説明

治療用遺伝物質のコラーゲン担体およびその方法

【課題】コラーゲン材料を使用する治癒促進の改良法の提供。
【解決手段】細胞増殖促進を誘導する核酸配列を担持するコラーゲン基質材料。上記細胞増殖促進誘導性核酸は、軟骨細胞増殖、骨細胞増殖またはこの両方を促進することができ、椎間円板損傷等の脊椎損傷を治療するために、かつ歯科損傷、顎顔面骨およびその他の整形外科的損傷を治療するために、関節間軟骨組織(meniscus tissue)を含む骨または軟骨、および膝等の関節での表面軟骨を修復することができる。当該方法は、治療すべき損傷または傷害領域214,226を核酸担持コラーゲン膜210、210’で覆い、治療すべき領域の上に上記コラーゲン膜を固定させ、その領域を治癒せしめることにより実施できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願のクロス−リファレンス)
本出願は、2001年8月10日に出願された米国仮特許出願第60/311,078号の恩典を主張するものである。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、コラーゲン物質を利用する治癒の分野に関するものである。
【背景技術】
【0003】
(背景技術の説明)
コラーゲン膜は、歯科損傷(米国特許第5,837,278号)、脊髄損傷(米国特許第6,221,109号)、および膝損傷(米国特許第6,352,558号)の治療に使用されている。
当業界はコラーゲン物質を利用して治癒を促進する改良法を必要としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(発明の概要)
本発明により、細胞増殖促進を誘導する核酸配列を担持したコラーゲン基質材料が提供される。本発明の上記核酸担持コラーゲン基質材料は治癒促進の方法に利用され得る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の詳細な説明)
本発明は、細胞増殖促進誘導性核酸配列、より好ましくは単離または精製した核酸配列を担持したコラーゲン基質材料を提供する。上記配列はDNA配列またはRNA配列でよい。特に好ましい実施態様において、コラーゲン基質材料は単離した遺伝子配列を担持し、特に好ましくはDNAを担持している。
【0006】
本発明により使用するための誘導性核酸配列は、軟骨細胞増殖、骨細胞増殖またはこの両方を促進することができる。
【0007】
誘導性核酸配列はその天然細胞環境にはないものである。すなわち上記誘導性核酸配列の環境は天然には現れないようなものである。
【0008】
本発明により使用するための精製された治療用核酸配列は、適切なソースから誘導でき、細胞増殖を促進するようにコラーゲン基質材料に担持される。一実施態様においては、レトロウィルスベクター、または他の適した遺伝子運搬(carrying)および遺伝子導入メカニズムを利用する。例えば、レトロウィルスベクターを用いてヒト骨誘導因子7(BMP−7)cDNAを間葉系幹細胞に安定的に導入できる。
【0009】
本発明による遺伝子治療は、治療遺伝子またはその他の遺伝子物質の細胞および組織への運搬(デリバリー)を含む。
【0010】
本発明は、椎間円板損傷等の脊椎損傷を治療するために、かつ歯科損傷、顎顔面骨およびその他の整形外科的損傷を治療するために、関節間軟骨組織(meniscus tissue)を含む骨または軟骨、および膝等の関節での表面軟骨を修復する方法を提供する。
【0011】
本発明の方法は、治療すべき損傷または傷害領域を本発明による遺伝物質担持コラーゲン膜で覆い、治療すべき領域の上に上記コラーゲン膜を固定させ、その領域を治癒せしめることにより実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】骨関節端メンバーの表面軟骨または関節間軟骨の損傷領域を示す部分切り取り斜視図である。
【図2】本発明によるコラーゲン膜材料から作られたパッチで損傷領域を覆った後の図1の骨関節を示す部分切り取り斜視図である。
【図3】本発明により使用する膜を示す側面略図である。
【図4】本発明により使用する二重層膜を示す側面略図である。
【図4A】対置する外側バリヤー面を有する、バリヤー層によって取り囲まれたコラーゲンII内層基質を含む、本発明により使用する膜を示す側面略図である。
【図5】本発明の別の実施態様による骨ミネラルインプラントと軟骨下孔とを示す、骨関節端メンバーの部分切り取り斜視図である。
【図6】本発明の一実施態様によるコラーゲン膜材料シートによって取り囲まれた脊髄を示す断面略図である。
【図7】第一のコラーゲン膜材料シートが患者の脊髄に直接隣接し、第二のコラーゲン膜材料シートが患者の脊椎、椎間円板および挿入された脊椎インプラント材料の外側に配置される、本発明の第二の実施態様を示す部分断面略平面図である。
【図8】本発明の別の実施態様により使用する膜を示す側面略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一実施態様によると、本発明は膝等の関節の表面軟骨の損傷および傷害を修復する方法を提供する。一実施態様によると、軟骨欠損は治療すべき損傷領域から、例えば石灰化軟骨を上記損傷領域から削り取ることによって除去される。
【0014】
石灰化軟骨を削り取った後、微小骨折法(microfracture)を用いて損傷領域の軟骨下プレートに複数の小孔を形成させ得る。図1は治療すべき損傷領域(14)を示す軟骨(12)をもった骨(10)を示す。ここでは石灰化軟骨は治療すべき領域から削り取られている。複数の小孔(16)が損傷領域の軟骨下プレート(18)に形成されている。
【0015】
軟骨下プレートの小孔(16)は、例えばマイクロサージカル・ピックの真っすぐな鋭い先端で、例えば約0.5−5mm、より好ましくは約1.5−2mmの深さに形成できる。小孔(16)は、例えば約0.2−1.5mm、より好ましくは約0.5−1mm、最も好ましくは約0.8mmの幅を有し得る。
【0016】
本発明は、上記のように軟骨下プレートに複数の小孔を形成することを含む微小骨折法の利用に関して述べられているとはいえ、本発明はドリリング、研磨のような軟骨下プレートに孔をあけるその他の方法にもまた適用できることが考えられる。
【0017】
上記のような軟骨下プレートに小孔を形成した後、処置すべき領域の小孔を複数層のコラーゲン膜材料からなるパッチ(20)によって覆うことができる。そのパッチには所望ならば細胞外で培養した軟骨細胞を担持させることができる。
【0018】
上記パッチをその後、例えば図2に示すような縫合糸(22)を使って治療すべき領域上に固定し、パッチを治療すべき領域の周囲の健康な軟骨に、または軟骨上に固定する。或いは、パッチを周囲の健康な軟骨にまたは健康な軟骨上に接着性結合することにより、例えば当業者に公知の有機接着剤を使用し、またはその他の適した方法を使用して上記治療すべき領域上に固定してもよい。上記手術手順は、直視下手術または間接鏡視下手術でよい。
上記パッチをした領域はその後軟骨を再生することができる。
【0019】
一実施態様によると、上記コラーゲン膜材料は、細胞付着を阻止するための少なくとも一つの平滑面(116)をもち、細胞の通過を防ぐバリヤーとして作用する、少なくとも一層のバリヤー層を含んでなる。図3を参照されたい。この実施態様によると、さらにバリヤー層は平滑面(116)の反対側に繊維性面(118)を有し、この繊維性面上には細胞増殖が可能である。平滑面(116)は治療すべき領域から離れた面であるのが好ましく、繊維性面(118)は治療すべき面に向いているのが好ましい。好ましい実施態様において、バリヤー層は主としてコラーゲンI、コラーゲンIIIまたはこれらの混合物である。適切な一材料は、本発明の譲渡人である化学工業のEd.ガイストリッヒ・シェーネ社(Ed. Geistlich Sohne AG fur Chemische Industrie)から提供されるビオガイド(Biogide)(登録商標)である。ビオガイド(登録商標)材料は、本明細書に参考として組み込まれる米国特許第5,837,278号に記載されている。
【0020】
図4は本発明によって使用され得る多層膜を示す。この膜は、図3に示されるようなバリヤー層(115)を含み、さらに連通スポンジ様組織を有する主としてコラーゲンIIの基質層(120)を含む。図4に示されるようなコラーゲン膜は、1997年10月10日出願の英国特許出願第9721585.9号の優先権主張に基づく、PCT出願PCT/GB98/02976号、2000年4月7日出願の米国特許出願第09/545,465号に記載されている。これは参考として本明細書に組み込まれる。
【0021】
図4Aは本発明によって使用され得る別の多層膜を示す。この膜は、連通スポンジ様組織を有する主としてコラーゲンIIの中心基質層(120)を間にはさんだ一対のバリヤー層(115)を含んでなる。この実施態様によると、バリヤー層の平滑面(116)は外側を向いており、バリヤー層(115)の繊維性面(118)は内側、すなわち基質層(120)の方に向いている。
【0022】
参考として本明細書に組み込まれる1997年11月10日に出願された米国特許出願第08/894,517号は、本発明によって使用できるコラーゲンIIをベースにする基質を開示している。
【0023】
また、本発明は基質インプラントを使用し、この基質インプラントは生体内での移植後に、天然軟骨細胞の内増殖(ingrowth)を成功させ、それによって軟骨組織の再生を可能にすることができる。生体内で周囲の結合組織から保護されるだけでなく基庭にある骨または軟骨欠損からも保護されるコラーゲンII基質の使用によって、軟骨および最終的には新しい骨組織を再構成することができる。これは多層膜インプラントの使用によって実現する。この多層膜インプラントは、それ自体、上記基質への周囲組織の望ましくない内増殖を阻止することができ、または欠損部位に外科的に移植してこの効果を得ることができる。
【0024】
一面から見ると、本発明はこのように、連通スポンジ様組織を有する主としてコラーゲンIIの基質層と、閉鎖した比較的不透過性の組織を有する少なくとも一層のバリヤー層とを含む多層膜を提供する。
【0025】
本発明による膜を使用した際の特別の利点は、天然細胞が閉鎖した比較的不透過性の組織を有する膜に浸透または増殖し得ないことである。
【0026】
理論によって束縛されるものではないが、今般、軟骨再生がうまくいくためには、結合組織、血管等の天然組織細胞だけでなく、いかなる新しい骨組織も欠損部位における速やかな増殖を阻止することが要求される。これは、コラーゲン基質を一側からの天然組織細胞の内増殖から保護するのに役立つ本発明の一実施態様による二重層膜を使用することによって達成できる。外科的移植中に、これを骨膜移植片等の組織移植片と組み合わせで用い、反対側からの天然組織細胞の内増殖を効果的に阻止することができる。従って、例えば、骨膜移植片等を最初に、骨または軟骨欠損上の被覆となるような適所に縫合する。その後に本発明の二重層膜を、これが上記移植片と接触するように欠損部位に移植し、かつ基質層が骨欠損の方に向くように配置する。或いは、最初に本発明の二重層膜を、バリヤー層が骨または軟骨欠損の方に向くようにして欠損部位に移植することもできる。その後骨膜移植片が基質層と接触するように配置される。
【0027】
上記移植片はフィブリン接着剤のような生体適合性接着剤で接着するか、または吸収可能ポリラクチックピンで止めてもよい。或いは必要ならばまたは可能ならばこれがその後周囲結合組織の内増殖に対する不透過性バリヤーの提供に役立つようなやり方で縫合してもよい。
【0028】
本発明の別の実施態様において、上記膜そのものが天然組織細胞の内増殖を効果的に阻止することができる。本発明は、少なくとも3層からなる膜を使用することができ、その膜において、主としてコラーゲンIIから作られ、かつ連通スポンジ様組織を有する基質層が、閉鎖した比較的不透過性の組織を有する2枚のバリヤー層の間に置かれている。
【0029】
上記基質層は、天然軟骨細胞の内増殖のためのメジウムとして作用することができ、それによって軟骨組織の再生をおこし得る。しかし、軟骨組織の再生をさらに助けるためには、生体内での移植の前または後に上記基質層に軟骨細胞を注入させることができる。移植直前に上記基質層に例えば注射(injection)によって軟骨細胞を注入させることができる。一方、一般には、移植後に軟骨細胞の懸濁液の直接注入によって上記基質層に軟骨細胞を導入することが期待される。この方法で、膜の基質層に存在する軟骨細胞が、軟骨の再生および最終的には新しい骨の再生をもたらすことができ、一方、その膜は同時に周囲組織からのその他の細胞種の内増殖を阻止する。
【0030】
本発明に使用する軟骨細胞は、関節軟骨、骨膜および軟骨膜から単離した同種または自生細胞、および骨髄からの間葉(間質)幹細胞を含む細胞ソースから得られる。同種細胞は、免疫反応および感染性合併症の潜在性を有するから、自生細胞、特に自生関節軟骨から軟骨細胞を単離するのが好ましい。細胞を採取する技術は公知であり、酵素的消化または外増殖(outgrowth)培養等が挙げられる。採取した細胞をその後細胞培養で増やし、その後体内に再導入する。軟骨組織の最適再生をもたらすためには、概して、少なくとも105、より好ましくは少なくとも107の細胞を基質層に注入しなければならない。
【0031】
一般に、本発明による膜の基質層が、ヒアルロン酸、コンドロイチン6−硫酸、ケラチン硫酸、デルマタン硫酸等のグリコサミノグリカン(GAGs)を含むのが所望である。これらは軟骨細胞が植え付けられて増殖し得る天然メジウムを提供するのに役立つ。軟骨からのものと必ずしも同じ組成、分子量および生理的特性をもたない別のソースからのグリコサミノグリカンをコラーゲン基質に組み込むことができるとはいえ、より好ましいグリコサミノグリカンは軟骨そのものから抽出したものである。概して、基質層は、約1ないし10重量%のグリコサミノグリカン、例えば約2ないし6重量%のグリコサミノグリカンを含むのが好ましい。若干のグリコサミノグリカンは不透過性層に存在し得るとはいえ、より多くの部分が基質層に存在する。
【0032】
天然コラーゲン組織において、GAGsは少なくとも一部分はプロテオグリカン(PGs)の一成分として生ずる。PGsの形でのGAGsの使用は、PGsのタンパク質含有率によって生じ得る免疫学的問題の可能性を考慮すると、好ましくない。そこで基質層は実質的にいかなるプロテオグリカンも含まないのが好ましい。これは、精製したテロペプチドフリーのコラーゲンII材料とグリコサミノグリカンとの混合物から基質層を調製することによって好都合に実現する。
【0033】
基質層に存在するその他の添加物には、例えばコンドロネクチン、ラミニン、フィブロネクチン、アルギン酸カルシウムまたは軟骨細胞のコラーゲンII繊維への付着を助けるアンコリンII、骨および軟骨細胞増殖促進ホルモン類、および軟骨誘導因子(CIP)、インスリン様成長因子(IGF)、ホモダイマーまたはヘテロダイマーとして存在する形質転換増殖因子β(TGFβ)、骨形成タンパク質−1(OP−1)および骨誘導因子(BMPs)、例えば天然または組み換えヒトBMP−2、BMP−3(骨形成原(osteogenin))、BMP−4、BMP−7、BMP−8、bFGF、CDMPまたはその他の骨格基質分子などの増殖因子、並びにシグナルペプチド、例えば形質転換増殖因子(TGF−β、TGF−β1)、血管内皮増殖因子(EGF/VEGF)、インスリン様成長因子(IGF/IGF−1)、副甲状腺ホルモン関連タンパク質(PTHrP)および血小板由来成長因子(PDGF)が挙げられる。上記をコードする核酸配列、または上記の生体内での産生を誘発または促進し得る核酸配列を、本発明のコラーゲン基質材料に組み込むことができる。
【0034】
本発明に使用する生成物は、関節軟骨または骨のような特殊の分化系列に入る幹細胞のための担体としても作用することができる。このような幹細胞は、生体外で増殖させそれらの数を増やすことができ、増殖因子のある、または増殖因子のない担体基質中で修復部位に適用される。例としては間葉幹細胞や骨髄基質幹細胞などがある。上記をコードする核酸配列、または上記の生体内での産生を誘発または促進し得る核酸配列を、本発明のコラーゲン基質材料に組み込むことができる。
【0035】
BMP−2は、独立的に骨形成の二経路−すなわち骨の直接形成、並びに軟骨(これはその後除去され骨に置き換わる)の形成−に影響を与える。種々のソースの皮質骨からの抽出により得られた骨基質または脱塩化骨基質を含むBMPsとコラーゲンとの複合体は、約90%のコラーゲンと、BMP活性用またはBMP/NCP誘導性軟骨形成用の約10%の非コラーゲン性タンパク質(NCP)とを含む。骨基質不溶性コラーゲン性基質およびラミニンまたはフィブロネクチンは、BMPsの担体としてはたらく。若干の増殖因子は不透過性層にも存在し得る。しかし、より大きい部分が基質層に存在するのがより好ましい。概して、膜は約100μgないし約5mgの増殖因子を含む。上記をコードする核酸配列、または上記の生体内での産生を誘発または促進し得る核酸配列が本発明のコラーゲン基質材料に組み込まれる。
【0036】
本発明は、細胞増殖促進遺伝物質またはそれらが組み込まれたDNAを有する遺伝子または核酸−補充コラーゲン基質を含むことができる。上記コラーゲン基質材料は、細胞増殖促進遺伝物質の持続的放出をもたらすことができる。上記基質から体内への放出において、上記遺伝物質は、細胞増殖および治癒を促進するように体内において細胞を形質転換(トランスフォーム)することができる。
【0037】
前記のように、上記膜は異なる構造を有する少なくとも2つの層を含み得る。上記膜のバリヤー層は、主としてコラーゲンIおよびIIIから作られるのが好ましい。或いは、これは合成物質、例えば任意にI型および/またはIII型コラーゲンのようなコラーゲン物質で覆われた合成吸収性ポリマー網目構造等を含み得る。
【0038】
適切な合成物質の例としては、ポリエステル類、ポリグリコール酸およびポリ乳酸(PLA)ホモポリマーおよびコポリマー、グリコリドおよびラクチドコポリマー、ポリオルトエステル類およびポリカプロラクトン類が挙げられる。これらの多くの例は、例えばベーリンガー・インゲルハイム(Boehringer Ingelheim)からRESOMERシリーズとして入手可能である。PLAポリマーは約650−1200という適切な分子量をもち、非常に急速な分解をしないワックスとして好ましい。特に好ましい生体内分解性ポリマーは、D−ラクチド対L−ラクチドの比が約70:30であるポリ(D,L−乳酸)である。このような合成物質の利点は、その膜インプラントを複雑な三次元の骨損傷部上に断裂をおこさずに引き伸ばすことができる高い機械的安定性を有することである。このような材料は縫合にもまた適当である。
【0039】
好都合なことに、バリヤー層構造は主として長いコラーゲン繊維からなり、これらのコラーゲン繊維は非常に緻密にくっついているため高分子物質はこのバリヤーを透過することができない。上記長い繊維は、高い引張強度と断裂抵抗を与え、そのためこの材料は良好な分離膜であるだけでなく容易に縫い付けることもできる。手術では、膜インプラントを正しい位置に縫い付けることまたはピンで止めることができるのがしばしば重要である。そしてこれまでに提案された膜の多くにはこの能力がない。本発明により使用するために好ましい膜は、移植のための外科的処置には機械的に十分安定である。
【0040】
基質層は非常に多孔性であり、0.02という低い比重を有し、この基質層は細胞を非常に速やかにこの層内に増殖させ得る。膜のこの層(この層もグリコサミノグリカンを含む)は著しく膨潤し、5000%もの液体を取り込むことができる。理想的にはこの基質層が有する孔構造(孔の容積部分および孔サイズ)は、細胞の付着および増殖を可能とし、植え付けられた細胞が軟骨特異的タンパク質の合成によって特徴づけられる軟骨細胞表現型を維持できるものでなければならない。孔サイズはコラーゲンII基質の製造に使用する(例えば凍結乾燥)方法によって決まるが、約10ないし約100μm、例えば20ないし100μmの範囲、例えば約85μmであると考えることができる。このような孔サイズは、約−5ないし−10℃で約24時間ゆっくりと凍結し、その後凍結乾燥するか、または重炭酸水素アンモニウムを凍結乾燥前にスラリーに加えるという方法で容易に得られる。
【0041】
上記膜の基質層は、軟骨、好ましくはブタのヒアリン軟骨から得られるコラーゲンII材料によって好ましくは作られる。
【0042】
上記基質層の所望厚さは、治療すべき骨または軟骨欠損の性質に依存するが、概してこれは約0.2ないし約12mm、例えば約1ないし約6mmの範囲にあると考えることができる。上記バリヤー層の厚さは、好ましくは約0.2ないし約2mm、例えば約0.2ないし約0.7mmである。最終的パッチの厚さは、約20−120mm、より好ましくは約60−100mmでよい。
【0043】
バリヤー層は、コラーゲンIおよびIIIを含む天然動物膜によって作られる。天然ソースに由来するから、これは体内に完全に吸収され、毒性分解産物を生成しない。このような膜はまた、湿潤または乾燥状態いずれにおいても特に高い断裂強度を有し、そのため必要ならば外科的に縫い付けることができる。湿潤した際に、この材料は非常に弾力性となり、不規則な形の骨欠損部上に伸展させることができる。
【0044】
コラーゲンの他に、天然動物膜は除去しなければならない多くのその他の生体物質を含む。このような膜を酵素、溶媒またはその他の化学物質で処理し、精製し、これらの膜を医学に使用することは公知である。これらの膜の大部分は非常に薄く、特に使用しにくいことが非常に多い。コラーゲン繊維はそれらの天然特性を失っており、その他にもこの材料を縫合材料として使用するには強度が不十分であり、水膨潤性をもたず、滑らかな粒状肌(grain)面と繊維性の肉面との間の差がないことが欠点である。精製テレペプチドフリーコラーゲンI型またはII型の繊維性タイプは、溶解性および生体内分解性が比較的小さいため、最も有用な担体材料となることが判明している。
【0045】
本発明による生成物のバリヤー層を与える膜には、天然コラーゲン構造を保有する子牛またはブタから得られる腹膜等が含まれる。齢6−7週の若いブタ(60−80kg)から得られる腹膜が特に好ましい。
【0046】
バリヤー層は、好ましくは純粋な天然(変性せず)不溶性コラーゲンを含んでいるのがよく、米国特許第6,837,278号(WO−A−95/18638に対応する)に記載された方法にしたがって調製され得る。上記の天然膜を最初にアルカリ、例えば約0.2−4重量%濃度のNaOH水溶液で処理する。これは全ての脂肪、およびアルカリに感受性のあるタンパク質も鹸化するようにはたらく。第二工程は、酸、通常はHClのような無機酸を用いた上記材料の処理を行う。これにより、酸感受性混入物は排除される。上記材料をその後pHが約2.5−3.5の範囲になるまで洗う。上記膜は、滑らかなまたは粒状面と、疎のより繊維性の面とを有する。上記膜を100−120℃に加熱することによって若干架橋させることが好ましい。
【0047】
上記膜の基質層をつくるために用いられるコラーゲンII材料は、主としてコラーゲンIおよびIIIを含むバリヤー層に関して上に記載したものと同様の方法によって軟骨から得ることができる。アセトンで処理することによって軟骨から水を除去し、その後n−ヘキサンのような炭化水素溶媒で脂肪を抽出することが好ましいが、エタノール等のアルカノール類、ジエチルエーテル等のエーテル類、またはクロロホルムのような塩素化炭化水素、またはこれらの混合物も使用できる。次いで、上記脱脂した材料をアルカリ処理にかける。この処理は残留脂肪を全て鹸化し、存在するタンパク質の若干を分解する。最後に、上記材料を酸で処理するとさらにタンパク質分解がおこる。上記材料を水中で膨潤させ、コロイドミルに通過させてスラリーを生成する。
【0048】
多層膜を生成するために、コラーゲンIIを含んでなる軟質スラリーを例えば米国特許第5,837,278号によって調製した平らな膜の繊維性面に適用する。普通は、上記膜を平らな表面上に粒状面を下にして置き、コラーゲンIIスラリーを例えば膜の繊維面にこすりつけることにより容易に適用できるようにする。こうしてスラリーは、コラーゲン膜にしっかりと付着した所望厚さの層を形成する。こうして形成された二重層は、その後凍結および凍結乾燥にかけられ、所望の孔サイズを有する所望のスポンジ様構造を与える。必要ならば、均一な厚さの二重膜を得るために上記基質層を少し除去してもよい。三層膜を形成するためには第二の平らな膜を、その繊維性面が基質層と接触するように、基質層の頂上部に置く。
【0049】
膜に塗布するコラーゲンIIスラリーは、概して約1.0−4.0重量%のコラーゲンを含み、約2−3重量%を含むのが好都合である。この混合物のpH値は、約2.5−4.5に調節するのが便利であり、約3.0−4.0が好都合である。
【0050】
さらにコラーゲンII材料を凍結乾燥工程後に架橋させて上記基質層を安定化することができる。これは基質層の機械的安定性を高め、体内吸収速度を低下させるのに役立つ。理想的には架橋度は、上記基質の分解速度が組織再生の速度に合うように決められなければならない。物理的には架橋は加熱によって行われるが、これは好ましくない吸収性減少を避けるために注意深く行わなければならない。100−120℃の温度に約30分ないし約5時間加熱することが好ましい。より好ましいのはUVランプを使用して例えば8時間までUV照射を行うというやり方で架橋をおこすことである。架橋は、アルデヒド類(例えばホルムアルデヒド、グリオキサール、グルタールアルデヒド、またはスターチアルデヒド等)、ジイソシアネート(例えばヘキサメチレンジイソシアネート)、カルボジイミド類(例えば[1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド]塩酸(EDC))、またはスクシンイミド類(例えばN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS))を使用する化学的架橋によっても実現する。
【0051】
コラーゲンII材料は、グリコサミノグリカン類(GAGs)を含むのが好都合である。後者は実際にコラーゲンIIと反応し、若干の架橋を形成し、不溶性産物を生成する。必要ならば、その後上記のように材料の加熱またはUV照射によってさらに架橋させることができる。上記グリコサミノグリカンとコラーゲンとの反応は、周囲温度で、2.5−3.5範囲のpHで行うことができる。グリコサミノグリカンの量は、約1ないし約10重量%でよい。上記材料をこのような処理後直ぐに凍結および凍結乾燥にかけるのがよい。
【0052】
例えば、コンドロイチン硫酸(CS)等のGAGsを、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を使用して、公知の方法でコラーゲン基質に共有結合させることができる。EDC/NHS架橋を利用して、GAGsをコラーゲン基質に固定してもよい。上記GAGsにはデルマタン硫酸、ヘパリンおよびヘパラン硫酸、並びに上記のCS等が含まれ得る。このようなGAGsは本発明によるパッチに担持され、治癒を促進する。
【0053】
スラリー形成はコラーゲンII物質のpHを高めることによって行われる。この方法では、上記物質を約4℃に冷やし、冷NaOH水溶液を4℃でpH値が約6.5−7.5になるまで添加することによりpH値をゆっくりと上昇させる。その後、上記物質を周囲温度に約15−25時間保持する。このときに、スラリーが形成され、スラリー形成後、上記物質を凍結および凍結乾燥することができる。
【0054】
もう一つの別の方法は、空気を除去した後、コラーゲンII物質をpH値約6.8−7.4にまで中性にする。混合物を型に入れ、37℃で約15−20時間インキュベートする。微細なスラリーが生じ、それをその後凍結および凍結乾燥することができる。
【0055】
上記方法のいずれを使用するかは所望生成物の性質に依存する。第一のプロセスは最も安定した生成物を与える。しかし、その沈殿は物質塊を与えることがあり、非常に注意深く行わなければならない。第二の方法はソフトで均質な生成物を与えるが、その生成物は第一のプロセスの生成物より可溶性である。
【0056】
上記スラリーの生成において、追加的にその他の所望の物質、例えばタウロリジンおよび/またはタウラウタムのような抗菌剤またはゲンタマイシンのような抗生物質等の薬剤を加えることができる。
【0057】
上記膜に上記スラリーを塗布した後、この膜を凍結させる。再現性のある孔サイズを得るために、凍結は注意深くコントロールし、凍結速度および時間、pH値および粒度を正確にコントロールしなければならない。非常に小さい孔を得るために、上記材料を非常に低温でショック凍結してもよい。
【0058】
凍結した膜をその後凍結乾燥し、引き続き約110−130℃に加熱する。このやり方で若干の架橋が起きる。その後、凍結乾燥した生体膜を必要な厚さに調節することができる。その結果、上記基質層の厚さは通常約2mmである。この二重膜を、例えばガンマ照射またはエチレンオキシド等によって滅菌する。強い照射、例えば線量25kGyの60Coの照射による滅菌はBMPsを不活性化することがある。このような状況の際は上記滅菌ずみ基質に滅菌食塩水中のBMPsを注入し、その後移植する。
【0059】
本発明による膜を次のようにして医学に利用することができる:
誘導性組織再生のための物質として使用される。細胞増殖が上記基質層によって促進される。バリヤー層は望ましくない細胞増殖を阻止する。
軟骨欠損、すなわち軟骨下プレートにまで侵入していない損傷の修復のための物質として、および骨軟骨欠損の修復のための物質として使用される。
【0060】
本発明は誘導性組織再生における上記のような多層コラーゲン膜の使用もまた提供する。上記膜のコラーゲンII含有量は軟骨組織の再生に特に適するが、その他の組織種にも適する。
【0061】
その他の面では、本発明はこれまでに記載したような膜を誘導性組織再生インプラントとして使用することをさらに提供する。
【0062】
本発明はさらに、ヒトまたはヒト以外の動物体における骨または軟骨欠損を治療する方法を提供する。前記方法はこれまでに記載したような膜を上記欠損部に適用することを含んでなり、その際前記膜は、バリヤー層が望ましくない組織型の骨または軟骨再生領域内への増殖を阻止する向きに配置される。
【0063】
基にある骨、並びに関節周囲の表面軟骨の損傷等を含むより重要な損傷に関する、別の実施態様によると、吸収性骨ミネラル等のインプラント材料(24)が治療すべき領域内の骨損傷に移植される。図5を参照されたい。骨ミネラルは所望ならば軟骨細胞を担持する。小孔(16)が治療すべき軟骨下プレート領域(18)に作られる。その後コラーゲン膜パッチを治療すべき領域上に図2に示すように固定することができる。
【0064】
適切なインプラント材料の一つは、本発明の譲渡人である化学工業のEd.ガイストリッヒ・シェーネ社から提供されるビオ−オス(Bio-Oss)(登録商標)である。ビオ−オス(登録商標)は、米国特許第5,167,961号および第5,417,975号に記載されており、これは参考として本明細書に組み込まれる。もう一つの適切なインプラント材料は、化学工業のEd.ガイストリッヒ・シェーネ社から提供されるビオ−オスコラーゲン(Bio-Oss Collagen)(登録商標)である。これはコラーゲン基質中の吸収性骨ミネラルである。ビオ−オスコラーゲン(登録商標)は、米国特許第5,573,771号に記載されており、これは参考として本明細書に組み込まれる。
【0065】
骨ミネラルは、コラーゲン基質の担持物と関連して上に列挙した添加物、増殖因子等のいずれを担持してもよい。
【0066】
毎年、円板損傷の治療、椎骨の修復、除去または融合、またはこれらの組み合わせを行うために多数の脊椎手術が行われている。このような手術中に、脊髄および脊髄を取り巻く硬膜鞘を損傷から保護することが望ましい。脊椎手術は損傷椎骨の修復または置換のために骨移植材料の挿入も含むことが多い。その後の治癒過程において、脊椎領域を結合組織および正常な治癒を妨害する望ましくない細胞の内増殖から保護することが好ましい。
【0067】
本発明は脊椎手術または脊椎損傷の最中および後に、脊髄および脊柱の諸領域を保護し、治癒させる方法もまた提供する。
【0068】
一実施態様により、脊髄周囲の硬膜鞘が露出する脊椎手術中では、遺伝物質を担持したコラーゲン膜材料のシート(210)を患者の脊髄(214)周囲の硬膜鞘(212)に隣接するように置き、硬膜鞘(212)を保護する。図6および図7を参照されたい。
【0069】
図7を参照し、本発明のもう一つの実施態様により、コラーゲン膜材料のシート(210’)を、脊髄(214)周囲の脊椎(222)の少なくとも一部分を取り巻くように置く。若干の手術においては、吸収性骨材料のような脊椎インプラント材料(224)が2つの脊椎(222a)および(222b)の間に置かれ、脊椎(222a)と脊椎(222b)との融合を容易にすることができる。この観点によれば、本発明は脊椎インプラント材料(224)の少なくとも一部分を取り巻くようなコラーゲン材料シート(210’)を包含する。適切な脊椎インプラント材料の一つは、本発明の譲渡人である化学工業のEd.ガイストリッヒ・シェーネ社から提供されるビオ−オス(登録商標)である。ビオ−オス(登録商標)は米国特許第5,167,961号および第5,417,975号に記載されており、これは参考として本明細書に組み込まれる。もう一つの適切な脊椎インプラント材料は、化学工業のEd.ガイストリッヒ・シェーネ社から提供されるビオ−オスコラーゲン(登録商標)である。これはコラーゲン基質中の吸収性骨材料である。ビオ−オスコラーゲン(登録商標)は、米国特許第5,573,771号に記載されており、これは参考として本明細書に組み込まれる。本発明はその他の骨移植法、例えば“ケージ法”にも適用できる。ここでは骨移植材料を包むチタン・ネットが脊椎間に挿入される。これらの実施態様により、コラーゲン膜材料のシートは上記インプラント材料を、結合組織および外側に隣接する骨材料からの他の細胞の内増殖から保護する。上記内増殖は、骨細胞やその他の骨再生細胞を妨害して、脊椎インプラント材料が脊柱に完全に合体して最大強度および治癒に達することを阻止する。
【0070】
本発明の方法は、図7に示すように、コラーゲン膜材料のシート(210’)を、脊髄(214)周囲の椎間円板(226)の少なくとも一部分を取り巻くように置くこともまた包含する。図7に示す実施態様において、硬膜(212)は本発明による遺伝物質を担持したコラーゲン膜(210)によって取り囲まれ、それに加えて第二の遺伝物質担持コラーゲン膜(210’)が脊椎(222a)および(222b)、並びに円板(226)および脊椎インプラント材料(224)の周囲に巻かれ、これらを保護している。このため、本発明は手術中の物理的損傷から脊髄硬膜を保護することができ、膜(210’)が図7に示すように脊柱周囲に巻かれている治癒過程においては、膜(210’)のバリヤー層が上記手術部位を好ましくない細胞の内増殖から保護する。上記コラーゲン膜材料(210)、(210’)は、患者の体に徐々に吸収され、治癒後にその膜を外科的に除去する必要がない。
【0071】
図8は、歯科領域、顎顔面骨領域またはその他の整形外科領域である領域(310)の骨および/または軟骨の傷害または損傷を修復するために本発明を利用することを示す。上記方法は治療すべき領域を上記のように遺伝物質担持コラーゲン基質膜(320)で処理し、縫合(322)、接着等の適切な手段を用いて上記材料を固定することを含む。
【0072】
本発明は以下に示す非制限的な実施例によってさらに詳しく説明される。
【実施例】
【0073】
(実施例1)
ブタの皮を細切して、20mlのピースとし、過剰のアセトンで処理して水分含有量3重量%未満とし、アセトンを蒸発させる。脱水した材料を過剰のヘキサンで処理し、脂肪含有量を2重量%未満とする。その後ヘキサンを蒸発させる。乾燥し脱脂した皮を過剰の水で処理し、コラーゲン含有量約4−7重量%のスラリーを形成する。
上記スラリーに水酸化ナトリウムを加えて4%水酸化ナトリウム溶液を生成することによって、最低4時間、20℃で撹拌しながらアルカリ処理する。上記スラリーを水で洗ってpH8.4とし、その後塩酸を加えて3.2%塩酸溶液を形成するというやり方で酸処理する。上記酸処理は20℃で最低2時間、撹拌しながら行われる。スラリーを水で洗ってpH2.5とする。
処理ずみの皮に水を加え、固体含有量1.5重量%の混合物を生成する。上記混合物を均質化してゲル様スラリーにする。ゲル様スラリーをその後凍結乾燥してコラーゲンIスポンジが形成される。
【0074】
(実施例2)
ブタの皮を細切して10mlのピースとし、25℃の気流による空気乾燥によって、残留水含有量が15重量%未満になるまで脱水する。脱水した材料を過剰の塩化メチレン/メタノール(87%:13%(重量))で処理することにより脱脂し、脂肪含有量を2%未満とする。溶媒をその後蒸発させる。
乾燥し脱脂した皮を過剰の水で処理してコラーゲン含有量約4−7重量%の混合物を生成する。
上記混合物に水酸化ナトリウムを加えて4重量%水酸化ナトリウム溶液を形成することによって最低4時間20℃で撹拌しながらアルカリ処理する。混合物を水で洗ってpH8.4とする。
混合物に塩酸を加えて3.2%塩酸溶液を生成することによって、上記混合物を20℃で最低2時間、撹拌しながら酸処理する。混合物を水で洗ってpH2.5とする。
処理ずみの皮に水を加え、固体含有量約1.5重量%の混合物を形成する。上記混合物を均質化してゲル様スラリーにする。上記ゲル様スラリーをその後凍結乾燥してコラーゲンIスポンジが形成される。
【0075】
(実施例3)
ブタの皮を細切して10mlのピースとし、25℃の気流下で空気乾燥して脱水し、残留水含有量を15重量%未満とする。
上記脱水した皮を、過剰の塩化メチレン/メタノール(87%:13%(重量))で処理することによって脱脂し、脂肪含有量を2%未満とする。溶媒をその後蒸発させる。
乾燥し脱脂した皮を過剰の水で処理してコラーゲン含有量約4−7重量%の混合物を形成する。必要ならば、処理ずみの皮にさらに水を加えて固体含有量約4重量%の混合物を生成し、上記混合物を均質化してゲル様軟塊とする。
ゲル様軟塊1kgあたり4M塩酸グアニジン溶液10kgを加えて混合物を生成し、それを4℃で24時間振盪する。混合物を水でよく洗い、残留コラーゲンを濾過する。
上記混合物をその後次のようにペプシン消化させる。pH2.5の0.1M乳酸中ペプシン:コラーゲン比1:10重量/重量の混合物になるようにペプシンを加え、48時間4℃で振盪し、コラーゲンを溶解する。2M水酸化ナトリウムで混合物のpHを約7まで高め、塩化ナトリウムを最終含有量0.7Mまで添加することによってコラーゲンを沈殿させる。沈殿したコラーゲンを遠心分離によって集める。水を沈殿物に加え、固体含有量約2.5重量%のゲル様軟塊を形成する。上記ゲル様軟塊を凍結乾燥するとコラーゲンIスポンジが形成される。
【0076】
(実施例4)
低温凍結したブタ軟骨を6℃で72時間かけて解凍する。解凍した軟骨を約3mmの大きさに砕く。砕いた軟骨に水を加えて固体含有量4重量%を有する混合物を生成し、均質化してゲル様軟塊にする。軟塊1kgあたり4M塩酸グアニジン溶液10kgを加え、4℃で24時間振とうする。このように処理した材料を水でよく洗い、残留コラーゲンを濾過する。濾過したコラーゲンにペプシンをペプシン:コラーゲン比1:10w/wになるように加え、0.1M乳酸でpH2.5とし、4℃で48時間振とうし、コラーゲンを溶解する。上記混合物のpHを2M水酸化ナトリウムで約7まで高める。コラーゲンは塩化ナトリウムを最終含有量0.7Mにまで添加することによって沈殿する。沈殿したコラーゲンを遠心分離によって集め、水のもつpH7で塩化ナトリウムを洗い流す。
pH3.3の塩酸水溶液を上記沈殿物に加えると固体含有量2.5重量%が得られ、pH3.3でよく撹拌すると均質なゲル様軟塊が得られる。上記ゲル様軟塊を凍結乾燥してコラーゲンIIスポンジが形成される。
【0077】
(実施例5)
低温凍結したブタ軟骨を6℃で72時間かけて解凍し、約5mmの大きさに砕いた。砕いた材料を過剰のアセトンで処理し、水分含有量3重量%未満にする。その後アセトンを蒸発させる。こうして脱水した材料を過剰のヘキサンで処理し脂肪含有量約を約2%未満にする。その後ヘキサンを蒸発させる。こうして乾燥し脱脂した材料を過剰の水で処理し、コラーゲン含有量約5−12重量%の混合物を得る。この混合物を4%水酸化ナトリウム溶液で20℃で24時間撹拌しながらアルカリ処理し、次に水で洗ってpH9.3とする。この材料を3.2%塩酸で20℃で最低2.5時間撹拌しながらで酸処理する。その後材料を水で洗い、pH3.2にする。
このように処理した軟骨に水を加え、固体含有量1.5重量%とし、均質化すると、ゲル様スラリーが得られる。上記ゲル様スラリーを凍結乾燥してコラーゲンIIスポンジとする。
【0078】
(実施例6)
コラーゲンIとコラーゲンIIとの組み合わせスポンジの製法
実施例1−3に記載したようなコラーゲンIゲル様スラリーまたはゲル様軟塊(凍結乾燥する前)を実施例4−5に示したコラーゲンII含有ゲル様軟塊またはゲル様スラリー(凍結乾燥する前)と混合し、その際のコラーゲンI:IIの比(乾燥重量でw/w)は1%コラーゲンI:99%コラーゲンIIないし99%コラーゲンI:1%コラーゲンIIとする。その後凍結乾燥してコラーゲンI/コラーゲンIIスポンジにする。
【0079】
(実施例7)
均質化後のコラーゲンI1.5重量%スラリー(実施例I)、および均質化後のコラーゲンII 1.5重量%スラリー(実施例5)を10:90%(w/w)の比で混合し、凍結乾燥してコラーゲンI/コラーゲンIIスポンジにする。
【0080】
(実施例8)
実施例1−7により生成したゲル様スラリーまたはゲル様軟塊をグリコサミノグリカン、プロテオグリカンまたはこれらの混合物を含んでなる添加物と混合する;その際乾燥重量ベースで0.5−50重量%の濃度に達する量の添加物を加える。
【0081】
(実施例9)
実施例1−7により生成した乾燥スポンジ材料をグリコサミノグリカン、プロテオグリカンまたはこれらの混合物を含んでなる添加物水溶液で処理し、その後凍結乾燥すると、乾燥重量で0.5−50重量%の添加物含有量が得られる。
【0082】
(実施例10)
ヒアルロン酸を水に溶解し、5重量%溶液を生成し、この溶液を実施例1で調製した1.5重量%コラーゲンIゲル様スラリー(凍結乾燥前)と混合し、凍結乾燥して、最終ヒアルロン酸含有量10重量%(乾燥重量ベース)を有するスポンジを形成する。
【0083】
(実施例11)
コンドロイチン−6−硫酸を水に溶解して1重量%コンドロイチン−6−硫酸溶液を作り、実施例4で生成したコラーゲンIIスポンジに加え、上記コラーゲンIIスポンジがコンドロイチン−6−硫酸溶液を吸着するようにする。濡れたスポンジを再び凍結乾燥し、コンドロイチン−6−硫酸の最終濃度が乾燥重量ベースで2重量%になるようにする。
【0084】
(実施例12)
実施例1−11に記載したように生成したスポンジを、紫外線(UV)照射による架橋、脱水加熱処理(DHT)、アルデヒド(例えばホルムアルデヒド、グリオキサル、グルタールアルデヒド、またはスターチアルデヒド等)、ジイソシアネート(例えばヘキサメチレンジイソシアネート)、カルボジイミド(例えば[1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド]塩酸(EDC))またはスクシンイミド(例えばN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS))による化学的架橋によって、酵素攻撃に対して安定化させる。
【0085】
(実施例13)
実施例10において生成したコラーゲンI(90%)−ヒアルロン酸(10%)スポンジを、スポンジから50cmの距離にある57マイクロワット/cm2UV光源でUV架橋(照射時間120分)することによって安定化させる。
【0086】
(実施例14)
実施例9において生成したコラーゲンI(88%)−ヒアルロン酸(10%)−コンドロイチン−6−硫酸(2%)スポンジをEDC架橋によって安定化させる。そのために50mgスポンジ(乾燥重量)を、33mmolEDCを含む、pH5.5に緩衝した40%(v/v)エタノール20mlに浸し、温度20℃で4時間反応させる。反応生成物を洗浄によって除去し、材料を凍結乾燥する。
【0087】
(実施例15)
ヒアルロン酸を水に溶解し、5重量%のヒアルロン酸溶液を生成する。これを実施例5において調製した1.5重量%コラーゲンIIゲル様スラリーと混合し、その後均質化する。上記材料を実施例5に記載したように均質化し、凍結乾燥すると乾燥重量ベースで10重量%のヒアルロン酸含有量を有するスポンジが形成される。そのスポンジを実施例13に記載したものと同じ光源を用い、スポンジからの距離を65cmとして200分間UV架橋することによって安定化させる。
【0088】
(実施例16)
コンドロイチン−6−硫酸を水に溶解して2.7重量%コンドロイチン−6−硫酸溶液を調製する。この溶液を実施例4において調製した2.5重量%コラーゲンIIゲル様軟塊と混合し、その後凍結乾燥する。材料を凍結乾燥して、乾燥重量ベースで2.8重量%のコンドロイチン−6−硫酸を含むスポンジが形成される。その後50mgスポンジ(乾燥重量)をpH5.5に緩衝した40%(v/v)エタノール20mlに浸すことによって(このエタノール1リットルは33mmolEDCおよび20mmolNHSを含む)EDC/NHS架橋し、スポンジを安定化させる。反応時間は4時間、22℃で、反応生成物を洗浄によって除去する。その後この材料を凍結乾燥する。
【0089】
(実施例17)
実施例7において生成したコラーゲンI/II(10:90w/w)スポンジをブレンダーでpH3.0塩酸溶液に再分散し、固体含有量2重量%とする。ヒアルロン酸を水に溶解して3重量%溶液とし、コンドロイチン−6−硫酸溶液を水に溶解して0.9重量%溶液にする。ヒアルロン酸溶液およびコンドロイチン−6−硫酸溶液を2重量%コラーゲンI/II分散液と混合し、凍結乾燥すると、乾燥重量ベースでヒアルロン酸の最終含有量が10重量%、そしてコンドロイチン−6−硫酸の最終含有量が2.75重量%となる。上記凍結乾燥したスポンジをEDC/NHS架橋によって安定化させる。そのために上記スポンジ50mg(乾燥重量)をpH5.5に緩衝した40%(v/v)エタノール20mlに浸し(上記エタノール1リットルは33mmolEDCと20mmolNHSを含む)、22℃で4時間反応させる。反応生成物を洗浄によって除去し、塊を凍結乾燥する。
【0090】
記載の実施態様には細部に多くの変更、バリエーションおよび変化が可能であるから、上の説明に記載されるおよび添付の図面に示される全ての事項は説明するためのものであって、制限するためのものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞増殖促進誘導性核酸配列を担持したコラーゲン基質材料。
【請求項2】
前記配列が単離された核酸配列である、請求項1記載のコラーゲン基質材料。
【請求項3】
前記配列が単離された遺伝子配列である、請求項1記載のコラーゲン基質材料。
【請求項4】
前記配列が単離されたDNA配列である、請求項1記載のコラーゲン基質材料。
【請求項5】
前記配列が軟骨増殖を促進させる、請求項1記載のコラーゲン基質材料。
【請求項6】
前記配列が骨増殖を促進させる、請求項1記載のコラーゲン基質材料。
【請求項7】
主としてコラーゲンI、コラーゲンIIIまたはこれらの混合物から作られた膜からなる、請求項1記載のコラーゲン基質材料。
【請求項8】
主としてコラーゲンIIから作られた膜からなる、請求項1記載のコラーゲン基質材料。
【請求項9】
コラーゲン膜材料の多層シートからなり、前記コラーゲン膜材料の多層シートが、細胞の通過を阻止するバリヤーとしてはたらく少なくとも一層のバリヤー層を含んでなり、前記コラーゲン膜材料シートがさらに、連通スポンジ様組織を有する主としてコラーゲンIIの基質層を含む、請求項1記載のコラーゲン基質材料。
【請求項10】
前記バリヤー層が細胞付着を阻止するような少なくとも一つの平滑面を有し、前記バリヤー層がさらに前記平滑面の反対側に繊維性面を有し、前記基質層が前記繊維性面に付着している、請求項9記載のコラーゲン基質材料。
【請求項11】
前記バリヤー層がコラーゲンI、コラーゲンIIIまたはこれらの混合物からなる、請求項9記載のコラーゲン基質材料。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項記載のコラーゲン基質材料を調製するための細胞増殖促進誘導性核酸配列の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図4A】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−75709(P2010−75709A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256311(P2009−256311)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【分割の表示】特願2002−235032(P2002−235032)の分割
【原出願日】平成14年8月12日(2002.8.12)
【出願人】(500140219)エド・ガイストリッヒ・ゼーネ・アクチェンゲゼルシャフト・フュール・ヒェミッシェ・インドゥストリー (10)
【氏名又は名称原語表記】Ed. Geistlich Soehne AG fuer chemische Industrie
【住所又は居所原語表記】Bahnhofstrasse 40, P.O. Box 157, 6110 Wolhusen, Switzerland
【Fターム(参考)】