説明

波長変換素子、それを備える光源及びその製造方法

【課題】波長変換部材を用いた光源の輝度低下を抑制する。
【解決手段】波長変換素子1は、波長変換部材10と、放熱部材11とを備えている。波長変換部材10は、無機材料からなる。放熱部材11は、波長変換部材10が壁面に接するように設けられている凹部または貫通孔11aを有する。放熱部材11の熱伝導率は、波長変換部材10の熱伝導率よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換素子、それを備える光源及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)やレーザーダイオード(LD:Laser Diode)を用いた光源などの、蛍光ランプや白熱灯に変わる次世代の光源に対する注目が高まってきている。そのような次世代光源の一例として、例えば下記の特許文献1には、青色光を出射するLEDの光出射側にLEDからの光の一部を吸収し、黄色の光を出射する波長変換部材が配置された光源が開示されている。この光源は、LEDから出射された青色光と、波長変換部材から出射された黄色光との合成光である白色光を発する。
【0003】
波長変換部材としては、従来、樹脂マトリクス中に無機蛍光体粉末を分散させたものが用いられている。しかしながら、樹脂マトリクス中に無機蛍光体粉末を分散させた波長変換部材では、LEDからの光により樹脂が劣化し、光源の輝度が低くなりやすいという問題がある。特に、LEDからの光が、青色光などの波長が短く、エネルギーが強い光である場合は、このような問題が生じやすい。
【0004】
このような問題に鑑み、例えば、下記の特許文献2には、ガラス中に無機蛍光体粉末を分散させた波長変換部材が提案されている。特許文献2に記載の波長変換部材は、樹脂を含まず、無機固体のみから構成されるため、優れた耐熱性及び耐候性を有している。従って、この波長変換部材を用いることにより輝度が低下しにくい光源を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−208815号公報
【特許文献2】特開2003−258308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
波長変換部材を用いた光源を高輝度化するためには、発光素子から出射する励起光の強度を高める必要がある。しかしながら、高強度の励起光を出射する発光素子を用いた場合は、特許文献2に記載のように、ガラス中に無機蛍光体粉末を分散させた波長変換部材を用いたとしても、輝度低下を十分に抑制できないという問題がある。
【0007】
本発明は、係る点に鑑みてなされたものであり、その目的は、波長変換部材を用いた光源の輝度低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究の結果、高強度の励起光を出射する発光素子を用いた場合の輝度低下は、波長変換部材に入射した光のうち、励起に使用されなかった光が熱に変換され、波長変換部材の温度が上昇することによる熱消光が原因であることを見出した。その結果、本発明者らは、本発明を成すに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る波長変換素子は、波長変換部材と、放熱部材とを備えている。波長変換部材は、無機材料からなる。放熱部材は、凹部または貫通孔を有する。放熱部材の熱伝導率は、波長変換部材の熱伝導率よりも高い。波長変換部材は、凹部または貫通孔の壁面に接している。
【0010】
本発明では、熱伝導率が高い放熱部材が波長変換部材と接するように設けられている。このため、波長変換部材の熱が効率的に放熱部材に伝導し、放熱部材から放熱される。このため、波長変換部材の温度上昇を抑制することができる。従って、本発明に係る波長変換素子を使用することによって、発光素子からの励起光の強度が高い場合であっても、輝度低下を抑制することができる。
【0011】
波長変換部材は、放熱部材の凹部または貫通孔に嵌合されていることが好ましい。この構成によれば、波長変換部材と放熱部材との密着度が大きくなり、両部材の接触部における熱伝導率を高めることができる。従って、波長変換部材の放熱を促進することができ、波長変換部材の温度上昇をより効果的に抑制することができる。
【0012】
放熱部材の熱伝導率は、150W/mK以上であることが好ましい。この構成によれば、放熱部材からの放熱をより促進することができる。従って、波長変換部材の温度上昇をより効果的に抑制することができる。このような放熱部材の熱伝導率を実現するために、放熱部材は、熱伝導率の高い金属や合金からなることが好ましい。具体的には、放熱部材は、Cu、Al、Ag及びAuからなる群から選ばれた金属またはCu、Al、Ag及びAuからなる群から選ばれた一種以上の金属を含む合金からなることが好ましい。
【0013】
放熱部材は、第1及び第2の主面を有する板状に形成されており、第1及び第2の主面の少なくとも一方には、複数の突起部が形成されていることが好ましい。この構成によれば、放熱部材の表面積を大きくすることができる。このため、放熱部材からの放熱をより効果的に促進させることができる。その結果、波長変換部材の温度上昇をより効果的に抑制することができる。
【0014】
放熱部材の体積は、波長変換部材の体積の1倍以上であることが好ましい。この構成によれば、放熱部材の熱容量を大きくすることができる。従って、波長変換部材の温度上昇をより効果的に抑制することができる。
【0015】
波長変換部材は、直径が20mm以下である円柱状であることが好ましい。波長変換部材の直径を20mm以下と小さくすることで、波長変換部材の中心部分の熱が放熱部材に伝導しやすくなる。従って、波長変換部材の温度上昇をより効果的に抑制することができる。
【0016】
波長変換部材の長さは、0.1mm〜2mmの範囲内にあることが好ましい。この構成によれば、波長変換部材の長さ方向中央部において生じた熱も効率的に放熱することができる。
【0017】
波長変換部材の熱膨張率と放熱部材の熱膨張率との差は、90×10−7/℃以下であることが好ましい。波長変換部材の熱膨張率と放熱部材の熱膨張率との差を90×10−7/℃以下と小さくすることで、波長変換素子の温度が上昇した際に、波長変換部材に大きな応力が加わったり、波長変換部材が放熱部材から脱落したりすることを効果的に抑制することができる。
【0018】
放熱部材の熱膨張係数は、波長変換部材の熱膨張係数よりも大きいことが好ましい。この構成によれば、波長変換素子の温度が上昇したときにおいても、波長変換部材が放熱部材から脱落することを抑制することができる。
【0019】
波長変換部材は、無機蛍光体粉末が分散しているガラスからなるものであってもよい。その場合、ガラスの軟化温度は、600℃以下であることが好ましい。この場合、波長変換素子を加熱プレスにより好適に形成することができる。また、加熱プレスにより波長変換素子を作製する場合において、放熱部材に要求される耐熱性が低くなる。従って、放熱部材の選択自由度が向上する。また、加熱プレス時における無機蛍光体粉末の劣化を抑制できる。
【0020】
軟化温度が低いガラスとしては、例えば、SnO−P系ガラスや、SnO−P系ガラスなどのスズとリン酸とを必須成分として含むスズ含有リン酸塩系ガラスが挙げられる。
【0021】
なお、本発明において、「軟化温度」は、ガラス粉末のDTA(示差熱分析)により測定した温度である。
【0022】
本発明に係る光源は、上記本発明に係る波長変換素子と、発光素子とを備えている。発光素子は、波長変換素子に対して励起光を出射する。
【0023】
上述のように、本発明に係る波長変換素子では、波長変換部材の温度が上昇しにくく、熱消光しにくい。従って、本発明に係る光源は、レーザー素子等の高出力の発光素子を使用した場合であっても、使用に際して、輝度低下しにくい。
【0024】
本発明に係る波長変換素子の製造方法は、上記本発明に係る波長変換素子を製造するための方法である。本発明に係る波長変換素子の製造方法は、無機蛍光体粉末が分散しているガラスからなり、凹部または貫通孔よりも細いプリフォームを放熱部材の凹部または貫通孔内に挿入する工程と、凹部または貫通孔内に挿入されたプリフォームを加熱プレスすることによりプリフォームから波長変換部材を作製する工程とを備えている。この方法により、上記本発明に係る波長変換素子を容易かつ安価に製造することができる。
【0025】
加熱プレスは、600℃以下で行うことが好ましい。そうすることにより、無機蛍光体粉末や放熱部材の劣化を抑制することができる。
【0026】
放熱部材として、波長変換部材よりも熱膨張係数が大きな部材を用いることが好ましい。この場合、加熱プレスにより波長変換部材を放熱部材に焼き嵌め、強固に固定することができる。波長変換部材をより強固に固定する観点からは、波長変換部材の熱膨張率と放熱部材の熱膨張率との差が10×10−7/℃以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、波長変換部材を用いた光源の輝度低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1の実施形態に係る光源の模式図である。
【図2】第1の実施形態における波長変換素子の略図的斜視図である。
【図3】図2の線III−IIIにおける略図的断面図である。
【図4】波長変換素子の製造工程を説明するための略図的断面図である。
【図5】第2の実施形態における波長変換素子の略図的斜視図である。
【図6】第3の実施形態における波長変換素子の略図的斜視図である。
【図7】第4の実施形態における波長変換素子の略図的断面図である。
【図8】第4の実施形態に係る光源の模式図である。
【図9】第5の実施形態における波長変換素子の略図的断面図である。
【図10】第6の実施形態における波長変換素子の略図的断面図である。
【図11】第6の実施形態における波長変換素子の略図的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は単なる例示である。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。
【0030】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る光源の模式図である。図1に示すように、光源2は、波長変換素子1と、発光素子3とを備えている。波長変換素子1は、発光素子3から出射された光L0が照射された際に、光L0よりも波長の長い光L2を出射する。また、光L0の一部は、波長変換素子1を透過する。このため、波長変換素子1からは、透過光L1と光L2との合成光である光L3が出射する。このため、光源2から出射する光L3は、発光素子3から出射する光L0の波長及び強度と、波長変換素子1から出射する光L2の波長及び強度とによって決まる。例えば、光L0が青色光であり、光L2が黄色光である場合は、白色の光L3を得ることができる。
【0031】
発光素子3は、波長変換素子1に対して励起光を出射する素子である。発光素子3の種類は特に限定されない。発光素子3は、例えば、LED、LD、エレクトロルミネッセンス発光素子、プラズマ発光素子により構成することができる。光源2の輝度を高める観点からは、発光素子3は、高強度の光を出射するものであることが好ましい。この観点からは、発光素子3は、LEDやLDにより構成されていることが好ましい。
【0032】
図2は、波長変換素子1の略図的斜視図である。図3は、波長変換素子1の略図的断面図である。図2及び図3に示すように、波長変換素子1は、波長変換部材10と、放熱部材11とを備えている。
【0033】
波長変換部材10は、発光素子3から出射された光L0の一部を透過する一方、一部を吸収し、光L0よりも波長の長い光L2を出射する部材である。波長変換部材10は、無機蛍光体粉末が分散しているガラスからなる。このように、波長変換部材10を構成している蛍光体粉末とガラスとの両方が無機材料である。このため、波長変換部材10は、高い耐熱性を有する。
【0034】
無機蛍光体粉末は、光源2から出射させようとする光L3の波長、発光素子3から出射させる光L0の波長等に応じて適宜選択することができる。
【0035】
無機蛍光体粉末は、例えば、酸化物蛍光体、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、塩化物蛍光体、酸塩化物蛍光体、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体、カルコゲン化物蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、ハロリン酸塩化物蛍光体、YAG系化合物蛍光体から選ばれた1種以上からなるものとすることができる。
【0036】
波長300〜440nmの紫外〜近紫外の励起光を照射すると青色の発光を発する無機蛍光体の具体例としては、Sr(POCl:Eu2+、(Sr,Ba)MgAl1017:Eu2+などが挙げられる。
【0037】
波長300〜440nmの紫外〜近紫外の励起光を照射すると緑色の蛍光(波長が500nm〜540nmの蛍光)を発する無機蛍光体の具体例としては、SrAl:Eu2+、SrGa:Eu2+などが挙げられる。
【0038】
波長440〜480nmの青色の励起光を照射すると緑色の蛍光(波長が500nm〜540nmの蛍光)を発する無機蛍光体の具体例としては、SrAl:Eu2+、SrGa:Eu2+などが挙げられる。
【0039】
波長300〜440nmの紫外〜近紫外の励起光を照射すると黄色の蛍光(波長が540nm〜595nmの蛍光)を発する無蛍光体の具体例としては、ZnS:Eu2+などが挙げられる。
【0040】
波長440〜480nmの青色の励起光を照射すると黄色の蛍光(波長が540nm〜595nmの蛍光)を発する無機蛍光体の具体例としては、Y(Al,Gd)12:Ce2+などが挙げられる。
【0041】
波長300〜440nmの紫外〜近紫外の励起光を照射すると赤色の蛍光(波長が600nm〜700nmの蛍光)を発する無機蛍光体の具体例としては、GdGa12:Cr3+、CaGa:Mn2+などが挙げられる。
【0042】
波長440〜480nmの青色の励起光を照射すると赤色の蛍光(波長が600nm〜700nmの蛍光)を発する無機蛍光体の具体例としては、MgTiO:Mn4+、KSiF:Mn4+などが挙げられる。
【0043】
無機蛍光体粉末の平均粒子径(D50)は、特に限定されない。無機蛍光体粉末の平均粒子径(D50)は、例えば、1μm〜50μm程度であることが好ましく、5μm〜25μm程度であることがより好ましい。無機蛍光体粉末の平均粒子径(D50)が大きすぎると、発光色が不均一になる場合がある。一方、無機蛍光体粉末の平均粒子径(D50)が小さすぎると、発光強度が低下する場合がある。
【0044】
波長変換部材10における無機蛍光体粉末の含有量は、特に限定されない。波長変換部材10における無機蛍光体粉末の含有量は、発光素子3から出射される光の強度、無機蛍光体粉末の発光特性、得ようとする光の色度などに応じて適宜設定することができる。波長変換部材10における無機蛍光体粉末の含有量は、一般的には、例えば、0.01質量%〜30重量%程度とすることができ、0.05質量%〜20質量%であることが好ましく、0.08質量%〜15質量%であることがさらに好ましい。波長変換部材10における無機蛍光体粉末の含有量が多すぎると、波長変換部材10における気孔率が高くなり、光源2の発光強度が低下してしまう場合がある。一方、波長変換部材10における無機蛍光体粉末の含有量が少なすぎると、十分に強い蛍光が得られなくなる場合がある。
【0045】
波長変換部材10に含まれる分散媒としてのガラスは、無機蛍光体粉末を好適に分散できるものであれば特に限定されない。波長変換部材10に含まれるガラスは、例えば、珪酸塩系ガラス、硼珪酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス、硼リン酸塩系ガラスなどであってもよい。なかでも、軟化温度が600℃以下のガラスが好ましく用いられる。軟化温度が600℃以下のガラスとしては、例えばSnO−P系ガラスやSnO−P系ガラスなどのスズ含有リン酸塩系ガラスが挙げられる。その中でも、ガラス組成として、モル%表示で、SnO:35〜80%、P:5〜40%及びB:0〜30%を含有するスズ含有硼リン酸塩系ガラスがより好適に用いられる。また、スズ含有硼リン酸塩系ガラスは、上記成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、例えばZnO、Ta、TiO、Nb、Gd及びLaの少なくとも一つの成分を、合量で10モル%まで含有していてもよい。
【0046】
図2及び図3に示すように、本実施形態では、放熱部材11は、板状に形成されている。もっとも、本発明において、放熱部材11は、板状でなくてもよい。放熱部材11は、例えば棒状に形成されていてもよいし、直方体状に形成されていてもよい。
【0047】
放熱部材11には、貫通孔11aが形成されている。上記波長変換部材10は、この貫通孔11a内に収納されている。波長変換部材10は、貫通孔11aの壁面に接している。具体的には、本実施形態では、波長変換部材10は、貫通孔11aに嵌合している。放熱部材11は、波長変換部材10よりも高い熱伝導率を有する。放熱部材11の熱伝導率は、150W/mK以上であることが好ましく、200W/mK以上であることがより好ましく、250W/mK以上であることがさらに好ましい。
【0048】
波長変換部材10の形状寸法は、特に限定されない。本実施形態では、具体的には、波長変換部材10は、直径が20mm以下である円柱状である。波長変換部材10の直径は、0.3mm〜15mmであることが好ましく、0.5mm〜3mmであることがより好ましい。波長変換部材10の長さは、0.1mm〜2mmの範囲内にある。なお、貫通孔11aの長さは、波長変換部材10の長さと等しくてもよいし、異なっていてもよい。もっとも、波長変換部材10の熱の放熱性をより高める観点からは、波長変換部材10は、貫通孔11aの長さ以下の長さを有しており、波長変換部材10の全体が貫通孔11aの内部に位置していることが好ましい。
【0049】
放熱部材11の材質は、特に限定されない。放熱部材11は、例えば、金属や合金により形成することができる。具体的には、放熱部材11は、例えば、Cu、Al、Ag及びAuからなる群から選ばれた金属またはCu、Al、Ag及びAuからなる群から選ばれた一種以上の金属を含む合金により形成することができる。なかでも、放熱部材11の材質は、熱伝導率が高く、安価であるCuまたはCuを含む合金により形成されていることが好ましい。
【0050】
なお、放熱部材11が、貫通孔11aの表面に反射膜が形成されたものであってもよい。特に、放熱部材11が反射率の低い材料で形成されている場合や、酸化など変性しやすく、変性により反射率が低下しやすい場合には、反射膜が形成されていることが好ましい。反射膜は、例えば、Ag,Al,Au,Pt及びTiからなる群から選ばれた金属や、それらの金属の一種以上を含む合金により形成することができる。
【0051】
放熱部材11の熱膨張率と、波長変換部材10の熱膨張率との差は、10×10−7/℃〜90×10−7/℃の範囲内にあることが好ましい。また、放熱部材11の熱膨張率は、波長変換部材10の熱膨張率よりも大きいことが好ましい。
【0052】
放熱部材11の大きさは特に限定されないが、放熱部材11は、波長変換部材10に対して十分に大きく、大きな熱容量を有することが好ましい。具体的には、本実施形態では、放熱部材11の体積は、波長変換部材10の体積の1倍〜1000倍であることが好ましく、1倍〜900倍であることがより好ましい。
【0053】
次に、波長変換素子1の製造方法の一例について説明する。具体的には、ここでは、加熱プレス法を用いた波長変換素子1の製造方法について説明する。
【0054】
まず、放熱部材11と、プリフォーム12とを用意する。このプリフォーム12は、波長変換部材10を作製するためのプリフォームである。このため、プリフォーム12は、無機蛍光体粉末が分散しているガラスからなる。プリフォーム12の形状は、特に限定されない。プリフォーム12は、例えば円柱状であってもよいし、角柱状、球状などであってもよい。本実施形態では、プリフォーム12は、角柱状に形成されている。また、本実施形態では、波長変換部材10と貫通孔11aとの体積が等しいため、プリフォーム12の体積も貫通孔11aとほぼ等しい。よって、プリフォーム12は、貫通孔11aよりも長い。
【0055】
なお、プリフォーム12の作製方法は、特に限定されない。プリフォーム12は、例えば、ガラス粉末と無機蛍光体粉末との混合粉末をプレス成形した成形体を焼成することにより作製することができる。成形体の焼成は、減圧雰囲気中で行うことが好ましい。具体的には、成形体の焼成は、1.013×10Pa未満で行うことが好ましく、1000Pa以下で行うことがより好ましく、400Pa以下で行うことがさらに好ましい。そうすることによって、波長変換部材10に残存する気泡の量を少なくすることができる。その結果、波長変換部材10を用いた光源の輝度をより高めることができる。なお、焼成工程全体を減圧雰囲気中で行ってもよいし、例えば焼成工程のみを減圧雰囲気中で行い、その前後の昇温工程や降温工程を減圧雰囲気ではない雰囲気で行ってもよい。
【0056】
次に、図4に示すように、プリフォーム12を貫通孔11a内に挿入する。その状態で、プリフォーム12を加熱することにより軟化させ、一対の成形型13,14でプレスする。その後冷却することにより波長変換素子1を完成させることができる。
【0057】
ここで、放熱部材11の熱膨張率が波長変換部材10の熱膨張率よりも大きい場合は、冷却工程において放熱部材11が波長変換部材10よりも大きく収縮する。このため、波長変換部材10が、放熱部材11に焼き嵌めされる。このようにすることによって、樹脂や低融点ガラスなどの熱伝導率の低い接着用材料を用いずとも波長変換部材10を放熱部材11に強固に固定することができる。従って、波長変換部材10と放熱部材11との間の熱伝導率を高めることができる。
【0058】
プリフォーム12の加熱プレスは、600℃以下で行うことが好ましく、500℃以下で行うことがより好ましく、400℃以下で行うことがさらに好ましい。そうすることにより、無機蛍光体粉末の劣化や放熱部材11の損傷を抑制することができる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態では、熱伝導率が高い放熱部材11が波長変換部材10と接するように設けられている。このため、波長変換部材10の熱が効率的に放熱部材11に伝導し、放熱部材11から放熱される。よって、波長変換部材10の温度上昇を抑制することができる。従って、波長変換素子1を備える光源2では、発光素子3からの励起光の強度が高い場合であっても、輝度が低下しにくい。
【0060】
また、本実施形態では、放熱部材11の貫通孔11aに波長変換部材10が嵌合している。このため、波長変換部材10と放熱部材11との接触部における熱伝導率を高めることができる。従って、波長変換部材10の放熱を促進することができ、波長変換部材10の温度上昇をより効果的に抑制することができる。
【0061】
また、本実施形態では、放熱部材11の熱伝導率が150W/mK以上と高い。このため、放熱部材11からの放熱をより促進することができる。従って、波長変換部材10の放熱をより促進することができる。波長変換部材10の放熱をさらに促進する観点からは、放熱部材11の熱伝導率は、200W/mK以上であることがより好ましく、250W/mK以上であることがさらに好ましい。
【0062】
このような高い熱伝導率を実現する観点からは、放熱部材11は、熱伝導率の高い金属や合金からなることが好ましい。具体的には、放熱部材11は、Cu、Al、Ag及びAuからなる群から選ばれた金属またはCu、Al、Ag及びAuからなる群から選ばれた一種以上の金属を含む合金からなることが好ましい。
【0063】
また、波長変換部材10の温度上昇を抑制する観点からは、波長変換部材10が小さく、内部の熱が放熱しやすいことが好ましい。このため、波長変換部材10の直径は、20mm以下であることが好ましく、長さは、2mm以下であることが好ましい。但し、波長変換部材10の大きさが小さすぎると、剛性が低くなりすぎたり、製造が困難となったりする。このため、波長変換部材10の直径は、0.5mm以上であることが好ましく、長さは、0.1mm以上であることが好ましい。
【0064】
また、波長変換部材10の温度上昇を抑制する効果をさらに高める観点から、放熱部材11の熱容量が大きいことが好ましい。従って、放熱部材11の体積は、波長変換部材10の体積の1倍以上であることが好ましい。但し、放熱部材11の体積が大きすぎると、波長変換素子1が大型化しすぎる場合がある。従って、放熱部材11の体積は、波長変換部材10の体積の1000倍以下であることが好ましく、900倍以下であることがより好ましい。
【0065】
本実施形態では、波長変換部材10の熱膨張率と放熱部材11の熱膨張率との差が、90×10−7/℃以下である。このため、波長変換素子1の温度が上昇した際に、波長変換部材10に大きな応力が加わったり、波長変換部材10が放熱部材11から脱落したりすることを効果的に抑制することができる。
【0066】
また、本実施形態では、放熱部材11の熱膨張係数は、波長変換部材10の熱膨張係数よりも大きい。このため、波長変換素子1の温度が上昇したときにおいても、波長変換部材10が放熱部材11から脱落することを抑制することができる。
【0067】
本実施形態では、プリフォーム12の加熱プレスにより波長変換部材10を作製する。このため、波長変換部材10を容易かつ安価に作製することができる。また、加熱プレスを600℃以下で行うため、無機蛍光体粉末や放熱部材11の劣化を抑制することができる。無機蛍光体粉末や放熱部材11の劣化をより効果的に抑制する観点からは、加熱プレスを500℃以下で行うことがより好ましく、400℃以下で行うことがさらに好ましい。
【0068】
また、放熱部材11として、波長変換部材10よりも熱膨張係数が大きな部材を用いるため、加熱プレスにより波長変換部材10を放熱部材11に焼き嵌め、強固に固定することができる。波長変換部材10をより強固に固定する観点からは、波長変換部材10の熱膨張率と放熱部材11の熱膨張率との差が5×10−7/℃以上であることが好ましい。
【0069】
また、加熱プレスは、中性雰囲気または還元雰囲気中で行うことが好ましい。そうすることにより、無機蛍光体粉末の劣化をより効果的に抑制することができる。中性雰囲気の具体例としては、例えば、アルゴンガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気や窒素ガス雰囲気などが挙げられる。還元雰囲気の具体例としては、例えば、水素ガス雰囲気や一酸化炭素ガス雰囲気などが挙げられる。
【0070】
以下、本発明実施した好ましい形態の他の例及び変形例について説明する。以下の説明において、上記第1の実施形態と実質的に共通の機能を有する部材を共通の符号で参照し、説明を省略する。
【0071】
(第2及び第3の実施形態)
図5は、第2の実施形態における波長変換素子の略図的斜視図である。図6は、第3の実施形態における波長変換素子の略図的斜視図である。
【0072】
上記第1の実施形態では、波長変換部材10が円柱状であり、放熱部材11が矩形状である例について説明した。但し、本発明において、波長変換部材及び放熱部材のそれぞれの形状は特に限定されない。例えば、図5に示すように、波長変換部材10は、角柱状であってもよい。また、図6に示すように、放熱部材11は、円板状であってもよい。
【0073】
(第4の実施形態)
図7は、第4の実施形態における波長変換素子の略図的断面図である。図8は、第4の実施形態に係る光源の模式図である。
【0074】
上記第1の実施形態では、貫通孔11a内に波長変換部材10が配置されている例について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。例えば、図7に示すように、放熱部材11の凹部11bに波長変換部材10が嵌合していてもよい。その場合は、図8に示すように、発光素子3を凹部11bの開口側に配置し、反射光を取り出すようにしてもよい。
【0075】
(第5の実施形態)
図9は、第5の実施形態における波長変換素子の略図的断面図である。
【0076】
図9に示すように、本実施形態では、波長変換部材10がドーム状に形成されている。このようにすることによって、波長変換部材10にレンズとしての機能を付与することもできる。なお、本実施形態のドーム状の波長変換部材10は、突部を有する成形型と、その突部に対応した形状の凹部を有する成形型とを用いてプレスすることにより作製することができる。
【0077】
(第6の実施形態)
図10は、第6の実施形態における波長変換素子の略図的断面図である。図11は、第6の実施形態における波長変換素子の略図的斜視図である。
【0078】
図10及び図11に示すように、本実施形態では、放熱部材11の第1及び第2の主面11c、11dの少なくとも一方に突部11eが形成されている。具体的には、第1及び第2の主面11c、11dのそれぞれに複数の線状の突部11eが形成されている。このため、放熱部材11の表面積が大きい。従って、放熱部材11からの放熱をより効果的に促進することができる。その結果、波長変換部材10の温度上昇をより効果的に抑制することができる。
【0079】
(変形例)
上記第1の実施形態では、無機波長変換部材として、無機蛍光体粉末が分散したガラスからなるものを用いる場合について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。無機波長変換部材として、例えば、透光性YAG多結晶体や、透光性YAG単結晶を用いてもよい。
【0080】
上記第6の実施形態では、線状の突部11eを第1及び第2の主面11c、11dに形成する例について説明した。但し、本発明は、この構成に限定されない。第1及び第2の主面の少なくとも一方に複数の突起部を設けてもよい。
【0081】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0082】
(実施例1)
モル%で、SnO:62%、P:22%、B:11%、Al:2%及びMgO:3%のガラス組成を有するバッチを坩堝内で1000℃で2時間加熱した。その後、得られた溶融ガラスの一部をロール成形することにより、ガラスフィルムを作製した。また、溶融ガラスの残りの一部をカーボン枠内に鋳込むことにより、ガラスブロックを作製した。
【0083】
得られたガラスブロックを、所定の大きさに切り出し、30℃〜380℃の温度範囲における熱膨張係数を、ディラトメーターを用いて測定した。その結果、ガラスの熱膨張係数は140×10−7/℃であった。
【0084】
次に、上記作製のガラスフィルムを、らいかい機を用いて15分間粉砕した後に、100μmのふるいに通してガラス粉末(D50:14μm、Dmax:145μm)を得た。得られたガラス粉末に対して、バリウムシリケート系黄色蛍光体粉末を添加して混合粉末を作製した。この混合粉末をプレス成形することにより、成形体を作製した。なお、この成形体における無機蛍光体粉末の含有量は、5質量%とした。
【0085】
次に、成形体を、200Paの減圧雰囲気中において400℃で30分間焼結し、その後、切断加工を行うことにより、0.7mm角、高さ1.8mmの角柱状の波長変換材料プリフォームを作製した。
【0086】
次に、Cu製の放熱部材を10mm角、厚み1mmの板形状に切り出した。その銅板の略中央部に、直径1mmの貫通孔を形成した。次に、放熱部材の貫通孔に波長変換材料プリフォームを挿入した状態で、SYS製の精密ガラスプレス装置を用いて窒素雰囲気中、360℃で加熱プレス成形した。これにより、上記第1の実施形態に係る波長変換素子1と実質的に同様の構成を有する波長変換素子を作製した。なお、加熱プレス成形には、STAVAX製の平型を用いた。
【0087】
(比較例1)
上記実施例1と実質的に同様の組成を有し、かつ同様の寸法を有する波長変換部材を作製した。この比較例1では、この波長変換部材単体を波長変換素子として用いた。
【0088】
(比較例2)
上記実施例1と実質的に同様の組成を有し、かつ同様の寸法を有する波長変換部材を作製した。この比較例2では、この波長変換部材を、上記実施例1で用いた放熱部材と実質的に同様の放熱部材の貫通孔に、樹脂(信越化学工業社製LPS−5510)を用いて固定することにより、波長変換素子を作製した。
【0089】
(評価)
上記実施例1及び比較例1,2のそれぞれにおいて作製した波長変換素子に対して、波長460nmの光を出射するLDからの光を5分間照射した。そのときの波長変換部材の温度を測定した。なお、LDに供給した電流は、400mAとした。
【0090】
その結果、放熱部材を設けなかった比較例1では、波長変換部材の温度が123.6℃まで上昇し、樹脂接着剤を用いて波長変換部材を放熱部材に固定した比較例2では、波長変換部材の温度が65.5℃℃まで上昇した。それに対して、実施例1では、波長変換部材の温度は、62.6℃までしか上昇しなかった。
【0091】
この結果から、波長変換部材を、放熱部材に直接接触するように固定することによって波長変換部材の温度上昇を抑制できることが分かる。
【符号の説明】
【0092】
1…波長変換素子
2…光源
3…発光素子
10…波長変換部材
11…放熱部材
11a…貫通孔
11b…凹部
11c…第1の主面
11d…第2の主面
11e…突部
12…プリフォーム
13,14…成形型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料からなる波長変換部材と、
凹部または貫通孔を有し、前記波長変換部材よりも熱伝導率が高い放熱部材と、
を備え、前記波長変換部材が前記凹部または貫通孔の壁面に接している、波長変換素子。
【請求項2】
前記波長変換部材は、前記凹部または貫通孔に嵌合している、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項3】
前記放熱部材の熱伝導率が150W/mK以上である、請求項1または2に記載の波長変換素子。
【請求項4】
前記放熱部材は、金属または合金からなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項5】
前記放熱部材は、Cu、Al、Ag及びAuからなる群から選ばれた金属またはCu、Al、Ag及びAuからなる群から選ばれた一種以上の金属を含む合金からなる、請求項4に記載の波長変換素子。
【請求項6】
前記放熱部材は、第1及び第2の主面を有する板状に形成されており、前記第1及び第2の主面の少なくとも一方には、複数の突起部が形成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項7】
前記波長変換部材の熱膨張率と前記放熱部材の熱膨張率との差は、10×10−7/℃〜90×10−7/℃の範囲内である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項8】
前記放熱部材の熱膨張係数は、前記波長変換部材の熱膨張係数よりも大きい、請求項1〜7のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項9】
前記波長変換部材は、無機蛍光体粉末が分散しているガラスからなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の波長変換素子と、
前記波長変換素子に対して励起光を出射する発光素子と、
を備える、光源。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の波長変換素子の製造方法であって、
無機蛍光体粉末が分散しているガラスからなり、前記凹部または貫通孔よりも細いプリフォームを前記放熱部材の前記凹部または貫通孔内に挿入する工程と、
前記凹部または貫通孔内に挿入されたプリフォームを加熱プレスすることにより前記プリフォームから前記波長変換部材を作製する工程と、
を備える、波長変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−94419(P2012−94419A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241905(P2010−241905)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】