説明

治療剤としてのプロサポシンおよびサイトカイン由来ペプチド

【課題】神経細胞の成長またはミエリン形成の増加を刺激する方法、神経組織における神経またはミエリン脱落疾患の治療のための薬学的調製物、、中枢神経系または末梢神経系のニューロン変性疾病の治療のための薬学的調製物、および、網膜神経障害の治療のための薬学的調製物を提供すること。
【解決手段】プロサポシンおよびそれから由来するペプチド誘導体は、インビトロでの神経突起伸長を促進する。ペプチドのコンセンサス配列が、活性な神経突起伸長誘導性サポシンCペプチド配列と、種々の造血および神経生成性サイトカインのペプチド配列の比較により決定された。これらのサイトカイン由来ペプチドは、それらの対応するサイトカイン類と同じプロセスを促進する。さらに、プロサポシンおよびサポシンCは、エクスビボで神経細胞ミエリン形成の増加を促進する。これらに基づいて、上記課題は解決された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療特性を有するタンパク質およびペプチドを開示する。より特定すれば、これらの分子は、成長促進および種々の細胞型の分化に有効である。
【背景技術】
【0002】
70キロダルトンの糖タンパク質であるプロサポシンは、リソソーム加水分解酵素によるスフィンゴ糖脂質の加水分解に必要である一群の4つの小さな熱安定性糖タンパク質の前駆体である(非特許文献1)。プロサポシンは、リソソームでタンパク質分解的にプロセッシングされ、プロサポシンにおいて4つの近接した直列ドメインとして存在するサポシンA、B、C、およびDを生じる(非特許文献2)。4つのサポシン全ては、6つのシステインの配置、グリコシル化部位、および保存されたプロリン残基を含んで、互いに構造的に似ている。
【0003】
プロセッシングされていないプロサポシンはまた、統合膜タンパク質、ならびにヒト乳汁、脳脊髄液、および精漿に存在する分泌タンパク質として存在する。高濃度の非プロセッシングプロサポシンの中枢神経系における存在は、それが、リソソーム加水分解酵素の活性化に加えて重要な役割を果たし得ることを示す。
【0004】
プロサポシンは、スフィンゴ糖脂質と呼ばれる膜脂質を結合する。スフィンゴ糖脂質は、炭水化物の頭部の基および2つの炭化水素鎖(脂肪酸およびスフィンゴシン誘導体)からなるスフィンゴ脂質である。スフィンゴ糖脂質は、ミエリン鞘の重要な成分であり、神経繊維を保護および隔離する構造である。ミエリン脱落(髄鞘脱落)は、多くの中枢神経系疾患に共通する欠損であり、多発性硬化症(MS)が最も一般的である。MSは、総廃疾を導き得る慢性疾患であり、軸索はほぼ完全に残したままでミエリン鞘を損傷することにより特徴づけられる。おそらくウイルスに誘導された自己免疫機構が、この疾病の進展に役割を果たし得ると現在考えられている。現在、MSに対する有効な処置はない。ミエリン脱落を含む他の中枢神経系疾患は、急性播種性脳脊髄炎、筋萎縮性側索硬化症、急性壊死出血性白質萎縮症、進行性多病巣性白質脳炎、異染性白質萎縮症および副腎白質萎縮症を含む。末梢神経系のミエリン脱落症の一例は、ギヤン−バレー症候群である(PathologicBasis of Disease, Robbins, S. L.およびCotran, R. S., 編、W. B. Saunders,Philadelphia, (1979), pp.1578-1582)。
【0005】
ポリオ後症候群は、筋衰弱および筋萎縮をともなう筋肉疲労および持続性の減少により特徴づけられる。この疾病は、一部は、筋萎縮性側索硬化症で起こる損傷と同じタイプの脊髄運動ニューロンの損傷により引き起こされると考えられている。
【0006】
糖尿病または化学療法からの結果生じるような末梢神経障害および末梢神経障害は、最も流行している末梢神経系疾患(表1を参照のこと)を含む。末梢神経疾患に対する現在の処置は、症状を処置するのみであり、疾病の原因を処置しない。
【0007】
【表1】

プロサポシンは、ガングリオシド、セレブロシド、およびスルファチドのようなスフィンゴ糖脂質を高親和性で結合し、そしてミセルから膜へのそれらの輸送を促進する(Suedaら、(1993) J. Biol. Chem.印刷中;Hiraiwaら、(1992) Proc. Natl. Acad.Sci. USA., 89: 11254-11258)。ガングリオシドは、1またはそれ以上のシアル酸残基を含み、そしてニューロンの原形質膜に最も豊富にあって、そこでは総脂質量の約6%を構成する。ガングリオシドの機能は、十分に知られていないが、それらは、ニューロン分化、神経突起形成(neuritogenesis)、および神経系の修復の刺激に関係している。
【0008】
ニューロトロフィン(neurotrophin)は、ニューロン細胞集団の生存、標的神経支配、および/または機能に影響し得るようなタンパク質として定義され得る(Barde,(1989) Neuron, 2: 1525-1534)。ニューロトロフィンの効力は、インビトロおよびインビボの両方で詳細に報告されている。このようなタンパク質の中で最もよく特徴づけられているのは、交感神経および知覚ニューロンの標的細胞により合成され、そして前脳コリン作動性ニューロン、末梢ニューロン、および知覚ニューロンに対して栄養因子として働く神経成長因子(NGF)である(Heftiら、(1989)Neurobiol. Aging, 10: 515-533)。インビボでの実験では、NGFが天然に生じる損傷および物理的な外傷損傷を末梢神経に復帰させ得ることが示されている。例えば、NGFの局所適用は、成熟ラットで、座骨神経の離断(transection)から生じる知覚ニューロン節の萎縮を阻害することが示された(Richら、(1987)J. Neurocytol., 16: 261-268)。さらに、NGFは、発達している交感神経および知覚ニューロンの神経突起の拡張を促進するので、神経の再生プロセスにおいて役割を演じている(Purvesら、(1988)Nature, 336: 123-128)。さらに、NGFがアルツハイマー病の患者で失われている前脳コリン作動性ニューロンの機能を支持しているので、このことは、NGFがこれらの疾病の処置で臨床的に使用され得ることを示している(Heftiら、(1989)Neurobiol. Aging, 10: 515-533)。
【0009】
脳由来の神経栄養因子(BDNF)は、中枢神経系で合成され、そして末梢知覚ニューロン、黒質のドーパミン作動性ニューロン、中枢コリン作動性ニューロン、および網膜神経節のための栄養因子である(Hendersonら、(1993)Restor. Neurol. Neurosci., 5: 15-28)。BDNFは、普通に起こる細胞死をインビトロおよびインビボの両方で阻害することもまた示された(HoferおよびBarde,(1988) Nature, 331: 261-262)。
【0010】
NGFおよびBDNFは、相同性である(約50%)大きな領域を共有するので、これらの領域の4つに対応する縮重オリゴヌクレオチドプライマーをPCR反応で用いて、新規な関連配列が増幅された。ニューロトロフィン3(NT-3)と呼ばれる関連する神経栄養因子がクローン化された(Maisonpierreら、(1990)Science, 247: 1446-1451)。NT-3は、中枢および末梢の両方で見い出され、そして後根神経節(DRG)体外移植片を含む知覚ニューロンおよび交感神経ニューロンの生存を促進し得る。
【0011】
上記の3つのニューロトロフィンは、異なるニューロン特異性を有する。全ての3つのニューロトロフィンはDRG体外移植片から神経突起伸長を誘導した。NGFは、交感神経節(SG)から神経突起伸長を誘導するが、結節性神経節(NG)から神経突起伸長を誘導せず、一方BDNFは、NGから神経突起伸長を誘導するが、SGから神経突起伸長を誘導しない。NT-3は、NGからの神経突起伸長を、そしてより少ない程度でSGから神経突起伸長を促進し、NGFまたはBDNFのいずれよりもより広い特異性を示唆する(Lindsayら、(1991)Restor. Neurol. Neurosci., 2:211-220)。
【0012】
毛様体神経栄養因子(Ciliary Neurotrophic Factor)(CNTF; Linら、(1989) Science, 246: 1023)は、インビトロでニワトリ胚毛様体神経節の生存を促進し、そして培養された交感神経、知覚ニューロンおよび脊髄運動ニューロンの生存を支援することも見い出された(Ipら、(1991)J. Physiol., Paris, 85: 123-130)。新生児ラットの外傷部位に対するこのタンパク質の局所投与は、相当する運動ニューロンの変性を阻害することを示した。CNTFはまた、細胞死の発生から運動ニューロンを救援する(Hendersonら、(1993)Restor. Neurol. Neurosci., 5: 15-28)。CNTFは、残基43で開始し、CNTFのC末端ドメインへの結合において重要であり、それ故サイトカインの機能的活性化を導くと考えられているABループと呼ばれる構造要素を含む(Bazan,(1991) Neuron, 7: 197-208)。CNTFおよび他の神経生成性(neuropoietic)サイトカインは、インターロイキン-6および顆粒球コロニー刺激因子を含む造血サイトカインと、配列/構造モチーフを共有する。これらのサイトカイン類のC末端における優勢な配列モチーフは、サイトカインレセプターと相互作用し得る正確な三次構造を採用すると推測されている(Bazan,同上)。
【0013】
サイトカインレセプター結合の現在のモデル(SprangおよびBazan, (1993) Curr. Opin. Struct. Biol., 3: 816)は、レセプター複合体の主要部を形成するサイトカインタンパク質の束(bundle)のコアのAヘリックスとDヘリックスとの間の特異的なパッキングジオメトリーの進化的保存を強調している。この構造は、ほとんどのサイトカインに共通する。結合に必要であると提案されているABループおよびヘリックスDは、全てのサイトカイン類においてアミノ酸の大きな伸長(50アミノ酸以上)により分離されている。このことは、約20アミノ酸の小さなペプチドがレセプターリガンドとして不活性であり得そして細胞応答を惹起しないことを意味する。
【0014】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【非特許文献1】Kishimotoら、(1992) J. Lipid Res., 33;1255-1267
【非特許文献2】O'BrienおよびKishimoto、(1991) FASEB J., 5:301-308
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0015】
(発明の要旨)
本発明は、以下を提供する。
(項目1) 神経細胞の成長またはミエリン形成の増加を刺激する方法であって、ニューロン細胞を、プロサポシン、サポシンC、もしくは神経成長の増加またはミエリン形成活性の増加を促進する能力を有する能力を有する項目26に記載のペプチドと接触させる工程を包含する、方法。
(項目2) 前記プロサポシンがネイティブである、項目1に記載の方法。
(項目3) 前記プロサポシンが組換え生産される、項目1に記載の方法。
(項目4) 前記組成物がサポシンCを包含する、項目1に記載の方法。
(項目5) 前記ペプチドがサポシンCのアミノ酸8〜29を包含する、項目1に記載の方法。
(項目6) 前記フラグメントが、配列番号1のアミノ酸8〜29内に位置する活性な神経栄養フラグメントから本質的になる、項目5に記載の方法。
(項目7) 前記ニューロン細胞が神経芽腫細胞である、項目1に記載の方法。
(項目8) 前記ペプチドが、配列番号2または7〜14から本質的になる、項目1に記載の方法。
(項目9) 前記ニューロン細胞がインビトロで接触される、項目1に記載の方法。
(項目10) 前記ニューロン細胞がインビボで接触される、項目1に記載の方法。
(項目11) 前記細胞がマウス小脳体外移植片由来である、項目1に記載の方法。
(項目12) 神経組織における神経またはミエリン脱落疾患の治療のための薬学的調製物であって、薬学的に受容可能な賦形剤とともにプロサポシン、その神経栄養フラグメント、または項目26に記載のペプチドを含む、調製物。
(項目13) 前記フラグメントがサポシンCを含む、項目12に記載の調製物。
(項目14) 前記ミエリン脱落疾患が、多発性硬化症、急性播種性白質脳炎、進行性多病巣性白質脳炎、および副腎白質萎縮症からなる群から選択される、項目12に記載の調製物。
(項目15) 前記プロサポシンまたはそのフラグメントが層状構造に封入される、項目12に記載の調製物。
(項目16) プロサポシンのフラグメントを含む中枢神経系または末梢神経系のニューロン変性疾病の治療のための薬学的調製物であって、ここで、該フラグメントが薬学的に受容可能な賦形剤とともに配列番号1のペプチドの神経栄養活性を含む、調製物。
(項目17) 前記疾病が中枢神経系の疾病であり、そして前記フラグメントが血液脳関門を横切るために選択される、項目16に記載の調製物。
(項目18) 前記疾病がアルツハイマー病、パーキンソン病、卒中、ポリオ後症候群、および筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される、項目17に記載の調製物。
(項目19) 網膜神経障害の治療のための薬学的調製物であって、薬学的に受容可能な賦形剤とともにプロサポシンまたはその神経栄養フラグメントを含む、調製物。
(項目20) 前記網膜神経障害が黄斑変性である、項目19に記載の調製物。
(項目21) 薬学的に受容可能な賦形剤とともにプロサポシンまたはその神経栄養フラグメントを単位用量形態で含む、薬学組成物。
(項目22) 制御される放出物質とともに製剤化されたプロサポシンまたはその神経栄養フラグメントを含む、薬学組成物。
(項目23) 単離されたまたは精製された形態の神経のプロサポシンレセプタータンパク質。
(項目24) 前記レセプターが、固体支持体に結合したサポシンC配列内に含まれる神経突起伸長誘導ペプチドを用いるアフィニティー精製により、P100原形質膜から単離される、項目23に記載のレセプタータンパク質。
(項目25) 前記レセプターが約60kDaの分子量を有する、項目23に記載のレセプタータンパク質。
(項目26) 約12と約50との間のアミノ酸を有し、そしてコンセンサス配列XNNYZを含む活性な神経栄養ペプチドであって、ここで、Nはアスパラギンであり、そしてX、Y、およびZは、哺乳動物タンパク質において天然に存在するアミノ酸であり、該コンセンサス配列は以下を含み:
2つの隣接するまたは次に隣接するアスパラギン残基;
該アスパラギン残基からN末端方向に向かって3または4残基であるロイシンまたはイソロイシン残基X;
1またはそれ以上の荷電アミノ酸残基Y、ここで、Yは、該アスパラギン残基からC末端方向に向かって2〜8残基に位置する;および
1またはそれ以上の疎水性残基Z、ここで、Zは、該アスパラギン残基のC末端方向に向かって6〜10残基に位置し、ここで、該ペプチドは細胞中に神経突起形成を誘導する。
(項目27) 前記アスパラギン残基が1つのアミノ酸により分離されている、項目26に記載のペプチド。
(項目28) 前記ペプチドがサイトカイン由来である、項目26に記載のペプチド。
(項目29) 約12と約50との間のアミノ酸を有し、そしてコンセンサス配列XNNYZを含むペプチドであって、ここで、Nはアスパラギンであり、そしてX、Y、およびZは、哺乳動物タンパク質において天然に存在するアミノ酸であり、該コンセンサス配列は以下を包含する:
2つの隣接または次に隣接するアスパラギン残基;
該アスパラギン残基からN末端方向に向かって3または4残基のロイシンまたはイソロイシン残基X;
1またはそれ以上の荷電アミノ酸残基Y、ここで、Yは、該アスパラギン残基のC末端方向に向かって2または8残基に位置し;および
1またはそれ以上の疎水性残基Z、ここで、Zは、該アスパラギン残基からC末端方向に向かって6〜10残基に位置し、ここで、該ペプチドはサイトカイン由来であり、そしてそれが由来するサイトカインとして同じプロセスを促進する。
(項目30) 前記サイトカインがインターロイキン-1、インターロイキン-2、インターロイキン-3、白血球阻害因子、エリトロポイエチン、インターロイキン-6、またはオンコスタチン-Mである、項目29に記載のペプチド。
(項目31) 配列番号2、7、8、9、または10の活性を含み、そしてそれぞれCNTF、IL-6、IL-2、IL-3、またはIL-γのABループの約12〜約50アミノ酸を含む、項目29に記載のペプチド。
(項目32) 配列番号13または14の活性を含み、そしてそれぞれIL-1βのヘリックスCまたはオンコスタチン-M由来の約12〜約50アミノ酸を含む、項目29に記載のペプチド。
(項目33) 前記次に隣接するアスパラギン残基を分離する1つのアミノ酸がイソロイシンではない、項目27に記載のペプチド。
(項目34) 配列番号11または配列番号12の活性を有し、それぞれエリトロポイエチンまたは白血球阻害因子のABループの約12〜約50のアミノ酸を含む、活性な神経栄養ペプチド。
【0016】
本発明の1つの実施態様は、神経細胞成長またはミエリン形成の増加を促進するための方法であって、ニューロン細胞と、プロサポシン、サポシンC、もしくは神経成長の増加またはミエリン形成活性の増加を促進する能力を有する本明細書で以下に記載のコンセンサス配列に適合するペプチドを含む組成物とを接触させる工程を包含する。好ましくは、プロサポシンはネイティブである;最も好ましくは、プロサポシンは組換え的に産生される。ペプチドは、有利にはサポシンC、サポシンCの8〜29のアミノ酸を含むペプチド、またはサポシンCの8〜29アミノ酸内に位置する活性な神経栄養フラグメントであり得る。好ましくは、ニューロン細胞は神経芽腫細胞であり、そしてペプチドは、本質的に配列番号2または配列番号7〜14からなる。これらのニューロン細胞は、好ましくはインビトロで接触させ、そして最も好ましくはインビボで接触させる。この好ましい実施態様の他の局面では、細胞は、マウス小脳体外移植片由来である。
【0017】
本発明の他の局面は、哺乳動物におけるミエリン脱落疾患を処置するための方法に関し、疾患で苦しむ哺乳動物を同定する工程、およびこの哺乳動物にミエリン脱落を阻害する薬学的有効量のプロサポシン、その神経栄養フラグメント、または本明細書で以下に記載の法則に適合するコンセンサスペプチドを投与する工程を包含する。好ましくは、このフラグメントは、サポシンCであり、そしてミエリン脱落疾患は、多発性硬化症、急性播種性白質脳炎、進行性多病巣性白質脳炎、または副腎白質萎縮症のいずれかである。好適には、投与の方法は、生物学的に適合するキャリアを用いて、筋肉内、皮内、皮下、頭蓋内、脳脊髄内、または局所のいずれかである。プロサポシンまたはそのフラグメントは、リポソーム様(層状)構造で有利に封入され得る。
【0018】
本発明は、神経組織において、神経変性またはミエリン変性の進行を停止または遅延するための方法をさらに含み、このような変性を受けやすいニューロン組織とプロサポシンまたはその活性な変性阻害フラグメントを接触させる工程を包含する。好ましくは、このフラグメントはサポシンCであり、そして組織はインビトロである;最も好ましくは、組織はインビボである。
【0019】
本発明の他の局面は、中枢または末梢神経系のニューロン変性疾病を処置するための方法であって、このような疾病にかかった哺乳動物にニューロン変性を遅延または停止するに有効な量のプロサポシンフラグメントを投与する工程を包含する。好ましくは、このフラグメントは、配列番号1のペプチドの神経栄養活性を含み、そして静脈内、筋肉内、皮内、皮下、頭蓋内、脳脊髄内、局所、または経口投与される。好適には、この疾病は、中枢神経系の疾病であり、そしてフラグメントは、血液脳関門を横切るために選択される。この好ましい実施態様の他の局面では、この疾病は、アルツハイマー病、パーキンソン病、卒中、ポリオ後症候群、または筋萎縮性側索硬化症である。
【0020】
さらに、本発明は、患者に有効量のプロサポシンまたはその神経栄養フラグメントを投与する工程により、患者の網膜神経障害の進行を遅延するための方法を含む。好ましくは、この網膜神経障害は、黄斑変性であり、この患者は65歳以上であり、そして投与は、局所、静脈内、眼球内、または経口のいずれかである。
【0021】
本発明の他の局面は、単位用量形態でプロサポシンまたはその神経栄養フラグメントを含む薬学的組成物である。
【0022】
本発明のさらに他の局面は、制御される放出物質とともに製剤化されるプロサポシンまたはその神経栄養フラグメントを含む薬学的組成物である。
【0023】
本発明はまた、単離または精製された形態のニューロンプロサポシンレセプタータンパク質を含む。好ましくは、このレセプタータンパク質は、固体支持体に結合したサポシンC配列内に含まれる神経突起伸長誘導ペプチドを用いるアフィニティー精製により、p100原形質膜から単離され、そして約60kDaの分子量を有する。
【0024】
本発明の他の局面によれば、約15〜約50のアミノ酸を有し、そしてコンセンサス配列XNNYZを含む活性な神経栄養ペプチドが提供され、ここで、Nはアスパラギンであり、そしてX、Y、およびZは、哺乳動物のタンパク質で天然に存在するアミノ酸であり、このコンセンサス配列は以下を含む:
2つの隣接または次に隣接するアスパラギン残基;
このアスパラギン残基からN末端方向に向かって3または4残基であるロイシンまたはイソロイシン残基X;
1またはそれ以上の荷電アミノ酸残基Y、ここで、Yは、前記アスパラギン残基からC末端方向に向かって2〜8残基に位置する;および
1またはそれ以上の疎水性残基Z、ここで、Zは、前記アスパラギン残基のC末端方向に向かって6〜10残基に位置する。そしてこのペプチドは細胞中に神経突起形成を誘導する。
【0025】
この好ましい実施態様の他の局面では、このアスパラギン残基は、1つのアミノ酸により分離されている。好ましくは、このペプチドはサイトカイン由来であり、そしてそれが由来するサイトカインとして同じプロセスを促進する。好適には、このサイトカインは、インターロイキン-1、インターロイキン-2、インターロイキン-3、白血球阻害因子、エリトロポイエチン、インターロイキン-6、またはオンコスタチン-Mである。さらに、このペプチドは、配列番号2、7、8、9、10、11、または12の活性を含み、そしてCNTFのABループの約15〜約50アミノ酸、インターロイキン-6、インターロイキン-2、インターロイキン-3、インターロイキン-1γ、エリトロポイエチン、または白血球阻害因子をそれぞれ含む。この実施態様の他の局面では、このペプチドは配列番号13または14の活性を含み、そしてIL-1βのヘリックスCまたはオンコスタチン-Mそれぞれ由来の約15〜約50アミノ酸を含む。
【0026】
本発明の他の実施態様は、神経細胞成長を刺激するための方法であり、この方法は、神経細胞を本明細書中で上記に記載のコンセンサス配列を有する活性ペプチドを含む組成物と接触させる工程を包含する。好ましくは、神経細胞は、神経芽腫細胞であり、そして細胞はインビトロで接触させる;最も好ましくは、細胞はインビボで接触させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(発明の詳細な説明)
上部および下部運動ニューロンを含むニューロンの大集団の細胞体に存在する神経栄養因子としてのプロサポシン自身の同定、およびそのマウス小脳体外移植片でミエリン形成を誘導する能力は、このタンパク質の重要な新規な機能を示す。さらに、細胞成長および分化を促進するプロサポシンペプチドの使用は、記載されたことがない。さらに、サイトカイン自身として働く神経生成性および造血サイトカイン由来の小ペプチド(以下に記載のコンセンサス配列に適合する)の能力は証明されていなかった。従って、本発明は、治療剤として使用するためのプロサポシン、その誘導体、および種々の神経栄養および造血サイトカイン由来のペプチドを提供する。
【0028】
本発明は、多くの神経栄養および造血サイトカインにおいて見い出される神経栄養ペプチドのコンセンサス配列を開示し、このコンセンサス配列は両方の神経突起伸長を刺激し、そしてそれが由来する分子の活性を模倣する。このコンセンサス配列は、プロサポシン、サポシンC、サポシンCのアミノ酸8〜29を含むペプチド、およびCNTFのアミノ酸38〜57を含む20マーペプチド中に見い出された(それら全ては神経突起形成活性を示した)。サポシンCの活性22マーは、CNTF20マー、およびインターロイキン(IL)-1、IL-2、およびエリトロポイエチン(EPO)を含む多くの造血サイトカイン由来のペプチドと配列類似性を示したので、これらのペプチドもまた、サイトカインアナログとして有用であり得る。さらに、プロサポシン、サポシンC、およびサポシンCペプチドは、ミエリン形成の増加を促進するために使用され得る。
【0029】
プロサポシン、その誘導体、他のニューロトロフィン由来の20マーCNTFペプチドおよびコンセンサスペプチド、サイトカイン、ならびに成長因子は、末梢および中枢神経系に対して毒性、外傷性、虚血性、変質性および先天性傷害の後の、機能的な回復を促進することにおいて、顕著な治療用途を有する。サイトカイン由来の小ペプチドはまた、サイトカイン自身と同様の効果を仲介することで有用性を有する。これらのペプチドの使用は、それらが天然または組換えサイトカインのいずれに比べても合成がより安定で、かつより容易であるので、種々の疾患の治療を促進し得る。さらに、プロサポシンおよびその誘導体は、ミエリン脱落疾病の影響を打ち消すために用いられ得る。
【0030】
プロサポシンおよびその誘導体は、多くのタイプのニューロンに存在することが知られ、水溶性であり(スフィンゴ糖脂質と対照的に)、そしてガングリオシドミセルより免疫原性が少ない。それ故、ヒトの治療には免疫応答を起こさないヒト配列が使用される。
【0031】
サポシンC由来の活性な22マーペプチドは、配列番号1(CEFLVKEVTKLIDNNKTEKEIL)に示されるアミノ酸配列を有する。20マーのCNTFペプチドは配列番号2(YVKHQGLNKNINLDSVDGVP)に示されるアミノ酸配列を有する。ヒトプロサポシンは、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有する。サポシンCは、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する。プロサポシンに対するヒトcDNA配列は、配列番号5に示される。活性な22マーフラグメント由来の活性18マーフラグメントは、配列番号6(YKEVTKLIDNNKTEKEIL)として示される。実施例でさらに詳細に記載されるように、プロサポシン、サポシンC、少なくともアミノ酸8〜29を含むサポシンCのアミノ酸およびCNTFの20マーペプチドは、神経栄養因子として活性である。さらに、少なくともアミノ酸12〜29を含むペプチド(12位でバリンからチロシンへの置換を有する)もまた、活性な神経栄養因子である。サポシンC配列のアミノ酸残基8〜29は、CNTFの残基44〜57に配列類似性を有することが観察された。
【0032】
20の異なるサイトカインおよび成長因子とCNTFの配列のならびは、ヒト(h)IL-6、IL-2、 IL-3、 IL-1γ鎖、エリトロポイエチン(EPO)、ヒト白血球阻害因子(LIF)、 IL-1β鎖、オンコスタチン-MおよびサポシンCと配列類似性を示した(表2)。
【0033】
【表2】

配列の並びは、コンセンサス配列XNNYZを規定する。このコンセンサス配列は、最初、異なる種由来のプロサポシンの22マーの比較を基に、そして神経栄養因子として不活性であるサポシンA由来の類似の配列を用いて発見された。
【0034】
このコンセンサス配列(独特の刺激性配列またはPSS)の最も重要な特徴は、2つのアスパラギン(N)残基(隣接するかまたは1個のアミノ酸残基により分離されるかのいずれか)、この2つのアスパラギン残基の(N末端に向かって)3〜4残基上流のロイシン(L)またはイソロイシン(I)残基X、この2つのアスパラギン残基の(C末端に向かって)2〜8残基下流の1つまたはそれ以上の荷電残基Y(アスパラギン酸(D)、リジン(K)、グルタミン酸(E)、またはアルギニン(R))、およびこの2つのアスパラギン残基の6〜10残基下流の1つまたはそれ以上の疎水性残基Z(アラニン(A)、L、Iまたはバリン(V))を含む。CNTF、IL-6、IL-2、IL-3およびIL1-γ配列は、最も厳密にPSSに一致し、その一方、EPOおよびLIF配列は、−4位のロイシンまたはイソロイシンを欠いている。IL-1βおよびONC-M配列はABループ中にない。上記に記載された規則に一致する任意のペプチドは、本発明の範囲内にあることが意図される。
【0035】
上記の表中に列挙されたペプチドは、当業者により、従来の自動化されたペプチド合成により調製され得、そして実施例1に記載されるように神経栄養活性についてスクリーニングされ得る。プロサポシンまたはサポシンC由来の類似の活性ペプチドもまた、本発明の範囲内であり、同様に調製されそしてスクリーニングされ得る。さらに、サイトカイン由来ペプチドは、それらの対応するサイトカインの活性についてアッセイされ得る。このことは、IL-6およびEPOについて、実施例11および12にそれぞれ記載されている。これらのペプチドは、対応する完全長タンパク質が促進する細胞プロセスと同一の細胞プロセスを促進する。例えば、IL-6ペプチドは、活性化マクロファージからの腫瘍壊死因子(TNF)放出を阻害することにより抗炎症活性を示し、そしてEPOペプチドは、幹細胞(赤血球コロニー形成細胞)の赤血球細胞への分化を刺激する。神経栄養活性を有するサイトカイン由来のこれらのペプチドは、神経突起(neurites)の伸長もまた刺激し得、ならびに髄鞘形成を促進し得またニューロン組織におけるプログラムされた細胞死を予防し得る。
【0036】
さらに、約15〜約50のアミノ酸を有するこれらのペプチドは、配列番号1および2の配列と同じカテゴリーの活性を有し、そしてこれら分子と一般的に同一の方法で使用され、および一般に同一形態で提供され得るようである。従って、プロサポシン、サポシンCおよびそれらの神経栄養性フラグメントに関する本発明の開示は、配列番号2および7〜14のペプチドに拡張されるべきである。さらに、これらの配列は、それぞれのサイトカインのABループまたはヘリックスCのいずれかに由来するとして表2中に開示されている。記載されるペプチドの活性を維持するネイティブな分子のこれらの部分由来の約15〜約50のアミノ酸を有するペプチドもまた、本発明の範囲内である。目的の任意のペプチドの活性の測定は、実施例に呈示されるように、またはペプチドが由来する分子の活性について確立されたアッセイを用いて達成され得る。
【0037】
本発明の1つの局面は、分化または未分化神経細胞において神経突起の伸長を促進する方法である。この方法は、有効な神経突起伸長促進量のプロサポシン、サポシンC、それらの18または22個のアミノ酸フラグメント、CNTF20マーペプチド、または問題の細胞に対する上記の規則に対応する任意のペプチドの投与を必要とする。細胞生長培地中の神経栄養因子活性のためのプロサポシンの代表的な最小量は、通常、少なくとも約1.4×10-11 M、または約10 ng/mlである。この量、またはより多いサポシンC、その活性な18または22個のアミノ酸フラグメント、CNTF20マーまたは本発明の任意の他のペプチドがまた用いられ得る。通常、任意のこれら物質の濃度は、0.1μg/ml〜約10μg/mlの範囲が用いられる。任意の特定の組織に対する有効量は、実施例1に従って決定され得る。
【0038】
神経細胞または造血細胞は、インビボまたはエクスビボで、本発明のタンパク質またはペプチド因子を細胞に直接に投与することにより処置され得る。これは、例えば、特定の細胞タイプに適切な生長培地中で細胞を培養し、次いで、培地に因子を添加することによりなされ得る。
【0039】
処置されるべき細胞がインビボの場合、代表的には、脊椎動物、好ましくは哺乳動物または鳥類内の場合、上記組成物は、いくつかの技法のうちの1つにより処置されるべき細胞に投与され得る。最も好ましくは、上記組成物は、所望の神経栄養性または造血サイトカイン由来ペプチドの濃度を与えるに十分な量で血液中に直接注入され得る。何故なら、22マーのアミノ酸12位〜29位からなり、アミノ酸12位でバリンに代えてチロシンを置き換えたヨード化18マーペプチド(分子量=2000)は、実施例7に記載のように、血液脳関門を横切りそして中枢神経系に入る(Banksら、(1992) Peptides、13:1289−1294参照)。脳による摂取は、約0.03%であり、血液脳関門を横切るその近似したサイズのペプチドに対する値の中間の範囲であった。これは、静脈内に投与された場合に、血液脳関門を横切る、今までに記載された唯一の神経栄養因子であるが、本発明の任意のペプチドの静脈内投与が予期される。
【0040】
直接頭蓋内注入または脳脊髄液への注入もまた、タンパク質またはペプチドの所望の局所濃度を与える十分量で使用され得る。両方の場合において、周知のタイプの薬学的に受容可能な注入可能なキャリアが使用され得る。そのようなキャリアは、例えば、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を含む。あるいは、上記組成物は、直接局所注入または全身投与により末梢神経組織に投与され得る。種々の従来の投与様式が予期され、これは静脈内、筋肉内、皮内、皮下、頭蓋内、硬膜外、局所および経口投与を含む。
【0041】
組成物は、注入可能な、組成物または患者に投与される日用量に相当する用量の量の局所調製物、または制御された放出組成物のような単位用量形態で、バッケージされおよび投与され得る。PBSまたは凍結乾燥形態のいずれかで活性成分の日用量を含む、隔膜でシールされたバイアルは、単位用量の例である。
【0042】
活性な22マーの分子量は約2600であり、そしてこの配列内に含まれるヨード化18マーは、血液脳関門を横切るので、22マーもまた、恐らくは中枢神経系を横切りそして入り込む(Banksら、(1992) Peptides、13:1289-1294)。CNTF20マーおよび他のサイトカイン由来のペプチドも、この関門を横切ることがまた予期される。約0.1〜約1000μg/kgの用量がまた予期されるが、脊椎動物の体重に基づく適切な日々の全身用量は約10〜約100μg/kgの範囲内である。局所的に投与される物質の日用量は、ほぼ1桁大きさが小さい。ペプチドが胃腸管分解に安定でかつ容易に吸収される場合、経口投与が可能であり得る。
【0043】
本発明の1つの好ましい実施態様において、タンパク質またはペプチド因子がこの物質の移植によりインビボで局所的に神経細胞に投与される。例えば、ポリ乳酸、ポリガラクティック酸(polygalactic acid)、再生コラーゲン、多重層リポソームおよび多くの他の従来のデポー剤処方物は、生物学的に活性な組成物で処方され得る生腐食性または生分解性物質を含む。これらの物質は、移植される場合、徐々に分解し、そして周辺組織に活性物質を放出する。生腐食性、生分解性および他のデポー剤処方物の使用は、本発明において特に予期される。注入ポンプ、マトリックス包括系、および経皮送達デバイスとの組み合わせもまた予期される。
【0044】
本発明のタンパク質およびペプチド因子はまた、ミセルまたはリポソーム中に有利に含まれ得る。リポソームカプセル化技術は周知である。リポソームは、標的組織に結合し得る、レセプター、リガンドまたは抗体の使用を通じて、神経組織のような特定の組織に標的され得る。これらの処方物の調製は当該技術分野で周知である(すなわち、RadinおよびMetz、(1983)) Methods Enzymol.,98:613-618)。
【0045】
現在、神経系の十分な機能的再生および構造的完全性の回復を促進し得る入手可能な薬剤はない。このことは、中枢神経系について特に真実である。神経栄養因子の使用による末梢神経の再生は、より直接に論証し得るゴールである。そのような処置は、本発明の範囲内にある。さらに、神経栄養因子は、脳の神経集団または特定領域の変性に関連する神経変性疾患の処置に治療的に有用であり得る。パーキンソン病の主要な原因は、黒質のドパミン作用性ニューロンの変性である。プロサポシンに対する抗体は、ヒト脳切片における黒質のドパミン作用性ニューロンを免疫組織化学的に染色するので、プロサポシンおよびその活性フラグメントは、パーキンソン病の処置において治療的に有用であり得る。新生ラットの損傷部位に対するCNTFの局所投与は、対応する運動ニューロンの変性を予防することが示されており、そしてCNTFはまた、進行する細胞死から運動ニューロンを救い、CNTFペプチドまたは本発明の任意のペプチドの使用は、神経変性疾患において治療的利用を有し得る。
【0046】
脳内のニューロン集団に到達するために、これらのタンパク質は血液脳関門を横切らないので、神経栄養因子が脳内に投与されなければならないと長い間信じられていた。。しかし、先に述べたように、活性なヨード化18マーはこの関門を横切り、そして活性な22マーは、多分この関門を横切り、そしてそれ故、静脈内に投与される。脳脊髄液中への直接注入もまた別の経路として想像されるが、運動ニューロンのような他のニューロン集団もまた静脈内注入により処置され得る。
【0047】
細胞は、インビトロ、エクスビボおよびインビボの両方で、上記の方法で、ミエリン形成を促進するために、またはミエリン脱落を予防するために処置され得る。神経線維のミエリン脱落の結果を生じるいくつかの疾患があり、多発性硬化症、急性散発性白質脳炎、進行性多病巣性白質脳炎、異染性白質萎縮症、および副腎白質萎縮症を含む。これらの疾患は処置され得、そしてミエリン脱落の進行は、疾患により影響される細胞への本発明の神経栄養因子の投与により遅延されまたは停止され得る。ミエリン形成アッセイではプロサポシンおよびその誘導体のみが試験されているけれども(実施例2)、20マーCNTFペプチドもまたミエリン形成の増加を促進することが予期される。
【0048】
本発明の組成物は、サイトカイン、神経栄養因子、およびミエリン形成促進物質の影響を研究するための研究ツールとしてインビトロで使用され得る。しかし、より実際的には、それらは、実験室試薬およびインビトロで細胞のより良好な生育を可能にするために細胞生育培地の成分としての直接用途を有する。
【0049】
本発明において用いられるプロサポシンは、種々の供給源から得られ得、そしてヒト乳または精液プラスマから単離された天然に存在するタンパク質、あるいは(Dewjiら、(1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA、84:8652-8656)、O'Brienら、(1988) Science、241:1098-1011);Hiraiwaら、(1993) Arch. Biochem. Biophys.,304、110-116)に記載されるように、ヒトプロサポシンのための完全長cDNAを含むバキュロウイルス発現ベクターに感染したSpodoptera frugiperda(Sf9)細胞の消費培地から精製された組換えヒトプロサポシンであり得る。サポシンCは、リソソーム貯蔵障害であるGaucher病の患者の脾臓から精製形態で単離されている(Morimotoら、(1990) Proc. Natl. Acad.Sci. USA, 87:3493-3497)。サポシンC(80アミノ酸)はまた、化学的に合成されそして折り畳まれ得る(Weilerら、(1993) J. Mol. Neurosci., 4:161-172)。
【0050】
サポシンC内の配列に相当するペプチド、および本明細書で上記のその他のペプチドは、Applied Biosystems Model 430 ペプチド合成機を用いた自動化固相プロトコールを用いて合成され得る。合成後、ペプチドは使用前セファデックスG-75カラムで脱塩される。
【実施例】
【0051】
(実施例1:NS20Y神経突起伸長およびコリンアセチルトランスフェラーゼ活性に対する、プロサポシン、サポシン、CNTFおよびNGFの影響)
NS20Y神経芽細胞を、10%のウシ胎児血清(FCS)および1mMのピルビン酸ナトリウムを含むDulbecco改変Eagle培地(DMEM)中で生育させた。細胞をトリプシンを用いて取り出し、そして30mmのペトリ皿中のスライドグラス上に置いた。20〜24時間後、培地を、0.5%ウシ胎児血清とエフェクタータンパク質を含むDMEMで置き換えた。細胞をさらに24時間培養し、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄し、そしてブワン溶液(ピクリン酸飽和水溶液/ホルマリン/酢酸 15:5:1)で30分間固定した。固定液をPBSを用いて除去し、そして神経突起伸長を位相差顕微鏡下でスコア付けした。1つの細胞の直径に等しいまたより長いと明らかに規定される1つまたはそれ以上の神経突起を示す細胞を、ポジティブであるとスコア付けした。各皿の異なる部分にある少なくとも200個の細胞をスコア付けし、神経突起を有する細胞の百分率を測定し、そしてアッセイは2回行った。
【0052】
用量応答曲線(図1a)は、プロサポシンがNS20Y神経芽細胞における可逆的な神経突起伸長を促進することを示した。活性の最低濃度は、1.4×10-11M(10 ng/ml)であり、これは他のニューロトロフィンの有効濃度範囲である。プロサシポシンを取り除いた場合、神経突起伸長の退縮は36時間で終了し、このことは神経突起伸長を維持するためにその連続的な存在が必要であることを示した。さらに、サポシンCは、サポシンC配列に由来する22マーおよびヨード化18マーペプチドがそうであったように、神経突起原性(neurotogenic)活性を有することが見い出されたプロサポシンの唯一のフラグメントであった。
【0053】
神経成長因子(NGF)は、種々の細胞タイプに対して作用するので、本発明者らは、それが神経芽細胞におけるプロサポシン介在伸長に関与するかどうかを決定することを試みた。NGFそれ自身は、NS20Y細胞における神経突起伸長に対して影響を与えず、そしてプロサポシン応答を増強しなかった(図1b)。PC12Mクロム親和性細胞腫細胞においてNGFで誘導される神経突起発生(neuritogenesis)を特異的に阻害する、5'-メチルアデノシン(MeSAdo)を添加した場合、MeSAdoは、プロサポシンが誘導するNS20Y神経突起伸長を阻害しなかった。さらに、プロサポシンは、高濃度(2mg/ml)でNGF応答性PC12M細胞からの神経突起伸長を阻害しなかった。NS20Y細胞は、NGF応答性ではないので、このことは、NGF応答とプロサポシン応答とが異なることを示す。
【0054】
CNTF由来の20マーペプチド(配列番号2)であるペプチド9もまた、NS20Y神経芽細胞における神経突起伸長を刺激した(図1c)。事実、ペプチド9は、モルベースでCNTFに比べ約10倍高い濃度で神経突起伸長を刺激した。
【0055】
ペプチド9およびCNTFによる神経突起伸長の刺激は、細胞表面糖タンパク質gp130に対するモノクローナル抗体AM64により完全にブロックされた(図1d)。このタンパク質はCNTFレセプター複合体のβレセプター成分であり、そしてCNTF誘導信号変換に必要である。
【0056】
次いでプロサポシン、その誘導体、CNTFおよびCNTF20マーのコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)を刺激する能力を測定した。ChATは、神経伝達物質アセチルコリンの合成を触媒する酵素であり、そしてこの酵素レベルの増加は、ニューロン分化の増加レベルを示す。
【0057】
SKNMC神経芽細胞(American Type Culture Collection, Rockville,MD;ATCC HTB 10)を、サポシンC、サポシンC22マー、プロサポシン、CNTF、CNTGペプチド、ペプチド9またはサポシンAのいずれかの200 ng/ml存在下で、48時間培養した。次いでChAT活性を、アセチルCoAからコリンへの[14C]アセチル基の転移により測定した(Fonnun、(1975) J. Neurochem., 24:407-409)。結果は、サポシンAを除いてすべてのペプチドがChAT活性を刺激することを示した。
【0058】
サポシンCの異なる領域からの合成ペプチドのセットを利用して、活性配列をさらに規定した。アミノ末端ペプチド(1〜40位)は活性で、そしてカルボキシ末端ペプチド(41〜82位)は、非活性であった。さらなる4つのペプチドの試験(表3)により、残基8〜29の間の領域に活性な配列をさらに狭めた。この領域は、単一のグリコシル化部位(Asn22)をまた含むサポシンCドメイン中で最も親水性の領域である(図3a)。より高濃度の活性な22マー(残基8〜29位)が活性のために必要であったが、神経突起伸長の程度は、プロサポシンまたはサポシンCより大きかった(図1a)。残基18位と29位との間の配列は、高度に保存されていた(図3b)。興味深いことに、ヒトサポシンAは、この領域において、最初の4つの残基を除いてサポシンCとほぼ同一であり、このことは活性配列が、18位のロイシン、ならびに残基21位および22位のアスパラギンまたはその両方の存在を必要とすることを示す。
【0059】
【表3】

応答にガングリオシドが関係するか否かを試験するために、当該技術分野で周知の方法により、プロサポシン-ガングリオシドGM1複合体(4:1)を生成した。神経突起伸長アッセイで試験したとき、この複合体は、無視し得るほどの活性を示した。同様の結果が、ガングリオシドGM3-サポシンC複合体を用いて得られた。このことは、神経突起原性効果が、ガングリオシド輸送の結果ではないことを示し、その代わりにプロサポシンおよびサポシンCに個別に起因することを示した。
【0060】
プロサポシンまたはそのフラグメントが非形質転換細胞における神経突起伸長に対して影響するか否かを決定するために、新生マウス小脳の外植片を以下の実施例に記載されるように用いた。
【0061】
(実施例2:マウス小脳の外植片における神経突起伸長に対するプロサポシンおよびその活性フラグメントの影響)
新生マウス小脳の外植片を、Satomi(Zool. Sci. 9, 127−137 (1992))に従って調製した。神経突起伸長およびミエリン形成が培養において22日間観察され、その期間の間に新生マウス小脳は正常にニューロン分化を経験しそしてミエリン形成が始まる。プロサポシン(5μg/ml)ならびにサポシンA、BおよびC(10μg/ml)を、外植片調製後第2日目に添加し(3つのコントロールおよび3つの処理外植片)、そして神経突起の伸長およびミエリン形成をビデオカメラを備えた明視野顕微鏡下で評価した。第8日目に、プロサポシンおよびサポシンCを含む培養物は、コントロール培養より薄くそしてより広がった。15日目に、プロサポシンおよびサポシンC処理培養物は、外植片の周縁で長い突起を有する多くの細胞を含んでおり、それはコントロールまたはサポシンAまたはBで処理された外植片ではより少なかった。サポシンC処理培養物は、22日目で、コントロールあるいはサポシンAまたはBで処理された培養物に比べ、皮質下白質中に2倍多いミエリン化軸索を含んでいた。視野あたり肉眼で観察されるミエリン化線維の数、およびミエリンマーカー酵素CNPの活性の両方は、コントロール値の2倍であった。これらの結果は、プロサポシンおよびサポシンCの神経栄養効果が分化している小脳、すなわちエクスビボでも起こることを示す。これらの結果は、プロサポシンおよびサポシンCの分化している小脳、すなわちエクスビボで増加するミエリン形成を誘導する能力をさらに示す。本明細書で上記に述べた規則に一致する任意のペプチド配列が、インビボでミエリン形成の増加を促進することに有用であることがまた予期される。
【0062】
プロサポシンは原形質膜で活性であるようなので、それは以下の実施例で示されるように応答性細胞の原形質膜に存在すべきである。
【0063】
(実施例3:NS20Y細胞からのプロサポシンおよびサポシンCのウェスタンブロット)
NS20Y細胞を、生長培地の存在下75cmフラスコで集密まで生長させた。細胞をかきとることにより回収し、そして表面膜を、50、48、45、43、40および35%シュークロースの不連続勾配を用いてWarrenおよびGlick(1969)の亜鉛イオン法により単離した;表面膜は、40および43%シュークロース画分中に局在化する。これらの画分、ならびにこれら画分を境する下(infranant)画分および上清画分を、全細胞抽出物とともに10%SDSポリアクリルアミドゲル上で電気泳動し、ニトロセルロースフィルター上に転移し、そしてサポシンCに対するモノクローナル抗体を用いて、当該技術分野で周知の方法によりプローブした。
【0064】
ウェスタンブロット試験は、SDSポリアクリルアミドゲル上で68kDaバンドとして移動するプロサポシンが、NS20YおよびNeuro 2A細胞の両方からの表面膜画分に局在化していることを示した。成熟サポシンCおよび中間分子量サポシン誘導体は、膜画分の小数な成分であるが、全細胞抽出物では豊富であった。このことは、プロサポシンが応答性細胞の原形質膜中に局在していることを示す。
【0065】
プロサポシンを組織化学的に局在化するために、神経芽細胞株を以下の実施例に例示するようにプロサポシン特異的抗体(JP-1)で免疫染色した。
【0066】
(実施例4:プロサポシンの免疫組織化学的局在化)
細胞を、カバーグラス上で生育させ、PBSで3回洗浄し、そして室温で1時間ブワン溶液で固定した。次いでブワン溶液を、PBSで5回洗浄してすすぎ落とし、そしてカバーグラスを30%ヤギ血清、0.5%Tween 20を含むPBS中でインキュベートし、非特異的結合をブロックした。そしてすすいだ後、4℃で一晩1:100希釈のIgG精製ウサギJP-1中でインキュベートした。0.1% Triton X-100を含むPBSですすいだ後、調製物を、ペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギIgG(BioRad, 1:2000)またはFITC結合ヤギ抗ウサギIgG(Cappel, 1:2000)のいずれかとインキュベートした。すすいだ後、ペルオキシダーゼ免疫染色をイミダゾールジアミノベンジジン-H2O2反応を用いて検出した。蛍光免疫染色を、消光抑制剤としてNofadeを用いて蛍光顕微鏡下で検出した。---免疫前ウサギIgG(1:100)を、非特異的結合のコントロールとして用いた。伸長した神経突起、原形質膜および成長円錐の免疫染色が観察された。
【0067】
同様の方法が死後のヒト脳切片を免疫染色するために使用され、反応性の細胞タイプを検出した。前頭皮質において、大きなサイズおよび中程度のサイズのGolgiタイプ1ニューロンの核周囲部(perikarya)の強い染色が観察された。小丘(hillock)領域で、ニューロンの核周囲部の表面および軸索丘領域での軸索の近位セグメントもまた、いくつかの伸展した軸索でそうであったように、強く染色された。小脳において、Purkinje細胞および星状細胞の強い染色が、小脳核(歯状核、栓状核、および球形核)における大ニューロンと同様に観察された。小脳顆粒細胞は、中程度に染色された。中脳においては、黒質のドーパミン作用性ニューロンにおいて中程度の染色が観察された。赤核中の大ニューロン、動眼神経核中のニューロン、類扁桃核および側脳室を裏打ちする上衣細胞もまた中程度に染色された。海馬においては、錐体細胞および歯状回の顆粒細胞が強く染色された。脊髄においては、α運動ニューロンが強く染色された。この測定はプロサポシンが、上位および下位運動ニューロンを含む大ニューロンの集団に局在することを示した。
【0068】
ここまで同定されたすべてのニューロトロフィンは、細胞表面レセプターに結合し、そしてキナーゼのカスケードを開始することによりそれらの効果を奏するので、以下の実施例に記載されるように、プロサポシンまたはそのフラグメントで処理されたNS20Y細胞において、リン酸化アッセイを行った。
【0069】
(実施例5:プロサポシンまたはその活性フラグメントによる処理後のNS20Yタンパク質中への32Pの取り込み)
NS20Y細胞を、2.5μg/mlアクチノマイシンD、キャリアを含まない80〜100μCi/mlの[32P]オルトリン酸(New England Nuclear)、およびエフェクタータンパク質(0.5〜1.0μg/ml)を含む、無リン酸のHanks平衡塩類溶液中でインキュベートし、そして室温で10〜15分間インキュベートした。細胞をSDS-PAGE試料緩衝液で可溶化し、SDS-PAGEで分析し、そしてオートラジオグラフを行った。
【0070】
プロサポシン、サポシンCおよび配列番号1は、148、100、80、68、50、38および34KDaのタンパク質のリン酸化を、コントロールまたは類似濃度のサポシンA、BまたはDで処理された細胞に比べより強く刺激することが見い出された。この148KDaのタンパク質は、ホスホリピドの代謝に関与することが知られているタンパク質ホスホリパーゼC-γであり得、そしてそれは多くの成長因子に応答してチロシン残基でリン酸化される。デンシトメーターによる分析は、10分後リン酸化の3〜5倍の刺激を示した。ゲルをアルカリで処理することにより、顕著なリン酸化タンパク質はアルカリ耐性であることを示し、それらがホスホチロシンおよび/またはホスホスレオニン(プロリンの次に位置する)残基を含むことを示した。これらの結果は、他のニューロトロフィンおよび成長因子と同様に、プロサポシンおよびその活性なフラグメントが細胞表面レセプターに結合し、そしてキナーゼカスケードを活性化することを示す。
【0071】
プロサポシン-ガングリオシドGM1複合体またはサポシンC-ガングリオシドGM3複合体は、神経突起発生を阻害し、その一方プロサポシンまたはサポシンC単独は、このプロセスを促進するので、このことは、ガグリオシドがニューロトロフィン上のレセプター結合部位をマスクすることにより神経突起原性活性をなくし得ることを示す。さらに、プロサポシンおよびその活性なフラグメントは、応答性細胞の細胞質タンパク質のチロシンリン酸化を誘導するので(恐らくサイトカインおよび成長因子と同様にチロシンキナーゼ(類)の活性化により)、このことは、細胞表面レセプターが関係することの証拠をさらに提供する。
【0072】
20KDaタンパク質が、以下の実施例に記載されるように、プロサポシンの推定レセプターとして同定された。
【0073】
(実施例6:プロサポシンレセプターの単離)
推定プロサポシンレセプタータンパク質を、原形質膜P-100画分を用いて、ラット全脳、ラット小脳およびマウス神経芽細胞から単離した。簡単に述べれば、細胞または組織を可溶化し、そして14,000rpmで遠心分離して残渣を除去した。上清を40,000rpmで1時間4℃で遠心分離した。原形質膜が濃縮されたペレットを、RIPA緩衝液(10mM MOPS、pH7.5、0.3Mスクロース、5mM EDTA、1% Trasylol、10μMロイペプチンおよび10μMアンチペイン)中で可溶化した。このP-100画分を、サポシンCの結合した活性な22マーフラグメントを含むアフィニティーカラムに付与した。カラムを0.05M NaClで洗浄してゆるく結合したタンパク質を溶出し、次いで0.25M NaClで洗浄して、推定の60kDaプロサポシンレセプターを溶出した。さらに、60kDaタンパク質を、100倍過剰の非結合ペプチドを用いて溶出し得ることが決定され、それ故特異的溶出を示した。60kDaタンパク質は、SDS-PAGEにより判定されるように、約90%純粋であった。このタンパク質を、HPLCを用い均質に精製し、そしてVydac C4カラム上のアセトニトリル/水勾配中50%アセトニトリルで溶出した。架橋剤ジサクシンイミジルスベレート(DSS;Pierce、Rockford、IL)で処理した後、60kDaタンパク質を、複合体の72kDaの分子量(60kDa+12kDa)により証明されるように、不可逆的に125I標識サポシンCに結合させた。
【0074】
(実施例7:中枢神経系によるインビボペプチド取り込み)
サポシンCのアミノ酸12〜29位からなり、12位のバリンをチロシンに置き換えた18マーペプチドを、Applied Biosystems Model430ペプチド合成機を用いて化学的に合成した。次いでこのペプチドを、ラクトペルオキシダーゼ法により、放射性ヨード処理し、そして20×106cpmをラット耳介(auricle)中に注入した。動物を、1時間および24時間後に屠殺し、そして脳から血液を除去するために等張生理食塩水で心臓を潅流した。次いで脳を、ペプチド取り込みのパーセントを測定するためにγカウンターで計測した。さらに、24時間実験で、脳をホモゲナイズし、そしてデキストラン遠心分離(Trigueroら、(1990) J.Neurochem.,54:1882-1888)後、毛細管豊富な画分(ペレット)および脳実質画分(上清)に分離した。この方法は、血管内の放射標識ペプチドと脳内のそれとの区別を可能にする。24時間実験で、注入ペプチドの0.017%が脳全体で検出された;この標識の75%が実質画分で、そして25%が毛細管画分で検出された。1時間では、注入用量の0.03%が脳全体に存在した。
【0075】
(実施例8:インビボにおけるCNSに対する外傷性虚血性損傷の治療におけるプロサポシンおよびその活性フラグメントの使用)
脊髄に外傷性損傷を有するラットに、プロサポシン、その活性フラグメントまたは本明細書で上記に記載したコンセンサス配列に一致するペプチドを、殺菌生理食塩水中または遅延放出を可能にするためにデポー剤形態中、10ng〜10mg/mlの範囲で、直接または静脈内投与する。同数の動物に生理食塩水のみを投与する。脊髄の外科的な部分的切断または挫傷性損傷の後、プロサポシンまたはその神経栄養性フラグメントを、同一用量範囲(コントロール動物は、生理食塩水注入を受ける)を用いて損傷部位に直接注入し、そして改善を、運動ニューロン機能の獲得(即ち、四肢の動きの増加)により評価する。さらなる改善が生じなくなるまで処置を続ける。プロサポシンおよびその活性フラグメントは非常に水溶性なので、調製のための特別な送達系は不要である。分解の機会が少ないので、ペプチドの注入が好ましく、そして拡散はより大きくなる。さらにこれらのフラグメントは、大量に化学的に合成し得る。
【0076】
(実施例9:ミエリン脱落疾患の治療におけるプロサポシンおよびその活性フラグメントの使用)
初期段階のMS(またはその他のミエリン脱落疾患)と診断された患者に、サポシンCの活性18マーまたは22マーフラグメント、あるいは任意のサイトカイン由来のコンセンサスペプチド(生理食塩水中)を、実施例7と同一用量範囲を用いて、直接静脈内注入または脳脊髄液中への注入により投与する。コントロール患者には、生理食塩水のみを投与される。処置は、毎週または毎月投与され、そして任意の改善を、筋肉強度、筋骨格協調の増加により評価し、そして磁気共鳴画像によりミエリン形成を評価する。
【0077】
(実施例10:網膜神経障害の治療におけるプロサポシンまたはその活性フラグメントの使用)
網膜神経障害は、老人において視力の喪失に至る視神経変性疾患であり、プロサポシンおよびその活性フラグメントにより処置可能な疾患であると考えられる。プロサポシン、その活性な神経栄養性フラグメント、または本明細書で上記に記載されたコンセンサスペプチドの1つを、局所的、全身的または眼内のいずれかで、約10ng/ml〜約10μg/mlのニューロトロフィンの局所濃度を生じるに十分な量で投与する。投与を、視力喪失が遅延されるか視力のさらなる増加が認められなくなるまで毎週継続する。
【0078】
(実施例11:IL-6由来のペプチドによるTNF放出の阻害)
表2に記載されたIL-6由来のペプチド(配列番号9)、上流アスパラギンの代わりにアスパラギン酸残基を含む変異PSSペプチド、またはかき集めた(scrambled)コントロールペプチドを、培養中のマクロファージに添加する。非処理の培養はコントロールとして作用する。マクロファージを細菌性リポポリサッカライド(LPS;Sigma, St. Louis, MO)の添加により活性化し、炎症カスケードを開始するTNFを培養培地中に放出させる。IL-6は、TNFのLPS誘導放出を阻害することが知られている(Aderkaら、(1989) J.Immunol., 143:3517−3523)。LPS刺激に先だって、IL-6ペプチドで処理した培養では、放出TNF量は、このペプチドを与えられなかった培養に比べて有意に減少した。TNF放出の阻害の程度は、IL-6およびIL-6由来ペプチドの両方について同様であり、その一方変異およびかき集めたペプチドはTNF放出を阻害しない。
【0079】
(実施例12:EPO由来のペプチドによる赤血球生成の刺激)
フェニルヒドラジン処理マウスからの脾臓由来の赤血球始原細胞を、周知の技法を用いて培養する。次いで細胞を、組換えヒトEPO、EPO由来のペプチドまたは上流アスパラギンの代わりにアスパラギン酸残基を含む変異EPOペプチドのいずれかで処理する。細胞増殖を、培養3日後のDNA中への[3H]-チミジンの取り込みにより測定する(Krystal, (1983) Exp. Hemotol., 11:649-654)。次いで細胞を洗浄し、溶解し、そして取り込まれたチミジンをシンチレーション計測により測定する。EPOおよびEPO由来のペプチドは、[3H]-チミジン取り込みを有意に刺激するが、変異ペプチドはコントロールレベルを超えて取り込みを刺激しない。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1A】図1Aは、0.01〜0.5μg/mlの範囲にわたる、組換えプロサポシン(prosap-r)、乳汁から単離したプロサポシン(prosap-m)、サポシンC、サポシンC由来の活性22マーペプチド、およびサポシンC由来のヨウ素標識した18マーペプチドで処理したNS20Y神経芽腫細胞の神経突起伸長応答を示すグラフである。エフェクタータンパク質の濃度(μg/ml)をx軸に示し、そして神経突起を有する細胞の百分率をy軸に示す。
【図1B】図1Bは、プロサポシンおよびサポシンCで処理したNS20Y細胞における神経突起伸長に対する5μg/ml NGFの影響を示す棒グラフである。y軸は、神経突起を有する細胞の百分率を示す。
【図1C】図1Cは、NS20Y神経芽腫細胞の神経突起伸長に対するペプチド9(配列番号2)と呼ばれるCNFT由来の20残基ペプチドの影響を示すグラフである。ペプチドの濃度をx軸に示し、そして神経突起を有する細胞の百分率をy軸に示す。
【図1D】図1Dは、 NS20Y神経芽腫細胞における神経突起伸長に対するCNTFおよびペプチド9(単独または糖タンパク質130(gp130)に対するモノクローナル抗体である抗体AM64の存在下のいずれかで)の影響を示す棒グラフである。CNTFおよびペプチド9をそれぞれ100ng/mlおよび20ng/mlで培地に添加した。エフェクターをx軸に示し、そして神経突起伸長する細胞の百分率をy軸に示す。
【図2】図2は、種々のエフェクターにより誘導されたコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)を示す棒グラフを示す。SKNMC神経芽腫細胞を、エフェクター(200ng/ml)の存在下0.5%ウシ胎児血清(FCS)を含有するDMEMで、48時間成長させ、そしてChAT活性を測定した。エフェクターをx軸に示し、そして標識(cpm/mgタンパク質/分)の取り込みをy軸に示す。
【図3】図3Aは、ヒトサポシンC配列のハイドロパシー図を示す。アミノ酸残基の位置をx軸に示し、そしてハイドロパシー指数をy軸に示す。図3Bは、4つの他の種由来の同じ配列を有する活性な22マーヒトサポシンC配列の配列のならびを提供する。コンセンサス(完全に保存された)残基を配列のならびの下に示す。同じ領域におけるヒトサポシンAの配列(不活性である)が提供され、サポシンAにおける同じ親水性領域(18〜29)の最初の4残基のうち3つの配列の間の相違と残りの残基の保存を示す。(配列表)
【化1】

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【特許請求の範囲】
【請求項1】
実施例に記載の方法および組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−314575(P2007−314575A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214196(P2007−214196)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【分割の表示】特願平7−505933の分割
【原出願日】平成6年7月28日(1994.7.28)
【出願人】(507246866)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (1)
【出願人】(507246877)マイアロス コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】