治療用タンパク質製剤
本発明は一般的には、製剤に含まれる治療用タンパク質中のAsp−Aspモチーフにおけるアスパルチル異性化を阻害するpHを有する製剤に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年11月20日に出願された米国特許仮出願第61/116,541号の優先権を主張し、この開示の全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般的には、製剤に含まれる治療用タンパク質中のAsp−Aspモチーフにおけるアスパルチル異性化を阻害するpHを有する製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
タンパク質製剤
バイオテクノロジーの進歩により、組換えDNA技術を用いて、医薬用途における様々なタンパク質を生産することが可能となった。タンパク質は従来の有機薬剤及び無機薬剤よりも大きく、また複雑であるため(つまり複雑な3次元構造に加えて複数の官能基を有する)、かかるタンパク質の製剤には特別な考慮を必要とする。タンパク質は分解されやすく、化学的不安定性(例えば、新たな化学的性質を生じる結合形成又は開裂によるタンパク質の改変)又は物理的不安定性(例えば、タンパク質の高次構造における変化)に関与し得る。物理的不安定性は例えば、変性、凝集、沈殿又は吸着によって生じ得る。化学的不安定性はアミド分解、ラセミ化、異性化、加水分解、酸化、ベータ脱離又はジスルフィド交換によって生じ得る。
【0004】
アミド分解、凝集、及び断片化を最小限にするために、モノクローナル抗体を含む治療用タンパク質において弱酸性の緩衝液を含む製剤が用いられている。例えば、Lam et al.の米国特許第6,171,586号(pH5.0の酢酸緩衝液を含む安定な抗体製剤溶液について記載されている);Johnson et al.の国際公開第2004/019861号(pH5.5の酢酸緩衝液中に調製されたペグ化抗TNFα Fab断片について記載されている);Nestaの国際公開第2004/004639号(pH6.0の50mMコハク酸緩衝液に調製された腫瘍によって活性化する抗毒素であるhuC242−DM1について記載されている);Kaisheva et al.の国際公開第03/039485号(pH6.0のコハク酸ナトリウム緩衝液中で高度に安定なヒト化IL−2受容体抗体であるダクリズマブについて報告している);及びOliver et al.の国際公開第03/015894号(pH6.0のヒスチジン緩衝液中の100mg/mLのSYNAGIS(登録商標)製剤溶液について記載されている)を参照されたい。
【0005】
pH4〜6の条件下では、タンパク質中のアスパラギン酸(Asp)残基は異性化を受けることによって分解し得る。Aspの異性化は、イソアスパラギン酸(isoAsp)を形成するための速い加水分解開裂を受ける環状イミド中間体(スクシンイミド)、又はモル比が約3:1のAspを介して進む。Wakanar et al. Biochemistry 46:1534−1544(2007)を参照されたい。AspのC末端側にある残基がAspの異性化に対する感受性に影響し、Asp−Gly中のAspが特に異性化の影響を受けやすい(同文献)。治療用抗体中のAsp異性化は、特に抗体の抗原結合領域、例えば相補性決定領域(CDR)にAspが生じると、抗原結合活性の実質的な損失を引き起こし得る。従って当該技術分野において、かかる製剤に含まれる治療用タンパク質中のAsp−Asp部分におけるアスパルチル異性化を阻害する製剤が必要とされている。
【0006】
抗STEAP−1抗体
STEAP−1は6つの膜貫通ドメインと細胞内N末端及びC末端の分子トポロジーを特徴とする細胞表面抗原であり、これはSTEAP−1が3つの細胞外ループ及び2つの細胞内ループを形成するように「曲がりくねって」折りたたまれていることを示唆している。STEAP−1は正常なヒト組織において主に前立腺細胞で発現する。STEAP−1はまた、様々な状態の前立腺癌、さらに肺、結腸、卵巣、膀胱、及び膵臓癌などの他のヒトの癌、並びにユーイング肉腫にも高値で発現する。Hubert et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:14523−14528(1999);国際公開第99/62941号;Challita−Eid et al. Cancer Res. 67:5798−5805;及び国際公開第2008/052187号を参照されたい。
【0007】
STEAP−1に結合する特定の抗体については記載されている(参照により本明細書に明らかに組み込まれる、国際公開第2008/052187号を参照)。さらに、それらの抗体に由来する免疫抱合体が前立腺腫瘍異種移植モデルにおいて腫瘍体積を縮小することが示されている(同文献)。従って、抗STEAP−1抗体又は免疫抱合体は、例えば前立腺癌などの癌の治療に有用である。従って、抗STEAP−1抗体又は免疫抱合体を投与する上で適した製剤が癌の治療に有用となる。
【0008】
本発明は上述の必要性を満たし、さらなる利益を提供する。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、Asp−Aspモチーフを有する治療用タンパク質を少なくとも部分的に含む製剤であり、Asp−AspモチーフにおけるAsp残基のアスパルチル異性化を阻害することによってタンパク質の安定性を向上した製剤に関する。1つの様態においては、この製剤はAsp−AspモチーフにおけるAsp残基のアスパルチル異性化を阻害するpHを有する。
【0010】
1つの様態においては、Asp−Aspモチーフを有する治療用タンパク質を含む製剤であり、pHが6.0を超え、かつ9.0未満である製剤を提供する。1つの実施形態においては、このpHは6.25〜7.0である。別の実施形態においては、このpHは約6.5である。別の実施形態においては、この治療用タンパク質は抗体である。かかる実施形態の1つにおいては、この抗体はAsp−Aspモチーフを含む超可変領域(HVR)を含む。かかる実施形態の1つにおいては、このAsp−AspモチーフはHVR−H3中に生じる。
【0011】
さらなる実施形態においては、この抗体は配列番号16のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む抗STEAP−1抗体である。かかる実施形態の1つにおいては、この抗STEAP−1抗体はさらに、(a)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号15のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(d)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(e)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR−L3、から選択される1つ以上のHVRを含む。かかる実施形態の1つにおいては、この抗体は、(a)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号15のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号16のアミノ酸配列を含むHVR−H3;(d)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(e)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR−L3、を含む。
【0012】
さらなる実施形態においては、この抗体は、配列番号16のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む抗STEAP−1抗体であり、かつ配列番号8〜10から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)を含む。かかる実施形態の1つにおいては、この抗体はさらに、配列番号5〜6から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0013】
さらなる実施形態においては、この抗体は細胞毒性薬と結合している。かかる実施形態の1つにおいては、この細胞毒性薬はアウリスタチンである。別のかかる実施形態においては、この細胞毒性薬はメイタンシノイド薬剤部分である。
【0014】
さらなる実施形態においては、この抗体は40℃で4週間保存した場合に5℃で6ヶ月間保存した場合と比較して≦25%の抗原結合の損失を示す。
【0015】
さらなる実施形態においては、製剤は、20mMの濃度のヒスチジン−酢酸緩衝液を含む。さらなる実施形態においては、製剤は、20mMの濃度のヒスチジン−塩化物緩衝液を含む。さらなる実施形態においては、製剤は、60mM〜250mMの量のトレハロース及びショ糖から選択される糖を含む。さらなる実施形態においては、製剤は、0.01%〜0.1%の量のポリソルベート20を含む。
【0016】
上述の実施形態のいずれも、単独又は配合剤として存在し得る。
【0017】
別の様態においては、上記で提供した実施形態のいずれかにおける抗STEAP−1抗体を含む製剤を哺乳類に投与する工程を含む、癌の治療方法を提供する。
【0018】
さらなる様態においては、製剤のpHをアスパルチル異性化を阻害する上で十分なpHまで上昇させる工程を含む、製剤に含まれ、かつAsp−Aspモチーフを含む、治療用タンパク質中のアスパルチル異性化の阻害方法を提供する。1つの実施形態においては、この治療用タンパク質は上記で提供した実施形態のいずれかにおける抗体である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ヒト、マウス及びカニクイザル由来STEAP−1のアミノ酸配列の配列比較を示す。
【図2A】ある抗STEAP−1抗体由来のVLドメインのアミノ酸配列を示す。
【図2B】ある抗STEAP−1抗体由来のVHドメインのアミノ酸配列を示す。
【図3】pH5.5の抗STEAP−1抗体製剤を実施例Aに記載しているように40℃で各種期間保存後のイオン交換クロマトグラフィーから得られた溶出プロファイルを示す。
【図4】実施例Bに記載している、iso−Aspの存在を示すトリプシンのペプチドマップを示す。
【図5】実施例Bに記載している、異性化を受けた特定のAsp残基を同定した、電子移動解離質量分析(ETD−MS)の結果を示す。
【図6】40℃で4週間保存した抗STEAP−1抗体製剤は抗原結合性の損失を示したことを示す。pHを上昇させた製剤の40℃での結合の損失は減少した。製剤を5℃で6ヶ月間保存した場合にはいずれのpHにおいても結合の損失は観察されなかった。
【図7】疎水性相互作用クロマトグラフィーによって検出された、40℃で各種期間保存した後のiso−Asp及びスクシンイミドを含む抗体の存在を示す。
【図8】実施例Dに記載している、各種温度で各種期間保存した後の抗STEAP−1抗体調製物中のIso−Asp及びスクシンイミドの量(パーセンテージで表す)を示す。
【図9】Aspからiso−Aspへの反応における一次反応速度の仮説を示す。
【図10】実施例Eに記載している、各種温度で決定された、Aspからiso−Aspへの異性化率を示す。
【図11】図10に示した率を用いて作製したアレニウスプロットである。プロットは、約25〜30Kcal/molのAsp−Asp異性化の活性化エネルギーを予測する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
I.定義
「製剤」という用語は、活性成分を含むが、その製剤を投与する対象に容認しがたい毒性を有する付加的な成分を含まない調製物を意味する。かかる製剤は通常無菌的である。
【0021】
「無菌」製剤とは、防腐処理されているか、すべての微生物及びそれらの胞子を含まない。
【0022】
本明細書において、「凍結」製剤は0℃未満の製剤である。通常、凍結製剤は凍結乾燥されておらず、事前又は事後にも凍結乾燥処理を受けない。好ましくは、凍結製剤は、保存用の凍結薬剤原料(例えば、ステンレススチールタンク、PETGボトル、及びBioprocess Container(商標)保存システム(Hyclone, Logan, UT))又は凍結薬剤製品(最終的にはバイアル形状)を含む。
【0023】
「安定な」製剤は、本明細書におけるタンパク質が保存に際して物理的安定性及び/又は化学的安定性及び/又は生物活性を本質的に保持する製剤を意味する。好ましくは、このタンパク質は保存に際して物理的及び化学的安定性、並びに生物活性を本質的に保持する。保存期間は通常、製剤の意図された貯蔵寿命に基づいて選択される。タンパク質の安定性を測定する様々な分析技術が当該技術分野において使用可能であり、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery, 247−301, Vincent Lee Ed., Marcel Dekker, Inc., New York, New York, Pubs.(1991)及びJones, A. Adv. Drug Delivery Rev. 10: 29−90(1993)に概説されている。安定性は選択される温度で選択される期間測定することができる。好ましくは、この製剤は約40℃で少なくとも2〜4週間安定であり;並びに/又は約5℃及び/若しくは15℃で少なくとも3ヶ月、好ましくは1〜2年安定であり;並びに/又は−20℃で少なくとも3ヶ月、好ましくは少なくとも1〜2年安定である。さらに、この製剤は好ましくは凍結(例えば−70℃に)及び融解の後、例えば1、2、又は3回の凍結及び融解の後でも安定である。安定性は、凝集形成の評価(例えば、サイズ排除クロマトグラフィーを用いた混濁度測定及び/又は目視検査);陽イオン交換クロマトグラフィー又はキャピラリーゾーン電気泳動を用いた電荷不均一性の評価により;アミノ末端又はカルボキシ末端配列解析;質量分析;不完全な抗体とインタクト抗体を比較するSDS−PAGE解析;ペプチドマッピング(例えばトリプシン又はLys−Cの)解析;抗体の生物活性又は結合機能の評価;などの方法を含む様々な異なる方法によって定性的に及び/又は定量的に評価することができる。安定性は1つ以上の:凝集、アミド分解(例えばAsnアミド分解)、酸化(例えばMet酸化)、異性化(例えばAsp異性化)、クリッピング/加水分解/断片化(例えばヒンジ領域の断片化)、スクシンイミド形成、不対システイン、N末端伸長、C末端プロセッシング、グリコシル化の種差、などを含み得る。「改善された安定性」を有する製剤は、保存に際して、異なる製剤中のタンパク質と比較して、より高い物理的安定性及び/又は化学的安定性及び/又は生物活性を保持する製剤中に含まれるタンパク質を意味する。
【0024】
「アスパルチル異性化」とはタンパク質中のAsp残基のイソアスパラギン酸への変換を意味する。
【0025】
「Asp−Asp」又は「DD」モチーフとはタンパク質中の2つの連続したアスパラギン酸残基を意味する。
【0026】
「アスパルチル異性化の阻害」及びその文法的変形は、指定のpH(例えば6.5)の指定の製剤中に含まれるタンパク質中のAsp−Aspにおけるアスパルチル異性化が、同じ製剤中により低いpH(例えば5.5)で含まれるタンパク質中のAsp−Aspにおけるアスパルチル異性化値と比較して、部分的に又は完全に阻害されていることを意味する。アスパルチル異性化の阻害は、例えばiso−Aspを定量するHICを用いて直接的に、又は例えばタンパク質の生物活性を定量することによって間接的に決定し得る。1つの実施形態においては、Asp−Aspにおけるアスパルチル異性化は少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%阻害される。
【0027】
「治療用タンパク質」とは、疾患又は病状を呈する哺乳類の治療に使用されるタンパク質である。本明細書に開示する治療用抗体は抗STEAP−1抗体を含む。
【0028】
「STEAP−1」という用語は、特に記載のない限り、霊長類(例えばヒト及びサル)、及び齧歯類(例えばマウス及びラット)などの哺乳類を含む任意の脊椎動物由来の天然STEAP−1を意味する。この用語は「完全長」のプロセッシングされていないSTEAP−1、並びに細胞内でのプロセッシングによるいずれの形態のSTEAP−1も包含する。この用語はまた、天然に生じるSTEAP−1の変異、例えばスプライス変異又は対立遺伝子多型も包含する。ヒト、マウス、及びカニクイザル由来のSTEAP−1の具体例を図1に示す。
【0029】
抗体の「生物活性」とは抗体の抗原への結合能を意味する。
【0030】
「等張性」とは、目的の製剤が本質的にヒトの血液と同じ浸透圧を有することを意味する。等張性の製剤は通常約250〜350ミリオスモルの浸透圧となる。浸透圧は例えば、蒸気圧又は氷点下降型(ice−freezing type)浸透圧計で測定することが可能である。
【0031】
本明細書において使用されるとき、「緩衝液」とは、その溶液中の酸−塩基共役成分の作用によってpHの変化に耐える、緩衝化した溶液を意味する。かかる緩衝液の例としては、酢酸、コハク酸、グルコン酸、ヒスチジン、クエン酸、グリシルグリシン、及びその他の有機酸緩衝液が挙げられる。
【0032】
「ヒスチジン緩衝液」とはヒスチジンイオンを含む緩衝液を意味する。ヒスチジン緩衝液の例としては、ヒスチジン塩化物、ヒスチジン酢酸、ヒスチジンリン酸、及びヒスチジン硫酸などが挙げられる。ヒスチジン酢酸緩衝液はL−ヒスチジン(塩基を含まない、固体)を酢酸(液体)を用いて滴定することによって調製することが可能である。
【0033】
本明細書において「糖」とは、単糖類、二糖類、三糖類、多糖類、糖アルコール、還元糖、非還元糖などの一般組成(CH2O)n及びその誘導体を含む。本明細書における糖の例としては、グルコース、ショ糖、トレハロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デキストラン、グリセリン、デキストラン、エリトリトール、グリセロール、アラビトール、シリトール(sylitol)、ソルビトール、マンニトール、メリビオース、メレジトース、ラフィノース、マンノトリオース、スタキオース、マルトース、ラクツロース、マルツロース、グルシトール、マルチトール、ラクチトール、イソマルツロースなどが挙げられる。本明細書における糖類は、トレハロース又はスクショ糖ロースなどの非還元二糖類の場合もある。
【0034】
「界面活性剤」とは、表面活性の薬剤、好ましくは非イオン界面活性剤を意味する。本明細書において、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20及びポリソルベート80);ポロキサマー(例えばポロキサマー188);トライトン;ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);ラウリル硫酸ナトリウム;オクチルグリコシドナトリウム;ラウリル−、ミリスチル−、リノレイル−、若しくはステアリル−スルホベタイン;ラウリル−、ミリスチル−、リノレイル−、若しくはステアリル−サルコシン;リノレイル−、ミリスチル−、若しくはセチル−ベタイン;ラウロアミドプロピル−、コカミドプロピル−、リノレアミドプロピル−、ミリスタミドプロピル−、パルミドプロピル−、若しくはイソステアラミドプロピル−ベタイン(例えばラウロアミドプロピル);ミリスタミドプロピル−、パルミドプロピル−、若しくはイソステアラミドプロピル−ジメチルアミン;ココイルメチルタウリンナトリウム若しくはオレイルメチルタウリン二ナトリウム;並びにMONAQUAT(商標)シリーズ(Mona Industries, Inc., Paterson, New Jersey);ポリエチルグリコール、ポリプロピルグリコール、及びエチレンとプロピレングリコールとのコポリマー(例えば、Pluronics、PF68など)などが挙げられる。
【0035】
「約」という用語は、数値に換算して、その数値のプラス又はマイナス5%を意味する。
【0036】
本明細書において「抗体」という用語は広義に使用され、抗体が所望の生物活性を示す限り、特に完全長のモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び抗体断片を意味する。
【0037】
本明細書において使用されるとき、「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体、つまり、通常モノクローナル抗体の産生時に生じ、少量がモノクローナル抗体に含まれる可能性のある変異体を除いて、単一及び/又は同じエピトープに結合する集団を含む個々の抗体を意味する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対するものである。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンが混入していない点で有利である。修飾「モノクローナル」とは、実質的に均一な抗体集団から得られる抗体の特徴を表し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈すべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature, 256:495(1975)に最初に記載されたハイブリドーマ法により作製することができ、また、組換えDNA法によって作製することもできる(例えば、米国特許第4,816,567号を参照)。「モノクローナル抗体」は、例えばClackson et al., Nature, 352:624−628(1991)及びMarks et al., J. Mol. Biol., 222:581−597(1991)に記載されている技法を用いたファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。
【0038】
所望の生物活性を示す限り、本明細書におけるモノクローナル抗体には、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種由来の抗体又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一又は相同であるが、その鎖の残りが、別の種由来又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一又は相同である「キメラ」抗体、並びにこの抗体の断片が具体的に含まれる(米国特許第4,816,567号;及びMorrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851−6855(1984))。本明細書における目的のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば旧世界ザル、類人猿など)由来の可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含む「霊長類化(primatized)」抗体がある。
【0039】
「抗体断片」は、その抗体の抗原結合領域を含むすべての完全長抗体の一部を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片;二特異性抗体(二重特異性抗体);線状抗体;一本鎖抗体分子;並びに抗体断片から形成された多重特異性抗体などが挙げられる。
【0040】
「完全長抗体」は、抗原結合可変領域並びに軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメインであるCH1、CH2及びCH3を含む抗体である。この定常ドメインは天然配列定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列変異体であり得る。ある実施形態においては、完全長抗体は1つ以上のエフェクター機能を有する。
【0041】
本明細書における「アミノ酸配列変異体」抗体は、参照抗体と異なるアミノ酸配列を有する抗体である。通常、アミノ酸配列変異体は、参照抗体と少なくとも約70%の相同性を有するものであり、好ましくは、参照抗体と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%相同なものである。このアミノ酸配列変異体は、参照抗体と比較して特定の位置に置換、欠失、及び/又は付加を有する。本明細書におけるアミノ酸配列変異体の例には、酸性変異体(例えば、脱アミド化抗体変異体)、塩基性変異体、抗体の1本又は2本の軽鎖にアミノ末端リーダー伸長(例えばVHS−)を有する抗体、抗体の1本又は2本の重鎖にC末端リシン残基を有する抗体などがあり、重鎖及び/又は軽鎖のアミノ酸配列変異体の組み合わせを含む。1つの実施形態においては、抗体変異体は、その抗体の1本又は2本の軽鎖にアミノ末端リーダー伸長を含み、参照抗体と比較したその他のアミノ酸配列及び/又はグリコシル化の差異をさらに有し得る。
【0042】
本明細書における「グリコシル化変異体」抗体は、参照抗体に結合した1つ以上の炭水化物部分とは異なる炭水化物部分が1つ以上結合した抗体である。本明細書におけるグリコシル化変異体の例には、抗体のFc領域にG0オリゴ糖構造の代わりにG1又はG2オリゴ糖構造が結合した抗体、抗体の1本又は2本の軽鎖に1つ又は2つの炭水化物部分が結合した抗体、抗体の1本又は2本の重鎖に炭水化物部分が結合していない抗体などがあり、グリコシル化変化の組み合わせがある。
【0043】
本明細書における「アミノ末端リーダー伸長」は、抗体の任意の1つ以上の重鎖又は軽鎖のアミノ末端に存在するアミノ末端リーダー配列の1つ以上のアミノ酸残基を意味する。アミノ末端リーダー伸長の例は、抗体変異体の1つ若しくは両方の軽鎖に存在する3つのアミノ酸残基であるVHSを含むか、VHSからなる。
【0044】
「相同性」は、配列を比較して、必要な場合にはギャップを導入して、最大相同パーセントに達した後に、同一なアミノ酸配列変異体における残基パーセンテージとして定義される。配列比較のための方法及びコンピュータプログラムは、当該技術分野において周知である。かかるコンピュータプログラムの1つは、Genentech, Inc.によって著され、ユーザー文書と共に1991年12月10日に米国著作権局、Washington,DC 20559に提出された「Align2」がある。
【0045】
抗体の「エフェクター機能」は、抗体のFc領域(天然配列Fc領域又はアミノ酸配列変異体Fc領域)に起因する生物活性を意味する。抗体のエフェクター機能の例には、C1q結合;補体依存性細胞傷害作用;Fc受容体結合;抗体依存性細胞傷害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えばB細胞レセプター;BCR)のダウンレギュレーションなどが挙げられる。
【0046】
重鎖定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、完全長抗体を異なる「クラス」に割り当てることができる。完全長抗体には5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、これらのいくつかをさらに「サブクラス」(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgA2に分け得る。異なるクラスの抗体に対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び三次元立体配置は周知である。
【0047】
「抗体依存性細胞傷害」及び「ADCC」は、Fc受容体(FcR)を発現する非特異的な細胞毒性細胞(例えばナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)が標的細胞上に結合した抗体を認識した後に標的細胞を溶解させる、細胞を介した反応を意味する。ADCCを媒介する一次細胞であるNK細胞はFcγRIIIのみを発現するが、単球はFcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcRの発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457−92(1991)の464頁の表3に要約されている。目的の分子におけるADCC活性を評価するためには、米国特許第5,500,362号又は第5,821,337号に記載されている、インビトロ ADCCアッセイを行うことができる。このアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞などが挙げられる。あるいは又は追加して、目的の分子のADCC活性は、例えばClynes et al., PNAS(USA) 95:652−656(1998)に開示されている動物モデルにおいてインビボで評価することができる。
【0048】
「ヒトエフェクター細胞」は、1つ以上のFcRを発現してエフェクター機能を担う白血球である。好ましくは、これらの細胞は少なくともFcγRIIIを発現してADCCエフェクター機能を担う。ADCCを媒介するヒト白血球の例としては、末梢血単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞毒性T細胞、及び好中球が挙げられ、PBMC及びNK細胞が好ましい。エフェクター細胞は、その天然供給源から、例えば本明細書に記載されるように血液又はPBMCから単離することができる。
【0049】
「Fc受容体」又は「FcR」という用語は、抗体のFc領域に結合する受容体について述べるために使用される。1つの実施形態においては、FcRは天然配列のヒトFcRである。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体と結合し(ガンマ受容体)、かつ、これらの受容体の対立遺伝子多型及び選択的にスプライシングされた形態を含むFcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIサブクラスの受容体を含む。FcγRII受容体には、FcγRIIA(「活性化受容体」)及びFcγRIIB(「阻害受容体」)などがあり、それらは主に細胞質ドメインが異なるが類似したアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメインに免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)を有する。阻害受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメインに免疫受容阻害性チロシンモチーフ(ITIM)を有する(Daeron, Annu. Rev. Immunol. 15 :203−234(1997)の総説Mを参照)。FcRについては、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457−92(1991);Capel et al., Immunomethods 4:25−34(1994);及びde Haas et al., J. Lab. Clin. Med. 126:330−41(1995)に総説されている。本明細書における「FcR」という用語は、将来同定されるものを含めたその他のFcRを包含する。この用語は、母体IgGの胎児への輸送を担う新生児受容体FcRnも含む(Guyer et al., J. Immunol. 117:587(1976)及びKim et al., J. Immunol. 24:249(1994))。
【0050】
「補体依存性細胞傷害作用」又は「CDC」は、補体存在下で分子が標的を溶解する能力を意味する。補体活性化経路は、補体系の第一成分(C1q)がコグネイト抗原と複合体を形成した分子(例えば抗体)へ結合することにより開始する。補体活性化を評価するためには、例えば、Gazzano−Santoro et al., J. Immunol. Methods 202: 163(1996)に記載されているCDCアッセイを行うことができる。
【0051】
「天然抗体」は、通常は2本の同一の軽(L)鎖及び2本の同一の重(H)鎖から構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は1つの共有ジスルフィド結合により重鎖に結合する一方で、ジスルフィド結合数は異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で多様である。各重鎖及び軽鎖は、規則的に間隔のあいた鎖内ジスルフィド架橋も有する。各重鎖は、一端に可変ドメイン(VH)を有し、続いていくつかの定常ドメインを有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(VL)を、もう一端に定常ドメインを有する。軽鎖の定常ドメインは重鎖の第一定常ドメインと整列し、軽鎖可変ドメインは重鎖可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの間の界面を形成すると考えられる。
【0052】
「可変」という用語は、抗体間において可変ドメインの特定部分の配列が広範囲に渡って異なり、それぞれの特定の抗体の特定の抗原に対する結合及び特異性に使用されるという事実を意味する。しかし可変性は、抗体の可変ドメイン全体に渡り均等に分布しているわけではなく、軽鎖と重鎖の可変ドメイン両方における超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然重鎖及び軽鎖の可変ドメインはそれぞれ4つのFRを含む。FRの大部分はβシート立体配置を採り、3つの超可変領域により連結されており、これら超可変領域はβシート構造と連結し、場合によってはβシート構造の一部を形成するループを形成している。各鎖中の超可変領域は、FRによって互いにごく近接し、もう一方の鎖の超可変領域と共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(1991)を参照)。定常ドメインは、抗原に対する抗体の結合に直接には関与しないが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)での抗体の関与などの様々なエフェクター機能を示す。
【0053】
本明細書において使用されるとき、「超可変領域」又は「HVR」という用語は、「相補性決定領域」又は「CDR」とも呼ばれ、主として抗原との結合に関わる抗体のアミノ酸残基を意味する。これらは通常、重鎖中の3つのHVR(HVR−H1、HVR−H2、及びHVR−H3)、及び軽鎖中の3つのHVR(HVR−L1、HVR−L2、及びHVR−L3)である。いくつかの実施形態においては、超可変領域は軽鎖可変ドメイン中の24〜34位のアミノ酸残基(HVR−L1)、50〜56位のアミノ酸残基(HVR−L2)、及び89〜97位のアミノ酸残基(HVR−L3)、並びに重鎖可変ドメインの31〜35位のアミノ酸残基(HVR−H1)、50〜65位のアミノ酸残基(HVR−H2)及び95〜102位のアミノ酸残基(HVR−H3)を含む(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(1991))。HVR−H3は抗体への正確な特異性を付与するための特有の役割を果たすと考えられる。例えばMethods in Molecular Biology 248:1−25(Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ)中のXu et al.(2000) Immunity 13:37−45;Johnson and Wu(2003)を参照されたい。「フレームワーク領域」又は「FR」残基は、本明細書において定義する超可変領域残基以外の、可変ドメインの残基である。
【0054】
抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれる、それぞれが単一の抗原結合部位を有する2つの同一の抗原結合断片と、残りの「Fc」断片を生産し、その名称には容易に結晶化できる能力が反映されている。ペプシン処理によって2つの抗原結合部位を有するF(ab’)2断片が生じ、この断片は依然として抗原を架橋できる。
【0055】
「Fv」は、完全な抗原認識及び抗原結合部位を含む、最小限の抗体断片である。この領域は、密接に非共有結合した、1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインとの二量体からなる。VH−VL二量体の表面上に抗原結合部位を規定するために、各可変ドメインの3つの超可変領域が相互作用するのはこの立体配置である。まとめると、6つの超可変領域が抗体に抗原結合特異性を付与する。しかし、単一の可変ドメイン(すなわち抗原に対して特異的な3つの超可変領域のみを含む、Fvの半分)でさえも、結合部位全体より親和性は低いが、抗原を認識して結合する能力を有する。
【0056】
Fab断片は、軽鎖の定常ドメインと、重鎖の第一定常ドメイン(CH1)も含む。Fab’断片は、抗体のヒンジ領域の1つ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に数残基が付加している点でFab断片と異なる。本明細書におけるFab’−SHとは、定常ドメインのシステイン残基(類)が少なくとも1つの遊離チオール基を有するFab’名である。F(ab’)2抗体断片は、本来、間にヒンジシステインを有するFab’断片対として生産された。抗体断片のその他の化学的カップリングも既知である。
【0057】
任意の脊椎動物種由来の抗体の「軽鎖」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つの明らかに異なる種類のうちの1つに割り当てることができる。
【0058】
「一本鎖Fv」又は「scFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含み、ここで、これらドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。好ましくは、このFvポリペプチドは、このscFvが抗原結合のために所望の構造を形成することを可能にする、VHドメインとVLドメイン間のポリペプチドリンカーをさらに含む。scFvの総説については、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol.113, Rosenburg and Moore eds., Springer−Verlag, New York, pp.269−315(1994)を参照されたい。
【0059】
「二特異性抗体」という用語は、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片を意味し、この断片は、同じポリペプチド鎖中で可変軽鎖ドメイン(VL)に連結した可変重鎖ドメイン(VH)(VH−VL)を含む。同じ鎖上のこれら2つのドメイン間で対形成するには短すぎるリンカーを用いることによって、これらのドメインを別の鎖の相補性ドメインと対形成させて2つの抗原結合部位を生じさせる。二特異性抗体については、例えば、欧州特許公開第404,097号;国際公開第93/11161号;及びHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444−6448(1993)に詳述されている。
【0060】
「ヒト化」形態の非ヒト(例えば、齧歯類)抗体は、非ヒト免疫グロブリンの最小限の配列を含むキメラ抗体である。大抵の場合、ヒト化抗体はレシピエントの超可変領域由来の残基が、所望の特異性、親和性、及び/又は能力を有する、合成抗体又はマウス、ラット、ウサギ、若しくは非ヒト霊長類抗体などの非ヒトドナー抗体の超可変領域由来の残基に置換されている、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合により、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基が、対応する非ヒト残基に置換されている。さらにヒト化抗体は、レシピエント抗体中にもドナー抗体中にも見出されない残基を含み得る。これらの改変は、抗体の性能をさらに向上するために行われる。通常、ヒト化抗体は可変ドメインのうちの少なくとも1つ、典型的には2つを実質的にすべて含む。ここですべての若しくは実質的にすべての超可変ループが非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに相当し、すべて若しくは実質的にすべてのFRがヒト免疫グロブリン配列のFRである。ヒト化抗体は任意に、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのFcも含む。詳細については、Jones et al., Nature 321:522−525(1986);Riechmann et al., Nature 332:323−329(1988);及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593−596(1992)を参照されたい。
【0061】
「裸の抗体」は、(本明細書において定義される通り)細胞毒性部分又は放射性標識などの異種分子と結合していない抗体である。
【0062】
「親和性成熟した」抗体は、変異していない親抗体に比べてその抗体の抗原親和性を改善する1つ以上の変異を、1つ以上の超可変領域に有する抗体である。好ましい親和性成熟した抗体は、標的抗原に対する親和性をナノモル又はピコモルでさえ有する。親和性成熟した抗体は、当該技術分野において既知の方法によって生産される。Marks et al.,Bio/Technology 10:779−783(1992)には、VH及びVLドメインシャフリングによる親和性成熟について記載されている。CDR及び/又はフレームワーク残基のランダム突然変異誘発については、Barbas et al.,Proc Nat. Acad. Sci, USA 91:3809−3813(1994);Schier et al.,Gene 169:147−155(1995);Yelton et al.,J. Immunol. 155:1994−2004(1995);Jackson et al.,J. Immunol. 154(7):3310−9(1995);及びHawkins et al.,J. Mol. Biol. 226:889−896(1992)に記載されている。
【0063】
「アゴニスト抗体」は、受容体に結合してそれを活性化する抗体である。一般に、アゴニスト抗体の受容体活性化能は、その受容体の天然アゴニストリガンドと少なくとも質的に同程度である(及び本質的に量的にも同程度であり得る)。
【0064】
「単離された」抗体は、その天然環境の成分から同定され、分離及び/又は回収された抗体である。その天然環境の混入成分は、その抗体の診断的用途又は治療的用途を妨害する物質であり、それらには、酵素、ホルモン、及びその他のタンパク質様若しくは非タンパク質様の溶質が含まれ得る。特定の態様においては、抗体は、(1)ローリー法によって決定した場合に抗体の95重量%を超えるまで、最も好ましくは99重量%を超えるまで精製されるか、(2)スピニングカップ(spinning cup)シークエネーターの使用により、少なくとも15残基のN末端アミノ酸配列若しくは内部アミノ酸配列を得るのに十分な程度に精製されるか、又は(3)クーマシーブルー若しくは銀染色を用いた、又は好ましくは蛍光染色を用いたCE−SDSによる還元条件若しくは非還元条件下でのSDS−PAGEによって均一になるまで精製され得る。単離された抗体には、抗体の少なくとも1つの天然環境成分が存在しないため、組換え細胞内のin situ抗体が含まれる。しかし通常、単離された抗体は、少なくとも1回の精製工程によって調製される。
【0065】
本明細書において使用する場合の「増殖阻害剤」は、細胞、例えばSTEAP−1を発現している癌細胞の増殖をインビトロ又はインビボのいずれかで阻害する化合物又は組成物を意味する。従って、増殖阻害剤は、S相のSTEAP−1発現細胞のパーセンテージを有意に低減する薬剤であり得る。増殖阻害剤の例には、G1停止及びM相停止を誘導する薬剤などの、細胞周期の進行を(S相以外の位置で)遮断する薬剤を含む。古典的なM相遮断薬には、ビンカ(ビンクリスチン及びビンブラスチン)、タキサン、並びにドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エトポシド、及びブレオマイシンなどのトポII阻害剤がある。G1で停止させる薬剤、例えば、タモキシフェン、プレドニゾン、ダカルバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキサート、5−フルオロウラシル、及びara−CのようなDNAアルキル化剤などは、S相停止にも及ぶ。さらなる情報は、Murakami et al.によるThe Molecular Basis of Cancer, Mendelsohn and Israel, eds., Chapter 1、標題「Cell cycle regulation, oncogenes, and antineoplastic drugs」(WB Saunders: Philadelphia, 1995)の特に13頁に見出すことができる。
【0066】
「アポトーシスを誘導する」抗体は、アネキシンVの結合、DNAの断片化、細胞収縮、小胞体の拡大、細胞の断片化、及び/又は小胞(アポトーシス小体と呼ばれる)の形成によって決定されるプログラム細胞死を誘導する抗体である。この細胞は通常、その抗体が結合する抗原(例えばSTEAP−1)を発現する細胞である。1つの実施形態においては、この細胞は腫瘍細胞である。例えば、ホスファチジルセリン(PS)の移行をアネキシンの結合によって測定することができ;DNAの断片化をDNAラダー形成によって評価することができ;及びDNAの断片化に伴う核/クロマチンの凝縮を低二倍体細胞の増加によって評価することができる。ある実施形態においては、アポトーシスを誘導する抗体は、その抗体が結合する抗原を発現する細胞を用いたアネキシン結合アッセイにおいて、未処理細胞と比較して約2〜50倍、好ましくは約5〜50倍、最も好ましくは約10〜50倍のアネキシン結合を誘導する抗体である。
【0067】
「治療」は、治療法及び予防(prophylactic)若しくは予防(preventative)手段の両方を意味する。治療を必要とする者には、疾患既往者及び疾患を予防すべき者が含まれる。よって、本明細書において治療すべき患者は、疾患を呈すると診断された者又は疾患の素因があるか疾患感受性である者であり得る。
【0068】
「癌」及び「癌性」という用語は、典型的には無秩序な細胞増殖を特徴とする哺乳類における生理的状態を意味するか記述する。癌の例としては、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫(髄芽腫及び網膜芽腫を含む)、肉腫(脂肪肉腫及び滑膜細胞肉腫を含む)、神経内分泌腫瘍(カルチノイド腫瘍、ガストリノーマ、及び膵島細胞癌を含む)、中皮腫、神経鞘腫(聴神経腫を含む)、髄膜腫、腺癌、黒色腫、及び白血病又はリンパ系悪性疾患などが挙げられるが、これらに限定されない。かかる癌のさらに特定の例としては、扁平上皮癌(例えば上皮扁平上皮癌);小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌及び肺扁平上皮癌を含む肺癌;腹膜癌;肝細胞癌;消化管癌を含む胃(gastric)癌若しくは胃(stomach)癌;膵臓癌;膠芽腫;子宮頚癌;卵巣癌;肝癌;膀胱癌;ヘパトーマ;乳癌;結腸癌;直腸癌;直腸結腸癌;子宮内膜癌又は子宮癌;唾液腺癌;腎臓(kidney)癌又は腎臓(renal)癌;前立腺癌;外陰部癌;甲状腺癌;肝癌;肛門癌;陰茎癌;精巣癌;食道癌;胆道腫瘍;並びに頭頚部癌が挙げられる。前立腺癌の具体例としてはアンドロゲン依存性前立腺癌がある。
【0069】
「有効量」という用語は、患者における疾患を治療するのに有効な薬物の量を意味する。その疾患が癌の場合、有効量の薬物は癌細胞数を減少させ;腫瘍の大きさを縮小させ;末梢器官への癌細胞の浸潤を阻害し(すなわち、ある程度遅らせ、好ましくは停止させ);腫瘍の転移を阻害し(すなわち、ある程度遅らせ、好ましくは停止させ);腫瘍の増殖をある程度阻害し;及び/又は癌に関連する1つ以上の症状をある程度軽減することができる。薬物が既存の癌細胞の増殖を(部分的に又は完全に)阻害する及び/又は殺すという点において、その薬物は細胞増殖抑制性及び/又は細胞毒性であり得る。有効量は、無進行生存を延長し、客観的奏効(部分奏効(PR)又は完全奏効(CR)を含む)をもたらし、全生存期間を延長し、及び/又は1つ以上の癌の症状を改善し得る。
【0070】
「STEAP−1を発現している癌」とは、その細胞表面にSTEAP−1タンパク質を有する細胞を含む癌である。STEAP−1を「過剰発現している」癌とは、同じ種類の組織の非癌性細胞と比較して、その細胞表面に有意に高値のSTEAP−1を有する癌である。かかる過剰発現は、遺伝子増幅又は転写若しくは翻訳の増加によって起こり得る。STEAP−1の発現(又は過剰発現)は、細胞表面に存在するSTEAP−1値の増加を評価することによって(例えば免疫組織化学アッセイ;IHCにより)、診断又は予後アッセイで決定することができる。あるいは又は追加して、その細胞中のSTEAP−1をコードする核酸値を、例えば蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH;1998年10月に公開された国際公開第98/45479号を参照)、サザンブロット法、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技法(リアルタイム定量PCR(RT−PCR)など)によって、測定することができる。また、例えば血中循環癌細胞(CTC)の表面に存在するSTEAP−1を検出することによって、血清などの生体液中に存在するSTEAP−1を測定することで、STEAP−1の発現を試験することもできる(Schaffer et al., Clin. Cancer Res. 13:2023−2029(2007) を参照)。上記アッセイの他に、当業者は様々なインビボアッセイを利用することができる。例えば、検出可能なラベル、例えば放射性同位体などで任意に、直接又は間接的に標識した抗体に患者の体内中の細胞を暴露し、その後、例えば放射能を外部スキャンすることにより又は抗体にあらかじめ曝露された患者から採取した生検を分析することにより、患者の細胞と抗体の結合を評価することができる。
【0071】
本明細書中において使用される「細胞毒性薬」という用語は、細胞の機能を阻害若しくは阻止し、及び/又は細胞の破壊を引き起こす物質を意味する。この用語は、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32及びLuの放射性同位体)、化学療法剤、並びに細菌、真菌、植物、若しくは動物由来の小分子毒素若しくはその断片並びに/又は変異体を含む酵素活性毒素を含むことを意味する。
【0072】
「化学療法剤」とは、癌の治療に有用な化学化合物である。化学療法剤の例には、チオテパ及びシクロホスファミド(CYTOXAN(登録商標))などのアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン、及びピポスルファンなどのスルホン酸アルキル類;ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、及びウレドーパ(uredopa)などのアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミド、及びトリメチロールメラミン(trimethylolomelamine)を含むエチレンイミン及びメチラメラミン(methylamelamine);アセトゲニン(特にブラタシン及びブラタシノン(bullatacinone));デルタ−9−テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、MARINOL(登録商標));ベータ−ラパコン;ラパコール;コルヒチン;ベツリン酸;カンプトセシン(合成アナログであるトポテカン(HYCAMTIN(登録商標))、CPT−11(イリノテカン、CAMPTOSAR(登録商標))、アセチルカンプトテシン、スコポレクチン(scopolectin)、及び9−アミノカンプトテシンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC−1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン、及びビゼレシン合成アナログを含む);ポドフィロトキシン;ポドフィリン酸(podophyllinic acid);テニポシド;クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;ズオカルマイシン(合成アナログKW−2189及びCB1−TM1を含む);エロイテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンギスタチン;クロラムブシル、クロルナファジン、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベンビキン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、及びラニムスチン(ranimnustine)などのニトロソ尿素;エンジイン抗生物質などの抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特に、カリケアマイシンガンマ1I及びカリケアマイシンオメガI1(例えば、Agnew, Chem Intl. Ed. Engl., 33:183−186(1994)参照));ジネマイシンAを含むジネマイシン;エスペラマイシン;並びに、ネオカルチノスタチン発色団及び関連色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウトラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルチノフィリン、クロモマイシン(chromocycinis)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン(ADRIAMYCIN(登録商標)、モルホリノ−ドキソルビシン、シアノモルホリノ−ドキソルビシン、2−ピロリノ−ドキソルビシン、ドキソルビシンHClリポソーム注射液(DOXIL(登録商標))、リポソームドキソルビシンTLC D−99(MYOCET(登録商標))、PEG化リポソームドキソルビシン(CAELYX(登録商標))、及びデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシンCなどのマイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;メトトレキサート、ゲムシタビン(GEMZAR(登録商標))、テガフール(UFTORAL(登録商標))、カペシタビン(XELODA(登録商標))、エピチロン、及び5−フルオロウラシル(5−FU)などの代謝拮抗物質;フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンなどのプリンアナログ;アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロキシウリジンなどのピリミジンアナログ;アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンなどの抗副腎剤;フロリニン酸(frolinic acid)などの葉酸補給剤;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキサート(edatraxate);デホファミン(defofamine);デメコルシン;ジアジクオン;エルホルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニン;メイタンシン及びアンサミトシンなどのメイタンシノイド;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール(mopidanmol);ニトラエリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン;2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖複合体(JHS Natural Products, Eugene, OR);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2’,2’’−トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特にT−2毒素、ベラクリン(verracurin)A、ロリジンA及びアングイジン);ウレタン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara−C」);チオテパ;タキソイド、例えば、パクリタキセル(TAXOL(登録商標))、パクリタキセルのアルブミン加工ナノ粒子製剤(ABRAXANE(商標))、及びドセタキセル(TAXOTERE(登録商標));クロランブシル;6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;シスプラチン、オキサリプラチン、及びカルボプラチンなどのプラチナ剤;ビンブラスチン(VELBAN(登録商標))、ビンクリスチン(ONCOVIN(登録商標))、ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標))、及びビノレルビン(NAVELBINE(登録商標))を含む、微小管形成からチューブリン重合を阻止するビンカ;エトポシド(VP−16);イホスファミド;ミトキサントロン;ロイコボビン(leucovovin);ノバントロン;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;イバンドロネート;トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);ベキサロテン(TARGRETIN(登録商標))を含めたレチノイン酸などのレチノイド;クロドロネート(例えば、BONEFOS(登録商標)又はOSTAC(登録商標))、エチドロネート(DIDROCAL(登録商標))、NE−58095、ゾレドロン酸/ゾレドロネート(ZOMETA(登録商標))、アレンドロネート(FOSAMAX(登録商標))、パミドロネート(AREDIA(登録商標))、チルドロネート(SKELID(登録商標))、又はリセドロネート(ACTONEL(登録商標))などのビスホスフォネート;トロキサシタビン(1,3−ジオキソランヌクレオシドシトシンアナログ);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に異常な細胞増殖に関係づけられているシグナル伝達経路における遺伝子発現、例えばPKC−アルファ、Raf、H−Ras、及び上皮成長因子受容体(EGF−R)を阻害するもの;THERATOPE(登録商標)ワクチン並びに遺伝子治療用ワクチン、例えばALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチン、及びVAXID(登録商標)ワクチンなどのワクチン;トポイソメラーゼ1阻害剤(例えばLURTOTECAN(登録商標));rmRH(例えば、ABARELIX(登録商標));BAY439006(ソラフェニブ;Bayer);SU−11248(Pfizer);ペリホシン、COX−2阻害剤(例えば、セレコキシブ又はエトリコキシブ)、プロテオソーム阻害剤(例えば、PS341);ボルテゾミブ(VELCADE(登録商標));CCI−779;チピファルニブ(R11577);オラフェニブ(orafenib)、ABT510;オブリマーセン(oblimersen)ナトリウム(GENASENSE(登録商標))などのBcl−2阻害剤;ピクサントロン;EGFR阻害剤(下記定義参照);チロシンキナーゼ阻害剤(下記定義参照);並びに上記いずれかの薬学的に許容できる塩、酸若しくは誘導体;並びにCHOP、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、及びプレドニゾロンの併用療法についての略語、及びFOLFOX、5−FU及びロイコボリンと組み合わせたオキサリプラチン(ELOXATIN(商標))を用いた治療方式についての略語、などの、上記のうち2つ以上の組み合わせがある。
【0073】
本定義にはまた、腫瘍におけるホルモン作用を制御又は阻害する抗ホルモン剤も含まれ、これらの抗ホルモン剤としては、タモキシフェン(NOLVADEX(登録商標)、4−ヒドロキシタモキシフェン、トレミフェン(FARESTON(登録商標))、イドキシフェン、ドロロキシフェン、ラロキシフェン(EVISTA(登録商標))、トリオキシフェン、ケオキシフェン(keoxifene)、及びSERM3などの選択的エストロゲンレセプターモデュレータ(SERM)を含む、混合されたアゴニスト/アンタゴニストプロファイルを有する抗エストロゲン;フルベストラント(FASLODEX(登録商標))及びEM800(これら薬剤はエストロゲンレセプター(ER)の二量体化を遮断し、DNA結合を阻害し、ERのターンオーバーを増加させ、かつ/又はER値を抑制する)などのアゴニスト特性を有さない純粋な抗エストロゲン剤;フォルメスタン及びエキセメスタン(AROMASIN(登録商標)などのステロイド系アロマターゼ阻害剤、アナストラゾール(ARIMIDEX(登録商標))、レトロゾール(FEMARA(登録商標))及びアミノグルテチミドなどの非ステロイド系アロマターゼ阻害剤、並びにボロゾール(RIVISOR(登録商標))、酢酸メゲストロール(MEGASE(登録商標))、ファドロゾール、イミダゾールを含むその他のアロマターゼ阻害剤を含む、アロマターゼ阻害剤;ロイプロリド(LUPRON(登録商標)及びELIGARD(登録商標))、ゴセレリン、ブセレリン、及びトリプテレリン(tripterelin)を含む黄体形成ホルモン放出ホルモンアゴニスト;酢酸メゲストロール及び酢酸メドロキシプロゲステロンなどのプロゲスチン、ジエチルスチルベストロール及びプレマリンなどのエストロゲン、並びにフルオキシメステロン、すべてのトランスレチノイン酸及びフェンレチニドなどのアンドロゲン/レチノイドを含む性ステロイド剤;オナプリストン;;抗プロゲステロン剤;エストロゲン受容体ダウンレギュレータ(ERD);フルタミド、ニルタミド及びビカルタミドなどの抗アンドロゲン剤;テストラクトン;並びに上記いずれかの薬学的に許容できる塩、酸又は誘導体;並びに上記のうち2つ以上の組み合わせである。
【0074】
II.製剤のための抗体及び免疫抱合体
(A)方法及び組成物
1つの様態においては、本発明に従って調製された治療用タンパク質はAsp−Aspモチーフを含むタンパク質である。1つの実施形態においては、この治療用タンパク質は抗体又は免疫抱合体である。かかる抗体及び免疫抱合体は下記のように例示される。
【0075】
(i)抗体の選択と調製
好ましくは、抗体が結合するその抗原はタンパク質であり、疾患又は障害を患う哺乳動物へのその抗体の投与がその哺乳動物に治療上の利益をもたらすことができる。しかし、非ポリペプチド抗原に対する抗体(腫瘍関連糖脂質抗原など;米国特許第5,091,178号参照)も考えられている。
【0076】
その抗原がポリペプチドである場合、その抗原は膜貫通分子(例えば受容体)又は成長因子などのリガンドであり得る。抗原の例としては、レニン;ヒト成長ホルモン及びウシ成長ホルモンを含む成長ホルモン;成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;アルファ−1−アンチトリプシン;インスリンA鎖;インスリンB鎖;プロインスリン;濾胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;第VIIIC因子、第IX因子、組織因子(TF)、及びフォンビルブラント因子などの凝固因子;プロテインCなどの抗凝固因子;心房性ナトリウム利尿因子;肺サーファクタント;ウロキナーゼすなわちヒト尿プラスミノーゲン活性化因子又はヒト組織プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)などのプラスミノーゲン活性化因子;ボンベシン;トロンビン;造血成長因子;腫瘍壊死因子−アルファ及びベータ;エンケファリナーゼ;RANTES(regulated on activation normally T−cell expressed and secreted);ヒトマクロファージ炎症タンパク質(MIP−1−アルファ);ヒト血清アルブミンなどの血清アルブミン;ミューラー阻害物質;レラクシンA鎖;レラクシンB鎖;プロレラクシン;マウス性腺刺激ホルモン関連ペプチド;ベータ−ラクタマーゼなどの微生物タンパク質;DNase;IgE;CTLA−4などの細胞傷害性Tリンパ球関連抗原(CTLA);インヒビン;アクチビン;血管内皮成長因子(VEGF);ホルモン又は成長因子に対するレセプター;プロテインA又はD;リウマチ因子;骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3、−4、−5、若しくは6(NT−3、NT−4、NT−5、若しくはNT−6)などの神経栄養因子又はNGF−bなどの神経成長因子;血小板由来成長因子(PDGF);aFGF及びbFGFなどの線維芽細胞成長因子;上皮成長因子(EGF);TGF−b1、TGF−b2、TGF−b3、TGF−b4、又はTGF−b5を含むTGF−アルファ及びTGF−ベータなどのトランスフォーミング成長因子(TGF);TNF−アルファ又はTNF−ベータなどの腫瘍壊死因子(TNF);インスリン様成長因子−I及びII(IGF−I及びIGF−II);デス(1−3)IGF−I(脳IGF−I)、インスリン様成長因子結合タンパク質;CD3、CD4、CD8、CD19、CD20、CD22及びCD40などのCDタンパク質;エリスロポエチン;骨誘導因子;抗毒素;骨形態形成タンパク質(BMP);インターフェロン−アルファ、−ベータ、−ガンマなどのインターフェロン;例えばM−CSF、GM−CSF、及びG−CSFなどのコロニー刺激因子(CSF);例えばIL−I、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9及びIL−10などのインターロイキン(IL);スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞受容体;表面膜タンパク質;崩壊促進因子;例えばAIDSエンベロープ部分などのウイルス抗原;輸送タンパク質;ホーミング受容体;アドレシン;調節タンパク質;CD11a、CD11b、CD11c、CD18、ICAM、VLA−4及びVCAMなどのインテグリン;HER2、HER3又はHER4受容体などの腫瘍関連抗原;並びに上記ポリペプチドのうちの任意の断片などの分子がある。
【0077】
本発明に包含される抗体の分子標的の例としては、CD3、CD4、CD8、CD19、CD20、CD22、CD34及びCD40などのCDタンパク質;EGF受容体、HER2、HER3又はHER4受容体などのErbB受容体ファミリーのメンバー;CD20又はBR3などのB細胞表面抗原;DR5を含む腫瘍壊死受容体スーパーファミリーのメンバー;例えばアネキシン2、カドヘリン−1、Cav−1、Cd34、CD44、EGFR、EphA2、ERGL、Fas、ヘプシン、HER2、KAI1、MSR1、PATE、PMEPA−1、プロスタシン、プロステイン、PSCA、PSGR、PSMA、RTVP−1、ST7、STEAP−1、STEAP−2、TMPRSS2、TRPM2、及びTrp−p8などの前立腺細胞表面抗原;LFA−1、Mac1、p150.95、VLA−4、ICAM−1、VCAM、アルファ4/ベータ7インテグリン、及びそのアルファ又はベータサブユニットのいずれかを含むアルファv/ベータ3インテグリン(例えば、抗CD11a、抗CD18又は抗CD11b抗体)などの細胞接着分子;VEGFなどの成長因子及びその受容体;組織因子(TF);TNF−アルファ又はTNF−ベータなどの腫瘍壊死因子(TNF);アルファインターフェロン(アルファ−IFN);IL−8などのインターロイキン;IgE;血液型抗原;flk2/flt3受容体;肥満(OB)受容体;mpl受容体;CTLA−4;プロテインCなどがある。
【0078】
他の分子に結合し得る可溶性抗原又はその断片を、抗体を生成するための免疫原として使用することができる。受容体などの膜貫通分子については、これらの断片(例えば、受容体の細胞外ドメイン)を免疫原として使用することができる。あるいは、膜貫通分子を発現している細胞を免疫原として使用することもできる。この細胞は、天然供給源(例えば、癌細胞株)由来であってもよく、膜貫通分子を発現させるために組換え技術によって形質転換された細胞であってもよい。抗体の調製に有用な他の抗原及びその形態は、当業者に明らかであろう。
【0079】
抗STEAP−1抗体の生産のためのSTEAP−1抗原は、例えばSTEAP−1の可溶性型、STEAP−1の細胞外ループ、又は所望のエピトープを含有するその部分であり得る。あるいは、細胞表面にSTEAP−1を発現している細胞(例えばSTEAP−1をコードするベクターを用いて形質転換した293T細胞)を抗体生産に用いることもできる(例えばChallita−Eid et al. Cancer Res. 67:5798−805(2007)を参照)。
【0080】
(ii)モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、実質的に均一な抗体の集団から得られ、つまり、その集団を含む個々の抗体は、モノクローナル抗体の産生中に生じ得る可能性のある変異体を除いて、同一及び/又は同じエピトープと結合する。従って、修飾「モノクローナル」とは、別個の抗体の混合物ではない抗体の特徴を示す。
【0081】
例えば、モノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature, 256:495(1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法を用いて、又は組換えDNA法(米国特許第4,816,567号)によって作製することができる。ハイブリドーマ法において、マウス、又はハムスターなどのその他の適した宿主動物を、免疫を与えるために使用されたタンパク質に特異的に結合する抗体を生産する、又は生産できるリンパ球を誘発させるために本明細書の上記のように免疫する。あるいは、リンパ球をインビトロで免疫化する場合もある。リンパ球をその後、ハイブリドーマ細胞を形成するために、ポリエチレングリコールなどの適切な融合剤を用いて骨髄腫細胞と融合させる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp.59−103(Academic Press, 1986))。
【0082】
このようにして調製したハイブリドーマ細胞を、好ましくは未融合の親骨髄腫細胞の増殖又は生存を阻害する1つ以上の物質を含有する適切な培地に播種し、増殖させる。例えば、親骨髄腫細胞が酵素のヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠失している場合、ハイブリドーマ用の培地は、典型的には、HGPRT損失細胞の増殖を阻止する物質である、ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジンを含む(HAT培地)。
【0083】
好ましい骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択される抗体生産細胞によって抗体の安定な高値の生産を持続させ、かつHAT培地などの培地に感受性の細胞である。これらのうちの好ましい骨髄腫細胞株は、Salk Institute Cell Distribution Center, San Diego, California USAから入手できるMOPC−21及びMPC−11、並びにAmerican Type Culture Collection, Rockville, Maryland USAから入手できるSP−2又はX63−Ag8−653細胞などのマウス腫瘍由来の細胞株である。ヒトモノクローナル抗体の生産のためのヒト骨髄腫細胞株及びマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞株については記載されている(Kozbor, J. Immunol., 133:3001(1984);及びBrodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp.51−63(Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0084】
抗原に対するモノクローナル抗体の生産をハイブリドーマ細胞が増殖している培地を用いてアッセイする。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により生産されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降又はラジオイムノアッセイ(RIA)若しくは酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)などのインビトロ結合アッセイによって決定される。モノクローナル抗体の結合親和性は、例えばMunson et al., Anal. Biochem., 107:220(1980)のスキャッチャード解析によって決定することができる。
【0085】
所望の特異性、親和性、及び/又は活性を有する抗体を生産するハイブリドーマ細胞を同定した後に、限界希釈法によりそのクローンをサブクローニングして、標準的な方法により生育させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp.59−103(Academic Press, 1986))。この目的に適した培地には、例えば、D−MEM又はRPMI−1640培地がある。さらに、このハイブリドーマ細胞は、動物における腹水腫瘍としてインビボで増殖させることができる。このサブクローンによって分泌されたモノクローナル抗体は、例えば、プロテインA−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又は親和性ークロマトグラフィーなどの従来からの抗体精製手法によって培地、腹水、又は血清から適切に分離される。
【0086】
モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を使用して(例えば、マウス抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に単離され、配列が決定される。ハイブリドーマ細胞は、このDNAの好ましい供給源として用いられる。組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体を合成するため、そのDNAは一旦単離後は発現ベクター中に配置してよく、次にその発現ベクターは、E.coli細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は別の状況では抗体タンパク質を産生しない骨髄腫細胞などの宿主細胞に導入される。抗体をコードするDNAを細菌中で組換え発現させることの総説については、Skerra et al., Curr. Opinion in Immunol, 5:256−262(1993)及びPluckthun, Immunol. Revs., 130:151−188(1992)がある。
【0087】
さらなる実施形態においては、モノクローナル抗体又は抗体断片は、例えばMcCafferty et al., Nature, 348:552−554(1990)に記載されている技術を用いて抗体ファージライブラリーから単離することができる。Clackson et al. Nature, 352:624−628(1991)及びMarks et al. J. Mol. Biol., 222:581−597(1991)にはファージライブラリーを用いたマウス及びヒト抗体それぞれの単離について記載されている。鎖シャッフリング(Marks et al., Bio/Technology, 10:779−783(1992))並びに非常に大きなファージライブラリを構築するための感染及びインビボ組換えの併用(Waterhouse et al., Nuc. Acids. Res., 21:2265−2266(1993))による高親和性(nM範囲の)ヒト抗体の生産について記載されている。これらの技術は、モノクローナル抗体を単離するための従来のハイブリドーマ技術への実行可能な代替法である。
【0088】
DNAはまた、例えばヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード配列をマウスの相同配列と置き換えることで、又は免疫グロブリンのコード配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列のすべて又は部分を共有的に連結することによって改変もできる(米国特許第4,816,567号;及びMorrison, et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA, 81:6851(1984))。典型的には、かかる非免疫グロブリンポリペプチドは抗体の定常ドメインと置換され、又はかかる非免疫グロブリンポリペプチドは、ある抗原に対する特異性を有する1つの抗原結合部位と、異なる抗原に対する特異性を有する別の抗原結合部位とを含むキメラ二価抗体を生み出すために、抗体の抗原結合部位の各種ドメインと置換される。
【0089】
モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖、又はその部分のアミノ酸配列は、例えば相当するDNA配列に由来し得る。例えば、このVH、VL、及び/又は1つ以上のHVRのアミノ酸配列を用い得る。
【0090】
(iii)ヒト化抗体
非ヒト抗体をヒト化するための方法については、当該技術分野において記載されている。好ましくは、ヒト化抗体は、非ヒト供給源から導入された1つ以上のアミノ酸残基をその抗体に有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、典型的には「インポート(import)」可変ドメインから取り入れられ、しばしば「インポート」残基と称される。ヒト化は本質的に、Winter及び共同研究者らの方法(Jones et al., Nature, 321:522−525(1986);Riechmann et al., Nature, 332:323−327(1988);Verhoeyen et al., Science, 239:1534−1536(1988))に従ってヒト抗体の対応配列を超可変領域の配列に置換することによって行うことができる。従って、かかる「ヒト化」抗体は、非ヒト種由来の対応する配列に置換されているインタクトのヒト可変ドメインよりも実質的に小さい、キメラ抗体(米国特許第4,816,567号)である。実際には、ヒト化抗体は、典型的には、一部の超可変領域残基と、おそらく一部のFR残基とが、齧歯類抗体の類似部位由来の残基に置換されているヒト抗体である。
【0091】
ヒト化抗体を作製する際に使用される、軽鎖と重鎖の両方のヒト可変ドメインの選択は、抗原性を低減するために非常に重要である。いわゆる「ベストフィット」法により、齧歯類抗体の可変ドメインの配列を、既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。その後、その齧歯類の配列に最も近似したヒト配列を、ヒト化抗体に対するヒトフレームワーク領域(FR)とする(Sims et al., J. Immunol., 151:2296(1993);Chothia et al., J. Mol. Biol., 196:901(1987))。別の方法では、特定のサブグループに属する軽鎖又は重鎖の全ヒト抗体の共通配列に由来する特定のフレームワーク領域を使用する。同じフレームワークを複数の異なるヒト化抗体に使用することができる(Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285(1992);Presta et al., J. Immunol., 151:2623(1993))。
【0092】
ある実施形態においては、抗体は、抗原に対する高い親和性及び他の好都合な生物学的特性を保持してヒト化される。この目標を実現するために、1つの実施形態においては、ヒト化抗体は、親配列及び様々な概念上のヒト化産物を、親及びヒト化配列の三次元モデルを用いて解析する過程により調製される。三次元免疫グロブリンモデルは一般に使用可能であり、当業者に周知である。選択される候補免疫グロブリン配列の予測される三次元立体構造を図示し、表示するコンピュータプログラムも使用可能である。これらの表示を調査することが、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の予測される役割の解析を可能にする、すなわち候補免疫グロブリンがその抗原に結合する能力における残基の影響が解析できる。従って、標的抗原への親和性の向上などの求められる抗体の特徴を達成するために、FR残基をレシピエント及びインポート配列から選択し、組み合わせることができる。通常、超可変領域残基は直接的に、及び最も実質的に抗原結合への影響に関与している。
【0093】
本明細書においてヒト化抗体は、例えば、ヒト重鎖可変ドメインに組み入れられた非ヒト超可変領域残基を含み、これらにKabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD(1991)に述べられた可変ドメイン番号付与システムを利用して69H、71H及び73Hからなる群より選択される位置にフレームワーク領域(FR)の置換を含み得る。1つの実施形態においては、ヒト化抗体は69H、71H及び73Hの位置のすべて又はそのうちの2つにFR置換を含む。
【0094】
本明細書において特に目的のヒト化抗体はSTEAP−1に結合し、かつAsp−Aspモチーフを含む。国際公開第2008/052187号において、HVR−H3中にAsp−Aspモチーフを有するヒト化STEAP−1抗体の例が記載されている。かかる抗体のVH及びVLのアミノ酸配列(HVRを含む)を本明細書において提供する。国際公開第2008/052187号に記載されているかかる抗体のすべての実施形態は、参照により本明細書に明らかに組み込まれる。
【0095】
本特許出願は、本明細書に記載したいずれの抗体由来の親和性成熟した抗体も考慮し、かかる親和性成熟した抗体は好ましくはAsp−Aspモチーフを含む。親抗体は、本明細書に記載したヒト抗体又はヒト化抗体であり得る。ヒト化抗体及び親和性成熟した抗体の様々な形態も考慮する。例えば、ヒト化抗体及び親和性成熟した抗体は、免疫抱合体を生成するために定常領域と結合している及び/又は1つ以上の細胞毒性薬と結合し得る、Fabのような抗体断片であってもよい。あるいは、ヒト化抗体及び親和性成熟した抗体は、免疫抱合体を生成するために1つ以上の細胞毒性薬と結合している、完全長IgG1抗体のような完全長抗体であってもよい。
【0096】
(iv)ヒト抗体
ヒト化の代わりとして、ヒト抗体を生成することができる。例えば現在では、免疫化に際して内生免疫グロブリン生産の非存在下でヒト抗体の完全なレパートリーを生産することができる形質転換動物(例えばマウス)を生産することができる。例えば、キメラ及び生殖細胞変異体マウス中の抗体重鎖連結領域(JH)遺伝子のホモ接合性欠失が内生抗体生産の完全な阻害を生じることが記載されている。かかる生殖細胞変異体マウス中へのヒト生殖細胞免疫グロブリン遺伝子アレイの転移は、抗原投与に際してヒト抗体の生産を生じる。例えば、Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2551(1993);Jakobovits et al., Nature, 362:255−258(1993);Bruggermann et al., Year in Immuno., 7:33(1993);又は米国特許第5,591,669号、第5,589,369号及び第5,545,807号を参照されたい。
【0097】
あるいは、免疫化されていないドナー由来の免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからインビトロでヒト抗体及び抗体断片を生産するために、ファージディスプレイ法(McCafferty et al., Nature 348:552−553(1990))を使用することができる。この技術に従って、抗体Vドメイン遺伝子は、M13又はfdのような糸状バクテリオファージの主又は副のいずれかの外套タンパク質中にインフレームでクローニングされて、ファージ粒子の表面上に機能的な抗体断片が検出される。糸状粒子がファージゲノムの一本鎖DNAのコピーを含むため、抗体の機能特性に基づく選択は、それらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択も生じる。従って、このファージはB細胞の特性のいくらかを模倣する。ファージディスプレイ法は様々な形式で行うことができる。それらの総説については、例えばJohnson, Kevin S. and Chiswell, David J., Current Opinion in Structural Biology 3:564−571(1993)を参照されたい。V遺伝子セグメントの複数の供給源をファージディスプレイ法に使用することができる。Clackson et al., Nature, 352:624−628(1991)は免疫下マウスの脾臓由来のV遺伝子の小さいランダムな組み合わせライブラリーから抗オキサゾロン抗体の多様なアレイを単離した。免疫されていないヒトドナーからのV遺伝子のレパートリーの構築、及び抗原の多様なアレイに対する抗体の単離は、本質的にMarks et al.,J. Mol. Biol. 222:581−597(1991)、又はGriffith et al., EMBO J. 12:725−734(1993)の技術に従って行うことができる。米国特許第5,565,332号及び米国特許第5,573,905号も参照されたい。ヒト由来のファージディスプレイライブラリーから選択されるFv可変ドメイン配列は、上記の既知のヒト定常ドメイン配列と連結することができる。上記で考察したように、ヒト抗体はインビトロで活性化B細胞から生成することも可能である(米国特許第5,567,610号及び第5,229,275号を参照)。
【0098】
(v)抗体断片
抗体断片を生産するために、様々な方法が開発されている。従来は、これらの断片は完全長抗体のタンパク質分解に由来した(例えば、Morimoto et al., Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24: 107−117(1992);及びBrennan et al., Science, 229:81(1985)を参照)。しかし、これらの断片は現在では組換え宿主細胞から直接生産することができる。例えば、抗体断片は、上記で考察した抗体ファージライブラリーから単離することができる。あるいは、Fab’−SH断片は、E.coliから直接回収することも、F(ab’)2断片から化学的にカップリングすることもできる(Carter et al., Bio/Technology 10:163−167(1992))。別のアプローチに従って、F(ab’)2断片を組換え宿主細胞培養から直接単離することもできる。抗体断片を生産するためのその他の技術は当業者には明白であろう。別の実施形態においては、選択される抗体は一本鎖Fv断片である(scFv)。国際公開第93/16185号;米国特許第5,571,894号;及び第5,587,458号を参照されたい。この抗体断片は、例えば米国特許第5,641,870号に記載されているように、線状抗体でもあり得る。かかる線状抗体断片は単一特異性又は二重特異性であり得る。
【0099】
(vi)二重特異性抗体
二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有する抗体である。例となる二重特異性抗体は、STEAP−1タンパク質の2つの異なるエピトープに結合し得る。その他のこれら抗体はSTEAP−1結合部位に、例えばアネキシン2、カドヘリン−1、Cav−1、Cd34、CD44、EGFR、EphA2、ERGL、Fas、ヘプシン、HER2、KAI1、MSR1、PATE、PMEPA−1、プロスタシン、プロステイン、PSCA、PSGR、PSMA、RTVP−1、ST7、STEAP−2、TMPRSS2、TRPM2、及びTrp−p8などのその他の前立腺細胞表面抗原への結合部位を結合させたものであり得る(前立腺細胞表面抗原の例については、例えばTricoli et al. Cancer Res. 10:3943−3953(2004)を参照)。あるいは、STEAP−1アームはT細胞受容体分子(例えば、CD2若しくはCD3)又はIgGのFc受容体(FcγR)(FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)及びFcγRIII(CD16)など)のような白血球上のトリガー分子に結合しているアームと連結し得、これにより、STEAP−1を発現している細胞への細胞抵抗機構に関与している。二重特異性抗体はSTEAP−1を発現している細胞に細胞毒性薬を局在させるために使用し得る。これらの抗体はSTEAP−1結合アームを細胞毒性薬(サポリン、抗インターフェロン−α、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキサート、又は放射性同位体ハプテン)に結合するアームを有する。二重特異性抗体は完全長抗体又は抗体断片(例えばF(ab’)2二重特異性抗体)として調製することができる。
【0100】
二重特異性抗体を生産する方法は当該技術分野において周知である。従来の完全長二重特異性抗体の生産は、2本の鎖が異なる特異性を有する、2つの免疫グロブリン重鎖、軽鎖対の共発現に基づいている(Millstein et al., Nature, 305:537−539(1983))。同様の方法は国際公開第93/08829号及びTraunecker et al., EMBO J., 10:3655−3659(1991)に開示されている。異なるアプローチに従って、所望の結合特異性(抗体抗原結合部位)を有する抗体可変ドメインが免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合される。この融合は好ましくは、ヒンジ、CH2、及びCH3領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインを有する。軽鎖との結合に必要な部位を含む第一重鎖定常領域(CH1)を、その融合のうちの少なくとも1つに有することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合をコードするDNAと、必要な場合、免疫グロブリン軽鎖が、別の発現ベクター中に挿入されて、適した宿主生物中に同時に導入される。これにより、構築において3本のポリペプチド鎖を同じ率で使用することにより最適な収量が得られる場合には、実施形態中の3つのポリペプチド断片の相互の割合を調製することによって高い柔軟性が得られる。しかし、同率の少なくとも2本のポリペプチド鎖の発現が高収率を生む場合や、使用率が特に効果を示さない場合には、ポリペプチド鎖3本のうち2本又はすべてをコードする配列を1つの発現ベクターに挿入することも可能である。
【0101】
このアプローチにおける好ましい実施形態においては、この二重特異性抗体は、第一の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖を有するアームと、ハイブリッド免疫グロブリン重−軽鎖対(第二の結合特異性を提供する)を有する別のアームとを含む。この非対称構造は、免疫グロブリン軽鎖が二重特性分子の片方のみに存在して分離が容易となることから、所望の二重特異性化合物を目的としていない免疫グロブリン鎖の組み合わせからの分離を促進する。このアプローチは国際公開第94/04690号に開示されている。二重特異性抗体の生成の詳細については、例えばSuresh et al., Methods in Enzymology, 121:210(1986)を参照されたい。
【0102】
米国特許第5,731,168号に記載されている別のアプローチに従って、抗体分子対の間の界面を操作して、組換え細胞培養からのヘテロ二量体の回収率を最大化することができる。好ましい界面は、抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、一次抗体の界面由来の1本以上の小さなアミノ酸側鎖が大きな側鎖(例えば、チロシン又はトリプトファン)と置換される。大きな側鎖を小さなアミノ酸側鎖(例えば、アラニン又はトレオニン)と置換することにより、二次抗体の界面上に大きな側鎖と同一又は同程度の大きさの代償的な「空洞」が形成される。これは、ホモ二量体などのその他の望まれない最終産物に比べてヘテロ二量体の収率を増加させるメカニズムを提供する。
【0103】
二重特異性抗体は架橋又は「ヘテロ抱合体」抗体を含む。例えばヘテロ抱合体に含まれる抗体の1つとしては、一方がアビジンにカップリングし、他方がビオチンにカップリングしたものがあり得る。かかる抗体は、例えば、目的としていない細胞に免疫系細胞を標的化するために(米国特許第4,676,980号)、及びHIV感染の治療のために(国際公開第91/00360号、国際公開第92/200373号、及び欧州特許公開第03089号)提唱されている。ヘテロ抱合体抗体はいずれかの適切な架橋方法を用いて作製することができる。適切な架橋剤は当該技術分野において周知であり、いくつかの架橋技術と共に米国特許第4,676,980号に開示されている。
【0104】
抗体断片から二重特異性抗体を生成する技術は文献にも記載されている。例えば特異性抗体は化学的結合を用いて調製することができる。Brennan et al., Science, 229: 81(1985)には、F(ab’)2断片を生成するために完全長抗体をタンパク質分解的に開裂する方法について記載されている。これらの断片は、隣接するジチオールを安定化して、分子間ジスルフィド形成を阻止するジチオール錯化剤である亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元される。生成されたF(ab’)2断片はその後、チオニトロ安息香酸(TNB)誘導体に変換される。Fab’−TNB誘導体のうちの1つがその後、メルカプトエチルアミンと共にFab’−チオールへ再変換されて、二重特異性抗体を形成させるために、等モル量のその他のFab’−TNB誘導体と混合される。生産された二重特異性抗体は酵素の選択的固定化のために使用することができる。
【0105】
近年の進歩によって、二重特異性抗体を形成するために化学的に結合できるFab’−SH断片を、E.coliから直接回収することが容易になった。Shalaby et al., J. Exp. Med., 175: 217−225(1992)には完全にヒト化した二重特異性抗体F(ab’)2分子の生産について記載されている。それぞれのFab’断片を別々にE.coliから分泌させ、二重特異性抗体を形成させるために、直接インビトロで化学的に結合させる。このようにして形成された二重特異性抗体はHER2受容体及び正常なヒトT細胞を過剰発現している細胞に結合し、並びにヒト胸部腫瘍標的に対するヒト細胞毒性リンパ球の溶解活性のトリガーとなることができる。組換え細胞培養から直接二重特異性抗体断片を生産し、単離する様々な技術も記載されている。例えば二重特異性抗体はロイシンジッパーを用いて生産された。Kostelny et al., J. Immunol., 148(5):1547−1553(1992)。Fos及びJunタンパク質由来のロイシンジッパーペプチドを遺伝子融合によって、2つの異なる抗体のFab’部分に連結した。抗体ホモ二量体は、単量体を形成するためにヒンジ領域で還元され、その後抗体ヘテロ二量体を形成するために再度酸化された。この方法は抗体ホモ二量体の生産にも利用することができる。、Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444−6448(1993)に記載されている「二重特異性抗体」技術は、二重特異性抗体断片を生産する別のメカニズムも提供した。この断片は、同一鎖上の2つのドメイン間で対形成するには短すぎるリンカーによって軽鎖可変ドメイン(VL)に連結した重鎖可変ドメイン(VH)を含む。従って、一断片のVHドメイン及びVLドメインは、別の断片の相補性VLドメイン及びVHドメインと対形成せざるを得ず、それによって、2つの抗原結合部位を形成する。二重特異性抗体断片を単鎖Fv(sFv)二量体の使用によって作製するための別の戦略も報告されている。Gruber et al., J. Immunol., 152:5368(1994)を参照されたい。
【0106】
二価超の結合価を有する抗体についても意図される。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tutt et al., J. Immunol. 147: 60(1991)。
【0107】
(vii)その他のアミノ酸配列の改変
本明細書に記載された抗体のアミノ酸配列の変異についても意図される。例えば、抗体の結合親和性及び/又は生物学的特性が改善することが所望の場合もある。抗体のアミノ酸配列変異体は抗体をコードする核酸中に適切なヌクレオチドの変異を導入すること、又はペプチド合成によって調製することができる。かかる改変は、例えば抗体のアミノ酸配列における残基からの欠失、及び/又はそれら残基への挿入、及び/又はそれら残基の置換を含む。欠失、挿入及び置換のいずれの組み合わせも最終構築物を得るために作製される。提供された最終構築物は、所望の特徴を有する。アミノ酸変異はまた、グリコシル化部位の数又は位置の変化などの抗体の翻訳後プロセッシングも変化し得る。
【0108】
突然変異生成における好ましい位置である、抗体の特定の残基又は領域を同定するために有用な方法は、Cunningham and Wells Science, 244:1081−1085(1989)に記載されているように、「アラニンスキャニング突然変異生成」と呼ばれる。ここでは、アミノ酸と抗原、例えばSTEAP−1抗原との相互作用に影響を及ぼすために、標的残基の残基又は基が同定され(例えば、arg、asp、his、lys、及びgluなどの荷電した残基)、中性又は陰性に荷電したアミノ酸(最も好ましくはアラニン又はポリアラニン)によって置換された。置換への機能的な感受性を示すそれらのアミノ酸の位置は、その後さらなる又はその他変異を置換位置に、又は置換位置中に導入することによって、改良される。従って、アミノ酸配列変異が導入される位置はあらかじめ決められているが、その変異自身の性質をあらかじめ決めておく必要はない。例えば、所定の位置で生じた変異の機能を解析するために、アラニンスキャニング又はランダム突然変異生成が標的コドン又は領域で行われ、発現している抗体変異体が所望の活性のためにスクリーニングされる。
【0109】
アミノ酸配列挿入は、1残基から100以上の残基を含むポリペプチドまでの長さにおよぶアミノ及び/又はカルボキシ末端融合、並びに1つ以上のアミノ酸残基の配列間挿入を含む。末端挿入の例としては、N末端にメチオニン残基を有する抗体又は細胞毒性ポリペプチドに融合した抗体などが挙げられる。その他の挿入による抗体分子の変異体には、N末端又はC末端への、酵素(例えばADEPT)への、又は抗体の血清半減期を上昇するポリペプチドとの融合などがある。
【0110】
別の種類の変異体はアミノ酸置換変異体である。これらの変異体は、抗体の少なくとも1つのアミノ酸残基が異なる残基で置き換えられている。置換による突然変異生成において最も関心をひく部位としては超可変領域があるが、FR又はFc領域の変異も意図される。保存的な置換を「好ましい置換」と題して表1に示す。1つ以上の生物学的特性(例えば安定性又は有効性)を変化させるが、他の特性(例えば抗原特異性)を変異しない置換が作製され得る。好ましい置換により所望の特性を有する抗体が得られた場合には、その後、表1において「置換例」と称したさらなる置換的変化が行われ、又は下記のアミノ酸クラスの参照中にさらに記載されるように、より改善された特性を得るために導入されて、抗体をスクリーニングし得る。
表1
【0111】
抗体の生物学的特性の実質的な改変は、(a)例えばシート又はヘリックス構造などの、置換の領域中のポリペプチド骨格主鎖の構造、(b)標的位置での分子の電荷又は疎水性、(c)側鎖の容積、を維持することに及ぼすそれらの効果が有意に異なる置換を選択することによって行われる。アミノ酸は、(A. L. Lehninger, in Biochemistry, second ed., pp. 73−75, Worth Publishers, New York(1975)に記載の)側鎖の性質の類似性により以下の群に分けてよい:
(1)非極性:Ala(A)、Val(V)、Leu(L)、Ile(I)、Pro(P)、Phe(F)、Trp(W)、Met(M)
(2)非荷電極性:Gly(G)、Ser(S)、Thr(T)、Cys(C)、Tyr(Y)、Asn(N)、Gln(Q)
(3)酸性:Asp(D)、Glu(E)
(4)塩基性:Lys(K)、Arg(R)、His(H)。
【0112】
あるいは、天然に生じる残基は共通の側鎖の性質に基づいて以下の群に分けてよい:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖の配向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
非保存的置換はこれらのクラスのうちの1つのメンバーを、別のクラスのものに交換することを必要とする。
【0113】
抗体の特定の構造を維持することに関与しない任意のシステイン残基を、分子の酸化安定性を改善し、異常な架橋を防ぐために、通常はセリンに、置換する場合もある。逆にシステイン結合をその安定性(特にその抗体がFv断片のような抗体断片である場合に)を改善するために抗体に付加する場合もある。
【0114】
1つの実施形態においては、置換による変異体は親抗体の1つ以上の超可変領域残基を置換することを含む。通常、得られた変異体で、さらなる開発のために選択される変異体は、それらを生成した親抗体と比較して、改善された生物学的特性を有する。かかる置換による変異体を生成するための適した方法は、ファージディスプレイを用いた親和性成熟を伴う。簡単に説明すると、いくつかの超可変領域部位(例えば6〜7箇所の部位)は各部位で可能なすべてのアミノ置換を生成するために変異される。このようにして生成されたその抗体変異体は糸状ファージ粒子から、それぞれの粒子中にパッケージングされたM13の遺伝子III産物との融合体として一価の形態で提示される。ファージディスプレイされた変異対はその後それらの生物活性(例えば結合親和性)を指標に本明細書に開示するようにスクリーニングされる。改変候補の超可変領域部位を同定するためには、抗原結合に有意に寄与する超可変領域残基を同定するためのアラニンスキャニング突然変異生成が行われる場合もある。あるいは又は追加して、抗体とその抗原の間の接触点を同定するために抗原抗体複合体の結晶構造を解析することも有用となり得る。かかる接触残基及び近傍残基が、本明細書において詳述した技術に従って置換するための候補である。かかる変異体が一度生成されれば、本明細書に記載されたように、変異体の一群がスクリーニングされ、1つ以上の関連したアッセイにおいて優れた特性を示した抗体がさらなる開発のために選択され得る。
【0115】
抗体の別の種類のアミノ酸変異体は、抗体の本来のグリコシル化のパターンを変化させる。その変化とは、抗体中にみられる1つ以上の炭水化物部分を欠失すること、及び/又は抗体には存在しない1つ以上のグリコシル化位置を付加することを意味する。
【0116】
抗体のグリコシル化は典型的には、N−結合又はO−結合のいずれかである。N−結合は炭水化物部分のアスパラギン残基の側鎖への結合を意味する。アスパラギン−X−セリン及びアスパラギン−X−トレオニン、ここでXはプロリン以外の任意のアミノ酸、のトリペプチド配列が炭水化物部部のアスパラギン側鎖への酵素的結合における認識配列である。従って、ポリペプチド中にこれらトリペプチド配列のいずれかが存在することがグリコシル化する可能性のある位置を形成する。O−結合グリコシル化は、糖であるN−アセチルガラクトサミン、ガラクトース、又はキシロースのうちの1つとヒドロキシアミノ酸、一般にはセリン又はトレオニン、との結合を意味する。ヒドロキシアミノ酸としては5−ヒドロキシプロリン又は5−ヒドロキシリジンも利用できる。
【0117】
抗体へのグリコシル化位置の付加は、(N−結合グリコシル化については)1つ以上の上述のトリペプチドを含むようにアミノ酸配列を変化させることによって適切に実現される。変異は本来の抗体の配列に1つ以上のセリン又はトレオニン残基を付加すること、又はセリン又はトレオニン残基で置換することによっても作製できる(O−結合グリコシル化)。
【0118】
この抗体がFc領域を含む場合、そこに結合した炭水化物が変異され得る。例えば、抗体のFc領域に結合したフコースを欠いた、成熟した炭水化物構造を有する抗体が米国特許第2003/0157108 A1号、Presta, L.に記載されている。米国特許第2004/0093621 A1号(協和発酵工業株式会社)も参照されたい。抗体のFc領域に結合した炭水化物部分に二等分性のN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を有する抗体は国際公開第03/011878号、Jean−Mairet et al.及び米国特許第6,602,684号、Umana et al.に参照されている。抗体のFc領域に結合したオリゴ糖中に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体は国際公開第97/30087号、Patel et al.に報告されている。その抗体のFc領域に変異された炭水化物が結合した抗体については国際公開第98/58964号(Raju,S.)及び国際公開第99/22764号(Raju,S.)も参照されたい。Fc領域にかかる炭水化物構造が結合した主要な種の抗体を含む抗体組成物が本明細書において意図される。
【0119】
抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は当該技術分野において既知の様々な方法によって調製される。これらの方法は、天然資源からの単離(天然に生じるアミノ酸配列変異体の場合)又はオリゴヌクレオチドを介した(又は部位特異的な)突然変異生成による調製、PCR突然変異生成、及び先に調製された変異体のカセット突然変異生成又は抗体の非変異体などを含むが、これらに限定されない。
【0120】
(viii)システイン改変抗体
1つの様態においては、本発明の抗体は、国際公開第2006/034488号(その全体は参照により本明細書に組み込まれる)に開示されているように遊離システインアミノ酸で親抗体の1つ以上のアミノ酸を置換した、システイン改変抗体(ThioMAbとも呼ばれる)を含む。システイン改変抗体は、0.6〜1.0の範囲のチオール反応価を有する1つ以上の遊離アミノ酸を含む。遊離システインアミノ酸は、親抗体中に改変され、ジスルフィド架橋の一部ではないシステイン残基である。システイン改変抗体は改変されたシステイン部位における細胞毒性及び/又は画像化化合物の、例えばマレイミド又はハロアセチルを介した結合に有効である。マレイミド基へのCys残基のチオール官能基の求核的反応は、リジン残基などのアミノ基又はN末端アミノ基のようなタンパク質中でのその他いずれかのアミノ酸官能基と比較して、約1000倍高い。ヨードアセチル及びマレイミド薬剤中のチオールに特異的な官能基はアミン基と反応する場合もあるが、より高いpH(>9.0)及びより長い反応時間を必要とする(Garman, 1997, Non−Radioactive Labelling: A Practical Approach, Academic Press, London)。
【0121】
システイン改変抗体は癌の治療に有用になり得、細胞表面及び膜貫通型受容体に特異的な抗体、並びに腫瘍関連抗原(TAA)を含む。かかる抗体は裸の抗体(薬剤又は標識部分と結合していない)又は免疫抱合体とも呼ばれる、抗体−薬剤結合体(ADC)として使用され得る。本発明のシステイン改変抗体は位置特異的及びチオール反応性薬剤と能率的に結合し得る。チオール反応性薬剤は多機能リンカー試薬、標識補足試薬、蛍光団試薬、又は薬剤−リンカー中間体の場合がある。システイン改変抗体は検出可能な標識で標識され、固相支持上に固定され及び/又は薬剤部分と結合し得る。チオール反応性は、アミノ酸と反応性システインアミノ酸との置換が、L−10〜L−20、L−38〜L−48、L−105〜L−115、L−139〜L−149、L−163〜L−173の範囲のアミノ酸〜選択される軽鎖中に;H−35〜H−45、H−83〜H−93、H−114〜H−127、及びH−170〜H−184の範囲のアミノ酸から選択される重鎖中に;H−268〜H−291、H−319〜H−344、H−370〜H−380及びH−395〜H−405から選択される範囲のFc領域中に形成され得る任意の抗体に対して一般化され得る。ここでアミノ酸位置の番号付与はカバット番号付与システム(Kabat et al.(1991) Sequences of proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD)の1位から始まり、国際公開第2006/034488号に開示されているように、その後連続して続く。特定の実施形態においては、アミノ酸とシステインの置換はEU番号付与に従った重鎖のA118(すなわちA118C)位、及び/又はカバット番号付与に従った軽鎖のV205(すなわちV205C)位で行い得る。チオール反応性はまた、抗体の特定のドメイン、例えば軽鎖定常ドメイン(CL)、並びに重鎖定常ドメイン、CH1、CH2及びCH3に対しても一般化され得る。0.6以上のチオール反応価を生じるシステイン置換は、IgGサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgA2)を含むIgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM、それぞれのインタクト抗体の重鎖定常ドメインα、δ、ε、γ、及びμにおいて行い得る。かかる抗体とそれらの使用については国際公開第2006/034488号に開示されている。
【0122】
本発明のシステイン改変抗体は、親抗体の抗原結合能を、好ましくは少なくともある程度保持する。従って、システイン改変抗体は抗原に、好ましくは特異的に、結合することができる。かかる抗原には、例えば腫瘍関連抗原(TAA)、細胞表面受容体タンパク質及びその他の細胞表面分子、膜貫通型タンパク質、シグナリングタンパク質、細胞生存制御因子、細胞増殖制御因子、組織発生若しくは分化に関わる(例えば機能的に貢献することが知られ、又は推測されている)分子、リンフォカイン、サイトカイン、細胞周期に関与する分子、脈管形成に関与する分子、並びに血管形成に関わる(例えば機能的に貢献することが知られ、又は推測されている)分子などがある。
【0123】
本発明の抗体は、反応基が例えばマレイミド、ヨードアセトアミド、ピリジルジスルフィド、又はその他のチオール反応性結合パートナーである、チオール反応性剤と結合し得る(Haugland, 2003, Molecular Probes Handbook of Fluorescent Probes and Research chemicals, Molecular Probes, Inc.;Brinkley, 1992, Bioconjugate Chem. 3:2;Garman, 1997, Non−Radioactive Labelling: A Practical Approach, Academic Press, London;Means(1990) Bioconjugate Chem. 1:2;Hermanson, G. in Bioconjugate Techniques(1996) Academic Press, San Diego, pp. 40−55, 643−671)。このパートナーは、細胞毒性薬(例えばドキソルビシン若しくは百日咳毒素などの毒素)、フルオレセイン若しくはローダミンなどの蛍光色素のような蛍光団、画像用若しくは放射性の治療用金属に対するキレート剤、ペプチジル若しくは非ペプチジル標識又は検出用タグ、若しくはポリエチレングリコールの様々な異性体などのクリアランス改変剤、第三成分に結合するペプチド、又はその他の炭水化物若しくは脂肪親和性剤などであり得る。
【0124】
(ix)所望の特性を有する抗体のスクリーニング
抗体を生成する技術については上述した。所望の場合には、特定の生物学的特性を有する抗体がさらに選択され得る。
【0125】
例えば、細胞の表面においてSTEAP−1に結合する抗体を免疫組織化学的手法、FACs、又はその他の適した技術によって同定することができる。STEAP−1に結合し、かつ腫瘍の増殖をインビボで阻害する抗体を、Challita−Eid et al. Cancer Res. 67:5798−5805(2007)に記載されたアッセイを用いて同定することができる。簡単に説明すると、患者由来のアンドロゲン依存性前立腺癌異種移植片LAPC−9AD又は膀胱癌UM−UC−3異種移植片を含むSCIDマウスを抗STEAP−1抗体(又はかかる抗体を含む免疫抱合体)を用いて処理し、その後、腫瘍の体積及び/又はPSA値を有効性を評価するために測定することがが能である。STEAP−1に結合してSTEAP−1を介した細胞間伝達を阻止する抗体を上記のChallita−Eid et al.の論文に記載されたアッセイを用いて同定することができる。簡単に説明すると、ドナー及びアクセプターPC3細胞を、適したドナー及びアクセプター色素に結合させ、それらを混合して生じた細胞間伝達を色の変化によって検出する。
【0126】
(x)免疫抱合体
本発明は、化学療法剤などの細胞毒性薬、毒素(例えば低分子毒素若しくは、それらの断片及び/又は変異体を含む、バクテリア、菌類、植物、又は動物由来の酵素的に活性な毒素)、又は放射性同位元素(すなわち放射性結合体)と結合した抗体を含む免疫抱合体にも関する。
【0127】
かかる免疫抱合体の生成において有用な化学療法剤について上記した。抗体と、カリケアマイシン、メイタンシン(米国特許第5,208,020号)、トリコテン(trichothene)及びCC1065などの1つ以上の低分子毒素の抱合体も本明細書において意図される。
【0128】
本発明の1つの実施形態においては、この抗体は1つ以上のメイタンシン分子に結合している(例えば、1抗体分子当たり約1〜約10メイタンシン分子)。メイタンシンは、メイタンシノイド−抗体抱合体を生成するために、May−SH3に還元されて改変された抗体と反応し得る、May−SS−Meに変換され得る(Chari et al. Cancer Research 52: 127−131(1992))。
【0129】
別の免疫抱合体は、1つ以上のカリケアマイシン分子と結合した抗体を含む。抗生物質のカリケアマイシンファミリーはピコモル濃度未満の濃度において二本鎖DNA開裂を生じ得る。使用され得るカリケアマイシンの構造的類似体には、γ1I、α2I、α3I、N−acetyl−γ1I、PSAG及びθI1(Hinman et al. Cancer Research 53: 3336−3342(1993)、及びLode et al. Cancer Research 58: 2925−2928(1998))などがあるが、これらに限定されない。参照により本明細書に明らかに組み込まれる、米国特許第5,714,586号、第5,712,374号、第5,264,586号、及び第5,773,001号も参照されたい。
【0130】
使用され得る酵素的に活性な毒素及びその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、外毒素A鎖(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシン(modeccin)A鎖、アルファ−サルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP−S)、ゴーヤー(momordica charantia)阻害剤、サポナリア(sapaonaria officinalis)阻害剤、クルシン(curcin)、クロチン(crotin)、阻害剤、ゲロニン(gelonin)、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)及びトリコテセン(tricothecene)などが含まれる。例えば、1993年10月28日に公開された国際公開第93/21232号を参照されたい。
【0131】
本発明はさらに、抗体及び核酸分解活性を有する化合物(例えばリボヌクレアーゼ又はデオキシリボヌクレアーゼ(DNase)などのDNAエンドヌクレアーゼ)との間で形成された免疫抱合体についても意図する。本発明はさらに、抗体及び放射性同位元素の間で形成された免疫抱合体についても意図する。放射性結合型抗体の生産には様々な放射活性同位元素が利用可能である。例としては、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32及びLuの放射性同位元素などがある。
【0132】
さらに別の実施形態においては、腫瘍のプレ標的化を促進するために、抗体を「受容体」(ストレプトアビジンなど)に結合させ得る。このプレ標的化において、抗体−受容体抱合体を患者に投与し、その後結合していない抱合体を、クリアリング剤と続く細胞毒性薬に結合している「リガンド」(例えばアビジン)の投与を用いて血行から除去する。
【0133】
抗体及び細胞毒性薬の抱合体は、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオール)プロピオン酸(SPDP)、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能基誘導体(ジメチルアジプイミドHCLなど)、活性エステル(ジスクシンイミジルスベリン酸など)、アルデヒド(グルトアルデヒドなど)、ビス−アジド化合物(ビス(p−アジドペンゾイル)ヘキサンジアミンなど)、ビス−ジアゾニウム誘導体(ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミンなど)、ジイソシアネート(トリレン2、6−ジイソシアネ−トなど)、及びビス活性フッ素化合物(1、5−ジフルオロ−2、4−ジニトロベンゼンなど)の様々な二官能基タンパク質カップリング剤を用いて作製することができる。例えば、リシン抗毒素はVitetta et al. Science 238: 1098(1987)に記載されているように調製することができる。炭素−14で標識された1−イソチオシアネートベンジル−3−メチルジエチレントリアミンペント酢酸(MX−DTPA)は放射性ヌクレオチドを抗体に結合させるためのキレート剤の例である。国際公開第94/11026号を参照されたい。リンカーは細胞中の細胞毒性薬剤の放出を促進する、「開裂可能なリンカー」であり得る。例えば、酸に不安定なリンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、ジメチルリンカー、又はジスルフィド含有リンカー(Chari et al. Cancer Research 52: 127−131(1992))を使用することができる。
【0134】
典型的には、ペプチドに基づいた薬剤部分を、1つ以上のアミノ酸及び/又はペプチド断片間でペプチド結合を形成することによって調製することができる。かかるペプチド結合は例えば、ペプチド合成の分野では周知である液相合成方法(E. Schroder and K. Lubke, “The Peptides”, volume 1, pp 76−136, 1965, Academic Pressを参照)に従って調製することができる。アウリスタチン/ドラスタチン薬剤部分は米国特許第5635483号;米国特許第5780588号;Pettit et al(1989) J. Am. Chem. Soc. 111:5463−5465;Pettit et al(1998) Anti Cancer Drug Design 13:243−277;Pettit, G.R., et al. Synthesis, 1996, 719−725;及びPettit et al(1996) J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1 5:859−863の方法に従って調製することができる。Doronina(2003) Nat Biotechnol 21(7):778−784;“Monomethylvaline Compounds Capable of Conjugation to Ligands”、米国特許出願公開第2005−0238649A1号も参照し、この全体は参照により本明細書に組み込まれる(例えばリンカー及びリンカーに結合したMMAE及びMMAFなどのモノメチルバリンの調製方法)。
【0135】
メイタンシン及びメイタンシノイド
いくつかの実施形態においては、この免疫抱合体は、1つ以上のメイタンシノイドに結合した本発明の抗体(完全長又は断片)を含む。
【0136】
メイタンシノイドはチューブリン重合を阻害することによって作用する有糸分裂阻害剤である。メイタンシンは当初、東アフリカの灌木であるメイテナスセラタ(Maytenus serrata)から単離された(米国特許第3896111号)。続いて、メンタンシノール及びC−3メイタンシノールエステルなどのメイタンシノイドを特定の微生物が生産することも見出された(米国特許第4,151,042号)。合成メイタンシノール並びに誘導体、及びその類似体が、例えば米国特許第4,137,230号;第4,248,870号;第4,256,746号;第4,260,608号;第4,265,814号;第4,294,757号;第4,307,016号;第4,308,268号;第4,308,269号;第4,309,428号;第4,313,946号;第4,315,929号;第4,317,821号;第4,322,348号;第4,331,598号;第4,361,650号;第4,364,866号;第4,424,219号;第4,450,254号;第4,362,663号;及び第4,371,533号に開示されている。
【0137】
メイタンシノイド薬剤部分は、(i)発酵若しくは化学的改変、発酵産物の誘導体化によって比較的容易に調製できる、(ii)非ジスルフィドリンカーを介した抗体への結合に適した官能基との誘導体化を受け入れられる、(iii)血漿中で安定である、並びにと(iv)様々な腫瘍細胞株に対して効果的である、ことから抗体薬剤抱合体中の魅力ある薬剤部分である。
【0138】
メイタンシノイド薬剤部分としての使用に適しているメイタンシン化合物は当該技術分野において周知であり、天然資源から既知の方法に従って単離することができ、遺伝子工学的手法(Yu et al(2002)PNAS99:7968−7973を参照)を用いて生産することができ、又はメイタンシノール及びメイタンシノール類似体を既知の方法に従って合成して調製することができる。
【0139】
メイタンシノイド薬剤部分の例としては、C−19−デクロロ(米国特許第4256746号)(水素化アルミニウムリチウムによるアンサミトシンP2の還元によって調製される);C−20−ヒドロキシ(又はC−20−デメチル)+/−C−19−デクロロ(米国特許番号第4361650号及び第4307016号)(ストレプトミセス若しくはアクチノミセスを用いた脱メチル作用又はLAHを用いた脱塩によって調製される);及びC−20−デメトキシ、C−20−アシルオキシ(−OCOR)、+/−デクロロ(米国特許第4,294,757号)(塩化アシルを用いたアシル化によって調製される)などの改変された芳香環を有するメイタンシノイド薬剤部分並びにその他の位置に改変を有するメイタンシノイド薬剤部分がある。
【0140】
メイタンシノイド薬剤部分の例としては、C−9−SH(米国特許第4424219号)(メイタンシノールをH2S又はP2S5と反応させることによって調製される);C−14−アルコキシメチル(デメトキシ/CH2OR)(米国特許第4331598号);C−14−ヒドロキシメチル又はアシルオキシメチル(CH2OH又はCH2OAc)(米国特許第4450254号)(ノカルジアから調製される);C−15−ヒドロキシ/アシルオキシ(米国特許第4,364,866号)(ストレプトミセスによるメイタンシノールの変換によって調製される);C−15−メトキシ(米国特許第4,313,946号及び第4,315,929号)(トレウィアヌドロフローラ(Trewianudlflora)より単離される);C−18−N−デメチル(米国特許第4,362,663号及び第4,322,348号)(ストレプトミセスによるメイタンシノールの脱メチル化によって調製される);及び4,5−デオキシ(米国特許第4371533号)(メイタンシノールを三塩化チタン/LAHによる還元によって調製される)などの改変を有するメイタンシノイド薬剤部分なども挙げられる。
【0141】
メイタンシノイド薬剤部分の実施形態の例としては、下記の構造を有するDM1;DM3;及びDM4;などがあり、
式中、波線は抗体薬剤抱合体の薬剤の硫黄原子のリンカー(L)への共有結合を示す。HERCEPTIN(登録商標)(トラスツズマブ)はSMCCによってDM1に結合することが報告されている(国際公開第2005/037992号、その全体は参照により本明細書に明らかに組み込まれる)。本発明の抗体薬剤抱合体は本明細書に開示する方法に従って調製することができる。
【0142】
メイタンシノイド抗体薬剤抱合体のその他の例は以下の構造及び略語で示される(式中、Abは抗体であり、pは1〜約8である):
【0143】
DM1がBMPEOリンカーを介して抗体のチオール基に結合している抗体薬剤抱合体の例は、以下の構造及び略語で示され:
式中、Abは抗体であり;nは0、1、若しくは2;並びにpは1、2、3、若しくは4である。
【0144】
例えば、米国特許第5,208,020号;第5,416,064号;第6,441,163号及び欧州特許出願公開第0425235B1号にメイタンシノイドを含む免疫抱合体、その作製方法、及びそれらの治療的用途が開示されており、それらの開示は参照により本明細書に明らかに組み込まれる。Liu et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA93:8618−8623(1996)にはヒト結腸直腸癌に対するモノクローナル抗体C242に結合したDM1と示されるメイタンシノイドを含む免疫抱合体について記載されている。この抱合体は培養結腸癌細胞に対して高い細胞毒性を有することが見出され、インビボ腫瘍増殖アッセイにおいて抗腫瘍活性が示された。Chari et al., Cancer Research 52:127−131(1992)にはメイタンシノイドがヒト結腸癌細胞株への抗原に結合したマウス抗体A7にジスルフィドリンカーを介して結合した免疫抱合体、又はHER−2/neu腫瘍遺伝子に結合した別のマウスモノクローナル抗体TA.1について記載されている。1つの細胞当たり3×105のHER−2表面抗原を発現しているヒト乳房癌細胞株SK−BR−3に対してのTA.1−メイタンシノイド抱合体の細胞毒性がインビトロで試験された。この薬剤抱合体は、1つの抗体分子当たりのメイタンシノイド分子の数を増加させることによって増加させることができる、遊離メイタンシノイド薬剤と同程度の細胞毒性を示した。A7−メイタンシノイド抱合体は、マウスにおいて低い全身性の細胞毒性を示した。
【0145】
抗STEAP−1抗体−メイタンシノイド抱合体は、好ましくは抗体又はメイタンシノイド分子のいずれの生物活性も有意に減少させることなく、メイタンシノイド分子に抗体を化学的に結合することによって調製される。例えば、米国特許第5,208,020号(その開示は参照により本明細書に明らかに組み込まれる)を参照されたい。1分子の毒素/抗体でさえも、裸の抗体の使用よりも細胞毒性を上昇させることが期待されるが、1つの抗体分子当たり、平均3〜4個のメイタンシノイド分子が結合しているものが、抗体の機能又は溶解性に否定的な作用を及ぼすことなく、標的細胞の細胞毒性を効果的に上昇させることが示されている。メイタンシノイドは当該技術分野において周知であり、既知の方法によって合成すること、又は天然資源から単離することができる。メイタンシノイドは、例えば、本明細書の上記で参照した米国特許第5,208,020号並びにその他の特許及び非特許文献に開示されている。好ましいメイタンシノイドは、メイタンシノール及び芳香環又はメイタンシノールエステルなどのメイタンシノール分子のその他の位置が改変されたメイタンシノール類似体である。
【0146】
抗体−メイタンシノイド抱合体を作製するための多くの連結基が当該技術分野において知られており、例えば、米国特許第5,208,020号、第6,441,163号、又は欧州特許出願公開第0425235B1号、Chari et al., Cancer Research 52:127−131(1992)及び米国特許第2005/0169933A1号に開示されており、それらの開示は参照により本明細書に明らかに組み込まれる。リンカー成分SMCCを含む抗体−メイタンシノイド抱合体は2005年5月31日に出願された米国特許出願第11/141344号「抗体薬剤抱合体及び方法」に開示されているように調製することができる。この連結基は、上述の特許に開示されているように、ジスルフィド基、チオエステル基、酸に不安定な基、光に不安定な基、ペプチダーゼに不安定な基、又はエステラーゼに不安定な基を含む。本明細書ではさらなる連結基について記載し、例示した。
【0147】
抗体及びメイタンシノイドの抱合体は、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸(SPDP)、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能基誘導体(ジメチルアジプイミドHClなど)、活性エステル(ジスクシンイミジルスベリン酸など)、アルデヒド(グルタルアルデヒドなど)、ビス−アジド化合物(ビス(p−アジドペンゾイル)ヘキサンジアミンなど)、ビス−ジアゾニウム誘導体(ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミンなど)、ジイソシアネート(トルエン2、6−ジイソシアネートなど)、及びビス活性フッ素化合物(1、5−ジフルオロ−2、4−ジニトロベンゼンなど)などの様々な二官能基タンパク質カップリング剤(リンカー)を用いて作製することができる。好ましいカップリング剤には、ジスルフィド結合を提供するN−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸(SPDP)(Carlsson et al.,Biochem.J.173:723−737(1978))及びN−スクシンイミジル−4−(2−ピリジルチオ)ペンタノアート(SPP)がある。
【0148】
リンカーは様々な位置で、結合の種類によって、メイタンシノイド分子に結合することができる。例えばエステル結合は、ヒドロキシル基を用いた標準的なカップリング技術を用いた反応によって形成することができる。この反応は、ヒドロキシル基を有するC−3位、ヒドロキシメチルによって改変されたC−14位、ヒドロキシル基によって改変されたC−15位、及びヒドロキシル基を有するC−20位に生じる可能性がある。好ましい実施形態においては、この結合はメイタンシノール又はメイタンシノール類似体のC−3位に形成される。
【0149】
1つの実施形態においては、本発明のいずれの抗体(完全長又は断片)も1つ以上のメイタンシノイド分子に結合している。免疫抱合体の1つの実施形態、すなわち細胞毒性薬DはメイタンシノイドDM1、DM3、又はDM4である。免疫抱合体のかかる実施形態の1つにおいては、リンカーはSPDP、SMCC、IT、SPDP、及びSPPからなる群より選択される。
【0150】
アウリスタチン免疫抱合体
ある好ましい実施形態においては、免疫抱合体はドラスタチン又はドラスタチンペプチド類似体及び誘導体、すなわちアウリスタチン(米国特許第5635483号;第5780588号)に結合した抗体を含む。ドラスタチン及びアウリスタチンが微小管動態、GTP加水分解、及び細胞分裂を干渉し(Woyke et al(2001) Antimicrob. Agents and Chemother. 45(12):3580−3584)、並びに抗癌作用(米国特許第5663149号)及び抗真菌作用(Pettit et al(1998) Antimicrob. Agents Chemother. 42:2961−2965)を有することが示されている。ドラスタチン又はアウリスタチン薬剤部分はペプチド薬剤部分のN(アミノ)末端又はC(カルボキシル)末端を介して抗体に結合し得る(国際公開第02/088172号)。
【0151】
アウリスタチンの実施形態の例としては、N末端に結合したモノメチルアウリスタチン薬剤部分DE及びDFがあり、これらは「Monomethylvaline compounds Capable of Conjugation to Ligands」(米国特許出願公開第2005−0238649A1号)に開示されており、この開示の全体は参照により明らかに組み込まれる。さらなる実施形態においては、モノメチルアウリスタチン薬剤部分はモノメチルアウリスタチンE(MMAE)及びモノメチルアウリスタチンF(MMAF)を含む。
【0152】
さらなる実施形態においては、式Ab−(L−D)pを有する免疫抱合体を提供し、式中:
(a)Abは抗体であり、
(b)Lはリンカーであり;
(c)Dは式DE又はDFの薬剤であり、
式中、R2及びR6はそれぞれメチルであり、R3及びR4はそれぞれイソプロピルであり、R7はsec−ブチルであり、R8はそれぞれ独立してCH3、O−CH3、OH、及びHから選択され;R9はHであり;R10はアリールであり;Zは−O−若しくは−NH−であり;R11はH、C1〜C8アルキル、若しくは−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)2−O−CH3であり;並びにR18は−C(R8)2−C(R8)2−アリールであり;並びに
(d)pは約1〜8である。
【0153】
リンカー成分(L)の例は下記を単独で、又は組み合わせて含む:
MC=6−マレイミドカプロイル
Val−Cit又は「vc」=バリン−シトルリン(プロテアーゼを開裂できるリンカー中のジペプチドの例)
シトルリン=2−アミノ−5−ウレイドペンタン酸
PAB=p−アミノベンジルオキシカルボニル(「自壊的」リンカー成分の例)
Me−Val−Cit=N−メチル−バリン−シトルリン(ここでリンカーペプチド結合はカテプシンBによるその開裂が妨げられるように改変されている)
MC(PEG)6−OH=マレイミドカプロイル−ポリエチレングリコール(抗体システインに結合し得る)。
【0154】
さらなる実施形態においては、リンカーは抗体上のチオール基(例えば、ThioMAb)を介して結合している。1つの実施形態においては、リンカーをプロテアーゼによって開裂することができる。1つの実施形態においては、リンカーはval−citジペプチドを含む。1つの実施形態においては、リンカーはp−アミノベンジル単位を含む。1つの実施形態においては、p−アミノベンジル単位はリンカー中の薬剤及びプロテアーゼ開裂部位の間に位置している。1つの実施形態においては、このp−アミノベンジル単位はp−アミノベンジルオキシカルボニル(PAB)である。1つの実施形態においては、リンカーは6−マレイミドカプロイルを含む。1つの実施形態においては、この6−マレイミドカプロイルはリンカー中の薬剤及びプロテアーゼ開裂部位の間に位置している。上記実施形態は単独で又は他のものとの任意の組み合わせとして生じ得る。
【0155】
さらなる実施形態においては、薬剤は下記から選択される:
MMAE=モノメチルアウリスタチンE(MW718)
MMAF=薬剤のC末端にフェニルアラニンを有するアウリスタチンE(MMAE)の変異体(MW731.5)
MMAF−DMAEA=C末端フェニルアラニン結合へのアミド結合中にDMAEA(ジメチルアミノエチルアミン)を有するMMAF(MW801.5)
MMAF−TEG=フェニルアラニンとエステル結合しているテトラエチレングリコールを有するMMAF
MMAF−NtBu=MMAFのC末端にアミドとして結合しているN−t−ブチル。
ある実施形態においては、この薬剤はMMAE及びMMAFから選択される。
【0156】
1つの実施形態においては、免疫抱合体は下記の式を有し、
式中、Abは抗体、Sは硫黄原子、及びpは2〜5である。かかる実施形態においては、免疫抱合体はAb−MC−val−cit−PAB−MMAEと称される。別の実施形態においては、免疫抱合体はAb−MC−MMAEである。
【0157】
別の実施形態においては、免疫抱合体は下記の式を有し、
式中、Abは抗体、Sは硫黄原子、及びpは2〜5である。かかる実施形態においては、免疫抱合体はAb−MC−val−cit−PAB−MMAFと称される。別の実施形態においては、免疫抱合体はAb−MC−MMAFである。
【0158】
(xi)その他の抗体改変
本明細書においてその他の抗体改変が意図される。例えば、抗体は様々な非タンパク質様ポリマー、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、又はポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのコポリマーのうちの1つに結合し得る。抗体は、例えばコアセルベーション技術又は界面重合(例えばヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル及びポリ−(メチルメタクリレート)マイクロカプセルのそれぞれ)によって、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、及びナノカプセル)、又はマクロエマルジョン中に調製されたマイクロカプセル中に封入することもできる。かかる技術はRemington’s Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Oslo, A., Ed.,(1980)中に開示されている。
【0159】
エフェクター機能、例えば、抗体依存性細胞介在性障害作用(ADCC) 及び/又は補体依存性細胞傷害作用(CDC)の増幅に関連して本発明の抗体を改変することが所望の場合もある。これらは抗体のFc領域に1つ以上のアミノ酸置換を導入することによって達成される。あるいは又は追加して、システイン残基がFc領域に導入され、それによってこの領域における鎖間ジスルフィド結合形成が生じ得る。このようにして生成されたホモ二量体型抗体は改善された内部移行能及び/又は増加した補体介在細胞死及び抗体依存性細胞介在性障害作用(ADCC)を有し得る。Caron et al., J. Exp Med. 176:1191−1195(1992) 及び Shopes, B. J. Immunol. 148:2918−2922(1992)を参照されたい。抗腫瘍活性が増幅したホモ二量体型抗体は、Wolff et al. Cancer Research 53:2560−2565(1993)に記載されているようにヘテロ二官能性架橋剤を用いて調製され得る。あるいは、2つのFc領域を有するように抗体を改変することができ、それによって補体溶解及びADCC能が増幅され得る。Stevenson et al. Anti Cancer Drug Design 3:219−230(1989)を参照されたい。
【0160】
国際公開第00/42072号(Presta,L.)にはヒトエフェクター細胞存在下で改善されたADCC機能を有する抗体について記載されている。ここでこの抗体はそのFc領域にアミノ酸置換を有する。好ましくは、改善されたADCC機能を有するこの抗体はFc領域の298、333、及び/又は334位にアミノ酸置換を含む。好ましくは、別のFc領域はこれらの位置に、1つ、2つ、若しくは3つの置換を含む又はそれらの置換からなる、ヒトIgG1Fc領域である。
【0161】
C1q結合及び/又は補体依存性細胞傷害作用(CDC)が改変された抗体については国際公開第99/51642号、米国特許第6,194,551B1号、米国特許第6,242,195B1号、米国特許第6,528,624B1号及び米国特許第6,538,124号(Idusogie et al.)に記載されている。この抗体は、そのFc領域の270、322、326、327、329、313、333及び/又は334位に1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0162】
抗体の血中半減期を延長するために、例えば米国特許第5,739,277号に記載されているように、サルベージ受容体結合エピトープを抗体(特に抗体断片)に組み込み得る。本明細書において使用されるとき、「サルベージ受容体結合エピトープ」という用語は、IgG分子のインビボでの血中半減期の延長に関係したIgG分子(例えばIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4)のFc領域のエピトープを意味する。そのFc領域に置換を有する抗体及び血中半減期の延びた抗体については国際公開第00/42072号(Presta,L.)にも記載されている。
【0163】
3つ以上の(好ましくは4つ)の機能抗原結合部位を有する改変抗体についても意図された(米国特許出願第US2002/0004587 A1号、Miller et al.)。
【0164】
本明細書に開示する抗体は免疫リポソームとしても調製してよい。抗体を含むリポソームは、Epstein et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82:3688(1985);Hwang et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA, 77:4030(1980);米国特許第4,485,045号及び第4,544,545号;並びに1997年10月23日に公開された国際公開第97/38731号などに記載された、当該技術分野において既知の方法によって調製される。増幅した循環時間を有するリポソームについては米国特許第5,013,556号に開示されている。
【0165】
特に有用なリポソームを、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG−誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)を含む液体組成物を用いた逆相蒸発抱によって生成することができる。所望の直径のリポソームを得るために、既定の細孔径のフィルターを介してリポソームを排出する。本発明の抗体のFab’断片は、Martin et al. J. Biol. Chem. 257: 286−288(1982)に記載されているように、ジスルフィド交換反応を介してリポソームに結合され得る。化学療法剤は任意にリポソームの中に含まれる。Gabizon et al. J. National Cancer Inst.81(19)1484(1989)を参照されたい。
【0166】
(B)抗体及び免疫抱合体の例
Asp−Aspモチーフを含む抗体(例えば、モノクローナル抗体)が、本明細書に開示する製剤との使用において特に意図される。例えば、VH又はVLの任意の領域にAsp−Aspモチーフを含む抗体であり得る。特定の実施形態においては、Asp−Aspモチーフは抗原結合に影響を及ぼす、いずれかのHVR、及びある実施形態においてはHVR−H3の領域に生じるが、これに限定されない。
【0167】
1つの実施形態においては、Asp−Aspモチーフを含む抗体は抗STEAP−1抗体である。国際公開第2008/052187号はHVR−H3にAsp−Aspモチーフを含む抗STEAP−1抗体の例を提供する。国際公開第2008/052187号に記載されているかかる抗体のすべての実施形態は、参照により本明細書に明らかに組み込まれる。本明細書に提供する特定のそれらの抗体のVH及びVLのアミノ酸配列は図2A及び2Bに示される。特定のそれら抗体のHVRのアミノ酸配列は下記の通りである:
HVR−L1:KSSQSLLYRSNQKNYLA(配列番号11)
HVR−L2:WASTRES(配列番号12)
HVR−L3:QQYYNYPRT(配列番号13)
HVR−H1:GYSITSDYAWN(配列番号14)
HVR−H2:GYISNSGSTSYNPSLKS(配列番号15)
HVR−H3:ERNYDYDDYYYAMDY(配列番号16)。
国際公開第2008/052187号に記載されたいずれかの抗体を含む製剤が本発明において明らかに意図される。
【0168】
ある実施形態においては、STEAP−1抗体は、いずれかのHVR及びある実施形態においてはHVR−H3などの抗抗原結合に影響を及ぼす領域にAsp−Aspモチーフを含むが、これに限定されない。1つの実施形態においては、抗STEAP−1抗体は配列番号16のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む。かかる実施形態の1つにおいては、抗STEAP−1抗体は(a)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号15のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(d)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(e)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR−L3、から選択される1つ以上のHVRをさらに含む。かかる実施形態の1つにおいては、抗体は(a)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号15のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号16のアミノ酸配列を含むHVR−H3;(d)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(e)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR−L、を含む。
【0169】
ある実施形態においては、抗STEAP−1抗体は配列番号8〜10から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)を含む。1つの実施形態においては、抗体は配列番号5〜6から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)をさらに含む。上記実施形態のいずれにおいても、HVR−H3中のAsp−Aspモチーフは保存されている。上記VH実施形態のいずれにおいても、VHは配列番号16のアミノ酸配列を含むHVR−H3、並びに任意に(a)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR−H1;及び(b)配列番号15のアミノ酸配列を含むHVR−H2、から選択される少なくとも1つのHVRを含む。上記VL実施形態のいずれにおいても、VLは(a)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR−L3、から選択される少なくとも1つ、2つ又は3つのHVRを含む。ある実施形態においては、VH及びVLは図2A及び2Bに従って、例えば、配列番号5と配列番号8、並びに配列番号6と配列番号9若しくは10が対になっている。
【0170】
上述のいずれかの免疫抱合体において使用される抗体の例には、本明細書に記載される抗STEAP−1抗体がある。好ましい抗STEAP−1抗体及び免疫抱合体(ThioMAb免疫抱合体を含む)は国際公開第2008/052187号にも記載されており、この文献は参照により本明細書に明らかに組み込まれる。かかる免疫抱合体を含む製剤も本発明によって明らかに意図される。ある実施形態においては、上記抗STEAP−1抗体は任意に細胞毒性薬に結合している。1つの実施形態においては、細胞毒性薬はアウリスタチンである。かかる実施形態の1つにおいては、このアウリスタチンはMMAE又はMMAFである。
【0171】
III.製剤の例
本明細書における発明は、Asp−Aspモチーフ中のAsp残基のアスパルチル異性化を阻害するpHを有する製剤であって、Asp−Aspモチーフを有する治療用タンパク質を含む製剤に、少なくとも部分的に関する。
【0172】
1つの様態においては、Asp−Aspモチーフを有する治療用タンパク質を含む製剤であり、pHが6.0を超え、かつ9.0未満である製剤を提供する。1つの実施形態においては、このpHは6.0超を超え、かつ8.0未満である。別の実施形態においては、このpHは6.25〜7.5である。別の実施形態においては、このpHは6.25〜7.0である。別の実施形態においては、このpHは6.5〜7.5である。別の実施形態においては、このpHは6.5〜7.0である。別の実施形態においては、このpHは約6.5である。別の実施形態においては、このpHは6.0〜9.0の範囲にあり、その範囲の始点及び終点は、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、及び9.0から選択され、始点のpHは終点のpHよりも低い。
【0173】
特定の治療用タンパク質に特に適しているpH、又はpHの範囲は、例えば様々なpHのAsp−Aspモチーフを含む治療用タンパク質を形成して、タンパク質の安定性を最適化するpHを選択することによって実験的に決定することができる。例えば、Asp−Asp異性化の最大阻害を示すpH(例えば塩基性pH)は望ましくないレベルのアミド分解、凝集、及び断片化を誘導し得、一方、アミド分解、凝集及び断片化を最少化するpH(例えば酸性pH)は望ましくないレベルのAsp−Asp異性化を誘導し得る。タンパク質の安定性を最適化するpHはこのようにこれら分解過程のバランスをとることによって達成される。本明細書における教示に基づき、これらpHは上記に提供した、弱酸性から塩基性のpH範囲になることが予想される。
【0174】
ある実施形態においては、タンパク質中のアスパルチル異性化を十分に阻害するpHまで製剤のpHを上昇させる工程を含む、Asp−Aspモチーフを含む治療用タンパク質におけるアスパルチル異性化の阻害方法を提供する。かかるpHは任意の上述のpHであり得る。このアスパルチル異性化は最初のpHでみられたアスパルチル異性化と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%97%、98%、99%又は100%阻害され得る。ある実施形態においては、本明細書に上述された任意の実施形態に提供されるように製剤中の治療用タンパク質を維持する工程を含む、Asp−Aspモチーフを含む治療用タンパク質におけるアスパルチル異性化の阻害方法を提供する。上述のある実施形態においては、製剤のpHが6.5の場合に、製剤のpHが5.5の場合の異性化値と比較して、治療用タンパク質中のアスパルチル異性化が阻害される。この治療用タンパク質は、例えば、本明細書に提供したいずれかの抗STEAP−1抗体、又はそのADCであり得る。この製剤は本明細書に記載された製剤であり得る。
【0175】
Asp−Asp異性化は、本明細書の実施例に記載しているように、例えば質量分析、ペプチドマッピング、電子移動解離質量分析、及び疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いて決定することができる。製剤中の治療用タンパク質におけるアミド分解、凝集及び/又は断片化は、Daugherty et al., Advanced Drug Delivery Reviews 58:686−706(2006)に解説されている分析手法によって決定することができる。アミド分解、凝集及び/又は断片化の評価方法の例を下記にさらに提供する。
【0176】
凝集は、室温で白色蛍光下において白黒バックグラウンドに対する試料の色、外観及び透明性を観察することによって評価することができる。加えて、(希釈、又は未希釈)製剤のUV吸光度も凝集の評価に使用することができる。1つの実施形態においては、UV吸光度は石英キュベットを用い、1cm光路長でHP8453分光光度計上の278nm及び320nmにおいて測定される。320nmにおいて測定された吸光度は、より大きな凝集、気泡及び粒子によるバックグラウンドの光散乱を修正するために用いられる。製剤緩衝液に対する測定を対照とする。タンパク質濃度は1.65(mg/mL)−1cm−1の吸光率を用いて決定される。
【0177】
電荷変異体における変化を測定するために、陽イオン交換クロマトグラフィーを用いることができる。1つの実施形態においては、このアッセイはHP1100(商標)HPLCシステム上のDIONEXPROPACWCX−10(商標)カラムを用いる。試料をpH7.9で20mMHEPESを含む移動相Aを用いて1mg/mLに希釈する。30〜50μLの希釈した試料をその後40℃を維持したままカラムに添加する。ピークを、20mMHEPES、200mMNaCl、pH7.9を含む移動相Bを用いた浅いNaCl勾配で溶出する。溶出を280nmでモニターする。データをHP CHEMSTATION(商標)ソフトウェア(RevB.01.03又はそれより新しい)を用いて解析する。
【0178】
製剤中のFab及びF(ab’)2断片の純度はキャピラリーゾーン電気泳動(CZE)によって決定することができる。このアッセイはBIOCAPXL(商標)キャピラリー、50umI.D.を用い、合計44.6cm、検出器までの長さ40cmのBIORAD BIOFOCUS(商標)3000(商標)キャピラリー電気泳動システム上で行うことができる。
【0179】
凝集と断片を定量するために、サイズ排除クロマトグラフィーを用いることができる。このアッセイではHP1100(商標)HPLCシステム上のTSKG3000SWXL(商標)、7.8×300mmカラムを使用することができる。試料を移動相を用いて1〜2mg/mLに希釈し、25〜50μL量を注入する。移動相はpH6.2での200mMリン酸カリウム及び250mM塩化カリウムであり、タンパク質を定組成勾配、0.5mL/分で30分間溶出する。溶出液の吸光度を280nmでモニターする。積分はHP CHEMSTATION(商標)ソフトウェア(RevB.01.03又はそれより新しい)を用いて行う。
【0180】
製剤中の治療用タンパク質の安定性はタンパク質の活性を決定することによって評価することができる。治療用タンパク質が抗体の場合、例えばELISA又は細胞表面抗原を試験するための細胞を使用したアッセイ、例えば本明細書の実施例Aに記載されている細胞を使用したアッセイなどによって、抗体の抗原に結合する能力が維持されているか及び/又はどの程度維持されているかを決定することによって安定性を評価することができる。ある実施形態においては、製剤中の抗体(本明細書で提供したいずれかの抗STEAP−1抗体又は免疫抱合体など)は、40℃で4週間保存した場合に、5℃で6ヶ月間、それ以外は実質的に同一の条件で、例えば、上述のpH及び/又は抗体/ADC濃度、緩衝液成分、下記の製剤の例に記載された糖成分及び/又は界面活性剤成分で保存した場合と比較して、≦40%又は30%、及び好ましくは≦25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、又は1%の抗原結合能の損失を示す。
【0181】
治療用タンパク質(例えば、本明細書に記載した抗体又はADC)は製剤中に、例えば、1mg/mL〜200mg/mL、及び特定の実施形態においては、5〜50mg/mL、及び特定の実施形態においては、1mg/mL、2mg/mL、3mg/mL、4mg/mL、5mg/mL、10mg/mL、15mg/mL、20mg/mL、25mg/mL、30mg/mL、40mg/mL、50mg/mL、60mg/mL、70mg/mL、80mg/mL、90mg/mL又は100mg/mLの濃度で存在する。様々な実施形態においては、治療用タンパク質の濃度は対象への投与に適していて、かつ対象への投与に際して治療効果を提供する。特定の実施形態においては、抗STEAP−1抗体又はADCは1mg/mL、2mg/mL、3mg/mL、4mg/mL、5mg/mL、10mg/mL、15mg/mL、20mg/mL、又は25mg/mLの濃度である。
【0182】
別の様態においては、製剤は例えば上記で提供したpHのヒスチジン−酢酸緩衝液を含む。ヒスチジン酢酸は1mm〜100mMの濃度であり得、及びある実施形態においては、5、10、15、20、25、30、又は40mMであり得る。ヒスチジン酢酸緩衝液については、例えば、国際公開第2006/044908号に記載されており、それらは参照により本明細書に明らかに組み込まれる。実施形態の1例においては、ヒスチジン酢酸緩衝液は、例えば、裸の抗STEAP−1抗体、又は一方で、例えば抗STEAP−1ADCなどのADCのような、「裸の」抗体に対して使用される。別の様態においては、製剤ヒスチジン塩化物緩衝液を含む。ヒスチジン塩化物は1mm〜100mMの濃度であり得、及びある実施形態においては、5、10、15、20、25、30、又は40mMであり得る。実施形態の1例においては、ヒスチジン塩化物緩衝液は例えば、抗STEAP−1ADCなどのADCに、また一方で例えば、裸の抗STEAP−1抗体などの「裸の」抗体に対して使用される。さらなる実施形態の例においては、ヒスチジン塩化物緩衝液は、製剤を凍結乾燥する場合に使用される。
【0183】
別の様態においては、製剤は糖を含む。かかる実施形態の1つにおいては、この糖はトレハロース及びショ糖からなる群から選択される。かかる実施形態の1つにおいては、トレハロース又はショ糖は約60mM〜約250mMの量で存在する。特定の実施形態においては、トレハロース又はショ糖は100mM、125mM、150mM、175mM、200mM、210mM、220mM、230mM、240mM、又は250mMで存在する。
【0184】
別の様態においては、製剤は界面活性剤を含む。かかる実施形態の1つにおいては、この界面活性剤はポリソルベート20(TWEEN20として一般に知られている)である。かかる実施形態の1つにおいては、このポリソルベート20は約0.005%〜約0.1%の濃度で存在する。特定の実施形態においては、ポリソルベート20は0.005%、0.01%、0.0125%、0.015%、0.0175%、0.02%、0.025%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%又は0.1%ポリソルベート20濃度で存在する。
【0185】
別の様態においては、上述のpHにおける製剤は、上記に提供した1つ以上の実施形態のいずれかにおけるヒスチジン−酢酸緩衝液、糖、及び界面活性剤を含む。さらなる様態においては、上述のpHにおける製剤は、上記に提供した1つ以上の実施形態のいずれかにおけるヒスチジン塩化物緩衝液、糖、及び界面活性剤を含む。
【0186】
IV.製剤を用いた治療
1つの実施形態において、本発明は、本明細書に記載した製剤を、疾患又は障害を治療する有効量で投与する工程を含む、対象における疾患又は障害の治療方法を提供する。
【0187】
製剤が抗STEAP−1抗体(「裸の」抗STEAP−1抗体並びにADCを含む)を含む場合、この製剤は癌の治療に用いることができる。この癌は、通常、抗STEAP−1抗体が癌細胞に結合することができるように、STEAP−1発現細胞を含む。従って、この実施形態における発明は、対象においてSTEAP−1を発現している癌の治療方法に関し、この方法は、本明細書に記載した抗STEAP−1抗体を含む製剤を、癌の治療における有効量で対象に投与する工程を含む。かかる製剤を用いて治療できる様々な癌としては、前立腺癌、ユーイング肉腫、肺癌、結腸癌、膀胱癌、卵巣癌、及び膵臓癌などが挙げられる。Hubert et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:14523−14528(1999);国際公開第99/62941号;Challita−Eid et al. Cancer Res. 67:5798−5805;及び国際公開第2008/052187号を参照されたい。
【0188】
患者は抗体製剤と化学療法剤を組み合わせて治療され得る。組み合わせ投与としては、別々の製剤又は単一の製剤を用いた同時投与又は併用投与、及びいずれかの順序での連続投与がある。このように、化学療法剤は抗体製剤の投与前又は投与後に投与し得る。この実施形態においては、少なくとも1回の化学療法剤の投与と少なくとも1回の抗体製剤投与との間隔は、好ましくは約1ヶ月以下であり、最も好ましくは約2週間以下である。あるいは、化学療法剤及び抗体製剤は単一の製剤又は別々の製剤で、患者に同時投与する。
【0189】
患者は抗STEAP−1抗体製剤と二次抗体の組み合わせによって治療され得る。二次抗体は、例えば、アネキシン2、カドヘリン−1、Cav−1、Cd34、CD44、EGFR、EphA2、ERGL、Fas、ヘプシン、HER2、KAI1、MSR1、PATE、PMEPA−1、プロスタシン、プロステイン、PSCA、PSGR、PSMA、RTVP−1、ST7、TMPRSS2、TRPM2、及びTrp−p8などの前立腺細胞表面抗原に結合する抗体を含み得る。組み合わせ投与は、別々の製剤若しくは単一製剤を用いた同時投与若しくは併用投与、並びにそれぞれを順番に連続しての投与がある。従って、この二次抗体は抗STEAP−1抗体製剤の投与に先立って、又はその後に投与し得る。この実施形態においては、少なくとも1つの二次抗体の投与と少なくとも1つの抗STEAP−1抗体製剤投与との間隔は、好ましくは約1ヶ月以下であり、最も好ましくは約2週間以下である。あるいは、抗STEAP−1抗体製剤と二次抗体は単一製剤又は別々の製剤で、患者に同時投与される。
【0190】
本明細書に記載した製剤を用いた治療は、好ましくは、癌の徴候又は症状の改善をもたらす。例えば、かかる治療は生存率(全生存及び/又は無進行生存)における改善をもたらし、及び/又は客観的な臨床反応(部分的又は完全な)をもたらし得る。さらに、化学療法剤と抗体製剤の併用治療は、相乗的な、又は単純に付加したよりも大きな治療上の利益を患者にもたらす。
【0191】
製剤は、静脈内投与(例えば、ボーラスとして又は一定期間に渡る連続注入として)、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、骨液嚢内、鞘内、経口、局所、又は吸入経路などの既知の方法に従ってヒト患者に投与することができる。抗体組成物の静脈内、筋肉内又は皮下投与が好ましく、静脈内投与が最も好ましい。
【0192】
皮下送達において、製剤は、シリンジ;注入装置(例えばINJECT−EASE(商標)及びGENJECT(商標)装置);注入ペン(GENPEN(商標)など);無針装置(例えば、MEDIJECTOR(商標)及びBIOJECTOR(商標));又は皮下的なパッチ送達システムを介して投与し得る。
【0193】
疾患の予防若しくは治療において、適切な抗体の量は、上記で定義された治療される疾患の種類、疾患の重症度及び経過、その抗体が予防目的で投与されるか治療目的で投与されるか、治療歴、患者の既往歴及び抗体に対する反応、並びに担当医の裁量によって変わる。抗体は患者に対して一度に、又は治療期間に渡って適切に投与される。疾患の種類及び重症度によって、患者へ投与する初回用量の候補は約1μg/kg〜50mg/kg(例えば、0.1〜20mg/kg)の抗STEAP−1抗体であり、例えば1回以上の個別投与、又は連続注入により投与される。抗体の用量は通常、約0.05mg/kg〜約10mg/kgの範囲である。化学療法剤を投与する場合には、通常はそれらの既知用量で投与され、又は薬剤の複合作用、若しくは化学療法剤の投与に起因する負の副作用のために任意に低用量を投与する。化学療法剤の調製及び投与計画は使用説明書に従って、又は当業者による経験的な決定に従って用い得る。これら化学療法剤の調製及び投与計画はChemotherapy Service Ed., M.C. Perry, Williams & Wilkins, Baltimore, MD(1992)にも記載されている。
【0194】
その他の治療レジメンは、二次(三次、四次など)化学療法剤(すなわち異なる化学療法剤の「カクテル」);別のモノクローナル抗体;増殖阻害剤;細胞毒性薬;化学療法剤;EGFRを標的とする薬剤;チロシンキナーゼ阻害剤;抗血管形成剤;及び/又はサイトカイン;などが挙げられるが、これらに限定されない抗体と併用してもよい。上記治療レジメンに加えて、患者に癌細胞の外科的除去及び/又は放射線治療を行ってもよい。
【0195】
本明細書に提供する製剤(例えば、抗STEAP−1抗体製剤)は診断目的、例えばインビボ診断造影用に投与してもよい。かかる実施形態においては、抗体は検出のために直接又は間接的に標識され得る。
【0196】
V.製造品
本発明の別の実施形態においては、本発明の製剤を含み、本発明の製剤の使用に関する使用説明書を提供する製造品を提供する。この製造品は容器も含む。適した容器としては、例えば、瓶、バイアル(例えば、二腔バイアル)、シリンジ(二腔シリンジなど)及び試験管などが挙げられる。容器はガラス又はプラスチックなどの様々な材料から形成してよい。容器は製剤を保持し、容器に貼られた、又は容器に付随したラベルは使用方法を示す。製剤を保持する容器は、再構成された製剤の反復投与(例えば2〜6回の投与)を可能にする複数回使用用バイアルでよい。製造品には、商業上及び利用者の観点から所望のその他の材料(その他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、及び前項で示した使用方法に関する添付文書などを含む)をさらに含んでよい。
【0197】
本発明は下記の実施例を参照によりさらに十分に理解されるであろう。しかし、それらは本発明の範囲を限定すると解釈すべきではない。引用したすべての文献及び特許は参照により本明細書に組み込まれる。
【0198】
実施例
A.イオン交換クロマトグラフィーによるスクシンイミド中間体の同定
配列番号6及び10でそれぞれ示される重鎖及び軽鎖可変領域を有する完全長抗STEAP−1抗体を、pH5.5において100mMトレハロース及び0.01%Tween20を含む20mMヒスチジン酢酸緩衝液中で調剤した。試料を40℃で維持し(「ストレス条件」)、0、1、2、又は4週間後に、イオン交換クロマトグラフィーによって解析した。図3はそれらの時点で生じた溶出プロファイルを示す。「塩基性」ピーク(矢印)について、ストレス条件下で時間の経過と共に、溶出ピークが3.9%〜20.7%に増加した。
【0199】
試料の「効能」は、細胞を使用したアッセイにおける抗体の抗原への結合能を評価することにより決定した。このアッセイにおいて、STEAP−1が安定的に形質転換されたヒト胎児由来腎臓(HEK)293細胞を、0.2mg/mLG418を含む10%FBS及び1×GlutaMAX(商標)培地(インビトロジェン、カールスバッド、カリフォルニア)を含むHAM’sF12/DMEM(1:1)を用いた培地で生育させた。細胞におけるSTEAP−1の発現値を〜270,000sites/細胞になるようにスキャッチャード解析によって決定した。LB50細胞をポリ−D−リジンが塗布された96穴マイクロタイター細胞培養プレートに1×105細胞/穴になるように播種して、一晩、37℃及び5%CO2でインキュベートした。インキュベーションの後、抗STEAP−1抗体と対照試料をアッセイ用希釈剤(PBS+0.25%BSA)を用いて希釈し、プレートに添加した。プレートをその後インキュベートして、抗STEAP−1抗体をLB50細胞上に発現しているSTEAP−1に結合させた。プレートをその後結合していない抗体を除去するために洗浄した。結合した抗STEAP−1抗体をIgG−西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)と、結合した抗STEAP−1抗体の量に比例した比色シグナルを生産するSureBlueReserve(商標)テトラメチルベンジジンペルオキシダーゼ(TMB)基質溶液を用いて検出した。図3の表の最後のカラムに示すように、ストレス条件下では時間の経過と共に、抗STEAP−1抗体の効能が損失した。
【0200】
イオン交換ピークに相当する画分を回収し、質量分析を行った。塩基性ピーク(図3中の矢印)は主要なピークよりも少ない質量18Daを有し、これがスクシンイミド中間体であることを示している。スクシンイミド中間体の存在はアスパラギンのアミド分解又はアスパラギン酸の異性化のどちらかが存在することを示唆した。
【0201】
B.ペプチドマッピング及びETD−MSによる、Iso−Aspの同定
ペプチド(トリプシン)マッピングを試料について行った。図4に示すように、逆相クロマトグラフィーにおいて2つのペプチド(T11及びT11−iso−Asp)が別々に移動していることは、2つのペプチドが異なる荷電表面を提示していることを示している。しかしながら、2つのペプチドは質量分析において同じ質量を有することから、1つのペプチドがiso−Aspを含むことが示唆される。ペプチド断片については電子移動解離質量分析を行い、得られたデータは図5に示されるように、HVR−H3(CDR3)中のAsp−Asp配列における最初のAspが異性化したことを示した。このAspは図5(NYDYDDYYYAMDYWGQGTLVTVSSCSTK(配列番号17))の5位のペプチドに相当し、これは上記配列番号16の7位に相当する。
【0202】
C.pH上昇の効果
実施例Aの抗STEAP−1抗体を図6に示すように、様々なpHの240mMショ糖及び0.02%Tween20を含む20mMヒスチジン塩化物緩衝液中に調製した。pH5.5において4週間40℃で保存した場合、抗体のSTEAP−1抗原への結合の損失が示された。高いpHを有する製剤において、40℃での結合の損失が低下することが示された。5℃で6ヶ月間保存した場合には、いずれのpHにおいても結合の損失はみられなかった。
【0203】
D.Iso−Asp及びスクシンイミドのHIC検出
上記実施例Cに記載したように、pH5.5で調製し、40℃で0、1、2、及び4週間保存した抗STEAP−1抗体中のiso−Asp及びスクシンイミドの量を疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を用いて定量した。図7はiso−Asp及びスクシンイミドを含む溶出プロファイルを示す。図8は、示されたように様々な温度で様々な期間保存した抗STEAP−1抗体中のiso−Asp及びスクシンイミドの量(パーセンテージで表した)を示す。イオン交換クロマトグラフィーを用いた場合には、iso−Aspのピークが主要なピーク下に現れるため、iso−Asp及びスクシンイミドの量を定量するためHICが必要とされた。
【0204】
E.Aspからiso−Aspへの異性化率
抗STEAP−1抗体を上記実施例Cに記載したように、pH5.5で調製した。Aspからiso−Aspへの一次反応速度を仮定し(図9)、Aspからiso−Aspへの異性化率を様々な温度下で決定した(図10)。図10で決定した率を用いてアレニウスプロットを作製した(図11)。プロットはAsp−Asp異性化の活性エネルギーが約25〜30kcal/molであることを示している。
【0205】
前述の発明は、理解を明確にする目的で例証及び実施例によって詳述しているが、この記載及び実施例は本発明の範囲を限定するように解釈すべきではない。本発明において引用したすべての特許及び科学論文の開示は、その全体が参照により本明細書に明らかに組み込まれる。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年11月20日に出願された米国特許仮出願第61/116,541号の優先権を主張し、この開示の全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般的には、製剤に含まれる治療用タンパク質中のAsp−Aspモチーフにおけるアスパルチル異性化を阻害するpHを有する製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
タンパク質製剤
バイオテクノロジーの進歩により、組換えDNA技術を用いて、医薬用途における様々なタンパク質を生産することが可能となった。タンパク質は従来の有機薬剤及び無機薬剤よりも大きく、また複雑であるため(つまり複雑な3次元構造に加えて複数の官能基を有する)、かかるタンパク質の製剤には特別な考慮を必要とする。タンパク質は分解されやすく、化学的不安定性(例えば、新たな化学的性質を生じる結合形成又は開裂によるタンパク質の改変)又は物理的不安定性(例えば、タンパク質の高次構造における変化)に関与し得る。物理的不安定性は例えば、変性、凝集、沈殿又は吸着によって生じ得る。化学的不安定性はアミド分解、ラセミ化、異性化、加水分解、酸化、ベータ脱離又はジスルフィド交換によって生じ得る。
【0004】
アミド分解、凝集、及び断片化を最小限にするために、モノクローナル抗体を含む治療用タンパク質において弱酸性の緩衝液を含む製剤が用いられている。例えば、Lam et al.の米国特許第6,171,586号(pH5.0の酢酸緩衝液を含む安定な抗体製剤溶液について記載されている);Johnson et al.の国際公開第2004/019861号(pH5.5の酢酸緩衝液中に調製されたペグ化抗TNFα Fab断片について記載されている);Nestaの国際公開第2004/004639号(pH6.0の50mMコハク酸緩衝液に調製された腫瘍によって活性化する抗毒素であるhuC242−DM1について記載されている);Kaisheva et al.の国際公開第03/039485号(pH6.0のコハク酸ナトリウム緩衝液中で高度に安定なヒト化IL−2受容体抗体であるダクリズマブについて報告している);及びOliver et al.の国際公開第03/015894号(pH6.0のヒスチジン緩衝液中の100mg/mLのSYNAGIS(登録商標)製剤溶液について記載されている)を参照されたい。
【0005】
pH4〜6の条件下では、タンパク質中のアスパラギン酸(Asp)残基は異性化を受けることによって分解し得る。Aspの異性化は、イソアスパラギン酸(isoAsp)を形成するための速い加水分解開裂を受ける環状イミド中間体(スクシンイミド)、又はモル比が約3:1のAspを介して進む。Wakanar et al. Biochemistry 46:1534−1544(2007)を参照されたい。AspのC末端側にある残基がAspの異性化に対する感受性に影響し、Asp−Gly中のAspが特に異性化の影響を受けやすい(同文献)。治療用抗体中のAsp異性化は、特に抗体の抗原結合領域、例えば相補性決定領域(CDR)にAspが生じると、抗原結合活性の実質的な損失を引き起こし得る。従って当該技術分野において、かかる製剤に含まれる治療用タンパク質中のAsp−Asp部分におけるアスパルチル異性化を阻害する製剤が必要とされている。
【0006】
抗STEAP−1抗体
STEAP−1は6つの膜貫通ドメインと細胞内N末端及びC末端の分子トポロジーを特徴とする細胞表面抗原であり、これはSTEAP−1が3つの細胞外ループ及び2つの細胞内ループを形成するように「曲がりくねって」折りたたまれていることを示唆している。STEAP−1は正常なヒト組織において主に前立腺細胞で発現する。STEAP−1はまた、様々な状態の前立腺癌、さらに肺、結腸、卵巣、膀胱、及び膵臓癌などの他のヒトの癌、並びにユーイング肉腫にも高値で発現する。Hubert et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:14523−14528(1999);国際公開第99/62941号;Challita−Eid et al. Cancer Res. 67:5798−5805;及び国際公開第2008/052187号を参照されたい。
【0007】
STEAP−1に結合する特定の抗体については記載されている(参照により本明細書に明らかに組み込まれる、国際公開第2008/052187号を参照)。さらに、それらの抗体に由来する免疫抱合体が前立腺腫瘍異種移植モデルにおいて腫瘍体積を縮小することが示されている(同文献)。従って、抗STEAP−1抗体又は免疫抱合体は、例えば前立腺癌などの癌の治療に有用である。従って、抗STEAP−1抗体又は免疫抱合体を投与する上で適した製剤が癌の治療に有用となる。
【0008】
本発明は上述の必要性を満たし、さらなる利益を提供する。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、Asp−Aspモチーフを有する治療用タンパク質を少なくとも部分的に含む製剤であり、Asp−AspモチーフにおけるAsp残基のアスパルチル異性化を阻害することによってタンパク質の安定性を向上した製剤に関する。1つの様態においては、この製剤はAsp−AspモチーフにおけるAsp残基のアスパルチル異性化を阻害するpHを有する。
【0010】
1つの様態においては、Asp−Aspモチーフを有する治療用タンパク質を含む製剤であり、pHが6.0を超え、かつ9.0未満である製剤を提供する。1つの実施形態においては、このpHは6.25〜7.0である。別の実施形態においては、このpHは約6.5である。別の実施形態においては、この治療用タンパク質は抗体である。かかる実施形態の1つにおいては、この抗体はAsp−Aspモチーフを含む超可変領域(HVR)を含む。かかる実施形態の1つにおいては、このAsp−AspモチーフはHVR−H3中に生じる。
【0011】
さらなる実施形態においては、この抗体は配列番号16のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む抗STEAP−1抗体である。かかる実施形態の1つにおいては、この抗STEAP−1抗体はさらに、(a)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号15のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(d)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(e)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR−L3、から選択される1つ以上のHVRを含む。かかる実施形態の1つにおいては、この抗体は、(a)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号15のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号16のアミノ酸配列を含むHVR−H3;(d)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(e)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR−L3、を含む。
【0012】
さらなる実施形態においては、この抗体は、配列番号16のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む抗STEAP−1抗体であり、かつ配列番号8〜10から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)を含む。かかる実施形態の1つにおいては、この抗体はさらに、配列番号5〜6から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0013】
さらなる実施形態においては、この抗体は細胞毒性薬と結合している。かかる実施形態の1つにおいては、この細胞毒性薬はアウリスタチンである。別のかかる実施形態においては、この細胞毒性薬はメイタンシノイド薬剤部分である。
【0014】
さらなる実施形態においては、この抗体は40℃で4週間保存した場合に5℃で6ヶ月間保存した場合と比較して≦25%の抗原結合の損失を示す。
【0015】
さらなる実施形態においては、製剤は、20mMの濃度のヒスチジン−酢酸緩衝液を含む。さらなる実施形態においては、製剤は、20mMの濃度のヒスチジン−塩化物緩衝液を含む。さらなる実施形態においては、製剤は、60mM〜250mMの量のトレハロース及びショ糖から選択される糖を含む。さらなる実施形態においては、製剤は、0.01%〜0.1%の量のポリソルベート20を含む。
【0016】
上述の実施形態のいずれも、単独又は配合剤として存在し得る。
【0017】
別の様態においては、上記で提供した実施形態のいずれかにおける抗STEAP−1抗体を含む製剤を哺乳類に投与する工程を含む、癌の治療方法を提供する。
【0018】
さらなる様態においては、製剤のpHをアスパルチル異性化を阻害する上で十分なpHまで上昇させる工程を含む、製剤に含まれ、かつAsp−Aspモチーフを含む、治療用タンパク質中のアスパルチル異性化の阻害方法を提供する。1つの実施形態においては、この治療用タンパク質は上記で提供した実施形態のいずれかにおける抗体である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ヒト、マウス及びカニクイザル由来STEAP−1のアミノ酸配列の配列比較を示す。
【図2A】ある抗STEAP−1抗体由来のVLドメインのアミノ酸配列を示す。
【図2B】ある抗STEAP−1抗体由来のVHドメインのアミノ酸配列を示す。
【図3】pH5.5の抗STEAP−1抗体製剤を実施例Aに記載しているように40℃で各種期間保存後のイオン交換クロマトグラフィーから得られた溶出プロファイルを示す。
【図4】実施例Bに記載している、iso−Aspの存在を示すトリプシンのペプチドマップを示す。
【図5】実施例Bに記載している、異性化を受けた特定のAsp残基を同定した、電子移動解離質量分析(ETD−MS)の結果を示す。
【図6】40℃で4週間保存した抗STEAP−1抗体製剤は抗原結合性の損失を示したことを示す。pHを上昇させた製剤の40℃での結合の損失は減少した。製剤を5℃で6ヶ月間保存した場合にはいずれのpHにおいても結合の損失は観察されなかった。
【図7】疎水性相互作用クロマトグラフィーによって検出された、40℃で各種期間保存した後のiso−Asp及びスクシンイミドを含む抗体の存在を示す。
【図8】実施例Dに記載している、各種温度で各種期間保存した後の抗STEAP−1抗体調製物中のIso−Asp及びスクシンイミドの量(パーセンテージで表す)を示す。
【図9】Aspからiso−Aspへの反応における一次反応速度の仮説を示す。
【図10】実施例Eに記載している、各種温度で決定された、Aspからiso−Aspへの異性化率を示す。
【図11】図10に示した率を用いて作製したアレニウスプロットである。プロットは、約25〜30Kcal/molのAsp−Asp異性化の活性化エネルギーを予測する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
I.定義
「製剤」という用語は、活性成分を含むが、その製剤を投与する対象に容認しがたい毒性を有する付加的な成分を含まない調製物を意味する。かかる製剤は通常無菌的である。
【0021】
「無菌」製剤とは、防腐処理されているか、すべての微生物及びそれらの胞子を含まない。
【0022】
本明細書において、「凍結」製剤は0℃未満の製剤である。通常、凍結製剤は凍結乾燥されておらず、事前又は事後にも凍結乾燥処理を受けない。好ましくは、凍結製剤は、保存用の凍結薬剤原料(例えば、ステンレススチールタンク、PETGボトル、及びBioprocess Container(商標)保存システム(Hyclone, Logan, UT))又は凍結薬剤製品(最終的にはバイアル形状)を含む。
【0023】
「安定な」製剤は、本明細書におけるタンパク質が保存に際して物理的安定性及び/又は化学的安定性及び/又は生物活性を本質的に保持する製剤を意味する。好ましくは、このタンパク質は保存に際して物理的及び化学的安定性、並びに生物活性を本質的に保持する。保存期間は通常、製剤の意図された貯蔵寿命に基づいて選択される。タンパク質の安定性を測定する様々な分析技術が当該技術分野において使用可能であり、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery, 247−301, Vincent Lee Ed., Marcel Dekker, Inc., New York, New York, Pubs.(1991)及びJones, A. Adv. Drug Delivery Rev. 10: 29−90(1993)に概説されている。安定性は選択される温度で選択される期間測定することができる。好ましくは、この製剤は約40℃で少なくとも2〜4週間安定であり;並びに/又は約5℃及び/若しくは15℃で少なくとも3ヶ月、好ましくは1〜2年安定であり;並びに/又は−20℃で少なくとも3ヶ月、好ましくは少なくとも1〜2年安定である。さらに、この製剤は好ましくは凍結(例えば−70℃に)及び融解の後、例えば1、2、又は3回の凍結及び融解の後でも安定である。安定性は、凝集形成の評価(例えば、サイズ排除クロマトグラフィーを用いた混濁度測定及び/又は目視検査);陽イオン交換クロマトグラフィー又はキャピラリーゾーン電気泳動を用いた電荷不均一性の評価により;アミノ末端又はカルボキシ末端配列解析;質量分析;不完全な抗体とインタクト抗体を比較するSDS−PAGE解析;ペプチドマッピング(例えばトリプシン又はLys−Cの)解析;抗体の生物活性又は結合機能の評価;などの方法を含む様々な異なる方法によって定性的に及び/又は定量的に評価することができる。安定性は1つ以上の:凝集、アミド分解(例えばAsnアミド分解)、酸化(例えばMet酸化)、異性化(例えばAsp異性化)、クリッピング/加水分解/断片化(例えばヒンジ領域の断片化)、スクシンイミド形成、不対システイン、N末端伸長、C末端プロセッシング、グリコシル化の種差、などを含み得る。「改善された安定性」を有する製剤は、保存に際して、異なる製剤中のタンパク質と比較して、より高い物理的安定性及び/又は化学的安定性及び/又は生物活性を保持する製剤中に含まれるタンパク質を意味する。
【0024】
「アスパルチル異性化」とはタンパク質中のAsp残基のイソアスパラギン酸への変換を意味する。
【0025】
「Asp−Asp」又は「DD」モチーフとはタンパク質中の2つの連続したアスパラギン酸残基を意味する。
【0026】
「アスパルチル異性化の阻害」及びその文法的変形は、指定のpH(例えば6.5)の指定の製剤中に含まれるタンパク質中のAsp−Aspにおけるアスパルチル異性化が、同じ製剤中により低いpH(例えば5.5)で含まれるタンパク質中のAsp−Aspにおけるアスパルチル異性化値と比較して、部分的に又は完全に阻害されていることを意味する。アスパルチル異性化の阻害は、例えばiso−Aspを定量するHICを用いて直接的に、又は例えばタンパク質の生物活性を定量することによって間接的に決定し得る。1つの実施形態においては、Asp−Aspにおけるアスパルチル異性化は少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%阻害される。
【0027】
「治療用タンパク質」とは、疾患又は病状を呈する哺乳類の治療に使用されるタンパク質である。本明細書に開示する治療用抗体は抗STEAP−1抗体を含む。
【0028】
「STEAP−1」という用語は、特に記載のない限り、霊長類(例えばヒト及びサル)、及び齧歯類(例えばマウス及びラット)などの哺乳類を含む任意の脊椎動物由来の天然STEAP−1を意味する。この用語は「完全長」のプロセッシングされていないSTEAP−1、並びに細胞内でのプロセッシングによるいずれの形態のSTEAP−1も包含する。この用語はまた、天然に生じるSTEAP−1の変異、例えばスプライス変異又は対立遺伝子多型も包含する。ヒト、マウス、及びカニクイザル由来のSTEAP−1の具体例を図1に示す。
【0029】
抗体の「生物活性」とは抗体の抗原への結合能を意味する。
【0030】
「等張性」とは、目的の製剤が本質的にヒトの血液と同じ浸透圧を有することを意味する。等張性の製剤は通常約250〜350ミリオスモルの浸透圧となる。浸透圧は例えば、蒸気圧又は氷点下降型(ice−freezing type)浸透圧計で測定することが可能である。
【0031】
本明細書において使用されるとき、「緩衝液」とは、その溶液中の酸−塩基共役成分の作用によってpHの変化に耐える、緩衝化した溶液を意味する。かかる緩衝液の例としては、酢酸、コハク酸、グルコン酸、ヒスチジン、クエン酸、グリシルグリシン、及びその他の有機酸緩衝液が挙げられる。
【0032】
「ヒスチジン緩衝液」とはヒスチジンイオンを含む緩衝液を意味する。ヒスチジン緩衝液の例としては、ヒスチジン塩化物、ヒスチジン酢酸、ヒスチジンリン酸、及びヒスチジン硫酸などが挙げられる。ヒスチジン酢酸緩衝液はL−ヒスチジン(塩基を含まない、固体)を酢酸(液体)を用いて滴定することによって調製することが可能である。
【0033】
本明細書において「糖」とは、単糖類、二糖類、三糖類、多糖類、糖アルコール、還元糖、非還元糖などの一般組成(CH2O)n及びその誘導体を含む。本明細書における糖の例としては、グルコース、ショ糖、トレハロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デキストラン、グリセリン、デキストラン、エリトリトール、グリセロール、アラビトール、シリトール(sylitol)、ソルビトール、マンニトール、メリビオース、メレジトース、ラフィノース、マンノトリオース、スタキオース、マルトース、ラクツロース、マルツロース、グルシトール、マルチトール、ラクチトール、イソマルツロースなどが挙げられる。本明細書における糖類は、トレハロース又はスクショ糖ロースなどの非還元二糖類の場合もある。
【0034】
「界面活性剤」とは、表面活性の薬剤、好ましくは非イオン界面活性剤を意味する。本明細書において、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20及びポリソルベート80);ポロキサマー(例えばポロキサマー188);トライトン;ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);ラウリル硫酸ナトリウム;オクチルグリコシドナトリウム;ラウリル−、ミリスチル−、リノレイル−、若しくはステアリル−スルホベタイン;ラウリル−、ミリスチル−、リノレイル−、若しくはステアリル−サルコシン;リノレイル−、ミリスチル−、若しくはセチル−ベタイン;ラウロアミドプロピル−、コカミドプロピル−、リノレアミドプロピル−、ミリスタミドプロピル−、パルミドプロピル−、若しくはイソステアラミドプロピル−ベタイン(例えばラウロアミドプロピル);ミリスタミドプロピル−、パルミドプロピル−、若しくはイソステアラミドプロピル−ジメチルアミン;ココイルメチルタウリンナトリウム若しくはオレイルメチルタウリン二ナトリウム;並びにMONAQUAT(商標)シリーズ(Mona Industries, Inc., Paterson, New Jersey);ポリエチルグリコール、ポリプロピルグリコール、及びエチレンとプロピレングリコールとのコポリマー(例えば、Pluronics、PF68など)などが挙げられる。
【0035】
「約」という用語は、数値に換算して、その数値のプラス又はマイナス5%を意味する。
【0036】
本明細書において「抗体」という用語は広義に使用され、抗体が所望の生物活性を示す限り、特に完全長のモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び抗体断片を意味する。
【0037】
本明細書において使用されるとき、「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体、つまり、通常モノクローナル抗体の産生時に生じ、少量がモノクローナル抗体に含まれる可能性のある変異体を除いて、単一及び/又は同じエピトープに結合する集団を含む個々の抗体を意味する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対するものである。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンが混入していない点で有利である。修飾「モノクローナル」とは、実質的に均一な抗体集団から得られる抗体の特徴を表し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈すべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature, 256:495(1975)に最初に記載されたハイブリドーマ法により作製することができ、また、組換えDNA法によって作製することもできる(例えば、米国特許第4,816,567号を参照)。「モノクローナル抗体」は、例えばClackson et al., Nature, 352:624−628(1991)及びMarks et al., J. Mol. Biol., 222:581−597(1991)に記載されている技法を用いたファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。
【0038】
所望の生物活性を示す限り、本明細書におけるモノクローナル抗体には、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種由来の抗体又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一又は相同であるが、その鎖の残りが、別の種由来又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一又は相同である「キメラ」抗体、並びにこの抗体の断片が具体的に含まれる(米国特許第4,816,567号;及びMorrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851−6855(1984))。本明細書における目的のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば旧世界ザル、類人猿など)由来の可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含む「霊長類化(primatized)」抗体がある。
【0039】
「抗体断片」は、その抗体の抗原結合領域を含むすべての完全長抗体の一部を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片;二特異性抗体(二重特異性抗体);線状抗体;一本鎖抗体分子;並びに抗体断片から形成された多重特異性抗体などが挙げられる。
【0040】
「完全長抗体」は、抗原結合可変領域並びに軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメインであるCH1、CH2及びCH3を含む抗体である。この定常ドメインは天然配列定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列変異体であり得る。ある実施形態においては、完全長抗体は1つ以上のエフェクター機能を有する。
【0041】
本明細書における「アミノ酸配列変異体」抗体は、参照抗体と異なるアミノ酸配列を有する抗体である。通常、アミノ酸配列変異体は、参照抗体と少なくとも約70%の相同性を有するものであり、好ましくは、参照抗体と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%相同なものである。このアミノ酸配列変異体は、参照抗体と比較して特定の位置に置換、欠失、及び/又は付加を有する。本明細書におけるアミノ酸配列変異体の例には、酸性変異体(例えば、脱アミド化抗体変異体)、塩基性変異体、抗体の1本又は2本の軽鎖にアミノ末端リーダー伸長(例えばVHS−)を有する抗体、抗体の1本又は2本の重鎖にC末端リシン残基を有する抗体などがあり、重鎖及び/又は軽鎖のアミノ酸配列変異体の組み合わせを含む。1つの実施形態においては、抗体変異体は、その抗体の1本又は2本の軽鎖にアミノ末端リーダー伸長を含み、参照抗体と比較したその他のアミノ酸配列及び/又はグリコシル化の差異をさらに有し得る。
【0042】
本明細書における「グリコシル化変異体」抗体は、参照抗体に結合した1つ以上の炭水化物部分とは異なる炭水化物部分が1つ以上結合した抗体である。本明細書におけるグリコシル化変異体の例には、抗体のFc領域にG0オリゴ糖構造の代わりにG1又はG2オリゴ糖構造が結合した抗体、抗体の1本又は2本の軽鎖に1つ又は2つの炭水化物部分が結合した抗体、抗体の1本又は2本の重鎖に炭水化物部分が結合していない抗体などがあり、グリコシル化変化の組み合わせがある。
【0043】
本明細書における「アミノ末端リーダー伸長」は、抗体の任意の1つ以上の重鎖又は軽鎖のアミノ末端に存在するアミノ末端リーダー配列の1つ以上のアミノ酸残基を意味する。アミノ末端リーダー伸長の例は、抗体変異体の1つ若しくは両方の軽鎖に存在する3つのアミノ酸残基であるVHSを含むか、VHSからなる。
【0044】
「相同性」は、配列を比較して、必要な場合にはギャップを導入して、最大相同パーセントに達した後に、同一なアミノ酸配列変異体における残基パーセンテージとして定義される。配列比較のための方法及びコンピュータプログラムは、当該技術分野において周知である。かかるコンピュータプログラムの1つは、Genentech, Inc.によって著され、ユーザー文書と共に1991年12月10日に米国著作権局、Washington,DC 20559に提出された「Align2」がある。
【0045】
抗体の「エフェクター機能」は、抗体のFc領域(天然配列Fc領域又はアミノ酸配列変異体Fc領域)に起因する生物活性を意味する。抗体のエフェクター機能の例には、C1q結合;補体依存性細胞傷害作用;Fc受容体結合;抗体依存性細胞傷害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えばB細胞レセプター;BCR)のダウンレギュレーションなどが挙げられる。
【0046】
重鎖定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、完全長抗体を異なる「クラス」に割り当てることができる。完全長抗体には5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、これらのいくつかをさらに「サブクラス」(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgA2に分け得る。異なるクラスの抗体に対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び三次元立体配置は周知である。
【0047】
「抗体依存性細胞傷害」及び「ADCC」は、Fc受容体(FcR)を発現する非特異的な細胞毒性細胞(例えばナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)が標的細胞上に結合した抗体を認識した後に標的細胞を溶解させる、細胞を介した反応を意味する。ADCCを媒介する一次細胞であるNK細胞はFcγRIIIのみを発現するが、単球はFcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcRの発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457−92(1991)の464頁の表3に要約されている。目的の分子におけるADCC活性を評価するためには、米国特許第5,500,362号又は第5,821,337号に記載されている、インビトロ ADCCアッセイを行うことができる。このアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞などが挙げられる。あるいは又は追加して、目的の分子のADCC活性は、例えばClynes et al., PNAS(USA) 95:652−656(1998)に開示されている動物モデルにおいてインビボで評価することができる。
【0048】
「ヒトエフェクター細胞」は、1つ以上のFcRを発現してエフェクター機能を担う白血球である。好ましくは、これらの細胞は少なくともFcγRIIIを発現してADCCエフェクター機能を担う。ADCCを媒介するヒト白血球の例としては、末梢血単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞毒性T細胞、及び好中球が挙げられ、PBMC及びNK細胞が好ましい。エフェクター細胞は、その天然供給源から、例えば本明細書に記載されるように血液又はPBMCから単離することができる。
【0049】
「Fc受容体」又は「FcR」という用語は、抗体のFc領域に結合する受容体について述べるために使用される。1つの実施形態においては、FcRは天然配列のヒトFcRである。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体と結合し(ガンマ受容体)、かつ、これらの受容体の対立遺伝子多型及び選択的にスプライシングされた形態を含むFcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIサブクラスの受容体を含む。FcγRII受容体には、FcγRIIA(「活性化受容体」)及びFcγRIIB(「阻害受容体」)などがあり、それらは主に細胞質ドメインが異なるが類似したアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメインに免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)を有する。阻害受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメインに免疫受容阻害性チロシンモチーフ(ITIM)を有する(Daeron, Annu. Rev. Immunol. 15 :203−234(1997)の総説Mを参照)。FcRについては、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457−92(1991);Capel et al., Immunomethods 4:25−34(1994);及びde Haas et al., J. Lab. Clin. Med. 126:330−41(1995)に総説されている。本明細書における「FcR」という用語は、将来同定されるものを含めたその他のFcRを包含する。この用語は、母体IgGの胎児への輸送を担う新生児受容体FcRnも含む(Guyer et al., J. Immunol. 117:587(1976)及びKim et al., J. Immunol. 24:249(1994))。
【0050】
「補体依存性細胞傷害作用」又は「CDC」は、補体存在下で分子が標的を溶解する能力を意味する。補体活性化経路は、補体系の第一成分(C1q)がコグネイト抗原と複合体を形成した分子(例えば抗体)へ結合することにより開始する。補体活性化を評価するためには、例えば、Gazzano−Santoro et al., J. Immunol. Methods 202: 163(1996)に記載されているCDCアッセイを行うことができる。
【0051】
「天然抗体」は、通常は2本の同一の軽(L)鎖及び2本の同一の重(H)鎖から構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は1つの共有ジスルフィド結合により重鎖に結合する一方で、ジスルフィド結合数は異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で多様である。各重鎖及び軽鎖は、規則的に間隔のあいた鎖内ジスルフィド架橋も有する。各重鎖は、一端に可変ドメイン(VH)を有し、続いていくつかの定常ドメインを有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(VL)を、もう一端に定常ドメインを有する。軽鎖の定常ドメインは重鎖の第一定常ドメインと整列し、軽鎖可変ドメインは重鎖可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの間の界面を形成すると考えられる。
【0052】
「可変」という用語は、抗体間において可変ドメインの特定部分の配列が広範囲に渡って異なり、それぞれの特定の抗体の特定の抗原に対する結合及び特異性に使用されるという事実を意味する。しかし可変性は、抗体の可変ドメイン全体に渡り均等に分布しているわけではなく、軽鎖と重鎖の可変ドメイン両方における超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然重鎖及び軽鎖の可変ドメインはそれぞれ4つのFRを含む。FRの大部分はβシート立体配置を採り、3つの超可変領域により連結されており、これら超可変領域はβシート構造と連結し、場合によってはβシート構造の一部を形成するループを形成している。各鎖中の超可変領域は、FRによって互いにごく近接し、もう一方の鎖の超可変領域と共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(1991)を参照)。定常ドメインは、抗原に対する抗体の結合に直接には関与しないが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)での抗体の関与などの様々なエフェクター機能を示す。
【0053】
本明細書において使用されるとき、「超可変領域」又は「HVR」という用語は、「相補性決定領域」又は「CDR」とも呼ばれ、主として抗原との結合に関わる抗体のアミノ酸残基を意味する。これらは通常、重鎖中の3つのHVR(HVR−H1、HVR−H2、及びHVR−H3)、及び軽鎖中の3つのHVR(HVR−L1、HVR−L2、及びHVR−L3)である。いくつかの実施形態においては、超可変領域は軽鎖可変ドメイン中の24〜34位のアミノ酸残基(HVR−L1)、50〜56位のアミノ酸残基(HVR−L2)、及び89〜97位のアミノ酸残基(HVR−L3)、並びに重鎖可変ドメインの31〜35位のアミノ酸残基(HVR−H1)、50〜65位のアミノ酸残基(HVR−H2)及び95〜102位のアミノ酸残基(HVR−H3)を含む(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD.(1991))。HVR−H3は抗体への正確な特異性を付与するための特有の役割を果たすと考えられる。例えばMethods in Molecular Biology 248:1−25(Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ)中のXu et al.(2000) Immunity 13:37−45;Johnson and Wu(2003)を参照されたい。「フレームワーク領域」又は「FR」残基は、本明細書において定義する超可変領域残基以外の、可変ドメインの残基である。
【0054】
抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれる、それぞれが単一の抗原結合部位を有する2つの同一の抗原結合断片と、残りの「Fc」断片を生産し、その名称には容易に結晶化できる能力が反映されている。ペプシン処理によって2つの抗原結合部位を有するF(ab’)2断片が生じ、この断片は依然として抗原を架橋できる。
【0055】
「Fv」は、完全な抗原認識及び抗原結合部位を含む、最小限の抗体断片である。この領域は、密接に非共有結合した、1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインとの二量体からなる。VH−VL二量体の表面上に抗原結合部位を規定するために、各可変ドメインの3つの超可変領域が相互作用するのはこの立体配置である。まとめると、6つの超可変領域が抗体に抗原結合特異性を付与する。しかし、単一の可変ドメイン(すなわち抗原に対して特異的な3つの超可変領域のみを含む、Fvの半分)でさえも、結合部位全体より親和性は低いが、抗原を認識して結合する能力を有する。
【0056】
Fab断片は、軽鎖の定常ドメインと、重鎖の第一定常ドメイン(CH1)も含む。Fab’断片は、抗体のヒンジ領域の1つ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に数残基が付加している点でFab断片と異なる。本明細書におけるFab’−SHとは、定常ドメインのシステイン残基(類)が少なくとも1つの遊離チオール基を有するFab’名である。F(ab’)2抗体断片は、本来、間にヒンジシステインを有するFab’断片対として生産された。抗体断片のその他の化学的カップリングも既知である。
【0057】
任意の脊椎動物種由来の抗体の「軽鎖」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つの明らかに異なる種類のうちの1つに割り当てることができる。
【0058】
「一本鎖Fv」又は「scFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含み、ここで、これらドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。好ましくは、このFvポリペプチドは、このscFvが抗原結合のために所望の構造を形成することを可能にする、VHドメインとVLドメイン間のポリペプチドリンカーをさらに含む。scFvの総説については、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol.113, Rosenburg and Moore eds., Springer−Verlag, New York, pp.269−315(1994)を参照されたい。
【0059】
「二特異性抗体」という用語は、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片を意味し、この断片は、同じポリペプチド鎖中で可変軽鎖ドメイン(VL)に連結した可変重鎖ドメイン(VH)(VH−VL)を含む。同じ鎖上のこれら2つのドメイン間で対形成するには短すぎるリンカーを用いることによって、これらのドメインを別の鎖の相補性ドメインと対形成させて2つの抗原結合部位を生じさせる。二特異性抗体については、例えば、欧州特許公開第404,097号;国際公開第93/11161号;及びHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444−6448(1993)に詳述されている。
【0060】
「ヒト化」形態の非ヒト(例えば、齧歯類)抗体は、非ヒト免疫グロブリンの最小限の配列を含むキメラ抗体である。大抵の場合、ヒト化抗体はレシピエントの超可変領域由来の残基が、所望の特異性、親和性、及び/又は能力を有する、合成抗体又はマウス、ラット、ウサギ、若しくは非ヒト霊長類抗体などの非ヒトドナー抗体の超可変領域由来の残基に置換されている、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合により、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基が、対応する非ヒト残基に置換されている。さらにヒト化抗体は、レシピエント抗体中にもドナー抗体中にも見出されない残基を含み得る。これらの改変は、抗体の性能をさらに向上するために行われる。通常、ヒト化抗体は可変ドメインのうちの少なくとも1つ、典型的には2つを実質的にすべて含む。ここですべての若しくは実質的にすべての超可変ループが非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに相当し、すべて若しくは実質的にすべてのFRがヒト免疫グロブリン配列のFRである。ヒト化抗体は任意に、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのFcも含む。詳細については、Jones et al., Nature 321:522−525(1986);Riechmann et al., Nature 332:323−329(1988);及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593−596(1992)を参照されたい。
【0061】
「裸の抗体」は、(本明細書において定義される通り)細胞毒性部分又は放射性標識などの異種分子と結合していない抗体である。
【0062】
「親和性成熟した」抗体は、変異していない親抗体に比べてその抗体の抗原親和性を改善する1つ以上の変異を、1つ以上の超可変領域に有する抗体である。好ましい親和性成熟した抗体は、標的抗原に対する親和性をナノモル又はピコモルでさえ有する。親和性成熟した抗体は、当該技術分野において既知の方法によって生産される。Marks et al.,Bio/Technology 10:779−783(1992)には、VH及びVLドメインシャフリングによる親和性成熟について記載されている。CDR及び/又はフレームワーク残基のランダム突然変異誘発については、Barbas et al.,Proc Nat. Acad. Sci, USA 91:3809−3813(1994);Schier et al.,Gene 169:147−155(1995);Yelton et al.,J. Immunol. 155:1994−2004(1995);Jackson et al.,J. Immunol. 154(7):3310−9(1995);及びHawkins et al.,J. Mol. Biol. 226:889−896(1992)に記載されている。
【0063】
「アゴニスト抗体」は、受容体に結合してそれを活性化する抗体である。一般に、アゴニスト抗体の受容体活性化能は、その受容体の天然アゴニストリガンドと少なくとも質的に同程度である(及び本質的に量的にも同程度であり得る)。
【0064】
「単離された」抗体は、その天然環境の成分から同定され、分離及び/又は回収された抗体である。その天然環境の混入成分は、その抗体の診断的用途又は治療的用途を妨害する物質であり、それらには、酵素、ホルモン、及びその他のタンパク質様若しくは非タンパク質様の溶質が含まれ得る。特定の態様においては、抗体は、(1)ローリー法によって決定した場合に抗体の95重量%を超えるまで、最も好ましくは99重量%を超えるまで精製されるか、(2)スピニングカップ(spinning cup)シークエネーターの使用により、少なくとも15残基のN末端アミノ酸配列若しくは内部アミノ酸配列を得るのに十分な程度に精製されるか、又は(3)クーマシーブルー若しくは銀染色を用いた、又は好ましくは蛍光染色を用いたCE−SDSによる還元条件若しくは非還元条件下でのSDS−PAGEによって均一になるまで精製され得る。単離された抗体には、抗体の少なくとも1つの天然環境成分が存在しないため、組換え細胞内のin situ抗体が含まれる。しかし通常、単離された抗体は、少なくとも1回の精製工程によって調製される。
【0065】
本明細書において使用する場合の「増殖阻害剤」は、細胞、例えばSTEAP−1を発現している癌細胞の増殖をインビトロ又はインビボのいずれかで阻害する化合物又は組成物を意味する。従って、増殖阻害剤は、S相のSTEAP−1発現細胞のパーセンテージを有意に低減する薬剤であり得る。増殖阻害剤の例には、G1停止及びM相停止を誘導する薬剤などの、細胞周期の進行を(S相以外の位置で)遮断する薬剤を含む。古典的なM相遮断薬には、ビンカ(ビンクリスチン及びビンブラスチン)、タキサン、並びにドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エトポシド、及びブレオマイシンなどのトポII阻害剤がある。G1で停止させる薬剤、例えば、タモキシフェン、プレドニゾン、ダカルバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキサート、5−フルオロウラシル、及びara−CのようなDNAアルキル化剤などは、S相停止にも及ぶ。さらなる情報は、Murakami et al.によるThe Molecular Basis of Cancer, Mendelsohn and Israel, eds., Chapter 1、標題「Cell cycle regulation, oncogenes, and antineoplastic drugs」(WB Saunders: Philadelphia, 1995)の特に13頁に見出すことができる。
【0066】
「アポトーシスを誘導する」抗体は、アネキシンVの結合、DNAの断片化、細胞収縮、小胞体の拡大、細胞の断片化、及び/又は小胞(アポトーシス小体と呼ばれる)の形成によって決定されるプログラム細胞死を誘導する抗体である。この細胞は通常、その抗体が結合する抗原(例えばSTEAP−1)を発現する細胞である。1つの実施形態においては、この細胞は腫瘍細胞である。例えば、ホスファチジルセリン(PS)の移行をアネキシンの結合によって測定することができ;DNAの断片化をDNAラダー形成によって評価することができ;及びDNAの断片化に伴う核/クロマチンの凝縮を低二倍体細胞の増加によって評価することができる。ある実施形態においては、アポトーシスを誘導する抗体は、その抗体が結合する抗原を発現する細胞を用いたアネキシン結合アッセイにおいて、未処理細胞と比較して約2〜50倍、好ましくは約5〜50倍、最も好ましくは約10〜50倍のアネキシン結合を誘導する抗体である。
【0067】
「治療」は、治療法及び予防(prophylactic)若しくは予防(preventative)手段の両方を意味する。治療を必要とする者には、疾患既往者及び疾患を予防すべき者が含まれる。よって、本明細書において治療すべき患者は、疾患を呈すると診断された者又は疾患の素因があるか疾患感受性である者であり得る。
【0068】
「癌」及び「癌性」という用語は、典型的には無秩序な細胞増殖を特徴とする哺乳類における生理的状態を意味するか記述する。癌の例としては、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫(髄芽腫及び網膜芽腫を含む)、肉腫(脂肪肉腫及び滑膜細胞肉腫を含む)、神経内分泌腫瘍(カルチノイド腫瘍、ガストリノーマ、及び膵島細胞癌を含む)、中皮腫、神経鞘腫(聴神経腫を含む)、髄膜腫、腺癌、黒色腫、及び白血病又はリンパ系悪性疾患などが挙げられるが、これらに限定されない。かかる癌のさらに特定の例としては、扁平上皮癌(例えば上皮扁平上皮癌);小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌及び肺扁平上皮癌を含む肺癌;腹膜癌;肝細胞癌;消化管癌を含む胃(gastric)癌若しくは胃(stomach)癌;膵臓癌;膠芽腫;子宮頚癌;卵巣癌;肝癌;膀胱癌;ヘパトーマ;乳癌;結腸癌;直腸癌;直腸結腸癌;子宮内膜癌又は子宮癌;唾液腺癌;腎臓(kidney)癌又は腎臓(renal)癌;前立腺癌;外陰部癌;甲状腺癌;肝癌;肛門癌;陰茎癌;精巣癌;食道癌;胆道腫瘍;並びに頭頚部癌が挙げられる。前立腺癌の具体例としてはアンドロゲン依存性前立腺癌がある。
【0069】
「有効量」という用語は、患者における疾患を治療するのに有効な薬物の量を意味する。その疾患が癌の場合、有効量の薬物は癌細胞数を減少させ;腫瘍の大きさを縮小させ;末梢器官への癌細胞の浸潤を阻害し(すなわち、ある程度遅らせ、好ましくは停止させ);腫瘍の転移を阻害し(すなわち、ある程度遅らせ、好ましくは停止させ);腫瘍の増殖をある程度阻害し;及び/又は癌に関連する1つ以上の症状をある程度軽減することができる。薬物が既存の癌細胞の増殖を(部分的に又は完全に)阻害する及び/又は殺すという点において、その薬物は細胞増殖抑制性及び/又は細胞毒性であり得る。有効量は、無進行生存を延長し、客観的奏効(部分奏効(PR)又は完全奏効(CR)を含む)をもたらし、全生存期間を延長し、及び/又は1つ以上の癌の症状を改善し得る。
【0070】
「STEAP−1を発現している癌」とは、その細胞表面にSTEAP−1タンパク質を有する細胞を含む癌である。STEAP−1を「過剰発現している」癌とは、同じ種類の組織の非癌性細胞と比較して、その細胞表面に有意に高値のSTEAP−1を有する癌である。かかる過剰発現は、遺伝子増幅又は転写若しくは翻訳の増加によって起こり得る。STEAP−1の発現(又は過剰発現)は、細胞表面に存在するSTEAP−1値の増加を評価することによって(例えば免疫組織化学アッセイ;IHCにより)、診断又は予後アッセイで決定することができる。あるいは又は追加して、その細胞中のSTEAP−1をコードする核酸値を、例えば蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH;1998年10月に公開された国際公開第98/45479号を参照)、サザンブロット法、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技法(リアルタイム定量PCR(RT−PCR)など)によって、測定することができる。また、例えば血中循環癌細胞(CTC)の表面に存在するSTEAP−1を検出することによって、血清などの生体液中に存在するSTEAP−1を測定することで、STEAP−1の発現を試験することもできる(Schaffer et al., Clin. Cancer Res. 13:2023−2029(2007) を参照)。上記アッセイの他に、当業者は様々なインビボアッセイを利用することができる。例えば、検出可能なラベル、例えば放射性同位体などで任意に、直接又は間接的に標識した抗体に患者の体内中の細胞を暴露し、その後、例えば放射能を外部スキャンすることにより又は抗体にあらかじめ曝露された患者から採取した生検を分析することにより、患者の細胞と抗体の結合を評価することができる。
【0071】
本明細書中において使用される「細胞毒性薬」という用語は、細胞の機能を阻害若しくは阻止し、及び/又は細胞の破壊を引き起こす物質を意味する。この用語は、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32及びLuの放射性同位体)、化学療法剤、並びに細菌、真菌、植物、若しくは動物由来の小分子毒素若しくはその断片並びに/又は変異体を含む酵素活性毒素を含むことを意味する。
【0072】
「化学療法剤」とは、癌の治療に有用な化学化合物である。化学療法剤の例には、チオテパ及びシクロホスファミド(CYTOXAN(登録商標))などのアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン、及びピポスルファンなどのスルホン酸アルキル類;ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、及びウレドーパ(uredopa)などのアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミド、及びトリメチロールメラミン(trimethylolomelamine)を含むエチレンイミン及びメチラメラミン(methylamelamine);アセトゲニン(特にブラタシン及びブラタシノン(bullatacinone));デルタ−9−テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、MARINOL(登録商標));ベータ−ラパコン;ラパコール;コルヒチン;ベツリン酸;カンプトセシン(合成アナログであるトポテカン(HYCAMTIN(登録商標))、CPT−11(イリノテカン、CAMPTOSAR(登録商標))、アセチルカンプトテシン、スコポレクチン(scopolectin)、及び9−アミノカンプトテシンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC−1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン、及びビゼレシン合成アナログを含む);ポドフィロトキシン;ポドフィリン酸(podophyllinic acid);テニポシド;クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;ズオカルマイシン(合成アナログKW−2189及びCB1−TM1を含む);エロイテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンギスタチン;クロラムブシル、クロルナファジン、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベンビキン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、及びラニムスチン(ranimnustine)などのニトロソ尿素;エンジイン抗生物質などの抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特に、カリケアマイシンガンマ1I及びカリケアマイシンオメガI1(例えば、Agnew, Chem Intl. Ed. Engl., 33:183−186(1994)参照));ジネマイシンAを含むジネマイシン;エスペラマイシン;並びに、ネオカルチノスタチン発色団及び関連色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウトラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルチノフィリン、クロモマイシン(chromocycinis)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン(ADRIAMYCIN(登録商標)、モルホリノ−ドキソルビシン、シアノモルホリノ−ドキソルビシン、2−ピロリノ−ドキソルビシン、ドキソルビシンHClリポソーム注射液(DOXIL(登録商標))、リポソームドキソルビシンTLC D−99(MYOCET(登録商標))、PEG化リポソームドキソルビシン(CAELYX(登録商標))、及びデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシンCなどのマイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;メトトレキサート、ゲムシタビン(GEMZAR(登録商標))、テガフール(UFTORAL(登録商標))、カペシタビン(XELODA(登録商標))、エピチロン、及び5−フルオロウラシル(5−FU)などの代謝拮抗物質;フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニンなどのプリンアナログ;アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロキシウリジンなどのピリミジンアナログ;アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタンなどの抗副腎剤;フロリニン酸(frolinic acid)などの葉酸補給剤;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキサート(edatraxate);デホファミン(defofamine);デメコルシン;ジアジクオン;エルホルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニン;メイタンシン及びアンサミトシンなどのメイタンシノイド;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール(mopidanmol);ニトラエリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン;2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖複合体(JHS Natural Products, Eugene, OR);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2’,2’’−トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特にT−2毒素、ベラクリン(verracurin)A、ロリジンA及びアングイジン);ウレタン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara−C」);チオテパ;タキソイド、例えば、パクリタキセル(TAXOL(登録商標))、パクリタキセルのアルブミン加工ナノ粒子製剤(ABRAXANE(商標))、及びドセタキセル(TAXOTERE(登録商標));クロランブシル;6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;シスプラチン、オキサリプラチン、及びカルボプラチンなどのプラチナ剤;ビンブラスチン(VELBAN(登録商標))、ビンクリスチン(ONCOVIN(登録商標))、ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標))、及びビノレルビン(NAVELBINE(登録商標))を含む、微小管形成からチューブリン重合を阻止するビンカ;エトポシド(VP−16);イホスファミド;ミトキサントロン;ロイコボビン(leucovovin);ノバントロン;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;イバンドロネート;トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);ベキサロテン(TARGRETIN(登録商標))を含めたレチノイン酸などのレチノイド;クロドロネート(例えば、BONEFOS(登録商標)又はOSTAC(登録商標))、エチドロネート(DIDROCAL(登録商標))、NE−58095、ゾレドロン酸/ゾレドロネート(ZOMETA(登録商標))、アレンドロネート(FOSAMAX(登録商標))、パミドロネート(AREDIA(登録商標))、チルドロネート(SKELID(登録商標))、又はリセドロネート(ACTONEL(登録商標))などのビスホスフォネート;トロキサシタビン(1,3−ジオキソランヌクレオシドシトシンアナログ);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に異常な細胞増殖に関係づけられているシグナル伝達経路における遺伝子発現、例えばPKC−アルファ、Raf、H−Ras、及び上皮成長因子受容体(EGF−R)を阻害するもの;THERATOPE(登録商標)ワクチン並びに遺伝子治療用ワクチン、例えばALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチン、及びVAXID(登録商標)ワクチンなどのワクチン;トポイソメラーゼ1阻害剤(例えばLURTOTECAN(登録商標));rmRH(例えば、ABARELIX(登録商標));BAY439006(ソラフェニブ;Bayer);SU−11248(Pfizer);ペリホシン、COX−2阻害剤(例えば、セレコキシブ又はエトリコキシブ)、プロテオソーム阻害剤(例えば、PS341);ボルテゾミブ(VELCADE(登録商標));CCI−779;チピファルニブ(R11577);オラフェニブ(orafenib)、ABT510;オブリマーセン(oblimersen)ナトリウム(GENASENSE(登録商標))などのBcl−2阻害剤;ピクサントロン;EGFR阻害剤(下記定義参照);チロシンキナーゼ阻害剤(下記定義参照);並びに上記いずれかの薬学的に許容できる塩、酸若しくは誘導体;並びにCHOP、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、及びプレドニゾロンの併用療法についての略語、及びFOLFOX、5−FU及びロイコボリンと組み合わせたオキサリプラチン(ELOXATIN(商標))を用いた治療方式についての略語、などの、上記のうち2つ以上の組み合わせがある。
【0073】
本定義にはまた、腫瘍におけるホルモン作用を制御又は阻害する抗ホルモン剤も含まれ、これらの抗ホルモン剤としては、タモキシフェン(NOLVADEX(登録商標)、4−ヒドロキシタモキシフェン、トレミフェン(FARESTON(登録商標))、イドキシフェン、ドロロキシフェン、ラロキシフェン(EVISTA(登録商標))、トリオキシフェン、ケオキシフェン(keoxifene)、及びSERM3などの選択的エストロゲンレセプターモデュレータ(SERM)を含む、混合されたアゴニスト/アンタゴニストプロファイルを有する抗エストロゲン;フルベストラント(FASLODEX(登録商標))及びEM800(これら薬剤はエストロゲンレセプター(ER)の二量体化を遮断し、DNA結合を阻害し、ERのターンオーバーを増加させ、かつ/又はER値を抑制する)などのアゴニスト特性を有さない純粋な抗エストロゲン剤;フォルメスタン及びエキセメスタン(AROMASIN(登録商標)などのステロイド系アロマターゼ阻害剤、アナストラゾール(ARIMIDEX(登録商標))、レトロゾール(FEMARA(登録商標))及びアミノグルテチミドなどの非ステロイド系アロマターゼ阻害剤、並びにボロゾール(RIVISOR(登録商標))、酢酸メゲストロール(MEGASE(登録商標))、ファドロゾール、イミダゾールを含むその他のアロマターゼ阻害剤を含む、アロマターゼ阻害剤;ロイプロリド(LUPRON(登録商標)及びELIGARD(登録商標))、ゴセレリン、ブセレリン、及びトリプテレリン(tripterelin)を含む黄体形成ホルモン放出ホルモンアゴニスト;酢酸メゲストロール及び酢酸メドロキシプロゲステロンなどのプロゲスチン、ジエチルスチルベストロール及びプレマリンなどのエストロゲン、並びにフルオキシメステロン、すべてのトランスレチノイン酸及びフェンレチニドなどのアンドロゲン/レチノイドを含む性ステロイド剤;オナプリストン;;抗プロゲステロン剤;エストロゲン受容体ダウンレギュレータ(ERD);フルタミド、ニルタミド及びビカルタミドなどの抗アンドロゲン剤;テストラクトン;並びに上記いずれかの薬学的に許容できる塩、酸又は誘導体;並びに上記のうち2つ以上の組み合わせである。
【0074】
II.製剤のための抗体及び免疫抱合体
(A)方法及び組成物
1つの様態においては、本発明に従って調製された治療用タンパク質はAsp−Aspモチーフを含むタンパク質である。1つの実施形態においては、この治療用タンパク質は抗体又は免疫抱合体である。かかる抗体及び免疫抱合体は下記のように例示される。
【0075】
(i)抗体の選択と調製
好ましくは、抗体が結合するその抗原はタンパク質であり、疾患又は障害を患う哺乳動物へのその抗体の投与がその哺乳動物に治療上の利益をもたらすことができる。しかし、非ポリペプチド抗原に対する抗体(腫瘍関連糖脂質抗原など;米国特許第5,091,178号参照)も考えられている。
【0076】
その抗原がポリペプチドである場合、その抗原は膜貫通分子(例えば受容体)又は成長因子などのリガンドであり得る。抗原の例としては、レニン;ヒト成長ホルモン及びウシ成長ホルモンを含む成長ホルモン;成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;アルファ−1−アンチトリプシン;インスリンA鎖;インスリンB鎖;プロインスリン;濾胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;第VIIIC因子、第IX因子、組織因子(TF)、及びフォンビルブラント因子などの凝固因子;プロテインCなどの抗凝固因子;心房性ナトリウム利尿因子;肺サーファクタント;ウロキナーゼすなわちヒト尿プラスミノーゲン活性化因子又はヒト組織プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)などのプラスミノーゲン活性化因子;ボンベシン;トロンビン;造血成長因子;腫瘍壊死因子−アルファ及びベータ;エンケファリナーゼ;RANTES(regulated on activation normally T−cell expressed and secreted);ヒトマクロファージ炎症タンパク質(MIP−1−アルファ);ヒト血清アルブミンなどの血清アルブミン;ミューラー阻害物質;レラクシンA鎖;レラクシンB鎖;プロレラクシン;マウス性腺刺激ホルモン関連ペプチド;ベータ−ラクタマーゼなどの微生物タンパク質;DNase;IgE;CTLA−4などの細胞傷害性Tリンパ球関連抗原(CTLA);インヒビン;アクチビン;血管内皮成長因子(VEGF);ホルモン又は成長因子に対するレセプター;プロテインA又はD;リウマチ因子;骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3、−4、−5、若しくは6(NT−3、NT−4、NT−5、若しくはNT−6)などの神経栄養因子又はNGF−bなどの神経成長因子;血小板由来成長因子(PDGF);aFGF及びbFGFなどの線維芽細胞成長因子;上皮成長因子(EGF);TGF−b1、TGF−b2、TGF−b3、TGF−b4、又はTGF−b5を含むTGF−アルファ及びTGF−ベータなどのトランスフォーミング成長因子(TGF);TNF−アルファ又はTNF−ベータなどの腫瘍壊死因子(TNF);インスリン様成長因子−I及びII(IGF−I及びIGF−II);デス(1−3)IGF−I(脳IGF−I)、インスリン様成長因子結合タンパク質;CD3、CD4、CD8、CD19、CD20、CD22及びCD40などのCDタンパク質;エリスロポエチン;骨誘導因子;抗毒素;骨形態形成タンパク質(BMP);インターフェロン−アルファ、−ベータ、−ガンマなどのインターフェロン;例えばM−CSF、GM−CSF、及びG−CSFなどのコロニー刺激因子(CSF);例えばIL−I、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9及びIL−10などのインターロイキン(IL);スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞受容体;表面膜タンパク質;崩壊促進因子;例えばAIDSエンベロープ部分などのウイルス抗原;輸送タンパク質;ホーミング受容体;アドレシン;調節タンパク質;CD11a、CD11b、CD11c、CD18、ICAM、VLA−4及びVCAMなどのインテグリン;HER2、HER3又はHER4受容体などの腫瘍関連抗原;並びに上記ポリペプチドのうちの任意の断片などの分子がある。
【0077】
本発明に包含される抗体の分子標的の例としては、CD3、CD4、CD8、CD19、CD20、CD22、CD34及びCD40などのCDタンパク質;EGF受容体、HER2、HER3又はHER4受容体などのErbB受容体ファミリーのメンバー;CD20又はBR3などのB細胞表面抗原;DR5を含む腫瘍壊死受容体スーパーファミリーのメンバー;例えばアネキシン2、カドヘリン−1、Cav−1、Cd34、CD44、EGFR、EphA2、ERGL、Fas、ヘプシン、HER2、KAI1、MSR1、PATE、PMEPA−1、プロスタシン、プロステイン、PSCA、PSGR、PSMA、RTVP−1、ST7、STEAP−1、STEAP−2、TMPRSS2、TRPM2、及びTrp−p8などの前立腺細胞表面抗原;LFA−1、Mac1、p150.95、VLA−4、ICAM−1、VCAM、アルファ4/ベータ7インテグリン、及びそのアルファ又はベータサブユニットのいずれかを含むアルファv/ベータ3インテグリン(例えば、抗CD11a、抗CD18又は抗CD11b抗体)などの細胞接着分子;VEGFなどの成長因子及びその受容体;組織因子(TF);TNF−アルファ又はTNF−ベータなどの腫瘍壊死因子(TNF);アルファインターフェロン(アルファ−IFN);IL−8などのインターロイキン;IgE;血液型抗原;flk2/flt3受容体;肥満(OB)受容体;mpl受容体;CTLA−4;プロテインCなどがある。
【0078】
他の分子に結合し得る可溶性抗原又はその断片を、抗体を生成するための免疫原として使用することができる。受容体などの膜貫通分子については、これらの断片(例えば、受容体の細胞外ドメイン)を免疫原として使用することができる。あるいは、膜貫通分子を発現している細胞を免疫原として使用することもできる。この細胞は、天然供給源(例えば、癌細胞株)由来であってもよく、膜貫通分子を発現させるために組換え技術によって形質転換された細胞であってもよい。抗体の調製に有用な他の抗原及びその形態は、当業者に明らかであろう。
【0079】
抗STEAP−1抗体の生産のためのSTEAP−1抗原は、例えばSTEAP−1の可溶性型、STEAP−1の細胞外ループ、又は所望のエピトープを含有するその部分であり得る。あるいは、細胞表面にSTEAP−1を発現している細胞(例えばSTEAP−1をコードするベクターを用いて形質転換した293T細胞)を抗体生産に用いることもできる(例えばChallita−Eid et al. Cancer Res. 67:5798−805(2007)を参照)。
【0080】
(ii)モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、実質的に均一な抗体の集団から得られ、つまり、その集団を含む個々の抗体は、モノクローナル抗体の産生中に生じ得る可能性のある変異体を除いて、同一及び/又は同じエピトープと結合する。従って、修飾「モノクローナル」とは、別個の抗体の混合物ではない抗体の特徴を示す。
【0081】
例えば、モノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature, 256:495(1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法を用いて、又は組換えDNA法(米国特許第4,816,567号)によって作製することができる。ハイブリドーマ法において、マウス、又はハムスターなどのその他の適した宿主動物を、免疫を与えるために使用されたタンパク質に特異的に結合する抗体を生産する、又は生産できるリンパ球を誘発させるために本明細書の上記のように免疫する。あるいは、リンパ球をインビトロで免疫化する場合もある。リンパ球をその後、ハイブリドーマ細胞を形成するために、ポリエチレングリコールなどの適切な融合剤を用いて骨髄腫細胞と融合させる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp.59−103(Academic Press, 1986))。
【0082】
このようにして調製したハイブリドーマ細胞を、好ましくは未融合の親骨髄腫細胞の増殖又は生存を阻害する1つ以上の物質を含有する適切な培地に播種し、増殖させる。例えば、親骨髄腫細胞が酵素のヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠失している場合、ハイブリドーマ用の培地は、典型的には、HGPRT損失細胞の増殖を阻止する物質である、ヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジンを含む(HAT培地)。
【0083】
好ましい骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択される抗体生産細胞によって抗体の安定な高値の生産を持続させ、かつHAT培地などの培地に感受性の細胞である。これらのうちの好ましい骨髄腫細胞株は、Salk Institute Cell Distribution Center, San Diego, California USAから入手できるMOPC−21及びMPC−11、並びにAmerican Type Culture Collection, Rockville, Maryland USAから入手できるSP−2又はX63−Ag8−653細胞などのマウス腫瘍由来の細胞株である。ヒトモノクローナル抗体の生産のためのヒト骨髄腫細胞株及びマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞株については記載されている(Kozbor, J. Immunol., 133:3001(1984);及びBrodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp.51−63(Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0084】
抗原に対するモノクローナル抗体の生産をハイブリドーマ細胞が増殖している培地を用いてアッセイする。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により生産されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降又はラジオイムノアッセイ(RIA)若しくは酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)などのインビトロ結合アッセイによって決定される。モノクローナル抗体の結合親和性は、例えばMunson et al., Anal. Biochem., 107:220(1980)のスキャッチャード解析によって決定することができる。
【0085】
所望の特異性、親和性、及び/又は活性を有する抗体を生産するハイブリドーマ細胞を同定した後に、限界希釈法によりそのクローンをサブクローニングして、標準的な方法により生育させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp.59−103(Academic Press, 1986))。この目的に適した培地には、例えば、D−MEM又はRPMI−1640培地がある。さらに、このハイブリドーマ細胞は、動物における腹水腫瘍としてインビボで増殖させることができる。このサブクローンによって分泌されたモノクローナル抗体は、例えば、プロテインA−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又は親和性ークロマトグラフィーなどの従来からの抗体精製手法によって培地、腹水、又は血清から適切に分離される。
【0086】
モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を使用して(例えば、マウス抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に単離され、配列が決定される。ハイブリドーマ細胞は、このDNAの好ましい供給源として用いられる。組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体を合成するため、そのDNAは一旦単離後は発現ベクター中に配置してよく、次にその発現ベクターは、E.coli細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は別の状況では抗体タンパク質を産生しない骨髄腫細胞などの宿主細胞に導入される。抗体をコードするDNAを細菌中で組換え発現させることの総説については、Skerra et al., Curr. Opinion in Immunol, 5:256−262(1993)及びPluckthun, Immunol. Revs., 130:151−188(1992)がある。
【0087】
さらなる実施形態においては、モノクローナル抗体又は抗体断片は、例えばMcCafferty et al., Nature, 348:552−554(1990)に記載されている技術を用いて抗体ファージライブラリーから単離することができる。Clackson et al. Nature, 352:624−628(1991)及びMarks et al. J. Mol. Biol., 222:581−597(1991)にはファージライブラリーを用いたマウス及びヒト抗体それぞれの単離について記載されている。鎖シャッフリング(Marks et al., Bio/Technology, 10:779−783(1992))並びに非常に大きなファージライブラリを構築するための感染及びインビボ組換えの併用(Waterhouse et al., Nuc. Acids. Res., 21:2265−2266(1993))による高親和性(nM範囲の)ヒト抗体の生産について記載されている。これらの技術は、モノクローナル抗体を単離するための従来のハイブリドーマ技術への実行可能な代替法である。
【0088】
DNAはまた、例えばヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード配列をマウスの相同配列と置き換えることで、又は免疫グロブリンのコード配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列のすべて又は部分を共有的に連結することによって改変もできる(米国特許第4,816,567号;及びMorrison, et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA, 81:6851(1984))。典型的には、かかる非免疫グロブリンポリペプチドは抗体の定常ドメインと置換され、又はかかる非免疫グロブリンポリペプチドは、ある抗原に対する特異性を有する1つの抗原結合部位と、異なる抗原に対する特異性を有する別の抗原結合部位とを含むキメラ二価抗体を生み出すために、抗体の抗原結合部位の各種ドメインと置換される。
【0089】
モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖、又はその部分のアミノ酸配列は、例えば相当するDNA配列に由来し得る。例えば、このVH、VL、及び/又は1つ以上のHVRのアミノ酸配列を用い得る。
【0090】
(iii)ヒト化抗体
非ヒト抗体をヒト化するための方法については、当該技術分野において記載されている。好ましくは、ヒト化抗体は、非ヒト供給源から導入された1つ以上のアミノ酸残基をその抗体に有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、典型的には「インポート(import)」可変ドメインから取り入れられ、しばしば「インポート」残基と称される。ヒト化は本質的に、Winter及び共同研究者らの方法(Jones et al., Nature, 321:522−525(1986);Riechmann et al., Nature, 332:323−327(1988);Verhoeyen et al., Science, 239:1534−1536(1988))に従ってヒト抗体の対応配列を超可変領域の配列に置換することによって行うことができる。従って、かかる「ヒト化」抗体は、非ヒト種由来の対応する配列に置換されているインタクトのヒト可変ドメインよりも実質的に小さい、キメラ抗体(米国特許第4,816,567号)である。実際には、ヒト化抗体は、典型的には、一部の超可変領域残基と、おそらく一部のFR残基とが、齧歯類抗体の類似部位由来の残基に置換されているヒト抗体である。
【0091】
ヒト化抗体を作製する際に使用される、軽鎖と重鎖の両方のヒト可変ドメインの選択は、抗原性を低減するために非常に重要である。いわゆる「ベストフィット」法により、齧歯類抗体の可変ドメインの配列を、既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。その後、その齧歯類の配列に最も近似したヒト配列を、ヒト化抗体に対するヒトフレームワーク領域(FR)とする(Sims et al., J. Immunol., 151:2296(1993);Chothia et al., J. Mol. Biol., 196:901(1987))。別の方法では、特定のサブグループに属する軽鎖又は重鎖の全ヒト抗体の共通配列に由来する特定のフレームワーク領域を使用する。同じフレームワークを複数の異なるヒト化抗体に使用することができる(Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285(1992);Presta et al., J. Immunol., 151:2623(1993))。
【0092】
ある実施形態においては、抗体は、抗原に対する高い親和性及び他の好都合な生物学的特性を保持してヒト化される。この目標を実現するために、1つの実施形態においては、ヒト化抗体は、親配列及び様々な概念上のヒト化産物を、親及びヒト化配列の三次元モデルを用いて解析する過程により調製される。三次元免疫グロブリンモデルは一般に使用可能であり、当業者に周知である。選択される候補免疫グロブリン配列の予測される三次元立体構造を図示し、表示するコンピュータプログラムも使用可能である。これらの表示を調査することが、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の予測される役割の解析を可能にする、すなわち候補免疫グロブリンがその抗原に結合する能力における残基の影響が解析できる。従って、標的抗原への親和性の向上などの求められる抗体の特徴を達成するために、FR残基をレシピエント及びインポート配列から選択し、組み合わせることができる。通常、超可変領域残基は直接的に、及び最も実質的に抗原結合への影響に関与している。
【0093】
本明細書においてヒト化抗体は、例えば、ヒト重鎖可変ドメインに組み入れられた非ヒト超可変領域残基を含み、これらにKabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD(1991)に述べられた可変ドメイン番号付与システムを利用して69H、71H及び73Hからなる群より選択される位置にフレームワーク領域(FR)の置換を含み得る。1つの実施形態においては、ヒト化抗体は69H、71H及び73Hの位置のすべて又はそのうちの2つにFR置換を含む。
【0094】
本明細書において特に目的のヒト化抗体はSTEAP−1に結合し、かつAsp−Aspモチーフを含む。国際公開第2008/052187号において、HVR−H3中にAsp−Aspモチーフを有するヒト化STEAP−1抗体の例が記載されている。かかる抗体のVH及びVLのアミノ酸配列(HVRを含む)を本明細書において提供する。国際公開第2008/052187号に記載されているかかる抗体のすべての実施形態は、参照により本明細書に明らかに組み込まれる。
【0095】
本特許出願は、本明細書に記載したいずれの抗体由来の親和性成熟した抗体も考慮し、かかる親和性成熟した抗体は好ましくはAsp−Aspモチーフを含む。親抗体は、本明細書に記載したヒト抗体又はヒト化抗体であり得る。ヒト化抗体及び親和性成熟した抗体の様々な形態も考慮する。例えば、ヒト化抗体及び親和性成熟した抗体は、免疫抱合体を生成するために定常領域と結合している及び/又は1つ以上の細胞毒性薬と結合し得る、Fabのような抗体断片であってもよい。あるいは、ヒト化抗体及び親和性成熟した抗体は、免疫抱合体を生成するために1つ以上の細胞毒性薬と結合している、完全長IgG1抗体のような完全長抗体であってもよい。
【0096】
(iv)ヒト抗体
ヒト化の代わりとして、ヒト抗体を生成することができる。例えば現在では、免疫化に際して内生免疫グロブリン生産の非存在下でヒト抗体の完全なレパートリーを生産することができる形質転換動物(例えばマウス)を生産することができる。例えば、キメラ及び生殖細胞変異体マウス中の抗体重鎖連結領域(JH)遺伝子のホモ接合性欠失が内生抗体生産の完全な阻害を生じることが記載されている。かかる生殖細胞変異体マウス中へのヒト生殖細胞免疫グロブリン遺伝子アレイの転移は、抗原投与に際してヒト抗体の生産を生じる。例えば、Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2551(1993);Jakobovits et al., Nature, 362:255−258(1993);Bruggermann et al., Year in Immuno., 7:33(1993);又は米国特許第5,591,669号、第5,589,369号及び第5,545,807号を参照されたい。
【0097】
あるいは、免疫化されていないドナー由来の免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからインビトロでヒト抗体及び抗体断片を生産するために、ファージディスプレイ法(McCafferty et al., Nature 348:552−553(1990))を使用することができる。この技術に従って、抗体Vドメイン遺伝子は、M13又はfdのような糸状バクテリオファージの主又は副のいずれかの外套タンパク質中にインフレームでクローニングされて、ファージ粒子の表面上に機能的な抗体断片が検出される。糸状粒子がファージゲノムの一本鎖DNAのコピーを含むため、抗体の機能特性に基づく選択は、それらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択も生じる。従って、このファージはB細胞の特性のいくらかを模倣する。ファージディスプレイ法は様々な形式で行うことができる。それらの総説については、例えばJohnson, Kevin S. and Chiswell, David J., Current Opinion in Structural Biology 3:564−571(1993)を参照されたい。V遺伝子セグメントの複数の供給源をファージディスプレイ法に使用することができる。Clackson et al., Nature, 352:624−628(1991)は免疫下マウスの脾臓由来のV遺伝子の小さいランダムな組み合わせライブラリーから抗オキサゾロン抗体の多様なアレイを単離した。免疫されていないヒトドナーからのV遺伝子のレパートリーの構築、及び抗原の多様なアレイに対する抗体の単離は、本質的にMarks et al.,J. Mol. Biol. 222:581−597(1991)、又はGriffith et al., EMBO J. 12:725−734(1993)の技術に従って行うことができる。米国特許第5,565,332号及び米国特許第5,573,905号も参照されたい。ヒト由来のファージディスプレイライブラリーから選択されるFv可変ドメイン配列は、上記の既知のヒト定常ドメイン配列と連結することができる。上記で考察したように、ヒト抗体はインビトロで活性化B細胞から生成することも可能である(米国特許第5,567,610号及び第5,229,275号を参照)。
【0098】
(v)抗体断片
抗体断片を生産するために、様々な方法が開発されている。従来は、これらの断片は完全長抗体のタンパク質分解に由来した(例えば、Morimoto et al., Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24: 107−117(1992);及びBrennan et al., Science, 229:81(1985)を参照)。しかし、これらの断片は現在では組換え宿主細胞から直接生産することができる。例えば、抗体断片は、上記で考察した抗体ファージライブラリーから単離することができる。あるいは、Fab’−SH断片は、E.coliから直接回収することも、F(ab’)2断片から化学的にカップリングすることもできる(Carter et al., Bio/Technology 10:163−167(1992))。別のアプローチに従って、F(ab’)2断片を組換え宿主細胞培養から直接単離することもできる。抗体断片を生産するためのその他の技術は当業者には明白であろう。別の実施形態においては、選択される抗体は一本鎖Fv断片である(scFv)。国際公開第93/16185号;米国特許第5,571,894号;及び第5,587,458号を参照されたい。この抗体断片は、例えば米国特許第5,641,870号に記載されているように、線状抗体でもあり得る。かかる線状抗体断片は単一特異性又は二重特異性であり得る。
【0099】
(vi)二重特異性抗体
二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有する抗体である。例となる二重特異性抗体は、STEAP−1タンパク質の2つの異なるエピトープに結合し得る。その他のこれら抗体はSTEAP−1結合部位に、例えばアネキシン2、カドヘリン−1、Cav−1、Cd34、CD44、EGFR、EphA2、ERGL、Fas、ヘプシン、HER2、KAI1、MSR1、PATE、PMEPA−1、プロスタシン、プロステイン、PSCA、PSGR、PSMA、RTVP−1、ST7、STEAP−2、TMPRSS2、TRPM2、及びTrp−p8などのその他の前立腺細胞表面抗原への結合部位を結合させたものであり得る(前立腺細胞表面抗原の例については、例えばTricoli et al. Cancer Res. 10:3943−3953(2004)を参照)。あるいは、STEAP−1アームはT細胞受容体分子(例えば、CD2若しくはCD3)又はIgGのFc受容体(FcγR)(FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)及びFcγRIII(CD16)など)のような白血球上のトリガー分子に結合しているアームと連結し得、これにより、STEAP−1を発現している細胞への細胞抵抗機構に関与している。二重特異性抗体はSTEAP−1を発現している細胞に細胞毒性薬を局在させるために使用し得る。これらの抗体はSTEAP−1結合アームを細胞毒性薬(サポリン、抗インターフェロン−α、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキサート、又は放射性同位体ハプテン)に結合するアームを有する。二重特異性抗体は完全長抗体又は抗体断片(例えばF(ab’)2二重特異性抗体)として調製することができる。
【0100】
二重特異性抗体を生産する方法は当該技術分野において周知である。従来の完全長二重特異性抗体の生産は、2本の鎖が異なる特異性を有する、2つの免疫グロブリン重鎖、軽鎖対の共発現に基づいている(Millstein et al., Nature, 305:537−539(1983))。同様の方法は国際公開第93/08829号及びTraunecker et al., EMBO J., 10:3655−3659(1991)に開示されている。異なるアプローチに従って、所望の結合特異性(抗体抗原結合部位)を有する抗体可変ドメインが免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合される。この融合は好ましくは、ヒンジ、CH2、及びCH3領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインを有する。軽鎖との結合に必要な部位を含む第一重鎖定常領域(CH1)を、その融合のうちの少なくとも1つに有することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合をコードするDNAと、必要な場合、免疫グロブリン軽鎖が、別の発現ベクター中に挿入されて、適した宿主生物中に同時に導入される。これにより、構築において3本のポリペプチド鎖を同じ率で使用することにより最適な収量が得られる場合には、実施形態中の3つのポリペプチド断片の相互の割合を調製することによって高い柔軟性が得られる。しかし、同率の少なくとも2本のポリペプチド鎖の発現が高収率を生む場合や、使用率が特に効果を示さない場合には、ポリペプチド鎖3本のうち2本又はすべてをコードする配列を1つの発現ベクターに挿入することも可能である。
【0101】
このアプローチにおける好ましい実施形態においては、この二重特異性抗体は、第一の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖を有するアームと、ハイブリッド免疫グロブリン重−軽鎖対(第二の結合特異性を提供する)を有する別のアームとを含む。この非対称構造は、免疫グロブリン軽鎖が二重特性分子の片方のみに存在して分離が容易となることから、所望の二重特異性化合物を目的としていない免疫グロブリン鎖の組み合わせからの分離を促進する。このアプローチは国際公開第94/04690号に開示されている。二重特異性抗体の生成の詳細については、例えばSuresh et al., Methods in Enzymology, 121:210(1986)を参照されたい。
【0102】
米国特許第5,731,168号に記載されている別のアプローチに従って、抗体分子対の間の界面を操作して、組換え細胞培養からのヘテロ二量体の回収率を最大化することができる。好ましい界面は、抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、一次抗体の界面由来の1本以上の小さなアミノ酸側鎖が大きな側鎖(例えば、チロシン又はトリプトファン)と置換される。大きな側鎖を小さなアミノ酸側鎖(例えば、アラニン又はトレオニン)と置換することにより、二次抗体の界面上に大きな側鎖と同一又は同程度の大きさの代償的な「空洞」が形成される。これは、ホモ二量体などのその他の望まれない最終産物に比べてヘテロ二量体の収率を増加させるメカニズムを提供する。
【0103】
二重特異性抗体は架橋又は「ヘテロ抱合体」抗体を含む。例えばヘテロ抱合体に含まれる抗体の1つとしては、一方がアビジンにカップリングし、他方がビオチンにカップリングしたものがあり得る。かかる抗体は、例えば、目的としていない細胞に免疫系細胞を標的化するために(米国特許第4,676,980号)、及びHIV感染の治療のために(国際公開第91/00360号、国際公開第92/200373号、及び欧州特許公開第03089号)提唱されている。ヘテロ抱合体抗体はいずれかの適切な架橋方法を用いて作製することができる。適切な架橋剤は当該技術分野において周知であり、いくつかの架橋技術と共に米国特許第4,676,980号に開示されている。
【0104】
抗体断片から二重特異性抗体を生成する技術は文献にも記載されている。例えば特異性抗体は化学的結合を用いて調製することができる。Brennan et al., Science, 229: 81(1985)には、F(ab’)2断片を生成するために完全長抗体をタンパク質分解的に開裂する方法について記載されている。これらの断片は、隣接するジチオールを安定化して、分子間ジスルフィド形成を阻止するジチオール錯化剤である亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元される。生成されたF(ab’)2断片はその後、チオニトロ安息香酸(TNB)誘導体に変換される。Fab’−TNB誘導体のうちの1つがその後、メルカプトエチルアミンと共にFab’−チオールへ再変換されて、二重特異性抗体を形成させるために、等モル量のその他のFab’−TNB誘導体と混合される。生産された二重特異性抗体は酵素の選択的固定化のために使用することができる。
【0105】
近年の進歩によって、二重特異性抗体を形成するために化学的に結合できるFab’−SH断片を、E.coliから直接回収することが容易になった。Shalaby et al., J. Exp. Med., 175: 217−225(1992)には完全にヒト化した二重特異性抗体F(ab’)2分子の生産について記載されている。それぞれのFab’断片を別々にE.coliから分泌させ、二重特異性抗体を形成させるために、直接インビトロで化学的に結合させる。このようにして形成された二重特異性抗体はHER2受容体及び正常なヒトT細胞を過剰発現している細胞に結合し、並びにヒト胸部腫瘍標的に対するヒト細胞毒性リンパ球の溶解活性のトリガーとなることができる。組換え細胞培養から直接二重特異性抗体断片を生産し、単離する様々な技術も記載されている。例えば二重特異性抗体はロイシンジッパーを用いて生産された。Kostelny et al., J. Immunol., 148(5):1547−1553(1992)。Fos及びJunタンパク質由来のロイシンジッパーペプチドを遺伝子融合によって、2つの異なる抗体のFab’部分に連結した。抗体ホモ二量体は、単量体を形成するためにヒンジ領域で還元され、その後抗体ヘテロ二量体を形成するために再度酸化された。この方法は抗体ホモ二量体の生産にも利用することができる。、Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444−6448(1993)に記載されている「二重特異性抗体」技術は、二重特異性抗体断片を生産する別のメカニズムも提供した。この断片は、同一鎖上の2つのドメイン間で対形成するには短すぎるリンカーによって軽鎖可変ドメイン(VL)に連結した重鎖可変ドメイン(VH)を含む。従って、一断片のVHドメイン及びVLドメインは、別の断片の相補性VLドメイン及びVHドメインと対形成せざるを得ず、それによって、2つの抗原結合部位を形成する。二重特異性抗体断片を単鎖Fv(sFv)二量体の使用によって作製するための別の戦略も報告されている。Gruber et al., J. Immunol., 152:5368(1994)を参照されたい。
【0106】
二価超の結合価を有する抗体についても意図される。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tutt et al., J. Immunol. 147: 60(1991)。
【0107】
(vii)その他のアミノ酸配列の改変
本明細書に記載された抗体のアミノ酸配列の変異についても意図される。例えば、抗体の結合親和性及び/又は生物学的特性が改善することが所望の場合もある。抗体のアミノ酸配列変異体は抗体をコードする核酸中に適切なヌクレオチドの変異を導入すること、又はペプチド合成によって調製することができる。かかる改変は、例えば抗体のアミノ酸配列における残基からの欠失、及び/又はそれら残基への挿入、及び/又はそれら残基の置換を含む。欠失、挿入及び置換のいずれの組み合わせも最終構築物を得るために作製される。提供された最終構築物は、所望の特徴を有する。アミノ酸変異はまた、グリコシル化部位の数又は位置の変化などの抗体の翻訳後プロセッシングも変化し得る。
【0108】
突然変異生成における好ましい位置である、抗体の特定の残基又は領域を同定するために有用な方法は、Cunningham and Wells Science, 244:1081−1085(1989)に記載されているように、「アラニンスキャニング突然変異生成」と呼ばれる。ここでは、アミノ酸と抗原、例えばSTEAP−1抗原との相互作用に影響を及ぼすために、標的残基の残基又は基が同定され(例えば、arg、asp、his、lys、及びgluなどの荷電した残基)、中性又は陰性に荷電したアミノ酸(最も好ましくはアラニン又はポリアラニン)によって置換された。置換への機能的な感受性を示すそれらのアミノ酸の位置は、その後さらなる又はその他変異を置換位置に、又は置換位置中に導入することによって、改良される。従って、アミノ酸配列変異が導入される位置はあらかじめ決められているが、その変異自身の性質をあらかじめ決めておく必要はない。例えば、所定の位置で生じた変異の機能を解析するために、アラニンスキャニング又はランダム突然変異生成が標的コドン又は領域で行われ、発現している抗体変異体が所望の活性のためにスクリーニングされる。
【0109】
アミノ酸配列挿入は、1残基から100以上の残基を含むポリペプチドまでの長さにおよぶアミノ及び/又はカルボキシ末端融合、並びに1つ以上のアミノ酸残基の配列間挿入を含む。末端挿入の例としては、N末端にメチオニン残基を有する抗体又は細胞毒性ポリペプチドに融合した抗体などが挙げられる。その他の挿入による抗体分子の変異体には、N末端又はC末端への、酵素(例えばADEPT)への、又は抗体の血清半減期を上昇するポリペプチドとの融合などがある。
【0110】
別の種類の変異体はアミノ酸置換変異体である。これらの変異体は、抗体の少なくとも1つのアミノ酸残基が異なる残基で置き換えられている。置換による突然変異生成において最も関心をひく部位としては超可変領域があるが、FR又はFc領域の変異も意図される。保存的な置換を「好ましい置換」と題して表1に示す。1つ以上の生物学的特性(例えば安定性又は有効性)を変化させるが、他の特性(例えば抗原特異性)を変異しない置換が作製され得る。好ましい置換により所望の特性を有する抗体が得られた場合には、その後、表1において「置換例」と称したさらなる置換的変化が行われ、又は下記のアミノ酸クラスの参照中にさらに記載されるように、より改善された特性を得るために導入されて、抗体をスクリーニングし得る。
表1
【0111】
抗体の生物学的特性の実質的な改変は、(a)例えばシート又はヘリックス構造などの、置換の領域中のポリペプチド骨格主鎖の構造、(b)標的位置での分子の電荷又は疎水性、(c)側鎖の容積、を維持することに及ぼすそれらの効果が有意に異なる置換を選択することによって行われる。アミノ酸は、(A. L. Lehninger, in Biochemistry, second ed., pp. 73−75, Worth Publishers, New York(1975)に記載の)側鎖の性質の類似性により以下の群に分けてよい:
(1)非極性:Ala(A)、Val(V)、Leu(L)、Ile(I)、Pro(P)、Phe(F)、Trp(W)、Met(M)
(2)非荷電極性:Gly(G)、Ser(S)、Thr(T)、Cys(C)、Tyr(Y)、Asn(N)、Gln(Q)
(3)酸性:Asp(D)、Glu(E)
(4)塩基性:Lys(K)、Arg(R)、His(H)。
【0112】
あるいは、天然に生じる残基は共通の側鎖の性質に基づいて以下の群に分けてよい:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖の配向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
非保存的置換はこれらのクラスのうちの1つのメンバーを、別のクラスのものに交換することを必要とする。
【0113】
抗体の特定の構造を維持することに関与しない任意のシステイン残基を、分子の酸化安定性を改善し、異常な架橋を防ぐために、通常はセリンに、置換する場合もある。逆にシステイン結合をその安定性(特にその抗体がFv断片のような抗体断片である場合に)を改善するために抗体に付加する場合もある。
【0114】
1つの実施形態においては、置換による変異体は親抗体の1つ以上の超可変領域残基を置換することを含む。通常、得られた変異体で、さらなる開発のために選択される変異体は、それらを生成した親抗体と比較して、改善された生物学的特性を有する。かかる置換による変異体を生成するための適した方法は、ファージディスプレイを用いた親和性成熟を伴う。簡単に説明すると、いくつかの超可変領域部位(例えば6〜7箇所の部位)は各部位で可能なすべてのアミノ置換を生成するために変異される。このようにして生成されたその抗体変異体は糸状ファージ粒子から、それぞれの粒子中にパッケージングされたM13の遺伝子III産物との融合体として一価の形態で提示される。ファージディスプレイされた変異対はその後それらの生物活性(例えば結合親和性)を指標に本明細書に開示するようにスクリーニングされる。改変候補の超可変領域部位を同定するためには、抗原結合に有意に寄与する超可変領域残基を同定するためのアラニンスキャニング突然変異生成が行われる場合もある。あるいは又は追加して、抗体とその抗原の間の接触点を同定するために抗原抗体複合体の結晶構造を解析することも有用となり得る。かかる接触残基及び近傍残基が、本明細書において詳述した技術に従って置換するための候補である。かかる変異体が一度生成されれば、本明細書に記載されたように、変異体の一群がスクリーニングされ、1つ以上の関連したアッセイにおいて優れた特性を示した抗体がさらなる開発のために選択され得る。
【0115】
抗体の別の種類のアミノ酸変異体は、抗体の本来のグリコシル化のパターンを変化させる。その変化とは、抗体中にみられる1つ以上の炭水化物部分を欠失すること、及び/又は抗体には存在しない1つ以上のグリコシル化位置を付加することを意味する。
【0116】
抗体のグリコシル化は典型的には、N−結合又はO−結合のいずれかである。N−結合は炭水化物部分のアスパラギン残基の側鎖への結合を意味する。アスパラギン−X−セリン及びアスパラギン−X−トレオニン、ここでXはプロリン以外の任意のアミノ酸、のトリペプチド配列が炭水化物部部のアスパラギン側鎖への酵素的結合における認識配列である。従って、ポリペプチド中にこれらトリペプチド配列のいずれかが存在することがグリコシル化する可能性のある位置を形成する。O−結合グリコシル化は、糖であるN−アセチルガラクトサミン、ガラクトース、又はキシロースのうちの1つとヒドロキシアミノ酸、一般にはセリン又はトレオニン、との結合を意味する。ヒドロキシアミノ酸としては5−ヒドロキシプロリン又は5−ヒドロキシリジンも利用できる。
【0117】
抗体へのグリコシル化位置の付加は、(N−結合グリコシル化については)1つ以上の上述のトリペプチドを含むようにアミノ酸配列を変化させることによって適切に実現される。変異は本来の抗体の配列に1つ以上のセリン又はトレオニン残基を付加すること、又はセリン又はトレオニン残基で置換することによっても作製できる(O−結合グリコシル化)。
【0118】
この抗体がFc領域を含む場合、そこに結合した炭水化物が変異され得る。例えば、抗体のFc領域に結合したフコースを欠いた、成熟した炭水化物構造を有する抗体が米国特許第2003/0157108 A1号、Presta, L.に記載されている。米国特許第2004/0093621 A1号(協和発酵工業株式会社)も参照されたい。抗体のFc領域に結合した炭水化物部分に二等分性のN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を有する抗体は国際公開第03/011878号、Jean−Mairet et al.及び米国特許第6,602,684号、Umana et al.に参照されている。抗体のFc領域に結合したオリゴ糖中に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体は国際公開第97/30087号、Patel et al.に報告されている。その抗体のFc領域に変異された炭水化物が結合した抗体については国際公開第98/58964号(Raju,S.)及び国際公開第99/22764号(Raju,S.)も参照されたい。Fc領域にかかる炭水化物構造が結合した主要な種の抗体を含む抗体組成物が本明細書において意図される。
【0119】
抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は当該技術分野において既知の様々な方法によって調製される。これらの方法は、天然資源からの単離(天然に生じるアミノ酸配列変異体の場合)又はオリゴヌクレオチドを介した(又は部位特異的な)突然変異生成による調製、PCR突然変異生成、及び先に調製された変異体のカセット突然変異生成又は抗体の非変異体などを含むが、これらに限定されない。
【0120】
(viii)システイン改変抗体
1つの様態においては、本発明の抗体は、国際公開第2006/034488号(その全体は参照により本明細書に組み込まれる)に開示されているように遊離システインアミノ酸で親抗体の1つ以上のアミノ酸を置換した、システイン改変抗体(ThioMAbとも呼ばれる)を含む。システイン改変抗体は、0.6〜1.0の範囲のチオール反応価を有する1つ以上の遊離アミノ酸を含む。遊離システインアミノ酸は、親抗体中に改変され、ジスルフィド架橋の一部ではないシステイン残基である。システイン改変抗体は改変されたシステイン部位における細胞毒性及び/又は画像化化合物の、例えばマレイミド又はハロアセチルを介した結合に有効である。マレイミド基へのCys残基のチオール官能基の求核的反応は、リジン残基などのアミノ基又はN末端アミノ基のようなタンパク質中でのその他いずれかのアミノ酸官能基と比較して、約1000倍高い。ヨードアセチル及びマレイミド薬剤中のチオールに特異的な官能基はアミン基と反応する場合もあるが、より高いpH(>9.0)及びより長い反応時間を必要とする(Garman, 1997, Non−Radioactive Labelling: A Practical Approach, Academic Press, London)。
【0121】
システイン改変抗体は癌の治療に有用になり得、細胞表面及び膜貫通型受容体に特異的な抗体、並びに腫瘍関連抗原(TAA)を含む。かかる抗体は裸の抗体(薬剤又は標識部分と結合していない)又は免疫抱合体とも呼ばれる、抗体−薬剤結合体(ADC)として使用され得る。本発明のシステイン改変抗体は位置特異的及びチオール反応性薬剤と能率的に結合し得る。チオール反応性薬剤は多機能リンカー試薬、標識補足試薬、蛍光団試薬、又は薬剤−リンカー中間体の場合がある。システイン改変抗体は検出可能な標識で標識され、固相支持上に固定され及び/又は薬剤部分と結合し得る。チオール反応性は、アミノ酸と反応性システインアミノ酸との置換が、L−10〜L−20、L−38〜L−48、L−105〜L−115、L−139〜L−149、L−163〜L−173の範囲のアミノ酸〜選択される軽鎖中に;H−35〜H−45、H−83〜H−93、H−114〜H−127、及びH−170〜H−184の範囲のアミノ酸から選択される重鎖中に;H−268〜H−291、H−319〜H−344、H−370〜H−380及びH−395〜H−405から選択される範囲のFc領域中に形成され得る任意の抗体に対して一般化され得る。ここでアミノ酸位置の番号付与はカバット番号付与システム(Kabat et al.(1991) Sequences of proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD)の1位から始まり、国際公開第2006/034488号に開示されているように、その後連続して続く。特定の実施形態においては、アミノ酸とシステインの置換はEU番号付与に従った重鎖のA118(すなわちA118C)位、及び/又はカバット番号付与に従った軽鎖のV205(すなわちV205C)位で行い得る。チオール反応性はまた、抗体の特定のドメイン、例えば軽鎖定常ドメイン(CL)、並びに重鎖定常ドメイン、CH1、CH2及びCH3に対しても一般化され得る。0.6以上のチオール反応価を生じるシステイン置換は、IgGサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgA2)を含むIgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM、それぞれのインタクト抗体の重鎖定常ドメインα、δ、ε、γ、及びμにおいて行い得る。かかる抗体とそれらの使用については国際公開第2006/034488号に開示されている。
【0122】
本発明のシステイン改変抗体は、親抗体の抗原結合能を、好ましくは少なくともある程度保持する。従って、システイン改変抗体は抗原に、好ましくは特異的に、結合することができる。かかる抗原には、例えば腫瘍関連抗原(TAA)、細胞表面受容体タンパク質及びその他の細胞表面分子、膜貫通型タンパク質、シグナリングタンパク質、細胞生存制御因子、細胞増殖制御因子、組織発生若しくは分化に関わる(例えば機能的に貢献することが知られ、又は推測されている)分子、リンフォカイン、サイトカイン、細胞周期に関与する分子、脈管形成に関与する分子、並びに血管形成に関わる(例えば機能的に貢献することが知られ、又は推測されている)分子などがある。
【0123】
本発明の抗体は、反応基が例えばマレイミド、ヨードアセトアミド、ピリジルジスルフィド、又はその他のチオール反応性結合パートナーである、チオール反応性剤と結合し得る(Haugland, 2003, Molecular Probes Handbook of Fluorescent Probes and Research chemicals, Molecular Probes, Inc.;Brinkley, 1992, Bioconjugate Chem. 3:2;Garman, 1997, Non−Radioactive Labelling: A Practical Approach, Academic Press, London;Means(1990) Bioconjugate Chem. 1:2;Hermanson, G. in Bioconjugate Techniques(1996) Academic Press, San Diego, pp. 40−55, 643−671)。このパートナーは、細胞毒性薬(例えばドキソルビシン若しくは百日咳毒素などの毒素)、フルオレセイン若しくはローダミンなどの蛍光色素のような蛍光団、画像用若しくは放射性の治療用金属に対するキレート剤、ペプチジル若しくは非ペプチジル標識又は検出用タグ、若しくはポリエチレングリコールの様々な異性体などのクリアランス改変剤、第三成分に結合するペプチド、又はその他の炭水化物若しくは脂肪親和性剤などであり得る。
【0124】
(ix)所望の特性を有する抗体のスクリーニング
抗体を生成する技術については上述した。所望の場合には、特定の生物学的特性を有する抗体がさらに選択され得る。
【0125】
例えば、細胞の表面においてSTEAP−1に結合する抗体を免疫組織化学的手法、FACs、又はその他の適した技術によって同定することができる。STEAP−1に結合し、かつ腫瘍の増殖をインビボで阻害する抗体を、Challita−Eid et al. Cancer Res. 67:5798−5805(2007)に記載されたアッセイを用いて同定することができる。簡単に説明すると、患者由来のアンドロゲン依存性前立腺癌異種移植片LAPC−9AD又は膀胱癌UM−UC−3異種移植片を含むSCIDマウスを抗STEAP−1抗体(又はかかる抗体を含む免疫抱合体)を用いて処理し、その後、腫瘍の体積及び/又はPSA値を有効性を評価するために測定することがが能である。STEAP−1に結合してSTEAP−1を介した細胞間伝達を阻止する抗体を上記のChallita−Eid et al.の論文に記載されたアッセイを用いて同定することができる。簡単に説明すると、ドナー及びアクセプターPC3細胞を、適したドナー及びアクセプター色素に結合させ、それらを混合して生じた細胞間伝達を色の変化によって検出する。
【0126】
(x)免疫抱合体
本発明は、化学療法剤などの細胞毒性薬、毒素(例えば低分子毒素若しくは、それらの断片及び/又は変異体を含む、バクテリア、菌類、植物、又は動物由来の酵素的に活性な毒素)、又は放射性同位元素(すなわち放射性結合体)と結合した抗体を含む免疫抱合体にも関する。
【0127】
かかる免疫抱合体の生成において有用な化学療法剤について上記した。抗体と、カリケアマイシン、メイタンシン(米国特許第5,208,020号)、トリコテン(trichothene)及びCC1065などの1つ以上の低分子毒素の抱合体も本明細書において意図される。
【0128】
本発明の1つの実施形態においては、この抗体は1つ以上のメイタンシン分子に結合している(例えば、1抗体分子当たり約1〜約10メイタンシン分子)。メイタンシンは、メイタンシノイド−抗体抱合体を生成するために、May−SH3に還元されて改変された抗体と反応し得る、May−SS−Meに変換され得る(Chari et al. Cancer Research 52: 127−131(1992))。
【0129】
別の免疫抱合体は、1つ以上のカリケアマイシン分子と結合した抗体を含む。抗生物質のカリケアマイシンファミリーはピコモル濃度未満の濃度において二本鎖DNA開裂を生じ得る。使用され得るカリケアマイシンの構造的類似体には、γ1I、α2I、α3I、N−acetyl−γ1I、PSAG及びθI1(Hinman et al. Cancer Research 53: 3336−3342(1993)、及びLode et al. Cancer Research 58: 2925−2928(1998))などがあるが、これらに限定されない。参照により本明細書に明らかに組み込まれる、米国特許第5,714,586号、第5,712,374号、第5,264,586号、及び第5,773,001号も参照されたい。
【0130】
使用され得る酵素的に活性な毒素及びその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、外毒素A鎖(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシン(modeccin)A鎖、アルファ−サルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP−S)、ゴーヤー(momordica charantia)阻害剤、サポナリア(sapaonaria officinalis)阻害剤、クルシン(curcin)、クロチン(crotin)、阻害剤、ゲロニン(gelonin)、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)及びトリコテセン(tricothecene)などが含まれる。例えば、1993年10月28日に公開された国際公開第93/21232号を参照されたい。
【0131】
本発明はさらに、抗体及び核酸分解活性を有する化合物(例えばリボヌクレアーゼ又はデオキシリボヌクレアーゼ(DNase)などのDNAエンドヌクレアーゼ)との間で形成された免疫抱合体についても意図する。本発明はさらに、抗体及び放射性同位元素の間で形成された免疫抱合体についても意図する。放射性結合型抗体の生産には様々な放射活性同位元素が利用可能である。例としては、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32及びLuの放射性同位元素などがある。
【0132】
さらに別の実施形態においては、腫瘍のプレ標的化を促進するために、抗体を「受容体」(ストレプトアビジンなど)に結合させ得る。このプレ標的化において、抗体−受容体抱合体を患者に投与し、その後結合していない抱合体を、クリアリング剤と続く細胞毒性薬に結合している「リガンド」(例えばアビジン)の投与を用いて血行から除去する。
【0133】
抗体及び細胞毒性薬の抱合体は、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオール)プロピオン酸(SPDP)、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能基誘導体(ジメチルアジプイミドHCLなど)、活性エステル(ジスクシンイミジルスベリン酸など)、アルデヒド(グルトアルデヒドなど)、ビス−アジド化合物(ビス(p−アジドペンゾイル)ヘキサンジアミンなど)、ビス−ジアゾニウム誘導体(ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミンなど)、ジイソシアネート(トリレン2、6−ジイソシアネ−トなど)、及びビス活性フッ素化合物(1、5−ジフルオロ−2、4−ジニトロベンゼンなど)の様々な二官能基タンパク質カップリング剤を用いて作製することができる。例えば、リシン抗毒素はVitetta et al. Science 238: 1098(1987)に記載されているように調製することができる。炭素−14で標識された1−イソチオシアネートベンジル−3−メチルジエチレントリアミンペント酢酸(MX−DTPA)は放射性ヌクレオチドを抗体に結合させるためのキレート剤の例である。国際公開第94/11026号を参照されたい。リンカーは細胞中の細胞毒性薬剤の放出を促進する、「開裂可能なリンカー」であり得る。例えば、酸に不安定なリンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、ジメチルリンカー、又はジスルフィド含有リンカー(Chari et al. Cancer Research 52: 127−131(1992))を使用することができる。
【0134】
典型的には、ペプチドに基づいた薬剤部分を、1つ以上のアミノ酸及び/又はペプチド断片間でペプチド結合を形成することによって調製することができる。かかるペプチド結合は例えば、ペプチド合成の分野では周知である液相合成方法(E. Schroder and K. Lubke, “The Peptides”, volume 1, pp 76−136, 1965, Academic Pressを参照)に従って調製することができる。アウリスタチン/ドラスタチン薬剤部分は米国特許第5635483号;米国特許第5780588号;Pettit et al(1989) J. Am. Chem. Soc. 111:5463−5465;Pettit et al(1998) Anti Cancer Drug Design 13:243−277;Pettit, G.R., et al. Synthesis, 1996, 719−725;及びPettit et al(1996) J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1 5:859−863の方法に従って調製することができる。Doronina(2003) Nat Biotechnol 21(7):778−784;“Monomethylvaline Compounds Capable of Conjugation to Ligands”、米国特許出願公開第2005−0238649A1号も参照し、この全体は参照により本明細書に組み込まれる(例えばリンカー及びリンカーに結合したMMAE及びMMAFなどのモノメチルバリンの調製方法)。
【0135】
メイタンシン及びメイタンシノイド
いくつかの実施形態においては、この免疫抱合体は、1つ以上のメイタンシノイドに結合した本発明の抗体(完全長又は断片)を含む。
【0136】
メイタンシノイドはチューブリン重合を阻害することによって作用する有糸分裂阻害剤である。メイタンシンは当初、東アフリカの灌木であるメイテナスセラタ(Maytenus serrata)から単離された(米国特許第3896111号)。続いて、メンタンシノール及びC−3メイタンシノールエステルなどのメイタンシノイドを特定の微生物が生産することも見出された(米国特許第4,151,042号)。合成メイタンシノール並びに誘導体、及びその類似体が、例えば米国特許第4,137,230号;第4,248,870号;第4,256,746号;第4,260,608号;第4,265,814号;第4,294,757号;第4,307,016号;第4,308,268号;第4,308,269号;第4,309,428号;第4,313,946号;第4,315,929号;第4,317,821号;第4,322,348号;第4,331,598号;第4,361,650号;第4,364,866号;第4,424,219号;第4,450,254号;第4,362,663号;及び第4,371,533号に開示されている。
【0137】
メイタンシノイド薬剤部分は、(i)発酵若しくは化学的改変、発酵産物の誘導体化によって比較的容易に調製できる、(ii)非ジスルフィドリンカーを介した抗体への結合に適した官能基との誘導体化を受け入れられる、(iii)血漿中で安定である、並びにと(iv)様々な腫瘍細胞株に対して効果的である、ことから抗体薬剤抱合体中の魅力ある薬剤部分である。
【0138】
メイタンシノイド薬剤部分としての使用に適しているメイタンシン化合物は当該技術分野において周知であり、天然資源から既知の方法に従って単離することができ、遺伝子工学的手法(Yu et al(2002)PNAS99:7968−7973を参照)を用いて生産することができ、又はメイタンシノール及びメイタンシノール類似体を既知の方法に従って合成して調製することができる。
【0139】
メイタンシノイド薬剤部分の例としては、C−19−デクロロ(米国特許第4256746号)(水素化アルミニウムリチウムによるアンサミトシンP2の還元によって調製される);C−20−ヒドロキシ(又はC−20−デメチル)+/−C−19−デクロロ(米国特許番号第4361650号及び第4307016号)(ストレプトミセス若しくはアクチノミセスを用いた脱メチル作用又はLAHを用いた脱塩によって調製される);及びC−20−デメトキシ、C−20−アシルオキシ(−OCOR)、+/−デクロロ(米国特許第4,294,757号)(塩化アシルを用いたアシル化によって調製される)などの改変された芳香環を有するメイタンシノイド薬剤部分並びにその他の位置に改変を有するメイタンシノイド薬剤部分がある。
【0140】
メイタンシノイド薬剤部分の例としては、C−9−SH(米国特許第4424219号)(メイタンシノールをH2S又はP2S5と反応させることによって調製される);C−14−アルコキシメチル(デメトキシ/CH2OR)(米国特許第4331598号);C−14−ヒドロキシメチル又はアシルオキシメチル(CH2OH又はCH2OAc)(米国特許第4450254号)(ノカルジアから調製される);C−15−ヒドロキシ/アシルオキシ(米国特許第4,364,866号)(ストレプトミセスによるメイタンシノールの変換によって調製される);C−15−メトキシ(米国特許第4,313,946号及び第4,315,929号)(トレウィアヌドロフローラ(Trewianudlflora)より単離される);C−18−N−デメチル(米国特許第4,362,663号及び第4,322,348号)(ストレプトミセスによるメイタンシノールの脱メチル化によって調製される);及び4,5−デオキシ(米国特許第4371533号)(メイタンシノールを三塩化チタン/LAHによる還元によって調製される)などの改変を有するメイタンシノイド薬剤部分なども挙げられる。
【0141】
メイタンシノイド薬剤部分の実施形態の例としては、下記の構造を有するDM1;DM3;及びDM4;などがあり、
式中、波線は抗体薬剤抱合体の薬剤の硫黄原子のリンカー(L)への共有結合を示す。HERCEPTIN(登録商標)(トラスツズマブ)はSMCCによってDM1に結合することが報告されている(国際公開第2005/037992号、その全体は参照により本明細書に明らかに組み込まれる)。本発明の抗体薬剤抱合体は本明細書に開示する方法に従って調製することができる。
【0142】
メイタンシノイド抗体薬剤抱合体のその他の例は以下の構造及び略語で示される(式中、Abは抗体であり、pは1〜約8である):
【0143】
DM1がBMPEOリンカーを介して抗体のチオール基に結合している抗体薬剤抱合体の例は、以下の構造及び略語で示され:
式中、Abは抗体であり;nは0、1、若しくは2;並びにpは1、2、3、若しくは4である。
【0144】
例えば、米国特許第5,208,020号;第5,416,064号;第6,441,163号及び欧州特許出願公開第0425235B1号にメイタンシノイドを含む免疫抱合体、その作製方法、及びそれらの治療的用途が開示されており、それらの開示は参照により本明細書に明らかに組み込まれる。Liu et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA93:8618−8623(1996)にはヒト結腸直腸癌に対するモノクローナル抗体C242に結合したDM1と示されるメイタンシノイドを含む免疫抱合体について記載されている。この抱合体は培養結腸癌細胞に対して高い細胞毒性を有することが見出され、インビボ腫瘍増殖アッセイにおいて抗腫瘍活性が示された。Chari et al., Cancer Research 52:127−131(1992)にはメイタンシノイドがヒト結腸癌細胞株への抗原に結合したマウス抗体A7にジスルフィドリンカーを介して結合した免疫抱合体、又はHER−2/neu腫瘍遺伝子に結合した別のマウスモノクローナル抗体TA.1について記載されている。1つの細胞当たり3×105のHER−2表面抗原を発現しているヒト乳房癌細胞株SK−BR−3に対してのTA.1−メイタンシノイド抱合体の細胞毒性がインビトロで試験された。この薬剤抱合体は、1つの抗体分子当たりのメイタンシノイド分子の数を増加させることによって増加させることができる、遊離メイタンシノイド薬剤と同程度の細胞毒性を示した。A7−メイタンシノイド抱合体は、マウスにおいて低い全身性の細胞毒性を示した。
【0145】
抗STEAP−1抗体−メイタンシノイド抱合体は、好ましくは抗体又はメイタンシノイド分子のいずれの生物活性も有意に減少させることなく、メイタンシノイド分子に抗体を化学的に結合することによって調製される。例えば、米国特許第5,208,020号(その開示は参照により本明細書に明らかに組み込まれる)を参照されたい。1分子の毒素/抗体でさえも、裸の抗体の使用よりも細胞毒性を上昇させることが期待されるが、1つの抗体分子当たり、平均3〜4個のメイタンシノイド分子が結合しているものが、抗体の機能又は溶解性に否定的な作用を及ぼすことなく、標的細胞の細胞毒性を効果的に上昇させることが示されている。メイタンシノイドは当該技術分野において周知であり、既知の方法によって合成すること、又は天然資源から単離することができる。メイタンシノイドは、例えば、本明細書の上記で参照した米国特許第5,208,020号並びにその他の特許及び非特許文献に開示されている。好ましいメイタンシノイドは、メイタンシノール及び芳香環又はメイタンシノールエステルなどのメイタンシノール分子のその他の位置が改変されたメイタンシノール類似体である。
【0146】
抗体−メイタンシノイド抱合体を作製するための多くの連結基が当該技術分野において知られており、例えば、米国特許第5,208,020号、第6,441,163号、又は欧州特許出願公開第0425235B1号、Chari et al., Cancer Research 52:127−131(1992)及び米国特許第2005/0169933A1号に開示されており、それらの開示は参照により本明細書に明らかに組み込まれる。リンカー成分SMCCを含む抗体−メイタンシノイド抱合体は2005年5月31日に出願された米国特許出願第11/141344号「抗体薬剤抱合体及び方法」に開示されているように調製することができる。この連結基は、上述の特許に開示されているように、ジスルフィド基、チオエステル基、酸に不安定な基、光に不安定な基、ペプチダーゼに不安定な基、又はエステラーゼに不安定な基を含む。本明細書ではさらなる連結基について記載し、例示した。
【0147】
抗体及びメイタンシノイドの抱合体は、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸(SPDP)、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能基誘導体(ジメチルアジプイミドHClなど)、活性エステル(ジスクシンイミジルスベリン酸など)、アルデヒド(グルタルアルデヒドなど)、ビス−アジド化合物(ビス(p−アジドペンゾイル)ヘキサンジアミンなど)、ビス−ジアゾニウム誘導体(ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミンなど)、ジイソシアネート(トルエン2、6−ジイソシアネートなど)、及びビス活性フッ素化合物(1、5−ジフルオロ−2、4−ジニトロベンゼンなど)などの様々な二官能基タンパク質カップリング剤(リンカー)を用いて作製することができる。好ましいカップリング剤には、ジスルフィド結合を提供するN−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸(SPDP)(Carlsson et al.,Biochem.J.173:723−737(1978))及びN−スクシンイミジル−4−(2−ピリジルチオ)ペンタノアート(SPP)がある。
【0148】
リンカーは様々な位置で、結合の種類によって、メイタンシノイド分子に結合することができる。例えばエステル結合は、ヒドロキシル基を用いた標準的なカップリング技術を用いた反応によって形成することができる。この反応は、ヒドロキシル基を有するC−3位、ヒドロキシメチルによって改変されたC−14位、ヒドロキシル基によって改変されたC−15位、及びヒドロキシル基を有するC−20位に生じる可能性がある。好ましい実施形態においては、この結合はメイタンシノール又はメイタンシノール類似体のC−3位に形成される。
【0149】
1つの実施形態においては、本発明のいずれの抗体(完全長又は断片)も1つ以上のメイタンシノイド分子に結合している。免疫抱合体の1つの実施形態、すなわち細胞毒性薬DはメイタンシノイドDM1、DM3、又はDM4である。免疫抱合体のかかる実施形態の1つにおいては、リンカーはSPDP、SMCC、IT、SPDP、及びSPPからなる群より選択される。
【0150】
アウリスタチン免疫抱合体
ある好ましい実施形態においては、免疫抱合体はドラスタチン又はドラスタチンペプチド類似体及び誘導体、すなわちアウリスタチン(米国特許第5635483号;第5780588号)に結合した抗体を含む。ドラスタチン及びアウリスタチンが微小管動態、GTP加水分解、及び細胞分裂を干渉し(Woyke et al(2001) Antimicrob. Agents and Chemother. 45(12):3580−3584)、並びに抗癌作用(米国特許第5663149号)及び抗真菌作用(Pettit et al(1998) Antimicrob. Agents Chemother. 42:2961−2965)を有することが示されている。ドラスタチン又はアウリスタチン薬剤部分はペプチド薬剤部分のN(アミノ)末端又はC(カルボキシル)末端を介して抗体に結合し得る(国際公開第02/088172号)。
【0151】
アウリスタチンの実施形態の例としては、N末端に結合したモノメチルアウリスタチン薬剤部分DE及びDFがあり、これらは「Monomethylvaline compounds Capable of Conjugation to Ligands」(米国特許出願公開第2005−0238649A1号)に開示されており、この開示の全体は参照により明らかに組み込まれる。さらなる実施形態においては、モノメチルアウリスタチン薬剤部分はモノメチルアウリスタチンE(MMAE)及びモノメチルアウリスタチンF(MMAF)を含む。
【0152】
さらなる実施形態においては、式Ab−(L−D)pを有する免疫抱合体を提供し、式中:
(a)Abは抗体であり、
(b)Lはリンカーであり;
(c)Dは式DE又はDFの薬剤であり、
式中、R2及びR6はそれぞれメチルであり、R3及びR4はそれぞれイソプロピルであり、R7はsec−ブチルであり、R8はそれぞれ独立してCH3、O−CH3、OH、及びHから選択され;R9はHであり;R10はアリールであり;Zは−O−若しくは−NH−であり;R11はH、C1〜C8アルキル、若しくは−(CH2)2−O−(CH2)2−O−(CH2)2−O−CH3であり;並びにR18は−C(R8)2−C(R8)2−アリールであり;並びに
(d)pは約1〜8である。
【0153】
リンカー成分(L)の例は下記を単独で、又は組み合わせて含む:
MC=6−マレイミドカプロイル
Val−Cit又は「vc」=バリン−シトルリン(プロテアーゼを開裂できるリンカー中のジペプチドの例)
シトルリン=2−アミノ−5−ウレイドペンタン酸
PAB=p−アミノベンジルオキシカルボニル(「自壊的」リンカー成分の例)
Me−Val−Cit=N−メチル−バリン−シトルリン(ここでリンカーペプチド結合はカテプシンBによるその開裂が妨げられるように改変されている)
MC(PEG)6−OH=マレイミドカプロイル−ポリエチレングリコール(抗体システインに結合し得る)。
【0154】
さらなる実施形態においては、リンカーは抗体上のチオール基(例えば、ThioMAb)を介して結合している。1つの実施形態においては、リンカーをプロテアーゼによって開裂することができる。1つの実施形態においては、リンカーはval−citジペプチドを含む。1つの実施形態においては、リンカーはp−アミノベンジル単位を含む。1つの実施形態においては、p−アミノベンジル単位はリンカー中の薬剤及びプロテアーゼ開裂部位の間に位置している。1つの実施形態においては、このp−アミノベンジル単位はp−アミノベンジルオキシカルボニル(PAB)である。1つの実施形態においては、リンカーは6−マレイミドカプロイルを含む。1つの実施形態においては、この6−マレイミドカプロイルはリンカー中の薬剤及びプロテアーゼ開裂部位の間に位置している。上記実施形態は単独で又は他のものとの任意の組み合わせとして生じ得る。
【0155】
さらなる実施形態においては、薬剤は下記から選択される:
MMAE=モノメチルアウリスタチンE(MW718)
MMAF=薬剤のC末端にフェニルアラニンを有するアウリスタチンE(MMAE)の変異体(MW731.5)
MMAF−DMAEA=C末端フェニルアラニン結合へのアミド結合中にDMAEA(ジメチルアミノエチルアミン)を有するMMAF(MW801.5)
MMAF−TEG=フェニルアラニンとエステル結合しているテトラエチレングリコールを有するMMAF
MMAF−NtBu=MMAFのC末端にアミドとして結合しているN−t−ブチル。
ある実施形態においては、この薬剤はMMAE及びMMAFから選択される。
【0156】
1つの実施形態においては、免疫抱合体は下記の式を有し、
式中、Abは抗体、Sは硫黄原子、及びpは2〜5である。かかる実施形態においては、免疫抱合体はAb−MC−val−cit−PAB−MMAEと称される。別の実施形態においては、免疫抱合体はAb−MC−MMAEである。
【0157】
別の実施形態においては、免疫抱合体は下記の式を有し、
式中、Abは抗体、Sは硫黄原子、及びpは2〜5である。かかる実施形態においては、免疫抱合体はAb−MC−val−cit−PAB−MMAFと称される。別の実施形態においては、免疫抱合体はAb−MC−MMAFである。
【0158】
(xi)その他の抗体改変
本明細書においてその他の抗体改変が意図される。例えば、抗体は様々な非タンパク質様ポリマー、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、又はポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのコポリマーのうちの1つに結合し得る。抗体は、例えばコアセルベーション技術又は界面重合(例えばヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル及びポリ−(メチルメタクリレート)マイクロカプセルのそれぞれ)によって、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、及びナノカプセル)、又はマクロエマルジョン中に調製されたマイクロカプセル中に封入することもできる。かかる技術はRemington’s Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Oslo, A., Ed.,(1980)中に開示されている。
【0159】
エフェクター機能、例えば、抗体依存性細胞介在性障害作用(ADCC) 及び/又は補体依存性細胞傷害作用(CDC)の増幅に関連して本発明の抗体を改変することが所望の場合もある。これらは抗体のFc領域に1つ以上のアミノ酸置換を導入することによって達成される。あるいは又は追加して、システイン残基がFc領域に導入され、それによってこの領域における鎖間ジスルフィド結合形成が生じ得る。このようにして生成されたホモ二量体型抗体は改善された内部移行能及び/又は増加した補体介在細胞死及び抗体依存性細胞介在性障害作用(ADCC)を有し得る。Caron et al., J. Exp Med. 176:1191−1195(1992) 及び Shopes, B. J. Immunol. 148:2918−2922(1992)を参照されたい。抗腫瘍活性が増幅したホモ二量体型抗体は、Wolff et al. Cancer Research 53:2560−2565(1993)に記載されているようにヘテロ二官能性架橋剤を用いて調製され得る。あるいは、2つのFc領域を有するように抗体を改変することができ、それによって補体溶解及びADCC能が増幅され得る。Stevenson et al. Anti Cancer Drug Design 3:219−230(1989)を参照されたい。
【0160】
国際公開第00/42072号(Presta,L.)にはヒトエフェクター細胞存在下で改善されたADCC機能を有する抗体について記載されている。ここでこの抗体はそのFc領域にアミノ酸置換を有する。好ましくは、改善されたADCC機能を有するこの抗体はFc領域の298、333、及び/又は334位にアミノ酸置換を含む。好ましくは、別のFc領域はこれらの位置に、1つ、2つ、若しくは3つの置換を含む又はそれらの置換からなる、ヒトIgG1Fc領域である。
【0161】
C1q結合及び/又は補体依存性細胞傷害作用(CDC)が改変された抗体については国際公開第99/51642号、米国特許第6,194,551B1号、米国特許第6,242,195B1号、米国特許第6,528,624B1号及び米国特許第6,538,124号(Idusogie et al.)に記載されている。この抗体は、そのFc領域の270、322、326、327、329、313、333及び/又は334位に1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0162】
抗体の血中半減期を延長するために、例えば米国特許第5,739,277号に記載されているように、サルベージ受容体結合エピトープを抗体(特に抗体断片)に組み込み得る。本明細書において使用されるとき、「サルベージ受容体結合エピトープ」という用語は、IgG分子のインビボでの血中半減期の延長に関係したIgG分子(例えばIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4)のFc領域のエピトープを意味する。そのFc領域に置換を有する抗体及び血中半減期の延びた抗体については国際公開第00/42072号(Presta,L.)にも記載されている。
【0163】
3つ以上の(好ましくは4つ)の機能抗原結合部位を有する改変抗体についても意図された(米国特許出願第US2002/0004587 A1号、Miller et al.)。
【0164】
本明細書に開示する抗体は免疫リポソームとしても調製してよい。抗体を含むリポソームは、Epstein et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82:3688(1985);Hwang et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA, 77:4030(1980);米国特許第4,485,045号及び第4,544,545号;並びに1997年10月23日に公開された国際公開第97/38731号などに記載された、当該技術分野において既知の方法によって調製される。増幅した循環時間を有するリポソームについては米国特許第5,013,556号に開示されている。
【0165】
特に有用なリポソームを、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG−誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)を含む液体組成物を用いた逆相蒸発抱によって生成することができる。所望の直径のリポソームを得るために、既定の細孔径のフィルターを介してリポソームを排出する。本発明の抗体のFab’断片は、Martin et al. J. Biol. Chem. 257: 286−288(1982)に記載されているように、ジスルフィド交換反応を介してリポソームに結合され得る。化学療法剤は任意にリポソームの中に含まれる。Gabizon et al. J. National Cancer Inst.81(19)1484(1989)を参照されたい。
【0166】
(B)抗体及び免疫抱合体の例
Asp−Aspモチーフを含む抗体(例えば、モノクローナル抗体)が、本明細書に開示する製剤との使用において特に意図される。例えば、VH又はVLの任意の領域にAsp−Aspモチーフを含む抗体であり得る。特定の実施形態においては、Asp−Aspモチーフは抗原結合に影響を及ぼす、いずれかのHVR、及びある実施形態においてはHVR−H3の領域に生じるが、これに限定されない。
【0167】
1つの実施形態においては、Asp−Aspモチーフを含む抗体は抗STEAP−1抗体である。国際公開第2008/052187号はHVR−H3にAsp−Aspモチーフを含む抗STEAP−1抗体の例を提供する。国際公開第2008/052187号に記載されているかかる抗体のすべての実施形態は、参照により本明細書に明らかに組み込まれる。本明細書に提供する特定のそれらの抗体のVH及びVLのアミノ酸配列は図2A及び2Bに示される。特定のそれら抗体のHVRのアミノ酸配列は下記の通りである:
HVR−L1:KSSQSLLYRSNQKNYLA(配列番号11)
HVR−L2:WASTRES(配列番号12)
HVR−L3:QQYYNYPRT(配列番号13)
HVR−H1:GYSITSDYAWN(配列番号14)
HVR−H2:GYISNSGSTSYNPSLKS(配列番号15)
HVR−H3:ERNYDYDDYYYAMDY(配列番号16)。
国際公開第2008/052187号に記載されたいずれかの抗体を含む製剤が本発明において明らかに意図される。
【0168】
ある実施形態においては、STEAP−1抗体は、いずれかのHVR及びある実施形態においてはHVR−H3などの抗抗原結合に影響を及ぼす領域にAsp−Aspモチーフを含むが、これに限定されない。1つの実施形態においては、抗STEAP−1抗体は配列番号16のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む。かかる実施形態の1つにおいては、抗STEAP−1抗体は(a)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号15のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(d)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(e)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR−L3、から選択される1つ以上のHVRをさらに含む。かかる実施形態の1つにおいては、抗体は(a)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号15のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号16のアミノ酸配列を含むHVR−H3;(d)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(e)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR−L、を含む。
【0169】
ある実施形態においては、抗STEAP−1抗体は配列番号8〜10から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)を含む。1つの実施形態においては、抗体は配列番号5〜6から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)をさらに含む。上記実施形態のいずれにおいても、HVR−H3中のAsp−Aspモチーフは保存されている。上記VH実施形態のいずれにおいても、VHは配列番号16のアミノ酸配列を含むHVR−H3、並びに任意に(a)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR−H1;及び(b)配列番号15のアミノ酸配列を含むHVR−H2、から選択される少なくとも1つのHVRを含む。上記VL実施形態のいずれにおいても、VLは(a)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(b)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(c)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR−L3、から選択される少なくとも1つ、2つ又は3つのHVRを含む。ある実施形態においては、VH及びVLは図2A及び2Bに従って、例えば、配列番号5と配列番号8、並びに配列番号6と配列番号9若しくは10が対になっている。
【0170】
上述のいずれかの免疫抱合体において使用される抗体の例には、本明細書に記載される抗STEAP−1抗体がある。好ましい抗STEAP−1抗体及び免疫抱合体(ThioMAb免疫抱合体を含む)は国際公開第2008/052187号にも記載されており、この文献は参照により本明細書に明らかに組み込まれる。かかる免疫抱合体を含む製剤も本発明によって明らかに意図される。ある実施形態においては、上記抗STEAP−1抗体は任意に細胞毒性薬に結合している。1つの実施形態においては、細胞毒性薬はアウリスタチンである。かかる実施形態の1つにおいては、このアウリスタチンはMMAE又はMMAFである。
【0171】
III.製剤の例
本明細書における発明は、Asp−Aspモチーフ中のAsp残基のアスパルチル異性化を阻害するpHを有する製剤であって、Asp−Aspモチーフを有する治療用タンパク質を含む製剤に、少なくとも部分的に関する。
【0172】
1つの様態においては、Asp−Aspモチーフを有する治療用タンパク質を含む製剤であり、pHが6.0を超え、かつ9.0未満である製剤を提供する。1つの実施形態においては、このpHは6.0超を超え、かつ8.0未満である。別の実施形態においては、このpHは6.25〜7.5である。別の実施形態においては、このpHは6.25〜7.0である。別の実施形態においては、このpHは6.5〜7.5である。別の実施形態においては、このpHは6.5〜7.0である。別の実施形態においては、このpHは約6.5である。別の実施形態においては、このpHは6.0〜9.0の範囲にあり、その範囲の始点及び終点は、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、及び9.0から選択され、始点のpHは終点のpHよりも低い。
【0173】
特定の治療用タンパク質に特に適しているpH、又はpHの範囲は、例えば様々なpHのAsp−Aspモチーフを含む治療用タンパク質を形成して、タンパク質の安定性を最適化するpHを選択することによって実験的に決定することができる。例えば、Asp−Asp異性化の最大阻害を示すpH(例えば塩基性pH)は望ましくないレベルのアミド分解、凝集、及び断片化を誘導し得、一方、アミド分解、凝集及び断片化を最少化するpH(例えば酸性pH)は望ましくないレベルのAsp−Asp異性化を誘導し得る。タンパク質の安定性を最適化するpHはこのようにこれら分解過程のバランスをとることによって達成される。本明細書における教示に基づき、これらpHは上記に提供した、弱酸性から塩基性のpH範囲になることが予想される。
【0174】
ある実施形態においては、タンパク質中のアスパルチル異性化を十分に阻害するpHまで製剤のpHを上昇させる工程を含む、Asp−Aspモチーフを含む治療用タンパク質におけるアスパルチル異性化の阻害方法を提供する。かかるpHは任意の上述のpHであり得る。このアスパルチル異性化は最初のpHでみられたアスパルチル異性化と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%97%、98%、99%又は100%阻害され得る。ある実施形態においては、本明細書に上述された任意の実施形態に提供されるように製剤中の治療用タンパク質を維持する工程を含む、Asp−Aspモチーフを含む治療用タンパク質におけるアスパルチル異性化の阻害方法を提供する。上述のある実施形態においては、製剤のpHが6.5の場合に、製剤のpHが5.5の場合の異性化値と比較して、治療用タンパク質中のアスパルチル異性化が阻害される。この治療用タンパク質は、例えば、本明細書に提供したいずれかの抗STEAP−1抗体、又はそのADCであり得る。この製剤は本明細書に記載された製剤であり得る。
【0175】
Asp−Asp異性化は、本明細書の実施例に記載しているように、例えば質量分析、ペプチドマッピング、電子移動解離質量分析、及び疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いて決定することができる。製剤中の治療用タンパク質におけるアミド分解、凝集及び/又は断片化は、Daugherty et al., Advanced Drug Delivery Reviews 58:686−706(2006)に解説されている分析手法によって決定することができる。アミド分解、凝集及び/又は断片化の評価方法の例を下記にさらに提供する。
【0176】
凝集は、室温で白色蛍光下において白黒バックグラウンドに対する試料の色、外観及び透明性を観察することによって評価することができる。加えて、(希釈、又は未希釈)製剤のUV吸光度も凝集の評価に使用することができる。1つの実施形態においては、UV吸光度は石英キュベットを用い、1cm光路長でHP8453分光光度計上の278nm及び320nmにおいて測定される。320nmにおいて測定された吸光度は、より大きな凝集、気泡及び粒子によるバックグラウンドの光散乱を修正するために用いられる。製剤緩衝液に対する測定を対照とする。タンパク質濃度は1.65(mg/mL)−1cm−1の吸光率を用いて決定される。
【0177】
電荷変異体における変化を測定するために、陽イオン交換クロマトグラフィーを用いることができる。1つの実施形態においては、このアッセイはHP1100(商標)HPLCシステム上のDIONEXPROPACWCX−10(商標)カラムを用いる。試料をpH7.9で20mMHEPESを含む移動相Aを用いて1mg/mLに希釈する。30〜50μLの希釈した試料をその後40℃を維持したままカラムに添加する。ピークを、20mMHEPES、200mMNaCl、pH7.9を含む移動相Bを用いた浅いNaCl勾配で溶出する。溶出を280nmでモニターする。データをHP CHEMSTATION(商標)ソフトウェア(RevB.01.03又はそれより新しい)を用いて解析する。
【0178】
製剤中のFab及びF(ab’)2断片の純度はキャピラリーゾーン電気泳動(CZE)によって決定することができる。このアッセイはBIOCAPXL(商標)キャピラリー、50umI.D.を用い、合計44.6cm、検出器までの長さ40cmのBIORAD BIOFOCUS(商標)3000(商標)キャピラリー電気泳動システム上で行うことができる。
【0179】
凝集と断片を定量するために、サイズ排除クロマトグラフィーを用いることができる。このアッセイではHP1100(商標)HPLCシステム上のTSKG3000SWXL(商標)、7.8×300mmカラムを使用することができる。試料を移動相を用いて1〜2mg/mLに希釈し、25〜50μL量を注入する。移動相はpH6.2での200mMリン酸カリウム及び250mM塩化カリウムであり、タンパク質を定組成勾配、0.5mL/分で30分間溶出する。溶出液の吸光度を280nmでモニターする。積分はHP CHEMSTATION(商標)ソフトウェア(RevB.01.03又はそれより新しい)を用いて行う。
【0180】
製剤中の治療用タンパク質の安定性はタンパク質の活性を決定することによって評価することができる。治療用タンパク質が抗体の場合、例えばELISA又は細胞表面抗原を試験するための細胞を使用したアッセイ、例えば本明細書の実施例Aに記載されている細胞を使用したアッセイなどによって、抗体の抗原に結合する能力が維持されているか及び/又はどの程度維持されているかを決定することによって安定性を評価することができる。ある実施形態においては、製剤中の抗体(本明細書で提供したいずれかの抗STEAP−1抗体又は免疫抱合体など)は、40℃で4週間保存した場合に、5℃で6ヶ月間、それ以外は実質的に同一の条件で、例えば、上述のpH及び/又は抗体/ADC濃度、緩衝液成分、下記の製剤の例に記載された糖成分及び/又は界面活性剤成分で保存した場合と比較して、≦40%又は30%、及び好ましくは≦25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、又は1%の抗原結合能の損失を示す。
【0181】
治療用タンパク質(例えば、本明細書に記載した抗体又はADC)は製剤中に、例えば、1mg/mL〜200mg/mL、及び特定の実施形態においては、5〜50mg/mL、及び特定の実施形態においては、1mg/mL、2mg/mL、3mg/mL、4mg/mL、5mg/mL、10mg/mL、15mg/mL、20mg/mL、25mg/mL、30mg/mL、40mg/mL、50mg/mL、60mg/mL、70mg/mL、80mg/mL、90mg/mL又は100mg/mLの濃度で存在する。様々な実施形態においては、治療用タンパク質の濃度は対象への投与に適していて、かつ対象への投与に際して治療効果を提供する。特定の実施形態においては、抗STEAP−1抗体又はADCは1mg/mL、2mg/mL、3mg/mL、4mg/mL、5mg/mL、10mg/mL、15mg/mL、20mg/mL、又は25mg/mLの濃度である。
【0182】
別の様態においては、製剤は例えば上記で提供したpHのヒスチジン−酢酸緩衝液を含む。ヒスチジン酢酸は1mm〜100mMの濃度であり得、及びある実施形態においては、5、10、15、20、25、30、又は40mMであり得る。ヒスチジン酢酸緩衝液については、例えば、国際公開第2006/044908号に記載されており、それらは参照により本明細書に明らかに組み込まれる。実施形態の1例においては、ヒスチジン酢酸緩衝液は、例えば、裸の抗STEAP−1抗体、又は一方で、例えば抗STEAP−1ADCなどのADCのような、「裸の」抗体に対して使用される。別の様態においては、製剤ヒスチジン塩化物緩衝液を含む。ヒスチジン塩化物は1mm〜100mMの濃度であり得、及びある実施形態においては、5、10、15、20、25、30、又は40mMであり得る。実施形態の1例においては、ヒスチジン塩化物緩衝液は例えば、抗STEAP−1ADCなどのADCに、また一方で例えば、裸の抗STEAP−1抗体などの「裸の」抗体に対して使用される。さらなる実施形態の例においては、ヒスチジン塩化物緩衝液は、製剤を凍結乾燥する場合に使用される。
【0183】
別の様態においては、製剤は糖を含む。かかる実施形態の1つにおいては、この糖はトレハロース及びショ糖からなる群から選択される。かかる実施形態の1つにおいては、トレハロース又はショ糖は約60mM〜約250mMの量で存在する。特定の実施形態においては、トレハロース又はショ糖は100mM、125mM、150mM、175mM、200mM、210mM、220mM、230mM、240mM、又は250mMで存在する。
【0184】
別の様態においては、製剤は界面活性剤を含む。かかる実施形態の1つにおいては、この界面活性剤はポリソルベート20(TWEEN20として一般に知られている)である。かかる実施形態の1つにおいては、このポリソルベート20は約0.005%〜約0.1%の濃度で存在する。特定の実施形態においては、ポリソルベート20は0.005%、0.01%、0.0125%、0.015%、0.0175%、0.02%、0.025%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%又は0.1%ポリソルベート20濃度で存在する。
【0185】
別の様態においては、上述のpHにおける製剤は、上記に提供した1つ以上の実施形態のいずれかにおけるヒスチジン−酢酸緩衝液、糖、及び界面活性剤を含む。さらなる様態においては、上述のpHにおける製剤は、上記に提供した1つ以上の実施形態のいずれかにおけるヒスチジン塩化物緩衝液、糖、及び界面活性剤を含む。
【0186】
IV.製剤を用いた治療
1つの実施形態において、本発明は、本明細書に記載した製剤を、疾患又は障害を治療する有効量で投与する工程を含む、対象における疾患又は障害の治療方法を提供する。
【0187】
製剤が抗STEAP−1抗体(「裸の」抗STEAP−1抗体並びにADCを含む)を含む場合、この製剤は癌の治療に用いることができる。この癌は、通常、抗STEAP−1抗体が癌細胞に結合することができるように、STEAP−1発現細胞を含む。従って、この実施形態における発明は、対象においてSTEAP−1を発現している癌の治療方法に関し、この方法は、本明細書に記載した抗STEAP−1抗体を含む製剤を、癌の治療における有効量で対象に投与する工程を含む。かかる製剤を用いて治療できる様々な癌としては、前立腺癌、ユーイング肉腫、肺癌、結腸癌、膀胱癌、卵巣癌、及び膵臓癌などが挙げられる。Hubert et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:14523−14528(1999);国際公開第99/62941号;Challita−Eid et al. Cancer Res. 67:5798−5805;及び国際公開第2008/052187号を参照されたい。
【0188】
患者は抗体製剤と化学療法剤を組み合わせて治療され得る。組み合わせ投与としては、別々の製剤又は単一の製剤を用いた同時投与又は併用投与、及びいずれかの順序での連続投与がある。このように、化学療法剤は抗体製剤の投与前又は投与後に投与し得る。この実施形態においては、少なくとも1回の化学療法剤の投与と少なくとも1回の抗体製剤投与との間隔は、好ましくは約1ヶ月以下であり、最も好ましくは約2週間以下である。あるいは、化学療法剤及び抗体製剤は単一の製剤又は別々の製剤で、患者に同時投与する。
【0189】
患者は抗STEAP−1抗体製剤と二次抗体の組み合わせによって治療され得る。二次抗体は、例えば、アネキシン2、カドヘリン−1、Cav−1、Cd34、CD44、EGFR、EphA2、ERGL、Fas、ヘプシン、HER2、KAI1、MSR1、PATE、PMEPA−1、プロスタシン、プロステイン、PSCA、PSGR、PSMA、RTVP−1、ST7、TMPRSS2、TRPM2、及びTrp−p8などの前立腺細胞表面抗原に結合する抗体を含み得る。組み合わせ投与は、別々の製剤若しくは単一製剤を用いた同時投与若しくは併用投与、並びにそれぞれを順番に連続しての投与がある。従って、この二次抗体は抗STEAP−1抗体製剤の投与に先立って、又はその後に投与し得る。この実施形態においては、少なくとも1つの二次抗体の投与と少なくとも1つの抗STEAP−1抗体製剤投与との間隔は、好ましくは約1ヶ月以下であり、最も好ましくは約2週間以下である。あるいは、抗STEAP−1抗体製剤と二次抗体は単一製剤又は別々の製剤で、患者に同時投与される。
【0190】
本明細書に記載した製剤を用いた治療は、好ましくは、癌の徴候又は症状の改善をもたらす。例えば、かかる治療は生存率(全生存及び/又は無進行生存)における改善をもたらし、及び/又は客観的な臨床反応(部分的又は完全な)をもたらし得る。さらに、化学療法剤と抗体製剤の併用治療は、相乗的な、又は単純に付加したよりも大きな治療上の利益を患者にもたらす。
【0191】
製剤は、静脈内投与(例えば、ボーラスとして又は一定期間に渡る連続注入として)、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、骨液嚢内、鞘内、経口、局所、又は吸入経路などの既知の方法に従ってヒト患者に投与することができる。抗体組成物の静脈内、筋肉内又は皮下投与が好ましく、静脈内投与が最も好ましい。
【0192】
皮下送達において、製剤は、シリンジ;注入装置(例えばINJECT−EASE(商標)及びGENJECT(商標)装置);注入ペン(GENPEN(商標)など);無針装置(例えば、MEDIJECTOR(商標)及びBIOJECTOR(商標));又は皮下的なパッチ送達システムを介して投与し得る。
【0193】
疾患の予防若しくは治療において、適切な抗体の量は、上記で定義された治療される疾患の種類、疾患の重症度及び経過、その抗体が予防目的で投与されるか治療目的で投与されるか、治療歴、患者の既往歴及び抗体に対する反応、並びに担当医の裁量によって変わる。抗体は患者に対して一度に、又は治療期間に渡って適切に投与される。疾患の種類及び重症度によって、患者へ投与する初回用量の候補は約1μg/kg〜50mg/kg(例えば、0.1〜20mg/kg)の抗STEAP−1抗体であり、例えば1回以上の個別投与、又は連続注入により投与される。抗体の用量は通常、約0.05mg/kg〜約10mg/kgの範囲である。化学療法剤を投与する場合には、通常はそれらの既知用量で投与され、又は薬剤の複合作用、若しくは化学療法剤の投与に起因する負の副作用のために任意に低用量を投与する。化学療法剤の調製及び投与計画は使用説明書に従って、又は当業者による経験的な決定に従って用い得る。これら化学療法剤の調製及び投与計画はChemotherapy Service Ed., M.C. Perry, Williams & Wilkins, Baltimore, MD(1992)にも記載されている。
【0194】
その他の治療レジメンは、二次(三次、四次など)化学療法剤(すなわち異なる化学療法剤の「カクテル」);別のモノクローナル抗体;増殖阻害剤;細胞毒性薬;化学療法剤;EGFRを標的とする薬剤;チロシンキナーゼ阻害剤;抗血管形成剤;及び/又はサイトカイン;などが挙げられるが、これらに限定されない抗体と併用してもよい。上記治療レジメンに加えて、患者に癌細胞の外科的除去及び/又は放射線治療を行ってもよい。
【0195】
本明細書に提供する製剤(例えば、抗STEAP−1抗体製剤)は診断目的、例えばインビボ診断造影用に投与してもよい。かかる実施形態においては、抗体は検出のために直接又は間接的に標識され得る。
【0196】
V.製造品
本発明の別の実施形態においては、本発明の製剤を含み、本発明の製剤の使用に関する使用説明書を提供する製造品を提供する。この製造品は容器も含む。適した容器としては、例えば、瓶、バイアル(例えば、二腔バイアル)、シリンジ(二腔シリンジなど)及び試験管などが挙げられる。容器はガラス又はプラスチックなどの様々な材料から形成してよい。容器は製剤を保持し、容器に貼られた、又は容器に付随したラベルは使用方法を示す。製剤を保持する容器は、再構成された製剤の反復投与(例えば2〜6回の投与)を可能にする複数回使用用バイアルでよい。製造品には、商業上及び利用者の観点から所望のその他の材料(その他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、及び前項で示した使用方法に関する添付文書などを含む)をさらに含んでよい。
【0197】
本発明は下記の実施例を参照によりさらに十分に理解されるであろう。しかし、それらは本発明の範囲を限定すると解釈すべきではない。引用したすべての文献及び特許は参照により本明細書に組み込まれる。
【0198】
実施例
A.イオン交換クロマトグラフィーによるスクシンイミド中間体の同定
配列番号6及び10でそれぞれ示される重鎖及び軽鎖可変領域を有する完全長抗STEAP−1抗体を、pH5.5において100mMトレハロース及び0.01%Tween20を含む20mMヒスチジン酢酸緩衝液中で調剤した。試料を40℃で維持し(「ストレス条件」)、0、1、2、又は4週間後に、イオン交換クロマトグラフィーによって解析した。図3はそれらの時点で生じた溶出プロファイルを示す。「塩基性」ピーク(矢印)について、ストレス条件下で時間の経過と共に、溶出ピークが3.9%〜20.7%に増加した。
【0199】
試料の「効能」は、細胞を使用したアッセイにおける抗体の抗原への結合能を評価することにより決定した。このアッセイにおいて、STEAP−1が安定的に形質転換されたヒト胎児由来腎臓(HEK)293細胞を、0.2mg/mLG418を含む10%FBS及び1×GlutaMAX(商標)培地(インビトロジェン、カールスバッド、カリフォルニア)を含むHAM’sF12/DMEM(1:1)を用いた培地で生育させた。細胞におけるSTEAP−1の発現値を〜270,000sites/細胞になるようにスキャッチャード解析によって決定した。LB50細胞をポリ−D−リジンが塗布された96穴マイクロタイター細胞培養プレートに1×105細胞/穴になるように播種して、一晩、37℃及び5%CO2でインキュベートした。インキュベーションの後、抗STEAP−1抗体と対照試料をアッセイ用希釈剤(PBS+0.25%BSA)を用いて希釈し、プレートに添加した。プレートをその後インキュベートして、抗STEAP−1抗体をLB50細胞上に発現しているSTEAP−1に結合させた。プレートをその後結合していない抗体を除去するために洗浄した。結合した抗STEAP−1抗体をIgG−西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)と、結合した抗STEAP−1抗体の量に比例した比色シグナルを生産するSureBlueReserve(商標)テトラメチルベンジジンペルオキシダーゼ(TMB)基質溶液を用いて検出した。図3の表の最後のカラムに示すように、ストレス条件下では時間の経過と共に、抗STEAP−1抗体の効能が損失した。
【0200】
イオン交換ピークに相当する画分を回収し、質量分析を行った。塩基性ピーク(図3中の矢印)は主要なピークよりも少ない質量18Daを有し、これがスクシンイミド中間体であることを示している。スクシンイミド中間体の存在はアスパラギンのアミド分解又はアスパラギン酸の異性化のどちらかが存在することを示唆した。
【0201】
B.ペプチドマッピング及びETD−MSによる、Iso−Aspの同定
ペプチド(トリプシン)マッピングを試料について行った。図4に示すように、逆相クロマトグラフィーにおいて2つのペプチド(T11及びT11−iso−Asp)が別々に移動していることは、2つのペプチドが異なる荷電表面を提示していることを示している。しかしながら、2つのペプチドは質量分析において同じ質量を有することから、1つのペプチドがiso−Aspを含むことが示唆される。ペプチド断片については電子移動解離質量分析を行い、得られたデータは図5に示されるように、HVR−H3(CDR3)中のAsp−Asp配列における最初のAspが異性化したことを示した。このAspは図5(NYDYDDYYYAMDYWGQGTLVTVSSCSTK(配列番号17))の5位のペプチドに相当し、これは上記配列番号16の7位に相当する。
【0202】
C.pH上昇の効果
実施例Aの抗STEAP−1抗体を図6に示すように、様々なpHの240mMショ糖及び0.02%Tween20を含む20mMヒスチジン塩化物緩衝液中に調製した。pH5.5において4週間40℃で保存した場合、抗体のSTEAP−1抗原への結合の損失が示された。高いpHを有する製剤において、40℃での結合の損失が低下することが示された。5℃で6ヶ月間保存した場合には、いずれのpHにおいても結合の損失はみられなかった。
【0203】
D.Iso−Asp及びスクシンイミドのHIC検出
上記実施例Cに記載したように、pH5.5で調製し、40℃で0、1、2、及び4週間保存した抗STEAP−1抗体中のiso−Asp及びスクシンイミドの量を疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を用いて定量した。図7はiso−Asp及びスクシンイミドを含む溶出プロファイルを示す。図8は、示されたように様々な温度で様々な期間保存した抗STEAP−1抗体中のiso−Asp及びスクシンイミドの量(パーセンテージで表した)を示す。イオン交換クロマトグラフィーを用いた場合には、iso−Aspのピークが主要なピーク下に現れるため、iso−Asp及びスクシンイミドの量を定量するためHICが必要とされた。
【0204】
E.Aspからiso−Aspへの異性化率
抗STEAP−1抗体を上記実施例Cに記載したように、pH5.5で調製した。Aspからiso−Aspへの一次反応速度を仮定し(図9)、Aspからiso−Aspへの異性化率を様々な温度下で決定した(図10)。図10で決定した率を用いてアレニウスプロットを作製した(図11)。プロットはAsp−Asp異性化の活性エネルギーが約25〜30kcal/molであることを示している。
【0205】
前述の発明は、理解を明確にする目的で例証及び実施例によって詳述しているが、この記載及び実施例は本発明の範囲を限定するように解釈すべきではない。本発明において引用したすべての特許及び科学論文の開示は、その全体が参照により本明細書に明らかに組み込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Asp−Aspモチーフを有する治療用タンパク質を含む製剤であり、前記Asp−Aspモチーフ中のAsp残基のアスパルチル異性化を阻害するpHを有する製剤。
【請求項2】
Asp−Aspモチーフを有する治療用タンパク質を含む製剤であり、pHが6.0を超え、かつ9.0未満である製剤。
【請求項3】
前記pHが6.25〜7.0である、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
前記pHが約6.5である、請求項3に記載の製剤。
【請求項5】
前記治療用タンパク質が抗体である、請求項2に記載の製剤。
【請求項6】
前記抗体がAsp−Aspモチーフを有する超可変領域(HVR)を含む、請求項5に記載の製剤。
【請求項7】
前記Asp−AspモチーフがHVR−H3中に生じる、請求項6に記載の製剤。
【請求項8】
前記抗体が配列番号16のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む抗STEAP−1抗体である、請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
前記抗STEAP−1抗体が、(a)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号15のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(d)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(e)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される1つ以上のHVRをさらに含む、請求項8に記載の製剤。
【請求項10】
前記抗体が(a)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号15のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号16のアミノ酸配列を含むHVR−H3;(d)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(e)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む、請求項9に記載の製剤。
【請求項11】
前記抗体が配列番号8〜10から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)を含む、請求項8に記載の製剤。
【請求項12】
前記抗体が配列番号5〜6から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)をさらに含む、請求項11に記載の製剤。
【請求項13】
前記抗体が細胞毒性薬と結合している、請求項8に記載の製剤。
【請求項14】
前記細胞毒性薬がアウリスタチンである、請求項13に記載の製剤。
【請求項15】
前記細胞毒性薬がメイタンシノイド薬剤部分である、請求項13に記載の製剤。
【請求項16】
前記抗体が40℃で4週間保存した場合に、5℃で6ヶ月間保存した場合と比較して≦25%の抗原結合の損失を示す、請求項5ないし8のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項17】
20mMの濃度のヒスチジン−酢酸緩衝液を含む、請求項5ないし8のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項18】
20mMの濃度のヒスチジン−塩化物緩衝液を含む、請求項5ないし8のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項19】
60mM〜250mMの量で存在するトレハロース及びショ糖から選択される糖を含む、請求項5ないし8のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項20】
0.01%〜0.1%の量のポリソルベート20を含む、請求項5ないし8のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項21】
請求項8に記載の製剤を哺乳類に投与する工程を含む、癌の治療方法。
【請求項22】
製剤に含まれ、かつAsp−Aspモチーフを含む治療用タンパク質におけるアスパルチル異性化の阻害方法であり、製剤のpHをアスパルチル異性化を阻害する上で十分なpHまで上昇させる工程を含む、アスパルチル異性化の阻害方法。
【請求項23】
前記治療用タンパク質が抗体である、請求項22に記載の方法。
【請求項1】
Asp−Aspモチーフを有する治療用タンパク質を含む製剤であり、前記Asp−Aspモチーフ中のAsp残基のアスパルチル異性化を阻害するpHを有する製剤。
【請求項2】
Asp−Aspモチーフを有する治療用タンパク質を含む製剤であり、pHが6.0を超え、かつ9.0未満である製剤。
【請求項3】
前記pHが6.25〜7.0である、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
前記pHが約6.5である、請求項3に記載の製剤。
【請求項5】
前記治療用タンパク質が抗体である、請求項2に記載の製剤。
【請求項6】
前記抗体がAsp−Aspモチーフを有する超可変領域(HVR)を含む、請求項5に記載の製剤。
【請求項7】
前記Asp−AspモチーフがHVR−H3中に生じる、請求項6に記載の製剤。
【請求項8】
前記抗体が配列番号16のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む抗STEAP−1抗体である、請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
前記抗STEAP−1抗体が、(a)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号15のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(d)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(e)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR−L3から選択される1つ以上のHVRをさらに含む、請求項8に記載の製剤。
【請求項10】
前記抗体が(a)配列番号14のアミノ酸配列を含むHVR−H1;(b)配列番号15のアミノ酸配列を含むHVR−H2;(c)配列番号16のアミノ酸配列を含むHVR−H3;(d)配列番号11のアミノ酸配列を含むHVR−L1;(e)配列番号12のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び(f)配列番号13のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む、請求項9に記載の製剤。
【請求項11】
前記抗体が配列番号8〜10から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)を含む、請求項8に記載の製剤。
【請求項12】
前記抗体が配列番号5〜6から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)をさらに含む、請求項11に記載の製剤。
【請求項13】
前記抗体が細胞毒性薬と結合している、請求項8に記載の製剤。
【請求項14】
前記細胞毒性薬がアウリスタチンである、請求項13に記載の製剤。
【請求項15】
前記細胞毒性薬がメイタンシノイド薬剤部分である、請求項13に記載の製剤。
【請求項16】
前記抗体が40℃で4週間保存した場合に、5℃で6ヶ月間保存した場合と比較して≦25%の抗原結合の損失を示す、請求項5ないし8のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項17】
20mMの濃度のヒスチジン−酢酸緩衝液を含む、請求項5ないし8のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項18】
20mMの濃度のヒスチジン−塩化物緩衝液を含む、請求項5ないし8のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項19】
60mM〜250mMの量で存在するトレハロース及びショ糖から選択される糖を含む、請求項5ないし8のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項20】
0.01%〜0.1%の量のポリソルベート20を含む、請求項5ないし8のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項21】
請求項8に記載の製剤を哺乳類に投与する工程を含む、癌の治療方法。
【請求項22】
製剤に含まれ、かつAsp−Aspモチーフを含む治療用タンパク質におけるアスパルチル異性化の阻害方法であり、製剤のpHをアスパルチル異性化を阻害する上で十分なpHまで上昇させる工程を含む、アスパルチル異性化の阻害方法。
【請求項23】
前記治療用タンパク質が抗体である、請求項22に記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2012−509344(P2012−509344A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537608(P2011−537608)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/065084
【国際公開番号】WO2010/059787
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/065084
【国際公開番号】WO2010/059787
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】
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