津波高潮減災構造物
【課題】駆動装置や人的操作を必要とせず、津波や高潮の際の災害を抑制することのできる津波高潮減災構造物を提供する。
【解決手段】本津波高潮減災構造物1は、内部に遊水室2としての空間を有すると共に波浪と対向する前壁6に開口部7が形成される本体部3と、該本体部3の天端に設けた、波浪と対向するように起伏自在に構成される起伏天端壁部5とから構成されるので、駆動装置や人的操作を必要とせず、津波や高潮の際の災害を抑制することができる。
【解決手段】本津波高潮減災構造物1は、内部に遊水室2としての空間を有すると共に波浪と対向する前壁6に開口部7が形成される本体部3と、該本体部3の天端に設けた、波浪と対向するように起伏自在に構成される起伏天端壁部5とから構成されるので、駆動装置や人的操作を必要とせず、津波や高潮の際の災害を抑制することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波や高潮による災害を抑制するための津波高潮減災構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な防潮壁や胸壁は、図16に示すように、沿岸100の陸域を分離する壁体50として構成される。しかしながら、該壁体50が陸域全体の有効活用の妨げとなる。また、該壁体50により、沿岸100から海域への視界が妨げられ、景観価値の低下を招く。これらを対策するために、平常時には壁体50を倒伏させ、津波や高潮等の有事の際だけ壁体50を起立させる手段を構築しようとすると、該壁体50を動作させるための駆動装置や人的な操作が必要となる。しかも、駆動装置を採用した場合に駆動させるための電力も必要になり、また、津波や高潮等の有事の際に人的操作のために沿岸に人が近付くことは危険であり改善する必要がある。
【0003】
そこで、特許文献1には、高潮などによる災害を防止するための施設であって、陸上に設置した支柱と、支柱に支点を介して回動自在に取り付けた屋根兼止水面体と、支柱の支点を中心に屋根兼止水面体を回転させる回転力付与装置とで構成し、屋根兼止水面体を、支点を中心に回転させて高潮の来る方向に向けて設置し得るように構成した防潮施設が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−224598
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の防潮施設に係る発明では、沿岸の陸域を有効活用することはできるが、屋根兼止水面体を回転させる回転力付与装置を駆動させるための電力や人的な操作が必要になり上述の問題を解決することはできない。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、駆動装置や人的操作を必要とせず、津波や高潮の際の災害を抑制することのできる津波高潮減災構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明は、海域または沿岸に設置される津波高潮減災構造物であって、該津波高潮減災構造物は、内部に遊水室としての空間を有すると共に波浪と対向する壁部に開口部が形成される本体部と、該本体部の天端に設けた、波浪と対向するように起伏自在に構成される起伏天端壁部と、から構成されることを特徴とするものである。
請求項1の発明では、平常時には起伏天端壁部の倒伏状態が維持され、一方、津波や高潮等の有事の際には本体部の遊水室内からの波力(水圧)及び空気圧により起伏天端壁部が起立されつつ、該起伏天端壁部が最大の起立状態になると、起伏天端壁部により陸域への波の到達を抑制することができる。
【0008】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明において、前記起伏天端壁部の起立位置を規制する規制手段を設けることを特徴とするものである。
請求項2の発明では、規制手段により起伏天端壁部の起立状態を維持できるので、陸域への波の到達を抑制することができる。
【0009】
請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載した発明において、前記起伏天端壁部の倒伏速度を制御する制御手段を設けることを特徴とするものである。
請求項3の発明では、起伏天端壁部が起伏状態から倒伏状態に移る際、起伏天端壁部と本体部との衝撃を抑えることができる。
【0010】
請求項4に記載した発明は、請求項1〜3のいずれかに記載した発明において、前記起伏天端壁部と前記本体部との間には、平常時、両者間の密閉性を確保する密閉手段が設けられることを特徴とするものである。
請求項4の発明では、津波や高潮等の高波浪による遊水室内の空気圧の上昇に伴って、起伏天端壁部の起立反応が良くなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の津波高潮減災構造物に係る発明によれば、平常時には起伏天端壁部の倒伏状態が維持されているので、例えば、本津波高潮減災構造物が沿岸に沿って設置された場合、沿岸の陸域全体及び起伏天端壁部上が有効に活用でき、沿岸部から海域への視界が良好となり景観価値も向上する。また、津波や高潮等の有事の際には本体部内の遊水室からの波力及び空気圧により起伏天端壁部が起立され、該起立状態の起伏天端壁部により陸域への波の到達を抑制することができ、災害を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る津波高潮減災構造物の概略断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態に係る津波高潮減災構造物の概略斜視図である。
【図3】図3は、本津波高潮減災構造物のヒンジ部の概略斜視図である。
【図4】図4は、本津波高潮減災構造物の密閉手段の概略斜視図である。
【図5】図5は、本津波高潮減災構造物の第1の実施形態に係る規制手段の模式図である。
【図6】図6は、本津波高潮減災構造物の第2の実施形態に係る規制手段の模式図である。
【図7】図7は、本津波高潮減災構造物の第3の実施形態に係る規制手段の模式図である。
【図8】図8は、本津波高潮減災構造物の第4の実施形態に係る規制手段の模式図である。
【図9】図9は、本津波高潮減災構造物の第1の実施形態に係る制御手段の模式図である。
【図10】図10は、本津波高潮減災構造物の第2の実施形態に係る制御手段の模式図である。
【図11】図11は、本津波高潮減災構造物の動作を段階的に示したものである。
【図12】図12は、本津波高潮減災構造物の実験データを示す。
【図13】図13は、本津波高潮減災構造物の実験データを示す。
【図14】図14は、図1に示す本津波高潮減災構造物の他の実施形態の要部拡大図である。
【図15】図15は、本津波高潮減災構造物が海域に設置された状態の概略断面図である。
【図16】図16は、従来の防潮壁や胸壁としての壁体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を図1〜図15に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係る津波高潮減災構造物1は、図1及び図2に示すように、内部に遊水室2としての空間を有する本体部3と、該本体部3の天端に、ヒンジ部4を介して起伏自在に設けられた起伏天端壁部5とから構成される。図1には、本津波高潮減災構造物1が沿岸100に沿って設置された状態を示す。詳しくは、図1に示すように、沿岸100付近の海底から沿岸100の内部に亘って設けられた台形状の基礎マウンド15上にコンクリート製基礎ベース板16を配設し、該基礎ベース板16上に本津波高潮減災構造物1が設置される。以下、説明の便宜上、海側を前側として、陸側を後側として説明する。
【0014】
本体部3は、図1及び図2に示すように、直方体で内部に遊水室2としての空間を有する箱状に形成される。該本体部3の、波浪と対向する前壁6には矩形状の開口部7が設けられる。該開口部7は、前壁6の下部に形成される。該開口部7の幅方向の長さは、前壁6の全幅(沿岸100に沿う長さ)に相当する幅長を有し、その高さは本体部3の全高に対して略半分の高さであるが、開口部7の高さは本実施形態に限定されることはない。そして、本体部3はその後壁8が沿岸100に当接するように配置される。なお、本体部3の底壁9はコンクリート製箱体内に中詰材17が中詰されたブロック状に構成される。
【0015】
本体部3の天端全域には、該本体部3の後壁8の上端部に設けたヒンジ部4を支点に起伏自在に構成される起伏天端壁部5が設けられる。該起伏天端壁部5がヒンジ部4を支点に起立されると、該起伏天端壁部5は波浪と対向するようになる。該起伏天端壁部5は、板状で本体部3の天端開口を開閉すべく略矩形状に形成される。また、起伏天端壁部5は、本実施の形態では、図4に示すように、外枠がH鋼等の鋼材10により補強されると共に内部にコンクリート11が打設されて形成されるが、所望の強度が確保されればこの形態に限定されることはない。
【0016】
ヒンジ部4は、図3に示すように、本体部3の後壁8の上端に間隔を置いて備えた複数のU字状係止部12と、起伏天端壁部5の後端部に設けた幅方向に延びる貫通孔13と、起伏天端壁部5の貫通孔13及び本体部3に備えたU字状係止部12に挿通される鋼製シャフト14とからなる。なお、起伏天端壁部5の後端部には、本体部3に備えた各U字状係止部12が係合される係合凹部20が各U字状係止部12に対応する位置にそれぞれ形成される。該各係合凹部20に隣接する各凸部21に幅方向に延びる貫通孔13が形成される。なお、本実施の形態では、ヒンジ部4の構成として鋼製シャフト14が採用されているが、所望の強度が確保されればこの形態に限定されることはない。
【0017】
そして、起伏天端壁部5の後端部に設けた各係合凹部20を、本体部3の後壁8の上端に備えた各U字状係止部12に係合させて、起伏天端壁部5の各係合凹部20に隣接する各凸部21に設けた幅方向に延びる貫通孔13と、本体部3に備えた各U字状係止部12とに鋼製シャフト14を挿通する。この結果、起伏天端壁部5は本体部3の後壁8の上端においてシャフト14を支点に(ヒンジ部4を支点に)回動することができる。なお、ヒンジ部4には、該ヒンジ部4を覆うようにゴム製マットカバー22が貼り付けられる。該マットカバー22により、起伏天端壁部5が起立した際に、ヒンジ部4からの漏水を抑制することができる。
なお、各U字状係止部12は起伏天端壁部5の上面から突出しないように工夫する必要がある。これにより、起伏天端壁部5の上面を有効に活用することができる。
【0018】
図4に示すように、起伏天端壁部5と、本体部3の前壁6及び各側壁23、23の上面との間には、両者間の密閉性を確保するための密閉手段24が設けられる。
該密閉手段24は、起伏天端壁部5側に設けられる合成ゴム等の円筒状弾性部材25と、本体部3の前壁6及び各側壁23、23側に設けられる合成ゴム等のブロック状弾性部材26とから構成される。円筒状弾性部材25は起伏天端壁部5の外枠の内側下面で、本体部3の前壁6及び各側壁23、23の上面が当接される範囲に垂設される。一方、ブロック状弾性部材26は、本体部3の前壁6及び各側壁23、23の上面に設けた凹部27内に設けられる。なお、ブロック状弾性部材26は断面矩形状で直線状に延び、その上面には、起伏天端壁部5側に備えられた円筒状弾性部材25が係合する係合凹部28が全長に亘って形成される。
【0019】
そして、起伏天端壁部5が本体部3の前壁6及び各側壁23、23の上面に倒伏した際には、起伏天端壁部5側に備えた円筒状弾性部材25が、本体部3側に備えたブロック状弾性部材26の係合凹部28の底部を押圧して密着するため、起伏天端壁部5と、本体部3の前壁6及び各側壁23、23の上面との間の密閉性が確保される。
なお、これら起伏天端壁部5側に備えた円筒状弾性部材25と、本体部3側に備えたブロック状弾性部材26とは、起伏天端壁部5が本体部3の前壁6及び各側壁23、23上に倒伏した際の衝撃を抑えるための緩衝手段としても機能する。
【0020】
また、本発明の実施形態に係る津波高潮減災構造物1には、起伏天端壁部5の起立位置を規制する、第1〜第4の実施形態に係る規制手段30a〜30dのいずれかが採用される。以下に第1〜第4の実施形態に係る規制手段30a〜30dを説明する。
まず、第1の実施形態に係る規制手段30aは、図5に示すように、起伏天端壁部5側に一端が固定される第1棒状部材31と、該第1棒状部材31の他端に一端が回動自在に連結されると共に他端が本体部3の側壁23の上部に固定される第2棒状部材32とからなる。そして、起伏天端壁部5は、第1棒状部材31と第2棒状部材32とが連結位置36を支点に互いに近接する方向に移動するときに倒伏状態となり、一方、第1棒状部材31と第2棒状部材32とが直線状に配置されたとき、最大の起立状態となる。なお、これら第1棒状部材31及び第2棒状部材32は、起伏天端壁部5の幅方向両側にそれぞれ設けられる。
【0021】
次に、第2の実施形態に係る規制手段30bは、図6に示すように、ヒンジ部4より後側の位置で、本体部3の側壁23または後壁8の上面にストッパ部材35を備えて構成される。そして、起伏天端壁部5が起立してストッパ部材35に当接することにより、起伏天端壁部5の陸側への倒伏を防ぐことができる。なお、このストッパ部材35は、起伏天端壁部5の幅方向両側に2個設けられる。
【0022】
次に、第3の実施形態に係る規制手段30cは、図7に示すように、第1実施形態に係る規制手段30aに採用された第1棒状部材31及び第2棒状部材32と、これら第1棒状部材31及び第2棒状部材32の連結位置36付近に一端が回動自在に連結される第3棒状部材33とからなる。該第3棒状部材33の他端は、本体部3の側壁23の上部に前後方向に移動可能に支持されている。また、本体部3の側壁23の上部には、第1棒状部材31と第2棒状部材32とが直線状になり、起伏天端壁部5が最大の起立位置に到達した際、第3棒状部材33の他端を移動不可とするロック部(図示略)が形成される。
【0023】
そして、この実施形態では、起伏天端壁部5が最大の起立位置に到達した際には、第3棒状部材33の他端がロック部にてロックされるために、起伏天端壁部5を最大の起立位置で固定することができる。なお、起伏天端壁部5を倒伏させる際には、作業員により第3棒状部材33の他端を本体部3のロック部から取り外して起伏天端壁部5を倒伏させるようにする。これら第1棒状部材31、第2棒状部材32及び第3棒状部材33は、起伏天端壁部5の幅方向両側にそれぞれ設けられる。
【0024】
次に、第4の実施形態に係る規制手段30dは、図8に示すように、第1実施形態に係る規制手段30aに採用された第1棒状部材31及び第2棒状部材32と、起伏天端壁部5側に一端が回動自在に連結される第4棒状部材34とからなる。該第4棒状部材34の他端は、本体部3の側壁23の上部に前後方向に移動可能に支持される。第4棒状部材34の起伏天端壁部5との連結位置は、第1棒状部材31と起伏天端壁部5との連結位置よりも後側に設定される。また、本体部3の側壁23の上部には、第1棒状部材31と第2棒状部材32とが直線状になり、起伏天端壁部5が最大の起立位置に到達した際、第4棒状部材34の他端を移動不可とするロック部(図示略)が形成される。
【0025】
そして、この実施形態では、第3の実施形態に係る規制手段30cと同様に、起伏天端壁部5が最大の起立位置に到達した際には、第4棒状部材34の他端がロック部にてロックされるために、起伏天端壁部5を最大の起立位置で固定することができる。なお、起伏天端壁部5を倒伏させる際には、作業員により第4棒状部材34の他端を本体部3のロック部から取り外して起伏天端壁部5を倒伏させるようにする。これら第1棒状部材31、第2棒状部材32及び第4棒状部材34は、起伏天端壁部5の幅方向両側にそれぞれ設けられる。
【0026】
さらに、本発明の実施形態に係る津波高潮減災構造物1には、起伏天端壁部5の倒伏速度を制御する、第1または第2の実施形態に係る制御手段40a、40bのいずれかを採用することもできる。つまり、第1及び第2の実施形態に係る制御手段40a、40bは必要不可欠なものではなく、必要と判断された場合のみに採用される。以下に第1〜第2の実施形態に係る制御手段40a、40bを説明する。
まず、第1の実施形態に係る制御手段40aは、図9に示すように、本体部3の側壁23の後側上面と起伏天端壁部5の後端部との間に備えたダンパ装置41で構成される。
【0027】
該ダンパ装置41は、例えば、内部に作動液が充填されるシリンダ41aと、該シリンダ41a内を軸方向に摺動して該シリンダ41a内を2室に画成するピストン(図示略)と、該ピストンに一端が連結され、他端がシリンダ41aから突出されるピストンロッド41bと、該ピストンロッド41bの伸び行程時には作動液の2室間の流通に流通抵抗を付与せず、ピストンロッド41bの縮み行程時だけに作動液の2室間の流通に抵抗を付与するバルブ部(図示略)とを備えている。そして、シリンダ41aの底部が本体部3の側壁23の上部に固定されると共に、ピストンロッド41bの先端が起伏天端壁部5の下面に固定される。ダンパ装置41は、起伏天端壁部5の幅方向両側にそれぞれ設けられる。
【0028】
これにより、波力及び空気圧により起伏天端壁部5が起立する際には、起伏天端壁部5には外部から何ら抵抗を受けることなく起立することができるが、波力等が無くなった後起伏天端壁部5が倒伏する際にはダンパ装置41によりその倒伏速度を制御(低減)することが可能になる。
【0029】
次に、第2の実施形態に係る制御手段40bは、図10に示すように、起伏天端壁部5の下面の略全域に配されるフロート42で構成される。該フロート42は断面直角三角状のブロック体からなる。そして、該フロート42は、第1頂部42a(角度θ1:45°以下に設定される)が前側に配置されると共に、長さが斜辺42cの次に長い隣辺42dが起伏天端壁部5の下面に当接するように配される。これにより、フロート42の第2頂部42b(角度θ2:45°〜90°の範囲内で設定される)が海面に最も近接した位置に配置される。
なお、本実施の形態では、起伏天端壁部5の下面の略全域にフロート42を配設したが、幅方向に部分的に配置してもよい。例えば、起伏天端壁部5の幅方向両側に2箇所設けてもよいし、幅方向中央付近に1箇所設けてもよい。
【0030】
そして、波力及び空気圧により起伏天端壁部5が起立する際には、起伏天端壁部5には外部から何ら抵抗を受けることなく起立することができるが、波力等からの作用が無くなった後起伏天端壁部5が倒伏する際にはフロート42の浮力によりその倒伏速度を制御(低減)することが可能になる。また、このフロート42を採用すると、波力及び空気圧が起伏天端壁部5の下面から作用した際、該起伏天端壁部5の起立を速やかに開始させることも可能になる。
【0031】
次に、本発明の実施の形態に係る津波高潮減災構造物1の作用を図11に基づいて説明する。
平常時は、図11(a)に示すように、本津波高潮減災構造物1の起伏天端壁部5の倒伏状態が維持され、密閉手段24により起伏天端壁部5と、本体部3の前壁6及び各側壁23、23の上面との間の密閉性が確保される。
次に、津波や高潮等の高波浪が発生すると、図11(b)に示すように、その波が本体部3の前壁6に設けた開口部7を介して本体部3の遊水室2に流れ込み、波力(水圧)及び空気圧により起伏天端壁部5が跳ね上がり、ヒンジ部4を支点に起立するようになる。この時、起伏天端壁部5と、本体部3の前壁6及び各側壁23、23の上面との間は密閉手段24により密閉性が確保されているので、高波浪による遊水室2内の空気圧の上昇により速やかに起伏天端壁部5が起立動作を開始するようになる。
【0032】
その後、図11(c)に示すように、連続的に波が押し寄せても、起伏天端壁部5は前記第1〜第4実施形態に係る規制手段30a〜30dによりその起立状態が維持されており、波が起立状態の起伏天端壁部5に衝突して海側に戻されるために、波が本体部3から後方(陸側)に流動するのを抑制する。
そして、津波や高潮等の高波浪が治まると、起伏天端壁部5は前記第1または第2制御手段40a、40bにより、その倒伏速度が抑えられながら倒伏して本体部3の前壁6及び各側壁23、23の上面に載置され図11(a)の状態に戻る。
【0033】
図12及び図13に、本津波高潮減災構造物1による実験データを示すが、図12において、点線は、起伏天端壁部5を本体部3に固定した場合の、本体部3の後方(陸側)への時間に対する波の浸水量を示し、実線は、本津波高潮減災構造物1、すなわち、起伏天端壁部5をヒンジ部4を支点に起伏自在に構成した場合の、本体部3の後方への時間に対する波の浸水量を示している。この実験結果から解るように、本津波高潮減災構造物1においては、本体部3から後方へ浸水して水位が上昇する(浸水量が増加する)のに時間を要し、その全浸水量も低減され、減災効果があることが解る。
【0034】
また、図13は、縦軸は、起伏天端壁部5を本体部3に固定した場合に対する、本津波高潮減災構造物1、すなわち、起伏天端壁部5をヒンジ部4を支点に起伏自在に構成した場合の越波量率を示し、横軸は、一般的な港湾構造物の設計に際して越波流量を算定する際に用いられる越波流量推定図に倣って、構造物位置での水深h/換算沖波波高H0’(構造物に到達した波が、十分に水深の深い沖合いではどの程度の波高であったか推定した波高)を示している。この実験結果から解るように、いずれのデータもおおむね越波量率が0〜0.2の範囲に分布しており、本津波高潮減災構造物1によって越波量が低減していることが解る。
【0035】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る津波高潮減災構造物1では、平常時には起伏天端壁部5の倒伏状態が維持されているので、例えば、本津波高潮減災構造物1が図1に示すように、沿岸100に沿って設置された場合、沿岸100の陸域全体及び起伏天端壁部5の上面を有効に活用することができる。しかも、沿岸100には視界を遮るものがないので、沿岸100から海域への視界が良好となり景観価値も向上する。
【0036】
一方、津波や高潮等の有事の際には、本体部3の遊水室2内からの波力(水圧)及び空気圧により起伏天端壁部5が起立され、該起立状態の起伏天端壁部5により陸域への波の到達を抑制することができる。しかも、本津波高潮減災構造物1では起伏天端壁部5を起立させるための駆動装置や人的操作を必要としないので、設置コストから維持管理コストまでのトータルコストを大幅に削減することができる。
【0037】
また、本発明の実施の形態に係る津波高潮減災構造物1には、起伏天端壁部5の倒伏速度を制御する制御手段40a、40bが備えているので、高波浪のあと、起伏天端壁部5が倒伏する際の倒伏速度を低減させることができ、起伏天端壁部5と本体部3との衝突による損傷を抑えることができる。
【0038】
なお、本実施の形態に係る津波高潮減災構造物1では、本体部3の天端全域に起伏天端壁部5が起伏自在に設けられているが、図14に示すように、本体部3の天端に開口部60aを有する天端壁部60を設け、該天端壁部60の開口部60a内にヒンジ部4aを介して起伏自在となる起伏天端壁部5aを設けてもよい。この形態では、起伏天端壁部5aの幅方向両側に鍔部61、61をそれぞれ突設させ、起伏天端壁部5aの各鍔部61、61を含む全幅を本体部3の全幅に一致させるほうがよい。また、起伏天端壁部5aの倒伏時に、起伏天端壁部5aの上面と天端壁部60の上面とが一致するように、天端壁部60の上面には、前記起伏天端壁部5aの両側から延設される鍔部61、61が収容される凹部62、62が形成される。なお、この形態におけるヒンジ部4aの詳細は図示しないが、例えば、ヒンジ部4aは、起伏天端壁部5aの後端に幅方向に延びる貫通孔と、天端壁部60の開口部60aに面する両側の壁部に起伏天端壁部5aの貫通孔と対向するように設けた各貫通孔とに鋼製シャフトを挿入して構成することができる。これにより、起伏天端壁部5aはヒンジ部4aを介して天端壁部60の開口部60aから起伏自在に構成される。
【0039】
また、本発明の実施の形態に係る津波高潮減災構造物1が海域に設置される場合には、図15に示すように、直方体からなるコンクリート製箱体内に中詰材17が中詰された支柱45を海底に設けた基礎マウンド15上の基礎ベース板16の後部上面に設置して、本津波高潮減災構造物1の本体部3の後壁8が支柱45の前面に当接されるように、本津波高潮減災構造物1を基礎ベース板16の上面に設置する。
【符号の説明】
【0040】
1 津波高潮減災構造物,2 遊水室,3 本体部,4、4a ヒンジ部,5、5a 起伏天端壁部,6 前壁(壁部),7 開口部,24 密閉手段,30a〜30d 規制手段,40a、40b 制御手段,100 沿岸
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波や高潮による災害を抑制するための津波高潮減災構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な防潮壁や胸壁は、図16に示すように、沿岸100の陸域を分離する壁体50として構成される。しかしながら、該壁体50が陸域全体の有効活用の妨げとなる。また、該壁体50により、沿岸100から海域への視界が妨げられ、景観価値の低下を招く。これらを対策するために、平常時には壁体50を倒伏させ、津波や高潮等の有事の際だけ壁体50を起立させる手段を構築しようとすると、該壁体50を動作させるための駆動装置や人的な操作が必要となる。しかも、駆動装置を採用した場合に駆動させるための電力も必要になり、また、津波や高潮等の有事の際に人的操作のために沿岸に人が近付くことは危険であり改善する必要がある。
【0003】
そこで、特許文献1には、高潮などによる災害を防止するための施設であって、陸上に設置した支柱と、支柱に支点を介して回動自在に取り付けた屋根兼止水面体と、支柱の支点を中心に屋根兼止水面体を回転させる回転力付与装置とで構成し、屋根兼止水面体を、支点を中心に回転させて高潮の来る方向に向けて設置し得るように構成した防潮施設が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−224598
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の防潮施設に係る発明では、沿岸の陸域を有効活用することはできるが、屋根兼止水面体を回転させる回転力付与装置を駆動させるための電力や人的な操作が必要になり上述の問題を解決することはできない。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、駆動装置や人的操作を必要とせず、津波や高潮の際の災害を抑制することのできる津波高潮減災構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明は、海域または沿岸に設置される津波高潮減災構造物であって、該津波高潮減災構造物は、内部に遊水室としての空間を有すると共に波浪と対向する壁部に開口部が形成される本体部と、該本体部の天端に設けた、波浪と対向するように起伏自在に構成される起伏天端壁部と、から構成されることを特徴とするものである。
請求項1の発明では、平常時には起伏天端壁部の倒伏状態が維持され、一方、津波や高潮等の有事の際には本体部の遊水室内からの波力(水圧)及び空気圧により起伏天端壁部が起立されつつ、該起伏天端壁部が最大の起立状態になると、起伏天端壁部により陸域への波の到達を抑制することができる。
【0008】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明において、前記起伏天端壁部の起立位置を規制する規制手段を設けることを特徴とするものである。
請求項2の発明では、規制手段により起伏天端壁部の起立状態を維持できるので、陸域への波の到達を抑制することができる。
【0009】
請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載した発明において、前記起伏天端壁部の倒伏速度を制御する制御手段を設けることを特徴とするものである。
請求項3の発明では、起伏天端壁部が起伏状態から倒伏状態に移る際、起伏天端壁部と本体部との衝撃を抑えることができる。
【0010】
請求項4に記載した発明は、請求項1〜3のいずれかに記載した発明において、前記起伏天端壁部と前記本体部との間には、平常時、両者間の密閉性を確保する密閉手段が設けられることを特徴とするものである。
請求項4の発明では、津波や高潮等の高波浪による遊水室内の空気圧の上昇に伴って、起伏天端壁部の起立反応が良くなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の津波高潮減災構造物に係る発明によれば、平常時には起伏天端壁部の倒伏状態が維持されているので、例えば、本津波高潮減災構造物が沿岸に沿って設置された場合、沿岸の陸域全体及び起伏天端壁部上が有効に活用でき、沿岸部から海域への視界が良好となり景観価値も向上する。また、津波や高潮等の有事の際には本体部内の遊水室からの波力及び空気圧により起伏天端壁部が起立され、該起立状態の起伏天端壁部により陸域への波の到達を抑制することができ、災害を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る津波高潮減災構造物の概略断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態に係る津波高潮減災構造物の概略斜視図である。
【図3】図3は、本津波高潮減災構造物のヒンジ部の概略斜視図である。
【図4】図4は、本津波高潮減災構造物の密閉手段の概略斜視図である。
【図5】図5は、本津波高潮減災構造物の第1の実施形態に係る規制手段の模式図である。
【図6】図6は、本津波高潮減災構造物の第2の実施形態に係る規制手段の模式図である。
【図7】図7は、本津波高潮減災構造物の第3の実施形態に係る規制手段の模式図である。
【図8】図8は、本津波高潮減災構造物の第4の実施形態に係る規制手段の模式図である。
【図9】図9は、本津波高潮減災構造物の第1の実施形態に係る制御手段の模式図である。
【図10】図10は、本津波高潮減災構造物の第2の実施形態に係る制御手段の模式図である。
【図11】図11は、本津波高潮減災構造物の動作を段階的に示したものである。
【図12】図12は、本津波高潮減災構造物の実験データを示す。
【図13】図13は、本津波高潮減災構造物の実験データを示す。
【図14】図14は、図1に示す本津波高潮減災構造物の他の実施形態の要部拡大図である。
【図15】図15は、本津波高潮減災構造物が海域に設置された状態の概略断面図である。
【図16】図16は、従来の防潮壁や胸壁としての壁体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を図1〜図15に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係る津波高潮減災構造物1は、図1及び図2に示すように、内部に遊水室2としての空間を有する本体部3と、該本体部3の天端に、ヒンジ部4を介して起伏自在に設けられた起伏天端壁部5とから構成される。図1には、本津波高潮減災構造物1が沿岸100に沿って設置された状態を示す。詳しくは、図1に示すように、沿岸100付近の海底から沿岸100の内部に亘って設けられた台形状の基礎マウンド15上にコンクリート製基礎ベース板16を配設し、該基礎ベース板16上に本津波高潮減災構造物1が設置される。以下、説明の便宜上、海側を前側として、陸側を後側として説明する。
【0014】
本体部3は、図1及び図2に示すように、直方体で内部に遊水室2としての空間を有する箱状に形成される。該本体部3の、波浪と対向する前壁6には矩形状の開口部7が設けられる。該開口部7は、前壁6の下部に形成される。該開口部7の幅方向の長さは、前壁6の全幅(沿岸100に沿う長さ)に相当する幅長を有し、その高さは本体部3の全高に対して略半分の高さであるが、開口部7の高さは本実施形態に限定されることはない。そして、本体部3はその後壁8が沿岸100に当接するように配置される。なお、本体部3の底壁9はコンクリート製箱体内に中詰材17が中詰されたブロック状に構成される。
【0015】
本体部3の天端全域には、該本体部3の後壁8の上端部に設けたヒンジ部4を支点に起伏自在に構成される起伏天端壁部5が設けられる。該起伏天端壁部5がヒンジ部4を支点に起立されると、該起伏天端壁部5は波浪と対向するようになる。該起伏天端壁部5は、板状で本体部3の天端開口を開閉すべく略矩形状に形成される。また、起伏天端壁部5は、本実施の形態では、図4に示すように、外枠がH鋼等の鋼材10により補強されると共に内部にコンクリート11が打設されて形成されるが、所望の強度が確保されればこの形態に限定されることはない。
【0016】
ヒンジ部4は、図3に示すように、本体部3の後壁8の上端に間隔を置いて備えた複数のU字状係止部12と、起伏天端壁部5の後端部に設けた幅方向に延びる貫通孔13と、起伏天端壁部5の貫通孔13及び本体部3に備えたU字状係止部12に挿通される鋼製シャフト14とからなる。なお、起伏天端壁部5の後端部には、本体部3に備えた各U字状係止部12が係合される係合凹部20が各U字状係止部12に対応する位置にそれぞれ形成される。該各係合凹部20に隣接する各凸部21に幅方向に延びる貫通孔13が形成される。なお、本実施の形態では、ヒンジ部4の構成として鋼製シャフト14が採用されているが、所望の強度が確保されればこの形態に限定されることはない。
【0017】
そして、起伏天端壁部5の後端部に設けた各係合凹部20を、本体部3の後壁8の上端に備えた各U字状係止部12に係合させて、起伏天端壁部5の各係合凹部20に隣接する各凸部21に設けた幅方向に延びる貫通孔13と、本体部3に備えた各U字状係止部12とに鋼製シャフト14を挿通する。この結果、起伏天端壁部5は本体部3の後壁8の上端においてシャフト14を支点に(ヒンジ部4を支点に)回動することができる。なお、ヒンジ部4には、該ヒンジ部4を覆うようにゴム製マットカバー22が貼り付けられる。該マットカバー22により、起伏天端壁部5が起立した際に、ヒンジ部4からの漏水を抑制することができる。
なお、各U字状係止部12は起伏天端壁部5の上面から突出しないように工夫する必要がある。これにより、起伏天端壁部5の上面を有効に活用することができる。
【0018】
図4に示すように、起伏天端壁部5と、本体部3の前壁6及び各側壁23、23の上面との間には、両者間の密閉性を確保するための密閉手段24が設けられる。
該密閉手段24は、起伏天端壁部5側に設けられる合成ゴム等の円筒状弾性部材25と、本体部3の前壁6及び各側壁23、23側に設けられる合成ゴム等のブロック状弾性部材26とから構成される。円筒状弾性部材25は起伏天端壁部5の外枠の内側下面で、本体部3の前壁6及び各側壁23、23の上面が当接される範囲に垂設される。一方、ブロック状弾性部材26は、本体部3の前壁6及び各側壁23、23の上面に設けた凹部27内に設けられる。なお、ブロック状弾性部材26は断面矩形状で直線状に延び、その上面には、起伏天端壁部5側に備えられた円筒状弾性部材25が係合する係合凹部28が全長に亘って形成される。
【0019】
そして、起伏天端壁部5が本体部3の前壁6及び各側壁23、23の上面に倒伏した際には、起伏天端壁部5側に備えた円筒状弾性部材25が、本体部3側に備えたブロック状弾性部材26の係合凹部28の底部を押圧して密着するため、起伏天端壁部5と、本体部3の前壁6及び各側壁23、23の上面との間の密閉性が確保される。
なお、これら起伏天端壁部5側に備えた円筒状弾性部材25と、本体部3側に備えたブロック状弾性部材26とは、起伏天端壁部5が本体部3の前壁6及び各側壁23、23上に倒伏した際の衝撃を抑えるための緩衝手段としても機能する。
【0020】
また、本発明の実施形態に係る津波高潮減災構造物1には、起伏天端壁部5の起立位置を規制する、第1〜第4の実施形態に係る規制手段30a〜30dのいずれかが採用される。以下に第1〜第4の実施形態に係る規制手段30a〜30dを説明する。
まず、第1の実施形態に係る規制手段30aは、図5に示すように、起伏天端壁部5側に一端が固定される第1棒状部材31と、該第1棒状部材31の他端に一端が回動自在に連結されると共に他端が本体部3の側壁23の上部に固定される第2棒状部材32とからなる。そして、起伏天端壁部5は、第1棒状部材31と第2棒状部材32とが連結位置36を支点に互いに近接する方向に移動するときに倒伏状態となり、一方、第1棒状部材31と第2棒状部材32とが直線状に配置されたとき、最大の起立状態となる。なお、これら第1棒状部材31及び第2棒状部材32は、起伏天端壁部5の幅方向両側にそれぞれ設けられる。
【0021】
次に、第2の実施形態に係る規制手段30bは、図6に示すように、ヒンジ部4より後側の位置で、本体部3の側壁23または後壁8の上面にストッパ部材35を備えて構成される。そして、起伏天端壁部5が起立してストッパ部材35に当接することにより、起伏天端壁部5の陸側への倒伏を防ぐことができる。なお、このストッパ部材35は、起伏天端壁部5の幅方向両側に2個設けられる。
【0022】
次に、第3の実施形態に係る規制手段30cは、図7に示すように、第1実施形態に係る規制手段30aに採用された第1棒状部材31及び第2棒状部材32と、これら第1棒状部材31及び第2棒状部材32の連結位置36付近に一端が回動自在に連結される第3棒状部材33とからなる。該第3棒状部材33の他端は、本体部3の側壁23の上部に前後方向に移動可能に支持されている。また、本体部3の側壁23の上部には、第1棒状部材31と第2棒状部材32とが直線状になり、起伏天端壁部5が最大の起立位置に到達した際、第3棒状部材33の他端を移動不可とするロック部(図示略)が形成される。
【0023】
そして、この実施形態では、起伏天端壁部5が最大の起立位置に到達した際には、第3棒状部材33の他端がロック部にてロックされるために、起伏天端壁部5を最大の起立位置で固定することができる。なお、起伏天端壁部5を倒伏させる際には、作業員により第3棒状部材33の他端を本体部3のロック部から取り外して起伏天端壁部5を倒伏させるようにする。これら第1棒状部材31、第2棒状部材32及び第3棒状部材33は、起伏天端壁部5の幅方向両側にそれぞれ設けられる。
【0024】
次に、第4の実施形態に係る規制手段30dは、図8に示すように、第1実施形態に係る規制手段30aに採用された第1棒状部材31及び第2棒状部材32と、起伏天端壁部5側に一端が回動自在に連結される第4棒状部材34とからなる。該第4棒状部材34の他端は、本体部3の側壁23の上部に前後方向に移動可能に支持される。第4棒状部材34の起伏天端壁部5との連結位置は、第1棒状部材31と起伏天端壁部5との連結位置よりも後側に設定される。また、本体部3の側壁23の上部には、第1棒状部材31と第2棒状部材32とが直線状になり、起伏天端壁部5が最大の起立位置に到達した際、第4棒状部材34の他端を移動不可とするロック部(図示略)が形成される。
【0025】
そして、この実施形態では、第3の実施形態に係る規制手段30cと同様に、起伏天端壁部5が最大の起立位置に到達した際には、第4棒状部材34の他端がロック部にてロックされるために、起伏天端壁部5を最大の起立位置で固定することができる。なお、起伏天端壁部5を倒伏させる際には、作業員により第4棒状部材34の他端を本体部3のロック部から取り外して起伏天端壁部5を倒伏させるようにする。これら第1棒状部材31、第2棒状部材32及び第4棒状部材34は、起伏天端壁部5の幅方向両側にそれぞれ設けられる。
【0026】
さらに、本発明の実施形態に係る津波高潮減災構造物1には、起伏天端壁部5の倒伏速度を制御する、第1または第2の実施形態に係る制御手段40a、40bのいずれかを採用することもできる。つまり、第1及び第2の実施形態に係る制御手段40a、40bは必要不可欠なものではなく、必要と判断された場合のみに採用される。以下に第1〜第2の実施形態に係る制御手段40a、40bを説明する。
まず、第1の実施形態に係る制御手段40aは、図9に示すように、本体部3の側壁23の後側上面と起伏天端壁部5の後端部との間に備えたダンパ装置41で構成される。
【0027】
該ダンパ装置41は、例えば、内部に作動液が充填されるシリンダ41aと、該シリンダ41a内を軸方向に摺動して該シリンダ41a内を2室に画成するピストン(図示略)と、該ピストンに一端が連結され、他端がシリンダ41aから突出されるピストンロッド41bと、該ピストンロッド41bの伸び行程時には作動液の2室間の流通に流通抵抗を付与せず、ピストンロッド41bの縮み行程時だけに作動液の2室間の流通に抵抗を付与するバルブ部(図示略)とを備えている。そして、シリンダ41aの底部が本体部3の側壁23の上部に固定されると共に、ピストンロッド41bの先端が起伏天端壁部5の下面に固定される。ダンパ装置41は、起伏天端壁部5の幅方向両側にそれぞれ設けられる。
【0028】
これにより、波力及び空気圧により起伏天端壁部5が起立する際には、起伏天端壁部5には外部から何ら抵抗を受けることなく起立することができるが、波力等が無くなった後起伏天端壁部5が倒伏する際にはダンパ装置41によりその倒伏速度を制御(低減)することが可能になる。
【0029】
次に、第2の実施形態に係る制御手段40bは、図10に示すように、起伏天端壁部5の下面の略全域に配されるフロート42で構成される。該フロート42は断面直角三角状のブロック体からなる。そして、該フロート42は、第1頂部42a(角度θ1:45°以下に設定される)が前側に配置されると共に、長さが斜辺42cの次に長い隣辺42dが起伏天端壁部5の下面に当接するように配される。これにより、フロート42の第2頂部42b(角度θ2:45°〜90°の範囲内で設定される)が海面に最も近接した位置に配置される。
なお、本実施の形態では、起伏天端壁部5の下面の略全域にフロート42を配設したが、幅方向に部分的に配置してもよい。例えば、起伏天端壁部5の幅方向両側に2箇所設けてもよいし、幅方向中央付近に1箇所設けてもよい。
【0030】
そして、波力及び空気圧により起伏天端壁部5が起立する際には、起伏天端壁部5には外部から何ら抵抗を受けることなく起立することができるが、波力等からの作用が無くなった後起伏天端壁部5が倒伏する際にはフロート42の浮力によりその倒伏速度を制御(低減)することが可能になる。また、このフロート42を採用すると、波力及び空気圧が起伏天端壁部5の下面から作用した際、該起伏天端壁部5の起立を速やかに開始させることも可能になる。
【0031】
次に、本発明の実施の形態に係る津波高潮減災構造物1の作用を図11に基づいて説明する。
平常時は、図11(a)に示すように、本津波高潮減災構造物1の起伏天端壁部5の倒伏状態が維持され、密閉手段24により起伏天端壁部5と、本体部3の前壁6及び各側壁23、23の上面との間の密閉性が確保される。
次に、津波や高潮等の高波浪が発生すると、図11(b)に示すように、その波が本体部3の前壁6に設けた開口部7を介して本体部3の遊水室2に流れ込み、波力(水圧)及び空気圧により起伏天端壁部5が跳ね上がり、ヒンジ部4を支点に起立するようになる。この時、起伏天端壁部5と、本体部3の前壁6及び各側壁23、23の上面との間は密閉手段24により密閉性が確保されているので、高波浪による遊水室2内の空気圧の上昇により速やかに起伏天端壁部5が起立動作を開始するようになる。
【0032】
その後、図11(c)に示すように、連続的に波が押し寄せても、起伏天端壁部5は前記第1〜第4実施形態に係る規制手段30a〜30dによりその起立状態が維持されており、波が起立状態の起伏天端壁部5に衝突して海側に戻されるために、波が本体部3から後方(陸側)に流動するのを抑制する。
そして、津波や高潮等の高波浪が治まると、起伏天端壁部5は前記第1または第2制御手段40a、40bにより、その倒伏速度が抑えられながら倒伏して本体部3の前壁6及び各側壁23、23の上面に載置され図11(a)の状態に戻る。
【0033】
図12及び図13に、本津波高潮減災構造物1による実験データを示すが、図12において、点線は、起伏天端壁部5を本体部3に固定した場合の、本体部3の後方(陸側)への時間に対する波の浸水量を示し、実線は、本津波高潮減災構造物1、すなわち、起伏天端壁部5をヒンジ部4を支点に起伏自在に構成した場合の、本体部3の後方への時間に対する波の浸水量を示している。この実験結果から解るように、本津波高潮減災構造物1においては、本体部3から後方へ浸水して水位が上昇する(浸水量が増加する)のに時間を要し、その全浸水量も低減され、減災効果があることが解る。
【0034】
また、図13は、縦軸は、起伏天端壁部5を本体部3に固定した場合に対する、本津波高潮減災構造物1、すなわち、起伏天端壁部5をヒンジ部4を支点に起伏自在に構成した場合の越波量率を示し、横軸は、一般的な港湾構造物の設計に際して越波流量を算定する際に用いられる越波流量推定図に倣って、構造物位置での水深h/換算沖波波高H0’(構造物に到達した波が、十分に水深の深い沖合いではどの程度の波高であったか推定した波高)を示している。この実験結果から解るように、いずれのデータもおおむね越波量率が0〜0.2の範囲に分布しており、本津波高潮減災構造物1によって越波量が低減していることが解る。
【0035】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る津波高潮減災構造物1では、平常時には起伏天端壁部5の倒伏状態が維持されているので、例えば、本津波高潮減災構造物1が図1に示すように、沿岸100に沿って設置された場合、沿岸100の陸域全体及び起伏天端壁部5の上面を有効に活用することができる。しかも、沿岸100には視界を遮るものがないので、沿岸100から海域への視界が良好となり景観価値も向上する。
【0036】
一方、津波や高潮等の有事の際には、本体部3の遊水室2内からの波力(水圧)及び空気圧により起伏天端壁部5が起立され、該起立状態の起伏天端壁部5により陸域への波の到達を抑制することができる。しかも、本津波高潮減災構造物1では起伏天端壁部5を起立させるための駆動装置や人的操作を必要としないので、設置コストから維持管理コストまでのトータルコストを大幅に削減することができる。
【0037】
また、本発明の実施の形態に係る津波高潮減災構造物1には、起伏天端壁部5の倒伏速度を制御する制御手段40a、40bが備えているので、高波浪のあと、起伏天端壁部5が倒伏する際の倒伏速度を低減させることができ、起伏天端壁部5と本体部3との衝突による損傷を抑えることができる。
【0038】
なお、本実施の形態に係る津波高潮減災構造物1では、本体部3の天端全域に起伏天端壁部5が起伏自在に設けられているが、図14に示すように、本体部3の天端に開口部60aを有する天端壁部60を設け、該天端壁部60の開口部60a内にヒンジ部4aを介して起伏自在となる起伏天端壁部5aを設けてもよい。この形態では、起伏天端壁部5aの幅方向両側に鍔部61、61をそれぞれ突設させ、起伏天端壁部5aの各鍔部61、61を含む全幅を本体部3の全幅に一致させるほうがよい。また、起伏天端壁部5aの倒伏時に、起伏天端壁部5aの上面と天端壁部60の上面とが一致するように、天端壁部60の上面には、前記起伏天端壁部5aの両側から延設される鍔部61、61が収容される凹部62、62が形成される。なお、この形態におけるヒンジ部4aの詳細は図示しないが、例えば、ヒンジ部4aは、起伏天端壁部5aの後端に幅方向に延びる貫通孔と、天端壁部60の開口部60aに面する両側の壁部に起伏天端壁部5aの貫通孔と対向するように設けた各貫通孔とに鋼製シャフトを挿入して構成することができる。これにより、起伏天端壁部5aはヒンジ部4aを介して天端壁部60の開口部60aから起伏自在に構成される。
【0039】
また、本発明の実施の形態に係る津波高潮減災構造物1が海域に設置される場合には、図15に示すように、直方体からなるコンクリート製箱体内に中詰材17が中詰された支柱45を海底に設けた基礎マウンド15上の基礎ベース板16の後部上面に設置して、本津波高潮減災構造物1の本体部3の後壁8が支柱45の前面に当接されるように、本津波高潮減災構造物1を基礎ベース板16の上面に設置する。
【符号の説明】
【0040】
1 津波高潮減災構造物,2 遊水室,3 本体部,4、4a ヒンジ部,5、5a 起伏天端壁部,6 前壁(壁部),7 開口部,24 密閉手段,30a〜30d 規制手段,40a、40b 制御手段,100 沿岸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海域または沿岸に設置される津波高潮減災構造物であって、
該津波高潮減災構造物は、
内部に遊水室としての空間を有すると共に波浪と対向する壁部に開口部が形成される本体部と、
該本体部の天端に設けた、波浪と対向するように起伏自在に構成される起伏天端壁部と、
から構成されることを特徴とする津波高潮減災構造物。
【請求項2】
前記起伏天端壁部の起立位置を規制する規制手段を設けることを特徴とする請求項1に記載の津波高潮減災構造物。
【請求項3】
前記起伏天端壁部の倒伏速度を制御する制御手段を設けることを特徴とする請求項1または2に記載の津波高潮減災構造物。
【請求項4】
前記起伏天端壁部と前記本体部との間には、平常時、両者間の密閉性を確保する密閉手段が設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の津波高潮減災構造物。
【請求項1】
海域または沿岸に設置される津波高潮減災構造物であって、
該津波高潮減災構造物は、
内部に遊水室としての空間を有すると共に波浪と対向する壁部に開口部が形成される本体部と、
該本体部の天端に設けた、波浪と対向するように起伏自在に構成される起伏天端壁部と、
から構成されることを特徴とする津波高潮減災構造物。
【請求項2】
前記起伏天端壁部の起立位置を規制する規制手段を設けることを特徴とする請求項1に記載の津波高潮減災構造物。
【請求項3】
前記起伏天端壁部の倒伏速度を制御する制御手段を設けることを特徴とする請求項1または2に記載の津波高潮減災構造物。
【請求項4】
前記起伏天端壁部と前記本体部との間には、平常時、両者間の密閉性を確保する密閉手段が設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の津波高潮減災構造物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−97536(P2012−97536A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248549(P2010−248549)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【Fターム(参考)】
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