説明

洗い場床パン

【課題】汎用タイルを敷き詰めた場合であっても、がたつきが生じたり、隣り合うタイル同士間に段差が生じたりすることを抑制することが可能な洗い場床パンを提供すること。
【解決手段】この洗い場床パン10は調整層MLを有しており、その調整層MLはベース床パンBPにおける二本の谷状稜線20,21を跨ぐように設けられ、その調整層MLの表面には、二本の谷状稜線20,21をそれぞれが跨いで開口部11pに向かって傾斜する第一傾斜面13pと第二傾斜面14pとが形成されると共に、第一傾斜面13pと第二傾斜面14pとが互いに接することによって開口部11pに向かう一本の谷状稜線15pが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴室ユニットの洗い場床を構成する洗い場床パンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、出入口に段差のないバリアフリータイプの浴室ユニットでは、水勾配の方向が異なる複数の傾斜面を有する洗い場床パンが用いられている。洗い場床パンは、樹脂製の洗い場床パンをそのまま用いる場合もあれば、高級品では樹脂製の洗い場床パンの表面にタイルを貼着して用いる場合もある。近年の浴室ユニット市場の需要に鑑みれば、出入り口に段差のないバリアフリータイプの浴室ユニットが主流を占めることから、上述したような洗い場床パンが広く用いられている。従って、コスト上の要因を考慮して、上述したような洗い場床パンをベースとして、その表面にタイルを貼着して用いることが求められる。
【0003】
ところで、このように複数の傾斜面を有する洗い場床パンは、傾斜面同士の境界部分に谷状の稜線が存在するため、この洗い場床パンの上にタイルが貼着される洗い場床パンでは、当該谷状稜線に跨って貼着されたタイルは、複数種の傾斜面上に位置することになり、がたつきが生じたり、隣り合うタイル同士間に段差が生じたりすることが知られている。そこで、タイルのがたつきや、タイル同士間に生じる段差を無くすため、洗い場床パンにタイルを貼着する際に使用する接着剤の塗布量を調整することが考えられるが、これは作業者の技能に依存する面が多く、実際には、安定した品質の洗い場床を提供することが困難である。
【0004】
そこで、タイルのがたつきや、タイル同士間に生じる段差を無くすための一つの手法として、谷状稜線上に貼着されるタイルの裏面を、当該谷状稜線の形状に対応する形状にすることで、当該谷状稜線に跨って貼着されるタイルのがたつきを抑制する洗い場床パンが紹介されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−113591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている洗い場床パンは、裏面を谷状稜線に対応した形状に加工した特殊形状のタイルを使用する必要があり、一般的に使用されている汎用の矩形タイルを使用することができない。タイルは、汎用のタイルであっても、ある程度高価であるため、特許文献1に記載されている洗い場床パンのように特殊形状のタイルを使用すると、コストが大幅に増加することが懸念される。
【0007】
また、出入口に段差のないバリアフリータイプの浴室ユニットに用いられる洗い場床パンと、汎用タイルの貼り付けを考慮した勾配のタイル貼着専用の床パンとを別々に品揃えすることも考えられるが、生産設備の関係や在庫の関係などでコストアップ要因となるためできれば避けたいものである。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、出入口に段差のないバリアフリータイプの浴室ユニットに好適に用いられ、水勾配の方向が異なる複数の傾斜面を有する洗い場床パンをベースとして用いつつ、汎用タイルを敷き詰めた場合であっても、がたつきが生じたり、隣り合うタイル同士間に段差が生じたりすることを抑制することが可能な洗い場床パンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、洗い場床パンと汎用タイルとについて様々な側面から検討を行った。上記課題を解決するためのアプローチは種々あるけれども、本発明者らは、洗い場床パンの形状と汎用タイルの形状とに着目し、上述したような課題の発生原因を探求した。具体的には、洗い場床パンは一般的に平面視略矩形状を成しており、バリアフリータイプの浴室ユニットに好適に用いられるものは、排水口が配置される開口部近傍の辺以外の三辺は出入り口が配置される可能性があるため、それら三辺は段差が無いように同じ高さに形成される。また、排水口は出入り口近傍には配置したくないため、開口部はそれが配置される辺の中程に形成される。従って、排水口が配置される開口部近傍の辺以外の三辺から開口部に向かう傾斜面はそれぞれ水勾配の異なる三つの傾斜面を形成する。結果として、この三つの傾斜面が互いに接することで形成される二本の谷状稜線は、洗い場床パンを三つの三角形の領域に区切ることになる。一方、汎用タイルは、長方形や正方形の矩形状を成していることから、三角形の領域に敷き詰めていけば、三角形の隙間が開いてしまうか谷状稜線に矩形タイルが乗り上げてしまうことになる。そこで本発明者らは、この三角形の領域を別の形状の領域に変換することで、矩形タイルを敷き詰めても三角形の隙間が開いたりすることもなく、谷状稜線に矩形タイルが乗り上げてしまうこともないようにし、上述した課題を解決して本発明を成し得たものである。
【0010】
このような過程を経て想到された本発明に係る洗い場床パンは、浴室ユニットの洗い場床を構成する洗い場床パンであって、平面視略矩形を成すベース床パンと、このベース床パン上に積層され、前記ベース床パン上面の勾配面を異なる勾配面に変換するための調整層と、この調整層上に敷き詰められた複数の平面視略矩形を成すタイルと、を有し、前記ベース床パンの上面は、外周を構成する四辺のうちの一辺中程に排水口が設けられ、この排水口が設けられている一辺以外の三辺それぞれの両端と前記排水口とを頂点として形成される平面視略三角形を成す複数の傾斜面が、それぞれ勾配方向が異なるように組み合わされてなり、前記調整層の上面は、前記排水口に向かって傾斜する平面視略矩形を成す傾斜面が、それぞれ勾配方向が異なるように組み合わされてなると共に、この勾配方向の異なる傾斜面を結ぶ谷状稜線は、前記ベース床パンの外周を構成する四辺に対して、平面視でそれぞれ直角または平行になるように配置されていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、上面の外周を構成する四辺のうちの一辺中程に排水口が設けられ、この排水口が設けられている一辺以外の三辺それぞれの両端と排水口とを頂点として形成される平面視略三角形を成す複数の傾斜面が、それぞれ勾配方向が異なるように組み合わされて上面を形成してなるベース床パンを用いているので、平面視略矩形のタイルを敷き詰めると隙間や段差ができたり、がたつきが生じたりするベース床パンを利用し、そのような事象が発生しないように平面視略矩形のタイルを敷き詰めることができる。従って、洗い場床パンを構成するベース床パンとして、例えば、開口部が設けられている一辺以外の三辺それぞれから開口部に向かって傾斜する傾斜面が形成されると共に、この三面の傾斜面が互いに接することで二本の谷状稜線が形成されるものであって、バリアフリータイプの浴室ユニットに好適に用いられるものをベース床パンとして活用することができる。また、本発明の趣旨に鑑みれば、このようないわゆる三面勾配のものに限られず、例えば、開口部が設けられている一辺以外の三辺それぞれと、開口部が設けられている一辺の開口部を挟んだ両側から開口部に向って傾斜する傾斜面が形成されていると共に、この五面の傾斜面が互いに接することで四本の谷状稜線が形成されるものも好適にベース床パンとして活用することができる。また、ベース床パン上に設けられる調整層の上面は、排水口に向かって傾斜する平面視略矩形を成す傾斜面が、それぞれ勾配方向が異なるように組み合わされてなるので、平面視略矩形のタイルを敷き詰めても隙間やがたつきが生じないように構成することができる。
【0012】
尚、本発明におけるベース床パン及び洗い場床パンには排水口が設けられており、傾斜面との繋ぎの関係上、排水口が矩形の凹部に設けられていることが多いものである。従って、本発明における平面視略三角形とは、その頂点の部分が凹部に掛かり、結果として台形状になるものも含む概念である。また、平面視略矩形のタイルは、正方形及び長方形を含むものであるから、そのような形状を敷き詰めることができる傾斜面の形状は、それらタイルの相似形はもとより、それらタイルによって略隙間なく分割可能な形状であれば足りるので、傾斜面の平面視略矩形とはこのような形状を含む概念である。また、調整層の上面にタイルを貼着する際には接着剤等を用いることから、傾斜面それぞれが厳密な平面である必要はなく、実用上不具合となるような隙間や段差やがたつきが生じなければ、ある程度の湾曲や微小な段差は許容されるものである。
【0013】
また本発明に係る洗い場床パンでは、前記調整層の上面に形成される谷状稜線は、前記排水口と対向する辺の中程から略垂直に延出し、前記排水口に向うように形成されており、前記谷状稜線によって区切られる第一傾斜面および第二傾斜面の二面から調整層の上面が形成されていることも好ましい。
【0014】
この好ましい態様では、排水口と対向する辺の中程から略垂直に延出する谷状稜線によって区切られる第一傾斜面および第二傾斜面の二面から調整層の上面が形成されているので、各傾斜面を矩形若しくは矩形の組み合わせ形状に区切ることができる。従って、調整層の表面に矩形のタイルを敷き詰めたとしても、三角形の隙間を生じさせたり谷状稜線へタイルが乗り上げたりといった事態が回避でき、タイルのがたつきが生じたり、隣り合うタイル同士間に段差が生じたりすることを抑制することができる。
【0015】
また本発明に係る洗い場床パンでは、前記調整層が、その少なくとも一部が、互いに形状の異なる複数の平面状部材を重ね合わせることで形成されていることも好ましい。
【0016】
この好ましい態様では、調整層の少なくとも一部を、互いに形状の異なる複数の平面状部材を重ね合わせることで形成するので、ベース床パンの谷状稜線の形態に応じた適切な形状の平面状部材を準備して重ね合わせることができ、簡便に調整層を形成することができる。
【0017】
また本発明に係る洗い場床パンでは、前記複数の平面状部材が、前記ベース床パン側に配置される平面状部材よりも、その上に重ねあわされる平面状部材の少なくとも一部が外側に配置されるように形成されていることも好ましい。
【0018】
この好ましい態様では、ベース床パン側に配置される平面状部材よりも、その上に重ねあわされる平面状部材の少なくとも一部が外側に配置されるように形成されているので、ベース床パン側に配置される平面状部材周縁に生じる段差を、その上に重ね合わされる平面状部材によって覆うことができ、各平面状部材ごとにその段差を緩和しながら積層することができる。
【0019】
また本発明に係る洗い場床パンでは、前記平面状部材は、易切断性を有することも好ましい。
【0020】
この好ましい態様では、平面状部材が易切断性を有しているので、様々な形状に容易に切断することができ、様々な形態のベース床パンに簡便に対応することができる。
【0021】
また本発明に係る洗い場床パンでは、前記複数の平面状部材の少なくとも一つは、繊維状材料に樹脂材料を含浸硬化させることによって形成されていることも好ましい。
【0022】
この好ましい態様では、複数の平面状部材の少なくとも一つは、繊維状材料に樹脂材料を含浸硬化させることによって形成されているので、高価な接着剤を用いずに、樹脂材料によって繊維状材料を硬化させることで調整層を形成することができる。
【0023】
また本発明に係る洗い場床パンでは、前記複数の平面状部材の最上に積層され、前記調整層の表面を形成する平面状部材は、前記洗い場床に相当する領域と同一形状を成すように形成されていることも好ましい。
【0024】
この好ましい態様では、複数の平面状部材の最上に積層され、調整層の表面を形成する平面状部材を、洗い場床に相当する領域と同一形状を成すように形成することで、タイルを貼着する領域を平面状部材で覆うことができる。従って、その最上に配置される平面状部材よりも下に配置される平面状部材の形状がいかなるものであっても、それを覆うことができ、調整層の表面をより平坦に近づけることが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、水勾配の方向が異なる複数の傾斜面を有する洗い場床パンをベースとして用いつつ、汎用タイルを敷き詰めた場合であっても、がたつきが生じたり、隣り合うタイル同士間に段差が生じたりすることを抑制することが可能な洗い場床パンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態である洗い場床パンを用いた浴室ユニットの主要部部分を示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態である洗い場床パンを示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態である洗い場床パンに用いられるベース床パンを示す斜視図である。
【図4】図3に示すベース床パンの水勾配を示す平面図である。
【図5】図3及び図4に示すベース床パンに平面状部材を積層した状態を示す平面図である。
【図6】図3及び図4に示すベース床パンに平面状部材を積層した状態を示す平面図である。
【図7】樹脂を注ぎ込むことによって図2に示す洗い場床パンを製造する方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0028】
本発明の実施形態に係る洗い場床パンについて図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係る洗い場床パンを用いた浴室ユニットの主要部分を示す平面図である。尚、本実施形態の説明に用いる各図では、説明を判り易くするため、各部材の厚さやサイズ、拡大・縮小率等は、実際のものと一致させて記載している場合もあれば、一致させずに記載している場合もある。図1に示す浴室ユニットUBは、洗い場床1と浴槽2とを備えている。
【0029】
洗い場床1は主に、洗い場床パン10と、洗い場床パン10の一辺中程に形成されている排水口11とによって構成されている。洗い場床パン10は、平面視略矩形をなしている。洗い場床パン10は、洗い場床1に相当する領域において、浴槽2側となる浴槽側縁10Aと、浴槽側縁10Aと平行に対向する出入口側縁10Bと、浴槽側縁10Aの一端と出入口側縁10Bの一端とを繋ぐ一端側縁10Cと、浴槽側縁10Aの他端と出入口側縁10Bの他端とを繋ぐと共に、一端側縁10Cと平行に対向する他端側縁10Dによって、略長方形状に形成されている。洗い場床1に相当する領域の一辺を構成する浴槽側縁10Aの中程であって略中央近傍に、排水口11が設けられている。
【0030】
洗い場床パン10は、床パン部材10pの上面に接着剤層(図に明示しない)を介して複数のタイル40,41が貼着されることで構成されている。洗い場床パン10は、第一傾斜面13と第二傾斜面14とを有している。第一傾斜面13と第二傾斜面14とが互いに接する部分には谷線となる谷状稜線15が形成されている。谷状稜線15は、出入口側縁10Bの略中央から出入口側縁10Bに対して略垂直に延出し、排水口11に向うように形成されている。第一傾斜面13は、一端側縁10Cから谷状稜線15に対して傾斜しており、最も低い部分が排水口11に臨むように構成されている。第二傾斜面14は、他端側縁10Dから谷状稜線15に対して傾斜しており、最も低い部分が排水口11に臨むように構成されている。
【0031】
このように洗い場床パン10を構成することで、第一傾斜面13及び第二傾斜面14に矩形の汎用タイルを貼着した場合には、略正方形を成すタイル40を主として貼着し、排水口11近傍では略長方形を成すタイル41を貼着することで、隙間なく且つ谷状稜線15に乗り上げることなくタイル40,41を敷き詰めることが可能となっている。このようにタイル40,41を敷き詰めると、図1に示すような水勾配WFが形成される。この水勾配WFは、排水口11に向うように形成されている。なお、タイル40とタイル40との間や、タイル40とタイル41との間には、セメント(目地)50が充填されている。
【0032】
続いて図2を参照しながら、洗い場床パン10の構成部材である床パン部材10pについて説明する。床パン部材10pは、その上面に接着剤層を介してタイル40,41を貼着するものとなる部材である。図2は、床パン部材10pの斜視図である。図2に示すように、床パン部材10pは、ベース床パンBP上に調整層MLを備えることで形成されている。
【0033】
調整層MLは、タイル40,41を貼着するための第一傾斜面13p及び第二傾斜面14pを有している。第一傾斜面13pと第二傾斜面14pとが互いに接する部分には谷線となる谷状稜線15pが形成されている。谷状稜線15pは、出入口側縁10Bpの略中央から出入口側縁10Bpに対して略垂直に延出し、排水口11が形成される開口部11pに向うように形成されている。第一傾斜面13pは、一端側縁10Cpから谷状稜線15pに対して傾斜しており、最も低い部分が開口部11pに臨むように構成されている。第二傾斜面14pは、他端側縁10Dpから谷状稜線15pに対して傾斜しており、最も低い部分が開口部11pに臨むように構成されている。尚、開口部11pは、第一傾斜面13p及び第二傾斜面14pよりも一段低くなっている凹部12pに形成されており、浴槽側縁10Apの中程に形成されている。
【0034】
第一傾斜面13pは、ベース床パンBPの第一谷状稜線20を跨ぐように形成され、第二傾斜面14pは、ベース床パンBPの第二谷状稜線21を跨ぐように形成されている。
【0035】
続いて図3を参照しながら、床パン部材10pの構成部材であるベース床パンBPについて説明する。ベース床パンBPは、その上面に調整層MLが形成されることで床パン部材10pとなる部材である。図3は、ベース床パンBPの斜視図である。
【0036】
ベース床パンBPは、第一傾斜面22と、第二傾斜面23と、第三傾斜面24とを有している。第一傾斜面22は、出入口側縁10Bbの両端及び開口部11pを頂点とする略三角形状を有すると共に、出入口側縁10Bbから浴槽側縁10Abに向けた水勾配を有する。第二傾斜面23は、一端側縁10Cbの両端及び開口部11bを頂点とする略三角形状を有すると共に、一端側縁10Cbから他端側縁10Dbに向けた水勾配を有する。第三傾斜面24は、他端側縁10Dの両端及び排水口11を頂点とする略三角形状を有すると共に、他端側縁10Dから一端側縁10Cに向けた水勾配を有する。第一傾斜面22、第二傾斜面23、及び第三傾斜面24は、異なった水勾配を各々有するため、第一傾斜面22と第二傾斜面23との境界部分には第一谷状稜線20が形成され、第一傾斜面22と第三傾斜面24との境界部分には谷状稜線21が形成されている。
【0037】
本実施形態では、バリアフリータイプの浴室ユニットに用いられる洗い場床パンをベース床パンとして用いているので、出入口側縁10Bb、一端側縁10Cb及び他端側縁10Dbのどの位置であっても扉を配設できるようにするため、出入口側縁10Bb、一端側縁10Cb及び他端側縁10Dbの高さは同一となっている。
【0038】
図4にベース床パンBPの平面図を示す。図4に示すように、第一傾斜面22には出入口側縁10Bbから浴槽側縁10Abに向けた水勾配WFが形成され、第二傾斜面23には一端側縁10Cbから他端側縁10Dbに向けた水勾配WFが形成され、第三傾斜面24には他端側縁10Dから一端側縁10Cに向けた水勾配WFが形成されている。
【0039】
調整層MLは、図4に示す第一傾斜面22、第二傾斜面23、第三傾斜面24及びそれらによって形成される第一谷状稜線20,第二谷状稜線21を、図1に示す第一傾斜面13、第二傾斜面14及びそれらによって形成される谷状稜線15に変換するものである。
【0040】
続いて、図5及び図6を参照しながら調整層MLの形成方法の一例について説明する。図5及び図6を参照しながら説明する調整層MLの形成方法は、調整層MLの少なくとも一部を互いに形状の異なる複数の平面状部材ML1,ML2を重ね合わせる方法である。
【0041】
図5に示すように、ベース床パンBPの第一谷状稜線20,第二谷状稜線21に跨るように平面状部材ML1を配置する。平面状部材ML1は、ベース床パンBPの第一谷状稜線20を跨いで第一傾斜面22及び第二傾斜面23の一部を覆うように配置され、ベース床パンBPの第二谷状稜線21を跨いで第一傾斜面22及び第三傾斜面24の一部を覆うように配置されている。平面状部材ML1は、開口部11pを囲繞するように形成されており、そのように開口部11pを囲繞する部分から第一谷状稜線20,第二谷状稜線21それぞれに沿って、ベース床パンBPの角部に向ってその幅が徐々に狭まるように形成されている。
【0042】
続いて、図6に示すように、平面状部材ML1の上に、ベース床パンBPの第一谷状稜線20,第二谷状稜線21に跨るように平面状部材ML2を配置する。平面状部材ML2は、ベース床パンBPの第一谷状稜線20を跨いで第一傾斜面22及び第二傾斜面23の一部を覆うように配置され、ベース床パンBPの第二谷状稜線21を跨いで第一傾斜面22及び第三傾斜面24の一部を覆うように配置されている。更に平面状部材ML2は、平面状部材ML1よりも一回り大きい面積となるように形成されている。平面状部材ML2は、第一谷状稜線20,第二谷状稜線21に沿う部分において平面状部材ML1よりも外側にその外周が位置するように形成されている。このように平面状部材ML2を形成し、平面状部材ML1の上に積層することで、平面状部材ML1の外周において形成される段差を覆って、より滑らかな面を形成することができる。平面状部材ML2は、平面状部材ML1と同様に、開口部11pを囲繞するように形成されており、そのように開口部11pを囲繞する部分から第一谷状稜線20,第二谷状稜線21それぞれに沿って、ベース床パンBPの角部に向ってその幅が徐々に狭まるように形成されている。
【0043】
続いて、上述した平面状部材ML1,ML2の配置と同様に、更に大きな面積の平面状部材を積層する。最後に、最上層にはベース床パンBPを全て覆う大きさの平面状部材を積層し、調整層MLを形成する。
【0044】
平面状部材ML1,ML2は、接着剤等を用いてベース床パンBPに貼り付け、また互いに接着剤によって貼り付けられてもよい。また、平面状部材ML1,ML2を繊維状材料によって形成し、樹脂材料を含浸硬化させることで互いに張り合わせるようにすることも好ましい。また、平面状部材ML1をより樹脂が含浸しやすい不織布材料によって形成し、平面状部材ML2をガラス繊維材料によって形成することも好ましい。このように構成することで、平面状部材同士をより強固に接着することができる。また、平面状部材ML1,ML2を不織布材料やガラス繊維材料といった容易に切断可能な易切断性を有する材料とすることで、ベース床パンBPの形態が様々に異なったとしても容易に対応することができる。
【0045】
図5及び図6を参照しながら説明した調整層MLの形成方法は、平面状部材を積層するものであったけれども、調整層MLの形成方法はこれに限られるものではない。図7を参照しながら、調整層MLの別の形成方法について説明する。
【0046】
図7に示すように、ベース床パンBPと、上面プレート30と、側面プレート31,32,33,34,35,36とを準備する。上面プレート30は、ベース床パンBPの第一傾斜面22、第二傾斜面23、及び第三傾斜面24上に配置される。側面プレート31は、ベース床パンBPの出入口側縁10Bbに沿って取り付けられ、その上辺は上面プレート30の対応する辺と当接する。側面プレート32は、ベース床パンBPの一端側縁10Cbに沿って取り付けられ、その上辺は上面プレート30の対応する辺と当接する。側面プレート33,34は、ベース床パンBPの浴槽側縁10Abに沿って取り付けられ、その上辺は上面プレート30の対応する辺と当接する。側面プレート34は、ベース床パンBPの開口部11pを囲むように取り付けられ、その上辺は上面プレート30の対応する辺と当接する。側面プレート36は、ベース床パンBPの他端側縁10Dbに沿って取り付けられ、その上辺は上面プレート30の対応する辺と当接する。
【0047】
上述したように、ベース床パンBPに対して、上面プレート30、及び側面プレート31,32,33,34,35,36を配置すると、ベース床パンBPと上面プレート30と側面プレート31,32,33,34,35,36とによって形成される内部空間の形状が、調整層MLの形状となるように形成されている。上面プレート30には、注入口301,301,301,301,301,301,301,301,301,301が設けられており、これら注入口301から樹脂を流し込んで硬化させる。注入口301から流し込んだ樹脂が硬化した後、ベース床パンBPから上面プレート30、及び側面プレート31,32,33,34,35,36を取り外し、図2に示すような調整層MLを有する床パン部材10pを得ることができる。尚、ベース床パンBPと上面プレート30と側面プレート31,32,33,34,35,36とによって形成される内部空間に繊維状材料からなる平面状部材を配置し、その上で注入口301から樹脂を注入して硬化させることも好ましい。
【0048】
尚、本実施形態では、図3に示すような三面勾配のベース床パンBPを用いたけれども、ベース床パンの形態はこれに限られるものではない。本発明の趣旨に鑑みれば、このようないわゆる三面勾配のものに限られず、例えば、開口部が設けられている一辺以外の三辺それぞれと、開口部が設けられている一辺の開口部を挟んだ両側から開口部に向って傾斜する傾斜面が形成されていると共に、この五面の傾斜面が互いに接することで四本の谷状稜線が形成される五面勾配のものも好適にベース床パンとして活用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1:洗い場床
2:浴槽
10:洗い場床パン
10A:浴槽側縁
10B:出入口側縁
10C:一端側縁
10D:他端側縁
11:排水口
15:谷状稜線
40:タイル
50:セメント
10Ab:浴槽側縁
10Ap:浴槽側縁
10Bb:出入口側縁
10Bp:出入口側縁
10Cb:一端側縁
10Cp:一端側縁
10Db:他端側縁
10Dp:他端側縁
10p:床パン部材
11b:開口部
11p:開口部
12p:凹部
13:第一傾斜面
13p:第一傾斜面
14:第二傾斜面
14p:第二傾斜面
15:谷状稜線
15p:谷状稜線
20:第一谷状稜線
21:第二谷状稜線
22:第一傾斜面
23:第二傾斜面
24:第三傾斜面
30:上面プレート
31,32,33,34,35,36:側面プレート
301:注入口
BP:ベース床パン
ML:調整層
ML1,ML2:平面状部材
UB:浴室ユニット
WF:水勾配

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴室ユニットの洗い場床を構成する洗い場床パンであって、
平面視略矩形を成すベース床パンと、
このベース床パン上に積層され、前記ベース床パン上面の勾配面を異なる勾配面に変換するための調整層と、
この調整層上に敷き詰められた複数の平面視略矩形を成すタイルと、を有し、
前記ベース床パンの上面は、外周を構成する四辺のうちの一辺中程に排水口が設けられ、この排水口が設けられている一辺以外の三辺それぞれの両端と前記排水口とを頂点として形成される平面視略三角形を成す複数の傾斜面が、それぞれ勾配方向が異なるように組み合わされてなり、
前記調整層の上面は、前記排水口に向かって傾斜する平面視略矩形を成す傾斜面が、それぞれ勾配方向が異なるように組み合わされてなると共に、この勾配方向の異なる傾斜面を結ぶ谷状稜線は、前記ベース床パンの外周を構成する四辺に対して、平面視でそれぞれ直角または平行になるように配置されていることを特徴とする洗い場床パン。
【請求項2】
前記調整層の上面に形成される谷状稜線は、前記排水口と対向する辺の中程から略垂直に延出し、前記排水口に向うように形成されており、
前記谷状稜線によって区切られる第一傾斜面および第二傾斜面の二面から調整層の上面が形成されていることを特徴とする請求項1記載の洗い場床パン。
【請求項3】
前記調整層は、その少なくとも一部が、互いに形状の異なる複数の平面状部材を重ね合わせることで形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の洗い場床パン。
【請求項4】
前記複数の平面状部材は、前記ベース床パン側に配置される平面状部材よりも、その上に重ねあわされる平面状部材の少なくとも一部が外側に配置されるように形成されていることを特徴とする請求項3に記載の洗い場床パン。
【請求項5】
前記平面状部材は、易切断性を有することを特徴とする請求項3又は4に記載の洗い場床パン。
【請求項6】
前記複数の平面状部材の少なくとも一つは、繊維状材料に樹脂材料を含浸硬化させることによって形成されていることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の洗い場床パン。
【請求項7】
前記複数の平面状部材の最上に積層され、前記調整層の表面を形成する平面状部材は、前記洗い場床に相当する領域と同一形状を成すように形成されていることを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載の洗い場床パン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−94369(P2011−94369A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248625(P2009−248625)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】