説明

治療法の有効性を予測するためのプログラム、データベース、システム及び方法

【課題】ウィルス側や患者側の遺伝子に応じた治療の有効性を予測する。
【解決手段】有効性判定手段22は、ヒト遺伝子型と治療の有効性との相関度を示すヒト重み係数と、ウィルス遺伝子型と治療の有効性との相関度を示すウィルス重み係数とを読み出し、被検体のヒト遺伝子型情報とヒト重み係数を遺伝子型毎に乗算してヒト有効性予測個別値を算出し、被検体のウィルス遺伝子型情報とウィルス重み係数を遺伝子型毎に乗算してウィルス有効性予測個別値を算出し、ヒト有効性予測個別値の各々及びウィルス有効性予測個別値の各々を加算して有効性予測加算値を算出し、有効性予測加算値を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子の存在状態に基づき治療法の有効性を予測するためのプログラム、データベース、システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
患者への薬剤投与などの治療法の有効性は、患者の状態によって変わってくる場合が多い。そのため、患者の臨床データに基づき、これを解析して患者側にフィードバックする仕組みが考案されている(例えば特許文献1参照)。これによれば、患者毎に蓄積された臨床データを解析及び評価し、臨床的危険度をスコア化し、医療者に適切な医療処置を表示する。
【特許文献1】特開2002−95650号公報(第1頁、左上欄1行〜18行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述した通り、臨床データをスコア化し、患者の臨床的危険度を表示することにより、医療者に適切な医療処置を施すことが高まる。
【0004】
しかしながら、例えば患者がウィルスに感染している場合、そのウィルスに対する治療の有効性は臨床データのみにより定まるものではない。この場合、患者側の遺伝子や、ウィルス側の遺伝子などにより治療の有効性が変わるものと考えられている。しかしながら、これらウィルス側や患者側の遺伝子に基づき、治療の有効性を決定する仕組みは存在しなかった。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、ウィルス側や患者側の遺伝子に応じた治療の有効性を予測するためのプログラム、データベース、システム及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一の観点によれば、コンピュータに、治療の有効性を判定するための有効性判定データベースを生成させる処理を実行させる有効性判定データベース生成プログラムであって、この有効性判定データベース生成プログラムは前記コンピュータに、検体毎に、検体の感染宿主遺伝子型を示す感染宿主遺伝子型情報と、検体が感染した感染病原体の遺伝子型を示す感染病原体遺伝子型情報と、前記感染病原体に対する治療の有効性を示す有効性情報が与えられた検体データを複数の検体について読み出させ、前記複数の検体についての検体データに基づき、前記感染宿主遺伝子型情報及び前記感染病原体遺伝子型情報の少なくとも一方と前記治療の有効性との相関度を示す重み係数を、遺伝子型毎に算出させ、前記重み係数を、遺伝子型毎に記憶装置に格納させることを特徴とする有効性判定データベース生成プログラムが提供される。
【0007】
また、本発明の別の観点によれば、1あるいは複数の感染宿主遺伝子型と、治療の有効性との相関度を示す感染宿主重み係数とを記録した第1のフィールドと、1あるいは複数の感染病原体遺伝子型と、前記治療の有効性との相関度を示す感染病原体重み係数とを記録した第2のフィールドとを有することを特徴とする有効性判定データのデータ構造が提供される。
【0008】
また、本発明のさらに別の観点によれば、コンピュータに、治療の有効性を判定する処理を実行させる有効性判定プログラムであって、この有効性判定プログラムは前記コンピュータに、1あるいは複数の感染宿主遺伝子型と治療の有効性との相関度を示す感染宿主重み係数と、1あるいは複数の感染病原体遺伝子型と前記治療の有効性との相関度を示す感染病原体重み係数とを読み出させ、被検体の感染宿主遺伝子型情報と、前記感染宿主重み係数を遺伝子型毎に乗算して感染宿主有効性予測個別値を算出させ、被検体の感染病原体遺伝子型情報と、前記感染病原体重み係数を遺伝子型毎に乗算して感染病原体有効性予測個別値を算出させ、前記感染宿主有効性予測個別値の各々及び感染病原体有効性予測個別値の各々を加算して有効性予測加算値を算出させ、前記有効性予測加算値あるいは前記有効性予測加算値に所定の数値を加算した値に基づき治療の有効性を判定し、前記判定結果を出力させることを特徴とする有効性判定プログラムが提供される。
【0009】
また、プログラムに係る本発明は、そのプログラムを実行するためのコンピュータにより構成される装置、そのプログラムによりコンピュータで実行される手順からなる方法、そのプログラムを記録した記録媒体の発明としても成立する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ウィルス側や患者側の遺伝子に応じた治療の有効性を予測することができる。
【発明の実施の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0012】
なお、本実施形態では、本発明をC型肝炎ウィルスに対するインターフェロンを用いた治療法の有効性の予測に適用する例として説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る治療法有効性予測装置の全体構成を示す図である。
【0014】
図1に示すように、治療法有効性予測装置100は、コンピュータ10と、このコンピュータ10と通信ネットワーク11を介して接続された検体統計データベース12から構成される。
【0015】
コンピュータ10は、入力装置1と、この入力装置1に接続された処理装置2と、この処理装置2に接続された有効性判定データベース3と、処理装置2に接続された出力装置4及び記憶媒体読取装置5から構成される。このコンピュータ10は例えばパーソナルコンピュータにより実現される。コンピュータ10は通信インタフェース(不図示)を介して通信インタフェースに接続される。コンピュータ10は、この通信インタフェースを介して通信ネットワーク11との間でデータを送受信することができる。
【0016】
入力装置1は、例えばキーボードやマウスなどにより実現される。処理装置2は、CPUなど、一般的なコンピュータの演算処理を実現するハードウェアにより実現される。有効性判定データベース3は、磁気ディスク、光学式ディスクなどにより実現される。出力装置4は、例えばディスプレイやプリンタなどにより実現される。記憶媒体読取装置5は、例えば磁気ディスク読取装置、CD−ROM読取装置、DVD読取装置などにより実現される。
【0017】
入力装置1は、治療が施される個体である患者の遺伝子型に関する情報と、その患者が感染しているウィルスの遺伝子型に関する情報や、その他処理装置2における処理に必要な各種データを入力するための装置である。
【0018】
処理装置2は、検体統計データベース12に基づく有効性判定データベース3の生成処理や、入力装置1から入力されたデータ及び有効性判定データベース3に基づく有効性判定処理を実行する。
【0019】
処理装置2は、例えば処理装置に接続された記憶媒体読取装置5からCD−ROMやDVD、磁気ディスクなどの記憶媒体6に記憶されたデータベース生成プログラムや有効性判定プログラムを読み取り、それらプログラムを実行する。これにより、処理装置2が前述した生成処理を行うデータベース生成手段21や有効性判定処理を行う有効性判定手段22として機能する。もちろん、処理装置2内蔵のメモリや記憶装置などからこれらプログラムを読み取り実行されるようにしてもよい。また、処理装置2は、これらデータベース生成手段21や有効性判定手段22による処理以外の他の処理も、前述のプログラムに基づき実行する。
【0020】
データベース生成手段21は、著効率算出処理、オッズ算出処理、χ値算出処理、重み係数算出処理などを実行する。有効性判定手段22は、遺伝子型情報入力処理、有効性判定処理などを実行する。
【0021】
出力装置4は、処理装置2で処理された結果を表示し、あるいは処理結果を印字出力する。
【0022】
検体統計データベース(DB)12の構成の一例を図2に示す。図2に示すように、検体番号、複数のヒト遺伝子型識別情報及び有効性情報の各々がデータベースの各フィールドに検体毎に関連づけて格納されている。図2に示す検体統計データベース12は、ウィルス遺伝子型識別情報で識別されるウィルス遺伝子型毎に与えられている。具体的には、図2の例では、インターフェロン治療に関連するC型肝炎ウィルスの遺伝子型を識別するウィルス遺伝子型として、HCV−1b、HCV−2a、HCV−2bなどが挙げられる。
【0023】
検体番号は、検体としての患者を識別するための検体識別情報として用いられる番号である。ヒト遺伝子型識別情報は、患者の遺伝子型を識別する情報である。有効性情報は、その患者への治療の有効性(薬剤の投与であれば薬剤の有効性)を示す情報である。以下の実施形態では、既にヒト遺伝子型情報、ウィルス遺伝子型情報、薬剤投与などの治療を施した結果としての著効/非著効の別が分かっている対象(患者)を検体と呼び、以下の実施形態の発明による有効性判定の対象(患者)を被検体と呼ぶ。
【0024】
図2には、C型肝炎のインターフェロンを用いた治療に関連するヒト遺伝子型識別情報として、MxA−88、MxA−123、MBL、LMP7、IFNAR1(GT)、IFNAR1 C/TなどのSNPsに関する情報が挙げられている。IFNAR1(GT)及びIFNAR1 C/Tは、インターフェロン受容体遺伝子の遺伝子型を識別する情報である。有効性情報は、「著効」あるいは「非著効」のいずれかで示される。より具体的には、図2の例では、インターフェロン療法、すなわちC型肝炎の患者にインターフェロンを投与する治療の有効性が「著効」あるいは「非著効」で示されている。
【0025】
ヒト遺伝子型情報は、それぞれ2つあるいはそれ以上の情報で区別される。ウィルス遺伝子型情報も同様に、2つあるいはそれ以上の情報で区別される。例えばヒト遺伝子型のMxA−88は、G/T、T/T及びG/Gの3種類の対立遺伝子型のいずれかに分類される。MxA−123及びLMP7は、C/A、A/A及びC/Cの3種類の対立遺伝子型のいずれかに分類される。MBLは、YA及びXBの2種類の対立遺伝子型のいずれかに分類される。IFNAR1(GT)は、5/5、5/14及びそれ以外(others)の3種類の対立遺伝子型のいずれかに分類される。IFNAR1 C/Tは、C/T、T/T及びC/Cの3種類の対立遺伝子型のいずれかに分類される。なお、対立遺伝子型による分類の他に対立ハプロタイプにより分類してもよい。
【0026】
「遺伝子型」とは、全対立遺伝子、あるいは、注目している遺伝子座の遺伝子の存在状態を指す。「遺伝子座」とは、染色体、もしくは遺伝子地図上での遺伝子の位置を指す。例えば、互いに対立遺伝子である遺伝子の場合は同一の遺伝子座にある。「対立遺伝子」とは、相同染色体の相同な場所に位置し、機能的にも相同な遺伝子をいう。
【0027】
有効性判定データベース3の構成の一例を図3に示す。図3に示すように、複数のヒト遺伝子型重み係数の各々がデータベースの各フィールドに格納されている。図3に示すヒト遺伝子型重み係数は、ウィルス遺伝子型としてHCV−1bに対して与えられた例を示している。このようなヒト遺伝子型重み係数がHCV−2a/bなどの他のウィルス遺伝子型に対しても同様に与えられている。以下の実施形態で、重み係数とは、治療の有効性に対してある遺伝子型が与える影響、すなわち治療の有効性に対する相関度を数値化したものである。また、図3の例では、重み係数に符号が乗算された値として示されている。
【0028】
次に、データベース生成手段21による有効性判定データベース3の作成方法について図4のフローチャートに沿って説明する。
【0029】
まず、検体統計データベース12のヒト遺伝子型の各々に対する治療の著効率を算出する著効率算出処理を実行する(s1)。具体的には、あるヒト遺伝子型に着目し、その遺伝子型の対立遺伝子型あるいは対立ハプロタイプの各々について、著効率を算出する。
【0030】
例えばMxA−88という遺伝子型に着目すると、その対立遺伝子型はG/T、T/T及びG/Gが存在する。この3種類の対立遺伝子型をG/T及びT/Tの第1の型と、G/Gの第2の型に類型化した場合、第1の型に属する全検体データのうち、著効であった検体データの割合を算出する。第1の型に属する検体のうちX個が著効(SR)でY個が非著効(NR)であった場合には、第1の型の著効率(SRrate)は、
SRrate=100×X/(X+Y)(%)
となる。同様に、第2の型に属する検体のうちX個が著効(SR)でY個が非著効(NR)であった場合には、第2の型の著効率(SRrate)は、
SRrate=100×X/(X+Y)(%)
により求められる。このように、検体統計データベース12の対立遺伝子型が2つ以上の型に分類されている場合、2つの型1,2に分類し、その型毎に著効率SRrate及びSRrateを算出する。2つの型への分類は、治療の有効性に対する相関度が互いに差が生じるように分類するのが望ましい。より具体的には、2つの型の各々に対する著効率の差が大きくなるように分類するのが望ましい。以下では、この2つの型をそれぞれ「第1の型」及び「第2の型」と呼ぶ。
【0031】
なお、この2つの型への分類を自動化してもよい。自動化する場合には、遺伝子型の各々を2つの型に分類したと仮定した場合に得られる著効率をすべての分類の組合せについて算出し、互いの著効率が最も大きくなるような分類を選択する。例えばA,B,C,D4つの遺伝子型を2つの型に分類する場合、型(A,B)と型(C,D)の分類、型(A,C)と型(B,D)の分類、型(A,D)と型(B,C)の分類、型(A)と型(B,C,D)の分類、型(B)と型(A,C,D)の分類、型(C)と型(A,B,D)の分類、型(D)と型(A,B,C)の分類という7種類の分類が考えられる。この7種類の分類のそれぞれについて、2つの型の著効率及びその差を算出する。その著効率の差が最大となるような分類を選択する。
【0032】
以上はMxA−88を例に説明したが、他の遺伝子型、すなわちMxA−123、MBL、LMP7、IFNAR1(GT)、IFNAR1 C/Tなどについても同様の2つの型への分類、各型に対する著効率の算出を実行する。
【0033】
MxA−123の場合、C/A及びA/Aからなる型と、C/Cからなる型の2つの型に分類される。MBLの場合、YAの型とXBの型の2つの型に分類される。LMP7は、C/A及びA/Aからなる型と、C/Cからなる型の2つの型に分類される。IFNAR1(GT)は、5/5及び5/14からなる型と、それ以外の型の2つの型に分類される。IFNAR1 C/Tは、C/T及びT/Tからなる型と、C/Cからなる型の2つの型に分類される。
【0034】
得られた著効率は、その型毎に図示しないデータベース(有効性判定データベース3でもよい)に格納される。
【0035】
次に、オッズ算出処理を実行する(s2)。オッズOとは、2つの型の著効率のうち、大きい方の著効率を小さな方の著効率で除した数値であり、以下の式で示される。なお、kは、遺伝子型毎に付与される識別番号を示す。
【0036】
=SRrate/SRrate (SRrate>SRrateの場合)
=SRrate/SRrate (SRrate<SRrateの場合)
SRrate=SRrateの場合は、上記2式のいずれで定義してもよい。
【0037】
以上の式により、すべての遺伝子型についてオッズOを算出し、得られたオッズOは図示しないデータベース(有効性判定データベース3でもよい)に格納される。
【0038】
次に、χ値算出処理を実行する(s3)。以下、c=χと定義する。χ値cは以下の式により算出される。
【0039】
=χ=(n−1)s/σ
ここで、確率変数はX,Y,X,Y、nは標本の大きさ、σは分散で、sは標本分散である。より具体的には、X,Y,X,Yの各数値をカイ二乗検定の2×2分割表に代入することによりカイ二乗値χを得ることができる。
【0040】
次に、オッズO及びχ値に基づき、重み係数Sを算出する重み係数算出処理を実行する(s4)。重み係数Sは、以下の式により算出される。
【0041】
=(O−1)c/20
次に、得られた重み係数Sに対する2つの型への符号割り当て処理を実行する(s5)。重み係数Sは正の値をとる。正の符号+は、著効率(SRrate)の高い型に割り当てられ、負の符号は、著効率(SRrate)の低い型に割り当てられる。具体的には、各遺伝子型における2つの型の著効率を比較し、大きな著効率を有する型に正の符号を割り当て、小さな著効率を有する型に負の符号を割り当てる。
【0042】
このように符号割り当て処理を各遺伝子型について実行し、得られた重み係数S、−Sを有効性判定データベース3に格納する。
【0043】
以上により、有効性判定データベース3の作成が終了する。
【0044】
図5は、有効性判定データベース3作成に際し算出された著効率、オッズ、χ値c、重み係数Sなどを表にしたものである。また、図5には、著効とされた検体と非著効とされた検体の各々の標本数も参考のために示している。重み係数Sの欄には、各型に対して割り当てられる符号に重み係数Sを乗算した値が示されている。
【0045】
次に、有効性判定手段22による有効性判定データベース3を用いた有効性判定処理について図6のフローチャートに沿って説明する。
【0046】
まず、被検体としての患者から、ヒト遺伝子型情報及びウィルス遺伝子型情報を得る(s61)。具体的には、個体に由来するサンプルを取得し、得られたサンプルをDNAチップのセル内に注入し、セル内に固定化されたDNAプローブとのハイブリダイゼーション反応を行わせる。ハイブリダイゼーション反応の後、バッファや挿入剤をセル内に充填し、セル内に固定された電極からの電気化学信号を検出する。この電気化学信号を信号処理することにより、ヒト遺伝子型情報及びウィルス遺伝子型情報を得ることができる。もちろん、他の手法によりこの被検体からの情報を取得してもよい。
【0047】
次に、得られた被検体のヒト遺伝子型情報及びウィルス遺伝子型情報からなる被検体データを入力装置1を用いて入力する(s62)。なお、入力装置1の代わりに、DNAチップを信号線により接続し、DNAチップから信号線を介してヒト遺伝子型情報及びウィルス遺伝子型情報を入力してもよい。
【0048】
処理装置2は、入力された遺伝子型情報及びウィルス遺伝子型情報に基づき有効性の判定を行う(s63)。
【0049】
具体的には、有効性判定プログラムが記憶媒体6から記憶媒体読取装置5により読み取られ、これにより処理装置2は有効性判定手段22として機能する。有効性判定手段22は、まず入力されたウィルス遺伝子型情報に対応するデータテーブルを有効性判定データベース3から読み出す(s63a)。そして、入力された遺伝子型に対応付けられた符号と重み係数を乗算することにより各々の遺伝子型についてヒト有効性予測個別値を得る(s63b)。そして、得られた各々の遺伝子型についての有効性予測個別値を加算し、有効性予測加算値を算出する(s63c)。
【0050】
この有効性予測加算値の算出概念図を図7に示す。図7に示すように、入力された被検体データがMxA−88、Mxa−123、MBL、LMP7、IFNAR1(GT)、IFNAR1 C/Tの順にG/T、C/C、YA、A/A、5/5、T/Tである場合、各々についてMxa−88、MBL、LMP7、IFNAR1(GT)、IFNAR1 C/Tについては重み係数Sに+1を乗算した値が割り当てられ、Mxa−123については重み係数Sに−1が乗算した値が割り当てられる。その結果、重み係数は図7の通りとなる。この重み係数(有効性予測個別値)を加算すると、有効性個別加算値は(+0.41)+(−0.40)+(+0.28)+(+0.02)+(+0.28)+(+0.00)=0.59となる。
【0051】
次に、処理装置2は、出力装置4に有効性判定結果として有効性予測加算値を出力する(s64)。主治医あるいは患者は、出力された有効性予測加算値に基づき、治療の有効性を予測し、その治療方法を選択するか否かを判断する際の参考に供することができる。一般に有効性予測加算値が高いほど、治療の有効性が高い。
【0052】
なお、有効性の判定は、有効性予測加算値の算出に限定されない。例えば、有効性予測加算値に対応する著効率を算出してもよい。
【0053】
図8は、有効性判定結果の出力例を示す図である。図8に示すように、検体である患者の識別ID、主治医、その患者の遺伝子型に関する情報、有効性予測加算値、ウィルス遺伝子型と、ウィルス遺伝子型毎の有効性予測加算値に対する著効率が示されている。また、有効性予測加算値を所定の範囲毎に分類し、各類型毎に著効率が算出されている。そして、その著効率を所定のしきい値に基づき治療が有効か否かの目安を示す有効性予測境界を定め(例えば図8では50%以上と50%未満)、その境界線がいずれかの類型の間に線引きされて示されている。
【0054】
有効性予測加算値の範囲毎の著効率の算出は簡単に行える。具体的には、すべての検体データについて有効性予測加算値を算出する。そして、得られた有効性予測加算値を、所定の範囲毎に分類する。図8の例では、0〜1.00、1.00〜2.00、2.00〜3.00…というように、分類している。これは、検体統計データベース12に格納された検体データの有効性情報に基づき容易に分類可能である。そして、その分類された検体データにおけるすべての標本数に対する著効の標本数の割合を算出することにより、範囲別の著効率が算出される。この範囲別の著効率を有効性予測加算値とともに出力することにより、ウィルスや宿主である患者のヒトの遺伝子に応じた治療の有効性を確率により簡単に把握することができる。また、宿主はヒトに限らず、他の生物でもよい。
【0055】
以上により、有効性判定データベース3の生成及びそれを用いた有効性判定は終了する。
【0056】
検体統計データベース12が更新される毎に上述した(s1)〜(s5)に示す有効性判定データベース3の生成処理を行うことにより、有効性判定データベース3を更新することができる。
【0057】
また、検体統計データベース12以外の検体データをさらに入力して有効性判定データベース3を更新することもできる。
【0058】
このように、検体の増加に伴い有効性判定データベース3をその都度更新することにより、最新の統計情報に基づく治療有効性判定が可能となり、また母集団の増加に伴い判定の制度が向上する。
【0059】
以上説明したように本実施形態によれば、治療の有効性をその治療対象のウィルスの遺伝子型やヒトの遺伝子型に応じて確率により簡便に判断できる。
【0060】
(第2実施形態)
図9は本発明の第2実施形態に係る治療法有効性予測装置の全体構成を示す図である。
【0061】
図9に示すように、本実施形態の治療法有効性予測装置200の基本的な構成は、図1に示した治療法有効性予測装置100の構成と共通する。共通する構成には同一符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0062】
治療法有効性予測装置200では、データベース生成手段210、有効性判定手段220の処理内容、記憶媒体60に格納されたプログラム、有効性判定データベース300に格納される有効性判定データベースの構成、検体統計データベース120の構成が図1の治療法有効性予測装置100のそれと異なる。記憶媒体60には、処理装置2をデータベース生成手段210及び有効性判定手段220として機能させるためのデータベース生成プログラム及び有効性判定プログラムなどが格納されている。有効性判定データベース300には、データベース生成手段210により生成された有効性判定データベースが格納される。
【0063】
データベース生成手段210は、データ分類処理、分散共分散行列算出処理、平均差行列算出処理、判別係数算出処理、判別点算出処理、判別関数算出処理、著効率、誤判別率算出処理などを実行する。有効性判定手段220は、被検体遺伝子情報入力処理、有効性判定データ選択処理、判別関数値算出処理、判別関数値正負判定処理、判定結果出力処理などを実行する。
【0064】
検体統計データベース120の構成の一例を図10に示す。図10に示すように、検体番号、複数のヒト遺伝子型識別情報、複数のウィルス遺伝子型識別情報及び有効性情報の各々がデータベースの各フィールドに検体毎に関連づけて格納されている。
【0065】
検体番号は、検体としての患者を識別するための検体識別番号として用いられる番号である。ヒト遺伝子型識別情報は、患者の遺伝子型を識別する情報である。ウィルス遺伝子型識別情報は、患者が感染したウィルスの遺伝子型を識別する情報である。有効性情報は、その患者への治療の有効性を示す情報である。
【0066】
ウィルスやヒトの遺伝子は、通常A,T,G,Cと略記される4つの塩基により定まるもので、検体データに関しても、この塩基の配列で与えられる。これら遺伝子の配列は、部分的に個々人により差があり、この差が生物学的な特徴付けに関わっており、医療応用の立場からはこのような遺伝子配列のわずかな差がその人の薬剤応答性にかかわっていることが分かっている。図10では、このような配列の差を数量化して示している。
【0067】
図10の例では、C型肝炎のインターフェロンを用いた治療に関連するヒト遺伝子型識別情報として、MxA−88、MxA−123、MBL、LMP7などのSNPsに関する情報が挙げられる。有効性情報は、著効が「2」、非著効が「1」で示されている。より具体的には、図10の例では、インターフェロン療法、すなわちC型肝炎の患者にインターフェロンを投与する治療の有効性が著効あるいは非著効の2値で示されている。
【0068】
ヒト遺伝子型情報は、それぞれ2以上の情報で区別される。例えばヒト遺伝子型のMxA−88は、G/G、G/T及びT/Tの3種類の対立遺伝子型の各々に数値「1」、「2」及び「3」が対応付けられている。なお、医学的な知見に基づき、この3つの類型を2つに分類することも可能である。例えば、G/G及びG/Tを「1」に、T/Tを「2」に対応付ける等である。MxA−123は、C/C、C/A及びA/Aの3種類の対立遺伝子型の各々に「1」、「2」及び「3」が対応付けられている。MBLは、XB及びYAの2種類の対立遺伝子型の各々に「1」及び「2」が対応付けられている。LMP7は、C/C、C/A及びA/Aの3種類の対立遺伝子型の各々に「1」、「2」及び「3」が対応付けられている。
【0069】
図10の例では、C型肝炎のウィルスの遺伝子型情報として、遺伝子型、ISDRが挙げられる。遺伝子型は、「1」及び「2」で示される。それぞれ、HCV−1b及びHCV−2a/2bが対応している。ISDRは、単純な塩基の相違で示されるものではないため、C型肝炎のISDRでのアミノ酸の変異の数を用いている。もちろん、MxA−88等と同様に、医学的な見地に基づき2以上の類型に分類してもよい。例えば、変異数3以下に「1」を割り当て、4以上に「2」を割り当てもよい。
【0070】
なお、この図10に示した数量化の手法はほんの一例にすぎず、遺伝子型の各類型に他の数値を割り当てたり、遺伝子の存在状態を示す他の類型や数値を用いたりする等、他の数量化の手法を適用してもよい。望ましくは、誤判別率が最小となるような数値の割り当てが選択される。また、検体データを格納した統計データベースとしては、検体統計データベース120に示される形式で格納されていない場合もある。この場合、その統計データベースから、上述した類型化、数量化手法により、検体統計データベース120を生成すればよい。
【0071】
有効性判定データベース300の構成の一例を図11に示す。図11に示すように、線形判別関数と、変数と、有効群著効率、有効群誤判別率、無効群著効率、無効群誤判別率の各々がデータベースの各フィールドに対応付けられて格納されている。
【0072】
線形判別関数は、入力としての検体の遺伝子情報に対する治療法の有効性を判別するための関数である。この線形判別関数は、複数の変数a,b,c,dの関数として表現されている。この判別関数を一般化した式(1)を以下に示す。
【0073】
f(a,b,c,d)=p×a+q×b+r×c+s×d+t …(1)
式(1)で、p,q,r,sは、有効性判定データベース300の生成処理により決定される係数、tは定数である。なお、関数fは、a,b,c,dの4つの変数すべてで示される必要はなく、少なくともそのうちの1つの変数で示されていればよい。定数tは、治療法が有効か無効かを関数値の正負により判別するために与えられた数値である。判別関数の値が正であると、その治療法が有効であり、その値が負であると、その治療法が有効でないことを示している。これら判別関数の係数p,q,r,s及び定数tは、通常の統計学の手法に従って決定される(例えば栗原考次著“データの科学”放送大学教育振興会参照)。
【0074】
有効群著効率は、線形判別関数により有効と判別される領域に属する検体データに対する著効が対応付けられた検体データの割合を示している。
【0075】
無効群著効率は、線形判別関数により無効と判別される領域に属する検体データに対する著効が対応付けられた検体データの割合を示している。
【0076】
有効群誤判別率は、本当は著効なのに、判別関数により誤って無効と判別される確率、無効群誤判別率は、本当は非著効なのに、判別関数により誤って有効と判別される確率を示す数値である。
【0077】
図11(a)〜(c)は、いずれもC型肝炎ウィルスに対するインターフェロン治療の有効性を判別するための有効性判定データを示している。図11(b)は、C型肝炎ウィルスのうちの遺伝子型がHCV−1bに該当する検体データに対して生成された有効性判定データを示している。図11(c)は、HCV−2に該当する検体データに対して生成された有効性判定データを示している。図11(a)は、HCV−1bに該当する検体データとHCV−2に該当する検体データの全データに対して生成された有効性判定データを示している。
【0078】
判別関数は、ウィルスの遺伝子型やヒトの遺伝子型の1つの組合せに対して1つ与えられる。従って、遺伝子型の組合せが複数ある場合には、その組合せ毎に複数の判別関数が与えられる。図11(a)に示すように、遺伝子型としてgeno-type(ウィルス遺伝子型)のみを考える場合、MxA−123のみを考える場合、MxA−88のみを考える場合に対して1つの判別関数が与えられ、geno-type、MxA−123、MxA−88の組合せに対して1つの判別関数が与えられ、MxA−123、Mxa−88の組合せに対して1つの判別関数が与えられる。同様に、図11(b)では、遺伝子型の8つの組合せに対してそれぞれ判別関数が与えられる。図11(c)では、遺伝子型の5つの組合せに対してそれぞれ判別関数が与えられる。
【0079】
次に、有効性判定データベース300の作成方法について図12のフローチャートに沿って説明する。
【0080】
まず、検体統計データベース12から検体データを読み出し、各検体を、著効及び非著効の別で2つのデータ群に分類する(s111)。分類された各データ群は図13に示される。図13(a)は著効である検体データのデータ群[A]、図13(b)は非著効である検体データのデータ群[B]を示している。遺伝子型情報は、検体のヒト遺伝子型情報及びウィルス遺伝子型情報の図10に従った数値を示している。なお、被検体のウィルス遺伝子型が予め分かっている場合などには、その被検体のウィルス遺伝子型に関する検体データのみを抽出し、それに基づきデータ群[A]及び[B]を算出してもよい。
【0081】
次に、分類されたデータ群[A]について分散共分散行列Vを算出し、分類されたデータ群[B]について分散共分散行列Vを算出する(s112)。
【0082】
分散共分散行列Vは、データ群[A]におけるヒト遺伝子型情報、あるいはウィルス遺伝子型情報を変数とした場合に、そのうちの2つの変数の間の直線的傾向の度合いを示す共分散を、すべての変数の組合せについて求めた行列である。また、分散共分散行列Vは、データ群[B]におけるヒト遺伝子型情報、あるいはウィルス遺伝子型情報を変数とした場合に、そのうちの2つの変数の間の直線的傾向の度合いを示す共分散を、すべての変数の組合せについて求めた行列である。
【0083】
分散共分散行列Vを以下の式(2)で、分散共分散行列Vを以下の式(3)で定義する。
【0084】
【数1】

【0085】
この場合、分散共分散行列Vij及びVijは、以下の式(4)及び(5)で算出される。
【0086】
【数2】

【0087】
次に、データ群[A]及び[B]全体の分散共分散行列Vtotを算出する(s113)。全体の分散共分散行列の行列要素Vijtotは以下の式(6)で示される。
【0088】
【数3】

【0089】
次に、平均差行列dを算出する(s114)。平均差行列dは以下の式(7)で示される。
【0090】
【数4】

【0091】
次に、判別係数Aを算出する(s115)。判別係数Aは、以下の式(8)で示され、式(9)で示される行列により表現される。
【0092】
【数5】

【0093】
A=Vtot−1×d …(9)
次に、判別点Yを算出する(s116)。判別点Yは、以下の式(10)で示される。
【0094】
【数6】

【0095】
(s115)及び(s116)で得られた判別係数A及び判別点Yにより、判別関数Zが決定される(s117)。判別関数Zは以下の式(11)で示される。
【0096】
Z=a+a+…+a−Y …(11)
次に、判別関数Zに対して検体データを適用し、有効群著効率、有効群誤判別率、無効群著効率及び無効群誤判別率を算出する(s118)。
【0097】
具体的には、判別関数Zにより有効、すなわちZ>0と判別された検体のうち、実際に著効であった検体数をSR、実際には非著効であった検体数をNRとすると、有効群著効率はSR×100/(SR+NR)で計算できる。また、判別関数Zにより無効、すなわちZ<0と判別された検体のうち、実際に非著効だった検体数をNR、予想に反して著効だった検体数をSRとすると、無効群著効率はSR×100/(SR+NR)で計算できる。理想的には、有効群著効率は100で、無効群著効率は0になるべきである。
【0098】
有効群誤判別率はSR×100/(SR+SR)で算出される。無効群誤判別率は、NR×100/(NR+NR)で算出される。
【0099】
得られた判別関数Z、有効群著効率、有効群誤判別率、無効群著効率及び無効群誤判別率は、それぞれ関連づけられて有効性判定データとして有効性判定データベース300に格納される(s119)。
【0100】
なお、以上(s112)〜(s118)に示される処理は、遺伝子型の組合せに応じて繰り返し実行される。すなわち、(s112)で生成する分散共分散行列V及びVを、複数の遺伝子型の組合せについて設定する。そして、その設定された分散共分散行列V及びVに対して(s113)〜(s118)で示される処理を実行することにより、遺伝子型の組合せの各々について有効性判定データが得られる。
【0101】
次に、有効性判定データベース300を用いた有効性判定手段220による有効性判定処理について図14のフローチャートに沿って説明する。
【0102】
まず、検体としての患者から、ヒト遺伝子型情報及びウィルス遺伝子型情報を得る(s61)。取得の手法は第1実施形態で述べた通りであるので詳細な説明は省略する。
【0103】
次に、得られたヒト遺伝子型情報及びウィルス遺伝子型情報を入力装置1を用いて入力する(s62)。
【0104】
処理装置2は、入力された遺伝子型情報及びウィルス遺伝子型情報に基づき有効性の判定を行う(s131)。
【0105】
具体的には、有効性判定プログラムが記憶媒体60から記憶媒体読取装置5により読み取られ、これにより処理装置2は有効性判定手段220として機能する。有効性判定手段220は、入力されたヒト遺伝子型情報及びウィルス遺伝子型情報に対応する変数の組合せを有する有効性判定データを検索し、例えば複数の有効性判定データを選択する(s131a)。
【0106】
なお、この(s131a)では、被検体データが入力される毎に、前述の(s111)〜(s119)に示す有効性判定データベース300生成処理を実行してもよい。その場合、被検体データのウィルス遺伝子型に応じて生成する有効性判定データベース300を特定のウィルス遺伝子型のものに限定することもできる。
【0107】
次に、選択された有効性判定データの変数として定められる遺伝子型に対応するヒト遺伝子型情報を、線形判別関数の変数にそれぞれ代入し、判別関数値Zを得る(s131b)。
【0108】
次に、判別関数値Zの正負の判定を行う(s131c)。
【0109】
判別関数値Z>0であれば、その判別関数Zが対応付けられた有効著効率及び有効誤判別率を読み出し、判別結果「有効」とともに、出力装置4に出力させる(s132)。
【0110】
判別関数値Z<0であれば、その判別関数Zが対応付けられた無効著効率及び無効誤判別率を読み出し、判別結果「無効」とともに、出力装置4に出力する(s132)。
【0111】
HCV−1bに感染した患者の被検体データとして、ISDR=6、MBL=2、MxA−123=3及びMxa−88=2が与えられている場合の判定手法を具体例として説明する。図11の9番の判別関数Z=0.76a+1.71b−0.04c+0.92d−6.34に着目する。(s131b)で、被検体データを判別関数Zに代入すると、有効性予測加算値として、判別関数値Z=(0.76×6)+(1.71×2)−(0.04×3)+(0.92×2)−6.34=3.36となる。0.76×6はウィルス有効性予測個別値、1.71×2、−(0.04×3)、0.92×2はヒト有効性予測個別値である。Z=3.36>0であるため、判定結果「有効」とともに、この9番の判別関数に関連づけられた有効群著効率52%、有効群誤判別率18%、無効群著効率4%、無効群誤判別率16%が読み出されて出力装置4に出力される。
【0112】
この判定結果は、被検体に対する治療が有効と判定されたことを示している。さらに、過去にこの判別式で有効と判別されたデータ群に着目すると、判別どおり実際に著効であった割合は52%であり、実際には著効であるのに誤って無効と判別された割合が18%であることを示している。また、過去に判別式で無効と判別されたデータ群に着目すると、判別結果に反して著効だった割合は4%であり、実際には非著効であるのに誤って有効と判別された割合は16%であることを示している。この判定結果により、医者は適切な治癒手段を選択することができる。
【0113】
なお、判別結果の出力の前に、読み出された有効誤判別率あるいは無効誤判別率が所定のしきい値以下(例えば20%以下)か否かを判定し、所定のしきい値以下の判別結果とそれに関連するデータを出力するようにしてもよい。また、読み出された有効誤判別率あるいは無効誤判別率の低い順にデータを出力するようにしてもよい。これにより、誤判別率が高く、信頼性のあまり高く無いデータに基づき有効性を判断するおそれが低減し、誤判別率の低い信頼性の高いデータに基づく有効性予測が可能となる。
【0114】
有効性判定データベース300の更新は、第1実施形態の有効性判定データベース3の更新処理と同様に行うことができる。
【0115】
以上説明したように本実施形態によれば、治療の有効性をその治療対象のウィルスの遺伝子型やヒトの遺伝子型に応じて有効/無効の別とその判定結果の誤判別率により、簡便に判断することができる。
【0116】
また、このような仕組みにより、薬剤有効性と遺伝子レベルでの関係がさらに明らかになり、かつ検体の母集団が増大することによってデータベースは更新され、より高精度かつ高信頼性のある予測システムを構築することが可能となる。
【0117】
この第2実施形態では、判別関数Zの係数は、通常の統計学の手法に従って決定され、ヒト遺伝子型情報同士、ウィルス遺伝子型情報同士、あるいはヒト遺伝子型情報及びウィルス遺伝子型情報同士に先験的な相関はないとした。すなわち、1のヒト遺伝子型情報と治療の有効性との相関、あるいは1のウィルス遺伝子型情報と治療の有効性との相関に基づき、係数を決定した。これにより、判別関数の算出に際して計算量の少ない線形判別関数が求まる。これは、事前にデータ群の相関が分かっていないときには、それぞれが正規分布することを前提としたものである。
【0118】
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、あるヒト遺伝子型情報と別のヒト遺伝子型情報の間の相関、あるヒト遺伝子型情報とウィルス遺伝子型情報の間の相関、あるいはあるウィルス遺伝子型情報と別のウィルス遺伝子型情報の相関が事前に分かっている場合のように、明らかにデータ因子間に相関がある場合には、独立データ因子への縮約作業や非線形判別関数による判定作業を行えばよい。より具体的には、それらの相関に対する係数を改めて求め、その係数とその相関に対応する変数の乗じた項を判別関数Zに付加すればよい。従って、第2実施形態で示した線形判別関数のみならず、二次関数を用いた判別関数や、多次元解析の手法であるクラスタ分析法を取り入れてもよい。ここで採用するデータ解析的な手法がアルゴリズムとして既知のものであるならが、それは本発明の範囲内にあることはもちろんである。また、この有効性予測システムでは、判別関数はシステムの中に予め与えられているものである。本発明者らは、ここでは母集団の大きさをある程度変化させて、それが判別関数の係数にどの程度影響するかを調べたが、数%の影響しかないことを確認した。従って、ある程度の大きさの母集団を用いれば、汎用的な判別関数を構築することが可能である。しかし、検体データの母集団に結果は依存し、また人種や地域、生活習慣による相違は当然あり得る。本予測システムは、臨床用遺伝子検査装置への実装が可能であるが、このような装置に通信手段を装備させ、新たな検体データを母集団として決定した判別関数のセットを通信手段を介して遺伝し検査装置に送り込むということも可能である。
【0119】
本実施形態で述べた判別関数はあくまである検体データを用いた判別関数であって、その値に普遍性は存在しないが、ここで述べた方法によって、それぞれの診断に適した、また常に最新の情報に基づいた判別関数を提供することができる。また、このような判別関数及び誤判別率のデータベースを通信によらず、磁気媒体などの記録媒体によって配布することも可能である。
【0120】
本発明は上記第1,第2実施形態に限定されるものではない。
【0121】
検体統計データベース12は、コンピュータ10と通信ネットワーク11を介して接続される形態を示したが、これに限定されず、コンピュータ10に通信ネットワーク11を介さず、コンピュータ10に備えられた記憶装置に格納されていてもよい。
【0122】
また、上記実施形態では、C型肝炎に対してインターフェロンを投与して治療を行う方法が有効か否かの予測に本発明を適用する例を示したが、これに限定されるものではない。治療法は、インターフェロンの投与のみならず、他の治療法も該当する。また、治療法は、薬物の投与を伴わない治療も含まれる。また、治療により治癒すべきウィルスは、C型肝炎に限らず、他のいかなるウィルスも本発明の予測の対象となり得る。また、ウィルスのみならず、細菌や真菌など遺伝子を有するすべての感染病原体による感染治療に簡単に適用できる。また、感染宿主をヒトとして説明したが、これに限定されず、動物や他の生物などを感染宿主とした場合にも同様に適用可能である。
【0123】
また、第1実施形態では、検体統計データベース12に基づき有効性判定データベース3を生成する例を示したが、これに限定されない。例えば、第2実施形態の検体統計データベース120のようなデータベースに基づき有効性判定データベース3を生成してもよい。この場合、検体統計データベース120に示されるISDRやウィルス遺伝子型についても図5のMxa−88などのヒト遺伝子型と同様の著効率、オッズ、χ値、重み係数などを算出する。この場合、第1実施形態と第2実施形態では同一の検体統計データベースから生成され得る。
【0124】
ウィルスを類型化する第1実施形態の変形例における検体統計データベース12aを図15に示す。図15に示すように、ヒト遺伝子型情報に関するMxA−88、MxA−123、MBL、LMP7、IFNAR1(GT)、IFNAR1 C/Tなどの遺伝子型のみならず、ウィルス遺伝子型情報に関するHCV−1b、HCV−2a、HCV−2bの別に関する情報が検体毎に対応付けられている。このウィルス遺伝子型情報も例えばHCV−1bを第1の型に、HCV−2a/2bを第2の型に類型化し、ウィルス遺伝子型も含め重み係数を算出した例を図16に示す。この図16に示す重み係数と、被検体から得られるヒト遺伝子型情報及びウィルス遺伝子型情報を乗算し、その乗算値をそれぞれ加算することにより、ウィルス遺伝子型も含めた有効性予測加算値を得ることが出来る。なお、図15や図16の例では、ウィルス遺伝子型を1つのみ取り上げて重み係数を算出する例を示したが、他のウィルス遺伝子型に関する情報についても同様に重み係数を算出してもよいことはもちろんである。
【0125】
また、上述した有効性判定データベース3や300の生成は、検体統計データベース12が更新される毎に繰り返し自動的に実行することにより、有効性判定の精度を向上させることができる。また、検体統計データベース12が更新された場合のみならず、別の経路から検体データが得られた場合には、その検体データを検体統計データベース12から得られた検体データに加算して有効性判定データベース3や300の生成を行えばよい。
【0126】
また、本実施形態では有効性判定データベースを有するコンピュータ10で有効性判定を実行する場合を示したが、これに限定されない。例えば、通信ネットワーク11に接続された端末から被検体の遺伝子型データを送信してコンピュータ10に判定要求を行い、この要求に応答してコンピュータ10が上述の有効性判定処理を実行し、判定結果をその端末に送信するようにしてもよい。
【0127】
また、第1実施形態では、複数のヒト遺伝子型情報を2種類の型に分類し、その型の各々について分散共分散行列を算出する例を示したが、これに限定されるものではない。例えば3種類以上の型に分類し、その型の各々について第1実施形態と同様に著効率SRrate、オッズO、重み係数Sを算出してもよい。第2実施形態でも同様に、(s112)3種類以上のデータ群に対して分散共分散行列V,V,V,…を算出し、これらに基づき全体の分散共分散行列Vtotを算出してもよい。
【0128】
また、上記第1、第2実施形態における有効/無効の結果の表示は、数値で与えてもよいし、あるいは視覚的に色分けして見分けられる仕組みにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の第1実施形態に係る治療法有効性予測装置の全体構成を示す図。
【図2】同実施形態に係る検体統計データベース(DB)の構成の一例を示す図。
【図3】同実施形態に係る有効性判定データベースの構成の一例を示す図。
【図4】同実施形態に係る有効性判定データベースの作成方法のフローチャートを示す図。
【図5】同実施形態に係る有効性判定データベース作成に際し算出された著効率、オッズ、χ値、重み係数などを表にして示した図。
【図6】同実施形態に係る有効性判定処理のフローチャートを示す図。
【図7】同実施形態に係る有効性予測加算値の算出概念図。
【図8】同実施形態に係る有効性判定結果の出力例を示す図。
【図9】本発明の第2実施形態に係る治療法有効性予測装置の全体構成を示す図。
【図10】同実施形態に係る検体統計データベースの構成の一例を示す図。
【図11】同実施形態に係る有効性判定データベースの構成の一例を示す図。
【図12】同実施形態に係る有効性判定データベースの生成方法のフローチャートを示す図。
【図13】同実施形態に係る分類された各データ群のデータの一例を示す図。
【図14】同実施形態に係る有効性判定データベースを用いた有効性判定処理のフローチャートを示す図。
【図15】第1実施形態の変形例に関わる検体統計データベースの構成の一例を示す図。
【図16】第1実施形態の変形例に関わる有効性判定データベースの構成の一例を示す図。
【符号の説明】
【0130】
1…入力装置
2…処理装置
3…有効性判定データベース
4…出力装置
5…記憶媒体読取装置
6…記憶媒体
10…コンピュータ
11…通信ネットワーク
12…検体統計データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、治療の有効性を判定するための有効性判定データベースを生成させる処理を実行させる有効性判定データベース生成プログラムであって、この有効性判定データベース生成プログラムは前記コンピュータに、
検体毎に、検体の感染宿主の遺伝子型を示す感染宿主遺伝子型情報と、検体が感染した感染病原体の遺伝子型を示す感染病原体遺伝子型情報と、前記感染病原体に対する治療の有効性を示す有効性情報が与えられた検体データを複数の検体について読み出させ、
前記複数の検体についての検体データに基づき、前記感染宿主遺伝子型情報及び前記感染病原体遺伝子型情報の少なくとも一方と前記治療の有効性との相関度を示す重み係数を、遺伝子型毎に算出させ、
前記重み係数を、遺伝子型毎に記憶装置に格納させる
ことを特徴とする有効性判定データベース生成プログラム。
【請求項2】
1あるいは複数の感染宿主遺伝子型と、治療の有効性との相関度を示す感染宿主重み係数とを記録した第1のフィールドと、
1あるいは複数の感染病原体遺伝子型と、前記治療の有効性との相関度を示す感染病原体重み係数とを記録した第2のフィールドと
を有することを特徴とする有効性判定データのデータ構造。
【請求項3】
1あるいは複数の感染宿主遺伝子型と、治療の有効性との相関度を示す感染宿主重み係数と、1あるいは複数の感染病原体遺伝子型と、前記治療の有効性との相関度を示す感染病原体重み係数とを記録した第1のフィールドと、
前記治療の有効性を示す有効性情報を記録した第2のフィールドと
を有することを特徴とする有効性判定データのデータ構造。
【請求項4】
コンピュータに、治療の有効性を判定する処理を実行させる有効性判定プログラムであって、この有効性判定プログラムは前記コンピュータに、
1あるいは複数の感染宿主遺伝子型と治療の有効性との相関度を示す感染宿主重み係数と、1あるいは複数の感染病原体遺伝子型と前記治療の有効性との相関度を示す感染病原体重み係数とを読み出させ、
被検体の感染宿主遺伝子型情報と、前記感染宿主重み係数を遺伝子型毎に乗算して感染宿主有効性予測個別値を算出させ、
被検体の感染病原体遺伝子型情報と、前記感染病原体重み係数を遺伝子型毎に乗算して感染病原体有効性予測個別値を算出させ、
前記感染宿主有効性予測個別値の各々及び感染病原体有効性予測個別値の各々を加算して有効性予測加算値を算出させ、
前記有効性予測加算値あるいは前記有効性予測加算値に所定の数値を加算した値に基づき治療の有効性を判定し、
前記判定結果を出力させる
ことを特徴とする有効性判定プログラム。
【請求項5】
コンピュータを用いて治療の有効性を判定するための有効性判定データベースを生成する有効性判定データベース生成システムであって、
検体毎に、検体の感染宿主遺伝子型を示す感染宿主遺伝子型情報と、検体が感染した感染病原体の遺伝子型を示す感染病原体遺伝子型情報と、前記感染病原体に対する治療の有効性を示す有効性情報が与えられた検体データを複数の検体について読み出し、前記複数の検体についての検体データに基づき、前記感染宿主遺伝子型情報及び前記感染病原体遺伝子型情報の少なくとも一方と前記治療の有効性との相関度を示す重み係数を、遺伝子型毎に算出するデータベース生成手段と、
前記データベース生成手段により算出された前記重み係数を、遺伝子型毎に記憶する記憶手段と
を具備してなることを特徴とする有効性判定データベース生成システム。
【請求項6】
コンピュータを用いて治療の有効性を判定する治療法有効性判定システムであって、
1あるいは複数の感染宿主遺伝子型と治療の有効性との相関度を示す感染宿主重み係数と、1あるいは複数の感染病原体遺伝子型と前記治療の有効性との相関度を示す感染病原体重み係数とを記憶した有効性判定データベースと、
被検体の感染宿主遺伝子型情報と、前記感染宿主重み係数を遺伝子型毎に乗算して感染宿主有効性予測個別値を算出させ、被検体の感染病原体遺伝子型情報と、前記感染病原体重み係数を遺伝子型毎に乗算して感染病原体有効性予測個別値を算出させ、前記感染宿主有効性予測個別値の各々及び感染病原体有効性予測個別値の各々を加算して有効性予測加算値を算出させ、前記有効性予測加算値あるいは前記有効性予測加算値に所定の数値を加算した値に基づき治療の有効性を判定させる有効性判定手段と、
前記有効性予測加算値を出力する出力装置と
を具備してなることを特徴とする治療法有効性判定システム。
【請求項7】
コンピュータを用いて治療の有効性を判定するための有効性判定データベースを生成する有効性判定データベース生成方法であって、
検体毎に、検体の感染宿主遺伝子型を示す感染宿主遺伝子型情報と、検体が感染した感染病原体の遺伝子型を示す感染病原体遺伝子型情報と、前記感染病原体に対する治療の有効性を示す有効性情報が与えられた検体データを複数の検体について第1の記憶装置から読み出し、
前記複数の検体についての検体データに基づき、前記感染宿主遺伝子型情報及び前記感染病原体遺伝子型情報の少なくとも一方と前記治療の有効性との相関度を示す重み係数を、遺伝子型毎に算出し、
前記重み係数を、遺伝子型毎に第2の記憶装置に記憶する
有効性判定データベース生成方法。
【請求項8】
コンピュータを用いて治療の有効性を判定する治療法有効性判定方法であって、
1あるいは複数の感染宿主遺伝子型と治療の有効性との相関度を示す感染宿主重み係数と、1あるいは複数の感染病原体遺伝子型と前記治療の有効性との相関度を示す感染病原体重み係数とを読み出し、
被検体の感染宿主遺伝子型情報と、前記感染宿主重み係数を遺伝子型毎に乗算して感染宿主有効性予測個別値を算出し、
被検体の感染病原体遺伝子型情報と、前記感染病原体重み係数を遺伝子型毎に乗算して感染病原体有効性予測個別値を算出し、
前記感染宿主有効性予測個別値の各々及び感染病原体有効性予測個別値の各々を加算して有効性予測加算値を算出し、
前記有効性予測加算値又は前記有効性予測加算値に所定の数値を加算した値に基づき治療の有効性を判定し、
前記判定結果を出力する
治療法有効性判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−272510(P2008−272510A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183177(P2008−183177)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【分割の表示】特願2002−284455(P2002−284455)の分割
【原出願日】平成14年9月27日(2002.9.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502028430)株式会社ジーンケア研究所 (14)
【Fターム(参考)】