説明

洗浄液

【課題】 ナンバリングに用いる字輪の洗浄を確実に行うこと及び字輪への潤滑成分を十分に保持させることを満足し、同時に環境に配慮した洗浄液を提供する。
【解決手段】 アルカリ水溶液へ0.1〜10.0容量%のワックスを添加して成る洗浄液である。また、相溶化剤を0.1%〜5.0容量%、適量の着色染料を含んでいる洗浄液である。また、ワックスは、炭素数50〜70、粘性率1〜10ポアズ(20℃)のパラフィン系ワックスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に宝くじや銀行券といった連続番号を印刷するナンバリングの字輪の洗浄に用いる洗浄液に関するものであり、特に潤滑成分を必要とする回動箇所の洗浄に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
一般的にナンバリングに用いる字輪の洗浄は、字輪を分解し、石油系の洗浄液にてブラシを用いて実施している。特に宝くじや銀行券といった貴重製品においては偽造製品の排除の観点からも最高位の品質が要求されており、印刷中に飛散するミスト状のインキやしばらく滞留し劣化した潤滑油等の飛散による印刷製品への汚れは致命的である。このことから、ナンバリングに用いる字輪は頻繁に分解洗浄を施している。近年、字輪を分解することなく、効果的な洗浄を実施する方法として、字輪の洗浄液に、洗浄液と潤滑油を混合撹拌し、洗浄液中に潤滑油が微粒子状の形態で均一に分布させた状態のものを用い、専用の洗浄装置にて洗浄する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−334740号公報
【0004】
前述した洗浄方法を用いた場合、字輪を分解することなく洗浄を実施することが可能となり、洗浄液中に潤滑油を微粒子状で均一に分布させて製造していることから、番号器の洗浄と給油が同時にでき、後に洗浄液のみを除去することで給油を完了することが可能である。
【0005】
また、洗浄液中に潤滑油を微粒子状で均一に分布させて製造している洗浄液を専用の洗浄装置に用いることで、省力化できるだけでなく、短時間での字輪洗浄が可能となることから有用的である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、洗浄液である石油に潤滑油を確実に均一分散させることは非常に困難であり、時に潤滑油が斑状態で滞留していた場合、字輪の箇所によっては、残留する潤滑油が飛散したり、また、潤滑油の枯渇により字輪又は軸が摩滅損耗する場合があり、このことが原因で、字輪が正規に回動しない場合があり、結果として、製品品質を満足しない製品(損紙)を発生させる場合がある。
【0007】
また、洗浄液と潤滑油の攪拌を実施した後、時間の経過に伴い、洗浄液と潤滑油は比重等の違いにより分離しやすくなり、攪拌のタイミングにも大きく左右され、安定した潤滑油の分散状態を得ることは極めて困難であった。
【0008】
また、洗浄を実施した後に潤滑油の残留、付着状態を目視にて確認することができないことから、ナンバリング印刷を実施しているときに不具合が確認されたり、また、洗浄液の主成分として石油を用いる従来の技術は、字輪の軸や内輪の潤滑成分をほとんど除去してしまうので、潤滑油を混合した洗浄液だけでは不十分であり、潤滑油の混合量も経験から算出される場合が多く一様でなかった。結果として、字輪は頻繁に洗浄を実施するとともに、一旦分解せざるを得なくなり、定期的に字輪自体を新品へと交換することとなり、このことが、広く実用化がされないでいる原因の一つとされていた。
【0009】
さらに、揮発性の高い石油を主成分として用いていることから、洗浄作業者は保護具の着用を必要とするほか、使用後の洗浄液の廃棄等、多くの手間や費用がかかり、環境面からも良いものではなく、本技術が慣用技術となっていなかった。
【0010】
上述したこれらの問題点を勘案すると、字輪及びその回動軸の洗浄に用いる洗浄液について、少なからず開発の余地があった。
【0011】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、ナンバリングに用いる字輪の洗浄を確実に行うこと及び字輪への潤滑成分を十分に保持させることを満足し、同時に環境に配慮した洗浄液を創案することを課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のかかる課題を解決するための手段として、アルカリ水溶液へ0.1〜10.0容量%のワックスを添加したことを特徴としている。
【0013】
また、洗浄液は相溶化剤を0.1〜5.0容量%含んでいることを特徴としている。
【0014】
また、アルカリ水溶液は、少なくとも炭酸ソーダを含む溶液であることを特徴としている。
【0015】
また、ワックスは、炭素数50〜70、粘性率1〜10ポアズ(20℃)のパラフィン系ワックスであることを特徴としている。
【0016】
また、相溶化剤は、界面活性剤であることを特徴としている。
【0017】
また、洗浄液は、ナンバリングにおける字輪又は回動軸の洗浄に用いることを特徴としている。
【0018】
また、洗浄液は、着色染料を含んでいることを特徴としている。
【0019】
さらに、洗浄液は、温度10〜50℃、吐出圧0.2〜7.0MPaの雰囲気の洗浄装置に用いることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の洗浄液は、その主体が水系成分で構成されていることから、一方で、ナンバリングの字輪に残留する劣化(酸化)した潤滑油及び不純物との親和力に優れており、主成分を石油とする従前技術と比較した場合、優れた洗浄能力を発揮することができる。他方では、字輪に新たな潤滑油を均一に滞留させることができ、潤滑効果においても効果的な作用が実現できるという効果を奏する。
【0021】
また、本発明の洗浄液は、相溶化剤を用いていることから、アルカリ水溶液へワックスを均一に分散させることができ、字輪軸等の洗浄に用いた場合、アルカリ水溶液を取り除いた後のワックス成分を字輪軸に均一に残留させることが可能となり、字輪軸の幻滅損耗を抑制すると同時に字輪の転換不良を抑制することが可能となることから、印刷製品の品質異常を大幅に削減できるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明の洗浄液は、字輪に残留するワックスが斑状態に成りにくいことから、印刷中に余剰な潤滑油が飛散することが抑制され、印刷製品に悪影響を及ぼすことがなくなり、結果、字輪自体の分解洗浄の頻度を減少させることができ、作業者の作業性が改善できるという効果を奏する。
【0023】
また、本発明の洗浄液は、ワックスに着色していることから、字輪への潤滑成分の滞留状態を目視にて確認することが可能となり、潤滑成分の余剰滞留や枯渇が容易に確認でき、印刷作業に係る不具合が減少できることから、余剰なコストが必要でなくなるという効果を奏する。
【0024】
さらに、本発明の洗浄液は揮発性が高い石油を用いていないことから、従前まで使用していた保護具の着用が不必要となるだけでなく、洗浄液の取扱いやその廃棄に制約を受けないで済み、特に環境に優れた作業環境の実現が図れるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の洗浄液は、水94.0容量%に、アルカリ成分の炭酸ソーダ(例えば、軽灰:徳山曹達(株)製)を3.0容量%、ワックス(例えば、鉱物油であるマイクロクリスタリン:日本精蝋(株)製)を3.0容量%とを攪拌溶解させたものである。また、洗浄液にワックスを均一に分布させるために、相溶化剤(例えば、界面活性剤であるアデカトール:旭電化(株)製)を3.0容量%添加している。また、ワックスの付着状態を目視にて容易に確認するために、洗浄液に、着色染料(例えば、OIL―PINK312:オリエント化学(株)製)を適量添加させた構成としている。
【0026】
発明した洗浄液を用いて字輪の洗浄実験を行った結果、字輪には、劣化した潤滑油や滓インキ及び塵埃といった不純物が完全に除去されており、石油系洗浄液を単独で用いた場合と同等程度の洗浄能力を発揮していることが分かった。また、字輪には適量の潤滑油が滞留しており、後の作業者による潤滑油の塗布作業が省略できる状態であった。
【0027】
さらに、各々の添加量を変化させた場合を調査・確認を実施し、配合量の好適を知り得ることができた。アルカリ水溶液へのワックスの添加量の好適は、3.0容量%である。アルカリ水溶液へのワックスの添加量を少なく設定した場合(例えば、1.0容量%以下)は、潤滑効果が発現しにくく、多く設定した場合(例えば、5.0容量%以上)は、滞留する潤滑成分であるワックスが飽和状態となり、洗浄性を阻害する場合がある。表1にアルカリ水溶液へのワックス添加量を変化させた場合の洗浄特性結果を記す。
【0028】
【表1】

【0029】
洗浄液への相溶化剤の添加量の好適は、3.0容量%である。洗浄液への相溶化剤の添加量を少なく設定した場合(例えば、1.0容量%以下)は、洗浄液とワックスの相溶化効果が出現しにくく、洗浄液中のワックスの分布に斑ができる場合がある。また、相溶化剤の添加量を多く設定した場合(例えば、5.0容量%以上)は、粘度上昇により洗浄性を阻害する。表2に相溶化剤の添加量を変化させた場合の洗浄特性結果を記す。
【0030】
【表2】

【0031】
ワックスの炭素数の好適は、50(パラフィン系ワックス)である。前記ワックスの炭素数を少なく設定した場合(例えば、30:ナフテン系ワックス)は、被洗浄材に付着しにくく、潤滑能力が劣る。多く設定した場合(例えば、70:パラフィン系ワックス)は、被洗浄材に付着しやすく、印刷中のワックスの飛散が懸念される。表3にワックスの炭素数を変化させた場合の洗浄特性結果を記す。また、ワックスの粘性率の好適は、20℃において5ポアズである。前記ワックスの粘性率を小さく設定した場合(例えば、1ポアズ以下)は、液体として安定しにくく、大きく設定した場合(例えば、10ポアズ以上)は、被洗浄材に残留しやすく、次回の洗浄時に劣化したワックスが滞留するおそれがある。表4にワックスの粘性率を変化させた場合の洗浄特性結果を記す。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
洗浄液は、図示しない洗浄装置に用いる場合がある。洗浄装置では、液温設定を10〜35℃、吐出圧を0.2〜7.0MPaの範囲で任意に設定し洗浄を実施した。洗浄液は、液温設定を25℃、吐出圧を3.0MPaに設定した場合に好適であった。ここで、洗浄液の液温を低く設定(例えば、10℃以下)すると、洗浄液の活性力が小さく、満足する良好な洗浄効果が得られなくなり、高く設定(例えば、50℃以上)すると、洗浄液の水系成分が蒸発することから、洗浄能力が低下しやすくなる。表5に洗浄液の温度を変化させた場合の洗浄特性結果を記す。また、洗浄液の吐出圧を低く設定(例えば、0.2MPa以下)すると、被洗浄物に付着した汚れを除去できず、満足する洗浄効果が得られなくなり、高く設定(例えば、7.0MPa以上)すると、被洗浄材にワックスが滞留しにくくなる。表6に洗浄液の吐出圧を変化させた場合の洗浄特性結果を記す。
【0035】
【表5】

【0036】
【表6】

【0037】
洗浄装置は、洗浄液を用い洗浄が行われた後、アルカリ水溶液及び余剰ワックスの除去を行うために、被対象物である字輪の軸を固定し回転させるとともに、熱風により乾燥を行う。
【0038】
なお、本発明の洗浄液を使用した場合、字輪の洗浄時に一旦除去した劣化状態の潤滑油が再付着することが懸念されるが、劣化した潤滑油は、新しい潤滑油と比較し、酸化の度合いが大きいことから、洗浄液との親和性が高く、字輪に残留することなく、熱風乾燥等を行うことで字輪から除去することが可能である。
【0039】
さらに、本発明の洗浄液は、主成分が水から構成されている水系の洗浄液であることから、字輪等の部材へさびを発生させることが懸念されるが、用いたワックスが字輪表面に付着しやすく、字輪へ水滴がぬれにくくなることから、さびの発生は起こりにくいものである。また、字輪を回動させたり、熱風乾燥させることで、余剰水分を確実に除去することが可能である。
【0040】
洗浄後の被洗浄物(字輪)を確認したところ、字輪に付着していた劣化した潤滑油や埃塵といった不純物がすべて除去されており、また、狭隘箇所の隅々までワックスが均一に分布・残留していたことを確認した。また、字輪の内輪へのワックス分布状態を、字輪を分解して確認した結果、ワックスは均一に分布していたことを確認した。また、洗浄後の字輪を用いて枚葉紙50万枚のナンバリング印刷を実施したところ、ワックス(潤滑油)の飛散や、字輪転換不良は発生しなかった。
【0041】
以上、実施例において説明したが、本発明の洗浄液は、被洗浄物の材質が限定されるものではなく、また使用用途についても特別に指定するものでなく、別形態の活用手段を用いることもある。
【0042】
例示では字輪における軸や字輪の内輪(軸と接触する箇所)を対象として記載したが、これに限られるものではなく、あらゆる部材に用いる場合も可能である。応用例として、回転運動又は反復運動を繰り返す工作機械の洗浄に用いることも可能であり、この場合、洗浄成分であるアルカリ水溶液へ潤滑成分であるワックスの配合量を別途特定することで、洗浄後に潤滑油を塗布しなくとも、残留潤滑成分を保持することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ水溶液へ0.1〜10.0容量%のワックスを添加したことを特徴とする洗浄液。
【請求項2】
前記洗浄液は、相溶化剤を0.1〜5.0容量%含んでいることを特徴とする前記請求項1記載の洗浄液。
【請求項3】
前記アルカリ水溶液は、少なくとも炭酸ソーダを含む溶液であることを特徴とする請求項1及び2記載の洗浄液。
【請求項4】
前記ワックスは、炭素数50〜70、粘性率1〜10ポアズ(20℃)のパラフィン系ワックスであることを特徴とする請求項1乃至3記載の洗浄液。
【請求項5】
前記相溶化剤は、界面活性剤であることを特徴とする前記請求項1乃至4記載の洗浄液。
【請求項6】
前記洗浄液は、ナンバリングにおける字輪又は回動軸の洗浄に用いることを特徴とする前記請求項1乃至5記載の洗浄液。
【請求項7】
前記洗浄液は、着色染料を含んでいることを特徴とする前記請求項1乃至6記載の洗浄液。
【請求項8】
前記洗浄液は、温度10〜50℃、吐出圧0.2〜7.0MPaの雰囲気の洗浄装置に用いることを特徴とする前記請求項1乃至7記載の洗浄液。