説明

泳動ゲル用トランスイルミネータ

【課題】電気泳動ゲル中の核酸の励起光の照射によるダメージを大幅に減少させることができ、しかもゲルのバンドが位置する部位の切り出しの作業時間も充分に確保でき、切り出しの作業確実性を向上させることができる泳動ゲル用トランスイルミネータの提供。
【解決手段】ゲル設置面21aを形成する透光板21を有する筐体20内に励起光を出力する光源30を内蔵しており、さらに、前記筐体20内に、前記透光板21と前記光源30との間を開閉する遮光シート40を収納し、この遮光シート40に開閉操作用の可動部材50を取り付けてある泳動ゲル用トランスイルミネータ10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸またはタンパク質の電気泳動ゲルに、該ゲル中の前記核酸あるいはタンパク質の分子を染色した蛍光性染色剤を励起させ蛍光を発生させる励起光を照射する泳動ゲル用トランスイルミネータに関する。
【背景技術】
【0002】
DNA、RNA等の核酸を分析する方法として、核酸をアガロースゲルやポリアクリルイミドゲルといったゲル中で電気泳動して分離(例えばDGGE法。DGGE:Denaturing Gradient Gel Electrophoresis 変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法)し、これを蛍光法にて観察する方法が広く行われている。
核酸を含むサンプルをゲル中で電気泳動させると、核酸がその分子量の違い等に応じた移動速度の違いによって分離される。ゲル中の核酸は、核酸分子に結合する蛍光性染色剤(以下、単に染色剤とも言う。例えばエチジウムブロマイド)を用いて染色する。染色剤は、その溶液をゲルの作成時にゲルに加える、あるいは、染色剤の溶液を加えたサンプルをゲルに設置して電気泳動する、あるいは、サンプルの電気泳動後にゲルを染色剤溶液に浸す、といった手法によりゲル中に混入させ、核酸分子に結合させる。また、余剰の染色剤は洗い流す。
【0003】
前記染色剤としては、紫外線を励起光として蛍光を発するものが広く用いられている(例えば特許文献1、2)。このような染色剤を用いた場合、電気泳動後のゲルに紫外線を照射すると、核酸と結合している染色剤が蛍光を発することで、電気泳動によって分離された核酸の位置が視認可能となる。サンプルに含まれる核酸は、その分子量、サイズ等によって、電気泳動の際の移動速度が決まる。そしてサンプル中の核酸は電気泳動の際の移動速度に応じたバンドを形成する。ゲルの内、所望のバンドを含む部位を切り出して、PCR分析(PCR:Polymerase Chain Reaction。ポリメラーゼ連鎖反応)等を行うことができる。
【0004】
ここで、ゲルに染色剤の励起光を照射する照射装置をトランスイルミネータと称する。このトランスイルミネータとしては、紫外線を照射するために紫外線ランプを備えたものが広く採用されている。
【特許文献1】特開平7−190934号公報
【特許文献2】特開2003−194721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の分析方法の場合、紫外線の照射による核酸分子のダメージ(損傷)を減らすため、波長が長め(例えば300nm以上)の紫外線ランプを搭載したトランスイルミネータを使用するといった対策がある。しかしながら、核酸分子の損傷を出来るだけ小さくするには核酸が紫外線に晒される時間を短縮する必要があり、ゲルからのバンドの切り出し作業を出来るだけ手早く行う必要があり、作業者の負担が大きかった。
また、ゲルからのバンドの切り出しは手作業で1バンドずつ行うため作業時間の短縮には限界がある。トランスイルミネータは紫外線ランプを点灯させるとゲル全体に紫外線を照射する構成になっているものが一般的であるため、サンプル数が多い場合は切り出しの順番が後のものほど紫外線に晒される時間が長く核酸分子の損傷が激しくなり、その結果、核酸の損傷によりPCR分析の成功率が低くなるといった問題があった。
【0006】
また、近年では、可視光域の光を励起光として使用するトランスイルミネータも開発されており実用化されているが、励起光の照射時間が長いと核酸の分子構造に影響を与える可能性がある。このため、可視光域の光を染色剤の励起光として用いる場合も、励起光の照射による影響を抑えたいという要求がある。
【0007】
本発明は、前記課題に鑑みて、簡単な構成で励起光の照射による核酸のダメージ(損傷)を大幅に減少させることができ、しかもゲルのバンドが位置する部位の切り出しの作業時間も充分に確保でき、切り出しの作業確実性を向上させることができる泳動ゲル用トランスイルミネータの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では以下の構成を提供する。
第1の発明は、核酸又はタンパク質の電気泳動ゲルに、該ゲル中の前記核酸又はタンパク質の分子を染色した蛍光性染色剤を励起させ蛍光を発生させる励起光を照射する泳動ゲル用トランスイルミネータであって、筐体と、この筐体内に収納され前記励起光を出力する光源と、前記筐体の一部を構成し前記励起光を透過する透光板と前記光源との間に確保された空間に介在される遮光シートと、前記遮光シートの前記筐体に取り付けられた基端部とは反対の側の端部に取り付けられ、前記筐体において前記透光板に対して垂直の向きで前記透光板と前記光源との間の前記空間を取り囲むように設けられている側壁部に前記透光板に沿って延在形成された長穴の長手方向に移動される可動部材とを具備し、前記透光板の前記筐体の内側空間とは反対側の面であるゲル設置面に前記電気泳動ゲルが設置されるようになっており、前記可動部材は、前記長穴を介して前記筐体の外側に突出された操作ハンドル部を有し、前記遮光シートの前記基端部は前記長穴の長手方向において前記光源と前記透光板との間の前記空間を避けた位置に設けられ、前記可動部材を移動することで前記光源から前記透光板への前記励起光の照射範囲が変更されることを特徴とする泳動ゲル用トランスイルミネータを提供する。
第2の発明は、前記長穴の長手方向において前記光源と前記透光板との間の前記空間を介して両側の一方に前記基端部を有する前記遮光シートである第1遮光シートと、この第1遮光シートの前記基端部とは反対の側の端部に取り付けられた前記可動部材である第1可動部材と、前記光源と前記透光板との間の前記空間を介して前記第1遮光シートとは反対の側に前記基端部を有する前記遮光シートである第2遮光シートと、この第2遮光シートの前記基端部とは反対の側の端部に取り付けられた前記可動部材である第2可動部材とを具備し、前記第1可動部材の前記操作ハンドル部と前記第2可動部材の前記操作ハンドル部とが、前記長穴を介して前記筐体の外側に突出されていることを特徴とする第1の発明の泳動ゲル用トランスイルミネータを提供する。
第3の発明は、さらに、前記筐体の前記側壁部に前記透光板に沿い前記長穴の長手方向に対して直交する向きで延在形成された第2長穴と、この第2長穴の延在方向において前記光源と前記透光板との間の前記空間を避けた位置にて前記筐体に取り付けて設けられた前記遮光シートである補助遮光シートと、この補助遮光シートの前記筐体に取り付けられた基端部とは反対の側の端部に取り付けられ前記第2長穴の延在方向に沿って移動される前記可動部材である補助可動部材とを具備することを特徴とする第1又は第2の発明の泳動ゲル用トランスイルミネータを提供する。
第4の発明は、前記可動部材は、前記筐体において前記透光板と前記光源との間に確保された空間を介して両側に位置する側壁部に架け渡すようにして設けられた棒状部と、この棒状部に突設された前記操作ハンドル部とを具備し、前記筐体の側壁部に、前記可動部材の前記棒状部の移動を案内するための案内部が設けられていることを特徴とする第1〜3のいずれかの発明の泳動ゲル用トランスイルミネータを提供する。
第5の発明は、前記筐体は、前記光源と前記透光板との間の前記空間と前記遮光シートの基端部との間に前記遮光シートを収納するための遮光シート格納部を具備することを特徴とする第1〜4のいずれかの発明の泳動ゲル用トランスイルミネータを提供する。
第6の発明は、前記遮光シートは、波形に屈曲され、伸長及び折り畳みを自在に行えるようになっていることを特徴とする第1〜5のいずれかの発明の泳動ゲル用トランスイルミネータを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る泳動ゲル用トランスイルミネータによれば、透光板と光源との間の空間に引き込むことができる開閉自在の遮光シートを具備しており、前記光源と前記透光板との間に遮光シートを介在させることで、光源から出力された励起光を、遮光シートによって、透光板及び該透光板のゲル設置面に設置された電気泳動ゲルに達しないように遮光できる。また、筐体の外側に突出された操作ハンドルを操作して可動部材を移動することで、光源から出力された励起光を遮光シートで遮光する範囲、前記光源から前記透光板への前記励起光の照射範囲を変更できる。
【0010】
光源から出力された励起光を遮光シートで遮光した領域(遮光領域)では、励起光の照射によって、核酸あるいはタンパク質(以下、核酸、タンパク質を、分析対象物質、と総称する場合がある)がダメージ(損傷)を受けることを防止できる。
電気泳動により得られたバンドの把握、ゲルのバンドが位置する部位の切り出しといった作業は、前記光源からの出力光を前記透光板に照射させた領域(照射領域)にて行う。照射領域は、ゲルにおいてバンドに対応する部位の切り出し等の作業を行う領域に限定する。これにより、切り出し作業を行う前の核酸への励起光の照射を短時間に抑えることができる。したがって、励起光の照射による分析対象物質のダメージ(損傷)を大幅に減少させることができる。その結果、ゲルのバンドが位置する部位の切り出しの作業時間を充分に確保できるようになるため、作業を焦って切り出しを失敗するといったケースを減少させることができ、切り出しの作業確実性を向上できるといった利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施した泳動ゲル用トランスイルミネータ(以下、トランスイルミネータと略記する場合がある)について、図面を参照して説明する。
【0012】
(第1実施形態)
まず、本発明に係る第1実施形態のトランスイルミネータを説明する。
図1はトランスイルミネータ10を示す正面図、図2はトランスイルミネータ10を示す斜視図、図3は図1のA−A線断面矢視図、図4(a)〜(c)はトランスイルミネータ10に設けられている遮光シート40の可動端42の位置の変更による、透光板21及び透光板21のゲル設置面21aに設置した電気泳動ゲルG(単にゲルとも言う)における励起光の照射範囲の変更を説明する図である。
なお、図1乃至図4(a)〜(c)において、上側を上、下側を下として説明する。
【0013】
図1乃至図4(a)〜(c)に示すように、トランスイルミネータ10は、核酸又はタンパク質を含むサンプルを電気泳動させたゲルGに、ゲルG中の前記核酸又はタンパク質の分子を染色した蛍光性染色剤を励起させ蛍光を発生させる励起光を照射するものであり、筐体20と、この筐体20内に収納され前記励起光を出力する光源30と、前記筐体20の一部を構成する透光板21と前記光源30との間に確保された空間22(以下、シート引き込み用空間とも言う)に介在される遮光シート40と、この遮光シート40の前記筐体20に取り付けられた基端部41とは反対の側の端部(可動端42)に取り付けられた可動部材50とを具備する。
【0014】
なお、以下、ゲルGとして、電気泳動によって核酸分子を分離した電気泳動ゲル(電気泳動済みのゲル)を用いた例を説明するが、これにかえて、ゲルGとして電気泳動によってタンパク質分子を分離したゲルを用いることも可能であることは言うまでも無い。
ゲル中での電気泳動によって、移動速度に応じたバンドを形成することは、タンパク質の電気泳動を行ったゲルの場合も、核酸の電気泳動を行ったゲルの場合と同様である。
【0015】
前記筐体20は箱形に形成されており、底板23(図3、図4(a)〜(c)参照)と、この底板23に四角枠状に立設された4つの側壁部24と、四角枠状に設けられた前記側壁部24の底板23とは反対の側を塞ぐゲル設置板25とを具備して構成されている。
ゲル設置板25は、四角枠状の枠板25aの内側の開口部25bに透光板21を固定したものである。このゲル設置板25は、四角枠状に設けられた側壁部24の前記底板23とは反対側の端部に四角枠状の枠板25aを固定して設けられ、四角枠状に設けられた前記側壁部24の前記底板23とは反対側を塞ぐように配置されている。このゲル設置板25は底板23と平行になっている。
【0016】
透光板21の筐体20の内側空間26に臨む面(裏面21b)とは反対の側の面は、シート状に形成された電気泳動ゲルGが設置される平坦面であるゲル設置面21aとされている。
図示例の筐体20において、この透光板21は、その外周が、ゲル設置板25の枠板25aの内周と一致する四角板状に形成されている。また、筐体20において、ゲル設置板25の枠板25aは、四角枠状に設けられた前記側壁部24からその内周側に張り出すように設けられており、透光板21はその裏面21b全体が筐体20の内側空間26に臨むように配置されている。
【0017】
筐体20の4つの側壁部24は、透光板21に対して垂直の向きで設けられており、筐体20内にて前記シート引き込み用空間22を取り囲むように配置されている。
4つの側壁部24の内のひとつには、可動部材50の移動を案内するための長穴27が形成されている。前記長穴27は透光板21に沿って延在するように形成されている。
【0018】
なお、このトランスイルミネータ10について、長穴27の長手方向に沿う方向を、以下、横方向、該横方向に垂直かつ透光板21(詳細にはゲル設置面21a)に沿う方向を、以下、縦方向と称して説明する場合がある。
筐体20の4つの側壁部24の内、前記長穴27が形成されている側壁部24である操作側壁部241と筐体20の内側空間26を介して操作側壁部241に対向する側壁部24である奥壁部244とは、横方向に延在する長板状になっている。操作側壁部241及び奥壁部244以外の2つの側壁部24(端部壁242、243)は、操作側壁部241及び奥壁部244に対して垂直になっている。
また、四角板状の透光板21は、外周の4辺の内の2辺が横方向、他の2辺が縦方向となる向きで設けられている。
【0019】
光源30は、電気泳動ゲルG中の核酸分子に結合させた染色剤(蛍光性染色剤)を励起させて蛍光を発生させる励起光を出力する。周知のように、染色剤は、個々に、蛍光を発するために好適な励起波長を持つものが一般的である。光源30は、染色剤の励起波長に対応する波長の光を励起光として出力するものである。
光源30としては、例えば、励起光として紫外線を出力する紫外線ランプであるが、可視光を出力するランプであっても良い。
なお、透光板21としては、光源30が出力する励起波長の光を透過するものを採用する。
【0020】
図3、図4(a)〜(c)に示すように、光源30は円筒管状に形成されており、筐体20内において前記長穴27の長手方向に沿う複数箇所(横方向の複数箇所)に設置され、それぞれ縦方向に延在されている。但し、光源30としては、出力光を直接あるいは筐体20内に設けた反射板を介して透光板21全体に略均等に照射できるようになっていれば良く、円筒管状のものに限定されず、例えば、面発光タイプのもの等も採用可能である。
【0021】
このトランスイルミネータ10は、筐体20の底板23側が下、ゲル設置板25側が上となる向き(以下、横置き状態)で使用されるものとして説明する。
電気泳動ゲルGは、透光板21が形成するゲル設置面21a上に重ね合わせるようにして設置される。このトランスイルミネータ10では、光源30から出力された励起光が透光板21を透過して、ゲル設置面21aに設置された電気泳動ゲルGに照射されるようになっている。
【0022】
図1、図2において、符号31は、光源30の電源のオン・オフ切り換え用のスイッチである。
図1、図2においては、このスイッチ31は、筐体20の4つの側壁部24の内、前記長穴27が形成されている側壁部24である操作側壁部241に設けられているが、スイッチ31の設置位置は操作側壁部241以外の側壁部24であっても良い。また、スイッチ31は、筐体20から延出させたケーブルに取り付け、筐体20から離れた位置に設置しても良い。
【0023】
図示例のトランスイルミネータ10には、2枚の遮光シート40と、2つの可動部材50とが設けられている。
遮光シート40は、それぞれ、その長手方向片端(基端部41)を、筐体20の4つの側壁部24の内の前記操作側壁部241に隣り合う一対の側壁部24(端部壁242、243)の片方に取り付けている。図4(a)〜(c)において、符号24aは、遮光シート40の長手方向片端(基端部41)を筐体20(具体的には端部壁)に固定するための固定部品である。
【0024】
このトランスイルミネータ10には、遮光シート40の可動端42に可動部材50を取り付けてなる遮光ユニット60が2つ(第1遮光ユニット60Aと第2遮光ユニット60B)設けられている。
2つの遮光ユニット60の一方(第1遮光ユニット60A)は、遮光シート40(以下、第1遮光シート40Aとも言う)の長手方向片端(基端部41)を筐体20の一対の端部壁242、243の一方(ここでは符号242の端部壁)に取り付けている。他方の遮光ユニット60の(第2遮光ユニット60B)の遮光シート40(以下、第2遮光シート40Bとも言う)は、その長手方向片端(基端部41)を一対の端部壁242、243の他方(ここでは符号243の端部壁)に取り付けている。
【0025】
また、このトランスイルミネータ10の2つの遮光ユニット60(第1遮光ユニット60Aと第2遮光ユニット60B)のそれぞれに設けられている可動部材50は、いずれも、前記操作側壁部241に形成されている1本の長穴27に案内されて、該長穴27の長手方向に沿って移動自在(横方向に移動自在)になっている。
第1遮光シート40Aと該第1遮光シート40Aの可動端42に取り付けた可動部材50(第1可動部材50A)とからなる遮光ユニット60が第1遮光ユニット60A、第2遮光シート40Bと該第2遮光シート40Bの可動端42に取り付けた可動部材50(第2可動部材50B)とからなる遮光ユニット60が第2遮光ユニット60Bである。
【0026】
前記可動部材50は、前記操作側壁部241に垂直の向き(つまり、縦方向に延在する向き)で筐体20の内側空間26を横切るようにして設けられた棒状部51と、この棒状部51の前記操作側壁部241の前記長穴27に挿入された端部(以下、操作側端部とも言う。符号51a)から筐体20の外側に突出された操作ハンドル部52とを具備している。可動部材50の棒状部51は、シート引き込み用空間22を介して両側に位置する側壁部241、244に架け渡すようにして設けられている。
【0027】
図2、図3等に示すように、前記可動部材50の棒状部51の操作側端部51aとは反対側の端部(以下、奥側端部51bとも言う)は、筐体20において内側空間26を介して前記操作側壁部241と対向する側壁部24である奥壁部244に前記操作側壁部241の長穴27と平行に形成された案内溝28に挿入されている。そして、この可動部材50は、棒状部51の両端が、前記長穴27と案内溝28とによって案内されて、長穴27の長手方向、案内溝28の長手方向に移動自在になっている。
【0028】
図5、図6に示すように、遮光シート40は、前記光源30から出力される励起光を遮光できる帯状の可撓性のシート状部材に山折り部43aと谷折り部43bとを形成したものである。山折り部43aと谷折り部43bとは、シート状部材の長手方向に交互に配列されるようにそれぞれ複数形成されている。山折り部43a及び谷折り部43bは、シート状部材の長手方向に垂直の向きで互いに平行な線状に形成されている。この遮光シート40は、山折り部43a及び谷折り部43bがそれぞれ縦方向に延在する向きで筐体20内に収納されている。
【0029】
以下、山折り部43a及び谷折り部43bを総称して屈曲部43とも言う。
図4(a)〜(c)に示すように、この遮光シート40は、筐体20のゲル設置板25と底板23との間において、筐体20に取り付けられている基端部41から可動部材50にわたって延在するように設けられる。可動部材50は、基端部41から横方向(長穴27の長手方向に沿う方向)に離隔した位置に設けられる。
【0030】
遮光シート40は、筐体20内において基端部41から可動部材50にわたって横方向に延在配置される。
遮光シート40の屈曲部43の内、山折り部43aとは、筐体20のゲル設置板25側(図5において上側)に向かって凸のものを指す。谷折り部43bは、山折り部43aとは逆に、筐体20の底板23側(図5において下側)に凸(ゲル設置板25に対して凹)のものを指す。
【0031】
前記遮光シート40を構成するシート状部材としては、例えば合成樹脂製の一体成形品であるが、この他、合成繊維あるいは天然繊維によって形成した織布又は不織布、織布あるいは不織布に合成樹脂材料を含浸あるいは塗布したもの等も使用可能である。
光源30から放射される紫外線を遮光する遮光シート40としては、例えば酸化チタン、酸化亜鉛といった紫外線吸収材料を混入した合成樹脂材料からなるもの、紫外線吸収材料を含む塗料の塗膜である紫外線吸収層を具備するもの等を挙げることができる。光源30が放射する励起光が紫外線である場合、遮光シート40としては少なくとも紫外線を遮光(遮蔽)できるものであれば良いが、さらに可視光域の光も遮光できるものを採用しても良い。
【0032】
屈曲部43は、遮光シート40を構成するシート状部材を折り曲げて曲げ癖を与えるなどして賦形するか、あるいは、シート状部材の成形時にシート状部材を局所的に曲がった形状に成形することで形成される。
【0033】
図5においては、遮光シート40の可動端42を可動部材50の棒状部51の外周方向の一部のみを覆うように被着して固定した構成を例示している。遮光シート40の可動部材50に対する取り付け手段としては、例えば接着剤による接着、ねじ止め等の機械的固定等を挙げることができる。
【0034】
また、遮光シート40の可動端42の可動部材50に対する取り付け構造としてはこれに限定されず、例えば、遮光シート40の可動端42を可動部材50の棒状部51にその外周面を覆うように被着して固定した構造や、遮光シート40の可動端42を筒状に形成した筒状部の内側に可動部材50の棒状部51を収納した構造や、可動部材50の棒状部51に設けたクランプ部品に遮光シート40の可動端42をクランプ固定した構成(但し棒状部51と遮光シート40との間に隙間が無いようにする)等も採用可能である。また、可動部材50の棒状部51自体を遮光シート40をクランプ固定する半割り構造のものとし、この棒状部51に遮光シート40の可動端42を挟み込んで固定した構成や、棒状部51に貫設したスリットに遮光シート40の可動端42を貫通させ接着剤による接着固定などで棒状部51に固定した構成等も採用可能である。
【0035】
可動部材50の棒状部51には励起光を遮光する遮光性を確保する。棒状部51の外側を覆うように遮光シート40を設ける構成や、遮光シート40を棒状部51を貫通するように設ける構成であれば、遮光シート40によって、棒状部51に励起光を遮光する遮光性を確保することが可能である。また、棒状部51として励起光を透過しない構成のものを採用すれば、遮光シート40を利用しなくても、棒状部51全体の遮光性を確保することが可能であることは言うまでも無い。棒状部51の遮光性の確保に遮光シート40を利用する構成の場合も、棒状部51として励起光を透過しない構成のものを採用することが好ましい。
【0036】
前記可動部材50は、トランスイルミネータ10を使用して電気泳動ゲルGの観察等の作業を行う作業者が手指で前記操作ハンドル部52を操作することで、手動で長穴27の長手方向に沿う方向(横方向)に自在に移動できる。
可動部材50の長穴27の長手方向に沿う移動によって、棒状部51が、シート引き込み用空間22を通り前記透光板21(具体的にはゲル設置面21a)に平行な仮想平面S(図4(a)参照)内を移動する。遮光シート40の可動端42もこの仮想平面Sに沿って移動される。
【0037】
図4(a)において、一対の遮光シート40A、40Bの基端部41は、シート引き込み用空間22を介して対向する位置に設けられている。図示例では遮光シート40A、40Bの基端部41は、筐体20の端部壁に対して前記仮想平面S(可動部材50の移動平面)に一致する位置に設けられているが、この基端部41の位置は仮想平面Sの近傍にて仮想平面Sから若干ずれた位置であっても良い。
【0038】
遮光シート40は、可動部材50の長穴27の長手方向に沿う移動(横方向の移動)によって、該遮光シート40の基端部41が取り付けられた筐体20の端部壁と可動部材50との間の距離が変動するに伴い、伸縮(遮光シート40を構成する帯状のシート状部材の長手方向寸法は一定。ここでは、山折り部43a、谷折り部43bといった屈曲部43の変形によって基端部41と可動端42との間の距離が変動すること、伸長及び折り畳みが自在であることを意味する)するように変形される。
【0039】
図4(b)、(c)に示すように、遮光ユニット60は、可動部材50の移動操作によって可動端43をシート引き込み用空間22内に配置することで、遮光シート40をシート引き込み用空間22に引き込むことができる。また、各遮光ユニット60は、可動部材50の移動操作によって、それぞれ単独で、光源30と透光板21との間を開閉できる。
【0040】
図3等に示すように、既述のように、可動部材50の棒状部51の長手方向片端である操作側端部51aは、前記操作側壁部241の前記長穴27に挿入されており、該長穴27の長手方向に沿って移動自在になっている。長穴27自体が棒状部51の操作側端部51aの移動を案内する案内部として機能する。
また、前記筐体20の前記奥壁部244の案内溝28は、可動部材50の棒状部51の奥側端部51bを、前記操作側壁部241の前記長穴27の長手方向(延在方向)に沿う移動を案内するための案内部(以下、奥端案内部とも言う)として機能する。奥端案内部は、長穴27の長手方向に沿って延在(横方向に延在)されている。
【0041】
筐体20は、シート引き込み用空間22を介して両側の側壁部24、つまり、ここでは操作側壁部241と奥壁部244とに、可動部材50(詳細には棒状部51)の長穴27の長手方向に沿う移動を案内するための案内部27、28を具備する構成となっている。可動部材50は、作業者が操作ハンドル部52を操作することで、前記操作側壁部241の案内部(長穴27)と前記奥壁部244の前記案内部(奥端案内部。図示例では案内溝28)とに案内されながら、長穴27及び奥端案内部(図示例では案内溝28の長手方向の延在方向に沿って移動できる。
【0042】
筐体20の奥側壁部244に設けられる奥端案内部としては、可動部材50の奥側端部51bの長穴27の長手方向に沿う移動を案内できる構成のものであれば良く、図3に例示した案内溝28に限定されず、各種構成のものを採用できる。例えば、奥側壁部244の操作側壁部241の長穴27に対応する位置に長穴を形成してこの長穴自体を奥端案内部として機能させる構成や、奥側壁部244に互いに平行に取り付けた2本の案内レールの間に棒状部51を案内するための案内溝を確保した構成、案内溝付きの案内レールを奥側壁部244に取り付けた構成等も採用可能である。
【0043】
また、可動部材として、棒状部51の奥側端部51bにフランジ部を突設したものや、前記奥側端部51bに軸回り回転自在のリングを設けた構成のものを採用して、案内溝や案内レールといった奥端案内部の延在方向への棒状部51の奥側端部51bの移動抵抗を低減することも可能である。
【0044】
可動部材50の棒状部51の操作側端部51aの外周には、該可動部材50の筐体20の外側への抜け出しを規制するために、筐体20の操作側壁部241の内面(筐体20の内側空間26に臨む面)に接触される抜け止めリング53がフランジ状に突設されている。可動部材50が長穴27の長手方向に沿って移動するとき、抜け止めリング53は操作側壁部241の内面に摺動する。この抜け止めリング53は、可動部材50の棒状部51の操作側壁部241に対する向きを前記操作側壁部241に対して垂直に保つ姿勢維持部材としても機能する。したがって、このトランスイルミネータ10において、可動部材50は、棒状部51が前記操作側壁部241に対して垂直の向きを保ったまま、長穴27の長手方向に沿って自在に移動させることができる。
なお、前記抜け止めリング53は、ここでは、棒状部51の操作側端部51aの外周全周にフランジ状に固設された部材であるが、例えば、棒状部51の操作側端部51aの外周に軸回り回転自在に設けられたリング状部材であっても良い。
【0045】
図4(a)に例示したように、遮光ユニット60の遮光シート40全体を、筐体20内にてシート引き込み用空間22と端部壁との間に確保された空間である遮光シート格納部29内に収納した状態では、図5実線に示すように遮光シート40の全ての屈曲部43が折り曲げ状態となっている。また、このトランスイルミネータ10では、遮光シート40全体を遮光シート格納部29内に収納したとき、この遮光シート40が取り付けられている可動部材50の棒状部51を、シート引き込み用空間22から前記遮光シート40の基端部41側にずれたところに位置させることができ(棒状部51が遮光シート格納部29内に入り込む)、遮光ユニット60がシート引き込み用空間22に入り込まないようにすることが可能である。
【0046】
このトランスイルミネータ10の遮光シート格納部29について具体的に説明する。
図4(a)に示すように、このトランスイルミネータ10の筐体20のゲル設置板部25は、枠板25aが、筐体20の横方向両側に位置する一対の側壁部24(一対の端部壁242、243)から互いに対向する相手側の側壁部242、243に向けて張り出すように突出された部分である張り出し部25cを有している。前記遮光シート格納部29は、筐体20の横方向両側に位置する側壁部24(端部壁242、243)とシート引き込み用空間22との間に確保された空間であり、筐体20の前記張り出し部25cと底板23との間に位置する。なお、遮光シート40の基端部41は遮光シート格納部29内に位置する。
【0047】
図1に示すように、長穴27及び奥端案内部(図示例のトランスイルミネータ10においては案内溝28(図3参照))の長手方向寸法はシート引き込み用空間22の横方向寸法よりも大きい。このトランスイルミネータ10の横方向において、長穴27は、シート引き込み用空間22の横方向の延在範囲に対応する部分と、この部分から横方向両側に延長された部分とを有している。奥壁部244には、筐体20の内側空間26を介して長穴27に対応する延在方向(横方向)寸法を確保した奥端案内部が設けられる。また、長穴27及び奥端案内部によって案内される可動部材50A、50Bの可動範囲(横方向における可動範囲)は、それぞれ、シート引き込み用空間22の横方向の延在範囲全体に重なるとともに、さらにシート引き込み用空間22から、当該可動部材が設けられている遮光ユニット60の遮光シート40を収納するための遮光シート格納部29内に入り込むように延在する。
【0048】
遮光シート40全体を遮光シート格納部29内に収納し、可動部材50の棒状部51を、シート引き込み用空間22から前記遮光シート40の基端部41側にずれたところに位置させた状態を、以下、格納状態とも言う。この格納状態では、遮光ユニット60に、シート引き込み用空間22に入り込んだ部分が存在しないため、この遮光ユニット60は光源30から透光板21、ゲルGへ照射される励起光を遮光しない。
図4(a)に示すように、このトランスイルミネータ10の一対の遮光ユニット60A、60Bの両方を格納状態としたとき(全開状態)は、光源30からシート引き込み用空間22を介して透光板21全体に励起光32が照射される。
【0049】
格納状態の遮光ユニット60の可動部材50を移動して遮光シート40をシート引き込み用空間22に入り込ませていく(引き込んでいく)と、遮光シート40は、可動端42に近い側から、屈曲部43の曲げが緩やかになる(図5中、仮想線を参照)。つまり、屈曲部43の開き角θが大きくなる。これにより、遮光シート40の基端部41から可動端42までの距離が増大し、遮光シート40は格納状態に比べて引き延ばされた状態となる。
【0050】
逆に、遮光シート40をシート引き込み用空間22に引き込んだ状態から格納状態にすると、遮光シート40の複数の屈曲部43の1以上の曲げが急になり(屈曲部43の開き角θが小さくなる)、遮光シート40の基端部41から可動端42までの距離が縮小する。
【0051】
トランスイルミネータ10としては、操作ハンドル部52の手動操作によって可動部材50を所望位置に確実に静止させるために、例えば、図7に示すように、筐体20の操作側壁部241の長穴27の長手方向全長にわたってその内面に可動部材50の棒状部51の操作側端部51aと接触させる柔軟性の接触部材271を設けて、長穴27の長手方向に沿って移動する可動部材50の移動抵抗を増大させても良い。前記柔軟性の接触部材271としては、例えばゴム(天然ゴムあるいは合成ゴム)製のものが好適であるが、これに限定されず、合成ゴム以外の合成樹脂製のもの、綿等の天然繊維で形成されたものも採用可能である。
また、可動部材50の移動抵抗を増大させるための構成(移動抵抗増大手段)としては、上述の接触部材271の設置に限定されず、例えば、長穴27内面の粗面化、棒状部51の操作側端部51aの外周面の粗面化、棒状部51の操作側端部51aの外周面へのゴム被覆層の形成等も採用可能である。
【0052】
このトランスイルミネータ10を用いて電気泳動ゲルGを観察し、このゲルGからバンドが位置する部位を切り出すには、図1に示すように、作製したシート状の電気泳動ゲルGを透光板21のゲル設置面21aに重ね合わせるように設置し、光源30から出力させた励起光をゲルGに照射してゲルGを透光板21とは反対の側から観察する。そして、このゲルGからバンドが位置する部位を切り出す。
【0053】
但し、このトランスイルミネータ10の場合、例えば図4(b)、(c)に示すように、遮光ユニット60の可動部材50の操作ハンドル部52の操作によって、ゲルGへの励起光32の照射範囲をシート状のゲルGの一部に絞り込んで該照射範囲についてゲルGの観察及び切り出しを行うことができる。そして、ゲルGにおける励起光32の照射範囲の移動とバンドの観察及びゲルGの切り出しとを複数回繰り返すことで、バンドの観察及びゲルGの切り出しを順次進めて行くといったことが可能である。
【0054】
図示例のトランスイルミネータ10の場合、一対の遮光ユニット60の可動部材50(詳細には棒状部51)間の距離によって、光源30から透光板21への前記励起光32の照射範囲、ゲルGにおける励起光32の照射範囲が決まる。光源30から出力された励起光32は、筐体20に長穴27の長手方向に沿って移動自在に設けられた一対の可動部材50(詳細には棒状部51)を互いに離隔させたときに、一対の可動部材50(詳細には棒状部51)の間の空間(以下、光照射用空間とも言う。符号22a)を通り、透光板21を透過してゲルGに照射される。
一方、可動部材50の棒状部51及び遮光シート40は励起光32を遮光するため、ゲルGの内、透光板21を介して可動部材50の棒状部51及び遮光シート40に対向する部分(以下、非照射領域とも言う)には励起光32は照射されない。したがって、この非照射領域では、ゲルG中の核酸が励起光32によって損傷するといった不都合を防止できる。
【0055】
図9(b)は、このトランスイルミネータ10によって励起光を照射する対象のシート状のゲルGの一例を示す。図示例のゲルGは矩形シート状に形成されている。
ここで、図8(a)、(b)、図9(a)を参照してゲルGの作製手法の一例を説明する。
図8(a)、(b)はゲル作製用治具70の一例を示す。
このゲル作製用治具70は、一対のプレート71の間にコ字形のスペーサ72を挟み込み、前記スペーサ72によって一対のプレート71の間に隙間73を確保した構造になっている。図中符号75は、一対のプレート71とスペーサ72とをクランプして、一対のプレート71の間にスペーサ72を挟み込んだ状態を維持するためのクランプ部品である。なお、このクランプ部品75は着脱可能であり、クランプ部品75を取り外すことでゲル作製用治具70を簡単に解体できる。
【0056】
前記隙間73の内、コ字形のスペーサ72の内側に位置する領域に、液状ゲル材料(例えばポリアクリルイミド溶液)を流し込み、ゲル化のための重合開始剤(例えばテトラメチルエチレンジアミン)、重合促進剤(例えば過硫酸アンモニウム)を加えてゲル化させることで、シート状のゲルG1(以下、泳動用ゲルシートとも言う)が得られる。
この泳動用ゲルシートG1の端面に、櫛歯状のコーム74等の凹所形成具を用いてサンプル設置用凹所G2(ウェル)を一列に複数形成して、これらサンプル設置用凹所G2にサンプル80(図9(a)参照)を設置した後、泳動用ゲルシートG1に電圧を掛けて電気泳動を行う。これにより、図9(b)に示す電気泳動ゲルGが得られる。
また、染色剤をゲル中の核酸分子に結合させるため、例えば、染色剤の溶液を泳動用ゲルシートG1の作製時に泳動用ゲルシートG1に加える、染色剤の溶液を加えたサンプルの使用、サンプルの電気泳動後のゲルGを染色剤溶液に浸す、といった手法を選択的に採用する。
【0057】
本発明に係る電気泳動ゲルGは、サンプル80中の核酸の分離のための電気泳動を行った電気泳動済みのゲルであり、紫外線あるいは可視光を励起光として蛍光を発する染色剤を結合させた核酸を含むものを指す。
染色剤として紫外線を励起光として蛍光を発するもの(例えばエチジウムブロマイド)を採用した場合は、トランスイルミネータ10として、前記染色剤を励起させて蛍光を発生させる紫外線を励起光として出力する光源30を具備するもの用いる。
【0058】
電気泳動によって得られたゲルGに、染色剤の励起波長に対応する波長の励起光を照射すれば、核酸に結合した染色剤が励起されて蛍光を発し、電気泳動によってサンプル80から分離された核酸分子のバンド81(図9(b)参照)が視認可能となる。
図9(b)に示すように、電気泳動済みのゲルGには、電気泳動によってサンプル設置用凹所G2内のサンプル80から移動した物質が分布する領域(図9(b)中仮想線で示すレーン82)が、サンプル設置用凹所G2から延出する帯状に存在する。ゲルGには、サンプル設置用凹所G2毎のレーン82が並列に存在する。バンド81は前記レーン82内に存在する。
【0059】
トランスイルミネータ10を用いて電気泳動ゲルGの観察及び切り出しを行う場合、ゲル作製用治具70から取り出したゲルGを、複数のレーン81の長手方向(延在方向)が可動部材50の棒状部51の長手方向に揃う向きで、透光板21のゲル設置面21aに重ね合わせるように設置する。
これにより、例えば図4(b)、(c)に示すように、遮光ユニット60の可動部材50の操作ハンドル部52の操作によって、ゲルGへの励起光32の照射範囲をシート状のゲルGの一部に絞り込む場合、複数のレーン82(図9(b)参照)から選択した1本に対応する範囲にのみ励起光32を照射するといったことが可能である。また、遮光ユニット60の可動部材50の操作ハンドル部52の操作によって、励起光32を照射するレーン82を変更することができる。ゲルGへの励起光32の照射、ゲルGの観察及び切り出しをレーン82単位で行うことができる。
【0060】
ゲルGへの励起光32の照射範囲の絞り込みは、このトランスイルミネータ10の一対の遮光ユニット60A、60Bの一方または両方を遮光シート格納部29から引き出してシート引き込み用空間22に引き込むことで実現される。
上述のように、ゲルGを、複数のレーン81の長手方向(延在方向)が可動部材50の棒状部51の長手方向に揃う向きで、透光板21のゲル設置面21aに重ね合わせるように設置すれば、遮光ユニット60Aの可動部材50及び遮光ユニット60Bの可動部材50の位置調整によって、一対の遮光ユニット60の間に確保する光照射用空間22aのサイズ及び位置を決めることで、励起光32を照射するレーン82を選択できる。
【0061】
図4(b)は符号60Aの遮光ユニットを格納状態とし、反対側の遮光ユニット60Bの遮光シート40をシート引き込み用空間22に引き込み、一対の遮光ユニット60A、60Bの間に光照射用空間22aを確保した状態、図4(c)は符号60Bの遮光ユニットを格納状態とし、反対側の遮光ユニット60Aの遮光シート40をシート引き込み用空間22に引き込み、一対の遮光ユニット60A、60Bの間に光照射用空間22aを確保した状態を示す。
また、図1、図2は、2つの遮光ユニット60A、60Bの遮光シート40をそれぞれシート引き込み用空間22に引き込み、一対の遮光ユニット60A、60Bの間に光照射用空間22aを確保した状態を示す。
【0062】
図示を略すが、一対の遮光ユニット60A、60Bは、可動部材50同士を互いに当接させて閉じ合わせることができる。このとき光照射用空間22aは確保されないため、ゲルGに励起光は照射されない。一対の遮光ユニット60A、60Bは、光源30と透光板21との間を開閉できる。
【0063】
上述のように、ゲルGへの励起光の照射、ゲルGの観察及び切り出しをレーン82単位で行う場合、ゲルGの内の励起光が照射されない非照射領域では、励起光の照射によってゲルG中の核酸が損傷するといった不都合を防止できる。
その結果、ゲルのバンドが位置する部位の切り出しの作業時間を充分に確保できるようになるため、作業を焦って切り出しを失敗するといったケースを減少させることができ、切り出しの作業確実性を向上できる。
【0064】
なお、ゲルGへの励起光の照射、ゲルGの観察及び切り出しは、レーン82単位(レーン1本毎)で行うことに限定されず、例えば、互いに隣り合う2本以上のレーン82について一括して行うといったことも可能であり、特には限定は無い。
【0065】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態のトランスイルミネータ10Aを図10、図11(a)、(b)を参照して説明する。なお、第1実施形態と共通の構成部分には共通の符号を付して説明する。
図10に示すように、このトランスイルミネータ10Aは、第1実施形態のトランスイルミネータ10と同様に、外観箱形の筐体20Aを有している。図10、図11(a)、(b)に示すように、前記筐体20Aは、第1実施形態のトランスイルミネータ10の前記筐体20と同様に、底板23、ゲル設置板25、4つの側壁部24’を有している。また、4つの側壁部24’について、第1実施形態のトランスイルミネータ10の前記筐体20の4つの側壁部24に対応させて、操作側壁部241’、端部壁242’、243’、奥壁部244’と称して説明する場合がある。この筐体20Aは、4つの側壁部24’の底板23及びゲル設置板25に垂直の方向の寸法を、第1実施形態のトランスイルミネータ10の前記筐体20の4つの側壁部24に比べて大きくしてあり、第1実施形態のトランスイルミネータ10の筐体20に比べて底板23とゲル設置板25との間の距離を大きい点、操作側壁部241’のみならず、一対の端部壁242’、243’の片方(ここでは、符号242’の端部壁。以下、この端部壁242’を第1端部壁、反対側の端部壁243’を第2端部壁とも言う)にも長穴(第2長穴27A)を形成した点が、第1実施形態のトランスイルミネータ10の筐体20と異なる。
また、この実施形態のトランスイルミネータ10Aは、前記筐体20Aを採用した点と、2つの遮光ユニット90を追加した点が、第1実施形態のトランスイルミネータ10と異なる。
【0066】
以下、遮光ユニット90を補助遮光ユニットとも言う。また、説明の便宜上、2つの補助遮光ユニット90の一方に符号90A、他方に符号90Bを付して説明する場合がある。
なお、操作側壁部241’の長穴27の長手方向(延在方向)に沿って移動自在の可動部材50を具備する遮光ユニット60について、以下、メイン遮光ユニットとも言う。
【0067】
このトランスイルミネータ10Aについて、長穴27の長手方向に沿う方向を横方向、該横方向に垂直かつ透光板21(詳細にはゲル設置面21a)に沿う方向を縦方向と称して説明する場合があることは、第1実施形態と同様である。
前記第2長穴27Aは、筐体20Aの第1端部壁242’に縦方向に延在形成されている。
【0068】
図10、図11(b)に示すように、このトランスイルミネータ10Aにおいて、2つの補助遮光ユニット90は、それぞれ、前記光源30から出力される励起光を遮光できる帯状の可撓性のシート状部材に山折り部と谷折り部とを形成してなる遮光シート91(補助遮光シート)と、この遮光シート91を構成する前記シート状部材の長手方向片端の筐体20Aに取り付けられた基端部91aとは反対側の端部に取り付けられた可動部材92(補助可動部材)とを具備して構成されている。
【0069】
補助遮光ユニット90の遮光シート91としては、メイン遮光ユニット60の遮光シート40と同様の構造のものを用いることができる。山折り部及び谷折り部は、シート状部材の長手方向に垂直の向きで互いに平行な線状に形成されており、シート状部材の長手方向に交互に配列されるようにそれぞれ複数形成されている。山折り部は図10、図11(b)において上側に凸の屈曲部、谷折り部は図10、図11(b)において下側に凸の屈曲部を指す。この遮光シート91は、山折り部及び谷折り部がそれぞれ横方向に延在する向きで筐体20A内に収納されている。
【0070】
符号90Aの補助遮光ユニットの遮光シート91(図10、図11(b)中、符号91Aを付記する)は、該遮光シート91Aを構成するシート状部材の長手方向一端(基端部91a)を筐体20Aの操作側壁部241’に取り付け、前記シート状部材の前記基端部91aとは反対の側の端部(可動端91b)に前記可動部材92(図中、符号92Aの可動部材)を取り付けた構成となっている。
符号90Bの補助遮光ユニットの遮光シート91(図10、図11(b)中、符号91Bを付記する)は、該遮光シート91Bを構成するシート状部材の長手方向一端を筐体20の操作側壁部241’に取り付け、前記シート状部材の前記基端部91aとは反対の側の端部(可動端91b)に前記可動部材92(図中、符号92Bの可動部材)を取り付けた構成となっている。
【0071】
図11(b)に示すように、一対の補助遮光ユニット90A、90Bの一方の遮光シート91Aの筐体20Aに固定した基端部91aと、他方の遮光シート91Bの筐体20に固定した基端部91aとは、第2長穴27Aの長手方向に沿う方向において前記シート引き込み用空間22を介して対向する位置にある。2つの補助遮光ユニット90の遮光シート91の基端部91aは、いずれも、第2長穴27Aの長手方向に沿う方向において筐体20内のシート引き込み用空間22を避けた位置に設けられている。
【0072】
図10、図11(a)に示すように、補助遮光ユニット90A、90Bの可動部材92は、前記操作側壁部241’に平行(筐体20Aの一対の端部壁242’、243’に垂直)の向きで前記シート引き込み用空間22を介して両側の側壁部24’(端部壁242’、243’)に架け渡すようにして設けられた棒状部92aと、この棒状部92aの前記第2長穴27Aに挿入された端部(以下、操作側端部とも言う。符号92b)から筐体20Aの外側に突出された操作ハンドル部92cとを具備している。
【0073】
遮光シート91の可動部材92に対する取り付け構造は、メイン遮光ユニット60における遮光シート40の可動部材50に対する取り付け構造(図5参照)と同様のものを採用できる。
【0074】
前記可動部材92の棒状部92aは、操作側端部92bが第2長穴27Aに案内されながら該第2長穴27Aの長手方向に沿って縦方向に自在に移動できる。第2長穴27Aは、可動部材92の棒状部92aの操作側端部92bを案内するための案内部(第2操作側案内部)として機能する。
前記可動部材92の棒状部92aの操作側端部92bとは反対側の端部(以下、奥側端部92dとも言う)は、筐体20Aの第2端部壁243’に第1端部壁242’の第2長穴27Aと平行に延在形成された案内部(以下、第2奥端案内部とも言う。図11(a)では案内溝28A)によって案内されながら第2奥端案内部の延在方向(第2長穴27Aの長手方向)に自在に移動するようになっている。
【0075】
つまり、このトランスイルミネータ10Aは、第2長穴27Aの長手方向(延在方向)に沿った方向(縦方向)において筐体20Aのシート引き込み用空間22を介して両側の側壁部24’、つまり、ここでは第1端部壁242’と第2端部壁243’とに可動部材92(詳細には棒状部92a)の第2長穴27Aの長手方向に沿う移動を案内するための案内部を具備する構成となっている。可動部材92は、作業者が操作ハンドル部92cを操作することで、前記第1端部壁242’の案内部(第2長穴27A)と前記第2端部壁243’の案内部(第2奥端案内部)とに案内されながら、第2操作側案内部(具体的には第2長穴27A)及び第2奥端案内部の延在方向に沿って移動(縦方向に移動)できる。
【0076】
図11(a)では、第2奥端案内部として、第2端部壁243’に第1端部壁242’の第2長穴27Aと平行に延在形成された案内溝28Aを例示している。棒状部92aの奥側端部92dは案内溝28Aに挿入されており、案内溝28Aに案内されながら該案内溝28Bの長手方向(延在方向)に沿って自在に移動できる。
【0077】
但し、第2奥端案内部としては案内溝28Aに限定されず、可動部材92の奥側端部92dの第2長穴27Aの長手方向に沿う移動を案内できる構成のものであれば良く、図11(a)に例示した案内溝28Aに限定されない。第2奥端案内部としては、メイン遮光ユニット60の可動部材50の奥側端部の案内用の奥端案内部と同様に案内レールを用いた構成や、第2端部壁243’においてシート引き込み用空間22を介して前記第2長穴27に対応する位置に形成した長穴等も採用可能である。また、可動部材92として、棒状部92aの奥側端部92dにフランジ部を突設した構成のものや前記奥側端部92dにその軸回りに回転自在のリングを設けた構成のものを採用し、案内溝や案内レールといった第2奥端案内部の延在方向への棒状部92aの奥側端部92dの移動抵抗を低減することも可能である。
【0078】
可動部材92の棒状部92aの操作側端部92bの外周には、該可動部材92の筐体20の外側への抜け出しを規制するために、筐体20Aの第1端部壁242’の内面(筐体20Aの内側空間26’に臨む面)に接触される抜け止めリング92eが突設されている。可動部材92が第2長穴27Aの長手方向に沿って移動するとき、抜け止めリング92eは第1端部壁242’の内面に摺動する。抜け止めリング92eは、可動部材92の棒状部92aの第1端部壁242’に対する向きを前記第1端部壁242’に対して垂直に保つ姿勢維持部材としても機能する。
したがって、このトランスイルミネータ10Aにおいて、可動部材92は、棒状部92aが前記第1端部壁242’に対して垂直の向きを保ったまま、第2長穴27Aの長手方向に沿って自在に移動させることができる。
なお、図示例の可動部材92の抜け止めリング92eは、棒状部92aの外周全周に固設された部材であるが、例えば、棒状部92aの操作側端部92bの外周に軸回り回転自在に設けられたリング状部材であっても良い。
【0079】
前記可動部材92は、トランスイルミネータ10Aを使用して電気泳動ゲルGの観察等の作業を行う作業者が手指で前記操作ハンドル部92cを操作することで、手動で第2長穴27Aの長手方向に沿う方向に自在に移動できる。
可動部材92の第2長穴27Aの長手方向に沿う移動は、シート引き込み用空間22を通り前記透光板21(具体的にはゲル設置面21a)に平行な仮想平面S1内での移動である。可動部材92の移動に伴い遮光シート91の可動端91bが仮想平面S1に沿って移動される。
【0080】
図示例のトランスイルミネータ10Aにおいては、一対の補助遮光ユニット90を、一対のメイン遮光ユニット60から筐体20Aの底板23側にずれた位置に設けた構成を例示している。
但し、本実施形態に係るトランスイルミネータにおいては、一対の補助遮光ユニット90を、一対のメイン遮光ユニット60から筐体20Aのゲル設置板25側にずれた位置に設けた構成も採用可能である。
【0081】
符号90Aの補助遮光ユニットの可動部材92A、符号90Bの補助遮光ユニットの可動部材92Bは、筐体20Aに設けられた一対の案内部(第2操作側案内部と第2奥端案内部)に案内されることで、それぞれ独立に、第2長穴27Aの長手方向に沿って自在に移動できる。
補助遮光ユニット90A、90Bの遮光シート91は、該遮光シート91の可動端91bが取り付けられている可動部材92が縦方向に移動され、該遮光シート91の基端部91aと可動部材92との間の距離が変動するに伴い、伸縮(遮光シート91を構成する帯状のシート状部材の長手方向寸法は一定。ここでは、山折り部、谷折り部といった屈曲部の変形によって基端部91aと可動端91bとの間の距離が変動すること、伸長及び折り畳みが自在であることを意味する)するように変形される。
補助遮光ユニット90A、90Bは、可動部材92の移動操作によって、それぞれ単独で、光源30と透光板21との間を開閉できる。
【0082】
このトランスイルミネータ10Aとしては、操作ハンドル部92cの手動操作によって可動部材90を所望位置に確実に静止させるために、例えば、第1実施形態のトランスイルミネータ10の長穴27と同様に、第2長穴27Aの長手方向全長にわたってその内面に可動部材92の棒状部92aの操作側端部92bと接触させる柔軟性の接触部材を設けて、第2長穴27Aの長手方向に沿って縦方向に移動する可動部材90の移動抵抗を増大させても良い。接触部材の材質は第1実施形態のトランスイルミネータ10にて説明したものと同様のものを採用できる。また、可動部材90の移動抵抗を増大させるための構成(移動抵抗増大手段)としては、上述の接触部材の設置に限定されず、例えば、第2長穴27A内面の粗面化、棒状部92aの操作側端部92bの外周面の粗面化、棒状部92aの操作側端部92bの外周面へのゴム被覆層の形成等も採用可能である。
【0083】
このトランスイルミネータ10Aに設けられている2つの補助遮光ユニット90は、それぞれ単独で、透光板21の裏面側全体を覆って、光源30から出力された励起光が透光板21に照射されないように遮光することができる。
また、このトランスイルミネータ10Aの筐体20A内には、シート引き込み用空間22を介して縦方向両側に、補助遮光ユニット90の遮光シート91を収納するための空間である補助遮光シート格納部29Aが確保されている。
【0084】
図11(b)に示すように、このトランスイルミネータ10Aの筐体20のゲル設置板部25は、枠板25aが、筐体20の縦方向両側に位置する一対の側壁部24’(操作側壁部241’と奥壁部244’)から互いに対向する相手側の側壁部241’、244’に向けて張り出すように突出された部分である張り出し部25dを有している。前記補助遮光シート格納部29Aは、筐体20Aの縦方向両側に位置する側壁部24’とシート引き込み用空間22との間に確保された空間であり、筐体20Aの前記張り出し部25dと底板23との間に位置する。遮光シート91の基端部91aは補助遮光シート格納部29A内に位置する。
【0085】
図10に示すように、第2長穴27A及び第2奥端案内部の長手方向寸法はシート引き込み用空間22の縦方向寸法よりも大きい。このトランスイルミネータ10Aの縦方向において、第2長穴27A及び第2奥端案内部は、シート引き込み用空間22の縦方向の延在範囲に対応する部分と、この部分から縦方向両側に延長された部分とを有している。第2長穴27A及び第2奥端案内部によって案内される可動部材92A、92Bの可動範囲(縦方向における可動範囲)は、それぞれ、シート引き込み用空間22の縦方向の延在範囲全体に重なるとともに、さらにシート引き込み用空間22から、当該可動部材が設けられている補助遮光ユニット90の遮光シート91を収納するための補助遮光シート格納部29A内に延びている。このため、補助遮光ユニット90A、90Bは、可動部材92を該可動部材92に可動端91bを取り付けた遮光シート91の基端部91aに接近させることで、遮光シート91全体を補助遮光シート格納部29A内に収納できるとともに、シート引き込み用空間22から前記遮光シート91の基端部91a側にずれたところに位置させ、シート引き込み用空間22内に入り込んだ部分が無い状態(図11(b)に示す状態。全開状態。格納状態)にできる。
【0086】
このトランスイルミネータ10Aでは、2つのメイン遮光ユニット60A、60Bの他に、2つの補助遮光ユニット90A、90Bを具備しているため、透光板21のゲル設置面21aに設置したゲルGにおける光源30からの励起光の照射範囲を、2つのメイン遮光ユニット60A、60Bの間の光照射用空間22aによって横方向の所望範囲に絞り込む(以下、横絞りとも言う)ことができる上、さらに、2つの補助遮光ユニット90A、90Bの間の光照射用空間22bによって縦方向の所望範囲に絞り込む(以下、縦絞りとも言う)ことも行える。したがって、ゲルGにおける励起光の照射範囲を第1実施形態のトランスイルミネータ10に比べて狭い範囲に絞り込むことが可能である。
その結果、励起光の照射によって損傷を受ける核酸を減少させることができる。
【0087】
例えば、ゲルGの観察、切り出しといった作業を行う際に、2つのメイン遮光ユニット60A、60Bの可動部材50の位置調整(横方向の位置調整)によって、ゲルGに励起光を照射する照射範囲を作業対象のレーン82に絞り込み(横絞り)、さらに、2つの補助遮光ユニット90A、90Bの可動部材92の位置調整(縦方向の位置調整)によって、ゲルGに励起光を照射する照射範囲を切り出しを行う目的のバンド及びその近傍に絞り込む(縦絞り)といったことが可能である。
また、照射範囲の縦絞りによって、ゲルGの複数のレーン82(図9(b)参照)について、サンプル設置用凹所G2からの距離が同じ箇所同士の対比観察を楽に行えるといった利点もある。
【0088】
(第3実施形態)
次に本発明の第3実施形態のトランスイルミネータを図12を参照して説明する。
図12に示すように、このトランスイルミネータ10Bは、第1実施形態のトランスイルミネータ10の一対の遮光ユニット60A、60Bの片方を省略(図1中、符号60Aの遮光ユニットを省略)したものである。
図中、図1と同一の構成部分には共通の符号を付す。
【0089】
このトランスイルミネータ10Bの場合、例えば、透光板21に重ね合わせるようにしてゲルGを設置し(ゲルGのレーン82の延在方向をトランスイルミネータの縦方向に合わせる)、図12においてゲルGの左端のレーン82のみに光源30から出力された励起光が照射されるようにしてゲルGの観察及び切り出しを行った後、光ユニット60Bの可動部材50を該遮光ユニット60Bの遮光シート40を収納するための遮光シート格納部29側(図12中、右側)に移動して、ゲルGにおける励起光の照射領域を図12においてゲルGの左端のレーン82の右隣のレーン82にも拡張し、ゲルGの観察及び切り出しを行い、以下、可動部材50の移動と、ゲルGの観察及び切り出しとをレーン82単位で順次進めていく、といったことが可能である。
【0090】
但し、ゲルGの切り出し作業済みレーンについて、再観察、分析のための再切り出しを行うこと等を考慮する場合は、切り出し作業済みレーンの核酸が励起光の照射によって損傷等の影響を受けないように、切り出し作業済みレーンへの励起光の照射を遮光しておくことが好ましい。この点では、第3実施形態のトランスイルミネータよりも第1又は第2実施形態のトランスイルミネータを採用することが好適である。
【0091】
(第4実施形態)
次に本発明に係る第4実施形態を図13(a)、(b)を参照して説明する。
上述の第1〜3実施形態では、遮光シートとして、例えば図5、図6に示すように、帯状のシート状部材の長手方向複数箇所に屈曲部(山折り部、谷折り部)を形成したものを例示したが、本発明に係る遮光シートとしてはこれに限定されず、屈曲部が形成されていないものも採用可能である。例えば、屈曲部が形成されていない帯状の柔軟なシート状部材を遮光シートとして用いても良い。
【0092】
帯状の柔軟なシート状部材を遮光シートとして用いる場合、例えば図13(a)、(b)に示すように、筐体20内に遮光シート110を支持するためのシート支持部材を設けて、遮光シート(シート状部材)の長手方向複数箇所を支持することが好ましい。シート支持部材は、遮光シートに取り付けてある可動部材の移動方向(長穴の長手方向)と同じ方向に移動可能に設ける。
【0093】
ここでは、まず、第1実施形態のトランスイルミネータ10の2つの遮光ユニット60にかえて、シート支持部材として符号111のシート支持棒を具備する構成の2つの遮光ユニット112を設けた構成のトランスイルミネータについて説明する。図13(b)中符号10Cはトランスイルミネータである。
前記遮光ユニット112は、遮光シート110の筐体20の側壁部24(図13(a)では端部壁242)に取り付けられた基端部110aとは反対側の可動端110bに可動部材50を取り付け、遮光シート110の長手方向の互いに離隔した複数箇所にシート支持棒111を取り付けたものであり、帯状の柔軟なシート状部材を遮光シート110として採用した点、この遮光シート110の複数箇所にシート支持棒111を取り付けた点で第1実施形態にて説明した遮光ユニット60と相違する。
このトランスイルミネータ10Cは、第1実施形態のトランスイルミネータ10の第1遮光ユニット60Aにかえて遮光シート110の基端部110aを符号242の端部壁(図4(a)〜(c)参照)に取り付けて設けた遮光ユニット112、及び、第1実施形態のトランスイルミネータ10の第2遮光ユニット60Bにかえて遮光シート110の基端部110aを符号243の端部壁(図4(a)〜(c)参照)に取り付けて設けた遮光ユニット112、を設けた構成である。
【0094】
前記シート支持棒111は、その両端が、可動部材50の棒状部51の案内用の一対の案内部(図示例では長穴27と案内溝28)によって案内されることで、前記可動部材50と同様に横方向(図13(a)の左右方向)に移動自在になっている。図示例では、シート支持棒111の長手方向一端は長穴27に挿入されて該長穴27の長手方向に移動自在になっており、長手方向他端は案内溝28に挿入されて該案内溝28の長手方向に移動自在になっている。
【0095】
なお、図中符号113は、シート支持棒111の外周にフランジ状に突設された抜け止めリングであり、筐体20の長穴27が形成されている側壁部24(図示例では操作側壁部241)の内面(筐体20の内側空間26に臨む面)側に接触される。この接触部材113は、シート支持棒111が案内部によって案内されながら移動したときに、長穴27が形成されている側壁部24に摺動される。
【0096】
図示例の遮光ユニット112も、可動部材50を長穴27の長手方向に沿って移動させることで、遮光シート110の伸長及び折り畳みを自在に行える。可動部材50を遮光シート110の基端部110a側に接近させることで、遮光シート110全体を遮光シート格納部29内に収納でき、可動部材50をシート引き込み用空間22に入り込まない位置に配置することができる。このとき、シート支持棒111間の距離の短縮に伴いシート支持棒111間において遮光シート110が小さい湾曲半径で撓むようになり、遮光シート110は折り畳むようにして(折り畳み状態で)遮光シート格納部29内に収納される。逆に、遮光シート格納部29内に収納された状態の遮光シート110は、可動部材50の移動操作によって、折り畳み状態から引き延ばすようにしてシート引き込み用空間22に引き込むことができる。
この遮光ユニット112は、第2実施形態にて説明した補助遮光ユニットにも適用可能である。第3実施形態にて説明したトランスイルミネータの遮光ユニットとしても適用可能であることは言うまでも無い。
【0097】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、適宜変更が可能である。
上述の実施形態では、可動部材の棒状部の両端を案内するために、筐体に可動部材の棒状部の両端に対応して対をなす案内部(長穴と奥端案内部、あるいは、長穴と第2奥端案内部)を設けた構成を例示したが、本発明はこれに限定されず、可動部材の移動を案内するための案内部を、可動部材の棒状部の両端の片方のみに対応して設けた構成も採用可能である。
上述の実施形態では、可動部材に設けた抜け止めリングを姿勢維持部材として機能させる構成を例示したが、本発明では、可動部材が、該可動部材の操作用ハンドル部の突出用の長穴が形成されている筐体の側壁部に対して垂直の向きを保ったまま、案内部によって長穴の長手方向に沿って移動自在になっている構成であれば良く、可動部材の姿勢を維持するための手段(姿勢維持手段)及び案内部の構成には特には限定は無い。例えば、案内部自体が可動部材の姿勢維持手段として機能する構成も採用可能であり、この場合には抜け止めリングを省略した構成も採用可能である。
【0098】
また、上述の実施形態では、棒状部の操作側端部を筐体外側に延長した所に操作ハンドル部を有する構成の可動部材を例示したが、本発明に係る可動部材としてはこれに限定されず、例えば、図14に示すように、筐体20内に設けられる棒状部101と、この棒状部101の操作側端部101aの外周面からL字状に突設された操作ハンドル部102とを具備する構成の可動部材100を採用することも可能である。
この場合、筐体の側壁部24に、棒状部101の操作側端部101aを案内するための案内部(図14では長穴245)の他に、操作ハンドル部102を筐体20の外側に突出させるための長穴246を前記長穴245と平行に形成した構成を採用して、操作ハンドル部102の操作によって可動部材100を、操作ハンドル部102が挿通される長穴246の長手方向に沿って移動できるようにする。操作ハンドル部102用の長穴246も、可動部材100の移動を案内するための案内部として機能させることも可能である。
可動部材の棒状部の操作側端部を案内するための案内部としては、長穴245に限定されず、案内レールあるいは案内溝を採用することも可能である。
【0099】
本発明に係る可動部材としては、遮光シートの可動端が取り付けられる部分(シート取付部)を筐体の外側での操作ハンドル部の操作によって長穴に沿って移動されることで、遮光シートの可動端を筐体の側壁部の長穴に沿って移動できる構成であれば良く、必ずしも棒状部(シート取付部)を具備する構成に限定されない。
例えば、長穴が形成されている側壁部(筐体の側壁部)とシート引き込み用空間22との間にて筐体内に前記長穴に沿って移動自在に設けられたブロック状のシート取付部(シート取り付けブロック)と、このシート取付部に突設され前記長穴から筐体の外側に突出された操作ハンドル部とを具備し、操作ハンドル部が前記長穴の長手方向に移動されることで、シート取付部と該シート取付部に取り付けられている遮光シートの可動端とが操作ハンドル部と一体に移動されるようになっている構成のもの等も採用できる。
【0100】
本発明に係るトランスイルミネータは、横置きで使用するものに限定されず、縦置き(ゲル設置面が上下となる向き)で使用するものにも適用可能である。
第1〜4実施形態に例示したトランスイルミネータは、横置きのみならず、縦置きでも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明に係る第1実施形態のトランスイルミネータを示す正面図である。
【図2】図1のトランスイルミネータを示す斜視図である。
【図3】図1のA−A線断面矢視図である。
【図4】(a)〜(c)は図1のトランスイルミネータに設けられている遮光シートの可動端の位置の変更による、透光板及び透光板のゲル設置面に設置した電気泳動ゲルにおける励起光の照射範囲の変更を説明する図である。
【図5】図1のトランスイルミネータに設けられている遮光ユニットの可動部材付近の構造を拡大して示す図である。
【図6】図1のトランスイルミネータに設けられている遮光ユニットの構造を示す平面図である。
【図7】図1のトランスイルミネータの筐体の側壁部に形成された長穴内面に接触部材を設けた構成の一例を示す図である。
【図8】ゲル作製用治具の一例を示す図であって、(a)は正面図、(b)は(a)のB−B線断面矢視図である。
【図9】(a)は図8のゲル作製用治具の用いた核酸の電気泳動を説明する図、(b)は電気泳動後のゲルを示す図である。
【図10】本発明に係る第2実施形態のトランスイルミネータを示す斜視図である。
【図11】図10のトランスイルミネータの内部構造を模式的に示す断面図であり、(a)は正断面図、(b)は側断面図である。
【図12】本発明に係る第3実施形態のトランスイルミネータを示す正面図である。
【図13】本発明に係る第4実施形態を説明する図であって、(a)は遮光ユニットを示す図、(b)はトランスイルミネータの構造を示す断面図である。
【図14】本発明に係るトランスイルミネータに用いられる可動部材の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0102】
10…泳動ゲル用トランスイルミネータ、20…筐体、21…透光板、21a…ゲル設置面、21b…裏面、22…透光板と前記光源との間に確保された空間(シート引き込み用空間)、22a…光照射用空間、23…底板、24…側板部、241…側板部(操作側壁部)、242…側壁部(端部壁、第1端部壁)、243…側壁部(端部壁、第2端部壁)、244…側壁部(奥壁部)、25…ゲル設置板、25a…枠板、25b…開口部、25c、25d…張り出し部、26…内側空間、27…長穴、案内部、28…案内部(案内溝)、29…遮光シート格納部、30…光源、31…スイッチ、32…励起光、40…遮光シート、40A…遮光シート、第1遮光シート、40B…遮光シート、第2遮光シート、41…基端部、42…可動端、43…屈曲部、43a…山折り部、43b…谷折り部、50…可動部材、50A…可動部材、第1可動部材、50B…可動部材、第2可動部材、51…棒状部、51a…操作側端部、51b…奥側端部、52…操作ハンドル部、53…抜け止めリング、60…遮光ユニット、60A…遮光ユニット、第1遮光ユニット、60B…遮光ユニット、第2遮光ユニット、
10A…泳動ゲル用トランスイルミネータ、20A…筐体、24’…側板部、241’…側板部(操作側壁部)、242’…側壁部(端部壁、第1端部壁)、243’…側壁部(端部壁、第2端部壁)、244’…側壁部(奥壁部)、26’…内側空間、27A…案内部、第2長穴、28A…案内部(案内溝)、29A…補助遮光シート格納部、90、90A、90B…遮光ユニット、91、91A、91B…遮光シート、91a…基端部、91b…可動端、92、92A、92B…可動部材、92a…棒状部、92b…操作側端部、92c…操作ハンドル部、92d…奥側端部、92e…抜け止めリング、
10B…泳動ゲル用トランスイルミネータ、
100…可動部材、101…棒状部、101a…操作側端部、102…操作ハンドル部、245…案内部(長穴)、246…長穴、
10C…泳動ゲル用トランスイルミネータ、110…遮光シート、110a…基端部、110b…可動端、111…シート支持棒、112…遮光ユニット、113…抜け止めリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸又はタンパク質の電気泳動ゲルに、該ゲル中の前記核酸又はタンパク質の分子を染色した蛍光性染色剤を励起させ蛍光を発生させる励起光を照射する泳動ゲル用トランスイルミネータであって、
筐体と、この筐体内に収納され前記励起光を出力する光源と、前記筐体の一部を構成し前記励起光を透過する透光板と前記光源との間に確保された空間に介在される遮光シートと、前記遮光シートの前記筐体に取り付けられた基端部とは反対の側の端部に取り付けられ、前記筐体において前記透光板に対して垂直の向きで前記透光板と前記光源との間の前記空間を取り囲むように設けられている側壁部に前記透光板に沿って延在形成された長穴の長手方向に移動される可動部材とを具備し、前記透光板の前記筐体の内側空間とは反対側の面であるゲル設置面に前記電気泳動ゲルが設置されるようになっており、
前記可動部材は、前記長穴を介して前記筐体の外側に突出された操作ハンドル部を有し、
前記遮光シートの前記基端部は前記長穴の長手方向において前記光源と前記透光板との間の前記空間を避けた位置に設けられ、前記可動部材を移動することで前記光源から前記透光板への前記励起光の照射範囲が変更されることを特徴とする泳動ゲル用トランスイルミネータ。
【請求項2】
前記長穴の長手方向において前記光源と前記透光板との間の前記空間を介して両側の一方に前記基端部を有する前記遮光シートである第1遮光シートと、この第1遮光シートの前記基端部とは反対の側の端部に取り付けられた前記可動部材である第1可動部材と、前記光源と前記透光板との間の前記空間を介して前記第1遮光シートとは反対の側に前記基端部を有する前記遮光シートである第2遮光シートと、この第2遮光シートの前記基端部とは反対の側の端部に取り付けられた前記可動部材である第2可動部材とを具備し、
前記第1可動部材の前記操作ハンドル部と前記第2可動部材の前記操作ハンドル部とが、前記長穴を介して前記筐体の外側に突出されていることを特徴とする請求項1記載の泳動ゲル用トランスイルミネータ。
【請求項3】
さらに、前記筐体の前記側壁部に前記透光板に沿い前記長穴の長手方向に対して直交する向きで延在形成された第2長穴と、この第2長穴の延在方向において前記光源と前記透光板との間の前記空間を避けた位置にて前記筐体に取り付けて設けられた前記遮光シートである補助遮光シートと、この補助遮光シートの前記筐体に取り付けられた基端部とは反対の側の端部に取り付けられ前記第2長穴の延在方向に沿って移動される前記可動部材である補助可動部材とを具備することを特徴とする請求項1又は2記載の泳動ゲル用トランスイルミネータ。
【請求項4】
前記可動部材は、前記筐体において前記透光板と前記光源との間に確保された空間を介して両側に位置する側壁部に架け渡すようにして設けられた棒状部と、この棒状部に突設された前記操作ハンドル部とを具備し、
前記筐体の側壁部に、前記可動部材の前記棒状部の移動を案内するための案内部が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の泳動ゲル用トランスイルミネータ。
【請求項5】
前記筐体は、前記光源と前記透光板との間の前記空間と前記遮光シートの基端部との間に前記遮光シートを収納するための遮光シート格納部を具備することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の泳動ゲル用トランスイルミネータ。
【請求項6】
前記遮光シートは、波形に屈曲され、伸長及び折り畳みを自在に行えるようになっていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の泳動ゲル用トランスイルミネータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2010−19579(P2010−19579A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177832(P2008−177832)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】