説明

波長選択性ホログラムの作製方法および波長選択性ホログラムの作製装置

【課題】ホログラムを明瞭に多重記録する。
【解決手段】第1光151,152および第2光161,162に対して感光する感光性材料層120を形成する層形成工程と、第1光151,152および第2光161,162を同時に同一の入射角度で感光性材料層120に入射させて、第1光151,152による露光時間と第2光161,162による露光時間とを同一にして、第1ホログラムおよび第2ホログラムを含むホログラム130を感光性材料層120に記録する記録工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長選択性ホログラムの作製方法およびその作製装置に関し、特に、体積型ホログラムである波長選択性ホログラムの作製方法およびその作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ホログラフィ技術を用いた回折光学素子およびディスプレイ装置が開発されている。それらの作製方法として、ホログラム記録媒体中にレーザ光を直接照射してホログラムを記録する方法、および、所定のホログラムパターンが形成されたマスタホログラムにレーザ光を照射することによりマスタホログラムから発生する再生光を利用してホログラムを記録する方法などがある。前者は、主にマスタホログラムのホログラムパターンを形成する際、または、作製されるホログラムの数量が少ない場合に適用される作製方法である。後者は、マスタホログラムに形成されたホログラムパターンを転写することができるため、ホログラムの量産時などに適用される作製方法である。
【0003】
BD(Blu-ray Disc)またはDVD(Digital Versatile Disc)などに用いられる回折光学素子およびディスプレイ装置などにホログラフィ技術を用いる場合、異なる波長帯域の光を同一の所望の方向に回折させるため、ホログラム記録媒体中の同一箇所に、波長の異なる光による複数のホログラムを多重記録させる必要がある。多重記録されたホログラムは、特定の再生条件でマスタホログラムから発生した再生光のみを回折する波長選択性を有し、波長選択性ホログラムとして機能する。
【0004】
ホログラフィ技術を利用した転写方法および装置を開示した先行文献として、特許文献1がある。特許文献1に記載された転写方法においては、マスタホログラム記録時に、複数のホログラムパターンをそれぞれ異なる記録条件で記録した後、転写時に、マスタホログラムに形成された各々のホログラムパターンをそれぞれ異なる再生条件で一つずつ再生している。このようにして、クロストークのない明瞭な再生光を用いてホログラムを記録材料中に転写している。
【0005】
上記の方法においては、波長選択性ホログラムを記録する際に、それぞれ波長を変化させた再生条件で多重記録された個々のホログラムを再生することにより、転写用のホログラム記録媒体中において干渉縞に対応した露光を行なうこととなる。
【0006】
ホログラム記録媒体としては、フォトポリマ材料が用いられる。フォトポリマ材料に干渉光を露光させることにより、強い光を受けた部分ではモノマーが集合および重合して屈折率が変化する。その結果、干渉縞の明暗によってフォトポリマ中に屈折率差が生じてホログラムとして記録される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−281584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多重記録されたホログラムを転写する際に、波長の異なる再生光を順次、ホログラム記録媒体に入射させると、先に記録されたホログラムの影響により、後に記録されるホログラムが不明瞭となる。具体的には、先に記録されたホログラムにより、ホログラム記録媒体であるフォトポリマ中において屈折率変調が生じる。そのため、次にホログラムを記録する際に、再生光がフォトポリマ中に生じた屈折率変調により散乱される。その結果、後に記録されたホログラムは、不明瞭なホログラムとなる。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、ホログラムを明瞭に多重記録することができる、波長選択性ホログラムの作製方法および波長選択性ホログラムの作製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に基づく波長選択性ホログラムの作製方法は、第1の波長を有する第1光および第1の波長とは異なる第2の波長を有する第2光をそれぞれ感光性材料層中で干渉させた際に、第1光を回折して第2光を回折せずに透過する第1ホログラムと、第2光を回折して第1光を回折せずに透過する第2ホログラムとを含む、波長選択性ホログラムの作製方法である。波長選択性ホログラムの作製方法は、第1光および第2光に対して感光する感光性材料層を形成する層形成工程と、第1光および第2光を同時に同一の入射角度で感光性材料層に入射させて、第1光による露光時間と第2光による露光時間とを同一にして、第1ホログラムおよび第2ホログラムを含むホログラムを感光性材料層に記録する記録工程とを備える。
【0011】
本発明の一形態においては、第1光および第2光は、第1の波長を有する光および第2の波長を有する光が照射されることにより、第1の波長を有する光および第2の波長を有する光のそれぞれに複数の回折光を発生するマスタホログラムに、第1の波長を有する光および第2の波長を有する光が照射されることにより生成される。また、記録工程において、複数の回折光からなる第1光同士を干渉させ、かつ、複数の回折光からなる第2光同士を干渉させることにより、感光性材料層を露光する。
【0012】
好ましくは、マスタホログラムとして、マスタホログラムにより生成される第1光および第2光の各々の回折効率が、第1光および第2光の各々の波長を有するマスタホログラムに照射される光の各々の出力に対応するように、記録されたホログラムを用いる。
【0013】
本発明に基づく波長選択性ホログラムの作製装置は、第1の波長を有する第1光および第1の波長とは異なる第2の波長を有する第2光をそれぞれ感光性材料層中で干渉させた際に、第1光を回折して第2光を透過する第1ホログラムと、第2光を回折して第1光を透過する第2ホログラムとを含む、波長選択性ホログラムの作製装置である。波長選択性ホログラムの作製装置は、第1の波長を有する光を出射する第1光源と、第2の波長を有する光を出射する第2光源とを備える。また、波長選択性ホログラムの作製装置は、第1光源から出射された光および第2光源から出射された光の光軸を揃える光軸調整部と、第1光および第2光を感光性材料層に対して同一方向から入射させる入射方向調整部と、第1光および第2光による感光性材料層の露光時間を同時に調節する露光調節部とを備える。
【0014】
本発明の一形態においては、波長選択性ホログラムの作製装置は、第1光源および第2光源から光が照射されることにより、第1の波長を有する光および第2の波長を有する光のそれぞれに複数の回折光を発生するマスタホログラムを備える。第1光および第2光は、第1光源および第2光源の各々から光がマスタホログラムに照射されることにより生成される。波長選択性ホログラムの作製装置は、複数の回折光からなる第1光同士の干渉縞、および、複数の回折光からなる第2光同士の干渉縞に対応して感光性材料層を露光する。
【0015】
好ましくは、マスタホログラムにおいては、マスタホログラムにより生成される第1光および第2光の各々の回折効率が、第1光源および第2光源の各々の出力に対応している。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ホログラムを明瞭に多重記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態1に係る波長選択性ホログラムの作製方法の概念図である。
【図2】ホログラム基板に干渉光が入射される状態を模式的に示す図である。
【図3】フォトポリマ中において起こる重合反応を模式的に示す図である。
【図4】フォトポリマにおいて重合反応が終了した状態を模式的に示す図である。
【図5】波長選択性ホログラムを第1の参照光で再生している状態を示す図である。
【図6】波長選択性ホログラムを第2の参照光で再生している状態を示す図である。
【図7】比較例において、ホログラム基板に第1光を入射させた状態を示す図である。
【図8】比較例において、ホログラム基板に第2光を入射させた状態を示す図である。
【図9】同実施形態の感光性材料層の第1光と第2光とに対する感度曲線を示す図である。
【図10】同実施形態に係る波長選択性ホログラムの作製装置の構成を説明する図である。
【図11】本発明の実施形態2に係る波長選択性ホログラムの作製方法の概念図である。
【図12】本発明の実施形態3に係る波長選択性ホログラムの作製装置の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態1に係る波長選択性ホログラムの作製方法および波長選択性ホログラムの作製装置について図面を参照して説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰返さない。
【0019】
実施形態1
本実施形態においては、マスタホログラムによる再生光を利用して波長選択性ホログラムを記録する方法について説明するが、波長選択性ホログラムを記録する方法はこれに限られず、後述する実施形態3のようなマスタホログラムを用いない方法を用いることができる。
【0020】
図1は、本発明の実施形態1に係る波長選択性ホログラムの作製方法の概念図である。図1に示すように、本実施形態においては、第1の波長として405nm付近の波長を有する光150を出射する図示しない第1光源と、第2の波長として640nm付近の波長を有する光160を出射する図示しない第2光源とを用いる。
【0021】
後述するように、感光性材料層120に波長選択性ホログラム130を記録するために、マスタホログラム140を使用する。マスタホログラム140には、一方向から照射された光を複数の方向に回折するようにホログラムが記録されている。図1においては、簡単のため、マスタホログラム140に照射される1つの光毎に2つの回折光が生じているように示している。この回折光が、マスタホログラム140による再生光である。
【0022】
光150および光160を一方向からマスタホログラム140に照射すると、光150の回折光である第1光151,152と、光160の回折光である第2光161,162とが発生する。第1光151と第2光161とは、同一位置に集束する集束光であり、感光性材料層120に同一の入射角度で入射する。第1光152と第2光162とは、同一位置に集束する集束光であり、感光性材料層120に同一の入射角度で入射する。
【0023】
マスタホログラム140は、第1光151,152および第2光161,162に対して感光する材料で形成されている。マスタホログラム140は高い回折効率を有することが好ましいため、マスタホログラム140用材料としては、露光による屈折率変調の大きな材料が好ましい。
【0024】
透明基板110上に感光性材料層120が形成されてホログラム基板100が作製される。感光性材料層120として、フォトポリマが用いられる。フォトポリマは、特定波長の光が照射されると、受光した光の強度に応じて重合する。干渉光を受光したフォトポリマにおいては、干渉縞の明暗に対応して露光されて重合するため、重合した部分と重合していない部分とで屈折率差が生じる。フォトポリマ中に生じた屈折率差が、ホログラムとしてホログラム記録媒体に記録される。
【0025】
感光性材料層120は、第1光151,152および第2光161,162に対して感光する。感光性材料層120としては、露光中の振動または空気の揺らぎなどによるノイズホログラムが記録されることを低減するために、露光時間の短い高感度の材料で形成されていることが好ましい。
【0026】
なお、感光性材料層120の周囲に酸素が存在する場合、フォトポリマの重合が阻害される。そのため、感光性材料層120上に酸素を遮断する透明基板または透明フィルムが設けられている。感光性材料層120は、マスタホログラム140と同一の材料で形成されていてもよい。
【0027】
マスタホログラム140に光150,160を同時に照射した場合、第1光151,152および第2光161,162が同時に発生する。発生した第1光151と第1光152とは、感光性材料層120中において互いに干渉しつつ、感光性材料層120を露光する。発生した第2光161と第2光162とは。感光性材料層120中において互いに干渉しつつ、感光性材料層120を露光する。その結果、感光性材料層120中にホログラムが同時に多重記録されて、波長選択性ホログラム130が作製される。
【0028】
以下、ホログラム記録媒体にホログラムが記録される際の、フォトポリマ中において起こる反応について説明する。
【0029】
図2は、ホログラム基板に干渉光が入射される状態を模式的に示す図である。図2に示すように、干渉光200は、光の強度の強い明部210と、光の強度の弱い暗部220とを有している。
【0030】
ホログラム基板100においては、透明基板110上に、感光性材料層120を構成するフォトポリマ170が形成され、フォトポリマ170は、モノマー180を含んでいる。フォトポリマ170の表面は、透明フィルム190に覆われている。
【0031】
図3は、フォトポリマ中において起こる重合反応を模式的に示す図である。図3に示すように、フォトポリマ170が干渉光により露光されると、光強度の強い部分230において、モノマー180を消費しつつ重合反応が開始する。光強度の弱い部分240においては、モノマー180が図3中の矢印で示すように、モノマー180を消費してモノマー180の濃度が低くなっている光強度の強い部分230に、拡散するように移動する。
【0032】
図4は、フォトポリマにおいて重合反応が終了した状態を模式的に示す図である。図4に示すように、露光が終了すると、フォトポリマ170には、重合反応によりモノマー180が集合してモノマー180の濃度が高い高屈折領域231と、モノマー180の濃度が低い低屈折率領域241とが形成される。このように、感光性材料層120は、干渉光の干渉縞に対応して露光される。その結果、ホログラム基板100に、屈折率差に基づくホログラムが記録される。
【0033】
このように記録されたホログラムは、体積型ホログラムと称される。記録された体積型ホログラムを再生するためには、下記の数式(1),(2)に示されるブラッグの条件を満たす必要がある。
2dsinθB=mλ・・・(1)
ただし、dは干渉縞の間隔、θBはブラッグ角、λは入射光の波長、mは整数である。
d=λ/2n|sin(θS−θR/2)|・・・(2)
ただし、nは感光性材料の屈折率、θSは信号光の感光性材料層への入射角、θRは参照光の感光性材料層への入射角である。
【0034】
たとえば、405nmの第1の波長λ1を有する第1光の干渉縞の間隔d1が564nmである場合、第1光により記録したホログラムを波長λ1の参照光で再生するには、ブラッグ角θBである21.1°で感光性材料層に波長λ1の参照光を入射させる必要がある。
【0035】
このホログラムを640nmの第2の波長λ2を有する参照光で再生するには、ブラッグ角θBである34.6°で感光性材料層に波長λ2の参照光を入射させる必要がある。よって、波長λ2の参照光を21.1°の入射角で感光性材料層に入射させた場合、波長λ2の参照光はホログラムにより回折されず、ホログラムを再生することができない。このように、波長の異なる参照光を同一の入射角で入射させた場合、特定の波長の参照光のみがホログラムにより回折されて、ホログラムを再生することができる。これが、いわゆる波長選択性ホログラムである。
【0036】
本実施形態においては、マスタホログラム140により再生された第1光151,152および第2光161,162は集束光であり、集束光同士を干渉させることにより波長選択性ホログラム130を作製している。集束光同士の干渉によりホログラムが記録されるため、上記のブラッグの条件において、θS,θRは一定にならず、ホログラムを再生するための参照光の条件は限定的となり、ホログラム記録時の波長および入射角近傍の条件に合致する参照光でのみホログラムを再生できる。
【0037】
図5は、波長選択性ホログラムを第1の参照光で再生している状態を示す図である。図6は、波長選択性ホログラムを第2の参照光で再生している状態を示す図である。
【0038】
図5,6に示すように、感光性材料層120には、第1ホログラム131および第2ホログラム132を含む波長選択性ホログラム130が作製されている。第1ホログラム131は、図1に示す第1光151および第1光152の干渉縞に対応して記録されている。第2ホログラム132は、第2光161および第2光162の干渉縞に対応して記録されている。
【0039】
図5に示すように、波長選択性ホログラム130の記録に用いた第1光151と同様の波面を有する参照光250を波長選択性ホログラム130に入射させると、第1ホログラム131に入射した参照光250は、回折されて再生光251となる。参照光250のうち、第1ホログラム131に入射しなかった光は、波長選択性ホログラム130を回折せずに透過して透過光252となる。
【0040】
図6に示すように、波長選択性ホログラム130の記録に用いた第2光161と同様の波面を有する参照光260を波長選択性ホログラム130に入射させると、第2ホログラム132に入射した参照光260は、回折されて再生光261となる。参照光260のうち、第2ホログラム132に入射しなかった光は、波長選択性ホログラム130を回折せずに透過して透過光262となる。
【0041】
ここで、比較例として、波長選択性ホログラムを作製する際に、第1光と第2光とを時間差を開けて感光性材料層に入射させて、ホログラムを多重記録した場合について説明する。
【0042】
図7は、比較例において、ホログラム基板に第1光を入射させた状態を示す図である。図8は、比較例において、ホログラム基板に第2光を入射させた状態を示す図である。
【0043】
図7に示すように、比較例においては、第1の波長の光を図示しないマスタホログラムに照射することにより、2つの回折光である第1光400および第1光410を得る。図8に示すように、比較例においては、第2の波長の光を図示しないマスタホログラムに照射することにより、2つの回折光である第2光420および第2光430を得る。
【0044】
図7,8に示すように、透明基板310上に感光性材料層320が形成されてホログラム基板300が作製される。感光性材料層320は、第1光400,410および第2光420,430に対して感光する。
【0045】
比較例においては、まず、図7に示すように、感光性材料層320に第1光400および第1光410を入射させる。第1光400と第1光410とは、感光性材料層320中において互いに干渉しつつ、感光性材料層320を露光する。その結果、感光性材料層320中に第1ホログラム330が記録される。
【0046】
次に、図8に示すように、感光性材料層320に第2光420および第2光430を入射させる。この際、感光性材料層320には、第1ホログラム330が記録されており、感光性材料層320を構成するフォトポリマには屈折率差が生じている。また、フォトポリマ中では、干渉縞の明暗に対応して重合反応が進行しており、重合反応が進行した部分とそれ以外の部分とでは分子サイズが異なる。
【0047】
そのため、感光性材料層320に入射した第2光420および第2光430は、フォトポリマの屈折率差および分子サイズの違いによる影響を受けて、図8に示すように、第1ホログラム330を透過する際に散乱される。
【0048】
第2光420は、感光性材料層320を通過する際に、第1ホログラム330を透過した透過光421と、第1ホログラムにより散乱された散乱光422,423となる。第2光430は、感光性材料層320を通過する際に、第1ホログラム330を透過した透過光431と、第1ホログラムにより散乱された散乱光432,433となる。また、第2光420および第2光430には、感光性材料層320を通過する際に、波面歪みが生じている。
【0049】
そのため、第2光420と第2光430とが感光性材料層320中において互いに干渉しつつ、感光性材料層320を露光する際に、所望の干渉縞に対応して露光することができない。光の散乱は屈折率差に比例して大きくなるため、回折効率の高い第1ホログラムを記録する場合は特に、第2ホログラムを記録する際に光の散乱の影響を受ける。
【0050】
このように、マスタホログラムに多重記録されたホログラムをそれぞれ別々に再生して得た回折光を用いてホログラム基板にホログラムを記録する場合、後に記録されるホログラムの精度が低下する。その結果、作製された波長選択性ホログラムを再生した際に、後で記録されたホログラムの再生光のビーム形状に極端な変形が認められる、または、後で記録されたホログラムの再生光が集光位置に集光しない、などの問題が発生する。
【0051】
上記の問題は、第1ホログラムと第2ホログラムとを記録するための露光時間が異なる場合にも発生する。仮に、第2ホログラムの方が第1ホログラムより、記録に必要な露光時間が長いとする。その場合、第1ホログラムの記録のための露光と、第2ホログラムの記録のための露光とを同時に開始したとしても、第1ホログラムの方が先に記録される。そのため、第1ホログラム記録完了後に入射された第2光は、第1ホログラムの影響を受けて、波面の劣化または散乱を起こす。その結果、記録される第2ホログラムの精度が低下する、または、光の散乱により露光に必要な光エネルギーが不足するため、露光時間が長時間化する、などの問題が発生する。
【0052】
本実施形態においては、波長選択性ホログラム130を記録する際、第1光151,152および第2光161,162を同時に感光性材料層120に入射させて、第1光151,152による露光時間と第2光161,162による露光時間とを同一にして、第1ホログラム131および第2ホログラム132を含む波長選択性ホログラム130を感光性材料層120に記録している。このようにすることにより、第1光151,152および第2光161,162は、良好な波面状態を維持した状態で干渉を起こし、所望の波長選択性ホログラム130を記録することができる。
【0053】
ここで、第1ホログラムと第2ホログラムとを記録するための露光時間を同一にするための方法について説明する。
【0054】
本実施形態においては、第1の波長を有する光150と第2の波長を有する光160とをマスタホログラム140に同時に照射することにより、第1光151,152および第2光161,162を同時に発生させている。よって、第1ホログラム131と第2ホログラム132とを記録するための露光時間を同一にするためには、回折光である第1光151,152および第2光161,162のそれぞれの回折効率を、それぞれの光に対する感光性材料層120の感度に対応させることが必要である。
【0055】
感光性材料層120の感度特性は、感光性材料層120に含まれる光反応開始剤および色素の添加量を調節することにより制御可能であるが、一般的に、異なる波長の光に対する感度を同一にすることは難しい。特に、長波長領域の光に対する感度は、低波長領域の光に対する感度と比較して低い場合が多い。
【0056】
図9は、本実施形態の感光性材料層の第1光と第2光とに対する感度曲線を示す図である。図9においては、縦軸に記録されるホログラムの回折効率ηを示し、横軸に第1光または第2光の露光量Eを示している。また、第1光の感度曲線を実線で、第2光の感度曲線を点線で示している。
【0057】
図9に示すように、回折効率η1のホログラムを記録する場合、第1の波長を有する第1光の必要な露光量はE1[mJ/cm2]、第2の波長を有する第2光の必要な露光量はE2[mJ/cm2]となる。露光量E[mJ/cm2]は、露光パワー密度P[mW/cm2]×露光時間t[秒]で決定されるため、第1光の露光時間と第2光の露光時間t[秒]を同一にするためには、第1光および第2光を再生するマスタホログラムの回折効率を調整する必要がある。
【0058】
たとえば、露光中の振動または空気の揺らぎなどの影響を低減するために露光時間を2秒に設定し、10%の回折効率ηを有する波長選択性ホログラム130を記録するために必要な露光量を感度曲線から求める。
【0059】
まず、感度曲線の初期に生じる、酸素による露光の阻害に起因する不感光領域部分に要した露光量を求める。第1光においては、不感光領域部分に要した露光量はE1’である。第2光においては、不感光領域部分に要した露光量はE2’である。
【0060】
波長選択性ホログラム130を記録するのに要した露光量E1,E2から不感光領域部分に要した露光量E1’,E2’を除去することにより、実際にホログラムを記録するために必要な露光量を算出する。第1光においては、E1−E1’=10mJ/cm2であり、第2光においては、E2−E2’=18mJ/cm2である。
【0061】
第1光源および第2光源の各々の出力である、マスタホログラムに入射される光150および光160の入射パワー密度を10mW/cm2として、マスタホログラムの第1光151,152の各々の回折効率ηM1を25%とし、第2光161,162の各々の回折効率ηM2を45%とした。
【0062】
このようにすることにより、第1光151,152と第2光161,162との露光時間t[秒]を同一にして、所望の回折効率ηを有する波長選択性ホログラム130を記録するための露光量E[mJ/cm2]を感光性材料層120に与えることができる。
【0063】
次に、本実施形態の波長選択性ホログラムの作製装置について説明する。
図10は、本実施形態に係る波長選択性ホログラムの作製装置の構成を説明する図である。図10に示すように、本実施形態に係る波長選択性ホログラムの作製装置500においては、第1の波長の光を出射する第1光源として、波長405nmの単モードLD(Laser Diode)510と、第2の波長の光を出射する第2光源として、波長640nmの単モードLD520を用いた。LD510およびLD520から発振された光は、P偏光またはS偏光となるように図示しない波長板および偏光子により調整されている。
【0064】
LD510から出射された光511、および、LD520から出射された光521は、多層誘電膜が形成された光軸調整部である波長選択ミラー530に入射して、光軸を揃えられて出射する。光軸を揃えられた光511,521は、それぞれの露光時間を同時に調節する露光調節部であるシャッター540を通過した後、ビーム品質を向上させるためのスペイシャルフィルタ550を透過する。
【0065】
光511,521は、コリメートレンズ560により平行光にされた後、ミラー570により反射されて、マスタホログラム580に照射される。光511がマスタホログラム580により回折されることにより、第1光512および第1光513が生成される。光521がマスタホログラム580により回折されることにより、第2光522および第2光523が生成される。
【0066】
生成された第1光512と第2光522とは、同一の入射角度で同時に感光性材料層590に入射する。生成された第1光513と第2光523とは、同一の入射角度で同時に感光性材料層590に入射する。よって、マスタホログラム580は、第1光512,513および第2光522,523を感光性材料層590に同一方向から入射させる入射方向調整部となる。
【0067】
第1光512と第2光522とが感光性材料層590内において干渉することにより第1ホログラムが記録され、第1光513と第2光523とが感光性材料層590内において干渉することにより第2ホログラムが記録される。その結果、感光性材料層590に波長選択性ホログラム591が記録される。
【0068】
なお、本実施形態においては、マスタホログラム580と感光性材料層590との間に、多層膜が形成された図示しない基板が挿入されている。この基板は、第1光512,513および第2光522,523を透過し、マスタホログラム580を回折せずに透過した光511,521を反射する。
【0069】
上記の構成を有する波長選択性ホログラムの作製装置により、第1光と第2光とを感光性材料層590に同時に同一の入射角度で入射させることができ、また、第1光による露光時間と第2光による露光時間とをシャッター540により同一にすることができる。よって、ホログラムを明瞭に多重記録することができる。また、記録に用いる光の入射方向を同一にすることにより光学部品を共通化して部品点数を削減することができるため、波長選択性ホログラムの製造コストを低減することができる。さらに、第1光と第2光とによる露光を同時に行なうため、露光を別々に行なう場合に比べて露光時間を短縮でき、波長選択性ホログラムの製造タクトを短縮することができる。また、光学系の駆動部分が削減されているため、露光中の振動の発生を低減することができるため、ホログラム記録時の不良発生を抑制して波長選択性ホログラムの生産性を向上できる。
【0070】
以下、本発明の実施形態2に係る波長選択性ホログラムの作成方法について説明する。
実施形態2
本実施形態は、感光性材料層が2層の積層構造を有している点のみ実施形態1と異なる。その他の構成については、実施形態1と同様であるため説明を繰返さない。
【0071】
図11は、本発明の実施形態2に係る波長選択性ホログラムの作製方法の概念図である。図11に示すように、本実施形態のホログラム基板600は、透明基板610上に、第1の波長の光650に対して感光する感光性材料層620、および、第2の波長の光660に対して感光する感光性材料層621が形成されている。感光性材料層620,621は、フォトポリマで構成されている。
【0072】
405nmの波長を有する光650がマスタホログラム640に照射されることにより、回折光である第1光651および第1光652が生成される。640nmの波長を有する光660がマスタホログラム640に照射されることにより、回折光である第2光661および第2光662が生成される。
【0073】
第1光651および第1光652は、感光性材料層621を透過して、感光性材料層620中で干渉して第1ホログラム630を記録する。第2光661および第2光662は、感光性材料層621中で干渉して第2ホログラム631を記録して、感光性材料層620を透過する。このように、本実施形態においては、異なる層に形成された第1ホログラム630と第2ホログラム631とから波長選択性ホログラムが構成されている。
【0074】
本実施形態においては、感光性材料層621と感光性材料層620上に形成したが、積層順番は、第1光651,652の感光性材料層621中の透過率と第2光661,662の感光性材料層620中の透過率との関係により決定されることが好ましい。すなわち、透過率の高い感光性材料層を透過率の低い感光性材料層の上方に形成することにより、第1光または第2光の露光パワー密度Pの低減を抑制することができる。
【0075】
本実施形態においても、第1光651,652および第2光661,662を略同時に同一の入射角度で感光性材料層620,621に入射させて、第1光651,652による露光時間と、第2光661,662による露光時間とを同一にして、感光性材料層620,621にホログラムを記録することができる。そのため、第1光651,652および第2光661,662の波面の精度を維持した状態で、感光性材料層620,621を露光することができるため、高品質の波長選択性ホログラムを記録することができる。
【0076】
さらに、本実施形態においては、感光性材料層620,621が2層の積層構造を有しているため、各層において、それぞれの光の波長に最適化して感光性材料のMナンバー(多重記録を行った際の各回折効率の平方根の和)、感度、収縮率および透過率などの特性を決定することができ、各層に記録される波長選択性ホログラムの特性を高めることが可能である。
【0077】
以下、本発明の実施形態3に係る波長選択性ホログラムの作製装置について説明する。
実施形態3
本実施形態の波長選択性ホログラムの作製装置においては、マスタホログラムを用いていない点が実施形態1と異なる。
【0078】
図12は、本発明の実施形態3に係る波長選択性ホログラムの作製装置の構成を説明する図である。図12に示すように、本実施形態に係る波長選択性ホログラムの作製装置700においては、第1の波長の光を出射する第1光源として、波長405nmの単モードLD710と、第2の波長の光を出射する第2光源として、波長640nmの単モードLD720を用いた。LD710およびLD720から発振された光は、P偏光またはS偏光となるように図示しない波長板および偏光子により調整されている。
【0079】
LD710から出射された光711、および、LD720から出射された光721は、多層誘電膜が形成された光軸調整部である波長選択ミラー730に入射して、光軸を揃えられて出射する。光軸を揃えられた光711,721は、それぞれの露光時間を同時に調節する露光調節部であるシャッター740を通過した後、ビーム品質を向上させるためのスペイシャルフィルタ750を透過する。
【0080】
光711および光721の各々は、コリメートレンズ760により平行光にされた後、ハーフミラー770により二つに分岐され、一方の光は、直進してミラー780で反射された後、レンズ810により集束光とされて感光性材料層820に入射する。他方の光は、ハーフミラー770で反射されて、さらにミラー790で反射された後、レンズ800により集束光とされて感光性材料層820に入射する。集束光となった光711,721は、感光性材料層820中で干渉しつつ、感光性材料層820を露光することにより波長選択性ホログラム830を記録する。光711においては、ハーフミラー770、ミラー790およびレンズ800が入射方向調整部となる。光721においては、ミラー780およびレンズ810が入射方向調整部となる。
【0081】
ハーフミラー770は、感光性材料層820に入射する分岐された光同士のパワー密度が等しくなるような強度比で光を分岐するように設計されている。また、第1の波長の光711および第2の波長の光721に対する感光性材料の感度に対応して、光711,721の出射強度を制御できるように、LD710,720にはパワーコントロール機構が設けられている。
【0082】
本実施形態の波長選択性ホログラムの作製装置においても、光711および光721を同時に同一の入射角度で感光性材料層820に入射させて、光711による露光時間と、光721による露光時間とを同一にして、感光性材料層820にホログラムを多重記録することができる。
【0083】
本実施形態においては、マスタホログラムを作製しなくても、安定した品質の波長選択性ホログラムを作製することができる。そのため、特に複雑なパターンを必要としない波長選択性ホログラムにおいては、マスタホログラムの作製工程を削減できる。
【0084】
なお、今回開示した上記実施形態はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0085】
100,300,600 ホログラム基板、110,310,610 透明基板、120,320,590,620,621,820 感光性材料層、130,591,830 波長選択性ホログラム、131,330,630 第1ホログラム、132,631 第2ホログラム、140,580,640 マスタホログラム、150,511,650,711 第1の波長を有する光、160,521,660,721 第2の波長を有する光、151,152,400,410,512,513,651,652 第1光、161,162,420,430,522,523,661,662 第2光、170 フォトポリマ、180 モノマー、190 透明フィルム、200 干渉光、210 明部、220 暗部、230 光強度の強い部分、240 光強度の弱い部分、231 高屈折領域、241 低屈折率領域、250,260 参照光、251,261 再生光、252,262,421,431 透過光、422,423,432,433 散乱光、500,700 波長選択性ホログラム作製装置、530,730 波長選択ミラー、540,740 シャッター、550,750 スペイシャルフィルタ、560,760 コリメートレンズ、570,780,790 ミラー、770 ハーフミラー、800,810 レンズ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の波長を有する第1光および第1の波長とは異なる第2の波長を有する第2光をそれぞれ感光性材料層中で干渉させた際に、該第1光を回折して該第2光を回折せずに透過する第1ホログラムと、該第2光を回折して該第1光を回折せずに透過する第2ホログラムとを含む、波長選択性ホログラムの作製方法であって、
前記第1光および前記第2光に対して感光する前記感光性材料層を形成する層形成工程と、
前記第1光および前記第2光を同時に同一の入射角度で前記感光性材料層に入射させて、前記第1光による露光時間と前記第2光による露光時間とを同一にして、前記第1ホログラムおよび前記第2ホログラムを含むホログラムを前記感光性材料層に記録する記録工程と
を備える、波長選択性ホログラムの作製方法。
【請求項2】
前記第1光および前記第2光は、前記第1の波長を有する光および前記第2の波長を有する光が照射されることにより、前記第1の波長を有する光および前記第2の波長を有する光のそれぞれに複数の回折光を発生するマスタホログラムに、前記第1の波長を有する光および前記第2の波長を有する光が照射されることにより生成され、
前記記録工程において、複数の回折光からなる前記第1光同士を干渉させ、かつ、複数の回折光からなる前記第2光同士を干渉させることにより、前記感光性材料層を露光する、請求項1に記載の波長選択性ホログラムの作製方法。
【請求項3】
前記マスタホログラムとして、前記マスタホログラムにより生成される前記第1光および前記第2光の各々の回折効率が、前記第1光および前記第2光の各々の波長を有する前記マスタホログラムに照射される光の各々の出力に対応するように、記録されたホログラムを用いる、請求項2に記載の波長選択性ホログラムの作製方法。
【請求項4】
第1の波長を有する第1光および第1の波長とは異なる第2の波長を有する第2光をそれぞれ感光性材料層中で干渉させた際に、該第1光を回折して該第2光を透過する第1ホログラムと、該第2光を回折して該第1光を透過する第2ホログラムとを含む、波長選択性ホログラムの作製装置であって、
前記第1の波長を有する光を出射する第1光源と、
前記第2の波長を有する光を出射する第2光源と、
前記第1光源から出射された光および前記第2光源から出射された光の光軸を揃える光軸調整部と、
前記第1光および前記第2光を前記感光性材料層に対して同一方向から入射させる入射方向調整部と、
前記第1光および前記第2光による前記感光性材料層の露光時間を同時に調節する露光調節部と
を備える、波長選択性ホログラムの作製装置。
【請求項5】
前記第1光源および前記第2光源から光が照射されることにより、前記第1の波長を有する光および前記第2の波長を有する光のそれぞれに複数の回折光を発生するマスタホログラムを備え、
前記第1光および前記第2光は、前記第1光源および前記第2光源の各々から光が前記マスタホログラムに照射されることにより生成され、
複数の回折光からなる前記第1光同士の干渉縞、および、複数の回折光からなる前記第2光同士の干渉縞に対応して前記感光性材料層を露光する、請求項4に記載の波長選択性ホログラムの作製装置。
【請求項6】
前記マスタホログラムにおいては、前記マスタホログラムにより生成される前記第1光および前記第2光の各々の回折効率が、前記第1光源および前記第2光源の各々の出力に対応している、請求項5に記載の波長選択性ホログラムの作製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−42736(P2012−42736A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184204(P2010−184204)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】