説明

波長選択スイッチ

【課題】多出力ポート・高信頼性および高速スイッチングを実現する波長選択スイッチを提供すること。
【解決手段】WDM信号が、第1のアレイ導波路格子101に入力される。入力されたWDM信号が、第1のアレイ導波路格子101において波長分波されて出力される。出力された各光信号が、第1のYシリンドリカルレンズ102によりZ軸方向に平行な平行光に変換される。平行光に変換された各光信号が、第1のXシリンドリカルレンズ103を通過して、それぞれ集光される。KTN結晶104が、集光された各光信号をY軸方向に偏向する。偏向された各光信号が、第2のXシリンドリカルレンズ105および第3のXシリンドリカルレンズ106ならびに第2のYシリンドリカルレンズ群109のうちの1つを介して、選択された出力ポートに接続される、第2のアレイ導波路格子群110のうちの1つへと結合され、波長合波されて出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長選択スイッチに関し、より詳細には、入力ポートから入力された波長分割多重信号のうちの選択した波長の光信号を、選択した出力ポートに出力する波長選択スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
近年急速な進展を見せる大容量光通信ネットワークの構築に伴い、波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)通信技術が注目を集めるとともにそのための設備の普及が進んでいる。WDMノードにおいては、光信号を直接制御せずに、一度電気信号に変換したのちに経路のスイッチングを行う方式が一般的である。しかしながら上記の方式では、ノードにおける処理能力の高負荷化・通信速度律速および高消費電力化が課題として危惧されている。このため、電気スイッチングを介さず光信号のまま経路スイッチングを行うデバイス、すなわち波長選択スイッチ(WSS:Wavelength Selective Switch)等の開発が求められている。
【0003】
一般的な波長選択スイッチの動作原理は以下の通りである。入力光ファイバから入力されたWDM信号が、レンズを介して回折格子へと入射されて波長分波され、波長分波された各光信号が、再びレンズを介して集光される。集光位置にはマイクロミラーアレイおよびシャッタアレイが設置されている。マイクロミラーアレイは、入射光の反射角度を調整することができる構成をとっており、目的とする出力ポートに最適化された角度に各光信号を反射する。反射された各光信号は、レンズを介して回折格子へと入射し波長合波された後、レンズを介して出力ファイバに結合する。
【0004】
上述のように、光偏向素子としては光マイクロマシン(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)によるマイクロミラーアレイを用いるのが一般的である。たとえば、非特許文献1にマイクロミラーアレイに関して記載がある。出力ポートに光を完全に結合もしくは故意に不完全結合させるようにマイクロミラーアレイを制御することで、出力される光の強度を調整することもできる。
【0005】
このように、波長選択スイッチの機能としては、WDM信号の各波長の光信号をそれぞれ任意の出力ポートに振り分けることと、各波長の光信号の光強度を調整することがある。
【0006】
【非特許文献1】J. S. Tsai, et al., Proc. MEMS, 2004, pp. 101-104
【非特許文献2】Appl. Phys. Lett. 89 (2006) 131115
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したMEMSに代表される従来の光偏向素子の偏向角は高々10度程度であるため、光信号を導くことが可能な位置範囲が狭い。したがって、このような光偏向素子を用いた波長選択スイッチの場合、光偏向素子の偏向角に応じた設計を行わねばならず、現状では出力ポート数が4ポートから9ポートに制限されている。
【0008】
また、MEMSは、光反射面を機械的に変位させることを基本的な原理とした光偏向方式であるため、反復使用や衝撃等に起因する故障が起きやすく、高い信頼性の確保が難しい。
【0009】
また、MEMSにおいては駆動時間が1ミリ秒と遅く、今後展開が期待される光バーストスイッチシステムや光バケットスイッチシステム等の高速動作を要するシステムへの対応が困難である。
【0010】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、多出力ポート・高信頼性および高速スイッチングを実現する波長選択スイッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために、本発明は、入力ポートから入力された波長分割多重信号のうちの選択した波長の光信号を、選択した出力ポートに出力する波長選択スイッチであって、前記入力ポートから入力された波長分割多重信号を波長分波する波長分波手段と、前記波長分波手段により波長分波された各光信号を、それぞれ集光する第1の集光素子と、前記第1の集光素子により集光された各光信号を、前記各光信号に対して選択した出力ポートに向けてそれぞれ偏向する、前記各光信号の経路と直交する方向に並列に設けられた少なくとも1つの電極を有する電気光学結晶と、前記電気光学結晶により偏向された各光信号を、それぞれ集光する第2の集光素子と、前記第2の集光素子により集光された各光信号を波長合波して、波長合波された光信号を前記選択した出力ポートに出力する波長合波手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の波長選択スイッチにおいて、前記電気光学結晶は、KTa1-xNbx3(0<x<1,0<y<1)であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の波長選択スイッチにおいて、前記電気光学結晶と前記波長合波手段との間に介在する反射ミラーをさらに備え、前記入力ポートと前記出力ポートは、前記電気光学結晶の前記各光信号の入射面に対して同一の側に配置されていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の波長選択スイッチにおいて、前記入力ポートと前記出力ポートは、前記電気光学結晶の前記各光信号の入射面に対して、前記電気光学結晶を挟んで対向する位置に配置されていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1または2に記載の波長選択スイッチにおいて、前記波長分波手段および前記波長分波手段は、それぞれアレイ導波路格子を備えることを特徴とする。
【0016】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1または2に記載の波長選択スイッチにおいて、前記波長分波手段および前記波長分波手段は、それぞれバルク型回折格子を備えることを特徴とする。
【0017】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1または2に記載の波長選択スイッチにおいて、前記電気光学結晶の前段に、直交する2つの偏波成分に前記各光信号を分離する偏波分離素子と、一方の偏波成分を90度回転させる第1の半波長板と
をさらに備え、前記電気光学結晶の後段に、前記第1の半波長板により偏波方向を回転されていない偏波成分を90度回転させる第2の半波長板群と、直交する2つの偏波成分を合成する偏波合成素子とをさらに備えることを特徴とする。
【0018】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1または2に記載の波長選択スイッチにおいて、前記波長分波手段は、二次元に配列された出力ポートに接続されており、前記少なくとも1つの電極のそれぞれは、複数のセルが2次元のパネル状に配置されているパネル型電極であり、前記複数のセルのそれぞれへの印加電圧は、個別に制御可能であることを特徴とする。
【0019】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1または2に記載の波長選択スイッチにおいて、前記波長分波手段は、二次元に配列された出力ポートに接続されており、前記少なくとも1つの電極のそれぞれは、短冊のような光信号の経路方向に細長い長方形状の複数のセルが、並列に配置されている短冊型電極であり、前記複数のセルのそれぞれへの印加電圧は、個別に制御可能であることを特徴とする。
【0020】
また、請求項10に記載の発明は、請求項1または2に記載の波長選択スイッチにおいて、前記少なくとも1つの電極のそれぞれは、長方形の電極であることを特徴とする。
【0021】
また、請求項11に記載の発明は、請求項2に記載の波長選択スイッチにおいて、前記少なくとも1つの電極のそれぞれは、前記KTa1-xNbx3(0<x<1,0<y<1)に対して空間電荷制御モードEO効果をもたらす材料を使用して形成される長方形の電極と、カー効果をもたらす材料を使用して形成される三角形の電極とを光信号の経路方向に縦列に配置した複合形状型電極であることを特徴とする。
【0022】
また、請求項12に記載の発明は、入力ポートから入力された波長分割多重信号のうちの選択した波長の光信号を、選択した出力ポートに出力する波長選択スイッチであって、前記入力ポートから入力された波長分割多重信号を波長分波する波長分波手段と、前記波長分波手段により波長分波された各光信号を、それぞれ集光する第1の集光素子と、前記第1の集光素子により集光された各光信号を、前記各光信号に対して選択した出力ポートに向けてそれぞれ偏向する、前記各光信号の経路と直交する方向に並列に設けられた少なくとも1つの電極を有する電気光学結晶と、前記電気光学結晶により偏向された各光信号を、それぞれ集光する第2の集光素子と、前記第2の集光素子が通過する光減衰器と、前記光減衰器を通過した各光信号をそれぞれ集光する第3の集光素子と、前記第3の集光素子により集光された各光信号を波長合波して、波長合波された光信号を前記選択した出力ポートに出力する波長合波手段とを備え、前記光減衰器は、出力ポートを第1の出力ポートから第2の出力ポートに切り替える時に、切り替えに関与しない出力ポートへの光の経路を遮断することを特徴とする。
【0023】
また、請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の波長選択スイッチにおいて、前記電気光学結晶は、KTa1-xNbx3(0<x<1,0<y<1)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、最大偏向角の大きい電気光学結晶を光偏向素子として用いることで、多出力ポート・高信頼性および高速スイッチングを実現する波長選択スイッチを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。全図を通して同一の符号は同一または相当部分を示すものとする。
【0026】
(実施形態1)
図1は、本発明による波長選択スイッチの第1の実施形態100の構成を示している。図1(a)は平面図であり、図1(b)は側面図である。波長選択スイッチ100は、入力側に少なくとも1つの光ファイバが接続された第1のアレイ導波路格子(AWG)101と、焦点距離がfYである第1のYシリンドリカルレンズ102と、焦点距離がfXである第1のXシリンドリカルレンズ103と、光偏向素子であるKTa1-xNbx3(0<x<1,0<y<1)結晶(以下、KTN結晶と呼ぶ。)104と、焦点距離がfXである第2のXシリンドリカルレンズ105と、焦点距離がfXである第3のXシリンドリカルレンズ106と、液晶光減衰器107と、焦点距離がfXである第4のXシリンドリカルレンズ108と、焦点距離がfYである第2のYシリンドリカルレンズ群109と、第2のアレイ導波路格子群110とを備え、これらがこの順に配置されている。ここで、光信号の進行方向をZ軸とし、第1のアレイ導波路格子101および第2のアレイ導波路格子群110の基板と水平な方向をX軸、垂直な方向をY軸とする。
【0027】
このような構成において、実施形態1に係る波長選択スイッチ100は、次のように動作する。まず、WDM信号が、第1のアレイ導波路格子101に入力ポートから入力される。入力されたWDM信号が、第1のアレイ導波路格子101において波長分波され、第1のアレイ導波路格子101の基板より出力される。出力された各光信号は、出力直後には基板垂直方向に発散するが、図1(b)に示すように、第1のアレイ導波路格子101の端面からfYの位置に配置された第1のYシリンドリカルレンズ102により、Z軸方向に平行な平行光に変換される。平行光に変換された各光信号が、第1のアレイ導波路格子101の端面からfXの位置に配置された第1のXシリンドリカルレンズ103を通過して、それぞれ第1のアレイ導波路格子101の端面から2fXの位置に集光される。第1のアレイ導波路格子101の端面から2fXの位置に配置されているKTN結晶104は、各光信号の波長に対応した個別の電極を有し、集光された各光信号をY軸方向に偏向する。偏向された各光信号が、第1のアレイ導波路格子101の端面から3fXの位置に配置された第2のXシリンドリカルレンズ105および4fXの位置に配置された第3のXシリンドリカルレンズ106により構成されるリレーレンズ系を介して、5fXの位置に配置された液晶光減衰器107の位置にそれぞれ集光される。各光信号が、最後に、第4のXシリンドリカルレンズ108と第2のYシリンドリカルレンズ群109のうちの1つとを介して、KTN結晶104により選択された出力ポートに接続される、第2のアレイ導波路格子群110のうちの1つのアレイ導波路格子へと結合され、波長合波されて出力ポートに出力される。ここで、第4のXシリンドリカルレンズ108および第2のアレイ導波路格子群110は、第3のXシリンドリカルレンズ106から、それぞれZ軸方向に2fXおよび3fXの位置に配置されており、第2のYシリンドリカルレンズ群109は、第2のアレイ導波路格子群110からfYの位置に配置されている。
【0028】
本実施形態に係る波長選択スイッチ100は、光偏向素子として、電極を有するKTN結晶104を用いることを特徴とする。KTN結晶104は、後述するように、電極に対する印加電圧に応じて、光を偏向することができ、かつ最大偏向角が従来の光偏向素子に比して大きい。また、印加電圧に応じた偏向角の切り替えを高速に行うこともできる。したがって、従来の波長選択スイッチよりも多くの出力ポートを備え、かつ高速なスイッチング動作が可能な波長選択スイッチを実現することができる。さらに、本実施形態に係る波長選択スイッチ100は、MEMSとは異なり光の偏向の際に機械的動作を含まず、また、後述するように高透過率が得られ、信頼性も高い。以下、より詳細に説明する。
【0029】
図2は、第1のアレイ導波路格子101を示している。第1のアレイ導波路格子101は、入力ポートに接続された第1のスラブ導波路201と、第1のスラブ導波路201に接続されたアレイ導波路202と、アレイ導波路202に接続された第2のスラブ導波路203とを備える。第2のスラブ導波路203は備えていても、備えていなくともよい。入力ポートから入力されたWDM信号は、第1のスラブ導波路201、アレイ導波路202および第2のスラブ導波路203を通過して波長分波される。アレイ導波路格子101および第1のYシリンドリカルレンズ102は、WDM信号を波長分波して、波長分波された各光信号をZ軸方向に平行な光信号に変換するための波長分波手段を構成するものであり、波長分波手段の例示的構成である。実施形態3で、本実施形態とは異なる構成の波長分波手段を説明する。
【0030】
第1のXシリンドリカルレンズ103は、波長分波された各光信号を集光する第1の集光素子を構成するものである。第1の集光素子は、単一のレンズであることは必ずしも必要ではなく、各光信号を集光することができればよいことに留意されたい。
【0031】
図3は、KTN結晶104の有する電極の詳細を示している。KTN結晶104のZ軸方向に平行な面の一方の上に、光信号の経路と直交する方向に少なくとも1つの電極が設けられている。各電極は、長方形型とすることができる。図中のWは電極幅であり、Gは電極間隔であり、tはKTN結晶104の厚さである。KTN結晶104のZ軸方向に平行な面の他方には、グランドに接続された一枚の電極が設けられているが、そのような形状に限らず、上述の長方形型の電極に対応する位置のKTN結晶104に電圧を印加することができればよい。
【0032】
この形状の電極を用いてKTN結晶104に電圧を印加した場合、KTN結晶104内においてカソードに近くなるほど屈折率が傾斜的に上昇し、カソード電極に近づく方向に光信号を偏向することができる。偏向角は、電極に印加する電圧に応じて設定可能である。したがって、各出力ポートに接続されるアレイ導波路格子をY軸方向に積層配置した第2のアレイ導波路格子群110を設けることで、KTN結晶104による光の偏向効果を利用して、波長分波された各光信号に対する出力ポートの選択が可能になる。
【0033】
電極材料としてはチタン(Ti)を用いることができるが、電極として適した材料はチタンTiに限定されない。また、用いるKTN結晶104は立法晶であって、動作温度は立方晶から正方晶の相転移温度が望ましい。このような場合に最大偏向角が最大になる。なお、本実施形態では光偏向素子としてチタンなどの電極を有するKTN結晶を用いているが、上述したような屈折率の傾斜的分布が生ずる電極および電気光学結晶であれば、同様の効果を奏することができることに留意されたい。たとえばそのような電気光学結晶として、(Pb,La)(Zr,Tr)O3、K1-yLiyTa1-xNbx3(0<x<1,0<y<1)、LiNbO3、LiTaO3、LilO3、KNbO3、KTiOPO4、BaTiO3、SrTiO3、Ba1-xSrxTiO3(0<x<1)、Ba1-xSrxNb26(0<x<1)、Sr0.75Ba0.25Nb26、Pb1-yLayTi1-xZrx3(0<x<1,0<y<1)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3、KH2PO4、KD2PO4、(NH4)H2PO4、BaB24、LiB35、CsLiB610、GaAs、CdTe、GaP、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、ZnOなどが考えられる。
【0034】
第2のXシリンドリカルレンズ105および第3のXシリンドリカルレンズ106により構成されるリレーレンズ系は、KTN結晶104により偏向された各光信号を集光する第2の集光素子である。第2の集光素子は、このようなリレーレンズ系であることは必ずしも必要ではなく、各光信号を集光することができればよいことに留意されたい。
【0035】
液晶光減衰器107は、2枚の偏光子で挟まれたツイストネマティック型液晶であり、出力ポートを切り替える際に一時的に光の経路を遮断して、切り替え完了後に再び光を通過させる。光の遮断は、液晶光減衰器107の光の入射面および入射面に対向する面に設けられている電極に電圧を印加することで行われる。本実施形態に係る波長選択スイッチは、第2のアレイ導波路格子110を構成するアレイ導波路格子の積層方向、すなわちY軸方向のみに関して波長分波された各光信号を偏向することが可能であるため、あるポートから2つ以上離れたポートに出力ポートを切り替える場合、それらのポート間に介在するがポートの切り替えに関与しないポートを光が通過してしまい、他のポートへの漏れ光が発生する。この現象を「ヒット」と呼ぶ。液晶光減衰器107は、この回避策もしくは低減策、すなわち「ヒットレス」を実現する。液晶光減衰器107は、上述のように液晶を備える構造とすることができるが、同等の機能を持つ素子であればどのような原理の液晶を用いても構わず、また液晶以外の光減衰器を用いてもよいことに留意されたい。また、液晶光減衰器107は、光信号の経路上において第2の集光素子の次に設ける必要はなく、KTN結晶104と第2のアレイ導波路格子群110との間に設けられていればよいことに留意されたい。
【0036】
また、液晶光減衰器107を備えることで「ヒットレス」を実現すると、出力ポート切り替え時の漏れ光を回避し、波長選択スイッチ100の信頼性をさらに向上することができるが、液晶光減衰器107を備えなくとも、KTN結晶104を用いた本実施形態に係る波長選択スイッチは、光偏向素子としてMEMSを用いる波長選択スイッチとは異なり光の偏向の際に機械的動作を含まず信頼性が高いことに留意されたい。図4は、液晶光減衰器107を備えない波長選択スイッチ400を示している。このような波長選択スイッチ400では、KTN結晶104により偏向された各光信号が、第2のXシリンドリカルレンズ105および第3のXシリンドリカルレンズ106により構成されるリレーレンズ系と第2のYシリンドリカルレンズ群109のうちの1つとを介して、KTN結晶104により選択された出力ポートに接続される、第2のアレイ導波路格子群110のうちの1つのアレイ導波路格子へと結合され、波長合波されて出力ポートに出力される。
【0037】
第4のXシリンドリカルレンズ108は、液晶光減衰器107を通過した各光信号を集光する第3の集光素子である。第3の集光素子は、単一のレンズであることは必ずしも必要ではなく、各光信号を集光することができればよいことに留意されたい。なお、上述した液晶光減衰器107を備えない形態の波長選択スイッチ400においては、第3の集光素子を備える必要がない。
【0038】
第2のアレイ導波路格子群110は、複数のアレイ導波路格子をY軸方向に積層したものである。各アレイ導波路格子は、第1のアレイ導波路格子101と同様に、スラブ導波路とアレイ導波路が接続された構造とすることができる。第3の集光素子により集光された各光信号(液晶光減衰器107を備えない実施形態400においては、第2の集光素子により集光された各光信号)は、第2のYシリンドリカルレンズ群109のうちの1つにより、Z軸方向に平行な平行光に変換される。そして、KTN結晶104により選択された出力ポートに接続される、第2のアレイ導波路格子群110のうちの1つのアレイ導波路格子へと結合され、波長合波される。第2のYシリンドリカルレンズ群109および第2の第2のアレイ導波路格子群110は、KTN結晶104により選択された出力ポートに向けて偏向された各光信号をZ軸方向に平行な光信号に変換して、波長合波するための波長合波手段を構成するものであり、波長合波手段の例示的構成である。実施形態3および5で、本実施形態とは異なる波長合波手段を説明する。
【0039】
実施例
以下に、具体的実施例の構成および実験結果を示す。第1のアレイ導波路格子101、および第2のアレイ導波路格子群110を構成する各アレイ導波路格子は、シリコン基板上に石英系ガラスを母材として作製した。第2のアレイ導波路格子群110は、アレイ導波路格子を16枚積層し、出力ポート数を16とした。KTN結晶104は、電極幅Wを200μm、電極間隔Gを100μmとし、厚みtを100μmとした。液晶光減衰器107の電極幅および電極間隔もそれぞれ200μm、100μmとした。また、fX=50mm、fY=6mmとして各レンズを配置した。本設計では、KTN結晶104による偏向角は最大で15度であり、この値は、光偏向素子としてKTNを用いてはじめて実現可能となるものである。なお、以下に説明する本実施例に係る波長選択スイッチの性能は、本実施例と同程度のパラメータを用いれば同様に得られるものであり、本実施例と同一のパラメータに限定する必要はない。
【0040】
図5は、本実施例に係る波長選択スイッチの特性を示している。このグラフは、41チャネルのWDM信号を16チャネルごとに異なる出力ポートに出力した実験結果である。本実施例では、各出力ポートに対して最大透過率−5dBが実現されており、高い性能が確認された。
【0041】
図6は、本実施例に係る波長選択スイッチのスイッチング動作特性を示している。このグラフは、出力ポート1から出力ポート2へ光信号の経路を変更した場合の光強度の変化の実験結果である。出力ポート1におけるスイッチング前の光強度を1として、出力ポート1の光強度が0.9になった時から、出力ポート2における光強度が0.9になった時までを切替時間とすると、切替時間はわずか5μsであり、高速なスイッチング動作が実現されている。MEMSにおいては、駆動時間が1ミリ秒程度であることと比較されたい。
【0042】
以上説明したように、本実施形態に係る波長選択スイッチは、入力ポートから入力された波長分割多重信号のうちの選択した波長の光信号を、選択した出力ポートに出力する波長選択スイッチであって、入力ポートから入力された波長分割多重信号を波長分波する波長分波手段と、波長分波手段により波長分波された各光信号を、それぞれ集光する第1の集光素子と、第1の集光素子により集光された各光信号を、各光信号に対して選択した出力ポートに向けてそれぞれ偏向する、各光信号の経路と直交する方向に並列に設けられた少なくとも1つの電極を有する電気光学結晶と、電気光学結晶により偏向された各光信号を、それぞれ集光する第2の集光素子と、第2の集光素子が通過する光減衰器と、光減衰器を通過した各光信号をそれぞれ集光する第3の集光素子と、第3の集光素子により集光された各光信号を波長合波して、波長合波された光信号を選択した出力ポートに出力する波長合波手段とを備え、光減衰器は、出力ポートを第1の出力ポートから第2の出力ポートに切り替える時に、切り替えに関与しない出力ポートへの光の経路を遮断することを特徴とする。
【0043】
また、液晶光減衰器を備えない形態においては、本実施形態に係る波長選択スイッチは、入力ポートから入力された波長分割多重信号のうちの選択した波長の光信号を、選択した出力ポートに出力する波長選択スイッチであって、入力ポートから入力された波長分割多重信号を波長分波する波長分波手段と、波長分波手段により波長分波された各光信号を、それぞれ集光する第1の集光素子と、第1の集光素子により集光された各光信号を、各光信号に対して選択した出力ポートに向けてそれぞれ偏向する、各光信号の経路と直交する方向に並列に設けられた少なくとも1つの電極を有する電気光学結晶と、電気光学結晶により偏向された各光信号を、それぞれ集光する第2の集光素子と、第2の集光素子により集光された各光信号を波長合波して、波長合波された光信号を選択した出力ポートに出力する波長合波手段とを備えることを特徴とする。
【0044】
光偏向素子として、電極を有するKTN結晶などの電気光学結晶を用いることにより、電極に対する印加電圧に応じて光を偏向することができ、かつ最大偏向角を従来の光偏向素子に比して大きくすることができる。さらに、電気光学結晶は、印加電圧に応じた偏向角の切り替えを高速に行うことができる。また、MEMSとは異なり光の偏向の際に機械的動作を含まないことに加えて高透過率が得られるので、信頼性も高い。したがって、本実施形態によれば、多ポート・高信頼性および高速スイッチングを実現する波長選択スイッチを提供することができる。
【0045】
さらに、光減衰器を備える実施形態では、出力ポート切り替え時の漏れ光を回避し、波長選択スイッチの信頼性をさらに向上することができる。
【0046】
また、波長分波手段および波長合波手段としてアレイ導波路格子を用いることで、バルク型回折格子を用いて実現される波長選択スイッチにおいて必要な入出力ファイバ直近に設置されるコリメートレンズを省略することができ、波長選択スイッチの実装の簡便化および低コスト化が可能になる。バルク型回折格子を用いて実現される波長選択スイッチについては、実施形態3で説明する。
【0047】
なお、本実施形態では、図1の左側を入力ポート、右側を出力ポートとしたが、光の入力ポート、出力ポートを逆にして、右側の出力ポート側から光を入力と左側から出力してももちろんよい。
【0048】
(実施形態2)
図7は、本発明による波長選択スイッチの第2の実施形態700の構成を示している。図7(a)は平面図であり、図7(b)は側面図である。波長選択スイッチ700は、少なくとも1つの入力ポートと少なくとも1つの出力ポートとに接続されたアレイ導波路格子群701と、焦点距離がfYであるYシリンドリカルレンズ群702と、焦点距離がfXである第1のXシリンドリカルレンズ703と、液晶光減衰器704と、焦点距離がfXである第2のXシリンドリカルレンズ705と、焦点距離がfXである第3のXシリンドリカルレンズ706と、光偏向素子であるKTN結晶707と、反射ミラー708とを備え、これらがこの順に配置されている。ここで、光信号の進行方向をZ軸とし、アレイ導波路格子群701の基板と水平な方向をX軸、垂直な方向をY軸とする。実施形態1と大きく異なる点は、波長分割多重信号がKTN結晶707を通過した後に反射ミラー708が挿入されており、このミラーによって反射されて出力ポートへ導かれる点である。
【0049】
このような構成において、実施形態2に係る波長選択スイッチ700は、次のように動作する。まず、WDM信号が、アレイ導波路格子群701に入力ポートから入力される。入力されたWDM信号は、アレイ導波路格子群701において波長分波され、アレイ導波路格子群701の基板より出力される。出力された各光信号は、出力直後には基板垂直方向に発散するが、図7(b)に示すように、アレイ導波路格子群701の端面からfYの位置に配置されたYシリンドリカルレンズ群702のうちの1つにより、Z軸方向に平行な平行光に変換される。平行光に変換された各光信号が、アレイ導波路格子群701の端面からfXの位置に配置された第1のXシリンドリカルレンズ703を通過して、アレイ導波路格子群701の端面から2fXの位置に配置された液晶光減衰器704の位置にそれぞれ集光される。液晶光減衰器704を通過した各光信号が、アレイ導波路格子群701の端面から3fXの位置に配置された第2のXシリンドリカルレンズ705および4fXの位置に配置された第3のXシリンドリカルレンズ706により構成されるリレーレンズ系を介して、5fXの位置に集光される。アレイ導波路格子群701の端面から5fXの位置に配置されているKTN結晶707は、各光信号の波長に対応した個別の電極を有し、集光された各光信号をY軸方向に偏向する。偏向された各光信号が、KTN結晶707に隣接して設けられた反射ミラー708により折り返され、再度KTN結晶707に入射する。再度KTN結晶707を通過した各光信号が、第2のXシリンドリカルレンズ705および第3のXシリンドリカルレンズ706により構成されるリレーレンズ系、液晶光減衰器704、および第1のXシリンドリカルレンズ703を順に再び通過する。次いで、各光信号が、Yシリンドリカルレンズ群702のうちの1つを介して、KTN結晶707により選択された出力ポートに接続される、アレイ導波路格子群701のうちの1つのアレイ導波路格子に結合され、波長合波される。
【0050】
本実施形態に係る波長選択スイッチ700は、光偏向素子として、電極を有するKTN結晶707を用いることを特徴とする。KTN結晶707は、実施形態1において説明したように、電極に対する印加電圧に応じて、光を偏向することができ、かつ最大偏向角が従来の光偏向素子に比して大きい。また、印加電圧に応じた偏向角の切り替えを高速に行うこともできる。したがって、従来の波長選択スイッチよりも多くの出力ポートを備え、かつ高速なスイッチング動作が可能な波長選択スイッチを実現することができる。さらに、本実施形態に係る波長選択スイッチ700は、MEMSとは異なり光の偏向の際に機械的動作を含まず、また、実施形態1の実施例において説明したように高透過率が得られ、信頼性も高い。加えて、本実施形態に係る波長選択スイッチ700は、反射ミラー708を備えることによりKTN結晶707を2回透過するので、KTN結晶707の最大偏向角の2倍である30度の偏向角を可能にし、さらなる多ポート化を実現することができる。たとえば、実施形態1に係る波長選択スイッチと同様のアレイ導波路格子を使用した場合は、出力ポート数を32ポートと2倍にすることができるが、平面光回路(PLC)基板の厚さが1mmで、基板間距離が0.5mmの構成でアレイ導波路格子の積層を行った場合は、出力ポート数を100ポートにすることができ、非常に拡張性の高い波長選択スイッチが実現される。
【0051】
また、入力された光信号は、液晶光減衰器704も2回透過するので、入力光信号に対する出力光信号の消光比を大きく設定することが可能となる。これにより、ヒットレス動作時に、出力ポートの切り替えに関与しない出力ポートへの漏れ光によるクロストークをさらに低減することができ、波長選択スイッチとしての信頼性が向上する。
【0052】
さらに、入力ポートと出力ポートがKTN結晶707の各光信号の入射面に対して同一の側に配置されているので、Xシリンドリカルレンズ、Yシリンドリカルレンズ、光減衰器およびアレイ導波路格子の共通化を図ることができ、部材コストの削減や光軸調芯に関する簡便性の向上に大きく寄与する。図7では、部材の共通化を図った波長選択スイッチ700を示したが、共通化を行わなくともよい。以下に、各構成要素について説明する。
【0053】
アレイ導波路格子群701は、複数のアレイ導波路格子をY軸方向に積層したものである。各アレイ導波路格子は、実施形態1の第1のアレイ導波路格子101と同様に、スラブ導波路とアレイ導波路が接続された構造とすることができる。第2のスラブ導波路203は備えていても、備えていなくともよい。入力ポートから入力されたWDM信号は、スラブ導波路とアレイ導波路を通過して波長分波される。アレイ導波路格子群701のうちの入力ポートに接続されたアレイ導波路格子、およびYシリンドリカルレンズ群702のうちのそのようなアレイ導波路格子に対応するYシリンドリカルレンズは、WDM信号を波長分波して、波長分波された各光信号をZ軸方向に平行な光信号に変換するための波長分波手段を構成するものであり、波長分波手段の例示的構成である。また、アレイ導波路格子群701のうちの出力ポートに接続されたアレイ導波路格子、およびYシリンドリカルレンズ群702のうちのそのようなアレイ導波路格子に対応するYシリンドリカルレンズは、KTN結晶707により選択された出力ポートに向けて偏向された各光信号をZ軸方向に平行な光信号に変換して、波長合波するための波長合波手段を構成するものであり、波長合波手段の例示的構成である。
【0054】
集光素子である第1のXシリンドリカルレンズ703、第2のXシリンドリカルレンズ705および第3のXシリンドリカルレンズ706は、これらに限定されず、実施形態1でも述べたように、集光するという機能を果たすものであればよい。
【0055】
電気光学結晶である、電極を有するKTN結晶707は、実施形態1で説明したKTN結晶104と同一の構成とすることができ、同一の原理で動作して偏向角を切り替えることができる。実施形態1で説明したように、電気光学結晶には、KTN結晶以外のものも含まれることに留意されたい。
【0056】
光減衰器である液晶光減衰器704は、実施形態1で説明した液晶光減衰器107と同一の構成とすることができ、同一の原理で動作して「ヒットレス」動作を可能にする。液晶光減衰器704を備えない実施形態も、実施形態1に説明したように可能であることに留意されたい。
【0057】
反射ミラー708は、本実施形態ではKTN結晶707に隣接して設けられているが、電気光学結晶であるKTN結晶707と波長合波手段との間に設けられていれば、最大偏向角を増大させることができることに留意されたい。
【0058】
以上説明したように、本実施形態に係る波長選択スイッチは、入力ポートから入力された波長分割多重信号のうちの選択した波長の光信号を、選択した出力ポートに出力する波長選択スイッチであって、入力ポートから入力された波長分割多重信号を波長分波する波長分波手段と、波長分波手段により波長分波された各光信号を、それぞれ集光する第1の集光素子と、第1の集光素子により集光された各光信号を、各光信号に対して選択した出力ポートに向けてそれぞれ偏向する、各光信号の経路と直交する方向に並列に設けられた少なくとも1つの電極を有する電気光学結晶と、電気光学結晶により偏向された各光信号を、それぞれ集光する第2の集光素子と、第2の集光素子により集光された各光信号を波長合波して、波長合波された光信号を選択した出力ポートに出力する波長合波手段と、前記電気光学結晶と前記波長合波手段との間に介在する反射ミラーとを備え、前記入力ポートと前記出力ポートは、前記電気光学結晶の各光信号の入射面に対して同一の側に配置されていることを特徴とする。
【0059】
(実施形態3)
図8は、本発明による波長選択スイッチの第3の実施形態800の構成を示している。波長選択スイッチ800は、入力ポートから入力された波長分割多重信号のうちの選択した波長の光信号を、選択した出力ポートに出力する波長選択スイッチであって、入力ポートから入力された波長分割多重信号を波長分波する波長分波手段と、波長分波手段により波長分波された各光信号を、それぞれ集光する第1の集光素子(Xシリンドリカルレンズ803)と、第1の集光素子により集光された各光信号を、各光信号に対して選択した出力ポートに向けてそれぞれ偏向する、各光信号の経路と直交する方向に並列に設けられた少なくとも1つの電極を有する電気光学結晶(KTN結晶804)と、電気光学結晶により偏向された各光信号を、それぞれ集光する第2の集光素子(Xシリンドリカルレンズ805および806)と、第2の集光素子が通過する光減衰器(液晶光減衰器807)と、光減衰器を通過した各光信号をそれぞれ集光する第3の集光素子(Xシリンドリカルレンズ808)と、第3の集光素子により集光された各光信号を波長合波して、波長合波された光信号を選択した出力ポートに出力する波長合波手段とを備え、光減衰器は、出力ポートを第1の出力ポートから第2の出力ポートに切り替える時に、切り替えに関与しない出力ポートへの光の経路を遮断することを特徴とする点で、実施形態1と同一である。括弧内の素子等は、本実施形態において各構成要素を構成する素子等である。本実施形態では、波長分波手段および波長合波手段としてバルク型回折格子を備える点が、実施形態1に係る波長選択スイッチ100と異なる。
【0060】
このような構成において、実施形態3に係る波長選択スイッチ800は、次のように動作する。まず、WDM信号が、入力光ファイバ直近に設置されたコリメートレンズ801によってコリメート光として、第1のバルク型回折格子802に入力ポートから入力される。入力されたWDM信号が、第1のバルク型回折格子802において、波長ごとに異なる角度で反射され、波長分波される。波長分波された各光信号が、第1のXシリンドリカルレンズ803を通過して、それぞれ第1のXシリンドリカルレンズ803からfXの位置に集光される。第1のXシリンドリカルレンズ803からfXの位置に配置されているKTN結晶804は、各光信号の波長に対応した個別の電極を有し、集光された各光信号をY軸方向に偏向する。偏向された各光信号が、第1のXシリンドリカルレンズ803から2fXの位置に配置された第2のXシリンドリカルレンズ805および3fXの位置に配置された第3のXシリンドリカルレンズ806により構成されるリレーレンズ系を介して、4fXの位置に配置された液晶光減衰器807の位置にそれぞれ集光される。各光信号が、最後に、第4のXシリンドリカルレンズ808を介して、第2のバルク型回折格子809に入射される。第2のバルク型回折格子809において波長に応じた角度で反射され、最終的に集光レンズ810で集光されて、光ファイバアレイ812で構成された出力ポートに結合される。
【0061】
本実施形態に係る波長選択スイッチ800は、光偏向素子として、電極を有するKTN結晶804を用いることを特徴とする。KTN結晶804は、実施形態1で説明したように、電極に対する印加電圧に応じて、光を偏向することができ、かつ最大偏向角が従来の光偏向素子に比して大きい。また、印加電圧に応じた偏向角の切り替えを高速に行うこともできる。したがって、従来の波長選択スイッチよりも多くの出力ポートを備え、かつ高速なスイッチング動作が可能な波長選択スイッチを実現することができる。さらに、本実施形態に係る波長選択スイッチ800は、MEMSとは異なり光の偏向の際に機械的動作を含まず、また、実施形態1の実施例で説明したように高透過率が得られ、信頼性も高い。加えて、本実施形態に係る波長選択スイッチ800は、波長分波手段をコリメートレンズ801および第1のバルク型回折格子802で構成し、波長合波手段を第2のバルク型回折格子809および集光レンズ812で構成し、出力ポートとして光ファイバアレイ812を用いるので、出力ポートの間隔を小さくとることが可能であり、波長選択スイッチの小型化に大きく寄与するとともに、アレイ型導波路格子を備える波長分波手段および波長合波手段を用いた場合に比べて更なる多ポート化が可能である。
【0062】
バルク型回折格子としては、図8に示すような鋸歯状溝を持つブレーズド回折格子の他に、正弦波状溝を持つホログラフィック回折格子、矩形状溝を持つラミナー回折格子など、同様の機能を備えているものであればどのようなバルク型回折格子を用いてもよいことに留意されたい。特にホログラフィック回折格子を用いる場合は、回折効率が高いため、より挿入損失の少ない波長選択スイッチの実現が可能である。
【0063】
なお、実施形態1と同様に、液晶光減衰器807を備えない実施形態も可能であることに留意されたい。
【0064】
(実施形態4)
図9は、本発明による波長選択スイッチの第4の実施形態900の構成を示している。図9(a)は平面図であり、図9(b)は側面図である。波長選択スイッチ900は、入力側に少なくとも1つの光ファイバが接続された第1のアレイ導波路格子(AWG)101と、焦点距離がfYである第1のYシリンドリカルレンズ102と、焦点距離がfXである第1のXシリンドリカルレンズ103と、光偏向素子であるKTN結晶104と、焦点距離がfXである第2のXシリンドリカルレンズ105と、焦点距離がfXである第3のXシリンドリカルレンズ106と、液晶光減衰器107と、焦点距離がfXである第4のXシリンドリカルレンズ108と、焦点距離がfYである第2のYシリンドリカルレンズ群109と、第2のアレイ導波路格子群110とを備え、これらがこの順に配置されている。そして、偏波分離素子901が、第1のYシリンドリカルレンズ102と第1のXシリンドリカルレンズ103との間に、第1の半波長板902が、第1のXシリンドリカルレンズ103とKTN結晶104との間に、第2の半波長板群903が、液晶光減衰器107と第4のXシリンドリカルレンズ108との間に、偏波合成素子904が、第4のXシリンドリカルレンズ108と第2のYシリンドリカルレンズ109との間に挿入されている。ここで、光信号の進行方向をZ軸とし、第1のアレイ導波路格子101および第2のアレイ導波路格子群110の基板と水平な方向をX軸、垂直な方向をY軸とする。
【0065】
このような構成において、実施形態4に係る波長選択スイッチ900は、次のように動作する。まず、WDM信号が、第1のアレイ導波路格子101に入力ポートから入力される。入力されたWDM信号は、第1のアレイ導波路格子101において波長分波され、第1のアレイ導波路格子101の基板より出力される。出力された各光信号は、出力直後には基板垂直方向に発散するが、第1のアレイ導波路格子101の端面からfYの位置に配置された第1のYシリンドリカルレンズ102により、Z軸方向に平行な平行光に変換される。平行光に変換された各光信号が、偏波分離素子901にてTE波およびTM波に分離される。分離された各TE波および各TM波のうちの各TM波が、第1のアレイ導波路格子101の端面からfXの位置に配置された第1のXシリンドリカルレンズ103を通過して、それぞれ第1のアレイ導波路格子101の端面から2fXの位置に集光される。第1のアレイ導波路格子101の端面から2fXの位置に配置されているKTN結晶104は、各光信号の波長に対応した個別の電極を有し、集光された各TM波をY軸方向に偏向する。偏向された各TM波が、第1のアレイ導波路格子101の端面から3fXの位置に配置された第2のXシリンドリカルレンズ105および4fXの位置に配置された第3のXシリンドリカルレンズ106により構成されるリレーレンズ系を介して、5fXの位置に配置された液晶光減衰器107の位置にそれぞれ集光される。次いで、各TM波が、液晶光減衰器107と第4のXシリンドリカルレンズ108との間に挿入された第2の半波長板群903のうちの1つを通過することで偏波方向が90度回転されて、第4のXシリンドリカルレンズ108と第2のYシリンドリカルレンズ群109との間に挿入された偏波合成素子904を通過する。最後に、第2のYシリンドリカルレンズ群109のうちの1つを介して、KTN結晶104により選択された出力ポートに接続される、第2のアレイ導波路格子群110のうちの1つのアレイ導波路格子へと結合され、波長合波されて出力ポートに出力される。ここで、第4のXシリンドリカルレンズ108および第2のアレイ導波路格子群110は、第3のXシリンドリカルレンズ106から、それぞれZ軸方向に2fXおよび3fXの位置に配置されており、第2のYシリンドリカルレンズ109は、第2のアレイ導波路格子群110からfYの位置に配置されている。
【0066】
一方で、偏波分離素子にて分離された各TE波は、第1の半波長板902において偏波方向を90度回転され、TM偏波と平行な偏向成分に変換される。この偏波成分が、KTN結晶104、第2のXシリンドリカルレンズ105、第3のXシリンドリカルレンズ106、液晶光減衰器107および第4のXシリンドリカルレンズ108を順次通過する。そして、偏波合成素子904においてもう1つの偏波と合波され、同様に出力ポートへ導かれる。
【0067】
本実施形態に係る波長選択スイッチ900は、光偏向素子として、電極を有するKTN結晶104を用いることを特徴とする。KTN結晶は、実施形態1で説明したように、電極に対する印加電圧に応じて、光を偏向することができ、かつ最大偏向角が従来の光偏向素子に比して大きい。また、印加電圧に応じた偏向角の切り替えを高速に行うこともできる。したがって、従来の波長選択スイッチよりも多くの出力ポートを備え、かつ高速なスイッチング動作が可能な波長選択スイッチを実現することができる。さらに、本実施形態に係る波長選択スイッチ900は、MEMSとは異なり光の偏向の際に機械的動作を含まず、また、実施形態1の実施例において説明したように高透過率が得られ、信頼性も高い。加えて、本実施形態に係る波長選択スイッチ900は、電気光学結晶であるKTN結晶104の前段に、直交する2つの偏波成分に光信号を分離する偏波分離素子901と、一方の偏波成分を90度回転させる第1の半波長板902とを備え、電気光学結晶の後段に、第1の半波長板により偏波方向を回転されていない偏波成分を90度回転させる第2の半波長板群903と、直交する2つの偏波成分を合成する偏波合成素子904とを備えることにより、KTN結晶など偏波依存性を有する電気光学結晶を光信号が通過する時に、偏波方向を一方の偏波方向に揃え(偏波ダイバーシティ構成)、偏波依存性の影響を解消もしくは軽減することができる。
【0068】
偏波分離素子901としては、ルチル型TiO2結晶を用いることができ、また、同様の機能を持つ素子、例えばYVO4結晶などを用いてもよい。
【0069】
なお、実施形態1と同様に、液晶光減衰器107を備えない実施形態も可能であることに留意されたい。
【0070】
(実施形態5)
図10は、本発明による波長選択スイッチの第5の実施形態1000の構成を示している。図10(a)は平面図であり、図10(b)は側面図である。波長選択スイッチ1000は、入力側に少なくとも1つの光ファイバが接続された第1のアレイ導波路格子(AWG)1001と、焦点距離がfYである第1のYシリンドリカルレンズ1002と、焦点距離がfXである第1のXシリンドリカルレンズ1003と、光偏向素子であるKTN結晶1004と、焦点距離がfXである第2のXシリンドリカルレンズ1005と、焦点距離がfYである第2のYシリンドリカルレンズ群1006と、第2のアレイ導波路格子群1007とを備え、これらがこの順に配置されている。ここで、光信号の進行方向をZ軸とし、第1のアレイ導波路格子1001および第2のアレイ導波路格子群1007の基板と水平な方向をX軸、垂直な方向をY軸とする。本実施形態において、実施形態1に係る波長選択スイッチ100と大きく異なるのは、KTN結晶1004の電極として長方形型を用いるのではなく、パネル型を用いる点である。短冊型および形状複合型の電極を用いた電極に関しては、実施形態6および7で後述する。
【0071】
このような構成において、実施形態1に係る波長選択スイッチ1000は、次のように動作する。まず、WDM信号が、第1のアレイ導波路格子1001に入力ポートから入力される。入力されたWDM信号が、第1のアレイ導波路格子1001において波長分波され、第1のアレイ導波路格子1001の基板より出力される。出力された各光信号は、出力直後には基板垂直方向に発散するが、図10(b)に示すように、第1のアレイ導波路格子1001の端面からfYの位置に配置された第1のYシリンドリカルレンズ1002により、Z軸方向に平行な平行光に変換される。平行光に変換された各光信号が、第1のアレイ導波路格子1001の端面からfXの位置に配置された第1のXシリンドリカルレンズ1003を通過して、それぞれ第1のアレイ導波路格子101の端面から2fXの位置に集光される。第1のアレイ導波路格子1001の端面から2fXの位置に配置されているKTN結晶1004は、パネル型の電極を有し、集光された各光信号をX軸方向およびY軸方向に偏向する。偏向された各光信号が、第1のアレイ導波路格子1001の端面から3fXの位置に配置された第2のXシリンドリカルレンズ1005と第2のYシリンドリカルレンズ群1006のうちの1つとを介して、KTN結晶1004により選択された出力ポートに接続される、第2のアレイ導波路格子群1007のうちの1つのアレイ導波路格子へと結合され、波長合波されて出力ポートに出力される。ここで、第2のアレイ導波路格子群1007は、第2のXシリンドリカルレンズ1005から、Z軸方向にfXの位置に配置されており、第2のYシリンドリカルレンズ1006は、第2のアレイ導波路格子群1007からfYの位置に配置されている。
【0072】
本実施形態に係る波長選択スイッチ1000は、光偏向素子として、パネル型の電極を有するKTN結晶1004を用いることを特徴とする。KTN結晶1004は、実施形態1で説明したように、電極に対する印加電圧に応じて、光を偏向することができ、かつ最大偏向角が従来の光偏向素子に比して大きい。また、印加電圧に応じた偏向角の切り替えを高速に行うこともできる。したがって、従来の波長選択スイッチよりも多くの出力ポートを備え、かつ高速なスイッチング動作が可能な波長選択スイッチを実現することができる。さらに、本実施形態に係る波長選択スイッチ1000は、MEMSとは異なり光の偏向の際に機械的動作を含まず、また、実施形態1の実施例で説明したように高透過率が得られ、信頼性も高い。加えて、本実施形態に係る波長選択スイッチ1000は、KTN結晶1004の電極としてパネル型を用いることで、Y軸方向のみならずX軸方向へも光信号を偏向して、二次元的な出力ポート配列を可能とする。それにより、波長選択スイッチの小型化に大きく寄与するとともに、更なる多ポート化が可能である。また、二次元的に光信号を偏向することができるので、光減衰器を設けることなく、出力ポートの切り替え時の、切り替えに関与しない出力ポートへの漏れ光を回避もしくは軽減するように光信号の経路を設定し、部材費の低減や調芯技術の容易化による最終的なコストの削減を可能にする。以下、より詳細に説明する。
【0073】
第1のアレイ導波路格子群1001は、実施形態1の第1のアレイ導波路格子101と同様に、スラブ導波路とアレイ導波路が接続された構造とすることができる。第2のスラブ導波路203は備えていても、備えていなくともよい。第1のアレイ導波路格子1001および第1のYシリンドリカルレンズ1002は、WDM信号を波長分波して、波長分波された各光信号をZ軸方向に平行な光信号に変換するための波長分波手段を構成するものであり、波長分波手段の例示的構成である。
【0074】
集光素子である第1のXシリンドリカルレンズ1003は、単一のレンズであることは必ずしも必要ではなく、各光信号を集光することができればよいことに留意されたい。
【0075】
図11は、複数の基板が積層された第2のアレイ導波路格子群1007のうちの1つ基板を示している。各基板上には、複数のアレイ導波路格子がX軸方向に配置されている。各アレイ導波路格子は、第1のスラブ導波路1101と、第1のスラブ導波路1102に接続されたアレイ導波路1102と、アレイ導波路1102と接続された第2のスラブ導波路1103とを備える。第1のスラブ導波路1101は備えていても、備えていなくともよい。第2のXシリンドリカルレンズ1005、第2のYシリンドリカルレンズ群1106および第2のアレイ導波路格子群1107は、KTN結晶1104により選択された出力ポートに向けてX軸方向およびY軸方向に偏向された各光信号をZ軸方向に平行な光信号に変換して、波長合波するための波長合波手段を構成するものであり、波長合波手段の例示的構成である。第2のXシリンドリカルレンズ1005は、電気光学結晶であるKTN結晶1004により偏向された各光信号を集光する集光素子としても機能することができる。
【0076】
図12は、電気光学結晶であるKTN結晶1004の有する電極の詳細を示している。KTN結晶1004のZ軸方向に平行な面の一方の上に、光信号の経路と直交する方向に少なくとも1つの電極が設けられている。各電極は、パネル型にすることができる。図中のWは電極幅であり、Gは電極間隔であり、tはKTN結晶1004の厚さである。KTN結晶1004のZ軸方向に平行な面の他方には、グランドに接続された一枚の電極が設けられているが、そのような形状に限らず、上述の長方形型の電極に対応する位置のKTN結晶1004に電圧を印加することができればよい。KTN結晶1004の動作は、実施形態において説明したように、電極に電圧を印加するとKTN結晶1004内においてカソードに近くなるほど屈折率が傾斜的に上昇し、カソード電極に近づく方向に対して光信号を偏向する。
【0077】
図13は、パネル型の電極を有するKTN結晶1004の動作を示している。各電極は、複数のセルが2次元のパネル状に配置されており、各セルを個別に電圧制御することができる。Y軸方向のみに光信号を偏向する場合は、図13(a)に示すようにすべてのセルに一様に電圧を印加する。そうすると、KTN結晶1004による空間電荷制御モードEO効果によって光信号が偏向される。X軸方向に偏向する場合には、図13(b)に示すように三角形に近似できる領域に相当するセルに対して一様に電圧を印加する。そうすると、Y軸方向に光を偏向しつつ、KTN結晶1004内において空間電荷制御モードEO効果に起因する屈折率変化が生じ、スネルの法則を介して、X軸方向へも光が偏向される。X軸方向に関する偏向角は、三角形に近似される電圧印加領域の斜辺の角度と、印加電圧の大きさに依存する。
【0078】
ここで、Y軸方向の偏向角は、印加電圧量と電圧印加領域内における光路長に依存する。したがって、三角形状に電圧を印加した場合、光路長が図13(a)のような全面電圧印加時と比較して短くなり、Y軸方向に対して十分な偏向角を得ることができなくなる場合がある。この対策として、三角形状に電圧を印加する場合は、全面電圧印加時より高電圧を印加すればよい。より高い電圧を印加することにより、アノード・カソード間の屈折率の差がより大きくなり、Y軸方向の偏向角を大きく設定できる。すなわち、近似する三角形の形状と印加電圧の最適化を行うことで、Y軸方向に対する光の偏向角は維持しつつ、X軸方向に関する光の偏向角を調整することが可能である。
【0079】
また、厚さ100μmのKTNの上部にパネル型電極を配置し、斜辺が45度となるような三角形に近似できる領域に250Vの電圧を印加した場合のX軸方向偏向角を求める。非特許文献2によると、250Vの電圧印加時の偏向角はおよそ15度であることから、結晶の中心、すなわちy=t/2においては電圧印加領域と非印加領域との間の屈折率の差Δn=0.075が算出される。この値を元に、スネルの法則を用いると偏光角度として約4.2度が求められ、電圧印加領域が近似できる三角形の斜辺の角度を±45度にすることで最大8.4度もの広角な偏向が可能となる。
【0080】
以上説明したように、本実施形態に係る波長選択スイッチは、電気光学結晶の有する電極として、複数のセルが2次元のパネル状に配置されているパネル型電極を用い、各セルへの印加電圧を個別に制御することで、電気光学結晶を透過する光信号を二次元的に偏向することを特徴とする。
【0081】
(実施形態6)
図14は、短冊型の電極を有するKTN結晶の動作を示している。実施形態5では、パネル型の電極を有するKTN結晶を用いて光信号を二次元的に偏向することができたが、電極を短冊型としても同様に二次元的に偏向することができる。各電極は、短冊のようなZ軸方向に細長い長方形状の複数のセルがX軸方向に並列に配置されており、各セルを個別に電圧制御することができる。本実施形態では、KTN結晶内での単色の光信号のビームスポットWoを短冊の幅Wに比べて十分大きく、たとえばW0>10Wとするのが望ましい。
【0082】
Y軸方向のみに光信号を偏向する場合は、図13(a)に示すようにすべてのセルに一様に電圧を印加する。X軸方向に偏向する場合には、図13(b)に示すように光の偏向方向に向かって徐々に印加電圧量を増加させる。そうすると、X軸方向にも屈折率変化が段階的に形成され、光信号をX軸方向に偏向することができる。この電極形状の特徴としては、KTNによって偏向させられた光の波面歪みが生じにくいという点が挙げられる。
【0083】
以上説明したように、本実施形態に係る波長選択スイッチは、電気光学結晶の有する電極として、短冊のような光信号の経路方向に細長い長方形状の複数のセルが、並列に配置されている短冊型電極を用い、各セルへの印加電圧を個別に制御することで、電気光学結晶を透過する光信号を二次元的に偏向することを特徴とする。
【0084】
(実施形態7)
図15は、複合形状型の電極を有するKTN結晶の動作を示している。各電極は、Y軸方向に光信号を偏向するための長方形型電極1501と、X軸方向に光信号を偏向するための三角形型電極1502とを備える。長方形型電極1501の材質として例えばチタンを用いると、電極部で空間電荷制御モードEO効果が発現されるため、Y軸方向に屈折率の分布を形成することができ、同方向に光を偏向することが可能である。また、三角形状電極1502の材質として例えば白金を用いると、通常の電気光学効果すなわちカー効果を発現させることが可能である。カー効果においては結晶内の屈折率変化はY軸方向に一様であるため、単純なプリズム効果によりX軸方向に光を偏向することが可能である。どちらの電極においても、高電圧を印加するほど大きな偏向角度を得ることができる。本実施形態においては、カー効果を発現させる三角形電極1502の斜辺に対応する頂点の向きに一元的に偏向が起こる。このため、実施形態7においてはX軸方向の偏向角が実施形態5および実施形態6と比較して狭くなるが、この複合形状型の電極を用いた場合は非常に単純な構造で、しかも縦横を独立に制御可能という点で大きな利点を有する。
【0085】
以上説明したように、本実施形態に係る波長選択スイッチは、電気光学結晶の有する電極として、KTN結晶に対して空間電荷制御モードEO効果をもたらす材料を使用して形成される長方形の電極と、カー効果をもたらす材料を使用して形成される三角形の電極とを光信号の経路方向に縦列に配置した複合形状型電極を用いることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明による波長選択スイッチの第1の実施形態を示す図である。
【図2】実施形態1に係る第1のアレイ導波路格子を示す図である。
【図3】実施形態1に係るKTN結晶の有する電極の詳細を示す図である。
【図4】実施形態1において液晶光減衰器を備えない形態の波長選択スイッチを示す図である。
【図5】実施形態1に係る実施例の波長選択スイッチの特性を示す図である。
【図6】実施形態1に係る実施例の波長選択スイッチのスイッチング動作特性を示す図である。
【図7】本発明による波長選択スイッチの第2の実施形態を示す図である。
【図8】本発明による波長選択スイッチの第3の実施形態を示す図である。
【図9】本発明による波長選択スイッチの第4の実施形態を示す図である。
【図10】本発明による波長選択スイッチの第5の実施形態を示す図である。
【図11】実施形態5に係る第2のアレイ導波路格子群のうちの1つ基板を示す図である。
【図12】実施形態5に係るKTN結晶の有する電極の詳細を示す図である。
【図13】実施形態5に係る、パネル型の電極を有するKTN結晶の動作を示す図である。
【図14】実施形態6に係る、短冊型の電極を有するKTN結晶の動作を示す図である。
【図15】実施形態7に係る、複合形状型の電極を有するKTN結晶の動作を示す図である。
【符号の説明】
【0087】
101、1001 第1のアレイ導波路格子
102、1002 第1のYシリンドリカルレンズ
103、703、803、1003 第1のXシリンドリカルレンズ
104、707、804、1004 KTN結晶
105、705、805、1005 第2のXシリンドリカルレンズ
106、706、806 第3のXシリンドリカルレンズ
107、704、807 液晶光減衰器
108、808 第4のXシリンドリカルレンズ
109、1006 第2のYシリンドリカルレンズ群
110、1007 第2のアレイ導波路格子群
201 第1のスラブ回路
202 アレイ導波路
203 第2のスラブ回路
701 アレイ導波路格子群
702 Yシリンドリカルレンズ群
708 反射ミラー
801 コリメートレンズ
802 第1のバルク型回折格子
809 第2のバルク型回折格子
810 集光レンズ
811 光ファイバ
812 光ファイバアレイ
901 偏波分離素子
902 第1の半波長板
903 第2の半波長板群
904 偏波合成素子
1101 第1のスラブ回路
1102 アレイ導波路
1103 第2のスラブ回路
1301、1401 セル
1501 長方形型電極
1502 三角形型電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力ポートから入力された波長分割多重信号のうちの選択した波長の光信号を、選択した出力ポートに出力する波長選択スイッチであって、
前記入力ポートから入力された波長分割多重信号を波長分波する波長分波手段と、
前記波長分波手段により波長分波された各光信号を、それぞれ集光する第1の集光素子と、
前記第1の集光素子により集光された各光信号を、前記各光信号に対して選択した出力ポートに向けてそれぞれ偏向する、前記各光信号の経路と直交する方向に並列に設けられた少なくとも1つの電極を有する電気光学結晶と、
前記電気光学結晶により偏向された各光信号を、それぞれ集光する第2の集光素子と、
前記第2の集光素子により集光された各光信号を波長合波して、波長合波された光信号を前記選択した出力ポートに出力する波長合波手段と
を備えることを特徴とする波長選択スイッチ。
【請求項2】
前記電気光学結晶は、KTa1-xNbx3(0<x<1,0<y<1)であることを特徴とする請求項1に記載の波長選択スイッチ。
【請求項3】
前記電気光学結晶と前記波長合波手段との間に介在する反射ミラーをさらに備え、前記入力ポートと前記出力ポートは、前記電気光学結晶の前記各光信号の入射面に対して同一の側に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の波長選択スイッチ。
【請求項4】
前記入力ポートと前記出力ポートは、前記電気光学結晶の前記各光信号の入射面に対して、前記電気光学結晶を挟んで対向する位置に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の波長選択スイッチ。
【請求項5】
前記波長分波手段および前記波長分波手段は、それぞれアレイ導波路格子を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の波長選択スイッチ。
【請求項6】
前記波長分波手段および前記波長分波手段は、それぞれバルク型回折格子を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の波長選択スイッチ。
【請求項7】
前記電気光学結晶の前段に、
直交する2つの偏波成分に前記各光信号を分離する偏波分離素子と、
一方の偏波成分を90度回転させる第1の半波長板と
をさらに備え、前記電気光学結晶の後段に、
前記第1の半波長板により偏波方向を回転されていない偏波成分を90度回転させる第2の半波長板群と、
直交する2つの偏波成分を合成する偏波合成素子と
をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の波長選択スイッチ。
【請求項8】
前記波長分波手段は、二次元に配列された出力ポートに接続されており、
前記少なくとも1つの電極のそれぞれは、複数のセルが2次元のパネル状に配置されているパネル型電極であり、
前記複数のセルのそれぞれへの印加電圧は、個別に制御可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の波長選択スイッチ。
【請求項9】
前記波長分波手段は、二次元に配列された出力ポートに接続されており、
前記少なくとも1つの電極のそれぞれは、短冊のような光信号の経路方向に細長い長方形状の複数のセルが、並列に配置されている短冊型電極であり、
前記複数のセルのそれぞれへの印加電圧は、個別に制御可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の波長選択スイッチ。
【請求項10】
前記少なくとも1つの電極のそれぞれは、長方形の電極であることを特徴とする請求項1または2に記載の波長選択スイッチ。
【請求項11】
前記少なくとも1つの電極のそれぞれは、前記KTa1-xNbx3(0<x<1,0<y<1)に対して空間電荷制御モードEO効果をもたらす材料を使用して形成される長方形の電極と、カー効果をもたらす材料を使用して形成される三角形の電極とを光信号の経路方向に縦列に配置した複合形状型電極であることを特徴とする請求項2に記載の波長選択スイッチ。
【請求項12】
入力ポートから入力された波長分割多重信号のうちの選択した波長の光信号を、選択した出力ポートに出力する波長選択スイッチであって、
前記入力ポートから入力された波長分割多重信号を波長分波する波長分波手段と、
前記波長分波手段により波長分波された各光信号を、それぞれ集光する第1の集光素子と、
前記第1の集光素子により集光された各光信号を、前記各光信号に対して選択した出力ポートに向けてそれぞれ偏向する、前記各光信号の経路と直交する方向に並列に設けられた少なくとも1つの電極を有する電気光学結晶と、
前記電気光学結晶により偏向された各光信号を、それぞれ集光する第2の集光素子と、 前記第2の集光素子が通過する光減衰器と、
前記光減衰器を通過した各光信号をそれぞれ集光する第3の集光素子と、
前記第3の集光素子により集光された各光信号を波長合波して、波長合波された光信号を前記選択した出力ポートに出力する波長合波手段と
を備え、前記光減衰器は、出力ポートを第1の出力ポートから第2の出力ポートに切り替える時に、切り替えに関与しない出力ポートへの光の経路を遮断することを特徴とする波長選択スイッチ。
【請求項13】
前記電気光学結晶は、KTa1-xNbx3(0<x<1,0<y<1)であることを特徴とする請求項12に記載の波長選択スイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−203775(P2008−203775A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−42788(P2007−42788)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】