説明

津波防災構造物

【課題】沿岸部における防護すべき地域、例えば港湾などへ進入する津波エネルギーを低減するとともに、景観にも影響を与えない津波防災構造物を提供することである。
【解決手段】津波防災構造物1は、沿岸部2の防護すべき地域3の沖合を除く海底5に沿岸部2に沿って人工浅瀬4を築造したことである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は津波防災構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
津波災害を軽減する津波防災構造物としては防波堤、防潮堤、津波高潮水門、陸閘および胸壁などが各地で構築されている。これらの構造物は津波を前面で反射することにより沿岸域に進入する津波のエネルギーを低減している。また最新の発明としては、例えば、特開2003−227125号公報および特開2003−253654号公報がある。
【特許文献1】特開2003−227125号公報
【特許文献2】特開2003−253654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、津波は周期(第1波と第2波の時間間隔)が数分から数十分前後と長いため(長波)、防波堤などの開口部からの進入を防ぐのは不可能である。また水深が浅くなると津波の高さが急激に高くなるため(浅水変形)、上記の津波防災構造物が大断面になって大型化する。さらに港湾の開口部への防波堤建設は湾内に環境負荷を生じさせて、景観にも悪い影響を与えるという問題があった。
【0004】
本願発明は上記のような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は沿岸部における防護すべき地域、例えば港湾などへ進入する津波エネルギーを低減するとともに、景観にも影響を与えない津波防災構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するための津波防災構造物は、沿岸部の防護すべき地域の沖合を除く海底に沿岸部に沿って人工浅瀬を築造して、水深の浅い海域部と水深の深い海域部とを形成したことを特徴とする。また人工浅瀬は捨て石または浚渫土によって形成されたマウンドであることを含むものである。
【発明の効果】
【0006】
津波が水深の変化によって屈折する性質を利用して、防護すべき対象地域外へ津波を屈折させることにより、そこへの津波の進入が緩和される。その結果、防護対象地域岸際における津波防災構造物(防波堤、防潮堤、津波高潮水門、陸閘および胸壁)を小断面にすることができる。また人工浅瀬を海底に水没させて築造したことにより、景観への悪影響を避けることができる。また人工浅瀬が捨て石または浚渫土などのマウンドであるので築造が簡単にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本願発明の津波防災構造物の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。この津波防災構造物は沿岸部における防護すべき地域の沖合の海底に浅瀬を築造して水深を変化させることにより、津波の進行方向を変えて、港湾などの防護すべき地域へ進入する津波エネルギーを低減するものである。
【0008】
津波は周期が数分から数十分前後と長く、波長も数キロから数百キロと長くなるため、水深によって速度が異なり、水深が深くなれば速く、浅くなるつれて遅くなるという性質がある。したがって、同じ海域に水深の異なる箇所、すなわち浅い海域部と深い海域部が形成されると、津波は浅い海域部ほど速度が遅くなるため、浅い海域部を巻き込むような方向に進行が曲げられる(屈折される)。本願発明の津波防災構造物は、このような津波の屈折を利用したものである。
【0009】
津波防災構造物1は、図1に示すように、沿岸部2の防護すべき地域3の沖合を除く海底に沿岸部2に沿った人工浅瀬4を築造して構成されている。この防護すべき地域3とは沿岸部2における港湾や人の居住地域などであり、この沖合における水深を変えることにより津波の進行方向を変えて、ここへの進入を緩和させようとするものである。
【0010】
この水深を変える人工浅瀬4として、捨て石または浚渫土を海底5に投入して台形のマウンド6を築造する。この台形のマウンド6は、図2に示すように、捨て石7で形成した外枠8の内側に浚渫土9などを充填したものであり、港湾などの防護すべき地域3の前面における沖合に水深の深い海域を残した状態、すなわち水深の深い海域を適宜幅確保した状態で、沿岸部2に沿って築造されている。
【0011】
したがって、この人工浅瀬4によって防護すべき地域3の沖合に水深の浅い海域部10と水深の深い海域部11とが形成され、この水深の深い海域部11が防護すべき地域3の前面に形成され、この両側に水深の浅い海域部10が形成される。これは台形のマウンド6を横方向(長さ方向)に適宜間隔をもって築造することによって、防護すべき地域3の前面に水深の深い海域部11が形成されるものである。すなわち防護すべき地域3と対向する沖合に適宜幅の水深の深い海域部11を形成するために、適宜間隙部19をもって水深の浅い海域部10を沿岸部2に沿って形成したものである。この台形のマウンド6は水深の深い海域部11を挟んだ状態で、その両側に前後2本(合計4本)形成されているが、この数は人工浅瀬4の規模によって決定されるため、これ以下またはこれ以上であってもよい。またマウンド6は沿岸部2と平行または平行でなくてもよく、一方の方向に傾斜した状態で形成してもよい。例えば、マウンド6の水深の深い海域部11と反対側の端部を沿岸部2から離して設けるか(平面ハ字形)、これとは反対に沿岸部2に近づけて設ける(平面逆ハ字形)こともできる。
【0012】
このように沿岸部2における防護すべき地域3の沖合の海域に、人工浅瀬によって水深の深い海域部11と水深の浅い海域部10とを形成したことにより、ここに進行した津波12は水深の浅い海域部10ほど遅く進んで、水深の浅い海域部10を巻き込むような方向に曲げられるため(屈折)、防護すべき地域3へ進入する津波エネルギーを低減することができる。すなわち、水深の深い海域部11における津波12は、図面において、右側の人工浅瀬4により右側に曲げられるとともに、左側の人工浅瀬4により左側に曲げられるので、防護すべき地域3への津波12の進入が緩和される。したがって、この津波防災構造物1と、従来の沿岸防災施設とを組み合わせることによって津波12の防災を効果的に行うことができる。
【0013】
次に、本願発明の効果を確認するために計算例による検証をおこなった。
〔計算地形〕
図3に示すように、一様な水深15mの直線海岸13に2km四方の正方形湾14を配置する。この正方形湾14内への津波15の進入を緩和させるために、人工浅瀬16を構成するマウンド17を直線海岸13に沿って前後に2本配置し、このマウンド17間に水深の深い海域部18を形成するための間隙部19を形成する。すなわちこの間隙部19の両側に前後2本のマウンド17を配置し、正方形湾14の前方で正方形湾と対向する位置に間隙部19が形成される。また検討は人工浅瀬16の水深を5m,7.5mおよび10mとしたケースについて行った。
【0014】
〔計算例〕
周期が10分で、波高1mの津波(正弦波)15を沖合から直線海岸13に向けて入射させる。この計算は非線形長波式による数値解析で行う。また計算格子間隔は50mで、計算時間は50分間である。
【0015】
〔計算結果〕
図4に水深5mの人工浅瀬16を設置した場合と、設置しない場合の最大水位の比を示す。また図4中のP地点(正方形湾内)における人工浅瀬設置の水深別(水深5mの人工浅瀬を設置した場合と、設置しない場合)の水位変動時系列を図5に示す。この結果、図5から防護すべき正方形湾14内における津波15の最大水位が、人工浅瀬16の設置によって最大65%程度まで減衰していることがわかり、本願発明の効果を確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】津波防災構造物の平面図である。
【図2】台形のマウンドであり、(1)は断面図、(2)は斜視図である。
【図3】計算地形の平面図である。
【図4】水深5mの人工浅瀬を設置した場合としない場合の最大水位差を示す図である。
【図5】P地点における人工浅瀬設置の水深別の水位変動時系列を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0017】
1 津波防災構造物
2 沿岸部
3 防護すべき地域
4、16 人工浅瀬
5 海底
6、17 マウンド
7 捨て石
8 外枠
9 浚渫土
10 水深の浅い海域部
11、18 水深の深い海域部
12、15 津波
13 直線海岸
14 正方形湾
19 間隙部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
沿岸部の防護すべき地域の沖合を除く海底に沿岸部に沿って人工浅瀬を築造して、水深の浅い海域部と水深の深い海域部とを形成したことを特徴とする津波防災構造物。
【請求項2】
人工浅瀬は捨て石または浚渫土によって形成されたマウンドであることを特徴とする請求項1に記載の津波防災構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−106433(P2008−106433A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287319(P2006−287319)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】