異常検出回路52は、油溜め槽10の作動油1の油面が下限位置51bを超えたときに異常信号(低レベル信号)を発信するように構成されている。
【0041】
また、油温検出器53は、油溜め槽10の作動油1の温度を検出するものであり、作動油1の油温の異常な温度上昇・下降を検知し、所定温度の範囲を逸脱したときに、油温異常検出回路55により、異常信号を発するように構成されている。
【0042】
油溜め槽10の作動油1の油面のレベルは、レベルスイッチ51によって検出され、油面レベルが下がると、油補給装置40から所定温度で所定量の作動油1が補給されて、常に前記の適正な範囲で一定のレベルが確保されるようになっている。
【0043】
そして、作動油1の油面レベルの上限位置51a、下限位置51bに対応させて、予めレベルスイッチ51について、各種設定し、この範囲内で霧化できるように構成させている。上記条件で、超音波振動子20が振動して超音波を作動油1の油面に向けて発射すると、油面からは油柱が立ち上がり、その表面から微細化した霧状の油が放出される。この結果、油拡散ポンプPに使用すると、ジェット2内は霧化した作動油1で満たされ、霧化された油の微粒子がジェットノズル3から噴出され、排気ポンプの役目を果たすことができる。
【0044】
なお、油溜め槽10内の作動油1の油温が設定温度以上に上昇した場合、油温検出器53の検出信号から、油温異常検出回路55は異常な油温上昇を検知し、発振停止回路34を作動させて超音波振動子20の振動が停止するようになっている。
また、液面低下異常検出回路52は、油補給装置40により作動油1の補給が開始されると、図示されないタイマが作動し、あらかじめ設定された時間を越えても高レベルにならない場合に、図示されない警報器に警報信号を出力するようになっている。このように、超音波振動子20は空気中に露出して発振しないように、また、油溜め槽10の油面レベルは作動油1が霧化しやすい適正範囲に保たれるようになっている。
【0045】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、作動油に浸漬した超音波振動子に高周波電圧を印加し、共振点付近の発振周波数で発振させることにより油面から油を霧化し、潤滑油粒子の大きさおよび量を超音波の振幅、周波数の変化により制御し、この霧化した油を噴出油で排気でき、運転コストの低い新方式の排気法を提供することができる。
【0046】
次に、上記構成からなる油霧化装置Sの動作について説明する。
超音波振動子20を液体中で振動させると、超音波が液面に向けて放射される。この超音波による加圧、減圧の繰り返しに液体が追従できなくなると、キャビテーションが発生する。液面に近い位置で超音波振動子20を振動させてキャビテーションを起こすと、液面からは液体が水柱状に立ち上がり、その表面から液体が微細な霧滴となって放出される。つまり、作動油1に浸漬した超音波振動子20に高周波電力を印加し、共振点付近の発振周波数で発振させることにより作動油1の油面から作動油1を霧化するものである。
【0047】
そして、油拡散ポンプPに使用する場合、この霧化した作動油1をジェット2内に充満させることにより、高真空排気を行うものである。なお、油霧化装置Sを油拡散ポンプPに用いる場合、凝縮した油は、ポンプ本体底部に溜まってドレン口(不図示)から排出される。このドレン口からは、作動油潤滑手段に油を戻して、循環するようにしてもよい。
【0048】
次に、図2は、本発明の他の実施形態を示す。油霧化装置Sによって霧化した作動油1は、期待された圧力上昇を伴わないことがあるから、油拡散ポンプPのジェット2内の気圧を上げるために、ジェット2の内部温度を上げる例である。本実施形態を含めて以下の実施形態では、前記実施形態と同様の部材、装置、回路、配置、制御等には同一符号を付してその説明を省略する。
【0049】
ジェット2の内側の所定位置、本実施形態では、図2で示すように、ジェット内の中間位置付近に、霧化した作動油1で充満したジェット2内を加圧するためにヒータHを配設している。またジェット2内には、ジェット2内の圧力測定が可能な圧力測定素子と、ジェット2内の温度測定が可能な温度測定素子がそれぞれ配置されており、これらの各素子からの信号により、不図示の制御回路によって、ヒータHのON−OFF、或いはヒータHへの加給電を調節するものである。
【0050】
ここでのヒータHによる加熱は、作動油1の霧化のためではなく、ジェット2の内部温度を上げ、圧力を増し、ジェットノズル3から霧化した作動油1を噴出するためである。したがって、油の霧化(蒸気化)のために作動油1を直接加熱するものではなく、同様に油溜め槽10を加熱するものではなく、ヒータHには大きな電力を必要としないものである。
【0051】
さらに、図3は、本発明の他の実施形態を示す。上記実施形態と同様に、油霧化装置Sによって霧化した作動油1は、期待された圧力上昇を伴わないことがあるから、油拡散ポンプPのジェット2内の気圧を上げるために、本実施形態においては、ガスの導入を行う例を示すものである。つまり、圧力上昇を促すために、積極的に常温のガス導入あるいは加熱したガス導入をした例を示すものである。
【0052】
図3において、符号70は、ガス源で、このガス源70からは、バルブ72及びガス調節装置(コンディショナ)74を介し、導入管76によって、ジェット2へガスが供給される。ジェット2の内部には、超音波振動子20が底に取り付けられた油溜め槽10が収容されている。従って、ジェット2で霧化した油を利用することが可能である。
【0053】
次に、本発明に係る実例と比較例について説明する。
[実例]
実例として、次の装置を用いて行った。
排気口の直径250mm
排気速度 2900L/sec
到達圧力 6.7×10−6Pa(パスカル)以下
臨界背圧 0.3Pa
オイルパック量 1×10−3mg/cm2 min
所要電力 0.2KW
冷却水 2.3L/min
作動油 ライオンS1L
補助ポンプ 500L/min
【0054】
[比較例]
比較例として次の装置を用いて行った。
排気口の直径250mm
排気速度 2900L/sec
到達圧力 6.7×10−6Pa(パスカル)以下
臨界背圧 0.3Pa
オイルパック量 1×10−3mg/cm2 min
所要電力 1.8KW(200V)
冷却水 2.3L/min
作動油 ライオンS1L 蒸気圧133Paのとき251℃(拡散ポンプ作動時の温度)
補助ポンプ 500L/min
【0055】
[実例と比較例の対比]
実例の所要電力は、0.2KW程度であり、比較例の1.8KW(200Vのとき)と比して90%程度削減することが可能となった。また、立ち上げ時間が、比較例では30分程度掛ったが、実例では1分で済み、また停止時間も従来は30分程度掛ったが、実例では1分で済んだ。これは、加熱してポンプの作動時には251℃程度にする必要があったが、本発明では、加熱しないことによるものと判断できる。
【符号の説明】
【0056】
1 油(作動油)
2 ジェット
3 ジェットノズル
4 排気口
6 冷水パイプ
7 吸入口
10 油溜め槽(油溜め手段)
20 超音波振動子(超音波発振手段)
30 振動子制御装置(振動子制御手段)
32 振動子発振回路
34 発振停止回路
36 異常電流検知回路
40 油補給装置(供給手段)
41 油供給装置
42 管体
44 給油タンク
45 ポンプ
46 バルブ
47 バルブ制御回路
48 ヒータ
49 ヒータ制御回路
50 油面レベル制御装置(油面レベル制御手段)
51 フロートスイッチ(レベルスイッチ)
51a 上限位置
51b 下限位置
52 液面低下異常検出回路
53 油温検出器
55 油温異常検出回路
70 ガス源
72 バルブ
74 ガス調節装置(コンディショナ)
76 導入管
P 油拡散ポンプ
H ヒータ
K ケーシング
S 油霧化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油を貯留した油溜め手段と、該油溜め手段内に配置された超音波発振手段と、該超音波発振手段を制御する振動子制御手段と、前記油溜め手段内に油を供給する油供給手段と、前記油溜め手段内に供給された油の油面レベルを制御する油面レベル制御手段と、を備え、
前記油面レベル制御手段は、油面レベル及び油温を検出し、該検出結果に基づいて油面レベル及び油温が油の霧化可能な所定範囲に維持する制御を行うことを特徴とする油霧化装置。
【請求項2】
前記油面レベル制御手段は、共振点付近の発振周波数で発振させることにより油面から油を霧化し、潤滑油粒子の大きさおよび量を超音波の振幅、周波数の変化により制御してなることを特徴とする請求項1記載の油霧化装置。
【請求項3】
前記油供給手段は、前記油溜め手段に供給された油面レベルの検出結果と、油温の検出結果によって、所定温度で所定量の油を前記油溜め手段に供給することを特徴とする請求項1記載の油霧化装置。
【請求項4】
超音波により油を霧化する油霧化方法であって、
前記油の油面レベル及び油温を検出する検出ステップと、該検出ステップに基づいて油の油面レベル及び油温が油の霧化可能な所定範囲に維持するステップと、からなることを特徴とする油霧化方法。
【請求項5】
請求項1に記載の油霧化装置によって、ケーシング内の油の霧流をジェットから噴射して吸入気体を排気することを特徴とする油拡散ポンプ。
【請求項6】
前記ケーシング内に加熱源を配置して、加熱源の加熱による霧化した油の熱膨張によりケーシング内を加圧することを特徴とする請求項5記載の油拡散ポンプ。
【請求項7】
前記ケーシング内に気体を導入してケーシング内を加圧してなることを特徴とする請求項5記載の油拡散ポンプ。
【請求項8】
前記ケーシング内に加熱源を配置して、加熱源の加熱による霧化した油の熱膨張によりケーシング内を加圧と、前記ケーシング内に気体を導入してケーシング内を加圧とを組み合わせてなることを特徴とする請求項5記載の油拡散ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−255250(P2011−255250A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129113(P2010−129113)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(390007216)株式会社シンクロン (52)
【Fターム(参考)】