説明

洗濯により消去可能な着色材組成物

【課題】 布、不織布などの繊維集合体に付着した場合に、滲みなどの問題を生ずることなく、簡単な水洗(洗濯)により消去することができる着色材組成物を提供する。
【解決手段】 着色顔料、顔料分散樹脂、常温(25℃)で乾燥後に水消去性能を持つ消去性樹脂及び水を含む着色材組成物であって、
上記消去性樹脂として、鹸化度75〜98mol%、粘度が30.0mPa・sec(4%水溶液、20℃)以下のポリビニルアルコールを10重量%以上含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、墨汁、絵具、マーキングペン用インキ等として用いることができる着色材組成物に関する。さらに詳細には、紙に塗布した場合、高湿度下で滲みを生じることなく、また布、不織布などの繊維集合体に付着した場合に、簡単な水洗(洗濯)により消去することができる着色材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の墨汁は、衣服などの繊維に付着した場合、乾燥すると洗濯で消去することは困難であった。一方、現在洗濯で消去できる墨汁が提案されている。
【特許文献1】特開平9−316379
【特許文献2】特開平10−7957
【0003】
しかし、これらの着色材組成物は染料を使用したものであり、その構成要素から紙に塗布した場合、高湿度下での滲みの問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、紙に塗布した場合、高湿度下で滲みを生じることなく、また布、不織布などの繊維集合体に付着した場合に、簡単な水洗(洗濯)により消去することができる着色材組成物を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、着色顔料、顔料分散樹脂、常温(25℃)で乾燥後に水消去性能を持つ消去性樹脂及び水を含む着色材組成物であって、
上記消去性樹脂として、鹸化度75〜98mol%、粘度が30.0mPa・sec(4%水溶液、20℃)以下のポリビニルアルコールを10重量%以上含む、洗濯により消去可能な着色材組成物である。
【0006】
また本発明は、着色顔料、顔料分散樹脂と水を少なくとも配合し分散して顔料分散体を得た後、この顔料分散体に、鹸化度75〜98mol%、粘度が30.0mPa・sec(4%水溶液、20℃)以下のポリビニルアルコールを10重量%以上含む消去性樹脂水溶液を添加することを特徴とする、洗濯により消去可能な着色材組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
これにより、染料を用いていないので高湿度下での滲みなどの問題が生ずることがなくなって衣服などの繊維に上記着色材組成物が付着しても、洗濯による消去性が向上する。
従って、墨汁、サインペン用インキ、マーキングペン用インキなどの粘度が200mPa・s以下の着色材組成物のほか、高粘度の絵の具等の着色材組成物に適用して、洗濯により消去可能な着色材組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<着色顔料>
本発明で用いられる着色顔料は、粒径が細かく、着色効果を有することが求められる。具体的には粒径0.05〜0.5μmの顔料が好ましい。例えば、カーボンブラック、アニリンブラック、鉄黒、モノアゾ、アンスラキノン、キナクリドン、フタロシアニン、群青、紺青、アンスラキノンを用いることができる。
【0009】
着色顔料の配合量は、着色材組成物全量に対して1〜10重量%、好ましくは2〜7重量%である。着色顔料が着色材組成物全量に対して1重量%未満の場合は、発色が低下する。着色顔料が着色材組成物全量に対して10重量%を越える場合は、粘度が上がって筆記や描画し難くなるほか、繊維に付着した後落ちにくくなる。
【0010】
<水消去性樹脂>
本発明では、後添加樹脂として水消去性樹脂を用いる。そして、常温(25℃)で乾燥後に水に対する溶解性が高く、粘度がある程度低い水消去性能を持つ水溶性樹脂を用いることが重要である。この水消去性樹脂としては、鹸化度75mol%以上〜98mol%未満、粘度が30.0mPa・sec(4%水溶液、20℃)以下のポリビニルアルコールを用いる。例えば、クラレ社製、商品名「PVA403」を挙げることができる。鹸化度75mol%以上〜98mol%未満、好ましくは78mol%以上〜82mol%未満、粘度が30.0mPa・sec(4%水溶液、20℃)以下、好ましくは10mPa・sec(4%水溶液、20℃)以下、及び2mPa・sec(4%水溶液、20℃)以上のポリビニルアルコールを用いることにより、適度な粘性を保って使用感が良好でありながら、洗濯による水消去性が良好な着色材組成物を提供することができる。鹸化度75mol%未満では、粘度が高くなりすぎて使用感が低下する。鹸化度98mol%を超えると、常温(25℃)で乾燥した塗膜塗膜に対し洗濯による水消去性が不十分である。また、粘度が30.0mPa・sec(4%水溶液、20℃)を超えても、粘度が高くなりすぎて使用感が低下する。
【0011】
一方、本発明で用いる上記ポリビニルアルコールは重合度100〜600、好ましくは350〜450のものを用いることが好ましい。このポリビニルアルコールは、着色材組成物全量に対して10重量%を超え〜27重量%未満、好ましくは12重量%以上〜26重量%以下含有する。このポリビニルアルコールが10重量%以下では、洗濯による水消去性が低下し、27重量%以上では粘度が高くなり、使用感が低下する。
【0012】
<顔料分散樹脂>
前記顔料を分散させる顔料分散樹脂としては、水に溶解可能で、着色顔料を顔料分散体として分散させ、かつ分散安定性に優れる水溶性樹脂を含有することが好ましい。具体的には、カルボキシメチルセルロース、アラビヤガム、デキストリン、スチレンアクリル共重合体、スチレンマレイン酸共重合体、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコールを例示することができ、スチレンアクリル共重合体、スチレンマレイン酸共重合体、エチレンマレイン酸共重合体、ポリビニルアルコールが好適に用いられる。なお、顔料分散樹脂としてポリビニルアルコールを用いる場合は前記後添加する水消去性樹脂と異なり格別限定されず、顔料を分散し且つ前記の通りの水溶性樹脂であれば採用することができる。
【0013】
この着色顔料は、この顔料分散樹脂と水とを含む顔料分散体として用いることができる。この顔料分散樹脂の配合量は、着色材組成物全量に対して0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜1.5重量%である。この顔料分散樹脂が0.1重量%未満であれば、経時で顔料の凝集が起こりやすくなり、10重量%を超えると、顔料分散時にゲル化し易くなる。
【0014】
この顔料分散樹脂としては酸価110〜220の樹脂、好ましくは酸価210〜220の樹脂を好適に用いることができる。例えば、酸価が110〜220、好ましくは酸価210〜220である、スチレンアクリル共重合体、スチレンマレイン酸共重合体、エチレンマレイン酸共重合体などを挙げることができる。そして、前記着色顔料Pと前記顔料分散樹脂及び水消去性樹脂から構成される水溶性樹脂Rとの重量比(P/R比)が1/1〜1/30とすることにより、着色顔料含有の着色材組成物において洗濯消去性を更に向上することが可能となる。なお、酸価は常法による測定される。
【0015】
また前記着色顔料Pと前記顔料分散樹脂Aの重量比(P/A比)は10/1〜1.5/1、好ましくは5/1〜2/1の配合比とすることにより、着色顔料含有の着色材組成物において洗濯消去性を更に向上することが可能となる。
<その他>
【0016】
また、本発明では、更に加えて、前記分散された着色顔料の顔料分散体に洗濯消去性を向上させる水溶性樹脂Bとして、特に酸価が200〜260、好ましくは200〜240の水溶性樹脂を好適に用いることができる。例えば、酸価が200〜260、好ましくは200〜240である、スチレンアクリル共重合体、スチレンマレイン酸共重合体、エチレンマレイン酸共重合体を挙げることができる。
【0017】
前記水溶性樹脂Bは、着色材組成物全量に対して好ましくは1〜30重量%、より好ましくは10〜25重量%含有する。
【0018】
このように、前記特定のポリビニルアルコールに加えて、酸価110〜220の樹脂で着色顔料を分散し、酸価200〜260の樹脂Bで水溶性を増大させることにより、着色顔料含有の着色材組成物において洗濯消去性をさらに一層向上することが可能となる。
【0019】
なお、前記水溶性樹脂樹脂Bと前記顔料分散体樹脂Aの重量比(B/A)は0.9〜30が好ましい。このような範囲とすることにより、着色顔料が分散される樹脂Aと、水により洗濯消去性を発現する樹脂Bとの相乗作用を一層発揮することができる。
【0020】
また、水による洗濯消去性を更に増大させるために、前記水溶性樹脂、特にカルボン酸を有する水溶性樹脂Bを加える場合、これが水に溶解し、アルカリ性を呈し、中和したこれらの樹脂が塗布又は筆記して乾燥した後でも水に溶解する中和剤を含ませることが好ましい。具体的には、スチレンアクリル共重合体、スチレンマレイン酸共重合体、エチレンマレイン酸共重合体の群から選ばれる水溶性樹脂Bである場合、上記中和剤を含ませることが好ましい。中和剤としては、無機塩類、アルカノールアミン類、アルキルアミン類及びジアミン類の群から選ばれる。無機塩類としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられ、アルカノールアミン類としてはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソパノールアミン、トリイソパノールアミンなどが挙げられ、ジアミン類としてはエチレンジアミン、プロピレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンが挙げられる。特に、上記アルキルアミン類、無機塩類が中和した前記樹脂が乾燥した後でも、水による消去性が高く好ましい。なお、中和剤としてアンモニアを用いると、塗膜又は筆跡の乾燥の際、アンモニアが揮発するため、洗濯消去性が低下しやすい。
【0021】
前記中和剤は、着色材組成物全量に対して0.1〜20重量%、好ましくは1.0〜15重量%含有する。
その他必要に応じて、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール等の多価アルコールや、防腐防黴剤を添加しても良い。
【0022】
なお、本発明の着色材組成物は、着色顔料、顔料分散体樹脂と水を少なくとも配合し分散してまず顔料分散体を得た後、この顔料分散体に後添加で前記特定のポリビニルアルコールの水溶液を添加することによって得ることができる。また、前記その他の水溶性樹脂をさらに加える場合は、前記特定のポリビニルアルコールの水溶液とともに後添加して得ることができる。
【実施例】
【0023】
表1に示す組成にて、着色顔料、顔料分散樹脂及び水を含む顔料分散体、PVA及び水を含む樹脂液、水、必要に応じて顔料濡れ剤を配合し、ビーズミル(ダイノーミル:シンマルエンタープライゼス社製)にて1時間分散を行う。次に、この顔料分散体にポリビニルアルコールの水溶液を添加し30分攪拌して、墨汁の着色材組成物を得る。これらについて、鹸化度及び粘度を測定した。試験サンプル数はn=3である。
【0024】
【表1】

【0025】
(表注)
1)商品名:Monarch800(カーボンブラック/CABOT社製) 20重量%、PVA403(クラレ社製) 4重量%、残部が水の顔料分散体
2)商品名:Monarch800(カーボンブラック/CABOT社製):20重量%、Joncry1678(ジョンソンポリマー社製) 4重量%、樹脂中和剤(水酸化ナトリウム) 0.5重量%、残部が水の顔料分散体
3)商品名:シムラファーストレッド4127(P.R.267/大日本インキ社製) 20重量%、PVA403(クラレ社製) 4重量%、残部が水の顔料分散体
4)商品名:ファーストゲンブルーTGR(P.B.15:3/大日本インキ社製)20重量%、PVA403(クラレ社製) 4重量%、残部が水の顔料分散体
5)PVA403(PVA/クラレ社製)の30重量%水溶液
6)B−17(PVA/デンカ社製)の20重量%水溶液
7)C−500(PVA/日本合成社製)の20重量%水溶液
8)PVA105(PVA/クラレ社製)の30重量%水溶液
9)B−33(PVA/デンカ社製)の20重量%水溶液
10)前記1)〜4)の顔料分散体中の顔料の含有量
11)前記5)〜9)のPVA樹脂液において鹸化度98mol%未満のPVAの配合量
12)前記5)〜9)のPVA樹脂液において鹸化度98mol%以上のPVAの配合量
【0026】
<鹸化度の測定方法>
上記実施例及び比較例を含め、本発明における鹸化度はJIS K 6726に準拠して測定した。
【0027】
<粘度の測定方法>
上記実施例及び比較例を含め、本発明における粘度はJIS K 6726に準拠して測定した。
【0028】
次に、綿ブロード(晒)の試験布に水を含まない画筆(平筆4号)を用いて、この各試験サンプルの墨汁組成物を塗布し、室温で指触乾燥するまでそれぞれ放置した。その後、乾燥後の各試験サンプルを洗濯機でpHが弱アルカリ性の合成洗剤を使用して(洗濯槽の水量に対して0.2重量%)20℃で15分間洗濯し、15分間水洗した。乾燥後に各試験サンプルを目視で観察し、評価した。
【0029】
<消去性評価>
○が合格、△×が不合格である。
○:汚れが除去されている。
△:色、筆跡がはっきりわかる。
×:全く落ちない。
【0030】
<書き味評価>
○が合格、△×が不合格である。
○:非常になめらかである。
△:もたつきがある。
×:もたつきがひどく、ほとんど書けない。
【0031】
表1より、本実施例の着色材組成物であれば、染料を用いていないので高湿度下での滲みなどの問題が生ずることなく、誤って衣服などの繊維に上記着色材組成物が付着しても、洗濯による消去性が向上する。また、書き味も良好である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の着色材組成物は、墨汁(墨液)、絵具のほか、マーキングペン用インキ等の水性インキ組成物として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色顔料、顔料分散樹脂、常温(25℃)で乾燥後に水消去性能を持つ消去性樹脂及び水を含む着色材組成物であって、
上記消去性樹脂として、鹸化度75〜98mol%、粘度が30.0mPa・sec(4%水溶液、20℃)以下のポリビニルアルコールを10重量%以上含む、洗濯により消去可能な着色材組成物。
【請求項2】
前記顔料分散樹脂が水溶性樹脂を含む、請求項1記載の着色材組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の着色材組成物で構成された墨汁。
【請求項4】
請求項1又は2記載の色材組成物で構成された水性インキ組成物。
【請求項5】
着色顔料、顔料分散樹脂と水を少なくとも配合し分散して顔料分散体を得た後、この顔料分散体に、鹸化度75〜98mol%、粘度が30.0mPa・sec(4%水溶液、20℃)以下のポリビニルアルコールを10重量%以上含む消去性樹脂水溶液を添加することを特徴とする、洗濯により消去可能な着色材組成物の製造方法。




【公開番号】特開2007−23212(P2007−23212A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209771(P2005−209771)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】