説明

波長選択スイッチ

【課題】小型化可能であり、且つ、チャネルごとの透過帯域の幅が一定な波長選択スイッチを提供すること。
【解決手段】本発明に係る波長選択スイッチは、入出力ファイバアレイと、合分波用回折格子と、集光レンズと、複数のMEMSミラーから成るMEMSミラーアレイとを備える。前記MEMSミラーアレイにおいて、隣接するMEMSミラー間の各ミラーピッチは、波長分散方向に沿って短波側から長波側へ進むにつれて増加する。前記波長選択スイッチにおいて、前記複数のMEMSミラーのうち最も短波側のCHに対応するMEMSミラー上に入射した信号光の径は、他の全てのCHに対応する複数のMEMSミラー上に入射した信号光の径より小さいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間光学系を利用した波長選択スイッチに関し、具体的には、小型化可能であり且つチャネルごとの透過帯域の幅が一定な波長選択スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の光入出力ポートを有し、波長分割多重された光信号(WDM:Wavelength Division Multiple)を光のまま選択的に操作することができるデバイスが求められている。このようなデバイスの一つとして波長選択スイッチ(WSS:Wavelength Selective Switch)がある。波長選択スイッチは、入力されたWDM光を波長ごとに異なる出力に選択的に振り分けることができるデバイスである。
【0003】
一般的な波長選択スイッチは、合波素子、分散素子、および、偏光素子を用いた空間光学系の光通信用デバイスである。合波されて入射された光を、回折格子などの分散素子を介して波長ごとに位置に依存した光に分波し、MEMSミラーなどの偏向素子によって出力ポートを選択することで、波長ごとのスイッチングを実現している。
【0004】
図1に従来の波長選択スイッチの一例を示す(例えば、特許文献1を参照)。図1に示す波長選択スイッチ400は、入力ポートおよび出力ポートが所定の方向に配列された入出力ポートアレイ410と、入出力ポートに光信号を入出力するために偏向光を平行光に変換するfθレンズ420と、fθレンズ420からの光信号のビーム断面を楕円形状にする円筒レンズ430と、第1のレンズ441、光信号を合分波する回折格子442、および第2のレンズ443からなり、円筒レンズ430を通して集光された断面が楕円形状の光信号をミラーアレイ450に等倍で投影する4f光学系440と、複数のMEMSミラー451が所定の方向に沿って一列に配列されたミラーアレイ450とを備えており、これらがこの順番で図1中のz軸に沿って一列に配列されている。入出力ポートは、y軸に沿った方向に配列されている。複数のMEMSミラーは、x軸に沿った方向に配列されている。
【0005】
ここで、入出力ポートアレイ410は、一般的に、入力ポート用の光ファイバと出力ポート用の光ファイバとが同一のブロック(固定具)に一次元的に配列されて固定されたファイバコリメータから構成されている。なお、ファイバコリメータアレイは、ファイバアレイとレンズアレイを組み合わせた構成、または、ファイバとレンズが一体化されたレンズドファイバをアレイ化した構成の何れであってもよい。
【0006】
図1の各MEMSミラー451は、図2に示すように、z軸に対して直交するx軸およびこのx軸に対して直交するy軸回りに回動可能である。MEMSミラー451は、分波された各波長の光信号を偏向させ目的のポートに任意の結合状態で結合させるための偏向素子であり、波長分散方向(θy方向)と、波長分散方向に垂直な方向(θx方向)の二方向にビームを偏向する能力を有する。波長分散方向に垂直な方向にビームを偏向するMEMSミラーの角度θxは、x軸回りの回動であって、主に結合する光ポートを選択するための角度である。一方、波長分散方向にビームを偏向する角度θyは、y軸回りの回動であって、主に結合状態を任意にする、即ち、波長選択スイッチの減衰率(ATT:attenuation)を調整するための角度である。
【0007】
図3に従来の波長選択スイッチの別の一例を示す(例えば、特許文献2を参照)。波長選択スイッチ1は、基板10上に、入出力光学系を構成するコリメータアレイ11と、入力WDM光を波長ごとに分光するための分光光学系を構成する分光器12と、集光光学系を構成する集光レンズ13と、スイッチング素子であるMEMSミラーアレイユニット14とを備える。
【0008】
コリメータアレイ11は、例えば、ガラス基板の一方の面に複数のコリメートレンズが形成、配列されるとともに、他方の面の複数のコリメートレンズの各々に対応する部分に光軸、即ち、コリメートレンズ中心とファイバコア中心とが一致した状態で接着や融着等によりそれぞれ接続された複数の光ファイバを備えて、構成される。コリメータアレイ11は、入力光ファイバ11−1からコリメートレンズへ入射した光をコリメート光に変換して分光器12へ出力し、逆に、分光器12からコリメートレンズへ入射したコリメート光を出力ファイバ11−2,11−3,11−4のコアに集光する機能を有している。図3中のコリメータアレイ11は、入力ポートに対応する1本の入力ファイバ11−1と出力ポートに対応する3本の出力ファイバ11−2,11−3,11−4との計4本のファイバを備え、1入力3出力のコリメータアレイとして構成されている。
【0009】
分光器12は、入射光を波長によって異なる方向(角度)へ反射する。分光器として一般的には回折格子が用いられる。図4は、一般的な回折格子の構成を示す拡大部分断面図である。回折格子は、ガラス基板120上に、平行な多数の溝を周期的に刻んだ光学素子であり、光の回折現象を利用して、一定の角度(α)で入射される複数の波長成分に対して、波長毎に異なる出射角度(β)を与えるものである。この作用により、入力WDM光を波長ごとに分離することが可能となる。
【0010】
MEMSミラーアレイユニット14は、入力ファイバ11−1からの入射光を出力ファイバ(11−2,11−3,11−4)のいずれかへ反射させてポート切り替えを行なうためのスイッチング素子として機能する。MEMSミラーアレイユニット14は、MEMSミラーがアレイ状に配置されて構成される。MEMSミラーアレイユニット14は、分光器12により分離された1波長に対して1つのMEMSミラーが配置されるように構成される。
【0011】
集光レンズ13は、分光器12により分離された1波長の光を所定のMEMSミラーに集光する。その後、集光レンズ13は、いずれかのMEMSミラーで反射されてくる光を集光して分光器12経由でコリメータアレイ11へ出力する。
【0012】
このような従来の波長選択スイッチ1において、コリメータアレイ11の入力ファイバ11−1を通じて入力されたWDM光は、コリメート光に変換された後、分光器12に入射する。次いで、分光器12に入射した光は、分光器12にて波長毎に異なる角度で出射されて集光レンズ13に入射する。次いで、集光レンズ13に入射した光は、集光レンズ13によりMEMSミラーアレイユニット14のうちの対応するMEMSミラーに集光される。MEMSミラーに入射して反射された光は、往路とは異なる光路で、再び集光レンズ13および分光器12を経由して、コリメータアレイ11のいずれかの出力ファイバ(11−2,11−3,11−4)に入射する。反射光の結合先である出力ファイバを変更する際には、個々のMEMSミラーの傾斜角を変更する。このようにして、波長単位の出力切り替えが実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2011−2693号公報
【特許文献2】特許第4445373号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Marom et al. "Wavelength-Selective 1×K Switches Using Free-Space Optics and MEMS Micromirrors:Theory, Design, and Implementation" IEEE Journal of Lightwave Technology, Volume 23, No.4, April 2005 pp. 1620-1630
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
波長選択スイッチの性能指標の一つに透過帯域がある。波長選択スイッチの透過帯域が広いほどビットレートの上限が向上する。波長選択スイッチの透過帯域は、ミラー幅に対するビーム径の比率で決まり、ミラー幅が大きくビーム径が小さいほど透過帯域は広くなる。
【0016】
このため、広い透過帯域を確保するためには、個々のMEMSミラーに当たる波長のビーム径をミラー幅(Wとする)に対してできるだけ小さくすることが必要である。また、ビームがMEMSミラーのできるだけ中央に当たるようにすることが必要である。
【0017】
図5に、図3に示した波長選択スイッチの一部を示す。分光光学系112として、図4に示した回折格子を使用する。上述したように、波長選択スイッチは、回折格子により、WDM光を波長ごとに分離した後、集光レンズ113で各波長の光を平行にして対応する個々のMEMSミラー140に当てる構造を有する。WDM光の波長間隔をΔλ、回折格子によるWDM光の分解角度をβとすると、分光光学系112の波長分解能力は、dβ/dλで表され、分解角度βはβ=Δλ・(dβ/dλ)で表される。このとき、分光光学系112−集光光学系113間の距離Lと、ミラーピッチ(隣接するMEMSミラー中心間の距離)Pとの間には、
【0018】
【数1】

【0019】
という関係が成立することが知られている。
【0020】
またこのとき、異なる波長(波長間隔Δλ)が集光レンズ113を通過した後に出射面上で形成する空間距離(ビーム間隔)をdyとすると、dyと波長間隔Δλとの間には、
【0021】
【数2】

【0022】
という関係が成立することが知られている。ここで、fLは集光レンズ113の焦点距離を、Nは(回折格子の溝本数)/mmを、mは回折次数を夫々表す。
【0023】
(式2)から、ビーム間隔(即ち、入射光線の位置変化)dyと、波長間隔(即ち、チャネルあたりの波長変化)Δλとの関係は、分散角度(β)に依存することがわかる。
【0024】
図6に、使用波長範囲をCバンド(1528.77〜1563.05nm)、波長間隔(Δλ)を100GHz、波長数を44波長、回折格子の溝本数(N)を1200本/mm、回折次数(m)を1、入射角αを68度、ミラーピッチ(P)を250μmとした場合の計算例を示す。図6において、実線62がチャンネル番号(波長)に対するMEMSミラーの位置(mm)を示し、破線64がチャンネル番号に対するビーム位置(mm)を示し、一本鎖線66がチャンネル番号に対する隣接チャンネル間ピッチ(μm)を示している。
【0025】
図6からは、回折格子出射後の各波長のビーム中心位置(破線64)が、等間隔に並ぶMEMSミラーの位置(実線62)に対して、ずれてゆく様子が分かる。即ち、回折格子出射後、チャンネル番号=1,2間のビーム間隔が250μmとなるよう、集光レンズ113の焦点距離fLを定めた場合、チャンネル番号=43,44間のビーム間隔は343μm程度まで広がることがわかる。
【0026】
従って、図7に示すように、短波側でチャネル間ピッチが狭く、長波側でチャネル間ピッチが広くなるようにMEMSミラーアレイは設計される。図7に示すMEMSミラーアレイにおいて、各MEMSミラーは、分光方向に沿って配置される。MEMSミラーアレイの構成について、短波側から長波側に進むにつれて、Pa<Pb<Pc<・・・<Pi且つWa<Wb<Wc<・・・<Wiとなり、ミラーピッチ(P)、ミラー幅(W)共に広くなっていくことがわかる。
【0027】
しかしながら、従来の波長選択スイッチの構成では、波長選択スイッチを小型化する際に、以下のような問題があった。
【0028】
図8は、従来の波長選択スイッチの課題を説明するための概念図である。図8(a)に示すように、波長選択スイッチの光学系は、ビームウェスト(BW)がMEMSミラー140上に配置されるように設計される。ここで、図8(a)の光学系を小型化することを検討する。さらなる小型化のために、分散能力がより向上した分光光学系(分光器)112、焦点距離がより短い集光レンズ113を使用する場合、レンズの軸外収差が大きくなり像面湾曲が発生してしまい、ビームウェストを全てのMEMSミラー140上に配置することができない。このため、従来の波長選択スイッチには、小型化の際、チャネルごとの透過帯域の幅が一定にならないという課題があった。
【0029】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、小型化可能であり、且つ、チャネルごとの透過帯域の幅が一定な波長選択スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明は、単一入力ポートおよび複数の出力ポートまたは単一出力ポートおよび複数の入力ポートと、入力ポートから出射される波長多重光信号を波長分離する分光手段と、分光手段で波長分離された光信号を集光する集光レンズと、集光レンズにより集光された複数のチャネルで構成される光信号を反射する複数のMEMSミラーから構成されたMEMSミラーアレイであって、反射された光信号は、集光レンズおよび分光手段を介して出力ポートに結合するMEMSミラーアレイとを備えた波長選択スイッチであって、複数のMEMSミラーのうちの隣接するMEMSミラー間のミラーピッチは、波長分散方向に沿って短波側から長波側へ進むにつれて増加し、複数のMEMSミラーのうち最も短波側のチャネルに対応するMEMSミラー上に入射した信号光の径は、他の全てのチャネルに対応する複数のMEMSミラー上に入射した信号光の径より小さいことを特徴とする。
【0031】
本発明の一実施形態において、複数のMEMSミラーは、ミラー幅のミラーピッチに対する比率が、短波側チャネルよりも長波側チャネルにおいて増大することを特徴とする。
【0032】
本発明の一実施形態において、複数のMEMSミラーは、隣接するMEMSミラーとの間隙が等しくなるようなミラー幅とミラーピッチを有することを特徴とする。
【0033】
本発明の一実施形態において、集光レンズの光軸を基準としたとき、入力または出力ポート端から入力または出力ポートからの光が集光レンズに入射する位置までの距離と、最も短波側のチャネルに対応するMEMSミラーからMEMSミラーからの光が集光レンズに入射する位置までの距離とは、該同一となることを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
小型化可能であり、且つ、チャネルごとの透過帯域の幅が一定な、波長選択スイッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】従来の波長選択スイッチの構成を模式的に示す図である。
【図2】図1に示す波長選択スイッチのMEMSミラーの動作を説明するための図である。
【図3】従来の波長選択スイッチの構成を模式的に示す図である。
【図4】一般的な回折格子の構成を示す拡大断面図である。
【図5】従来の波長選択スイッチの、分光光学系−集光レンズ間の距離LとミラーピッチPとの関係を説明するための図である。
【図6】従来の波長選択スイッチにおける各チャネルに対するMEMSミラーの中央からのビーム位置ずれ量の計算値の一例を示すグラフである。
【図7】図5に示すMEMSミラーアレイの配置例を模式的に示す図である。
【図8】従来の波長選択スイッチの課題を説明するための概念図である。
【図9】本発明の実施形態に係る波長選択スイッチにおけるMEMSミラーアレイの配置例を模式的に説明するための図である。
【図10】本発明の実施形態に係る波長選択スイッチにおけるMEMSミラーアレイの配置例を模式的に説明するための図である。
【図11】本発明の実施例に係る波長選択スイッチの構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0037】
本実施形態に係る波長選択スイッチは、単一入力ポートおよび複数の出力ポートまたは単一出力ポートおよび複数の入力ポートと、入力ポートから出射された波長多重光信号を波長分離する分光手段と、分光手段で波長分離された光信号を集光する集光レンズと、集光レンズにより集光された光信号を反射する複数のMEMSミラーから構成されたMEMSミラーアレイとを備える。MEMSミラーで反射された光信号は、集光レンズおよび分光手段を介して出力ポートに結合する。
【0038】
MEMSミラーアレイにおいて、複数のMEMSミラーは、分光手段によって分光される方向に沿って一列に配列される。図9は、本実施形態に係る波長選択スイッチのMEMSミラーアレイの概略図である。MEMSミラーアレイの構成について、短波側から長波側に進むにつれて、Pa<Pb<Pc<・・・<Pi且つWa<Wb<Wc<・・・<Wiとなり、ミラーピッチ(P)、ミラー幅(W)共に広くなっていくことについては、従来の波長選択スイッチと同様である。
【0039】
本実施形態に係る波長選択スイッチは、MEMSミラーアレイにおいて、図9に示すように、最も短波側のチャネルに対応するMEMSミラーに最も狭いビーム径を有する光信号が入射することを特徴とする。
【0040】
図9に示すように、本実施形態に係る波長選択スイッチにおいて、楕円ビームがMEMSミラーに入射している。楕円ビームの短径をDとすると、短波側から長波側に進むにつれて、各CHに対応するMEMSミラーに入射する各楕円ビームの短径Da,Db,Dc,・・・,Diにおいて、Da<Db<Dc<・・・<Diという関係が成立している。このような関係は、波長選択スイッチの、MEMSミラーアレイ以外の構成要素を調整することで達成される。これについては、後述する。
【0041】
透過帯域の幅(B)とは、透過スペクトルのフラット領域を便宜的に指す用語であり、具体的に定量化するには、「0.5dB透過帯域」,「3dB透過帯域」など、基準となる透過率の低下量を示す必要がある。また、その単位は、CH間隔(例えば、100GHz)に対する透過帯域幅(例えば、70GHz)の比率を示すため、無次元量である。
【0042】
また、ビーム径(D)とは、MEMSミラー上に入射する信号光のビームサイズ直径を便宜的に指す用語である。なお、一般的にガウシアンビームのサイズはビーム強度がビーム中心の13.5%に低下する地点で定義される。
【0043】
MEMS波長選択スイッチの透過帯域の幅をBとすると、B,W,Dの間に
【0044】
【数3】

【0045】
という関係が成立することが知られている(非特許文献1を参照)。ここで、Wはミラー幅を、Pは隣接ミラー間ピッチを、DはMEMSミラー上に照射されるビームの直径を、ηは透過帯域基準値(dB)を、夫々表す。
【0046】
(式3)より、透過帯域の幅(B)は、ミラーピッチ(P)に占めるビーム径(D)の比率(D/P)が小さくなるほど、またミラーピッチ(P)に占めるミラー幅(W)の比率(W/P)が大きくなるほど、広がることがわかる。
【0047】
図9を再び参照する。上述したように、本実施形態に係る波長選択スイッチのMEMSミラーアレイにおいて、各MEMSミラーのミラーピッチ(P)は短波側から長波側に進むにつれて増加し(Pa<Pb<Pc<・・・<Pi)、各MEMSミラーに入射する信号光の径(D)も短波側から長波側に進むにつれて増加する(Da<Db<Dc<・・・<Di)。
【0048】
まず、短波側CHのビーム径とミラーピッチについて注目する。短波側のビーム径(Da)はとりうるビーム径の中で最小値であり、短波側のミラーピッチ(Pa)もとりうるミラーピッチのなかで最小値であるため、短波側におけるビーム径比率(Da/Pa)を考えると、分子も分母も最小値である。次に、長波側CHのビーム径とミラーピッチについて注目する。長波側のビーム径(Di)はとりうるビーム径の中で最大値であり、長波側のミラーピッチ(Pi)もとりうるミラーピッチのなかで最大値であるため、長波側におけるビーム径比率(Di/Pi)を考えると、分子も分母も最大値である。
【0049】
したがって、短波側CHのビーム径比率(Da/Pa)に比較して、長波側CHのビーム径比率(Di/Pi)が、極端に増大したり減少したりすることなく、ビーム径比率のチャネル間ばらつきを最小化できる。これは、透過帯域幅(B)が極端に減少してしまうCHを発生させない効果を意味している。
【0050】
ここで比較のために、図10に示すように、本実施形態とは異なり、最も長波側のCHに対応するMEMSミラーに最も狭いビーム径を有する光信号が入射する場合を検討する。各MEMSミラーのミラーピッチ(P)は短波側から長波側に進むにつれて増加する一方(Pa<Pb<Pc<・・・<Pi)、各MEMSミラーに入射するビームのビーム径(D)は短波側から長波側に進むにつれて減少する(Da>Db>Dc>・・・>Di)。
【0051】
まず、短波側CHのビーム径とミラーピッチについて注目する。短波側のビーム径(Da)はとりうるビーム径の中で最大値であるが、短波側のミラーピッチ(Pa)はとりうるミラーピッチのなかで最小値であるため、短波側におけるビーム径比率(Da/Pa)を考えると、とりうるビーム径比率の中で最大値となってしまう。次に、長波側CHのビーム径とミラーピッチについて注目する。長波側のビーム径(Di)はとりうるビーム径の中で最小値であるが、長波側のミラーピッチ(Pi)はとりうるミラーピッチのなかで最大値であるため、長波側におけるビーム径比率(Di/Pi)を考えると、とりうるビーム径比率の中で最小値となってしまう。
【0052】
したがって、短波側CHのビーム径比率(Da/Pa)は最大化され、長波側CHのビーム径比率(Di/Pi)は最小化されるため、長波側のCHでは透過帯域幅(Bi)を拡大できるものの、短波側のCHで透過帯域幅(Ba)が極端に減少してしまう課題を有する。
【0053】
また、本実施形態に係る波長選択スイッチは、MEMSミラーアレイにおいて、ミラーピッチ(P)に占めるミラー幅(W)の比率(W/P)が、長波側CHにおいて大きくなることを、別の特徴とする。上述したように、透過帯域の幅は、ミラーピッチ(P)に占めるビーム径(D)の比率(D/P)が小さくなるほど、ミラーピッチ(P)に占めるミラー幅(W)の比率(W/P)が大きくなるほど拡大できる。一般的な波長選択スイッチにおいては、ビーム径比率(D/P)はCHによってほとんど変化しないため、ミラー幅比率(W/P)もCHによって変化しないように設計される。ところが、本実施形態に係る波長選択スイッチでは、ビーム径比率(D/P)が短波側CHから長波側CHに向かい微増する場合が多くなる。その場合、長波側CHで帯域が微減してしまうため、その帯域減少分を補うように、長波側でミラー径比率(W/P)を大きくし、全CH領域で透過帯域が減少しないようにすることが望ましい。
【0054】
上記の具体例として、本実施形態に係る波長選択スイッチは、MEMSミラーアレイにおいて、各CHのミラー間ギャップ(間隙)(P−W)が一定であることを特徴とする。上述したように、透過帯域の幅(B)は、ミラーピッチ(P)に占めるミラー幅(W)の比率(W/P)が大きくなるほど拡大できるが、ミラー幅はミラーピッチを超えて広げることはできない。したがって、ミラー幅比率を最大化するためには、各CHのミラー間ギャップ(P−W)を最小化し、CHによらず一定化することが望ましい。最小化可能なギャップ量はミラーの製造方法によって異なるが、ミラー間ギャップを一定にすることは、ミラー作製時の開口部の大きさを一定にできるため、ミラー寸法精度を向上させる効果およびミラー形成時に発生する異物を低減させる効果を有し、ならびに、ミラー製造歩留まりを向上させる効果も有している。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0056】
図11に示すように、本実施例に係る波長選択スイッチ500は、入出力光学系501と、集光レンズ502と、反射型の分光光学系503と、MEMSミラーアレイ504とを備える。
【0057】
入出力光学系501は、少なくとも1つの入力ポートと、複数の出力ポートとから構成される。
【0058】
集光レンズ502は、入出力光学系501からの信号光を屈折させ、反射型の分光光学系503に到達させる。また、集光レンズ502は、反射型の分光光学系503で波長分離された光信号を集光する。集光レンズとして、ダブレットレンズ、トリプレットレンズを使用することができる。
【0059】
反射型の分光光学系503は、集光レンズ502から入射した信号光を回折し、反射する。反射型の分光光学系503として、透過型回折格子と反射ミラーとの組み合わせを使用することができる。
【0060】
MEMSミラーアレイ504は、複数のMEMSミラーが一列に配列されて構成される。MEMSミラーアレイ504の各MEMSミラーは、分離された1波長の光を所定の出力ポートに結合するように反射する。図11に示すように、本実施例に係る波長選択スイッチにおいて、入出力光学系501は、短波側のCHに対応するMEMSミラーより、長波側のCHに対応するMEMSミラーにより近くなるように配置される。
【0061】
本実施例に係る波長選択スイッチ500は、図11に示すような構成を備えることにより、入出力光線の光路と分波された光線のうち短波側の光路とは、光線群の外縁部に配置されることとなる。即ち、集光レンズ502の光軸を基準としたとき、入出力ポートから集光レンズ502までの光路は、短波側のCHに対応するMEMSミラーから集光レンズ502までの光路と対称の位置にある。よって、集光レンズ502の光軸を基準としたとき、入出力ポートからの光路が集光レンズ502に入射する位置までの距離と、最も短波側のCHに対応するMEMSミラーからの光路が集光レンズ502に入射する位置までの距離とは、該同一となる。
【0062】
このような波長選択スイッチの構成により、入出力光線と分波された光線のうち短波側の光線は、集光レンズから受ける球面収差が同程度となり、入出力光線と短波側の分波光線との収差は小さくなる。従って、短波側のCHに対応するMEMSミラーに最も狭いビーム径を有するビームを配置しやすくなる。
【0063】
また本実施例の応用例として、集光レンズやMEMSミラーアレイを傾斜配置させることにより、短波側のCHに対応するMEMSミラーへの入射光線の光路差を小さくし、短波側のCHに対応するMEMSミラーに最も狭いビーム径を有するビームを配置することもできる。
【符号の説明】
【0064】
1 波長選択スイッチ
10 基板
11 コリメータアレイ(入出力光学系)
11−1 入力ファイバ
11−2,11−3,11−4 出力ファイバ
12 分光器〔分光素子(回折格子);分光光学系〕
13 集光レンズ(集光光学系)
14 MEMSミラーアレイユニット(スイッチング素子)

112 分光器
113 集光レンズ
120 ガラス基板
140 MEMSミラー

400 波長選択スイッチ
410 入出力ポートアレイ
420 fθレンズ
430 円筒レンズ
440 4f光学系
441 第1のレンズ
442 回折格子
443 第2のレンズ
450 ミラーアレイ
451 MEMSミラー

500 波長選択スイッチ
501 入出力光学系
502 集光レンズ
503 反射分光光学系
504 MEMSミラーアレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一入力ポートおよび複数の出力ポートまたは単一出力ポートおよび複数の入力ポートと、
前記入力ポートから出射される波長多重光信号を波長分離する分光手段と、
前記分光手段で波長分離された光信号を集光する集光レンズと、
前記集光レンズにより集光された複数のチャネルで構成される光信号を反射する複数のMEMSミラーから構成されたMEMSミラーアレイであって、反射された光信号は、前記集光レンズおよび前記分光手段を介して前記出力ポートに結合するMEMSミラーアレイと
を備えた波長選択スイッチであって、
前記複数のMEMSミラーのうちの隣接するMEMSミラー間のミラーピッチは、波長分散方向に沿って短波側から長波側へ進むにつれて増加し、
前記複数のMEMSミラーのうち最も短波側のチャネルに対応するMEMSミラー上に入射した信号光の径は、他の全てのチャネルに対応する複数のMEMSミラー上に入射した信号光の径より小さいことを特徴とする波長選択スイッチ。
【請求項2】
前記複数のMEMSミラーは、ミラー幅のミラーピッチに対する比率が、短波側チャネルよりも長波側チャネルにおいて増大することを特徴とする請求項1に記載の波長選択スイッチ。
【請求項3】
前記複数のMEMSミラーは、隣接するMEMSミラーとの間隙が等しくなるようなミラー幅とミラーピッチを有することを特徴とする請求項1に記載の波長選択スイッチ。
【請求項4】
前記集光レンズの光軸を基準としたとき、前記入力または出力ポート端から当該入力または出力ポートからの光が前記集光レンズに入射する位置までの距離と、最も短波側のチャネルに対応するMEMSミラーから当該MEMSミラーからの光が前記集光レンズに入射する位置までの距離とは、該同一となることを特徴とする請求項1に記載の波長選択スイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−88618(P2013−88618A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229068(P2011−229068)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】