説明

波長選択スイッチとその制御方法

【課題】ポート選択特性のみならず減衰率特性についても高精度な温度補償を実現する。
【解決手段】波長選択スイッチの制御回路105は、入力ポート101と出力ポート102間の損失が最小となる条件に対応した最適結合電圧情報、所望の減衰率を実現する減衰率制御電圧情報、温度と最適結合電圧との関係を表す温度補償電圧情報、減衰率に応じて温度補償電圧を修正する補償電圧修正値情報を記憶するメモリ108と、メモリ108に記憶された情報から所望のポートおよび所望の減衰率に対応する二軸MEMSミラー装置104の制御電圧を算出し、所望の減衰率に対応する補償電圧修正値を決定し、温度センサ106が検出した温度と温度補償電圧情報と補償電圧修正値とから温度補償電圧を算出し、温度補償電圧を制御電圧に加える演算部109とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信用光伝送装置、波長ルーティング装置などに使用される波長選択スイッチに係り、特に光路を切り替えるだけでなく、スイッチを通って出力される光信号のパワーを所望の値に制御することができる波長選択スイッチとその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の光通信では、光信号を電気信号に変換することなく、光のままで通信先に送ることにより、通信速度を落とさない高速通信を実現している。また、一つの波長に一つの光信号を対応させて波長多重するWDM(Wavelength Division Multiplexing)技術により、一本の光ファイバを使って大容量の光伝送が行えるようになっている。このような光通信技術の発展に伴い、光信号のままで経路を切り替える光スイッチの役割が重要性を増している。
【0003】
光通信ネットワークの大規模化に伴い、光信号の波長数も増え、数十もの波長から任意の波長を選択して複数の出力ファイバのどれかから出力する波長選択スイッチの小型化、高機能化が進んでいる。このような高機能な波長選択スイッチをコンパクトに実現できるものとして、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)マイクロミラーを用いた空間光学系光スイッチが注目されている。
【0004】
空間光学系光スイッチは、ファイバのほかにレンズやミラーなどの空間光学部品から構成され、光学部品を3次元的に配置することができるので、空間利用効率の高い大規模スイッチを構成できる。空間光学系光スイッチで利用される可動素子として、MEMS技術で作成されたMEMSミラーアレイ(例えば、特許文献1参照)がよく用いられる。このミラーアレイは、ポートの切り替えを実現する可動軸の他に、もう一つの回動軸を有しており、この回動軸周りにミラーを回動させることによって光路の損失を変えて、ミラーを通過する光信号のパワーを任意の値に制御することができる。光パワー制御は、例えばWDM光ネットワークなどにおいては、光伝送路における利得または損失の差によって生じた光信号間のパワーのばらつきを抑制することに利用される。この光パワー制御機能は、接続できるノード数にかかわるので、将来の多波長光ネットワーク用波長選択スイッチには欠かせない機能である。
【0005】
光ネットワークの大規模化に伴い、波長選択スイッチに要求される性能は高く、例えば、±1dB以下の精度で光信号の減衰率を制御している。しかし、周辺温度の変化やスイッチ内部から発生する熱により、ファイバやレンズ等の光学系や、MEMSミラーの温度が変化すると、光学系とMEMSミラーのそれぞれが有する温度依存性により、MEMSミラーに入射する光線の角度や、MEMSミラーの角度が変化してしまい、光信号の減衰率も変わってしまう。そのため、ある温度では高精度な減衰率制御ができていても、温度が変わると、とたんに精度が劣化してしまうという問題があり、いかに精度の高い温度補償制御を実現するかが課題であった。
【0006】
従来、温度補償制御の技術として、透過波長を調整可能な円板状光フィルタの近傍に温度センサを設置し、この温度センサによって周辺温度を検出し、予め記録しておいた温度と補償量との関係から円板状光フィルタを必要量回すことで、温度に依存せずに透過波長を常に一定に保つフィードフォワード制御が提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−57575号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】E.Hashimoto and Y.Katagiri,“Temperature-compensated,highly accurate wavelength-tunable filters for photonic networks”,Journal of Optical Networking,Vol.4,No.6,June 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1に開示された例のように、温度と補償量との関係が1対1の単純なフィードフォワード温度補償制御を、そのまま波長選択スイッチの温度補償制御には適用できない。なぜなら、波長選択スイッチのミラー角度を制御する軸は二軸あり、軸同士での駆動特性に相関がある他、制御する変数もポート選択と光信号の減衰率という二変数があるので、温度補償量をそれぞれの変数にどのように加えるかを決めなくてはならないからである。
【0010】
また、波長選択スイッチは前述のように、単にポートの切り替えだけではなく、光信号の減衰率の調節機能も有するので、温度に関わらず、切り替えたポート状態を維持するための温度補償に加え、調節した減衰率を維持するための温度補償も同時に必要である。しかし、従来の温度補償制御は、ある一つの特性、例えば光フィルタならば透過波長について、光スイッチならばポート選択について、温度補償を行っているだけで、ポート選択と減衰率という二つの特性に対して同時に温度補償を実施していなかった。そのため、光信号の減衰率について精度の高い温度補償を提供することができないという問題点があった。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、ポート選択特性のみならず、減衰率特性についても高精度な温度補償を実現することができる波長選択スイッチとその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の波長選択スイッチ(第1の実施の形態)は、少なくとも1つ以上の入力ポートと、少なくとも1つ以上の出力ポートと、前記入力ポートから入った光を波長ごとに直線的に一点に集光する分散空間光学系と、この分散空間光学系の集光点上に配置され、二つの回動軸周りに回動可能なミラーおよび制御電圧に応じた静電引力により前記ミラーを回動させる制御電極からなる二軸MEMSミラー装置と、この二軸MEMSミラー装置を制御する制御手段と、前記二軸MEMSミラー装置および分散空間光学系の周辺温度を検出する温度センサとを備え、前記制御手段は、前記入力ポートと前記出力ポートとの間の光信号の損失が最小となる最適結合条件に対応した前記二軸MEMSミラー装置の最適結合電圧情報と、光信号の所望の減衰率を実現する前記二軸MEMSミラー装置の減衰率制御電圧情報と、温度と最適結合電圧との関係を表す温度補償電圧情報と、減衰率に応じて温度補償電圧を修正する補償電圧修正値情報とを予め記憶するメモリと、前記最適結合電圧情報と前記減衰率制御電圧情報とから所望のポートおよび所望の減衰率に対応する前記二軸MEMSミラー装置の制御電圧を算出し、前記補償電圧修正値情報から所望の減衰率に対応する補償電圧修正値を決定し、前記温度センサが検出した温度と前記温度補償電圧情報と前記補償電圧修正値とから温度補償電圧を算出し、この温度補償電圧を、前記算出した制御電圧に加えて最終的な制御電圧を確定する演算手段と、この演算手段が算出した制御電圧を前記二軸MEMSミラー装置の制御電極に印加する電圧駆動手段とを有し、前記ミラーの少なくとも一方の軸周りの回動を制御することで前記分散空間光学系から入射した光信号の向きを変え、この光信号を再び前記分散空間光学系を通して所望の出力ポートに出力することで光信号の減衰率の温度補償が可能なことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の波長選択スイッチの1構成例(第1の実施の形態)は、さらに、前記分散空間光学系と前記二軸MEMSミラー装置と前記温度センサとを内部に収める筐体を備えることを特徴とするものである。
また、本発明の波長選択スイッチの1構成例(第2の実施の形態)は、さらに、前記分散空間光学系と前記二軸MEMSミラー装置と前記温度センサとを前記筐体に固定する固定具を備え、この固定具は、断熱性の材料からなることを特徴とするものである。
また、本発明の波長選択スイッチの1構成例(第3の実施の形態)において、前記温度センサは、波長選択スイッチを構成する光学部品のうち温度依存性が最も高い光学部品に装着されていることを特徴とするものである。
また、本発明の波長選択スイッチの1構成例(第4の実施の形態)において、前記温度センサは、波長選択スイッチを構成する光学部品のうち温度依存性が最も高い光学部品と略等しい熱容量を持つ部材に装着されていることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明は、少なくとも1つ以上の入力ポートと、少なくとも1つ以上の出力ポートと、前記入力ポートから入った光を波長ごとに直線的に一点に集光する分散空間光学系と、この分散空間光学系の集光点上に配置され、二つの回動軸周りに回動可能なミラーおよび制御電圧に応じた静電引力により前記ミラーを回動させる制御電極からなる二軸MEMSミラー装置と、前記二軸MEMSミラー装置および分散空間光学系の周辺温度を検出する温度センサとを備えた波長選択スイッチの制御方法であって(第5の実施の形態)、前記入力ポートと前記出力ポートとの間の光信号の損失が最小となる最適結合条件に対応した前記二軸MEMSミラー装置の最適結合電圧情報と、光信号の所望の減衰率を実現する前記二軸MEMSミラー装置の減衰率制御電圧情報とから、所望のポートおよび所望の減衰率に対応する前記二軸MEMSミラー装置の制御電圧を算出する制御電圧算出ステップと、減衰率に応じて温度補償電圧を修正する補償電圧修正値情報から、所望の減衰率に対応する補償電圧修正値を決定する補償電圧修正値決定ステップと、前記温度センサが検出した温度と、温度と最適結合電圧との関係を表す温度補償電圧情報と、前記補償電圧修正値とから、温度補償電圧を算出する温度補償電圧算出ステップと、この温度補償電圧を、前記算出した制御電圧に加えて最終的な制御電圧を確定する制御電圧確定ステップと、この制御電圧確定ステップで確定した値の制御電圧を前記二軸MEMSミラー装置の制御電極に印加する駆動ステップとを有し、前記ミラーの少なくとも一方の軸周りの回動を制御することで前記分散空間光学系から入射した光信号の向きを変え、この光信号を再び前記分散空間光学系を通して所望の出力ポートに出力し、かつ前記ミラーの少なくとも一方の軸周りの回動を制御することで光信号の減衰率の調整が可能なことを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の波長選択スイッチの制御方法の1構成例(第5、第7の実施の形態)において、前記二軸MEMSミラー装置は、前記入出力ポートが並ぶ方向と直交するx軸および前記入出力ポートが並ぶ方向と平行なy軸の二つの回動軸周りに回動可能な前記ミラーを備え、前記温度補償電圧算出ステップは、前記ミラーをx軸周りに回動させる制御電圧をVx、前記ミラーをy軸周りに回動させる制御電圧をVy、前記補償電圧修正値をVyRatio、前記温度センサが検出した温度をT、基準温度をTref、ΔT=T−Trefとし、前記温度補償電圧情報として係数ATx,BTx,ATy,BTyがメモリに記憶されているとき、x軸に関する前記温度補償電圧Vx_TC、y軸に関する前記温度補償電圧Vy_TCを、Vx_TC=(ATx・ΔT+BTx)・ΔT、Vy_TC=(ATy・ΔT+BTy)・ΔTにより算出し、さらに前記補償電圧修正値VyRatioを、前記温度補償電圧Vx_TC,Vy_TCのうちどちらか一方に掛けて前記温度補償電圧Vx_TC,Vy_TCを確定することを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の波長選択スイッチの制御方法の1構成例(第8の実施の形態)において、前記補償電圧修正値決定ステップは、所望の減衰率をATTとし、係数a,bが前記補償電圧修正値情報としてメモリに記憶されているとき、前記補償電圧修正値VyRatioを、VyRatio=a・ATT+bにより算出することを特徴とするものである。
また、本発明の波長選択スイッチの制御方法の1構成例(第9の実施の形態)において、前記補償電圧修正値決定ステップは、所望の減衰率をATTとし、減衰率を複数の領域に区分したときの領域間の境界値であるATTth[N]と係数a[N],bとが前記補償電圧修正値情報としてメモリに記憶されているとき(Nは正の整数)、前記補償電圧修正値VyRatioを、
【0017】
【数1】

【0018】
により算出することを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の波長選択スイッチの制御方法の1構成例(第10の実施の形態)において、前記補償電圧修正値決定ステップは、所望の減衰率をATT、前記温度センサが検出した温度をT、基準温度をTref、ΔT=T−Trefとし、係数Ar,Brが前記補償電圧修正値情報としてメモリに記憶されているとき、前記補償電圧修正値VyRatioを、VyRatio=(Br・ΔT)(Ar・ATT+1)+1により算出することを特徴とするものである。
また、本発明の波長選択スイッチの制御方法の1構成例(第11の実施の形態)において、前記補償電圧修正値決定ステップは、所望の減衰率をATT、前記温度センサが検出した温度をT、基準温度をTref、ΔT=T−Trefとし、減衰率を複数の領域に区分したときの領域間の境界値であるATTth[N]と係数Ar[N],Brとが前記補償電圧修正値情報としてメモリに記憶されているとき(Nは正の整数)、前記補償電圧修正値VyRatioを、
【0020】
【数2】

【0021】
により算出することを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明の波長選択スイッチの制御方法の1構成例(第12の実施の形態)において、前記補償電圧修正値決定ステップは、減衰率とこれに対応する補償電圧修正値VyRatioとの組が減衰率毎に記述されたデータテーブルから、所望の減衰率ATTに対応する補償電圧修正値VyRatioを取得することを特徴とするものである。
【0023】
また、本発明は、少なくとも1つ以上の入力ポートと、少なくとも1つ以上の出力ポートと、前記入力ポートから入った光を波長ごとに直線的に一点に集光する分散空間光学系と、この分散空間光学系の集光点上に配置され、二つの回動軸周りに回動可能なミラーおよび制御電圧に応じた静電引力により前記ミラーを回動させる制御電極からなる二軸MEMSミラー装置と、前記二軸MEMSミラー装置および分散空間光学系の周辺温度を検出する温度センサとを備えた波長選択スイッチの制御方法であって、前記温度センサが検出した温度と、温度と最適結合電圧との関係を表す温度補償電圧情報とから、温度補償電圧を算出する温度補償電圧算出ステップと、減衰率に応じて温度補償電圧を修正する補償電圧修正値情報から、所望の減衰率に対応する補償電圧修正値を決定する補償電圧修正値決定ステップと、前記制御電圧を任意の変数の関数値とし、この変数を媒介変数電圧としたとき、所望の減衰率に対応する既知の媒介変数電圧と前記補償電圧修正値とから、温度補償された媒介変数電圧を算出する媒介変数電圧算出ステップと、前記温度補償された媒介変数電圧を所定の関数に代入して、所望のポートおよび所望の減衰率に対応する前記二軸MEMSミラー装置の制御電圧を算出する制御電圧算出ステップと、この制御電圧算出ステップで算出した制御電圧に、前記温度補償電圧を加えて最終的な制御電圧を確定する制御電圧確定ステップと、この制御電圧確定ステップで確定した値の制御電圧を前記二軸MEMSミラー装置の制御電極に印加する駆動ステップとを有し、前記ミラーの少なくとも一方の軸周りの回動を制御することで前記分散空間光学系から入射した光信号の向きを変え、この光信号を再び前記分散空間光学系を通して所望の出力ポートに出力し、かつ前記ミラーの少なくとも一方の軸周りの回動を制御することで光信号の減衰率の調整が可能なことを特徴とするものである。
【0024】
また、本発明の波長選択スイッチの制御方法の1構成例(第6の実施の形態)において、前記二軸MEMSミラー装置は、前記入出力ポートが並ぶ方向と直交するx軸および前記入出力ポートが並ぶ方向と平行なy軸の二つの回動軸周りに回動可能な前記ミラーを備え、前記温度補償電圧算出ステップは、前記ミラーをx軸周りに回動させる制御電圧をVx、前記ミラーをy軸周りに回動させる制御電圧をVy、前記制御電圧Vx,Vyを任意の変数の関数値Vx=fx(Vt),Vy=fy(Vt)としたときの前記変数である媒介変数電圧をVt、前記媒介変数電圧Vtに対する前記補償電圧修正値をVtRatio、前記温度センサが検出した温度をT、基準温度をTref、ΔT=T−Trefとし、前記温度補償電圧情報として係数ATx,BTx,ATy,BTyがメモリに記憶されているとき、x軸に関する前記温度補償電圧Vx_TC、y軸に関する前記温度補償電圧Vy_TCを、Vx_TC=(ATx・ΔT+BTx)・ΔT、Vy_TC=(ATy・ΔT+BTy)・ΔTにより算出し、前記媒介変数電圧算出ステップは、所望の減衰率に対応する既知の媒介変数電圧Vtに前記補償電圧修正値VtRatioを掛けることで、前記温度補償された媒介変数電圧Vt_TCを算出し、前記制御電圧算出ステップは、前記温度補償された媒介変数電圧Vt_TCから、Vx=fx(Vt_TC),Vy=fy(Vt_TC)により前記制御電圧Vx,Vyを算出することを特徴とするものである。
【0025】
また、本発明の波長選択スイッチの制御方法の1構成例(第13の実施の形態)において、前記補償電圧修正値決定ステップは、所望の減衰率をATTとし、係数a,bが前記補償電圧修正値情報としてメモリに記憶されているとき、前記補償電圧修正値VtRatioを、VtRatio=a・ATT+bにより算出することを特徴とするものである。
また、本発明の波長選択スイッチの制御方法の1構成例(第14の実施の形態)において、前記補償電圧修正値決定ステップは、所望の減衰率をATTとし、減衰率を複数の領域に区分したときの領域間の境界値であるATTth[N]と係数a[N],bとが前記補償電圧修正値情報としてメモリに記憶されているとき(Nは正の整数)、前記補償電圧修正値VtRatioを、
【数3】

により算出することを特徴とするものである。
【0026】
また、本発明の波長選択スイッチの制御方法の1構成例(第16の実施の形態)において、前記補償電圧修正値決定ステップは、減衰率ATTとこれに対応する補償電圧修正値VtRatioとの組が減衰率毎に記述されたデータテーブルから、所望の減衰率ATTに対応する補償電圧修正値VtRatioを取得することを特徴とするものである。
また、本発明の波長選択スイッチの制御方法の1構成例(第15の実施の形態)において、前記補償電圧修正値決定ステップは、前記温度センサが検出した温度をT、基準温度をTref、ΔT=T−Trefとし、前記補償電圧修正値情報を取得したときの温度の逆数である係数Пrが前記補償電圧修正値情報としてメモリに記憶されているとき、前記補償電圧修正値VtRatioをVtRatioXとして、VtRatio=(VtRatioX−1)・Пr・ΔT+1により前記補償電圧修正値VtRatioを補正することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、入力ポートと出力ポートとの間の光信号の損失が最小となる最適結合条件に対応した二軸MEMSミラー装置の最適結合電圧情報と、光信号の所望の減衰率を実現する二軸MEMSミラー装置の減衰率制御電圧情報と、温度と最適結合電圧との関係を表す温度補償電圧情報と、減衰率に応じて温度補償電圧を修正する補償電圧修正値情報とを予めメモリに記憶させ、最適結合電圧情報と減衰率制御電圧情報とから所望のポートおよび所望の減衰率に対応する二軸MEMSミラー装置の制御電圧を算出し、補償電圧修正値情報から所望の減衰率に対応する補償電圧修正値を決定し、温度センサが検出した温度と温度補償電圧情報と補償電圧修正値とから温度補償電圧を算出し、温度補償電圧を、算出した制御電圧に加えて最終的な制御電圧を確定することにより、周辺温度の急激な変化に対して、単にポートの最小損失状態だけでなく、いろいろな減衰率に設定変更した場合でも、温度補償誤差を小さくすることが可能なので、安定したポート選択状態および減衰率調整状態を維持することが可能となる。
【0028】
また、本発明では、分散空間光学系と二軸MEMSミラー装置と温度センサとを内部に収める筐体を設けることにより、周辺温度が急激に変化した場合でも、ポート選択特性および減衰率特性についての温度補償精度の過渡的な劣化を抑制することができる。
【0029】
また、本発明では、分散空間光学系と二軸MEMSミラー装置と温度センサとを筐体に固定する断熱性の材料からなる固定具を設けることにより、ポート選択特性および減衰率特性についての温度補償精度の過渡的な劣化を抑制することができる。
【0030】
また、本発明では、温度センサを、波長選択スイッチを構成する光学部品のうち温度依存性が最も高い光学部品に装着することにより、例えば筐体による断熱効果を十分に期待できない場合であっても、ポート選択特性および減衰率特性の温度補償誤差を減らすことができる。
【0031】
また、本発明では、温度センサを、波長選択スイッチを構成する光学部品のうち温度依存性が最も高い光学部品と略等しい熱容量を持つ部材に装着することにより、例えば筐体による断熱効果を十分に期待できない場合であっても、ポート選択特性および減衰率特性の温度補償誤差を減らすことができる。
【0032】
また、本発明では、温度補償電圧情報として係数ATx,BTx,ATy,BTyがメモリに記憶されているとき、x軸に関する温度補償電圧Vx_TC、y軸に関する温度補償電圧Vy_TCを、Vx_TC=(ATx・ΔT+BTx)・ΔT、Vy_TC=(ATy・ΔT+BTy)・ΔTにより算出し、さらに補償電圧修正値VyRatioを、温度補償電圧Vx_TC,Vy_TCのうちどちらか一方に掛けて温度補償電圧Vx_TC,Vy_TCを確定することにより、安定したポート選択状態および減衰率調整状態を維持することが可能となる。
【0033】
また、本発明では、所望の減衰率ATTと補償電圧修正値情報(係数a,b)とから補償電圧修正値VyRatioもしくはVtRatioを算出することにより、所望の減衰率ATTに応じて温度補償電圧を修正することができる。
【0034】
また、本発明では、所望の減衰率ATTと補償電圧修正値情報(ATTth[N]、係数a[N],b)とから補償電圧修正値VyRatioもしくはVtRatioを算出することにより、温度補償電圧を広いATT範囲にわたって修正することができる。
【0035】
また、本発明では、所望の減衰率ATTと温度センサが検出した温度Tと補償電圧修正値情報(係数Ar,Br)とから補償電圧修正値VyRatioを算出することにより、所望の減衰率ATTに応じて温度補償電圧を高精度に修正することができる。
【0036】
また、本発明では、所望の減衰率ATTと温度センサが検出した温度Tと補償電圧修正値情報(ATTth[N]、係数Ar[N],Br)とから補償電圧修正値VyRatioを算出することにより、温度補償電圧を広いATT範囲にわたって高精度に修正することができる。
【0037】
また、本発明では、減衰率とこれに対応する補償電圧修正値VyRatioもしくはVtRatioとの組が減衰率毎に記述されたデータテーブルから、所望の減衰率ATTに対応する補償電圧修正値VyRatioもしくはVtRatioを取得することにより、実験で求めたVyRatioもしくはVtRatioの実測値の特性の直線近似が難しい場合であっても、所望の減衰率ATTに対応する補償電圧修正値VyRatioもしくはVtRatioを決定することができ、温度補償電圧を修正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る波長選択スイッチの構成例を示すブロック図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る波長選択スイッチの構成例を示す図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係る波長選択スイッチにおける温度センサの取り付け方を説明する図である。
【図4】本発明の第4の実施の形態に係る波長選択スイッチにおける温度センサの取り付け方を説明する図である。
【図5】本発明の第5の実施の形態に係る波長選択スイッチの制御方法を説明する図である。
【図6】本発明の第5の実施の形態に係る波長選択スイッチの制御方法を説明するフローチャートである。
【図7】本発明の第6の実施の形態に係る波長選択スイッチの制御方法を説明するフローチャートである。
【図8】本発明の第6の実施の形態における温度補償プロセスの手順を説明するフローチャートである。
【図9】本発明の第7の実施の形態において制御電圧Vx−Vy平面上の光損失の等高線を示す図である。
【図10】本発明の第7の実施の形態において温度の変化に伴う光損失の等高線の移動を示す図である。
【図11】本発明の第7の実施の形態において温度の変化に伴う光損失の等高線の移動量を示す図である。
【図12】本発明の第8の実施の形態において温度の変化に伴って光損失の等高線が歪む様子を説明する図である。
【図13】本発明の第8の実施の形態における補償電圧修正値情報の定義を説明する図である。
【図14】本発明の第8の実施の形態における補償電圧修正値の実測例を示す図である。
【図15】本発明の第8の実施の形態における補償電圧修正値の実測値の求め方を説明する図である。
【図16】本発明の第9の実施の形態において補償電圧修正値の実測値の特性を複数の領域に区分して領域毎に線形近似直線を求める例を説明する図である。
【図17】本発明の第13の実施の形態における補償電圧修正値情報の定義を説明する図である。
【図18】本発明の第13の実施の形態における補償電圧修正値の実測例を示す図である。
【図19】本発明の第14の実施の形態において補償電圧修正値の実測値の特性を複数の領域に区分して領域毎に線形近似直線を求める例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
[発明の原理]
本発明では、まず波長選択スイッチにおいて、ポート選択状態を保持し続けるために必要な措置として、ポート毎に存在する最適結合電圧の温度に依存した変化量を温度補償量として記録しておき、温度に応じて最適な温度補償量を制御電圧に加えるフィードフォワード制御を実施することで、温度が変わってもポート選択状態(最小結合状態)を維持させる。この温度補償量は事前に調べておき温度の関数として与える。
【0040】
ここで、本発明で制御の対象となるMEMSミラーは二軸MEMSミラーである。そこで、温度補償量はMEMSミラーの二つの回動軸についてそれぞれ個別に調査し、それぞれの温度係数TCoeffx,TCoeffyを以下の式(1)、式(2)のように、温度の一次関数として近似する。TCoeffxはMEMSミラーの二つの回動軸のうちポートを選択するための軸を制御する電圧をVxと定義した時の、Vxに対する温度補償係数である。同様に、TCoeffyは、もう一方の軸を制御するための電圧をVyと定義した時の、Vyに対する温度補償係数である。今後は説明のため、MEMSミラーの二つの回動軸のうち、電圧Vxによるポート選択制御に関係する回動軸を主軸、電圧Vyによる光信号の減衰率制御に関係する回動軸を副軸と呼ぶ。
【0041】
式(1)、式(2)に示すように、温度係数TCoeffx,TCoeffyを定数ではなく温度の一次関数としたのは、温度に対する最適結合電圧の変化量が、必ずしも温度に比例している訳ではなく、高温ほど変化量が大きいなど、温度に依存している場合が多いので、その温度依存性を加味するためである。
TCoeffx=ATx・ΔT+BTx ・・・(1)
TCoeffy=ATy・ΔT+BTy ・・・(2)
【0042】
ここで、ATx,BTx,ATy,BTyは定数、ΔTは次式に示すように、波長選択スイッチ内に設けた温度センサから得られるスイッチの温度Tと、基準温度Trefとの差である。
ΔT=T−Tref ・・・(3)
【0043】
基準温度Trefは、光の損失が最小となる、入力ポートと出力ポートの最適結合状態を実現する二軸MEMSミラーの最適結合電圧と、MEMSミラーの制御電極に最適結合電圧を印加している状態を起点として、MEMSミラーを少なくとも一方の回動軸周りに回動させて所望の減衰率状態を実現する減衰率制御電圧の2種類の電圧を測定したときの温度である。温度補償は、この基準温度Trefを基準にして、基準温度Trefから離れるほど、大きな温度補償電圧を加えるようにする。つまり、光信号の減衰率を考慮していない時の、二つの制御電圧Vx,Vyに加えられる温度補償電圧Vx_TC,Vy_TCを次式で与える。
Vx_TC=(ATx・ΔT+BTx)・ΔT ・・・(4)
Vy_TC=(ATy・ΔT+BTy)・ΔT ・・・(5)
【0044】
次に、光信号の所望の減衰率状態を保持し続けるために必要な措置として、所望の減衰率に応じて温度補償電圧を修正する。二つの制御電圧Vx,Vyに対して同時に修正をかけてもよいが、修正する配分をどう決めるかその決定方法が複雑になるので、ここでは主軸、副軸どちらか一方についての補償電圧に対して修正を行う。修正方法は、例えば副軸側の補償電圧を修正する場合は、式(5)式を次式のように変更する。
Vy_TC=VyRatio(ATT)・(ATy・ΔT+BTy)・ΔT
・・・(6)
【0045】
ここで、補償電圧修正値VyRatio(ATT)は、光信号の減衰率ATTの関数で、温度補償電圧の修正比率を与える。この補償電圧修正値VyRatio(ATT)は、波長選択スイッチの仕様温度範囲内でΔTをなるべく最大とする温度(=評価温度)にて、温度補償を実行したときに、評価温度における減衰率ATTが基準温度Trefにおける減衰率ATT0と一致するように与える。補償電圧修正値VyRatio(ATT)を求めるには、評価温度において適当な値のVyRatio(0)を採用したときの減衰率ATT(0)と、別の値のVyRatio(1)を採用したときの減衰率ATT(1)とを測定し、その結果から評価温度における減衰率ATTが基準温度Trefにおける減衰率ATT0と一致するVyRatio(ATT)を次式で求めることが可能である。
【0046】
【数4】

【0047】
この補償電圧修正値VyRatioを近似関数化した時の係数をメモリに記録したり、測定結果から補間したATT毎のVyRatioのテーブルをメモリに記録したりするなどして、温度補償を実施する時に式(4)、式(6)を使って温度補償電圧を算出し、この減衰率に応じた適切な温度補償電圧をMEMSミラーの制御電圧に加えることにより、温度、減衰率によらない高精度な温度補償を実現することが可能となる。
【0048】
次に、光信号の所望の減衰率状態を保持し続けるために必要な措置として、所望の減衰量に応じて温度補償電圧を修正する、別の方法を説明する。二つの制御電圧Vx,Vyの関係は全く独立で関係ないことはまずなく、通常、できるだけ広い可変領域を持つように減衰率を変えるためには、各ポートの損失ピーク近傍を原点に、光損失の等高線を下るラインに沿ってミラーを制御する。Vx,Vyの関係を媒介変数を使って表せることができる場合、損失を制御するための変数が一つになり、扱いやすくなる。例えば、任意の関数fx,fyを用いて、Vx=fx(Vt),Vy=fy(Vt)と表せる場合、Vtを媒介変数電圧と呼ぶことする。この一つの媒介変数電圧Vtについて温度補償電圧を考えればよいので、VxもしくはVyのどちらに温度補償電圧を加えるべきかを考慮する必要がなくなる。温度補償する場合は、温度補償を行わない場合の、所望の減衰率ATTに対応した媒介変数電圧Vtに対して、補償電圧修正値VtRatio(ATT)を掛けて、温度補償を行う場合の、所望のATTに対応した媒介変数電圧Vt_TCを、次式により算出する。
Vt_TC=VtRatio(ATT)・Vt ・・・(8)
【0049】
ここで、補償電圧修正値VtRatio(ATT)は、光信号の減衰率ATTの関数で、温度補償した媒介変数電圧を算出するための修正比率を与える。この補償電圧修正値VtRatio(ATT)は、波長選択スイッチの仕様温度範囲内でΔTをなるべく最大とする温度(=評価温度)にて、温度補償を実行した時に、評価温度における減衰率ATTが基準温度Trefにおける減衰率ATT0と一致するように与える。補償電圧修正値VtRatio(ATT)を求めるには、評価温度において適当な値のVtRatio(0)を採用した時の減衰率ATT(0)と、別の値のVtRatio(1)を採用した時の減衰率ATT(1)とを測定し、その結果から評価温度における減衰率ATTが基準温度Trefにおける減衰率ATT0と一致する値を次式から求める。この値がVtRatio(ATT)である。
【0050】
【数5】

【0051】
この補償電圧修正値VtRatioを近似関数化した時の係数をメモリに記録したり、測定結果から補間したATT毎のVtRatioのテーブルをメモリに記録したりするなどして、温度補償を実施する時に式(8)を使って、媒介変数電圧Vtに対して、任意の温度で基準温度の損失と一致するような温度補償を加え、この補償された媒介変数電圧Vtから主軸の制御電圧Vx、副軸の制御電圧Vyを算出し、この減衰率に関して温度補償を加えたVx、Vyに対して、式(4)、式(5)を使って求めた温度補償電圧Vx_TC、Vy_TCを加えることにより、温度、減衰率によらない高精度な温度補償を実現することが可能となる。
【0052】
さらに、本発明では、温度センサと被温度測定対象(光学系やMEMSミラー)との熱容量差に起因する過渡応答のズレにより、温度補償精度が過渡的に劣化する問題についても対処する。具体的には、温度センサと被温度測定対象とを、温度変化の要因である外部雰囲気に直接触れないように、筺体内に密封する。
【0053】
さらに、温度センサと被温度測定対象とを筺体に固定する場合に、外部に直接触れる筺体からの熱の入出量を抑制するために、温度センサと被温度測定対象の筐体への固定具として熱伝導率の低いゴムなどを用いる。この構造により、筺体が一種の熱バッファとなり、雰囲気温度の急激な変化が温度センサと被温度測定対象にはゆっくりとした温度変化としてしか伝わらなくなるので、温度センサと被温度測定対象との過渡的な温度のズレを抑えることが可能となる。
【0054】
また、筐体とゴムなどの固定具を用いることにより、筺体内での温度分布が緩やかになるため、MEMSミラーアレイ内の各MEMSミラー間での温度分布を小さく抑えることができ、各MEMSミラーの制御が容易となる。温度変化を小さく抑えることができるため、MEMSミラーの2軸周りの機械特性の違いが表れないため、式(1)、式(2)のような1次の温度補償式で制御することが可能となる。
【0055】
温度補償の精度をより合わせ込む場合は、温度センサを波長選択スイッチの温度依存性の主因たる光学部品に熱的に結合してもよいし、光学部品と同等の熱容量をもつ別の固定部材に温度センサを熱的に結合してもよい。
【0056】
[第1の実施の形態]
以下に、本発明の実施の形態について図を参照しながら説明するが、本発明は以下に示す実施の形態の具体的な構成に限定されるものではない。図1は本発明の第1の実施の形態に係る波長選択スイッチの構成例を示すブロック図である。
波長選択スイッチは、少なくとも1つ以上の入力ポート101(101−1〜101−N)と、少なくとも1つ以上の出力ポート102とを有する。例えばAdd型の波長選択スイッチであれば、入力9ポート、出力1ポートなどの構成をとる。
【0057】
さらに、波長選択スイッチは、入力ポート101−1〜101−Nからの複数の光信号を波長毎に直線的に一点に集光可能な分散空間光学系103と、その集光点上に配置された、特定の光周波数間隔に対応した間隔でアレイ化された複数の二軸MEMSミラー装置104(104−1〜104−m)とを有する。特定の光周波数間隔の例として、ITU−Gridに準じた100GHz間隔や50GHz間隔が上げられる。
【0058】
二軸MEMSミラー装置104は、ミラー基板の開口部に支持部材を介して回動可能に支持された可動部材であるミラーと、ミラー基板と対向する電極基板上に配置された制御電極とを有するものであり、制御電極に電圧を印加することで発生した静電引力により、ミラーが回動するものである。このような二軸MEMSミラー装置104の構成は周知であるので、二軸MEMSミラー装置104の詳細な説明は詳細する。
【0059】
二軸MEMSミラー装置104のミラーは、図1に示す二つの回動軸のうち主軸(x軸)周りについては、N本の入力ポート101のどれか1ポートと1本の出力ポート102との結合が合うように(主軸周りの回動方向に関して光が最小損失になるように)回動する。すなわち、二軸MEMSミラー装置104のミラーは、入力ポート101が並んだ方向に光信号の経路を動かすように回動する。また、二軸MEMSミラー装置104のミラーは、副軸(y軸)周りに回動するとき、主軸に対して直交方向に回動することになるので、入力ポート101が並んだ方向と直交する方向に光信号の経路を動かすように回動する。
【0060】
こうして、本実施の形態の波長選択スイッチは、入力ポート101からの光信号を分散空間光学系103により波長毎に分光して、波長毎に設けられた二軸MEMSミラー装置104のミラーに入射させ、ミラーの少なくとも一方の軸周りの回動を制御することで所望の方向に光信号の向きを変えて、この光信号を分散空間光学系103を通して出力ポート102に出力することで、入力ポート101の選択を行う。
【0061】
入力ポート101から出力ポート102への光信号の結合率、すなわち減衰率を変えるには、二軸MEMSミラー装置104のミラーを主軸、副軸どちらの軸周りで回しても可能である。しかし、本実施の形態では、上記のとおり、入力ポート101の並び方向に光信号の経路を動かすことができる主軸周りの回動を、ポート選択に用いる。また、入力ポート101の並び方向と直交する方向に光信号の経路を動かすことができる副軸周りの回動は、入力ポート101のうち注目する1つの入力ポートと出力ポート102との結合状態を変えても、隣接する入力ポートと出力ポート102との結合状態に影響を与えにくいことから、減衰率の制御に用いる。
【0062】
これらポート選択や減衰率調整のために、波長選択スイッチは、二軸MEMSミラー装置104を制御するための制御回路105を有する。制御回路105は、ポート選択や減衰率調整のような波長選択スイッチの基本機能を提供する制御機能の他に、外乱に対してミラーの安定した動作を提供するための耐外乱制御機能を有する。さらに、波長選択スイッチは、本発明に関係する温度補償制御を実行するために必要な構成要素として、分散空間光学系103や二軸MEMSミラー装置104の温度を検出する温度センサ106と、分散空間光学系103と二軸MEMSミラー装置104と温度センサ106との温度に対する過渡応答特性を揃えるための筺体107とを備えている。分散空間光学系103と二軸MEMSミラー装置104と温度センサ106とは、筐体107内に密封状態で設置される。
【0063】
制御回路105には、メモリ108が搭載されている。メモリ108は、入力ポート101と出力ポート102との最適結合状態を実現する、二軸MEMSミラー装置104の制御電圧である最適結合電圧を入力ポート101毎に予め記憶すると共に、光信号の所望の減衰率を実現する、二軸MEMSミラー装置104の制御電圧である減衰率制御電圧を各減衰率毎に予め記憶している。最適結合電圧は、二軸MEMSミラー装置104の二つの制御電圧Vx,Vyの各々に関して予め定められている。また、減衰率制御電圧は、例えば最適結合電圧からの偏差を表す電圧として、二つの制御電圧Vx,Vyの各々に関して予め定められている。
【0064】
なお、本実施の形態では、出力ポート102が1つであるため、最適結合電圧を入力ポート101毎に記憶するものとしているが、出力ポート102が複数存在する場合には、最適結合電圧は入力ポート101毎および出力ポート102毎にメモリ108に記憶される。言い換えると、本実施の形態では、入力ポート101のみを選択しているが、複数の出力ポート102がある場合に、二軸MEMSミラー装置104を制御することによって、入力ポート101だけでなく、所望の出力ポート102も選択できることは言うまでもない。
【0065】
制御回路105の演算部109は、所望のポート選択状態と所望の減衰率調整状態に波長選択スイッチの状態を設定するときは、所望のポートに対応する最適結合電圧と、所望の減衰率に対応する減衰率制御電圧とをメモリ108から取得して、二軸MEMSミラー装置104に印加する制御電圧Vx,Vyを算出する。
【0066】
さらに、メモリ108は、温度と最適結合電圧との関係を表す温度補償電圧情報(係数ATx,BTx,ATy,BTyおよび基準温度Tref)を予め記憶している。また、メモリ108は、減衰率に応じて温度補償電圧を修正する補償電圧修正値情報(補償電圧修正値VyRatioを算出するための係数、または減衰率毎のVyRatioのテーブル)を予め記憶している。
【0067】
演算部109は、温度センサ106が検出した温度Tの情報を取得すると共に、温度補償電圧情報と補償電圧修正値情報とをメモリ108から取得する。続いて、演算部109は、メモリ108から取得した補償電圧修正値情報に基づいて、所望の減衰率ATTに対応する補償電圧修正値VyRatio(ATT)を決定し、温度Tと温度補償電圧情報と補償電圧修正値VyRatio(ATT)とを用いて、式(3)、式(4)、式(6)により温度補償電圧Vx_TC,Vy_TCを算出する。そして、演算部109は、先に算出した制御電圧Vx,Vyに、それぞれ温度補償電圧Vx_TC,Vy_TCを加えた値Vx+Vx_TC,Vy+Vy_TCを最終的な制御電圧Vx,Vyとする。
制御回路105の電圧駆動回路110は、演算部109が算出した値の制御電圧Vx,Vyを二軸MEMSミラー装置104の制御電極に印加する。
【0068】
一方、上記の媒介変数電圧Vtに対して温度補償をする方法を採用する場合、メモリ108は、温度と最適結合電圧との関係を表す温度補償電圧情報(係数ATx,BTx,ATy,BTyおよび基準温度Tref)を予め記憶している。また、メモリ108は、減衰率に応じて温度補償電圧を修正する補償電圧修正値情報(補償電圧修正値VtRatioを算出するための係数、または減衰率毎のVtRatioのテーブル)と、基準温度において光信号の所望の減衰率を実現する、二軸MEMSミラー装置104の制御電圧に対応した媒介変数電圧Vtを示す減衰率制御電圧情報とを予め記憶している。
【0069】
媒介変数電圧Vtに対して温度補償をする方法を採用する場合、演算部109は、温度センサ106が検出した温度Tの情報を取得すると共に、温度補償電圧情報と補償電圧修正値情報と減衰率制御電圧情報とをメモリ108から取得する。続いて、演算部109は、メモリ108から取得した温度補償電圧情報に基づいて、式(3)、式(4)、式(5)により温度補償電圧Vx_TC,Vy_TCを算出する。また、演算部109は、メモリ108から取得した補償電圧修正値情報に基づいて、所望の減衰率ATTに対応する補償電圧修正値VtRatio(ATT)を決定し、この補償電圧修正値VtRatio(ATT)と所望の減衰率ATTに対応する媒介変数電圧Vtとを用いて式(8)により、温度補償を行う場合の、所望のATTに対応する媒介変数電圧Vt_TCを算出し、Vx=fx(Vt_TC),Vy=fy(Vt_TC)により制御電圧Vx,Vyを算出する。そして、演算部109は、算出した制御電圧Vx,Vyに、それぞれ温度補償電圧Vx_TC,Vy_TCを加えた値Vx+Vx_TC,Vy+Vy_TCを最終的な制御電圧Vx,Vyとする。
制御回路105の電圧駆動回路110は、演算部109が算出した値の制御電圧Vx,Vyを二軸MEMSミラー装置104の制御電極に印加する。
【0070】
こうして、本実施の形態では、周辺温度の急激な変化だけでなく、いろいろな減衰率に設定変更した場合でも、温度補償誤差を小さくすることが可能なので、安定したポート選択状態および減衰率調整状態を維持することが可能となる。
【0071】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第1の実施の形態において、十分注意を払わなければならないのは、温度センサ106の検出する温度は筺体107内の温度であり、定常的には分散空間光学系103や二軸MEMSミラー装置104の温度と一致するが、温度が急激に変化した場合などの過渡的な状況下では、必ずしも分散空間光学系103や二軸MEMSミラー装置104の温度と一致しない。この違いは、熱容量の異なる物体の温度に対する応答の違いによるが、温度補償を行う場合、この温度応答の違いによる誤差は重大な問題となる。
【0072】
そこで、第1の実施の形態では、雰囲気に分散空間光学系103と二軸MEMSミラー装置104と温度センサ106とを直接晒さないように、筺体107を設けている。さらに、本実施の形態では、雰囲気からの断熱を徹底するために、筺体107内で分散空間光学系103と二軸MEMSミラー装置104と温度センサ106とを固定する場合に、図2に示すように、熱伝導率の低いゴムなどの有機材料やガラスなどの無機材料からなる断熱固定具111を介在させる。
【0073】
この結果、本実施の形態では、筺体107および筺体107内の気体(乾燥空気や窒素が一般的)が雰囲気温度の急激な変化に対するバッファとなり、分散空間光学系103、二軸MEMSミラー装置104、および温度センサ106への温度の伝わり方はほぼ同様になるため、温度補償誤差を減らすことが可能となる。
【0074】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。第1の実施の形態の構成において、第2の実施の形態のような断熱効果が十分期待できない場合は、温度に対する特性変化が最も大きい光学部品(分散空間光学系103の分散素子または二軸MEMSミラー装置104)に対して、図3に示すように温度センサ106を直接貼り付けることで、温度補償誤差を低減することができる。この場合、温度センサ106は、チップサーミスタなどの熱容量の十分小さい温度センサであることが望ましい。
【0075】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。第1の実施の形態の構成において、第2の実施の形態のような断熱効果が十分期待できず、かつ第3の実施の形態のように部品に温度センサを直接貼り付けることができない場合は、図4に示すように、温度に対する特性変化が最も大きい光学部品と同等の熱容量を持つダミー部品112を筐体107内に設け、このダミー部品112に温度センサ106を貼り付けることで、温度補償誤差を低減することができる。熱容量が同等の部品を作成する最も簡単な方法は、ダミー部品112の材料と大きさを、温度に対する特性変化が最も大きい光学部品に合わせることである。
【0076】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態の波長選択スイッチにおける具体的な制御方法について説明するものである。図5は本実施の形態の制御方法を説明する図、図6は本実施の形態の制御方法を説明するフローチャートである。
【0077】
第1の実施の形態で説明したとおり、制御回路105のメモリ108には、入力ポート101と出力ポート102との間の光信号の損失が最小となる、二軸MEMSミラー装置104の制御電圧を示す最適結合電圧情報が入力ポート101毎に予め記憶され、さらに光信号の所望の減衰率を実現する、二軸MEMSミラー装置104の制御電圧を示す減衰率制御電圧情報が各減衰率毎に予め記憶されている。
【0078】
制御回路105の演算部109は、所望のポートに対応する最適結合電圧と、所望の減衰率に対応する減衰率制御電圧とをメモリ108から取得し(図6ステップS100)、この最適結合電圧と減衰率制御電圧とから、二軸MEMSミラー装置104に印加する制御電圧Vx,Vyを算出する(ステップS101)。例えば減衰率制御電圧が最適結合電圧からの偏差を表す電圧として定義されているのであれば、最適結合電圧に減衰率制御電圧を加えた値が制御電圧となる。
【0079】
メモリ108に記憶された最適結合電圧と減衰率制御電圧とは、基準温度Trefとなる特定の温度において事前に測定されたデータであり、波長選択スイッチの温度が変われば、メモリ108のデータをそのまま適用しても、所望の減衰率にはならない。本発明で課題としている温度補償制御は、まさにこの問題に対処するもので、温度が変わっても基準温度Trefの時と同じ減衰率状態を保持するための制御である。
【0080】
このような温度補償制御を実現するため、メモリ108には、温度と最適結合電圧との関係を表す温度補償電圧情報(係数ATx,BTx,ATy,BTyおよび基準温度Tref)が予め記憶され、さらに減衰率に応じて温度補償電圧を修正する補償電圧修正値情報(補償電圧修正値VyRatioを算出するための係数、または減衰率毎のVyRatioのテーブル)が予め記憶されている。
【0081】
制御回路105のクロック発生部113は、一定時間毎にクロックを出力する。演算部109は、クロック発生部113からのクロック出力を温度補償制御のトリガーとして(ステップS102においてYES)、温度センサ106が検出した温度Tの情報を取得し(ステップS103)、温度補償電圧情報と補償電圧修正値情報とをメモリ108から取得する(ステップS104)。
【0082】
続いて、演算部109は、メモリ108から取得した補償電圧修正値情報に基づいて、所望の減衰率ATTに対応する補償電圧修正値VyRatio(ATT)を決定し(ステップS105)、温度Tと温度補償電圧情報と補償電圧修正値VyRatio(ATT)とを用いて、式(3)、式(4)、式(6)により温度補償電圧Vx_TC,Vy_TCを算出する(ステップS106)。そして、演算部109は、ステップS101で算出した制御電圧Vx,Vyに、それぞれ温度補償電圧Vx_TC,Vy_TCを加えた値Vx+Vx_TC,Vy+Vy_TCを最終的な制御電圧Vx,Vyとして確定する(ステップS107)。
【0083】
制御回路105の電圧駆動回路110は、演算部109が算出した値の制御電圧Vx,Vyを二軸MEMSミラー装置104の制御電極に印加する(ステップS108)。
こうして、ポート選択または減衰率のいずれかが変更されるまで、ステップS103〜S108の処理が一定時間毎に繰り返される。
【0084】
本実施の形態では、周辺温度が変わっても、また様々な減衰率においても、精度の高い温度補償制御を実現することができる。
【0085】
[第6の実施の形態]
次に、本発明の第6の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態の波長選択スイッチにおいて、上記の媒介変数電圧Vtに対して温度補償をする方法を採用する場合の具体的な制御方法について説明するものである。図5は本実施の形態の制御方法を説明する図で、第5の実施の形態と同様である。図7は本実施の形態の制御方法を説明するフローチャートである。
【0086】
第1の実施の形態で説明したとおり、制御回路105のメモリ108には、入力ポート101と出力ポート102との間の光信号の損失が最小となる、二軸MEMSミラー装置104の制御電圧を示す最適結合電圧情報が入力ポート101毎に予め記憶され、さらに基準温度において光信号の所望の減衰率を実現する、二軸MEMSミラー装置104の制御電圧に対応した媒介変数電圧Vtを示す減衰率制御電圧情報が各減衰率毎に予め記憶されている。
【0087】
制御回路105の演算部109は、所望のポートに対応する、制御電圧Vx,Vyに関する最適結合電圧と、所望の減衰率に対応する媒介変数電圧Vtとをメモリ108から取得する(図7ステップSb100)。
【0088】
また、演算部109は、温度補償に必要な温度補償電圧情報と補償電圧修正値情報とをメモリ108から取得する(図7ステップSb101)。次に、演算部109は、温度センサ106が検出した温度Tの情報を取得する(図7ステップSb102)。
【0089】
演算部109は、温度補償の準備が完了したので、初回の温度補償プロセスを実行する(図7ステップSb103)。この温度補償プロセスの詳細は後述する。
【0090】
この後、演算部109は、別のポートや別の減衰率状態に移行する指令が外部から入力されていないかを監視し(図7ステップSb104)、移行する指令がない場合、クロック発生部113からのクロック出力を次の温度補償プロセスのトリガーとして(ステップSb105においてYES)、温度センサ106が検出した温度Tの情報を取得し(ステップSb106)、温度補償プロセスを実行する(図7ステップSb107)。こうして、ステップSb104〜Sb107の一連の処理が一定時間ごとに繰り返される。
【0091】
次に、温度補償プロセスの手順について図8を用いて説明する。まず、演算部109は、メモリ108から取得した温度補償電圧情報に基づいて、損失最小点の温度変化分を補償するために、制御電圧Vx,Vyに加える温度補償電圧Vx_TC,Vy_TCを式(3)、式(4)、式(5)により算出する(図8ステップSb108)。続いて、演算部109は、与えられた設定減衰率、温度センサ106から取得した温度T、メモリ108から読み出した補償電圧修正値情報から、所望の減衰率に対応する補償電圧修正値VtRatio(ATT)を決定する(図8ステップSb109)。
【0092】
次に、演算部109は、ステップSb100で取得した媒介変数電圧Vtと補償電圧修正値VtRatio(ATT)とを用いて式(8)により、温度補償を行う場合の、所望の減衰率に対応する媒介変数電圧Vt_TCを算出する(図8ステップSb110)。最後に、演算部109は、Vx=fx(Vt_TC),Vy=fy(Vt_TC)により制御電圧Vx,Vyを算出し、算出した制御電圧Vx,Vyに、それぞれ温度補償電圧Vx_TC,Vy_TCを加えた値Vx+Vx_TC,Vy+Vy_TCを最終的な制御電圧Vx,Vyとする。(図8ステップSb111)。
電圧駆動回路110は、演算部109が算出した値の制御電圧Vx,Vyを二軸MEMSミラー装置104の制御電極に印加する(図8ステップSb112)。以上で、温度補償プロセスが終了する。
【0093】
本実施の形態では、周辺温度が変わっても、また様々な減衰率においても、精度の高い温度補償制御を実現することができる。
【0094】
[第7の実施の形態]
第5の実施の形態の温度補償電圧情報について、より具体的な説明を加える。図9はある入力ポート101と出力ポート102との間の基準温度Trefにおける光損失の等高線を示す図である。ある入力ポート101と出力ポート102との間の光損失が最小となる制御電圧である損失最小電圧は、制御電圧Vx−Vy平面上のある座標(Vx_org, Vy_org)で示すことができる。光損失の等高線を制御電圧Vx−Vy平面上に描くと、損失最小電圧を中心とする、同心楕円を示す。
【0095】
周辺温度が変化すると、この損失最小電圧は制御電圧Vx−Vy平面上を移動する。その理由は、電圧条件を一定にしても、温度によりMEMSミラーの傾きが変わったり、MEMSミラーへの光線の入射角が変化するためである。この原因は、二軸MEMSミラー装置104に起因する場合、分散空間光学系103に起因する場合、さらには複合的な要因に起因する場合もある。しかし、本発明は温度によって損失最小電圧が移動するという現象に対して補償するので、損失最小電圧が移動する原因については考慮する必要はない。
【0096】
当然、損失最小電圧の移動に伴い、その回りを囲む損失等高線も図10に示すように移動する。図10の例では、周辺温度が基準温度Trefより低温になった場合、損失等高線はVx,Vyが正の方向に移動し、周辺温度が基準温度Trefより高温になった場合、損失等高線はVx,Vyが負の方向に移動している。対象とする温度範囲が広く、損失等高線の移動量が大きい場合は、図11に示すように損失等高線の移動量が温度に比例するとみなせない場合が多い。図11において、ΔVxは損失等高線のVx方向の移動量を示し、ΔVyは損失等高線のVy方向の移動量を示している。このように、損失等高線の移動量が温度に比例するとみなせない場合があるので、単に温度に関する比例定数を与えても、精度の高い温度補償は実現できない。
【0097】
そこで、本発明は、前述の式(1)、式(2)で示されるように、比例定数に相当する値を温度の一次関数で近似する。これらの式から求めた温度補償電圧を損失最小電圧に加えれば、ある温度Tにおける損失最小電圧を精度よく求めることが可能となる。式(1)、式(2)中の係数ATx,BTx,ATy,BTy、および基準温度Trefは、予め制御回路105のメモリ108に記憶されており、動作中に行われる温度補償制御の度に、これらの係数ATx,BTx,ATy,BTy、および基準温度Trefの値が温度補償電圧の計算に用いられる仕組みになっている。
【0098】
[第8の実施の形態]
第5の実施の形態の温度補償電圧を修正する動作について、より具体的な説明を加える。光信号の減衰率まで考慮すると、第7の実施の形態のように損失最小電圧が温度に依存せず精度よく求められるだけでは十分ではない。その理由は、図12に示すように、温度によって損失等高線(同心楕円)が歪むためである。図12の例では、基準温度Trefの損失等高線において、損失最小電圧からの移動距離がATT=Xになる移動距離を考える。周辺温度が基準温度Trefより低温になった場合、損失等高線はVy方向の長径が長くなるので、ATT<Xとなり、周辺温度が基準温度Trefより高温になった場合、損失等高線はVy方向の長径が短くなるので、ATT>Xとなる。
【0099】
光信号の減衰率を制御することは、損失最小電圧を起点として、特定の方向に損失等高線を“下る”ことを意味している。前出の減衰率制御電圧情報は、損失最小電圧からの特定の方向への移動距離(=減衰率制御電圧)と減衰率との関係を示すものであるが、損失等高線が歪むと、移動距離と減衰率との関係も狂ってくる。特に、減衰率が大きなところでは誤差が大きくなりやすい。
【0100】
そこで、本発明では、温度補償電圧に減衰率に応じた補償電圧修正値を掛けることで、温度が変わっても、損失等高線の歪を考慮した温度補償を実現する。この補償電圧修正値の定義を図13に示す。二軸MEMSミラー装置104の二つの回動軸に関する二つの温度補償電圧のうちどちらに補償電圧修正値を掛けてもよいが、図13では副軸(y軸)方向の損失等高線の歪が大きいので、副軸に関する制御電圧Vyの温度補償電圧Vy_TCに対して補償電圧修正値VyRatioを掛ける例を取り上げる。
【0101】
損失最小電圧は、第7の実施の形態の係数ATx,BTx,ATy,BTyを求めた座標なので、損失等高線の歪の影響を受けない。よって、図13に示すように、損失最小電圧においてVyRatio=1である。VyRatio=1とは、歪補正をする必要がないことを示す。通常、損失最小点を減衰率ATT=0と定めるので、ATT=0ではVyRatio=1と定義できる。
【0102】
補償電圧修正値VyRatioの定義を説明する前提として、基準温度Trefにおいて光信号の減衰率を制御することは、図13の直線1000に沿って損失等高線を下ることを意味しているとする。また、説明を容易にするために、周辺温度が基準温度TrefよりもΔTだけ高温になると、−ΔVyだけ損失最小電圧が移動する共に、損失等高線がVy方向に圧縮されるとする。すなわち、温度による損失等高線のVx方向の変化は無視する。
【0103】
所望の減衰率ATT=X(図13の等高線1001)に対応した減衰率制御電圧を図13の1002で表す。ここで、周辺温度が基準温度TrefよりもΔTだけ高温になった場合、VyRatio=1のまま制御電圧Vyに温度補償電圧を加えると、制御電圧Vyは図13の1003で示す値になり、高温時の損失等高線1004上のATT=Xに到達しないことが分かる。その理由は、高温で損失等高線がVy方向に圧縮されて円状に変形したためである。図13の例では、高温時の損失等高線1004上のATT=Xに対応した減衰率制御電圧を1005で表す。VyRatio=1の場合よりも大きな温度補償電圧を制御電圧Vyに加えれば、高温時の損失等高線1004上のATT=Xに到達できる。
【0104】
そこで、本実施の形態では、1より大きい値の補償電圧修正値VyRatioを温度補償電圧Vy_TCに掛けて温度補償電圧Vy_TCを大きくする。逆に、損失等高線がVy方向に伸長する場合は、1より小さい値のVyRatioを温度補償電圧Vy_TCに掛けて温度補償電圧Vy_TCを小さくすればよい。つまり、補償電圧修正値VyRatioは、損失等高線に歪が発生しない場合の温度補償電圧を1とした場合の温度補償電圧に対する伸縮率である。温度補償電圧Vy_TCに補償電圧修正値VyRatioを掛ける式は、式(6)に示したとおりである。補償電圧修正値VyRatioは、減衰率ATTに応じて変わる値なので、減衰率ATTの関数となる。補償電圧修正値VyRatioの具体的な求め方については、式(7)を使って説明しているので繰り返さない。
【0105】
補償電圧修正値VyRatioの実測例を図14に示す。図14において、1200は補償電圧修正値VyRatioの実測値を示す。
図14で示した補償電圧修正値VyRatioの実測値をプロットしたグラフの求め方を説明する。任意のATT0を設定すれば、最適結合電圧情報と減衰率制御電圧情報から基準温度Trefにて減衰率がATT0になるための制御電圧Vx,Vyが決まる。評価温度にて、この制御電圧Vx,Vyに、VyRatio(0)に対応する、式(6)から求められる温度補償電圧を加えた時の減衰率ATT(0)を実測すると共に、同様に評価温度にて、制御電圧Vx,Vyに、VyRatio(1)に対応する、式(6)から求められる温度補償電圧を加えた時の減衰率ATT(1)を実測する。この二つの実測値ATT(0),ATT(1)から、図15に示すように、補償電圧修正値VyRatioに対する減衰率ATTの一次関数が得られ、この関数からATT0に対応するVyRatioが求められる。
【0106】
図15の例では、求める補償電圧修正値VyRatioの値がVyRatio(0)=1とVyRatio(1)=1.3の間にある例を示したが、別の適当な値を使っても構わない。また、式(7)は求める補償電圧修正値VyRatioの値がVyRatio(0)とVyRatio(1)の外にあって、外挿する場合でも適応可能である。ATT0の値を等間隔で変えながら上述の方法で、それぞれのATT0に対する補償電圧修正値VyRatioを求めれば、図14で示した実測値が横軸に等間隔で並んだグラフを得ることができる。
【0107】
補償電圧修正値VyRatioは、MEMSミラーや光学系の特性に依存する値で、理論式で表現するのは非常に難しい。しかし、図14から分かるように減衰率ATTに対する変化は比較的小さいので、次式のように線形近似式でVyRatio(ATT)を表現可能である。
VyRatio(ATT)=a・ATT+b ・・・(10)
【0108】
ここで、aは図14に示すVyRatioの実測値の特性を線形近似した直線1201の傾き、bは直線1201の切片である。線形近似直線1201は、温度補償精度が最も高くなることが期待されるATT値(図14の点1202のATT値)を代表点に選ぶことにより定められる。すなわち、VyRatioの実測値の特性と最も良く合うように線形近似直線1201を求めればよい。
【0109】
式(10)中の係数a,bは、第5の実施の形態で説明した補償電圧修正値情報であり、予め制御回路105のメモリ108に記憶されている。制御回路105の演算部109は、動作中に行われる温度補償制御の度に、すなわちクロック発生部113からクロックが出力される度に、係数a,bと式(10)を用いて、所望の減衰率ATTに対応する補償電圧修正値VyRatio(ATT)を算出する(図6のステップS105)。
こうして、本実施の形態では、第5の実施の形態の温度補償電圧を修正することができる。
【0110】
[第9の実施の形態]
次に、本発明の第9の実施の形態について説明する。第8の実施の形態を、より広いATT範囲に適用するためには、図14に示したVyRatioの実測値の特性をATT軸の方向に沿って複数の領域に区分し、領域毎に線形近似直線を求めればよい。この場合、補償電圧修正値VyRatio(ATT)は、次式のように表現される。
【0111】
【数6】

【0112】
図16は補償電圧修正値VyRatioの実測値の特性を複数の領域に区分して領域毎に線形近似直線を求める例を説明する図である。式(11)、式(12)および図16におけるN(Nは正の整数)は、区分した領域に割り当てた番号を表す。ATTth[N]は領域Nにおいて温度補償精度が最も高くなることが期待されるATT値、a[N]は領域Nについて求めた線形近似直線の傾き、bは領域N=1について求めた線形近似直線の切片である。
【0113】
式(11)、式(12)中の減衰率ATTth[N]と係数a[N],bとは、第5の実施の形態で説明した補償電圧修正値情報であり、予め制御回路105のメモリ108に記憶されている。制御回路105の演算部109は、動作中に行われる温度補償制御の度に、減衰率ATTth[N]と係数a[N],bと式(11)、式(12)を用いて、所望の減衰率ATTに対応する補償電圧修正値VyRatio(ATT)を算出する(図6のステップS105)。
こうして、本実施の形態では、第5の実施の形態の温度補償電圧を、広いATT範囲にわたって修正することができる。
【0114】
[第10の実施の形態]
次に、本発明の第10の実施の形態について説明する。基準温度Tref(すなわち、ΔT=0)では、補償電圧修正値VyRatioはATTに依存せずに、必ず1になることは明らかである。つまり、補償電圧修正値VyRatioは、正確には温度依存性も有する。そこで、本実施の形態では、第8の実施の形態においてVyRatioの温度依存性も考慮した補償電圧修正値VyRatio(ΔT,ATT)を次式で定義する。
VyRatio(ΔT,ATT)=(Br・ΔT)(Ar・ATT+1)+1
・・・(13)
【0115】
式(13)において、Ar,Brは係数である。係数Ar,Brの求め方の一例を説明する。例えば、温度範囲仕様から決まるΔTの最大値ΔTmaxを与えた時に、温度補償精度が最も高くなることが期待されるATT値を代表に取り、実験で求めたVyRatioの形状から、次式を用いてArとBrを算出することができる。
Ar=a/(b−1) ・・・(14)
Br=(b−1)/ΔTmax ・・・(15)
【0116】
傾きa、切片bについては第8の実施の形態で説明したとおりである。式(13)中の係数Ar,Brは、第5の実施の形態で説明した補償電圧修正値情報であり、予め制御回路105のメモリ108に記憶されている。制御回路105の演算部109は、動作中に行われる温度補償制御の度に、温度Tと係数Ar,Brと式(13)を用いて、所望の減衰率ATTに対応する補償電圧修正値VyRatio(ΔT,ATT)を算出する(図6のステップS105)。ステップS106の処理においては、演算部109は、式(6)のVyRatio(ATT)の代わりにVyRatio(ΔT,ATT)を用いればよい。
こうして、本実施の形態では、第5の実施の形態の温度補償電圧をより高精度に修正することができる。
【0117】
[第11の実施の形態]
次に、本発明の第11の実施の形態について説明する。第10の実施の形態を、より広いATT範囲に適用するためには、第9の実施の形態と同様に、VyRatioの実測値の特性をATT軸の方向に沿って複数の領域に区分し、領域毎に線形近似直線を求めればよい。この場合、補償電圧修正値VyRatio(ΔT,ATT)は、次式のように表現される。
【0118】
【数7】

【0119】
式(16)、式(17)中の減衰率ATTth[N]と係数Ar[N],Brとは、第5の実施の形態で説明した補償電圧修正値情報であり、予め制御回路105のメモリ108に記憶されている。制御回路105の演算部109は、動作中に行われる温度補償制御の度に、温度Tと減衰率ATTth[N]と係数Ar[N],Brと式(16)、式(17)を用いて、所望の減衰率ATTに対応するVyRatio(ΔT,ATT)を算出する(図6のステップS105)。ステップS106の処理においては、演算部109は、式(6)のVyRatio(ATT)の代わりにVyRatio(ΔT,ATT)を用いればよい。
こうして、本実施の形態では、第5の実施の形態の温度補償電圧を、広いATT範囲にわたってより高精度に修正することができる。
【0120】
[第12の実施の形態]
実験で求めたVyRatioの実測値の特性の直線近似が難しい場合は、適当なATT間隔で補償電圧修正値VyRatioをサンプリングしたデータを、メモリ108に記憶させておくことも可能である。この場合、予め離散的に選択された減衰率ATTに対する補償電圧修正値VyRatioを実験で測定し、所望のATT間隔でデータを補間して、減衰率ATTに対する補償電圧修正値VyRatioのサンプリングデータを作成し、減衰率ATTとこれに対応する補償電圧修正値VyRatioとの組を記憶したデータテーブルを、制御回路105のメモリ108に作成しておけばよい。
【0121】
制御回路105の演算部109は、動作中に行われる温度補償制御の度に、データテーブルの情報に基づいて、所望の減衰率ATTに対応する補償電圧修正値VyRatioを決定する(図6のステップS105)。
こうして、本実施の形態では、第5の実施の形態の温度補償電圧を修正することができる。
【0122】
なお、第1〜第12の実施の形態においては、補償電圧修正値VyRatioをy軸の温度補償電圧Vy_TCに掛けているが、これに限るものではなく、補償電圧修正値VyRatioをx軸の温度補償電圧Vx_TCに掛けてもよい。この場合は、式(6)のVy_TC,ATy,BTyをそれぞれVx_TC,ATx,BTxに置き換えればよいことは言うまでもない。
【0123】
[第13の実施の形態]
本発明の別の形態について、温度による減衰率の変化を考慮した温度補償電圧を修正するための、第8の実施の形態と同様の効果を有する別の方法を説明する。光信号の減衰率まで考慮すると、第7の実施の形態のように損失最小電圧が温度に依存せず精度よく求められるだけでは十分ではないことは前述した。
【0124】
そこで、本実施の形態では、目標とする減衰率ATTに対応する媒介変数電圧Vtに減衰率ATTに応じた補償電圧修正値VtRatioを掛けることで、温度が変わっても、損失等高線の歪を考慮した温度補償を実現する。この補償電圧修正値VtRatioの定義を図17に示す。
【0125】
補償電圧修正値VtRatioの定義を説明する前提として、基準温度Trefにおいて光信号の減衰率を制御することは、例えば、図17の直線1000に沿って損失等高線を下ることを意味しているとする。また、説明を容易にするために、周辺温度が基準温度TrefよりもΔTだけ高温になると、−ΔVyだけ損失最小電圧が移動する共に、損失等高線がVy方向に圧縮されるとする。すなわち、温度による損失等高線のVx方向の変化は無視する。
【0126】
所望の減衰率ATT=X(図17の等高線1001)に対応した減衰率制御電圧を図17の1002で表す。この点1002の表し方として、Vx−Vy平面上の座標(Vx1,Vy1)で示す方法のほかに、例えば直線1000上で減衰率を制御している場合は、この直線を表す関数として、以下の式(18)、式(19)のように媒介変数表示にすれば、(Vx1,Vy1)に対応した、一つの媒介変数電圧Vt1で与えることができる。ky/kxはVx−Vy平面上の直線の傾きを表す。
Vx=kx・Vt ・・・(18)
Vy=ky・Vt ・・・(19)
【0127】
ここで、周辺温度が基準温度TrefよりもΔTだけ高温になった場合、基準温度でATT=Xとなる媒介変数電圧Vt1を二軸MEMSミラー装置104の制御電極に印加すると、その状態は図17の1003で示す点になり、高温時のATT=Xとなる損失等高線1004からはみ出した、ATT>Xの大きな損失を持つ状態になる。図17の例では、高温時の損失等高線1004上のATT=Xに対応した減衰率制御電圧を点1005で表す。また、この時の媒介変数電圧をVt2とする。
【0128】
ここで、媒介変数電圧Vtに対する補償電圧修正値VtRatioを定義すれば、式(20)のようになる。
VtRatio=Vt2/Vt1 ・・・(20)
基準温度TrefでATT=Xとなる媒介変数電圧Vt1に、補償電圧修正値VtRatioを掛けることで、高温時でATT=Xとなる媒介変数電圧Vt2を得られることになる。ただし、Vt1=0近傍では、VtRatio=1とする。
つまり、補償電圧修正値VtRatioは、損失等高線に歪が発生しない場合の媒介変数電圧Vtを1とした時の、温度で変化する媒介変数電圧Vtの伸縮率を表す。
【0129】
補償電圧修正値VtRatioは、減衰率ATTに応じて変わる値なので、減衰率ATTの関数となる。補償電圧修正値VtRatioの具体的な求め方については、式(9)を使って説明しているので繰り返さない。
【0130】
補償電圧修正値VtRatioの実測例を図18に示す。図18において、1300は補償電圧修正値VtRatioの実測値を示す。
図18で示した補償電圧修正値VtRatioの求め方は、図15で示したVyRatioを求める方法と同じなので、説明は省略する。
【0131】
補償電圧修正値VtRatioは、分散空間光学系103や二軸MEMSミラー装置104の特性に依存する値で、理論式で表現するのは難しい。しかし、図18から分かるように減衰率ATTに対する変化は比較的小さいので、次式のように減衰率ATTに関する線形近似式でVtRatio(ATT)を表現可能である。
VtRatio(ATT)=a・ATT+b ・・・(21)
【0132】
ここで、aは図18に示すVtRatioの実測値の特性を線形近似した直線1301の傾きを表す。また、bは直線1301の切片であるが、切片となるATT0は損失最小点近傍なので損失等高線の歪の影響を受けにくいことから、値はほぼ1となる。線形近似直線1301は、温度補償精度が最も高くなることが期待されるATT値(図18の点1302のATT値)を、aを求めるための代表点に選ぶことにより定められる。
【0133】
式(21)中の係数a,bは、第5の実施の形態で説明した補償電圧修正値情報であり、予め制御回路105のメモリ108に記憶されている。制御回路105の演算部109は、動作中に行われる温度補償制御の際に、すなわちクロック発生部113からクロックが出力される度に、係数a,bと式(21)を用いて、所望の減衰率ATTに対応する補償電圧修正値VtRatio(ATT)を算出する(図8ステップSb109)。
【0134】
[第14の実施の形態]
次に、本発明の第14の実施の形態について説明する。第13の実施の形態を、より広いATT範囲に適用するためには、図18に示した補償電圧修正値VtRatioの実測値の特性をATT軸の方向に沿って複数の領域に区分し、領域毎に線形近似直線を求めればよい。この場合、補償電圧修正値VtRatio(ATT)は、次式のように表現される。
【0135】
【数8】

【0136】
図19は補償電圧修正値VtRatioの実測値の特性を複数の領域に区分して領域毎に線形近似直線を求める例を説明する図である。式(22)、式(23)および図19におけるN(Nは正の整数)は、区分した領域に割り当てた番号を表す。ATTth[N]は領域Nにおいて温度補償精度が最も高くなることが期待されるATT値、a[N]は領域Nについて求めた線形近似直線の傾き、bは領域N=1について求めた線形近似直線の切片である。
【0137】
式(22)、式(23)中の減衰率ATTth[N]と係数a[N],bとは、第5の実施の形態で説明した補償電圧修正値情報であり、予め制御回路105のメモリ108に記憶されている。制御回路105の演算部109は、動作中に行われる温度補償制御の度に、減衰率ATTth[N]と係数a[N],bと式(22)、式(23)を用いて、所望の減衰率ATTに対応する補償電圧修正値VtRatio(ATT)を算出する(図8ステップSb109)。
【0138】
[第15の実施の形態]
次に、本発明の第15の実施の形態について説明する。基準温度Tref(すなわち、ΔT=0)では、補償電圧修正値VtRatioはATTに依存せずに、必ず1になることは明らかである。つまり、補償電圧修正値VtRatioは、正確には温度依存性も有する。そこで、本実施の形態では、第13の実施の形態や第14の実施の形態においてVtRatioの温度依存性も考慮した補償電圧修正値VtRatio(ΔT,ATT)を次式で定義する。
VtRatio(ΔT,ATT)=(VtRatioX−1)・Пr・ΔT+1
・・・(24)
ここでПrは補償電圧修正値情報を取得したときの温度の逆数、VtRatioXは、温度依存性を考慮していない、式(21)もしくは、式(22)や式(23)から得られたVtRatio(ATT)の値である。
【0139】
式(24)中の係数Пrも第5の実施の形態で説明した補償電圧修正値情報であり、予め制御回路105のメモリ108に記憶されている。制御回路105の演算部109は、動作中に行われる温度補償制御の度に、温度Tと係数Пrと式(24)を用いて、所望の減衰率ATTに対応する補償電圧修正値VtRatio(ΔT,ATT)を算出する(図8ステップSb109)。なお、VtRatioの温度依存性を考慮してない第13の実施の形態や第14の実施の形態と、温度依存性を考慮した本実施の形態の使い分けについては、実際のVtRatioの温度依存性を考慮して使い分ける。
こうして、本実施の形態では、第5の実施の形態の温度補償電圧をより高精度に修正することができる。
【0140】
[第16の実施の形態]
実験で求めたVtRatioの実測値の特性の直線近似が難しい場合は、適当なATT間隔で補償電圧修正値VtRatioをサンプリングしたデータを、メモリ108に記憶させておくことも可能である。この場合、予め離散的に選択された減衰率ATTに対する補償電圧修正値VtRatioを実験で測定し、所望のATT間隔でデータを補間して、減衰率ATTに対する補償電圧修正値VtRatioのサンプリングデータを作成し、減衰率ATTとこれに対応する補償電圧修正値VtRatioとの組を記憶したデータテーブルを、制御回路105のメモリ108に記録しておけばよい。
【0141】
制御回路105の演算部109は、動作中に行われる温度補償制御の度に、データテーブルの情報に基づいて、所望の減衰率ATTに対応する補償電圧修正値VtRatioを算出する。VtRatioの温度依存性も考慮する場合は、データテーブルから算出した補償電圧修正値をVtRatioXとして式(24)を用いればよい(図8ステップSb109)。
こうして、本実施の形態では、第5の実施の形態の温度補償電圧を修正することができる。
【0142】
第1〜第16の実施の形態において、制御回路105のメモリ108と演算部109とクロック発生部113とは、例えばCPU、記憶装置およびインタフェースを備えたコンピュータとこれらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このようなコンピュータを動作させるためのプログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、メモリカードなどの記録媒体に記録された状態で提供される。CPUは、読み込んだプログラムを記憶装置に書き込み、このプログラムに従って第1〜第16の実施の形態で説明した処理を実行する。また、記憶媒体とCPUで構成されるコンピュータの代わりに、プログラムや変数を書き込んだFPGA(Field programmable gate array)と、制御に必要な変数を保存するためのフラッシュメモリのような不揮発メモリでメモリ108と演算部109を構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明は、波長選択スイッチに適用することができる。
【符号の説明】
【0144】
101−1〜101−N…入力ポート、102…出力ポート、103…分散空間光学系、104…二軸MEMSミラー装置、105…制御回路、106…温度センサ、107…筐体、108…メモリ、109…演算部、110…電圧駆動回路、111…断熱固定具、112…ダミー部品、113…クロック発生部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つ以上の入力ポートと、
少なくとも1つ以上の出力ポートと、
前記入力ポートから入った光を波長ごとに直線的に一点に集光する分散空間光学系と、
この分散空間光学系の集光点上に配置され、二つの回動軸周りに回動可能なミラーおよび制御電圧に応じた静電引力により前記ミラーを回動させる制御電極からなる二軸MEMSミラー装置と、
この二軸MEMSミラー装置を制御する制御手段と、
前記二軸MEMSミラー装置および分散空間光学系の周辺温度を検出する温度センサとを備え、
前記制御手段は、前記入力ポートと前記出力ポートとの間の光信号の損失が最小となる最適結合条件に対応した前記二軸MEMSミラー装置の最適結合電圧情報と、光信号の所望の減衰率を実現する前記二軸MEMSミラー装置の減衰率制御電圧情報と、温度と最適結合電圧との関係を表す温度補償電圧情報と、減衰率に応じて温度補償電圧を修正する補償電圧修正値情報とを予め記憶するメモリと、
前記最適結合電圧情報と前記減衰率制御電圧情報とから所望のポートおよび所望の減衰率に対応する前記二軸MEMSミラー装置の制御電圧を算出し、前記補償電圧修正値情報から所望の減衰率に対応する補償電圧修正値を決定し、前記温度センサが検出した温度と前記温度補償電圧情報と前記補償電圧修正値とから温度補償電圧を算出し、この温度補償電圧を、前記算出した制御電圧に加えて最終的な制御電圧を確定する演算手段と、
この演算手段が算出した制御電圧を前記二軸MEMSミラー装置の制御電極に印加する電圧駆動手段とを有し、
前記ミラーの少なくとも一方の軸周りの回動を制御することで前記分散空間光学系から入射した光信号の向きを変え、この光信号を再び前記分散空間光学系を通して所望の出力ポートに出力することで光信号の減衰率の温度補償が可能なことを特徴とする波長選択スイッチ。
【請求項2】
請求項1記載の波長選択スイッチにおいて、
さらに、前記分散空間光学系と前記二軸MEMSミラー装置と前記温度センサとを内部に収める筐体を備えることを特徴とする波長選択スイッチ。
【請求項3】
請求項2記載の波長選択スイッチにおいて、
さらに、前記分散空間光学系と前記二軸MEMSミラー装置と前記温度センサとを前記筐体に固定する固定具を備え、
この固定具は、断熱性の材料からなることを特徴とする波長選択スイッチ。
【請求項4】
請求項1記載の波長選択スイッチにおいて、
前記温度センサは、波長選択スイッチを構成する光学部品のうち温度依存性が最も高い光学部品に装着されていることを特徴とする波長選択スイッチ。
【請求項5】
請求項1記載の波長選択スイッチにおいて、
前記温度センサは、波長選択スイッチを構成する光学部品のうち温度依存性が最も高い光学部品と略等しい熱容量を持つ部材に装着されていることを特徴とする波長選択スイッチ。
【請求項6】
少なくとも1つ以上の入力ポートと、少なくとも1つ以上の出力ポートと、前記入力ポートから入った光を波長ごとに直線的に一点に集光する分散空間光学系と、この分散空間光学系の集光点上に配置され、二つの回動軸周りに回動可能なミラーおよび制御電圧に応じた静電引力により前記ミラーを回動させる制御電極からなる二軸MEMSミラー装置と、前記二軸MEMSミラー装置および分散空間光学系の周辺温度を検出する温度センサとを備えた波長選択スイッチの制御方法であって、
前記入力ポートと前記出力ポートとの間の光信号の損失が最小となる最適結合条件に対応した前記二軸MEMSミラー装置の最適結合電圧情報と、光信号の所望の減衰率を実現する前記二軸MEMSミラー装置の減衰率制御電圧情報とから、所望のポートおよび所望の減衰率に対応する前記二軸MEMSミラー装置の制御電圧を算出する制御電圧算出ステップと、
減衰率に応じて温度補償電圧を修正する補償電圧修正値情報から、所望の減衰率に対応する補償電圧修正値を決定する補償電圧修正値決定ステップと、
前記温度センサが検出した温度と、温度と最適結合電圧との関係を表す温度補償電圧情報と、前記補償電圧修正値とから、温度補償電圧を算出する温度補償電圧算出ステップと、
この温度補償電圧を、前記算出した制御電圧に加えて最終的な制御電圧を確定する制御電圧確定ステップと、
この制御電圧確定ステップで確定した値の制御電圧を前記二軸MEMSミラー装置の制御電極に印加する駆動ステップとを有し、
前記ミラーの少なくとも一方の軸周りの回動を制御することで前記分散空間光学系から入射した光信号の向きを変え、この光信号を再び前記分散空間光学系を通して所望の出力ポートに出力し、かつ前記ミラーの少なくとも一方の軸周りの回動を制御することで光信号の減衰率の調整が可能なことを特徴とする波長選択スイッチの制御方法。
【請求項7】
請求項6記載の波長選択スイッチの制御方法において、
前記二軸MEMSミラー装置は、前記入出力ポートが並ぶ方向と直交するx軸および前記入出力ポートが並ぶ方向と平行なy軸の二つの回動軸周りに回動可能な前記ミラーを備え、
前記温度補償電圧算出ステップは、前記ミラーをx軸周りに回動させる制御電圧をVx、前記ミラーをy軸周りに回動させる制御電圧をVy、前記補償電圧修正値をVyRatio、前記温度センサが検出した温度をT、基準温度をTref、ΔT=T−Trefとし、前記温度補償電圧情報として係数ATx,BTx,ATy,BTyがメモリに記憶されているとき、x軸に関する前記温度補償電圧Vx_TC、y軸に関する前記温度補償電圧Vy_TCを、Vx_TC=(ATx・ΔT+BTx)・ΔT、Vy_TC=(ATy・ΔT+BTy)・ΔTにより算出し、さらに前記補償電圧修正値VyRatioを、前記温度補償電圧Vx_TC,Vy_TCのうちどちらか一方に掛けて前記温度補償電圧Vx_TC,Vy_TCを確定することを特徴とする波長選択スイッチの制御方法。
【請求項8】
請求項6または7記載の波長選択スイッチの制御方法において、
前記補償電圧修正値決定ステップは、所望の減衰率をATTとし、係数a,bが前記補償電圧修正値情報としてメモリに記憶されているとき、前記補償電圧修正値VyRatioを、VyRatio=a・ATT+bにより算出することを特徴とする波長選択スイッチの制御方法。
【請求項9】
請求項6または7記載の波長選択スイッチの制御方法において、
前記補償電圧修正値決定ステップは、所望の減衰率をATTとし、減衰率を複数の領域に区分したときの領域間の境界値であるATTth[N]と係数a[N],bとが前記補償電圧修正値情報としてメモリに記憶されているとき(Nは正の整数)、前記補償電圧修正値VyRatioを、
【数1】

により算出することを特徴とする波長選択スイッチの制御方法。
【請求項10】
請求項6または7記載の波長選択スイッチの制御方法において、
前記補償電圧修正値決定ステップは、所望の減衰率をATT、前記温度センサが検出した温度をT、基準温度をTref、ΔT=T−Trefとし、係数Ar,Brが前記補償電圧修正値情報としてメモリに記憶されているとき、前記補償電圧修正値VyRatioを、VyRatio=(Br・ΔT)(Ar・ATT+1)+1により算出することを特徴とする波長選択スイッチの制御方法。
【請求項11】
請求項6または7記載の波長選択スイッチの制御方法において、
前記補償電圧修正値決定ステップは、所望の減衰率をATT、前記温度センサが検出した温度をT、基準温度をTref、ΔT=T−Trefとし、減衰率を複数の領域に区分したときの領域間の境界値であるATTth[N]と係数Ar[N],Brとが前記補償電圧修正値情報としてメモリに記憶されているとき(Nは正の整数)、前記補償電圧修正値VyRatioを、
【数2】

により算出することを特徴とする波長選択スイッチの制御方法。
【請求項12】
請求項6または7記載の波長選択スイッチの制御方法において、
前記補償電圧修正値決定ステップは、減衰率とこれに対応する補償電圧修正値VyRatioとの組が減衰率毎に記述されたデータテーブルから、所望の減衰率ATTに対応する補償電圧修正値VyRatioを取得することを特徴とする波長選択スイッチの制御方法。
【請求項13】
少なくとも1つ以上の入力ポートと、少なくとも1つ以上の出力ポートと、前記入力ポートから入った光を波長ごとに直線的に一点に集光する分散空間光学系と、この分散空間光学系の集光点上に配置され、二つの回動軸周りに回動可能なミラーおよび制御電圧に応じた静電引力により前記ミラーを回動させる制御電極からなる二軸MEMSミラー装置と、前記二軸MEMSミラー装置および分散空間光学系の周辺温度を検出する温度センサとを備えた波長選択スイッチの制御方法であって、
前記温度センサが検出した温度と、温度と最適結合電圧との関係を表す温度補償電圧情報とから、温度補償電圧を算出する温度補償電圧算出ステップと、
減衰率に応じて温度補償電圧を修正する補償電圧修正値情報から、所望の減衰率に対応する補償電圧修正値を決定する補償電圧修正値決定ステップと、
前記制御電圧を任意の変数の関数値とし、この変数を媒介変数電圧としたとき、所望の減衰率に対応する既知の媒介変数電圧と前記補償電圧修正値とから、温度補償された媒介変数電圧を算出する媒介変数電圧算出ステップと、
前記温度補償された媒介変数電圧を所定の関数に代入して、所望のポートおよび所望の減衰率に対応する前記二軸MEMSミラー装置の制御電圧を算出する制御電圧算出ステップと、
この制御電圧算出ステップで算出した制御電圧に、前記温度補償電圧を加えて最終的な制御電圧を確定する制御電圧確定ステップと、
この制御電圧確定ステップで確定した値の制御電圧を前記二軸MEMSミラー装置の制御電極に印加する駆動ステップとを有し、
前記ミラーの少なくとも一方の軸周りの回動を制御することで前記分散空間光学系から入射した光信号の向きを変え、この光信号を再び前記分散空間光学系を通して所望の出力ポートに出力し、かつ前記ミラーの少なくとも一方の軸周りの回動を制御することで光信号の減衰率の調整が可能なことを特徴とする波長選択スイッチの制御方法。
【請求項14】
請求項13記載の波長選択スイッチの制御方法において、
前記二軸MEMSミラー装置は、前記入出力ポートが並ぶ方向と直交するx軸および前記入出力ポートが並ぶ方向と平行なy軸の二つの回動軸周りに回動可能な前記ミラーを備え、
前記温度補償電圧算出ステップは、前記ミラーをx軸周りに回動させる制御電圧をVx、前記ミラーをy軸周りに回動させる制御電圧をVy、前記制御電圧Vx,Vyを任意の変数の関数値Vx=fx(Vt),Vy=fy(Vt)としたときの前記変数である媒介変数電圧をVt、前記媒介変数電圧Vtに対する前記補償電圧修正値をVtRatio、前記温度センサが検出した温度をT、基準温度をTref、ΔT=T−Trefとし、前記温度補償電圧情報として係数ATx,BTx,ATy,BTyがメモリに記憶されているとき、x軸に関する前記温度補償電圧Vx_TC、y軸に関する前記温度補償電圧Vy_TCを、Vx_TC=(ATx・ΔT+BTx)・ΔT、Vy_TC=(ATy・ΔT+BTy)・ΔTにより算出し、
前記媒介変数電圧算出ステップは、所望の減衰率に対応する既知の媒介変数電圧Vtに前記補償電圧修正値VtRatioを掛けることで、前記温度補償された媒介変数電圧Vt_TCを算出し、
前記制御電圧算出ステップは、前記温度補償された媒介変数電圧Vt_TCから、Vx=fx(Vt_TC),Vy=fy(Vt_TC)により前記制御電圧Vx,Vyを算出することを特徴とする波長選択スイッチの制御方法。
【請求項15】
請求項13または14記載の波長選択スイッチの制御方法において、
前記補償電圧修正値決定ステップは、所望の減衰率をATTとし、係数a,bが前記補償電圧修正値情報としてメモリに記憶されているとき、前記補償電圧修正値VtRatioを、VtRatio=a・ATT+bにより算出することを特徴とする波長選択スイッチの制御方法。
【請求項16】
請求項13または14記載の波長選択スイッチの制御方法において、
前記補償電圧修正値決定ステップは、所望の減衰率をATTとし、減衰率を複数の領域に区分したときの領域間の境界値であるATTth[N]と係数a[N],bとが前記補償電圧修正値情報としてメモリに記憶されているとき(Nは正の整数)、前記補償電圧修正値VtRatioを、
【数3】

により算出することを特徴とする波長選択スイッチの制御方法。
【請求項17】
請求項13または14記載の波長選択スイッチの制御方法において、
前記補償電圧修正値決定ステップは、減衰率ATTとこれに対応する補償電圧修正値VtRatioとの組が減衰率毎に記述されたデータテーブルから、所望の減衰率ATTに対応する補償電圧修正値VtRatioを取得することを特徴とする波長選択スイッチの制御方法。
【請求項18】
請求項15乃至17のいずれか1項に記載の波長選択スイッチの制御方法において、
前記補償電圧修正値決定ステップは、前記温度センサが検出した温度をT、基準温度をTref、ΔT=T−Trefとし、前記補償電圧修正値情報を取得したときの温度の逆数である係数Пrが前記補償電圧修正値情報としてメモリに記憶されているとき、前記補償電圧修正値VtRatioをVtRatioXとして、VtRatio=(VtRatioX−1)・Пr・ΔT+1により前記補償電圧修正値VtRatioを補正することを特徴とする波長選択スイッチの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−8562(P2012−8562A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119339(P2011−119339)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】