注入装置
【課題】容器内に収容された薬液の流通性が確保され、複数種類の薬液を注入する場合においても、注射を受ける者への負担が低減された注入装置を提案する。
【解決手段】注入装置は、薬液が収容された容器と、薬液を受け入れ可能な内部空間44を有するハウジング40と、ハウジング40から外部に突出し、内部空間44と連通する複数の第1中空針43と、内部空間44と連通し各々の第1中空針44の流路断断面積より大きい流路断面積を有し、容器に挿入することで内部空間44と容器内の空間とを連通可能な第2中空針41とを含み、容器から着脱可能とされた多針ユニット13と、薬液を押圧して、容器内に挿入された第2中空針43から内部空間44に薬液を押出し可能な押出機構とを備える。
【解決手段】注入装置は、薬液が収容された容器と、薬液を受け入れ可能な内部空間44を有するハウジング40と、ハウジング40から外部に突出し、内部空間44と連通する複数の第1中空針43と、内部空間44と連通し各々の第1中空針44の流路断断面積より大きい流路断面積を有し、容器に挿入することで内部空間44と容器内の空間とを連通可能な第2中空針41とを含み、容器から着脱可能とされた多針ユニット13と、薬液を押圧して、容器内に挿入された第2中空針43から内部空間44に薬液を押出し可能な押出機構とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入装置に関し、特に、薬液などを注入するための注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人体に針を刺し込み薬液を人体内に注入する注入装置が各種提案されている。さらに、近年では、注射を受ける者に与える痛みの軽減が図られた注入装置が求められている。
【0003】
たとえば、注射針としてマイクロニードルを採用することで、注射を受ける者に与える苦痛を低減した注射器が提案されている(下記特許文献1〜4)。
【特許文献1】特開2002−172169号公報
【特許文献2】特開2005−87521号公報
【特許文献3】特開2004−503341号公報
【特許文献4】特開2004−501725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2002−172169号公報および特表2004−501725号公報に記載された注射器は、通常の針に代えてマイクロニードルを用いたものであり、薬液が収容された容器とマイクロニードルとが一体になっている。また、特開2004−503341号公報に記載された投与器具は、ハウジング内に薬液が収容された袋と、この袋を穿孔するカニューレと皮膚を穿刺する複数の微細針とからなる両頭針とを有するものであり、やはり薬液が収容された容器と注射針とが一体となっている。このため、複数種類の薬液を注入する場合には、注射器自体を交換する必要があり、何度も皮膚に針を刺す必要が生じて、注射を受ける者への負担が大きくなる。
【0005】
一方、特開2005−87521号公報の図4には、微細針を備えたハウジングと、薬液が収容された容器とが別体である薬液注入装置が開示されている。この薬液注入装置によれば、微細針を患者に穿刺した状態で薬液容器を交換することにより、皮膚への穿刺が一度で複数の薬液の注入が可能である。しかし、このような薬液注入装置では、微細針の基端側を直接薬液が収容された容器の封止部材に差し込むので、微細針の基端部が折れたり、封止部材によって目詰まりするおそれがある。
【0006】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、容器内に収容された薬液の流通性が確保され、複数種類の薬液を注入する場合においても、注射を受ける者への負担が低減された注入装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る注入装置は、薬液が収容された容器と、薬液を受け入れ可能な内部空間を有するハウジングと、ハウジングから外部に突出し、内部空間と連通する複数の第1中空針と、内部空間と連通し各々の第1中空針の流路断面積より大きい流路断面積を有し、容器に挿入することで内部空間と容器内の空間とを連通可能な第2中空針とを含み、容器から着脱可能とされた多針ユニットと、薬液を押圧して、容器内に挿入された第2中空針から内部空間に薬液を押出し可能な押出機構とを備える。好ましくは、上記内部空間内に設けられ、薬液を濾過可能なフィルタをさらに備える。好ましくは、上記押出機構は、容器内に収容される。好ましくは、上記押出機構は、容器に設けられた気体収容部に充填され、大気圧より高圧とされた気体と、気体からの圧力によって容器内を移動可能とされ、容器内を薬液を収容可能な薬液収容部と気体収容部とに規定する規定部材とを含む。好ましくは、上記気体収容部に気体を供給可能な供給部をさらに備える。好ましくは、上記第2中空針とハウジングとの間を接続する接続管をさらに備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る注入装置においては、薬液が収容された容器を穿孔する第2中空針と薬液を注入する第1中空針とを別体としており、第2中空針を第1中空針より薬液の流路断面積より大きくしているので、第2中空針が容器を穿孔する際に屈曲したり、目詰まりしたりすることを抑制することができ、良好に薬液を流通させることができる。また、多針ユニットは、容器から着脱可能とされているので、容器を交換することで1度の皮膚への穿刺で複数種類の薬液を注入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1から図20を用いて、本実施の形態に係る薬液注入装置100について説明する。なお、同一または同一に相当する構成については、同一の符号を付して説明を繰り返さない場合がある。
【0010】
図1は、本実施の形態に係る薬液注入装置100の側断面図である。この図1に示されるように、薬液注入装置100は、薬液が収容された容器10と、容器10に着脱可能に設けられた多針ユニット13とを備えている。
【0011】
容器10は、一端に形成された開口部16aを有する収容ケース16と、収容ケース16の開口部16aを閉塞する閉塞部材12と、収容ケース16に閉塞部材12を固定する固定部材11と、収容ケース16内に収容された薬液Aを加圧して外部に押し出そうとする押出機構とを備えている。
【0012】
収容ケース16は、薬液Aを収容する薬液収容部20と、高圧の気体Bが収容された気体収容部21と、収容ケース16内を移動可能に設けられ、収容ケース16内を薬液収容部20と気体収容部21とに規定する規定部材46とを備えている。また、収容ケース16には、気体収容部21内に気体Bを供給可能な切替弁30が設けられている。収容ケース16は、たとえば、PET(polyethylene terephthalate)等から構成されている。
【0013】
薬液Aとしては、たとえば、インスリン製剤、成長ホルモン製剤、インターフェロン製剤等の高分子量薬品や、モルヒネ、エピネフリン等が挙げられる。薬液Aの収容量は、各種疾患に合わせて適宜変更される。なお、図1に示すように、薬液注入装置100を携帯可能とする場合には、薬液収容部20の容積は、たとえば、5ml〜50ml程度とされている。
【0014】
押出機構は、規定部材46と、気体収容部21内に充填された気体Bとを備えている。気体Bは、容器10の周囲の圧力(大気圧)より高く設定されており、ガスケット部14を介して薬液Aを押圧している。なお、気体Bは、切替弁30によって外部から気体収容部21内に供給可能とされている。
【0015】
規定部材46は、ゴムなどの樹脂から構成されるガスケット部14と、ガスケット部14の形状を維持するためにガスケット部14内に埋め込まれたプランジャ15とを備えている。このガスケット部14は、閉塞部材12が破断等して、薬液収容部20内と外部が連通すると、気体Bからの圧力によって薬液収容部20内の薬液Aを外部に押出すように、収容ケース16内を移動する。
【0016】
閉塞部材12は、たとえば、ポリエチレンやゴムなどによって構成されている。固定部材11は、開口部16aの中央部に位置する部分に形成された開口部5を備えており、閉塞部材12の一部が露出している。そして、固定部材11は、収容ケース16の開口部16aを閉塞する閉塞部材12の外周縁部を開口部16aの縁部に押圧固定している。
【0017】
図2は、多針ユニット13の詳細な構成を示す側断面図である。この図2に示す例においては、多針ユニット13は、内部空間44が規定されたハウジング40と、ハウジング40に設けられた多針構造体(第1中空針)45と、ハウジング40の一方の面から外方に向けて突出する穿孔針(第2中空針)41とを備えている。
【0018】
多針構造体45は、穿孔針41に対して反対側に位置するハウジング40の表面に嵌め込まれている。図3は、多針構造体45の詳細を示す斜視図である。この図3に示す例においては、多針構造体45は、平板状に形成された基板42と、この基板42の主表面上に形成された複数のマイクロニードル43とを備えている。各マイクロニードル43は、略円錐形状とされている。
【0019】
マイクロニードル43の形状を鋭利な円錐形状とすることにより、マイクロニードル43を皮膚内にスムーズに挿入することができる。また、マイクロニードル43は、ポリ乳酸(polylactic acid, PLA)や、L 型ポリ乳酸(PLLA)等の分解性高分子材料の中では比較的強度・剛性が高いものから構成されている。マイクロニードル43の高さは、約250μm〜約1000μm程度とされている。マイクロニードル43の底面の直径は、200μm程度とされている。このような小径かつ高さが数百μm程度とされているので、マイクロニードル43が痛点をつくおそれが小さく、無痛で皮膚に挿入することができる。マイクロニードル43には、マイクロニードル43の上端部から基板42の表面のうちマイクロニードル43が位置する表面と反対側に位置する表面にまで達する貫通孔43aが形成されている。そして、この貫通孔43aは、図2に示す内部空間44と連通している。貫通孔43aの直径は、たとえば、20μm程度とされている。
【0020】
図2において、多針ユニット13は、ハウジング40の上面から外部に突出し、内部空間44に連通する穿孔針41を備えている。穿孔針41は、ステンレス等の金属材料から構成されている。そして、穿孔針41の底面は、たとえば、5.0×5.0(mm2)程度とされており、高さは、たとえば、7.0mm程度とされている。
【0021】
そして、この穿孔針41の断面積(薬液が流通する流路断面積)S2は、図3に示す各マイクロニードル43の貫通孔43aの断面積(流路断面積)S1よりも、大きくなっている。さらに、図3に示す各マイクロニードル43の貫通孔43aの断面積S1の合計よりも、図2に示す穿孔針41の断面積S2の方が大きい。このように、穿孔針41は、マイクロニードル43より高く、さらに底面積も広く、剛性の高いものとなっている。
【0022】
上記のような薬液注入装置100を用いて、薬液を人体内に注入するときには、まず、図4に示すように、多針ユニット13を皮膚200に押さえつけて、マイクロニードル43を皮膚200内に挿入する。
【0023】
皮膚200は、外表面側から表皮201と、真皮202と、真皮202の下の皮下組織203とを有している。この皮下組織203の下面側には、筋層204が位置している。そして、人の腕の表皮201の厚みは、40μm〜130μm、真皮202の厚さは1mm〜3mm程度となっている。
【0024】
マイクロニードル43の高さは、250μm〜1000μmとされているため、マイクロニードル43の先端部は、少なくとも真皮202に達する。また、多針ユニット13を皮膚200に押圧する際に、皮膚200の表面がへこんだとしても、マイクロニードル43の先端部は、真皮202まで達することができる。なお、マイクロニードル43の高さをさらに高くすることで、皮下組織203に達するようにしてもよい。
【0025】
マイクロニードル43は、基板42上に複数アレイ状に配置されているため、マイクロニードル43を皮膚200に挿入する際に、いずれかのマイクロニードル43に目詰まりが生じたとしても、他のマイクロニードル43によって薬液を注入することができる。
【0026】
そして、真皮202にまでマイクロニードル43が達した状態で、図1に示す容器10を多針ユニット13に装着する。この際、多針ユニット13の穿孔針41が図1に示す閉塞部材12を穿孔して、容器10内の薬液収容部20と多針ユニット13の内部空間44とが連通する。
【0027】
ここで、穿孔針41は、マイクロニードル43よりも剛性が高く、屈曲しにくく、確実に閉塞部材12を貫通することができる。さらに、穿孔針41の流路断面積は、全てのマイクロニードル43の流路断面積の合計よりも大きいため、閉塞部材12を穿孔する際に、穿孔針41に目詰まりが生じることを抑制することができる。
【0028】
なお、閉塞部材12がゴムなどの弾性変形可能な部材とされた場合には、穿孔針41が閉塞部材12を穿孔した際に、穿孔針41の周囲を閉塞部材12が締付け、薬液Aの漏れを抑制することができる。また、穿孔針41が閉塞部材12を穿孔した際に、固定部材11の外表面と多針ユニット13の表面とが当接して、薬液Aの漏れが抑制される。
【0029】
ここで、マイクロニードル43が皮膚200内に挿入され、穿孔針41が閉塞部材12を穿孔すると、図1に示すガスケット部14を介して気体Bが薬液Aを押圧する。このため、ガスケット部14が薬液収容部20を狭めるように変位すると共に、薬液収容部20内に収容された薬液Aが図4に示す内部空間44に流入する。内部空間44に流入した薬液Aは、各マイクロニードル43の貫通孔43aを通って真皮202または皮下組織203内に注入される。そして、真皮202内または皮下組織203内に注入された薬液は、抹消血管から静脈に吸収される。
ここで、薬液Aを注入する動力源は、容器10内に収容された気体Bの圧力を用いているので、外部の電源等と接続する必要がない。したがって、薬液注入装置100は、小型かつ軽量であり、携帯することが可能で、日常生活の中で持続的に皮下注射を行なうことができる。さらに、気体Bの圧力や穿孔針41の断面積S2等を調整することで、薬液Aの注入速度を調整することができる。
【0030】
多針ユニット13を皮膚200に穿刺したり、容器10を多針ユニット13に装着する直前に、図1に示す切替弁30から気体Aを気体収容部21内に所定圧になるように供給するのが好ましい。これにより、使用前の容器10を保管している間に、気体Bが外部に漏れ、気体Bの圧力が低下したとしても、使用時に所定圧を確保することができる。
【0031】
また、複数種類の薬液を皮下注射する際には、容器10を多針ユニット13から取り外し、別の薬液が収容された容器を再度多針ユニット13に装着することで、複数種類の薬液を注入することができる。
【0032】
特に、多針ユニット13を皮膚200に穿刺した状態で、容器10の交換をすることができるので、一度の穿刺で複数種類の薬液の注入を行なうことができ、注射される者の負担を軽減することができる。
【0033】
なお、多針ユニット13のハウジング40の外周面に翼部を設けて、この翼部をテーピングして、多針ユニット13を皮膚200に固定してもよく、また、ハウジング40の皮膚接触面に粘着材を設けて、多針ユニット13を皮膚200に固定するようにしてもよい。
【0034】
多針ユニット13の内部空間44は、穿孔針41から流入した薬液を全てのマイクロ針43から流出させるためのものであり、その機能を果たすことができる限り、デッドスペースの問題からなるべく容積が小さいことが好ましい。内部空間44は図2に示されるように完全に空間が形成されたものであってもよいが、図5に示されるようにハウジング40の穿孔針41が設けられる側の内表面に溝441が形成されたり、あるいは図6に示されるように基板42の内表面に溝442が形成されてもよい。これらの溝441、442はいずれか一方が形成されてもよいし、両方が形成されてもよいが、後述するフィルタ46を配置する場合にはハウジング40側の溝441が形成されることがより好ましい。
【0035】
図7は、多針ユニット13の第1変形例を示す断面図である。この図7に示す例においては、多針ユニット13Aは、内部空間44に設けられ、内部空間44を上部空間と下部空間とに区分するフィルタ46をさらに備える。このフィルタ46は、上部空間に流入した薬液A中に混入した細菌・真菌・微小異物・気泡等を除去したり、配合変化や温度変化で生じた微小沈殿物を濾過する。そして、異物等が除去された薬液Aが下部空間を通り、マイクロニードル43から皮膚200内に注入される。フィルタ46としては、例えばガラス片、ゴム片、繊維片、金属片等の除去を目的とした、約5μmのポアサイズを有する異物除去フィルタや、大腸菌やブドウ球菌等の除去を目的とした、約0.2μmのポアサイズを有する除菌フィルタが採用される。フィルタ46は多針ユニット13Aの内部空間44に配置されるものであるが、ハウジング40と基板42との間に挟持されることにより、実質的に内部空間44全体に配置されてもよい。なお、このフィルタ46の目の粗さを調整して、注入速度の調整を図ることもできる。
【0036】
図8は、多針ユニット13の第2変形例を示す断面図である。この図8に示す例においては、多針ユニット13Bは、穿孔針41が設けられた接続具70と、穿孔針41とハウジング40の内部空間44とを連通する接続管60とを備えている。接続具70は多針ユニット13Bとは別に置かれるため、薬液が収容された容器を交換する場合に穿孔針41が閉塞部材12に穿刺される際の衝撃が直接注射を受ける者に伝わるおそれがない。このような多針ユニット13Bは、500ml〜1000ml程度の薬液Aが収容された容器10に穿孔針41を挿入し、脱水症の高齢者等に約24時間の持続皮下注射による補液を行なう場合などに用いられる。
【0037】
図9は、多針ユニット13および容器10の第3変形例を示す断面図である。この図9に示されるように、容器10の固定部材11の外周面には、環状の突出部51が形成されている。多針ユニット13Cは、穿孔針41が設けられた表面に形成され、突出部51と係合する係合部50を備えている。
【0038】
図10は、多針ユニット13Cと容器10とが係合した状態を示す断面図である。図9および図10に示されるように、容器10が多針ユニット13Cへ向かって押し込まれることで、係合部50と突出部51とは係合し、容器10と多針ユニット13Cとを連結固定することができる。容器10と多針ユニット13Cとを連結したときに初めて穿孔針41が閉塞部材12を貫通するような構成とすることにより、皮膚に穿刺する前の多針ユニット13Cと容器10との誤接続を防止することができる。また、突出部に複数の切り欠き部を設け、係合部をそれに対応する形状とすることにより、切り欠き部に係合部50を通過させ、その後、容器10を回転させることで係合部50と突出部51とを係合させる構成としてもよい。なお、容器10と多針ユニット13Cとの連結方法は、他の方法であってもよい。
【0039】
図11は、多針ユニット13の第4変形例を示す断面図である。この図11に示されるように、多針ユニット13Dは、穿孔針41が設けられたハウジング40の表面に形成された膨出部54を備えている。膨出部54は、穿孔針41の基部側から先端部側に向かうにしたがって、先細とされており、周面55がテーパ状とされている。固定部材11の開口部53は、固定部材11の外表面側から内表面側に向かうにしたがって、先細となるように傾斜している。
【0040】
そして、多針ユニット13Dを容器10に装着すると、多針ユニット13の膨出部54の周面55と、固定部材11の開口部53の内表面とが当接し、密着する。これにより、穿孔針41が閉塞部材12を貫通したときに、外部に薬液が漏れ出ることを抑制することができる。多針ユニット13Dには、前記膨出部54と固定部材11との密着をより確実にするために、さらに固定手段が設けられていてもよい。このような固定手段としては、図9および図10に示されるような係合部50と突出部51との係合の他、ネジによる係合などの公知の固定手段が採用される。
【0041】
図12は、本実施の形態に係る薬液注入装置100の第1変形例を示す断面図である。この薬液注入装置100Aにおいては、押出機構として、バネ等の弾性部材31を採用している。そして、この弾性部材31で規定部材46を押圧している。薬液収容部20には、外部から薬液を供給可能な薬液供給部32が設けられている。
【0042】
この薬液注入装置100Aにおいては、弾性部材31の弾性係数を調整することで薬液の注入時間を調整することができる。
【0043】
図13は、本実施の形態に係る薬液注入装置100の第2変形例を示す断面図である。この薬液注入装置100Bにおいては、容器10の収容ケース16には、薬液Aが充填され、弾性変形可能なバルーン90が収容されている。バルーン90内に収容された薬液Aは、薬液Aの充填により膨張したバルーン90の収縮力によって加圧されている。そして、バルーン90は、収容ケース16に形成された筒部92および筒部91に接続されている。筒部92は、閉塞部材12によって閉塞されており、筒部91は、図示されない切替弁によって開閉可能とされている。
【0044】
このため、穿孔針41によって、閉塞部材12が穿孔されると、薬液Aが多針ユニット13に流れ、皮下注入される。
【0045】
ここで、多針構造体45の製造方法について説明する。マイクロニードル43は、PCT(Plane-pattern to Cross-section Transfer:断面転写法)法を用いたX線リソグラフィにより製造されており、図14から図20を用いて詳細に説明する。
【0046】
図14は、マイクロニードル43の製造工程の第1工程を示す説明図である。この図14に示されるように、レジストステージ上に配置された金属基板150の主表面上に、厚さ数百μmのPMMA(polymethylmethacrylate:ポリメタクリル酸メチル)層151を形成する。そして、SR光X線をマスク152に向けて照射すると共に、X線露光中に、チャンバ内において、金属基板150およびPMMA層151をたとえば、2mm/secの速さで、1軸方向に往復運動させる。
【0047】
マスク152は、たとえば、厚さ50μmのポリイミドと、たとえば、AuなどからなるX線の吸収体153と、Alなどからなるフレームとを備えている。吸収体153は、マスク152の表面上に形成されており、複数の三角形が一方向に配列するように形成されている。なお、X線露光中においては、三角形状とされた吸収体153は、頂点部と底辺部とが、PMMA層151の移動方向に配列するように配置される。
【0048】
X線の発生装置としては、立命館大学SRセンタにある超伝導小型シンクロトロン放射装置「AURORA」を用い、放射光波長は0.15nmから0.73nmの幅があり、ピーク波長は0.4nmとされている。
【0049】
図15は、上記第1工程後におけるPMMA層151の斜視図である。上記のように、PMMA層151に露光処理を行なうと、露光部分の高分子の連鎖が切れて分子量が減少して現像液に溶解可能な部分151Bと、未露光部分151Aが形成される。
【0050】
この図15に示すように、未露光部分151Aは、底面が四角形状とされ、両側面が三角形状とされ、一方向に向けて配列する。
【0051】
図16は、マイクロニードル43の製造工程の第2工程を示す説明図である。この図16に示されるように、三角形状に形成された吸収体153の底辺部から頂点部に向かう方向と、三角柱形状とされたPMMA層151が延在する方向とが交差するようにマスク152およびPMMA層151を配置する。具体的には、図14および図15に示す状態から、マスク152の位置を固定した状態でPMMA層151を略90度回転させる。
【0052】
そして、X線により露光処理を行なう際に、PMMA層151を、吸収体153の底辺部から頂点部に向かう方向に往復運動させる。その後、現像液により露光部分を除去すると共に、未露光部分を金属基板150上に残留させる。
【0053】
図17は、上記第2工程後において、金属基板150の表面上に残留したPMMA層151を示す斜視図である。この図17に示されるように、金属基板150の表面上には、四角錐形状とされたPMMA層151が複数形成される。
【0054】
図18は、マイクロニードル43の製造工程の第3工程を示す説明図である。この図18に示されるように、円環状に形成されたX線の吸収体155が形成されたマスク154をPMMA層151の上方に配置する。吸収体155の外径は、たとえば、100μmとされ、中空部分の直径は、たとえば30μmとされている。そして、露光処理を行い、その後、現像処理を行なう。
【0055】
図19は、上記第3工程によって、金属基板150の表面上に残留したPMMA層151を示す斜視図である。この図19に示されるように、金属基板150の主表面上には、上端部から金属基板150の表面にまで達する貫通孔151aが形成され、円錐形状とされたPMMA層151が形成される。この円錐形状とされたPMMA層151は、図3に示すマイクロニードル43と同様の形状となっている。
【0056】
図20は、マイクロニードル43の製造工程の第4工程を示す説明図である。この図20に示されるように、形成されたPMMA層151のパターン上に、Ni等のメッキによって、金属を堆積させて金属構造体160を形成する(電鋳工程)。
【0057】
その後、未反応のPMMA層151を除去して、マイクロニードル43のパターンが模られた金属構造体160を得ることができる。そして、この金属構造体160を金型として、図2に示すマイクロニードル43が複数形成された多針構造体45を製造することができる。
【0058】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の
範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。さらに、上記数値などは、例示であり、上記数値および範囲にかぎられない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、薬液などを注入するための注入装置に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施の形態に係る薬液注入装置の側断面図である。
【図2】多針ユニットの詳細な構成を示す側断面図である。
【図3】多針構造体の詳細を示す斜視図である。
【図4】多針ユニットを皮膚に装着した状態を示す断面図である。
【図5】ハウジングの穿孔針が接続された内表面を示す斜視図である。
【図6】基板を上方から見た斜視図である。
【図7】多針ユニットの第1変形例を示す断面図である。
【図8】多針ユニットの第2変形例を示す断面図である。
【図9】多針ユニットおよび容器の第3変形例を示す断面図である。
【図10】多針ユニットと容器とが係合した状態を示す断面図である。
【図11】多針ユニットの第4変形例を示す断面図である。
【図12】本実施の形態に係る薬液注入装置の第1変形例を示す断面図である。
【図13】本実施の形態に係る薬液注入装置の第2変形例を示す断面図である。
【図14】マイクロニードルの製造工程の第1工程を示す説明図である。
【図15】第1工程後におけるPMMA層の説明図である。
【図16】マイクロニードルの製造工程の第2工程を示す説明図である。
【図17】第2工程後において、金属基板の表面上に残留したPMMA層を示す説明図である。
【図18】マイクロニードルの製造工程の第3工程を示す説明図である。
【図19】第3工程によって、金属基板の表面上に残留したPMMA層を示す説明図である。
【図20】マイクロニードルの製造工程の第4工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0061】
10 容器、11 固定部材、12 閉塞部材、13 多針ユニット、14 ガスケット部、15 プランジャ、16 収容ケース、20 薬液収容部、21 気体収容部、30 切替弁、32 薬液供給部、40 ハウジング、41 穿孔針、43 マイクロニードル、44C フィルタ、44 内部空間、45 多針構造体、46 規定部材、100 薬液注入装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入装置に関し、特に、薬液などを注入するための注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人体に針を刺し込み薬液を人体内に注入する注入装置が各種提案されている。さらに、近年では、注射を受ける者に与える痛みの軽減が図られた注入装置が求められている。
【0003】
たとえば、注射針としてマイクロニードルを採用することで、注射を受ける者に与える苦痛を低減した注射器が提案されている(下記特許文献1〜4)。
【特許文献1】特開2002−172169号公報
【特許文献2】特開2005−87521号公報
【特許文献3】特開2004−503341号公報
【特許文献4】特開2004−501725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2002−172169号公報および特表2004−501725号公報に記載された注射器は、通常の針に代えてマイクロニードルを用いたものであり、薬液が収容された容器とマイクロニードルとが一体になっている。また、特開2004−503341号公報に記載された投与器具は、ハウジング内に薬液が収容された袋と、この袋を穿孔するカニューレと皮膚を穿刺する複数の微細針とからなる両頭針とを有するものであり、やはり薬液が収容された容器と注射針とが一体となっている。このため、複数種類の薬液を注入する場合には、注射器自体を交換する必要があり、何度も皮膚に針を刺す必要が生じて、注射を受ける者への負担が大きくなる。
【0005】
一方、特開2005−87521号公報の図4には、微細針を備えたハウジングと、薬液が収容された容器とが別体である薬液注入装置が開示されている。この薬液注入装置によれば、微細針を患者に穿刺した状態で薬液容器を交換することにより、皮膚への穿刺が一度で複数の薬液の注入が可能である。しかし、このような薬液注入装置では、微細針の基端側を直接薬液が収容された容器の封止部材に差し込むので、微細針の基端部が折れたり、封止部材によって目詰まりするおそれがある。
【0006】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、容器内に収容された薬液の流通性が確保され、複数種類の薬液を注入する場合においても、注射を受ける者への負担が低減された注入装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る注入装置は、薬液が収容された容器と、薬液を受け入れ可能な内部空間を有するハウジングと、ハウジングから外部に突出し、内部空間と連通する複数の第1中空針と、内部空間と連通し各々の第1中空針の流路断面積より大きい流路断面積を有し、容器に挿入することで内部空間と容器内の空間とを連通可能な第2中空針とを含み、容器から着脱可能とされた多針ユニットと、薬液を押圧して、容器内に挿入された第2中空針から内部空間に薬液を押出し可能な押出機構とを備える。好ましくは、上記内部空間内に設けられ、薬液を濾過可能なフィルタをさらに備える。好ましくは、上記押出機構は、容器内に収容される。好ましくは、上記押出機構は、容器に設けられた気体収容部に充填され、大気圧より高圧とされた気体と、気体からの圧力によって容器内を移動可能とされ、容器内を薬液を収容可能な薬液収容部と気体収容部とに規定する規定部材とを含む。好ましくは、上記気体収容部に気体を供給可能な供給部をさらに備える。好ましくは、上記第2中空針とハウジングとの間を接続する接続管をさらに備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る注入装置においては、薬液が収容された容器を穿孔する第2中空針と薬液を注入する第1中空針とを別体としており、第2中空針を第1中空針より薬液の流路断面積より大きくしているので、第2中空針が容器を穿孔する際に屈曲したり、目詰まりしたりすることを抑制することができ、良好に薬液を流通させることができる。また、多針ユニットは、容器から着脱可能とされているので、容器を交換することで1度の皮膚への穿刺で複数種類の薬液を注入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1から図20を用いて、本実施の形態に係る薬液注入装置100について説明する。なお、同一または同一に相当する構成については、同一の符号を付して説明を繰り返さない場合がある。
【0010】
図1は、本実施の形態に係る薬液注入装置100の側断面図である。この図1に示されるように、薬液注入装置100は、薬液が収容された容器10と、容器10に着脱可能に設けられた多針ユニット13とを備えている。
【0011】
容器10は、一端に形成された開口部16aを有する収容ケース16と、収容ケース16の開口部16aを閉塞する閉塞部材12と、収容ケース16に閉塞部材12を固定する固定部材11と、収容ケース16内に収容された薬液Aを加圧して外部に押し出そうとする押出機構とを備えている。
【0012】
収容ケース16は、薬液Aを収容する薬液収容部20と、高圧の気体Bが収容された気体収容部21と、収容ケース16内を移動可能に設けられ、収容ケース16内を薬液収容部20と気体収容部21とに規定する規定部材46とを備えている。また、収容ケース16には、気体収容部21内に気体Bを供給可能な切替弁30が設けられている。収容ケース16は、たとえば、PET(polyethylene terephthalate)等から構成されている。
【0013】
薬液Aとしては、たとえば、インスリン製剤、成長ホルモン製剤、インターフェロン製剤等の高分子量薬品や、モルヒネ、エピネフリン等が挙げられる。薬液Aの収容量は、各種疾患に合わせて適宜変更される。なお、図1に示すように、薬液注入装置100を携帯可能とする場合には、薬液収容部20の容積は、たとえば、5ml〜50ml程度とされている。
【0014】
押出機構は、規定部材46と、気体収容部21内に充填された気体Bとを備えている。気体Bは、容器10の周囲の圧力(大気圧)より高く設定されており、ガスケット部14を介して薬液Aを押圧している。なお、気体Bは、切替弁30によって外部から気体収容部21内に供給可能とされている。
【0015】
規定部材46は、ゴムなどの樹脂から構成されるガスケット部14と、ガスケット部14の形状を維持するためにガスケット部14内に埋め込まれたプランジャ15とを備えている。このガスケット部14は、閉塞部材12が破断等して、薬液収容部20内と外部が連通すると、気体Bからの圧力によって薬液収容部20内の薬液Aを外部に押出すように、収容ケース16内を移動する。
【0016】
閉塞部材12は、たとえば、ポリエチレンやゴムなどによって構成されている。固定部材11は、開口部16aの中央部に位置する部分に形成された開口部5を備えており、閉塞部材12の一部が露出している。そして、固定部材11は、収容ケース16の開口部16aを閉塞する閉塞部材12の外周縁部を開口部16aの縁部に押圧固定している。
【0017】
図2は、多針ユニット13の詳細な構成を示す側断面図である。この図2に示す例においては、多針ユニット13は、内部空間44が規定されたハウジング40と、ハウジング40に設けられた多針構造体(第1中空針)45と、ハウジング40の一方の面から外方に向けて突出する穿孔針(第2中空針)41とを備えている。
【0018】
多針構造体45は、穿孔針41に対して反対側に位置するハウジング40の表面に嵌め込まれている。図3は、多針構造体45の詳細を示す斜視図である。この図3に示す例においては、多針構造体45は、平板状に形成された基板42と、この基板42の主表面上に形成された複数のマイクロニードル43とを備えている。各マイクロニードル43は、略円錐形状とされている。
【0019】
マイクロニードル43の形状を鋭利な円錐形状とすることにより、マイクロニードル43を皮膚内にスムーズに挿入することができる。また、マイクロニードル43は、ポリ乳酸(polylactic acid, PLA)や、L 型ポリ乳酸(PLLA)等の分解性高分子材料の中では比較的強度・剛性が高いものから構成されている。マイクロニードル43の高さは、約250μm〜約1000μm程度とされている。マイクロニードル43の底面の直径は、200μm程度とされている。このような小径かつ高さが数百μm程度とされているので、マイクロニードル43が痛点をつくおそれが小さく、無痛で皮膚に挿入することができる。マイクロニードル43には、マイクロニードル43の上端部から基板42の表面のうちマイクロニードル43が位置する表面と反対側に位置する表面にまで達する貫通孔43aが形成されている。そして、この貫通孔43aは、図2に示す内部空間44と連通している。貫通孔43aの直径は、たとえば、20μm程度とされている。
【0020】
図2において、多針ユニット13は、ハウジング40の上面から外部に突出し、内部空間44に連通する穿孔針41を備えている。穿孔針41は、ステンレス等の金属材料から構成されている。そして、穿孔針41の底面は、たとえば、5.0×5.0(mm2)程度とされており、高さは、たとえば、7.0mm程度とされている。
【0021】
そして、この穿孔針41の断面積(薬液が流通する流路断面積)S2は、図3に示す各マイクロニードル43の貫通孔43aの断面積(流路断面積)S1よりも、大きくなっている。さらに、図3に示す各マイクロニードル43の貫通孔43aの断面積S1の合計よりも、図2に示す穿孔針41の断面積S2の方が大きい。このように、穿孔針41は、マイクロニードル43より高く、さらに底面積も広く、剛性の高いものとなっている。
【0022】
上記のような薬液注入装置100を用いて、薬液を人体内に注入するときには、まず、図4に示すように、多針ユニット13を皮膚200に押さえつけて、マイクロニードル43を皮膚200内に挿入する。
【0023】
皮膚200は、外表面側から表皮201と、真皮202と、真皮202の下の皮下組織203とを有している。この皮下組織203の下面側には、筋層204が位置している。そして、人の腕の表皮201の厚みは、40μm〜130μm、真皮202の厚さは1mm〜3mm程度となっている。
【0024】
マイクロニードル43の高さは、250μm〜1000μmとされているため、マイクロニードル43の先端部は、少なくとも真皮202に達する。また、多針ユニット13を皮膚200に押圧する際に、皮膚200の表面がへこんだとしても、マイクロニードル43の先端部は、真皮202まで達することができる。なお、マイクロニードル43の高さをさらに高くすることで、皮下組織203に達するようにしてもよい。
【0025】
マイクロニードル43は、基板42上に複数アレイ状に配置されているため、マイクロニードル43を皮膚200に挿入する際に、いずれかのマイクロニードル43に目詰まりが生じたとしても、他のマイクロニードル43によって薬液を注入することができる。
【0026】
そして、真皮202にまでマイクロニードル43が達した状態で、図1に示す容器10を多針ユニット13に装着する。この際、多針ユニット13の穿孔針41が図1に示す閉塞部材12を穿孔して、容器10内の薬液収容部20と多針ユニット13の内部空間44とが連通する。
【0027】
ここで、穿孔針41は、マイクロニードル43よりも剛性が高く、屈曲しにくく、確実に閉塞部材12を貫通することができる。さらに、穿孔針41の流路断面積は、全てのマイクロニードル43の流路断面積の合計よりも大きいため、閉塞部材12を穿孔する際に、穿孔針41に目詰まりが生じることを抑制することができる。
【0028】
なお、閉塞部材12がゴムなどの弾性変形可能な部材とされた場合には、穿孔針41が閉塞部材12を穿孔した際に、穿孔針41の周囲を閉塞部材12が締付け、薬液Aの漏れを抑制することができる。また、穿孔針41が閉塞部材12を穿孔した際に、固定部材11の外表面と多針ユニット13の表面とが当接して、薬液Aの漏れが抑制される。
【0029】
ここで、マイクロニードル43が皮膚200内に挿入され、穿孔針41が閉塞部材12を穿孔すると、図1に示すガスケット部14を介して気体Bが薬液Aを押圧する。このため、ガスケット部14が薬液収容部20を狭めるように変位すると共に、薬液収容部20内に収容された薬液Aが図4に示す内部空間44に流入する。内部空間44に流入した薬液Aは、各マイクロニードル43の貫通孔43aを通って真皮202または皮下組織203内に注入される。そして、真皮202内または皮下組織203内に注入された薬液は、抹消血管から静脈に吸収される。
ここで、薬液Aを注入する動力源は、容器10内に収容された気体Bの圧力を用いているので、外部の電源等と接続する必要がない。したがって、薬液注入装置100は、小型かつ軽量であり、携帯することが可能で、日常生活の中で持続的に皮下注射を行なうことができる。さらに、気体Bの圧力や穿孔針41の断面積S2等を調整することで、薬液Aの注入速度を調整することができる。
【0030】
多針ユニット13を皮膚200に穿刺したり、容器10を多針ユニット13に装着する直前に、図1に示す切替弁30から気体Aを気体収容部21内に所定圧になるように供給するのが好ましい。これにより、使用前の容器10を保管している間に、気体Bが外部に漏れ、気体Bの圧力が低下したとしても、使用時に所定圧を確保することができる。
【0031】
また、複数種類の薬液を皮下注射する際には、容器10を多針ユニット13から取り外し、別の薬液が収容された容器を再度多針ユニット13に装着することで、複数種類の薬液を注入することができる。
【0032】
特に、多針ユニット13を皮膚200に穿刺した状態で、容器10の交換をすることができるので、一度の穿刺で複数種類の薬液の注入を行なうことができ、注射される者の負担を軽減することができる。
【0033】
なお、多針ユニット13のハウジング40の外周面に翼部を設けて、この翼部をテーピングして、多針ユニット13を皮膚200に固定してもよく、また、ハウジング40の皮膚接触面に粘着材を設けて、多針ユニット13を皮膚200に固定するようにしてもよい。
【0034】
多針ユニット13の内部空間44は、穿孔針41から流入した薬液を全てのマイクロ針43から流出させるためのものであり、その機能を果たすことができる限り、デッドスペースの問題からなるべく容積が小さいことが好ましい。内部空間44は図2に示されるように完全に空間が形成されたものであってもよいが、図5に示されるようにハウジング40の穿孔針41が設けられる側の内表面に溝441が形成されたり、あるいは図6に示されるように基板42の内表面に溝442が形成されてもよい。これらの溝441、442はいずれか一方が形成されてもよいし、両方が形成されてもよいが、後述するフィルタ46を配置する場合にはハウジング40側の溝441が形成されることがより好ましい。
【0035】
図7は、多針ユニット13の第1変形例を示す断面図である。この図7に示す例においては、多針ユニット13Aは、内部空間44に設けられ、内部空間44を上部空間と下部空間とに区分するフィルタ46をさらに備える。このフィルタ46は、上部空間に流入した薬液A中に混入した細菌・真菌・微小異物・気泡等を除去したり、配合変化や温度変化で生じた微小沈殿物を濾過する。そして、異物等が除去された薬液Aが下部空間を通り、マイクロニードル43から皮膚200内に注入される。フィルタ46としては、例えばガラス片、ゴム片、繊維片、金属片等の除去を目的とした、約5μmのポアサイズを有する異物除去フィルタや、大腸菌やブドウ球菌等の除去を目的とした、約0.2μmのポアサイズを有する除菌フィルタが採用される。フィルタ46は多針ユニット13Aの内部空間44に配置されるものであるが、ハウジング40と基板42との間に挟持されることにより、実質的に内部空間44全体に配置されてもよい。なお、このフィルタ46の目の粗さを調整して、注入速度の調整を図ることもできる。
【0036】
図8は、多針ユニット13の第2変形例を示す断面図である。この図8に示す例においては、多針ユニット13Bは、穿孔針41が設けられた接続具70と、穿孔針41とハウジング40の内部空間44とを連通する接続管60とを備えている。接続具70は多針ユニット13Bとは別に置かれるため、薬液が収容された容器を交換する場合に穿孔針41が閉塞部材12に穿刺される際の衝撃が直接注射を受ける者に伝わるおそれがない。このような多針ユニット13Bは、500ml〜1000ml程度の薬液Aが収容された容器10に穿孔針41を挿入し、脱水症の高齢者等に約24時間の持続皮下注射による補液を行なう場合などに用いられる。
【0037】
図9は、多針ユニット13および容器10の第3変形例を示す断面図である。この図9に示されるように、容器10の固定部材11の外周面には、環状の突出部51が形成されている。多針ユニット13Cは、穿孔針41が設けられた表面に形成され、突出部51と係合する係合部50を備えている。
【0038】
図10は、多針ユニット13Cと容器10とが係合した状態を示す断面図である。図9および図10に示されるように、容器10が多針ユニット13Cへ向かって押し込まれることで、係合部50と突出部51とは係合し、容器10と多針ユニット13Cとを連結固定することができる。容器10と多針ユニット13Cとを連結したときに初めて穿孔針41が閉塞部材12を貫通するような構成とすることにより、皮膚に穿刺する前の多針ユニット13Cと容器10との誤接続を防止することができる。また、突出部に複数の切り欠き部を設け、係合部をそれに対応する形状とすることにより、切り欠き部に係合部50を通過させ、その後、容器10を回転させることで係合部50と突出部51とを係合させる構成としてもよい。なお、容器10と多針ユニット13Cとの連結方法は、他の方法であってもよい。
【0039】
図11は、多針ユニット13の第4変形例を示す断面図である。この図11に示されるように、多針ユニット13Dは、穿孔針41が設けられたハウジング40の表面に形成された膨出部54を備えている。膨出部54は、穿孔針41の基部側から先端部側に向かうにしたがって、先細とされており、周面55がテーパ状とされている。固定部材11の開口部53は、固定部材11の外表面側から内表面側に向かうにしたがって、先細となるように傾斜している。
【0040】
そして、多針ユニット13Dを容器10に装着すると、多針ユニット13の膨出部54の周面55と、固定部材11の開口部53の内表面とが当接し、密着する。これにより、穿孔針41が閉塞部材12を貫通したときに、外部に薬液が漏れ出ることを抑制することができる。多針ユニット13Dには、前記膨出部54と固定部材11との密着をより確実にするために、さらに固定手段が設けられていてもよい。このような固定手段としては、図9および図10に示されるような係合部50と突出部51との係合の他、ネジによる係合などの公知の固定手段が採用される。
【0041】
図12は、本実施の形態に係る薬液注入装置100の第1変形例を示す断面図である。この薬液注入装置100Aにおいては、押出機構として、バネ等の弾性部材31を採用している。そして、この弾性部材31で規定部材46を押圧している。薬液収容部20には、外部から薬液を供給可能な薬液供給部32が設けられている。
【0042】
この薬液注入装置100Aにおいては、弾性部材31の弾性係数を調整することで薬液の注入時間を調整することができる。
【0043】
図13は、本実施の形態に係る薬液注入装置100の第2変形例を示す断面図である。この薬液注入装置100Bにおいては、容器10の収容ケース16には、薬液Aが充填され、弾性変形可能なバルーン90が収容されている。バルーン90内に収容された薬液Aは、薬液Aの充填により膨張したバルーン90の収縮力によって加圧されている。そして、バルーン90は、収容ケース16に形成された筒部92および筒部91に接続されている。筒部92は、閉塞部材12によって閉塞されており、筒部91は、図示されない切替弁によって開閉可能とされている。
【0044】
このため、穿孔針41によって、閉塞部材12が穿孔されると、薬液Aが多針ユニット13に流れ、皮下注入される。
【0045】
ここで、多針構造体45の製造方法について説明する。マイクロニードル43は、PCT(Plane-pattern to Cross-section Transfer:断面転写法)法を用いたX線リソグラフィにより製造されており、図14から図20を用いて詳細に説明する。
【0046】
図14は、マイクロニードル43の製造工程の第1工程を示す説明図である。この図14に示されるように、レジストステージ上に配置された金属基板150の主表面上に、厚さ数百μmのPMMA(polymethylmethacrylate:ポリメタクリル酸メチル)層151を形成する。そして、SR光X線をマスク152に向けて照射すると共に、X線露光中に、チャンバ内において、金属基板150およびPMMA層151をたとえば、2mm/secの速さで、1軸方向に往復運動させる。
【0047】
マスク152は、たとえば、厚さ50μmのポリイミドと、たとえば、AuなどからなるX線の吸収体153と、Alなどからなるフレームとを備えている。吸収体153は、マスク152の表面上に形成されており、複数の三角形が一方向に配列するように形成されている。なお、X線露光中においては、三角形状とされた吸収体153は、頂点部と底辺部とが、PMMA層151の移動方向に配列するように配置される。
【0048】
X線の発生装置としては、立命館大学SRセンタにある超伝導小型シンクロトロン放射装置「AURORA」を用い、放射光波長は0.15nmから0.73nmの幅があり、ピーク波長は0.4nmとされている。
【0049】
図15は、上記第1工程後におけるPMMA層151の斜視図である。上記のように、PMMA層151に露光処理を行なうと、露光部分の高分子の連鎖が切れて分子量が減少して現像液に溶解可能な部分151Bと、未露光部分151Aが形成される。
【0050】
この図15に示すように、未露光部分151Aは、底面が四角形状とされ、両側面が三角形状とされ、一方向に向けて配列する。
【0051】
図16は、マイクロニードル43の製造工程の第2工程を示す説明図である。この図16に示されるように、三角形状に形成された吸収体153の底辺部から頂点部に向かう方向と、三角柱形状とされたPMMA層151が延在する方向とが交差するようにマスク152およびPMMA層151を配置する。具体的には、図14および図15に示す状態から、マスク152の位置を固定した状態でPMMA層151を略90度回転させる。
【0052】
そして、X線により露光処理を行なう際に、PMMA層151を、吸収体153の底辺部から頂点部に向かう方向に往復運動させる。その後、現像液により露光部分を除去すると共に、未露光部分を金属基板150上に残留させる。
【0053】
図17は、上記第2工程後において、金属基板150の表面上に残留したPMMA層151を示す斜視図である。この図17に示されるように、金属基板150の表面上には、四角錐形状とされたPMMA層151が複数形成される。
【0054】
図18は、マイクロニードル43の製造工程の第3工程を示す説明図である。この図18に示されるように、円環状に形成されたX線の吸収体155が形成されたマスク154をPMMA層151の上方に配置する。吸収体155の外径は、たとえば、100μmとされ、中空部分の直径は、たとえば30μmとされている。そして、露光処理を行い、その後、現像処理を行なう。
【0055】
図19は、上記第3工程によって、金属基板150の表面上に残留したPMMA層151を示す斜視図である。この図19に示されるように、金属基板150の主表面上には、上端部から金属基板150の表面にまで達する貫通孔151aが形成され、円錐形状とされたPMMA層151が形成される。この円錐形状とされたPMMA層151は、図3に示すマイクロニードル43と同様の形状となっている。
【0056】
図20は、マイクロニードル43の製造工程の第4工程を示す説明図である。この図20に示されるように、形成されたPMMA層151のパターン上に、Ni等のメッキによって、金属を堆積させて金属構造体160を形成する(電鋳工程)。
【0057】
その後、未反応のPMMA層151を除去して、マイクロニードル43のパターンが模られた金属構造体160を得ることができる。そして、この金属構造体160を金型として、図2に示すマイクロニードル43が複数形成された多針構造体45を製造することができる。
【0058】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の
範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。さらに、上記数値などは、例示であり、上記数値および範囲にかぎられない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、薬液などを注入するための注入装置に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施の形態に係る薬液注入装置の側断面図である。
【図2】多針ユニットの詳細な構成を示す側断面図である。
【図3】多針構造体の詳細を示す斜視図である。
【図4】多針ユニットを皮膚に装着した状態を示す断面図である。
【図5】ハウジングの穿孔針が接続された内表面を示す斜視図である。
【図6】基板を上方から見た斜視図である。
【図7】多針ユニットの第1変形例を示す断面図である。
【図8】多針ユニットの第2変形例を示す断面図である。
【図9】多針ユニットおよび容器の第3変形例を示す断面図である。
【図10】多針ユニットと容器とが係合した状態を示す断面図である。
【図11】多針ユニットの第4変形例を示す断面図である。
【図12】本実施の形態に係る薬液注入装置の第1変形例を示す断面図である。
【図13】本実施の形態に係る薬液注入装置の第2変形例を示す断面図である。
【図14】マイクロニードルの製造工程の第1工程を示す説明図である。
【図15】第1工程後におけるPMMA層の説明図である。
【図16】マイクロニードルの製造工程の第2工程を示す説明図である。
【図17】第2工程後において、金属基板の表面上に残留したPMMA層を示す説明図である。
【図18】マイクロニードルの製造工程の第3工程を示す説明図である。
【図19】第3工程によって、金属基板の表面上に残留したPMMA層を示す説明図である。
【図20】マイクロニードルの製造工程の第4工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0061】
10 容器、11 固定部材、12 閉塞部材、13 多針ユニット、14 ガスケット部、15 プランジャ、16 収容ケース、20 薬液収容部、21 気体収容部、30 切替弁、32 薬液供給部、40 ハウジング、41 穿孔針、43 マイクロニードル、44C フィルタ、44 内部空間、45 多針構造体、46 規定部材、100 薬液注入装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液が収容された容器と、
前記薬液を受け入れ可能な内部空間を有するハウジングと、前記ハウジングから外部に突出し、前記内部空間と連通する複数の第1中空針と、前記内部空間と連通し各々の前記第1中空針の流路断面積より大きい流路断面積を有し、前記容器に挿入することで前記内部空間と前記容器内の空間とを連通可能な第2中空針とを含み、前記容器から着脱可能とされた多針ユニットと、
前記薬液を押圧して、前記容器内に挿入された前記第2中空針から前記内部空間に前記薬液を押出し可能な押出機構と、
を備えた注入装置。
【請求項2】
前記内部空間に設けられ、前記薬液を濾過可能なフィルタをさらに備えた、請求項1に記載の注入装置。
【請求項3】
前記押出機構は、前記容器内に収容された、請求項1または請求項2に記載の注入装置。
【請求項4】
前記押出機構は、前記容器に設けられた気体収容部に充填され、大気圧より高圧とされた気体と、
前記気体からの圧力によって前記容器内を移動可能とされ、前記容器内を前記薬液を収容可能な薬液収容部と前記気体収容部とに規定する規定部材とを含む、請求項1から請求項3のいずれかに記載の注入装置。
【請求項5】
前記気体収容部に前記気体を供給可能な供給部をさらに備える、請求項4に記載の注入装置。
【請求項6】
前記第2中空針と前記ハウジングとの間を接続する接続管をさらに備えた、請求項1から請求項5のいずれかに記載の注入装置。
【請求項1】
薬液が収容された容器と、
前記薬液を受け入れ可能な内部空間を有するハウジングと、前記ハウジングから外部に突出し、前記内部空間と連通する複数の第1中空針と、前記内部空間と連通し各々の前記第1中空針の流路断面積より大きい流路断面積を有し、前記容器に挿入することで前記内部空間と前記容器内の空間とを連通可能な第2中空針とを含み、前記容器から着脱可能とされた多針ユニットと、
前記薬液を押圧して、前記容器内に挿入された前記第2中空針から前記内部空間に前記薬液を押出し可能な押出機構と、
を備えた注入装置。
【請求項2】
前記内部空間に設けられ、前記薬液を濾過可能なフィルタをさらに備えた、請求項1に記載の注入装置。
【請求項3】
前記押出機構は、前記容器内に収容された、請求項1または請求項2に記載の注入装置。
【請求項4】
前記押出機構は、前記容器に設けられた気体収容部に充填され、大気圧より高圧とされた気体と、
前記気体からの圧力によって前記容器内を移動可能とされ、前記容器内を前記薬液を収容可能な薬液収容部と前記気体収容部とに規定する規定部材とを含む、請求項1から請求項3のいずれかに記載の注入装置。
【請求項5】
前記気体収容部に前記気体を供給可能な供給部をさらに備える、請求項4に記載の注入装置。
【請求項6】
前記第2中空針と前記ハウジングとの間を接続する接続管をさらに備えた、請求項1から請求項5のいずれかに記載の注入装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2008−154849(P2008−154849A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348044(P2006−348044)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】
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