説明

注型絶縁物およびその製造方法

【課題】中心導体と注型により形成した絶縁層との境界面の絶縁特性を向上させる。
【解決手段】電気機器の主回路導体3、4に接続される中心導体1と、中心導体1の周りに注型により形成された絶縁層2と、接着強度の不平衡から生じる中心導体1と絶縁層2との境界面に形成される隙間に、シリコングリスのような流動絶縁体を加圧して充填した充填層8とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁特性を向上し得る中心導体を埋め込んだ注型絶縁物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂でモールドされた注型絶縁物は、優れた電気的、機械的特性を有し、スイッチギヤのような電気機器の絶縁支持物として多用されている。例えば、盤壁を貫通する部分には、中心導体の周りに絶縁層を形成した主回路断路部が用いられ、盤壁との絶縁とともに、主回路導体の支持固定が行われる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−274861号公報 (第3ページ、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の従来の注型絶縁物においては、次のような問題がある。注型金型内にエポキシ樹脂を充填し、加熱硬化させると、注型金型の合わせ面にバリが形成される。また、中心導体と絶縁層との境界面にもバリが形成される。このようなバリはヤスリなどで除去する仕上げ加工をするが、中心導体に無理な応力を加えると、中心導体と絶縁層との境界面に微小な隙間が形成されることがある。
【0004】
即ち、中心導体に絶縁層を強固に接着させているものの、中心導体と絶縁層との熱膨張係数が異なることもあり、全域に亙って接着強度を同様にすることが困難である。このため、中心導体と絶縁層との境界面の仕上げ加工時において、接着強度の弱い部分で剥離することがある。剥離して隙間が形成されると、その部分から部分放電が発生し、絶縁劣化を起こすことになる。
【0005】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、中心導体と絶縁層との境界面の絶縁特性を向上し得る注型絶縁物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の注型絶縁物は、電気機器の主回路導体に接続される中心導体と、前記中心導体の周りに注型により形成された絶縁層と、前記中心導体と前記絶縁層との境界面に形成された隙間に流動絶縁体を加圧して充填した充填層と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、中心導体と絶縁層との境界面に形成される隙間に、流動絶縁体を加圧して充填した充填層を設けているので、絶縁特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0009】
先ず、本発明の実施例1に係る注型絶縁物を図1乃至図3を参照して説明する。図1は、本発明の実施例1に係る注型絶縁物の構成を示す断面図、図2は、本発明の実施例1に係る注型絶縁物の要部拡大断面図、図3は、本発明の実施例1に係る注型絶縁物の製造方法を説明するフロチャート図である。なお、注型絶縁物をスイッチギヤの主回路断路部を用いて説明する。
【0010】
図1に示すように、所定の絶縁距離を保って一列配置された三相分の中心導体1の周りには、エポキシ樹脂のような絶縁材料で一体注型されて形成された絶縁層2が設けられている。
【0011】
絶縁層2の図示左側には、それぞれの中心導体1を囲むように筒状のヒダ2aが設けられ、ヒダ2a内の底部の中心導体1端に図示しない開閉器の主回路導体3が接続されるようになっている。絶縁層2の図示右側には、それぞれ中心導体1を囲むような環状のヒダ2bが設けられ、中心導体1端にスイッチギヤの主回路導体4が固定されるようになっている。絶縁層2の両端には、埋め金5が埋め込まれており、盤壁6にボルト7で締め付け固定される。
【0012】
ここで、図2に示すように、中心導体1と絶縁層2との境界面の隙間には、シリコンオイル、シリコングリスのような液状やクリーム状の絶縁特性の優れた流動絶縁体を加圧して浸透、充填した充填層8を設けている。充填層8は、厚さや長さが三相分で異なっており、充填層8が形成されない相もある。
【0013】
次に、充填層8の形成方法を図3を参照して説明する。
【0014】
注型金型内でエポキシ樹脂を加熱硬化させ、離型し、注型が完了すると(st1)、注型金型の合わせ目や中心導体1と絶縁層2との境界面などに形成されたバリをヤスリなどで取り除く(st2)。そして、ヒダ2a底部の中心導体1と絶縁層2との境界面に、シリコングリスを例えばハケ塗りで塗布する(st3)。シリコングリスは、境界面の全周に塗布するものの、中心導体1側に充分に塗布しておけばよい。
【0015】
次に、流動絶縁体を塗布した主回路断路部を加圧タンクに搬入し、乾燥空気で加圧する(st4)。圧力は、0.2MPa〜0.5MPaであり、約5分間保持する。これにより、表面に塗布された流動絶縁体が加圧されるとともに、隙間内に浸透しながら充填され、充填層8が形成される。なお、隙間は負圧になっている部分があると考えられ、加圧することにより、満遍なくシリコングリスを充填させることができる。その後、減圧し(st5)、加圧タンクから取出し、中心導体1や絶縁層2の表面に付着した所謂残存したシリコングリスを除去する。
【0016】
次に、加圧した圧力とコロナ特性を求めると、圧力上昇とともにコロナ特性が上昇し、0.2MPa以上から飽和する傾向にあった。コロナ特性は、圧力0.2MPa時に20〜50%の向上がみられた。隙間の幅は数〜数100μmと狭いので、一旦充填されたシリコングリスは容易に流出し難いものとなる。なお、大容量の中心導体1であって、絶縁層2よりも体積比が大きい注型絶縁物においては隙間が形成され易く、充填層8による効果が大きいものとなる。
【0017】
上記実施例1の注型絶縁物によれば、中心導体1と絶縁層2との境界面に形成された隙間に、シリコングリスのような流動絶縁体を圧力0.20Pa以上で加圧して充填した充填層8を設けているので、コロナ特性を向上させることができる。
【0018】
上記実施例1では、注型絶縁物を主回路断路部を用いて説明したが、単一形ブッシングや絶縁母線など主回路導体の周りに絶縁層が形成され、境界面に隙間が形成される注型品において同様の効果を得ることができる。
【実施例2】
【0019】
次に、本発明の実施例2に係る注型絶縁物を図4を参照して説明する。図4は、本発明の実施例2に係る注型絶縁物の要部拡大断面図である。なお、この実施例2が実施例1と異なる点は、封止膜を設けたことである。図4において、実施例1と同様の構成部分においては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0020】
図4に示すように、充填層8が気中と接する露出部分には、速乾性のエポキシ樹脂接着剤を例えばハケ塗りして塗布し、硬化させた封止膜9を設けている。なお、エポキシ樹脂接着剤を塗布する前には、当該部分をアルコールなどで脱脂すれば、封止膜9を強固に設けることができる。
【0021】
上記実施例2の注型絶縁物によれば、長期間に亙り充填層8を安定して設けておくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例1に係る注型絶縁物の構成を示す断面図。
【図2】本発明の実施例1に係る注型絶縁物の要部拡大断面図。
【図3】本発明の実施例1に係る注型絶縁物の製造方法を説明するフロチャート図。
【図4】本発明の実施例2に係る注型絶縁物の要部拡大断面図。
【符号の説明】
【0023】
1 中心導体
2 絶縁層
2a、2b ヒダ
3、4 主回路導体
5 埋め金
6 盤壁
7 ボルト
8 充填層
9 封止膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器の主回路導体に接続される中心導体と、
前記中心導体の周りに注型により形成された絶縁層と、
前記中心導体と前記絶縁層との境界面に形成された隙間に流動絶縁体を加圧して充填した充填層と、
を備えたことを特徴とする注型絶縁物。
【請求項2】
前記充填層の気中露出部分に封止膜を設けたことを特徴とする請求項1に記載の注型絶縁物。
【請求項3】
流動絶縁体は、シリコングリスであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の注型絶縁物。
【請求項4】
中心導体の周りに絶縁層を形成する注型絶縁物の製造方法において、
前記中心導体と前記絶縁層との境界面に流動絶縁体を塗布し、
前記流動絶縁体を乾燥空気で加圧し、
前記中心導体と前記絶縁層との境界面に形成されている隙間に前記流動絶縁体を充填することを特徴とする注型絶縁物の製造方法。
【請求項5】
前記流動絶縁体を塗布した注型絶縁物を加圧タンクに搬入し、前記流動絶縁体を加圧することを特徴とする請求項4に記載の注型絶縁物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−27466(P2010−27466A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189062(P2008−189062)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】