説明

波面制御器の動作量制御方法およびホログラム再生装置

【課題】再生時参照光の波面を最適化するのに要する時間の短縮化と波面精度の向上を達成し得る波面制御器の動作量制御方法およびホログラム再生装置を得る。
【解決方法】信号光、記録時参照光およびホログラム記録媒体の相対位置関係と、該相対位置関係に基づくブラッグ条件と、ホログラム記録媒体の収縮率とに基づき、再生時参照光の波面を最適化するために必要な波面制御器21の薄膜ミラー51の動作量の最大値を予測し、該最大値を、波面を最適化する過程における薄膜ミラー51の動作範囲を制限するための動作制限値に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラムを利用して画像情報の記録再生を行うホログラム記録再生システムにおいて、再生時参照光の波面を最適化するために配置された波面制御器の動作量を制御する方法に関し、特に、ホログラム記録媒体の収縮により生じる干渉縞歪みを補償する場合に好適な波面制御器の動作量制御方法およびこれを利用したホログラム再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速で大容量の記録再生を目指した次世代光情報記録再生方式として、ホログラム記録再生方式の研究・開発が活発に行われている。
【0003】
従来のホログラム記録再生装置は、例えば図11に示すように構成されており、ここで、その概略を説明する。レーザ光源201から出射されたコヒーレントなレーザ光束は、発散レンズ202およびコリメートレンズ203からなるビームエキスパンダにより光束径を拡大され、半波長板204を透過し、ミラー205で偏向された後、偏光ビームスプリッタ206により2系の光束に分岐される。
【0004】
偏光ビームスプリッタ206から図中下方に向かう光束は、開状態のシャッタ207および偏光ビームスプリッタ208を通過して空間光変調素子209に照射され、該空間光変調素子209により空間的に変調されて、ページデータと称される、白、黒2値の画素を2次元配列したデジタル画像情報を担持した信号光とされる。空間光変調素子209から出射された信号光は、入射した状態とは偏光方向が変化しており、偏光ビームスプリッタ208において図中左方に反射され、レンズ210によって光学的にフーリエ変換されてホログラム記録媒体(以下、単に「記録媒体」と称することがある)211へ照射される。
【0005】
一方、偏光ビームスプリッタ206から図中左方に向かう光束は、参照光(記録時参照光)とされ、ミラー222および開状態のシャッタ224を通過して、記録媒体211中の信号光が通過する場所へ、信号光とは別角度で照射される。
【0006】
信号光および参照光を同時に照射すると記録媒体211内部の体積中に干渉縞が生じ、この縞分布を屈折率分布などの形態で記録媒体211の記録領域に転写することによりホログラム記録が行われる。なお、角度多重記録方式の場合には、異なるページデータを空間光変調素子209に表示させつつ、信号光および参照光に対する記録媒体211の角度(回転角度)を少しずつ変化させることにより、互いに異なるページデータを記録媒体211中の同一領域へ多重記録することが可能となり、高密度な情報格納が可能となる。
【0007】
ホログラム記録媒体211に記録されたページデータを再生する場合には、シャッタ207を閉状態として、記録時と同一角度で参照光(再生時参照光)のみを記録媒体211に照射せしめることにより、同一の記録領域に複数のページデータが多重記録されていても、所望するページデータのみを選択的に取り出し、レンズ212を介してCCD(撮像素子)213にて撮像することができる。
【0008】
ホログラム記録媒体として用いられることが多い光感光性樹脂材料(フォトポリマー)の場合、記録媒体内部に屈折率差を生じさせてホログラム(干渉縞)を記録する。このとき光重合により媒体収縮が生じる。また、信号記録時と信号再生時との間で温度差が生じた場合には、温度差の影響により記録媒体が収縮したり膨張したりすることがある。記録媒体が収縮あるいは膨張すると、媒体中に記録された干渉縞が歪んだ状態となる、いわゆる干渉縞歪みが生じる。歪んだ干渉縞に記録時と同様の参照光を入射しても、記録されたビットデータを誤りなく再生することが難しくなるため、再生データのSNR(Signal to Noise Ratio)が低下してしまう。
【0009】
最近、このような記録媒体の収縮(膨張を含む)が引き起こす干渉縞歪みにより生じる再生データの劣化(SNRの低下)を改善するために、干渉縞歪みを光学的に補償する方法が研究されている。光学的な補償方法の一つである適応光学を用いた補償方法では、参照光の光路中に波面制御器を設け、干渉縞歪みを光学的に補償するために最適な参照光波面を作るようにしている(下記特許文献1および非特許文献1参照)。これにより干渉縞歪みが補償でき、再生データの劣化を改善することができる。
【0010】
上述の波面制御器としては、金属薄膜等で形成された反射鏡面を備えたデフォーマルブルミラー(Deformable Mirror;可変形鏡)が提案されている(下記特許文献1および非特許文献1参照)。反射鏡面は、基板からの突出量が可変に構成された複数のピン部材により裏面側から支持されており、ピン部材毎の突出量が調整されることにより、各々のピン部材により支持された鏡面の各領域がそれぞれ動作せしめられ、全体の形状が変化するように構成されている。
【0011】
このような反射鏡面の動作量(各ピン部材の突出量)は、該反射鏡面により形成された波面によって再生されたページデータを撮像し、その画像を輝度やSNR等に基づき評価し、その評価に応じて、より適切な波面が得られるように動作量を変えるという手順を繰り返しながら、最適な波面が得られるように高速で制御される。
【0012】
その際の制御方式として、下記特許文献1および非特許文献1に記載の技術においては、再生時参照光の入力に対する再生ページデータの出力の応答が非線形となることを考慮して、遺伝的アルゴリズム(Generic Algorithm)を用いた制御方式を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特願2009−093989号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】T. Muroi, et. al., “Optical Compensation of Distorted Data Image byInterference Fringe Distortion in Holographic Data Storage”, Appl. Opt., Vol.48, Iss. 19, pp. 3681-3690, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ホログラム記録再生システムの実用化に向けて、参照光波面を最適化するための所用時間の短縮化が課題となっている。このような課題解決のため、本願発明者は、波面制御器における反射鏡面の動作範囲(動作可能な範囲)に着目した。
【0016】
すなわち、動作範囲が必要以上に広く設定された場合、最適な参照光波面を得るための波面の計算や検索において、不必要な領域まで計算、検索することになるため、参照波面の最適解を求めるまでの時間が長くなってしまう、あるいは、波面の計算や検索を一定時間で強制的に終了するようにすれば、求められた波面の精度が低くなってしまう虞がある。
【0017】
一方、動作範囲が狭すぎる場合、最適な参照光波面を得るための波面の計算や検索において、必要不可欠な領域における計算、検索を行うことができなくなって、参照光波面の最適解を求めることができなくなったり、求められた場合でも波面精度が大きく低下したりする虞がある。
【0018】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、ホログラム記録媒体の収縮(膨張を含む)により生じる干渉縞歪みを補償するための波面制御器における反射鏡面の動作範囲を適切に設定し、再生時参照光の波面を最適化するのに要する時間の短縮化と波面精度の向上を達成し得る波面制御器の動作量制御方法およびホログラム再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、本発明に係る波面制御器の動作量制御方法は、集束する信号光が記録時参照光とともに照射されることにより干渉縞が記録されたホログラム記録媒体と、該ホログラム記録媒体の収縮により生じる干渉縞歪みを補償するために再生時参照光の光路中に配置される波面制御器と、を備えたホログラム再生装置において、前記再生時参照光の波面を最適化する際に前記波面制御器の反射鏡面の動作量を制御する動作量制御方法であって、
前記信号光、前記記録時参照光および前記ホログラム記録媒体の相対位置関係と、該相対位置関係に基づくブラッグ条件と、前記ホログラム記録媒体の収縮率とに基づき、前記再生時参照光の波面を最適化するために必要な前記反射鏡面の動作量の最大値を予測し、該最大値を、該波面を最適化する過程における該反射鏡面の動作範囲を制限するための動作制限値に設定することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る波面制御器の動作量制御方法において、前記相対位置関係に基づき、前記信号光を構成する光線のうち前記記録時参照光の軸とのなす角の大きさが最小となる光線と該記録時参照光とにより形成される干渉縞K1の角度θK1と、該信号光を構成する光線のうち該記録時参照光の軸とのなす角の大きさが最大となる光線と該記録時参照光とにより形成される干渉縞K2の角度θK2と、を求める記録時干渉縞角度算出ステップと、
前記ブラッグ条件と、前記ホログラム記録媒体の収縮率と、前記記録時干渉縞角度算出ステップにおいて求められた前記干渉縞の角度θK1およびθK2とに基づき、該ホログラム記録媒体の収縮により歪んだ場合の前記干渉縞K1およびK2をそれぞれ再生するのに最適な再生時参照光の角度φR1およびφR2を求める再生時参照光角度算出ステップと、
求められた前記角度φR1およびφR2とこれらを相加平均した中間角度φとのそれぞれの角度差Δφ(=φR1−φ)およびΔφ(=φR2−φ)を求める角度差算出ステップと、
求められた前記角度差Δφを補償するために必要となる前記反射鏡面の動作量DDM1と、前記角度差Δφを補償するために必要となる前記反射鏡面の動作量DDM2とを算出し、これらを比較して大なる方を前記動作制限値とする動作制限値設定ステップと、を手順として含むことができる。
【0021】
また、前記ホログラム記録媒体が角度多重記録方式により複数の干渉縞が記録されたものである場合において、
前記ホログラム記録媒体の回転角度が最大となる時点で記録された干渉縞を再生する場合における前記反射鏡面の動作量の最大値DDMM1と、該回転角度が最小となる時点で記録された干渉縞を再生する場合における該反射鏡面の動作量の最大値DDMM2とを、上述の波面制御器の動作制御方法によりそれぞれ算出し、これらを比較して大なる方を前記動作制限値とすることができる。
【0022】
また、本発明に係るホログラム再生装置は、本発明に係る波面制御器の動作量制御方法により前記動作制限値が設定された波面制御器を備えてなることを特徴とする。
【0023】
本発明のホログラム再生装置における「再生」とは、ホログラムの再生機能を有することを示すものであり、ホログラムの記録機能は備えていないということを意味するものではない。すなわち、ホログラムの記録機能と再生機能の両方を備えている装置も本発明のホログラム再生装置の概念に含まれる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る波面制御器の動作量制御方法およびホログラム再生装置によれば、信号光、記録時参照光およびホログラム記録媒体の相対位置関係と、該相対位置関係に基づくブラッグ条件と、ホログラム記録媒体の収縮率とに基づき、再生時参照光の波面を最適化するために必要な前記反射鏡面の動作量の最大値を予測し、該最大値を、波面を最適化する過程における反射鏡面の動作範囲を制限するための動作制限値に設定することにより、反射鏡面の動作範囲が必要以上に広くなったり狭すぎたりすることなく、該動作範囲を適切に設定することが可能となり、再生時参照光の波面を最適化するのに要する時間(補償時間)を短縮化しつつ波面精度を向上させることができる。
【0025】
また、補償時間の短縮化(補償速度の向上)と波面精度の向上により、再生データのSNRの向上が図れ、これにより、ホログラム記録媒体に高密度に多重記録されたデータの良好な再生が可能となるので、従来のものよりも大容量での記録再生が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】一実施形態に係るホログラム再生装置の構成を示す概略図である。
【図2】波面制御器の概略構成を示す断面図である。
【図3】信号光、記録時参照光およびホログラム記録媒体の相対位置関係と、記録される干渉縞の角度とを示す概念図(信号光が平行光の場合)である。
【図4】ホログラム記録媒体の収縮率と干渉縞歪みとの関係を示す概念図である。
【図5】媒体収縮時における再生時参照光の照射角度を示す概念図(信号光が平行光の場合)である。
【図6】媒体収縮時におけるブラッグ条件を満たす媒体中の光路を示す概念図である。
【図7】信号光、記録時参照光およびホログラム記録媒体の相対位置関係と、記録される干渉縞の角度とを示す概念図(信号光が集束光の場合)である。
【図8】媒体収縮時における再生時参照光の照射角度を示す概念図(信号光が集束光の場合)である。
【図9】ホログラム記録媒体への信号光の入射角度と薄膜ミラーの最大の動作量との関係を示す図である。
【図10】記録時と同じ波面の参照光を用いて再生されたページデータ像(a)と、本発明を適用して補償した波面の参照光を用いて再生されたページデータ像(b)とを示す図である。
【図11】従来のホログラム再生装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る波面制御器の動作量制御方法およびホログラム再生装置の実施形態について、上記図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
まず、図1を用いて本発明の一実施形態に係るホログラム再生装置について説明する。このホログラム再生装置は、ホログラムの記録機能と再生機能とを備えた記録再生装置として構成されており、また、ホログラム記録媒体(以下、単に「記録媒体」と称することがある)11は光感光性樹脂材料(フォトポリマー)で構成され、角度多重記録方式が採用されている。以下、その仕組み(記録再生操作の流れ)について説明する。
【0029】
レーザ光源1から出射されたコヒーレントなレーザ光束は、発散レンズ2およびコリメートレンズ3からなるビームエキスパンダにより光束径を拡大され、半波長板4を透過し、ミラー5で偏向された後、偏光ビームスプリッタ6により2系の光束に分岐される。
【0030】
偏光ビームスプリッタ6から図中下方に向かう光束は、開状態のシャッタ7および偏光ビームスプリッタ8を通過して空間光変調素子9に照射され、該空間光変調素子9により空間的に変調されて、白、黒2値の画素が2次元配列されたデジタル画像からなるページデータを担持した信号光とされる。空間光変調素子9から出射された信号光は、入射した状態とは偏光方向が変化しており、偏光ビームスプリッタ8において図中左方に反射され、レンズ10によって光学的にフーリエ変換されてホログラム記録媒体11へ照射される。
【0031】
一方、偏光ビームスプリッタ6から図中左方に向かう光束は、参照光(記録時参照光)とされ、波面制御器21および開状態のシャッタ24を通過して、記録媒体11中の信号光が通過する場所へ、信号光とは別角度で照射され、これにより、記録媒体11中に干渉縞が記録される。
【0032】
記録媒体11は、図示されない回転ステージ上に取り付けられ、参照光および信号光に対し所定の角度だけ回転し得るようになっている。角度を少しずつ変化させることにより、記録媒体11の同一領域に互いに異なる複数のページデータを記録する角度多重記録が可能となっている。
【0033】
ホログラム記録媒体11に記録されたページデータを再生する場合には、シャッタ7を閉状態として、参照光(再生時参照光)のみを記録媒体11に照射せしめることにより、同一の記録領域に多重記録された複数のページデータから、所望するページデータのみを選択的に再生し、レンズ12を介してCCD(撮像素子)13にて撮像する。
【0034】
上記波面制御器21は、ホログラム記録媒体の収縮(膨張を含む)により生じる干渉縞歪みを補償するために配置されたものであり、図2に示すように、反射鏡面としての薄膜ミラー51が、図中上下方向に進退可能な複数のピン部材(図2では中心軸Cから最も離れた2本のピン部材P,Pのみを図示)により裏面側から支持されてなるデフォーマブルミラーであり、ピン部材毎の基板52からの突出量が調整されることにより、各々のピン部材により支持された薄膜ミラー51の各領域がそれぞれ上下方向に動作せしめられ、薄膜ミラー51全体の形状が変化するように構成されている。
【0035】
この薄膜ミラー51の動作量(各ピン部材の突出量)は、図1に示す計測制御装置40において、遺伝的アルゴリズムを用いた制御方式により制御される。すなわち、計測制御装置40においては、CCD13にて撮像された再生データを評価し、その評価結果に応じた制御信号を波面制御器21に出力して薄膜ミラー51の動作量を変更する処理を、遺伝的アルゴリズムにより繰り返し行い、再生時参照光の波面を最適化する。
【0036】
遺伝的アルゴリズムでは、複数の個体からなる集団(個体群)が想定されるとともに、各個体の形質を規定する要素としての遺伝子が定義され、遺伝子の複製、交叉、突然変異等が繰り返し実行される。そして、適応度に基づいて環境に最も適合する個体が次世代を形成していく。具体的には、薄膜ミラー51の状態が個体、各ピン部材の突出量(基板52に対する突出位置)が遺伝子とされる。適応度としては、再生データの輝度やSNR等が用いられる。
【0037】
また、薄膜ミラー51の動作量の制御においては、本発明の一実施形態に係る波面制御器の動作量制御方法が適用されており、薄膜ミラー51の動作範囲が適正なものに設定されている。
【0038】
以下、本発明の一実施形態に係る波面制御器の動作量制御方法について説明する。ここでは、理解を容易とするために、信号光が平行光とされた場合を先に説明し、この説明に基づいて信号光が集束光である実施形態の場合について述べることとする。なお、図3〜図8は本発明方法の原理を説明するものであり、図示された信号光、記録時参照光、記録媒体、再生時参照光および干渉縞の相対位置関係等は、図1に示すものとは必ずしも一致しない。
【0039】
図3に示すように、記録時(収縮前)の記録媒体の厚さをdとする。また、信号光と参照光はともに平行光であり、図中の軸A(任意に設定可能)に対する、信号光、記録時参照光、媒体中に記録された干渉縞および記録媒体の各角度を、それぞれθ、θ、θおよびθとする。
【0040】
信号光と参照光の角度から、干渉縞角度は下式(1)により算出される。
【0041】
【数1】

【0042】
図4に示すように、記録媒体が収縮すると(収縮率をαとする)、記録媒体の厚さdが(1−α)dに縮み、これにより干渉縞の角度が変化する。このときの角度をφとすると、下式(2)の関係が成立し、これから角度φを、下式(3)により算出することができる。なお、記録媒体の収縮率は、記録媒体のメーカーが測定値を公表している場合は、その公表値を用いることができる。また、共に平行光からなる信号光および参照光を用いて角度多重記録方式により複数(30頁程度)のページデータを記録し、それらを再生したときの各データの状態から、収縮率を求めることも可能である。収縮率は記録媒体の材料に依存するので、一度測定をしておけば、同じ材料からなる他の記録媒体の収縮率も同じとして用いることが可能となる。
【0043】
【数2】

【0044】
図5に示すように、歪んだ干渉縞から再生するときには、歪んだ干渉縞の角度φに合うように参照光を角度φで照射する必要がある。この角度φは、信号光、記録時参照光および記録媒体の相対位置関係に基づくブラッグ条件により求めることができる。
【0045】
すなわち、図6に示すように、ブラッグ条件を満たすためには、記録媒体中での信号光と記録時参照光の光路長の和が波長の整数倍になる必要がある。したがって、媒体収縮前は、下式(4)の関係が成立することが必要となり、媒体収縮後は下式(5)の関係が成立することが必要となる。
【0046】
【数3】

【0047】
上式(4)および(5)から、下式(6)の関係が導かれる。
【0048】
【数4】

【0049】
上式(6)に上式(3)を代入して整理すると、歪んだ干渉縞がブラッグ条件を満たすための参照光角度φは、下式(7)により求めることができる。
【0050】
【数5】

【0051】
したがって、記録媒体の収縮により生じる干渉縞歪みを補償するために必要となる、再生時参照光の補償角度(記録時参照光の角度と再生時参照光の角度との差)Δθは、下式(8)により求めることができる。
【0052】
【数6】

【0053】
次に、信号光が集束光とされた、図1に示す実施形態に対応した場合の波面制御器の動作量制御方法(以下「本実施形態方法」と称する)について説明する。
【0054】
本実施形態方法は、信号光、記録時参照光および記録媒体の相対位置関係と、該相対位置関係に基づくブラッグ条件と、記録媒体の収縮率とに基づき、再生時参照光の波面を最適化するために必要な反射鏡面(薄膜ミラー51)の動作量の最大値を予測し、該最大値を、参照光波面を最適化する過程における反射鏡面の動作範囲を制限するための動作制限値に設定するものであり、具体的には、以下の手順で行われる。
【0055】
〈1〉図7に示すように、信号光、記録時参照光および記録媒体の相対位置関係が設定されている場合において、この相対位置関係に基づき、信号光を構成する光線のうち記録時参照光の軸とのなす角の大きさが最小となる光線LS1と記録時参照光とにより形成される干渉縞K1の角度θK1と、該信号光を構成する光線のうち記録時参照光の軸Aとのなす角の大きさが最大となる光線LS2と、記録時参照光とにより形成される干渉縞K2の角度θK2と(図7中の各角度は、信号光の軸Aを始線として図中時計回りの角度を正、反時計回りの角度を負として表示している)を求める(記録時干渉縞角度算出ステップ)。
【0056】
図7に示すように信号光が集束している場合、信号光の入射角度は位置により異なる。信号光の軸Aに対する上述の光線LS1および光線LS2の角度をθS1、θS2とし、これらの光線LS1および光線LS2と参照光(軸Aに対する角度をθとする)によって形成される上記干渉縞K1およびK2の各角度θK1およびθK2は、上式(1)から、下式(9)、(10)により求めることができる。
【0057】
【数7】

【0058】
〈2〉上記相対位置関係に基づくブラッグ条件と、記録媒体の収縮率と、記録時干渉縞角度算出ステップにおいて求められた上記干渉縞の角度θK1およびθK2とに基づき、記録媒体の収縮により歪んだ場合の上記干渉縞K1およびK2をそれぞれ再生するのに最適な再生時参照光の角度φR1およびφR2を求める(再生時参照光角度算出ステップ)。
【0059】
図8に示すように、信号光が集束光の場合、信号光の入射角度が位置により異なることから、干渉縞の歪み方が場所により異なり、このため、歪んだ干渉縞を補償するための再生時参照光の角度も位置により異なることになる。記録媒体の収縮により歪んだ場合の干渉縞K1およびK2をそれぞれ再生するのに最適な再生時参照光の角度φR1およびφR2は、上式(7)から、それぞれ下式(11)、(12)により求めることができる。
【0060】
【数8】

【0061】
〈3〉再生時参照光角度算出ステップにおいて求められた角度φR1およびφR2と、これらを相加平均した中間角度φとのそれぞれの角度差Δφ(=φR1−φ)およびΔφ(=φR2−φ)を求める(角度差算出ステップ)。
【0062】
ここで、中間角度φは、下式(13)により求められ、角度差ΔφおよびΔφは、下式(14)および(15)によりそれぞれ求められる。
【0063】
【数9】

【0064】
〈4〉角度差算出ステップにおいて求められた上記角度差Δφを補償するために必要となる反射鏡面の動作量DDM1と、同じく上記角度差Δφを補償するために必要となる反射鏡面の動作量DDM2とを算出し、これらを比較して大なる方を反射鏡面の動作範囲を制限する動作制限値とする(動作制限値設定ステップ)。この意義は以下のとおりである。
【0065】
すなわち、場所により歪み方が異なる干渉縞からホログラムを再生するときには、図8に示すように、初めに上記中間角度φに再生時参照光の軸A´が位置するように、反射面鏡と記録媒体との相対角度を調整する。しかし、この相対角度を調整しただけでは、反射面鏡から反射される再生時参照光は、軸A´に沿って進行する平行光となるため、記録媒体の収縮により歪んだ場合の干渉縞K1およびK2の位置に入射する再生時参照光の角度も中間角度φと同じとなる。この中間角度φと、歪んだ場合の干渉縞K1およびK2をそれぞれ再生するのに最適な再生時参照光の角度φR1およびφR2との間には、上述の如く角度差ΔφおよびΔφが生じている。したがって、歪んだ場合の干渉縞K1およびK2を良好に再生するには、この角度差Δφ,Δφを補償する必要がある。
【0066】
この角度差Δφ,Δφは、遺伝的アルゴリズムを用いた制御により反射鏡面(薄膜ミラー51)が動作せしめられることによって最終的に補償されるものであるが、反射鏡面の動作範囲が必要以上に大きく設定されていると、制御過程において反射鏡面が、最終的に必要となる動作量を超えて動作せしめられ、これが要因となって補償に要する時間が長大化する虞がある。
【0067】
そこで、上述の角度差ΔφおよびΔφを補償するために必要となる反射鏡面の動作量DDM1およびDDM2を予め算出し、これらを比較して大なる方を動作制限値とするものである。本実施形態方法では、図9に示すように、波面制御器21のピン部材P,Pが、上記角度差Δφ,Δφを補償するためにそれぞれ動作するピン部材であるとして、その動作量DDM1,DDM2を算出する。薄膜ミラー51の中心軸Cからピン部材P,Pまでの距離(互いに等しい)をPDMとし、ピン部材P,Pの各動作量DDM1,DDM2によりピン部材P,Pの各位置における薄膜ミラー51の角度(中心軸Cと垂直な基板52に対する角度)が上記角度差Δφ,Δφに等しくなるとすると、DDM1およびDDM2は、下式(16)および(17)によりそれぞれ算出される。
【0068】
【数10】

【0069】
算出されたDDM1およびDDM2の大きさを比較し、DDM1>DDM2の場合には、DDM1を薄膜ミラー51の動作範囲の制限値とし、DDM1<DDM2の場合には、DDM2を薄膜ミラー51の動作範囲の制限値とする。すなわち、薄膜ミラー51の動作範囲Dは、DDM1>DDM2の場合には、下式(18)で表され、DDM1<DDM2の場合には、下式(19)で表されることとなる。
【0070】
【数11】

【0071】
角度多重記録方式を採用する場合には、上述した手順における記録媒体の角度θMは、多重記録される複数のページデータ毎に変化することとなる。そこで、記録媒体の回転角度が最大となる時点で記録されたページデータを再生する場合における薄膜ミラー51の動作量の最大値DDMM1と、回転角度が最小となる時点で記録されたページデータを再生する場合における薄膜ミラー51の動作量の最大値DDMM2とを、上述の手順に従ってそれぞれ算出し、これらを比較して大なる方を、薄膜ミラー51の動作制限値とする。すなわち、薄膜ミラー51の動作範囲Dは、DDMM1>DDMM2の場合には、下式(20)で表され、DDMM1<DDMM2の場合には、下式(21)で表されることとなる。
【0072】
【数12】

【0073】
このように薄膜ミラー51の動作範囲を限定することにより、余計な計算や検索が低減できるため、補償時間の短縮や補償精度の向上が可能になる。
【0074】
以下、本発明を適用した場合の効果を検証した結果について説明する。効果の検証は、図1に示す態様のホログラム再生装置を用い、角度多重記録方式を採用した場合について行った。
【0075】
記録再生するときの記録媒体11の角度(上記角度θ)は90°から100°に設定した。また、レンズ10の焦点距離を50mm、記録時の像の大きさを7.7mmとした。このとき、信号光の両端の角度(上記角度θS1およびθS2)は8.75°および-8.75°となった。また、記録時参照光の角度(上記角度θ)は40°とした。
【0076】
図9は、記録媒体11の角度が90°,95°および100°の各場合における、信号光の入射角度と、干渉縞歪みを補償するのに必要となる反射鏡面51の最大の動作量との関係を示している。記録媒体の角度が90°のときに、薄膜ミラー51の動作量が最大となり、このときの動作量は2μmであると求められた。
【0077】
これにより、薄膜ミラー51の動作範囲を0から2μmとし、この動作範囲において、前掲の特許文献1、非特許文献1に開示した遺伝的アルゴリズムを用いて、再生時参照光の波面の最適化を行った。
【0078】
図10に示すように、記録時と同じ波面の参照光を用いて再生されたページデータ像(a)と、薄膜ミラー51の動作範囲を0から2μmに制限し、遺伝的アルゴリズムを用いて補償した波面の参照光を用いて再生されたページデータ像(b)とを比較すると、(a)においては再生像が暗く再生データが得られない領域からも、(b)においては再生データが得られた。このことから、本発明を適用して、波面制御器の動作範囲を制限した場合においても光学的に干渉縞歪みを補償することができ、再生データの劣化を改善できることが確かめられた。
【0079】
また、薄膜ミラー51の動作範囲を制限せずに、同様の遺伝的アルゴリズムを用いて再生時参照光の波面の最適化を行った場合についても検証したところ、本発明を適用した場合では、制御ステップ数が64であったのに対し、動作制限値を設定しない場合には、制御ステップ数が192に達した。このことから、本発明を適用して、波面制御器の動作範囲を制限した場合には、制御ステップ数を大幅に減縮することが可能となり、光学的に干渉縞歪みを補償するのに要する時間を短縮化できることが確かめられた。
【0080】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に態様が限定されるものではない。
【0081】
例えば、波面制御器はデフォーマブルミラーに限られるものではなく、液晶パネルや、特定のゼルニケ係数を補正する液晶レンズ、あるいは音響光学変調素子、電気光学変調素子など複数の素子を組み合わせた光学系などでも構成することが可能である。
【0082】
また、波面制御器の制御方式としては、遺伝的アルゴリズムを用いたものに限られず、フィードバック制御やフィードフォワード制御などの他の方式を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0083】
1,201 レーザ光源
2,202 発散レンズ
3,203 コリメートレンズ
4,204 半波長板
5,205,222 ミラー
6,8,206,208 偏光ビームスプリッタ
7,24,207,224 シャッタ
9,209 空間光変調素子
10,12,210,212 レンズ
11,211 ホログラム記録媒体
13,213 CCD
21 波面制御器
40 計測制御装置
51 薄膜ミラー
52 基板
,P ピン部材
K1,K2 干渉縞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束する信号光が記録時参照光とともに照射されることにより干渉縞が記録されたホログラム記録媒体と、該ホログラム記録媒体の収縮により生じる干渉縞歪みを補償するために再生時参照光の光路中に配置される波面制御器と、を備えたホログラム再生装置において、前記再生時参照光の波面を最適化する際に前記波面制御器の反射鏡面の動作量を制御する動作量制御方法であって、
前記信号光、前記記録時参照光および前記ホログラム記録媒体の相対位置関係と、該相対位置関係に基づくブラッグ条件と、前記ホログラム記録媒体の収縮率とに基づき、前記再生時参照光の波面を最適化するために必要な前記反射鏡面の動作量の最大値を予測し、該最大値を、該波面を最適化する過程における該反射鏡面の動作範囲を制限するための動作制限値に設定することを特徴とする波面制御器の動作量制御方法。
【請求項2】
前記相対位置関係に基づき、前記信号光を構成する光線のうち前記記録時参照光の軸とのなす角の大きさが最小となる光線と該記録時参照光とにより形成される干渉縞K1の角度θK1と、該信号光を構成する光線のうち該記録時参照光の軸とのなす角の大きさが最大となる光線と該記録時参照光とにより形成される干渉縞K2の角度θK2と、を求める記録時干渉縞角度算出ステップと、
前記ブラッグ条件と、前記ホログラム記録媒体の収縮率と、前記記録時干渉縞角度算出ステップにおいて求められた前記干渉縞の角度θK1およびθK2とに基づき、該ホログラム記録媒体の収縮により歪んだ場合の前記干渉縞K1およびK2をそれぞれ再生するのに最適な再生時参照光の角度φR1およびφR2を求める再生時参照光角度算出ステップと、
求められた前記角度φR1およびφR2とこれらを相加平均した中間角度φとのそれぞれの角度差Δφ(=φR1−φ)およびΔφ(=φR2−φ)を求める角度差算出ステップと、
求められた前記角度差Δφを補償するために必要となる前記反射鏡面の動作量DDM1と、前記角度差Δφを補償するために必要となる前記反射鏡面の動作量DDM2とを算出し、これらを比較して大なる方を前記動作制限値とする動作制限値設定ステップと、を手順として含んでなることを特徴とする請求項1記載の波面制御器の動作量制御方法。
【請求項3】
前記ホログラム記録媒体が角度多重記録方式により複数の干渉縞が記録されたものである場合において、
前記ホログラム記録媒体の回転角度が最大となる時点で記録された干渉縞を再生する場合における前記反射鏡面の動作量の最大値DDMM1と、該回転角度が最小となる時点で記録された干渉縞を再生する場合における該反射鏡面の動作量の最大値DDMM2とを、請求項1または2記載の波面制御器の動作制御方法によりそれぞれ算出し、これらを比較して大なる方を前記動作制限値とすることを特徴とする波面制御器の動作量制御方法。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1項記載の波面制御器の動作量制御方法により前記動作制限値が設定された波面制御器を備えてなることを特徴とするホログラム再生装置。


【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図9】
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【図11】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−158825(P2011−158825A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22190(P2010−22190)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】