説明

注入管の地金付着防止方法

【課題】取鍋からタンディシュへ注入する溶鋼流およびタンディシュ内溶鋼の再酸化を防止しつつ、注入管内壁への地金付着を防止する方法を提供する。
【解決手段】取鍋から注入管によりタンディシュへ溶鋼を注入するに際して、前記注入管内を不活性ガスでシールするとともに、注入管下端とタンディシュ内溶鋼湯面との距離Z[m]を、次式(1)および(2)を満足する範囲として注入する注入管の地金付着防止方法。
0.05≦Z≦−0.1×t+0.25 (1)
t<2.0 (2)
ここで、t:注入管内の不活性ガス置換時間={(D/2)×π×L}/Q[min],D:注入管内径[m],L:注入管長さ[m],Q:不活性ガス流量[Nm/min]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼等の連続鋳造におけるタンディシュ注入管に関し、より詳しくは、取鍋からタンディシュへ注入する溶鋼流、およびタンディシュ内溶鋼の再酸化を防止するためにタンディシュに設置され、その内部に不活性ガスを導入するタンディシュ注入管(以下、注入管と称す)において、この注入管への地金付着を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼の連続鋳造においては、製品品質の悪化を防止するために溶鋼の再酸化を抑制する必要がある。特に、タンディシュにおいては、取鍋からタンディシュへの溶鋼流、およびタンディシュ内の溶鋼の再酸化を抑制するために、タンディシュ内の溶鋼にその一端を浸漬させた注入管が一般的に使用されている。
【0003】
しかし、この注入管においては、溶鋼湯面に浸漬された注入管の下端部分が冷却されて生じる地金に、取鍋からの溶鋼注入流が溶鋼湯面に衝突する際に発生するスプラッシュが注入管内壁に飛び散り、冷却されることにより生成する地金が堆積し、タンディシュへの正常な溶鋼注入が困難になるという問題がある。
【0004】
このような問題に対して提案されている従来技術に関し、以下図5および図6を参照しながら説明する。図5は従来例に係るタンディシュ注入管の構造を示す説明図である。そして、図5(a)はこの従来例に係る注入管を組み込んだ全体説明図であり、同図(b)は注入管の周壁部の構造を示す拡大説明図である。また、図6は、他の従来例に係るタンディシュ注入管を示す縦断面図である。
【0005】
図5において、この従来例に係る注入管14の下部における内壁面に、不活性ガスを吹き出し可能な有孔性耐火物18を、タンディシュ13内溶鋼15の湯面の上下近傍、即ち、注入管高さLの1/4〜1/3倍の範囲に位置するように埋設し、前記溶鋼15の湯面近傍に不活性ガスを吹き出すことで、溶鋼のシール効果を得るとともに、不活性ガス吹き出し部への地金付着を抑制している(特許文献1参照)。
【0006】
また、図6における他の従来例に係る注入管23の下部23aには、タンディシュ内溶鋼の表面近傍を境にして、上部に位置する第1吹き出し口10−1と、下部に位置する第2吹き出し口10−2とを設け、これら第1吹き出し口10−1と第2吹き出し口10−2から、第一不活性ガスGと第二不活性ガスGとを夫々個別に吹き出させ、上記従来例と同様に、溶鋼のシール効果を得るとともに、不活性ガス吹き出し部への地金付着を抑制している(特許文献2参照)。
【0007】
このような従来例は、共に溶鋼湯面の上下近傍に不活性ガスを吹き込むものであり、注入管内のシール効果は得られるものの、地金付着を抑制する効果は十分とは言い難い。具体的には、溶鋼湯面の上下近傍に不活性ガスを吹き込むことにより、溶鋼湯面近傍が直接冷却され、皮膜状の地金の生成を促進するという問題があった。
【0008】
また、溶鋼湯面近傍に不活性ガスを吹き込むために、注入管を構成する周壁内部に不活性ガスを導入しており、この不活性ガスの導入により注入管自体が冷却されることによって、溶鋼湯面近傍の溶鋼から注入管への抜熱、更には、スプラッシュにより注入管内壁に飛散した溶鋼から注入管への抜熱が大きく、何れも注入管内壁の地金付着を促進するという問題があった。
【特許文献1】特開平5−293614号公報
【特許文献2】特開平9−52156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
更に、前記理由により、不活性ガス吹き出し口に地金が付着した場合、この不活性ガスによる地金付着抑制効果が失われるばかりか、不活性ガスの吹き出し口に付着した地金が不活性ガス自身に冷却されて、新たに飛散した溶鋼スプラッシュが、低温となった地金上に付着して凝固し易くなり、地金の堆積を更に助長するという問題がある。
【0010】
従って、本発明は上記の問題点を解消するため、注入管の一端を溶鋼湯面に浸漬させないことに着目してなし得たものであって、その目的は、取鍋からタンディシュへ注入する溶鋼流およびタンディシュ内溶鋼の再酸化を防止しつつ、注入管内壁への地金付着を防止する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記のような事情に鑑み、種々の条件下で調査を行った結果、上記目的を満足し得る手法を知見して本発明をなすに至ったものである。
【0012】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る注入管の地金付着防止方法が採用した手段は、取鍋から注入管によりタンディシュへ溶鋼を注入するに際して、前記注入管内を不活性ガスでシールするとともに、注入管下端とタンディシュ内溶鋼湯面との距離Z[m]を、前記注入管内の不活性ガス置換時間t[min]で規定される次式(1)および(2)を満足する範囲として注入することを特徴とするものである。
0.05≦Z≦−0.1×t+0.25 (1)
但し、
t<2.0 (2)
【0013】
ここで、
t:注入管内の不活性ガス置換時間={(D/2)×π×L}/Q[min]
D:注入管内径[m]
L:注入管長さ[m]
Q:不活性ガス流量[Nm/min]
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る注入管の地金付着防止方法は、取鍋から注入管によりタンディシュへ溶鋼を注入するに際して、前記注入管内を不活性ガスでシールするとともに、注入管下端とタンディシュ内溶鋼湯面との距離Z[m]を、前記注入管内の不活性ガス置換時間t[min]で規定される上式(1)および(2)を満足する範囲として注入するので、注入管を溶鋼湯面に浸漬することによる皮張り状の地金生成や、溶鋼から注入管への抜熱に起因する地金凝固に伴なう地金付着の問題点が無くなり、このような地金の脱落に伴う介在物の混入の問題も解消し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態に係る注入管の地金付着防止方法について、以下図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る注入管の地金付着防止方法を説明するため、注入管近傍の縦断面を示した模式的断面図である。
【0016】
本発明に係る注入管1は、図1に示すように、溶鋼流5bの流量を調整するため取鍋スライドバルブ4を介して取鍋3下部に取り付けられ、その下端1aはタンディシュ2内に差し込まれて、取鍋3内の溶鋼5aを前記タンディシュ2へ注入するよう構成される。この注入管1上端には、不活性ガスを注入管1内に導入するための不活性ガス導入管6が設けられとともに、タンディシュ2上面はタンディシュ蓋7によって密閉されている。
【0017】
そして、前記不活性ガス導入管6から、NやAr等の不活性ガスを供給することによって、注入管1内とタンディシュ蓋7によって密閉されたタンディシュ2内空間部を不活性ガスでシールし、溶鋼流5bやタンディシュ2内溶鋼5cの再酸化を防止している。
【0018】
このような構成において、本発明に係る注入管1の地金付着防止方法は、取鍋3から注入管1によりタンディシュ2へ溶鋼5aを注入するに際し、不活性ガス導入管6から前記注入管1内に不活性ガスを導入してシールするとともに、注入管下端1aとタンディシュ2内溶鋼湯面Sとの距離Z[m]を、前記注入管1内の不活性ガス置換時間t[min]で規定される次式(1)および(2)を満足する範囲として注入するのである。
0.05≦Z≦−0.1×t+0.25 (1)
但し、
t<2.0 (2)
【0019】
ここで、
t:注入管内の不活性ガス置換時間={(D/2)×π×L}/Q[min]
D:注入管内径[m]
L:注入管長さ[m]
Q:不活性ガス流量[Nm/min]
【0020】
一般に、注入管1の地金付着に対しては、この注入管1を溶鋼湯面Sに浸漬させなければ、溶鋼湯面Sの皮張りによる地金生成をなくすことができ、地金生成の起点を排除することができる。更に、注入管下端1aから湯面Sまでの距離Zを長くすればする程、溶鋼流5bのスプラッシュ付着による注入管1への地金成長を低減することができる。
【0021】
しかしながら、注入管下端1aから溶鋼湯面Sまでの距離Zを大きくすればする程、タンディシュ2内への大気の侵入が増大し、溶鋼5cの再酸化に伴う溶鋼清浄度が悪化する。このタンデイシュ2内への大気の侵入度合は、注入管1内に導入する不活性ガス流量Qと、注入管1内容積から求められる注入管1内ガス置換時間tに依存する。
【0022】
従って、注入管下端1aから溶鋼湯面S間の距離Zを、不活性ガスの流量Qの変更による置換時間tに応じて適正な条件にすれば、溶鋼再酸化による溶鋼清浄度の悪化を回避することができる。上式(1)はこのような観点から、次の実施例で述べるように種々の実施結果を基に実験的に求められたものである。
【0023】
即ち、上式(1)の作用について述べるならば、注入管下端1aから溶鋼湯面S間の距離Zが、次式(3)に示す如く0.05[m]未満であると、前記注入管下端1aがタンディシュ2内の溶鋼湯面Sから近すぎて、溶鋼流5bが前記溶鋼湯面Sに衝突する際発生するスプラッシュが注入管1内壁に地金として付着する。
0.05>Z (3)
【0024】
また、注入管下端1aから溶鋼湯面S間の距離Zが、前記注入管1内の不活性ガス置換時間t[min]で規定される次式(4)の範囲にあると、前記注入管下端1aから溶鋼湯面S間の距離Zに対して注入管1内の不活性ガス置換時間tがかかり過ぎる。即ち、注入管1の大きさに対して、不活性ガス流量が不足してくるため雰囲気の清浄度が次第に悪化し、溶鋼の再酸化物を生成する傾向にある。そして、t≧2.0[min]に至ると、注入管下端1aから溶鋼湯面S間の距離Zが0.05[m]以下となっても、清浄度の改善は見込めない。
Z>−0.1×t+0.25 (4)
【0025】
<実施例>
次に、本発明に係る注入管の地金付着防止方法に関し、連続鋳造機において、内径Dの異なる2種類の注入管を用いて実験した実施例について以下説明する。即ち、前記2種類の注入管において、注入管に導入した不活性ガスArの流量を変更して、この注入管内の不活性ガス置換時間tを変化させるとともに、各ガス置換時間tにおいて、注入管下端からタンディシュ内溶鋼湯面間の距離Zを変化させて、地金付着状況と溶鋼再酸化状況について調査した。このような実験結果につき、表1および図2〜図4を参照しながら説明する。
【0026】
【表1】

【0027】
ここで、表1は、上記連続鋳造における実験条件および結果のまとめを示す。また、図2は、不活性ガス置換時間t=0.13[min]における注入管下端からタンディシュ内溶鋼湯面間の距離Zと注入管残存内径dおよび介在物個数との関係を、図3は、不活性ガス置換時間t=0.90[min]における前記距離Zと注入管残存内径dおよび介在物個数との関係を夫々示す図である。また、図4は、注入管下端からタンディシュ内溶鋼湯面間の距離Zの不活性ガス置換時間tに対する適正領域を説明するための図である。
【0028】
各実験条件における溶鋼の再酸化状況については、タンディシュ内の溶鋼サンプルを採取し、サンプル断面を研磨した後、EPMA分析装置により、5μm以上の酸化物系介在物の単位面積当たりの個数を測定し、これを表1に介在部個数[個/cm]として記入して示した。また、注入管内への地金付着量は、図1に示す如く、使用後の注入管内に付着した地金Mにより狭められた注入管内径の最少内径d[m]を測定し、これを表1に注入管内残存内径d[m]として示した。
【0029】
そして先ず、前記表1において、同一置換時間tでのデータ数が多いt=0.13[min]と、t=0.90[min]の2ケースに着目し、各ケースにおける注入管下端からタンディシュ内溶鋼湯面間の距離Zと、注入管残存内径dおよび介在物個数との関係を、各々図2および図3の横軸、縦軸にプロットして示す。
【0030】
すると、図2および図3ともに、注入管下端からタンディシュ内溶鋼湯面間の距離Zが0.05[m]未満では、注入管残存内径dが大きく低減し、地金付着状況が悪化していることが分かる。一方、前記距離Zのある程度の増加までは注入管残存内径dには大きな変化はないが、ある距離Zを境に介在物個数が急激に増加している。
【0031】
そして、図2および図3ともに、この介在物個数が、ある距離Zを境に12個を越えると急激に増加していることが分かる。この原因は、注入管下端からタンディシュ内溶鋼湯面間の距離Zがある値を超えると、不活性ガス雰囲気への酸素混入により溶鋼清浄度が急激に悪化するためである。
【0032】
上記結果を基に、表1において、地金付着については、前記注入管下端からタンディシュ内溶鋼湯面間の距離Zが0.05[m]未満では不良(×印)、前記距離Zが0.05[m]以上では良好(○印)とし、清浄度については、介在物個数が12個を越えると不良(×印)、12個以下では良好(○印)として評価した。
【0033】
このような評価結果を基に、横軸に不活性ガス置換時間t[min]を、縦軸に注入管下端からタンディシュ内溶鋼湯面間の距離Z[m]を取り、表1に示した全データを、清浄度と地金付着ともに良好な場合◎印、清浄度は不良であるが地金付着性が良好な場合△印、また、清浄度は良好であるが地金付着性が不良な場合▲印としてプロットすると、図4に示す通りである。
【0034】
即ち、図4において、実線で示した次式(5)を含まないこれより上側は、地金付着性は良好であるが清浄度が不良な領域、破線で示した次式(6)を含まないこれより下側は、清浄度は良好であるが地金付着が不良な領域である。
Z=−0.1×t+0.25 (5)
Z=0.05 (6)
即ち、上式(5)および(6)に挟まれ、次式(1)で表された図4斜線内の領域が、清浄度および地金付着ともに良好な領域である。
0.05≦Z≦−0.1×t+0.25 (1)
【0035】
但し、
0.05<−0.1×t+0.25 (7)
であるので、上式(1)は、次式(2)の範囲でのみ成り立つ式である。
t<2.0 (2)
【0036】
即ち、上記(1)式右辺から求められる値は、注入管への不活性ガス置換時間tに依存しており、前記置換時間tが長い程、即ち、前記注入管寸法が大きすぎたり、あるいは不活性ガス流量が少なすぎたりする程、注入管やタンディシュ空間内の不活性ガス雰囲気に酸素が混入して溶鋼清浄度が悪化する傾向にあることを示している。
【0037】
以上のように、本発明に係る注入管の付着地金防止方法は、前記注入管内を不活性ガスでシールするとともに、注入管下端とタンディシュ内溶鋼湯面との距離Z[m]を、前記注入管内の不活性ガス置換時間t[min]で規定される前式(1)および(2)を満足する範囲として鋳造を行うことにより、溶鋼再酸化による清浄度悪化を回避しつつ注入管内の地金付着を大幅に低減することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態に係る注入管の地金付着防止方法を説明するため、注入管近傍の縦断面を示した模式的断面図である。
【図2】ガス置換時間t=0.13[min]における、注入管下端とタンディシュ内溶鋼湯面間距離Zと注入管残存内径および介在物個数との関係を示す図である。
【図3】ガス置換時間t=0.90[min]における、注入管下端とタンディシュ内溶鋼湯面間距離Zと注入管残存内径および介在物個数との関係を示す図である。
【図4】注入管下端とタンディシュ内溶鋼湯面間距離Zの不活性ガス置換時間tに対する適正領域を説明するための図である。
【図5】従来例に係るタンディシュ注入管の構造を示す説明図である。そして、同図(a)はこの従来例に係る注入管を組み込んだ全体説明図であり、同図(b)は注入管の周壁部の構造を示す拡大説明図である。
【図6】他の従来例に係るタンディシュ注入管を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0039】
M…付着地金, S…溶鋼湯面,
1…注入管, 1a…注入管下端,
2…タンディシュ, 3…取鍋, 4…取鍋スライドバルブ,
5a…取鍋内溶鋼, 5b…溶鋼流, 5c…タンディシュ内溶鋼,
6…不活性ガス導入管, 7…タンディシュ蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋から注入管によりタンディシュへ溶鋼を注入するに際して、前記注入管内を不活性ガスでシールするとともに、注入管下端とタンディシュ内溶鋼湯面との距離Z[m]を、前記注入管内の不活性ガス置換時間t[min]で規定される次式(1)および(2)を満足する範囲として注入することを特徴とする注入管の地金付着防止方法。
0.05≦Z≦−0.1×t+0.25 (1)
但し、
t<2.0 (2)
ここで、
t:注入管内の不活性ガス置換時間={(D/2)×π×L}/Q[min]
D:注入管内径[m]
L:注入管長さ[m]
Q:不活性ガス流量[Nm/min]

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−319873(P2007−319873A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150358(P2006−150358)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】