説明

注型絶縁導体およびその製造方法

【課題】 中心導体を絶縁層内で接続した注型絶縁導体の電気的特性を向上させる。
【解決手段】 電気機器に用いられる第1の中心導体20と、前記第1の中心導体20に接続された第2の中心導体22と、前記第1の中心導体20と前記第2の中心導体22との接続部に設けられた封着絶縁層30と、前記封着絶縁層30が設けられた前記第1の中心導体20および前記第2の中心導体22の周りに注型により一体で形成された絶縁層24とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器に用いられる絶縁材料で注型された注型絶縁導体に係り、特に電気的特性を向上し得る注型絶縁導体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スイッチギヤの主回路を構成する真空バルブや主回路導体などの電気機器においては、全体形状を縮小化するため、エポキシ樹脂のような絶縁材料をモールドして絶縁外皮を形成した固体絶縁式のものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この固体絶縁式スイッチギヤは、図4に示すように、金属製の箱体1内が背面側の受電部1a、中間部の開閉部1b、正面側の母線部1cに分かれて構成されている。
【0004】
受電部1aには、受電ケーブル2が接続されたケーブルヘッド3が設けられている。ケーブルヘッド3には、例えばエポキシ樹脂のような絶縁材料で注型されたH字状の注型絶縁導体4を介して変流器5の一方の主回路端が接続されている。
【0005】
開閉部1bには、例えばエポキシ樹脂のような絶縁材料で注型された一対の接点を有する第1の断路器6が設けられ、この第1の断路器6の一方の主回路端が変流器5の他方の主回路端と接続されている。第1の断路器6の他方の主回路端には、例えばエポキシ樹脂のような絶縁材料で注型されたコ字状の注型絶縁導体7を介して、同様の絶縁材料で注型された一対の接点を有する遮断器8の一方の主回路端が接続されている。
【0006】
母線部1cには、例えばエポキシ樹脂のような絶縁材料で注型された一対の接点を有する第2の断路器9が設けられ、この一方の主回路端が遮断器8の他方の主回路端と接続されている。第2の断路器9の他方の主回路端には、隣接する盤との接続を行う母線10が接続されている。
【0007】
また、第1の断路器6、遮断器8および第2の断路器9には、一対の接点を開閉する操作機構11がそれぞれ設けられている。
【0008】
ここで、注型絶縁導体4には、図5に示すように、第1の中心導体20と第2の中心導体21とが略平行して配置され、またそれぞれの中間部に第3の中心導体22が配置され、互いがボルト23によりH字状に接続固定されている。そして、これらの中心導体20、21、22の周りには、端部を露出させて絶縁層24が形成されている。
【0009】
従来、このように形状が複雑な絶縁層24の形成においては、注型時の残留応力を抑制するため、それぞれの中心導体20、21、22に応力緩和層25を設ける技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0010】
しかしながら、絶縁層24の残留応力は緩和されるものの、例えば第1の中心導体20と第3の中心導体22との接続部の接合面の隙間26に残っていた空気が、注型時に漏れ出し、絶縁層24内にボイド27として形成されることがある。このボイド27は、絶縁的な欠陥であり、部分放電特性などの電気的特性を低下させるものである。
【特許文献1】特開2002−152930号公報 (第9ページ、図1)
【特許文献2】特開平9−69321号公報 (第3ページ、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の従来の注型絶縁導体4においては、互いの中心導体20、21、22を接続する接続部近傍の絶縁層24内にボイド27のような欠陥部が形成される問題があった。このボイド27は、直径が0.0数mmでも容易に部分放電が発生し、絶縁劣化を進行させるものである。絶縁劣化が進行すると、最終的には絶縁破壊に到る。
【0012】
このため、部分放電特性のような電気的特性を向上させ、長期間に亙り安定した特性を有する信頼性の高い注型絶縁導体が望まれていた。
【0013】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、電気的特性を向上し得る注型絶縁導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の注型絶縁導体は、電気機器に用いられる第1の中心導体と、前記第1の中心導体に接続された第2の中心導体と、前記第1の中心導体と前記第2の中心導体との接続部に設けられた封着絶縁層と、前記封着絶縁層が設けられた前記第1の中心導体および前記第2の中心導体の周りに注型により一体で形成された絶縁層とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、中心導体の相互を接続する接続部に、隙間を封じ切る封着絶縁層を設け、その周りに主絶縁となる絶縁層を注型により形成しているので、注型時に接続部の隙間に残留していた空気が漏れ出すことがなく、長期間に亙り安定した電気的特性を有する信頼性の高いものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明による実施例を図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0017】
先ず、本発明の実施例1に係る注型絶縁導体を図1および図2を参照して説明する。図1は、本発明の実施例1に係る注型絶縁導体の構成を一部断面して示す図、図2は、本発明の実施例1に係る注型絶縁導体の注型手順を示す工程図である。なお、図1において、従来と同様の構成部分については、同一符号を付した。また、固体絶縁式スイッチギヤは、従来と同様の構成であるので、その説明を省略する。
【0018】
図1に示すように、注型絶縁導体4には、電気機器の主回路となる第1の中心導体20と第2の中心導体21とが略平行して配置され、またそれぞれの中間部に第3の中心導体22が配置されている。これらの中心導体20、21、22は、ボルト23により接続固定され、H字状となっている。そして、これらの中心導体20、21、22の周りには、それぞれの端部を露出させて例えばエポキシ樹脂のような第1の絶縁材料を注型して一体で形成された主絶縁となる絶縁層24がH字状に設けられている。
【0019】
第1の中心導体20と第3の中心導体22の接続部には、略直角に形成されたその接合面の全周に、例えばエポキシ樹脂のような第2の絶縁材料からなる封着絶縁層30が設けられ、隙間が封じ切られている。また、封着絶縁層30の表面には、例えば導電性塗料を塗布した導電層31が少なくとも一方の中心導体20(22)と同電位にして設けられている。なお、図示しないが、第2の中心導体21と第3の中心導体22の接続部も同様に封着絶縁層30と導電層31とが設けられている。
【0020】
次に、このような注型絶縁導体4の製造方法を図2を参照して説明する。
【0021】
先ず、中心導体20、21、22をH字状に組立てる(st1)。これを、導体組立工程とする。組立て後、中心導体20、21、22の表面を清掃し、中心導体20、21、22を接続した接合部の外周の全周に、液状の第2の絶縁材料を例えばハケ塗りで塗り付け(st2)、絶縁厚さ0.数mmから数mmの封着絶縁層30を形成する。これを、接合部封着工程とする。この場合、接合部の隙間には、満遍なく第2の絶縁材料を塗り付け、接合部を封じ切る。中心導体20、21、22を数十度に加熱しておけば、第2の絶縁材料の粘度が下がり塗り付け作業が容易となる。
【0022】
その後、例えば80℃に設定した乾燥炉内に搬入して第2の絶縁材料を乾燥、硬化させる(st3)。これを、封着絶縁層乾燥工程とする。乾燥後、乾燥炉から取り出して、導電性塗料を例えばハケ塗りで塗布し(st4)、例えば80℃に設定した乾燥炉内に再び搬入して乾燥させる(st5)。これを、導電層乾燥工程とする。
【0023】
次に、封着絶縁層30と導電層31とを乾燥させた中心導体20、21、22を注型金型内にセットし(st6)、真空中で第1の絶縁材料を注型金型内に充填し(st7)、硬化させる。硬化後、離型すれば(st8)、所定形状で数mmから数十mmの所定の絶縁厚さを有する注型絶縁導体4を得ることができる。これを、主絶縁注型工程とする。なお、離型後、必要に応じ、再び乾燥炉内に搬入し、アフターキュアを行ってもよい。
【0024】
このような注型によると、中心導体20、21、22の接続部の隙間が封着絶縁層30で封じ切られているので、接続部に残留した空気が漏れ出してくることがない。また、導電層31が中心導体20(21、22)と同電位のため、封着絶縁層30を設けることによる電界分布の乱れを防ぐことができる。
【0025】
また、中心導体20、21、22に封着絶縁層30を設けて硬化させた後、絶縁層24を硬化させているので、中心導体20、21、22と絶縁層24との熱膨張係数の差異から生じる残留応力を抑制することができる。即ち、注型時の絶縁層24の残留応力は、形状が複雑な接続部で大きくなるが、同種の絶縁材料からなる封着絶縁層30を介しているので抑制されたものとなる。なお、第1の絶縁材料と第2の絶縁材料とを同一の絶縁材料とすれば、互いの熱膨張係数が同一となり、絶縁層24内の残留応力がより一層低減されて好ましい。
【0026】
上記実施例1の注型絶縁導体4によれば、中心導体20、21、22の接続部を封着絶縁層30で封じ切っているので、接続部の隙間に残留していた空気が漏れ出すことがなく、部分放電特性を向上させ、長期間に亙り安定した電気的特性を有する信頼性の高いものとすることができる。
【実施例2】
【0027】
次に、本発明の実施例2に係る注型絶縁導体を図3を参照して説明する。図3は、本発明の実施例2に係る注型絶縁導体の構成を一部断面して示す図である。なお、この実施例2が実施例1と異なる点は、封着絶縁層の形状である。図3において、実施例1と同様の構成部分においては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0028】
図3に示すように、注型絶縁導体4の第1の中心導体20と第3の中心導体22の接続部には、略直角に形成されたその接続点の角部を埋めるように、曲率半径Rを持った封着絶縁層40が設けられ、隙間が封じ切られている。この封着絶縁層40は、粘度の高い第2の絶縁材料を盛り付けることで容易に形成させることができる。また、封着絶縁層40の表面には、少なくとも一方の中心導体20(22)と同電位にされた導電層41が設けられている。
【0029】
ここで、封着絶縁層40の曲率半径Rは、直径が小さい方の中心導体20(22)の半径と同様の大きさとしている。曲率半径Rが中心導体20(22)の半径の1/2以下では、曲率半径Rが小さすぎて第1の中心導体20と第3の中心導体22との相互間の電界緩和が充分に行われない。即ち、第1の中心導体20と第3の中心導体22とで形成される電界分布が乱れてしまう。また、曲率半径Rが中心導体20(22)の半径の2倍以上では、電界緩和は行われるものの、絶縁層24の絶縁厚さが薄くなるので好ましくない。
【0030】
上記実施例2の注型絶縁導体4によれば、実施例1と同様の効果のほかに、絶縁層24内の電界緩和を行うことができる。
【0031】
なお、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施することができる。上記実施例では、中心導体20、21、22の接続部に封着絶縁層30(40)を設けることで説明したが、ボルト23の頭の部分にも同様の封着絶縁層を設けることにより、ボルト23と中心導体20(21)との隙間を封じ切ることができる。
【0032】
また、H字状の注型絶縁導体4に限らず、T字状など、中心導体の互いを接続固定した注型絶縁導体の接続部にも用いることができる。
【0033】
また、汚損湿潤の対策として、絶縁層24の表面に接地層を設けた注型絶縁導体においても用いることができる。
【0034】
更には、封着絶縁層30(40)の表面に導電層31(41)を設けて説明したが、固体絶縁式スイッチギヤの定格電圧が6kV以下のような比較的低い定格電圧では、電界が低いので、導電層31(41)を省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例1に係る注型絶縁導体の構成を一部断面して示す図。
【図2】本発明の実施例1に係る注型絶縁導体の注型手順を示す工程図。
【図3】本発明の実施例2に係る注型絶縁導体の構成を一部断面して示す図。
【図4】固体絶縁式スイッチギヤの構成を示す側面図。
【図5】従来の注型絶縁導体の構成を一部断面して示す図。
【符号の説明】
【0036】
1 箱体
1a 受電部
1b 開閉部
1c 母線部
2 受電ケーブル
3 ケーブルヘッド
4、7 注型絶縁導体
5 変流器
6 第1の断路器
8 遮断器
9 第2の断路器
10 母線
11 操作機構
20 第1の中心導体
21 第2の中心導体
22 第3の中心導体
23 ボルト
24 絶縁層
25 応力緩和層
26 隙間
27 ボイド
30、40 封着絶縁層
31、41 導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器に用いられる第1の中心導体と、
前記第1の中心導体に接続された第2の中心導体と、
前記第1の中心導体と前記第2の中心導体との接続部に設けられた封着絶縁層と、
前記封着絶縁層が設けられた前記第1の中心導体および前記第2の中心導体の周りに注型により一体で形成された絶縁層とを備えたことを特徴とする注型絶縁導体。
【請求項2】
前記封着絶縁層の表面に導電層を設け、少なくとも一方の中心導体と同電位にしたことを特徴とする請求項1に記載の注型絶縁導体。
【請求項3】
前記第1の中心導体と前記第2の中心導体とを略直角に接続し、接続した角部に曲率を持たせた前記封着絶縁層を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の注型絶縁導体。
【請求項4】
電気機器に用いられる複数の中心導体を組立てる導体組立工程と、
前記中心導体の接続部に第2の絶縁材料を塗り付ける接合部封着工程と、
前記第2の絶縁材料を硬化させる封着絶縁層乾燥工程と、
前記中心導体を注型金型内にセットし、第1の絶縁材料を充填して硬化させる主絶縁注型工程とを備えたことを特徴とする注型絶縁導体の製造方法。
【請求項5】
前記封着絶縁層乾燥工程の後、前記第2の絶縁材料の表面に導電性塗料を塗布して乾燥させる導電層乾燥工程を追加したことを特徴とする請求項4に記載の注型絶縁導体の製造方法。
【請求項6】
前記第1の絶縁材料と前記第2の絶縁材料とを同一としたことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の注型絶縁導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−202666(P2006−202666A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15068(P2005−15068)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】