説明

洗浄方法

【課題】モータユニットに付着した塵埃や汚染物質を、ユニットが完成した状態でも、軸受などに対して影響を及ぼすことなく効果的に除去することが可能な洗浄方法を提供する。
【解決手段】ドライアイスを噴出する第1のノズルと、ドライアイスを吸引回収する第2のノズルとが一体になったノズルユニットを、被洗浄物の被洗浄表面に対して相対的にトラバースさせ、被洗浄面に対して第1のノズルからドライアイスを噴出すると共に、第2のノズルから、ドライアイスと共に被洗浄物の表面から剥離した粉粒体または被洗浄物の表面から溶解した汚染物質を吸引回収する。これにより軸受オイルの二次汚染することなく確実に洗浄できると共に、被洗浄物に大きな荷重を与えないので、変形を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い清浄度を必要とする部品の洗浄方法に関するものであり、特に記録ディスク駆動装置や、これに用いられるスピンドルモータや、さらにそれにその部品の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスク装置(以下HDDと略記)や光ディスク装置などは、記録密度の著しい向上が要求されており、そのために、ディスク面上の1ビット当たりの面積は急激に小さくなってきている。その結果、記録ディスクと信号の記録再生を行うためのヘッド素子との距離は、再生信号のエラーレートを抑制するために、年々小さな値しか許容できなくなってきており、ヘッド素子の浮上量は10nm以下になっている。
【0003】
ここで記録ディスクが回転中に、ヘッドと記録ディスク表面間にサブミクロンオーダーの塵埃粒子(パーティクル)が噛み込まれると、ヘッド素子が記録ディスクから浮上できなくなり、ヘッド素子及びそれを搭載するヘッドジンバルアセンブリがクラッシュする危険性が有る。この様なクラッシュの発生を防止するために、記録ディスク駆動装置内における空気の清浄度は、高いレベルに保持される必要が有る。
【0004】
また、スピンドルモータなどHDDの部品を組立中に、作業者の皮脂などがモータなどに付着して、それが記録ディスク搭載作業中にHDD内の別の部分に転写されたり、もしくはアウトガスの原因になったりして、記録ディスクやヘッド素子にたいするコンタミネーションとして残ってしまい、ディスク回転起動時にヘッドが貼り付いてしまうこともある。
【0005】
空気の清浄度を高いレベルに保持するには、記録ディスク駆動装置内を外気から遮断して塵埃の流入を阻止するように、HDDを密封するだけでは無く、記録ディスク装置内における塵埃粒子の発生を抑制し、またHDD内部品表面に皮脂などの付着/残存を防止する必要が有る。
【0006】
そのため、この様なモータの組立には、まず各部材毎に洗浄液により洗浄して、部材表面に付着した塵埃粒子や油脂(切削油、作業者の皮脂)などを取り除いた後、クリーンルームなどの洗浄度の高い環境下で、各部材を厳密な管理下(組立環境からの発塵、作業者の皮脂等)で、各部材を順次組立する必要が有る。
【0007】
しかしながら、単品部品は洗浄されても、組立途中の各種汚染を完全防止することは困難であり、モータ完成状態での塵埃抑制のために、ユニット状態(モータ完成状態)での洗浄が求められ始めた。
【0008】
ここで、ユニットでの洗浄方法としては例えば特許文献1に示すように、ロータハブとベースの開口部に撥水性部材を塗布して、モータユニット全体を洗浄液に浸漬して超音波洗浄を実施する方法がある。
【0009】
さらに特許文献2に示すように、液化二酸化炭素(主にドライアイス)をキャリヤガスと洗浄液と共に被洗浄物に噴射し、液化二酸化炭素が衝突する際のエネルギーと 液化二酸化炭素が昇華する際のエネルギーを用いて洗浄するものがある。
【0010】
また、特許文献3に示すように、CO2ガスを75.2Kg/cm2、31.1℃以上に加圧加熱することで得られる超臨界流体を用いて、被洗浄物に付着した油脂、水分、有機溶剤、被洗浄物の表面に残存する粉粒体、剥離物等を洗い流すものがある。
【特許文献1】特開2006−314188号公報
【特許文献2】特開2003−211106号公報
【特許文献3】特開平10−24270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載された方法のように、微小隙間に撥水性皮膜を形成しても、ユニット状態での洗浄には超音波洗浄が必須であり、撥水膜は容易に破壊され得る。撥水膜が部分的にでも破壊されると、モータ内部に洗浄液が侵入して、モータの軸受オイルが抜けてしまったり、モータ内部でのショート等の重欠陥が発生したりし得る。また剥離した撥水膜は塵埃となり2次汚染の要因となる。
【0012】
また洗浄液がロータとステータの隙間に入らないように、ロータとステータの隙間部分にOリングを嵌める方法も考えられるが、確実に洗浄水の侵入を防止するために複雑な治具をモータ1台毎に用意することが必要であり、製造コストの増加もさることながら、治具のメンテナンス不良などで不良率の増加要因ともなりうる。また、Oリングとモータ部品の接触や、Oリング保持治具自身の摺動部等が原理的に避けられず、かえって塵埃発生の要因が増えるという課題を有していた。
【0013】
また特許文献2に記載されたように、噴射ノズルからドライアイスをハブ等のモータ部品に高速に衝突させる事で、ハブに偏荷重が掛かり(モーメント荷重が掛かる)、その結果シャフト/ハブ圧入部にダメージが掛かり、圧入精度の劣化(たとえば軸方向面振れAxial Repetitive Run Out;以下ARROと略記)の発生や、軸受にダメージが加わりモータ性能に影響を及ぼすことになる。また、噴射ノズルから噴射されたドライアイスは部品表面を洗浄した後に、表面の汚染物質と共に飛散してしまい、2次汚染の原因になる。さらにドライアイスを噴射ノズルで噴射するまでに、供給管路内にてドライアイスが帯電してしまい、被洗浄物も帯電し、ドライアイスにて剥離した再び塵埃を吸着してしまい、洗浄効果を失うという課題を有していた。
【0014】
また特許文献3に記載されるように、気体と液体の中間形態である超臨界流体を洗浄剤として用いる方法は、単品部品の高度洗浄には非常に有効な手段といえるが、粘度が低く浸透性が良い超臨界流体に浸ける方法では、撥水剤を塗布してもわずかな隙間から浸透してしまう。ここで超臨界流体は液体に近い密度を持つ為、油などの非極性物質の溶解度が大きい。その為、僅かな隙間から軸受の油保持部まで浸透した超臨界流体は、軸受部の油までも溶解(油抜け)させてしまうという課題を有していた。
【0015】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、モータを組み立てた後でも、部品の精度劣化を引き起こすことなく洗浄する事が可能な洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記従来の課題を解決するために、本発明に係る洗浄方法は、ドライアイスを噴出する第1のノズルと、ドライアイスを吸引回収する第2のノズルとが一体になったノズルユニットを用意する工程と、被洗浄物の被洗浄表面に対してノズルユニットを相対的に移動可能なトラバース装置を用意する工程と、被洗浄物を所定の位置にセットする工程と、トラバース装置によってノズルユニットを被洗浄表面に対して相対的に移動させながら、被洗浄面に対して第1のノズルからドライアイスを噴出すると共に、第2のノズルから、ドライアイスと共に被洗浄物の表面から剥離した粉粒体または被洗浄物の表面から溶解した汚染物質を吸引回収する工程と、洗浄物を所定位置から取り外す工程とを有するものである。
【0017】
これにより、軸受オイル抜けを生ずることなくユニット状態での洗浄が可能になり、またノズルから噴出したドライアイスが部品に与える荷重を、吸引力によってキャンセルすることができ、部品変形の可能性を抑制することが可能になる。また剥離した粉粒体または溶解した汚染物質をその場で吸引することが可能になるので、2次汚染の心配がない。
【0018】
まt、本発明に係る洗浄方法は、ドライアイスはキャリヤガスによって加速されて第1のノズルから噴出させるようにしたものである。
【0019】
これにより、ドライアイスを製造するための高圧液化二酸化炭素の使用量を減らすことが出来ると共に、ドライアイスの部品に対する衝突荷重を大きくすることが出来、より洗浄能力を向上させることが出来る。
【0020】
また、本発明に係る洗浄方法は、キャリヤガスは二酸化炭素ガス、または空気としたものである。
【0021】
これにより、キャリヤガスそのものを、工場内に配管された圧縮空気や、回収したドライアイスを昇華させて得られた二酸化炭素ガスを用いることが出来るので、有機溶剤系での洗浄と異なり、製造上での環境負荷を抑制することが出来る。
【0022】
さらに、本発明に係る洗浄方法は、被洗浄物は洗浄前から洗浄後における少なくともいずれかの時点で加熱されるようにしたものである。
【0023】
これにより、洗浄中または洗浄後に、空気中の水分が部品表面に結露して、その水滴が部品表面における「染み」などになることを防ぐことが出来る。
【0024】
また、本発明に係る洗浄方法は、第1のノズルの噴出口の先端はほぼ円環状をなし、第2のノズルは第1のノズルの噴出口の先端の周囲をほぼ環状に取り巻くように吸引口を形成したものである。
【0025】
これにより、第1のノズルから噴出したドライアイスおよび被洗浄物の表面から剥離した粉粒体または前記被洗浄物の表面から溶解した汚染物質を確実に回収することができ、二次汚染をより確実に防止することが出来る。
【0026】
さらに、本発明に係る洗浄方法は、第2のノズルの先端部には加熱手段を設けたものである。
【0027】
これにより、ノズル先端や、被洗浄物の結露を防止する事が出来る。また第1のノズルの目詰まりを防止できる。
【0028】
また、本発明に係る洗浄方法は、被洗浄物は、少なくとも洗浄中に接地させるようにしたものである。
【0029】
これにより、第1のノズル内や配管中をドライアイスが高速に搬送される時に生ずる内部摩擦が引き起こす静電気による帯電を防止でき、一旦剥離した粉粒体等パーティクルの再付着を防止できる。
【0030】
さらに、本発明に係る洗浄方法は、被洗浄物は、洗浄後にイオナイザにより除電するようにしたものである。
【0031】
これにより、洗浄中に生じた静電気を被洗浄物から除くことが出来、洗浄後にクリーンルーム内に飛散する小さな粉粒体を被洗浄物の表面に引き寄せることを防止できる。
【0032】
また、本発明に係る洗浄方法は、回転中心軸周りにほぼ回転対称形状を成す被洗浄物の表面を洗浄するために、複数のノズルユニットを用意して、少なくとも洗浄中は複数のノズルユニットが回転中心軸に対してほぼ均等に配置されるように相対的に移動させるものである。
【0033】
これにより、モータのハブなどの被洗浄物の中心軸に対してほぼ均等位置に配置されるので、被洗浄物に対して偏荷重が掛からなくなる。その結果シャフトに対してハブの直角度が劣化して、ディスクを取り付けたときのディスクのA−RROが劣化することを防止することが出来る。
【0034】
さらに、本発明に係る洗浄方法は、第1のノズルから噴出されるドライアイスが被洗浄物の表面に与える噴出力よりも、第2のノズルから吸引される気流による吸引力が大きくしたものである。
【0035】
これにより、第1のノズルから噴出するドライアイス及びキャリヤガスと、被洗浄物の表面から剥離した粉粒体または被洗浄物の表面から溶解した汚染物質を確実に回収することが可能になる。
【0036】
また、本発明に係る洗浄方法は、ノズルユニットが被洗浄物に与える力を計測し、所定以上の荷重が被洗浄物に加わらないように第1のノズルにおける噴出状態または前記第2のノズルにおける吸引状態の内、少なくとも一方を制御するようにしたものである。
【0037】
これにより、過大な力が被洗浄物に加わることを抑制し、被洗浄物の変形を最小限にする事が出来る。
【0038】
さらに、本発明に係る洗浄方法は、第1のノズルの先端は、第2のノズルの吸引口の先端よりも、被洗浄物の被洗浄表面から離れているようにしたものである。
【0039】
これにより、ドライアイスやキャリヤガス、粉粒体または汚染物質を飛散させることなく確実に回収することが容易になる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、洗浄方法として油脂類を確実に除去することが出来るドライアイス洗浄を、完成状態のモータなどの洗浄に適用することが可能になる。すなわち、被洗浄物に対するドライアイスの噴射による変形などの悪影響を生ずることなく、油脂類や製品表面上の粉粒体などを確実に除去回収できる。
【0041】
また、噴射ノズルと吸引ノズルとを一体構造として被洗浄物上をトラバースする事でモータをユニット状態で効果的に洗浄する事が出来るので、モータの清浄度が飛躍的に向上できる。
【0042】
加えてモータの組立後に、ユニット状態でモータ表面を洗浄することが可能であるため、特にモータの外表面を構成する各部品については事前に洗浄しておく必要度が少なくなり、部材の入手、管理が非常に簡略化出来る。
【0043】
またモータ組立時に付着する塵埃に対する管理(部品そのものの洗浄度や組立時の清浄環境)も簡略化する事が出来るので、大幅なコストダウン(設備や品質管理)が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下に、本発明の洗浄方法の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【0045】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における洗浄方法が適用されるスピンドルモータの断面図である。このスピンドルモータは、記録ディスク駆動用に用いられ、HDD等の記録ディスク装置の一部を構成している。
<スピンドルモータの構成>
スピンドルモータは、ステータ(静止部材)2を構成するベース100と、ロータ1を構成するアルミ製もしくは鉄合金系材料製のロータハブ101と、ロータ1をステータ2に対して回転自在に支持するための流体軸受装置を備える。
【0046】
流体軸受装置は、中空円筒状のスリーブ102、シャフト106と、スリーブ102の下部を閉鎖する円板状のスラストプレート105を有している。スリーブ102は鉄、鉄合金、銅、銅合金等の金属材料等によって形成され、ベース100に固定される。
【0047】
スリーブ102には、円板状のスラストプレート105が接着、カシメ、圧入、溶接等の方法により固定される。またスリーブ102のスラストプレート105が固定された反対側(図における上方)は開口しており、スリーブ102の開口端は流体軸受装置の内側に向かって傾斜しており、シャフト106との間隔が開口端から流体軸受装置に向かって狭くなる様に配置されているため、テーパシール部108として機能して潤滑剤としての潤滑油107をシャフト106とスリーブ102との間の隙間に安定して保持している。さらにスリーブ106の内周面側には、へリングボーン形状のラジアル動圧発生溝(図示せず)が軸線方向に並んで形成されている。なおラジアル動圧発生溝は、スパイラル形状であってよい。またスリーブ106の表面にはニッケルメッキ処理などの表面硬化処理などを行ってもよい。
【0048】
シャフト106は、金属材料で形成された直径2〜4mmの円筒状の外周面を有する部材であって、スリーブ106の内周面に回転可能な状態で挿入される。またシャフト106の下端には円板状のスラストフランジ109が溶接、圧入、接着、ビス締め等の方法で接合される。なおシャフト106は回転中心の軸として用いられることから、例えばSUS等の素材的には硬い材料が使われている。
【0049】
スラストフランジ109は、円板状の部材であって、上述のようにシャフト106の下端側(流体軸受装置の閉鎖側)にとりつけられている。そしてスラストフランジ109は、スリーブ102の段差部とスラストプレート105とで囲まれた空間に配置されている。スラストフランジ109の下面は、スラストプレート105に対向し、スラストフランジ109の上面は、スリーブ102に対向している。この対向面の少なくとも片側の面には、スラスト動圧発生溝が形成されている。
【0050】
スラストプレート105は、流体軸受装置の底面を覆うように取り付けられた円板上の部材であり、対向するスラストフランジ109の対向面の片側にはスラスト動圧発生溝(図示せず)が形成されている。なおスラスト動圧発生溝が形成される面は、本実施形態の構成に限定されるものではなく、軸方向に隙間を形成しつつ対向する面のいずれか一方に形成されていればよい。すなわちスラストフランジ109の下面あるいは、スラストフランジ109の上面にスラスト動圧発生溝が形成されていてもよい。
【0051】
また、ラジアル動圧発生溝およびスラスト動圧発生溝を含むシャフト106、スリーブ102の内周円筒部との隙間、およびスラストフランジ109とスリーブ102との間およびスラストフランジ109とスラストプレート105との間の隙間には潤滑油107が充填されている。
【0052】
ロータ1であるロータハブ101は、略お椀状の形状を有し、中心部分には貫通穴が形成されており、シャフト106が接着圧入、溶接等によって固定されている。ロータハブ101の内周には、略円環状のロータマグネット104が取り付けられており、ステータコア103に対して半径方向において対向している。ロータハブ101の上面には、ディスク搭載面が形成されている。
【0053】
ロータマグネット104は、ロータハブ101の内周面側において、円周方向に取り付けられている。一方、ベース100には、スリーブ102が接着、接着圧入、溶接等で固定されている。またそのスリーブ102とほぼ同軸状に、コイル110が巻回されたステータコア103が接着等の工法により固定されている。ロータマグネット104と、ステータコア103により回転磁界を発生し、ロータハブ101に回転力を付与する。
<洗浄装置の構成>
次に本実施の形態の洗浄方法を適用した洗浄装置の概略構成をしめす平面図を図2(a)に、横断面図を図2(b)に示す。スピンドルモータのステータ2は、洗浄用取り付け台3に、クランプ4により固定される。洗浄用取り付け台3は、スピンドルモータの帯電を防ぐために、アース手段14によって接地されている。なおアース手段は被洗浄物がロータ1である場合はロータ1に接続されるのが望ましく、被洗浄物がステータ2の場合は、ステータ2に接続されるのが望ましい。
【0054】
本洗浄装置には、図3(a)(b)に示すようにスピンドルモータを洗浄するためにドライアイスを噴射する第1のノズル25と、塵埃7(パーティクル)等の剥離した粉粒体や、溶解した汚染物質(コンタミネーション)等を昇華したドライアイスと共に吸引回収する第2のノズル26とが一体になった、ノズルユニット24を備える。ノズルユニット24の詳細な構成に関しては後述する。この第1のノズル25は洗浄流体供給管5に接続され、第2のノズル26は吸引回収管6に接続されている。
【0055】
上記ノズルユニット24は、スピンドルモータに対して、水平方向、垂直方向、回転軸方向に移動/回転自在に設けられたトラバースユニット11,12とロータリーテーブル13とに固定されている。これにより被洗浄物の洗浄表面に対してノズルユニット24を相対的に移動させることが
可能である。
【0056】
また被洗浄物は回転中心軸周りにほぼ回転対称形状を成すため、被洗浄物の表面を洗浄するために複数の前記ノズルユニット24を用意して、少なくとも洗浄中は前記複数のノズルユニット24が回転中心軸に対してほぼ均等に配置され、上記トラバースユニット11,12およびロータリーテーブル13により相対的に移動させる。
【0057】
洗浄用取り付け台3は図示しない加温装置が取り付けられているとともに、弾性支持部15によって、洗浄装置基台18上に配設されている。この弾性支持部15には噴射によりスピンドルモータに加わる荷重を計測するための荷重センサ16が複数個配設されている。そして洗浄剤が噴射・吸引されたときの反力を計測して、圧力制御装置17にフィードバックされて噴射力と吸引力とを制御する。
<ノズルユニットの構成>
ノズルユニット24は、図3(b)に示すように、被洗浄物を洗浄するための液化二酸化炭素20を、キャリヤガス22(たとえば圧縮クリーンエアー、または二酸化炭素ガス)と共に噴射することでドライアイスペレット27を生成噴射する第1のノズル25と、一部が昇華したドライアイスペレット27と共に、剥離した塵埃7等の粉粒体や、溶解した汚染物質を吸引回収する第2のノズル26とが一体になっている。
【0058】
さらに詳しくは、第1のノズル25には、液化二酸化炭素20を供給する液化二酸化炭素供給管21と、その周囲に、キャリヤガス22を供給するキャリヤガス供給管23が圧力制御装置17から同軸状に配置連結されている。前述の洗浄流体供給管5は液化二酸化炭素供給管21と、キャリヤガス供給管23とが同軸に配置されたものである。
【0059】
ここで液化二酸化炭素供給管21の先端よりも、キャリヤガス供給管23の先端の方が突出するように構成している。さらにこの第1のノズル25を取り囲むように、第2のノズル26が配置されている。ここで、第2のノズル26の先端は、第1のノズル先端よりも更に突出して構成されている。また液化二酸化炭素供給管21は金属製又は導電性を有するフレキシブルチューブで構成されて、接地されている。
【0060】
ここで、液化二酸化炭素20は図示しない数10気圧の貯蔵ボンベから圧力制御装置17を介して圧力と流量が制御されて供給される。またキャリヤガス22は工場内に供給された圧縮クリーンエアーであり、圧力制御装置17を介して圧力と流量が制御されて供給される。なお圧力制御装置17によって、液化二酸化炭素20とキャリヤガス22の圧力は数気圧(3〜6気圧程度)に制御される。さらに、第2のノズル26も圧力制御装置17に接続され、吸引圧力と流量とが制御される。
【0061】
また第1のノズル25の先端付近には、キャリヤガスを暖めて、液化二酸化炭素20が供給管内で詰まるのを防ぐ加温装置(図示せず)が装着されている。
<装置の動作と洗浄作用>
次に本洗浄装置の動作について図7に示す工程フロー図を用いて説明する。まず被洗浄物を洗浄用取り付け台3にクランプ4を用いて固定する。このとき、被洗浄物がアース手段14によって接地されるようにセッティングする。次に必要に応じて被洗浄物をプリヒートする。これによって洗浄中の結露を防止するものである。なお被洗浄物は複数個同時にセットしても構わない。
【0062】
次に複数本のノズルユニット24を被洗浄物(ここではスピンドルモータ)に対して相対的に移動して、回転軸周りにほぼ対象位置になるように配置させる。
【0063】
そして洗浄流体9を噴出すると共に、昇華物を汚染物質などと共に吸引回収する。その後、必要に応じてイオナイザなどによる除電や加熱を行い、被洗浄物を取り出す。なお、被洗浄物を洗浄用取り付け台3に複数個取り付けている場合、順次洗浄を行えばよい。
【0064】
キャリヤガス22がキャリヤガス供給管23を高速で流れる事によって発生する負圧により、液化二酸化炭素20は液化二酸化炭素供給管21から高速で吸い出される。このとき液化二酸化炭素20は急激に生ずる断熱膨張により、冷却されて、ドライアイスペレット27になる。
【0065】
そしてドライアイスペレット27は生成と共に加速されてキャリヤガス22と混合された洗浄流体9となり、被洗浄物1の表面に付着した塵埃7や汚染物質に向かって高速(数10〜数100m/sec)で噴射される。第1のノズル25(噴射ノズル)から噴射されたドライアイスペレット27が衝突する際の衝突エネルギーと、ドライアイスペレット27が昇華する際に伴う膨張圧力によって、被洗浄物30の表面に付着した汚れは剥離、または液化二酸化炭素に溶解され、被洗浄物から除去(洗浄)される。被洗浄物30から除去された汚れは、一部が昇華したドライアイスと共に第2のノズル26により吸引回収される。したがって洗浄流体9や剥離した塵埃や汚染物質が飛散しないので、洗浄後に二次汚染を生ずる可能性は無い。さらにドライアイスそのものは温度が低いが、衝突エネルギーによって瞬時に昇華してしまうので、被洗浄物を過度に冷却して、熱衝撃を生ずる心配はない。ただし、洗浄時間が長くなる場合は、被洗浄物の温度が下がりすぎて、洗浄後に空気中の水分を吸収して結露してしまう可能性が生ずる。これを防止するために、事前に被洗浄物を加熱しておくか、洗浄中、もしくは洗浄後に被洗浄物を加熱しても良い。
【0066】
本実施の形態によれば、ノズルユニット24は被洗浄物30に対して相対的に移動可能であるため、被洗浄物30の表面をくまなく洗浄出来る。また第2のノズル(吸引ノズル)26は、第1のノズル(噴射ノズル)25と一体となって設けられているため、噴射されたドライアイスペレットにより剥離または溶解した汚染物質は、第2のノズル26により直ちに吸引により回収される。そのため剥離した汚染物質は、噴射により周囲環境に拡散されるがなく、2次汚染を防止する事ができる。
【0067】
また第1のノズル25と第2のノズル26は前述の通り一体化し、噴射と吸引をしている。これにより被洗浄物に加わる噴射力を吸引力により相対的に弱める事が出来きるので、ドライアイスを噴射する際に被洗浄物に加わる応力を軽減する効果も併せ持つ。また噴射力と吸引力は、洗浄用取り付け台3を弾性支持する弾性支持部15に配設された荷重センサ16より測定され、圧力制御装置17にフィードバックされ、被洗浄物に加わる荷重を常に一定に制御することが可能になる。これらの構成により従来例が抱えていた、液化二酸化炭素の噴射時の荷重による被洗浄部物(モータ)の組み立て精度の劣化や軸受へのダメージを防ぐことが出来る。
【0068】
さらに、複数のノズルユニット24を回転軸に対してほぼ均等にバランスを取るように配置されているので、噴射力による偏荷重や、偏荷重によるロータハブ101のシャフト106に対する圧入精度の劣化や軸受へのダメージを防ぐことができる。
【0069】
また従来の装置では、液化二酸化炭素が供給管内を搬送される際に、相互摩擦および供給管路を構成する配管内壁との摩擦によって静電気を発生して帯電する結果、洗浄後の被洗浄物に塵埃が再付着してしまい良好な洗浄効果が得られなくなる場合があった。しかし本実施の形態では、被洗浄物、被洗浄物が固定された洗浄用取り付け台3、液化二酸化炭素供給管21が接地されているため帯電する事が無く、かつ剥離した塵埃は直ちに回収されるため、良好な洗浄効果が得られる。なお、それでも帯電が完全に抑制できない場合は、洗浄後に出来るだけ早い時点でイオナイザによる除電を施せばよい。これにより静電気による微粒子吸着を最小限に出来る。
【0070】
また、洗浄装置の洗浄用取り付け台3に加温装置を持つとともに、噴射ノズルの先端にキャリヤガスを加温するための加温装置(図示せず)をそなえている。これにより被洗浄物が洗浄後に結露すると言う問題を解決する事が出来る。
【0071】
<第1実施形態の変形例>
以上、本発明の実施の形態1について説明したが、本発明は上記実施の形態1に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0072】
(A)
上記実施の形態1の説明において、被洗浄物を回転軸に平行な方向(垂直方向)から洗浄するための装置に適用したものを用いたが、変形例として、図4に示すように、回転軸に直交する方向(水平方向)からドライアイスを噴射して洗浄する事も可能である。さらに上記実施の形態1の説明とこの変形例とを組み合わせて併せ持つように、ノズルユニット基部にさらに電磁回転機構を設けて、垂直方向も水平方向も任意に選択しうるようにすることも可能である。
【0073】
(B)
上記説明においては被洗浄物として、軸受部も完成したモータユニット(スピンドルモータ)としたものであるが、図5に示すようにロータハブ101を単品状態で洗浄する事も可能である。
【0074】
(C)
上記説明においては被洗浄物として、軸受部も完成したモータユニット(スピンドルモータ)としたものであるが、図6に示すようにベース2を単品状態で洗浄する事も可能である。ベース2のように、被洗浄物に対する偏荷重を考慮する必要が無い場合や、被洗浄物が回転中心軸周りに軸対称形状で無い場合は、ノズルユニット24は複数個を均等に配置する必要はなく、単独のノズルユニット24でも実施可能である。
【0075】
なお上記における説明において、図1に示すモータを例にあげたが本発明の適用しうる範囲はこれに限定されるものではなく、他のいかなる形態のモータにも適用可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明にかかる洗浄方法は、装置が完成又は半完成状態であっても、装置の形状精度や性能を劣化させることなく、確実に洗浄を行うことが可能であり、特に高い清浄度を必要とするHDD等の情報関連装置、半導体関連素子、映像デバイスなどの洗浄方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】スピンドルモータの横断面図
【図2】(a)本発明の実施の形態1における洗浄方法を適用した洗浄装置の平面図、(b)本発明の実施の形態1における洗浄方法を適用した洗浄装置の横断面図
【図3】(a)本発明の実施の形態1における洗浄方法を適用した洗浄装置のノズルユニットとトラバース装置の関係を示す模式図、(b)本発明の実施の形態1における洗浄方法を適用した洗浄装置のノズルユニットの断面図
【図4】(a)本発明の実施の形態1の変形例(A)における洗浄方法を適用した洗浄装置の平面図、(b)本発明の実施の形態1の変形例(A)における洗浄方法を適用した洗浄装置の横断面図
【図5】本発明の実施の形態1の変形例(B)における洗浄方法を適用した洗浄装置の横断面図
【図6】本発明の実施の形態1の変形例(C)における洗浄方法を適用した洗浄装置の横断面図
【図7】本発明の実施の形態1における洗浄方法の工程フロー図
【符号の説明】
【0078】
1 ロータ
2 ステータ
3 洗浄用取り付け台
4 クランプ
5 洗浄流体供給管
6 吸引回収管
7 塵埃
9 洗浄流体
10 回収物質
11、12 トラバースユニット
13 ロータリーテーブル
14 アース手段
15 弾性支持部
16 荷重センサ
17 圧力制御装置
18 洗浄装置基台
20 液化二酸化炭素
21 液化二酸化炭素供給管
22 キャリヤガス
23 キャリヤガス供給管
24 ノズルユニット
25 第1のノズル
26 第2のノズル
27 ドライアイスペレット
30 被洗浄物
100 ベース
101 ロータハブ
102 スリーブ
103 ステータコア
104 ロータマグネット
105 スラストプレート
106 シャフト
107 潤滑油
108 テーパシール部
109 スラストフランジ
110 コイル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライアイスを噴出する第1のノズルと、前記ドライアイスを吸引回収する第2のノズルとが一体になったノズルユニットを用意する工程と、
被洗浄物の被洗浄表面に対して前記ノズルユニットを相対的に移動可能なトラバース装置を用意する工程と、
前記被洗浄物を所定の位置にセットする工程と、
前記トラバース装置によって前記ノズルユニットを前記被洗浄表面に対して相対的に移動させながら、前記被洗浄面に対して前記第1のノズルから前記ドライアイスを噴出すると共に、前記第2のノズルから、前記ドライアイスと共に前記被洗浄物の表面から剥離した粉粒体または前記被洗浄物の表面から溶解した汚染物質を吸引回収する工程と、
前記洗浄物を所定位置から取り外す工程と
を有する洗浄方法。
【請求項2】
前記ドライアイスはキャリヤガスによって加速されて前記第1のノズルから噴出させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記キャリヤガスは二酸化炭素ガス、または空気であることを特徴とする請求項2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記被洗浄物は洗浄前から洗浄後における少なくともいずれかの時点で加熱されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項5】
前記第1のノズルの噴出口の先端はほぼ円環状をなし、前記第2のノズルは前記第1のノズルの前記噴出口の前記先端の周囲をほぼ環状に取り巻くように吸引口を形成したことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項6】
前記第2のノズルの先端部には加熱手段を設けたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項7】
前記被洗浄物は、少なくとも洗浄中は接地させることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項8】
前記被洗浄物は、洗浄後にイオナイザにより除電することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項9】
回転中心軸周りにほぼ回転対称形状を成す被洗浄物の表面を洗浄するために、複数の前記ノズルユニットを用意して、少なくとも洗浄中は前記複数のノズルユニットが前記回転中心軸に対してほぼ均等に配置されるように相対的に移動させることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項10】
前記第1のノズルから噴出される前記ドライアイスが、前記被洗浄物の表面に与える噴出力よりも、前記第2のノズルから吸引される気流による吸引力が大きいことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項11】
前記ノズルユニットが前記被洗浄物に与える力を計測し、所定以上の荷重が前記被洗浄物に加わらないように、前記第1のノズルにおける噴出状態または前記第2のノズルにおける吸引状態の内、少なくとも一方を制御することを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項12】
前記第1のノズルの前記先端は、前記第2のノズルの吸引口の先端よりも、被洗浄物の前記被洗浄表面から離れていることを特徴とする請求項5に記載の洗浄方法。
【請求項13】
前記部品は記録ディスク駆動装置に用いられる部品であることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の洗浄方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−28633(P2009−28633A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194870(P2007−194870)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】