説明

治療および診断におけるプレターゲッティングに適したアネキシン誘導体

本発明は、腫瘍性の疾患、神経変性の疾患、循環器病、自己免疫疾患、および炎症性の疾患のような疾患の治療および診断のための方法および組成物を提供する。前記方法は、プレターゲッティングの概念に基づき、アネキシンと結合した認識可能な化合物Aを含んでなる複合体を投与することと、化合物Aを認識し、結合する化合物Bと結合した薬学的または診断的な化合物を含んでなる複合体を投与することを含んでなる。前記組成物には、標的細胞により内部移行されないアネキシン、アネキシン変異体、その誘導体、およびその複合体が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、アネキシンの分野に関する。より具体的には、三量体および二次元ネットワークを形成しない新規のアネキシン、アネキシンの変異体、およびその誘導体を用いて特定の標的に対して化合物を送達することにより、対象を治療および診断するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は、リン脂質分子およびいくつかのタンパク質分子の二重層からなる形質膜(PM)により包まれている。種々のリン脂質分子は、二重層の基礎的要素を形成する。リン脂質分子は、二重層の2つのリーフレットにわたって非対称的に分布する。例えば、ホスファチジルコリンは両方の層に存在する一方、スフィンゴミエリンは外界に面する外側のリーフレットにおいてのみ見られる。一方、ホスファチジルセリン(PS)のようなアミノリン脂質は、細胞の細胞質ゾルに面する内部のリーフレットに主に存在する(Zwaal and Schroit, Blood 89:1121-32 (1997))。アミノリン脂質転位酵素は、PSを形質膜の外側から内側の層またはリーフレットに輸送し、PSの非対称的な分布を作る。PMの非対称的な構造は、生きている細胞の特徴である。それらは、PMにおけるリン脂質種の不均一な分布を作り、且つ維持するためにエネルギーを費やす。
【0003】
細胞は、ある一定の状況下でPMのリン脂質構造を変化させることができ、細胞の活性化および乱れを引き起こす。プログラム細胞死(PCD)は、PMの外側のリーフレットにおけるPSの出現を伴う(Fadok et al., J. Immunol. 148:2207-16 (1992))。形態学および生化学に基づいて、少なくとも4の型のPCDが同定されている:(1)アポトーシス、(2)アポトーシス様PCD、(3)ネクローシス様PCD、およびネクローシス。各型は、PSの細胞表面の外側の層への露出により特徴付けられるPMの非対称的な変化を伴う。PMの外側の層におけるPSの露出は、細胞の種々の活性化および乱れた状態のよい指標となる。しかしながら、PSの露出は、もっぱら、結果的に細胞死になる細胞プロセスに付随しない。一過性且つ可逆的なPSの露出は、いくつかの細胞型に対して報告されており、活性化B細胞、シンシチウムを形成するための未分化筋細胞、クラミジア感染細胞、腫瘍脈管構造の内皮細胞(米国特許第6,312,694号)、および貪食マクロファージ(Kenis et al. J. Biol. Chem. 2004 279: 52623-9)が含まれる。加えて、いくつかの細胞プロセスおよび条件は、PMの外側のリーフレットにおいてPSの発現を伴うことが見出されている。これらには、血小板活性化、赤血球成熟、免疫系の刺激、筋細胞シンチウムの形成、腫瘍における新血管形成(米国特許第6,312,694号)、および腫瘍増殖(Rao et al., Thromb. Res. 67:517-31 (1992))が含まれる。
【0004】
加えて、細胞は、その表面からそれら自身の部分を散らすことができ、結果として膜に包まれたミクロ粒子を生じる。これらのミクロ粒子は、膜の外側の層に露出したPSのようなアミノリン脂質を有する。これらのミクロ粒子は、感染症、AIDS、アテローム性動脈硬化症のような疾患に関連する。それ故、細胞表面におけるアミノリン脂質は、種々の活性化および乱された細胞の状態の指標となる。さらに、露出したアミノリン脂質を示すミクロ粒子は、離れた細胞の活性化および乱れを反映する。それ故、PMの表面におけるリン脂質は、疾患の研究、診断、予防および治療を含む種々の目的に対する魅力的な標的を構築する。好ましくは、PMの外側のリーフレットにおけるPSは、疾患の研究、診断、予防および治療に対する標的を構築する。
【0005】
疾患の薬理学的および遺伝的な治療は、疾患を有する細胞に対する薬理学的に活性のある化合物の送達に基づき、前記化合物は、好ましくは細胞内で作用する。現在の治療は、薬物の全身性の送達を利用し、所望の標的に到達する前に薬物は全身を循環する。この薬物送達の方法は、化合物の全身性の希釈を結果として生じる。結果として、治療的な効果を達成するためにはより高い濃度の薬物が必要とされる。これは、望ましくない毒性の副作用および薬物のコストの増大を伴う。
【0006】
これらの問題に対する解決策は、標的化薬物送達システムにより提供される。ターゲッティング薬剤は、薬物に直接的または間接的に結合し、疾患を有する細胞が集積している場所に薬物を導く。
【0007】
最近、我々は、ターゲッティングおよび細胞流入(cell-entry)剤としてのアネキシン、その誘導体およびアネキシン-Cys変異体ならびに治療的および診断的な適用に対するそれらの使用について述べている(WO 2006/003488, 2006年1月12日に公開)。アネキシンの主な標的はホスファチジルセリン(PS)であり、細胞により露出されてプログラム細胞死を実行し、代謝ストレスのようなストレスがかかる。アネキシン、誘導体およびアネキシンCys変異体は、WO 2006/003488において述べられているように、PSが露出した細胞表面に結合し、続いて内部移行する。前記内部移行は、表面に結合したアネキシンの枯渇を結果として生じる。この現象は、プレターゲッティングの概念を利用する治療および診断の方法におけるアネキシンの使用を妨げる。
【0008】
プレターゲッティングは、バックグラウンドシグナルおよび全身性の毒性負荷を減少させるために、診断を目的としたレポーティング化合物および/または治療的を目的とした薬剤を、疾患を有する組織に対して多ステップの方法でターゲッティングする方法である。前記プレターゲッティングの概念は、相互に高い親和性を有する2つの化合物AおよびBを用いる。化合物Aはターゲッティング機能を有し、化合物Bはレポーターおよび/または治療的な機能を有する。第一に、ターゲッティング機能を有する化合物Aを対象に投与する。一定時間後、循環している化合物Aが十分に除去された後、レポーターおよび/または治療的な薬剤を有する化合物Bを対象に与える。後者の化合物は、そのターゲッティング機能により化合物Aが保持される部位に集積する。この方法は、望ましい効果を得るために投与される必要がある化合物Bの量を減少させる。さらに、レポーターおよび/または治療的な薬剤が化合物Aに直接結合した場合、化合物Aに関連するバックグラウンドシグナルおよび望ましくない毒性の副作用を回避するであろう。
【0009】
相互に高い親和性を有し、且つプレターゲッティングに適したAおよびBの化合物の組み合わせの例には、ストレプトアビジン/アビジンおよびビオチンの組み合わせ、相補的なDNAおよびRNAオリゴヌクレオチドの組み合わせ、モルホリノのような相補的なDNAおよびRNAの類似体(デオキシリボース-ホスホジエステル鎖の代わりにモルホリノ-ホスポロジイミデート鎖を含む合成オリゴヌクレオチド類似体)、ペプチド核酸(デオキシリボース-ホスホジエステル鎖の代わりにN-アミノエチル-グリシン鎖を含む合成オリゴヌクレオチド類似体,PNA)およびアプタマー(特異的に結合するオリゴヌクレオチドまたはオリゴペプチド)、抗体およびハプテンの組み合わせ、ならびに受容体およびリガンドの組み合わせが含まれる。これらの組み合わせは、プレターゲッティングの方法を通して癌のイメージングおよび治療のための放射性核種の送達において使用される(Sharkey et al, Clin. Cancer Res. 2005, 11:7109-21)。
【0010】
プレターゲッティングの方法を首尾よく実行するために必要なことは、化合物Aの化合物Bに対する到達性である。標的細胞による化合物Aの内部移行は、この方法の有効性を低下させる。
【0011】
特許出願WO 2006/003488は、アネキシン、その誘導体、およびアネキシン-Cys変異体がその表面にPSを露出する細胞により内部移行されることを述べている。内部移行のメカニズムは、アネキシン三量体の形成および大きな二次元ネットワークにおけるアネキシン三量体の組織化に基づく(Kenis et al. J. Biol. Chem. 2004 279: 52623-9)。このメカニズムは、アネキシン、その誘導体、およびアネキシン-Cys変異体のプレターゲッティングの方法における化合物Aのターゲッティング部分としての効率的な使用を低下させる。
【0012】
Mira et al., J. Biol. Chem. 1997, 272: 10474-82は、アネキシン変異体M1〜M4について述べており、細胞質ゾルのホスホリパーゼAの阻害におけるCa2+結合およびその効果に影響を与えることを述べている。
【発明の概要】
【0013】
本発明の1つの実施形態によると、疾患を診断および治療するためのプレターゲッティング方法に適したアネキシン変異体が提供される。これらのアネキシン変異体は、十分な親和性でPSと結合し、細胞の表面において三量体および二次元ネットワークを形成することができず、それ故、それら自身の内部移行を誘発しない。
【0014】
本発明のもう1つの実施形態は、プレターゲッティング方法に対して親和性の化合物Aで誘導体化されたアネキシンおよびその変異体に関する。そのような親和性化合物には、ビオチン、1以上のビオチン群を含有する化合物、ストレプトアビジン、アビジン、DNAオリゴヌクレオチド、RNAオリゴヌクレオチド、モルホリノ、PNA’s、アプタマー、レセプター、レセプターに対して高い親和性を有する化合物およびグロブリンまたはそれらの部分が含まれる。本発明において、親和性化合物Aは、認識可能な化合物(A)、または化合物Aとして同じ意味で使用される。
【0015】
本発明のさらなる実施形態は、システイン残基との接合を介して親和性化合物Aで誘導体化される、特許出願WO 2006/003488によるアネキシン-Cys変異体、アネキシンおよびその誘導体を包含する。
【0016】
本発明の1つの実施形態は、アネキシン誘導体および複合体と組み合わせて、蛍光化合物、放射性核種、MRI造影剤、CT造影剤、細胞分裂停止剤、ならびにサイトカイン、補体因子、毒素、および免疫グロブリンを含む治療的な生物学的製剤と接合された、親和性化合物Bの使用に関する。親和性化合物Bは、本発明の他の実施形態の親和性化合物Aに対して高い親和性を有する。本発明において、親和性化合物Bは、化合物Aを認識する化合物(B)として、または化合物Bとして同じ意味で使用される。
【0017】
本発明の1つの実施形態は、上述した親和性化合物Aとアネキシン誘導体の少なくとも1の複合体および任意に少なくとも1の薬学的に許容可能な賦形剤を含むキットである。
【0018】
本発明のもう1つの実施形態は、薬学的化合物を標的細胞に送達するための方法に関し、第1に上述した組成物の複合体をターゲッティングすること、第2に上述した組成物の治療的な複合体を投与することを含む。より具体的には、この実施形態は、疾患を治療または予防する方法を含み、前記薬学的化合物は、疾患を治療または予防するのに効果的な治療的な化合物である。
【0019】
本発明の1つの実施形態は、標的細胞に対して診断的な化合物を送達するための方法に関し、第1に上述した組成物のターゲッティング複合体を投与すること、第2に上述した組成物の診断的な複合体を投与することを含む。より具体的には、この実施形態は、疾患を診断することおよび治療の有効性を決定することを含んでなり、前記診断的な化合物は、光学的なイメージング、核イメージング、MRI、CTおよび超音波を含んでなるイメージング様式により検出することができる分子イメージング化合物である。
【0020】
本発明をより理解するために、他のおよびさらなる目的と共に、付随する図と組み合わせて以下の記述を参照されたく、その範囲は付属の特許請求の範囲に示す。
【発明の詳細な説明】
【0021】
本発明は、部分的に、アネキシン分子間の分子間相互作用に関与するアミノ酸を同定するための定方向の検索に基づく。分子モデリングおよびタンパク質データベース(PDB、1AVRおよびANX)から入手可能な結晶構造のドッキングは、三量体形成に関与するアミノ酸を明らかにした。これらのアミノ酸は、らせんIA、ID、IIA、IID、IIIC、IIIDおよびIVEならびにらせんICとID、IIEとIIIA、IIICとIIID、IIIDとIIIE、IVAとIVBを結合する配列において見られる(アネキシンA5分子におけるこれらのらせんの所在について、Huber et al. EMBO J. 12:3867-74 (1990)を参照されたい)。本発明の1つの実施形態のアネキシン変異体は、らせんIA、ID、IIA、IID、IIIC、IIIDおよびIVE、ならびにらせんICとID、IIEとIIIA、IIICとIIID、IIIDとIIIE、IVAとIVBを結合する配列において置換された1以上のアミノ酸を有し、細胞の表面において三量体および二次元ネットワークを形成するそれらの能力を改善し、結果としてそれらの細胞への内部移行を改善する。アネキシン変異体は、細胞の表面により長く残り、それ故プレターゲッティング法に対して適している。
【0022】
本発明は、一般的に、a)少なくとも1のリン脂質、特にホスファチジルセリン(PS)に結合し、且つb)細胞内へ内部移行しないアネキシン変異体に関する。「アネキシン」という用語は、リン脂質、特にホスファチジルセリンに結合することができるタンパク質を意味し、いわゆるアネキシンファミリーの一員である。前記ファミリーは、多くのメンバーを含み;それについてならびにタンパク質および核酸配列についての情報は、例えばhttp://snoops.bch.ed.ac.uk/annexins/seq/search.phpで見ることができる。例によると、配列番号1のアミノ酸配列を有するアネキシンA5についてここでは言及されているが、他のアネキシンも同様に本発明のアネキシン変異体を作るためおよび使用するために使用することができる。図2は、ヒトアネキシンA1〜A11およびA13のアラインメントを含む。A1、A6、A7およびA11のようないくつかのアネキシンは、N末端に長い伸長を有する。これらの部分は図2には含まれず、本発明の目的に対して関連性があまりないと考えられている。以下において、アネキシンA5のアミノ酸配列および位置について言及されているが、図2のアラインメントまたは図2に示されていないアネキシンの対応するアラインメントを用いて見出だされる対応する位置を選択することにより、A5にあてはまるものは他のアネキシン、特にヒトアネキシンにもあてはまる。
【0023】
本発明による特別なアネキシン変異体は、図1によるアミノ酸配列を有し(配列番号1)、細胞への内部移行を阻害するために修飾され、上述したらせんおよび結合配列内の1以上のアミノ酸は異なるアミノ酸により置換される。これらのアミノ酸は、アネキシンA5の16〜29、59〜74、88〜102、135〜145、156〜169、202〜231、259〜266、および305〜317の位置にあり、これらの位置は配列番号1および図2において下線を引く。アネキシン変異体は1以上のこれらの修飾を含み、細胞に内部移行しないというアネキシンの特徴は満たされていると考えられる。それ故、本発明は、a)少なくとも1のリン脂質に結合し、且つb)上述したような1以上のアミノ酸修飾を含むアネキシン変異体も含んでなる。
【0024】
好ましい修飾は、置換、特に無極性のアミノ酸による極性のアミノ酸の置換である。それ故、置換に対して好ましいアミノ酸には、アルギニン(R)、リジン(K)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)およびグルタミン(Q)が含まれる。それらは、例えば、アラニン(A)もしくはグリシン(G)、または他のアネキシンの対応する位置にある無極性アミノ酸により置換されてよい(図2を参照されたい)。置換されるアミノ酸の適切な例には、E21、K25(例えばG、Tによる)、R62(例えばG、A)、D63(例えばG、A、P)、K69、D91、K96、H97、K100、E137(例えばA、G、V)、D138、D139、N159(例えばA、G、S)、R160、R206、K207、Q219、D225、R226、D264、K308、K309が含まれる。位置E71、D143、E227およびD302における修飾M1〜M4は、本発明によるとあまり好ましくない。
【0025】
細胞の部位におけるアネキシンの三量体化をさらに減少させるために、異なる領域に少なくとも2、または少なくとも3の置換、例えば、R62A+E137GまたはK69A+K100A+N159S等を有することが好ましい。
【0026】
アネキシン変異体は、1以上のアミノ酸の置換、欠失、または付加をさらに含んでよく、前記アミノ酸の置換、欠失、または付加は、アネキシン変異体が少なくとも1のリン脂質および少なくとも1の認識可能な化合物Aに結合する能力に実質的に影響を与えず、前記アミノ酸の置換、欠失、または付加は、認識可能な化合物Aの細胞への内部移行が阻害されることに実質的に影響を与えない。
【0027】
前記置換は、アネキシンがリン脂質に十分に結合するようになされるべきである。十分な結合とは、Ca2+イオンの存在下において約10−6M以下の解離定数であることを意味する。
【0028】
本発明はさらに、上記で定義したような認識可能な化合物Aと結合したアネキシン分子または変異体に関し、前記アネキシン変異体は、標的細胞により内部移行されない。前記認識可能な化合物Aは、例えば、ビオチンまたは複数のビオチンの複合体であってよい。他の適切な例には、アビジンもしくはストレプトアビジン、オリゴヌクレオチドもしくはモルホリノ化合物の形態のヌクレアーゼ耐性オリゴヌクレオチド類似体またはPNAまたはアプタマーが含まれる。
【0029】
もう1つの実施形態において、前記認識可能な化合物Aは、レセプターもしくはその一部、またはレセプターリガンドもしくはその一部である。認識可能な化合物Aの他の例には、抗体もしくはその断片、例えばラクダ様の起源に由来する切断された抗体であるナノ体(nanobody)、または抗原が含まれる。
【0030】
認識可能な化合物は、それ自体既知の方法によりアネキシンと結合させることができる。1つの方法は、前記認識可能な化合物がおそらく誘導体化された形態である特定のアミノ酸に共有結合的に結合することにある。特に適しているのは、例えばビオチンの場合、アネキシンのシステイン残基に対する結合であり、マレイミド基で誘導体化され得る。アネキシンの機能的な性質を妨げないために、認識可能な化合物と結合するアミノ酸は、アネキシン分子の凹面側に位置する。配列番号1においてイタリックのアミノ酸記号で表されている。さらに、これらの位置は、アネキシンの三量体化および内部移行を妨げるために上記選択された領域に位置するか、または位置しなくてよい。それ故、好ましい位置は、配列番号1において太字のイタリックで示した位置であり、すなわち、アネキシンA5の配列1〜15、46〜58、86〜87、118〜134、(170)、245〜248および280〜294ならびに他のアネキシンの対応する配列(図2参照)であるが、下線を引いたイタリックの位置(16〜19、24、28、59〜64、88〜89、135、157〜169、203〜219)もシステイン残基を導入するために使用することができる。
【0031】
システイン残基はこれらの配列の外側に天然に存在することがより好ましく、特に、三量体化を妨げる目的で本発明によりアミノ酸が置換される部分に存在するものが他のアミノ酸で置換されることが好ましい。そのような他のアミノ酸は、G、AまたはSのような中性の小さなアミノ酸であるか、または、もう1つのアネキシンの同じ位置に存在するアミノ酸であってよい。例えば、アネキシンA4のC107はVまたはAで適切に置換されてよく、アネキシンA3のC201(および多くの他のアネキシンにおける対応物)はGまたはAで置換されてよく、アネキシンA5のC315(および多くの他のアネキシンにおける対応物)はV、AまたはSで置換されてよい。アネキシンA8のC292は、誘導体化に適した位置にあるため置換される必要がない。前記アミノ酸置換は、当業者に周知の組み換え技術により行うことができ、以下の実施例において示す。
【0032】
本発明は、1のアミノ酸の位置1〜19、24、28、46〜64、86〜89、118〜135、149〜150、157〜170、203〜219、245〜248および280〜294においてシステイン残基を含み、これらの位置の外側にはシステイン残基を含まず、さらに、位置16〜29、59〜74、88〜102、135〜145、156〜169、202〜231、259〜266および305〜317におけるLys、Arg、Gln、Asn、Glu、AspまたはHisの1以上のアミノ酸の、Gly、Ala、Val、Ile、Leu、Ser、Thr、Met、Pro、Phe、またはTyr、好ましくはGly、Ala、ValまたはSerによる置換を含み;例えば図2に示すように、他のアネキシンにおける対応するアミノ酸の位置に当てはまる。アネキシンは、タンパク質自体、あるいはスペーサーおよび/または認識可能な化合物との接合体であってよい。前記システイン残基は、例えば認識可能な群(A)で置換されてよい。
【0033】
アネキシン変異体と認識可能な化合物Aとの複合体は、薬剤または診断薬を特定の部位、特にPSを露出する細胞にターゲティングするための治療方法または診断方法において使用することができる。そのような方法において、アネキシン変異体と認識可能な化合物Aとの複合体を含む組成物は、そのような治療または診断方法が意図される対象に最初に投与され、化合物Aを認識し、結合する化合物Bおよび診断的または治療的な化合物を含んでなる少なくとも1の複合体を含む組成物が続いて前記対象に投与される。化合物Bは、特に、化合物Aの特異的な対応物であり、例えば、化合物Aがビオチンである場合、ストレプトアビジンまたはアビジンである。同様に、化合物Bは、特に化合物Aがストレプトアビジンまたはアビジンである場合、ビオチンまたは複数のビオチンの複合体であってよい。化合物Bは、オリゴヌクレオチド、モルホリノ、PNAまたはアプタマーであってもよく、上述したアネキシン分子に結合するオリゴヌクレオチド、モルホリノ、PNAまたはアプタマー対応物に対して高い親和性を有する。レセプターまたはその一部であってもよく、化合物Aはレセプターリガンドであり、逆も同じである。化合物は、化合物Aを抗体とする抗原またはその断片であってもよく、逆もまた同じである。
【0034】
本発明の診断方法において使用することができる診断薬は、蛍光性の群、放射性核種、MRI造影剤、CT造影剤、超音波剤、およびそれらの組み合わせから選択されてよい。蛍光性の群の適切な例は、フルオレセイン、アレキサス(Alexas)、フィコエリトリン、Cy-化合物、ナノ結晶およびそれらの組み合わせである。放射性核種の適切な例には、炭素-11、フッ素-18、インジウム-111、ヨウ素-123、ヨウ素-131、窒素-13、酸素-15、テクネチウム-99m、ジルコニウム-89、Ga-67、Ga-68、Cu-64およびそれらの組み合わせが含まれ、化合物Bに結合する適切な分子または化合物B自体に組み込まれる。MRI造影剤は、ガドリニウム、磁気粒子および常磁性粒子から選択されてよい。
【0035】
本発明の治療方法において使用することができる治療的な化合物は、例えば、毒素、酵素、酵素阻害剤、脂質、糖類、免疫グロブリンまたはその断片、免疫複合体、化学療法化合物、光増感剤、放射性核種、細胞死誘発剤、細胞死阻害剤、線維素溶解性化合物、およびそれらの組み合わせであってよい。前記毒素は、Dt、PE,P38、P40、リシン、アブリン、ジフテリア毒素、コレラ毒素、ゲロニン(gelonin)、シュードモナス、外毒素、赤痢菌毒素、ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質(pokeweed antiviral protein)、およびそれらの組み合わせから選択されてよい。化合物Bと結合することができる酵素の例には、ペルオキシダーゼ、アルカラーゼ、カスパーゼ、およびそれらの組み合わせが含まれる。脂質は、例えば、リン脂質、脂肪酸、テルペン、ステロイド、およびそれらの組み合わせから選択されてよい。脂質は、リポソームの膜中に包埋されてよい。
【0036】
化学療法剤の例には、BiCNU、ブレオマイシン、ブスルファン、CCNU、カルボプラチン、カルムスチン、シスプラチン(cisplatin, cisplatinum)、クロランブシル、2-クロロデオキシアデノシン、クラジラビン、シタラビン、シクロフォスファミド、ダカルバジン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、DTIC、エトポシド、5-フルオロウラシル、フルダラビン、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、ロムスチン、メルフェラン、メトトレキサート、ミトラマイシン、ミトマイシン、ミトキサントロン、ナイトロジェンマスタード、オキザリプラチン、パクリタキセル、プリカマイシン、プロカルバジン、ラルトリテクスド(raltritexe)、セムスチン、トムデックス、トポテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、およびそれらの混合物が含まれる。
【0037】
光増感剤の例には、フタロシアニン、ロドポルフィリン、ロドクロリン、メソロドクロリン(mesorhodochlorin)、フィロエリトリンおよびその誘導体、ポルフォリンおよびその誘導体、金属-ピロール(pyrollic)化合物、ならびにそれらの混合物が含まれる。
【0038】
本発明の方法において有益に使用することができる細胞死誘発剤は、アポトーシス誘発剤、キナーゼ阻害剤、ミトコンドリア透過移行活性化因子の活性化因子、細胞死誘発タンパク質をコードするポリヌクレオチド、膜を横切るイオン輸送の活性化因子、細胞死阻害タンパク質をコードするポリヌクレオチドに対してアンチセンスであるポリヌクレオチド、細胞死阻害タンパク質と相互作用するポリヌクレオチドおよび前記タンパク質を阻害するポリヌクレオチド、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択されてよい。
【0039】
治療的な放射性核酸の例には、32P、89Sr、90Y、103Pd、125I、131I、137Cs、153Sm、186Re、188Re、192Ir、64Cu、67Cu、67Ga、86Y、105Rh、111In、114mIn、124I、149Pm、166Ho、169Yb、177Lu、211At、213Bi、225Aが含まれる。
【0040】
前記治療的および診断的な化合物は、当業者に既知の方法により化合物Bと結合することができる。例えば、前記治療的または診断的な化合物がタンパク質である場合、任意に、臭化シアンまたは他の化学的もしくは物理的な方法により活性化した後、リジンまたはアルギニン残基を介して結合させることができる。前記化合物がホスファチジルエタノールアミンのような脂質である場合、当該分野で既知の方法を用いてアミノ基に結合され得る。前記化合物がポリヌクレオチドである場合、当該分野で既知の方法を用いて、例えばそのヒドロキシル基に結合され得る。前記化合物が放射性核種である場合、キレート化剤を化合物Bと結合させて選択した放射性核種をキレート化することにより、直接的または間接的に結合され得る。
【0041】
前記複合体は、リン脂質を発現する細胞または細胞粒子の存在または非存在を検出するためにも使用されてよく、
a)認識可能な化合物Aおよびアネキシンまたはアネキシン変異体を含んでなる少なくとも1の複合体を含む組成物を対象に投与することと;
b)化合物Aを認識する化合物Bおよび診断的な薬剤を含んでなる少なくとも1の複合体を含む組成物を対象に投与することと;
c)光学的なイメージング、SPECTイメージング、PETイメージング、MRIイメージング、CTイメージング、および超音波イメージングのような検出ステップを対象に行うことを含んでなる。
【0042】
本発明は、上述した診断方法を行うのに適した診断キットにも関し、アネキシン変異体と親和性化合物Aとの少なくとも1の複合体、任意に、検出可能な(レポーター)化合物と親和性化合物Bとの複合体、ならびに任意に、診断方法を行うために必要な希釈剤およびさらなる構成要素を含んでなる。好ましくは、前記アネキシン変異体の複合体および前記検出可能な化合物の複合体は別々に調製される。
【0043】
本発明は、上述した治療方法を行うのに適した医薬キットにも関し、薬学的に許容可能な賦形剤と合わせた親和性化合物Aとアネキシン変異体との少なくとも1の複合体、任意に、治療的な化合物と親和性化合物との複合体、ならびに任意に、治療方法を行うのに必要な希釈剤およびさらなる構成要素を含んでなる。好ましくは、前記アネキシン変異体の複合体および前記治療的な化合物の複合体は別々に調製される。
【0044】
本発明は、腫瘍性の疾患、神経変性の疾患、循環器病、自己免疫疾患、および炎症性の疾患のような疾患の治療、診断、予防、および研究のための方法および組成物を提供する。前記方法は、アネキシンおよびアネキシン変異体を含んでなるターゲッティング複合体ならびに分子イメージング剤および薬学的な化合物を含んでなる治療的な複合体をそれぞれ対象に投与することを含む。
【0045】
本発明は、アネキシンのPS発現細胞に対する結合能力に関する。本発明は、疾患を診断および治療するためのプレターゲッティング方法におけるアネキシンの使用に関する。アネキシンは、肝臓、脾臓および腎臓、ならびに骨髄の細網内皮系により吸収されることが既知である。診断的な化合物および治療的な化合物と接合したアネキシンを注入することは、高いバックグラウンドシグナルおよび望ましくない毒性の副作用を結果として生じる。それ故、本発明は、アネキシンが、蛍光性の群、放射性核種、MRI造影剤、CT造影剤および超音波剤のような診断的な化合物とも、毒素、酵素、脂質、糖類、免疫グロブリンもしくはその断片、免疫複合体、化学療法化合物、光増感剤、放射性核種、細胞死誘発剤、細胞死阻害剤、線維素溶解性化合物のような治療的な化合物とも対象に投与する前に接合しない方法を提供する。代わりに、本発明は、アネキシンが認識可能な化合物Aと結合する方法を提供し、ビオチン、複合ビオチン、ストレプトアビジン、アビジン、DNA、RNA、モルホリノ、PNA、アプタマー、レセプターおよびレセプターリガンドならびに抗体を含んでなるが、これらに限定されない組から選択される。本発明は、アネキシンと認識可能な化合物Aとの複合体を標的細胞に送達することにより、および続いて化合物Aを認識する化合物Bと診断的な化合物または治療的な化合物との複合体を標的細胞に送達することにより、診断的または治療的な化合物を標的細胞に送達するための方法を提供する。前記接合されたアネキシンは、対象に投与される。一定時間後、例えば1時間〜24時間後、化合物Aに対して高い親和性を有する化合物Bとの診断的または治療的な複合体は、同じ対象に注入される。化合物Bは、化合物Aと接合したアネキシンが細胞表面に結合する部位に集積する。
【0046】
アネキシンは、構造的および機能的な特徴を共有するタンパク質の多重遺伝子ファミリーを構成する。アネキシンポリペプチドは、空隙でいわゆるアネキシン折り畳みを形成するドメインに組織化される(Gerke and Moss, Physiol. Rev. 82:331-71 (2002))。前記ドメインはカルシウム結合部位を含み、リン脂質膜との相互作用が生じ得る。一度リン脂質表面に結合すると、アネキシンは、タンパク質−タンパク質相互作用を通して二次元格子を形成し得る(Oling et al., J. Mol. Biol. 304: 561-73 (2001))。アネキシンの生理的な意義はあまり知られていないが、それらのリン脂質結合活性に関連すると考えられている。アネキシンはシグナル配列を有さず、それ故、細胞内である一定の役割を果たすと考えられる。アネキシンの細胞外局在化については報告されているが、これが細胞溶解のような選択的な過程または特異的な事象により起こるかどうかは知られていない。WO 2006/003488によると、アネキシンおよびアネキシン-Cys変異体は、細胞表面に発現したPSに結合した後、それら自身の内部移行を引き起こす。内部移行の現象は、プレターゲッティング方法の効果を減少させる。本発明は、標的細胞により内部移行されないアネキシンに関する。より内部移行されないアネキシンの変異体を見つけるために、内部移行のメカニズムは、その構造-機能の関連性について調べられた。内部移行は、リン脂質二重層上に二次元ネットワークを形成するアネキシン三量体の形成により引き起こされる(Kenis et al., J. Biol. Chem. 279:52623-9 (2004))。前記アネキシン三量体は、アネキシン分子間の非共有結合性の相互作用により生じる。
【実施例】
【0047】
例1:62、69、100、137、138および159の位置の1以上のアミノ酸がアラニンおよびグリシンで置換されたアネキシンA5-2D変異体の製造
ヒトアネキシンA5 cDNAは、当該分野で標準的な技術を用いて、健康なボランティアからの白血球cDNAライブラリーから調製された。cDNA配列をコードするアミノ酸配列は、図1に示した。プライマーは、PCR技術によりアネキシンA5を突然変異させるために設計され、結果として得られるcDNAは以下の置換を除いて図1のアミノ酸配列でコードされ、それはcDNAにおいて単独で行われるだけでなく、組み合わせても行われる:R62A、K69A、K100A、E137A、D138G、およびN159A。注釈は、アミノ酸に対して1文字コードを使用し、置換が起こるアミノ酸配列において数字で表した位置を使用し、数字の左は本来のアミノ酸を意味し、数字の右は置換を意味する。
【0048】
アネキシンA5-2D cDNAは、当該分野で既知の標準技術を用いて細菌性の発現ベクターへクローン化された。結果として得られる細菌性の発現ベクターで形質転換された大腸菌は、発酵槽中で培養された。細菌により産生されたアネキシンA5-2D変異体は、当業者に既知の標準的なクロマトグラフィー技術を用いて大腸菌ライセートから単離および精製された。
【0049】
精製されたアネキシンA5-2D変異体は、SDS-PAGEにおいて約34kDaの均一なバンドとして現れ、BiaCoreを用いたプラズモン表面共鳴技術により測定した場合、完全なカルシウム依存性ホスファチジルセリン結合活性を示した。
【0050】
例2:62、69、100、137、138および159の位置の1以上のアミノ酸がアラニンおよびグリシンで置換され、2位のグルタミンがシステインで置換された、アネキシンA5-2D変異体の製造
アネキシンA5-2D cDNAは、本発明の実施例1で述べたように調製された。プライマーは、PCR技術によりアネキシンA5-2D cDNAを突然変異させるように設計され、結果として得られるcDNAは、2位のグルタミンがシステインで置換されていることを除いて、アネキシンA5-2Dのアミノ酸配列でコードされている。
【0051】
精製されたアネキシンA5-2D-Cys2変異体は、SDS-PAGEにおいて約34kDaの均一なバンドとして現れ、BiaCoreを用いてプラズモン表面共鳴により測定した場合、完全にカルシウム依存性のホスファチジルセリン結合活性を示した。
【0052】
例3:62、69、100、137、138および159の位置の1以上のアミノ酸がアラニンおよびグリシンで置換され、165位のグリシンがシステインで置換された、アネキシンA5-2D変異体の製造
アネキシンA5-2D cDNAは、本発明の実施例1で述べたように調製された。プライマーは、PCR技術によりアネキシンA5-2D cDNAを突然変異させるように設計され、結果として得られるcDNAは、165位のグリシンがシステインで置換されていることを除いて、アネキシンA5-2Dのアミノ酸配列でコードされている。
【0053】
精製されたアネキシンA5-2D-Cys165変異体は、SDS-PAGEにおいて約34kDaの均一なバンドとして現れ、BiaCoreを用いてプラズモン表面共鳴技術により測定した場合、完全にカルシウム依存性のホスファチジルセリン結合活性を示した。
【0054】
例4:62、69、100、137、138および159の位置の1以上のアミノ酸がアラニンおよびグリシンで置換されたアネキシンA5-2Dのリン脂質二重層に対する結合
この例では、アネキシンA5-2D変異体は、アネキシンA5のようにリン脂質二重層のPSにカルシウム依存性に結合することができるが、リン脂質表面において二次元ネットワークを形成する能力を欠き、細胞に内部移行しないことを示す。
【0055】
アネキシンA5-2DのPSを含むリン脂質二重層への結合は、楕円偏光法により研究された(Andree et al., J. Biol. Chem. 265:4923-4928 (1990))。カルシウムの非存在下において、アネキシンA5-2D変異体はリン脂質表面に結合せず、カルシウム濃度の増大により、アネキシンA5のカルシウム依存性の結合等温線と同様の結合における増大が観察された。
【0056】
アネキシンA5-2Dのリン脂質表面への結合は、電子顕微鏡により分析された(Mosser et al., J. Mol. Biol. 271:241-5 (1991))。アネキシンA5と異なり、アネキシンA5-2D変異体は、規則正しい二次元ネットワークを形成しなかった。
【0057】
ジャーカット細胞は、蛍光性のアネキシンA5-2Dまたは蛍光性のアネキシンA5、およびアポトーシスの刺激と共にインキュベートされた。前記細胞は、共焦点走査レーザー顕微鏡により、蛍光性のアネキシンA5-2Dまたは蛍光性のアネキシンA5の局在化について分析された(Kenis et al., J. Biol. Chem. 279:52623-9 (2004))。アネキシンA5は、内部移行された。アネキシンA5-2Dは内部移行されなかったが、血漿膜に結合したままであった。
【0058】
例5:62、69、100、137、138および159の位置のアミノ酸がアラニンおよびグリシンで置換され、2位のグルタミンおよび315位のシステインがそれぞれシステインおよびセリンで置換されたアネキシンA5-2D変異体とマレイミド活性化ビオチンとの結合
アネキシンA5-2D変異体は、実施例2で述べたように調製された。アネキシンA5-2D変異体のPS結合活性に影響を与えることなく、チオール化学を通してアネキシンA5-2D変異体に化合物が容易に結合することを可能にするために、システインは315位で除去され、2位に組み込まれた。
【0059】
EZ-リンク PEO-マレイミド活性化ビオチン(Pierce)を、10 mMの濃度で、25 mM Hepes/NaOH, pH 7.0, 140 mM NaCl, 1 mM EDTAに溶解した。3.4 mg/mlのアネキシンA5-2D変異体は、25 mM Hepes/NaOH, pH 7.0, 140 mM NaCl, 1 mM EDTAに透析した。200μlのビオチン溶液を1 ml アネキシンA5-2D変異体に添加した。混合物を37℃で120分間インキュベートし、その後25 mM Hepes/NaOH, pH 7.4, 140 mM NaCl, 1 mM EDTAに透析した。
【0060】
得られる接合体は、楕円偏光法によりそのPS結合活性を分析され、アビジン(Pierce)を用いてビオチン基の到達性について試験された。ビオチン化されたアネキシンA5-2DはPS結合性が損なわれず、アビジンは、リン脂質表面においてビオチン化されたアネキシンA5-2Dに容易に結合した。
【0061】
例6:62、69、100、137、138および159の位置のアミノ酸がアラニンおよびグリシンで置換され、2位のグルタミンおよび315位のシステインがそれぞれシステインおよびセリンで置換されたアネキシンA5-2D変異体とマレイミド活性化アビジンとの結合
アネキシンA5-2D変異体は、実施例2に記載したように調製された。アネキシンA5-2D変異体のPS結合活性に影響を与えることなく、チオール化学を通してアネキシンA5-2D変異体に化合物が容易に結合することを可能にするために、システインは315位で除去され、2位に組み込まれた。
【0062】
イムノピュア(Immunopure)アビジン(Pierce)を、8 mg/mlの濃度で、25 mM Hepes/NaOH, pH 7.4, 140 mM NaClに溶解した。1 mgのSulfo-SMCC (Pierce)をアビジン溶液に加え、混合物を室温で60分間インキュベートした。過剰な架橋剤は、PD10カラム(GE-アマシャム/ファルマシア)を用いたゲルろ過により除去した。マレイミド活性化アビジンを1 mg/mlのアネキシンA5-2D変異体に加え、25 mM Hepes/NaOH, pH 7.0, 140 mM NaCl, 1 mM EDTAに透析した。混合物を37℃で120分間インキュベートした。
【0063】
アビジンとアネキシンA5-2D変異体との接合は、楕円偏光法により、PSに対する結合能について試験された。前記接合体は、PS結合性を損なわなかった。
【0064】
例7:アネキシンA5-2D変異体およびプレターゲッティングを用いてインビボで腫瘍を可視化する方法
2位または165位にシステインを有するアネキシンA5-2D変異体が設計され、それぞれ実施例2および3に示したように作られた。Cys-アネキシンA5-2D変異体は、実施例5に記載したように、マレイミド-ビオチンを用いてビオチン化された。
【0065】
ビオチン化アネキシンA5-2Dは、腫瘍を有するマウスに静脈内注射された。循環するビオチン化アネキシンA5-2Dのレベルは、微速度の自発的なクリアランスまたは例えば静脈内投与されたアビジンを用いた強制的なクリアランスにより減少した。例えば蛍光性の化合物または放射性核種のような分子イメージングプローブに接合したストレプトアビジンが、静脈内に投与された。その後マウスは、蛍光プローブと接合したストレプトアビジンが使用された場合は全身の光学的なイメージャーを用いて、または放射性核種と接合したストレプトアビジンが使用された場合はSPECT、PET、SPECT/CTもしくはPET/CTを用いてイメージングが行われた。
【0066】
この可視化の方法は、腫瘍および転位を局在化および定量化するため、ならびに抗腫瘍治療の効果を決定するために適用することができる。
【0067】
例8:アネキシンA5-2D変異体およびプレターゲッティングを用いて、インビトロで不安定なアテローム硬化型のプラークを可視化する方法
2位または165位にシステインを有するアネキシンA5-2D変異体が設計され、実施例2および3にそれぞれ示したように作られた。Cys-アネキシンA5-2D変異体は、実施例5で述べたように、マレイミド-ビオチンを用いてビオチン化された。
【0068】
ビオチン化アネキシンA5-2Dは、アテローム硬化性の病変に罹患しているマウスに静脈投与された。循環しているビオチン化アネキシンA5-2Dのレベルは、微速度の自発的なクリアランスまたは例えば静脈内投与されたアビジンを用いた強制的なクリアランスにより減少した。例えば蛍光性の化合物または放射性核種のような分子イメージングプローブに接合したストレプトアビジンが、静脈内に投与された。その後マウスは、蛍光プローブと接合したストレプトアビジンが使用された場合は全身の光学的なイメージャーを用いて、または放射性核種と接合したストレプトアビジンが使用された場合はSPECT、PET、SPECT/CTもしくはPET/CTを用いてイメージングが行われた。
【0069】
この可視化の方法は、不安定なアテローム硬化性プラークを局在化するためおよび不安定なアテローム硬化性プラークを安定なアテローム硬化性プラークと区別することに対して適用することができる。前記可視化の方法は、不安定なアテローム硬化性プラークを安定化する薬剤の効果を決定するために適用され得る。
【0070】
例9:アネキシンA5-2D変異体およびプレターゲッティングを用いた、インビボでの腫瘍の治療方法
2位または165位にシステインを有するアネキシンA5-2D変異体が設計され、実施例2および3にそれぞれ示したように作られた。Cys-アネキシンA5-2D変異体は、実施例5で述べたようにマレイミド-ビオチンを用いてビオチン化した。
【0071】
ビオチン化アネキシンA5-2Dは、腫瘍を有するマウスに静脈投与された。循環しているビオチン化アネキシンA5-2Dのレベルは、微速度の自発的なクリアランスまたは例えば静脈内投与されたアビジンを用いた強制的なクリアランスにより減少した。例えば、ドキソルビシンおよびシスプラチンのような抗癌化合物と接合された、または例えばドキソルビシンおよびシスプラチンをカプセル化したリポソームのような抗癌化合物のキャリアと接合されたストレプトアビジンが静脈投与された。
【0072】
このプレターゲッティング治療方法は、抗癌剤を腫瘍に局在性に送達するために適用することができる。
【0073】
例10:アネキシンA5-2D変異体およびプレターゲッティングを使用した、インビボでの不安定なアテローム硬化性プラークの治療方法
2位または165位にシステインを有するアネキシンA5-2D変異体が設計され、実施例2および3にそれぞれ示すように作られた。Cys-アネキシンA5-2D変異体は、実施例5で述べたように、マレイミド-ビオチンを用いてビオチン化された。
【0074】
ビオチン化アネキシンA5-2Dは、アテローム硬化性の病変に罹患しているマウスに静脈投与された。循環しているビオチン化アネキシンA5-2Dのレベルは、微速度の自発的なクリアランスまたは例えば静脈内投与されたアビジンを用いた強制的なクリアランスにより減少した。例えば、スタチンおよび抗炎症性化合物のようなアテローム硬化性プラークを安定化する化合物と接合した、または例えばスタチンおよび抗炎症性化合物をカプセル化するリポソームのようなアテローム硬化性プラークを安定化する化合物のキャリアと接合したストレプトアビジンが静脈内投与された。
【0075】
このプレターゲッティング治療方法は、アテローム硬化性プラークを安定化する化合物をアテローム硬化性プラークに対して局在性に送達するために適用することができる。
【0076】
全ての実施例、開示されている方法および/または組成物、およびここで権利請求されているものは、本発明の開示を考慮に入れて、必要以上の実験をすることなく作られ、行うことができる。一方、本発明の方法および組成物は、好ましい実施形態の見地から記載されており、本発明の概念、精神および範囲から離れることなく、ここで述べられている方法およびまたは組成物ならびに方法のステップまたはステップの配列においてバリエーションが適用されてよいことは、当業者に自明であろう。ここで述べられている化合物を含む組成物が、構造的および機能的に関連する化合物を含む組成物で置換されてよいことは、当業者に自明であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1のリン脂質に結合し;
b)らせんIA、ID、IIA、IID、IIIC、IIIDおよびIVEならびにらせんICとID、IIEとIIIA、IIICとIIID、IIIDとIIIE、およびIVAとIVBを結合する配列における1以上のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されることにより、アネキシン変異体の細胞への内部移行が障害され;
c)認識可能な化合物に結合するアネキシン変異体。
【請求項2】
請求項1に記載のアネキシン変異体であって、前記アネキシンは、アネキシンA5について配列番号1または他のアネキシンについて対応する配列を含んでなり、細胞への内部移行を阻害するために1以上のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアネキシン変異体。
【請求項3】
請求項2に記載のアネキシン変異体であって、前記1以上のアミノ酸は、16〜29、59〜74、88〜102、135〜145、156〜169、202〜231、259〜266および305〜317の位置、または他のアネキシンについて対応する配列に位置するアネキシン変異体。
【請求項4】
請求項2または3に記載のアネキシン変異体であって、前記1以上のアミノ酸は極性アミノ酸Glu、Gln、Asp、Asn、Argおよび/またはLysであり、無極性アミノ酸で置換されたアネキシン変異体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアネキシン変異体であって、親和性化合物は、1以上のビオチン、アビジンもしくはストレプトアビジン、オリゴヌクレオチドもしくはモルホリノ、ペプチド核酸およびアプタマー、レセプターもしくはその一部、レセプターリガンドもしくはその一部、抗体もしくはその断片、ならびに抗原から選択されるアネキシン変異体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のアネキシン変異体であって、前記アネキシンは、アネキシンA5の1〜15、46〜58、86〜87、118〜134、162〜167、245〜248および280〜294のアミノ酸の位置においてシステイン残基を介して結合され、前記アネキシンは、アネキシンA5の20〜23、25〜27、29〜45、65〜85、90〜117、136〜148、151〜156、171〜202、220〜244、249〜279および295〜319の位置にシステイン残基を有さないアネキシン変異体。
【請求項7】
アネキシンが、アネキシンA5について配列番号1、または他のアネキシンについては対応する配列を含んでなり、16〜29、59〜74、88〜102、135〜145、156〜169、202〜231、259〜266および305〜317の位置または他のアネキシンの場合の対応する配列における1以上のアミノ酸が他のアミノ酸で置換され、1〜19、24、28、46〜64、86〜89、118〜135、149〜150、157〜170、203〜219、245〜248および280〜294の位置における1以上のアミノ酸は、任意に置換されたシステイン残基で置換されたアネキシン変異体。
【請求項8】
対象における標的細胞に診断化合物を送達するための方法であって:
a)請求項1〜6のいずれか1項に記載の少なくとも1のアネキシン変異体を含んでなる組成物を対象に投与することと;
b)アネキシン変異体に結合する認識可能な化合物(A)を認識し、結合する化合物(B)と診断的な化合物との少なくとも1の複合体を含んでなる組成物を対象に投与すること
を含んでなる方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、前記診断的な薬剤は、蛍光性の群、放射性核種、MRI造影剤、CT造影剤、超音波剤、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される方法。
【請求項10】
対象における標的細胞に薬学的な化合物を送達するための方法であって:
a)請求項1〜6のいずれか1項に記載の少なくとも1のアネキシン変異体を含んでなる組成物を対象に投与することと;
b)アネキシン変異体に結合する認識可能な化合物(A)を認識し、結合する化合物(B)と薬学的な化合物との少なくとも1の複合体を含んでなる組成物を対象に投与すること
を含んでなる方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、前記薬学的な化合物は、毒素、酵素、酵素阻害剤、脂質、糖類、免疫グロブリンもしくはその断片、免疫複合体、化学療法化合物、光増感剤、放射性核種、細胞死誘発剤、細胞死阻害剤、線維素溶解性化合物、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される方法。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか1項に記載の方法であって、前記認識する化合物(B)は、ストレプトアビジンもしくはアビジン、ビオチンもしくは複数のビオチンの複合体、オリゴヌクレオチドもしくはモルホリノ、ペプチド核酸およびアプタマー、受容器もしくはその一部、受容器リガンドもしくはその一部、抗体もしくはその断片、および抗原から選択される方法。
【請求項13】
リン脂質を発現する細胞または細胞粒子の存在または非存在を検出するための方法であって:
a)認識可能な化合物Aおよびアネキシンまたはアネキシン変異体を含んでなる少なくとも1の複合体を含む組成物を対象に投与することと;
b)化合物Aを認識する化合物Bおよび診断的な薬剤を含んでなる少なくとも1の複合体を含む組成物を対象に投与することと;
c)対象に対して、光学的なイメージング、SPECTイメージング、PETイメージング、MRIイメージング、CTイメージング、および超音波イメージングからなる群より選択される検出ステップを行うこと
を含んでなる方法。
【請求項14】
a)請求項1〜7のいずれか1項に記載の少なくとも1のアネキシン変異体;および
b)前記アネキシン変異体を認識することができる診断的または治療的な化合物
を含んでなるキット。
【請求項15】
診断における、請求項1〜7のいずれか1項に記載のアネキシン変異体の使用。
【請求項16】
治療における、請求項1〜7のいずれか1項に記載のアネキシン変異体の使用。

【公表番号】特表2009−519925(P2009−519925A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545521(P2008−545521)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【国際出願番号】PCT/NL2006/050315
【国際公開番号】WO2007/069895
【国際公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(508177172)モサメディックス・ビー.ブイ. (4)
【氏名又は名称原語表記】MosaMedix B.V.
【住所又は居所原語表記】Monnikendijk 4, NL−4474 ND Kattendijke, the Netherlands
【Fターム(参考)】