説明

波長選択光クロスコネクト装置

【課題】波長選択光クロスコネクト装置において、多数の波長選択スイッチやMEMS等の可動部品を用いることなく、小型で実装面積を小さくし、消費電力を削減すること。
【解決手段】波長選択光クロスコネクト装置は、第1〜第Mチャンネルの波長多重光が加えられ、夫々を波長分散素子14によって分散し、空間変調素子15に伝える。空間変調素子15ではコントローラ17からの制御により任意の領域に入射した光を任意の出力用の領域に出射して第2の空間変調素子16に入射する。第2の空間変調素子16はN個の帯状の領域から波長合成素子に光を入射して夫々のビーム毎に波長を合成し、複数のポートから出力する。これによって入力方路Rin1〜RinMに入力されたMチャンネルの波長多重光を各チャンネルの各波長毎に経路を選択して出力方路Rout1〜RoutNより出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光通信分野における光ネットワーク網の分岐点に相当する光ノードに設けられる複数の入出力方路を有する波長選択光クロスコネクト装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日の高度情報通信社会を支える高速大容量光ネットワークには、波長多重光通信技術が利用されている。光ネットワーク網の分岐点に相当する光ノードでは、再構成可能なアド、ドロップ機能を有するROADM(Reconfigurable Optical Add Drop Multiplexer)装置の導入が進められている。ROADM装置を実現するため、任意の波長の光を任意の方向に切り換える波長選択光クロスコネクト装置が注目されている。現在の波長選択光クロスコネクト装置としては、特許文献1〜3に示すように入力方路数Mが1、出力方路数Nが2以上、又は入力方路数Mが2以上、出力方路数Nが1のものが利用されている。今後の大容量ネットワークを実現するためにはノード処理能力の向上が求められ、入力方路数(M)及び出力方路数(N)がいずれも複数で、入力方路の任意の複数の波長の光を選択して出力方路に出力することができる波長選択光クロスコネクト装置が求められている。
【0003】
従来の方法では、特許文献1〜3に示すように入力方路に接続されるM個の1×N波長選択スイッチ(Wavelength Selective Switch、WSSともいう)と、その各出力を夫々入力とするN個のM×1波長選択スイッチとを用いて、M×Nの切換えを行う波長選択光クロスコネクト装置を実現することができる。図1は入力方路数Mが4、出力方路数Nが6の場合の波長選択光クロスコネクト装置の一例を示す図である。本図において、波長選択光クロスコネクト装置は入力方路Rin1〜Rin4に接続された4個の1×6の波長選択スイッチ(WSS)110−1〜110−4を有している。各波長選択スイッチ110−1〜110−4の出力は夫々6個の4×1の波長選択スイッチ120−1〜120−6に入力され、その選択出力が出力方路Rout1〜Rout6より出力される。これによって波長選択光クロスコネクト装置が実現できる。
【0004】
しかしながらこの波長選択光クロスコネクト装置は(N+M)個の波長選択スイッチを使用する必要があった。波長選択スイッチは複雑な構造であるため、光伝送実装ボードに搭載が困難なほど、装置面積が大きくなり、装置の価格が高額になる。図1の構成では多数の波長選択スイッチを使用するので、故障率が高く、伝送信頼度が低いという欠点がある。
【0005】
そこで、少ない部品点数で小型の波長選択光クロスコネクト装置を実現するため、特許文献1,3ではMEMS(Micro Electric Mechanical System)微小ミラーの傾斜を利用した複数の波長選択スイッチを利用することを提案している。
【0006】
又特許文献4にはLCOS(Liquid Crystal On Silicon)液晶素子を用いた波長選択スイッチを光通信に適用した波長選択光クロスコネクト装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−147804号公報
【特許文献2】特開2008−160401号公報
【特許文献3】特開2009−33543号公報
【特許文献4】USP7,787,720
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら従来の方式では入力方路数Mと出力方路数Nの和、即ちM+N個の波長選択スイッチを使用するので、方路数が多くなればなるほど波長選択スイッチ数が多く高価になり、故障率も増加して伝送信頼度が低下する。又MEMSなどのミラーを機械的に駆動制御する場合には、本質的に振動や衝撃などの外乱に弱いという欠点があった。
【0009】
又特許文献4に示されているLCOS素子は1つの入力ビームに対してLCOS素子のパネル面を大きく占有するため、多数の入力ビームに対して適用することができないという問題点があった。
【0010】
本発明はこのような従来の問題点に着目してなされたものであって、多数の波長選択スイッチやMEMS等の可動部品を用いることなく、小型で実装面積を小さくし、伝送信頼性を向上させたM入力N出力(M,Nは2以上の自然数)の波長選択光クロスコネクト装置を実現することを目的とする。
【0011】
尚複数の入力及び出力を有する波長選択光クロスコネクト装置自体を波長選択スイッチ装置と称している文献もあるが、本発明ではこれを波長選択光クロスコネクト装置として説明する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題を解決するために、本発明の波長選択光クロスコネクト装置は、第1〜第Mチャンネル(Mは2以上の自然数)の波長多重光信号がM個の入力方路に加えられ、夫々の入力の波長多重光信号について任意の少なくとも1つの波長の信号を選択してN個(Nは2以上の自然数)の波長多重光信号とし、N個の出力方路より出力する波長選択光クロスコネクト装置であって、入射されたMチャンネルの入射光の夫々を入射光の偏光成分に応じて分離して第1,第2の光ビームとし、その一方の偏光方向を回転させることによって偏光方向を揃え2M本の光ビームとする第1の偏波ダイバーシティ部と、前記第1の偏波ダイバーシティ部を通過した2M本の波長多重光を夫々その波長に応じて空間的に分散させる第1の波長分散素子と、波長に応じて展開されたx軸方向とこれに垂直なy軸方向から成るxy平面に展開された2M本の入力光を受光する位置に配置され、xy平面上に格子状に配置された多数の画素を有し、y軸方向に連続する複数画素の位相を変化させることによってその画素の屈折率特性を変化させ各チャンネルの各波長毎に反射方向を変化させる第1の空間変調素子と、波長に応じて展開されたx軸方向とこれに垂直なy軸方向から成るxy平面に展開された2N本の前記第1の空間変調素子からの入力が加えられた光を受光する位置に配置され、xy平面上に格子状に配置された多数の画素を有し、y軸方向に連続する複数画素の位相を変化させることによってその画素の屈折率特性を変化させ各チャンネルの各波長毎に反射方向を変化させる第2の空間変調素子と、前記第2の空間変調素子の2N本の空間的に分散した波長の光を2N本の波長多重光に合成する波長合成素子と、前記波長合成素子で合成された2N本の反射光のうち同一チャンネルの光の一方の偏光方向を回転させて2Nチャンネルの光を夫々Nチャンネルに合成する第2の偏波ダイバーシティ部と、前記第1,第2の空間変調素子のxy方向に配列された各画素の電極を駆動することによって各波長毎に位相特性を変化させ、各波長毎に異なった方向に光を反射する空間変調素子駆動部と、を具備するものである。
【0013】
ここで前記第1,第2の空間変調素子のビームスイッチング機能は、液晶の屈折率を三角波状に変化させることによって実現するようにしてもよい。
【0014】
ここで前記第1,第2の空間変調素子は、LCOS素子としてもよい。
【0015】
ここで前記第1,第2の空間変調素子は、2次元液晶アレイ素子としてもよい。
【0016】
ここで前記第1,第2の空間変調素子は、液晶駆動モードをVA方式としてもよい。
【0017】
ここで前記第1,第2の空間変調素子は、液晶駆動モードをIPS方式としてもよい。
ものである。
【発明の効果】
【0018】
以上詳細に説明したように本発明によれば、Mチャンネルの入力光を偏波ダイバーシティ部によって2M本の平行な光ビームとして波長分散素子に加え、波長分散素子で波長を分散させて第1の空間変調素子に入力している。そして第1の空間変調素子では同一チャンネルの波長毎に異なった方向に入射光を反射させ、第2の空間変調素子に導く。第2の空間変調素子では同一チャンネルの複数の波長の光が同一方向になるように反射方向を制御し、第2の偏波ダイバーシティ部を通過してNチャンネルの出力ビームとし、波長を合成して出力している。このため複数入力の各波長帯の信号を任意の出力ポートの任意の位置に移動させてクロスコネクト装置を実現することができる。この場合には第1,第2の空間変調素子を用いることによって振動や衝撃の影響を受けることなく柔軟な光ネットワークを形成することができる。又波長の帯域を任意に変更することができ、柔軟性の高いクロスコネクト装置を実現することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は入力方路数4、出力方路数6を有する従来の波長選択光クロスコネクト装置の一例を示すブロック図である。
【図2】図2は本発明の第1の実施の形態による波長選択光クロスコネクト装置の一例を示すブロック図である。
【図3】図3は本発明の第1の実施の形態による波長選択光クロスコネクト装置の主要部の構成を示す斜視図である。
【図4A】図4Aは本発明の第2の実施の形態による波長選択光クロスコネクト装置のy軸方向から見た光学的な配置を示す図である。
【図4B】図4Bは第2の実施の形態の2つのLCOS素子の光学的な配置を示す図である。
【図5A】図5Aは本実施の形態による波長選択器に用いられるLCOS素子を示す図である。
【図5B】図5Bは本実施の形態に用いられるLCOS素子の垂直配向(VA)モードの液晶材料の電圧を印加していないときの液晶内の配向状態を示す図である。
【図5C】図5Cは本実施の形態に用いられるLCOS素子の垂直配向モードでの電圧を印加したときの液晶内の配向状態を示す図である。
【図6A】図6Aは本実施の形態に用いられるLCOS素子38の正面と受光領域を示す図である。
【図6B】図6BはLCOS素子38の受光領域R1の詳細を示す拡大図である。
【図7】図7は本発明の第2の実施の形態によるLCOS素子40の受光領域を示す図である。
【図8】図8は本発明の第2の実施の形態によるLCOS素子及び従来のLCOS素子のy軸方向の位相角の変化を示すグラフである。
【図9】図9は本発明の第3の実施の形態による波長選択光クロスコネクト装置のy軸方向から見た光学的な配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施の形態)
図2は本発明の基本構成による波長選択光クロスコネクト装置1Aの構成図、図3はその主要部を示す斜視図である。波長選択光クロスコネクト装置1AはM個(Mは2以上の自然数)の入力方路Rin1〜RinMと、N個(Nは2以上の自然数)の出力方路Rout1〜RoutNを有している。ここで入力方路Rin1に入力される第1チャンネルの光信号はλ11〜λL1(Lは2以上の自然数)の光信号が多重化された波長多重光信号(以下、WDM信号という)とする。入力方路Rin2に入力される第2チャンネルの光信号も同様に波長λ12〜λL2の光信号が多重化されたWDM信号とする。一般的に表現すると、入力方路Rin(j
)に入力される第jチャンネルのWDM信号は、波長λ1j〜λLjの光信号が多重化されたWDM信号(j=1〜M)とする。ここで第1サフィックス(1〜L)が同一のものは同一波長を表し、第2サフィックス(1〜M)はチャンネルを表す。このMチャンネルのWDM信号は光ファイバ11−1〜11−Mを介してコリメートレンズ12−1〜12−Mから成るコリメートレンズアレイに入力される。又各コリメートレンズ12−1〜12−Mの出力側には偏波ダイバーシティ部13が設けられる。偏波ダイバーシティ部13は各入力ポートの波長多重光を夫々s偏光成分とp偏光成分の第1,第2の光ビームに分離する偏光ビームスプリッタと、各入力ポートの分離した光ビームのいずれか一方の偏光方向を他方の偏光方向に変換する波長板とを有しており、各チャンネルのWDM光を夫々2本の平行な光ビームとするものである。各チャンネルの夫々2本の光ビームは波長分散素子14に与えられる。波長分散素子14は偏波ダイバーシティ部13からの2Mの入力光について波長に応じて光を異なった方向に分散するものであり、例えば回折格子によって実現することができる。波長分散素子14からの出力は集光手段等を介して第1の空間変調素子15に導かれる。第1の空間変調素子15は各チャンネル、各波長の分散された光を受光し、各チャンネル、各波長毎に第2の空間変調素子16の1〜Nまでの任意のチャンネルに出力するように方向を変化させて反射する素子である。又第2の空間変調素子16は第1〜第Nチャンネルの夫々について2本の各波長に分散された夫々の異なった方向からの反射光を所定方向に揃えて出力するための方向変換を行う素子である。これらの第1,第2の空間変調素子15,16にはコントローラ17が接続されている。そして第2の空間変調素子16からの出力は適当な集光素子を介して波長合成素子18に与えられる。波長合成素子18は2N本の異なった波長成分を1つの波長成分に合成して同一方向に集光して出力するもので、例えば回折格子によって実現される。又波長合成素子18の出力側には偏波ダイバーシティ部19が設けられる。偏波ダイバーシティ部19は波長合成素子で合成された2N本の反射光のうち同一チャンネルの光の一方の偏光方向を回転させて2Nチャンネルの光を夫々Nチャンネルに合成するものである。偏波ダイバーシティ部19の出力側にコリメートレンズ20−1〜20−N及び出力ファイバ21−1〜21−Nが接続される。これらは入力用の光ファイバ11−1〜11−Mやコリメートレンズアレイ12−1〜12−M及び偏波ダイバーシティ部13と対称な構造を有している。
【0021】
次に空間変調素子15,16について説明する。第1の実施の形態において、入射光を波長に応じてxz平面上で分散させ、帯状の光として空間変調素子15に入射したとき、その入射領域は図3に示す長方形状の領域R1〜RMであるとする。そして第1の実施の形態の波長選択光スイッチ装置では、各チャンネルの波長毎に反射させる方向を選択し、空間変調素子16のR1〜RNのいずれかの入射領域の同一の波長帯部分に入射する。そして第2の空間変調素子16では各チャンネルの波長帯毎に異なった方向からの光を入射し、これを同一方向に反射することによって波長合成素子18に出力する。こうすれば第1,第2の空間変調素子15,16の反射方向を制御することによって、任意の波長の光を選択することができる。コントローラ17はxy平面の光の反射方向を選択波長に合わせて決定する。コントローラ17は空間変調素子15,16のxy方向に配列された各画素の電極を駆動することによってx軸及びy軸方向の所定の位置の画素の特性を制御する空間変調素子駆動部を構成している。尚図3では同一チャンネルの2本の光ビームをまとめて記載しているが、実際には2本の平行な光ビームの反射方向が同時に切換えられてスイッチングされる。
【0022】
(第2の実施の形態)
次に本発明のより具体的な実施の形態について説明する。図4Aは第2の実施の形態による8入力8出力(M=N=8)の波長選択光クロスコネクト装置1Bの主要部の構成を示す図である。本図においてy軸方向に8本の光ファイバ31が並列に配置されており、各光ファイバ31には夫々コリメートレンズアレイ32のコリメートレンズが接続される。そしてその出力側には偏波ダイバーシティ部33が配置され、更にその光軸上にはミラー34が設けられる。そしてミラー34で反射された光を受光する位置には、波長分散素子である回折格子35が設けられる。回折格子35は第1の実施の形態の波長分散素子14と同一の機能を有しており、y軸方向集光レンズ36、x軸方向集光レンズ37を介して第1のLCOS素子38に与えられる。LCOS素子38は第1の実施の形態の第1の空間変調素子15に対応するものである。このLCOS素子38に対向する位置にはx軸方向集レンズ39を介して第2のLCOS素子40が設けられる。LCOS素子40は第1の実施の形態の第2の空間変調素子16に対応するものである。LCOS素子40で反射された光はx軸方向集レンズ41、y軸方向集光レンズ42を介して波長合成素子である回折格子43に与えられる。回折格子43は各方向の波長分散された光を16本の光ビームに合成するものであり、その出力はミラー44を介して偏波ダイバーシティ部45、コリメートレンズアレイ46に与えられる。コリメートレンズアレイ46には出力用の光ファイバ47が接続されている。尚、偏波ダイバーシティ部33,45は第1の実施の形態の偏波ダイバーシティ部13,19に対応するものである。
【0023】
次に第2の実施の形態による波長選択光クロスコネクト装置1Bに用いられるLCOS素子38,40の詳細な構成について説明する。LCOS素子38,40は各画素の背面に液晶変調ドライバを内蔵しているため、画素数を多くすることができ格子状の多数の画素から構成することができる。図5AはLCOS素子38,40を示す概略図であり、光が入射する面からz軸に沿ってAR層51,透明共通電極52,液晶53,多数の背面反射電極54を含むアライメント層55及びシリコン層56を積層して構成されている。
【0024】
図6Aは第2の実施の形態によるLCOS素子38の正面図である。ここで波長分散方向を図6Aに示すx軸方向とすると、夫々の波長に対してy軸方向に並んだ多数の画素が対応する。LCOS素子38にはチャンネル毎に、及び波長毎に異なる位置に光ビームが入射する。即ち入射領域Rjに加わる光はWDM光を波長帯λij(i=1〜L,j=1〜M)に応じてxy平面に展開した光である。第2の実施の形態では入力ポート数M及び出力ポート数Nをいずれも8としている。各入力ポートで2本のビームが回折格子35で波長毎に分散され、LCOS素子38に加わる。例えば第1ポートのs偏光,p偏光の入射光は波長分散されて図6Aに示す領域R1に加わる。同様にして第2ポートから第8ポートのs偏光及びp偏光の夫々の入射光は、波長分散されて夫々領域R2〜R8に加わる。図6Bは領域R1を拡大して示しており、その上部にはs偏光成分、下方にはp偏光成分の波長分散されて夫々波長λ11〜λL1の光が異なった位置に入射する。ここでLCOS素子38は対角が0.7インチの素子(16.127×9.071mm)を用いるものとし、x方向に1920素子、y方向に1080画素が格子状に配列された素子とする。このときy軸方向のポート位置の2本の入力光を波長分散したλij(i=1〜L,j=1〜8)についてはy軸方向に135ピクセル(pxl)が対応することとなる。更に図6Bに示すように各偏光成分の光ビームについては、夫々67のピクセルが対応することとなる。設定部57及びドライバ58は空間変調素子駆動部を構成しており、これらは入射した光の出射方向を制御する。
【0025】
又LCOS素子40についても出力ポート数Nが8であるため、図7に示すように受光領域R1〜R8が設定されている。この場合も設定部57及びドライバ58によって入射した光の出射方向が制御される。
【0026】
次にLCOS素子のビーム偏光方式について説明する。従来結晶素子の屈折率分布を制御する方法として、特許文献4に示されるように、光学的位相アレイ(Optical phase array:OPA方式)が知られている。この方式では図8の符号Aに示すように、位相変調量2πradで周期的にのこぎり波のように屈折率分布を形成し、回折効果でビームスイッチング偏光を行っている。OPA方式では高いビーム回折効率を得るためにはビーム径を大きくし、のこぎり波状の屈折率分布を繰り返す必要があった。
【0027】
これに対して本実施の形態では、液晶ビーム偏向方式(Liquid crystal beam deflection、以下LCBD法という)を用いている。LCBD法では図8に符号Bで示すように位相の変調量を大きくすることで小さい空間内でビーム屈折を行うことができる。従って図6A,図7に示すように1つのLCOS素子の面を複数の領域R1〜R8に分割して夫々の領域に光ビームを照射しても、各領域について波長毎に異なった方向に光を反射させることができる。又LCBD法ではOPA法とは異なってのこぎり波状の位相変化をLCOS面上に形成しないため、フライバック効果がなく、高次回折光の発生が少ないという特徴がある。LCBD方式を用いる場合には必要な屈折率勾配を得るためにOPA法との液晶セルの厚さ(1〜10μm)に比べて液晶セルの厚さを5〜200μmと厚くすることが必要となる。
【0028】
第2の実施の形態では図6Aに示す領域R1で受光したある波長の光を、例えば第2のLCOS素子40の領域R8に向かうようにスイッチングする場合には、最大の偏向角が必要となる。第2の実施の形態では図4Bに示すように第1のLCOS素子38と第2のLCOS素子40とはレンズを介して100mmの間隔がある。この場合に約4.6°の偏向角が必要となる。
【0029】
第2の実施の形態によるLCOS素子38,40には垂直配向(VA)方式の液晶材料で屈折率異方性0.2の液晶材料を使用する。これにより垂直に入射した光を角度θだけ回折させて反射するものとする。角度θは結晶セル厚dとすると次式で示される。
θ=2d・(dn/dy)
ここで結晶セル厚dを108μmとすると、ビーム偏向角θは約0.09(rad)、角度表示では最大4.9°であり、領域R1で受光した光を第2のLCOS素子40の領域R8に向かうようにスイッチングする場合に必要なビーム偏向角4.6°を上回る偏向角を得ることができる。
【0030】
そのため、LCOS素子38のある波長の光λijが入射するy軸方向の多数の画素に異なった電圧を与えることによって、図8に示すように三角波状の位相シフト関数で示される屈折率の変化を実現することができる。このように屈折率を変化させることで反射方向を異ならせることができる。ここで位相シフト関数を適宜選択することによって入射光の屈折角度を夫々の波長毎に異なった方向に変化させることができるので、LCOS素子38,40は特性可変型の回折格子として考えることができる。従って透明電極52と背面反射電極54との間に電圧を印加することによって各波長成分の回折角を独立に制御し、特定波長の入力光を所望の方向に反射させたり、他の波長成分の光を不要な光として回折させ、出射されない方向に光を反射させることができる。
【0031】
こうすれば例えば図6Aに示すLCOS素子38のλ11の入射光を図7に示す第2のLCOS素子40の領域R8の波長λ18の位置にスイッチングしたり、LCOS素子38のλ31の入射光をLCOS素子40の領域R7のλ37に入射させることができる。但し第2のLCOS素子40の夫々の受光領域には同一波長の複数の光が同一位置に入射されることのないように、あらかじめ設定部57によって制御されているものとする。そして同一波長λ11〜λ18の16本の入射光は第2のLCOS素子でもλ11〜λ18のいずれかの位置に入射するものとし、他の領域には入射しない。そうすれば第2のLCOS素子で入射した光を全て同一方向に反射させるように制御することができ、回折格子44で合成して16本の光ビームに変換することができる。
【0032】
(第3の実施の形態)
次に本発明の第3の実施の形態について説明する。図9は第3の実施の形態による8入力8出力(M=N=8)の波長選択光クロスコネクト装置1Cの主要部の構成を示す図である。本図においてy軸方向に8本の光ファイバ61が並列に配置されており、各光ファイバ61には夫々コリメートレンズアレイ62のコリメートレンズが接続される。そしてその出力側には偏波ダイバーシティ部63が配置され、更にその光軸上には拡大プリズム64が設けられる。そして拡大プリズム64で拡大された光を受光する位置には、波長分散素子である回折格子65が設けられる。回折格子65は第1の実施の形態の波長分散素子14と同一の機能を有しており、y軸方向集光レンズ66を介してLCOS素子67に与えられる。LCOS素子67は第1の実施の形態の第1の空間変調素子15に対応するものである。このLCOS素子67に対向する位置にはx軸方向集光レンズ66,68を介してLCOS素子69が設けられる。LCOS素子69は第1の実施の形態の第2の空間変調素子16に対応するものである。LCOS素子69で反射された光はx軸方向集光レンズ68を介して波長合成素子である回折格子70に与えられる。回折格子70は各方向の波長分散された光を16本の光ビームに合成するものであり、その出力は拡大プリズム71を介して偏波ダイバーシティ部72、コリメートレンズアレイ73に与えられる。コリメートレンズアレイ73には出力用の光ファイバ74が接続されている。尚、偏波ダイバーシティ部63,72は第1の実施の形態の偏波ダイバーシティ部13,19に対応するものである。
【0033】
この実施の形態では2つのLCOS素子67,69には第2の実施の形態と同様に0.7インチのLCOS素子を用い、解像度は1920×1080画素とする。また2つのLCOS素子の間隔を200mmとしている。この実施の形態では液晶駆動モードは広視野特性に優れたIPS(In-Plane Switching)モードを用いる。又屈折率異方性0.2の液晶材料を使用し、ここではLCOS間隔を2倍としているため、ビーム偏向角は同一のLCOS素子を用いたとしても第2の実施の形態に比べて2.3°の偏向角で足りる。従ってLCOS素子67,69の厚さを第2の実施の形態のLCOS素子38,40の1/2とすることができ、結晶セル厚を54μmとした。この実施の形態でも従来例に比べて実装効率に優れ、小型に配置することができる。
【0034】
尚前述した各実施の形態では2つのLCOS素子を用いているが、1つのLCOS素子の領域を2分割して第1,第2の領域とし、適当なミラーを用いることで第1の領域を第1のLCOS素子、第2の領域を第2のLCOS素子として使用することができる。こうすれば1つのLCOS素子を用いて波長選択光クロスコネクト装置を実現することができる。
【0035】
また第2,第3の実施の形態では空間変調素子としてLCOS素子38,40,67,69について説明しているが、他の例として、LCOS構造ではない反射型の2次元電極アレイを有する液晶素子を用いることができる。LCOS素子の場合には画素の背面に液晶ドライバが内蔵されているが、2次元電極アレイ液晶素子は液晶変調用のドライバが素子の外部に装備されている。その他の構成はLCOS素子と同様であり、前述したLCBD法による偏向の制御を実現することができる。
【0036】
この実施の形態では格子状に多数の画素を有する空間変調素子を用いているため、各チャンネル帯の波長の幅を任意に設定することができる。従って特定の波長帯の幅が広ければ図6Aや図7のx軸方向の画素数を多くしたり、波長帯が狭い場合にはx軸方向の画素数を少なくするなど、入力光の波長帯の幅に応じて画素を適宜設定することができる。
【0037】
又この実施の形態では入力信号をWDM信号光としているが、WDM信号光に限らず多数の波長が重畳された光についてこの発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は光ネットワークの分岐点に設けられ多数のWDM光を波長毎にスイッチングする光ノードの波長選択光クロスコネクト装置として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0039】
1A,1B,1C 波長選択光クロスコネクト装置
12−1〜12−M,20−1〜20−N コリメートレンズ
13,19,33,45,63,72 偏波ダイバーシティ部
26,37,39,41,42,66,68 レンズ
14 波長分散素子
15,16 空間変調素子
17 コントローラ
18 波長合成素子
31,48,61,74 光ファイバ
32,47 コリメートレンズアレイ
35,43,65,70 回折格子
38,40,67,69 LCOS素子
57 設定部
58 ドライバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1〜第Mチャンネル(Mは2以上の自然数)の波長多重光信号がM個の入力方路に加えられ、夫々の入力の波長多重光信号について任意の少なくとも1つの波長の信号を選択してN個(Nは2以上の自然数)の波長多重光信号とし、N個の出力方路より出力する波長選択光クロスコネクト装置であって、
入射されたMチャンネルの入射光の夫々を入射光の偏光成分に応じて分離して第1,第2の光ビームとし、その一方の偏光方向を回転させることによって偏光方向を揃え2M本の光ビームとする第1の偏波ダイバーシティ部と、
前記第1の偏波ダイバーシティ部を通過した2M本の波長多重光を夫々その波長に応じて空間的に分散させる第1の波長分散素子と、
波長に応じて展開されたx軸方向とこれに垂直なy軸方向から成るxy平面に展開された2M本の入力光を受光する位置に配置され、xy平面上に格子状に配置された多数の画素を有し、y軸方向に連続する複数画素の位相を変化させることによってその画素の屈折率特性を変化させ各チャンネルの各波長毎に反射方向を変化させる第1の空間変調素子と、
波長に応じて展開されたx軸方向とこれに垂直なy軸方向から成るxy平面に展開された2N本の前記第1の空間変調素子からの入力が加えられた光を受光する位置に配置され、xy平面上に格子状に配置された多数の画素を有し、y軸方向に連続する複数画素の位相を変化させることによってその画素の屈折率特性を変化させ各チャンネルの各波長毎に反射方向を変化させる第2の空間変調素子と、
前記第2の空間変調素子の2N本の空間的に分散した波長の光を2N本の波長多重光に合成する波長合成素子と、
前記波長合成素子で合成された2N本の反射光のうち同一チャンネルの光の一方の偏光方向を回転させて2Nチャンネルの光を夫々Nチャンネルに合成する第2の偏波ダイバーシティ部と、
前記第1,第2の空間変調素子のxy方向に配列された各画素の電極を駆動することによって各波長毎に位相特性を変化させ、各波長毎に異なった方向に光を反射する空間変調素子駆動部と、を具備する波長選択光クロスコネクト装置。
【請求項2】
前記第1,第2の空間変調素子のビームスイッチング機能は、液晶の屈折率を三角波状に変化させることによって実現する請求項1記載の波長選択光クロスコネクト装置。
【請求項3】
前記第1,第2の空間変調素子は、LCOS素子である請求項1記載の波長選択光クロスコネクト装置。
【請求項4】
前記第1,第2の空間変調素子は、2次元液晶アレイ素子である請求項1記載の波長選択光クロスコネクト装置。
【請求項5】
前記第1,第2の空間変調素子は、液晶駆動モードがVA方式である請求項3記載の波長選択光クロスコネクト装置。
【請求項6】
前記第1,第2の空間変調素子は、液晶駆動モードがIPS方式である請求項3記載の波長選択光クロスコネクト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−98912(P2013−98912A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242410(P2011−242410)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(591102693)サンテック株式会社 (57)
【Fターム(参考)】